(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】チタン又はチタン合金圧粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/04 20060101AFI20220113BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220113BHJP
【FI】
B22F3/04 B
B22F1/00 R
(21)【出願番号】P 2017243189
(22)【出願日】2017-12-19
【審査請求日】2020-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】早川 昌志
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】堀川 松秀
【審査官】▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106735186(CN,A)
【文献】特許第6912586(JP,B2)
【文献】特許第6866491(JP,B2)
【文献】特開平07-090313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F3/04
B29C64/00-64/40,67/00
B33Y10/00-99/00
B30B11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが0.2~2.0mm、圧縮弾性率が800MPa~2100MPaの熱可塑性樹脂からなり、粉末供給口と粉末充填用の空洞とを有し、長手方向の任意の10点の厚みを測定した場合の(最大値-最小値)/(最大値+最小値)で表されるモールド厚さ誤差範囲指数αが0~0.05であ
り、3Dプリンタ装置を用いて作製したCIP成形用モールド内に、純チタン粉末又は純チタン粉末と合金元素粉末又は母合金粉末とを充填し、400~500MPaでCIP処理を実施し、相対密度87%以上のチタン又はチタン合金圧粉体を製造することを含むチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法。
【請求項2】
前記CIP処理後に前記CIP成形用モールドを除去することと、
前記CIP成形用モールド除去後の前記チタン又はチタン合金圧粉体を焼結処理し、相対密度95%以上の焼結体を得ること
を更に含む
請求項1に記載のチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法。
【請求項3】
前記CIP成形用モールドが、大径部と、前記大径部に連続し、前記大径部よりも水平断面の断面積が小さい小径部とを少なくとも備え、且つ水平断面における前記大径部の最大径に対する前記小径部の最小径の比率D(小径部最小径/大径部最大径)が、0.5以上1.0未満であることを含む請求項1
又は2に記載のチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法。
【請求項4】
前記CIP成形用モールドが、大径部と、前記大径部に連続し、前記大径部よりも水平断面の断面積が小さい小径部とを少なくとも備え、且つ水平断面における前記大径部の最大径に対する前記小径部の最小径の比率D(小径部最小径/大径部最大径)が、0.5以上0.8未満であることを含む請求項1
又は2に記載のチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法。
【請求項5】
前記CIP成形モールドは、前記大径部の外側面に対して前記小径部の外側面が傾斜し、前記大径部の前記外側面の端部から前記大径部の前記外側面の延在方向に延びる直線と前記小径部の外側面とのなす角θが10度以上60度未満である請求項
3又は4に記載のチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法。
【請求項6】
前記CIP成形モールドを、材料押出法を利用した3Dプリンタ装置を用いて作製することを含む請求項1~5のいずれか1項に記載のチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法。
【請求項7】
前記CIP成形モールドを、材料噴射法を利用した3Dプリンタ装置を用いて作製することを含む請求項1~5のいずれか1項に記載のチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法。
【請求項8】
平均粒径30μm以上100μm未満の純チタン粉末を80~100質量%、前記CIP成形用モールドの前記空洞内に充填することを含む請求項1~
7のいずれか1項に記載のチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法。
【請求項9】
