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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】回転伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 27/118 20060101AFI20220113BHJP
   F16D 27/102 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
F16D27/118
F16D27/102
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018183811
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020051576
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆英
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-083353(JP,A)
【文献】特開2013-224692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00
27/00
F16H 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内方部材と、
前記内方部材と同軸回りに回転可能かつ当該内方部材に対して外方に配置された外方部材と、
前記内方部材と前記外方部材のうちの一方の部材と常に一体に回転可能かつ当該一方の部材に対して径方向に移動可能に配置された係合子と、
前記一方の部材に対して前記係合子を付勢する弾性部材と、
前記係合子に対して周方向一方側に位置する第一柱部を有し、前記一方の部材に対して軸方向に移動可能かつ回転可能に配置された第一保持器と、
前記係合子に対して周方向他方側に位置する第二柱部を有し、前記一方の部材に対して回転可能に配置された第二保持器と、
前記第一保持器と一体に軸方向に移動可能かつ回転可能に連結されたアーマチュアと、
前記アーマチュアを軸方向に吸引可能に配置された電磁石と、
前記電磁石の吸引による前記第一保持器の軸方向移動を当該第一保持器と前記第二保持器の相反する方向の回転運動に変換するカム機構と、
を備え、
前記内方部材と前記外方部材のうちの前記一方の部材と反対の他方の部材が、前記係合子に径方向に対向する係合凹部を有し、
前記係合子が、前記他方の部材に接触不可な中立位置と、前記係合凹部に係合する係合位置との間を径方向に往復可能に配置されており、
前記弾性部材が、前記係合子を前記係合位置に向けて付勢するように前記一方の部材と当該係合子との間に配置されており、
前記第一柱部と前記第二柱部が、前記カム機構で変換された回転運動によって前記係合子を前記係合位置から前記中立位置まで押し動かすように設けられている回転伝達装置。
【請求項2】
前記一方の部材が、前記係合子の基部と前記弾性部材とを収容する凹部を有し、前記凹部が、前記係合子の基部を径方向に案内する形状であり、
前記係合子が、前記中立位置において前記凹部から径方向に前記他方の部材側へ突出し、かつ前記係合位置において前記係合凹部に入り込む突部を有する請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記第一柱部が、前記係合子の周方向一方側との接触部になる第一端面を有し、前記第二柱部が、前記係合子の周方向他方側との接触部になる第二端面を有し、前記第一端面と前記第二端面が、径方向に前記他方の部材側に向かって互いに周方向に近くなる形状である請求項1又は2に記載の回転伝達装置。
【請求項4】
前記係合子が、前記第一柱部と前記第二柱部によって周方向両側から押される対の接触面を有し、前記対の接触面が、径方向に前記他方の部材側に向かって互いに周方向に近くなる形状である請求項1から3のいずれか1項に記載の回転伝達装置。
【請求項5】
前記カム機構が、軸方向に向き合う第一カム溝及び第二カム溝と、これらカム溝間に介在するボールとで運動変換を行うボールカム機構、又は周方向に向かって軸方向に傾いた第一斜面と第二斜面同士で運動変換を行うスライドカム機構からなる請求項1から4のいずれか1項に記載の回転伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力伝達経路における動力の伝達と遮断の切り替えに用いられる回転伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転伝達装置として、内方部材と、この内方部材の外方に配置された内周部を有する外方部材と、それら内方部材と外方部材間で回転トルクの伝達と遮断を行うクラッチ機構とを備えるものが知られている。