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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】浮体および人工湧昇流発生装置
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/00 20200101AFI20220113BHJP
   F03B 13/16 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
B63B35/00 T
F03B13/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018034386
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019147510
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】592007092
【氏名又は名称】大洋プラント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104237
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 秀昭
(74)【代理人】
【識別番号】100084261
【氏名又は名称】笹井 浩毅
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 安弘
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 輝久
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-114057(JP,A)
【文献】特開2015-190793(JP,A)
【文献】実開昭50-076273(JP,U)
【文献】特開平11-230020(JP,A)
【文献】実開昭54-173861(JP,U)
【文献】特開2003-333955(JP,A)
【文献】特開2009-165451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/00
F03B 13/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上に浮かべた状態で姿勢の鉛直性が保たれ、中心部にメインタンクが設けられ、該メインタンクの下方に複数の排水タンクが設けられた浮体において、
前記メインタンクに、その下方外部の水をメインタンク内部に取り入れる取水口と、メインタンク内部の水を前記排水タンク毎に流す複数の連通口が設けられ、
前記各排水タンクに、それぞれ排水タンク内部の水を浮体外部に排水する排水口が設けられ、
前記取水口に、水を前記メインタンク内部に取り入れるときに開き、その逆流時に閉じる逆止弁が設けられ、
前記排水口には、前記排水タンク内部の水を浮体外部に排水する時に開き、その逆流時に閉じる逆止弁が設けられ
前記取水口は、前記メインタンクの底板に下向きに開口し、その下方外部の水が、波の水粒子の円軌道運動で波の山が来る上向き時に前記メインタンク内部に向かい流入可能であり、
前記排水タンクを囲う囲い壁の裏面は、前記取水口に取り入れる水を案内する案内壁となり、該案内壁は、前記メインタンクの底板の底面より下方へ下がった位置から前記取水口に向かうことを特徴とする浮体。
【請求項2】
発電機を備え、
前記連通口に、前記メインタンク内部から前記排水タンク内部に流れる水により回転する水車が設けられ、
前記水車によって、前記発電機が駆動されることを特徴とする請求項1に記載の浮体。
【請求項3】
前記メインタンクよりも上方へ延びるダクトを兼ねる支柱の内部に、その上部から侵入した光線を遮断する螺旋状に延びる螺旋板を設けたことを特徴とする請求項1またはに記載の浮体。
【請求項4】
前記排水タンクの底面は、波形の波打ち形状であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の浮体。
【請求項5】
前記複数の排水タンクそれぞれは、浮体の中央近傍に位置する連通部によって連通していることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の浮体。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載の浮体と、
前記浮体から鉛直下方に延びて、深層水を汲み上げるための鉛直取水管と、を備え、
前記鉛直取水管に、汲み上げた深層水を前記取水口の外部周辺および/または浮体内部に放出する放出手段と、該鉛直取水管によって深層水を汲み上げるための取水ポンプと、が設けられたことを特徴とする人工湧昇流発生装置。
【請求項7】
前記浮体に設けられた風力発電機および/または水流発電機を備え、
前記取水ポンプは、前記発電機、前記風力発電機および/または水流発電機の少なくとも何れか一つが発電する電気によって駆動することを特徴とする請求項に記載の人工湧昇流発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電機を備え水上に浮かべて発電するための浮体、および該浮体を備えた人工湧昇流発生装置に関する。
特に、本発明は、波の上下動(水粒子の円軌道運動)により波力発電するもの、或は前記浮体を備え、海流、潮流等により海洋エネルギー利用発電するもの、または前記浮体を備え、該浮体上に洋上風車を搭載した洋上風力発電等の風力エネルギー利用発電するもの等のエネルギー変換分野に関する。
【0002】
さらに、本発明は、前述した動力源を用いたポンプ動力発生等動力変換分野、および海洋上に浮上、着床させて水の送水、取水、水の循環、水質浄化等による水質環境改善分野、または深層水(底層水)取水、排水、拡散等による人口湧昇流発生により、植物プランクトン増養殖、水産資源の増養殖、海域の肥沃化等、生物環境改善分野等にも関する。
【背景技術】
【0003】
従来から地球温暖化や様々な地球環境破壊等が叫ばれてきたが、これらの問題は近年になってますます大きくなっている。これらは、化石エネルギー資源の使用による二酸化炭素排出問題とも密接に関連している。その化石エネルギー資源には、枯渇問題等エネルギー資源そのものの量的問題等がある。これらの問題に対して省エネルギー、省資源が叫ばれるとともに、二酸化炭素排出のないクリーンな自然エネルギーの早期導入、早期実用化が全世界的な課題になっている。
【0004】
また、原子力発電による電気エネルギーの供給が行われているが、原子力利用に関する問題としては、原子力発電所等の原子炉の老朽化や地震、津波、天災、人災等に伴って発生し得る放射能漏れ事故がある。周知のように放射能は、生態環境への悪影響が大きく、放射能漏れ事故が発生したときには、福島原発事故等の例を見ても分かるように、地域住民の生活環境への悪影響が極めて大きく、被害も甚大になる虞がある。
【0005】
また、我が国の陸上における風力エネルギー利用装置では装置の大規模化に伴い、低周波騒音問題等の公害問題がある。国土が狭い上に山岳地帯の占める面積が大きい我が国ではこれらの問題を踏まえ、これ以上陸上では大規模な新規立地が困難な状況にあるが、早急に新たなエネルギー開発を推進しなくてはならない。そこで、騒音公害や環境公害の問題等に配慮しつつ、安全性、安定性、効率性、メンテナンス性等の点で、これまでの装置の大幅な改善と推進が緊急に求められている。
【0006】
地球は、表面積の71パーセントが海であり、我が国は四方を海に囲まれた海洋国である。また、我が国は領海および排他的経済水域の面積を入れると世界有数の大国である。従って、海を有効に利用して、海洋上に浮体式、着床式、或いは洋上風力エネルギー利用装置を設けることにより、低周波騒音等の公害問題も解決するだけでなく大規模化が可能になる。このため、原子力発電の代替エネルギーとして風力エネルギーを十分に役立たせることも可能である。
