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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】固定化物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/00 20170101AFI20220113BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20220113BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20220113BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220113BHJP
   C01B 32/158 20170101ALI20220113BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20220113BHJP
【FI】
C01B32/00
H01B5/02 A
H01B5/14 A
H01B13/00 503B
C01B32/158
C08J7/04 J CER
C08J7/04 CEZ
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017083548
(22)【出願日】2017-04-20
(65)【公開番号】P2017200871
(43)【公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2016088682
(32)【優先日】2016-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000162847
【氏名又は名称】ステラケミファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】石丸 慧
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良憲
(72)【発明者】
【氏名】松下 浩典
(72)【発明者】
【氏名】平野 一孝
(72)【発明者】
【氏名】西田 哲郎
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-502246(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0645308(KR,B1)
【文献】国際公開第2007/114140(WO,A1)
【文献】特開2008-050469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00
C01B 32/956
B82Y 20/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に炭素材料及び/又はケイ素材料が固定化された固定化物であって、
前記炭素材料及び/又はケイ素材料前記基材表面に結合基のみが直接化学結合しており、
前記結合基が-NH基、-NH-R-NH基、-SO基、R基、-O-R-O基及びR基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1種(但し、前記R~Rはそれぞれ独立して、鎖状アルキル基、環状アルキル基、鎖状アルケニル基、環状アルケニル基、鎖状アルキニル基、アリール基、及び、これらの官能基にさらにヒドロキシル基、ハロゲン、エステル基、エーテル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、チオール基、チオエステル基又はチオエーテル基の少なくとも何れかが結合した官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。)である固定化物。
【請求項2】
前記炭素材料が、活性炭、カーボンナノホーン、ダイヤモンド、カーボンナノコイル、グラファイト、カーボンブラック、ダイヤモンドライクカーボン、炭素繊維、グラフェン、非晶質カーボン、フラーレン及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる少なくとも何れか1種である請求項1に記載の固定化物。
【請求項3】
前記基材が、他の炭素材料、他のケイ素材料、天然高分子又は合成高分子の何れかからなる請求項1又は2に記載の固定化物。
【請求項4】
フッ素基、塩素基、臭素基又はヨウ素基の少なくとも何れかが表面に直接結合した炭素材料及び/又はケイ素材料と、
-NH基、-NH-R-NH基、-SOCl基、-R-MgX基、-O-R-ONa基及び-R-Li基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1種(但し、前記R~Rはそれぞれ独立して、鎖状アルキル基、環状アルキル基、鎖状アルケニル基、環状アルケニル基、鎖状アルキニル基、アリール基、及び、これらの官能基にさらにヒドロキシル基、ハロゲン、エステル基、エーテル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、チオール基、チオエステル基又はチオエーテル基の少なくとも何れかが結合した官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種を表し、前記XはF、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。)が表面に直接結合した基材とを接触させることにより、
前記炭素材料及び/又はケイ素材料と前記基材表面とに、-NH基、-NH-R-NH基、-SO基、R基、-O-R-O基及びR基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1種の結合基のみが直接化学結合して、前記炭素材料及び/又はケイ素材料を前記基材表面に固定化させる固定化物の製造方法。
【請求項5】
-NH基、-NH-R-NH基、-SOCl基、-R-MgX基、-O-R-ONa基及び-R-Li基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1種(但し、前記R~Rはそれぞれ独立して、鎖状アルキル基、環状アルキル基、鎖状アルケニル基、環状アルケニル基、鎖状アルキニル基、アリール基、及び、これらの官能基にさらにヒドロキシル基、ハロゲン、エステル基、エーテル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、チオール基、チオエステル基又はチオエーテル基の少なくとも何れかが結合した官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種を表し、前記XはF、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。)を表面に有する炭素材料及び/又はケイ素材料と、
フッ素基、塩素基、臭素基又はヨウ素基の少なくとも何れかを表面に有する基材とを接触させることにより、
前記炭素材料及び/又はケイ素材料を、-NH基、-NH-R-NH基、-SO基、R基、-O-R-O基及びR基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1種の結合基を介して、前記基材表面に化学結合により固定化させる固定化物の製造方法。
【請求項6】
前記接触は、前記炭素材料及び/又はケイ素材料が分散媒中に分散した分散液に、前記基材を浸漬させることにより行う請求項4又は5に記載の固定化物の製造方法。
【請求項7】
前記接触は、ルイス酸の存在下で行われる請求項4又は5に記載の固定化物の製造方法。
【請求項8】
前記接触は、前記炭素材料及び/又はケイ素材料が分散媒中に分散した分散液に、前記基材を浸漬させた後、前記ルイス酸の水溶液を添加することにより行う請求項7に記載の固定化物の製造方法。
【請求項9】
前記炭素材料として、活性炭、カーボンナノホーン、ダイヤモンド、カーボンナノコイル、グラファイト、カーボンブラック、ダイヤモンドライクカーボン、炭素繊維、グラフェン、非晶質カーボン、フラーレン及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる少なくとも何れか1種を用いる請求項4~8の何れか1項に記載の固定化物の製造方法。
【請求項10】
前記基材として、他の炭素材料、他のケイ素材料、天然高分子又は合成高分子の何れかを用いる請求項4~9の何れか1項に記載の固定化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定化物及びその製造方法に関し、より詳細には、基材表面に、カーボンナノチューブ(Carbon Nanotubes:CNTs)等の炭素材料やケイ素材料を固定化することにより、導電性等の各種機能を付与することができる新規な固定化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CNTsはsp結合した炭素原子のみからなる直径数nm~数十nmの中空円筒状炭素材料である。CNTsは、1層構造のシングルウォールカーボンナノチューブ(Single Wall Carbon Nanotubes:SWCNTs)と多層構造のマルチウォールカーボンナノチューブの(Multi Wall Carbon Nanotubes:MWCNTs)の存在が確認されている。