平均粒径30μm以上100μm未満の純チタン粉末と、平均粒径5μm以上50μm未満の合金元素粉末又は母合金粉末とを1~20質量%、前記CIP成形用モールドの前記空洞内に充填することを含む請求項1~
7のいずれか1項に記載のチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン又はチタン合金圧粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン及びチタン合金は優れた機械的特性を有するが、加工が難しく、複雑形状製品は従来切削により製造されてきた。しかしながら、切削で製造する場合は歩留まりが悪く、製品単価が非常に高くなるという問題がある。
【0003】
上記問題を解決する手法の一つとして、素粉末混合法を用いてチタン及びチタン合金圧粉体の製造を行う方法が知られている。素粉末混合法は、純チタン粉末と合金元素添加用粉末を所定の割合で混合し、これをモールドに充填後、室温で圧粉成形し、その後焼結処理や静水圧プレス処理等を行う処理方法である。
【0004】
例えば、特開平7-90313号公報には、熱可塑性樹脂を使用してブロー成形法により粉末成形用金型を作製し、その粉末成形用金型にチタン粉末を充填し、静水圧成形プレスで成形することで、チタン粉体の成形体を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に例示されるような熱可塑性樹脂をブロー成形して成形体を形成する方法では、割れがなく高密度の成形体が得られるが、厚さの精度が出にくい。そのため、ブロー成形により製造された成形体を用いて製造されたチタン又はチタン合金圧粉体は、外形寸法にずれが生じやすくなる。外形寸法の精度を高めるためには、金属金型などを利用する方法もあるが、高価になる上、複雑形状が製造しにくくなり、圧粉体に破断が生じる場合もある。
【0007】
上記課題を鑑み、本発明は、形状の自由度と寸法精度を高くすることができ、破断の発生を抑制可能で、経済的なチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討を重ねたところ、所定の特性を有する熱可塑性樹脂を用いて、所定の厚さ範囲を有するCIP成形用モールドを用いて、所定の圧力でCIP処理を行うことが有効であるとの知見を得た。
【0009】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、厚さが0.2~2.0mm、圧縮弾性率が800MPa~2100MPaの熱可塑性樹脂からなり、粉末供給口と粉末充填用の空洞とを有し、長手方向の任意の10点の厚みを測定した場合の(最大値-最小値)/(最大値+最小値)で表されるモールド厚さ誤差範囲指数αが0~0.05であるCIP成形用モールド内に、純チタン粉末又は純チタン粉末と合金元素粉末又は母合金粉末とを充填し、400~500MPaでCIP処理を実施し、相対密度87%以上のチタン又はチタン合金圧粉体を製造することを含むチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法が提供される。
【0010】
本発明に係るチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法は一実施態様において、CIP処理後にCIP成形用モールドを除去することと、CIP成形用モールド除去後のチタン又はチタン合金圧粉体を焼結処理し、相対密度95%以上の焼結体を得ることを更に含む。
【0011】
本発明に係るチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法は別の一実施態様において、CIP成形用モールドが、大径部と、大径部に連続し、大径部よりも水平断面の断面積が小さい小径部とを少なくとも備え、且つ水平断面における大径部の最大径に対する小径部の最小径の比率D(小径部最小径/大径部最大径)が、0.5以上1.0未満である。
【0012】
本発明に係るチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法は更に別の一実施態様において、CIP成形用モールドが、大径部と、大径部に連続し、大径部よりも水平断面の断面積が小さい小径部とを少なくとも備え、且つ水平断面における大径部の最大径に対する小径部の最小径の比率D(小径部最小径/大径部最大径)が、0.5以上0.8未満である。
【0013】
本発明に係るチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法は更に別の一実施態様において、CIP成形モールドは、大径部の外側面に対して小径部の外側面が傾斜し、大径部の外側面の端部から大径部の外側面の延在方向に延びる直線と小径部の外側面とのなす角θが10度以上60度未満である。
【0014】
本発明に係るチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法は更に別の一実施態様において、CIP成形モールドを、3Dプリンタ装置を用いて作製することを含む。
