(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】パラジウムの回収方法及びパラジウム回収設備
(51)【国際特許分類】
C22B 11/00 20060101AFI20220113BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20220113BHJP
C22B 3/02 20060101ALI20220113BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20220113BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/24 101
C22B3/02
C02F1/28 B
B01J20/26 E
(21)【出願番号】P 2017251404
(22)【出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000142148
【氏名又は名称】ハイモ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安齋 竜一
(72)【発明者】
【氏名】井上 祥来
(72)【発明者】
【氏名】石井 明宏
(72)【発明者】
【氏名】森 康治
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-097349(JP,A)
【文献】特開2017-070909(JP,A)
【文献】特公昭57-019174(JP,B2)
【文献】特開2001-303148(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0261827(US,A1)
【文献】国際公開第2010/011552(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムコロイド粒子が分散した水性媒体と、N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体及び(メタ)アクリルアミ
ド重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の捕集剤
(単量体成分を含有する塩水中で分散剤存在下、懸濁重合して得た重合体を除く)とを接触させ、前記水性媒体と前記捕集剤とを分離する、パラジウムの回収方法。
【請求項2】
前記N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体及び(メタ)アクリルアミ
ド重合体がそれぞれ架橋構造を有する、請求項1に記載のパラジウムの回収方法。
【請求項3】
前記水性媒体が水溶性のパラジウム化合物を含み、
前記N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体及び(メタ)アクリルアミ
ド重合体がそれぞれアミノ基を有する、請求項1又は2に記載のパラジウムの回収方法。
【請求項4】
N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体及び(メタ)アクリルアミ
ド重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であって水性媒体に溶解しない捕集剤
(単量体成分を含有する塩水中で分散剤存在下、懸濁重合して得た重合体を除く)が内部で流動可能に収容された容器と、パラジウムコロイド粒子が分散した水性媒体を前記容器に送液する装置とを備えるパラジウム回収設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウムコロイド粒子が分散した水性媒体からパラジウムを回収する方法及びパラジウム回収設備に関する。
【背景技術】
【0002】
非導電性である樹脂に対してめっきを施す際には、触媒金属を樹脂の表面に付着させ、その触媒作用を利用して無電解めっきを行う前処理が行われる。前処理では、一般に、樹脂の表面を粗化するエッチング工程、粗化した表面に、触媒金属コロイドを接触させ、触媒金属を吸着させる触媒付与工程、吸着させた触媒金属を活性化する触媒活性化工程、活性化した触媒金属を核としてニッケル等を析出させる無電解めっき工程が行われる。また、触媒付与工程と触媒活性化工程との間では、触媒金属コロイドを接触させた表面を水洗することが行われる。触媒金属としてはパラジウムが汎用されている。
【0003】
触媒付与工程で使用した触媒金属コロイドの廃液には触媒金属コロイド粒子が残存している。また、触媒金属コロイドを接触させた表面の水洗に用いた水洗水には触媒金属コロイド粒子が含まれている。
パラジウムは高価であるため、触媒金属コロイドの廃液や水洗水からパラジウムを回収することが行われる。廃液や水洗水からパラジウムを回収する方法の一つに、捕集剤を用いる方法がある。捕集剤としてはイオン交換樹脂や活性炭が使用される。イオン交換樹脂や活性炭は、廃液や水洗水に分散しているパラジウムコロイド粒子を吸着して捕集する。
