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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】設備の異常診断装置及び異常診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20220113BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018127249
(22)【出願日】2018-07-04
(65)【公開番号】P2020008337
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宋 瀏陽
(72)【発明者】
【氏名】陳山 鵬
(72)【発明者】
【氏名】井坂 一貴
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-189319(JP,A)
【文献】特開平10-267749(JP,A)
【文献】特開平07-168619(JP,A)
【文献】特開2017-096655(JP,A)
【文献】国際公開第2011/086805(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/006528(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01M 13/00-13/045
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備に設けられたセンサにより取得された時系列波形データを基に、前記設備の異常を診断する、設備の異常診断装置であって、
正常時の時系列波形データ、想定される複数の異常原因の各々に対応する複数の異常時の時系列波形データ、及び診断対象の時系列波形データの各々に対し、診断の指標となる診断パラメータ群の中の各診断パラメータの値を計算する、診断パラメータ計算部と、
前記複数の異常原因の各々に対し、前記診断パラメータ計算部の計算結果を基に、当該異常原因に相関する複数の診断パラメータの組み合わせを選択し、当該組み合わせられた診断パラメータによる当該異常原因の代表評価値を決定する、診断パラメータ組み合わせ選択部と、
前記複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因に相関する前記複数の診断パラメータの前記組み合わせによる前記診断対象の時系列波形データの代表評価値を計算し、当該代表評価値を、当該異常原因の前記代表評価値と比較して、前記異常原因を特定する、異常原因特定部と、
を備え
前記診断パラメータ計算部は、複数の前記正常時の時系列波形データに対し、各診断パラメータの前記値を計算し、
前記診断パラメータ組み合わせ選択部は、前記複数の異常原因の各々に対し、複数の診断パラメータの様々な組み合わせの中から、各組み合わせにおける、各診断パラメータの前記値を基にした前記複数の正常時の時系列波形データの分布と、当該異常原因に対応する前記異常時の時系列波形データの各診断パラメータの前記値との関係を基に、当該異常原因に相関する前記複数の診断パラメータの前記組み合わせを選択し、
前記診断パラメータ組み合わせ選択部は、主成分分析により、前記複数の診断パラメータの各組み合わせにおける、前記分布を演算する、設備の異常診断装置。
【請求項2】
前記診断パラメータ組み合わせ選択部は、前記複数の異常原因の各々に対し、前記複数の診断パラメータの前記組み合わせの中で、前記分布の中心と、当該異常原因の前記代表評価値との距離が最も大きい前記組み合わせを、当該異常原因に相関する複数の診断パラメータの前記組み合わせとして選択する、請求項に記載の設備の異常診断装置。
【請求項3】
前記診断パラメータ組み合わせ選択部は、前記複数の診断パラメータの各組み合わせにおいて、主成分分析により得られた第1主成分と第2主成分の累積寄与率が所定の割合以上の場合に、当該組み合わせを当該異常原因に相関する複数の診断パラメータの前記組み合わせの候補とし、当該候補の中から当該異常原因に相関する複数の診断パラメータの前記組み合わせを選択する、請求項1または2に記載の設備の異常診断装置。
【請求項4】
前記診断パラメータ組み合わせ選択部は、前記複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因に対応する前記異常時の時系列波形データの各診断パラメータの前記値を、主成分分析により得られた変換行列により変換することで、当該異常原因の前記代表評価値を計算する、請求項1から3のいずれか一項に記載の設備の異常診断装置。
【請求項5】
前記距離は、マハラノビス距離である、請求項に記載の設備の異常診断装置。
【請求項6】
前記異常原因特定部は、前記複数の異常原因の各々に対し、前記診断対象の時系列波形データの前記代表評価値を、主成分分析により得られた変換行列により変換することで計算する、請求項からのいずれか一項に記載の設備の異常診断装置。
【請求項7】
前記異常原因特定部は、前記複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因の前記代表評価値と、前記診断対象の時系列波形データの前記代表評価値との差が、所定の値以下の場合に、当該異常原因を異常の原因として特定する、請求項1からのいずれか一項に記載の設備の異常診断装置。
【請求項8】
前記時系列波形データを複数の周波数帯域の前記時系列波形データに分割する、周波数帯域分割部を、更に備え、
前記診断パラメータ計算部は、前記周波数帯域分割部により前記複数の周波数帯域に分割された、前記正常時の時系列波形データ、想定される複数の前記異常原因の各々に相関する複数の前記異常時の時系列波形データ、及び前記診断対象の時系列波形データの各々に対し、前記診断パラメータ群の中の各診断パラメータの値を計算し、
前記診断パラメータ組み合わせ選択部は、前記複数の異常原因の各々に対し、前記複数の周波数帯域と、前記診断パラメータ群の中から、当該異常原因に相関する、周波数帯域と、複数の診断パラメータの組み合わせを選択し、当該周波数帯域における組み合わせられた診断パラメータによる当該異常原因の前記代表評価値を決定し、
前記異常原因特定部は、前記複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因に相関する、選択された前記周波数帯域における、選択された前記複数の診断パラメータの前記組み合わせによる前記診断対象の時系列波形データの前記代表評価値を計算し、当該代表評価値を、当該異常原因の前記代表評価値と比較して、前記異常原因を特定する、請求項1からのいずれか一項に記載の設備の異常診断装置。
【請求項9】
前記設備は回転機であり、前記センサは振動センサであり、前記時系列波形データは振動波形データである、請求項1からのいずれか一項に記載の設備の異常診断装置。
【請求項10】
設備に設けられたセンサにより取得された時系列波形データを基に、前記設備の異常を診断する、設備の異常診断方法であって、
複数の正常時の時系列波形データ、想定される複数の異常原因の各々に対応する複数の異常時の時系列波形データ、及び診断対象の時系列波形データの各々に対し、診断の指標となる診断パラメータ群の中の各診断パラメータの値を計算し、
主成分分析により、前記複数の診断パラメータの各組み合わせにおける、各診断パラメータの前記値を基にした前記複数の正常時の時系列波形データの分布を演算し、前記複数の異常原因の各々に対し、複数の診断パラメータの様々な組み合わせの中から、各組み合わせにおける、前記分布と、当該異常原因に対応する前記異常時の時系列波形データの各診断パラメータの前記値との関係を基に、当該異常原因に相関する複数の診断パラメータの組み合わせを選択し、当該組み合わせられた診断パラメータによる当該異常原因の代表評価値を決定し、
前記複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因に相関する前記複数の診断パラメータの前記組み合わせによる前記診断対象の時系列波形データの代表評価値を計算し、当該代表評価値を、当該異常原因の前記代表評価値と比較して、前記異常原因を特定する、設備の異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設備の異常診断装置及び異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造業や社会インフラ等の分野において使用される設備は、長期間継続的に稼働される場合が多い。したがって、定期的な、または常時監視による異常診断が必須である。上記のような設備は容易に停止できない場合が多いため、設備を定期的に停止させて点検するよりも、設備を常時監視下において、稼働中の設備を異常診断することが望まれている。
【0003】
上記のような、様々な分野で広く使用される設備として、例えば、滑り軸受、転がり軸受、磁気軸受等の回転機が挙げられる。一般に、稼働中の回転機の異常は、音響診断、油分析診断等により診断されることもあるが、特に、振動センサにより収集した振動波形データを処理し、異常の予兆を検出する振動診断が多用されている。特許文献1には、振動診断による回転機械の診断方法が開示されている。
特許文献1の診断方法においては、回転機械の振動情報から算出した複数の有次元振動パラメータから、主成分分析法で状態評価指数を算出し、状態評価指数に基づき回転機械の良否判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-58191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法においては、回転機が正常状態、異常状態のどちらにあるかを判定することは可能であるが、異常状態にあると判定した場合に、異常の原因を判別するのが容易ではない。したがって、回転機の保守員による現場での異常原因調査が必要となる。
また、特許文献1の方法において使用されているパラメータは、回転機の仕様や設置状況、異常の原因等によって、異常に反応し検知する感度が変わることがある。すなわち、特許文献1の方法においては、精度よく異常が診断されないことがある。
