(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】二次電池用多孔性セパレータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/403 20210101AFI20220113BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20220113BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20220113BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20220113BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20220113BHJP
【FI】
H01M50/403 D
H01M50/434
H01M50/451
H01M50/489
H01M50/491
(21)【出願番号】P 2017080617
(22)【出願日】2017-04-14
【審査請求日】2020-03-24
(31)【優先権主張番号】10-2016-0046321
(32)【優先日】2016-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】519214271
【氏名又は名称】エスケー アイイー テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK IE TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 03188 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒェ ジン
(72)【発明者】
【氏名】クヮク ウォン スブ
(72)【発明者】
【氏名】パク ミン サン
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-181921(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0200863(US,A1)
【文献】特表2008-503049(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104377331(CN,A)
【文献】特開2001-043842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性基材上に原子層蒸着工程により無機酸化物層を形成した多孔性セパレータであって、前記多孔性基材の表面から中心方向に向かって無機酸化物層の厚さが減少し、且つ下記関係式I及びIIを満た
しており、金属前駆体を注入する時間(秒)が0.1≦t
s
≦20であり、酸化剤を注入する時間(秒)が0.5≦t
r
≦30であり、原子層蒸着工程の繰り返し回数が35~160回であり、表面の無機酸化物層の厚さ(nm)が15.25≦T
s
≦30.0であり、前記無機酸化物層は、SrTiO
3
、SnO
2
、CeO
2
、MgO、NiO、CaO、ZnS、ZnOS、ZrO
2
、Y
2
O
3
、SiC、CeO
2
、MgO、WO
3
、Ta
2
O
5
、RuO
2
、NiO、BaTiO
3
、Pb(Zr,Ti)O
3
(PZT)、HfO
2
、SrTiO
3
、NiO、ZrO
2
、Al
2
O
3
、SiO
2
、TiO
2
、及びZnOから選択される1つ以上を含み、多孔性セパレータの気体透過度が525(sec/100cc)以下である、多孔性セパレータ。
[関係式I]
8≦{(10t
s+t
r)×C}/100
(t
sは金属前駆体を注入する時間(秒)であり、t
rは酸化剤を注入する時間(秒)であり、Cは原子層蒸着工程の繰り返し回数である。)
[関係式II]
T
h/T
s≦0.80
(T
sは多孔性セパレータの表面の無機酸化物層の厚さ(nm)であり、T
hは多孔性セパレータの表面から多孔性セパレータの中心方向に、多孔性セパレータの全体厚さの1/2に当たる位置の内部気孔に形成された無機酸化物層の厚さ(nm)である。)
【請求項2】
多孔性セパレータの表面から多孔性セパレータの中心方向に、多孔性セパレータの全体厚さの1/2に当たる位置の内部気孔に形成された無機酸化物層の厚さ(nm)が1.0≦T
h≦15である、請求項1に記載の多孔性セパレータ。
【請求項3】