しかし、イオン交換樹脂や活性炭は、パラジウムコロイド粒子の吸着量が少ない、吸着速度が遅い等の問題があり、パラジウムの回収効率が悪い。たとえば、イオン交換樹脂の場合、捕集されるパラジウムは、イオン交換樹脂の質量の2割程度である。また、一般的に使用されている活性炭の場合、捕集されるパラジウムは、活性炭の質量の1割以下である。
【0004】
貴金属を含有する水溶液から貴金属を吸着するための活性炭として、10mmol/Lの四ホウ酸ナトリウム水溶液中のゼ-タ電位と0.01mmol/Lの四ホウ酸ナトリウム水溶液中のゼ-タ電位との差が18mV以下であり、かつ細孔半径1Nm以下の細孔容積が150~500mm3/gである活性炭が提案されている(特許文献1)。
上記特許文献1では、前記活性炭によって低濃度のメッキ洗浄液中に含まれるパラジウムを効率良く吸着できるとされ、Pd-SN触媒模擬廃液についての吸着量が測定されている。しかし、その吸着量は、前記活性炭の質量の3割未満であり、充分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、パラジウムコロイド粒子が分散した水性媒体からパラジウムを効率良く回収できる回収方法及びパラジウム回収設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]パラジウムコロイド粒子が分散した水性媒体と、N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体及び(メタ)アクリルアミド(共)重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の捕集剤とを接触させ、前記水性媒体と前記捕集剤とを分離する、パラジウムの回収方法。
[2]前記N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体及び(メタ)アクリルアミド(共)重合体がそれぞれ架橋構造を有する、[1]に記載のパラジウムの回収方法。
[3]前記水性媒体が水溶性のパラジウム化合物を含み、
前記N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体及び(メタ)アクリルアミド(共)重合体がそれぞれアミノ基を有する、[1]又は[2]に記載のパラジウムの回収方法。
[4]N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体及び(メタ)アクリルアミド(共)重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であって水性媒体に溶解しない捕集剤が内部で流動可能に収容された容器と、パラジウムコロイド粒子が分散した水性媒体を前記容器に送液する装置とを備えるパラジウム回収設備。
【発明の効果】
【0008】
本発明のパラジウムの回収方法又はパラジウム回収設備によれば、パラジウムコロイド粒子が分散した水性媒体からパラジウムを効率良く回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第一の態様のパラジウム回収設備の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のパラジウム(以下、「Pd」とも記す。)の回収方法では、Pdコロイド粒子が分散した水性媒体と、N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体及び(メタ)アクリルアミド(共)重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の捕集剤とを接触させ(工程i)、その後、前記水性媒体と前記捕集剤とを分離する(工程ii)。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
重合体における「単位」とは、重合や架橋に使用された単量体や架橋剤に由来する構造である。この構造は、重合後の反応によって変化していてもよい。
「(共)重合体」は、単独重合体又は共重合体を示す。
【0011】
(捕集剤)
捕集剤としては、N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体のみを用いてもよく、(メタ)アクリルアミド(共)重合体のみを用いてもよく、N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体及び(メタ)アクリルアミド(共)重合体の両方を用いてもよい。
捕集剤の使用形態は、特に限定されず、たとえば粒状、繊維状、微粉状、含水ゲル、膜状等が挙げられる。
【0012】
<N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体>