稼働中の設備の異常の原因を、精度良く、特定することが望まれている。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、稼働中の設備の異常の原因を、精度良く特定可能な、設備の異常診断装置及び異常診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、設備に設けられたセンサにより取得された時系列波形データを基に、前記設備の異常を診断する、設備の異常診断装置であって、正常時の時系列波形データ、想定される複数の異常原因の各々に対応する複数の異常時の時系列波形データ、及び診断対象の時系列波形データの各々に対し、診断の指標となる診断パラメータ群の中の各診断パラメータの値を計算する、診断パラメータ計算部と、前記複数の異常原因の各々に対し、前記診断パラメータ計算部の計算結果を基に、当該異常原因に相関する複数の診断パラメータの組み合わせを選択し、当該組み合わせられた診断パラメータによる当該異常原因の代表評価値を決定する、診断パラメータ組み合わせ選択部と、前記複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因に相関する前記複数の診断パラメータの前記組み合わせによる前記診断対象の時系列波形データの代表評価値を計算し、当該代表評価値を、当該異常原因の前記代表評価値と比較して、前記異常原因を特定する、異常原因特定部と、を備えている、設備の異常診断装置を提供する。
【0008】
また、本発明は、設備に設けられたセンサにより取得された時系列波形データを基に、前記設備の異常を診断する、設備の異常診断方法であって、正常時の時系列波形データ、想定される複数の異常原因の各々に対応する複数の異常時の時系列波形データ、及び診断対象の時系列波形データの各々に対し、診断の指標となる診断パラメータ群の中の各診断パラメータの値を計算し、前記複数の異常原因の各々に対し、前記診断パラメータの計算結果を基に、当該異常原因に相関する複数の診断パラメータの組み合わせを選択し、当該組み合わせられた診断パラメータによる当該異常原因の代表評価値を決定し、前記複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因に相関する前記複数の診断パラメータの前記組み合わせによる前記診断対象の時系列波形データの代表評価値を計算し、当該代表評価値を、当該異常原因の前記代表評価値と比較して、前記異常原因を特定する、設備の異常診断方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、稼働中の設備の異常の原因を、精度良く特定可能な、設備の異常診断装置及び異常診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態における設備の異常診断装置のブロック図である。
図2】前記実施形態における設備の異常診断装置の、診断パラメータ組み合わせ選択部の説明図である。
図3】前記実施形態における設備の異常診断装置の、異常原因特定部の説明図である。
図4】前記実施形態における設備の異常診断方法の、前準備処理のフローチャートである。
図5】前記実施形態における設備の異常診断方法の、診断処理のフローチャートである。
図6】前記実施形態の第1変形例における設備の異常診断装置のブロック図である。
図7】前記実施形態の第2変形例における設備の異常診断装置のブロック図である。
図8】前記実施形態の第2変形例に関する実施例のグラフである。
図9】前記実施形態の第2変形例に関する実施例のグラフである。
図10】前記実施形態の第2変形例に関する実施例のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態における回転機の異常診断装置は、設備に設けられたセンサにより取得された時系列波形データを基に、設備の異常を診断するものであり、正常時の時系列波形データ、想定される複数の異常原因の各々に対応する複数の異常時の時系列波形データ、及び診断対象の時系列波形データの各々に対し、診断の指標となる診断パラメータ群の中の各診断パラメータの値を計算する、診断パラメータ計算部と、複数の異常原因の各々に対し、診断パラメータ計算部の計算結果を基に、当該異常原因に相関する複数の診断パラメータの組み合わせを選択し、当該組み合わせられた診断パラメータによる当該異常原因の代表評価値を決定する、診断パラメータ組み合わせ選択部と、複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因に相関する複数の診断パラメータの組み合わせによる診断対象の時系列波形データの代表評価値を計算し、当該代表評価値を、当該異常原因の代表評価値と比較して、異常原因を特定する、異常原因特定部と、を備えている。
【0012】
図1は、設備の異常診断装置のブロック図である。本実施形態においては、設備1は、水処理場に設けられたポンプに使用された、滑り軸受、すなわち回転機1であるが、これに限られない。設備1は、回転機1のものであってもよく、他の用途に使用されていてもよい。また、設備1が回転機1であったとしても、転がり軸受、磁気軸受等、滑り軸受以外のものであっても構わない。
回転機1は、回転軸1aと、回転軸1aを回転自在に支持する支持部1bを備えている。図1においては、回転軸1aは紙面水平方向に延在しており、方向Rに回転するように示されている。
【0013】
異常診断装置10は、回転機(設備)1の異常を診断するものであり、特に、想定される複数の異常原因の中から、異常原因を特定するものである。本実施形態においては、異常原因としては、異常原因A、異常原因B、及び異常原因Cの、3種類を想定する。例えば、これらの異常原因A、B、Cとして、滑り軸受中のオイルに気泡が混入した状態となったオイルウィップ、回転軸1aが偏心している状態となったアンバランス、回転軸1aに何らかの部材が接触し回転軸1aが正常に回転しない状態となった接触異常が考えられる。しかし、これらとは異なる異常原因が想定されてもよいし、より多くの異常原因が想定されても構わない。
【0014】
異常診断装置10は、センサ11と、制御端末12を備えている。
センサ11は、設備1すなわち回転機1に設けられて、時系列波形データとなるセンサ値を取得する。本実施形態においては、センサ11は振動センサ11である。したがって、時系列波形データは、振動波形データである。すなわち、本実施形態においては、振動センサ(センサ)11は、回転機1の支持部1bに接触して設けられて、稼働中の回転機1の振動状況を所定の時間計測し、振動波形データ(時系列波形データ)となるセンサ値を取得する。
振動センサ11は、取得したセンサ値を、制御端末12へ送信する。
【0015】
制御端末12は情報処理機器であり、内部に、データ収集部13、診断パラメータ計算部14、診断パラメータ組み合わせ生成部15、診断パラメータ組み合わせ選択部16、及び異常原因特定部17を備えている。
【0016】
以下に説明するように、制御端末12は、回転機1の診断のための前準備に相当する処理と、実際の回転機1の診断処理とを実行する。前準備処理は、データ収集部13、診断パラメータ計算部14、診断パラメータ組み合わせ生成部15、及び診断パラメータ組み合わせ選択部16によって実行される。診断処理は、データ収集部13、診断パラメータ計算部14、及び異常原因特定部17によって実行される。
ここではまず、前準備処理に関する各構成要素の機能を説明し、その後に、診断処理に関する各構成要素の機能を説明する。双方に関連するデータ収集部13及び診断パラメータ計算部14についても、これら処理の各々で個別に、関連する処理内容を説明する。
【0017】
データ収集部13は、振動センサ11から、回転機1の振動波形データ(時系列波形データ)となるセンサ値を受信する。
データ収集部13は、受信したセンサ値を、例えば50KHzのサンプリング周波数によりデジタルサンプリングし、時系列振動波形データを生成する。
【0018】
データ収集部13は、前準備処理においては、正常時の振動波形データ(時系列波形データ)と、想定される複数の、本実施形態においては例えば3個の、異常原因の各々に対応する複数の異常時の振動波形データ(時系列波形データ)を生成する。
データ収集部13は、回転機1が正常に稼働している際の振動波形データを、正常時の振動波形データとして取得する。
異常時の振動波形データに関しては、回転機1において実際に各異常原因を再現することにより取得するか、または、過去に同様な原因に因る異常が発生した際にデータ収集部13によって取得された振動波形データがあれば、それを使用するのが望ましい。異常時の振動波形データの取得が難しければ、回転機1の仕様や設置状況に基づいて異常を再現するシミュレーションを機械的に実行し、その結果として取得された振動波形データを、データ収集部13内に取り込むことで用意しても構わない。
【0019】
データ収集部13は、正常時の振動波形データと、複数の異常時の振動波形データを、診断パラメータ計算部14へ送信する。
【0020】
診断パラメータ計算部14は、データ収集部13から、正常時の振動波形データと、複数の異常時の振動波形データを受信する。
診断パラメータ計算部14は、受信した各振動波形データを、時間軸において、所定の分割数D、例えば8等の数に分割する。この分割数Dは、振動波形データの長さや、波形の周期の長さによって適切に決定される。
【0021】
診断パラメータ計算部14は、分割されて複数となった正常時の振動波形データの各々に対し、診断の指標となる診断パラメータ群の中の各診断パラメータの値を計算する。
また、診断パラメータ計算部14は、複数の異常原因の各々において、当該異常原因に対応する異常時の振動波形データの、分割されて複数となった各々に対し、同様に各診断パラメータの値を計算する。
既に説明したように、本実施形態においては、3種類の異常原因を想定している。すなわち、正常時の振動波形データが分割されてD個となり、かつ、3種類の異常原因に対応する異常時の振動波形データの各々も分割されて、計3×D個となっているため、各診断パラメータに対し、4×D回の値の計算が実行される。
