(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】信号伝送回路及びチップモジュール
(51)【国際特許分類】
G06F 3/00 20060101AFI20220113BHJP
H04L 25/03 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
G06F3/00 H
G06F3/00 R
H04L25/03 Z
(21)【出願番号】P 2019549693
(86)(22)【出願日】2017-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2017038211
(87)【国際公開番号】W WO2019082245
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2020-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】515225518
【氏名又は名称】ウルトラメモリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100190621
【氏名又は名称】崎間 伸洋
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】安藤 学
【審査官】吉田 歩
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-054352(JP,A)
【文献】特開2008-227635(JP,A)
【文献】特開平10-093438(JP,A)
【文献】特開平04-328392(JP,A)
【文献】特開平02-005608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/00
H04L 25/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バス配線と、前記バス配線の一端に接続される駆動回路と、前記バス配線の他端に接続される負帰還インバータアンプと、を備える信号伝送回路であって、
前記駆動回路の出力端と前記バス配線とを接続する結合部を備え、
前記結合部は、
前記バス配線に直列に配置されるコンデンサと、
前記コンデンサに並列に配置される抵抗と、
を備え
、
前記結合部のコンデンサの容量をC1、前記バス配線の静電容量をC2、前記結合部の抵抗の抵抗値をR1、負帰還インバータアンプの負帰還抵抗値をR2、前記負帰還インバータアンプの出力のDC的ローレベルをVOL、前記負帰還インバータアンプの出力のDC的ハイレベルをVOH、電源電圧をVDDとして、以下の数1
【数1】
を満たす信号伝送回路。
【請求項2】
請求項
1に記載の信号伝送回路を複数備えるチップモジュール。
【請求項3】
バス配線と、前記バス配線の一端に接続される駆動回路と、前記バス配線の他端に接続される負帰還インバータアンプと、を備える信号伝送回路であって、前記駆動回路の出力端と前記バス配線とを接続する結合部を備え、前記結合部は、前記バス配線に直列に配置されるコンデンサと、前記コンデンサに並列に配置される抵抗と、を備える信号伝送回路の設計方法であって、
前記コンデンサの静電容量及び前記抵抗の抵抗値を前記負帰還インバータアンプへの入力電圧のH/Lレベルに基づいて決定する信号伝送回路の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号伝送回路及びチップモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体集積回路素子を内包する半導体チップが知られている。近年では、半導体チップにおいて、半導体集積回路素子の集積化が進んでいる。半導体集積回路素子が集積化されることによって、半導体チップ内部に形成されるバス配線(例えば、クロックを分配するバス配線や、バスラインを構成するバス配線等)の本数が多くなる。そのため、半導体チップ内部に形成されるバス配線は、細くかつ間隔が狭くなり、また、配線長も長くなる傾向にある。
【0003】
バス配線には静電容量(配線容量)が存在することが知られており、この静電容量は、配線の間隔が狭くなるほど大きくなり、また、配線長が長くなるほど大きくなる。配線容量が大きくなると、立ち上がり応答の遅れが顕著になる。この遅れは、信号伝送を阻害する大きな要因となる。
【0004】
そこで、静電容量の容量値が大きいバス配線の信号伝送特性を改善し、伝送に要する電力を削減するために、容量結合でバス配線を駆動し、これを負帰還インバータアンプで受ける回路が考えられる。
【0005】