前記多孔性高分子基材の平均気孔径が30~50nmである、請求項1に記載の多孔性セパレータ。
【請求項4】
前記多孔性高分子基材の気孔率が50~70%である、請求項1に記載の多孔性セパレータ。
【請求項5】
前記多孔性セパレータの厚さが20~30μmである、請求項1に記載の多孔性セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子、特に、二次電池に適した多孔性セパレータ及びその製造方法に関する。また、本発明は、著しく向上した高耐熱性及び高容量を有する電池を提供するための新しいリチウム二次電池用セパレータを提供する。
【背景技術】
【0002】
電気化学素子において、電池のセパレータは、電池の安定性、寿命、性能の向上において非常に重要である。セパレータの主要機能は、電池内におけるイオンの移動経路を提供し、負極と正極の物理的な接触を防止することであって、セパレータの特性を向上させることで、優れた性能の電池を製造することができる。
【0003】
電池に用いられるセパレータの特性を向上させるために、ポリオレフィン系やポリプロピレン系などの多孔性高分子を積層して形成した多層セパレータや、多孔性高分子を基材とし、バインダーと無機物粒子などを混合してコーティング層を形成したセパレータが開発されている。多層セパレータやバインダーなどが混合されたコーティング層は、単層セパレータに比べてセパレータの様々な特性を向上させることができるが、セパレータの厚さが増加し、低透過性、濡れ性の減少、含浸性の低下により電池の性能が却って減少する恐れがある。
【0004】
このように、電池のセパレータに十分に適した様々な特性を有するとともに、厚さが薄く、且つ機械的、化学的安定性も満たすようにして電池の性能を向上させることができるセパレータを製造することは困難である。米国特許出願公開第2013-0037312号には、単層多孔性高分子基材に気体状態の金属前駆体を用いてアルミナを蒸着させることで、優れた熱収縮率を有するセパレータを開示しているが、熱収縮率の向上による電池性能の向上は大きくないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2013-0037312号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、多孔性基材に無機酸化物層を形成した多孔性セパレータに関し、前駆体の蒸着量、無機酸化物層の厚さ、工程条件などを調節することで、優れた特性を有し、特に二次電池の性能を向上させることができる多孔性セパレータ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、多孔性基材上に原子層蒸着工程により無機酸化物層を形成した多孔性セパレータであって、多孔性基材の表面から中心方向に向かって無機酸化物層の厚さが減少し、且つ下記関係式I及びIIと定義される多孔性セパレータを提供する。
【0008】
[関係式I]
8≦{(10ts+tr)×C}/100
(tsは金属前駆体を注入する時間(秒)であり、trは酸化剤を注入する時間(秒)であり、Cは工程の繰り返し回数である。)
【0009】
[関係式II]
Th/Ts≦0.80
(Tsは多孔性セパレータの表面の無機酸化物層の厚さであり、Thは多孔性セパレータの表面から多孔性セパレータの中心方向に、多孔性セパレータの全体厚さの1/2に当たる位置の内部気孔に形成された無機酸化物層の厚さである。)
【発明の効果】
【0010】
本発明による多孔性セパレータは、透過性及び電解液含浸性に優れており、セパレータの薄膜化が可能であるため、電池の性能を向上させることができる。また、高い融点及び緻密な気孔構造により電流遮断性を確保して、安定性に優れた電池を提供することができるとともに、様々な電気化学素子に活用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1のセパレータの表面の電子顕微鏡写真を示す。
【
図2】実施例25のセパレータの表面の電子顕微鏡写真を示す。
【
図3】実施例25のセパレータの内部の電子顕微鏡写真を示す。
【
図4】実施例39と比較例8のセパレータを用いて製造した電池のDCIR(direct current internal resistance)値を比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明についての具体的な内容を説明する。本発明で特に定義しない用語は、本発明が属する分野において一般に用いられる意味として解釈すべきである。
【0013】
