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特許7002449曝露面積増大石英ガラス部材及びその製造方法並びにマルチ外周刃ブレード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】曝露面積増大石英ガラス部材及びその製造方法並びにマルチ外周刃ブレード
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/458 20060101AFI20220128BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20220128BHJP
   B24D 5/00 20060101ALI20220128BHJP
   B24B 19/03 20060101ALI20220128BHJP
   H01L 21/301 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C23C16/458
C03B20/00 K
B24D5/00 P
B24B19/03
H01L21/78 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018523845
(86)(22)【出願日】2017-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2017021265
(87)【国際公開番号】W WO2017217309
(87)【国際公開日】2017-12-21
【審査請求日】2020-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2016118118
(32)【優先日】2016-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591018224
【氏名又は名称】株式会社福井信越石英
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】土田 昭禎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 紀和
(72)【発明者】
【氏名】牧田 佳紀
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-173154(JP,A)
【文献】特開2001-118836(JP,A)
【文献】特開2005-207881(JP,A)
【文献】特開2003-326464(JP,A)
【文献】特開2001-105330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
B24B 1/00-1/04
B24B 9/00-19/28
B24D 3/00-99/00
H01L 21/78-21/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の成膜処理において、成膜処理される前記半導体基板が既に処理によって表面に凹凸が形成されており、かつ前記半導体基板と共に反応室内に載置され、成膜処理ガスに曝露される成膜処理ガス曝露用の板状の石英ガラス部材であり、
石英ガラス部材本体と、
成膜処理ガスの吸着量を制御するために前記石英ガラス部材本体の表面に形成された、溝幅及び溝深さが0.05mm~1.5mmの溝形状の複数の凹凸部と、
を有し、
当該石英ガラス部材本体の表面の複数の凹凸部の溝形状の横幅と溝深さの比が1:1~1:10であり、当該溝の溝幅と溝深さのバラツキの範囲が、各±20%以内であることにより、成膜処理ガスへの曝露面積を増大させると共に、前記成膜処理ガスの曝露面表面への吸着量が一定になるように増大曝露面積が制御されてなる曝露面積増大石英ガラス部材。
【請求項2】
請求項1記載の曝露面積増大石英ガラス部材の製造方法であり、マルチ外周刃ブレードを用いて、前記石英ガラス部材本体の表面に同時に複数の溝加工を行うことにより、前記複数の凹凸部を形成してなる曝露面積増大石英ガラス部材の製造方法。