これに関連する回路として、出力信号の動作点を負荷に合せて設定し、信号振幅を減少させる容量結合を用いた回路が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、動作時と待機時のそれぞれの状態に合わせて、入力増幅回路に最適な電圧を与える回路が提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、駆動回路から出力される駆動信号を被駆動回路の電源電圧のしきい値電圧を中心に小振幅で励振させる回路が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-243176号公報
【文献】特開2007-36486号公報
【文献】特開2008-54352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に開示された回路を組み合わせた回路では、負帰還インバータアンプの動作点を最適化することができる。また、バス配線の信号振幅の小振幅化と電位の設定とを最適化することができる。一方で、負帰還インバータアンプの入出力がDC的には均衡してしまうので、出力データが消失してしまう。出力データの消失を防止するために、負帰還インバータアンプの後段に同期又は非同期のラッチ回路を設けなければならない。同期型のラッチ回路を用いる場合、クロック制御が必要になり、非同期型のラッチ回路では、設計が難しいという問題があることが判った。
【0008】
特許文献3に開示された回路では、容量結合を用いずに信号振幅を小振幅にすることができるとともに、インバータアンプの動作点付近に信号レベルを設定することができる。しかしながら、バス配線振幅は、駆動側とバイアスを与える入出力インバータのMOSサイズ比とで決まるので、バス配線には駆動回路と入出力短絡インバータとの間で大きな貫通電流を生じるという問題があることが判った。これらの問題を解決できる信号伝送回路を提供することができれば好ましい。
【0009】
本発明は、バス配線の信号伝送特性を改善し、伝送に要する電力を削減する信号伝送回路及びチップモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(i)本発明は、バス配線と、前記バス配線の一端に接続される駆動回路と、前記バス配線の他端に接続される負帰還インバータアンプと、を備える信号伝送回路であって、前記駆動回路の出力端と前記バス配線とを接続する結合部を備え、前記結合部は、前記バス配線に直列に配置されるコンデンサと、前記コンデンサに並列に配置される抵抗と、を備える信号伝送回路に関する。
【0011】
(ii)また、前記結合部のコンデンサの容量をC1、前記バス配線の静電容量をC2、前記結合部の抵抗の抵抗値をR1、負帰還インバータアンプの負帰還抵抗の抵抗値をR2、前記負帰還インバータアンプの出力のDC的ローレベルをVOL、前記負帰還インバータアンプの出力のDC的ハイレベルをVOH、電源電圧をVDDとして、以下の数1
【数1】
を満たすことが好ましい。
【0012】
(iii)また、本発明は、上記信号伝送回路を複数備えるチップモジュールに関する。
【0013】
(iv)また、本発明は、上記(i)の信号伝送回路の設計方法であって、前記コンデンサの静電容量及び前記抵抗の抵抗値を前記負帰還インバータアンプへの入力電圧のH/Lレベルに基づいて決定することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、バス配線の信号伝送特性を改善し、伝送に要する電力を削減する信号伝送回路及びチップモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る信号伝送回路を示す概略構成図である。
【
図3】一実施形態の信号伝送回路の波形特性を示す模式図である。
【
図4】一実施形態の信号伝送回路の実施例1の回路図である。
【
図5】
図4の回路の入力、受信初段入力、及び出力の関係を示す一波形図である。
【
図6】
図4の回路の入力、受信初段入力、及び出力の関係を示す他の波形図である。
【
図7】
図4の回路の電流-周波数特性の一例を示すグラフである。
【
図8】
図4の回路の電流-周波数特性の他の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る信号伝送回路1及びチップモジュールの各実施形態について、図面を参照して説明する。
まず、一実施形態に係る信号伝送回路1及びチップモジュールの概要について、
図1を用いて説明する。
【0017】
信号伝送回路1は、例えば、チップモジュール(図示せず)の内部に配置される。信号伝送回路1は、チップモジュールの内部において、半導体集積回路素子(図示せず)の間の信号伝送に用いられる。この信号伝送回路1は、