本発明は、電気化学素子に用いられることができる多孔性セパレータに関する。
【0014】
本発明の多孔性セパレータは、多孔性基材上に原子層蒸着工程により無機酸化物層を形成した多孔性セパレータであって、無機酸化物層の厚さを調節することでセパレータの物性を向上させることを特徴とする。そして、無機酸化物層を形成する際に、金属前駆体の注入時間、酸化剤の注入時間、及び工程の繰り返し回数を調節することで、セパレータの物性を向上させることを特徴とする。
【0015】
本発明は、多孔性基材上に原子層蒸着工程により無機酸化物層を形成した多孔性セパレータであって、多孔性基材の表面から中心方向に向かって無機酸化物層の厚さが減少し、且つ下記関係式I及びIIと定義される多孔性セパレータを提供する。
【0016】
[関係式I]
8.0≦{(10ts+tr)×C}/100
(tsは金属前駆体を注入する時間(秒)であり、trは酸化剤を注入する時間(秒)であり、Cは原子層蒸着工程の繰り返し回数である。)
【0017】
[関係式II]
Th/Ts≦0.80
(Tsは多孔性セパレータの表面の無機酸化物層の厚さであり、Thは多孔性セパレータの表面から多孔性セパレータの中心方向に、多孔性セパレータの全体厚さの1/2に当たる位置の内部気孔に形成された無機酸化物層の厚さである。)
【0018】
本発明において、無機酸化物層は原子層蒸着法により形成することができる。具体的に、原子層蒸着工程は、真空チャンバに多孔性基材を取り付けた後、(a)金属前駆体を注入するステップと、(b)金属前駆体をパージするステップと、(c)酸化剤を注入するステップと、(d)酸化剤をパージするステップと、により行う。より具体的に、(a)ステップで金属前駆体を注入して接触させ、(b)ステップで不活性気体で金属前駆体をパージし、(c)ステップで酸化剤を注入して接触させた後、(d)ステップで不活性気体で酸化剤をパージすることで無機酸化物層を形成することができる。そして、上記の(a)~(d)ステップを行うことを1回の原子層蒸着工程として、2回以上繰り返して行うことで、多孔性セパレータの金属酸化物層の厚さと気体透過度を調整することができる。
【0019】
原子層蒸着工程において、金属前駆体を注入するステップでの注入時間(ts)、酸化剤を注入するステップでの注入時間(tr)、及び工程の繰り返し回数(C)の間の関係は、多孔性セパレータの熱安定性及び気体透過度に関連し、特にセパレータの熱収縮率を著しく向上させることにおいて重要である。また、これとともに、原子層蒸着工程によりセパレータの表面及び内部に形成される金属酸化物層の比もセパレータの気体透過度及び熱安定性に関連し、特に、多孔性セパレータの気体透過度の急激な上昇を制御することにおいて重要である。
【0020】
本発明によると、正確な理由は分からないが、原子層蒸着工程の過程において、金属前駆体を注入する時間(ts)、酸化剤を注入する時間(tr)、及び工程の繰り返し回数(C)の間の関係値が特定範囲を満たし、且つ多孔性セパレータの表面及び内部の比率(Th/Ts)も特定範囲を満たす際に、熱安定性及び気体透過度に優れた多孔性セパレータを製造することができる。
【0021】
本発明の一実施形態によると、多孔性セパレータに原子層蒸着法により無機酸化物層を形成する過程で、金属前駆体の注入時間、酸化剤の注入時間、及び工程回数が特定条件を満たすようにするとともに、多孔性セパレータの表面に形成された無機酸化物層の厚さと、多孔性セパレータの内部に形成された無機酸化物層の厚さとの比率を特定比率とすることにより、熱収縮率に優れ、且つリチウム二次電池に適した気体透過度を有する多孔性セパレータを製造することができる。
【0022】
本発明において、上記の金属前駆体を注入する時間(ts)、酸化剤を注入する時間(tr)、及び工程の繰り返し回数(C)の間の関係はGφで表され、次のとおりである。
【0023】
Gf={(10ts+tr)×C}/100
【0024】
本発明によると、Gfの範囲が次の関係式Iのような範囲に該当し、且つ多孔性セパレータの表面及び内部に形成される無機酸化物層の特定厚さ比が関係式IIを満たす際に、透過性、電解液含浸性及び安定性に優れた薄膜セパレータを製造することができる。
【0025】
[関係式I]
8.0≦{(10ts+tr)×C}/100
【0026】
[関係式II]
Th/Ts≦0.80
【0027】
この際、金属前駆体の注入時間(ts)は、0.1~30秒、0.2~30秒、0.3~30秒、0.4~30秒、0.5~30秒、0.1~20秒、0.2~20秒、0.3~20秒、0.4~20秒、0.5~20秒として注入して金属前駆体を多孔性基材に接触させることができるが、これに制限されず、酸化剤の注入時間(tr)と工程の繰り返し回数(C)に応じて適宜調節することができる。
