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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】光検出器アレイ
(51)【国際特許分類】
   H01L 27/146 20060101AFI20220113BHJP
   H01L 27/30 20060101ALI20220113BHJP
   H04N 1/028 20060101ALI20220113BHJP
   H01L 51/42 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
H01L27/146 C
H01L27/30
H04N1/028 Z
H01L31/08 T
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018561408
(86)(22)【出願日】2018-01-11
(86)【国際出願番号】 JP2018000448
(87)【国際公開番号】W WO2018131638
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2021-01-04
(31)【優先権主張番号】P 2017004745
(32)【優先日】2017-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519201259
【氏名又は名称】サイントル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】ザーラー ピーター
(72)【発明者】
【氏名】松久 直司
(72)【発明者】
【氏名】染谷 隆夫
【審査官】西出 隆二
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-502128(JP,A)
【文献】特開昭61-203668(JP,A)
【文献】特開昭60-161664(JP,A)
【文献】特開2006-261172(JP,A)
【文献】特開2004-064087(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0191218(US,A1)
【文献】特表2012-515436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/146
H01L 27/30
H04N 1/028
H01L 51/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成され、第1の方向に並行して伸びる複数の第1電極と、この第1電極に交差する第2の方向に並行して伸びる複数の第2電極との間に、第1の有機薄膜ダイオードと、第2の有機薄膜ダイオードとが、共通アノードまたは共通カソードとなる中間接続電極層で逆ダイオード接続された積層膜を有し、前記第1電極と前記第2電極の少なくとも一方は光を透過する透明性を有し、前記第1の有機薄膜ダイオードは光応答性有機ダイオードであり、前記第2の有機薄膜ダイオードは有機整流ダイオードであり、前記中間接続電極層はその接続する前記第1の有機薄膜ダイオードと前記第2の有機薄膜ダイオードに対して、共通アノードとしては正孔を、共通カソードとしては電子を受け渡しして動作し、
前記第1の有機薄膜ダイオードと前記第2の有機薄膜ダイオードは、前記中間接続電極層を介して受け渡しされる電子または正孔のキャリアを輸送するエネルギー準位が同じである、ことを特徴とする光検出器アレイ。
【請求項2】
前記第1の有機薄膜ダイオードと前記第2の有機薄膜ダイオードは、前記中間接続電極層を介して受け渡しされる電子または正孔のキャリアを輸送する有機材料が同じである、請求項1記載の光検出器アレイ。
【請求項3】
前記第1の有機薄膜ダイオードは、ヘテロ接合型の光応答性有機ダイオードであり、前記第2の有機薄膜ダイオードは、シングルキャリア型またはショットキー型の有機整流ダイオードであることを特徴とする、請求項1又は2記載の光検出器アレイ。
【請求項4】
前記中間接続電極層は、前記第1または第2の有機薄膜ダイオードを塗布手段により製膜するときに用いられる溶剤に対して不溶であることを特徴とする、請求項1~3の何れか一項記載の光検出器アレイ。
【請求項5】
前記複数の第1電極と前記複数の第2電極の間に形成された複数の光検出器に亘って、前記積層膜が形成されていることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項記載の光検出器アレイ。
【請求項6】
前記中間接続電極層は、有機導電材料または金属酸化物導電材料からなることを特徴とする請求項1~5の何れか一項記載の光検出器アレイ。
【請求項7】
前記第1の有機薄膜ダイオード及び/又は前記第2の有機薄膜ダイオードを構成する有機半導体材料が、ポリ3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル(P3HT)又はこれと類似の又は異なる波長の光に感度を有するp型半導体材料を含む請求項に記載の光検出器アレイ。
【請求項8】
前記第1の有機薄膜ダイオードの活性層及び/又は前記第2の有機薄膜ダイオードの半導体層の最高占有分子軌道(HOMO)のエネルギー準位と、前記中間接続電極層材料の仕事関数のエネルギー準位との差が、0.5eV以下である請求項1~7何れか一項に記載の光検出器アレイ。
【請求項9】
前記基板がフレキシブル基板からなる請求項1~8何れか一項に記載の光検出器アレイ。
【請求項10】
前記フレキシブル基板が、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、透明ポリイミド(PI)又はパリレン(ポリ・パラキシレン)からなる請求項9に記載の光検出器アレイ。
【請求項11】
基板上に形成され、第1の方向に並行して伸びる複数の第1電極に、第1の有機薄膜ダイオードの活性層を塗布する工程と、
前記第1の有機薄膜ダイオードの活性層上に、共通アノードまたは共通カソードとなる中間接続電極層を塗布する工程と、
前記中間接続電極層に第2の有機薄膜ダイオードの半導体層を塗布する工程と、
前記第2の有機薄膜ダイオードの半導体層上に、前記第1電極に交差する第2の方向に並行して伸びる複数の第2電極を製膜する工程と、
を含み、