そのクラッチ機構は、外方部材の内周部と、内方部材との間に配置された係合子としてのローラと、係合子を保持する保持器とを有する。係合子は、内方部材に対する保持器の相対回転によって円筒面及びカム面に係合する係合位置と、当該係合を解除する中立位置との間を移動可能に配置されている。保持器の相対回転を制御する手段として、中立ばねと、電磁石と、ロータと、アーマチュアとを備えるものがある(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1の回転伝達装置では、中立ばねが、内方部材に対する保持器の相対回転により弾性変形させられ、その復元弾性により、保持器は、係合子を中立位置に移動させるように復帰回転させられる。アーマチュアは、軸方向に移動可能に支持されており、また、保持器に対して回り止めされている。ロータは、外方部材に対して回り止めされている。電磁石に対する通電により、アーマチュアがロータに吸着されると、保持器が、アーマチュア、ロータを介して外方部材に接続され、その保持器と内方部材の相対回転により、係合子が外方部材および内方部材に係合させられ、内方部材と外方部材間において回転トルクが伝達される。前述の通電を遮断すると、中立ばねのばね力により保持器が復帰回転させられ、この保持器に周方向に押される係合子が中立位置に移動させられて、前述の係合が解除される。特許文献1のような回転伝達装置では、係合子の係合によって大きなトルク伝達容量を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-90678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような回転伝達装置では、係合子としてのローラが中立位置にあり、かつ内方部材が外方部材に対して高速に空転することがある。このとき、その内方部材のカム面と保持器のポケット面に保持されたローラは、内方部材及び保持器と共に高速に回転する。このため、ローラに作用する遠心力により、ローラが外方部材の円筒面に押し付けられることがある。ここで、内方部材と外方部材間の相対的な回転速度差が大きい場合、ローラが外方部材の円筒面に対して高速回転し、円筒面とローラの摺動部で生じる摩擦が引き摺りトルクとなり、ローラや円筒面の摩耗、ローラのミス係合(ローラが不正に係合位置へ移動させられる)、動力損失の原因になる。
【0006】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、回転伝達装置が高速に空転する際の係合子の引き摺りを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するため、この発明は、内方部材と、前記内方部材と同軸回りに回転可能かつ当該内方部材に対して外方に配置された外方部材と、前記内方部材と前記外方部材のうちの一方の部材と常に一体に回転可能かつ当該一方の部材に対して径方向に移動可能に配置された係合子と、前記一方の部材に対して前記係合子を付勢する弾性部材と、前記係合子に対して周方向一方側に位置する第一柱部を有し、前記一方の部材に対して軸方向に移動可能かつ回転可能に配置された第一保持器と、前記係合子に対して周方向他方側に位置する第二柱部を有し、前記一方の部材に対して回転可能に配置された第二保持器と、前記第一保持器と一体に軸方向に移動可能かつ回転可能に連結されたアーマチュアと、前記アーマチュアを軸方向に吸引可能に配置された電磁石と、前記電磁石の吸引による前記第一保持器の軸方向移動を当該第一保持器と前記第二保持器の相反する方向の回転運動に変換するカム機構と、を備え、前記内方部材と前記外方部材のうちの前記一方の部材と反対の他方の部材が、前記係合子に径方向に対向する係合凹部を有し、前記係合子が、前記他方の部材に接触不可な中立位置と、前記係合凹部に係合する係合位置との間を径方向に往復可能に配置されており、前記弾性部材が、前記係合子を前記係合位置に向けて付勢するように前記一方の部材と当該係合子との間に配置されており、前記第一柱部と前記第二柱部が、前記カム機構で変換された回転運動によって前記係合子を前記係合位置から前記中立位置まで押し動かすように設けられている回転伝達装に構成した。
【0008】
上記構成によれば、内方部材と外方部材の一方の部材が入力側又は出力側となるとき、他方の部材が、一方の部材に対して出力側又は入力側となるように、回転伝達装置を使用することができる。電磁石に通電されている状態の間、その磁気的な吸引力により、カム機構を介して第一保持器と第二保持器の相対回転が阻止される。このとき、一方の部材と一体に回転可能な係合子が第一柱部と第二柱部で弾性部材に抗して規制され、他方の部材と接触不可な中立位置に保たれる。一方、係合子と係合凹部が径方向に対向する状態で電磁石への通電が遮断されると、第一柱部と第二柱部による規制がなくなるので、弾性部材のばね力により、係合子が係合位置へ移動させられる。係合位置の係合子を介して内方部材と外方部材間でトルク伝達が行われる。このとき、電磁石に通電されると、アーマチュアと一体の第一保持器の軸方向移動がカム機構で第一保持器と第二保持器の相反する回転運動に変換される。その回転運動に伴い、互いに周方向に接近する第一柱部と第二柱部によって係合子が中立位置まで押し動かされる。このため、その回転運動が停止しても電磁石への通電が継続されている限り、第一柱部と第二柱部によって係合子が中立位置に保持される。これにより、回転伝達装置が高速に空転する際の係合子の引き摺りが防止される。