【0022】
本実施形態においては、診断の指標となる診断パラメータ群として、次に説明する、20種類の診断パラメータを使用している。ここで、診断パラメータを計算する対象となる振動波形データをx(i=1~N)とし、X、σ、xを次のように定義する。ここで、Nはデータ総数である。
【0023】
【数1】
【0024】
第1診断パラメータである変動率pは、次式のように定義される。変動率は、波形のバラツキを表す特徴パラメータである。
【0025】
【数P1】
【0026】
第2診断パラメータである歪度pは、次式のように定義される。歪度は、波形の非対称性を表す特徴パラメータである。
【0027】
【数P2】
【0028】
第3診断パラメータである尖度pは、次式のように定義される。尖度は、波形確率密度関数の尖りの程度を表す特徴パラメータである。
【0029】
【数P3】
【0030】
第4診断パラメータである波高率pは、次式のように定義される。波高率は、波形の衝撃性を表す特徴パラメータである。次式において、Xmax,aは、|x|の上位10個の値の平均値である。
【0031】
【数P4】
【0032】
第5診断パラメータである波形率pは、次式のように定義される。波形率は、波形の変動性を表す特徴パラメータである。
【0033】
【数P5】
【0034】
第6診断パラメータである絶対値の極大値の変動率pは、次式のように定義される。次式において、XP,aは、ピークの平均値であり、σは、ピークの標準偏差である。
【0035】
【数P6】
【0036】
第7診断パラメータである絶対値の極大値の歪度pは、次式のように定義される。次式において、xPi(i=1~M)は、ピーク値である。
【0037】
【数P7】
【0038】
第8診断パラメータである絶対値の極大値の尖度pは、次式のように定義される。
【0039】
【数P8】
【0040】
第9診断パラメータである谷値の変動率pは、次式のように定義される。谷値は、波形の極小値である。次式において、XL,aは、谷値の平均値であり、σは、谷値の標準偏差である。
【0041】
【数P9】
【0042】
第10診断パラメータである谷値の歪度p10は、次式のように定義される。次式において、xLi(i=1~K)は、谷値である。
【0043】
【数P10】
【0044】
第11診断パラメータである谷値の尖度p11は、次式のように定義される。
【0045】
【数P11】
【0046】
第12診断パラメータである0値通過頻度と絶対値の極大値の頻度の比p12は、次式のように定義される。
【0047】
【数P12】
【0048】
第13診断パラメータである0値通過頻度と谷値の頻度の比p13は、次式のように定義される。
【0049】
【数P13】
【0050】
第14診断パラメータである絶対値の極大値の頻度と谷値の頻度の比p14は、次式のように定義される。
【0051】
【数P14】
【0052】
第15診断パラメータである波形の平方根の平均値p15は、次式のように定義される。
【0053】
【数P15】
【0054】
第16診断パラメータである波形の対数の平均値p16は、次式のように定義される。
【0055】
【数P16】
【0056】
第17~第20パラメータは、周波数領域のパラメータである。これらは、時系列データである振動波形データをフーリエ変換で周波数スペクトルに変換した後に計算される。すなわち、周波数f=(i=1~I)におけるスペクトル成分をF(f)としたときに、f、σを次のように定義する。
【0057】
【数2】
【0058】
このとき、第17診断パラメータである波形の安定指数p17は、次式のように定義される。波形の安定指数は、波形の定常度合いを表す特徴パラメータである。
【0059】
【数P17】
【0060】
第18診断パラメータである周波数領域の変動率p18は、次式のように定義される。
【0061】
【数P18】
【0062】
第19診断パラメータである周波数領域の歪度p19は、次式のように定義される。
【0063】
【数P19】
【0064】
第20診断パラメータである周波数領域の尖度p20は、次式のように定義される。
【0065】
【数P20】
【0066】
診断パラメータ計算部14は、正常時の振動波形データ及び各異常時の振動波形データの、分割されて複数となった各々に対して、上記のような診断パラメータp~p20を計算し、各診断パラメータの値を取得する。
診断パラメータ計算部14は、各振動波形データに関する診断パラメータp~p20の計算結果を、診断パラメータ組み合わせ選択部16へ送信する。
【0067】
診断パラメータ組み合わせ生成部15は、既に説明した20種類の診断パラメータp~p20から、診断パラメータp~p20の全ての組み合わせを生成する。
診断パラメータ組み合わせ生成部15は、各組み合わせとして所定の最低数以上の診断パラメータp~p20を選択する。本実施形態においては、所定の最低数は、例えば3である。この場合においては、次式のように、組み合わせの総数は1048365個となる。
【0068】
【数3】
【0069】
診断パラメータ組み合わせ生成部15は、生成した診断パラメータp~p20の全ての組み合わせを、診断パラメータ組み合わせ選択部16へ送信する。
【0070】
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、診断パラメータ計算部14から、正常時の振動波形データ及び各異常時の振動波形データの、分割されて複数となった各々に関する診断パラメータp~p20の計算結果を受信する。また、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、診断パラメータ組み合わせ生成部15から、診断パラメータp~p20の全ての組み合わせを受信する。
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、複数の異常原因の各々に対し、診断パラメータ計算部14の計算結果を基に、当該異常原因に相関する複数の診断パラメータp~p20の組み合わせを1つ選択し、当該組み合わせられた診断パラメータp~p20による当該異常原因の代表評価値を決定する。
より詳細には、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、複数の異常原因の各々に対し、診断パラメータp~p20の様々な組み合わせの中から、各組み合わせにおける、各診断パラメータp~p20の値を基にした複数の正常時の振動波形データの分布と、当該異常原因に対応する異常時の振動波形データの各診断パラメータp~p20の値との関係を基に、当該異常原因に相関する診断パラメータp~p20の組み合わせを選択する。
【0071】
まず、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、複数の異常原因から1つの異常原因を選択する。
また、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、診断パラメータ組み合わせ生成部15から受信した、診断パラメータp~p20の組み合わせから、1つの組み合わせを選択する。
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、診断パラメータ計算部14から受信した、分割されて複数となった正常時の振動波形データの各々に対して、これらに関する診断パラメータp~p20の計算結果から、選択された組み合わせに含まれる診断パラメータp~p20の各々に対応する値を抽出する。
【0072】
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、複数の正常時の振動波形データに対して、この各々に対応する、選択された組み合わせに含まれる診断パラメータp~p20の値を用いて、主成分分析により、この選択された組み合わせにおける正常時の振動波形データの分布を演算する。
すなわち、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、主成分分析により、正常時の診断パラメータp~p20の分布の中心を原点とした座標軸への変換行列Hと、その座標軸におけるバラつきの大きさである固有ベクトルλを計算する。
選択された組み合わせに含まれる診断パラメータp~p20の数をkとすると、変換行列Hは数式4として、及び固有ベクトルλは数式5として、それぞれ表わされる。
【0073】
【数4】
【0074】
【数5】
【0075】
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、主成分分析により得られた第1主成分と第2主成分の累積寄与率、すなわち、第1主成分と第2主成分の寄与率の合計を計算する。
上記の数式4においては、1行目すなわち要素h11~h1kが第1主成分に相当し、2行目すなわち要素h21~h2kが第2主成分に相当する。また、数式5においては、要素λが第1主成分に相当し、要素λが第2主成分に相当する。
累積寄与率CRは、次式で表わされる。
【0076】
【数6】
【0077】
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、累積寄与率CRが所定の割合以上の場合に、選択された診断パラメータp~p20の組み合わせが、正常時の振動波形データの情報量を効率的に表現できていると考え、選択された診断パラメータp~p20の組み合わせを、選択された異常原因に相関する診断パラメータp~p20の組み合わせの候補とする。
本実施形態においては、所定の割合は、例えば80%である。
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、累積寄与率CRが所定の割合以上でなければ、選択された診断パラメータp~p20の組み合わせは候補とするに適切ではないと判断し、複数の診断パラメータp~p20の組み合わせから、他の1つの組み合わせを選択し、この他の1つの組み合わせに対して、上記の処理を繰り返す。
【0078】
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、累積寄与率CRが所定の割合以上の場合には、続いて、この選択された診断パラメータp~p20の組み合わせが、選択された異常原因を精度よく評価できるか否かを判断する。