前記第1の有機薄膜ダイオードと前記第2の有機薄膜ダイオードは、前記中間接続電極層を介して受け渡しされる電子または正孔のキャリアを輸送するエネルギー準位が同じである、ことを特徴とする光検出器アレイの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【クロスリファレンス】
【0001】
本出願は、2017年1月15日に日本国において出願された特願2017-4745号に基づく優先権を主張するものであり、当該出願に記載された内容は全て、参照によりそのまま本明細書に援用される。また、本願において引用した全ての特許、特許出願及び文献に記載された内容は全て、参照によりそのまま本明細書に援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、フレキシブルなシート型の光イメージスキャナーに関する。更に詳しくは、シート上に有機半導体からなる光検出器を2次元的に配置したアレイ動作に適した光イメージスキャナーに関する。
【背景技術】
【0003】
2次元的に光強度分布をとらえて画像を取得する装置として、デジタルカメラに組み込まれているCCD(Charged-coupled devices)や CMOS(Complementary metal-oxide-semiconductor)のイメージセンサーが広く普及している。これらのイメージセンサーは2次元アレイ状に光検出器が高密度に並べられ、レンズによる縮小投影光学系と組み合わせることで構成されている。また、イメージスキャナーと呼ばれる装置は、紙媒体などの記録媒体に形成された画像や文書をデジタル画像情報化するための機器として広く普及している。イメージスキャナーでは、1次元アレイ状に光検出器が並べられたイメージセンサーを記録媒体に対して相対的に走査(スキャン)して2次元情報を得る。これらの装置では、レンズ投影や走査のための機構を必要とし、イメージセンサーのサイズに対して装置は大きく、測定対象に対して距離を確保する必要がある。
【0004】
一方、測定対象に対して2次元のイメージセンサーを密着させるシート型イメージスキャナーが提案されている。非特許文献1に開示されているシート型イメージスキャナーは、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂からなるフレキシブルな基材上に、2次元アレイ状に有機半導体からなる有機フォトダイオードの光検出器を並べて形成している。そして、別のPEN基材には、個々の光検出器から出力電流を読み出すため、光検出器と1対1に対応して有機トランジスターからなるスイッチング回路が、アクティブマトリクス型と呼ばれるスイッチアレイとして形成されている。これらの二つの基材は積層され、光検出器とスイッチング回路とが1対1で導電性の銀ペーストで接続される。
【0005】
また、特許文献1にはシリコン基板内に、シリコン半導体からなるダイオードとシリコン半導体からなる光検出器であるフォトダイオードとを縦に積層した、ダイオード結合方式のアクティブマトリクス型イメージセンサーが開示されている。この構成は、パッシブマトリクス型のアレイ素子でノイズや誤差として生じる電流の回り込みや電圧のクロストークを、ダイオードの整流機能により回避できる。また、縦と横の配線電極の間に、縦に材料を積層した膜構造により、光検出器とスイッチング回路がモノリシックに製膜された素子に構成されている。
【0006】
これらの従来技術にあるように、光検出器を2次元アレイ状に配列し、個々の光検出器で精度よく光強度を検出するには、行列配置された電極の交差部に設けられた個々の光検出器を電気的に分離するため、各フォトダイオードに直列にスイッチング素子を接続する必要がある。このスイッチング素子はダイオードでもトランジスターでも良い。ダイオードを用いる場合は、フォトダイオードとダイオードの接続において、アノード(陽極)同士またはカソード(陰極)同士が接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第4,758,734号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】T. Someya, S. Iba, Y. Kato, T. Sekitani, Y. Noguchi, Y. Murase, H. Kawaguchi, and T. Sakurai, “A Large-Area, Flexible, and Lightweight Sheet Image Scanner”, 2004 IEEE International Electron Devices Meeting (IEDM), #15.1, pp. 365-368, Hilton San Francisco and Towers, San Francisco, CA, December 13-15, 2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
無機半導体からなる電子デバイスに用いられるガラスやシリコンなどの基材は割れやすく、自由に曲げることが困難であるのに対して、有機半導体などの有機材料を用いた電子デバイスは、有機材料の持つ柔らかさと低温で製膜ができることから、柔軟なプラスチック基材上に電子素子を形成して、フレキシブルな電子機器を作成することができる。また、大気下かつ室温で塗布する方法により製膜できるため、安価に電子機器を提供できる。
その一方で、有機材料からなる薄膜は有機溶剤に溶けるため、無機半導体プロセスで用いられる有機レジストのパターニングを利用したエッチング方法を適用することができない。また同じく、無機半導体プロセスで用いられる高エネルギープラズマによるドライエッチングは、エッチング速度が速く制御が難しく、複雑なパターンの積層構造からなる有機半導体デバイスを形成することが困難である。
【0010】
そのため、非特許文献1に記載されたシート型イメージスキャナーでは、スイッチング素子である有機トランジスターと光検出器である有機フォトダイオードを別々の基材に形成し、二つの基材を貼り合わせる際に、有機トランジスターと有機フォトダイオードを接続するという構成を用いている。この構成は、貼り合わせという機械的プロセスを必要とするため、素子に損傷が生じやすく歩留まりが低下する。また、構造が複雑で高コストになるという課題があった。
【0011】
特許文献1に記載された光検出器は、スイッチングダイオードとなるシリコンのPN接合またはPIN接合からなるブロッキングダイオードと、同じくシリコンのPN接合またはPIN接合からなるフォトダイオードとが、二つのダイオードを電気的に接続する導電性アモルファスシリコンを挟んで積層されている。しかし、製膜は高温プロセスで行われるため、プラスチック基板に形成することは困難であった。
