(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ピラートリムの装着構造
(51)【国際特許分類】
B60R 13/02 20060101AFI20220203BHJP
F16B 41/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
B60R13/02 C
F16B41/00 F
(21)【出願番号】P 2018041905
(22)【出願日】2018-03-08
【審査請求日】2020-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000100366
【氏名又は名称】しげる工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】小川 辰二郎
(72)【発明者】
【氏名】谷島 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】富原 誠人
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-013799(JP,A)
【文献】特開2002-059802(JP,A)
【文献】特開2009-029295(JP,A)
【文献】特開2015-116985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
F16B 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピラートリムの端部に、上記ピラートリムと一体をなして形成されたクリップ座とボルト固定部とを備え、上記クリップ座と上記ボルト固定部が離れて配置されており、上記クリップ座に取り付けられたクリップと上記ボルト固定部を貫通するボルトを用いて、上記ピラートリムを車体パネルのピラー部に装着する構造において、
上記ボルトは、その軸部が上記ボルト固定部を貫通し、この軸部に抜け止めワッシャが嵌められた状態で仮保持さ
れ、
上記ボルト固定部に上記ボルトが仮保持された状態で、上記クリップ座のクリップが上記車体パネルに嵌め込まれるよう上記ピラートリムは上記車体パネルに向かって叩き込まれ、上記ピラートリムのクリップ座とボルト固定部との間には切欠が形成されていることを特徴とするピラートリムの装着構造。
【請求項2】
上記クリップ座と上記ボルト固定部は、上記ピラートリムの下端部に車長方向に離れて配置されていることを特徴とする請求項1に記載のピラートリムの装着構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピラートリムの装着構造に関するものであって、クリップ座とボルト固定部とを備えたピラートリムを、クリップ座に取り付けられたクリップとボルト固定部を貫通するボルトを用いて、車体パネルのピラー部に装着する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1の
図1に従来技術として開示されたピラートリムの装着構造では、ピラートリムに、ピラートリムと一体をなす2つのクリップ座が車長方向に離れて形成されている。これらクリップ座に取り付けられたクリップを用いて、ピラートリムを車体パネルのピラー部に装着している。
【0003】
下記特許文献2の
図3、
図5に開示されたピラートリムの装着構造では、ピラートリムの下端部に、ピラートリムと一体をなす2つのボルト固定部が車長方向に離れて形成されている。これらボルト固定部を貫通するボルトを用いて、ピラートリムを車体パネルのピラー部に装着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平06-85152号公報
【文献】特開2001-122073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2のピラートリムにおいて、一方のボルト固定部をクリップ座に代えて、クリップとボルトの双方を用いるピラートリムの装着構造とした場合には、ボルトによりボルト固定部をピラー部に固定するのに先立って、クリップによりピラートリムをピラー部に固定する。その際、ピラートリムの装着作業を円滑かつ容易に行うことができるようにするために、予めボルト固定部を貫通させたボルトの軸部に抜け止めワッシャを嵌めることにより、ボルトをピラートリムに仮保持させる。
【0006】
