(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】クロムをベースとする酸化保護層、コーティングされた基板、および方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20220113BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20220113BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20220113BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20220113BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20220113BHJP
F23R 3/42 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
C23C14/08 J
C23C14/06 A
C23C14/24 F
C23C14/34 N
F01D5/28
F23R3/42 C
(21)【出願番号】P 2016508035
(86)(22)【出願日】2014-04-14
(86)【国際出願番号】 EP2014000991
(87)【国際公開番号】W WO2014170005
(87)【国際公開日】2014-10-23
【審査請求日】2017-02-08
【審判番号】
【審判請求日】2019-02-01
(32)【優先日】2013-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
【住所又は居所原語表記】Churerstrasse 120 8808 Pfeffikon SZ CH
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【氏名又は名称】今井 秀樹
(74)【代理人】
【識別番号】100091867
【氏名又は名称】藤田 アキラ
(72)【発明者】
【氏名】ラム ユルゲン
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】関根 崇
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-506049(JP,A)
【文献】特表2008-533310(JP,A)
【文献】特開2010-229463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温にさらされる基板のためのクロムをベースとする酸化保護層であって、前記層が、ベース層と機能層とを有するクロム含有層系を備え、かつ前記ベース層が、前記基板と前記機能層との間に位置し、
前記ベース層は、本質的に窒化クロムからなり、かつ前記機能層は、交互に析出された個々の層AおよびBを含む多層構造を有し、個々の層Aは本質的に窒化クロムからなり、かつ個々の層Bは本質的に酸化クロムまたは酸窒化クロムからなる酸化保護層において、
互いの上に交互に析出された各個々の層Aと個々の層Bとの間で、前記多層構造が、個々の層Cを有し、その窒素含有量が、直接隣接する個々の層Bの窒素含有量より多く、かつ直接隣接する個々の層Aの窒素含有量より少ないこと、及び、
前記ベース層は最大10μmの厚さであり、前記機能層は最大20μmの厚さであることを特徴とする酸化保護層。
【請求項2】
前記ベース層の層厚が、1μmより大きい請求項1に記載の酸化保護層。
【請求項3】
前記機能層の層厚と前記ベース層の層厚との比率が、0.5~2である請求項1または2に記載の酸化保護層。
【請求項4】
高温にさらされる基板のためのクロムをベースとする酸化保護層であって、前記層が、機能層を有するクロム含有層系を備え、
前記機能層が、交互に析出された個々の層AおよびBを含む多層構造を有し、前記個々の層Aの組成が、前記個々の層Bの組成とは異なり、前記個々の層Aは、本質的に窒化クロムからなり、かつ前記個々の層Bは本質的に酸化クロムまたは酸窒化クロムからなる酸化保護層において、
互いの上に交互に析出された各個々の層Aと個々の層Bとの間で、前記多層構造が、個々の層Cを有し、その窒素含有量が、直接隣接する個々の層Bの窒素含有量より多く、かつ直接隣接する個々の層Aの窒素含有量より少ないこと、及び、
前記機能層は最大20μmの厚さであることを特徴とする酸化保護層。
【請求項5】
