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特許7002190糖ペプチドと反応するモノクローナル抗体およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】糖ペプチドと反応するモノクローナル抗体およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20220128BHJP
   C07K 16/32 20060101ALI20220128BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220128BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220128BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C07K16/32
G01N33/53 V
C12N15/13
C12Q1/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2016207789
(22)【出願日】2016-10-24
(65)【公開番号】P2018070454
(43)【公開日】2018-05-10
【審査請求日】2019-09-20
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02349
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02350
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 政俊
(72)【発明者】
【氏名】江頭 由里子
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0241450(US,A1)
【文献】特開昭63-307900(JP,A)
【文献】日本食品科学工学会誌,Vol. 61, No. 1,2014年,pp.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖のCDRが配列番号1で示されるアミノ酸配列、重鎖のCDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列および重鎖のCDR3が配列番号3または配列番号9で示されるアミノ酸配列を含み、軽鎖のCDRが配列番号4で示されるアミノ酸配列、軽鎖のCDR2が配列番号5または配列番号11で示されるアミノ酸配列および軽鎖のCDR3が配列番号6で示されるアミノ酸配列を含み、
(a)に示す糖ペプチドに反応し、
【化1】
(b)に示す糖ペプチドに反応しない、
【化2】
モノクローナル抗体。
【請求項2】
重鎖のCDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列、重鎖のCDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列および重鎖のCDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列を含み、軽鎖のCDR1が配列番号4で示されるアミノ酸配列、軽鎖のCDR2が配列番号5で示されるアミノ酸配列および軽鎖のCDR3が配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むものである請求項1記載の抗体。
【請求項3】
重鎖のCDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列、重鎖のCDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列および重鎖のCDR3が配列番号9で示されるアミノ酸配列を含み、軽鎖のCDR1が配列番号4で示されるアミノ酸配列、軽鎖のCDR2が配列番号11で示されるアミノ酸配列および軽鎖のCDR3が配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むものである請求項1記載の抗体。
【請求項4】
フコシル化AFPに更に反応する、請求項1~3のいずれかに記載の抗体。
【請求項5】
0.03質量/質量%以上のSDSを含む溶液で前処理して得られるフコシル化AFPと、0.025質量/質量%以下のSDSの存在下で反応する請求項1~4のいずれかに記載の抗体。
【請求項6】
国際受託番号がNITE BP-02349またはNITE BP-02350のハイブリドーマ。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の抗体を用いる、フコシル化AFPの測定方法。
【請求項8】
0.03質量/質量%以上のSDSを含む溶液でフコシル化AFPを前処理し、前記処理後に0.025質量/質量%以下のSDSの存在下で前記抗体を用いて前記フコシル化AFPと反応させる、請求項記載の方法。
【請求項9】
フコシル化AFPの捕捉用抗体、フコシル化AFPの検出用抗体、固相を含み、
前記捕捉用抗体または前記検出用抗体が請求項1~の何れかに記載の抗体である、
フコシル化AFP検出用キット。
【請求項10】
0.03質量/質量%以上のSDSを含む前処理試薬を更に含む、請求項記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖ペプチドと反応するモノクローナル抗体およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
