(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】排ガス浄化フィルタ
(51)【国際特許分類】
B01D 39/20 20060101AFI20220128BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20220128BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20220128BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
B01D39/20 D
B01D46/00 302
C04B38/00 303Z
F01N3/022 C
(21)【出願番号】P 2019139122
(22)【出願日】2019-07-29
【審査請求日】2021-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】小池 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石原 幹男
(72)【発明者】
【氏名】嘉山 浩章
【審査官】沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-095884(JP,A)
【文献】特開2011-147931(JP,A)
【文献】特開2017-023919(JP,A)
【文献】国際公開第2008/136232(WO,A1)
【文献】特開2015-211944(JP,A)
【文献】特表2010-537929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/022
B01D 39/20
B01D 46/00
C04B 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガソリンエンジンの排気通路に配置される排ガス浄化フィルタ(1)であって、
多数の気孔(110)を有する隔壁(11)と、
上記隔壁により区画された複数のセル(12,121,122)と、
フィルタ両端部において複数の上記セルを交互に目封じする封止部(13)と、を有しており、
上記隔壁は、
隣接する上記セル間を連通させる連通孔(111)を含んでおり、
上記隔壁1mm
2当たりの上記連通孔の数である連通孔数が4000本以上であり、
上記隔壁の平均気孔径をAμm、上記隔壁表面における上記気孔の平均表面開口径をBμmとしたとき、A≧Bを満た
しており、
上記連通孔数は、X線CT装置により取得した上記隔壁の断層写真を三次元化した隔壁構造モデルから算出される上記隔壁1mm
2
当たりの上記連通孔の数である、
排ガス浄化フィルタ(1)。
【請求項2】
上記連通孔のうち最小径が10μm以下である上記連通孔の数をN
min、上記連通孔の全数をN
allとしたとき、100×N
min/N
allの式にて表される、上記最小径が10μm以下である上記連通孔の割合が90%以上である、請求項1に記載の排ガス浄化フィルタ(1)。
【請求項3】
上記隔壁の平均気孔径Aが15μm超21μm未満であり、
上記隔壁表面における上記気孔の平均表面開口径Bが11μm以上20μm以下である、請求項1または2に記載の排ガス浄化フィルタ(1)。
【請求項4】
上記隔壁表面における上記気孔の表面開口率が30%以上40%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の排ガス浄化フィルタ(1)。
【請求項5】
20g/L以上40g/L以下の灰分(23)が堆積した状態において、
排ガス流入側のフィルタ端面(15)から10mmの位置(X
10
)における上記隔壁のガス透過係数をk
10
、上記排ガス流入側のフィルタ端面と排ガス流出側のフィルタ端面(16)との間の中央位置(X
C
)における上記隔壁のガス透過係数をk
c
としたとき、
ガス透過係数比k
c
/k
10
の値が1.5以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の排ガス浄化フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、パティキュレートと呼ばれる粒子状物質(以下、適宜「PM」ということがある。)が含まれる。この排ガス中のPMを捕集して排ガスの浄化を行うため、内燃機関の排気通路には排ガス浄化フィルタが配置される。