各個々の層Aおよび/またはBの層厚が50nm~100nmである請求項1乃至4のいずれか一項に記載の酸化保護層。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の酸化保護層を含むコーティングされた基板。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の酸化保護層の製造方法であって、該方法は、PVDプロセス、スパッタリングプロセス、またはアーク蒸発プロセスの使用を含み、かつ450℃以下のプロセス温度を使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温にさらされる基板のための、クロムをベースとする酸化保護層に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1によると、酸化保護層は、例えば、ガスタービン構成部分、ガスタービン翼、燃焼室のプレートなどで使用される。上記特許には、層がいわゆるプラズマ噴霧によって、懸濁液から基板上に析出される方法が記載される。しかしながら、そのような方法で析出された層は、それらが比較的厚い層でのみ適用可能であり、そのうえ、接着能力に及ぼす悪影響を有するおそれのある応力を有するという不都合を有する。しかしながら、例えば、特許文献2に開示されるように、耐酸化性であり、かつ熱伝導度の低い0020材料も、ピストンと関連して使用される。
【0003】
したがって、使用の間に高温にさらされる基板に対して、良好な酸化保護を提供する層が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】DE 10 2005 061060
【文献】DE 10 2009 035841
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の対象は、そのような層およびその製造方法を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、この対象は、クロム含有層系によって達成される。クロムは、金属クロムの形態であることも、または酸化クロムおよび/もしくは窒化クロムなどの化合物であることもできる。この層および/または層システムは、金属または化合物のいずれかの形態のアルミニウムなどの他の化学元素を含むことができる。好ましくは、中間層が最初に基板上に析出され、次いで、最上層が中間層上に析出される。
【0007】
この層系は、気相から沈殿させることによって析出される。例えば、PVDおよび/またはCVDプロセスをこれに使用することができる。PVDによって層系の層の一部分を適用し、そして層系の層の他の部分をCVDによって適用することも可能である。例えば、真空条件下でのスパッタリングおよび/または蒸発を、PVDプロセスの間に使用することができる。蒸発の特に好ましい形態は、材料が、アークによってターゲット表面から局所的に蒸発されるアーク蒸発である。
【0008】
ここで、本発明を、いくつかの実施例をベースとして、詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1の実施形態によって、厚さ3μmのCrN中間層が基板に適用され、その上へ厚さ3μmのAlCrO層が適用される。
【0011】
本発明によって、AlCrO層は、多層コーティングとして析出されることも可能であり、例えば、個々の層に対して異なる組成で析出されることができる。
【0012】
本発明の第2の実施形態によって、厚さ3.5μmのCrN中間層が基板に適用され、その上へ厚さ3.5μmのAlCrO層が適用される。
【0013】
本発明の第3の実施形態によって、厚さ1.7μmのCrN中間層が基板に適用され、その上へ厚さ1.7μmのAlCrO層が適用される。
【0014】
本発明の第4の実施形態によって、厚さ5μmのCrN中間層が基板に適用され、その上へ厚さ5μmのCrO/N多層(CrO/CrN多層)が適用される。
【0015】
上記実施形態において、コーティング温度は、例えば、450℃であることができる。
【0016】
本発明の第5の好ましい実施形態によって、CrN中間層が基板に適用され、その上へCrN/CrON多層が適用される(これに関しては、
図1に示される球面キャロット研磨を参照のこと)。
図2の電子顕微鏡像から明白であるように、CrN中間層の厚さは約2.4μmであり、そして多層の厚さは約3μmである。
【0017】
実施例の多層は、18層の個々のCrN層および18層の個々のCrON層である、36層の個々の層から構成される(
図1を参照のこと)。層の適用に関しては、各層を適用するために約2分間を要したため、多層コーティングを製造するには約72分要した。コーティングプロセスの間、約230℃のコーティング温度が維持された。これに関連して、個々の層の数およびそれらの厚さは、適用に適合するように選択することができる。その結果、酸化を保護する、薄くて高度に耐性のある保護層が得られ、これは特に、使用間に高温にさらされる基板、および酸化からの保護を必要とする基板に適切である。
