(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】センサヘッドモジュール及び磁気センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 33/02 20060101AFI20220113BHJP
【FI】
G01R33/02 D
(21)【出願番号】P 2017185416
(22)【出願日】2017-09-26
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】517205767
【氏名又は名称】笹田磁気計測研究所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】笹田 一郎
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-197401(JP,A)
【文献】特開2003-215220(JP,A)
【文献】特開2014-029323(JP,A)
【文献】特開昭60-057277(JP,A)
【文献】特開昭52-141275(JP,A)
【文献】特開2013-057645(JP,A)
【文献】特開平05-264682(JP,A)
【文献】特開2002-022814(JP,A)
【文献】実開昭48-014275(JP,U)
【文献】米国特許第04290018(US,A)
【文献】特開2015-055543(JP,A)
【文献】国際公開第2015/060344(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 33/00-33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流及びバイアス直流電流からなる励磁電流が入力される磁気コア、及び当該磁気コアに巻回される検出コイルからなるセンサヘッドと、
前記磁気コアに接続され、直流電源により前記励磁電流におけるバイアス直流電流を生成する直流励磁電流生成手段とを備え
、
前記直流励磁電流生成手段が、直流電源の正極と磁気コアの一端部とが接続され、直流電源の負極と磁気コアの他端部とが接続され、直流電源の正極と磁気コアの一端部との間に第1コイルを有することを特徴とするセンサヘッドモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサヘッドモジュールにおいて、
直流電源の負極と磁気コアの他端部との間に、第1コイルに磁気結合する第2コイルを有しているセンサヘッドモジュール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセンサヘッドモジュールに
対して、少なくとも交流電流からなる励磁電流を供給する駆動回路を備え、
当該駆動回路が、前記センサヘッドモジュールに対して、交流電流及びバイアス直流電流からなる励磁電流を供給し、
前記センサヘッドモジュールが、前記励磁電流から交流成分のみを抽出する交流成分抽出手段を備える磁界センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基本波型磁界センサのセンサヘッドモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
基本波型直交フラックスゲートセンサの構成が、例えば特許文献1に開示されている。
図20は、特許文献1に開示されている基本波型直交フラックスゲートセンサの構成を示す図である。
図20において、磁気コアに通電する交流励磁電流I
acに交流励磁電流I
acの振幅より大きな直流電流I
dcを重畳することで、検出コイルの出力が交流励磁周波数f[Hz]と同じ基本波の出力が得られる基本波型直交フラックスゲート磁力計を構成しており、この基本波型直交フラックスゲート磁力計は、センサヘッドとして、アモルファス磁性ワイヤをヘアピン状に曲げたU字型の磁気コアと、磁気コアを包むように配置された中空細径の検出コイルとからなる。
【0003】
また、
図20の基本波型直交フラックスゲート磁力計は、負帰還型で実現する基本構成として、検出コイルの端子にコンデンサCを介して後段に接続され、入力信号を増幅する前置増幅器(preamp:プリアンプ)と、プリアンプの後段に接続され、入力信号に対して交流励磁周波数f[Hz]を同期パルスとして同期整流を行う同期整流器(phase-sensitive detection:PSD)と、同期整流器の後段に接続され、高域を除去する低域通過フィルタ(low-pass filter:ローパスフィルタ)と、反転入力端子(-入力端子、マイナス端子)が低域通過フィルタの後段に接続され、出力端子が抵抗Rfを介して検出コイルの端子に接続される誤差増幅器とを備える構成となっている。
【0004】
さらに、センサヘッドのコアに磁性薄帯を用いた直交フラックスゲート磁界センサが非特許文献1に開示されている。ここでは、代表的なCo基無磁歪組成のアモルファス磁性薄帯であるMetglas2714A(参考文献:Metgals Technical Bulletin ref:2714A04202011)のas-cast製品(製造後に磁気特性改質のために熱処理等を施してない製品)をセンサヘッドのコアに用いることで、高感度・低雑音の磁界センサ特性が実現されている。
【0005】
特許文献1及び非特許文献1に示すそれぞれの技術は、例えば