【0015】
本発明に係るチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法は更に別の一実施態様において、CIP成形モールドを、材料押出法を利用した3Dプリンタ装置を用いて作製することを含む。
【0016】
本発明に係るチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法は更に別の一実施態様において、CIP成形モールドを、材料噴射法を利用した3Dプリンタ装置を用いて作製することを含む。
【0017】
本発明に係るチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法は更に別の一実施態様において、平均粒径30μm以上100μm未満の純チタン粉末を80~100質量%、CIP成形用モールドの空洞内に充填することを含む。
【0018】
本発明に係るチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法は更に別の一実施態様において、平均粒径30μm以上100μm未満の純チタン粉末と、平均粒径5μm以上50μm未満の合金元素粉末又は母合金粉末とを1~20質量%、CIP成形用モールドの空洞内に充填することを含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、形状の自由度と寸法精度を高くすることができ、破断の発生を抑制可能で、経済的なチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態に係るCIP成形用モールドの一例とCIP成形用モールドの厚さの測定位置(任意の10点)を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るCIP成形用モールドの大径部と小径部の傾斜角度θを説明する説明図であり、
図2(a)は小径部が平面状の斜面を有し、
図2(b)は小径部が曲面状の斜面を有する場合の例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。以下に示す実施の形態はこの発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0022】
本発明の実施の形態に係るチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法は、冷間等方圧プレス(CIP)処理により、相対密度87%以上、更には相対密度95%以上のチタン又はチタン合金圧粉体を得ることができるチタン又はチタン合金圧粉体の製造方法であり、例えば
図1に例示されるような、粉末供給口2と粉末充填用の空洞3とを有するCIP成形用モールド1を利用することができる。
【0023】
外形の自由度が高く、寸法精度が高いチタン又はチタン合金圧粉体を製造するためには、CIP処理の製造工程との関係において、CIP成形用モールド1の材料、圧縮弾性率を最適化するとともに、CIP成形用モールド1の厚さの寸法精度を高くすることが必要である。
【0024】
具体的には、本実施形態に係るCIP成形用モールド1としては、厚さが0.2~2.0mm、一実施態様においては、0.5~1.75mmであることを要する。厚さが0.2mm未満の場合、厚さが不足しすぎて、充填粉末の重量でCIP成形用モールド1が変形し、寸法精度が低下する場合がある。一方、厚さを2.0mmより大きくすると、得られる圧粉体に支障はないが、モールド造形材料コストが増加するため経済性を損なう。
【0025】
厚さの寸法精度については、モールドの長手方向の任意の10点の厚みを測定した場合の(最大値-最小値)/(最大値+最小値)で表されるモールド厚さ誤差範囲指数αが0~0.05であることを要する。
【0026】
厚さの寸法精度の評価に際し、厚さの測定点が局所に偏ると、CIP成形用モールド1の全体としての厚さのバラツキを適切に評価できない場合がある。本実施形態においては、「任意の10点の厚み」の測定点として、CIP成形用モールド1の最長面を10等分した場所を測定する。
【0027】
即ち、「モールド厚さ誤差範囲指数α」は、
図1に示すように、CIP成形用モールド1の長手方向に沿ってCIP成形用モールド1を10等分した場合のそれぞれの高さの任意の位置の測定点の厚さをそれぞれ測定し、その最大値と最小値を用いて評価した誤差範囲指数を指す。厚さの測定は、例えば、各測定点に対してデジタルノギス等を用いることにより行うことができる。
【0028】
モールド厚さ誤差範囲指数αが0.05よりも大きくなると、CIP成形用モールド1を用いて製造されるチタン又はチタン合金圧粉体の外形寸法の精度が悪くなる上に、スプリングバック力の制御が困難になり、破断発生の原因となる。モールド厚さ誤差範囲指数αは、0.01以下とすることが好ましく、より好ましくは0.008以下、更には0.001以下とすることが好ましい。