【0009】
前記一方の部材が、前記係合子の基部と前記弾性部材とを収容する凹部を有し、前記凹部が、前記係合子の基部を径方向に案内する形状であり、前記係合子が、前記中立位置において前記凹部から径方向に前記他方の部材側へ突出し、かつ前記係合位置において前記係合凹部に入り込む突部を有するとよい。このようにすると、係合子の基部と弾性部材を凹部に収容する簡単な構造により、係合子を一方の部材と一体に回転可能かつ中立位置と係合位置間を径方向に往復移動可能に配置すると共に、弾性部材で係合位置に向けて付勢することができる。また、係合子の突部が中立位置において凹部から突出し、係合位置において係合凹部に入り込むため、中立位置で係合子全体が凹部に没入する場合に比して、係合子の係合位置への移動距離を抑え、回転伝達装置のクラッチとしての応答性を良くすることもできる。
【0010】
また、前記第一柱部が、前記係合子の周方向一方側との接触部になる第一端面を有し、前記第二柱部が、前記係合子の周方向他方側との接触部になる第二端面を有し、前記第一端面と前記第二端面が、径方向に前記他方の部材側に向かって互いに周方向に近くなる形状であるとよい。このようにすると、電磁石に通電時、第一柱部と第二柱部の接近動により、第一端面と第二端面で係合子を中立位置へ押すことができる一方、その通電の遮断時、弾性部材のばね力により、係合子で第一端面と第二端面を押して第一保持器と第二保持器を相反する方向に相対回転させ、係合子を係合位置へ移動させることができる。
【0011】
前記係合子が、前記第一柱部と前記第二柱部によって周方向両側から押される対の接触面を有し、前記対の接触面が、径方向に前記他方の部材側に向かって互いに周方向に近くなる形状であるとよい。このようにすると、電磁石に通電時、第一柱部と第二柱部の接近動により、係合子の対の接触面を挟んで係合子を中立位置へ押すことができる一方、その通電の遮断時、弾性部材のばね力により、係合子の対の接触面で第一柱部と第二柱部を押して周方向に押し退け、第一保持器と第二保持器を相反する方向に相対回転させ、係合子を係合位置へ移動させることができる。
【0012】
前記カム機構は、例えば、軸方向に向き合う第一カム溝及び第二カム溝と、これらカム溝間に介在するボールとで運動変換を行うボールカム機構、又は周方向に向かって軸方向に傾いた第一斜面と第二斜面同士で運動変換を行うスライドカム機構からなる。
【発明の効果】
【0013】
上述のように、この発明は、上記構成の採用により、回転伝達装置が高速に空転する際の係合子の引き摺りを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の第一実施形態に係る回転伝達装置の空転状態を示す断面図
図2図1のII-II線の切断面を示す断面図
図3図1の回転伝達装置の伝達状態を示す断面図
図4図3のIV-IV線の切断面を示す断面図
図5図3の伝達状態におけるカム機構を示す側面図
図6図5のVI-VI線の切断面を示す断面図
図7図1の空転状態における図6相当の切断面を示す断面図
図8】この発明の第二実施形態に係る回転伝達装置の空転状態を示す断面図
図9図8の空転状態におけるカム機構の要部を示す断面図
図10図8の回転伝達装置の伝達状態を示す断面図
図11図10の伝達状態におけるカム機構の要部を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係る一例としての第一実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1は、第一実施形態の回転伝達装置を、例えば、自動車用トランスミッションの隔壁の一部である静止部材Wに取り付けた状態を示している。
【0016】
図1図2に示すように、この回転伝達装置は、内方部材1と、内方部材1と同軸回りに回転可能かつ内方部材1に対して外方に配置された外方部材2と、内方部材1と外方部材2との間に配置された複数の係合子3と、係合子3を付勢する弾性部材4と、係合子3に対して周方向一方側に位置する複数の第一柱部5aを含む第一保持器5と、係合子3に対して周方向他方側に位置する複数の第二柱部6aを含む第二保持器6と、第一保持器5に連結されたアーマチュア7と、アーマチュア7に軸方向に対向するロータ8と、アーマチュア7をロータ8側へ軸方向に吸引可能に配置された電磁石9と、第二保持器6に対する第一保持器5の相対的な軸方向移動を第一保持器5と第二保持器6の相対的な回転運動に変換するカム機構10と、を備える。
【0017】