肝炎・肝硬変から肝臓がんへ移行する際、生体試料中にレンズ豆レクチン(LCA)に結合するα-フェトプロテイン(AFP)(LCA結合性AFP)が増加すると言われている。特許文献1には、LCA結合性AFPを検出するための抗体が記載されている。特許文献1の抗体は、結合性AFPに反応性を示し、LCA非結合性AFPには反応性を示さない旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-307900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、LCAが結合するAFPの糖鎖は、フコース(Fucose)が存在する、と記載されている。生体試料中のレンズ豆レクチンに結合するAFPの画分は、AFP-L3画分と呼ばれる。AFP-L3画分は、フコシル化AFP(AFPのアスパラギン残基にコアフコース(N型糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)にα1-6結合しているフコース)が付加したAFP)により構成される。
【0005】
特許文献1の実施例では、LCA結合性AFP(AFP-LCA-R)に結合し、LCA非結合性AFP(AFP-LCA-NR)に結合しない抗体が取得されている(実施例1、表1、図1参照)。しかし、この抗体のエピトープは不明である。実施例では、LCA結合性と非結合性は上述の通りフコースの有無に起因しているとされており、抗原との結合性はペプチド部分の配列に依存せずフコース部分に依存する可能性がある。その場合、AFPだけでなく、それ以外のフコースを有するタンパク質にも非特異的に結合する可能性がある。そのため、糖ペプチドのフコース部分とペプチド部分のアミノ酸の両方をエピトープとするモノクローナル抗体の開発が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(a)に示す糖ペプチドに反応し、
【化1】
(b)に示す糖ペプチドに反応しない、
【化2】
モノクローナル抗体を提供する。
【0007】
本発明は、国際受託番号がNITE BP-02349またはNITE BP-02350のハイブリドーマを提供する。
【0008】
本発明は、上記抗体を用いる、フコシル化AFPの測定方法を提供する。
【0009】
本発明は、フコシル化AFPの捕捉用抗体、フコシル化AFPの検出用抗体、固相を含み、前記捕捉用抗体または前記検出用抗体が上記抗体である、フコシル化AFP検出用キットを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗体は、糖鎖部分とペプチド部分の両方を1つの抗体でかつ高い特異度で認識できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】抗体生産細胞の培養上清を用いて表2に記載の陽性抗原(糖ペプチドA)または陰性抗原(非フコシル化糖ペプチドA)を抗原として、抗原固相ELISAを行った結果を示す図である。
図2】抗体生産細胞の培養上清を用いてリコンビナントAFP-L3、非フコシル化AFP、フコシル化ALPを抗原として、抗原固相ELISAを行った結果を示す図である。
図3】ハイブリドーマ培養上清を用いてリコンビナントAFP-L3、非フコシル化AFP、フコシル化ALPを抗原として、抗原固相ELISAを行った結果を示す図である。
図4】実施例1において得られたクローンS4-1F8およびS4-4F9のウエスタンブロットの結果を示す図である(レーン1:フコシル化AFP(AFP-L3/組換え体)(陽性抗原)、レーン2:非フコシル化AFP(ヒト血清由来AFP(LEE biosolutions)のLCAレクチン非吸着画分)(陰性抗原)、レーン3:フコシル化ALP(オリエンタル酵母/ 47787055))(陰性抗原)。
図5】陽性糖ペプチド(Fuc+)、陰性糖ペプチド(Fuc-)を抗原として、抗原固相ELISAを行った結果を示す図である。
図6】S4-1F8のウエスタンブロットの結果を示す図である(レーン1: リコンビナントAFP-L3、レーン2: 非フコシル化AFP、レーン3: 天然ヒトAFP(ミュータスワコー AFP-L3用キャリブレータ1)、レーン4: 天然ヒトAFP-L3 (ミュータスワコー AFP-L3用キャリブレータ2))。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態の抗体は、本実施形態の抗体が使用される生体試料等を用いた測定系で特異性を発揮すればよい。例えば、生体試料に含まれない物質と非特異的に結合したとしても、本実施形態の抗体が通常使用される環境で特異性を発揮すれば、本発明の作用効果を奏する。具体的には、全血、血清、血漿などの血液試料中の物質をELISAにより検出する場合、ELISA測定系において特異性を示せばよく、血液試料やELISA試薬に通常含まれない物質に結合してもよい。
【0013】
本実施形態の抗体は、(a)に示す糖ペプチド(配列番号13)に反応し、
【化3】
(b)に示す糖ペプチド(配列番号14)に反応しない、
【化4】
モノクローナル抗体である。
【0014】
なお、本明細書において、本実施形態の抗体が「糖ペプチドと反応する」とは、抗原抗体反応により糖ペプチドと抗体とが結合することをいう。
【0015】
更に、上記抗体は、フコシル化AFPに反応するものが好ましい。
【0016】