また、この構成では、スイッチングダイオードのシリコンと導電性アモルファスシリコンとフォトダイオードのシリコンは導電性が高いため、2次元配列された光検出器の素子間を分離する必要がある。ブロッキングダイオードは、シリコン膜が溝によって個別電極に沿って分割されている。導電性アモルファスシリコンはさらに共通電極に沿っても分割された矩形にパターニングされている。その後、素子を分割する溝は絶縁材料で埋められ、上部に透明な共通電極が形成されている。このように、積層デバイスの製造では多くのパターン形成が必要であり、プロセスコストが高くなるという課題が有る。また、スイッチングダイオードとフォトダイオードとを個別にパターニングするため、同様な構成をパターニング方法に制限がある有機半導体材料で実現することは困難であった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、有機半導体材料を用いて2次元的に配置したアレイ動作に適した光検出器を提供し、柔らかく曲げることができるシート型の2次元光イメージスキャナーを安価に実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、基板上に形成され、第1の方向に並行して伸びる複数の第1電極と、この第1電極に交差する第2の方向に並行して伸びる複数の第2電極との間に、第1の有機薄膜ダイオードと、第2の有機薄膜ダイオードとが、共通アノードまたは共通カソードとなる中間接続電極層で逆ダイオード接続された積層膜を有し、第1の電極と第2の電極の少なくとも一方は光を透過する透明性を有し、第1の有機薄膜ダイオードは光応答性有機ダイオードであり、第2の有機薄膜ダイオードは有機整流ダイオードであり、前記中間接続電極層はその接続する前記第1の有機薄膜ダイオードと前記第2の有機薄膜ダイオードに対して、共通アノードとしては正孔を、共通カソードとしては電子を受け渡しして動作する光検出器アレイからなる。この構成によれば、光照射により光応答性有機ダイオードに生成されるキャリアを読み出し電圧の印加により電流として読み出すことができると同時に、光照射された光検出器において非読み出し電圧の印加では電流が可及的に小さくなり、互いに交差する複数の第1電極と第2電極の間に積層膜を形成するだけの極めて簡単な構成において、光検出器間のクロストークを抑制して高品位な光検出を実現することが可能となる。
【0014】
また、上記光検出器アレイの構成において、第1の有機薄膜ダイオードは、ヘテロ接合型、好ましくはバルクヘテロ接合型の光応答性有機ダイオードであり、第2の有機薄膜ダイオードは、シングルキャリア型またはショットキー型の有機整流ダイオードである。この構成によれば少ない積層数で高感度な光検出器アレイを実現できる。
【0015】
また、上記光検出器アレイの構成において、第1の有機薄膜ダイオードと第2の有機薄膜ダイオードは、中間電極層を介して受け渡しされる電子または正孔のキャリアを輸送するエネルギー準位が同じである、好ましくはキャリアを輸送する有機材料が同じである。この構成によれば、光照射により光応答性有機ダイオードに生成されるキャリアを低い読み出し電圧の印加により電流として読み出すことができる。低い読み出し電圧にすることで、暗電流を抑えてノイズの低い高品位な光検出が可能となる。
【0016】
また、上記光検出器アレイの構成において、中間接続電極層は、第1または第2の有機薄膜ダイオードを塗布手段により製膜するときに用いられる溶剤に対して不溶である。この構成によれば、中間接続電極層の上に塗布方法で有機薄膜ダイオードを形成するときに、中間接続電極層が溶剤をブロックし、中間接続電極層の下にすでに形成されている有機薄膜ダイオードが溶剤によって再溶解することを防ぐことができる。これにより、塗布方法で安価に大面積の光検出器アレイを製造することが可能となる。
【0017】
また、上記光検出器アレイの構成において、複数の第1の電極と複数の第2の電極の間に形成された複数の光検出器に亘って、積層膜が形成されている。この構成によれば、積層膜の縁が可及的に少なくなり、耐久性の高い光検出器アレイが実現できる。
【0018】
また、上記検出器アレイの構成において、中間接続電極層は、有機導電材料または金属酸化物導電材料からなる。この構成によれば、中間電極層は縦方向に電流を流すうえでは十分に低い抵抗であると同時に、横方向には高い抵抗で電流が流れない。そのため、中間接続電極層を個々の光検出器に分離してパターニングすることなく光検出器間のクロストークが抑制できる。
なお、上記本発明の構成は任意に組み合わせることができる。
【0019】
本発明の異なる視点における、光検出器アレイの製造方法は、基板上に形成され、第1の方向に並行して伸びる複数の第1電極に、第1の有機薄膜ダイオードの活性層を塗布する工程と、前記第1の有機薄膜ダイオードの活性層上に、共通アノードまたは共通カソードとなる中間接続電極層を塗布する工程と、前記中間接続層に第2の有機薄膜ダイオードの半導体層を塗布する工程と、前記第2の有機薄膜ダイオードの半導体層上に、前記第1電極に交差する第2の方向に並行して伸びる複数の第2電極を製膜する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、互いに交差する複数の第1電極と第2電極の間に積層膜を形成するだけの簡単な構成で、光検出器間のクロストークが抑制された高品位な光検出アレイが有機半導体材料を用いて実現できる。この単純な構造は、有機半導体材料を用いた電子デバイスの製造を可能にし、有機半導体電子デバイスの特徴である、大面積、フレキシブルな光検出器アレイの実現を可能にする。また、有機半導体デバイスの別の特徴である低コスト化が実現できる。また、縦にデバイスが積層されるため、並置された素子を接続する方法に比べ、配線の簡略化と広い受光面積率が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の有効性を説明する従来のパッシブマトリクス光検出器アレイを模式的に示した回路図である。
図2】本発明の実施形態に係る光検出器アレイの回路構成を模式的に示した回路図である。
図3】本発明の実施形態に係る光検出器の積層膜構成を模式的に図示したものである。
図4】本発明の実施形態に係る光検出器の積層膜構成を模式的に図示したものである。