N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体は、N-ビニルカルボン酸アミド単位を含む。N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体は、必要に応じて、多官能単量体単位をさらに含んでいてもよい。N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体は、必要に応じて、N-ビニルカルボン酸アミド及び多官能単量体以外の他の単量体単位をさらに含んでいてもよい。
【0013】
N-ビニルカルボン酸アミドとしては、一般式:CH2=CH-NHCOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。)で表される化合物が好ましい。アルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。Rとしては、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
N-ビニルカルボン酸アミドとして具体的には、N-ビニルホルムアミド(R=水素原子)、N-ビニルアセトアミド(R=CH3)、N-ビニルプロピオン酸アミド(R=C2H5)、N-ビニル酪酸アミド(R=C3H7)等が例示される。これらの中では、重合体の分子量を自由に調整できる点から、N-ビニルホルムアミドが好ましい。
【0014】
多官能単量体は架橋剤として機能する。多官能単量体を用いることで、架橋構造を有するN-ビニルカルボン酸アミド共重合体を得ることができる。
多官能単量体は、架橋反応し得る官能基を2以上有する。前記官能基としてば、ラジカル重合性基((メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等)、エポキシ基、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子等)、ハロホルミル基、酸無水物基等が挙げられる。
多官能単量体としては、メチレンビスアクリルアミド等のアルキレンビスアクリルアミド、N,N’-アクリロイルエチレンジアミン、N,N’-ジビニルエチレン尿素、N,N’-ジビニルプロピレン尿素、エチリデン-ビス-3-(N-ビニルピロリドン)、N,N’-ジビニル-2,2’-ジイミダゾリルブタン、1,1’-ビス(3,3’-ビニルベンズイミダゾリン-2-オン)-1,4-ブタン、ジアクリル酸エチレングリコ-ル、ジメタクリル酸エチレングリコ-ル、ジアクリル酸ポリエチレングリコ-ル(ジアクリル酸ジエチレングリコ-ル、ジアクリル酸テトラエチレングリコ-ル等)、ジメタクリル酸ポリエチレングリコ-ル(ジメタクリル酸ジエチレングリコ-ル、ジメタクリル酸テトラエチレングリコ-ル等)、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、アクリル酸ビニル、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ジビニルジオキサン及びペンタエリトリチルトリアリルエーテル、エピクロロヒドリン、ジブロモエタン、ジクロロエタン、シュウ酸ジクロリド、マロン酸ジクロリド、コハク酸ジクロリド、アジピン酸ジクロリド、1,5-ヘキサジエン-3,4-ジオール、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ピロメリット酸無水物等が挙げられる。
多官能単量体としては、架橋部分の安定性の点で、エピクロロヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、メチレンビスアクリルアミド及びジブロモエタンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0015】
他の単量体としては、N-ビニルカルボン酸アミドと共重合可能であればよく、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の塩、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリルアミドの塩又は4級化物、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの塩又は4級化物、ジアセトンアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、酢酸ビニル等が挙げられる。これら他の単量体はいずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
「(メタ)アクリルアミド」はアクリルアミド又はメタクリルアミドを示す。「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリル酸エステル」、「(メタ)アクリロニトリル」も同様である。
【0016】