【請求項3】
前記溝加工により得られた曝露面積増大石英ガラス部材の溝加工が行われた片面の表面積が、前記溝加工が行われる前の前記曝露面積増大石英ガラス部材の前記片面の表面積と比べて3倍以上である請求項記載の曝露面積増大石英ガラス部材の製造方法。
【請求項4】
請求項又は記載の曝露面積増大石英ガラス部材の製造方法における溝加工を行うためのマルチ外周刃ブレードであり、
単一の円盤状台金部と、
前記円盤状台金部の外周部に形成されたダイヤモンド砥粒層基部と、
前記ダイヤモンド砥粒層基部から複数の刃が突出して一体的に設けられてなるダイヤモンド砥粒刃部と、
を有する、曝露面積増大石英ガラス部材製造用マルチ外周刃ブレード。
【請求項5】
前記ダイヤモンド砥粒刃部の各刃の刃厚と刃長の比が1:5以上である請求項記載のマルチ外周刃ブレード。
【請求項6】
前記ダイヤモンド砥粒層基部が、前記ダイヤモンド砥粒刃部の各刃の刃長の2倍以上の厚さを有する請求項又は記載のマルチ外周刃ブレード。
【請求項7】
前記複数の刃と刃の間の前記ダイヤモンド砥粒層基部の表面に円弧状の窪みが形成されてなる請求項いずれか1項記載のマルチ外周刃ブレード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の成膜処理の際に、成膜処理される前記半導体基板と共に反応室内に載置される曝露用石英ガラス部材であって、表面が平坦なものよりも成膜処理ガスへの曝露面積を増大させると共に、表面への吸着量が一定になるように増大曝露面積が制御された曝露面積増大石英ガラス部材、その製造方法及びそれに用いられるマルチ外周刃ブレードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイスの製造工程において、シリコンウェーハ等の半導体基板に対して、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)などの種々の成膜処理が行われる。かかる成膜処理にあたっては、例えばウェーハボートあるいはサセプターと呼ばれるウェーハ保持治具に半導体基板を載置して反応室へと搬入し、成膜処理が行われる。
【0003】
このような、ウェーハ保持治具を用いた成膜処理においては、処理ガスと反応しない材質である石英ガラスでウェーハボートを作成し、かかるウェーハボートに半導体基板を載置し、処理ガスと反応しない材質である石英ガラスで製作された部材とともに前記半導体基板を反応室に収容し、成膜処理が行われることがある。このような成膜方法の例を特許文献1に示す。
【0004】
かかる技術は、一般にウェーハへのガスの流れのバラツキ低減する目的の部材であるが、成膜処理においては、半導体基板と同様に膜が累積付着し剥離による異物の発生や膜の膨張差による破損が問題となり、様々な工夫がなされている。
【0005】
ところが、成膜処理される半導体基板は、処理によって表面に凹凸が形成され、表面が平坦な半導体基板と比べて表面積が増大していることから、半導体基板への成膜を均一とするためには、反応室内で成膜処理ガスに曝露される石英ガラス部材も、その表面積を増大させて、成膜処理ガスの吸着量を半導体基板の表面の凹凸に合わせて制御したいというニーズがあった。
【0006】
さらに、成膜による膜厚が薄膜化するにつれて、石英ガラス部材にはガスの流れのバラツキの低減よりも、成膜ガスの吸着量の制御による均一な半導体基板への均一な成膜の達成が課題となっており、かかる石英ガラス部材の成膜処理ガス曝露面積を増大させ、かつ成膜処理ガスの吸着を精密に制御するにあたり、精度良く且つ生産効率良くその表面積を増大させた石英ガラス部材とすることは極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-99157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みなされたもので、表面が平坦なものよりも成膜処理ガスへの曝露面積を増大させると共に、表面への吸着量が一定になるように増大曝露面積が制御された曝露面積増大石英ガラス部材、その製造方法及びそれに用いられるマルチ外周刃ブレードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の曝露面積増大石英ガラス部材は、半導体基板の成膜処理において、成膜処理される前記半導体基板と共に反応室内に載置され、成膜処理ガスに曝露される成膜処理ガス曝露用の石英ガラス部材であり、石英ガラス部材本体と、前記石英ガラス部材本体の表面に形成された複数の凹凸部と、を有し、成膜処理ガスへの曝露面積が制御されて増大されてなる曝露面積増大石英ガラス部材である。