図21に示すように、励磁、検出、出力・増幅等の機能を有する電子回路が駆動・検出回路に標準化されてまとめられ、駆動・検出回路とセンサヘッドとをシールドケーブルで接続する構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】K.Goleman and I.Sasada, “High Sensitive Orthogonal Fluxgate Magnetometer Using a Metglas Ribbon”, IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL.42, NO.10, OCTOBER 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、
図21のような構成とした場合、センサヘッドの特性に応じて、励磁や検出に関するパラメータを調整する必要があり、例えば、特許文献1に示す磁性ワイヤのセンサヘッドと、非特許文献1に示す磁性薄帯のセンサヘッドでは、バイアス直流電流に大きな違いがあり、これらのセンサヘッドを使い分ける又は交換する場合には、それぞれに適応する駆動・検出回路を用意するか、それぞれのセンサヘッドに応じて駆動・検出回路側で個別にパラメータを調整することとなる。
【0009】
それぞれのセンサヘッドに適応する駆動・検出回路を用意するのはあまりにも無駄が多すぎるため、実用的ではない。また、それぞれのセンサヘッドに応じてパラメータを調整する場合には、例えば心磁界計測のような何十チャンネルものセンサを必要とする場合に、それらのチャンネルの中から、励磁や検出の調整が必要な箇所を選択し調整しなければならず、非常に手間が掛かる作業になってしまう。
【0010】
本発明は、センサヘッドに励磁や検出に関するパラメータを調整する機能を付加してモジュール化することで、駆動・検出回路におけるセンサヘッドごとのパラメータ調整をなくして使い勝手を向上させることができるセンサヘッドモジュールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るセンサヘッドモジュールは、交流電流及びバイアス直流電流からなる励磁電流が入力される磁気コア、及び当該磁気コアに巻回される検出コイルからなるセンサヘッドと、前記磁気コアに接続され、直流電源により前記励磁電流におけるバイアス直流電流を生成する直流励磁電流生成手段とを備えるものである。
【0012】
このように、本発明に係るセンサヘッドモジュールにおいては、交流電流及びバイアス直流電流からなる励磁電流が入力される磁気コア、及び当該磁気コアに巻回される検出コイルからなるセンサヘッドと、前記磁気コアに接続され、直流電源により前記励磁電流におけるバイアス直流電流を生成する直流励磁電流生成手段とを備えるため、センサヘッドごとの特性に応じたバイアス直流電流をセンサヘッドモジュールで個々に調整することができ、センサヘッドの交換に掛かる手間を最小限に抑え、作業効率を格段に向上させることができるという効果を奏する。
【0013】
本発明に係るセンサヘッドモジュールは、前記磁気コアに接続され、前記励磁電流における交流電流について位相調整及び/又は増幅して交流励磁電流を生成する交流励磁電流生成手段を備えるものである。
【0014】
このように、本発明に係るセンサヘッドモジュールにおいては、励磁電流における交流電流について位相調整及び/又は増幅して交流励磁電流を生成する交流励磁電流生成手段を備えるため、センサヘッドごとの特性に応じた交流励磁電流のパラメータをセンサヘッドモジュールで個々に調整することができ、センサヘッドの交換に掛かる手間を最小限に抑え、作業効率を格段に向上させることができるという効果を奏する。
【0015】
本発明に係るセンサヘッドモジュールは、前記磁気コアに通電される前記励磁電流の通電方向を切り替える切替手段を備えるものである。
【0016】
このように、本発明に係るセンサヘッドモジュールにおいては、磁気コアに通電される励磁電流の通電方向を切り替える切替手段を備えることで、励磁電流の通電方向に応じて異なるオフセット値を優位な方向に切り替えて使用することができるという効果を奏する。
【0017】
すなわち、磁気コアに通電される励磁電流の通電方向に応じてオフセット値が異なることが発明者により見出されたが、センサヘッドの外観からはその判断をつけることが不可能である。そのため、切替手段により実際に励磁電流の通電方向を切り替えてキャリブレーションすることで、より高性能なセンシングが可能となるように通電方向を設定することが可能となる。
【0018】
本発明に係るセンサヘッドモジュールは、前記切替手段が前記励磁電流の通電方向を切り替えて測定したそれぞれの結果に基づいて、前記切替手段の接続関係を制御する制御手段を備えるものである。
【0019】
このように、本発明に係るセンサヘッドモジュールにおいては、切替手段が励磁電流の通電方向を切り替えて測定したそれぞれの結果に基づいて、当該切替手段の接続関係を制御する制御手段を備えるため、磁気コアに流れる励磁電流の通電方向に応じて異なるオフセット値を優位な方向に自動で切り替えて使用することができ、キャリブレーションの手間を省くことができるという効果を奏する。
【0020】
本発明に係るセンサヘッドモジュールは、前記直流励磁電流生成手段の直流電源を電池とするものである。
【0021】
このように、本発明に係るセンサヘッドモジュールにおいては、直流励磁電流生成手段で生成するバイアス直流電流を電池により行うことで、電源が完全に独立したものとなり、不要なノイズや外乱を抑えて、より高性能なセンシングを実現することができるという効果を奏する。
【0022】
本発明に係るセンサヘッドモジュールは、前記センサヘッドが複数配設され、それぞれのセンサヘッドの磁気コアに対応して前記交流励磁電流生成手段が接続されており、直流励磁電流生成手段が、複数の前記センサヘッドのうちの全て又は一部の磁気コアに対して、直列又は並列に接続されているものである。
【0023】