更に、上記抗体は、SDSなどの変性剤や熱などで前処理した変性フコシル化AFPと結合し得る。前処理としてSDSを含む溶液を用いる場合の、フコシル化AFPを十分に変性させるためのSDS濃度(以下、これを「前処理SDS濃度」という)は、特に限定されないが、0.03質量/質量%(以下、単に「%」という)以上が好ましく、0.25%がより好ましい。一方、抗原抗体反応時は変性剤が過剰に含まれると、抗体も変性して抗原抗体反応に好ましくない影響が生じる可能性があるため、希釈などによって変性剤の濃度を低下させることが好ましい。変性剤としてSDSを含む溶液を用いる場合、抗原抗体反応時のSDS濃度(以下、これを「最終SDS濃度」という)は、特に限定されないが、0.025%以下が好ましく、0.0015%がより好ましい。
【0017】
なお、本明細書において、本実施形態の抗体が「フコシル化AFPと反応する」とは、抗原抗体反応によりフコシル化AFPと抗体とが結合することをいう。フコシル化AFPは、組換え体、天然の何れでもよい。天然のフコシル化AFPは、たとえば、ヒト血中に存在するAFPである。ヒトAFPの配列は、たとえば、GenBank Accession No. NM_001134に登録されており、配列番号26のアミノ酸配列を有する。
【0018】
更に、上記抗体は、SDSおよびDTTの存在下で変性したフコシル化AFPに反応するものが好ましい。変性の条件は、2%のSDS、50mMのDTT存在下、常温(25℃)での反応である。
【0019】
更に、上記抗体は、SDSおよびDTTの存在下で変性した非フコシル化AFPに反応しないものが好ましい。変性の条件は、2%のSDS、50mMのDTT存在下、常温(25℃)での反応である。
【0020】
本実施形態の抗体のCDRとしては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0021】
<CDR-A>
重鎖のCDRが、配列番号1で示されるアミノ酸配列、配列番号2で示されるアミノ酸配列、配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む。
軽鎖のCDRが、配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号5で示されるアミノ酸配列、配列番号6で示されるアミノ酸配列を含む。
【0022】
<CDR-B>
重鎖のCDRが、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む。
軽鎖のCDRが、配列番号10で示されるアミノ酸配列、配列番号11で示されるアミノ酸配列、配列番号12で示されるアミノ酸配列を含む。
【0023】
CDRとして、上記CDR-A、CDR-Bを有する本実施形態の抗体を産生するハイブリドーマは、それぞれS4-1F8、S4-4F9と名付け、2016年9月8日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番地8 122号室)にNITE BP-02349、NITE BP-02350として国際寄託した。
【0024】
本実施形態の抗体は、以下の構造を含む糖ペプチド抗原(配列番号15)を動物に免疫する工程を含む方法により得られる。
【化5】
Xは、任意の糖鎖であり、一般的に糖タンパクや糖ペプチドに結合している糖鎖であれば特に限定されない。
【0025】
糖ペプチド抗原のN末には、KLH、BSA等の生体高分子を、PEG等を介して結合させてもよい。また、これら糖ペプチド抗原のC末はアミド化等してもよい。N末に生体高分子を結合する方法は、公知の方法を利用できる。また、C末のアミド化も公知の方法を利用できる。
【0026】
糖ペプチド抗原を動物に免疫する工程は、公知のモノクローナル抗体の生産方法における動物に免疫する工程を利用することができる。モノクローナル抗体の生産方法として、例えば、マウス脾臓法、マウス腸骨リンパ節法(特許第4098796号公報参照)等が挙げられる。
【0027】
免疫される動物は特に限定されることはなく、非ヒト動物の中からモノクローナル抗体の生産方法にあわせて適宜選択すればよい。
【0028】
具体的に、モノクローナル抗体の生産方法としてマウス脾臓法を用いる場合、公知の方法に従って、動物に免疫をすればよい。
【0029】
動物に免疫した後は、公知の方法に従って、ハイブリドーマの作製、選別等を行い、本実施形態の抗体を得ればよい。
【0030】
ハイブリドーマの選別の際には、抗原とした糖ペプチド、抗原とした糖ペプチドからコアフコースを除去したもの、抗原とした糖ペプチドのアミノ酸残基の一部を含むもの、SDSおよびDTTの存在下で変性したフコシル化AFP、SDSおよびDTTの存在下で変性した非フコシル化AFP、コアフコースを有し且つAFPとは異なるアミノ酸配列のポリペプチドを有する糖ペプチドまたは糖タンパク質(例えば、フコシル化ALPなど)等を陽性抗原または陰性抗原として適宜利用すればよい。
【0031】
ハイブリドーマの選別の基準は、例えば、ELISAを用いる場合であれば、陽性抗原と陰性抗原とのOD450値の差が0.05以上であり、かつ陰性抗原のOD450値が0.05以下である。
【0032】
本実施形態の抗体のアイソタイプは特に限定されない。また、本実施形態の抗体には、F(ab’)2、Fab’、Fab、CDRを含むペプチド等の断片も含まれる。
【0033】
本実施形態の抗体は、ビオチン化、ALP化等の標識化をしてもよい。
【0034】
本実施形態の抗体は、上記性質を有するため、フコシル化AFPと反応し、非フコシル化AFPと反応しない。そのため、本実施形態の抗体は、例えば、生体試料中のフコシル化AFPを測定することができる。
【0035】