ピラートリムの装着作業において、ピラートリムをクリップによりピラー部へ固定するために、クリップ座に取り付けられたクリップをピラー部の孔に嵌め込む。そのためには、クリップ座の形成箇所をピラートリムの車室側(ピラー部とは反対側)からピラー部に向かって叩き込む。このとき、叩き込みの衝撃力がボルト固定部に伝わったり、クリップ座とボルト固定部の間の部分を叩いたりして、仮保持されたボルトがボルト固定部から軸方向に飛び出して脱落してしまうことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、ピラートリムの端部に、上記ピラートリムと一体をなして形成されたクリップ座とボルト固定部とを備え、上記クリップ座と上記ボルト固定部が離れて配置されており、上記クリップ座に取り付けられたクリップと上記ボルト固定部を貫通するボルトを用いて、上記ピラートリムを車体パネルのピラー部に装着する構造において、上記ボルトは、その軸部が上記ボルト固定部を貫通し、この軸部に抜け止めワッシャが嵌められた状態で仮保持されており、上記クリップ座とボルト固定部との間には切欠が形成されている。
【0008】
上記構成によれば、クリップによるピラートリムの装着のために、クリップ座の形成箇所がピラートリムの車室側からピラー部に向かって叩き込まれる際、クリップ座とボルト固定部の間に切欠が形成されていることにより、クリップ座とボルト固定部の間の部分が叩かれないようになり、クリップ座の形成箇所が確実に叩かれるようになる。クリップ座の形成箇所への叩き込みにより生じる衝撃力は、切欠により弱められてボルト固定部に伝わる。したがって、ボルト固定部に仮保持されたボルトの脱落を防止できる。
【0009】
好ましくは、上記クリップ座と上記ボルト固定部は、上記ピラートリムの下端部に車長方向に離れて配置されている。
上記構成によれば、クリップ座の形成箇所への叩き込みの際の衝撃力は、クリップ座から切欠を迂回して、クリップ座より車長方向に離れた位置にあるボルト固定部に伝わる。これにより、衝撃力は分散されて弱められるため、ボルト固定部に仮保持されたボルトの脱落を防止できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、仮保持されたボルトの脱落を防止したピラートリムの装着構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るピラートリムを車室側から見た正面図である。
【
図2】同ピラートリムを車室側から見た要部拡大正面図である。
【
図3】(A)
図2のIIIA-IIIA線に沿う拡大断面図である。(B)同ピラートリムの
図3(A)と同様の拡大断面図であって、ボルト固定部にボルトを仮保持させた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態をなすピラートリムの装着構造について、
図1~
図3を参照して説明する。
図1に示す、この実施形態で例示するピラートリム10は、右座席側のものであって、
図3に示すピラーパネル20(車体パネルのピラー部)の車室側に沿って上下方向に延びている。ピラートリム10は、例えばポリプロピレン(PP)等の樹脂を射出成形することによって構成されている。
【0013】
ピラートリム10は、車幅方向(
図1の紙面と直交する方向)を向く正面壁11と、この正面壁11に連なり車長方向前方を向く前壁12と、正面壁11に連なり車長方向後方を向く後壁13とを有しており、横断面がコ字形をなしている。ピラートリム10の下端部10Aでは、正面壁11が車幅方向の車外側(
図1において紙面奥側)に後退し、前壁12及び後壁13が内側に後退している。
【0014】
図1、
図2に示すように、ピラートリム10の下端部10Aにおいて、正面壁11には、車長方向に離れた2つの係合孔部11a,11bが形成され、前壁12及び後壁13には、それぞれ切欠き部12a,13aが形成されている。これら係合孔部11a,11b及び切欠き部12a,13aは、別のピラートリム(図示しないが、説明の便宜上符号30を付す)との連結に用いられる。連結の際、別のピラートリム30の上端部が、ピラートリム10の下端部10Aに車室側から重ねられる。係合孔部11a,11bには、別のピラ-トリム30に設けられた係合突起が挿入され、ピラートリム10に対して別のピラートリム30が位置決めされる。切欠き部12a,13aには、別のピラートリム30に設けられた掛止爪部が掛止され、ピラートリム10と別のピラートリム30が連結される。