このように、本発明に係るセンサヘッドモジュールにおいては、センサヘッドが複数配設され、それぞれのセンサヘッドの磁気コアに対応して前記交流励磁電流生成手段が接続されており、直流励磁電流生成手段が、複数の前記センサヘッドのうちの全て又は一部の磁気コアに対して、直列又は並列に接続されているため、例えば心磁界計測のような何十チャンネルものセンサを必要とする場合であっても、直流励磁電流生成手段をセンサの数に応じて用意する必要がなく、少なくとも1つの直流電源があれば複数のセンサヘッドに対してバイアス直流電流を供給することが可能になるという効果を奏する。
【0024】
本発明に係るセンサヘッドモジュールは、直流励磁電流生成手段が、直流電源の正極と磁気コアの一端部とが接続され、直流電源の負極と磁気コアの他端部とが接続され、直流電源の正極と磁気コアの一端部との間に第1コイルを有するものである。
【0025】
このように、本発明に係るセンサヘッドモジュールにおいては、直流励磁電流生成手段が、直流電源の正極と磁気コアの一端部とが接続され、直流電源の負極と磁気コアの他端部とが接続され、直流電源の正極と磁気コアの一端部との間に第1コイルを有するため、直流励磁電流生成手段におけるインピーダンスを大きくして、交流電流の流れ込みによる検出精度の低下を防止することができるという効果を奏する。
【0026】
本発明に係るセンサヘッドモジュールは、直流電源の負極と磁気コアの他端部との間に、第1コイルに磁気結合する第2コイルを有しているものである。
【0027】
このように、本発明に係るセンサヘッドモジュールにおいては、直流電源の負極と磁気コアの他端部との間に、第1コイルに磁気結合する第2コイルを有しているため、第1コイルと第2コイルの磁気結合により大きなインピーダンスを得ることができ、直流励磁電流生成手段への交流電流の流れ込みを防止し、交流電流を磁気コアの部分のみに流れるようにすることができるという効果を奏する。
【0028】
本発明に係るセンサヘッドモジュールは、前記検出コイルの後段に接続されるバッファ回路と、前記検出コイルで検出された信号を測定する場合に、前記バッファ回路を介して前記検出コイルと接続する負帰還回路により帰還する電流を入力する帰還電流入力端子とを備えるものである。
【0029】
このように、本発明に係るセンサヘッドモジュールにおいては、検出コイルの後段に接続されるバッファ回路を備えるため、検出信号に対する耐雑音性、耐外乱性等を高めることができるという効果を奏する。
本発明に係る磁界センサは、前記のいずれかに記載のセンサヘッドモジュールに対して、少なくとも交流電流からなる励磁電流を供給する駆動回路を備えるものである。
【0030】
このように、本発明に係る磁界センサは、前記のいずれかに記載のセンサヘッドモジュールに対して、少なくとも交流電流からなる励磁電流を供給する駆動回路を備えるため、駆動回路から交流電流を供給し、センサヘッドモジュールでバイアス直流電流を供給して、高性能な磁界センサを実現することができるという効果を奏する。
【0031】
本発明に係る磁界センサは、前記駆動回路が、前記センサヘッドモジュールに対して、交流電流及びバイアス直流電流からなる励磁電流を供給し、前記センサヘッドモジュールが、前記励磁電流から交流成分のみを抽出する交流成分抽出手段を備えるものである。
【0032】
このように、本発明に係る磁界センサは、前記駆動回路が、前記センサヘッドモジュールに対して、交流電流及びバイアス直流電流からなる励磁電流を供給し、前記センサヘッドモジュールが、前記励磁電流から交流成分のみを抽出する交流成分抽出手段を備えるため、駆動回路から供給される電流のうち、交流成分のみをセンサヘッドモジュールで抽出し、位相調整することができ、センサヘッドのみを手間を掛けずに交換することが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】第1の実施形態に係る磁界センサの構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る磁界センサの駆動部の回路構成図である。
【
図3】第1の実施形態に係るセンサヘッドモジュールの回路構成図である。
【
図4】第2の実施形態に係る磁界センサの構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】第2の実施形態に係るセンサヘッドモジュールの回路構成図である。
【
図6】励磁電流の極性に応じたオフセットの差を示し図である。
【
図7】第3の実施形態に係るセンサヘッドモジュールの第1の回路構成図である。
【
図8】第3の実施形態に係るセンサヘッドモジュールの第2の回路構成図である。
【
図9】第4の実施形態に係る磁界センサの駆動部の第1の回路構成図である。
【
図10】第4の実施形態に係るセンサヘッドモジュールの第1の回路構成図である。
【
図11】第4の実施形態に係るセンサヘッドモジュールの第2の回路構成図である。
【
図12】第4の実施形態に係るセンサヘッドモジュールの第3の回路構成図である。
【
図13】第4の実施形態に係るセンサヘッドモジュールの第4の回路構成図である。
【
図14】第4の実施形態に係るセンサヘッドモジュールの第5の回路構成図である。
【
図15】第4の実施形態に係る磁界センサの駆動部の第2の回路構成図である。
【
図16】その他の実施形態に係るセンサヘッドモジュールの回路構成図である。
【
図17】実施例において、バイアス直流電流を変化させた場合の雑音スペクトル密度を測定した結果を示す図である。
【
図18】切替部の調整後において、バイアス直流電流の変化に対するオフセットを測定した結果を示す図である。
【
図19】比較例と本発明に係る磁界センサにおける周波数変化に対するノイズ特性を示す図である。