N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体は、架橋構造を有していてもよく有さなくてもよい。Pdコロイド粒子を捕集していない状態での水性媒体への溶解性が低く、Pdコロイド粒子を捕集していない捕集剤を水性媒体から回収しやすい点では、架橋構造を有することが好ましい。
架橋構造を有さないN-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体は、水性媒体に溶解しても、Pdコロイド粒子を高濃度に捕集すると沈殿し、水性媒体から分離できる。しかし、Pdコロイド粒子を捕集していない、又は捕集していても1分子あたりの捕集量が低いと、沈殿しないため、水性媒体から分離しにくい。重合体が水性媒体中に残存することは、Pdの回収の観点では問題にならないが、COD(化学的酸素要求量)が高くなるため、Pd回収後の水性媒体の処理の観点からは好ましくない。
以上のような問題が生じない状況であれば、水溶性のN-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体が捕集剤に含まれていてもよい。また、以上のような問題が生じない量の水溶性のN-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体が捕集剤に含まれていてもよい。
N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体は、25℃において水100gに対する溶解量が0.005g未満であることが好ましい。
【0017】
架橋構造を有するN-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体は、前述のように、多官能単量体を用いて得られる。N-ビニルカルボン酸アミド及び必要に応じて他の単量体を重合する際に多官能単量体を共重合してもよく、N-ビニルカルボン酸アミド及び必要に応じて他の単量体を重合した後、得られた重合体を多官能単量体で架橋してもよい。
【0018】
N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体は、アミノ基を有することが好ましい。
Pdコロイド粒子は、酸素と接触すると溶解し、クロリド錯体、シアノ錯体、亜硫酸錯体等の水溶性のPd化合物を形成する。捕集剤がアミノ基を有すると、Pdコロイド粒子だけでなく、水溶性のPd化合物も捕集できる。
【0019】
アミノ基を有するN-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体は、アミノ基を有する単量体を共重合する方法、N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体を加水分解する方法等により得られる。
アミノ基を有する単量体としては、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリルアミドの塩又は4級化物、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの塩又は4級化物、アリルアミン等が挙げられる。
N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体を加水分解すると、N-ビニルカルボン酸アミド単位等に含まれるアミド基がアミノ基に変換され、アミノ基を有する単位となる。例えばN-ビニルカルボン酸アミド単位の加水分解によりビニルアミン単位が生成する。加水分解は、加水分解後の重合体中にN-ビニルカルボン酸アミド単位が残存するように行う。
【0020】
N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体において、N-ビニルカルボン酸アミド単位の含有量は、全単位の合計モル量に対し、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、60モル%以上が特に好ましく、70モル%以上が最も好ましい。N-ビニルカルボン酸アミド単位の割合が多いほど、その特徴が発揮される。
N-ビニルカルボン酸アミド単位の含有量は100モル%であってもよい。N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体が他の単量体単位を含む場合には、他の単量体単位とのバランスを考慮して適宜設定できる。
【0021】
N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体が多官能単量体単位を有する場合、多官能単量体単位の含有量は、N-ビニルカルボン酸アミド単位の合計質量に対し、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。多官能単量体単位の含有量が前記下限値以上であると、水性媒体への溶解性を十分に低くできる。