【0003】
この種の排ガス浄化フィルタとしては、例えば、特許文献1には、隔壁に占める細孔部の体積割合をε、細孔部の3Dモデルをくびれ部で互いに分離して細孔要素群を生成した場合に、1mm3の隔壁に含まれる細孔要素の個数をNとしたとき、N/ε≧60000(個/mm3)を満たす排ガス浄化フィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガソリンエンジンから排出されるPM量は、ディーゼルエンジンから排出されるPM量に比べて圧倒的に少ない。しかしながら、PMの個数規制が導入されているため、ガソリンエンジンを有する車両(以下、「ガソリン車両」)にも、ガソリンエンジンから排出されるPMを捕集可能なガソリンパティキュレートフィルタ(以下、適宜「GPF」ということがある。)の搭載が必要となっている。
【0006】
GPFでは、排ガスを浄化するための触媒がコートされる場合がある。触媒がコートされるGPFは、排ガス浄化性能の確保や堆積したPMの再生処理等の観点から、ガソリンエンジンの直下またはスタート(S/C)触媒のすぐ下流に設置されると考えられる。この場合、排気レイアウトが限られるためフィルタ容積の縮小が望まれる。しかし、フィルタ容積の縮小は、圧力損失(以下、適宜「圧損」ということがある。)の増加を招く。また、ガソリンエンジンでは排ガスの温度が高く流速も速いため、ディーゼルエンジンに比べて圧損が増加しやすい。また、触媒コートによる隔壁の気孔の閉塞も圧損が増加する原因になる。このように、GPFには、初期の圧損をより低減することが要求される。
【0007】
また、ガソリンエンジンから排出されるPM量は、上述のように非常に少ない。そのため、GPFは、ディーゼルエンジンから排出されるPMを捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」ということがある。)に比べ、PM堆積が隔壁内部堆積から隔壁外部堆積(ウォール堆積)に移行するまでに非常に長い時間を要する。場合によっては、隔壁外部堆積にまで至らない場合もあり得る。また、触媒がコートされると隔壁の気孔が閉塞され、PM捕集率が悪化する。これらから、GPFには、初期のPM捕集率を確保できることが要求される。
【0008】
上記に加え、PM中には、固体状炭素(スート)の他、エンジンオイル由来等の灰分(Ash)が含まれる。灰分は、PMの再生処理後も残る成分である。ガソリン車両では、経年使用によって堆積した残存灰分による圧損上昇を抑制することが重要となる。なお、DPFも経年使用によって残存灰分が堆積して圧損が上昇するものの、排ガス温度が低く、排気レイアウトにも余裕があるため、灰分堆積後の圧損上昇の抑制はこれまで問題とはならなかった。
【0009】
なお、特許文献1の技術は、上記の構成を採用することよってPMの捕集効率を向上させることができるとされているが、くびれ部の径によってはPM捕集率が必ずしも向上するとは言い難い。また、くびれ部が数多く存在することによって圧損悪化を招くおそれもある。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、初期の圧損低減、初期のPM捕集率の確保、および、灰分堆積後の圧損上昇の抑制を図ることができる排ガス浄化フィルタを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、ガソリンエンジンの排気通路に配置される排ガス浄化フィルタ(1)であって、
多数の気孔(110)を有する隔壁(11)と、
上記隔壁により区画された複数のセル(12,121,122)と、
フィルタ両端部において複数の上記セルを交互に目封じする封止部(13)と、を有しており、
上記隔壁は、
隣接する上記セル間を連通させる連通孔(111)を含んでおり、
上記隔壁1mm2当たりの上記連通孔の数である連通孔数が4000本以上であり、
上記隔壁の平均気孔径をAμm、上記隔壁表面における上記気孔の平均表面開口径をBμmとしたとき、A≧Bを満たしており、