【0007】
また、離島等における風力エネルギー利用装置の開発は、陸上、洋上を問わず現在は人の住めないような無人島、例えば尖閣諸島や小笠原諸島における無人の島々への居住を可能にする。また、それらの島々を釣り場や観光地とする可能性を高めるために、さらには離島における石油等の運搬費とエネルギー資源の節約や観光、水産業等の拡大による島民の生活向上や利便性の向上、或いは国民の広域活動と都市集中型人口の分散化等を図るためにも、海を有効に利用することが有益である。
【0008】
海洋には波エネルギーや風力、太陽光、海流、潮汐等の海洋エネルギー資源が多く存在する。そこで、これらを一つの浮体に搭載した装置(特許文献1参照)によって、安価に且つ安全に効率よくエネルギー利用し、それぞれ性質の違った多種多様なエネルギー源を組み合わせ、安定エネルギー源として有効利用できるエネルギーの多様化による発電機の開発が望まれている。
【0009】
また、地球が誕生して以来46億年の年月が流れ、海底には陸地から流れ込んだ窒素、リン等の栄養塩が無尽蔵に存在する。これらを本発明に関連した浮体支持軸と鉛直取水管を併用した装置(特許文献2参照)によって、低層部の深層水(底送水)を海面上に汲み上げ、人口湧昇流による植物プランクトンを増養殖して、水産食料資源を増殖することは、発電機等の電気的技術分野や機械的および構造的技術分野を超えた大海の海洋生態系、生物環境、生物資源生産分野にまで波及する。そのため、これらを早急に開発することが社会的にも経済的にも必要であり、その第1歩として最も身近な波力発電、海流、潮流、洋上風力、並びに洋上風力エネルギー利用装置の開発が緊急に望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5688764号公報
【文献】特開2016-114057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願の出願人は、特許文献1において、水面上に浮上する浮体の傾斜面において、水の取水、排水口を設けて、波力を利用して発電する装置として波力エネルギー利用装置を提案したが、その中で波力発電機における波力(水)を取り入れる浮体、並びにその装置の構成においては、よりいっそう機構を改善、効率化することが望まれていた。
また、機構上のトラブルや海洋装置における生物付着問題、魚類、クラゲ等の混入問題、運転作業の軽減面等においても改善する余地があった。
【0012】
また、特許文献2においては、汲み上げた深層水をすぐに海域放流するために、放流した深層水の深海への沈降速度が速いという欠点があった。この欠点に対する効果的対策として、汲み上げた深層水を装置内で循環させて装置内における海洋生物の付着防止効果等を果たさせた後、循環中に表層近くの表層水との混合作用等により、冷水と表層水との温度差緩和等がなされたものを海域に放流することが考えられる。
【0013】
しかし、この場合、放流した深層水の低層への沈降速度が遅いために、海面上付近での滞留時間が長く光合成効果が大きくなる。このため、植物プランクトンをより多く増殖させることになり、これを捕食する動物プランクトン増殖も促す結果となり、これらプランクトンに起因する装置への付着物の増加を招くために、装置を改善しなくてはならないという課題があった。
【0014】
特に、浮体式波力、洋上風力エネルギー利用装置等においては、実用化、並びに装置の大規模化に伴い機構を単純化し、装置は出来る限りドック等の陸地の工場で製作し、現地組み立て、運搬、設置等を簡略化し、メンテナンス費や運転コスト等のすべてにおいてコスト低下に導くことが、発電原価等の低減につながる。このため、洋上での現地作業を極力減じたものとする必要があるという課題もあった。
【0015】
また、洋上風力エネルギー利用装置等の運搬、設置、曳航時等においても、自己浮体にバラスト水注入等を用いて重心を下げ、安定した装置とすることにより、予期せぬ低気圧の到来や、突風の遭遇に際して、簡単に対応できて、装置を安全に守る必要があった。
【0016】
本発明は、このような従来の技術が有する課題や問題点に着目してなされたもので、波力、海流、潮流、風力による水上発電を行うために、取水・排水を効率的に行うことができる浮体、並びにクラゲや魚類等海洋生物、浮遊ごみ等の海洋浮遊物の装置機構部内への混入防止が可能な浮体および該浮体を備えた人工湧昇流発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、次の各項の発明に存する。
[1] 水上に浮かべた状態で姿勢の鉛直性が保たれ、中心部にメインタンク(MT)が設けられ、該メインタンク(MT)の下方に複数の排水タンク(WT、WTe、WTf、WTg、WTh)が設けられた浮体(1)において、
前記メインタンク(MT)に、その下方外部の水をメインタンク(MT)内部に取り入れる取水口(13、13a、13b、13c、13d)と、メインタンク(MT)内部の水を前記排水タンク(WT、WTe、WTf、WTg、WTh)毎に流す複数の連通口(16、16e、16f、16g、16h)が設けられ、
前記各排水タンク(WT、WTe、WTf、WTg、WTh)に、それぞれ排水タンク(WT、WTe、WTf、WTg、WTh)内部の水を浮体(1)外部に排水する排水口(11、27、28)が設けられ、
前記取水口(13、13a、13b、13c、13d)に、水を前記メインタンク(MT)内部に取り入れるときに開き、その逆流時に閉じる逆止弁(14、14a、14b、14c、14d)が設けられ、
前記排水口(11、27、28)には、前記排水タンク(WT、WTe、WTf、WTg、WTh)内部の水を浮体(1)外部に排水する時に開き、その逆流時に閉じる逆止弁(12,29,30)が設けられ
前記取水口(13、13a、13b、13c、13d)は、前記メインタンク(MT)の底板(6)に下向きに開口し、その下方外部の水が、波の水粒子の円軌道運動で波の山が来る上向き時に前記メインタンク(MT)内部に向かい流入可能であり、
前記排水タンク(WT、WTe、WTf、WTg、WTh)を囲う囲い壁(54、54e、54f、54g、54h)の裏面は、前記取水口(13、13a、13b、13c、13d)に取り入れる水を案内する案内壁(55、55a、55b、55c、55d)となり、該案内壁(55、55a、55b、55c、55d)は、前記メインタンク(MT)の底板(6)の底面より下方へ下がった位置から前記取水口(13、13a、13b、13c、13d)に向かうことを特徴とする浮体(1)。
【0018】
[2] 発電機(19)を備え、
前記連通口(16,16e,16f、16g、16h)に、前記メインタンク(MT)内部から前記排水タンク(WT,WTe,WTf、WTg、WTh)内部に流れる水により回転する水車(17,17e,17f、17g、17h)が設けられ、
前記水車(17,17e,17f、17g、17h)によって、前記発電機(19)が駆動されることを特徴とする項1に記載の浮体(1)。
【0020】
] 前記メインタンク(MT)よりも上方へ延びるダクトを兼ねる支柱(22,39)の内部に、その上部から侵入した光線を遮断する螺旋状に延びる螺旋板(45b、45a)を設けたことを特徴とする項1またはに記載の浮体(1)。
【0021】
] 前記排水タンク(WT,WTe,WTf、WTg、WTh)の底面は、波形の波打ち形状であることを特徴とする項1からのいずれか一項に記載の浮体(1)。
【0022】
] 前記複数の排水タンク(WT,WTe,WTf、WTg、WTh)それぞれは、浮体(1)の中央近傍に位置する連通部(57)によって連通していることを特徴とする項1からのいずれか一項に記載の浮体(1)。
【0023】
] 項1からのいずれか一項に記載の浮体(1)と、
前記浮体(1)から鉛直下方に延びて、深層水を汲み上げるための鉛直取水管(7)と、を備え、