【0028】
酸化剤の注入時間(tr)は、0.1~40秒、0.2~40秒、0.3~40秒、0.4~40秒、0.5~40秒、0.1~30秒、0.2~30秒、0.3~30秒、0.4~30秒、0.5~30秒、0.1~20秒、0.2~20秒、0.3~20秒、0.4~20秒、0.5~20秒として注入することができるが、これに制限されず、金属前駆体の注入時間(ts)と工程の繰り返し回数(C)に応じて適宜調節することができる。
【0029】
工程の繰り返し回数(C)は、20~200回行うことが好ましいが、これに制限されず、金属前駆体の注入時間(ts)と酸化剤の注入時間(tr)に応じて、25~190回、30~180回、35~160回などと回数を調節することができる。但し、工程の繰り返し回数が20回以下である場合、多孔性セパレータの内部中心まで無機酸化物層が十分に形成されない恐れがあり、200回以上である場合には、金属前駆体の注入時間と酸化剤の注入時間の増加により、多孔性セパレータの無機酸化物層が過度に厚くなって、気孔径が減少し、セパレータの物性が低下し得る。
【0030】
本発明の関係式Iに従ってGfが8.0以上である場合、優れた熱収縮率及び良好な気体透過度を有するセパレータを製造することができ、関係式IIの無機酸化物層の厚さ比の範囲でGfが大きくなるほど、熱収縮率がより減少することができる。
【0031】
本発明の一実施形態によると、Gfが8.0以上である場合、熱安定性が急激に増加することができる。特に、多孔性セパレータの縦方向の熱収縮率が3%以下になり、多孔性セパレータの横方向の熱収縮率が10%以下になって、非常に優れた熱安定性を有する多孔性セパレータを製造することができる。本発明のさらに他の一実施形態によると、Gfが8.0未満である場合、縦方向及び/または横方向の熱収縮率が急激に増加し得て、関係値Gφが8.0程度でセパレータの熱収縮率が著しく変わることになる。
【0032】
本発明の多孔性セパレータは、原子層蒸着法により無機酸化物層が形成され、無機酸化物層の厚さは、多孔性セパレータの表面で最も厚く、多孔性セパレータの表面から内部に向かってその厚さが減少する。内部に向かって無機酸化物層の厚さが減少するが、この際、厚さの減少比率は、線形的に減少するなどの一定の傾向を示すのではなく、原子層蒸着過程の条件によって表面と内部の無機酸化物層の厚さ比が変わり得る。したがって、原子層蒸着法による無機酸化物層の形成過程における条件及び表面と内部の無機酸化物層の厚さ比によって、多孔性セパレータの物性が著しく変わり得る。
【0033】
本発明において、多孔性セパレータの無機酸化物層は、多孔性セパレータの表面から内部中心まで全て形成され、多孔性セパレータの表面の無機酸化物層と多孔性セパレータの内部の無機酸化物層との特定厚さ比により、熱安定性が極大化されることができる。本発明によると、多孔性セパレータの表面から多孔性セパレータの中心方向に、多孔性セパレータの全体厚さの1/2に当たる位置に形成された無機酸化物層の厚さと、多孔性セパレータの表面の無機酸化物層の厚さとの特定比率によって、セパレータの物性が著しく変わり得る。
【0034】
本発明の一実施形態によると、多孔性セパレータの表面の無機酸化物層の厚さ(Ts)と、多孔性セパレータの表面から多孔性セパレータの中心方向に、多孔性セパレータの全体厚さの1/2に当たる位置の内部気孔に形成された無機酸化物層の厚さ(Th)との比率(Th/Ts)は、0.8以下、0.2~0.8、好ましくは0.25~0.80、最も好ましくは0.3~0.8である。
【0035】
本発明の測定方法によると、多孔性セパレータの表面の無機酸化物層の厚さ(Ts)は、外部に露出した部分の気孔に形成された無機酸化物層の厚さであって、5点の厚さ(nm)を測定してその平均値を求めた。多孔性セパレータの表面から多孔性セパレータの中心方向に、多孔性セパレータの全体厚さの1/2に当たる位置の内部気孔に形成された無機酸化物層の厚さ(Th)も、5点の厚さ(nm)を測定してその平均値を求めた。
【0036】
本発明によると、多孔性セパレータの表面及び内部の比率(Th/Ts)が大きくなるほど、多孔性セパレータの熱安定性が向上することができる。しかし、多孔性セパレータのTh/Tsの値が0.8を超える場合には、気体透過度(気体透過時間)が急激に増加する。すなわち、多孔性セパレータに形成される無機酸化物層の厚さが増加するほど、熱安定性が高くなって電池安定性の向上には好適であるが、気体透過度が過度に高くなると、実際にリチウムイオン電池用セパレータに適用した際に、イオン移動度が急激に低下して、電池の出力特性が低下する。したがって、気体透過時間が高すぎる多孔性セパレータは電池用途に適しないため、気体透過度を調節する必要がある。