前記曝露面積の制御は、成膜処理ガスの曝露面表面への吸着量が一定になるように制御することが好適である。
【0010】
前記制御されて増大される複数の凹凸部が溝形状であり、当該溝の溝幅と溝深さのバラツキの範囲が、各±20%以内であることが好適である。
【0011】
本発明の曝露面積増大石英ガラス部材の製造方法は、前記曝露面積増大石英ガラス部材の製造方法であり、マルチ外周刃ブレードを用いて、前記石英ガラス部材本体の表面に同時に複数の溝加工を行うことにより、複数の凹凸部を形成してなる曝露面積増大石英ガラス部材の製造方法である。
【0012】
前記溝加工により得られた曝露面積増大石英ガラス部材の溝加工が行われた片面の表面積が、前記溝加工が行われる前の前記曝露面積増大石英ガラス部材の前記片面の表面積と比べて3倍以上であるのが好適である。
【0013】
本発明のマルチ外周刃ブレードは、前記曝露面積増大石英ガラス部材の製造方法における溝加工を行うためのマルチ外周刃ブレードであり、単一の円盤状台金部と、前記円盤状台金部の外周部に形成されたダイヤモンド砥粒層基部と、前記ダイヤモンド砥粒層基部から複数の刃が突出して一体的に設けられてなるダイヤモンド砥粒刃部と、を有する、マルチ外周刃ブレードである。
【0014】
前記ダイヤモンド砥粒刃部の各刃の刃厚と刃長の比が1:5以上であるのが好適である。
【0015】
前記ダイヤモンド砥粒層基部が、前記ダイヤモンド砥粒刃部の各刃の刃長の2倍以上の厚さを有するのが好適である。
【0016】
前記複数の刃と刃の間の前記ダイヤモンド砥粒層基部の表面に円弧状の窪みが形成されてなるのが好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、表面が平坦なものよりも成膜処理ガスへの曝露面積を増大させると共に、表面への吸着量が一定になるように増大曝露面積が制御された曝露面積増大石英ガラス部材、その製造方法及びそれに用いられるマルチ外周刃ブレードを提供することができるという著大な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の曝露面積増大石英ガラス部材の例を示す概略平面図であり、(a)及び(b)は円輪板状、(c)及び(d)は円板状の例を示す。
図2】本発明の曝露面積増大石英ガラス部材の溝加工の一例を示し、(a)は溝加工が行われた表面を示す拡大模式図、(b)は溝加工が行われる前の表面を示す拡大模式図である。
図3】本発明のマルチ外周刃ブレードを示す図であって、(a)が概略斜視図、(b)が概略正面図である。
図4】本発明のマルチ外周刃ブレードの要部拡大模式断面図である。
図5】本発明のマルチ外周刃ブレードを用いて、複数の溝加工を行う様子を示す平面模式図である。
図6】本発明のマルチ外周刃ブレードを用いて、複数の溝加工を行う様子を示す側面模式図である。
図7】縦型熱処理炉の一例を示す概略図である。
図8】実施例11、12及び比較例1で用いた成膜処理装置を示す概略断面図である。
図9】従来のマルチ外周刃ブレードを示す概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これら実施の形態は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。図示において、同一部材は同一符号であらわされる。
【0020】