ここで、内方部材と外方部材の同軸の軸線(回転中心線)に沿った方向を「軸方向」という。また、その軸方向に直交する方向を「径方向」という。また、その軸線回りに一周する円周方向を「周方向」という。
【0018】
内方部材1は、回転伝達経路を構成する回転軸(図示省略)に連結される。一方、外方部材2は、その回転伝達経路を構成する他の回転軸(図示省略)に連結される。内方部材1と外方部材2の一方が他方側へ回転トルクを伝達する入力軸となり、他方が一方側から伝達されたトルクで回転する出力軸となる。内方部材1と外方部材2のどちらが入力軸となるかは限定されない。
【0019】
内方部材1の軸方向一方側(図1において右方向側)の端部の外周と、外方部材2の内周との間に軸受11が介在している。軸受11は、内方部材1と外方部材2を同軸上で相対回転自在に支持するためのものである。軸受11として、玉軸受が例示されている。
【0020】
図1図2に示すように、内方部材1と外方部材2のうち、一方の部材である内方部材1は、係合子3の基部3aと弾性部材4とを収容する複数の凹部1aと、これら複数の凹部1aに対して軸方向他方側(図1において左方向側)へ延びる第一軸部1bとを有する。
【0021】
内方部材1と外方部材2のうち、内方部材1と反対の他方の部材である外方部材2は、係合子3に径方向に対向する二箇所以上の係合凹部2aと、これら係合凹部2aに対して軸方向一方側に位置する第二軸部2bとを有する。
【0022】
内方部材1の第一軸部1b、外方部材2の第二軸部2bは、それぞれ前述の回転軸との連結に使用される。
【0023】
内方部材1の第一軸部1bは、軸方向他方側に向かって段階的に外径が小さくなる段付き軸状になっている。第一軸部1bは、前述の回転軸との連結に使用される。第一軸部1bの周囲には、ロータ8と、シム12と、支持リング13と、アーマチュア7と、スラスト軸受14と、第一保持器5と、第二保持器6と、カム機構10とが配置されている。ロータ8は、第一軸部1bの外周に固定されている。支持リング13は、第一軸部1bの外周に嵌合され、第一軸部1bの段差部に対して軸方向一方側に向かって突き当てられている。支持リング13は、アーマチュア7の内周と第一軸部1bの外周との間に介在している。シム12は、支持リング13とロータ8間に軸方向に挟まれている。スラスト軸受14は、支持リング13と第二保持器6との間に介在している。カム機構10は、第一保持器5と第二保持器6間に設けられている。
【0024】
なお、内方部材1、外方部材2の全体を一体に形成する必要はなく、別体の軸部を内方部材本体、外方部材本体に連結するようにしてもよい。その連結手段は特に限定されず、例えば、セレーション嵌合、スプライン嵌合、キーによる連結等が挙げられる。また、軸部を中実状にする必要はなく、中空軸状にしてもよい。また、内方部材及び外方部材を収容するハウジングを備え、そのハウジングに電磁石を取り付け、外方部材の外周とハウジングの内周間に軸受を配置して外方部材をハウジングに対して回転自在に支持し、そのハウジングを壁部等の他の静止部位に固定するようにしてもよい。
【0025】
内方部材1の凹部1aは、内方部材1の外周から径方向に深さをもち、係合子3の基部3aを径方向に案内可能な穴状になっている。凹部1aの穴内周面は、径方向に沿い、かつ係合子3の基部3aに嵌合する。凹部1aの数は、係合子3と同数である。凹部1aは、周方向に均等間隔で配置されている。内方部材1の外周のうち、周方向に隣り合う凹部1a同士の間は、周方向に連続する円弧面状になっている。
【0026】
弾性部材4は、係合子3の基部3aと凹部1aの穴底面との間に介在している。弾性部材4は、凹部1aの穴内周面に沿う形状に巻かれた圧縮コイルばねからなる。凹部1aの穴内周面は、弾性部材4を係合子3の基部3aと径方向に対向する状態に支持する。なお、図では弾性部材4として圧縮コイルばねを例示したが、これに限定されるものではない。
【0027】
係合子3は、弾性部材4の径方向の伸縮に応じて内方部材1に対して径方向に移動可能に配置されている。係合子3の基部3aは、内方部材1に対する係合子3の径方向の往復ストロークの全域において凹部1aの内側に位置する。内方部材1の回転時、係合子3の基部3aが凹部1aによって連れ回される。このように、係合子3は、内方部材1と常に一体に回転可能、かつ内方部材1に対して径方向に移動可能に配置されている。
【0028】
前述の係合子3の往復ストロークは、図1図2に示すように、外方部材2に接触不可な中立位置と、図3図4に示すように、外方部材2の係合凹部2aに周方向に係合する係合位置との間である。弾性部材4は、係合子3の基部3aと内方部材1の凹部1aの穴底面との間に配置されているので、内方部材1に対して係合子3を係合位置に向けて付勢することになる。
【0029】
図1図2に示すように、係合子3は、中立位置において凹部1aから径方向に外方部材2側へ突出し、かつ、図3図4に示すように、係合位置において係合凹部2aに入り込む突部3bを有する。図2に示す係合子3の断面形状は、図1に示す係合子3の軸方向長さの全長に亘って連続している。