まず、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、診断パラメータ計算部14から受信した、選択された異常原因に対応する、分割されて複数となった異常時の振動波形データの各々に対して、これらに関する診断パラメータp~p20の計算結果から、選択された組み合わせに含まれる診断パラメータp~p20の各々に対応する値を抽出する。
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、選択された異常原因に対応する、複数の異常時の振動波形データの各々について、抽出された診断パラメータp~p20に対して、主成分分析により得られた変換行列Hの第1主成分、第2主成分での変換を行う。診断パラメータ組み合わせ選択部16は、複数の異常時の振動波形データ間でこれらの平均を計算することで、選択された異常原因の代表評価値となる、選択された異常原因に対応する異常時の振動波形データの第1主成分得点s、第2主成分得点tを計算する。
【0079】
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、異常時の振動波形データの主成分得点s、tと、主成分分析により得られた固有ベクトルλを基に、次式によりマハラノビス距離dを計算する。
【0080】
【数7】
【0081】
図2は、複数の正常時の振動波形データの分布と、異常時の振動波形データの主成分得点の関係を表わすグラフである。
本グラフにおいては、横軸sに主成分分析における第1主成分、縦軸tに第2主成分が記されている。複数の正常時の振動波形データに相当する点は、NPとして示されている。主成分分析は複数の正常時の振動波形データに対して実行されたものであるから、点NPはst座標系の原点近傍に分布している。本実施形態においては、分割数Dは8としているため、点NPの数は8となっている。
これに対し、選択された異常原因に対応する異常時の振動波形データの主成分得点s、tは、st座標系上に点APとして示されている。マハラノビス距離dは図2中に原点と点APとの間の距離として示されている。すなわち、マハラノビス距離dは、正常時の振動波形データの分布状態と、選択された異常原因に対応する異常時の振動波形データの分布状態との距離である。
【0082】
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、このマハラノビス距離dを診断精度の評価指標として、選択された異常原因の診断において適切な、診断パラメータp~p20の組み合わせを選択する。
より詳細には、上記の処理によって計算されたマハラノビス距離dが、選択された異常原因に対する、過去に実行された診断パラメータp~p20の他の組み合わせに関する処理において計算されたどのマハラノビス距離dよりも大きい場合に、現在選択されている診断パラメータp~p20の組み合わせを暫定の最良組み合わせとして保存する。診断パラメータ組み合わせ選択部16は、選択された異常原因に対する、診断パラメータp~p20の全ての組み合わせに関する処理が終了した時点において、暫定の最良組み合わせとして保存されているものを、選択された異常原因に相関する診断パラメータp~p20の組み合わせとして選択する。
【0083】
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、上記のように、診断パラメータp~p20の全ての組み合わせに対するマハラノビス距離dを計算し、マハラノビス距離dが最大となる診断パラメータp~p20の組み合わせを選択し、選択された異常原因に対応付けて保存する。診断パラメータ組み合わせ選択部16はまた、この組み合わせにおける異常時の振動波形データの主成分得点s、tを、選択された異常原因に対応付けて保存する。
診断パラメータ組み合わせ選択部16は同時に、この選択された診断パラメータp~p20の組み合わせに対応する変換行列Hと固有ベクトルλを、選択された異常原因に対応付けて保存する。
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、このような処理を、全ての異常原因に対して実行し、異常原因毎に、マハラノビス距離dが最大となる診断パラメータp~p20の組み合わせ、異常時の振動波形データの主成分得点s、t、変換行列H、及び固有ベクトルλを保存する。
【0084】
このように、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、複数の異常原因の各々に対し、診断パラメータp~p20の全ての組み合わせの中の各々において、主成分分析により得られた第1主成分と第2主成分の累積寄与率が所定の割合以上の場合に、当該組み合わせを当該異常原因に相関する診断パラメータp~p20の組み合わせの候補とする。
そして、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因に対応する異常時の振動波形データの各診断パラメータp~p20の値を、主成分分析により得られた変換行列Hにより変換することで、当該異常原因の代表評価値を計算する。
更に、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、複数の異常原因の各々に対し、診断パラメータp~p20の組み合わせの候補の中で、正常時の診断パラメータp~p20の分布の中心と、当該異常原因の代表評価値とのマハラノビス距離dが最も大きい候補を、当該異常原因に相関する診断パラメータp~p20の組み合わせとして選択する。
【0085】
このように、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、複数の異常原因の各々に対し、診断パラメータp~p20の組み合わせを総当たりで評価し、最も診断精度を高める組合せパターンを選定する。
【0086】
上記のようにして異常原因毎に生成された、マハラノビス距離dが最大となる診断パラメータp~p20の組み合わせ、異常時の振動波形データの主成分得点s、t、変換行列H、及び固有ベクトルλは、異常診断装置10内に保存されて、後に説明する異常原因特定部17において、回転機1の診断を実行する際に使用される。
【0087】
次に、異常診断装置10の、診断処理に関する各部位の機能を説明する。
【0088】
前準備処理と同様に、データ収集部13は、振動センサ(センサ)11から、回転機(設備)1の振動波形データ(時系列波形データ)となるセンサ値を受信する。
診断処理においては、データ収集部13は、実際に稼働して異常を診断中の回転機1の振動波形データを、診断対象の振動波形データ(時系列波形データ)として取得する。
データ収集部13は、診断対象の振動波形データを、診断パラメータ計算部14へ送信する。
【0089】
診断パラメータ計算部14は、データ収集部13から、診断対象の振動波形データを受信する。診断パラメータ計算部14は、受信した診断対象の振動波形データを、時間軸において、所定の分割数D、例えば8等の数に分割する。
診断パラメータ計算部14は、診断対象の振動波形データの、分割されて複数となった各々に対し、診断パラメータp~p20の値を計算する。
診断パラメータ計算部14は、複数の診断対象の振動波形データに関する診断パラメータp~p20の計算結果を、異常原因特定部17へ送信する。
【0090】
異常原因特定部17は、診断パラメータ計算部14から、複数の診断対象の振動波形データに関する診断パラメータp~p20の計算結果を受信する。
また、異常原因特定部17は、異常診断装置10内に、各異常原因に対応付けて保存されている、マハラノビス距離dが最大となる診断パラメータp~p20の組み合わせ、異常時の振動波形データの主成分得点s、t、変換行列H、及び固有ベクトルλを取得する。
【0091】
まず、異常原因特定部17は、複数の異常原因から1つの異常原因を選択する。
異常原因特定部17は、複数の診断対象の振動波形データの各々について、計算された診断パラメータp~p20に対して、選択された異常原因に対応付けられた変換行列Hの第1主成分、第2主成分での変換を行う。異常原因特定部17は、複数の診断対象の振動波形データ間でこれらの平均を計算することで、診断対象の振動波形データの代表評価値となる、診断対象の振動波形データの第1主成分得点s、第2主成分得点tを計算する。この診断対象の振動波形データの主成分得点s、tが、診断時の回転機1の状態となる。
【0092】
異常原因特定部17は、診断対象の振動波形データの主成分得点s、tと、選択された異常原因に対応付けられた固有ベクトルλを基に、数式7により診断対象のマハラノビス距離dを計算する。診断対象のマハラノビス距離dは、正常時の振動波形データの分布状態と、診断対象の振動波形データの分布状態との距離である。
異常原因特定部17は、診断対象のマハラノビス距離dが所定の第1閾値以下の場合に、選択された異常原因に関しては異常とはいえないと判断する。その後、異常原因特定部17は、複数の異常原因から他の異常原因を選択し、この他の異常原因に対して、上記の処理を繰り返す。
【0093】
異常原因特定部17は、診断対象のマハラノビス距離dが所定の第1閾値を超える場合に、何らかの異常が発生していると判断する。
この場合に、異常原因特定部17は、発生している異常が、選択された異常原因に起因したものであるか否かを判定する。より詳細には、異常原因特定部17は、診断対象の振動波形データの主成分得点s、tと、選択された異常原因に対応する異常時の振動波形データの主成分得点s、tとの差を算出し、これを用いて判定を行う。主成分得点s、tと、主成分得点s、tとの差としては、選択された異常原因に対応付けられた変換行列Hにおける第1主成分sと第2主成分tの座標系にこれらの得点をプロットしたときの、2点のベクトル間の距離を計算する。
【0094】
異常原因特定部17は、この差が所定の第2閾値(所定の値)以下の場合に、診断時の状況は選択された異常原因に対応付けられた異常時の状況に近いと判断し、選択された異常原因を異常の原因として特定する。