【
図20】従来知られている基本波型直交フラックスゲートセンサの回路構成を示す図である。
【
図21】従来知られている基本波型直交フラックスゲートセンサの装置構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を説明する。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0035】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係るセンサヘッドモジュール及び当該センサヘッドモジュールを用いた磁界センサについて、
図1ないし
図3を用いて説明する。本実施形態に係る磁界センサは、例えば、
図20に示す基本波型直交フラックスゲートセンサを利用することができ、センサヘッドの部分をモジュール化することで、センサヘッドの交換作業等を格段に効率化するものである。
【0036】
図1は、本実施形態に係る磁界センサの構成を示す機能ブロック図、
図2は、本実施形態に係る磁界センサの駆動部の回路構成図、
図3は、本実施形態に係るセンサヘッドモジュールの回路構成図である。
図1において、磁界センサ1は、駆動部10とセンサヘッドモジュール20とを備える。駆動部10は、センサヘッド23に供給される交流電流を少なくとも出力する出力部11と、センサヘッド23で測定された磁界を検出する検出部12とを備える。また、センサヘッドモジュール20は、磁界を検知するセンサヘッド23と、センサヘッド23に対してバイアス直流電流を供給する直流励磁電流生成部22とを備える。
【0037】
まず、駆動部10の構成について、
図2を用いて詳細に説明する。駆動部10における出力部11は、交流電源である発振器11aにより交流電流が出力されるが、ここで出力される交流電流はセンサヘッド23の種類や特性に合わせた位相に予め調整されているとする。また同時に、発振器11aは、検出部12の同期検波回路に対して同期信号を送信する。
【0038】
検出部12は、
図20における検出回路と同様の構成となっており、センサヘッド23の磁気コア23aに巻回された検出コイル23bの一端側に接続され、プリアンプ、同期整流器、ローパスフィルタ、及び誤差増幅器を有して負帰還回路を構成する。センサヘッド23からの検出コイルの出力Vは、コンデンサC、プリアンプ、同期整流器、ローパスフィルタを通じて、出力Vに応じた所定電圧となって誤差増幅器に送られる。その後、誤差増幅器への入力が0になるように、帰還抵抗Rfを通して帰還電流ifが検出コイル23bに流れる。このときに帰還抵抗Rfに生じる電圧がセンサ出力Vを与える。
【0039】
次に、センサヘッドモジュール20の構成について、
図3を用いて詳細に説明する。センサヘッドモジュール20は、上述したように、センサヘッド23と、直流励磁電流生成部22とを備える。
【0040】
センサヘッド23は、磁気コア23aと、当該磁気コア23aの周囲を包むように、その延在方向(Z軸線)回りに巻回される検出コイル23bとからなる。磁気コア23aは、例えば、U字型(又はヘアピン型)やW型に形成された磁性ワイヤや磁性薄帯により構成されており、検出コイル23bは、例えば、巻き数を1000ターン程度とされる。
【0041】
なお、磁気コア23aは、U字型やW型以外にI字型(棒状)であってもよい。その場合、折り返し部分を導線などの配線で構成するようにしてもよい。また、磁気コア23aに用いる材料は、例えば、磁気歪みが小さい、Co基無磁歪組成のアモルファス磁性薄帯又はワイヤやパーマロイ薄帯又はワイヤ等を用いるようにしてもよい。
【0042】
直流励磁電流生成部22は、直流電源としての電池22aと、当該電池22aの電圧により流れるバイアス直流電流を調整する可変抵抗器22bと、駆動部10からの交流電流の流れ込みを防止するためのインダクタとしてコイル22cとを備える。コイル22cのインダクタンスは、例えば、1mH程度以上であればよい。
【0043】
なお、バイアス直流電流idc2について、例えば直径が120μm程度のコバルト系アモルファス磁性ワイヤコアの場合は40mA前後の値、幅1mmで厚さ20μm程度のコバルト系アモルファス磁性薄帯コアの場合は200mA前後の値となる。
【0044】
また、
図3においては、直流電源として電池22aを記載しているが、電池に限る必要はなく、交流電流を直流電流に変換して供給するようにしてもよい。電池を充電式電池とし、交流電源との接続による雑音の増加を防ぐために、センサ稼働時には交流電源との接続を切り離すようにしてもよい。
【0045】
以上のような構成により、センサヘッド23の特性に応じて調整が必要となるバイアス直流電流の生成部をセンサヘッドモジュール20に一体的に備える構成とすることで、異なる特性のセンサヘッド23に交換する場合に、駆動部10での調整が一切必要なく、センサヘッドモジュール20のみで調整を行うことが可能となるため、作業者の負担を格段に低減することが可能となる。特に、心磁界計測のような何十チャンネルものセンサを必要とする場合には、効果が絶大となる。また、バイアス直流電流を、交流電源から独立した直流用の電源を用いて通電することで、不必要なノイズを排除することができる。
【0046】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係るセンサヘッドモジュール及び当該センサヘッドモジュールを用いた磁界センサについて、
図4及び
図5を用いて説明する。本実施形態に係る磁界センサは、前記第1の実施形態に係るセンサヘッドモジュールに、さらに交流励磁電流を調整する機能を備えたものである。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0047】