前記鉛直取水管(7)に、汲み上げた深層水を前記取水口(13、13a、13b、13c、13d)の外部周辺および/または浮体内部に放出する放出手段(15a、15b、15c)と、該鉛直取水管(7)によって深層水を汲み上げるための取水ポンプ(8)と、が設けられたことを特徴とする人工湧昇流発生装置(A)。
] 前記浮体(1)に設けられた風力発電機(66)および/または水流発電機(71)を備え、
前記取水ポンプ(8)は、前記発電機(19)、前記風力発電機(66)および/または水流発電機(71)の少なくとも何れか一つが発電する電気によって駆動することを特徴とする項に記載の人工湧昇流発生装置(A)。
【0024】
前記本発明は次のように作用する。
項[1]に係る発明によれば、波の山が来るとメインタンク(MT)の取水口(13、13a、13b、13c、13d)に設けられている逆止弁(14、14a、14b、14c、14d)が、メインタンク(MT)の下方外部の水に押し上げられて開いた状態になる。これにより、メインタンク(MT)の下方外部の水が取水口(13、13a、13b、13c、13d)からメインタンク(MT)内に取り入れられる。
【0025】
このとき、排水タンク(WT,WTe,WTf、WTg、WTh)の排水口(11、27、28)に設けられている逆止弁(12、29、30)は、メインタンク(MT)の下方外部の水に押し上げられて閉じた状態になっている。これにより、波の山が来るたびにメインタンク(MT)の下方外部の水がメインタンク(MT)内に取り入れられる。
【0026】
次に、波の山が過ぎて波の谷が来ると、取水口(13、13a、13b、13c、13d)に設けられている逆止弁(14、14a、14b、14c、14d)が閉じるとともに、メインタンク(MT)内の水が各連通口(16、16e、16f、16g、16h)を通って各排水タンク(WT、WTe、WTf、WTg、WTh)に流れ込む。このとき、排水口(11、27、28)の逆止弁(12、29、30)は開いた状態になっているので、排水タンク(WT、WTe、WTf、WTg、WTh)内部の水が排水口(11、27、28)から浮体(1)外部に排水される。
このように、本発明に係る浮体(1)によれば、波の山の通過及び波の谷の通過に伴って、メインタンク(MT)の下方外部の水をメインタンク内に効率よく取水することができ、また、効率よく排水することができる。
特に、取水口(13、13a、13b、13c、13d)は、メインタンク(MT)の底板(6)に下向きに開口しており、その下方外部の水が、波の水粒子の円軌道運動で波の山が来る上向き時にメインタンク(MT)内部に向かい流入する。
また、排水タンク(WT、WTe、WTf、WTg、WTh)を囲う囲い壁(54、54e、54f、54g、54h)の裏面は、前記取水口(13、13a、13b、13c、13d)に取り入れる水を案内する案内壁(55、55a、55b、55c、55d)と成る構成なので、浮体(1)を構成する材料を効率よく有効に使用することができる。
ここで案内壁(55、55a、55b、55c、55d)は、メインタンク(MT)の底板(6)の底面より下方へ下がった位置から取水口(13、13a、13b、13c、13d)に向かっている。
【0027】
項2に係る発明によれば、メインタンク(MT)内の水が連通口(16、16e、16f、16g、16h)を通って排水タンク(WT、WTe、WTf、WTg、WTh)内部に流れるときに、連通口(16、16e、16f、16g、16h)に設けられた水車(17、17e、17f、17g、17h)が回転する。この水車(17、17e、17f、17g、17h)の回転によって発電機(19)が駆動するので、波力による発電をすることができる。
【0029】
に係る発明によれば、ダクトを兼ねる支柱(22、39)の内部に、その上部から侵入した光線を遮断する螺旋状に延びる螺旋板(45b、45a)が設けられているので、空気の出入りする吸排気口(23)から光が差し込んでも、螺旋板(45b、45a)が光を遮断する。これにより、ダクトを兼ねる支柱(22、39)よりも下方のメインタンク(MT)に溜まっている水に光が届くことを防止でき、メインタンク(MT)内での光合成を防止することができる。これにより、浮体(1)内での植物プランクトン等の増殖に起因して発生する浮体(1)や浮体(1)に設けた装置への付着物の増加を防止することができる。
【0030】
に係る発明によれば、排水タンク(WT、WTe、WTf、WTg、WTh)の底面を波形の波打ち形状にしたので、浮体(1)の受ける波の揚圧力を軽減することができる。これにより、係留した浮体(1)を安定させておくことができる。
【0031】
に係る発明によれば、複数の排水タンク(WT、WTe、WTf、WTg、WTh)それぞれは、浮体(1)の中央近傍に位置する連通部(57)によって連通しているので、メインタンク(MT)からの水が特定の排水タンク(WT、WTe、WTf、WTg、WTh)に偏ってしまうことなく分配される。これにより、浮体(1)を安定させておくことができる。
【0032】
に係る発明によれば、浮体(1)から鉛直下方に延びる鉛直取水管(7)と取水ポンプ(8)によって深層水を汲み上げることができる。汲み上げた深層水は、放出手段(15a、15b、15c)によって浮体(1)のメインタンク(MT)の取水口(13、13a、13b、13c、13d)の外部周辺および/または浮体(1)の内部に放出することができる。
【0033】
これにより、鉛直取水管(7)によって汲み上げられた深層水(ST)は、取水口(13、13a、13b、13c、13d)、メインタンク(MT)、連通口(16、16e、16f、16g、16h)、排水タンク(WT)等を通過する際に、取水口(13、13a、13b、13c、13d)周辺の装置下方より混入する表層近くの表層水と混合されるため、あまり大きな温度差、密度差は生じず、表層水との温度差、密度差はより小さくして装置外部に放出することができる。
【0034】
に係る発明によれば、浮体(1)に設けられた風力発電機(66)および/または水流発電機(71)の少なくとも何れか一つが発電する電気によって取水ポンプ(8)を駆動するので、自己完結型の人工湧昇流発生装置(A)となる。これにより、人工湧昇流発生装置(A)の設置場所の選択枝が多くなる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る水上発電浮体および該浮体を備えた人工湧昇流発生装置の主要部を示す縦断面図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る水上発電浮体に洋上風車及び波力発電装置を搭載した人工湧昇流発生装置の全体を概略的に示す正面図である。
図3図1におけるX-X線矢視図であり、水上発電浮体を平面視で示している。
図4図1におけるY-Y線矢視図であり、水上発電浮体の底面視における取水分担エリアの配置を示している。
図5図1におけるZ-Z線矢視図であり、水上発電浮体の底面視における排水分担エリアの配置を示している。
図6図1図5とにおけるV-V線矢視部位の展開図であり、取水口近傍における案内壁の断面を示している。
図7図1図5とにおけるW-W線矢視部位の展開図であり、連通孔近傍における排水タンクの囲い壁の断面を示している。
図8図7におけるR-R線矢視断面図である。
図9図8におけるQ-Q線矢視断面図である。
図10図1のT部におけるステーダクト内の光線遮蔽手段を示す縦断面図である。
図11図10のU―U線矢視断面図である。
図12】本発明の第1の実施の形態に係る水上発電浮体に取水・排水機能を与える波力による水粒子円軌道運動の概要を示す説明図である。
図13】本発明の第2の実施の形態に係る水上発電浮体に海流発電機を搭載した人工湧昇流発生装置の全体を概略的に示す正面図である。
図14】本発明の第2の実施の形態に係る人工湧昇流発生装置の全体を概略的に示す平面図である
図15】本発明の第3の実施の形態に係る水上発電浮体に海流・潮流の流れ方向に自由に対応可能な水流発電機を搭載した人工湧昇流発生装置の全体を概略的に示す正面図である。
図16】本発明の第4の実施の形態に係る人工湧昇流発生装置の全体構成図である。