【0030】
係合子3の突部3bは、図2図4に示すように、第一柱部5aと第二柱部6aに周方向に対向する対の接触面3cを有する。対の接触面3cは、径方向に外方部材2側に向かって互いに周方向に近くなる形状である。第一柱部5a側に位置する一方の接触面3c、第二柱部6a側に位置する他方の接触面3cは、いずれも外方に向かって係合子3の周方向中央に近くなる斜面状になっている。対の接触面3cは、突部3bの先端面まで延びている。
【0031】
外方部材2の係合凹部2aは、軸方向に沿った溝状になっている。径方向に沿った断面における係合凹部2aの形状は、図4に示すように、係合子3の突部3bに嵌合する形状になっている。外方部材2が有する係合凹部2aの総数は、係合子3を係合凹部2aに突入させることが可能な位相を増やすため、係合子3の総数の9倍とされている。この倍率は任意に変更すればよい。これら多数の係合凹部2aは、外方部材2の内周において内歯車状を成すように周方向に均等配置で形成されている。
【0032】
図1に示すように、第一保持器5は、内方部材1に対して軸方向に移動可能かつ内方部材1に対して回転可能に配置されている。第二保持器6は、内方部材1に対して回転可能に配置されている。
【0033】
第一保持器5は、内方部材1の第一軸部1bの外周に嵌合された第一フランジ部5bを有する。第一柱部5aは、環状の第一フランジ部5bから軸方向一方側へ延びている。第一保持器5が有する第一柱部5aの総数は、図2に示すように、係合子3の総数と同じである。複数の第一柱部5aは、周方向に均等間隔で配置されている。
【0034】
図1に示すように、第一フランジ部5bの外周には、軸方向他方側に延びる筒部が形成されている。その第一フランジ部5bの筒部にアーマチュア7の筒部が嵌合されている。この嵌合により、第一保持器5とアーマチュア7が、一体に軸方向に移動可能に連結されると共に、一体に回転可能に連結されている。
【0035】
また、第一フランジ部5bの周方向に隣り合う第一柱部5a間の各部位には、円弧状の長孔が形成されている。その長孔に第二保持器6の第二柱部6aが通されている。
【0036】
第二保持器6は、内方部材1の第一軸部1bの外周に嵌合された第二フランジ部6bを有する。第二柱部6aは、環状の第二フランジ部6bから軸方向一方側へ延びている。第二保持器6が有する第二柱部6aの総数は、図2に示すように、係合子3の総数と同じである。複数の第二柱部6aは、周方向に均等間隔で配置されている。この均等間隔は、第一柱部5aの均等間隔と同じである。
【0037】
図2図4に示すように、第一柱部5a、第二柱部6aは、外方部材2の内周と内方部材1との間に配置されている。第一柱部5aは、係合子3の周方向一方側との接触部になる第一端面5cを有する。第二柱部6aは、係合子3の周方向他方側との接触部になる第二端面6cを有する。それら第一端面5cと第二端面6cは、径方向に外方部材2側に向かって互いに周方向に近くなる形状である。第一端面5c、第二端面6cは、いずれも外方に向かって係合子3の周方向中央に近くなる斜面状になっている。
【0038】
図1図3に示すように、第一保持器5、第二保持器6は、第一フランジ部5b、第二フランジ部6bにおいて内方部材1の第一軸部1bの外周に沿って軸方向にスライド自在に支持されている。ロータ8と外方部材2との間の距離は、図1の位置のアーマチュア7及び第一フランジ部5bが図1の位置と図3の位置との間で一体的な軸方向の往復運動を行えるように確保されている。第二保持器6は、第二フランジ部6bにおいてスラスト軸受14に接触している。スラスト軸受14は、第二保持器6の軸方向他方側への移動を阻止する状態で第二保持器6を回転自在に軸方向に支持する。
【0039】
第一保持器5の第一フランジ部5bと、第二保持器6の第二フランジ部6bとの間に、カム機構10が設けられている。カム機構10は、軸方向に向き合う第一カム溝10a及び第二カム溝10bと、これら第一カム溝10aと第二カム溝10bとの間に介在するボール10cとで運動変換を行うボールカム機構からなる。第一カム溝10aは、第一フランジ部5bに形成されている。第二カム溝10bは、第二フランジ部6bに形成されている。図3図5に示すように、第一カム溝10aと第二カム溝10bは、それぞれ周方向に均等な間隔で配置されている。なお、図5では、第一カム溝10aを例に示したが、第二カム溝10bも第一カム溝10aと同様に配置されている。第一カム溝10a、第二カム溝10bは、少なくとも三か所に配置するとよい。これは、第一フランジ部5bと第二フランジ部6bをカム溝10a、10b以外の箇所で接触させて傾きを規制することが不要になるためである。
【0040】