図4は、本実施形態に係る磁界センサの構成を示す機能ブロック図、
図5は、本実施形態に係るセンサヘッドモジュールの回路構成図である。なお、本実施形態において、駆動部10の回路構成は、前記第1の実施形態における
図2の場合と同じであるが、ここで出力される交流電流は、センサヘッド23の種類や特性に依らず任意の位相で出力される。
【0048】
図4において、前記第1の実施形態における
図1の場合と異なるのは、センサヘッドモジュール20が、駆動部10の出力部11から出力された交流電流に対して、位相調整や増幅を行ってセンサヘッド23に交流励磁電流を供給する交流励磁電流生成部21備えることである。
【0049】
この交流励磁電流生成部21は、駆動部10から発振された交流電流iac1の位相をセンサヘッド23の特性に合わせて位相調整する位相調整回路21aと、位相調整された当該交流電流を増幅して交流励磁電流iac2を出力する増幅回路21bとを備える。位相調整回路21aとしては、例えば、電池駆動に適する±2.5V程度の低電圧源で動作する演算増幅器(オペアンプ)を使用するようにしてもよい。また、増幅回路21bとしては、電流供給能力が高いオペアンプを用いることができる。
【0050】
なお、交流励磁電流として、例えば100kHz程度の周波数が用いられた場合は、センサヘッド23の磁気コア23aと増幅回路21bとの間に挿入されるコンデンサ21cは、1μF以上であればよい。このコンデンサ21cにかかる電圧は高々数百ミリボルト程度であるので、汎用のセラミックスコンデンサで実現することができる。
【0051】
以上のような構成により、センサヘッド23の特性に応じて調整が必要となる交流励磁電流の生成部をセンサヘッドモジュール20に一体的に備える構成とすることで、異なる特性のセンサヘッド23に交換する場合に、駆動部10での調整が一切必要なく、センサヘッドモジュール20のみで調整を行うことが可能となるため、作業者の負担を格段に低減することが可能となる。特に、心磁界計測のような何十チャンネルものセンサを必要とする場合には、効果が絶大となる。
【0052】
(本発明の第3の実施形態)
本実施形態に係るセンサヘッドモジュール及び当該センサヘッドモジュールを用いた磁界センサについて、
図6ないし
図8を用いて説明する。本実施形態に係る磁界センサは、前記第1の実施形態に係るセンサヘッドモジュールを改良したものである、励磁電流(idc+iac)の通電方向を切り替える切替手段を有することで、センサのオフセットを下げて(場合によっては0にすることで)より高性能な磁界センサを実現する。なお、本実施形態において前記各実施形態と重複する説明は省略する。
【0053】
発明者の実験により、磁気コア23aの両端部に接続する励磁電流の通電方向、すなわち、磁気コア23aの幅方向に対してどちら向きに直流バイアス磁界を印加するかでオフセットが異なることが見出された。このときの実験結果のグラフの一例を
図6に示す。
図6の実験は、Metaglas2714Aの幅1mmの磁性薄帯を用いたセンサヘッド(長さ40mm)を磁気シールド内に設置し、100kHz、実効値24mAの交流電流で励磁した場合の出力が、バイアス直流電流の大きさでどのように変化するかを調べたものである。
図6に示すように、バイアス直流電流の極性に応じてオフセットに大きな違いがあることを確認することができる。
【0054】
なお、中心軸近傍でグラフが抜けているのは、基本波型直交フラックスゲートとなる条件である|idc|>iacに当てはまらない領域である。
【0055】
図6の実験結果に示すように、バイアス直流電流の極性の違いでオフセット値に大きな差が出る理由としては、磁気コア23aの磁気異方性が場所ごとに少なからず分散しており、保磁力も微視的に見れば場所ごとに揺らいでおり、幅方向の一方向に磁化する場合とその反対方向に磁化する場合とで磁気ヒステリシスがあるため全ての磁化は互いに180°反転した関係にはならない。つまり、完全な対称性がないためである。したがって、バイアス直流電流の極性によってオフセットの発現が異なるものとなっている。
【0056】
なお、
図6に示す実験以外にも、他の条件(例えば、磁気コア23aをワイヤにした場合や長さを変えたような場合等)であっても、同様にバイアス直流電流の極性に応じてオフセットの発現が異なることが確認されている。
【0057】
このような実験結果から、本実施形態で用いるセンサヘッド23のオフセットは、バイアス直流電流の極性により性質が異なることは明確となったが、センサヘッド23の外観から、よりオフセットが小さくなるような極性を識別することは不可能である。そこで、本実施形態においては、磁気コア23aに通電される励磁電流の通電方向を切り替える切替手段を設け、キャリブレーションにおいて、それぞれの通電方向で実際にセンシングした結果に応じてよりオフセットが小さくなるような通電方向を決定する。
【0058】
図7は、本実施形態に係るセンサヘッドモジュール20の第1の回路構成図である。
図7に示すように、直流励磁電流生成部22及び交流励磁電流生成部21と、磁気コア23aとの間に切替部24を備える。切替部24は、スイッチ24a及びスイッチ24bからなり、それぞれのスイッチ24a及び24bは、双方とも接点(1)に接続するか接点(2)に接続するかが切り替わる構成となっている。接点(1)に接続した場合は、磁気コア23aに対して励磁電流idc+iacが流れ、接点(2)に接続した場合は、磁気コア23aに対して励磁電流-(idc+iac)が流れる。
【0059】
キャリブレーションの際に、スイッチ24a及びスイッチ24bが、それぞれ接点(1)に接続した場合と、接点(2)に接続した場合とでオフセットを測定し、より小さいオフセットとなる接点に接続することで、高性能な磁界センサを実現することが可能となる。