多官能単量体単位の含有量は、N-ビニルカルボン酸アミド単位の合計質量に対し、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。多官能単量体単位の含有量が前記上限値以下であると、架橋N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体を水性媒体中で十分に膨潤させることができ、Pdの捕集効率を上げることができる。
【0022】
N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体がアミノ基を有する単位(アミノ基を有する単量体単位、アミド基を有する単量体単位の加水分解により生成した単位)を有する場合、アミノ基を有する単位の含有量は、全単位の合計モル量に対し、0.1モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましい。アミノ基を有する単位の含有量が前記下限値以上であると、水溶性のPd化合物を十分に捕集できる。
アミノ基を有する単位の含有量は、N-ビニルカルボン酸アミド単位とのバランスを考慮すると、全単位の合計モル量に対し、80モル%以下が好ましく、50モル%以下がより好ましい。
【0023】
N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体の重量平均分子量(Mw)は、1万~700万が好ましく、10万~300万がより好ましく、10万~200万がさらに好ましい。重量平均分子量が前記下限値以上であると、Pdコロイド粒子の捕集効率がより優れる。重量平均分子量が前記上限値以下であると、捕集剤の水溶液の粘度が低く扱いやすい。
重量平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフィ(GPC)により測定される標準プルラン(多糖類)換算の値である。
【0024】
N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体は、市販のものを用いてもよく、公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。
N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体は、例えば、N-ビニルカルボン酸アミド、及び必要に応じて多官能単量体及び他の単量体のいずれか一方又は両方を重合し、必要に応じて、得られた重合体に対し、多官能単量体による架橋処理、及び加水分解処理のいずれか一方又は両方の処理を行うことにより製造できる。
【0025】
N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体の製造(重合及び必要に応じて架橋処理)に用いられる全単量体中の各単量体の割合は、N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体における各単量体単位の割合として反映される。
N-ビニルカルボン酸アミドの割合は、全単量体の合計モル量に対し、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、60モル%以上が特に好ましく、70モル%以上が最も好ましく、100モル%であってもよい。
多官能単量体を用いる場合、多官能単量体の割合は、N-ビニルカルボン酸アミドの合計質量に対し、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。また、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0026】
重合、架橋処理、加水分解処理はそれぞれ公知の方法により実施できる。
たとえば重合方法としては、通常のラジカル重合法を用いることができ、塊状重合、水溶液重合、逆相懸濁重合、逆相乳化重合等のいずれも選択できる。
重合体の加水分解は通常、酸又は塩基の存在下で行う。酸としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ギ酸、酢酸等が挙げられる。塩基としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
重合体の加水分解は、加水分解後の重合体中に、N-ビニルカルボン酸アミド単位が残存するように行う。重合体中、加水分解されずに残存するN-ビニルカルボン酸アミド単位の含有量は、全単位の合計モル量に対し、99.9~10モル%が好ましく、99.9~60モル%がより好ましい。
残存するN-ビニルカルボン酸アミド単位の含有量は、加水分解前の重合体中のN-ビニルカルボン酸アミド単位に対する酸又は塩基の量、加水分解の温度及び時間等により調整できる。
【0027】
<(メタ)アクリルアミド(共)重合体>
(メタ)アクリルアミド(共)重合体は、(メタ)アクリルアミドの単独重合体又は共重合体である。したがって、(メタ)アクリルアミド(共)重合体は、(メタ)アクリルアミド単位を含み、必要に応じて、(メタ)アクリルアミド以外の他の単量体単位をさらに含んでいてもよい。