異常原因特定部17は、この差が所定の第2閾値を超える場合に、診断時の状況は選択された異常原因に対応付けられた異常時の状況に近くないと判断し、選択された異常原因は異常の原因ではないと判定する。
【0095】
異常原因特定部17は、このような処理を、全ての異常原因に対して実行し、異常原因毎に、選択された異常原因が異常の原因であるか否かを判定する。
複数の異常原因に対して、選択された異常原因が異常の原因であると判定された場合においては、異常原因特定部17は、複数の異常原因の全てを異常の原因として特定する。
全ての異常原因に対して、選択された異常原因が異常の原因ではないと判定された場合においては、異常ではあるが原因が不明であると判定する。
異常原因特定部17は、これらの判定結果を、図示されない表示装置に表示する。
【0096】
図3は、異常原因特定部17の動作を説明する説明図である。既に説明したように、本実施形態においては、3種類の異常原因A、B、Cを想定している。
図3(a)は、異常原因Aに関する主成分分析において計算された第1主成分s、第2主成分tを軸としたグラフであり、このときの正常時の振動波形データに相当する点がNPとして、及び、異常原因Aに対応する異常時の振動波形データの主成分得点s、tが点APとして、それぞれ示されている。異常原因Aは、例えばオイルウィップであり、このときに、主成分分析によって、例えば診断パラメータの組み合わせp、p14、p16、p18が選択される。
図3(b)は、異常原因Bに関する主成分分析において計算された第1主成分s、第2主成分tを軸としたグラフであり、このときの正常時の振動波形データに相当する点がNPとして、及び、異常原因Bに対応する異常時の振動波形データの主成分得点s、tが点APとして、それぞれ示されている。異常原因Bは、例えばアンバランスであり、このときに、主成分分析によって、例えば診断パラメータの組み合わせp、p、p、p、p10、p15、p16が選択される。
図3(c)は、異常原因Cに関する主成分分析において計算された第1主成分s、第2主成分tを軸としたグラフであり、このときの正常時の振動波形データに相当する点がNPとして、及び、異常原因Cに対応する異常時の振動波形データの主成分得点s、tが点APとして、それぞれ示されている。異常原因Cは、例えば接触異常であり、このときに、主成分分析によって、例えば診断パラメータの組み合わせp、p、p、p、p、p13、p15、p17、p18、p20が選択される。
【0097】
上記のような状態において、診断対象の振動波形データが入力された場合を考える。
図3(a)には、選択された異常原因が異常原因Aである場合において、異常原因特定部17で計算された診断対象の振動波形データの主成分得点sdA、tdAをプロットした点DPと、診断対象のマハラノビス距離ddAが示されている。この場合においては、点DPと点APが近いため、主成分得点sdA、tdAと主成分得点s、tとの差が所定の第2閾値以下となり、異常原因Aが異常の原因として特定される。
図3(b)には、選択された異常原因が異常原因Bである場合において、異常原因特定部17で計算された診断対象の振動波形データの主成分得点sdB、tdBをプロットした点DPと、診断対象のマハラノビス距離ddBが示されている。この場合においては、点DPと点APが遠いため、主成分得点sdB、tdBと主成分得点s、tとの差が所定の第2閾値を超える値となり、異常原因Bは異常の原因として特定されない。
図3(c)には、選択された異常原因が異常原因Cである場合において、異常原因特定部17で計算された診断対象の振動波形データの主成分得点sdC、tdCをプロットした点DPと、診断対象のマハラノビス距離ddCが示されている。この場合においては、点DPと点APが遠いため、主成分得点sdC、tdCと主成分得点s、tとの差が所定の第2閾値を超える値となり、異常原因Cは異常の原因として特定されない。
すなわち、異常原因特定部17は、異常原因特定処理の結果、異常の原因は異常原因Aすなわちオイルウィップであると、表示装置に表示する。
【0098】
このように、異常原因特定部17は、複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因に相関する複数の診断パラメータp~p20の組み合わせによる診断対象の振動波形データの代表評価値を計算し、当該代表評価値を、当該異常原因の代表評価値と比較して、異常原因を特定する。
より詳細には、異常原因特定部17は、複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因の代表評価値と、診断対象の振動波形データの代表評価値との差が、所定の第2閾値以下の場合に、当該異常原因を異常の原因として特定する。
また、異常原因特定部17は、複数の異常原因の各々に対し、診断対象の振動波形データの代表評価値を、主成分分析により得られた変換行列Hにより変換することで計算する。
【0099】
次に、図1図3、及び図4図5を用いて、上記の回転機1の異常診断方法を説明する。図4は、回転機1の異常診断方法の、前準備処理のフローチャートであり、図5は、診断処理のフローチャートである。
本異常診断方法は、設備に設けられたセンサにより取得された時系列波形データを基に、設備の異常を診断するものであり、正常時の時系列波形データ、想定される複数の異常原因の各々に対応する複数の異常時の時系列波形データ、及び診断対象の時系列波形データの各々に対し、診断の指標となる診断パラメータ群の中の各診断パラメータの値を計算し、複数の異常原因の各々に対し、診断パラメータの計算結果を基に、当該異常原因に相関する複数の診断パラメータの組み合わせを選択し、当該組み合わせられた診断パラメータによる当該異常原因の代表評価値を決定し、複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因に相関する複数の診断パラメータの組み合わせによる診断対象の時系列波形データの代表評価値を計算し、当該代表評価値を、当該異常原因の代表評価値と比較して、異常原因を特定する。
【0100】
前準備処理においては、処理が開始すると(ステップS0)、データ収集部13は、正常時の振動波形データ(時系列波形データ)と、想定される複数の異常原因の各々に対応する複数の異常時の振動波形データ(時系列波形データ)を生成する(ステップS2)。
データ収集部13は、正常時の振動波形データと、複数の異常時の振動波形データを、診断パラメータ計算部14へ送信する。
【0101】
診断パラメータ計算部14は、データ収集部13から、正常時の振動波形データと、複数の異常時の振動波形データを受信する。
診断パラメータ計算部14は、受信した各振動波形データを、時間軸において、所定の分割数Dに分割する。
診断パラメータ計算部14は、正常時の振動波形データ及び各異常時の振動波形データの、分割されて複数となった各々に対して、診断パラメータp~p20を計算し、各診断パラメータの値を取得する(ステップS4)。
診断パラメータ計算部14は、各振動波形データに関する診断パラメータp~p20の計算結果を、診断パラメータ組み合わせ選択部16へ送信する。
【0102】
診断パラメータ組み合わせ生成部15は、診断パラメータp~p20から、診断パラメータp~p20の全ての組み合わせを生成する(ステップS6)。
診断パラメータ組み合わせ生成部15は、生成した診断パラメータp~p20の全ての組み合わせを、診断パラメータ組み合わせ選択部16へ送信する。
【0103】
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、診断パラメータ計算部14から、正常時の振動波形データ及び各異常時の振動波形データの、分割されて複数となった各々に関する診断パラメータp~p20の計算結果を受信する。また、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、診断パラメータ組み合わせ生成部15から、診断パラメータp~p20の全ての組み合わせを受信する。
まず、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、複数の異常原因から1つの異常原因を選択する(ステップS8)。
また、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、診断パラメータ組み合わせ生成部15から受信した、診断パラメータp~p20の組み合わせから、1つの組み合わせを選択する(ステップS10)。
【0104】
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、診断パラメータ計算部14から受信した、分割されて複数となった正常時の振動波形データの各々に対して、これらに関する診断パラメータp~p20の計算結果から、ステップS10において選択された組み合わせに含まれる診断パラメータp~p20の各々に対応する値を抽出する。
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、主成分分析により、正常時の診断パラメータp~p20の分布の中心を原点とした座標軸への変換行列Hと、その座標軸におけるバラつきの大きさである固有ベクトルλを計算する(ステップS12)。
【0105】
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、主成分分析により得られた第1主成分と第2主成分の累積寄与率を計算し、これが所定の割合以上であるか否かを判定する(ステップS14)。
【0106】
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、累積寄与率CRが所定の割合以上の場合には(ステップS14のYes)、診断パラメータ計算部14から受信した、ステップS8において選択された異常原因に対応する、分割されて複数となった異常時の振動波形データの各々に対して、これらに関する診断パラメータp~p20の計算結果から、ステップS10において選択された組み合わせに含まれる診断パラメータp~p20の各々に対応する値を抽出する。