【0015】
このピラートリム10をピラーパネル20に装着するために、ピラートリム10の裏面(車外側の面)における上部の一箇所と下部の二箇所とをピラーパネル20に固定している。上部の一箇所では、図示しない周知の固定手段が用いられる。この固定手段としては、一般的なクリップ、ボルト等が使用されてもよい。下部の二箇所では、一方の固定にクリップが用いられ、他方の固定にボルトが用いられる。以下、ピラートリム10の下部の二箇所におけるピラーパネル20への装着構造について詳述する。
【0016】
図2に示すように、ピラートリム10の下端部10Aには、正面壁11の車長方向ほぼ中央に、下側が開放され上方にコ字状に切り取られた切欠11cが形成されている。この切欠11cを介して車長方向の前側と後側の離間した位置に、それぞれ下方に突出する前側脚部40と後側脚部50がピラートリム10と一体をなして設けられている。すなわち、切欠き11cは、車長方向前方を前側脚部40により、上方を正面壁11の下端により、車長方向後方を後側脚部50により、仕切られている。
ピラートリム10の下部においては、前側脚部40がクリップ60により、後側脚部50がボルト70により、それぞれピラーパネル20に固定されている。
【0017】
先ず、クリップ60を用いた前側脚部40のピラーパネル20への装着構造について説明する。
図1、
図2に示すように、前側脚部40には、クリップ座41が設けられ、車幅方向の車外側(
図1、
図2において紙面奥側)に突出している。クリップ座41は、側板部42と、その先端側の座板部43とを有している。側板部42は、車長方向後側が上記切欠11cに向かって開放され、上部、下部、及び車長方向前部の三方にコ字形の壁を形成している。座板部43には、その中央部から下部に渡ってクリップ装着孔43aが形成されている。クリップ装着孔43aの下部は、下方に進むに従い幅が広くなっており、側板部42の下部壁まで達している。クリップ座41の車長方向後側には、補強リブ44が設けられ、座板部43と、側板部42の上部壁及び下部壁とに連なっている。
【0018】
クリップ装着孔43aには、その下方からクリップ60が取り付けられ、上端部で固定されている。このクリップ60は、周知のものであって、前側脚部40のピラーパネル20へ装着に際し、クリップ60の先端側(車幅方向の車外側)がピラーパネル20のクリップ係止孔(図示せず)に周知の態様で嵌め込まれることにより、ピラーパネル20に固定されている。
【0019】
次に、ボルト70を用いた後側脚部50のピラーパネル20への装着構造について説明する。
図1~
図3に示すように、この実施形態で用いられるボルト70は頭部にフランジ部71を有するとともに、軸部72の先端側にねじ部が形成されている。尚、フランジ部のないボルトを用いてもよい。
【0020】
図1、
図2に示すように、後側脚部50は、前側脚部40よりも下方に延びている。後側脚部50の下端部50Aは、薄板状に形成され、前側脚部40のクリップ座41よりも下側に位置している。
図1~
図3に示すように、この下端部50Aに、ボルト固定部51が設けられている。
【0021】
ボルト固定部51には、後側脚部50の薄板状の下端部50Aを車幅方向に貫通するスリット52が形成され、上下方向に延びている。スリット52の上端及び下端は、半円弧状をなしている。スリット52の車室側の開口縁に沿うようにして、座面支持部53が車室側に突出して設けられている。
図3に示すように、スリット52にはボルト70の軸部72が挿入され、座面支持部53が、フランジ部71の軸部72側の座面に当接して、ボルト70を支持する。
図2に示すように、後側脚部50の下端部50Aの車室側には、ボルト固定部51に隣接して、車長方向後側に補強リブ54が設けられている。
【0022】
図3(A)に示すように、ボルト70を用いた後側脚部50のピラーパネル20への装着に際しては、ボルト固定部51の上端部においてスリット52に車室側から軸部72を通されたボルト70がピラーパネル20の螺合部21にねじ込まれて固定されている。
【0023】
図3(B)に示すように、ボルト固定部51では、ピラートリム10のピラーパネル20への装着作業を円滑かつ容易に行うことができるように、ボルト70を、予めボルト固定部51に仮保持させておくことができる。
【0024】
ボルト固定部51によるボルト70の仮保持について説明する。