図17図16の平面図である。
図18図16の人工湧昇流発生装置の深層水(底層水)排出部の縦断面拡大図である。
図19図18のS-S線矢視断面平面図である。
図20】本発明の第5の実施の形態に係る人工湧昇流発生装置に海流発電機を付加した全体構成図である。
図21図20の平面図である。
図22】本発明の第6の実施の形態に係る人工湧昇流発生装置に海流・潮流の流れ方向自由に対し対応可能な人工湧昇流発生装置の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明に係る水上発電浮体(「浮体」に相当)1および該水上発電浮体1を備えた人工湧昇流発生装置Aは、波動の水粒子の円軌道運動による流体の流れを受けて、浮体内に効率よく水を取り込み、浮体内から浮体外部へ排水機能を引き起こさせ、その時の水の流れにより波力発電するものである。
【0037】
本人工湧昇流発生装置Aは、信頼性、耐久性、メンテナンス性、経済性、効率性を必要とする領域、並びに海岸域、或いはダム、湖沼、大陸棚等に設置して人工湧昇流等を発生させ、深層水(底層水)の取水・排水、拡散、植物プランクトン並びに動物プランクトンの増養殖、潮流、海流、波力、風力等のエネルギーを有効に利用するものである。以下、海洋上において使用され、水上(波力)発電機を備えたものを例に説明する。
【0038】
以下、図面に基づき本発明の各実施の形態について説明する。
図1から図12は、本発明の第1の実施の形態を示している。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る水上発電浮体1および該水上発電浮体1を備えた人工湧昇流発生装置Aの主要部を示す縦断面図である。
【0039】
図1に示したように、本実施の形態に係る人工湧昇流発生装置Aは、水上発電浮体1を水面SW上に浮かべた状態に設置され、該水上発電浮体1の上部に運転室2が設けられている。水上発電浮体1の中心部には、メインタンクMTが設けられ、メインタンクMTの外周には、全周に亘って複数の収斂提浮体4が等間隔に立設されている。各収斂提浮体4の間には、傾斜板5が設けられている。
【0040】
傾斜板5は、メインタンクMTの側壁上方から浮体外周縁に向かって下がるように傾斜している。メインタンクMTの側壁外部は、傾斜板5と収斂提浮体4とによって画成された空間によって傾斜板浮体10として形成されている。この傾斜板浮体10は、メインタンクMTの外側全周に設けられており、水上発電浮体1を形成している。また、メインタンクMTの上方にはカバー3が設けられている。このカバー3は、装置外部の波が傾斜板5を越波してきたときに、水上発電浮体1の内部に波が侵入することの防止及び水上発電浮体1に外部からの光が浸入することの防止のためのものである。
【0041】
図2は、図1の水上発電浮体1に洋上風車66(風力発電装置)及び波力発電装置70を搭載した人工湧昇流発生装置Aの全体を概略的に示している
図2に示したように、水上発電浮体1の下方には、チェーン取付部41が固着されており、該チェーン取付部41には、チェーン63の上端が取り付けられている。水上発電浮体1の下方では、海底SGにアンカー62が打ち込まれている。チェーン63の下端はアンカー62が取り付けられており、水上発電浮体1は、チェーン63を介してアンカー62に係留されている。ここでチェーン63は、ワイヤー、ロープ、パイプチェーン等、装置Aを係留できるものであれば良い。
【0042】
また、水上発電浮体1の下方には、深層水を取水するための鉛直取水管7が設けられている。鉛直取水管7は、浮体の中心から鉛直下方に延び、海洋の低層部まで垂下している。鉛直取水管7は、後記する取水ポンプ8の駆動によって、下端に設けられた取水口(図示せず)から低層部の深層水(底層水)STを内部に取り込み、上方へと汲み上げるように構成されている。鉛直取水管7の下端には、水上発電浮体1および運転室2の姿勢に鉛直性を保たせるための抵抗板錘61が設けられている。
【0043】
鉛直取水管7の上部は、浮体支持軸となっており、後記する排水タンクWTの間を通ってメインタンクMT内に貫通している。ここでメインタンクMT内における鉛直取水管7には、汲み上げた深層水(底層水)STをメインタンクMT内(浮体内部)に放出する放出手段としてノズル15bが設けられている。また、メインタンクMTの取水口13の上流にも鉛直取水管7によって汲み上げた深層水(底層水)STを放出する放出手段としてノズル15aが設けられている。
【0044】
鉛直取水管7は、排水タンクWTの間より下方に位置する途中で屈折可能に構成されている。鉛直取水管7を屈折させて、装置全体の運搬や設置等の作業を行うことができる。鉛直取水管7を屈折させたときに必要な補助浮体64、ワイヤー、ロープ65、並びにワイヤーやロープ65の巻取り機等も、水上発電浮体1に設けられている。
【0045】
水上発電浮体1の上方にある運転室2の上には、洋上風車66が搭載されており、この洋上風車66には、該洋上風車66のタワー67、ナセル68、ブレード69等が設けられている。この洋上風車66によって、風力エネルギーを運転室2内に取り込むことができる。
【0046】
図3は、図1におけるX-X線矢視図であり、水上発電浮体1を平面視で示している。
図3に示したように、収斂提浮体4の集合体は、平面視において、略円形或は略正多角形状の水上発電浮体1を形成している。各収斂提浮体4の間には、傾斜板5を備えた傾斜板浮体10が挟まれ、該傾斜板浮体10の傾斜板5の中程には後記する深層水(底層水)STの排水口11が設けられている。該排水口11には逆止弁12が設けられている。
【0047】
図1に示したように、メインタンクMTの底板6には、その下方外部に通じて周囲の水をメインタンクMT内部に取り入れる取水口13が設けられている。取水口13には、その下方外部よりメインタンクMT内部に向けて水が流入できるが流出できないように、逆止弁14が設けられている。即ち逆止弁14は、その下方外部の水をメインタンクMT内部に取り入れる取水時に開き、その逆流時に閉じるように構成されている。
【0048】
取水口13および逆止弁14の上流側には、取水ポンプ8の駆動によって鉛直取水管7を通して汲み上げられた深層水(底層水)STがノズル15aを介して排水され、取水口13の上流側外部周辺に充満している。また、取水口13の外側には、浮遊物やクラゲ、海藻類等の流入防止と急激な深層水落下防止のために、防止網72aが設けられている。
【0049】
また、メインタンクMTの下方には、複数の排水タンクWTが配設されている。メインタンクMTの底板6には、各排水タンクWTに連通した連通口16が排水タンクWT毎に設けられている。よって、メインタンクMT内部の水は、各連通口16から排水タンクWT内部に流れる。ここで連通口16には、水車17が設けられている。
【0050】
水車17は、メインタンクMT内部から排水タンクWT内部に流れ込む水により回転する。水車17は、水車回転軸18の下端に設けられている。この水車回転軸18は、保護のために保護管20に挿通されている。水車回転軸18の上端は、運転室2に設けられた発電機19に接続されている。したがって、水車17の回転が発電機19に伝達されて発電機19を回転させて発電される。即ち波力発電装置70が稼動する。また、メインタンクMT内部から貝殻や海藻等の不純物が連通口16に流入しないように、連通口16の上部開口を覆うように防止網73が設けられている。
【0051】
メインタンクMT上方には、カバー3の蓋板とほぼ同レベルに構造床21が設けられている。ここから上方の運転室2に至るまでの間は、保護管20の外側にステーダクト(支柱)22が設けられている。運転室2の床下では、メインタンクMT内の水位の上下動により、ステーダクト(支柱)22はメインタンク上部の空気の通気路となる。ステーダクト22は、吸排気口23が設けられている。
【0052】