図1に示すように、バス配線10と、駆動回路20と、負帰還インバータアンプ30と、を備える。
【0018】
バス配線10は、いわゆる金属配線であり、抵抗成分を有する。また、誘電体として機能する素材(基板や絶縁膜等)によって、バス配線10には、静電容量が形成される。バス配線10は、半導体集積回路素子の間を接続するために配置される。
【0019】
駆動回路20は、バス配線10の一端に接続される。駆動回路20は、いわゆる反転増幅器であり、信号の送出元に配置される。駆動回路20は、信号を増幅してバス配線10に出力する。
【0020】
負帰還インバータアンプ30は、バス配線10の他端に接続される。負帰還インバータアンプ30は、バス配線10から入力された信号を反転増幅する反転増幅器32と、反転増幅された信号を、出力側から入力側に戻す負帰還抵抗31とで構成される。
【0021】
次に、一実施形態に係る信号伝送回路1について、
図1~
図7を参照して説明する。
本実施形態に係る信号伝送回路1は、
図1に示すように、結合部40を備える。
【0022】
結合部40は、バス配線10に配置される。具体的には、結合部40は、駆動回路20の出力端とバス配線10とを接続する。結合部40は、コンデンサ41と、抵抗42と、を備える。
【0023】
コンデンサ41は、容量結合により駆動回路20に接続される。
【0024】
抵抗42は、コンデンサ41に並列に配置される。結合部40の抵抗42は、駆動回路20及び負帰還インバータアンプ30をDC的に接続することで、負帰還インバータアンプ30の出力電圧を保持する。
【0025】
次に、結合部40におけるコンデンサ41の結合容量と、抵抗42の結合抵抗との決定方法について
図2及び
図3を用いて説明する。
まず、信号伝送回路1が満たさなければならない条件を説明する。
多くの場合、信号伝送回路1は、入力波形のサイクル時間やデューティ比が変わっても、負帰還インバータアンプ30の入力電圧のH/Lレベルが一定であることが好ましい。即ち、信号伝送回路1は、
図3のV1L,V1Hの値が、サイクル時間が短いときも長いときも、デューティ比が大きいときも小さいときも一定であることが好ましい。これにより、負帰還インバータアンプ30の遅延時間を変動させず、回路の信号タイミング設計余裕を減少させないで信号伝送回路1を構成することができる。
これを実現するためには、後述する数8を満足するようにコンデンサ41の結合容量と、抵抗42の結合抵抗とが決定されるのが好ましい。即ち、コンデンサ41の結合容量(静電容量)及び抵抗42の結合抵抗(抵抗値)は、負帰還インバータアンプ30への入力電圧のH/Lレベルに基づいて決定されるのが好ましい。ただし、信号伝送回路1を含む回路システム(チップモジュール)としての動作タイミングに余裕があれば、後述する数8から求められる値から外れてもよい。現実的には、製造上のばらつきがあるため、抵抗値、容量値は数8を厳密に満たす値にはならず、20%程度外れることがあり得る。このずれは、負帰還インバータアンプ30の入力振幅の動作サイクル時間による変動を生じ、結果的に負帰還インバータアンプ30の遅延時間の変動を生じるが、この変動量がチップ全体の設計から要求される動作余裕を満たしている限り、数8で決まる値からずれることは許容される。
【0026】
なお、以下の説明では、
図2に示すように、結合部40のコンデンサ41の静電容量は、C1として示される。結合部40の抵抗42の抵抗値は、R1として示される。バス配線10の静電容量は、C2として示される。反転増幅器32の入出力間に接続される負帰還抵抗31の抵抗値は、R2として示される。負帰還インバータアンプ30の入力容量は、C3として示される。また、結合部40と負帰還インバータアンプ入力との間の節点はN1として示される。入力側の節点はINとして示される。負帰還インバータアンプ30の出力はOUTとして示される。
【0027】
また、
図3において、節点N1のDC的ロー(以下、単にLとする)レベルは、V1Lとして示される。節点N1のDC的ハイ(以下、単にHとする)レベルは、V1Hとして示される。また、節点OUTのDC的Lレベルは、VOLとして示される。節点OUTのDC的Hレベルは、VOHとして示される。また、節点N1の任意の時刻での電圧は、VN1として示される。容量結合で変化する節点N1の電圧振幅は、ΔV1acとして示される。また電源電圧は、VDDとして示される。
【0028】