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、ステップS8において選択された異常原因に対応する、複数の異常時の振動波形データの各々について、抽出された診断パラメータp~p20に対して、主成分分析により得られた変換行列Hの第1主成分、第2主成分での変換を行う。診断パラメータ組み合わせ選択部16は、複数の異常時の振動波形データ間でこれらの平均を計算することで、ステップS8において選択された異常原因の代表評価値となる、ステップS8において選択された異常原因に対応する異常時の振動波形データの第1主成分得点s、第2主成分得点tを計算する(ステップS16)。
【0107】
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、異常時の振動波形データの主成分得点s、tと、主成分分析により得られた固有ベクトルλを基にマハラノビス距離dを計算する。
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、マハラノビス距離dが、ステップS8において選択された異常原因に対する、過去に実行された診断パラメータp~p20の他の組み合わせに関する処理において計算されたどのマハラノビス距離dよりも大きいか否かを判定する(ステップS18)。
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、計算されたマハラノビス距離dが過去の結果よりも大きい場合に(ステップS18のYes)、ステップS10において現在選択されている診断パラメータp~p20の組み合わせを暫定の最良組み合わせとして保存し(ステップS20)、ステップS22へ遷移する。
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、計算されたマハラノビス距離dが過去の結果よりも大きくない場合に(ステップS18のNo)、最良組み合わせを更新せずに、ステップS22へ遷移する。
【0108】
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、累積寄与率CRが所定の割合以上でなければ(ステップS14のNo)選択された診断パラメータp~p20の組み合わせは候補とするに適切ではないと判断し、ステップS22へ遷移する。
【0109】
ステップS22においては、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、ステップS8において選択された異常原因に対して、全ての組み合わせが選択されて、これに対するステップS12~S20の処理が実行されたかを判定する。
未実行の組み合わせが残っている場合には(ステップS22のNo)、未実行の組み合わせの中から、他の組み合わせを1つ選択し(ステップS10へ遷移)、この他の組み合わせに対して、上記の処理を繰り返す。
【0110】
全ての組み合わせに対するステップS12~S20の処理が実行された場合には(ステップS22のYes)、この時点において最良組み合わせとして保存されているものを、ステップS8において選択された異常原因に相関する診断パラメータp~p20の組み合わせとして設定する(ステップS24)。
【0111】
診断パラメータ組み合わせ選択部16は、全ての異常原因が選択されて、これに対するステップS10~S24の処理が実行されたかを判定する(ステップS26)。
未実行の異常原因が残っている場合には(ステップS26のNo)、未実行の異常原因の中から、他の異常原因を1つ選択し(ステップS8へ遷移)、この他の異常原因に対して、上記の処理を繰り返す。
【0112】
全ての異常原因に対するステップS10~S24の処理が実行された場合には(ステップS26のYes)、処理を終了する(ステップS28)。
【0113】
診断処理においては、処理が開始すると(ステップS40)、データ収集部13は、実際に稼働して異常状態を診断中の回転機1の振動波形データを、診断対象の振動波形データ(時系列波形データ)として取得する(ステップS42)。
データ収集部13は、診断対象の振動波形データを、診断パラメータ計算部14へ送信する。
【0114】
診断パラメータ計算部14は、データ収集部13から、診断対象の振動波形データを受信する。診断パラメータ計算部14は、受信した診断対象の振動波形データを、時間軸において、所定の分割数Dに分割する。
診断パラメータ計算部14は、診断対象の振動波形データの、分割されて複数となった各々に対し、診断パラメータp~p20の値を計算する(ステップS44)。
診断パラメータ計算部14は、複数の診断対象の振動波形データに関する診断パラメータp~p20の計算結果を、異常原因特定部17へ送信する。
【0115】
異常原因特定部17は、診断パラメータ計算部14から、複数の診断対象の振動波形データに関する診断パラメータp~p20の計算結果を受信する。
また、異常原因特定部17は、異常診断装置10内に、各異常原因に対応付けて保存されている、マハラノビス距離dが最大となる診断パラメータp~p20の組み合わせ、異常時の振動波形データの主成分得点s、t、変換行列H、及び固有ベクトルλを取得する。
【0116】
まず、異常原因特定部17は、複数の異常原因から1つの異常原因を選択する(ステップS46)。
異常原因特定部17は、複数の診断対象の振動波形データの各々について、計算された診断パラメータp~p20に対して、ステップS46において選択された異常原因に対応付けられた変換行列Hの第1主成分、第2主成分での変換を行う。異常原因特定部17は、複数の診断対象の振動波形データ間でこれらの平均を計算することで、診断対象の振動波形データの代表評価値となる、診断対象の振動波形データの第1主成分得点s、第2主成分得点tを計算する(ステップS48)。
【0117】
異常原因特定部17は、診断対象の振動波形データの主成分得点s、tと、ステップS46において選択された異常原因に対応付けられた固有ベクトルλを基に、数式7により診断対象のマハラノビス距離dを計算する。
異常原因特定部17は、診断対象のマハラノビス距離dと所定の第1閾値を比較することにより異常判定を行う(ステップS50)。
異常原因特定部17は、診断対象のマハラノビス距離dが所定の第1閾値以下の場合に(ステップS50のNo)、少なくともステップS46において選択された異常原因に関しては異常とはいえないと判断し、ステップS56へ遷移する。
【0118】
異常原因特定部17は、診断対象のマハラノビス距離dが所定の第1閾値を超える場合に(ステップS50のYes)、何らかの異常が発生していると判断する。
この場合に、異常原因特定部17は、発生している異常が、ステップS46において選択された異常原因に起因したものであるか否かを判定する(ステップS52)。より詳細には、異常原因特定部17は、診断対象の振動波形データの主成分得点s、tと、ステップS46において選択された異常原因に対応する異常時の振動波形データの主成分得点s、tとの差を算出し、これを用いて判定を行う。
【0119】
異常原因特定部17は、この差が所定の第2閾値(所定の値)以下の場合に、診断時の状況はステップS46において選択された異常原因に対応付けられた異常時の状況に近いと判断し(ステップS52のYes)、ステップS46において選択された異常原因を異常の原因として特定する。より詳細には、異常原因リストに、ステップS46において選択された異常原因を追加する(ステップS54)。異常原因特定部17はこの後、ステップS56へ遷移する。
異常原因特定部17は、この差が所定の第2閾値を超える場合に、診断時の状況は選択された異常原因に対応付けられた異常時の状況に近くないと判断し(ステップS52のNo)、選択された異常原因は異常の原因ではないと判定して、ステップS56へ遷移する。
【0120】
ステップS56においては、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、全ての異常原因が選択されて、これに対するステップS48~S54の処理が実行されたかを判定する。
未実行の異常原因が残っている場合には(ステップS56のNo)、未実行の異常原因の中から、他の異常原因を1つ選択し(ステップS46へ遷移)、この他の異常原因に対して、上記の処理を繰り返す。
【0121】
全ての異常原因に対するステップS48~S54の処理が実行された場合には(ステップS56のYes)、ステップS54において異常原因リストに異常原因が追加されている場合に、異常原因リストの内容を表示装置に表示し、処理を終了する(ステップS58)。
【0122】
次に、上記の回転機の異常診断装置及び異常診断方法の効果について説明する。
【0123】
本実施形態の回転機1の異常診断装置10においては、回転機1に設けられた振動センサ11により取得された振動波形データを基に、回転機1の異常を診断するものであって、正常時の振動波形データ、想定される複数の異常原因の各々に対応する複数の異常時の振動波形データ、及び診断対象の振動波形データの各々に対し、診断の指標となる診断パラメータ群の中の各診断パラメータp~p20の値を計算する、診断パラメータ計算部14と、複数の異常原因の各々に対し、診断パラメータ計算部14の計算結果を基に、当該異常原因に相関する複数の診断パラメータp~p20の組み合わせを選択し、当該組み合わせられた診断パラメータp~p20による当該異常原因の代表評価値s、tを決定する、診断パラメータ組み合わせ選択部16と、複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因に相関する複数の診断パラメータp~p20の組み合わせによる診断対象の振動波形データの代表評価値s、tを計算し、当該代表評価値s、tを、当該異常原因の代表評価値s、tと比較して、異常原因を特定する、異常原因特定部17と、を備えている。
上記のような構成によれば、診断パラメータ計算部14は、複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因に相関する、すなわち当該異常原因を評価するに適切な、診断パラメータp~p20の組み合わせを選択する。また、診断パラメータ計算部14は、診断時においては、この選択された診断パラメータp~p20の組み合わせによって、診断対象の振動波形データの代表評価値s、tと、異常原因の代表評価値s、tとを比較して、異常原因を特定する。これらの処理は、回転機1に設けられた振動センサ11により取得された振動波形データを基に実行される。以上より、稼働中の回転機1を常時監視しつつ、異常が発生した際にはその原因を特定することが可能である。