図3図5図6に示すように、第一カム溝10aと第二カム溝10bは、それぞれ軸方向に溝深さをもって周方向に延びている。第一カム溝10aと第二カム溝10bは、それぞれ周方向中間の中立位置から周方向両側に向かって次第に浅くなっている。つまり、第一保持器5と第二保持器6の相対回転が同軸回りのいずれの方向に起こるとしても、第一カム溝10aは、ボール10cとの接触位置から周方向の一方向に向かって次第に深くなる形状である一方、第二カム溝10bは、ボール10cとの接触位置から周方向の他方向に向かって次第に深くなる形状である。
【0041】
図3の位置の第一保持器5が軸方向に第二保持器6に向かって(軸方向他方側へ)移動した際、図7に示すように、ボール10cが第一カム溝10a、第二カム溝10bの溝深さの最も深い位置に向けて転がり、係合子3を周方向両側から挟む第一柱部5aと第二柱部6aが周方向に近づく方向に第一保持器5と第二保持器6が相対回転させられる。すなわち、カム機構10は、第一保持器5の軸方向移動を第一保持器5と第二保持器6が互いに第一柱部5aと第二柱部6aを周方向に接近させる方へ回転する運動に変換する。なお、第一カム溝10a、第二カム溝10bとして、円弧状の溝を示したが、V溝であってもよい。
【0042】
図1に示すように、アーマチュア7は、支持リング13の外周に嵌合されている。アーマチュア7は、支持リング13により、回転自在に、かつ、軸方向にスライド自在に支持されている。前述のように一体に運動するように連結されたアーマチュア7と第一保持器5は、支持リング13の外周と、内方部材1の第一軸部1bの外周との軸方向の2箇所においてスライド自在に支持される。
【0043】
その支持リング13は、第一軸部1bの段差と、ロータ8、シム12とによって軸方向に支持されている。
【0044】
ロータ8は、内方円筒部と、この内方円筒部の外方に位置する外方円筒部と、これら円筒部の軸方向一方側の端部同士を繋ぐ側面部とを有する。ロータ8は、その内方円筒部を第一軸部1bに圧入することによって内方部材1と同軸上で一体回転可能かつ軸方向に移動不可に取り付けられている。
【0045】
電磁石9は、ヨークとして機能する強磁性材製のフィールドコアと、フィールドコアに支持された電磁コイルとからなる。電磁石9は、そのフィールドコアにおいて静止部材Wに固定されている。なお、フィールドコアは、ロータ8の内方円筒部と外方円筒部との間の空間に配置されている。その電磁コイルは、フィールドコア内の環状空間に配置されており、当該環状空間への樹脂充填、接着、フィールドコアへの巻き付け等の適宜の手段でフィールドコアに固定されている。
【0046】
図3の状態で電磁石9の電磁コイルに通電されると、電磁石9による磁気的な吸引力がアーマチュア7に作用し、アーマチュア7と第一保持器5が一体に軸方向に移動させられて、図1に示すようにロータ8に吸着される。このとき、カム機構10により、前述のように第一保持器5と第二保持器6が、互いに相反する方向に相対回転させられることになる。
【0047】
この回転伝達装置の動作について説明する。先ず、電磁石9に通電されている状態では、電磁石9の吸引力により、図1に示すように、アーマチュア7と一体化された第一保持器5が、第二保持器6側へ軸方向に吸引されている。このため、カム機構10のボール10cは、図7に示すように、第一カム溝10aと第二カム溝10bの周方向中央部間に留められる。このとき、第一柱部5aの第一端面5cと第二柱部6aの第二端面6cは、図2に示すように、係合子3の対の接触面3cを周方向両側から挟んでおり、係合子3は、図1図2に示すように、外方部材2と接触不可な中立位置にある。その係合子3を付勢する弾性部材4のばね力が、係合子3の対の接触面3cから第一端面5cと第二端面6cに負荷される。第一端面5c、第二端面6cと対の接触面3cの接触部が径方向に対して傾いているため、その接触部において周方向の分力が生じる。各弾性部材4のばね力の周方向分力が、第一保持器5、第二保持器6に対し、それぞれ第一柱部5aと第二柱部6aを周方向に遠ざける方向の回転トルクとして作用する。電磁石9の吸引力は、それらばね力の周方向分力に抗して全ての係合子3を中立位置に保てるように第一保持器5と第二保持器6間の相対回転を阻止可能な強さに設定されている。
【0048】
全ての係合子3が中立位置にある限り、内方部材1、外方部材2が図2における左回り又は右回りのいずれに回転するとしても、その回転トルクは、係合子3を介して内方部材1と外方部材2間で伝達されず、内方部材1と外方部材2が相対的に空転(フリー回転)する状態にある。つまり、この回転伝達装置は、内方部材1と外方部材2間での回転トルクの伝達を遮断する係合解除状態にある。ここで、この係合解除状態において、図1に示す内方部材1が回転する場合、ロータ8、アーマチュア7、第一保持器5、第二保持器6、カム機構10、支持リング13及びシム12が一体に回転するため、内方部材1の回転トルクによって第一保持器5と第二保持器6が相対回転させられることはない。
【0049】