入力(節点IN)に矩形波の入力信号が加えられる時刻0以前は入力が接地電圧0Vで、出力がH(VOH)の定常状態になっているとする。このとき、節点N1の電圧がV1Lとなっている。時刻0で入力が0VからVDDに上昇すると、節点N1の電圧は、容量分割比で決まる電圧ΔV1acだけ瞬時に上昇する。これにより、節点OUTの電圧は、VOLに落ちる。節点N1には、抵抗R1を介して電荷が節点INから供給される一方、抵抗R2を介して出力OUTに電荷が抜けていく。これにより、節点N1の電圧は、V1L+ΔV1acからV1Hまで徐々に上昇又は下降する。各抵抗、容量、及び電圧値を適切に設定することで、節点N1の電圧はV1L+ΔV1acの値から変化しないようにすることができる。
【0029】
時刻t2では、入力がVDDから0Vに変化し、時刻0における場合と逆の動作をする。この場合も、節点N1の電圧は、時刻t2でV1Lに低下した後、そのレベルが維持される。
【0030】
次に、このような波形を実現するための各抵抗、容量、電圧値の関係を説明する。
負帰還インバータアンプ30の入力波形がサイクルタイムによらず一定となるようにするための条件として、まず、長いサイクルでの動作について考える。長いサイクルでは、抵抗だけで、各節点の電圧が決まり、静電容量は無関係となる。
入力INがVDDの場合、OUTはVOLであり、節点N1の電圧は、INとOUTの電圧の抵抗分割で決まる。即ち、節点N1の電圧は、以下の数2で決まる。
【数2】
【0031】
同様に、入力INが0Vの場合、OUTはVOHであり、節点N1の電圧は、INとOUTの電圧の抵抗分割で決まる。即ち、節点N1の電圧は、以下の数3で決まる。
【数3】
【0032】
従って、節点N1の非常に長いサイクル時間での信号振幅ΔV1dcは、以下の数4で決まる。
【数4】
【0033】
一方、サイクル時間が非常に短いときには、節点N1の振幅は容量C1~C3だけで決まる。(抵抗R1~R2は非常に短いサイクル時間におけるC1~C2のインピーダンス値より十分に大きい抵抗値に設定される)。この時の節点N1の信号振幅ΔV1acは、以下の数5で決まる。
【数5】
【0034】
ここで、C3の容量は通常、C1+C2より二桁程度以上小さいので省略して、以下の数6が得られる。
【数6】
【0035】
サイクル時間によらずN1の振幅が一定になるようにするためには、上記のΔV1dcがΔV1acと等しくなければならないので、以下の数7のようになる。
【数7】
【0036】
【0037】
即ち、入出力振幅が決まると、数6から結合容量値C1が求められ、また数4から、結合抵抗R1と負帰還抵抗R2の比が決まる。ゆえに、R2の値を決めれば、R1の値が決まる。R2の値が小さすぎると抵抗を通して流れる貫通電流増加によって消費電流が増加するので、R2の値は、ある程度大きいことが望ましい。現実的には、R2の値は、貫通電流のほか、使える素子の特性、ばらつき、専有面積等を考慮して決められる。
【0038】
以上示したように、ΔV1acとΔV1dcとが同じ値になるようにC1、R1、R2の値を決めれば、信号変化時に容量結合によって決まった電圧になった後は、負帰還インバータアンプ入力節点N1の電圧を一定に保つことができる。なお、上記では、入力がLからHに変化する場合について説明したが、HからLに変化する場合も同様である。信号伝送回路1は数8を満たすのが好適である。なお、信号伝送回路1が数8を満たすとは、C1、R1,R2の製造上のばらつきを許容する程度に満たすことを意味する。負帰還インバータアンプ30の遅延時間の変動がチップ全体の設計から要求される動作余裕を満たしている限り、数8を満たしているといえる。
【0039】
具体的な設計手法を以下に示す。
実際の設計では、チップ全体の設計から、電源電圧VDD、バス配線容量C2、及び、信号伝送回路1が満たすべき遅延時間の最小値、最大値、サイクル時間の最大値、最小値、消費電力の目標値が与えられ、それらを満たすようにC1、R1、R2が決められる。
まず、バス配線10の振幅(ΔV1ac及びΔV1dc)の許容値(最小値、最大値)が調べられる。
ΔV1acは、容量成分、C1,C2で決まる信号振幅であり、この値が大きいほどバス配線10の充放電電流は大きくなる。具体的には、バス配線10の充放電電流は、バス配線容量と、バス信号の振幅ΔV1acに比例し、サイクル時間に逆比例する。バス配線容量と最小サイクル時間は決まっているので、消費電力の目標値から、許容される最大のバス信号振幅を求めることができる。バス配線10の充放電電流の観点では、ΔV1acは小さいほど充放電電流を小さくできる。一方で、ΔV1acは、以下に述べるDC的なバス信号振幅ΔV1dcの最小値より小さくなると負帰還インバータアンプ及び、その次段のCMOS回路での貫通電流が増加する。このため、ΔV1acの最小値は、ΔV1dcの最小値とほぼ同じ値であることが望ましい。