生体試料としては、例えば、被験者から採取した全血、血清、血漿等が挙げられる。この生体試料は、遠心分離、変性処理等の前処理を行ってもよい。生体試料は変性処理を行うことが好ましい。変性処理の条件は、2%のSDS、50mMのDTT存在下、常温(25℃)の反応である。
【0036】
本実施形態の抗体を用いて、フコシル化AFPを測定するには、公知の免疫学的測定方法が利用できる。免疫学的測定法としては、例えば、酵素結合免疫吸着法(ELISA法)、免疫複合体転移測定方法(特開平1-254868号公報参照)、免疫比濁法、イムノクロマト法、ラテックス凝集法等が挙げられる。測定工程の一例として、サンドイッチELISA法により生体試料中のフコシル化AFP濃度を測定する場合を以下に説明する。
【0037】
まず、生体試料中のフコシル化AFPを捕捉するための抗体(以下、「捕捉用抗体」ともいう)と、フコシル化AFPを検出するための抗体(以下、「検出用抗体」ともいう)と、フコシル化AFPとを含む複合体を固相上に形成させる。この複合体は、生体試料にフコシル化AFPが含まれる場合は、生体試料と、捕捉用抗体と、検出用抗体とを混合することにより形成できる。そして、複合体を含む溶液を、捕捉用抗体を捕捉できる固相と接触させることにより、上記の複合体を固相上に形成させることができる。あるいは、捕捉用抗体をあらかじめ固定した固相を用いてもよい。すなわち、捕捉用抗体を固定した固相と、生体試料と、検出用抗体とを接触させることにより、上記の複合体を固相上に形成させることができる。本実施形態の抗体は、捕捉用抗体および検出用抗体の少なくとも一方に用いることができる。
【0038】
捕捉用抗体の固相への固定の態様は特に限定されない。例えば、捕捉用抗体と固相とを直接結合させてもよいし、捕捉用抗体と固相とを別の物質を介して間接的に結合させてもよい。直接の結合としては、例えば、物理的吸着等が挙げられる。間接的な結合としては、例えば、ビオチンと、アビジンまたはストレプトアビジン(以下、「アビジン類」ともいう)との組み合わせを介した結合が挙げられる。この場合、捕捉用抗体をあらかじめビオチンで修飾し、固相にアビジン類をあらかじめ結合させておくことにより、ビオチンとアビジン類との結合を介して、捕捉用抗体と固相とを間接的に結合させることができる。
【0039】
固相の素材は特に限定されず、例えば、有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子等から選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロムおよびフェライト等)、シリカ、アルミナ、ガラス等が挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロース等が挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。固相の形状は特に限定されず、例えば、粒子、膜、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管等が挙げられる。
【0040】
固相上に形成された複合体を、当該技術において公知の方法で検出することにより、生体試料におけるフコシル化AFPの測定値を取得できる。例えば、検出用抗体として、標識物質で標識した抗体を用いた場合は、その標識物質により生じるシグナルを検出することにより、フコシル化AFPの測定値を取得できる。あるいは、検出用抗体に対する標識二次抗体を用いた場合も、同様にしてフコシル化AFPの測定値を取得できる。
【0041】
本実施形態では、フコシル化AFPを、上記のようにして前処理することが好ましい。前処理としてSDSを含む溶液を用いる場合の、前処理SDS濃度は、特に限定されないが、0.03%以上が好ましく、0.25%がより好ましい。抗原抗体反応時は、上記の通り、希釈などによって変性剤の濃度を低下させることが好ましい。変性剤としてSDSを含む溶液を用いる場合、最終SDS濃度は、特に限定されないが、0.025%以下が好ましく、0.0015%がより好ましい。本実施形態では、このような処理をして、前記抗体と前記フコシル化AFPとを反応させてフコシル化AFPの測定値を取得することが好ましい。
【0042】
本実施形態では、複合体の形成工程と複合体の検出工程との間に、複合体を形成していない未反応の遊離成分を除去するB/F(Bound/Free)分離を行ってもよい。未反応の遊離成分とは、複合体を構成しない成分をいう。例えば、フコシル化AFPと結合しなかった抗体、生体試料中のフコシル化AFP以外の物質(夾雑物質)等が挙げられる。B/F分離の手段は特に限定されないが、固相が粒子であれば、遠心分離により、複合体を捕捉した固相だけを回収することによりB/F分離ができる。固相がマイクロプレートやマイクロチューブ等の容器であれば、未反応の遊離成分を含む液を除去することによりB/F分離ができる。また、固相が磁性粒子の場合は、磁石で磁性粒子を磁気的に拘束した状態でノズルによって未反応の遊離成分を含む液を吸引除去することによりB/F分離ができる。未反応の遊離成分を除去した後、複合体を捕捉した固相をPBS等の適切な水性媒体で洗浄してもよい。
【0043】
本明細書において、「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナル強度を定量すること、および、シグナルの強度を半定量的に検出することを含む。半定量的な検出とは、シグナルの強度を、「シグナル発生せず」、「弱」、「中」、「強」等のように段階的に示すことをいう。本実施形態では、シグナルの強度を定量的または半定量的に検出することが好ましい。
【0044】