図1(a)~(d)、図7及び図8において、符号10は、本発明の曝露面積増大石英ガラス部材である。曝露面積増大石英ガラス部材10は、半導体基板Wの成膜処理において、成膜処理される前記半導体基板Wと共に反応室12内に載置され、成膜処理ガスに曝露される成膜処理ガス曝露用の石英ガラス部材であり、石英ガラス部材本体14と、前記石英ガラス部材本体14の表面に形成された複数の凹凸部16と、を有し、成膜処理ガスへの曝露面積が増大されてなる曝露面積増大石英ガラス部材である。
【0021】
本発明において、石英ガラス部材本体14の形状は特に制限はなく、成膜条件に基づいて成膜処理ガスを制御するための部材形状及び凹凸部の加工を適宜選択すればよいが、板状が好ましく、例えば、円形の板状又は多角形の板状等が挙げられる。図示の例では、図1(a),(b)に平面視で中央に中空部を有する円形の板状(円輪板状)の例を示し、図1(c),(d)に平面視で中央に中空部を有さない円板状(ウェーハ状)の例を示した。
【0022】
図1(a)において、符号52は中空部であり、円輪板状の曝露面積増大石英ガラス部材10Aの石英ガラス部材本体14は、中央に中空部を有する円形の形状をしており、該石英ガラス部材本体14の表面全面に、複数の凹凸部16として等間隔の平行の溝18が形成されている。図1(b)の曝露面積増大石英ガラス部材10Bは、複数の凹凸部16として90°のクロス状の溝18が形成されている以外は図1(a)の曝露面積増大石英ガラス部材10Aと同様である。
【0023】
図1(c)の曝露面積増大石英ガラス部材10Cの石英ガラス部材本体14は平面視で中央に中空部を有さない円板状であり、該石英ガラス部材本体14の表面全面に、複数の凹凸部16として等間隔の平行の溝18が形成されている。図1(d)の曝露面積増大石英ガラス部材10Dは、複数の凹凸部16として90°のクロス状の溝18が形成されている以外は図1(c)の曝露面積増大石英ガラス部材10Cと同様である。
【0024】
図示では、複数の凹凸部16として等間隔で複数の溝18が形成されている例を示したが、成膜処理ガスの吸着量を制御するために、中央と周囲で間隔を変えても良い。複数の凹凸部16、表面に複数の凹凸が形成されていればよく、その形状に特に制限はないが、溝形状が好ましい。溝形状は、直線状や曲線状、円周状、断線状等のいずれでも良く特に制限はないが、直線状が好適である。複数の直線は平行でもよく、交差していてもよいが、図1(a)~(d)に示した如く、平行又はクロス状が好ましい。また、複数種の形状を組み合わせて用いても良い。
【0025】
溝18は、精密な溝加工等により複数の凹凸部16を形成するが、石英ガラス部材本体14の片面だけに形成しても両面に形成してもよい。また、複数の凹凸部16は石英ガラス部材本体14の表面全面に形成してもよく、部分的に形成してもよいが、表面全面又は少なくとも表面の外周部に複数の凹凸部16が形成されることが好適である。
【0026】
曝露面積増大石英ガラス部材10の片面に溝加工が行われた表面と、前記溝加工を行う前の表面とを図2に示す。
図2(a)に示されるように、溝加工により、片面の表面20に溝18が形成されていると、図2(b)に示すような溝加工前の平坦な表面22に比べて、溝18の内側面24a,24bの分だけ表面積が増大する。従って、図2(a)のように、表面20に溝18が形成されていると、図2(b)に示すような溝加工前の平坦な表面22に比べて、成膜処理ガスに曝露される面積が増大することとなる。よって、溝18の幅や深さは、増大する曝露面積、ひいては成膜処理ガスの吸着量の精密な制御には重要な要素になる。
【0027】
例えば、溝18の幅や深さは0.05mm~1.5mmで、要求される吸着量に対応する増大させる面積に合わせて、適宜選択出来るが、溝幅に対して溝深さが1:10を超えると、吸着する処理ガスが溝底まで安定して供給されず、逆に1:1より小さいと、面積増大の効果が充分に得られない。よって、溝幅:溝深さが1:1~1:10が好ましく、1:1.5~1:7がより好ましい。
また、増大面積ひいては吸着量を精密に制御するためには、溝幅と溝深さの精度が重要であり、溝幅と溝深さのバラツキは、それぞれの要求値の±20%を超えないのが好適であり、±10%以内であることがより好適である。