【0003】
CNTsのうち層数の少ないものは、通常レーザーアブレーション法やアーク法を用いて製造される。結晶度が高いため、導電性等の特性に優れることが多い。一方、透明導電膜では特に優れた光透過率と導電性が求められる。そのため、CNTsを用いた透明導電膜に関する従来の研究ではSWCNTs、またはSWCNTsと層数の少ないMWCNTsが用いられた。
【0004】
しかしながら、SWCNTsは製造コストが高く、径が小さいため折れやすいという問題があった。これに対してMWCNTsでは製造コストの抑制が可能になるが、アスペクト比が小さく、結晶性も低く欠陥が多いため、透明導電膜に求められる光透過率と導電性を両立させることが困難であった。
【0005】
前記問題点を解決するため、例えば、下記特許文献1では、MWCNTsとして、長さが10~5000μm、本数が導電層単位面積当たり1×10~1×1014本/m のものを用いた透明導電膜が開示されている。そして、特許文献1の開示によれば、光透過率及び導電性を高いレベルで両立することが可能な透明導電膜を提供できるとされている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の透明導電膜であると、プラスチック基材等の透明基材に対して十分に固定されていないため、剥離するという問題がある。そのため、従来の透明導電膜においては、さらに樹脂コート層を当該透明導電膜上に形成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-207116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、炭素材料及び/又はケイ素材料を、結合基を介して化学結合により基材表面に固定化させた新規な固定化物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の固定化物は、前記の課題を解決する為に、基材表面に炭素材料及び/又はケイ素材料が固定化された固定化物であって、前記炭素材料及び/又はケイ素材料が、前記基材表面に結合基を介して化学結合しており、前記結合基が-NH基、-NH-R-NH基、-SO基、R基、-O-R-O基及びR基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1種(但し、前記R~Rはそれぞれ独立して、鎖状アルキル基、環状アルキル基、鎖状アルケニル基、環状アルケニル基、鎖状アルキニル基、アリール基、及び、これらの官能基にさらにヒドロキシル基、ハロゲン、エステル基、エーテル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、チオール基、チオエステル基又はチオエーテル基の少なくとも何れかが結合した官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。)であることを特徴とする。
【0010】
前記の構成に於いて、前記基材表面に固定化される前の炭素材料及びケイ素材料の表面には、フッ素基、塩素基、臭素基又はヨウ素基の少なくとも何れかが存在しており、前記炭素材料及び/又はケイ素材料が固定化される前の前記基材表面には、-NH基、-NH-R-NH基、-SOCl基、-R-MgX基(前記XはF、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。)、O-R-ONa基及び-R-Li基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1種が存在していることが好ましい。
【0011】
また、前記の構成に於いて、前記基材表面に固定化される前の炭素材料及びケイ素材料の表面には、-NH基、-NH-R-NH基、-SOCl基、-R-MgX基(前記XはF、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。)、-O-R-ONa基及び-R-Li基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1種が存在しており、前記炭素材料及び/又はケイ素材料が固定化される前の前記基材表面には、フッ素基、塩素基、臭素基又はヨウ素基の少なくとも何れかが存在していることが好ましい。
【0012】
また、前記の構成に於いては、前記炭素材料が、活性炭、カーボンナノホーン、ダイヤモンド、カーボンナノコイル、グラファイト、カーボンブラック、ダイヤモンドライクカーボン、炭素繊維、グラフェン、非晶質カーボン、フラーレン及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる少なくとも何れか1種であることが好ましい。
【0013】
前記の構成に於いては、前記基材が、他の炭素材料、他のケイ素材料、天然高分子又は合成高分子の何れかからなることが好ましい。
【0014】
本発明の固定化物の製造方法は、前記の課題を解決する為に、フッ素基、塩素基、臭素基又はヨウ素基の少なくとも何れかを表面に有する炭素材料及び/又はケイ素材料と、-NH基、-NH-R-NH基、-SOCl基、-R-MgX基、-O-R-ONa基及び-R-Li基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1種(但し、前記R~Rはそれぞれ独立して、鎖状アルキル基、環状アルキル基、鎖状アルケニル基、環状アルケニル基、鎖状アルキニル基、アリール基、及び、これらの官能基にさらにヒドロキシル基、ハロゲン、エステル基、エーテル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、チオール基、チオエステル基又はチオエーテル基の少なくとも何れかが結合した官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種を表し、前記XはF、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。)を表面に有する基材とを接触させることにより、前記炭素材料及び/又はケイ素材料を、-NH基、-NH-R-NH基、-SO基、R基、-O-R-O基及びR基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1種の結合基を介して、前記基材表面に化学結合により固定化させることを特徴とする。
【0015】
本発明の他の固定化物の製造方法は、前記の課題を解決する為に、-NH基、-NH-R-NH基、-SOCl基、-R-MgX基、-O-R-ONa基及び-R-Li基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1種(但し、前記R~Rはそれぞれ独立して、鎖状アルキル基、環状アルキル基、鎖状アルケニル基、環状アルケニル基、鎖状アルキニル基、アリール基、及び、これらの官能基にさらにヒドロキシル基、ハロゲン、エステル基、エーテル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、チオール基、チオエステル基又はチオエーテル基の少なくとも何れかが結合した官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種を表し、前記XはF、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。)を表面に有する炭素材料及び/又はケイ素材料と、フッ素基、塩素基、臭素基又はヨウ素基の少なくとも何れかを表面に有する基材とを接触させることにより、前記炭素材料及び/又はケイ素材料を、-NH基、-NH-R-NH基、-SO基、R基、-O-R-O基及びR基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1種の結合基を介して、前記基材表面に化学結合により固定化させることを特徴とする。
【0016】
前記の構成に於いて、前記接触は、ルイス酸の存在下で行われることが好ましい。
【0017】
前記の構成に於いては、前記炭素材料として、活性炭、カーボンナノホーン、ダイヤモンド、カーボンナノコイル、グラファイト、カーボンブラック、ダイヤモンドライクカーボン、炭素繊維、グラフェン、非晶質カーボン、フラーレン及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる少なくとも何れか1種を用いることが好ましい。
【0018】