【0037】
本発明の一実施形態によると、本発明の関係式Iを満たし、且つ多孔性セパレータの表面及び内部の比率(Th/Ts)が0.8以下である場合、気体透過度が500(sec/100cc)を超えない。しかし、セパレータの表面及び内部の比率(Th/Ts)が0.8を超える場合には、気体透過度が急激に上昇して殆ど700(sec/100cc)を超えることになり、イオン移動度が急激に減少して、リチウム二次電池に使用できないセパレータが形成される。このようなセパレータの気体透過度の調節は、本発明による原子層蒸着法による無機酸化物層の形成時に特定条件及びセパレータの表面と内部の比率を調節することで可能であり、セパレータの熱安定性も向上する。
【0038】
本発明の一実施形態によると、Gfが8以上から100以下であり、多孔性セパレータの表面及び内部の比率(Th/Ts)が0.2以上から8.0以下である際に、最も優れたリチウム二次電池用セパレータを製造することができる。しかし、これに制限されるものではなく、多孔性セパレータのGφが増加するほどセパレータの熱安定性が増加することができるため、表面及び内部の無機酸化物層の比率(Th/Ts)が8.0以下を満たすと、本発明で目的とするセパレータを得ることができる。
【0039】
本発明の一実施形態によると、本発明の多孔性基材としてはポリエチレンが最も好ましいが、電気化学素子のセパレータに用いられる通常の素材であれば制限されない。例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリフェニレンオキシド、ポリエチレンナフタレン、またはこれら高分子の単量体から選択される1つ以上の共重合体であることができる。
【0040】
本発明において、多孔性基材の厚さは、5~40μm、10~40μm、15~40μm、20~40μm、25~40μm、30~40μm、5~35μm、10~35μm、15~35μm、20~35μm、25~35μm、5~30μm、10~30μm、15~30μm、好ましくは20~30μmであるが、これに制限されず、本発明のセパレータは、薄い厚さの基材を用いて、従来のセパレータより薄い厚さに薄膜化して製造可能である。
【0041】
本発明において、多孔性基材の平均気孔径は1~5000nm、1~4000nm、1~3000nm、1~2000nm、1~1000nm、1~500nm、1~400nm、1~300nm、1~200nm、1~100nm、5~90nm、5~80nm、5~70nm、5~60nm、5~50nm、10~50nm、15~50nm、20~50nm、25~50nm、30~50nm、35~50nm、40~50nm、5~45nm、10~45nm、15~45nm、20~45nm、25~45nm、30~45nm、好ましくは35~45nmであるが、これに制限されず、気孔率及び原子層蒸着工程により形成される無機酸化物層の厚さを考慮して適宜調節することができる。
【0042】
本発明において、多孔性基材の気孔率は、20~80%、20~70%、20~60%、20~50%、20~40%、30%~80%、30%~70%、30%~60%、30%~50%、40%~80%、40%~70%、40%~60%、50~80%、50~70%、好ましくは55~65%であるが、これに制限されず、多孔性基材の平均気孔径及び原子層蒸着工程により形成される無機酸化物層の厚さを考慮して適宜調節することができる。
【0043】
本発明において、基材の表面エネルギーは30~50dyne/cmであることが好ましいが、これに制限されるものではない。
【0044】
本発明において、無機酸化物層は原子層蒸着法により前駆体を酸化剤で処理して形成される。無機酸化物層は、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnS、ZnOS、ZrO2、Y2O3、SiC、CeO2、MgO、WO3、Ta2O5、RuO2、NiO、BaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3(PZT)、HfO2、SrTiO3、NiO、ZrO2、Al2O3、SiO2、TiO2、及びZnOから選択される1つ以上の無機酸化物を含むことができ、原子層蒸着法を用いてセパレータを製造する時に形成できる無機酸化物層であれば制限されない。