【0060】
図8は、本実施形態に係るセンサヘッドモジュール20の第2の回路構成図である。ここでは、
図7の回路構成に加えて、切替部24を制御するための切替制御部25を備える。切替制御部25は、キャリブレーションの際に、スイッチ24a及びスイッチ24bが、それぞれ接点(1)に接続した場合と、接点(2)に接続した場合とでオフセットを測定した結果を駆動部10から取得し、オフセットがより小さくなる方の接点にスイッチ24a及びスイッチ24bが接続するようにスイッチ24a及びスイッチ24bの動作を制御する。こうすることで、キャリブレーションにおける切替部24の制御を自動で行うことが可能となる、利用者の手間を削減することができる。
【0061】
なお、本実施形態においては、センサヘッドモジュール20が交流励磁電流生成部21を備えない構成としてもよい。
【0062】
(本発明の第4の実施形態)
本実施形態に係るセンサヘッドモジュール及び当該センサヘッドモジュールを用いた磁界センサについて、
図9ないし
図15を用いて説明する。なお、本実施形態において、前記各実施形態と重複する説明は省略する。
【0063】
図9は、本実施形態に係る磁界センサの駆動部の第1の回路構成図、
図10は、本実施形態に係るセンサヘッドモジュールの回路構成を示す第1の図である。
図9に示すように、ここでは、駆動部10において、加算器により直流成分+交流成分の電流が生成され、この
図9の駆動部に適応するセンサヘッドモジュール20の構成を
図10に示している。すなわち、
図9に示すように、直流成分+交流成分の電流を出力するような駆動部10を用いた場合には、
図10のセンサヘッドモジュール20側で交流成分のみを抽出して交流励磁電流とする必要がある。そのため、
図10においては、位相調整回路21aの前段の駆動部10との間に、当該駆動部10から供給される直流成分+交流成分の電流のうち、交流成分の電流のみを抽出する交流成分抽出回路21dを備える構成となっている。
【0064】
つまり、
図10に示すようなセンサヘッドモジュールの構成とすることで、駆動部10が、
図9に示すように直流成分+交流成分の電流が供給される場合であっても、駆動部10の構造に依存することなく、センサヘッドモジュール20内だけでセンサヘッド23の特性に合わせたパラメータの設定を行うことが可能になる。
【0065】
なお、交流成分抽出回路21dは、駆動部10の構造に応じて選択的に接続できる構成としてもよい。すなわち、駆動部10が
図2に示すように交流成分の電流のみを供給する場合は、
図5の回路構成となるように端子を接続し、駆動部10が
図9に示すように直流成分+交流成分の電流を供給する場合は、
図10の回路構成となるように端子を接続できるように選択的な構造としてもよい。
【0066】
図11は、本実施形態に係るセンサヘッドモジュールの回路構成を示す第2の図である。
図11において、交流励磁電流生成部21の構成は、
図5の構成でも
図10の構成でもいずれでもよく、直流励磁電流生成部22において、コイル22cに磁気結合するようにコイル22dを備える構成となっている。
【0067】
すなわち、電池22aの正極側と磁気コア23aとの間に直列に接続されているコイル22cにより、交流励磁電流iac2の流れ込みを防止するが、さらに、電池22aの負極側と磁気コア23aとの間にコイル22cに磁気結合するコイル22dを直列に接続して配設することで、より大きなインピーダンスを得ることができ、交流電流の流れ込みをより確実に防止することが可能となる。
【0068】
図12及び
図13は、本実施形態に係るセンサヘッドモジュールの回路構成を示す第3、第4の図である。
図12及び
図13に示すセンサヘッドモジュール20は、
図11に示すセンサヘッドモジュール20を複数備える構成(センサヘッドモジュール20-1~20-n)となっているが、直流励磁電流の電源となる電池22aについては、単一となっており、各センサヘッドモジュール20-1~20-nに共通の接続になっている。
図12の場合は、複数の各センサヘッドモジュール20-1~20-nに対して、電池22aが直列に接続されており、
図13の場合は、複数の各センサヘッドモジュール20-1~20-nに対して、電池22aが並列に接続されている。
【0069】
上述したように、例えば心磁界計測を行う場合には、何十チャンネルものセンサを必要としており、センサヘッドモジュール20を複数まとめて交換することが生じる。このような場合であっても、
図12又は
図13に示すようなセンサヘッドモジュール20の構造とすることで、複数のセンサヘッドをまとめて交換することが可能になると共に、励磁用のバイアス直流電流源を一つに共通化することができるため、非常にコンパクトにまとめることができる。
【0070】
なお、
図12及び
図13において、複数のセンサヘッドモジュール20に対して、単一の電池22aを配設する構成としているが、電池22aは単一である必要はなく複数であってもよい。すなわち、センサヘッドモジュール20と電池22aとがそれぞれ1対1で対応付けて配設される必要はない。
【0071】
図14は、本実施形態に係るセンサヘッドモジュールの回路構成を示す第5の図、
図15は、本実施形態に係る磁界センサの駆動部の第2の回路構成図である。
図14に示すように、ここでは、検出コイル23bの後段にバッファ回路26を備えている。バッファ回路26を備えることで出力インピーダンスを下げ、検出コイル23bで検出された信号への耐雑音性、耐外乱性を向上させることが可能となる。すなわち、例えば駆動部10とセンサヘッドモジュール20との間のケーブルを長く伸延するような場合(例えば、ケーブル長を10m程度にする場合)などに効果的である。