図5】本発明の実施形態に係る光検出器の積層膜構成におけるエネルギー準位の関係を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る光検出器の積層膜構成を模式的に図示したものである。
図7】本発明の実施形態に係る光検出器の積層膜構成におけるエネルギー準位の関係を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る光検出器アレイの回路構成を模式的に示した回路図である。
図9】本発明の実施形態に係る光検出器の素子特性を示す図である。
図10】本発明の実施形態に係る光検出器アレイの構造を示す平面図と側面図である。
図11】本発明の実施例に係る光検出器アレイの動作を示す図である。
図12】本発明の他の実施例に係る光検出器アレイの動作を示す図である。
図13】本発明の他の実施例に係る光検出器アレイの形態を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
11、12、54、59…電極;15、21、31、51…フォトダイオード;16、22、32、52…整流ダイオード;17、50…光検出器;500…光検出器アレイ
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を適用した光検出器アレイについて、図面を用いてその構成を説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0024】
図1は、本発明が解決する課題を示すパッシブマトリクス方式の光検出器アレイ400を模式的に表した回路図である。図1において、縦に延びる複数の第1の電極41a、41b、41c、41dと、横に延びる複数の第2の電極42a,42b、42c、42dの複数の交差部に光検出器であるフォトダイオード45がアレイ状に配置されている。ここで、複数のフォトダイオード45a、45bには光が照射され、フォトダイオードにキャリアが生成されている状態を想定する。光強度は、読み出し電圧Vonを印加し電流計46でキャリアを電流値として計測する。パッシブマトリクスの読み出し方式では、横に延びる第2の電極を共通電極として、複数の共通電極に順次読み出し電圧Vonを印加し、縦に延びる個別電極である第1の電極に流れる電流を計測する。この時、理想的には、読み出し電圧Vonが印加された共通電極と個別電極の交差部に形成されているフォトダイオードのキャリア量のみを検出することが求められる。しかし、光が照射されているフォトダイオードでは、共通電極の電圧レベルが非読み出し電圧Voffであっても、光起電力により個別電極と共通電極間で電流が流れるクロストークが生じる。例えばフォトダイオード45bのキャリア量を計測する場合、フォトダイオード45bと同じ個別電極に接続し光照射がされているフォトダイオード45aにも電流が流れるため、電流計46を流れる電流は、測定対象であるフォトダイオード45bを流れる電流に、フォトダイオード45aを流れるクロストーク電流が誤差を生じさせる。この課題を解決する方法として、クロストーク電流が流れないように、各フォトダイオードに整流ダイオード(ブロッキングダイオード)をフォトダイオードと逆ダイオード接続する方法が知られている。
【0025】
図2は 本発明の光検出器アレイ100を模式的に表した回路図である。図2において、縦に延びる複数の第1の電極11a、11b、11c、11dと、横に延びる複数の第2の電極12a,12b、12c、12dの複数の交差部に、光応答性有機ダイオード(有機フォトダイオード)15と有機整流ダイオード16がアノードを共通にして逆ダイオード接続された組み合わせダイオード17としてアレイ状に配置されている。読み出し方式はパッシブマトリクスと同様に、横に延びる第2の電極を共通電極として、複数の共通電極に順次読み出し電圧Vonを印加し、縦に延びる個別電極である第1の電極に流れる電流を計測する。この時、他の共通電極には非読み出し電圧Voffが印加され、光照射hνを受けるダイオード17aでは、それぞれに接続された有機整流ダイオード16で電流が遮断されてクロストーク電流は小さく抑えられる。
【0026】
本発明において、光応答性有機ダイオード15と有機整流ダイオード16は有機半導体材料からなる薄膜を積層して形成される。図3は一般化した共通カソード層で逆ダイオード接続されるダイオードの積層膜構成を示している。共通のカソード電極層である中間接続電極層27を挟んで両側に有機半導体膜が積層され、両端はアノード電極23,29で終端される。光応答性有機ダイオード21は、アノード電極23、正孔輸送層24、活性層25、電子輸送層26、カソード電極27の積層構造からなり、有機整流ダイオード22は、アノード電極29、有機半導体層28、カソード電極27の積層構造からなる。
【0027】
図4は一般化した共通アノード層で逆ダイオード接続されるダイオードの積層膜構成を示している。共通のアノード電極層である中間接続電極層37を挟んで両側に有機半導体膜が積層され、両端はカソード電極33、39で終端される。光応答性有機ダイオード31は、カソード電極33、電子輸送層34、活性層35、正孔輸送層36、アノード電極37の積層構造からなり、有機整流ダイオード32は、カソード電極39、有機半導体層38、アノード電極37の積層構造からなる。
【0028】
図3図4において、光応答性有機ダイオードを構成する活性層は光(一般的には電磁波)を吸収して電子-正孔対からなるキャリアを生成する。そのため、活性層に外から光が照射できるように、両端の電極の少なくとも一方は光(一般的には電磁波)を透過する透明性を有している。また、活性層は有機半導体と金属との界面を利用するショットキー型、p型とn型の有機半導体薄膜を積層した平面ヘテロ接合型、そして、p型とn型の半導体材料がランダムに混ざった薄膜からなるバルクヘテロ接合型を用いることができる。これらの中で、バルクヘテロ接合型は効率が高いだけでなく、有機半導体を混合させた溶液を1層塗布するだけで形成できるため、活性層を少ない工程で形成できるという大きな利点がある。この活性層から、アノードで正孔を、カソードで電子を取り出して電流を流すためには、活性層からアノードとカソードへ効率よくキャリアが移動できることが好ましい。キャリアの移動は、電極と活性層のエネルギー準位差が障壁となり制限される。この障壁を低減するために、電極と活性層の間のキャリアエネルギー準位の整合層となる正孔輸送層(または正孔注入層)や電子輸送層(または電子注入層)が挿入される場合が有る。
【0029】