前記の構成に於いては、前記基材として、他の炭素材料、他のケイ素材料、天然高分子又は合成高分子の何れかを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の固定化物によれば、炭素材料及びケイ素材料の少なくとも一方が、前記-NH基等の結合基を介した化学結合により、基材表面に固定化した構造を有している。そのため、単に炭素材料等が基材上に積層されたものと比較して、剥離等に対する耐性に優れたものにできる。また、炭素材料等を固定化したことにより、例えば、導電性、静電気拡散性や帯電防止等の各種機能を基材に付与することができる。しかも、前述の通り、炭素材料等は、結合基を介した化学結合により、基材表面に固定化しているので、各種機能の長期安定性が図れる。
【0020】
また、本発明の固定化物の製造方法によれば、原材料として、フッ素基、塩素基、臭素基又はヨウ素基の少なくとも何れかを表面に有する炭素材料及び/又はケイ素材料を用い、これを、前記-NH基等を表面に有する基材と接触させるだけで、当該炭素材料等を、前記-NH基等の結合基を介して、基材表面に簡便に固定化することができる。さらに、本発明の他の固定化物の製造方法によれば、原材料として、前記-NH基等を表面に有する炭素材料及び/又はケイ素材料を用い、これを、フッ素基、塩素基、臭素基又はヨウ素基の少なくとも何れかを表面に有する基材と接触させるだけで、当該炭素材料等を、前記-NH基等の結合基を介して、基材表面に簡便に固定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態に係る固定化物を説明するための概念図である。
図2】前記実施の形態に係る固定化物の製造方法を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施の形態1)
<固定化物>
先ず、本実施の形態の固定化物について説明する。本実施の形態の固定化物は、基材表面に、炭素材料及び/又はケイ素材料(以下、「炭素材料等」という場合がある。)が結合基を介して化学結合したものである。例えば、炭素材料が後述のカーボンナノチューブである場合、基材上に固定された固定化物は、図1に示す様なものとなる。
【0023】
炭素材料等の存在形態としては特に限定されず、例えば、フィルム(膜)状、シート状、板状、ブロック状、繊維状、ペレット状、糸状、チューブ状、棒状又は球状等が挙げられる。
【0024】
前記炭素材料としては特に限定されず、例えば、活性炭、カーボンナノホーン、ダイヤモンド、カーボンナノコイル、グラファイト、カーボンブラック、ダイヤモンドライクカーボン、炭素繊維、グラフェン、非晶質カーボン、フラーレン、カーボンナノチューブ等が挙げられる。前記カーボンナノチューブとしては、6角網目のグラフェンシートが1枚で中空円筒状の構造である単層カーボンナノチューブや、多数のグラフェンシートから構成されている多層カーボンナノチューブ、フラーレンチューブ、バッキーチューブ、グラファイトフィブリルが挙げられる。さらに、このような炭素材料の基本構造を有する類縁体も本発明にかかる炭素材料として使用可能である。また、これらの炭素材料は単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0025】
前記ケイ素材料としては特に限定されず、例えば、ケイ素単体、炭化ケイ素(SiC)、ケイ素酸化物(SiOx(0<x≦2)、具体的には、例えば、シリコンの自然酸化物、熱シリコン酸化物、ノンドープシリケートガラス化合物、リンドープシリケートガラス化合物、ボロンドープシリケートガラス化合物、リンボロンドープシリケートガラス化合物、TEOS、フッ素含有シリコン酸化物等が挙げられる。)、窒化珪素(Si)等が挙げられる。これらのケイ素材料は単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0026】
前記結合基は、-NH基、-NH-R-NH基、-SO基、R基、-O-R-O基及びR基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1種である。但し、前記R~Rはそれぞれ相互に独立しており、鎖状アルキル基、環状アルキル基、鎖状アルケニル基、環状アルケニル基、鎖状アルキニル基、アリール基、及び、これらの官能基にさらにヒドロキシル基、ハロゲン、エステル基、エーテル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、チオール基、チオエステル基又はチオエーテル基の少なくとも何れかが結合した官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。ここで、「これらの官能基にさらにヒドロキシル基、ハロゲン、エステル基、エーテル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、チオール基、チオエステル基又はチオエーテル基の少なくとも何れかが結合した」とは、当該官能基を構成する一つ以上の水素原子が、水素原子以外の基で置換されているか、あるいは当該官能基を構成する一つ以上の炭素原子が、炭素原子以外の基で置換されていることを意味する。また、水素原子及び炭素原子が共に前記ヒドロキシル基等に置換されていることも含む意味である。
【0027】
前記鎖状アルキル基としては、炭素数1~100、好ましくは1~50、より好ましくは1~20のものが挙げられる。より具体的には、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基等の分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0028】
前記環状アルキル基としては、炭素数3~30、好ましくは3~20、より好ましくは3~12のものが挙げられる。より具体的には、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、環状アルキル基は、当該環状アルキル基中の炭素原子が酸素、窒素、硫黄等のヘテロ原子に置換された官能基であってもよい。この場合、具体的には、例えばテトラヒドロフラン、ピペリジン、チオフェン等が挙げられる。
【0029】
前記鎖状アルケニル基としては、炭素数2~100、好ましくは2~50、より好ましくは2~30のものが挙げられる。より具体的には、例えばアリル基、3-ブテニル基、4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基、7-オクテニル基、10-ドデセニル基等の直鎖状アルケニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、イソペンテニル基、2-エチル-3-ヘキセニル基等の分岐鎖状アルケニル基が挙げられる。
【0030】
前記環状アルケニル基としては、炭素数3~30、好ましくは3~20、より好ましくは3~12のものが挙げられる。より具体的には、例えばシクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0031】
前記鎖状アルキニル基としては、炭素数2~100、好ましくは2~50、より好ましくは2~30のものが挙げられる。より具体的には、例えばシクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0032】
前記アリール基としては、炭素数6~100、好ましくは6~50、より好ましくは6~30のものが挙げられる。より具体的には、例えばフェニル基、トリル基が挙げられる。
【0033】
また、前記鎖状アルキル基等に前記ヒドロキシル基が結合した官能基としては、例えば、4-ヒドロキシ-2-ペンチニル等が挙げられる。
【0034】
前記鎖状アルキル基等に結合可能なハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。また、前記鎖状アルキル基等に前記ハロゲンが結合した官能基としては、例えば、2-フルオロプロパン等が挙げられる。
【0035】
前記鎖状アルキル基等に前記エステル基が結合した官能基としては、例えば、3-酢酸メチルペンチル等が挙げられる。
【0036】
前記鎖状アルキル基等に前記エーテル基が結合した官能基としては、例えば、2-メトキシブタン等が挙げられる。
【0037】
前記鎖状アルキル基等に前記カルボニル基が結合した官能基としては、例えば、2-オクチルケトン等が挙げられる。
【0038】
前記鎖状アルキル基等に前記アミノ基が結合した官能基としては、例えば、3-トリメチルアミノペンタン等が挙げられる。
【0039】
前記鎖状アルキル基等に前記アミド基が結合した官能基としては、例えば、2-アミドブタン等が挙げられる。
【0040】
前記鎖状アルキル基等に前記シアノ基が結合した官能基としては、例えば、2-シアノブタン等が挙げられる。
【0041】
前記鎖状アルキル基等に前記チオール基が結合した官能基としては、例えば、2-プロピルチオール等が挙げられる。