上記連通孔数は、X線CT装置により取得した上記隔壁の断層写真を三次元化した隔壁構造モデルから算出される上記隔壁1mm
2
当たりの上記連通孔の数である、
排ガス浄化フィルタ(1)にある。
【発明の効果】
【0012】
上記排ガス浄化フィルタは、上記特定の構成を有しており、特に、隔壁1mm2当たりの連通孔数が特定本以上とされており、かつ、隔壁の平均気孔径Aμm、隔壁表面における気孔の平均表面開口径BμmがA≧Bを満たす。そのため、上記排ガス浄化フィルタによれば、初期の圧損低減、初期のPM捕集率の確保、および、灰分堆積後の圧損上昇の抑制を図ることができる。
【0013】
なお、特許請求の範囲および課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る排ガス浄化フィルタの斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る排ガス浄化フィルタのフィルタ軸方向に沿う断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る排ガス浄化フィルタにおける排ガスの流れを示した図である。
【
図4】
図4は、隔壁中の連通孔の数を測定する際に用いられるgray value図の一例を示した図である。
【
図5】
図5は、隔壁中の連通孔の数を測定する際に取得される、隔壁構造モデルにおける連通孔の一例を示した図である。
【
図6】
図6は、実施形態1に係る排ガス浄化フィルタにおいて、隔壁表面における気孔の表面開口径を測定する際に取得される、走査型電子顕微鏡による隔壁表面の反射電子像の一例を示した図である。
【
図7】
図7は、
図6の反射電子像を二値化処理してなる二値化画像の一例を示した図である。
【
図8】
図8は、PMの微構造を模式的に示した図である。
【
図9】
図9は、排ガスが流入する隔壁表面側を拡大して示した隔壁の断面図である。
【
図10】
図10は、
図9に示した隔壁における表面開口付近にPMが偏析される様子を示した図である。
【
図11】
図11は、
図10に示したPMが再生処理された後に、PM中に含まれていた灰分が残存する様子を示した図である。
【
図12】
図12は、
図11に示した残存灰分がある状態において、再びPMが捕集される様子を示した図である。
【
図13】
図13は、
図12の状態からさらにPMの堆積およびPMの再生処理が繰り返されることにより、隔壁表面における気孔の表面開口を灰分が架橋した様子を示した図である。
【
図14】
図14は、
図13に示した表面開口を架橋する灰分が排ガスの流れによって剥離し、剥離した灰分がガス流出側の封止部へ輸送される様子を示した図である。
【
図15】
図15は、排ガス浄化フィルタのガス透過係数の測定方法を示した図である。
【
図16】
図16(a)は、排ガス浄化フィルタから採取した測定試料の上流側端面に貼り付けられる封止部形成用のテープの一例を示した図であり、
図16(b)は、排ガス浄化フィルタから採取した測定試料の下流側端面に貼り付けられる封止部形成用のテープの一例を示した図である。
【
図17】
図17は、ガス流速(X軸)と圧損(Y軸)との関係図の一例を示した図である。
【
図18】
図18は、実験例にて得られた、ガス透過係数比k
c/k
10と圧損上昇率との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
実施形態1に係る排ガス浄化フィルタについて、
図1~
図17を用いて説明する。
図1~
図3に例示されるように、本実施形態の排ガス浄化フィルタ1は、ガソリンエンジンの排気通路(不図示)に配置されて使用されるものである。つまり、排ガス浄化フィルタ1は、ガソリンエンジンから排出されるPM2(後述の
図8参照)を捕集可能なガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)である。なお、
図1~
図3に示される両端矢印の方向を排ガス浄化フィルタ1のフィルタ軸方向Xとする。
【0016】
排ガス浄化フィルタ1は、隔壁11と、複数のセル12と、封止部13と、を有している。
図1および