【0028】
曝露面積増大石英ガラス部材10の表面20に複数の溝18を加工するにあたっては、マルチ外周刃ブレードを用いて、前記石英ガラス部材本体14の表面20に同時に複数の溝加工を行うことができる。
【0029】
図3図5において、符号26は本発明のマルチ外周刃ブレードを示す。マルチ外周刃ブレード26は、単一の円盤状台金部28と、前記円盤状台金部28の外周部30に形成されたダイヤモンド砥粒層基部32と、前記ダイヤモンド砥粒層基部32から複数の刃34が突出して一体的に設けられてなるダイヤモンド砥粒刃部36と、を有する。
【0030】
円盤状台金部28は単一の金属で一体的に構成されており、中央には回転軸が挿通される挿通孔38が開穿されている。ダイヤモンド砥粒層基部32及びダイヤモンド砥粒刃部36は、ダイヤモンド砥粒を固着させることで形成されている。ダイヤモンド砥粒を固着させるには、ダイヤモンド砥粒をメタルボンドで焼結したり或いは電着させたりすることで固着させることができる。円盤状台金部28は単一の金属で一体的に構成することで、マルチ外周刃ブレードを高速回転させた際の刃振れを極めて小さく抑えることができる。
【0031】
前記ダイヤモンド砥粒層基部32及び前記ダイヤモンド砥粒刃部36の拡大図を図4に示す。前記ダイヤモンド砥粒刃部36としては、前記ダイヤモンド砥粒刃部36の各刃34の刃厚Dと刃長Lの比が1:5以上1:20未満であるのが好適である。
【0032】
ダイヤモンド砥粒刃部36の刃34の数に特別の限定はないが、例えば3連刃以上30連刃未満ぐらいの数で刃を設けるようにすればよい。刃の数を増やせば同時に溝加工できる溝の数が増えることになるが、あまり増やすと加工時の各刃の摩耗度合いがばらつき、加工する溝の幅、深さのバラツキを増大させることになる。図3の例では刃34を4連刃とした例を示し、図4の例では刃34を6連刃とした例を示した。
【0033】
また、前記ダイヤモンド砥粒層基部32は、前記ダイヤモンド砥粒刃部36の各刃34の刃長Lの2倍以上の厚さTを有するのが好適である。
【0034】
さらに、前記複数の刃34と刃34の間の前記ダイヤモンド砥粒層基部32の表面に円弧状の窪み40が形成されてなるのが好適である。切削した際の切り粉等の抜けが向上し、加工負荷を抑えて刃振れを低減出来、加工精度が向上するからである。
【0035】
このように構成した本発明のマルチ外周刃ブレード26は、従来のマルチ外周刃ブレードと比べて、精度良く溝加工を行うことができる。図9に従来のマルチ外周刃ブレード100を示す。従来のマルチ外周刃ブレード100は、複数の単一外周刃ブレード102a,102b,102c,102d,102eがスペーサ104を介して組み付けられることにより、マルチ外周刃ブレードとされている。そして、各単一外周刃ブレード102a,102b,102c,102d,102eは、それぞれが円盤状台金部106a,106b,106c,106d,106eを有しており、かかる円盤状台金部106a,106b,106c,106d,106eの外周部にダイヤモンド砥粒刃108a,108b,108c,108d,108eが設けられている。
【0036】
図9に示すような従来のマルチ外周刃ブレード100では、スペーサ104を介して複数の単一外周刃ブレード102a,102b,102c,102d,102eが組み付けられているため、例えば100μmオーダーのピッチや深さで溝加工を行うには、組み付け精度の問題が生じてしまう。そのため、本発明のマルチ外周刃ブレード26では、スペーサを用いることなく、円盤状台金部28を単一のものとし、その円盤状台金部28の外周部30にダイヤモンド砥粒層基部32を設け、さらにダイヤモンド砥粒層基部32の外周部にダイヤモンド砥粒刃部36を設ける構成としている。
【0037】
かかるマルチ外周刃ブレード26を用いて、図5に示すようにマルチ外周刃ブレード26を回転させながら石英ガラス部材本体14の表面を横断させれば、ダイヤモンド砥粒刃部36によって、同時に複数の溝加工を行うことができる。
【0038】
そして、図6に矢印で示したように、かかる複数の溝同時加工を、位置をずらして繰り返すことで、図1に示す本発明の曝露面積増大石英ガラス部材となる。