【0045】
本発明において、原子層蒸着法に用いられる前駆体は、好ましくは、金属前駆体として、TMA(trimethylaluminum)、AlCl3、DEZ(Diethylzinc)、TiCl4、Ti[(OCH)(CH3)2]4、SiCl4、及びTEMASi(tetrakis-ethyl-methyl-amino-Silcon)から選択される1つ以上を含むことができるが、これに制限されず、原子層蒸着法を用いて無機酸化物層を形成するための金属前駆体が自由に使用できる。
【0046】
本発明において、無機酸化物層の厚さは、0.5~40nm、1~40nm、2~40nm、3~40nm、4~40nm、5~40nm、6~40nm、7~40nm、8~40nm、9~40nm、10~40nm、0.5~35nm、1~35nm、2~35nm、3~35nm、4~35nm、5~35nm、6~35nm、7~35nm、8~35nm、9~35nm、10~35nm、0.5~30nm、1~30nm、2~30nm、3~30nm、4~30nm、5~30nm、6~30nm、7~30nm、8~30nm、9~30nm、10~30nmであるが、これに制限されるものではない。より具体的に、セパレータの表面の無機酸化物層の厚さは、0.5~20nm、1~20nm、2~20nm、3~20nm、4~20nm、5~20nm、6~20nm、7~20nm、8~20nm、9~20nm、10~20nm、0.5~15nm、1~15nm、2~15nm、3~15nm、4~15nm、5~15nm、6~15nm、7~15nm、8~15nm、9~15nm、10~15nmであるが、これに制限されるものではない。そして、セパレータの表面から多孔性セパレータの中心方向に、多孔性セパレータの全体厚さの1/2に当たる位置の内部気孔に形成された無機酸化物層の厚さは、0.5~35nm、1~35nm、2~35nm、3~35nm、4~35nm、5~35nm、6~35nm、7~35nm、8~35nm、9~35nm、10~35nm、0.5~30nm、1~30nm、2~30nm、3~30nm、4~30nm、5~30nm、6~30nm、7~30nm、8~30nm、9~30nm、10~30nmであるが、これに制限されるものではない。また、セパレータの中心に形成された無機酸化物層の厚さは、0.5~40nm、1~40nm、2~40nm、3~40nm、4~40nm、5~40nm、6~40nm、7~40nm、8~40nm、9~40nm、10~40nm、0.5~35nm、1~35nm、2~35nm、3~35nm、4~35nm、5~35nm、6~35nm、7~35nm、8~35nm、9~35nm、10~35nmであるが、これに制限されるものではない。本発明における無機酸化物層の厚さは、原子層蒸着工程の回数、金属前駆体の注入時間、及び酸化剤の注入時間によって変わり得る。
【0047】
以下では、本発明の多孔性セパレータの製造方法について説明する。
【0048】
本発明による多孔性セパレータの製造方法は、原子層蒸着法により多孔性基材に無機酸化物層を形成する方法であって、チャンバに多孔性セパレータを取り付けた後、(a)金属前駆体を注入するステップと、(b)金属前駆体をパージするステップと、(c)酸化剤を注入するステップと、(d)酸化剤をパージするステップと、を含む製造方法である。
【0049】
原子層蒸着法は真空条件で行うことが好ましいが、これに制限されない。具体的に、原子層蒸着法を行うためのチャンバに多孔性基材を導入し、チャンバ内に気体状態の前駆体を導入する。前駆体を導入した後、窒素、水素、アルゴン、またはクリプトンなどの不活性気体を用いてパージ(purge)する。パージ後、水、酸素または水蒸気などを含んで酸化剤が含まれた気体を導入して無機酸化物層を形成する。
【0050】
本発明において、原子層蒸着工程は、多孔性基材の変形、気孔サイズの減少または気孔閉塞が起こらない温度で行うことができ、40~130℃、50~120℃、60~120℃、60~110℃、70~110℃、80~110℃、好ましくは90~110℃で行うことができるが、これに制限されるものではない。
【0051】
本発明による多孔性セパレータの製造方法は、多孔性基材を固定した後、表面改質するステップをさらに含むことができる。表面改質方法として、プラズマ、コロナ放電、アクリル酸またはユリア含浸表面改質を行うことができる。
【0052】
本発明の製造方法の各ステップを行う時間を調節して、本発明で目的とする多孔性セパレータを製造することができる。