これまで、逆ダイオード接続された光応答性有機ダイオード(有機フォトダイオード)と有機整流ダイオードの光応答性に関しては知られておらず、光検出器アレイへの適用の可能性と最適構成について明らかではなかった。特に有機整流ダイオードでは、光非応答性ダイオードとして機能することが求められるが、一般に有機ダイオードは多少なりとも光応答性を示すことが知られている。このため、従来のシリコン半導体を用いた光検出器アレイでは、中間接続電極層に光遮蔽性を付与するなどの対策が必要であった。しかし、必要な光遮蔽性を得るためには中間接続電極層を厚く形成しなければならず、隣接素子を分離するために中間接続電極層を個々の光検出器に分離されたパターンとして形成する必要があった。本発明者らは光照射による生成キャリアの読み出しと非読み出しの電流コントラストが得られる膜構成を調査研究し、膜間のキャリア輸送に関わる電流障壁を適切に設定することにより二つの機能を両立できることを見出した。特に、二つの有機ダイオードの中間に形成される中間接続電極層が、光照射によって有機フォトダイオードで生成されたキャリア電荷を受け取り、有機整流ダイオード側へ渡す際の電流障壁を可及的に小さくなるように選択されていることが、低電圧で電流コントラストを得るために重要であることを見出した。すなわち、中間接続電極層を、その接続する有機フォトダイオードと有機整流ダイオードとの間で、共通アノードとしては正孔を、共通カソードとしては電子を低障壁で受け渡しできるように選択する。そして、適切に中間接続電極層の材料を選択することで、後述するようにべた膜でありながら、光検出器をアレイに分離することができることを見出した。
【0030】
図5は、有機フォトダイオードの活性層と、有機整流ダイオードの半導体層の最高占有分子軌道(HOMO)および最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位、カソード電極材料、そしてアノード電極材料の仕事関数のエネルギー準位を示している。ここでは、有機フォトダイオードは、p型の高分子半導体のP3HT(ポリ3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)と、n型有機半導体のPCBM([6,6]-フェニル-C61-酪酸メチル)とがランダムに混合したP3HT:PCBMのバルクヘテロ接合型の活性層を利用する。また、有機整流ダイオードでは、P3HTを有機半導体層として利用する。
【0031】
これらの材料は、共通アノード電極となる中間接続電極層で接続される。中間接続電極層に直接積層される有機半導体層(有機フォトダイオードの活性層および有機整流ダイオードの有機半導体層)との間で、良好な電荷の受け渡しをするには、共通アノード電極の場合は正孔が輸送されるHOMOレベルに中間接続電極材料の仕事関数を合わせることが極めて有効である。ここでいう有効とは、積層の界面で電圧障壁が低く抑えられ、低い電圧で光生成キャリアを電流として取り出せることを意味する。P3HT:PCBMとP3HTの正孔輸送を担うHOMOレベルは、共におよそ-5.2eVである。これは、P3HT:PCBMとP3HTで、正孔輸送はp型半導体であるP3HTが担うからである。このように、有機整流ダイオードに用いる有機半導体と光応答性有機ダイオードの活性層に用いる有機半導体で、中間接続電極を介して受け渡しするキヤリアを輸送する有機半導体材料に、同様な組成の材料や同一の材料を用いることで、エネルギー準位を同程度に合わせることが可能となる。なお、仕事関数とは、固体中の電子を外部に取り出すのに必要な電位差であり、真空準位とフェルミ準位とのエネルギー差として定義される。また、有機半導体のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)とは、電子の入っている一番エネルギーの高い軌道をいい、LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)とは、電子の入っていない一番エネルギーの低い軌道をいう。
【0032】
したがって、有機フォトダイオードの活性層及び/又は有機整流ダイオードの半導体層として使用されるp型高分子半導体材料としては、上述したP3HTの他にも、これと類似の又は異なる波長の光に感度を有するp型半導体材料を用いることができ、例えば、ポリ(3-オクチルチオフェン-2,5-ジイル)(P3OT)、ポリ(3-ドデシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3DDT)、ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](PTAA)、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン](MEH-PPV)、ポリ[2-メトキシ-5-(3’,7’-ジメチルオクチルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン](MDMO-PPV)、ポリ[(9,9-ジ-n-オクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-alt-(ベンゾ[2,1,3]チアジアゾール-4,8-ジイル)](F8BT)、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-ビチオフェン](F8T2)、及びポリ(3-オクチルチオフェン-2,5-ジイル-co-3-デシロキシチオフェン-2,5-ジイル)(POT-co-DOT)等のポリ(3-アルキルチオフェン)類を挙げることができ、これらの中でも、P3HT、F8T2及びPTAA等が好ましく、バンドギャップが小さく、バルクヘテロ構造をとることができるp型半導体材料としては、MDMO-PPVやPOT-co-DOTを用いることができる。
【0033】
一方、n型有機半導体としては、上述したPCBMに代表されるフラーレン誘導体の他にも、ホウ素含有n型ポリマーであるBoramerT01、BoramerTC03等、はしご型ポリマーであるポリ(ベンゾビスイミダゾベンゾフェナントロリン)(BBL)等を用いることができる。これらは、有機エレクトロニクス材料として市販されており、例えば、シグマアルドリッチ社から購入することができる。
【0034】