【0072】
また、バッファ回路26を備えることにより、検出部12から帰還する帰還電流ifを入力するための端子(c2)を備える構成となっている。これは、センサヘッドモジュール20を
図14のような構成にした場合に、検出部12からのフィードバック電流のみを直接検出コイル23bに加えるためである。
【0073】
一方、駆動部10の回路構成においては、
図15に示すように、
図14の回路構成に合わせて端子(c2)を分離する構成となっている。このように、検出部12からのフィードバック電流のみを直接検出コイル23bに加えることで、高性能な磁界センサ1を実現することが可能になる。
【0074】
なお、本実施形態においては、前記第3の実施形態において説明した切替部24を備えない構成を一例として説明したが、各回路構成において、切替部24及び/又は切替制御部25を備える構成としてもよい。
【0075】
また、本実施形態においては、センサヘッドモジュール20が交流励磁電流生成部21を備えない構成としてもよい。
【0076】
(本発明のその他の実施形態)
本実施形態に係るセンサヘッドモジュール及び当該センサヘッドモジュールを用いた磁界センサについて、
図16を用いて説明する。なお、本実施形態において、前記各実施形態と重複する説明は省略する。
【0077】
本実施形態に係る磁界センサは、基本波型直交フラックスゲートセンサを構成する2つのセンサヘッドを用いて局所磁界(勾配磁界)を検知するグラディオメータを用いた勾配磁界センサであり、それぞれのセンサヘッドの製造誤差などによる特性の差をセンサヘッドモジュールで容易に且つ高精度に調整して、極めて微小な異物などの局所磁界を高感度に検知することを可能とするものである。
【0078】
図16は、本実施形態に係るセンサヘッドモジュールの回路構成図である。ここでは、センサヘッド231及び232は、各々の磁気コア(磁気コア231a、232aの延在方向が平行となるように配置されているが、各々の磁気コアの延在方向が同軸となるように配置することもできる。
【0079】
図16において、検出コイル231bと、検出コイル232bとは、直列接続となるように各々の一端が電気配線で結線される。また、検出コイル231bの他端側が検出部12に接続されるとともに、検出コイル232bの他端側がグラウンドに接続される。また、検出コイル231bと、検出コイル232bとは、同一方向の磁界に対して生じる誘起電圧(検出電圧V1、V2)が互いに打ち消し合うように(互いの極性が逆向きとなるように)接続される。これにより、同一方向の磁界に対しては、それぞれのセンサヘッド231及び232の検出電圧V1及びV2の合成電圧(センサ出力)として、それぞれのセンサヘッドから出力される検出電圧の差分を取ったもの(V2-V1)が現れる。このようにすることで、遠方から到達してくるような一様磁界に関しては、それぞれのセンサヘッド231、232の両方で同様にピックアップされてセンサ出力には現れない。しかし、局所的な磁界に対しては、一方のセンサヘッド(例えば、センサヘッド231)でのみピックアップされるので、センサ出力として観測される。これにより、遠方から来る一様磁界的性質を持つ雑音を除去して局所磁界に関する信号を検出する事ができるようになり、局所磁界の高感度検出が可能になる。
【0080】
調整部27は、駆動部10に直列接続され、磁気コア231aに並列接続される調整コイル271a及び可変抵抗器271bからなる第1調整部271と、磁気コア232aに並列接続される調整コイル272a及び可変抵抗器272bからなる第2調整部272とを備える。第1調整部271及び第2調整部272は、それぞれ調整コイル271a及び272aを有することで、駆動部10からの交流電流に対するインピーダンスを大きくし、第1調整部271及び第2調整部272に直流電流のみが流れるように構成している。センサヘッド231、232のインピーダンスは、アモルファスワイヤの抵抗値に基づくもので、例えば10Ω程度である。したがって、調整コイル271a及び272aのインピーダンスは、その10倍以上、すなわち100Ω程度以上であることが望ましい。このとき、可変抵抗器271b及び272bの抵抗値の最大値は、1kΩ~50kΩ(すなわち、0kΩ~1kΩないし0kΩ~50kΩ程度)とすることが望ましい。
【0081】
上述したように、本実施形態に係る磁界センサにおいては、第1調整部271に通電される直流電流と、第2調整部272に通電される直流電流とを、可変抵抗器271b及び272bで調整することで、それぞれの磁気コア231a、232bに通電される直流電流量を調整し、それぞれのセンサヘッド231、232の感度調整を行うことができる。つまり、感度が高い方のセンサヘッドについては、センサヘッドモジュール20側の回路で直流電流を増やして感度を小さく、感度が低い方のセンサヘッドについては、直流電流を減らして感度を大きくするように、可変抵抗器271b及び272bを調整する。
【0082】
このような調整を行うことで、センサヘッド231、232の感度調整をセンサヘッドモジュール20内でフレキシブルに行うことが可能となる。
【0083】
なお、本実施形態においては、センサヘッドモジュール20が交流励磁電流生成部21を備えない構成としてもよい。
【実施例】
【0084】
本発明に係るセンサヘッドモジュール及び当該センサヘッドモジュールを用いた磁界センサについて、以下の実験を行った。
【0085】
(1)バイアス直流電流の調整
本発明に係るセンサヘッドモジュールを用いた磁界センサを使って、バイアス直流電流を変化させた場合の雑音スペクトル密度を測定した。磁気コア23aとしてMetglas2714A、幅1mmの薄帯を用いて、長さ30mmのセンサヘッド23を作製し、使用した。交流励磁電流は、周波数100kHzで24mA(実効値)とした。ここでは、