係合子3の突部3bを外方部材2の係合凹部2aに突入させることが可能な位相で内方部材1と外方部材2が同期回転している状態において、電磁石9への通電が遮断されると、図4に示すように、各弾性部材4の前述の周方向分力により、第一保持器5と第二保持器6は、互いに第一柱部5aと第二柱部6aを周方向に遠ざける方向へ回転させられる。この相対回転の運動は、カム機構10により、第一保持器5の軸方向一方側への移動に変換される。これに伴い、係合子3は、弾性部材4の弾性復元により、外方部材2の係合凹部2aに向けて径方向に押し動かされ、図3図4に示すように、係合子3の突部3bが、外方部材2の係合凹部2aに周方向に係合する係合位置まで移動させられる。このため、内方部材1又は外方部材2の入力側からの回転トルクは、左回りと右回りのいずれの入力回転の場合でも、係合凹部2aに対して対応の周方向に係合する係合子3を介して出力側に伝達される。つまり、この回転伝達装置は、係合子3を介して内方部材1と外方部材2間で回転トルクを伝達する係合状態になる。係合状態になったとき、第一保持器5は、図3の位置にあり、外方部材2の軸方向他方側の端面に突き当っている。このため、第一保持器5のそれ以上の軸方向一方側への移動が阻止される。
【0050】
図3図4に示す係合状態において、電磁石9の電磁コイルに通電されると、電磁石9によってロータ8に吸着されるアーマチュア7と一体に第一保持器5の軸方向移動が起こる。この第一保持器5の軸方向移動は、カム機構10により、図2に示すように、第一保持器5と第二保持器6の相反する回転運動に変換される。その回転運動に伴い、互いに周方向に接近する第一柱部5aの第一端面5cと第二柱部6aの第二端面6cとによって、係合子3の対の接触面3cが周方向両側から押される。第一端面5c、第二端面6cと対の接触面3cの接触部が周方向に対して傾いているため、その接触部において径方向の分力が生じる。第一保持器5と第二保持器6の回転トルクの径方向分力が、係合子3の対の接触面3cに対し、それぞれ係合子3を弾性部材4に抗して内方部材1の凹部1aに押し込む力として作用する。アーマチュア7がロータ8に吸着されて第一保持器5の軸方向移動が図1の位置で停止させられたとき、第一柱部5aと第二柱部6aを互いに接近させる第一保持器5と第二保持器6の回転運動は停止することになる。このとき、係合子3が第一柱部5aと第二柱部6aとによって中立位置まで凹部1aに押し込まれ、この回転伝達装置が係合解除状態に戻っている。電磁石9への通電が継続されている限り、前述のように、電磁石9の吸引力により、各弾性部材4のばね力に抗して第一保持器5と第二保持器6の相対回転が阻止されるので、第一柱部5aの第一端面5c及び第二柱部6aの第二端面6cが係合子3の対の接触面3cを周方向両側から挟む接触状態に保たれる。このため、係合子3は、第一柱部5aの第一端面5c及び第二柱部6aの第二端面6cにより中立位置に保たれる。これにより、この回転伝達装置が高速に空転する際の係合子の引き摺りが防止される。
【0051】
上述のように、この回転伝達装置は、内方部材1と外方部材2の一方の部材が入力側又は出力側となるとき、他方の部材が、一方の部材に対して出力側又は入力側となるように使用することが可能である。その電磁石9に通電されている状態の間(図1図2参照)、その磁気的な吸引力により、カム機構10を介して第一保持器5と第二保持器6の相対回転が阻止される。内方部材1(一方の部材)と一体に回転可能な係合子3が、第一柱部5aと第二柱部6aにより、係合子3を係合位置に向けて付勢する弾性部材4に抗して、外方部材2(他方の部材)と接触不可な中立位置に保たれる。一方、係合子3と外方部材2の係合凹部2aが径方向に対向する状態で電磁石9への通電が遮断されると、第一柱部5aと第二柱部6aによる規制がなくなるので、弾性部材4のばね力により、係合子3が係合位置へ移動させられ、その係合子3を介して内方部材1と外方部材2間でトルク伝達が行われる係合状態になる。この係合状態のとき、電磁石9に通電されると、アーマチュア7と一体の第一保持器5の軸方向移動がカム機構10で第一保持器5と第二保持器6の相反する回転運動に変換され、その回転運動に伴い、互いに周方向に接近する第一柱部5aと第二柱部6aによって係合子3が中立位置まで押し動かされる。その回転運動が停止しても、電磁石9への通電が継続されている限り、第一柱部5aと第二柱部6aにより、係合子3が中立位置に保持される。このため、この回転伝達装置は、高速に空転する際(内方部材1が外方部材2に対して相対的に高速に空転する際)の係合子3の引き摺りを防止することができる。
【0052】
また、この回転伝達装置は、内方部材1(一方の部材)が係合子3の基部3aと弾性部材4とを収容する凹部1aを有し、その凹部1aが係合子3の基部3aを径方向に案内する形状であるので、係合子3の基部3aと弾性部材4を凹部1aに収容する簡単な構造により、係合子3を内方部材(一方の部材)と一体に回転可能かつ中立位置と係合位置間を径方向に往復移動可能に配置すると共に、弾性部材4で係合位置に向けて付勢することができる。
【0053】