【0042】
前記鎖状アルキル基等に前記チオエステル基が結合した官能基としては、例えば、2-チオ酸S-エチルブタン等が挙げられる。
【0043】
前記鎖状アルキル基等に前記チオエーテル基が結合した官能基としては、例えば、2-ジメチルスルフィドブタン等が挙げられる。
【0044】
前記基材としては、例えば他の炭素材料、他のケイ素材料、天然高分子又は合成高分子の何れかで構成されるものが好ましい。基材の形状は特に限定されず、例えば、フィルム状、シート状、板状、ブロック状、繊維状、ペレット状、糸状、チューブ状、棒状、球状等の各種形状を用いることができる。
【0045】
前記他の炭素材料としては、前記炭素材料と同様のものを用いることができる。また、前記他のケイ素材料としては、前記ケイ素材料と同様のものを用いることができる。
【0046】
さらに、前記天然高分子としては特に限定されず、例えば、木綿、麻、絹、羊毛、皮革、タンパク質、セルロース、デンプン、キチン、多糖、レーヨン、酢酸セルロース、ゴム、酵素、DNA、RNA、核酸等が挙げられる。また、前記合成高分子としては特に限定されず、例えば、シリコーン樹脂、ポリシラン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアクリ酸メチル樹脂、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ビスマレイミド樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール等のビニル系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂、シクロオレフィン樹脂(COP)、フッ素樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン、ポリオキシメチレン樹脂、ポリ-ε-カプロラクトン樹脂、ポリブチレンサクシナート樹脂、ナイロン6、ナイロン66、イソプレンゴム、シス-1,4-ポリブタジエン、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、ジメチルシリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、パーフルオロゴム、フルオロホスファゼンゴム、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリp-フェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリ2,5-ピリジンジイル、ポリ乳酸等が挙げられる。
【0047】
<固定化物の製造方法>
次に、本実施の形態の固定化物の製造方法について説明する。
本実施の形態の固定化物の製造方法は、フッ素基、塩素基、臭素基又はヨウ素基の少なくとも何れか(以下、「置換基」という場合がある。)を表面に有する炭素材料及び/又はケイ素材料を、基材に接触させる工程を少なくとも含む(図2参照)。但し、本工程を行う場合、基材表面には、-NH基、-NH-R-NH基、-SOCl基、R-MgX基、-O-R-ONa基及び-R-Li基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1種(前記R~Rについては、前述の通りである。)が存在していることが必要である。
【0048】
[炭素材料等への置換基の導入]
炭素材料等の表面への置換基の導入方法は特に限定されず、種々の方法を採用することができる。例えば、炭素材料等の表面にフッ素基を導入する方法としては、フッ素化処理が挙げられる。
【0049】
前記フッ素化処理は、炭素材料等に少なくともフッ素原子含有ガスを含む処理ガスを接触させることにより、気相中でその表面をフッ素化処理する工程である。当該工程は、具体的には、炭素材料等の表面に炭素-フッ素結合によるフッ素基を導入するものである。従って、例えば、炭素六角網面のエッジ部分に水酸基、カルボニル基又はカルボキシル基等の含酸素官能基を付与する酸化処理とは異なり、炭素材料等にダメージを与えたり分解させる等の構造欠陥が生じることなく、その表面をフッ素化することができる。
【0050】
前記処理ガスとしては、全体積に対し0.01~100vol%、好ましくは0.1~80vol%、より好ましくは1~50vol%のフッ素原子含有ガスを含むものが用いられる。フッ素原子含有ガスの濃度を0.01vol%以上にすることにより、炭素材料等の表面のフッ素化が不十分となるのを防止することができる。
【0051】
前記フッ素原子含有ガスとはフッ素原子を含む気体を意味し、本実施の形態に於いてはフッ素原子を含むものであれば特に限定されない。そのようなフッ素原子含有ガスとしては、例えば、フッ化水素(HF)、フッ素(F)、三フッ化塩素(ClF)、四フッ化硫黄(SF)、三フッ化ホウ素(BF)、三フッ化窒素(NF)、フッ化カルボニル(COF)、五フッ化リン(PF)等が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
前記処理ガスには、不活性ガスが含まれていてもよい。不活性ガスとしては特に限定されないが、フッ素原子含有ガスと反応して炭素材料等のフッ素化処理に悪影響を与えるもの、炭素材料等と反応して悪影響を与えるもの、及び当該悪影響を与える不純物を含むものは好ましくない。不活性ガスは、具体的には、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、不活性ガスの純度としては特に限定されないが、当該悪影響を与える不純物については100ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることが特に好ましい。
【0053】
前記フッ素化処理を行う際の処理温度は、-20℃~600℃の範囲内であり、好ましくは0℃~400℃、より好ましくは10℃~300℃、さらに好ましくは10℃~250℃である。処理温度を-20℃以上にすることにより、フッ素化処理を促進させることができる。その一方、処理温度を600℃以下にすることにより、炭素材料等の表面へのフッ素基の導入に伴って発生する炭素骨格への欠陥が過度に増大するのを抑制し、炭素骨格の過度の破壊及び炭素材料の機械的強度が減少するのを防止することができる。さらに、炭素材料等に熱変形が生じるのを防止し、歩留まりの低下を抑制することができる。
【0054】
前記フッ素化処理の処理時間(反応時間)は1秒~24時間の範囲内であり、好ましくは1分~12時間、より好ましくは1分~9時間である。処理時間を1秒以上にすることにより、炭素材料等の表面のフッ素化を十分なものにすることができる。その一方、処理時間を24時間以下にすることにより、製造時間の長期化による製造効率の低下を防止することができる。
【0055】
フッ素化処理を行う際の圧力条件としては特に限定されず、常圧下、加圧下又は減圧下で行うことができる。経済上・安全上の観点からは、常圧下で行うのが好ましい。フッ素化処理を行うための反応容器としては特に限定されず、固定床、流動床等の従来公知のものを採用することができる。
【0056】
炭素材料等に対する処理ガスの接触方法としては特に限定されず、例えば、当該処理ガスのフロー下や当該処理ガスを少なくとも含む雰囲気下において、密閉するなどして接触させることができる。また、フッ素化処理は複数回行ってもよい。これにより、炭素材料等の表面にフッ素基をさらに導入することができ、基材表面への固定化を一層向上させることが可能になる。
【0057】
炭素材料等に対するフッ素化処理は、当該炭素材料等が前記フィルム状等である場合、その全面に対して行ってもよく、あるいは任意の一部の領域に対して行ってもよい。任意の一部の領域に対してフッ素化処理を行う場合(部分フッ素化処理)、当該フッ素化処理を行いたい領域以外の領域をマスキングすることにより行うことができる。マスキングに使用するマスキング材としては、フッ素化処理の際の処理温度に対し耐熱性を有していることを除いて特に限定されない。具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロクロルエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリジクロルジフルオロエチレン、ポリトリフルオロクロルエチレン等のフッ素樹脂、セラミックス、ポリイミド、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)、金属等からなるものが挙げられる。
【0058】
また、フッ素化処理の直後に後処理工程を行ってもよい。後処理工程は、前記処理ガスを不活性ガスに置換して不活性雰囲気下にし、かつ、室温まで前記炭素材料等を冷却させる工程である。室温までの冷却は放冷により行ってもよい。また、不活性ガスに置換するため真空排気した後、不活性ガスで大気圧にしてもよい。これにより、フッ素化処理された炭素材料等の表面にフッ素ガスが吸着して残存するのを防止することができる。その結果、フッ素ガスの加水分解によりフッ化水素が副生するのを防止するので、フッ素化処理後の炭素材料等を分散させた分散液やその利用に際して不具合が生じることもない。前記不活性ガスとしては特に限定されず、窒素ガス等が挙げられる。