図5に、中間接続電極層の材料候補である、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)の金属材料と、PEDOT:PSS(ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン-ポリスチレンスルホン酸)の有機半導体材料と、酸化モリブデン(MoOx)の酸化物導電体の仕事関数を提示した。アルミニウムは仕事関数が-4.3eVとエネルギー差が大きく好ましくない。銀の仕事関数は-4.7eVで、エネルギー差は許容できる。これらに対して、金は仕事関数が-5.3eV、酸化モリブデンは-5.5eV、PEDOT:PSSは-5.1evとエネルギー差を小さくできるため、共通カソードとしての中間接続電極材料として好適である。したがって、好ましい実施形態では、前記第1の有機薄膜ダイオードの活性層及び/又は前記第2の有機薄膜ダイオードの半導体層の最高占有分子軌道(HOMO)のエネルギー準位と、前記中間接続電極層材料の仕事関数のエネルギー準位との差が、0.5eV以下、好ましくは0.3eV以下である。
【0035】
有機フォトダイオードのカソード材料は、P3HT:PCBMから電子を良好に受け取ることができるように、P3HT:PCBMのLUMOレベルに合わせた電極材料が選択される。また、有機フォトダイオード側から光照射を得るために、有機フォトダイオードのカソード電極は入射光に対して透明である必要がある。透明な導電体としてITO(酸化インジウムスズ)が好適である。しかし、ITOの仕事関数はおよそ-5eVと大きく、P3HT:PCBMのLUMOレベルとのエネルギー差が極めて大きい。そこで、電子注入性を改善するため、酸化亜鉛やPEIE(ポリエチレンイミンエトキシレート)でITO表面を修飾する。PEIEの仕事関数はおよそ-3.4eVから-3.6eVで、P3HT:PCBMのLUMOレベルに合わせたカソード電極を構成できる。
【0036】
一方、有機整流ダイオードでは、pnダイオード方式、PINダイオード方式、ショットキーダイオード方式などが適用できる。これらの中で、ショットキーダイオードは、有機半導体と導電材料とを積層する、非常に簡単な構造で整流機能を実現できるため好適である。P3HTの有機半導体との間でショットキー接合を形成するため、p型半導体であるP3HTのHOMOレベルとの間で障壁を形成できるエネルギー差を持つAlが、カソード電極材料として好適である。また、正孔と電子を共に流すダブルキャリアの有機半導体では、HOMO-LUMO準位差が大きいワイドギャップの半導体を選択する。
【0037】
以上では、図4に示した共通アノード層で逆ダイオード接続されるダイオードの積層膜構成に関して、積層膜のエネルギー準位の適切な構成について述べた。同様な議論は、図3に示した共通カソード層で逆ダイオード接続されるダイオードの積層膜構成に関しても適用できる。しかし、共通カソードを介して電子を受け渡しするようにLUMOレベルの整合性を確保することは、HOMOレベルで整合性を得る材料選択より困難である。そのため、共通アノードの構成が、材料の選択範囲が広く、感度の高い光検出器や、波長感度の広い光検出器を実現しやすいという点で優れている。
【0038】
図6は、本発明の光検出器アレイにおける光検出素子50の実施形態を示している。図6の積層膜構成において、ガラスやプラスチックからなる透明な基板53上に、ITO透明電極54が第1電極(カソード電極)として形成されている。ITO透明電極54の表面はPEIEからなる電子注入層55が積層されている。この電子注入層55の上には、P3HT:PCBMのバルクヘテロ接合型光応答性有機ダイオードの活性層56が積層され、更にPEDOT:PSSの共通アノード57を積層することで、光応答性有機ダイオード51が構成される。
【0039】
この光応答性有機ダイオード51に更に積層膜を形成し、有機整流ダイオード52が構成される。すなわち、共通アノード57の上にP3HTからなる有機半導体層58と第2電極(カソード電極)となるAl電極59が積層され、有機半導体層58とAl電極59との間のショットキー接合によるショットキーダイオードが構成される。図7は、図6の積層膜構成の実施形態における、膜のエネルギー準位を示すダイアグラムである。
【0040】
図8は、図6に示した光検出素子50からなる光検出器アレイ500の実施形態を模式的に表した回路図である。図8において、透明基板上に縦に延びる複数のITO透明電極54からなる第1の電極54a、54b、54c、54dと、横に延びる複数のAl電極59からなる第2の電極59a,59b、59c、59dの複数の交差部に光検出素子50形成されている。光検出素子50を構成する光応答性有機ダイオード(有機フォトダイオード)51のカソードは第1の電極54であり、有機整流ダイオード52のカソードは第2の電極59である。
【0041】
図8に示す光検出器アレイ500のでは、第1の電極54a、54b、54c、54dが個別電極として機能し、第2の電極59a,59b、59c、59dが共通電極として機能する。光検出器アレイ500に照射されている光照射hνの強度分布の読み出しは、一つの共通電極59に接続している光検出器50に対して、まとめて行われる。例えば、一つの共通電極59aが選択されると、共通電極59aに外部の図示されていない電源から読み出し電圧Vonが印加される。Vonは、光応答性有機ダイオードに逆方向電圧が印加される極性であり、図8の回路図においては負の電圧である。この読み出しのタイミングと同じくして、非選択の共通電極59b、59c、59dには非読み出し電圧Voffが印加される。Voffは、非選択の共通電極59b、59c、59dに接続している光検出器50に光照射がされている状態で光検出器50を流れる電流が十分に小さくなるように適切に設定される。
【0042】
図9は、図6に示した光検出素子50に対して、照射光強度を変えて印加電圧と電流の関係を測定した結果である。光照射が無い(dark)場合には、0Vの印加電圧で電流がゼロとなり、負または正の印加電圧の増加に伴い電流が指数的に増加するダイオード特性を示す。一方、光照射が有る場合は、およそ0.5Vの印加電圧で電流値が極小となり、この極小点に関して電圧を減少または増加させると電流は非対称に増加する。電流の極小を与える電圧は、照射光強度に依らずほぼ一定値となる。印加電圧を極小点を与える電圧から負側に変化させていくと、電流は急激に増大する遷移域を経て、一定値を示すようになる。この一定値を示すようになる閾値電圧は、光強度が強くなるほど負の値に大きくなる。この現象は、光照射によって生成された正孔-電子対のキャリアが多くなるほど、薄膜空間内で空間電荷による電界の影響が出てくることによる。この空間電荷を抑制し、速やかにキャリアを電流として取り出すために高い外部印加電圧を必要とするためである。本発明の実施形態では、光照射強度が1000W/mまでの範囲に対して、およそ-2Vの電圧を印加すると、電流は印加電圧に依らず一定値を示すようになり、この時に電流は光照射強度にほぼ比例する。光照射強度の2次元分布をイメージングする場合に、このような光照射強度と出力の比例関係が得られることが好ましい。従って、図8に示す回路図において、読み出し電圧Vonは、電流出力が印加電圧に関して一定となる印加電圧範囲に設定することが好ましい。