他の単量体としては、前記N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体における他の単量体と同様のものが挙げられる(ただし(メタ)アクリルアミドを除く。)。
(メタ)アクリルアミド(共)重合体は、N-ビニルカルボン酸アミドの代わりに(メタ)アクリルアミドを用いている以外は、N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0028】
(工程i)
工程iでは、Pdコロイド粒子が分散した水性媒体と、捕集剤とを接触させる。これにより、水性媒体中のPdコロイド粒子が捕集剤に捕集される。
【0029】
水性媒体としては、水、水と有機溶剤との混合物等が挙げられる。
有機溶剤としては、メタノ-ル、エタノ-ル、イソプロパノ-ル、エチレングリコ-ル、ジエチレングリコ-ル、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N-メチルピロリドン、ジエチルエ-テル、シクロヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。
【0030】
水性媒体には、Pdコロイド粒子以外の他の成分が分散又は溶解していてもよい。
たとえば前記水性媒体は、水溶性のPd化合物をさらに含んでもよい。捕集剤が、アミノ基を有する場合、Pdコロイド粒子だけでなく、水溶性のPd化合物も捕集できる。
前記水性媒体は、Pd以外の金属(スズ、コバルト、ニッケル、亜鉛等)のイオンや化合物等をさらに含んでもよい。
【0031】
捕集剤と接触させる前の水性媒体中のPdコロイド粒子の濃度は、特に限定されないが、1~200質量ppmであることが好ましく、3~100質量ppmがより好ましい。Pdコロイド粒子の濃度が前記範囲の下限値以上であると、回収率がより優れ、上限値以下であると、回収時の操作性がより優れる。
Pdコロイド粒子の粒子径は、通常、1~250nm程度である。該粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置により測定される体積基準の平均粒子径である。
【0032】
Pdコロイド粒子が分散した水性媒体としては、たとえば、樹脂めっきの触媒付与工程に使用された触媒液(Pd/スズコロイド等)の廃液、樹脂めっきの触媒付与工程と触媒活性化工程との間で使用された水洗水、化学反応原料に使用された廃液等が挙げられる。
従来、Pdコロイド粒子が分散した水性媒体からのPd回収に使用されている活性炭や陰イオン交換樹脂の場合、Pdコロイド粒子の濃度が低いと(たとえば10質量ppm以下であると)、回収効率がさらに悪くなる。これに対し、本発明では、Pdコロイド粒子の濃度が低い場合でも、優れた回収効率でPdを回収できる。そのため、捕集剤と接触させる水性媒体としては、触媒付与工程と触媒活性化工程との間で使用された水洗水のような、Pdコロイド粒子の濃度が低いものが好適である。
【0033】
水性媒体と捕集剤とを接触させる方法は、特に限定されず、たとえば、
(a)水性媒体に捕集剤を投入する方法、
(b)捕集剤として水性媒体に溶解しないもの(以下、「水不溶性捕集剤」ともいう。)を用い、流動床、膜分離活性汚泥法(MBR法)に近い形態で捕集剤を懸濁させた領域に水性媒体を通液する方法、
(c)捕集剤として水不溶性捕集剤を用い、捕集剤を充填した容器(カラム、充填塔等)に水性媒体を通液する方法、
等が挙げられる。
水不溶性捕集剤は、典型的には、25℃において水100gに対する溶解量が0.005g未満である。
【0034】
(a)の方法の場合、投入する捕集剤の質量(固形分)は、水性媒体中のPdコロイド粒子の質量に対し、0.1~100倍が好ましく、0.3~50倍がより好ましく、0.5~30倍がさらに好ましい。捕集剤の質量が前記範囲の下限値以上であると、Pdコロイド粒子の回収効率がより優れる。捕集剤の質量が前記範囲の上限値以下であると、捕集剤の使用量を低減でき、経済的に有利である。
水性媒体に水不溶性捕集剤を投入する場合、上記の量より過剰量の水不溶性捕集剤を投入し、水不溶性捕集剤を回収する際に上記量の範囲内に入るようにしてもよい。
(b)又は(c)の方法の場合、水性媒体の通液条件は、当該領域又は容器と同じ容量の水溶液を通液するのに要する時間を1分以上とすることが好ましく、10分以上とすることがより好ましい。
【0035】
水性媒体と捕集剤とを接触させる際の温度は、0~100℃が好ましく、5~50℃がより好ましい。
水性媒体と捕集剤とを接触させる時間(水性媒体と捕集剤とが接触した時点から次の工程iiで水性媒体と捕集剤とを分離するまでの時間)は、1分以上が好ましく、10分以上がより好ましい。
【0036】
(工程ii)
工程iiでは、工程iで接触させた水性媒体と捕集剤とを分離する。これにより、捕集剤に捕集されたPdコロイド粒子が、捕集剤とともに水性媒体から回収される。