ボルト固定部51の下端部におけるスリット52に、車室側からボルト70の軸部72を通し、フランジ部71の座面を座面支持部53に当接させる。この状態で、軸部72にセッティングワッシャ80(抜け止めワッシャ)を取り付けて、後側脚部50の裏面(車外側の面)からは離間させておく。セッティングワッシャ80は、紙製で環状に形成され、内周に沿ってその中心方向に突出する突起81を有している。この突起81が軸部72のねじ部に噛み込まれて、軸部72はセッティングワッシャ80に圧入状態となるので、ボルト70のスリット52からの抜け落ちが防止される。このようにして、ボルト70は、ピラートリム10においてボルト固定部51の下端部で仮保持される。尚、セッティングワッシャ80は、樹脂、金属、その他の素材であってもよい。
【0025】
次に、ピラートリム10のピラーパネル20への装着作業について説明する。
まず、装着作業に先立って、上述した方法によりピラートリム10にボルト70を仮保持させておく。次に、ピラートリム10の上部を上述した固定手段(図示せず)により、ピラーパネル20に固定する。次に、ピラートリム10の下端部10Aを、前側脚部40、後側脚部50の順にピラーパネル20に固定する。
【0026】
前側脚部40をクリップ60によりピラーパネル20に固定するために、クリップ座41に取り付けられたクリップ60をピラーパネル20のクリップ係止孔(図示せず)に嵌め込む。このとき、ピラートリム10は、ピラーパネル20に位置合わせされ、かつ上部が固定された状態であって、前側脚部40におけるクリップ座41の形成箇所が車室側からピラーパネル20に向かって叩き込まれる。
【0027】
クリップ座41の車長方向後側の切欠11cにより、前側脚部40のクリップ座41と後側脚部50のボルト固定部51との間の部分が切り取られているため、この部分が叩かれないようになるので、前側脚部40のクリップ座41の形成箇所が正確に叩かれるようになる。
【0028】
前側脚部40のクリップ座41の形成箇所への叩き込みにより生じる衝撃力は、クリップ座41から切欠11cを迂回して、正面壁11を経て、車長方向後方の後側脚部50に至り、クリップ座41より下方にあるボルト固定部51に伝わる。すなわち、切欠11cにより、衝撃力は、ボルト固定部51に最短距離で伝わらず、分散されて弱められるため、ボルト固定部51に仮保持されたボルト70の脱落を防止できる。
【0029】
クリップ60による前側脚部40の固定作業が終了した後、ピラートリム10の後側脚部50を、ボルト70を用いてピラーパネル20に固定する。
図3(B)に示すように、ピラートリム10の上部と前側脚部40とがピラーパネル20に固定された状態では、ピラートリム10にねじれ変形が生じることにより、後側脚部50とピラーパネル20との間にわずかに隙間Gが生じている。仮保持されたボルト70は、ボルト固定部51の下端部に位置している。このボルト70を、セッティングワッシャ80を取り外さずに、スリット52に沿ってボルト固定部51の上端部へと移動させる。
図3(A)に示すように、ボルト70をピラーパネル20の螺合部21にねじ込むことにより、後側脚部50は、ボルト70によってピラーパネル20に固定され、ひいては、ピラートリム10がピラーパネル20に装着される。
【0030】
ピラートリム10をピラーパネル20に装着した後、上述した方法により、ピラートリム10の下端部10Aに、図示しない別のピラートリム30の上端部が車室側から重ねられて組み付けられる。これにより、ピラートリム10の下端部10Aに配置されたクリップ座41及びボルト固定部51は、別のピラートリム30によって車室と遮蔽され、車室内から目視されない。
【0031】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において各種の変形例を採用することができる。
前側脚部にボルト固定部を設け、後側脚部にクリップ座を設けてもよい。
クリップ座とボルト固定部をピラートリムにおける下端部以外の端部に設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、ピラートリムを車体パネルのピラー部に装着する構造に適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
10 ピラートリム
10A 下端部
11c 切欠
20 ピラーパネル(車体パネルのピラー部)
41 クリップ座
51 ボルト固定部
60 クリップ
70 ボルト
72 ボルトの軸部
80 セッティングワッシャ(抜け止めワッシャ)