【0043】
一方、非読み出し電圧Voffは、光検出素子を流れる電流を小さくすることが求められるため、図9に示す光検出素子特性において、電流の極小値を与える印加電圧に設定することが好ましい。図9の素子特性ではVoffを0.5Vに設定することが最適である。
【0044】
図10は、図6に示した光検出素子50からなる光検出器アレイ500の実施形態を示す平面図および側面図である。図10において、透明基板53上に透明な導電材料であるITOからなる複数の第1電極54が縦に並行して形成されている。この第1の電極54がパターンとして形成された基板上に、図6に示した材料からなる有機膜55、56、57、58が複数の第1電極54に亘ったべた膜として積層されている。そして、このべた膜の上面に、第1電極54と直交して、アルミニウムからなる複数の第2電極59が形成されている。
【0045】
本実施形態において、有機膜は個々の光検出素子に関しては区画化されておらず、光検出素子は平面視で見た帯状の第1電極54と第2電極59の交差領域として規定される。従来のシリコン半導体を用いて実現された光検出器アレイでは、素子を構成する無機半導体膜が厚く、さらに導電率が高いため、隣接する素子間に切り込みを入れて素子を分離する必要があった。これに対して、有機薄膜からなる光検出素子では積層膜を構成する有機半導体材料、有機導電性材料、無機酸化物導電性材料の膜厚が薄く、導電率も低いため、隣接する素子間に切り込みを入れなくても隣接する素子を電気的に分離することができる。この実施形態は、このような有機材料の特徴を生かすことで、有機材料ではウェットやドライのエッチングで膜に損傷が入りやすく、積層膜のパターン形成が困難であるという欠点を回避したデバイス構造が可能となる。
【0046】
図10に示す光検出器アレイ500では、基板53の下部にITOからなる第1電極54が表面に露出した端子部54aが並んで配置されている。また、基板53の左部に第2電極59が延長された端子部59aが並んで配置されている。端子部54aを露出されるため、この部分をマスキングテープで覆い、製膜後にテープを剥離して端子部54aを形成した。図8に示したように、第1電極54は個別電極として機能し、第2電極59は共通電極として機能する。
【実施例
【0047】
以下、これまで示した発明の実施形態に従って、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0048】
(光検出器アレイの作成)
透明なガラス基板上に、図10に示す光検出器アレイを作成する。線状に2mmの間隔で1mm幅のスリットを16本の開口させたマスクを用意し、ガラス基板に密着して重ね合わせて、このマスク面側からスパッタリングによりITOを50nmの厚さに製膜して、16本の第1の電極54を形成した。次に、ITO表面の仕事関数を浅くするため、PEIE(ポリエチレンイミンエトキシレート)でITO表面を修飾した。PEIEは2メトキシエタノールと体積比1:100の割合で混合し、スピンコート法により塗膜形成したのち、100℃、60秒の焼成を行った。
【0049】
次に、第1の電極の接続端子部54aをテープでマスキングしたのちに、p型有機半導体P3HT(ポリ3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)と、n型有機半導体のPCBM ([6,6]-フェニル-C 61-酪酸メチル)からなるP3HT:PCBMのバルクヘテロ接合型光応答性活性層を形成した。P3HT30mgとPCBM30mgをそれぞれ秤量し、加熱したクロロベンゼン1mlに溶解させ、孔径0.2μmのメンブレンフィルターで粗大粒子を除去して作成した混合溶液を用いて、スピンコート法によって製膜した。
【0050】
次に、P3HT:PCBMからなる活性層に重ねて、PEDOT:PSS(ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン-ポリスチレンスルホン酸)からなる共通アノードを形成した。へレウス社から購入したPEDOT:PSS(型番CLEVIOS P VP CH8000)をスピンコート法で製膜した。PEDOT:PSSの塗布液の溶媒は極性溶媒であり、下層のP3HTやPCBMを溶解しない。そのため、下層に劣化を生じるような影響を与えることなく、生産性の優れた塗布方式で積層膜を形成できる。また、PEDOT:PSSには導電率の異なる種類が多数提供されているが、導電率が1S/cmを超える高導電率のものでは素子間が連結されてしまう課題が発生した。そのため、導電率は、1S/cm以下の導電材料が必要である。特に精細度の高いデバイスでは、0.01S/cm以下の材料で素子を分離して動作させることができた。
【0051】
共通アノードの上には、ショットキーダイオードを構成するP3HTの有機半導体膜を形成する。P3HT60mgを秤量し、加熱したクロロベンゼン1mlに溶解させ、孔径0.2μmのメンブレンフィルターで粗大粒子を除去して作成した溶液を用いて、スピンコート法によって製膜した。この製膜過程において、クロロベンゼンはPEDOT:PSS膜を溶かすことが無く、また、PEDOT:PSS膜によってクロロベンゼンがブロックされるため、共通カソードの下に形成されている活性層に影響を与えることなく、P3HTを製膜できる。このように、本発明において、共通カソードがその上下の有機薄膜ダイオードを塗布する際の溶媒に不溶であるため、塗布法という極めて生産性の高い製膜方法を採用することが可能になり、大面積の光検出器アレイを安価に提供することが可能になる。
【0052】