【0053】
本発明の一実施形態によると、(a)金属前駆体を注入するステップでは、0.1~30秒、0.2~30秒、0.3~30秒、0.4~30秒、0.5~30秒、0.1~20秒、0.2~20秒、0.3~20秒、0.4~20秒、0.5~20秒注入して金属前駆体を多孔性基材に接触させることが好ましいが、これに制限されない。(b)金属前駆体をパージするステップでは、1.0~40秒、2.0~40秒、3.0~40秒、4.0~40秒、5.0~40秒、1.0~30秒、2.0~30秒、3.0~30秒、4.0~30秒、5.0~30秒が好ましいが、これに制限されない。(c)酸化剤を注入するステップでは、0.1~40秒、0.2~40秒、0.3~40秒、0.4~40秒、0.5~40秒、0.1~30秒、0.2~30秒、0.3~30秒、0.4~30秒、0.5~30秒、0.1~20秒、0.2~20秒、0.3~20秒、0.4~20秒、0.5~20秒注入することが好ましいが、これに制限されない。(d)酸化剤をパージするステップでは、1.0~40秒、2.0~40秒、3.0~40秒、4.0~40秒、5.0~40秒、1.0~30秒、2.0~30秒、3.0~30秒、4.0~30秒、5.0~30秒が好ましいが、これに制限されない。
【0054】
本発明による原子層蒸着工程において、金属前駆体の注入速度は、50~700sccm、100~700sccm、200~600sccm、200~600sccm、300~500sccm、400~600sccm、好ましくは450~550sccmであるが、これに制限されず、酸化剤の注入速度は、50~700sccm、100~700sccm、200~600sccm、200~600sccm、300~500sccm、400~600sccm、好ましくは450~550sccmであるが、これに制限されない。
【0055】
本発明において、(a)~(d)ステップを1回の原子層蒸着工程として、金属前駆体の注入時間(tδ)と酸化剤の注入時間(tρ)に応じて、20~200回、25~190回、30~180回、35~160回などと回数を調節することができる。但し、20回以下の工程では、本発明で目的とするセパレータの無機酸化物層が内部まで形成されない恐れがあり、200回以上では、金属前駆体の注入時間、酸化剤の注入時間、及び基材の平均気孔サイズなどによって、多孔性基材に形成される無機酸化物層が過度に厚くなって多孔性セパレータの物性が低下し得る。
【0056】
本発明による多孔性セパレータは、透過性及び電解液含浸性に優れており、熱収縮率が少なく、溶融破断温度も高い。
【0057】
本発明の多孔性セパレータは電気化学素子に用いられることができ、リチウム二次電池用セパレータに特に好適である。
【0058】
以下では、本発明を実施するための具体的な実施例について説明する。下記の実施例は本発明を実施するための一例であり、本発明の内容が実施例によって制限されるか、制限されて解釈されてはならない。
【0059】
物性測定方法
(1)気体透過度(Gurley densometer)
気体透過度は、ガーレー式デンソメーター(Gurley desnometer:東洋精機製作所製)を用いて測定した。気体透過度は、所定体積(100mLまたは100cc)の気体が所定圧力(約1~2psig)で所定面積(1 in2)を通過するのにかかる時間(単位:秒(second))を表す。
【0060】
(2)フィルムの厚さ(μm)
厚さに対する精度が0.1μmである接触式の厚さ測定装置を用いた。
【0061】
(3)平均気孔径(nm)
気孔径は、ポロメーター(Porometer:PMI社製)を用いて、ASTM F316-03に準じてハーフドライ法により測定した。
【0062】
(4)気孔率
Acm×Bcmの長方形のサンプルを切り出し、数学式1により算出した。A,Bともにそれぞれ5~20cmの範囲で切って測定した。
【0063】
[数学式1]
気孔率={(A×B×T)-(M÷ρ)÷(A×B×T)}×100
【0064】
ここで、Tはセパレータの厚さ(cm)であり、Mはサンプルの重量(g)であり、ρは樹脂密度(g/cm3)である。
【0065】
(5)気体透過度(Gurley densometer)
気体透過度は、ガーレー式デンソメーター(Gurley desnometer:東洋精機製作所製)を用いて測定した。これは、所定体積(100mL)の気体が所定圧力(約1~2psig)で所定面積(1 in2)を通過するのにかかる時間(単位:秒(second))を表すものである。
【0066】
(6)蒸着厚さ(nm)