水性媒体と捕集剤との分離は、公知の方法を利用して実施できる。
たとえば、工程iで水性媒体中に捕集剤を投入した場合であって、Pdコロイド粒子を捕集していない状態の捕集剤が水性媒体に溶解するものである場合は、捕集剤がPdコロイド粒子を捕集することで水性媒体中に析出する。そのため、ろ過(減圧ろ過、加圧ろ過)、遠心分離、遠心沈殿等の固液分離操作により、Pdコロイド粒子を捕集した捕集剤を分離できる。
捕集剤が水不溶性捕集剤である場合は、Pdコロイド粒子を捕集しているか否かにかかわらず、前記のような固液分離操作により捕集剤を分離できる。
工程iで、捕集剤として水不溶性捕集剤を懸濁させた部分に前記水性媒体を通液する方法(流動床法、MBR法と同様の技術)では膜分離法が使用できる。
工程iで、捕集剤を充填した容器に前記水性媒体を通液した場合は、通液を停止し、容器内の水性媒体を排液した後、容器から捕集剤を回収すればよい。
【0037】
本発明のPdの回収方法の好ましい一態様では、前記水不溶性捕集剤が内部で流動可能に収容された容器と、前記溶液を前記容器に送液する装置とを備えるPd回収設備(以下、第一の態様のPd回収設備ともいう。)を用いて工程i~iiを行う。
第一の態様のPd回収設備において、前記水不溶性捕集剤は、容器に固定されておらず、前記容器に前記溶液を送液し、前記容器内を流通させた際に流動する。
容器としては、例えば流動槽、多段流動槽等が挙げられる。
前記溶液を容器に送液する装置としては、例えば前記容器に接続された配管と、前記配管に取り付けられた送液ポンプとを備える装置が挙げられる。
【0038】
図1に、第一の態様のPd回収設備の一例を示す。
本例のPd回収設備20は、Pdコロイド粒子を含む溶液の貯槽21と、流動槽23(容器)と、第一の流路25と、第一の流路25に設けられた送液ポンプ27と、第二の流路29と、を備える。
流動槽23は、円筒状の胴部と、胴部の上方に配置された上部と、胴部の下方に配置された下部とを備え、胴部には前記水不溶性捕集剤が流動可能に収容されている。胴部と上部との境界部分、及び胴部と下部との境界部分にはそれぞれ、網23a、23bが設けられている。この網23a、23bによって、胴部内の前記水不溶性捕集剤が流出しないようになっている。
第一の流路25の上流端は貯槽21に接続され、下流端は流動槽23の下部に接続されている。送液ポンプ27を動作させることにより、貯槽21内の前記溶液を、第一の流路25を介して流動槽23に送液できるようになっている。つまりこの例では、第一の流路25及び送液ポンプ27が、前記溶液を容器に送液する装置として機能する。
第二の流路29の上流端は流動槽23の上部に接続されており、流動槽23を通過した溶液が流動槽23から流出するようになっている。
【0039】
Pd回収設備20において工程i~iiは、以下のようにして実施できる。
貯槽21に前記溶液が収容された状態で送液ポンプ27を動作させ、前記溶液を流動槽23に送液すると、流動槽23内で前記水不溶性捕集剤が流動するとともに、前記溶液と前記水不溶性捕集剤とが接触し、前記溶液中のPdコロイド粒子が前記水不溶性捕集剤に捕集される。前記溶液は、Pdコロイド粒子の濃度が低減されて流動槽23から排出される。前記水不溶性捕集剤はそのまま流動槽23内に残留する。結果、前記溶液と前記水不溶性捕集剤とが分離される。
【0040】
水不溶性捕集剤の架橋度が低いと、Pdを回収する際の水不溶性捕集剤の膨潤度が上昇し、表面積が増加するため、吸着量も増加する。一方で、架橋密度があまりに低いと、水不溶性捕集剤の機械的強度が低下する。第一の態様のPd回収設備では、水不溶性捕集剤が流動するため、通常のカラム充填などでは壊れてしまう低架橋度の水不溶性捕集剤でも使用が可能である。更に接触効率が高く、吸着速度も速くなる。そのため、第一の態様のPd回収設備は、本発明の回収方法を実施するための設備として有用である。
【0041】
工程i及び工程iiの操作は、連続工程又はバッチ式のいずれで行ってもよい。
工程iiの後、回収された捕集剤からPdを回収する工程を行ってもよい。捕集剤からのPdの回収は、たとえば、捕集剤を焼却することにより実施できる。
【0042】
<作用効果>
本発明のPdの回収方法及びPd回収設備にあっては、捕集剤としてPdコロイド粒子が分散した水性媒体と、N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体及び(メタ)アクリルアミド(共)重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることで、Pdコロイド粒子が分散した水性媒体からPdを効率良く回収できる。たとえば、捕集剤の質量の1倍以上のPdを捕集できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。特に記載のない場合、「%」及び「ppm」はそれぞれ「質量%」及び「質量ppm」である。金属濃度は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(日本ジャヤ-レルアッシュ社製ICAP-577)を使用して測定した(検出下限0.1ppm)。室温は23℃である。