図2に例示されるように、隔壁11は、例えば、円筒状等の筒状に形成されたスキン部14の内側に、フィルタ軸方向Xに垂直な断面視において格子状等の形状を呈するように設けられることができる。つまり、隔壁11とセル12とスキン部14とによりハニカム構造部が構成される。排ガス浄化フィルタ1において、隔壁11、スキン部14は、例えば、コーディエライト等から形成されることができる。隔壁11の材質がコーディエライトである場合には、耐熱衝撃性が向上するとともに、低熱容量化を図ることができるため、排ガス浄化フィルタ1の早期暖気を実現しやすくなる。また、封止部13は、例えば、コーディエライト等のセラミックスにより形成されることできるが、その他の材質であってもよい。
【0017】
複数のセル12は、隔壁11により区画されて形成されている。セル12は、隔壁11に囲まれガス流路を形成している。セル12の伸長方向は、通常、フィルタ軸方向Xと一致している。フィルタ軸方向Xに垂直な断面視において、セル形状は、例えば、
図1に例示されるように、四角形状とすることができる。セル形状は、これに限定されることなく、例えば、三角形状、六角形状等の多角形や円形状などであってもよい。また、セル形状は、2種以上の異なる形状の組み合わせより構成されていてもよい。
【0018】
複数のセル12は、
図2に例示されるように、フィルタ両端部において封止部13により交互に目封じされている。具体的には、複数のセル12は、排ガス流入側のフィルタ端面15(上流側端面)に開口し、排ガス流出側のフィルタ端面16(下流側端面)において封止部13により閉塞された第1セル121と、排ガス流出側のフィルタ端面16に開口し、排ガス流入側のフィルタ端面15において封止部13により閉塞された第2セル122と、を有することができる。これにより、
図3に例示されるように、排ガス流入側のフィルタ端面15より第1セル121内に流入した排ガスGは、第1セル121内を流れるとともに多孔質の隔壁11内を流れて第2セル122に至る。第2セル122に至った排ガスGは、第2セル122内を流れ、排ガス流出側のフィルタ端面16より排出される。
【0019】
第1セル121と第2セル122とは、フィルタ軸方向Xに直交する横方向においても、フィルタ軸方向Xおよび横方向の双方に直交する縦方向においても、例えば、互いに隣り合うように交互に並んで形成されることができる。この場合、フィルタ軸方向Xから排ガス流入側のフィルタ端面15または排ガス流出側のフィルタ端面16を見たとき、第1セル121と第2セル122とが、例えば、チェック模様状に配置される。互いに隣接する第1セル121および第2セル122は、隔壁11を間に挟んで隔てられている。
【0020】
隔壁11は、
図9に例示されるように、多数の気孔110を有している。隔壁11は、隣接するセル12間を連通させる連通孔111を含んでいる。連通孔111は、具体的には、互いに隣接する第1セル121、第2セル122間を連通させる。隔壁11は、連通孔111以外にも、隣接するセル12間を連通させない、具体的には、互いに隣接する第1セル121、第2セル122間を連通させない非連通孔112を含んでいてもよい。なお、
図9等においては、連通孔111を二次元に簡略化して示してあるが、連通孔111は三次元に交差するものが大半を占めると考えられる。
【0021】
排ガス浄化フィルタ1において、隔壁1mm2当たりの連通孔111の数である連通孔数は、4000本以上とされている。隔壁1mm2当たりの連通孔数は、X線CT装置により取得した隔壁11の断層写真を三次元化した隔壁構造モデルから算出される。具体的には、隔壁1mm2当たりの連通孔数は、次のようにして測定される。
【0022】
排ガス浄化フィルタ1から隔壁片を切り出す。但し、封止部13が存在する部分は除く。隔壁片は、フィルタ軸方向Xの長さが約700μm、フィルタ軸方向Xと直交する隔壁表面方向の幅が約700μm、厚さが隔壁厚さである直方体状とされる。次いで、隔壁片を真空脱気しながら樹脂包埋し、X線CT撮像サンプルとする。このサンプルについて、X線CT装置を用い、電圧:80kV、ステップ:0.1°、分解能:0.684787μm/pixelの撮像条件にて連続断層画像を取得する。得られたTIFF形式の連続断層画像は、Math2Market GmbH社によって開発されたミクロ構造シミュレーションソフトであるGeoDictのインターフェースの一つである、importGeo-Vol機能を用いて、0.6874787μm/voxelの条件にて読み込む。次いで、読み込んだ画像の骨格部と空間部とを分離するため、