また、複数の異常原因の各々に対して選択される診断パラメータp~p20の組み合わせは、診断パラメータ計算部14により計算された診断パラメータp~p20の値を基に選択されており、この診断パラメータp~p20の値は、正常時の振動波形データと、複数の異常原因の各々に対応する複数の異常時の振動波形データに対して計算されている。これらの正常時及び異常時の振動波形データは、例えば実際の回転機1から直接取得することが可能であるので、異常診断装置10の動作を、取得した正常時及び異常時の振動波形データにあわせて、すなわち当該回転機1に特化して、調整することができる。このため、回転機の仕様や設置状況、異常の原因等による異常診断への影響を低減でき、異常診断精度を向上させることが可能となる。
【0124】
また、診断パラメータ計算部14は、複数の正常時の振動波形データに対し、各診断パラメータp~p20の値を計算し、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、複数の異常原因の各々に対し、複数の診断パラメータp~p20の様々な組み合わせの中から、各組み合わせにおける、各診断パラメータp~p20の値を基にした複数の正常時の振動波形データの分布と、当該異常原因に対応する異常時の振動波形データの各診断パラメータp~p20の値との関係を基に、当該異常原因に相関する複数の診断パラメータp~p20の組み合わせを選択する。
また、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、複数の異常原因の各々に対し、複数の診断パラメータp~p20の組み合わせの中で、分布の中心と、当該異常原因の代表評価値s、tとの距離が最も大きい組み合わせを、当該異常原因に相関する複数の診断パラメータp~p20の組み合わせとして選択する。
また、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、主成分分析により、複数の診断パラメータp~p20の各組み合わせにおける、分布を演算する。
また、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、複数の診断パラメータp~p20の各組み合わせにおいて、主成分分析により得られた第1主成分と第2主成分の累積寄与率CRが所定の割合以上の場合に、当該組み合わせを当該異常原因に相関する複数の診断パラメータp~p20の組み合わせの候補とし、当該候補の中から当該異常原因に相関する複数の診断パラメータの組み合わせを選択する。
また、診断パラメータ組み合わせ選択部16は、複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因に対応する異常時の振動波形データの各診断パラメータp~p20の値を、主成分分析により得られた変換行列Hにより変換することで、当該異常原因の代表評価値s、tを計算する。
また、距離は、マハラノビス距離dである。
また、異常原因特定部17は、複数の異常原因の各々に対し、診断対象の振動波形データの代表評価値s、tを、主成分分析により得られた変換行列Hにより変換することで計算する。
また、異常原因特定部17は、複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因の代表評価値s、tと、診断対象の振動波形データの代表評価値s、tとの差が、所定の値以下の場合に、当該異常原因を異常の原因として特定する。
上記のような構成によれば、回転機1の異常診断装置10を好適に実現することができる。
【0125】
[実施形態の第1変形例]
次に、図6を用いて、上記実施形態として示した回転機の異常診断装置及び異常診断方法の第1変形例を説明する。図6は、本第1変形例における回転機の異常診断装置30のブロック図である。本第1変形例の回転機の異常診断装置30は、上記実施形態の回転機の異常診断装置10とは、データ収集部13より受信した振動波形データを、複数の周波数帯域の振動波形データに分割する周波数帯域分割部38を備えている点が異なっている。
周波数帯域分割部38は、本第1変形例においては、データ収集部13から振動波形データを受信し、受信した振動波形データを、バンドパスフィルタ等により、例えば0~1kHzの低周波帯域、例えば1~10kHzの中周波帯域、例えば10kHz以上の高周波帯域の、例えば3つの周波数帯域に分割する。
【0126】
前準備処理においては、周波数帯域分割部38は、正常時の振動波形データと、複数の異常時の振動波形データを受信し、これらの各々を、例えば3つの周波数帯域に分割する。上記実施形態においては、3種類の異常原因を想定していたため、これに正常時の振動波形データを含めると、例えば(1+3)×3=12個の振動波形データを生成する。
周波数帯域分割部38は、複数の周波数帯域に分割された正常時の振動波形データと、複数の周波数帯域に分割された複数の異常時の振動波形データの各々を、診断パラメータ計算部34へ送信する。
【0127】
診断パラメータ計算部34は、周波数帯域分割部38から、周波数帯域ごとに分割された正常時の振動波形データと、周波数帯域ごとに分割された複数の異常時の振動波形データを受信し、受信した各振動波形データを、時間軸において、所定の分割数Dに更に分割する。
診断パラメータ計算部34は、複数の正常時及び異常時の振動波形データの各々に対し、診断の指標となる診断パラメータ群の中の各診断パラメータの値を計算する。
上記実施形態においては、3種類の異常原因を想定している。すなわち、3つの周波数帯域に分割された正常時の振動波形データが更に分割されて3×D個となり、かつ、3つの周波数帯域に分割された、3種類の異常原因に対応する異常時の振動波形データの各々も更に分割されて、計3×3×D個となっている。このため、各診断パラメータに対し、12×D回の値の計算が実行される。
診断パラメータ計算部34は、各振動波形データに関する診断パラメータp~p20の計算結果を、診断パラメータ組み合わせ選択部36へ送信する。
【0128】
診断パラメータ組み合わせ選択部36は、診断パラメータ計算部34から、各振動波形データに関する診断パラメータp~p20の計算結果を受信する。また、診断パラメータ組み合わせ選択部36は、診断パラメータ組み合わせ生成部15から、診断パラメータp~p20の全ての組み合わせを受信する。
本第1変形例においては、各異常原因に相関する異常時の振動波形データは複数の周波数帯域に分割されており、その各々に対して診断パラメータp~p20が計算されている。診断パラメータ組み合わせ選択部36は、各異常原因について、各周波数帯域ごとに、診断パラメータp~p20の全ての組み合わせに関して上記実施形態のように主成分分析を実行して、マハラノビス距離dが最大となる、診断パラメータp~p20の組み合わせと、そのときの周波数帯域を選択、決定する。換言すれば、マハラノビス距離dが最大となる診断パラメータp~p20の組み合わせが計算された際の周波数帯域は、選択された異常原因が特徴として最も顕現化した、選択された異常原因に相関する、適切な周波数帯域である。
上記のように、診断パラメータ組み合わせ選択部36は、上記実施形態のように主成分分析を全ての異常原因に対して実行し、異常原因毎に、マハラノビス距離dが最大となる診断パラメータp~p20の組み合わせ、異常時の振動波形データの主成分得点s、t、変換行列H、及び固有ベクトルλを保存すると同時に、適切な周波数帯域を保存する。
【0129】
診断処理においては、周波数帯域分割部38は、診断対象の振動波形データを受信し、前準備処理と同様に、複数の周波数帯域に分割する。
周波数帯域分割部38は、複数の周波数帯域に分割された診断対象の振動波形データを、診断パラメータ計算部34へ送信する。
【0130】
診断パラメータ計算部34は、周波数帯域分割部38から、周波数帯域ごとに分割された診断対象の振動波形データを受信し、時間軸において、所定の分割数Dに分割する。
診断パラメータ計算部34は、複数の診断対象の振動波形データの各々に対し、各診断パラメータp~p20の値を計算する。
診断パラメータ計算部34は、複数の診断対象の振動波形データに関する診断パラメータp~p20の計算結果を、異常原因特定部37へ送信する。
【0131】
異常原因特定部37は、診断パラメータ計算部14から、複数の診断対象の振動波形データに関する診断パラメータp~p20の計算結果を受信する。
また、異常原因特定部37は、異常診断装置30内に、各異常原因に対応付けて保存されている、マハラノビス距離dが最大となる診断パラメータp~p20の組み合わせ、適切な周波数帯域、異常時の振動波形データの主成分得点s、t、変換行列H、及び固有ベクトルλを取得する。
本第1変形例においては、異常原因特定部37は、異常原因を特定するに際し、各異常原因に対応付けられた適切な周波数帯域に分類される振動波形データに関する診断パラメータp~p20の計算結果を使用して、同様に対応付けられた変換行列Hを基に診断対象の振動波形データの主成分得点s、tを計算し、主成分得点s、tと、同様に対応付けられた主成分得点s、tとの差を算出して、異常原因を特定する。
【0132】
このように、本第1変形例においては、振動波形データを複数の周波数帯域の振動波形データに分割する、周波数帯域分割部38を、更に備え、診断パラメータ計算部34は、周波数帯域分割部38により複数の周波数帯域に分割された、正常時の振動波形データ、想定される複数の異常原因の各々に相関する複数の異常時の振動波形データ、及び診断対象の振動波形データの各々に対し、診断パラメータ群の中の各診断パラメータp~p20の値を計算し、診断パラメータ組み合わせ選択部36は、複数の異常原因の各々に対し、複数の周波数帯域と、診断パラメータ群の中から、当該異常原因に相関する、周波数帯域と、複数の診断パラメータp~p20の組み合わせを選択し、当該周波数帯域における組み合わせられた診断パラメータp~p20による当該異常原因の代表評価値s、tを決定し、異常原因特定部37は、複数の異常原因の各々に対し、当該異常原因に相関する、選択された周波数帯域における、選択された複数の診断パラメータp~p20の組み合わせによる診断対象の振動波形データの代表評価値s、tを計算し、当該代表評価値s、tを、当該異常原因の代表評価値s、tと比較して、異常原因を特定する。