また、このステーダクト22は、メインタンクMTよりも上方に設けられている運転室2や風車66等を支える支柱を兼ねている。即ち、ステーダクト22は、水上発電浮体1と運転室2を結ぶ構造材としても大きな役割を果たしている。また、ステーダクト22の吸排気口23は、大波時等の飛散水等が飛び込まないように構成されている。
【0053】
また、ステーダクト22の下部内側には、螺旋状の螺旋板45bが設けられている。この螺旋板45bは、保護管20をガイドすると共に、吸排気口23等からの光線を遮断するための光線遮蔽手段としても機能する。この光線遮蔽手段については、詳しくは図10に示すステーダクト39に設けたものを代表して後述する。
【0054】
水車回転軸18の下方で水車17の直上には、水車回転伝達金物として軸継ぎ手24が設けられている。軸継ぎ手24と水車回転軸18とには、スプライン溝等が設けられており、メンテナンス時等には水車回転軸18を簡単に取り外せる構造になっている。また、前記した保護管20も同様に、水車17の直上で連結金物25を用いて接続され、メンテナンス時には水車17と保護管20とは簡単に分離できる構造になっている。また、メンテナンス時には、発電機19、水車回転軸18および保護管20は、ワイヤーやロープ26等を用いて簡単に上方に吊り上げられる構造になっている。
【0055】
メインタンクMT内部の水は、排水タンクWT内部に流れるように構成されている。排水タンクWTの下方には、排水口27、28が設けられている。排水口27には逆止弁29が設けられ、排水口28には逆止弁30が設けられている。ここで逆止弁29、30は、排水タンクWT内部の水を浮体外部に排水する排水時に開き、その逆流時に閉じるように構成されたものである。
【0056】
詳しく言えば、浮体下方で波の通過後における水粒子の円軌道運動が下向き状態にあるときには逆止弁29,30が開いて、排水タンクWT内の水を排水できるが、上向き状態にあるときには逆止弁29,30が閉じるので、排水タンクWT内の水は排水されない。また、運転、操作条件によっては、排水タンクWTの上方の傾斜板5に設けた排水口11から傾斜板5の上面に水が排水される。排水口11には、浮体内部の水が傾斜板5上面に排出されるときには開くが、外部からの流入ができないように閉じる逆止弁12が設けられている。
【0057】
排水口27、28のそれぞれにある逆止弁29、30の上部には、ワイヤー・ロープ31、32等が結び付けられる不図示のフック等が設けられ、これにワイヤー・ロープ31、32の一端が結び付けられている。ワイヤー・ロープ31、32の他端側は、運転室2の天井に設けられた滑車まで導かれており、逆止弁29、30の人為的な開閉操作のための引っ張り、しばりつけ、ロック操作等が容易にできるようになっている。ワイヤー・ロープ31、32は、保護管33、34に挿通されており、該保護管33、34によって保護されている。また、ワイヤー・ロープ31、32が曲げられて配置される所には、ベンダー管等を用いてワイヤー・ロープ31、32をガイドしている。
【0058】
保護管33は、収斂提浮体4を貫通して運転室2まで延びている。保護管33が収斂提浮体4の上部から運転室2の床を貫通するところまで、ステーダクト35が設けられている。ステーダクト35は、支柱を兼ねており、収斂提浮体4内の通気路と主要構造柱を兼ねている。
【0059】
メインタンクMTの底板6は、排水タンクWTの上方板でもあるが、一部が傾斜板浮体10内を通る排水路36となるように形成されている。排水路36の出口は、前記した傾斜板5に設けた排水口11となっている。従って、排水口11からは、前記逆止弁12の作用で排水タンクWT内の水を外部環境へ排出できるが、外部環境からの水の流入はできない。逆止弁12の蓋板は、浮体外部からの光が浮体内部へできるだけ侵入しないように排水口11の大きさに対して十分に大きいものとしてあり、開閉はあまり大きく開かないようになっている。なお、水上発電浮体1の外部からの光を水上発電浮体1の内部へなるべく侵入させない手段として、排水路36の向きを工夫する等しても良い。
【0060】
鉛直取水管7の上部には、前記した取水ポンプ8が設けられている。この取水ポンプ8の駆動軸9は、装置の鉛直中心線2cに沿って運転室2内に延設されている。運転室2内には、駆動軸9の上端に連結された駆動モーター37が配設されている。駆動軸9は、保護管38に挿通されている。さらに、保護管38の外周には、ステーダクト39が設けられている。これらは全て装置の鉛直中心線2cに沿った同心線状に設けられている。鉛直中心線2cは、鉛直取水管7の中心線でもある。また、ステーダクト39は、運転室2等を支える支柱を兼ねており、水上発電浮体1の重要な構造材でもある。
【0061】
メインタンクMTの上方には、傾斜板5を越波してきた水の侵入を防止する前記カバー3が設けられている。また、図3に示すように、各カバー3の蓋板は、それぞれ取り外し可能な上げ床50を扇形状に敷き詰めたものである。これにより、メインタンクMT内の機械装置のメンテナンス、メインタンクMT内の生物付着、汚れ、破損時等において、清掃、修理、交換等が比較的容易に行える。
【0062】
図12は、海洋で波が発生するときの水粒子の円軌道運動の概要を示す説明図である。この図は、一般の海洋土木工学等の文献にはほとんど掲載されている振幅波の基本的な説明図である。図12に示したように、水の粒子は、基本的に楕円状の軌動47をたどり、上向きの矢印48は波の山が来るときの水粒子の円軌道運動の流れ、下向きの矢印49は波の谷が来るときの水粒子の円軌道運動の流れを示す。
【0063】
従って、上向き時には装置下方の水が取水口13からメインタンクMT内部へ送り込まれる。ただし、このときメインタンクMTの底板6に設けた取水口13の上流側には、低層部から連続的に汲み上げた深層水(底層水)STが装置Aの外部に大量に充満しているため、先ずこの水が取水口13からメインタンクMT内へ送り込まれる。このとき、設計条件にもよるが、必ずしも深層水(底層水)STのみが取水されるわけではなく、底板6の近傍の表層水も取り入れられる。
【0064】
また、下向き時には水面上では波の谷が来る時であり、前記上向き時の水位と下向き時の水位には水位差が生じる。前記上向き時にメインタンクMT内部に取り込んだ水の方が水位が高いため、この水が連通口16を通じて排水タンクWTに流され、さらに排水タンクWTの上下に設けた排水口11、27、28より排水される。季節的、生物資源生産状況、発電効率的事情等を勘案して、排水口27、28からの排水は、逆止弁29、30をロックして、流れを停止、或は流量制限(逆止弁開閉制限)することができる。
【0065】
また、水上発電浮体1の下方で、波の水粒子の円軌道運動が上向き矢印48と下向き矢印49の両方同時に発生するように、水上発電浮体1の大きさを設定するならば、水上発電浮体1全体に対しては、上下方向が相殺される。そのため、水上発電浮体1には、あまり大きな上下動が生じない。従って、ここでそれぞれの取水口13と排水口27、28、11を有効利用すれば波力発電効率は大きく上昇する。
【0066】
図1に示したように、傾斜板5の下端縁には樋状に形成された返し板46が配設されている。この返し板46は、排水口11から排水された深層冷水が傾斜板5の上面に沿って流下し、すぐに海洋の低層部に行かないようにするためのものである。排水口11から排水された深層冷水は、返し板46によって返されるので傾斜板上面で繰り返し海洋の表層温水と混合されて密度合わせがされる。
【0067】
このとき、低層部から鉛直取水管7によって汲み上げられた深層水STは、取水口13、メインタンクMT、連通口16、排水タンクWT等を通過する際に、取水口13周辺の装置下方より混入する表層近くの表層水と混合されるため、あまり大きな温度差、密度差は生じないが、返し板46によって再混合されることにより、温度差、密度差はより小さくなる。
【0068】