【0059】
また、炭素材料等の表面に塩素基を導入する方法としては、塩素化処理が挙げられる。前記塩素化処理は、炭素材料等に少なくとも塩素ガスを含む処理ガスを接触させることにより行うことができる。前記処理ガスとしては、塩素濃度が全体積に対し0.01~100vol%、好ましくは0.1~80vol%、より好ましくは1~50vol%のものを使用することができる。尚、処理ガス中には、塩素ガスを希釈する目的で前述の不活性ガスを含めてもよい。
【0060】
塩素化処理を行う際の処理温度としては、-20℃~600℃の範囲内であることが好ましく、0℃~400℃の範囲内であることがより好ましく、10℃~300℃の範囲内であることが特に好ましい。処理温度を-20℃以上にすることにより、塩素化処理を促進させることができる。その一方、処理温度を600℃以下にすることにより、形成した炭素-塩素結合から塩素原子の脱離を抑制し、処理効率の低減を防止することができる。
【0061】
塩素化処理の処理時間としては特に限定されず、通常は1秒~24時間の範囲内で行われるが、1分~12時間、より好ましくは1分~9時間の範囲内がより好ましい。処理時間を1秒以上にすることにより、炭素材料等の塩素化が不十分となるのを防止し、基材に対する炭素材料等の固定化が不十分となるのを抑制することができる。その一方、処理時間を24時間以下にすることにより、相応の効果が期待できずに製造効率が低減するのを抑制することができる。
【0062】
塩素化処理を行う際の圧力条件や使用する反応容器については特に限定されず、フッ素化処理の場合と同様である。また、塩素化処理は複数回行ってもよい。これにより、炭素材料等の表面に塩素基をさらに導入することができ、基材表面への固定化を一層向上させることが可能になる。
【0063】
炭素材料等に対する塩素化処理は、当該炭素材料等が前記フィルム状等である場合、その全面に対して行ってもよく、あるいは任意の一部の領域に対して行ってもよい。任意の一部の領域に対して塩素化処理を行う場合(部分塩素化処理)、前記部分フッ素化処理の場合と同様、当該塩素化処理を行いたい領域以外の領域をマスキングすることにより行うことができる。使用可能なマスキング材としては、塩素化処理の際の処理温度に対し耐熱性を有していることを除いて特に限定されない。具体的には、前記部分フッ素化処理の際に用いるマスキング材を好適に用いることができる。
【0064】
また、塩素化処理の直後においては、フッ素化処理の場合と同様、後処理工程を行ってもよい。これにより、塩素化処理された炭素材料等の表面に塩素ガスが吸着して残存するのを防止することができる。また、塩素化処理された炭素材料等を分散媒に分散させる工程、使用可能な分散媒及び炭素材料等の分散媒への添加量については、前述のフッ素化処理の場合と同様である。従って、その詳細については説明を省略する。
【0065】
また、炭素材料等の表面への臭素基又はヨウ素基の導入は、それぞれ臭素化処理又はヨウ素処理(以下、「臭素化処理等」という。)を行うことにより可能である。臭素化処理等は、少なくとも臭素ガス又はヨウ素ガスを含む処理ガスを接触させることにより行うことができる。処理ガスとしては、臭素又はヨウ素濃度が全体積に対し0.01~100vol%、好ましくは0.1~80vol%、より好ましくは1~50vol%のものを用いることができる。さらに、処理ガス中には、臭素ガスやヨウ素ガスを希釈する目的で前述の不活性ガスを含めてもよい。
【0066】
また、臭素化処理等を行う際の処理温度や処理時間、圧力条件及び使用する反応容器は、フッ素化処理の場合と同様である。さらに、炭素材料等が前記フィルム状等であり、その任意の一部の領域に対して臭素化処理等を行う場合には、フッ素化処理の場合と同様、処理を行いたい領域以外の領域をマスキングすることにより可能である。
【0067】
また、臭素化処理等の直後においては、フッ素化処理や塩素化処理の場合と同様、後処理工程を行ってもよい。これにより、臭素化処理等がされた炭素材料等の表面に臭素ガスやヨウ素ガスが吸着して残存するのを防止することができる。また、臭素化処理等がされた炭素材料等を分散媒に分散させる工程、使用可能な分散媒及び炭素材料等の分散媒への添加量については、前述のフッ素化処理の場合と同様である。従って、その詳細については説明を省略する。
【0068】
[基材表面への-NH基等の導入]
前記基材表面に-NH基、-NH-R-NH基、-SOCl基、R-MgX基、-O-R-ONa基又は-R-Li基を導入する方法としては特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、前記-NH基又は-NH-R-NH基(以下、「-NH基等」という。)を導入する場合、基材表面に対して前記フッ素化処理を行ってフッ素基を導入した後に、NH基等を導入する処理(以下、「NH基等導入処理」という。)を行い、当該フッ素基を-NH基等に置換させる。この場合、フッ素化処理に用いる第1処理ガス及び処理条件は、前記炭素材料等に対するフッ素化処理に用いる処理ガス及び処理条件と同様にすることができる。従って、これらの詳細な説明は省略する。
【0069】
前記NH基等導入処理は、基材表面に少なくとも窒素原子含有ガスを含む第2処理ガスを接触させることにより、気相中でその表面に-NH基等を導入する工程である。あるいは、少なくとも窒素原子含有化合物を含む液体を、フッ素化処理した炭素材料に塗布又は噴霧する方法や、当該窒素原子含有化合物を含む液体中に、当該炭素材料を浸漬させる方法等により、NH基等導入処理を行ってもよい。当該工程は、具体的には、炭素材料等の表面に炭素-窒素結合による前記-NH基等を導入するものである。
【0070】
前記第2処理ガスとしては、全体積に対し0.01~100vol%、好ましくは0.1~80vol%、より好ましくは0.1~50vol%の窒素原子含有ガスを含むものが用いられる。窒素原子含有ガスの濃度を0.01vol%以上にすることにより、基材表面への-NH基等の導入が不十分となるのを防止することができる。
【0071】
前記窒素原子含有ガスとは窒素原子を含む気体を意味し、本実施の形態に於いては窒素原子を含むものであれば特に限定されない。そのような窒素原子含有ガスとしては、例えば、アンモニア(NH)ガス、アミン系ガス等が挙げられる。アミン系ガスとは、気体状態のアミン、例えば、常温常圧下で液体状態であるアミンを気化することで得られるガスや、常温常圧下で気体状態であるアミン等のアミン基を含むガスを意味する。アミン系ガスは、具体的には、エチルアミン、メチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン等のアミンを含む。これらは単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0072】
前記第2処理ガスには、不活性ガスが含まれていてもよい。不活性ガスとしては特に限定されないが、窒素原子含有ガスと反応して基材のNH基等導入処理に悪影響を与えるもの、基材と反応して悪影響を与えるもの、及び当該悪影響を与える不純物を含むものは好ましくない。不活性ガスとしては、具体的には、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、不活性ガスの純度としては特に限定されないが、当該悪影響を与える不純物については100ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることが特に好ましい。
【0073】
尚、前記第2処理ガス中には酸素原子含有ガスを含まないことが好ましい。酸素原子含有ガスを含有させることにより、基材表面に水酸基やカルボキシル基等が導入され、基材に大きなダメージを与える場合があるからである。
【0074】
前記NH基等導入処理を行う際の処理温度は、-20℃~300℃の範囲内であり、好ましくは0℃~250℃、より好ましくは10℃~200℃、さらに好ましくは10℃~150℃である。処理温度を-20℃以上にすることにより、NH基等導入処理を促進させることができる。その一方、処理温度を300℃以下にすることにより、基材等に熱変形が生じるのを防止し、歩留まりの低下を抑制することができる。
【0075】
前記NH基等導入処理の処理時間(反応時間)は1秒~24時間の範囲内であり、好ましくは1分~12時間、より好ましくは1分~9時間である。処理時間を1秒以上にすることにより、基材表面のNH基等の導入を十分なものにすることができる。その一方、処理時間を24時間以下にすることにより、製造時間の長期化による製造効率の低下を防止することができる。
【0076】
NH基等導入処理を行う際の圧力条件としては特に限定されず、常圧下、加圧下又は減圧下で行うことができる。経済上・安全上の観点からは、常圧下で行うのが好ましい。NH基等導入処理を行うための反応容器としては特に限定されず、固定床、流動床等の従来公知のものを採用することができる。