【0029】
CIP成形用モールド1の狙い厚さ、即ち製造時のCIP成形用モールド1の厚さデータが既知の場合は、モールド厚さ誤差範囲指数βによって、CIP成形用モールド1の寸法精度を評価することもできる。モールド厚さ誤差範囲指数βは、モールド厚さ誤差範囲指数αの測定と同様に、CIP成形用モールド1の長手方向に沿って10等分した場合のそれぞれの高さの任意の位置の測定点の厚さをそれぞれ測定した場合の「(最大値-最小値)/狙い厚さ」を指す。狙い厚さとしては、例えば、CIP成形用モールド1の成形時の三次元CAD元データの厚さを用いることができる。
【0030】
モールド厚さ誤差範囲指数βが0.5よりも大きくなると、CIP成形用モールド1を用いて製造されるチタン又はチタン合金圧粉体の外形寸法の精度が悪くなる上に、スプリングバック力の制御が困難になり、破断発生の原因となる。モールド厚さ誤差範囲指数βが0.5未満の誤差はCIP成形用モールド1の物性に影響しない。モールド厚さ誤差範囲指数βは0.2以下が好ましく、より好ましくは0.1以下、更に好ましくは0.05以下である。
【0031】
或いは、CIP成形用モールド1の長手方向に沿ってCIP成形用モールド1を10等分した場合のそれぞれの高さの任意の10点の(厚さ/狙い厚さ×100-100)の絶対値の平均値をモールド厚さ誤差範囲指数γとして評価することもできる。モールド厚さ誤差範囲指数γは1.5未満が好ましく、より好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.5以下である。
【0032】
CIP成形用モールド1に使用する材料としては、熱可塑性樹脂が好ましく、例えば、アクリル樹脂、ポリ乳酸(PLA)樹脂、ABS樹脂等を用いることができる。熱可塑性樹脂材料の圧縮弾性率は、800MPaから2100MPaとすることが好ましい。圧縮弾性率を800MPa未満とすると、CIP除荷時のCIP成形モールド1のスプリングバックが大きくなり、圧粉体破断に繋がる場合がある。圧縮弾性率を2100MPaよりも大きくすると、CIP成形用モールド1の剛性が高くなり、CIP加圧時に内部粉末に十分な圧力がかからず、緻密化を阻害する場合がある。
【0033】
CIP成形用モールド1に使用する熱可塑性樹脂の圧縮弾性率はより好ましくは1000MPa~1900MPa、更に好ましくは1500MPa~1900MPaである。圧縮弾性率は、JIS K7181(2011)に準拠する試験方法によって測定することができる。
【0034】
図1に示すように、CIP成形用モールド1は、大径部11と、大径部11に連続し、大径部11よりも水平断面の断面積が小さい小径部12と、小径部12よりも水平断面の断面積が大きく、小径部12に連続する大径部13と、大径部13に連続し、頂部に粉末供給口2を有する頂部14とを含む。
【0035】
小径部12は、底部から頂部に向かって水平方向の断面積が徐々に小さくなり、中間部分で最小断面積となり、中間部分から大径部13に向けて水平方向の断面積が徐々に大きくなるようなくびれを有することができる。
【0036】
大径部11、13は、水平断面が多角形状を有していてもよいし、水平断面が円又は楕円状であってもよく、利用用途に応じて適宜変更することができ、具体的形状は特に限定されない。また、水平断面における大径部11、13の最大径D11に対する小径部12の最小径D12の比率D(小径部最小径D12/大径部最大径D11)が、0.5以上1.0未満、別の実施態様においては0.5以上0.8未満の複雑形状のCIPモールド1を作製することができる。
【0037】
図2(a)の拡大図に示すように、CIP成形用モールド1は、大径部11の外側面111に対して小径部12の外側面121が傾斜している。大径部11の外側面111の端部112から大径部11の外側面111の延在方向に延びる直線Xと小径部12の外側面121とのなす角θ(
図2(a)の例では直線Xから半時計回りに測定した場合の小径部12の外側面121とのなす角θ)が10度以上60度未満である。なお、小径部12の外側面121が曲面を有する場合は、
図2(b)に示すように、小径部12の水平断面において最小径D
12となる位置と大径部11の端部112とを通る直線Yと直線Xとのなす角θ(即ち、直線Xを基点として直線Xから反時計回りに測定した場合の直線Yとのなす角)が、10度以上60度未満である。
【0038】
図1及び
図2(a)、
図2(b)に示すような複雑形状を有するCIP成形用モールド1は、3Dプリンタ装置を用いて作製することができる。これにより、従来のようにブロー成形してモールドを形成する場合に比べて、厚さを均一にすることができ、寸法精度を向上させることができる。また、モールドの製造に際し、金型等を作製する必要がないため、より経済的に複雑形状を有するCIP成形用モールド1を、寸法精度が高くなるように製造することができる。
【0039】