次に、DC的バス信号振幅ΔV1dcのとるべき値が求められる。まず、負帰還インバータアンプ30のDC入出力特性、つまり、直流的な入力電圧と出力電圧及び貫通電流との関係が調べられる。通常、負帰還インバータ出力が接続される次段で貫通電流が流れない(又は許容電流値より十分に小さい値になる)ようにする必要がある。信号伝送回路1では、バス信号振幅を小さくして、バス配線容量の充放電による消費電流を低減することが目的である。バス配線容量の充放電電流に対して、上記貫通電流を十分に小さい値にすることで、信号振幅を小さくする効果を得ることができる。従って、負帰還インバータアンプ30の出力のHレベルは、電源電圧から次段のPMOSスレッショルド電圧の絶対値だけ低い電圧以上(又はその近傍)になるようにされる。また、負帰還インバータアンプ30の出力のLレベルは、接地レベルから次段のNMOSスレッショルド電圧だけ高い電圧以下(又はその近傍)になるようにされる。例えば、電源電圧が1V、PMOSスレッショルド電圧が-0.2V、NMOSスレッショルド電圧が0.25Vであれば、負帰還インバータアンプ30の出力のHレベルは0.8V以上に、Lベルは0.25V以下になるように負帰還インバータアンプ30の入力電圧が設定される。入力電圧と出力電圧との関係から、これを満たす負帰還インバータアンプ30の入力のHレベルとLレベルの範囲が求められる。これからΔV1dcの最小値が決まる。一方、ΔV1dcの最大値は、サイクル時間最大値でのバス配線10の充放電電流目標値により決まる。
次に、負帰還インバータアンプ30の遅延特性が調べられる。即ち、遅延時間のMOSFETサイズ依存性、入力振幅依存性が調べられる。
すでに上で求めたAC的、及びDC的バス信号振幅(ΔV1ac、ΔV1dc)の最小値、最大値の範囲の中で、チップ全体設計で与えられた信号伝送回路1の遅延時間目標値を実現するための、MOSFETサイズと入力振幅(ΔV1ac、ΔV1dc)が決められる。
ΔV1acが決まると、数6から結合容量C1が決まる。
一方、ΔV1dcが決まると数4からR1とR2の関係が決まる。R1、R2の値は、高いほど抵抗を通して流れる電流が減少する。したがって、R1、R2の値は、消費電流の観点では大きいほど良いが、実際は、抵抗値ばらつきや抵抗素子が占めるチップ上の面積等を考慮して決められる。多くの場合、R1、R2の値は、10KΩ~数百キロオームの範囲で選択されるのが適切である。
また、上記のΔV1acとΔV1dcとは、多くの場合、同じ値とされるのが望ましい。これは動作サイクル時間の変動に対して負帰還インバータアンプ30の遅延時間が変化せず一定値となるので、チップ全体での動作タイミング余裕が大きくできる場合からである。ただし、ΔV1acとΔV1dcとの値を同一にするようにC1,C2,R1,R2が設定されたとしても、現実的には、素子ばらつき等により厳密に同一にはならず、20%程度の差が生じることがある。
また、チップ全体の設計から決まる、サイクル時間、遅延時間、消費電流値等によっては、設計目標を満たす範囲内であれば、ΔV1acとΔV1dcとが異なる値に設定されても良い。これは、実際の設計では回路の占める面積や、配線層の選び方、他の回路の配線の配置等多くの要素を考慮する必要があるためである。例えば、結合容量をΔV1ac=ΔV1dcとするために必要な値より30%小さくして、回路が占める面積を削減することも、それによってチップ全体の設計から決まってくる設計目標を満足する限り、許容される。抵抗R1、R2に関しても同様である。
【0040】
具体的な数値例として、例えばΔV1ac=ΔV1dc=0.2V、C2=500fF, C3=5fF,VDD=1.2V,VOH=1.107V,VOL=0.104V,とすると、数6を変形して以下の数9が得られる。
【数9】
これを解くと、C1=100fFとなる。(C3はC2の500fFより十分小さいので無視した)
また、
VOH-VOL =1.107-0.104=1.003
よって、数4を変形して以下の数10が得られる。
【数10】
ここで負帰還抵抗R2を100kΩとすれば、数11が得られる。
【数11】
【0041】
以上では、いくつかの仮定を置いている。それらは、以下の通りである。
(1)バス配線10を駆動する駆動回路20の駆動素子の内部抵抗は、ここで用いる抵抗値に比べて十分に低い。
(2)駆動回路20の出力信号の立上り/立下り時間はバス配線10が抵抗42、及び負帰還抵抗31で充放電される時間に比べて十分に短い。
(3)負帰還インバータアンプ30出力の立上り/立下り時間もバス配線10が抵抗42負帰還抵抗31で充放電される時間に比べて十分に短い。
(4)負帰還インバータアンプ30の入力容量は、駆動回路20とバス配線10を接続する結合容量とバス容量の和に比べて十分に小さい。
【0042】
なお、例として挙げた容量、抵抗値では、バス配線10の充放電の時定数は、約30nsである。高速LSIでは内部信号の立上り/立下り時間は、テクノロジによるが数十ピコ秒以下であるから、このバス配線10の充放電時定数は二桁以上大きい。よって上記(2)(3)の仮定は満たされる。