標識物質は、検出可能なシグナルが生じるかぎり特に限定されない。例えば、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)であってもよいし、他の物質の反応を触媒してシグナルを発生させる物質であってもよい。シグナル発生物質としては、例えば、蛍光物質、放射性同位元素等が挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば、酵素等が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ等が挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)等の蛍光色素、GFP等の蛍光タンパク質等が挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32P等が挙げられる。それらの中でも、標識物質として、酵素が好ましく、アルカリホスファターゼおよびペルオキシダーゼが特に好ましい。
【0045】
シグナルを検出する方法自体は、当該技術において公知である。本実施形態では、上記の標識物質に由来するシグナルの種類に応じた測定方法を適宜選択すればよい。例えば、標識物質が酵素である場合、該酵素に対する基質を反応させることによって発生する光、色等のシグナルを、分光光度計等の公知の装置を用いて測定することにより行うことができる。
【0046】
酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質として、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)等の化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸等の発色基質が挙げられる。また、酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合、基質としては、ルミノールおよびその誘導体等の化学発光基質、2, 2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)(ABTS)、1, 2-フェニレンジアミン(OPD)、3, 3', 5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)等の発色基質が挙げられる。
【0047】
標識物質が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンター等の公知の装置を用いて測定できる。また、標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダー等の公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長および蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0048】
シグナルの検出結果は、フコシル化AFPの測定値として用いてもよい。例えば、シグナルの強度を定量的に検出する場合は、シグナル強度の測定値自体または該測定値から取得される値を、フコシル化AFPの測定値として用いることができる。シグナル強度の測定値から取得される値としては、例えば、フコシル化AFPの測定値から陰性対照試料の測定値またはバックグラウンドの値を差し引いた値等が挙げられる。陰性対照試料は適宜選択できるが、例えば、健常者から得た生体試料等が挙げられる。
【0049】
本実施形態では、フコシル化AFP濃度が既知の複数の標準試料についてフコシル化AFPの測定値を取得し、フコシル化AFP濃度とフコシル化AFPの測定値との関係を示す検量線を作成してもよい。生体試料から取得したフコシル化AFPの測定値をこの検量線に当てはめて、生体試料中のフコシル化AFP濃度の値を取得することができる。
【0050】
本実施形態では、磁性粒子に固定された捕捉用抗体と、標識物質で標識された検出用抗体とを用いるサンドイッチELISA法により、生体試料中のフコシル化AFP濃度を測定してもよい。この場合、測定は、HISCLシリーズ(シスメックス株式会社製)等の市販の全自動免疫測定装置を用いて行ってもよい。
【0051】
また、本実施形態の抗体は、フコシル化AFP検出用キットに利用することができる。本実施形態のフコシル化AFP検出用キットは、捕捉用抗体、検出用抗体、固相を含む。捕捉用抗体または検出用抗体として、本実施形態の抗体が用いられ得る。サンドイッチイムノアッセイにおいては、捕捉用抗体および検出用抗体のいずれかに本実施形態の抗体を用いることができる。
【0052】
本実施形態のフコシル化AFP検出用キットは、更に、検出用抗体の標識物質が酵素である場合、本実施形態のフコシル化AFP検出用キットは、酵素に対する基質を更に含んでいてもよい。標識物質および基質の形態は特に限定されず、固体(例えば、粉末、結晶、凍結乾燥品等)であってもよいし、液体(例えば、溶液、懸濁液、乳濁液等)であってもよい。
【0053】
本実施形態のフコシル化AFP検出用キットは、上記したフコシル化AFPを前処理するために、更にSDSを0.03%以上、好ましくは0.25%含む前処理試薬を含んでもよい。前記試薬は上記したSDSを0.03%以上含む溶液と同様である。
【0054】
本実施形態のフコシル化AFP検出用キットは、更に、生体試料の前処理液、固相の洗浄液、酵素反応の停止剤、キャリブレーター等を適宜含んでいてもよい。
【0055】