図3は、図1におけるX‐X線矢視図であり、水上発電浮体1を平面視で示している。図3に示したように、本実施の形態に係る水上発電浮体1は、平面図的に略正8角形をなしている。この形状はあくまで一例であり、正12角形等の他の多角形でも良いし、円形でもよい。本図では全円周360度を8等分に分割し、収斂提浮体4をそれぞれの8等分基準位置に配置する。収斂提浮体4と収斂提浮体4との間には、傾斜板5と傾斜板浮体10が設けられており、全円周をつなげると略正8角形になる。水上発電浮体1の中心部には、取水ポンプ8の駆動軸9、保護管38、ステーダクト39が同心に配置されている。
【0069】
メインタンクMTの底部に設けた水車17には、水車回転軸18が接続されている。水車回転軸18は、運転室2に向かって延設されている。水車回転軸18は保護管20に挿通されており、保護管20はステーダクト22に挿通されている。これら水車回転軸18と保護管20とステーダクト22とは、それぞれ同心に配設されている。このように構成される水車17は、浮体全周の4ヶ所に配置されている。
【0070】
収斂提浮体4の内郭線から装置中心部の保護管38、ステーダクト39の中心線に向けて、鉄骨の仕切枠が設けられている。この仕切枠内を構造床21とし、前記した収斂提浮体4のステーダクト35と、構造床のステーダクト22と、装置中心部のステーダクト39とを、それぞれ略一直線上に配置し、その反対側にも同様に対称形に延長し、縦横十字線状に組み合わせた構造となっている。これにより、台風や大しけ時等に水上発電浮体1が動揺しても破損し難い構造になっている。
【0071】
ステーダクト39を中心にして、ステートダクト35、22を4方向に十字状になるように配設して、水上発電浮体1と運転室2、風車タワー等を支える浮体強度主材としてある。さらに、吸排気の通気路として、その上に他の回転軸やワイヤーロープ等の保護管等を管の同心に配置挿入して、それぞれの多種多様な目的を同時に果たしている。
【0072】
前記した構造床21の4か所に挟まれるメインタンクMTの上部分は、上げ床50が設けられる。従って、メインタンクMTの上部分は全ていずれかのカバーで覆われ、メインタンクMT内は暗室状態にある。そのため、海洋の低層部より汲み上げた深層水(底層水)STは低層部から光に充てられることなく、鉛直取水管7を通り暗室のメインタンクMT内部に送り込まれる。このため、深層水中における光合成は行われない。なお、このとき取水口13、排水口11、27、28に設けた逆止弁14、12、29,30の開閉作動中に装置下方から光が入るが、水面から回り込んできた光であることと、全体的には僅かな光量であるために、あまり大きな問題とはならない。
【0073】
傾斜板5と傾斜板浮体10に設けられた排水路36および排水口11、逆止弁12は、浮体全周に亘って8ヶ所に配置されている。このような状態で波がどの方向から来ても、逆止弁12は、波の到来側では閉じるが、波の通過側では開いて排水タンクWT内の水が排水される。従って、水上発電浮体1の全周で見ると常にどこかの逆止弁12は閉じているが、どこか別の逆止弁12が開いている。そのため、装置全体的に見れば水の流れは整流されており、ある程度安定した流れであるので排水効率が良い。
【0074】
図4は、図1におけるY‐Y線矢視図であり、水上発電浮体1の底面視における取水分担エリアの配置を示している。図4に示したように、収斂提浮体4は、水上発電浮体1を8等分した基準線に沿って8個それぞれ等分配置され、それぞれの合間に傾斜板浮体10(図3参照)が設けられ、略正8角形の水上発電浮体1を構成している。
【0075】
水上発電浮体1の浮体中心部には、鉛直取水管7が設けられ、図4中の水平方向には収斂提浮体4の水平方向基準線Kを仮定し、これに装置の中心を通り直角に交差する垂直方向にも90°基準線K´を仮定して、そのそれぞれに収斂提浮体4が前記同様に設けられている。収斂提浮体4の内郭線と鉛直取水管7のほぼ中央部に、連通口16と水車17が設けられている。
【0076】
前記水平、垂直方向基準線K、K´とほぼ45度違った方向に細分化した45度方向基準線L、L´を仮定し、これに前記同様に鉛直取水管7より、ほぼ同条件で収斂提浮体4を配置する。収斂提浮体4の中心線上で且つ収斂提浮体4の内郭線よりに取水口13、並びに逆止弁14を配置する。取水口13の上流側周辺には、鉛直取水管7からのノズル15aが設けられている。鉛直取水管7より汲み上げた深層水(底層水)STは、ノズル15aから取水口13の上流側周辺に放水され、上流側周辺が簡易的に深層水(底層水)STによって充満される。このため、浮体下方から波の水粒子の円軌道運動によって深層水(底層水)STがメインタンクMT内に送り込まれる。
【0077】
このとき、水上発電浮体1の全周にわたり、前記した90度交差の水平、垂直基準線K、K´に挟まれる4分割された領域を取水分担エリアとする。仮に水上発電浮体1の全周を4等分した場合は、図面上最大外形外側に中カッコで囲われた扇形状となる、区分符号a、b、c、dを付した範囲とする。そのため、それぞれの90度交差の水平、垂直方向基準線K、K´の中間線である45度交差の斜め基準線L、L´上に、それぞれの取水口13が配置される。しかるに、取水エリア区分符号a、b、c、dのほぼ中央部に、取水口13がそれぞれ配置されている。
【0078】
このような状態で、それぞれの区分内に取水、滞留させた深層水と前記した底板6の近傍の表層水とを水上発電浮体1の下方から波の水粒子の円軌道運動の上向き時の揚圧力によりメインタンクMT内に送水する。このとき、海洋上で実際の波は時間とともに進行するものであるため、前記したそれぞれの取水分担エリア中のカッコで囲われた扇形状の区分符号a、b、c、dを付した範囲における作動においては、それぞれバラバラの条件となり、取水しているエリアもあれば停止して取水していないエリアもある。
【0079】
図5は、図1におけるZ‐Z矢視図であり、図4と同様に中カッコで囲われた扇形状の範囲に付した区分符号a、b、c、dは、取水分担エリアの配置を示している。これに対し、その外側に中カッコで囲われた部分に付した区分符号e、f、g、hは、排水分担エリアの配置を示している。以下、これまで図4において付した符号において、一例として連通口16、水車17、図5においては、排水口27、逆止弁29、排水口28、逆止弁30、排水口11、逆止弁12等においては、排水分担エリアの区分毎に子番号を取ることとして、仮に連通口16e、水車17e、排水口27e、逆止弁29e、排水口28e、逆止弁30e、排水口11e、逆止弁12eと仮定する。
【0080】
運転条件次第では、排水口27e、28eを閉じて、傾斜板5上に設けた排水口11eから排水することもある。排水口11eは、排水口27eの両側左右に1個ずつ合計2個が設けられている。以下、扇形状の部分に付した排水分担エリアの区分符号f、g、hにおいても同様とする。ただし、排水タンクWTは4つが例示されているが、実際には装置中央部の鉛直取水管7の近傍において全てが連通し、一連化されている。これにより、それぞれの排水タンクWT内を水が自由に行き来できるので、それぞれの個別の運転が自由に行える。
【0081】
次に、図5においては、底板6も4分割に細分化され、それぞれの前記した取水分担エリアの区分符号a、b、c、dに相当している。このそれぞれの扇形状の取水分担エリア、排水分担エリアの区分においても、実際には水の囲い壁、案内壁においては、装置構造上何らかの骨材を設けなくては構造物として成り立たない。
【0082】
一例として、扇形状の取水分担エリアa区分においては、折れ線上の扇骨材において、円周上のa1から浮体中心部付近の取水口13a、逆止弁14aを迂回し、さらに円周上のa1に戻るまで、円周上のa2から浮体中心部付近の取水口13a、逆止弁14aを迂回し、さらに円周上のa2に戻るまで、円周上のa3から浮体中心部付近の取水口13a、逆止弁14aを迂回し、さらに円周上のa3に戻るまで、円周上のa4から浮体中心部付近の取水口13a、逆止弁14aを迂回し、さらに円周上のa4に戻るまで、円周上のa5から中心部付近の取水口13a、逆止弁14aを迂回し、さらに円周上のa5に戻るまで、円周上のa6から浮体中心部付近の取水口13a、逆止弁14aを迂回し、さらに円周上のa6に戻るまでを1区分として、以下同様にb区分、c区分、d区分とする。