図4に示されるようなgray value図における二つの山に分離した際の交差部を閾値として、隔壁片を三次元モデル化する。次いで、三次元モデルのノイズを除去し、600voxel×600voxel×隔壁厚さvoxelとなるように不要部分を除去する。次いで、この三次元化された隔壁構造モデルM中における連通孔111の数を、GeoDictのモジュールの一つである、Porodict機能のうち、Percolation Pathを用いて導出する。
図5に、隔壁構造モデルにおける連通孔の一例を示す。なお、
図5に示される隔壁構造モデルMにおける上面M1が排ガス流入側の隔壁表面であり、裏面M2が排ガス流出側の隔壁表面である。上記導出後、導出された連通孔数を、排ガス流入側の隔壁表面(上面M1)の面積1mm
2当たりの連通孔数となるように換算する。上記の測定を6か所から切り出した各隔壁片について実施し、得られた各連通孔数の換算値の平均値が、隔壁1mm
2当たりの連通孔数とされる。なお、隔壁片は、具体的には、排ガス浄化フィルタ1における直径の中心部を通るフィルタ軸方向Xの、中央部分、フィルタ端面15側の封止部13寄りの上流側部分、フィルタ端面16側の封止部13寄りの下流側部分、排ガス浄化フィルタ1の外周部におけるフィルタ軸方向Xの、中央部分、フィルタ端面15側の封止部13寄りの上流側部分、フィルタ端面16側の封止部13寄りの下流側部分の6か所から採取する。
【0023】
排ガス浄化フィルタ1において、隔壁11の平均気孔径(つまり、隔壁11内部の平均気孔径)をAμmとする。隔壁11の平均気孔径Aは、次のようにして測定される。
【0024】
隔壁11の平均気孔径Aは、水銀圧入法の原理を用いた水銀ポロシメータにより測定される。具体的には、排ガス浄化フィルタ1から試験片を切り出す。但し、封止部13が存在する部分は除く。試験片は、フィルタ軸方向Xと直交方向の寸法が縦15mm×横15mmであり、フィルタ軸方向Xの長さが20mmである直方体とされる。次いで、水銀ポロシメータの測定セル内に試験片を収納し、測定セル内を減圧する。その後、測定セル内に水銀を導入して加圧し、加圧時の圧力と試験片における隔壁11の気孔110内に導入された水銀の体積より、気孔径と気孔容積とを測定する。測定は、圧力0.5~20000psiaの範囲で行う。なお、0.5psiaは、0.35×10-3kg/mm2に相当し、20000psiaは14kg/mm2に相当する。この圧力範囲に相当する気孔径の範囲は0.01~420μmである。圧力から気孔径を算出する際の常数としては、接触角140°および表面張力480dyn/cmを使用する。平均気孔径Aは、隔壁11の気孔径分布において、気孔径が小さい側からの累積気孔容積が50%となる気孔径(気孔容積の積算値50%における気孔径)d50のことである。
【0025】
排ガス浄化フィルタ1において、隔壁11表面における気孔110の平均表面開口径をBμmとする。隔壁11表面における気孔110の平均表面開口径Bは、次のようにして測定される。
【0026】
排ガスGが流入する側の隔壁11表面および排ガスGが流出する側の隔壁11表面には気孔110による表面開口113が形成されている。ここでは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、排ガスGが流入する側の隔壁11表面(つまり、上述した第1セル121に面する隔壁11表面)の反射電子像を取得する。但し、封止部13が存在する部分の隔壁11表面は除く。この際、加速電圧は10kV、倍率は300倍とすることができる。
図6に、隔壁11表面の反射電子像の一例を示す。
図6の反射電子像では、黒色領域が隔壁11表面の表面開口113であり、薄い灰色領域が隔壁11表面の骨格部114である。次いで、画像解析ソフト(WinROOF、三谷商事社製)を用い、撮影画像について二値化処理を行う。二値化処理は、隔壁11表面の表面開口113と隔壁11表面の骨格部114とを区別することを目的とする。表面開口113と骨格部114とは、相互に輝度が異なるため、二値化処理では、撮影画像に残るノイズの除去を施し、任意の閾値を設定した後に二値化処理を行う。撮影画像によって閾値は異なるため、撮影画像を目視にて確認しながら、表面開口113と骨格部114とを分離できる閾値を撮影画像ごとに設定する。