本実施形態のフコシル化AFP検出用キットは、捕捉用抗体、検出用抗体、固相等をキットの形態にあわせて適宜容器に収容するか、個別に包装すればよい。本実施形態のフコシル化AFP検出用キットにおいて、捕捉用抗体は固相に直接結合させてもよいし、捕捉用抗体と固相とを、別の物質を介して間接的に結合させてもよい。捕捉用抗体と固相とを間接的に結合させる場合は、本実施形態のキットにおいて捕捉用抗体と固相とを別々の容器に収容してもよい。捕捉用抗体と固相とを、例えば、ビオチンとアビジン類を介して間接的に結合させる場合、ビオチンで修飾した捕捉用抗体を1つの容器に収容し、アビジン類を結合した固相を別の容器に収容すればよい。なお、生体試料、捕捉用抗体、検出用抗体、固相等についての詳細は、上記の測定方法の説明で述べたことと同様である。
【0056】
フコシル化AFPは肝臓癌との関連が知られている。そのため、本実施形態のフコシル化AFP検出用キットは、肝臓癌の診断に用いられ得る。
【実施例
【0057】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
実施例1
抗体の取得:
(1)抗体群の取得
マウス脾臓法により抗体群を産生するハイブリドーマを得た。具体的には、下記表1に記載の構造の糖ペプチドA(配列番号16)を合成し、これをKLHとコンジュゲートし、マウス3匹へ免疫した。抗体価が上がったことを確認した後、マウスの脾臓よりリンパ球を単離し、ミエローマと細胞融合させハイブリドーマを得た。
【0059】
【表1】
丸はMannoses、四角はN-acetylglucosamine、三角はfucoseを表す。
糖ペプチドのN末は、KLH-PEG4であり、C末はアミド化されている。
【0060】
(2)一次スクリーニング
上記(1)で得たハイブリドーマから表2に記載の陽性抗原(糖ペプチドA)または陰性抗原(非フコシル化糖ペプチドA:配列番号17)を用いた抗原固相ELISAにより、陽性抗原に反応を示し、陰性抗原への反応が少ないウェルを選定した。抗原固相ELISAは以下の手法で行った。結果を図1に示した。
【0061】
【表2】
丸はMannoses、四角はN-acetylglucosamine、三角はfucoseを表す。
糖ペプチドのN末は、KLH-PEG4であり、C末はアミド化されている。
【0062】
<手法>
(1)96穴プレート(nunc Maxisoap/446612)に、各スクリーニング抗原1μg/ml(希釈液10mMリン酸バッファーpH7)を50μl/well添加し、37℃、1hr固相化する。
(2)各ウェルをPBST 300μl/well×5回洗浄する。
(3)各ウェルを1%BSA-PBS 100μl/well、4℃、Overnightブロッキングする。
(4)各ウェルをPBST 300μl/well×5回洗浄する。
(5)抗体培養上清(一次抗体)を1%BSA-PBSで10倍希釈し、50μl/well添加し、RT、1hr反応させる。
(6)各ウェルをPBST 300μl/well×5回洗浄する。
(7)anti mouse IgG-HRP(JIR/715-035-151)およびanti mouse IgG Lchain-HRP(JIR/115-035-174)を1%BSA-PBSで20,000倍希釈し、50μl/well添加し、RT、0.5hr反応させる。
(8)各ウェルをPBST 300μl/well×5回洗浄する。
(9)HRP発色基質を100μl/well添加し、発色させる。
(10)停止液を100μl/well添加し、発色を停止させる。
(11)OD450を測定する。
【0063】
(3)二次スクリーニング
一次スクリーニングと同様に、抗体生産細胞の培養上清を用いてAFP-L3、AFP、フコース修飾したALPを抗原として、抗原固相ELISAを実施した。結果を図2に示した。
【0064】
一次スクリーニングと二次スクリーニングの結果から、1F8クローンと4F9クローンから得られる抗体を選択した。上記で得られたクローンのうち、1F8クローンをS4-1F8と名付けて国際寄託(NITE BP-02349)した。また、4F9クローンをS4-4F9と名付けて国際寄託(NITE BP-02350)した。
【0065】
実施例2
取得した抗体の特異性確認:
実施例1で選択したクローンからそれぞれ生産された抗体S4-1F8、S4-4F9の反応特異性を調べるため、以下の検討を実施した。
(1)抗原固相ELISA
<材料>
固相抗原:リコンビナントAFP-L3、非フコシル化AFP、フコシル化ALP
一次抗体:S4-1F8、S4-4F9(ハイブリドーマ培養上清)
二次抗体:anti mouse IgG-HRP(医学生物学研究所/IM-0817 )
【0066】
<手法>
(1) 96穴プレート(nunc Maxisoap/446612)に、各抗原0.5μg/ml(希釈液10mMトリスバッファーpH7.4)を100μl/well添加し、RT、1hr固相化する。
(2) 各ウェルをTBST 300μl/well×5回洗浄する。
(3) 各ウェルを1%BSA-TBS 300μl/well、4℃、Overnightブロッキングする。
(4) 各ウェルをTBST 300μl/well×5回洗浄する。
(5) 抗体培養上清(一次抗体)を1%BSA-TBSTで10倍希釈し、100μl/well添加し、RT、1hr反応させる。
(6) 各ウェルをTBST 300μl/well×5回洗浄する。
(7) 二次抗体を1%BSA-TBSTで10,000倍希釈し、100μl/well添加し、RT、0.5hr反応させる。
(8) 各ウェルをTBST 300μl/well×5回洗浄する。
(9) HRP発色基質を100μl/well添加し、発色させる。