【0077】
基材に対する第2処理ガスの接触方法としては特に限定されず、例えば、当該第2処理ガスのフロー下や当該処理ガスを少なくとも含む雰囲気下において、密閉するなどして接触させることができる。また、NH基等導入処理は複数回行ってもよい。これにより、基材表面に前記-NH基等をさらに導入することができ、炭素材料等の固定化を一層向上させることが可能になる。
【0078】
[炭素材料等の基材表面への固定化]
炭素材料等を基材表面に固定化する方法については特に限定されず、例えば、炭素材料等を分散させた分散液を当該基材に接触させる方法が挙げられる。当該接触方法としては、具体的には、当該炭素材料等を分散させた分散液に基材を浸漬させる方法、当該分散液を基材表面に塗布する方法、基材表面に分散液を噴霧する方法等が挙げられる。
【0079】
前記分散液に前記基材を浸漬する場合、分散液を静置して浸漬してもよいし、攪拌しながら浸漬してもよい。浸漬温度としては-20~200℃が好ましく、0~100℃がより好ましく、0~80℃が特に好ましい。また、浸漬時間としては1秒~24時間が好ましく、30秒~9時間がより好ましく、1分~6時間が特に好ましい。
【0080】
分散液を作製するに際しては、前記炭素材料等を分散媒に加え、適宜必要に応じて撹拌や乳鉢で解砕、超音波処理、ホモジナイザー処理を施すことができる。
【0081】
前記分散媒としては特に限定されず、例えば、水や有機溶媒、又はこれらの混合溶液が挙げられる。前記有機溶媒としては特に限定されず、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、アセトン、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、NMP(N-メチルピロリドン)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、THF(テトラヒドロフラン)、シクロヘキサン、イオン液体等が挙げられる。これらの有機溶媒のうち、本実施の形態に於いてはアルコールが炭素材料等の分散性を最も高くすることができる。また、本発明においては、各種無機材料、各種金属材料、各種カーボン材料などの分散媒にも添加することができ、この様な場合であっても使用時の取扱い性に優れ、良好な分散性が得られる。さらに、前記分散媒は単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0082】
前記イオン液体としては、特に限定されず、例えば、エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF)や、エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMITFSI)等が挙げられる。
【0083】
分散媒に加えられる前記炭素材料等の添加量は、当該炭素材料等の種類等に応じて適宜設定され得る。具体的には、例えば分散液の全質量に対し、0.1×10-3質量%~25質量%の範囲内であることが好ましく、0.1×10-3質量%~10質量%の範囲内であることがより好ましく、0.1×10-3質量%~5質量%の範囲内であることが特に好ましい。前記添加量を0.1×10-3質量%以上にすることにより、分散液の容量が過量となるのを防止することができる。その一方、25質量%以下にすることにより、分散液の粘度が高くなり取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0084】
尚、置換基が表面に導入された炭素材料等と、-NH基等が導入された基材との接触に際しては、ルイス酸の存在下で行ってもよい。この場合、ルイス酸は反応促進剤(あるいは共触媒)としての機能を果たす。そのため、前記炭素材料等と基材との反応が促進され、より多くの炭素材料等を基材に固定化させることができ、処理時間の短縮化が図れる。
【0085】
前記ルイス酸としては特に限定されず、例えば、BF、SiF、PF、AsF、SbF、BBr、AlCl、AlBr、FeCl、SnCl、TiCl等が挙げられる。
【0086】
前記ルイス酸の存在下で炭素材料等の基材への固定化を行う方法としては特に限定されず、例えば、炭素材料等が前記分散媒に添加された分散液に、-NH基等が導入された基材を浸漬した後、ルイス酸の水溶液を添加する方法が挙げられる。ルイス酸の水溶液の添加量としては特に限定されないが、通常は、全質量に対し0.1質量%~90質量%であり、好ましくは1質量%~80質量%である。
【0087】
前記ルイス酸の水溶液を分散液に添加する場合の前記基材の浸漬時間は、前述の浸漬時間の範囲内であれば特に限定されない。また、ルイス酸の水溶液を添加する場合の分散液の温度(浸漬温度)についても、前述の浸漬温度の範囲内であれば特に限定されない。
【0088】
また、前記ルイス酸の水溶液におけるルイス酸の濃度は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0089】
また、前記分散液を基材に接触させた後においては、当該基材の洗浄工程を行ってもよい。これにより、基材に固定化されなかった炭素材料等や分散媒を除去することができる。使用する洗浄剤としては特に限定されず、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、水、トルエン、アセトン等が挙げられる。また、洗浄条件は特に限定されないが、通常は洗浄温度0℃~100℃、洗浄時間1秒間~60分間の範囲内で行われる。乾燥工程における乾燥方法としては特に限定されず、例えば、自然乾燥や窒素ガス等の吹き付けによる乾燥等が挙げられる。また、乾燥条件は特に限定されないが、通常は乾燥温度0℃~100℃、乾燥時間1秒間~24時間の範囲内で行われる。
【0090】
(実施の形態2)
本実施の形態2は前記実施の形態1の場合と比較して、固定化物の製造方法に関し、炭素材料等として、表面に-NH基、-NH-R-NH基、-SOCl基、-R-MgX基、-O-R-ONa基及び-R-Li基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1種(前記R~Rについては、前述の通りである。)を有するものを用いた点が異なる。また、基材として、表面にフッ素基、塩素基、臭素基又はヨウ素基の少なくとも何れかを有するものを用いた点が異なる。
【0091】
炭素材料等の表面に、前記-NH基等を導入する方法は、前記実施の形態1において基材表面に当該-NH基等を導入する方法と同様に行うことができる。また、基材表面にフッ素基、塩素基、臭素基又はヨウ素基の少なくとも何れかを導入する方法は、前記実施の形態1において炭素材料等の表面に当該フッ素基、塩素基、臭素基又はヨウ素基の少なくとも何れかを導入する方法と同様に行うことができる。これにより、本発明に係る固定化物を製造することができる。
【0092】
また、本実施の形態は、実施の形態1の場合と同様、-NH基等が表面に導入された炭素材料等と、置換基が導入された基材との接触に際しても、ルイス酸の存在下で行うことができる。これにより、-NH基等が導入された炭素材料等と、置換基が導入された基材との反応が促進され、より多くの炭素材料等を基材に固定化させることができ、処理時間の短縮化が図れる。
【0093】
尚、ルイス酸の種類、当該ルイス酸の存在下で炭素材料等の基材への固定化を行う方法、ルイス酸の水溶液の添加量、浸漬時間及び浸漬温度については、実施の形態1の場合と同様である。
【0094】
(その他の事項)
本発明に係る固定化物は、炭素材料等が結合基を介して基材表面に化学結合した構造となっている。そのため、基材表面に十分に固定されており、炭素材料等が基材から脱離し難い構造となっている。また、本発明に係る固定化物は、例えば、透明導電膜、静電気防止膜や帯電防止膜等に好適に適用することができる。
【0095】
尚、本発明の固定化物においては、基材上に結合基を介して化学結合している前記炭素材料やケイ素材料の表面に、フッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基又は前記-NH基等が存在していてもよい。
【実施例
【0096】
(実施例1)
<炭素材料の調製>
本実施例においては、炭素材料として単層カーボンナノチューブを用いた。先ず、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)容器(容量5mL)に、前記単層カーボンナノチューブ10mgを導入し、本容器を電解研磨されたSUS316L製チャンバー(容量30mL)に設置した。更に、チャンバー内を窒素に真空置換し、窒素気流(20mL/min)下、4℃/minで250℃に昇温して、2時間の恒温処理を行った。
【0097】