3Dプリンタ装置としては汎用の装置を用いることができるが、材料押出法を利用した3Dプリンタ装置、或いは材料噴射法を利用した3Dプリンタ装置を用いて作製することが好ましい。
【0040】
本実施形態に係るCIP成形用モールド1内の空洞3に、純チタン粉末又は純チタン粉末と合金元素粉末又は母合金粉末とを充填し、CIP処理を実施することにより、本実施形態に係るチタン又はチタン合金圧粉体が得られる。
【0041】
充填材としては、例えば平均粒径30μm以上100μm未満の純チタン粉末を80~100質量%、CIP成形用モールドの空洞内に充填することにより、相対密度87%以上のチタン又はチタン合金圧粉体が得られる。或いは、平均粒径30μm以上100μm未満の純チタン粉末と、平均粒径5μm以上50μm未満の合金元素粉末又は母合金粉末とを1~20質量%、CIP成形用モールド1の空洞内3に充填し、CIP処理を実施することにより、相対密度87%以上のチタン又はチタン合金圧粉体が得られる。粉体の充填、CIP処理は一般的に良く知られる条件を用いて実施することができる。
【0042】
本発明の実施の形態に係るチタン又はチタン合金圧粉体によれば、3Dプリンタを用いて、所定の熱可塑性樹脂を利用して、厚さ及び厚さ精度が制御されたCIP成形用モールド1を得て、これを利用してCIP処理を実施することにより、外形寸法の精度が高く、複雑形状を有するチタン又はチタン合金圧粉体をより経済的に製造することができる。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例および比較例について説明するが、本発明は以下の実施例に制限されないことは勿論である。
【0044】
狙い厚さ0.5~1.75mmの間で調整したCIP成形用モールドの3Dデータに基づいて、ABS樹脂、PLA樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂をそれぞれ用いて、3DプリンタによりCIP成形用モールドを作製した。PLA樹脂を用いたCIP成形用モールドについては、久宝金属製作所製の3Dプリンタ装置クホリアを用いて材料押出法により作製した。アクリル樹脂を用いたCIP成形用モールドについては、3DSystems製3Dプリンタ装置ProJet3600MAXを用いて材料噴射法により作製した。シリコン樹脂材料については、キーエンス製3Dプリンタ装置AGILISTA-3200を用いて材料噴射法により作製した。CIP成形用モールドの大径部と小径部の比率Dは0.6、大外径と小外径とのなす角θを27度と設定して、
図1に示す形状のCIP成形用モールドを作製した。
【0045】
作製されたCIP成形用モールド内の空洞に、トーホーテック製純チタン粉末TC-150(粒度幅45-150μm、平均粒径90μm)を充填し、CIP処理を行った。CIP処理は、日機装製冷間静水圧成形装置CL4-22-60を用いた。
【0046】
作製されたCIP成形用モールド内にチタン粉末を充填し、タッピングし、ビニールテープで封じたものを真空パックし、真空パックしたチタン粉末充填品を、冷間静水圧成形装置にセットし、約10分かけて加圧した。目標とするCIP圧力(表1)に達したところで1分間保持後、除圧し、チタン粉末充填品を冷間静水圧成形装置から取り出した。得られた成形体を大気圧、130℃で15分間加熱し、軟化したCIP成形用モールドをカッター、ニッパー等を使用して除去して、圧粉体を得た。この圧粉体に対して、1250℃で2時間、Ar雰囲気で焼結処理を施して焼結体を得た。焼結処理の目標真空度は3.0×103Paとした。
【0047】
各材料及び各装置を用いて作製したCIP成形用モールドに対し、圧縮弾性率、圧粉体相対密度及びモールド厚さの誤差範囲指数α、β、γを測定し、得られた焼結体に対し、相対密度を測定した。CIP成形用モールドの圧縮弾性率はJIS K7181(2011)に準拠して実施した測定結果より算出した。圧粉体及び焼結体の相対密度は、アルキメデス法で求めた密度/理論密度4.51/cm3×100から算出した。得られた圧粉体の破断の有無は目視により観察した。表1に実施条件及び結果を示す。
【0048】
【0049】
CIP圧力が本発明の範囲よりも低い比較例1及び2では、圧粉体の相対密度を十分に高くすることができなかった。CIP圧力が本発明の範囲よりも低く、狙い厚さが1.75mmの比較例3、及び4、7では、CIP成形用モールドを作製することはできたが、得られた圧粉体に破断が生じた。CIP圧力が本発明の範囲よりも低い比較例5及び6では、CIP成形用モールドを作製することはできたが、得られた圧粉体の相対密度を十分に高くすることができなかった。シリコン樹脂でCIP成形用モールドを作製した比較例8~10では、CIP成形用モールドを作製することができなかった。一方、実施例1~14では、いずれも相対密度87%以上で破断のない圧粉体を作製することができた。
【符号の説明】
【0050】
1…CIP成形用モールド
2…粉末供給口
3…空洞
11…大径部
12…小径部
13…大径部
14…頂部
111,121…外側面
112…端部