【0083】
囲い壁、案内壁は強度壁となるために、前記一例として示した折れ線状の扇骨材(a1~a6、b1~b6、c1~c6、d1~d6)等においては、図を簡略化するために骨材を管状の円印で示したが、管状に限らず骨材の役目を果たせれば平鋼やL形鋼、溝形鋼等の種々の形状のものとすることができる。
【0084】
図6は、図1図5とにおけるV‐V線矢視部位の展開図である。図6に示したように、メインタンクMTの底板6には一例として取水口13cに逆止弁14cが設けられ、波の水粒子の円軌道運動による上向き、下向きの繰り返しにより、逆止弁14cの開閉が繰り返される。これにより、底板6の下方外部の水がメインタンクMT内に取り込まれる。このとき、取水口13cで取水のガイドをするのが、後記する排水タンクWTh或はWTgの囲い壁54h、54gの裏面であり、この裏面は案内壁55cとなる。
【0085】
図7は、図1図5とにおけるW‐W線矢視部位の展開図である。図7に示すように、メインタンクMTの底板6に連通口16gが一例として設けられている。連通口16gは、底板6の下方に設けた排水タンクWTgに通じると共に水車17gが設けられている。水車17gの直上には、水車17gの回転軸18の軸継ぎ手24が設けられている。メンテナンス時等には、ここで回転軸18を分離できる構造になっている。
【0086】
排水タンクWTgの囲い壁54gの作図的には、図1図5からメインタンクMTの底板6の底面から下方へ下がる距離と連通口16gの中心線から遠ざかる距離を拾い込み立体的に扇骨位置を作図化したものに、排水タンクWTgの囲い壁54g、案内壁55b、55cを貼り付けたものが図7である。以下、添え符号e、f、hも同様とする。
【0087】
図8は、図7におけるR-R線矢視断面図である。図9は、図8におけるQ-Q線矢視断面図である。図9において、図4および図5について説明した水平、垂直方向基準線K,K’と、これらに45°で交差するL,L’を配置すれば、垂直方向基準線K上に排水タンクWTh、WTfが配置され、垂直方向基準線K’上に排水タンクWTe、WTgが配置される。従って、人工湧昇流発生装置Aの中心線を中心とする鉛直取水管7の外側に前記した扇骨材a3~d3があり、これらの部分は、それぞれWTe、WTf、WTg、WThが連通部57において連通している。
【0088】
ここで排水タンクWTの囲い壁、案内壁を凹凸状の波打ち形状にし、排水タンクWTの囲い壁54と取水口の案内壁55を一枚壁の裏表両面を併用することにより、装置の経済性が良くなる。また、両壁の併用と波打ち現象による凹凸現象が、装置下方からの波の水粒子の円軌道運動の上向きによる揚圧力と、それぞれの場所で上向き力とが凹凸壁の曲線に当たり、その反発力がそれぞれの場所における角度の違いにより、それぞれバラバラの反射力が放射状方向に散乱させることと、すぐ隣り合わせの対象壁面同士の反発力とが相殺されることにより、水上発電浮体1の底面に及ぼす押圧力が低減される。
【0089】
また、図1図2に示したように、水上発電浮体1の下方には、スカート56が設けられている。このスカート56を大きく吊り下げると、スカート56の外部の水粒子の円軌道運動が波の進行によってスカート56内に入るときに、波の水粒子の規則的な円軌道運動がある程度破壊されるために押圧力が低下する。そのため、波力発電効率は低下するが、浮体の上下動が小さくなるため、風力発電効率は向上する。
【0090】
図10は、図1のT部におけるステーダクト(支柱)39内の光線遮蔽手段を示す縦断面図である。図11は、図10のU-U線矢視断面図である。図10および図11に示したように、ステーダクト39の内側の管路51の中心部には、保護管38が挿通されている。さらに保護管38の内部には回転軸9が挿通されている。また、管路51は、メインタンクMT内の空気の吸排気路52の機能を有している。
【0091】
ステーダクト39と保護管38との管路51には、螺旋状の螺旋板45aがステーダクト39の内面に溶接等で固着されている。螺旋板45aの内径と保護管38の外壁との間には、僅かに隙間38aが設けられている。これにより、螺旋板45aの内部で、保護管38が自由に動けるようになっている。ただし、光線遮断手段の役目を果たすためには、隙間38aをできる限り小さく保つことが好ましい。
【0092】
ステーダクト39内には、管路51の途中より螺旋状の螺旋板45aが設けられている。螺旋板45aは平板をひねった形状板であって、その配置場所毎に角度が異なり曲がりくねった形状の板である。この螺旋板45aは、管路51に光線(明かり)53がステーダクト(支柱)39の上部吸排気口23から真っすぐ下方のメインタンクMTに向かって侵入しても、曲がりくねった螺旋板45aが光線を屈折遮断して、メインタンクMTに光線を到達させないようになっている。そのため、螺旋板45aは、光線反射の削減対策として材質の選定や黒色塗装を施す等のことが必要となる。なお、前記したステーダクト22における光線遮蔽手段である螺旋板45bも、螺旋板45a同様の構成および機能を備えている。
【0093】
一方、メインタンクMT内の空気は、ステーダクト39と保護管38との間が吸排気路52として機能するので、装置外部の波動によるメインタンクMT内の水の出し入れによって吸排気路52内で往復流を繰り返す。なお、吸排気路52の空気の流速にゆとりをもたせる設計を行うことにより、螺旋板45aの曲がりくねった板の抵抗が空気の流れに支障をきたすようなことはない。なお、前記したステーダクト22と保護管20との間も、吸排気路52と同様の構成および機能を備えている。
【0094】
図13は、本発明の第2の実施の形態に係る人工湧昇流発生装置A’の全体を概略的に示す正面図である。図14は、人工湧昇流発生装置A’の全体を概略的に示す平面図である。人工湧昇流発生装置A’は、前記した第1の実施の形態に係る人工湧昇流発生装置Aに海流発電機(水流発電機)71を付加したものである。
【0095】
図13に示したように、人工湧昇流発生装置A’は、海上では風車66によって洋上風力発電を行う。水面近傍では波力発電装置70によって波力発電を行う。また、水面下では海流発電機71によって海流発電を行う。これらにより発電された電力はそれぞれ浮体上部の運転室2に集められる。
【0096】
また、運転室2に集められた電力のごく一部は、人工湧昇流発生装置A’による深層水(底層水)STの汲み上げ動力等として消費される。なお、海流・潮流の流れによって発電する海流発電機71の構造自体は、本願と同一出願人による特開2016-114057号公報(特許文献2)に開示された通りであり、本発明の要旨でないので詳細な説明は省略する。
【0097】
図15は、本発明の第3の実施の形態に係る人工湧昇流発生装置A”の全体を概略的に示す正面図である。人工湧昇流発生装置A”は、海洋において水上発電浮体1に対する自由な海流・潮流の流れ方向に対応可能に構成されたものである。この人工湧昇流発生装置A”において、自由な海流・潮流の流れ方向に対応可能な構造自体も、本願と同一出願人による特開2016-114057号公報(特許文献2)に開示された通りであるが、以下に簡単に基本的な構成および動作について説明をする。
【0098】
図2に示したように、前記した人工湧昇流発生装置Aでは、水上発電浮体1を係留するために、水上発電浮体1の下方にてチェーン取付部41が固着されている。このチェーン取付部41に、チェーン63の上端が取り付けられ、チェーン63の下端は、海底アンカー62に連結されている。従って、水上発電浮体1および鉛直取水管7が、チェーン63によって係留されるため、水上発電浮体1は、チェーン63が変形可能な遊びの範囲内では、ある程度柔軟な移動ないし回転可能であるが、基本的には自由に回転可能な構成ではなかった。なお、図13に示した人工湧昇流発生装置A’についても同様である。
【0099】