【0044】
(実施例1)
ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)樹脂へ、(1)脱脂(洗浄)工程、(2)エッチング(表面粗化)工程、(3)中和工程、(4)Pd触媒付与工程、(5)Pd触媒活性化工程を行った後のキャタリスト廃液(水性媒体:水、Pdコロイド粒子濃度90ppm、スズ濃度8000ppm、塩酸濃度8質量%のPd/スズコロイド)を用意した。
室温下、前記キャタリスト廃液100mLに、撹拌しながら重量平均分子量約50万の粉末状のポリN-ビニルホルムアミド(PNVF)を3mg添加した。
添加した時点で、黒色の析出物が生成した。
添加後、1時間撹拌し、その後、キャタリスト廃液を孔径0.2μmのフィルターでろ過し、ろ液中のPd濃度を測定した所、0.1ppm未満であった。
【0045】
(実施例2)
前記PNVFに代えて、前記PNVF中のN-ビニルホルムアミド単位100モル%に対して3モル%のジメタクリル酸ポリエチレングリコールを使用して架橋したPNVF(架橋PNVF)を5mg使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。
ろ液中のPd濃度は0.1ppm未満であった。
なお、架橋PNVFは、25℃において水100gに対する溶解量が0gであった。
【0046】
(実施例3)
前記PNVFに代えて、重量平均分子量約200万のポリアクリルアミドを7mg使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。
ろ液中のPd濃度を測定した所、0.1ppm未満であった。
【0047】
(実施例4)
実施例1のキャタリスト廃液に、空気を流速100mL/min、60分間吹き込み、Pdコロイド粒子の一部を、水性媒体に可溶なPd化合物(Pdクロリド錯体)に変換した。変換後のキャタリスト廃液中のPdコロイド粒子濃度は70ppm、Pdクロリド錯体濃度は33ppmであった。実施例1で使用したキャタリスト廃液に代えて、変換後のキャタリスト廃液を用い、実施例1で使用したPNVFに代えて、重量平均分子量約200万のビニルアミン/N-ビニルホルムアミド共重合体(ビニルアミン単位/N-ビニルホルムアミド=0.4/0.6(モル比);三菱ケミカル社製「KP8040」)を4mg用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
ろ液中のPd濃度を測定した所、0.1ppm未満であった。
【0048】
(実施例5~8)
実施例1~4それぞれで使用したキャタリスト廃液に代えて、各キャタリスト廃液100mLに水を加えて250mLとした希釈液を用いた以外は実施例1~4と同様の操作を行った。
ろ液中のPd濃度を測定した所、すべての例で、0.1ppm未満であった。
【0049】
(実施例9)
実施例1で使用したキャタリスト廃液に代えて、前記キャタリスト廃液100mLに水を加えて1000mLとした希釈液を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
ろ液中のPd濃度を測定した所、0.1ppm未満であった。
【0050】
(比較例1)
前記PNVFに代えて、活性炭(日本エンバイロケミカルズ社製「粒状白鷺KL」)50mgを使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。
ろ液中のPd濃度を測定した所、12ppmであった。
【0051】
(比較例2)
前記PNVFに代えて、陰イオン交換樹脂(オルガノ社製「IRA98」;スチレン系、弱塩基性・MR形、官能基:-N(CH3)2)50mgを使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。
ろ液中のPd濃度を測定した所、10ppmであった。
【0052】
実施例1~9、比較例1~2で使用した捕集剤の種類及び使用量、各例におけるろ液中のPd濃度を表1に示す。
【0053】
【0054】
上記結果に示すとおり、実施例1~4では、ろ液中のPd濃度が0.1ppm未満であり、キャタリスト廃液中のPdコロイド粒子がほぼ完全に捕集剤に捕集されていた。
キャタリスト廃液を2.5倍、あるいは10倍希釈してPdコロイド粒子の濃度を低くした実施例5~9においても、実施例1~4と同様に、ろ液中のPd濃度が0.1ppm未満となっていた。
一方、捕集剤として活性炭を用いた比較例1や陰イオン交換樹脂を用いた比較例2では、実施例1~9に比べて多量の捕集剤を使用したにもかかわらず、ろ液中のPd濃度が10ppm以上であり、Pdコロイド粒子が捕集されずに残っていた。
【符号の説明】
【0055】
20 Pd回収設備
21 貯槽
23 流動槽
25 第一の流路
27 送液ポンプ
29 第二の流路