次に、チャンバー内を、窒素ガスでフッ素ガスを濃度20vol%に希釈した第1処理ガスに真空置換し、流量25mL/minで当該第1処理ガスを流した。更に、チャンバー内を4℃/minで250℃に昇温して、単層カーボンナノチューブのフッ素化処理を行った。フッ素化処理の処理時間は、4時間とした。その後、チャンバー内を窒素に真空置換し、窒素気流(20mL/min)の下、室温まで放冷し、フッ素化処理後の単層カーボンナノチューブを作製した。
【0098】
<炭素材料の分散液の調製>
フッ素化した単層カーボンナノチューブ(1mg)を、分散媒としてのイソプロピルアルコール(10g)に入れ、超音波照射を、42kHz、135Wで2時間行い、当該フッ素化した単層カーボンナノチューブが分散する分散液を調製した。フッ素化した単層カーボンナノチューブの添加量は、分散液の全質量に対し約1×10-2質量%であった。
【0099】
<PET樹脂フィルムの作製>
本実施例においては、基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルム(東レ株式会社製、商品名:ルミラー(登録商標)T60)を用いた。
【0100】
先ず、PET樹脂フィルムを、リボンヒータが設置された電解研磨SUS316L製チャンバー(容量1000mL)内に入れた。次に、チャンバー内を窒素気流(20mL/min)下で、50℃まで昇温させた。その後、窒素でフッ素ガスを0.5vol%に希釈した第1処理ガスをチャンバー内に流し、PET樹脂フィルムのフッ素化処理を行った。処理時間は1分間とした。
【0101】
続いて、チャンバー内を窒素に真空置換した。更に、窒素でNHガスを1.0vol%に希釈した第2処理ガスをチャンバー内に流し、NH基導入処理を行った。処理時間は1時間とした。その後、チャンバー内を窒素に真空置換し、窒素気流(20mL/min)の下、室温まで放冷して、NH基導入処理したPET樹脂フィルムを作製した。
【0102】
<固定化物の作製:PET樹脂フィルムと炭素材料の分散液との接触>
NH基導入処理したPET樹脂フィルムを、フッ素化した単層カーボンナノチューブがイソプロピルアルコール中に分散した分散液(10ml)に、室温で浸漬させた。また、浸漬時間は60分間とした。その後、PET樹脂フィルムを取り出し、イソプロピルアルコールにて洗浄し、温度19℃の窒素ブローで乾燥して、PET樹脂フィルム表面に単層カーボンナノチューブが固定化した固定化物を作製した。
【0103】
(実施例2)
<炭素材料の調製>
実施例1のフッ素化した単層カーボンナノチューブ(5mg)をアルミナ製ボートに入れ、本容器をNi製チャンバー(容量1000mL)に設置した。更に、チャンバー内を窒素に真空置換し、窒素気流(20mL/min)下、4℃/minで100℃昇温して、1時間の恒温処理を行った。
【0104】
次に、チャンバー内を、窒素ガスでNHガスを濃度1.0vol%に希釈した第2処理ガスを流し、NH基導入処理を行った。このときの処理時間を1時間とした。その後、チャンバー内を窒素に真空置換し、窒素気流(20mL/min)の下、室温まで放冷して窒素に真空置換し、NH基導入処理後の単層カーボンナノチューブを作製した。
【0105】
<炭素材料の分散液の調製>
NH基導入処理した単層カーボンナノチューブ(1mg)を、分散媒としてのイソプロピルアルコール(10g)に入れ、超音波照射を42kHz、135Wで2時間行い、当該NH基導入処理した単層カーボンナノチューブが分散する分散液を調製した。フッ素化した単層カーボンナノチューブの添加量は、分散液の全質量に対し約1×10-2質量%であった。
【0106】
<PET樹脂フィルムの作製>
本実施例においては、基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルム(東レ株式会社製、商品名:ルミラー(登録商標)T60)を用いた。
【0107】
先ず、PET樹脂フィルムを、リボンヒータが設置された電解研磨SUS316L製チャンバー(容量1000mL)内に入れた。次に、チャンバー内を窒素気流(20mL/min)下で、50℃まで昇温させた。その後、窒素でフッ素ガスを0.5vol%に希釈した第1処理ガスをチャンバー内に流し、PET樹脂フィルムのフッ素化処理を行った。処理時間は1分間とした。その後、チャンバー内を窒素に真空置換し、窒素気流(20mL/min)の下、室温まで放冷して、フッ素化処理したPET樹脂フィルムを作製した。
【0108】
<固定化物の作製:PET樹脂フィルムと炭素分散液との接触>
フッ素化処理したPET樹脂フィルムを、NH基導入処理した単層カーボンナノチューブがイソプロピルアルコール中に分散した分散液(10ml)に、室温で浸漬させた。また、浸漬時間は60分間とした。その後、PET樹脂フィルムを取り出し、イソプロピルアルコールにて洗浄し、温度19℃の窒素ブローで乾燥して、PET樹脂フィルム表面に単層カーボンナノチューブが固定化した固定化物を作製した。
【0109】
(実施例3)
<炭素材料及び当該炭素材料の分散液の調製>
実施例2と同様にして、NH基導入処理した単層カーボンナノチューブを調製した後、当該単層カーボンナノチューブをイソプロピルアルコールに分散させた分散液を得た。
【0110】
<PET樹脂フィルムの作製>
実施例2と同様にして、フッ素化処理したPET樹脂フィルムを作製した。
【0111】
<固定化物の作製:PET樹脂フィルムと炭素分散液との接触>
本実施例においては、フッ素化処理したPET樹脂フィルムを、NH基導入処理した単層カーボンナノチューブがイソプロピルアルコール中に分散した分散液(10mL)に浸漬させる浸漬時間を1分間に変更した。それ以外は、実施例2と同様の方法でPET樹脂フィルム表面に単層カーボンナノチューブが固定化した固定化物を作製した。
【0112】
(実施例4)
<炭素材料及び当該炭素材料の分散液の調製>
実施例2と同様にして、NH基導入処理した単層カーボンナノチューブを調製した後、当該単層カーボンナノチューブをイソプロピルアルコールに分散させた分散液を得た。
【0113】
<PET樹脂フィルムの作製>
実施例2と同様にして、フッ素化処理したPET樹脂フィルムを作製した。
【0114】
<固定化物の作製:PET樹脂フィルムと炭素分散液との接触>
本実施例においては、フッ素化処理したPET樹脂フィルムを、NH基導入処理した単層カーボンナノチューブがイソプロピルアルコール中に分散している分散液(10mL)に添加した後、さらに、濃度71%BF水溶液(10mL)を当該分散液に添加した。それ以外は、実施例2と同様の方法でPET樹脂フィルム表面に単層カーボンナノチューブが固定化した固定化物を作製した。
【0115】
(実施例5)
<炭素材料及び当該炭素材料の分散液の調製>
実施例2と同様にして、NH基導入処理した単層カーボンナノチューブを調製した後、当該単層カーボンナノチューブをイソプロピルアルコールに分散させた分散液を得た。
【0116】
<PET樹脂フィルムの作製>
実施例2と同様にして、フッ素化処理したPET樹脂フィルムを作製した。
【0117】
<固定化物の作製:PET樹脂フィルムと炭素分散液との接触>
本実施例においては、フッ素化処理したPET樹脂フィルムを、NH基導入処理した単層カーボンナノチューブがイソプロピルアルコール中に分散した分散液(10mL)に入れ、さらに、濃度71%BF水溶液(10mL)を添加してからの、当該PET樹脂フィルムの浸漬時間を1分間に変更した。それ以外は、実施例2と同様の方法でPET樹脂フィルム表面に単層カーボンナノチューブが固定化した固定化物を作製した。
【0118】
(実施例6)
<炭素材料の分散液の調製>
実施例1と同様にして、フッ素化した単層カーボンナノチューブを得た。次に、このフッ素化された単層カーボンナノチューブ(1mg)を、分散媒としてのイソプロピルアルコール(10g)に入れ、超音波照射を、42kHz、135Wで2時間行い、当該フッ素化した単層カーボンナノチューブが分散する分散液を調製した。
【0119】
<シリコン基板の作製>
本実施例においては、基材としてシリコン基板を用いた。
【0120】
先ず、PTFE容器(容量100mL)に、前記シリコン基板を入れた後、さらに硫酸と過酸化水素水の混合液(SPM)を入れ、シリコン基板洗浄を5分間行った。次に、容器内の混合液を水に置換し、流水でシリコン基板の洗浄を5分間行った。続いて、水で0.5質量%に希釈したフッ化水素酸を容器内に入れ、シリコン基板表面の酸化膜を除去した。処理時間は1分間とした。その後、容器内を水に置換し、流水で5分間洗浄した。
【0121】
続いて、シリコン基板を、リボンヒータが設置された電解研磨SUS316L製チャンバー(容量1000mL)内に入れた。その後、チャンバー内を窒素気流(20mL/min)下で、50℃まで昇温させた。続いて、窒素でフッ素ガスを0.5vol%に希釈した第1処理ガスをチャンバー内に流し、シリコン基板のフッ素化処理を行った。処理時間は1分間とした。
【0122】
次に、チャンバー内を窒素に真空置換した。更に、窒素でNHガスを1.0vol%に希釈した第2処理ガスをチャンバー内に流し、NH基導入処理を行った。処理時間は1時間とした。その後、チャンバー内を窒素に真空置換し、窒素気流(20mL/min)の下、室温まで放冷して、NH基導入処理したシリコン基板を作製した。