ALD成膜法による複合微多孔膜上の無機金属化合物の蒸着厚さは、イオンミラー(ion miller)を用いて断面前処理した。FE-SEM及びDB-FIBにより、深さ毎の無機金属化合物の蒸着厚さを測定した。
【0067】
表面の無機酸化物層の厚さ(Ts)の測定位置は断面処理された試験片の最上層部位とし、5点の厚さを測定して平均値を求めた。また、内部の無機酸化物層の厚さ(Th)の測定位置は全体断面厚さの1/2地点とし、5点の厚さを測定して平均値を求めた。
【0068】
(7)収縮率(%)
ガラス板の間にテフロン(登録商標)シート紙を入れ、測定しようとする複合微多孔膜に7.5mg/mm2の力が加えられるようにし、150℃のオーブンで1時間放置した後、縦方向(MD)及び横方向(TD)の収縮を測定して、最終面積収縮(%)を計算した。
【0069】
(8)TMA最大収縮率及び溶融破断温度
MELLER TOLEDO社製のTMA(Thermo-mechanical analysis)装置を用いて、6mm×10mmの試験片に0.015Nの錘を取り付け、5℃/minの速度で昇温した。延伸過程を経て製作された試験片は所定温度で収縮し、Tg及びTmを超えると、錘の重さによって試験片が伸びることになる。TMA最大収縮率は、所定温度で発生する最大収縮点(point)での初期測定長さに対する収縮変形長さを%で表現した値と定義する。試験片が錘の重さによって伸び始めるが、この際、試験片の初期長さ(zero point)を超え始める温度を溶融破断温度と定義する。また、収縮が発生しないサンプルの場合には、傾斜が最大の時を基準としてx軸と接する温度と定義する。
【0070】
[実施例1]
平均気孔サイズ40nm、気孔率60%、厚さ25μmのポリエチレン基材を100℃のチャンバに固定させた後、14kVのプラズマで3m/minの速度で処理した。トリメチルアルミニウム(Al(CH3)3)を500sccmで1秒間注入して接触させ、アルゴン(Ar)で5秒間パージした後、酸化剤として過酸化水素(H2O2)を500sccmで5秒間注入し、さらにアルゴン(Ar)で15秒間パージする過程を80回繰り返した。測定結果、製造された多孔性セパレータの無機酸化物層の厚さは約18nmであり、ガーレー(Gurley)値は191sec/100ccであった。
【0071】
[実施例2~43]及び[比較例1~17]
トリメチルアルミニウム(Al(CH3)3)を注入して接触させる時間と、酸化剤としての過酸化水素を注入する時間のみを下記表1のように異ならせ、他の条件は実施例1と同様にして、実施例2~43及び比較例1~17に当たる多孔性セパレータを製造した。
【0072】
下記表1は、実施例2~43及び比較例1~17により製造された多孔性セパレータの工程条件、多孔性セパレータの内部及び外部の厚さとその比率、気体透過度及び熱収縮率を示す。
【0073】
【0074】
Tsは、製造された多孔性セパレータの表面に形成された無機酸化物層の測定厚さであり、Tηは、多孔性セパレータの表面から多孔性セパレータの中心方向に、多孔性セパレータの全体厚さの1/2に当たる位置の内部気孔に形成された無機酸化物層の測定厚さである。
【0075】
Gfは、金属前駆体を注入する時間(ts)、酸化剤を注入する時間(tr)、及び工程の繰り返し回数(C)の関係値であって、次のとおりである。
【0076】
Gf={(10ts+tr)×C}/100
【0077】
実施例(Gfが8~108、Th/Tsが0.22~0.79)及び比較例から、Gfが8.0以上であり、無機酸化物層の厚さ比(Th/Ts)が0.80以下である際に、優れた熱収縮率及び良好な気体透過度を有するセパレータが製造されることを確認した。
【0078】
具体的に、実施例2、3、4及び比較例6から、Gfが8.0程度である際に、セパレータの熱収縮率が著しく変わることを確認した。他の実施例から、Gfが大きくなるほど熱収縮率も減少することを確認することができた。特に、実施例40、42、43及び比較例12、13、16から、無機酸化物層の厚さ比(Th/Ts)が0.80程度である際に、気体透過度が著しく変わることを確認した。比較例7~17の場合、特に気体透過度(気体透過にかかる時間)が何れも700を超えるなど、急激に高くなってリチウム二次電池用セパレータに用いることができなかった。
【0079】
図4に、実施例39と比較例8のセパレータを用いて製造した電池の出力特性をDC-IR測定により比較した。
図4に示すように、気体透過度が高い場合、DC-IRの増加が確認され、これは、出力抵抗の増加による出力特性の低下につながり得る。