図7に、二値化画像の一例を示す。
図7の二値化画像では、薄い灰色領域が隔壁11表面の表面開口113であり、黒色領域が隔壁11表面の骨格部114である。得られた二値化画像における表面開口113について、表面開口113の面積と同じ面積を有する真円の直径である円相当径をそれぞれの表面開口113毎に算出し、算出された全ての円相当径を積算して、表面開口113の数で除した値を表面開口径とする。上記のようにして隔壁11表面の異なる任意の5か所について求めた各二値化画像から得られる各表面開口径の平均値が、隔壁11表面における気孔110の平均表面開口径Bとされる。
【0027】
排ガス浄化フィルタ1は、上述した平均気孔径Aμmと平均表面開口径BμmとがA≧Bを満たしている。
【0028】
排ガス浄化フィルタ1は、上記のようにして規定される隔壁1mm
2当たりの連通孔数が4000本以上であり、隔壁11の平均気孔径Aの値が隔壁11表面における気孔110の平均表面開口径Bの値以上(A≧B)である。これにより、排ガス浄化フィルタ1は、初期の圧損低減、初期のPM捕集率の確保、および、灰分堆積後の圧損上昇の抑制を図ることができる。以下、このような効果が得られるメカニズムを、
図8~
図14を用いて説明する。
【0029】
図8に示されるように、PM2は、主成分である固体状炭素(スート)21の他、可溶有機成分(SOF)22やエンジンオイル由来等の灰分(Ash)23を含んでいる。
図9に示されるように、PM2は、隔壁11内の気孔110を通過する際に捕集される。なお、
図9中の矢印は、気孔110内を流れる排ガスGの流れを示したものである。隔壁1mm
2当たりの連通孔数が上述した特定値以上であり、隔壁11の平均気孔径をAμm、隔壁11表面の平均表面開口径をBμmとしたとき、A≧Bを満たしている隔壁11に灰分23を含むPM2が捕集された場合、
図10に示されるように、PM2は、排ガスGが流入する側の隔壁11表面に形成された表面開口113付近に偏析する。さらに、
図11に示されるように、PM2が再生処理された後では、PM2中に含まれていた灰分23が残存する。
図12に示されるように、残存灰分23がある状態において、再び隔壁11に灰分23を含むPM2が捕集された場合、PM2は、隔壁11表面の表面開口113付近に偏析しつつ、残存灰分23付近にも堆積する。
図13に示されるように、灰分23を含むPM2の堆積およびPM2の再生処理が繰り返されることにより、隔壁11表面の表面開口113が灰分23によって架橋される。その後、
図14に例示されるように、表面開口113を架橋していた灰分23が、PM2の再生時や排ガスGの流れによって剥離し、剥離した灰分23は、ガス流出側の封止部13へ輸送される。輸送された灰分23は、フィルタ最下流部10(
図3参照、フィルタボトム部ともいうことができる)に堆積される。隔壁11外部の表面を覆う灰分23は、圧損を上昇させるが、フィルタ最下流部10に堆積した灰分23は、圧損を上昇させ難い。つまり、隔壁1mm
2当たりの連通孔数が上述した特定値以上であり、隔壁11の平均気孔径をAμm、隔壁11表面の平均表面開口径をBμmとしたとき、A≧Bを満たしている隔壁11を採用することにより、隔壁11の表面開口113にて灰分23の架橋が生じ、上述した灰分23の剥離が生じやすくなる。その結果、隔壁11外部の表面を覆う灰分23よりもフィルタ最下流部10に堆積する灰分23を多くすることが可能になる。フィルタ最下流部10に堆積する灰分23が多くなれば、灰分23堆積後における隔壁11のガス透過性も高くなり、低圧損となる。以上のメカニズムにより、排ガス浄化フィルタ1の初期の圧損低減および初期のPM捕集率の確保の両立はもとより、灰分23堆積後の圧損上昇の抑制を図ることが可能になると考えられる。
【0030】
排ガス浄化フィルタ1において、隔壁1mm2当たりの連通孔数が4000本未満になると、初期の圧損低減効果が低下する。また、初期のPM捕集性能も低下する。隔壁1mm2当たりの連通孔数は、初期の圧損低減、初期のPM捕集性能の向上などの観点から、好ましくは、4100本以上、より好ましくは、4300本以上、さらに好ましくは、4500本以上とすることができる。隔壁1mm2当たりの連通孔数は、初期の圧損低減、強度低下抑制などの観点から、好ましくは、5500本以下、より好ましくは、5300本以下、さらに好ましくは、5100本以下とすることができる。