上記のような構成によれば、例えば各異常原因が振動波形データ中に特徴として現れる周波数帯域が事前に判明している場合等に、診断対象となる周波数帯域を異常原因毎に限定することが可能となる。したがって、より効果的に異常を診断することができる。
また、各異常原因が特徴として表れにくい周波数帯域を診断対象から除外することにより、異常診断の精度を更に向上可能である。
【0133】
本第1変形例が、既に説明した実施形態と同様な他の効果を奏することは言うまでもない。
【0134】
[実施形態の第2変形例]
次に、図7を用いて、上記第1変形例として示した回転機の異常診断装置及び異常診断方法の更なる変形例である第2変形例を説明する。図7は、本第2変形例における異常診断装置40のブロック図である。本第2変形例の異常診断装置40は、上記第1変形例の回転機の異常診断装置30とは、グラフ生成部49を備えている点が異なっている。
【0135】
上記実施形態及び第1変形例においては、異常原因特定部17、37は、各異常原因に対応付けられた変換行列Hを基に診断対象の振動波形データの主成分得点s、tを計算し、主成分得点s、tと、同様に対応付けられた主成分得点s、tとの差を算出して異常原因を特定する。
グラフ生成部49は、上記のように異常原因が特定された際に、使用者が任意の異常原因を選択すると、診断対象の振動波形データの主成分得点s、tと、全ての異常原因の主成分得点s、tを、使用者が選択した異常原因に対応付けられた変換行列Hを適用して、特定された異常原因に対応する主成分分析の第1主成分sと第2主成分tの座標系へと変換し、グラフを生成して表示する。
【0136】
このように、本第2変形例においては、診断対象の振動波形データの代表評価値と、全ての異常原因の代表評価値を、同一座標系上に換算してグラフを生成する、グラフ生成部49を備えている。
上記のような構成によれば、グラフ生成部49により生成されたグラフを表示して閲覧することで、診断結果の代表評価値と、全ての異常原因の代表評価値との関係を視認することができる。
【0137】
本第2変形例が、既に説明した実施形態及び第1変形例と同様な他の効果を奏することは言うまでもない。
【0138】
[実施例]
次に、上記第2変形例における回転機の異常診断装置40の実施例を説明する。
本実施例においては、8400rpmで回転する滑り軸受の異常を診断した。
異常原因としては、上記実施形態と同様に、オイルウィップ、アンバランス、接触異常を想定した。各異常原因に対応する異常時の振動波形データは、正常な回転機に対し、回転軸に重りをつけて軸を偏心させる等の方法で機械的に異常を再現して取得した。
各振動波形データの計測時間は20秒間とした。データ収集部13におけるサンプリング周波数は50kHzとした。
周波数帯域分割部38においては、0~1kHz、0.8~7kHz、及び5~25kHzの3つの周波数帯域に分割した。上記第1変形例においては、一定の閾値で複数の周波数帯域に分割していたが、本実施例においては上記のように、隣接する周波数帯域が互いにオーバーラップするように分割した。
【0139】
このような状況において、回転機でオイルウィップを再現し、異常診断を実行した。
図8(a)は、診断対象の振動波形データの主成分得点s、tと、全ての異常原因の主成分得点s、tを、異常状態がオイルウィップの場合における第1主成分sと第2主成分tの座標系へと変換した場合の、グラフ生成部49の出力結果である。図8(b)は、図8(a)のE部分の拡大図である。
図9、10は、図8(a)と同様に、各主成分得点を、それぞれアンバランスと接触異常の場合における第1主成分sと第2主成分tの座標系へと変換した場合の、グラフ生成部49の出力結果である。
各グラフにおいて、正常時の振動波形データに関する出力結果近傍は分布60として示されている。また、オイルウィップ、アンバランス、接触異常の各々の異常時の振動波形データに関する主成分得点については、それぞれ、分布61、分布62、分布63として示されている。診断対象の振動波形データの主成分得点については、分布64として示されている。
【0140】
診断結果をオイルウィップの場合におけるst座標系へ変換した図8各図においては、分布64は、分布62、63よりも、オイルウィップに対応する分布61に近接して位置している。このため、異常原因特定部37により、異常原因がオイルウィップとして正しく診断される。
診断結果をアンバランスの場合におけるst座標系へ変換した図9においては、分布64は、アンバランスに対応する分布62とは遠く位置している。このため、異常原因特定部37により、異常原因がアンバランスとは特定されない。
同様に、診断結果を接触異常の場合におけるst座標系へ変換した図10においては、分布64は、接触異常に対応する分布63とは遠く位置している。このため、異常原因特定部37により、異常原因が接触異常とは特定されない。
【0141】
なお、本発明の回転機の異常診断装置及び異常診断方法は、図面を参照して説明した上述の実施形態及び各変形例に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
【0142】
例えば、上記実施形態においては、設備は回転機であり、センサは振動センサであり、時系列波形データは振動波形データであったが、これに限られないことは、言うまでもない。
すなわち、上記の異常診断装置及び異常診断方法は、回転機に限らず、様々な種類の設備に応用可能である。
上記実施形態においては、設備が回転機であったため、センサとして、稼働時の特徴を効果的に取得し得る振動センサが使用されていたが、対象となる設備に応じて、電流、電圧、温度等、センサの種類を変えても構わないのは、言うまでもない。上記の異常診断装置及び異常診断方法は、センサの種類に拠らず、設備の状態が計測、収集された時系列波形データを基に、異常を診断することができる。
また、使用されるセンサの数や種類も1つに限られず、複数の数及び種類のセンサにより、設備の状態を計測、収集してもよい。これらの複数のセンサから得られた時系列波形データから診断パラメータを計算することで、様々な種類の設備診断を実現することが可能である。
【0143】
また、上記実施形態及び各変形例においては、前準備処理と診断処理は、同一の制御端末12内に設けられていたが、これに限られない。例えば、前準備処理用の制御端末と診断処理用の制御端末を個別に用意し、実行する処理に応じて使い分けても構わない。すなわち、例えば上記実施形態の場合においては、前準備処理用の制御端末にデータ収集部13、診断パラメータ計算部14、診断パラメータ組み合わせ生成部15、及び診断パラメータ組み合わせ選択部16を、診断処理用の制御端末にデータ収集部13、診断パラメータ計算部14、診断パラメータ組み合わせ生成部15、及び異常原因特定部17を設けても構わない。
【0144】
また、上記実施形態及び各変形例においては、診断パラメータ組み合わせ選択部16による診断パラメータp~p20の適切な組み合わせの選択は、主成分分析により行われていたが、これに限られない。振動波形データから算出される診断パラメータの分布(正常時、各異常時、診断時)の距離を計算できる手法であれば、これを主成分分析に代えて使用しても構わない。この代替手法の一例として、SVM(Support Vector Machine)等の学習モデルを使った手法が挙げられる。
【0145】
また、上記第1変形例においては、振動波形データを3つの周波数帯域に分割したが、2つに分割してもよいし、4以上となるようにより細かく分割しても構わない。
また、上記第1変形例においては、振動波形データを、一定の閾値を境界として複数の周波数帯域に分割していた。このように、一定の閾値を使用した場合においては、異常原因の周波数帯域上のピーク、すなわち最も特徴として現れ得る部分が当該閾値近傍に位置した場合に、ピーク近傍で複数の周波数帯域に分割されてしまうため、特徴が効果的に抽出できない可能性がある。したがって、例えば上記実施例において例示したように、隣接する周波数帯域が互いにオーバーラップするように分割し、これを抑制してもよい。
また、各異常原因の特徴が顕現し得る周波数帯域が事前に判明しているようであれば、各振動波形データを閾値により分割せず、例えば各異常原因の特徴が顕現し得る周波数帯域のみを特に抽出するように、バンドパスフィルタを適用してもよい。
【0146】
また、上記第1変形例においては、各異常原因に対して、その特徴が最も顕現化した、適切な周波数帯域を選択していた。しかし、広い周波数帯域に特徴が分散して顕現する異常原因が存在する場合には、当該異常原因に対して、1つの限定された周波数帯域のみを選択するのは適切ではない可能性もある。
このような場合においては、当該異常原因を複数の周波数帯域に割り当てることが考えられる。例えば、当該異常原因を、第1周波数帯域における異常原因、第2周波数帯域における異常原因と、2つの異常原因として分けて考え、各異常原因毎に、主成分分析を行い診断パラメータの組み合わせを選択し、診断時には2つの異常原因のいずれかが異常の原因として特定され得るようにすればよい。これにより、広い周波数帯域に特徴が分散して顕現する異常原因に関する異常診断の精度を向上可能である。
【0147】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0148】
1 回転機(設備)
10、30、40 異常診断装置
11 振動センサ(センサ)
13 データ収集部
14、34 診断パラメータ計算部
15 診断パラメータ組み合わせ生成部
16、36 診断パラメータ組み合わせ選択部
17、37 異常原因特定部
38 周波数帯域分割部
49 グラフ生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10