【0043】
また、例として挙げた回路定数の低振幅のバス配線10は駆動回路20から見ると負荷容量が83fFに見えるが、これを例えば50psの立上り/立下りで駆動するためには、駆動回路20の内部抵抗は600Ωでなければならず、結合抵抗よりも二桁ほど小さい。よって仮定(1)も満たされる。
【0044】
仮定(4)も、負帰還インバータアンプ30の入力容量が5fFで、バス配線10と結合容量100fFの合計容量600fFに比べてはるかに小さいので満たされている。
【0045】
なお、実際の設計では、PMOSとNMOSのMOSFET特性の違い等があるので、上記の計算で求めた抵抗値には微調整が必要である。またR1~R2の値は所望の効果が得られる範囲である程度の幅を許容することができる。
【0046】
[実施例1]
次に、本実施形態に係る信号伝送回路1の実施例1を説明する。
図4に示す回路において、R1=83KΩ、R2=100KΩとし、バスには配線抵抗R4として、400Ωを挿入した。信号は入力端子INPUTに与えられ(
図4の「入力」)、インバータ2段により増幅されて信号伝送回路が駆動される。バス配線からの信号は負帰還インバータアンプ30により増幅されたのち、更にインバータによって増幅されて出力端子OUTPUTから出力される(
図4の「出力」及び「反転出力」)。
【0047】
入力電圧を1.2Vで1GHzの矩形信号を入力した場合、
図5に示すように、入力波形に対して、小振幅の負帰還インバータアンプ30の受信初段入力波形が得られた。また、負帰還インバータアンプ30の次段のインバータからの出力波形が得られた。また、入力電圧を1.2Vで10MHzの矩形信号を入力した場合、
図6に示すように、入力波形に対して、小振幅の負帰還インバータアンプ30の受信初段入力波形と、負帰還インバータアンプ30の次段のインバータからの出力波形が得られた。
【0048】
電流-周波数特性については、
図7は、電源電圧1.3V、チップ温度(ジャンクション温度)105℃(動作許容最高温度)、MOSFETの性能:Fast(最もMOSFETの性能が高い)の条件で計測した電流-周波数特定のグラフである。
図8は、電源電圧1.2V、チップ温度(ジャンクション温度)55℃(標準的な動作温度)、MOSFETの性能:Typ(製造範囲のセンター条件)の条件で計測した電流-周波数特定のグラフである。即ち、
図7は、動作電流が最も大きくなる場合の電流―周波数特性を示し、
図8は、標準的な電源電圧及び温度で動作している場合の電流―周波数特定を示す。
図7及び
図8のように、300MHz以上の高い周波数になると、低振幅によるバス配線10の充放電電流低減効果が顕著に現れ、CMOSによるインバータのみで構成される信号伝送回路の1/3程度に低減できることがわかった。
【0049】
以上、本実施形態に係る信号伝送回路1では、以下の効果を奏する。
【0050】
(1)信号伝送回路1は、駆動回路20の近傍のバス配線10に配置される結合部40を備え、結合部40は、バス配線10に直列に配置されるコンデンサ41と、コンデンサ41に並列に配置される抵抗42と、を備える。結合部40により、負荷容量が小さく見えるので、駆動する回路の素子サイズを小さくすることができる。これにより、信号伝送回路1が配置されるモジュールの面積の縮小と、信号伝送回路1の消費電力の低減とをすることができる。また、負帰還インバータアンプ30の出力データが消失しないので、ラッチ回路を用いる必要がなく、信号伝送回路1を安価に構成することができる。
【0051】
(2)また、結合部40のコンデンサ41の容量をC1、バス配線10の静電容量をC2、結合部40の抵抗42の抵抗値をR1、負帰還インバータアンプの負帰還抵抗値をR2、前記負帰還インバータアンプの出力のDC的ローレベルをVOL、前記負帰還インバータアンプの出力のDC的ハイレベルをVOH、電源電圧をVDDとして、以下の数12
【数12】
を満たすようにした。これにより、負帰還インバータアンプ30の遅延時間が動作サイクル時間によらず一定に近付けられるので、チップのタイミング設計の余裕度を大きくすることができる。
【0052】
(3)また、信号伝送回路1の設計方法において、コンデンサ41の静電容量及び抵抗42の抵抗値は、負帰還インバータアンプ30への入力電圧のH/Lレベルに基づいて決定される。これにより、負帰還インバータアンプ30の遅延時間を大きく変動させずに動作の安定した信号伝送回路1を得ることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 信号伝送回路
10 バス配線
20 駆動回路
30 負帰還インバータアンプ
31 負帰還抵抗
32 反転増幅器
40 結合部
41 コンデンサ
42 抵抗