【0123】
<固定化物の作製:シリコン基板と炭素材料の分散液との接触>
NH基導入処理したシリコン基板を、フッ素化した単層カーボンナノチューブがイソプロピルアルコール中に分散した分散液(10ml)に、室温で浸漬させた。また、浸漬時間は60分間とした。その後、シリコン基板を取り出し、イソプロピルアルコールにて洗浄し、温度19℃の窒素ブローで乾燥して、シリコン基板表面に単層カーボンナノチューブが固定化した固定化物を作製した。
【0124】
(比較例1)
本比較例においては、フッ素化処理及びNH基導入処理を行っていないPET樹脂フィルムを用いた。それ以外は、前記実施例1と同様にして、前記PET樹脂フィルムと、フッ素化処理した単層カーボンナノチューブの分散液との接触を行った。
【0125】
(比較例2)
本比較例においては、フッ素化処理及びNH基導入処理を行っていないPET樹脂フィルムを用いた。それ以外は、実施例2と同様にして、前記PET樹脂フィルムと、NH基導入処理した単層カーボンナノチューブの分散液との接触を行った。
【0126】
(比較例3)
本比較例においては、PET樹脂フィルム及び単層カーボンナノチューブとして、それぞれフッ素化処理及びNH基導入処理を行っていないものを用いた。また、フッ素化処理及びNH基導入処理を行っていない単層カーボンナノチューブの分散液については、単層カーボンナノチューブ(1mg)を、分散媒としての純水(10g)とドデシル硫酸ナトリウム(0.2g、和光純薬工業株式会社製)の混合溶液に入れ、超音波照射を、42kHz、135Wで2時間行い、これにより当該単層カーボンナノチューブが分散する分散液を調製した。それ以外は、実施例1と同様にして、前記PET樹脂フィルムと、単層カーボンナノチューブの分散液との接触を行った。
【0127】
(比較例4)
本比較例においては、単層カーボンナノチューブとして、フッ素化処理及びNH基導入処理を行っていないものを用いた。また、単層カーボンナノチューブ及びその分散液については、比較例3で調製したものを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、前記PET樹脂フィルムと、比較例3で調製した単層カーボンナノチューブの分散液との接触を行った。
【0128】
(比較例5)
本比較例においては、実施例1と同様の方法で作製したPET樹脂フィルムを用いた。それ以外は、実施例2と同様にして、前記PET樹脂フィルムと、NH基導入処理した単層カーボンナノチューブの分散液との接触を行った。
【0129】
(比較例6)
本比較例においては、実施例2と同様の方法で作製したPET樹脂フィルムを用いた。また、単層カーボンナノチューブ及びその分散液については、比較例3で調製したものを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、前記PET樹脂フィルムと、比較例3で調製した単層カーボンナノチューブの分散液との接触を行った。
【0130】
(比較例7)
本比較例においては、実施例2と同様の方法で作製したPET樹脂フィルムを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、前記PET樹脂フィルムと、フッ素化処理した単層カーボンナノチューブの分散液との接触を行った。
【0131】
(元素分析)
実施例1で作製したフッ素化処理及びNH基導入処理後のPET樹脂フィルム、実施例2で作製したフッ素化処理後のPET樹脂フィルム、並びに実施例6で作製したフッ素化処理及びNH基導入処理後のシリコン基板について、それぞれX線光電子分光法(アルバック・ファイ株式会社製、商品名;PHI5000 VersaProbe II)を用いて元素分析を行った。
【0132】
また、実施例1及び6で作製したフッ素化処理後の単層カーボンナノチューブ、並びに実施例2で作製したNH基導入処理後の単層カーボンナノチューブについても、それぞれ前記と同様にして元素分析を行った。
【0133】
その結果、実施例1のPET樹脂フィルムにはアミノ基としての窒素が7.3at%検出され、単層カーボンナノチューブには27.1at%のフッ素が検出された。実施例2で作製したPET樹脂フィルムには35.6at%のフッ素が検出され、単層カーボンナノチューブにはアミノ基としての窒素が1.7at%検出された。実施例6で作製したシリコン基板にはアミノ基としての窒素が8.6at%検出された。
【0134】
(光透過率)
実施例1~5で得られた固定化物、並びに比較例1~7で処理して得たPET樹脂フィルムのそれぞれについて、分光光度計(日本分光株式会社製、型番:V-670)を用いて550nmにおける光透過率を測定した。実施例1の固定化物は85.3%であり、実施例2の固定化物は85.1%であり、実施例3の固定化物は85.1%であり、実施例4の固定化物は83.2%であり、実施例5の固定化物は85.0%であった。また、比較例1~7で調製したPET樹脂フィルムの光透過率はいずれも85.9%であり、単層カーボンナノチューブが固定化されていないことが確認された。尚、単層カーボンナノチューブを固定化する前のPET樹脂フィルムは85.9%であった。
【0135】
(表面抵抗率)
実施例1~6に係る固定化物、及び比較例1~7で処理して得たPET樹脂フィルムをそれぞれ縦5cm×横5cmの正方形状にカットして試料を作製した。これらの各試料表面の中央部に4探針プローブを密着させて、4探針法による表面抵抗率を測定した。また、測定装置として岩崎通信機株式会社製のデジタルマルチメータVOAC7521Aを用い、使用したプローブはアステラテック株式会社製のシート抵抗測定用4探針ケーブルSR4-Jの4探針プローブとした。その結果、実施例1の固定化物では表面抵抗率が414Ω/sq.であり、実施例2の固定化物では表面抵抗率が387Ω/sq.であり、実施例3の固定化物では表面抵抗率が64240Ω/sq.であり、実施例4の固定化物では表面抵抗率が273Ω/sq.であり、実施例5の固定化物では表面抵抗率が381Ω/sq.であり、実施例6の固定化物では表面抵抗率が66Ω/sq.であった。
【0136】
一方、比較例1~7で処理して得たPET樹脂フィルムについては、それらの表面抵抗率の測定値が測定レンジ2×10Ω/sq.を超えており、単層カーボンナノチューブが固定化されていないことが確認された。
【0137】
尚、単層カーボンナノチューブを固定化する前のPET樹脂フィルム及びシリコン基板については、それらの表面抵抗率の測定値がそれぞれ測定レンジ2×10Ω/sq.を超えた。
【0138】
(固定化評価)
実施例1~6で得られた固定化物及び比較例1~7で処理して得られたPET樹脂フィルムのそれぞれについて、JIS Z 1522:2009に規定されたセロハン粘着テープを用いて、JIS Z 0237:2009に準拠した粘着テープ・粘着シート試験方法により、当該セロハン粘着テープの貼り付け及び引き剥がしを行った。
【0139】
次に、実施例1~5の固定化物のそれぞれについて、セロハン粘着テープの引き剥がし後の光透過率を、前述と同様にして測定した。その結果、実施例1では光透過率が85.3%、実施例2では85.1%、実施例3では85.1%、実施例4では83.2%、実施例5では85.0%であった。セロハン粘着テープを貼り付ける前の実施例1~5の固定化物の光透過率は、前述の通り、それぞれ85.9%であったので、それぞれの光透過率に変化は見られなかった。
【0140】
また、実施例1~6の固定化物のそれぞれについて、セロハン粘着テープの引き剥がし後の表面抵抗率の測定も行った。その結果、実施例1では表面抵抗率が419Ω/sq.であり、実施例2では384Ω/sq.であり、実施例3では65130Ω/sq.であり、実施例4では280Ω/sq.であり、実施例5では387Ω/sq.であり、実施例63では73Ω/sq.であった。セロハン粘着テープを貼り付ける前の実施例1~63の固定化物の表面抵抗率は、前述の通り、それぞれ414Ω/sq.、387Ω/sq.、64240Ω/sq.、273Ω/sq.、381Ω/sq.、66Ω/sq.であったので、それぞれの表面抵抗率に大きな変化は見られなかった。
【0141】
さらに、比較例1~7のPET樹脂フィルムについても、前記と同様に、セロハン粘着テープの引き剥がし後の光透過率及び表面抵抗率についてそれぞれ測定した。その結果、光透過率はいずれも85.9%であり、表面抵抗率は測定値が測定レンジ2×10Ω/sq.を超えた。
【0142】
以上の結果から、実施例1~6の固定化物については、セロハン粘着テープの剥離後においても、単層カーボンナノチューブが当該セロハン粘着テープに引き剥がされることなく、PET樹脂フィルム又はシリコン基板表面に固定化されているものと推測される。
【符号の説明】
【0143】
10 固定化物
11 カーボンナノチューブ(炭素材料)
12 基材
A 置換基
B 置換基
B’結合基
図1
図2