図9に示す駆動部10、及び
図10に示すセンサヘッドモジュール20の回路構成とした。
【0086】
図17は、バイアス直流電流を変化させた場合の雑音スペクトル密度を測定した結果を示す図である。バイアス直流電流IdcをIdc=40mA~200mA前後まで変化させ、そのうち、Idc=40mA、130mA及び200mAの場合の結果を示している。図に示すように、Idcの大きさに応じて雑音特性に差が生じており、この実験の場合はIdc=200mAにおいて、雑音特性が最も良くなっている。つまり、センサヘッドの特性に応じてIdcを調整することが非常に重要であることがわかる。
【0087】
なお、発明者らの以前の研究により、磁気コア23aとして磁性ワイヤを用いた場合は、Idc=40mA前後で雑音特性が良くなることが既に知られている。したがって、例えばセンサヘッド23に磁性ワイヤを用いたものから磁性薄帯を用いたものに交換するような場合には、本発明のように、センサヘッドモジュール20においてIdcを調整できることで、駆動部10側の回路を操作して調整する必要がなくなり、作業者の負担を格段に低減することができる。
【0088】
(2)励磁電流の極性に応じたオフセットの測定
本発明に係るセンサヘッドモジュールを用いた磁界センサを使って、磁気コア23aに通電する励磁電流の極性を変えた場合のオフセットの変化を測定した。磁気コア23aとしてMetglas2714A、幅1mmの薄帯を用いて、長さ40mmのセンサヘッド23を作製し、磁気ジールド内に配置して使用した。交流励磁電流は、周波数100kHzで24mA(実効値)とした。ここでは、
図9に示す駆動部10、及び
図7に示すセンサヘッドモジュール20の回路構成とした。
【0089】
上記磁界センサを使って、バイアス直流電流を-0.15A~0.15Aまで変化させた場合の出力結果は既に
図6に示している。
図6に示すように、負極側の電流領域と正極側の電流領域とで出力の挙動が明らかに異なっている。ここで、オフセットがより小さくなる方向に切替部24を調整し、バイアス直流電流の変化に対するオフセットを測定した結果を
図18に示す。
図18に示すように、バイアス直流電流が206mAの場合はオフセットを0になっている。これは極めて好感度な磁界センサの実現性を示している。
【0090】
なお、バイアス直流電流をこれとは逆の極性に接続した場合は、バイアス直流電流-211mAの時にオフセットが-2.03μT、バイアス電流が-120mAの時にオフセットが-2.33μTとなっており、
図18の場合の結果と比較して10倍以上の差があった。
【0091】
また、このようなオフセットの違いは、励磁電流の極性に応じて出力の特性が変わる磁性ワイヤをセンサヘッドに用いた場合でも生じるものであり、磁性ワイヤをセンサヘッドに用いた場合にも切替部の構成は非常に重要なものとなり得る。
【0092】
(3)センサヘッドのモジュール化による性能向上
本発明に係るセンサヘッドモジュールを用いた磁界センサと用いない場合とで雑音特性にどれくらいの差があるかを測定した。比較対象は、参考文献(Mattia Butta and Ichiro Sasada, “Effect of Terminations in Magnetic Wire on the Noise of Orthogonal Fluxgate Operated in Fundamental Mode”, IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL. 48, NO. 4, APRIL 2012)に記載されている磁界センサと、本発明のセンサヘッドモジュールを用いた磁界センサである。参考文献では、励磁電流の制御を全て駆動回路と同じ基板上で行っている。一方、本発明に係るセンサヘッドモジュールを用いた実験は、上記と同じ磁性ワイヤを磁気コアとする長さ30mmのセンサヘッドを用い、周波数100kHzでIac=12mA、Idc=40mAの条件で測定した。
【0093】
図19は、それぞれの磁界センサにおける周波数変化に対するノイズ特性を示す図である。
図19(A)が参考文献の磁界センサ、
図19(B)が本発明に係るセンサヘッドモジュールを用いた磁界センサの結果である。
図19に示すように、参考文献の磁界センサに比べて、本発明に係る磁界センサの方がノイズ特性が向上していることがわかる。これは、本発明においては、センサヘッドモジュール20を駆動部10から独立させると共に、センサヘッドモジュール20において、バイアス直流電流を電気的に独立した電池で生成することにより、外乱のない綺麗な直流電流を通電することができているためである。
【0094】
なお、これと同様の結果は、センサヘッドに磁性薄帯を用いた場合でも同様であり、本発明のセンサヘッドモジュールを使用することで性能向上を実現することができる。
【符号の説明】
【0095】
1 磁界センサ
10 駆動部
11 出力部
11a 発振器
12 検出部
20 センサヘッドモジュール
21 交流励磁電流生成部
21a 位相調整回路
21b 増幅回路
21c コンデンサ
21d 交流成分抽出回路
22 直流励磁電流生成部
22a 電池
22b 可変抵抗
22c,22d コイル
23 センサヘッド
23a 磁気コア
23b 検出コイル
24 切替部
24a,24b スイッチ
25 切替制御部
26 バッファ回路
27 調整部
231,232 センサヘッド
231a,232a 磁気コア
231b,232b 検出コイル
271 第1調整部
272 第2調整部
271a,272a 調整コイル
271b,272b 可変抵抗器