【0018】
実施例においては、CrNは中間層として使用された。しかしながら、本発明によると、中間層として、例えば、金属クロムなどの他の層を使用することも可能である。また、最初に金属クロムを基板表面に適用し、続いて、より厚いCrN層を適用し、次いで、より薄い個々の層から構成されるCrN/CrON多層をその上に適用することも可能である。
【0019】
本発明は、高温にさらされる基板のためのクロムをベースとする酸化保護層であって、層が、ベース層と機能層とを有するクロム含有層系を含み、かつベース層が、基板と機能層との間に位置し、ベース層が、少なくとも大部分は窒化クロムを含有し、かつ機能層が酸化クロムを含有する酸化保護層を開示する。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によると、ベース層は窒化クロムから構成されるが、いくつかの用途に関しては、窒化アルミニウムクロムから構成されることも可能である。
【0021】
本発明の別の実施形態によると、機能層は、少なくとも大部分は酸化アルミニウムクロムを含有するか、また好ましくは機能層は、酸化アルミニウムクロムから構成される。
【0022】
特に好ましい実施形態によると、機能層は、交互に析出された個々の層AおよびBを含む多層構造を有し、かつ個々の層Aの組成は、個々の層Bの組成とは異なる。
【0023】
ベース層の層厚は、好ましくは1μmより大きく、いくつかの用途に関して、好ましくは1.5μm~10μm、またはさらに好ましくは2μm~7μmである。
【0024】
機能層の層厚とベース層の層厚との比率は、好ましくは0.5~2、またはいくつかの用途に関して、好ましくは0.25~1.5である。
【0025】
本発明による別の酸化保護層は、高温にさらされる基板のためのクロムをベースとする酸化保護層であって、層が、機能層を有するクロム含有層系を含み、機能層が、交互に析出された個々の層AおよびBを含む多層構造を有し、個々の層Aの組成が、個々の層Bの組成とは異なり、個々の層Aが、少なくとも大部分は窒化アルミニウムクロム、また好ましくは窒化クロムを含有し、かつ個々の層Bが、少なくとも大部分は酸化アルミニウムクロムもしくは酸化クロム、また好ましくは酸窒化アルミニウムクロム、またはより好ましくは酸窒化クロムを含有する。
【0026】
一般に、本発明によると、個々の層Aは、少なくとも大部分は窒化アルミニウムクロム、また好ましくは窒化クロムを含有し、かつ個々の層Bは、少なくとも大部分は酸化アルミニウムクロムもしくは酸化クロム、また好ましくは酸窒化アルミニウムクロム、またはより好ましくは酸窒化クロムを含有する。
【0027】
本発明による酸化層の他の好ましい実施形態によると、
・個々の層Aは、窒化アルミニウムクロムから構成され、かつ個々の層Bは、酸化アルミニウムクロム、もしくは好ましくは酸窒化アルミニウムクロムから構成されるか、または
・個々の層Aは窒化クロムから構成され、かつ個々の層Bは、酸化アルミニウムクロム、もしくは好ましくは酸窒化アルミニウムクロムから構成され、また好ましくは
・個々の層Aは、窒化クロムから構成され、かつ個々の層Bは、酸化クロム、また好ましくは酸窒化クロムから構成される。
【0028】
多層構造は、個々の層Aと個々の層Bとの間に析出される、個々の層Cを含むことも可能であり、個々の層Cの組成は、個々の層Aの組成および個々の層Bの組成のそれぞれとは異なり、かつ個々の層Cは、少なくとも大部分は酸窒化アルミニウムクロム、また好ましくは酸窒化クロムを含有する。
【0029】
好ましくは、そのような個々の層Cは、酸窒化アルミニウムクロム、またはより好ましくは酸窒化クロムから構成される。
【0030】
好ましい実施形態によると、互いの上に交互に析出された各個々の層Aと個々の層Bとの間で、多層構造は、その窒素含有量が、直接隣接する個々の層Bの窒素含有量より多く、かつ直接に隣接する個々の層Aの窒素含有量より少ない、個々の層Cを有する。
【0031】
各個々の層Aおよび/またはBの層厚は好ましくは50nm~100nmである。
【0032】
本発明の上記実施形態の1つによる酸化層によってコーティングされた基板も本開示に含まれる。
【0033】
さらにまた、本開示は、本発明の上記実施形態による酸化層の製造方法を含み、好ましくは、この方法はPVDプロセス、例えば、スパッタリングプロセス、または用途によっては、好ましくはアーク蒸発プロセスである。好ましくは、コーティングプロセス間のプロセス温度は450℃以下である。