一方、図15に示したように、第3の実施の形態に係る人工湧昇流発生装置A”では、鉛直取水管7の上方にチェーン取付部42が固着されており、水上発電浮体1自体にはチェーン取付部42が固定されていない。そして、水上発電浮体1は、鉛直取水管7に対して自由に回転可能である。従って、水上発電浮体1に取り付けられた海流発電機71は、海流SFによって流れの下流側に流されるような位置に自然と配置される。
【0100】
海流発電機71は、海流SFの流れの方向が変わると、鉛直取水管7の軸心である鉛直中心線2cを回転中心にして旋回し、向きを変える。このように、水上発電浮体1および海流発電機71は、人工湧昇流発生装置A”の鉛直中心線2cを回転中心として、自由に回転可能に構成されている。
【0101】
図16は、本発明の第4の実施の形態に係る水上発電浮体および該水上発電浮体を備えた人工湧昇流発生装置Bの全体構成図である。図17はその平面図である。
これまでの第1~3の実施の形態と第4の実施の形態とで大きく異なる点は、第1~3の実施の形態では、水上発電浮体1に波力発電装置70が搭載されているために装置が非常に複雑な構造になっている。しかし、第4の実施の形態では波力発電装置70がないために、装置の構造が非常に簡略化されている。例えば第1~3の実施の形態では、収斂提浮体4と傾斜板浮体10とが交互につなぎ合わされているが、第4の実施の形態では円筒状の分割浮体75を簡単につなぎ合わせたものとなっている。
【0102】
装置中央部のバラストタンク部分においても、第1~3の実施の形態はメインタンクMTの下方に排水タンクWTと二段構えである。しかし、第4の実施の形態では波力発電装置70がないために、バラストタンクBTaに浮力を持たせるバラストタンク一個のみに簡略化されている。しかし、設置場所、海域、海象の条件等海域によっては波力発電装置70がない方が経済的で発電原価が安くなることもある。そのために、これまでの図15で説明した以外の説明においては既に第1~3の実施の形態に係る説明とほぼ共通しており、その説明を省略する。
【0103】
図18は、図16の第4の実施の形態において、人工湧昇流発生装置Bの深層水(底層水)排出部分の縦断面拡大図である。バラストタンクBTaは浮力室となっており、メンテナンス時等には作業員が出入りできる構造となっている。そのため作業員の出入り口や機器搬入口、空気やバラスト水の出入り配管、ブロワー、水、ドレーン抜き設備等も設けられている。該バラストタンクBTaの上部中央部には吐出タンク76を設け、該吐出タンク76は吐出タンク底部を76a、吐出タンク上部を76b、吐出タンクコニカル部を76cで構成し、鉛直取水管7aより取水ポンプ8a(図16に記載)により汲み上げた深層水(底層水)STは、ノズル15cを介して吐出タンク底部76aに排出される。
【0104】
排出された深層水(底層水)STは、吐出タンク76の上部吐出タンク76b、吐出ダクト76dを介してバラストタンク上部傾斜壁BTbの傾斜面上面に放水される。このとき、吐出ダクト76dは曲管部等を設け外部からの光線が出来る限り入りにくい遮蔽手段も講じられている。また、吐出ダクト76dの放水口には吐出口格子76eを設け、汲み上げた深層水(底送水)STを上層水と混合、分散化させるだけでなく装置外部の浮遊物やクラゲ、小魚等が入りにくい構造になっている。また、吐出口格子76eにはある程度の付着物が付くことは計算済みであるが、同時に吐出ダクト76d内へ明かりが入りにくい構造にもなっている。
【0105】
図19は、図18のS-S線矢視平面図である。ここで吐出ダクト76dは鉛直取水管7aの全周に配置されている。
【0106】
図20は、第5の実施の形態に係る人工湧昇流発生装置B’の全体構成図である。この人工湧昇流発生装置B’は、第4の実施の形態に係る人工湧昇流発生装置Bに海流発電機71aを付加したものである。図21は、第5の実施の形態に係る人工湧昇流発生装置B’の平面図である。そのため、以後の説明はこれまでに説明したものとほぼ同様であり、その繰り返しはしない。
【0107】
図22は、本発明の第5の実施の形態における水上発電浮体の浮体に海流・潮流の流れ方向自由に対し、対応可能な水上発電浮体を備えた第6の実施の形態に係る人工湧昇流発生装置B”の全体構成図である。本図は本発明の出願人と同一出願人が既に出願した、本発明の「先行技術文献」の「特許文献2」に記載した内容説明と本発明のこれまでに説明を行った内容とほぼ同様であり、図15に関する説明と重複するのでその説明を省略する。
【0108】
よって、本発明は発電機分野並びに発電機分野の境界を超えた海洋の植物プランクトン及び動物プランクトンの増養殖、魚介類等生物資源生産分野等にも波及するために人間生活に大きな成果をもたらす。また、効率性、安全性、安定性、保守、点検メンテナンス性、経済性等において大きなメリットがあるために、発電原価等の大幅な引き下げが期待できる。
【0109】
以上、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は前述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
例えば、複数の排水タンクWTを4つのタンクで例示したが、数はそれに限られない。また、1つでもよい。なお、各排水タンクWTに関連する発電機およびそれに付随する構成は、排水タンクWTと同数設けることが好ましいが同数に限られない。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明に係る浮体および該浮体を備えた人工湧昇流発生装置は、洋上風力、波力、海流エネルギーを利用する発電機に限られることなく、広く適用することができる。そのため、例えば6時間毎に潮の流れが反転する潮流、潮汐発電或は河川流水発電等の流水エネルギーを利用する分野等にも広く使用することができる。
【符号の説明】
【0111】
A、A’、A”、B、B’、B”…人工湧昇流発生装置
F…風
K…水平方向基準線
K’…垂直方向基準線
L、L´…45度交差の斜め基準線
SW…海面(水面)
SG…海底
SF…海流
ST…深層水(底層水)
MT…メインタンク
BTa…バラストタンク
BTb…バラストタンク上部傾斜壁
WT、WTe、WTf、WTg、WTh …排水タンク
1…浮体
2…運転室
2c…鉛直中心線
3…カバー
4…収斂提浮体
5…傾斜板
6…底板
7、7a、7b…鉛直取水管
8、8a、8b…取水ポンプ
9、9a、9b…回転軸
10…傾斜板浮体
11、27、28…排水口
12…逆止弁
13、13a、13b、13c、13d…取水口
14、14a、14b、14c、14d…逆止弁
15a、15b、15c…ノズル(放出手段)
16、16e、16f、16g、16h…連通口
17、17e、17f、17g、17h…水車
18…回転軸
19…発電機
20、33、34、38…保護管
21…構造床
22、35、39…ステーダクト(支柱)
23…吸排気口
24…軸継ぎ手
25…連結金物
26、31、32…ワイヤー・ロープ
29、30…逆止弁
36…排水路
37…駆動モーター
38…保護管
38a…隙間
41、42…チェーン取付部
45a、45b…螺旋板
46…返し板
47…軌道
48…上向きの矢印(水粒子の円軌道運動)
49…下向きの矢印(水粒子の円軌道運動)
50…上げ床
51…管路
52…吸排気路
53…光線(明かり)
54、54e、54f、54g、54h…囲い壁
55、55a、55b、55c、55d…案内壁
56…スカート
57…連通部
61…抵抗板錘
62…アンカー
63…チェーン
64…補助浮体
65…ワイヤー、ロープ
66…風車(風力発電機)
67…タワー
68…ナセル
69…ブレード
70…波力発電装置
71…海流発電機(水流発電機)
72a、72b、72c、73…防止網
74…ハッチ
75…分割浮体
76…吐出タンク
76a…吐出タンク底部
76b…吐出タンク上部
76c…吐出タンクコニカル部
76d…吐出ダクト
76e…吐出口格子(網)
図1
図2
図3
図4
図5
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