(10) 停止液を100μl/well添加し、発色を停止させる。
(11) OD450を測定する。
【0067】
<結果>
抗原固相ELISAの結果を図3に示した。S4-1F8、S4-4F9はいずれもAFP-L3特異的に反応を示した。
【0068】
(2)ウェスタンブロット
<材料>
泳動抗原:リコンビナントAFP-L3 (lane1)、非フコシル化AFP (lane2)、フコシル化ALP (lane3) 各0.05μg
一次抗体:S4-1F8, S4-4F9(10倍希釈ハイブリドーマ培養上清) 4℃ O/N
二次抗体:以下の二種混合 RT 1hr
anti mouse-IgG(Fc) Ab -HRP(BET/cat#A90-131P)(20,000倍希釈)
anti mouse-IgM Ab -HRP(SBA/cat#1020-05)(5,000倍希釈)
【0069】
<手法>
(1)各抗原にNuPAGE LDS Sample Buffer (4X) (Thermo/NP0008)を1/4量、NuPAGE Sample Reducing Agent (10X) (Thermo/NP0009)を1/10量添加し混和する。
(2)分子量マーカーおよび(1)の各抗原を電気泳動(SDS-PAGE)する。
(3)PVDFメンブレンにブロッティングする。
(4)PVDF Blocking Reagent for Can Get Signalに室温で1時間浸しブロッキングする。
(5)TBSTで3回洗浄する。
(6)一次抗体を1%BSA-TBSTで下記の希釈倍率に希釈し、4℃、Overnight反応させる。
(7)TBSTで3回洗浄する。
(8)二次抗体を1%BSA-TBSTで上記<材料>に記載の希釈倍率になるよう希釈し、室温で1時間反応させる。
(9)TBSTで3回洗浄する。
(10)化学発光にて検出する。
【0070】
<結果>
ウェスタンブロットの結果を図4に示した。S4-1F8、S4-4F9はいずれもAFP-L3にのみ反応を示した。
【0071】
(3)エピトープの確認
抗体S4-1F8、S4-4F9のエピトープ範囲を調べるため、以下の検討を実施した。
<材料>
固相抗原:下表3に示す糖ペプチド(配列番号18~25)を用いた(Fuc+, Fuc-)
一次抗体:S4-1F8、S4-4F9(ハイブリドーマ培養上清)
二次抗体:anti mouse IgG-HRP(医学生物学研究所/IM-0817 )
【0072】
【表3】
【0073】
<手法>
(1)96穴プレート(nunc Maxisoap/446612)に、各抗原2μg/ml(希釈液10mMトリスバッファーpH7.4)を100μl/well添加し、RT、1hr固相化する。
(2)各ウェルをTBST 300μl/well×5回洗浄する。
(3)各ウェルを1%BSA-TBS 300μl/well、4℃、Overnightブロッキングする。
(4)各ウェルをTBST 300μl/well×5回洗浄する。
(5)抗体培養上清(一次抗体)を1%BSA-TBSTで10倍希釈し、100μl/well添加し、RT、1hr反応させる。
(6)各ウェルをTBST 300μl/well×5回洗浄する。
(7)二次抗体を1%BSA-TBSTで10,000倍希釈し、100μl/well添加し、RT、0.5hr反応させる。
(8)各ウェルをTBST 300μl/well×5回洗浄する。
(9)HRP発色基質を100μl/well添加し、発色させる。
(10)停止液を100μl/well添加し、発色を停止させる。
(11)OD450を測定する。
【0074】
<結果>
抗原固相ELISAの結果を図5に示した。S4-1F8、S4-4F9はいずれの陽性糖ペプチド(Fuc+)には反応性を示し、陰性糖ペプチド(Fuc-)には反応性を示さなかった。
【0075】
いずれの糖ペプチドにおいてもフコースの有無により顕著に反応性が異なっているため、フコースがエピトープに含まれていることが示唆される。
フコースを持つ別のタンパク質(ALP)に対しては反応性を示さなかったことから、フコースだけではなく、ペプチド部分もエピトープに含まれていることが示唆される。
ペプチド鎖の最も短い糖ペプチド(7a.a. 3糖)にも反応していることから、ペプチド部分のエピトープは“TKVNFT”に含まれていると考えられる。
【0076】
(4)CDR配列の確認
S4-1F8、S4-4F9のCDR解析を行った。S4-1F8抗体のCDR配列(配列番号1~6)を表4に示した。S4-4F9抗体のCDR配列(配列番号7~12)を表5に示した。
【0077】
【表4】
【0078】
【表5】
【0079】
実施例3
サンドイッチELISAの構築およびSDSによる反応性への影響:
実施例1で得られたS4-1F8またはS4-4F9を用い、以下のようにしてサンドイッチELISAの構築を試みた。また、SDSによる反応性への影響を検討した。
<材料>
抗体感作プレート(S4-1F8, S4-4F9/2.5μg/mL 100μL/well)
リコンビナントAFP-L3抗原
抗AFP抗体:Polyclonal Antibody to Alpha-Fetoprotein(WLS/# PAA153Hu01)
標識抗体:Goat anti rabbit immunoglobulin-HRP
Buffer A: 150mM NaCl + 1% BSA / 10mMリン酸緩衝液 (pH7)
Buffer B: 150mM NaCl +0.05% Tween20 / 10mMリン酸緩衝液 (pH7)
【0080】
<手法>