【0039】
図7に、縦型熱処理炉の一例を示す。縦型熱処理炉42は、石英で構成された反応室12と、前記反応室12に成膜処理ガスなどのガスを導入するガス導入管44と、前記反応室12を加熱するヒータ46と、前記反応室12内のガスを排気するためのガス排気管48と、を有している。また、反応室12内にはウェーハボート50が搬入されている。かかるウェーハボート50には、複数の半導体基板W(例えばシリコンウェーハ)が載置されている。
【0040】
そして、ウェーハボート50の上端及び下端の載置部には、本発明の曝露面積増大石英ガラス部材10が載置されている。この状態でガス導入管44から成膜処理ガスを反応室12内に導入し、半導体基板WへCVDなどの成膜処理を行う。成膜処理が行われる半導体基板Wは、既に処理によって表面に凹凸が形成されており、曝露面積増大石英ガラス部材10は成膜処理ガスに対する曝露面積が増大されているため、半導体基板Wへの成膜が均一となる。
【実施例
【0041】
以下に本発明について実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0042】
(実施例1~10)
単一の円盤状台金部と、円盤状台金部の外周部に形成されたダイヤモンド砥粒層部と、ダイヤモンド砥粒層部基部から、複数の刃が突出して一体的に設けられてなるメタルボンドによるダイヤモンド砥粒刃部と、を有する本発明のマルチ外周刃ブレードを準備した。これらのマルチ外周刃ブレードにより、複数の凹凸部を形成してなる本発明の曝露面積増大石英ガラス部材を製作した。実施例1~10のマルチ外周刃ブレード及び曝露面積増大石英ガラス部材の詳細を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1において、形状Yは、部材仕様:凹凸加工片面のみ表面全面、90°クロス、ピッチ0.5mm、石英ガラス部材本体の外径(OD)340mm×内径(ID)302mm×厚さt0.8mm(円輪板状)であり、形状Xは、部材仕様:凹凸加工片面のみ表面全面、平行、ピッチ0.5mm、石英ガラス部材本体の外径(OD)300mm×厚さt0.8mm(円板状)である。また、BW MAX:溝幅のバラツキの最大%(絶対値)、BD MAX:溝深さのバラツキの最大%(絶対値)、D:刃厚、L:刃長、T:基部厚みである。
【0045】
表1に示した如く、本発明のマルチ外周刃ブレードを用いることにより、溝形状の複数の凹凸部が形成され、且つ当該溝の溝幅と溝深さのバラツキの範囲が、20%以内である曝露面積増大石英ガラス部材が得られた。
また、実施例1,2及び6~8が溝幅のバラツキが10%未満であり、さらに望ましい結果であった。
【0046】
(実験例1~5)
図9に示した、スペーサを介して複数の単一ブレードを組み付けた従来のマルチ外周刃ブレードを準備した。これらのマルチ外周刃ブレードを利用して、実施例1~10と同様な形状Y、Xの部材を製作した。実験例1~5のマルチ外周刃ブレード及び曝露面積増大石英ガラス部材の詳細を表2に示す。表2において、Sはスペーサとブレードを組み付けた後の全幅とした。
【0047】
【表2】
【0048】
表2に示した如く、実験例1~5のいずれも実施例1~10に比較して、溝幅と溝深さのばらつきが大きくなっており、実用に適さないものであった。
【0049】
(実施例11)
実施例2と同様の方法により、円輪板状の曝露面積増大石英ガラス部材を準備し、図8に示した成膜処理装置を用いて窒化膜の成膜試験を行い、曝露面積増大石英ガラス部材への処理ガス吸着効果の検証を行った。図8に示した如く、サセプター51上に円輪板状の曝露面積増大石英ガラス部材10を載置せしめ、前記円輪板状の曝露面積増大石英ガラス部材10の中空部52に成膜被処理物である半導体基板Wを配置し成膜試験を行った。また、参考例1として、石英ガラス部材を配置せず半導体基板Wのみをサセプター51上に載置し同様の実験を行った。
成膜後の基板表面の膜の中央と外周部の相対的な膜厚比を、中央を1として確認した。結果を表3に示す。
【0050】