また、この回転伝達装置は、その係合子3が中立位置において凹部1aから径方向に外方部材2(他方の部材)側へ突出し、かつ係合位置において係合凹部2aに入り込む突部3bを有するので、中立位置で係合子3の全体が凹部1aに没入する場合に比して、係合子3の係合位置への移動距離を抑え、クラッチとしての応答性を良くすることもできる。
【0054】
また、この回転伝達装置は、第一柱部5aが係合子3の周方向一方側との接触部になる第一端面5cを有し、第二柱部6aが係合子3の周方向他方側との接触部になる第二端面6cを有し、第一端面5cと第二端面6cが径方向に外方部材2(他方の部材)側に向かって互いに周方向に近くなる形状であるので、電磁石9に通電時、第一柱部5aと第二柱部6aの接近動により、第一端面5cと第二端面6cで係合子3を中立位置へ押すことができる一方、その通電の遮断時、弾性部材4のばね力により、係合子3で第一端面5cと第二端面6cを押して第一保持器5と第二保持器6を相反する方向に相対回転させ、係合子3を係合位置へ移動させることができる。
【0055】
また、この回転伝達装置は、係合子3が第一柱部5aと第二柱部6aによって周方向両側から押される対の接触面3cを有し、これら対の接触面3cが径方向に外方部材2(他方の部材)側に向かって互いに周方向に近くなる形状であるので、電磁石9に通電時、第一柱部5aと第二柱部6aの接近動により、係合子3の対の接触面3cを挟んで係合子3を中立位置へ押すことができる一方、その通電の遮断時、弾性部材4のばね力により、係合子3の対の接触面3cで第一柱部5aと第二柱部6aを押して周方向に押し退け、第一保持器5と第二保持器6を相反する方向に相対回転させ、係合子3を係合位置へ移動させることができる。特に、係合子3の対の接触面3cと、第一柱部5aの第一端面5cと、第二柱部6aの第二端面6cとが上述のような斜面状であれば、互いのエッジ当たりを避け、これらの面の摩耗を防止することができる。
【0056】
第一実施形態では、内方部材1と係合子3を常に一体に回転する関係としたが、外方部材と係合子を常に一体に回転する関係に変更してもよく、この場合、外方部材の内周に係合子の基部を収容する凹部を設け、内方部材の外周に係合凹部を設けて、第一柱部と第二柱部とで中立位置の係合子の内方への移動を規制すればよいだけのことなので、その図示説明を省略する。また、カム機構10としてボールカム機構を例示したが、カム機構は、電磁石の吸引による第一保持器の軸方向移動を第一保持器と第二保持器の相反する方向の回転運動に変換することが可能な運動変換機構であればよく、第一保持器のフランジ部と第二保持器のフランジ部間に設けるものであれば、ボールカム機構に代えて単純に置換するだけで済む。その一例としての第二実施形態を図8図11に基づいて説明する。なお、以下では、第一実施形態との相違点を述べるに留める。
【0057】
図8図9に示すように、第二実施形態に係るカム機構20は、第一保持器21に形成された複数のカム軌道21aと、第二保持器22に形成された複数のカム突部22aとで運動変換を行うスライドカム機構からなる。なお、図9は、カム軌道21aとカム突部22aの周方向に沿った断面での形状を示す。
【0058】
図9に示すように、カム軌道21aは、周方向中央で最も深く、周方向両端に向かって深さが直線的に変化する溝状になっている。カム軌道21aの溝底面は、周方向一端に向かって軸方向他方側へ傾いた第一斜面21bと、周方向他端に向かって軸方向他方側へ傾いた第一斜面21cとからなる。
【0059】
一方、カム突部22aは、カム軌道21aの第一斜面21b,21cと嵌合する形状の第二斜面22b,22cを有する。第二斜面22bは、カム突部22aの周方向中央から周方向一端に向かって軸方向他方側へ傾いている。第二斜面22cは、カム突部22aの周方向中央から周方向他端に向かって軸方向他方側へ傾いている。
【0060】
図8図9に示すように、この回転伝達装置が係合解除状態のとき、第一斜面21bと第二斜面22b同士、第一斜面21cと第二斜面22c同士が接触している。この回転伝達装置が係合解除状態から係合状態へ移行するとき、図10図11に例示するように、第一保持器21と第二保持器22の相対回転の方向に対応する側の第一斜面21bと第二斜面22b同士で第一保持器21の軸方向一方側への移動に変換される。
【0061】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
1 内方部材
1a 凹部
2 外方部材
2a 係合凹部
3 係合子
3a 基部
3b 突部
3c 接触面
4 弾性部材
5,21 第一保持器
5a 第一柱部
5c 第一端面
6,22 第二保持器
6a 第二柱部
6c 第二端面
7 アーマチュア
8 ロータ
9 電磁石
10,20 カム機構
10a 第一カム溝
10b 第二カム溝
10c ボール
21b,21c 第一斜面
22b,22c 第二斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11