(1)(抗原前処理)20μg/mLのAFP-L3抗原溶液に2%、1%、0.5%、0.25%、0.13%、0.06%のSDS溶液を等量加え、混合後3分以上静置する。(前処理SDS濃度:0.03 - 1%)
(2)抗原濃度が1μg/mL, 0.5μg/mL, 0.25μg/mLとなるようにBuffer Aで希釈する。(最終SDS濃度:0.00075% - 0.1%)
(3)抗体感作プレートに抗原溶液を100μL/well添加し、室温で60分反応させる。
(4)Buffer Bで各ウェルを洗浄後、400倍希釈した抗AFP抗体を100μL/well添加し、室温で60分反応させる。
(5)Buffer Bで各ウェルを洗浄後、4000倍希釈した標識抗体を100μL/well添加し、室温で40分反応させる。
(6)Buffer Bで各ウェルを洗浄後、HRP発色基質を100μl/well添加し、20分発色させる。
(7)停止液を100μl/well添加して発色を停止させ、OD450を測定する。
【0081】
<結果>
S4-1F8を用いた場合の各種抗原濃度、最終SDS濃度、前処理SDS濃度におけるOD450の測定値を表6に示した。また、S4-4F9を用いた場合の各種抗原濃度、最終SDS濃度、前処理SDS濃度におけるOD450測定値を表7に示した。
【0082】
【表6】
【0083】
【表7】
【0084】
何れのSDS濃度においてもシグナルが測定され、AFP-L3が検出された。抗原抗体反応時のSDS濃度が0.05%以下の条件下では強いシグナルが検出され、0.025%以下の条件下ではさらに強いシグナルが検出された。
【0085】
実施例4
サンドイッチELISAの特異性確認:
実施例3で構築されたS4-1F8を用いたサンドイッチELISAについて以下のようにして特異性を確かめた。
<材料>
抗体感作プレート(S4-1F8/2.5μg/mL 100μL/well)
陽性抗原:リコンビナントAFP-L3抗原
陰性抗原1:非フコシル化AFP(ヒト血清由来AFP(LEE biosolutions)のLCAレクチン非吸着画分)
陰性抗原2:AFP以外のフコシル化タンパク質ALP(オリエンタル酵母)
ビオチン化抗AFP抗体:anti AFP, Human (mouse)(ABV/ H00000174-M01)
検出試薬:HRP-Conjugated Streptavidin(Thermo / N100)
Buffer A: 150mM NaCl + 1% BSA / 10mMリン酸緩衝液 (pH7)
Buffer B: 150mM NaCl +0.05% Tween20 / 10mMリン酸緩衝液 (pH7)
【0086】
<手法>
(1) 20μg/mLの各抗原溶液に0.06%のSDS溶液を等量加え(変性)、あるいは加えずに(非変性)、混合後3分以上静置する。(前処理SDS濃度:0.03%)
(2) 抗原濃度が1000ng/mL, 500ng/mL, 250ng/mL, 125ng/mL, 63ng/mL, 31ng/mLとなるようにBuffer Aで希釈する。
(3) 抗体感作プレートに抗原溶液を100μL/well添加し、室温で60分反応させる。
(4) Buffer Bで各ウェルを洗浄後、480倍希釈したビオチン化抗AFP抗体を100μL/well添加し、室温で60分反応させる。
(5) Buffer Bで各ウェルを洗浄後、10000倍希釈した検出試薬を100μL/well添加し、室温で60分反応させる。
(6) Buffer Bで各ウェルを洗浄後、HRP発色基質を100μl/well添加し、10分発色させる。
(7) 停止液を100μl/well添加して発色を停止させ、OD450を測定する。
【0087】
<結果>
S4-1F8を用いた場合の各種抗原濃度におけるOD450の測定値を表8に示した。
【0088】
【表8】
【0089】
変性状態、非変性状態のいずれにおいてもS4-1F8抗体は非フコシル化AFP、及びALPには反応を示さなかった一方で、AFP-L3に対しては抗原濃度依存的にシグナルの上昇が見られた。特に、変性状態ではAFP-L3に対する反応性が顕著に向上していた。これらのことから、S4-1F8抗体はAFP-L3のフコースとペプチド部分を同時に認識することによりサンドイッチELISAでAFP-L3特異的に反応していることが示された。また、抗原を0.03%SDSで前処理することにより強く反応することが示された。
【0090】
実施例5
天然ヒトAFP-L3との反応性:
S4-1F8が天然ヒトAFP-L3と反応するかどうかを以下のようにしてウェスタンブロットで確かめた。
<材料>
泳動抗原:リコンビナントAFP-L3 (lane1) 50ng、非フコシル化AFP (lane2) 50ng、ミュータスワコー AFP-L3用キャリブレータ1(lane3) 0.5ng、 ミュータスワコー AFP-L3用キャリブレータ2(lane4) 0.5ng
一次抗体:S4-1F8(10倍希釈ハイブリドーマ培養上清) 4℃ O/N
二次抗体:anti mouse-IgG(Fc) Ab -HRP(BET/#A90-131P)(20,000倍希釈)RT 1hr
【0091】
<手法>
泳動抗原、一次抗体および二次抗体を上記に代える以外は実施例2の(2)と同様にしてウエスタンブロットを行った。
【0092】
<結果>
ウエスタンブロットの結果を図6に示した。S4-1F8はミュータスワコー AFP-L3用キャリブレータ2、即ち天然ヒトAFP-L3にも反応を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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