以上の有機材料からなるべた膜を積層形成したのちに、アルミニウム電極を製膜し、ショットキーダイオードを構成すると同時に第2の電極59を形成する。アルミニウムの第2電極は、第1の電極の形成と同様に、線状に2mmの間隔で1mm幅のスリットを16本の開口させたマスクを用意し、スリットが第1電極と直交する方向に基板53と密着して重ね合わせて、このマスク面側から蒸着により形成した。本発明の有機ダイオードは、酸素や水分に対してある程度の耐性を有するが、実用的な耐久性を持たせるには、最上部に酸素や水分を遮断するバリア層を形成することが好ましい。本実施例では、第2電極を形成し、光検出器アレイの素子が完成したのちに、パリレン(ポリ・パラキシレン)の有機膜を蒸着により形成した。また、上記プロセスで形成した各層の膜厚は、PEIE層55が10nm、P3HT:PCBMの光活性層56が200nm、PEDOT:PSSの共通アノード57が50nm、P3HTの有機半導体膜58が70nm、アルミニウムの第2電極59が100nmである。これらの膜厚は、この数値に限定されるものではなく、設計的な最適化の範囲で任意に設定可能である。
【0053】
(光検出器アレイの動作)
図11は、上記で作成した有機光検出器アレイを動作させた様子を示している。各16本の個別電極54と共通電極59を、図示していない外部の制御回路にケーブルで接続して動作させた。制御回路は、共通電極にVon電圧とVoff電圧を印加する読み出し制御回路と、個別電極を流れる電流を計測する16チャンネルの微小電流計と、読み出し制御回路と微小電流計を制御する制御コンピューターから構成される。読み出し制御回路は16本の共通電極に接続し、共通電極の1本にVonの電圧を印加し、その他の共通電極にVoffの電圧を印加する。図9に示した光検出器の特性より、Von電圧は-2V、Voff電圧は0.5Vに設定した。Von電圧とVoff電圧は、微小電流計が計測する光電流の立ち上がり後に、適切に設定した静定時間を確保した時間印加され、微小電流計での電流計測の完了後、次の共通電極の計測に移る。この計測過程を16本の共通電極を順次スキャン行うことで、2次元の光強度分布を時間変化として可視化することを可能にする。図11では、光検出器アレイと照明との間に挿入した綿棒による影を検出している。
【0054】
(第2の実施例)
図12は、図10に示した構成の光検出器アレイを高精細で作成した装置によるイメージング結果である。第1の電極と第2の電極は、それぞれ100μm間隔で50μmの幅に16本形成した。すなわち、光検出器アレイのイメージングセンサーサイズは1.6mm×1.6mmで、画素数は16×16の256ピクセルである。図12では、6ポイントのフォントサイズの文字を読み取っている。このように、本発明の構成によれば、高精細な光検出器アレイから大面積の光検出器アレイまで、多様な仕様のセンサーを容易に作成することが可能となる。
【0055】
(第3の実施例)
図13は、図10に示した構成の光検出器アレイをフレキシブル基板上に作成した実施例である。フレキシブルな基板は平坦性を保って製膜プロセスを行うことが困難であるため、固く平坦なサポート基板に積層して製膜を行った後に、サポート基板から剥離して完成させる。本実施例では、サポート基板としてガラス基板を用いた。まず、プロセス完了後にサポート基板からフレキシブル光検出器アレイを剥離しやすくするため、ガラス基板上にフッ素系のコーティング膜を形成する。本実施例では、3M社のフッ素系液体Novecを用いて表面コーティングを施した。その上に、透明なフレキシブル基材を積層する。フレキシブル基材として、PEN(ポリエチレンナフタレート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)や透明PI(ポリイミド)を用いることができるが、本実施例ではパリレン(ポリ・パラキシレン)を真空蒸着でサポート基板上に堆積して作成する方法を採用した。パリレン膜の形成後に、表面平坦化のためにポリイミドを極めて薄くスピンコートしたものを基板53として、上記と同様なプロセスで素子形成を行った。図13に示す光検出器アレイは、素子形成後に外部回路を接続するためのフレキシブル配線を実装し、最後にサポート基板から剥がして完成させた。本発明の構成によれば、柔らかく低温プロセスで製膜できる有機材料を用いて、フレキシブルな基材に光検出器アレイを形成することができる。スイッチング素子である有機整流ダイオードと、光検出素子である有機フォトダイオードが一体的に積層して集積化された高性能なアクティブ素子を、簡便な構造で生産性良く製造できる。
【0056】
以上の実施例において、中間接続電極層である共通アノードは、PEDOT:PSSで形成したが、酸化モリブデン(MoOx)でも同様に動作する。酸化モリブデンは真空蒸着で製膜した。この時、酸化モリブデンの膜厚を20nm以上積層することで、P3HTの塗布製膜を、下層のP3HT:PCBM層に影響を与えることなく行うことができた。一方、仕事関数として適切な金を中間接続電極層に用いることは可能であるが、塗布製膜工程での溶媒のバリア性が得られる程度の厚さで金を製膜すると、金は極めて電気導電性が高いため、中間接続電極層が隣接する光検出素子間で分断されていないと、光検出素子の分離ができない。従って、中間接続電極層としては、有機導電材料か金属酸化物導電材料を用いることが好ましい。また、光応答性有機ダイオードの活性層に、有機と無機のハイブリッド技術である有機無機ペロブスカイト型太陽電池の材料も、有機材料によるキャリア輸送特性は、本発明のエネルギー準位に基づくデバイス構成に適用できる。有機無機ペロブスカイト型活性層を塗布で製膜することで、高い光感度を有する光検出器アレイが実現できる。
【0057】
以上の実施形態と実施例によれば、有機層は各光検出素子(ピクセル)に分離パターニングする必要が無く、クロストークの無い光検出器アレイを実現できる。これにより、製造プロセスが極めて簡略化できるとともに、実用化が困難であった有機材料を用いて、高品位な高精細イメージング素子を実現できる。また、フォトダイオードと整流ダイオードが連続した製膜プロセスで縦に積層されるため、フォトダイオードの受光面積が犠牲になることなく受光素子配列の解像度が低下しない。また、二つのダイオードを接続する配線が不要であり、フレキシブルな光センサーにおいて、曲げによる断線の危険性が大幅に低減され、信頼性のあるイメージング素子を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
フレキシブルな2次元光イメージスキャナーは、平坦でない曲面に装着して視覚機能・光イメージング機能を3次元表面に実現できる。これにより、モノの表面に光に対する知覚が与えられ、ロボットなどの動作する物体表面での近接検知や、目視できない状況下で光によるモニタリングを常時行うことが可能となる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13