(実施例12)
実験例3と同様の方法により得た円輪板状の曝露面積増大石英ガラス部材を用いた以外は実施例11と同様の方法により実験を行った。結果を表3に示す。
【0051】
(比較例1)
溝の無い円輪板状の石英ガラス部材を用いた以外は実施例11と同様の方法により実験を行った。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表3に示した如く、比較例1に対して、実施例11及び12は曝露面積の増大による膜厚の外周厚膜化の抑制効果が大きいことがわかる。また、溝深さの溝幅に対する比が5倍、即ち、望ましい10倍未満である実施例11に比較して、10倍以上の実施例12は溝深さが深く、より多く面積は増大しているにもかかわらず、外周の厚膜化の抑制効果が少なくなり、吸着効果の効率に差があることがわかった。
【0054】
(実施例13~15)
曝露面積増大石英ガラス部材の溝のバラツキと吸着量に関して、吸着量のバラツキを、処理ガスに見立てて、純水の表面への付着残留重量の差異により検証した。評価は下記工程1)~5)にて行った。
1)水槽に所定の純水を満たし、重量を計測する。
2)石英ガラス部材(形状Y、X)を純水の入った水槽に浸漬し、水中で10分保持する。
3)次いで製品を水面から持ち上げて、水槽上で水面から離して、60秒間保持し、部材から離れる水滴を水槽に落とす。
4)前記3)の処理後の部材を抜いた後の水槽の残留純水を含む重量を計測する。
5)前記1)の重量と4)の重量の差を、石英ガラス部材への純水の吸着重量とする。
これを各石英ガラス部材について、10回繰り返し、吸着重量のMAX-MIN、及び平均にて検証した。
各石英ガラス部材は、それぞれ、実施例13:実施例2、実施例14:実施例6、実施例15:実施例9と同様の方法により得た曝露面積増大石英ガラス部材を用いた。結果を表4に示す。
【0055】
(比較例2)
比較例1と同様の溝の無い円輪板状の石英ガラス部材を用いた以外は実施例13~15と同様の方法により実験を行った。結果を表4に示す。
【0056】
(実験例6及び7)
石英ガラス部材を変更した以外は実施例13~15と同様の方法により実験を行った。実験例6及び7はそれぞれ、実験例4及び5と同様の方法により得た曝露面積増大石英ガラス部材を用いた。結果を表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
表4に示した如く、溝のバラツキが小さい曝露面積増大石英ガラス部材を用いた実施例13~15では、吸着量のバラツキも極めて小さいものであった。また、比較例2と実施例13の純水の吸着量は、比較例1と実施例11の外周部膜厚化抑制効果と良く一致し、吸着量が大きいほど膜厚化の抑制効果が大きいことがわかる。さらに、実施例14,15と実験例6,7から、溝の溝幅と溝深さの精度のばらつきが大きいと、吸着量も大幅にばらつくことがわかる。このことから、溝の溝幅、溝深さによる増大曝露面積を制御することにより、吸着量が一定になることが検証できる。
【符号の説明】
【0059】
10,10A~10D:曝露面積増大石英ガラス部材、12:反応室、14:石英ガラス部材本体、16:凹凸部、18:溝、20:溝加工後の表面、22:溝加工前の表面、24a,24b:内側面、26:本発明のマルチ外周刃ブレード、28:円盤状台金部、30:外周部、32:ダイヤモンド砥粒層基部、34:刃、36:ダイヤモンド砥粒刃部、38:挿通孔、40:円弧状の窪み、42:縦型熱処理炉、44:ガス導入管、46:ヒータ、48:ガス排気管、50:ウェーハボート、51:サセプター、52:中空部、100:従来のマルチ外周刃ブレード、102a,102b,102c,102d,102e:単一外周刃ブレード、104:スペーサ、106a,106b,106c,106d,106e:円盤状台金部、108a,108b,108c,108d,108e:ダイヤモンド砥粒刃、D:刃厚、L:刃長、T:ダイヤモンド砥粒層基部の厚さ、W:半導体基板。
図1
図2
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図9