【0031】
排ガス浄化フィルタ1において、連通孔111のうち最小径が10μm以下である連通孔111の数をNmin、連通孔111の全数をNallとしたとき、100×Nmin/Nallの式にて表される、最小径が10μm以下である連通孔11の割合は、90%以上であるとよい。この構成によれば、初期のPM捕集性能を向上させることができる。
【0032】
各連通孔111の最小径は、上述したGeoDictのモジュールの一つである、Porodict機能のうち、Percolation Pathを用いて、隔壁構造モデルM中における連通孔111の数の導出と同時に求めることができる。具体的には、隔壁構造モデルMにおける隔壁厚さ方向をZ軸とし、1voxel毎において連通孔111の孔壁面に内接する内接円のうち最大である最大内接円の中心位置を連続計算することにより、経路を探索し、経路の探索途中で最大内接円が狭路のため内接できなくなった場合は、初めから1つ小さい内接円(=最大内接円より1voxel×2相当分小さい内接円)で再度計算を実行していくことにより、各連通孔111の最小径を求めることができる。なお、GeoDictにおけるPercolation Pathによる計算方法の詳細は、GeoDictのマニュアルの記載を適宜参照することができる。
【0033】
全連通孔における最小径が10μm以下である連通孔11の割合は、初期のPM捕集性能の向上などの観点から、好ましくは、92%以上、より好ましくは、93%以上、さらに好ましくは、95%以上とすることができる。
【0034】
排ガス浄化フィルタ1において、平均気孔径Aが平均表面開口径Bより小さくなると(A<B)、灰分23を含むPM2が隔壁11の気孔110内へと侵入しやすくなり、灰分23が気孔110内に堆積しやすくなる。そのため、表面開口113に架橋した灰分23の剥離が生じ難くなり、車両の経年使用における堆積残存灰分23による圧損上昇を招く。排ガス浄化フィルタ1は、車両の経年使用における堆積残存灰分23による圧損上昇の抑制を確実なものとするなどの観点から、平均気孔径Aμmと平均表面開口径Bμmとが、好ましくは、A>Bを満たしているとよい。
【0035】
排ガス浄化フィルタ1において、隔壁11の平均気孔径Aは、15μm超21μm未満とすることができる。隔壁11の平均気孔径Aを15μm超とすることにより、初期の圧損低減効果を得やすくなる。隔壁11の平均気孔径Aを21μm未満とすることにより、初期のPM捕集性能を確保しやすくなる。
【0036】
排ガス浄化フィルタ1において、隔壁11表面における気孔110の平均表面開口径Bは、11μm以上20μm以下とすることができる。隔壁11表面における気孔110の平均表面開口径Bを11μm以上とすることにより、初期の圧損低減効果を得やすくなる。隔壁11表面における気孔110の平均表面開口径Bを20μm以下とすることにより、灰分23を含むPM2が隔壁11内部に堆積し難く、灰分23の剥離が生じやすくなり、車両の経年使用における堆積残存灰分23による圧損上昇を抑制しやすくなる。
【0037】
排ガス浄化フィルタ1において、排ガスGが流入する側の隔壁11表面における気孔110の表面開口率は、30%以上40%以下とすることができる。隔壁11表面における気孔110の表面開口率を30%以上とすることにより、初期の圧損低減効果を得やすくなる。また、隔壁11表面における気孔110の表面開口率を40%以下とすることにより、灰分23を含むPM2が隔壁11内部に堆積し難く、灰分23の剥離が生じやすくなり、車両の経年使用における堆積残存灰分23による圧損上昇を抑制しやすくなる。
【0038】
隔壁11表面における気孔110の表面開口率は、100×(上述した全ての二値化画像における各表面開口113の面積の合計値)/(全ての二値化画像の面積の合計値)の式より算出することができる。全ての二値化画像とは、隔壁11表面における気孔110の平均表面開口径Bの測定方法の説明にて上述した5か所の二値化画像という意味である。
【0039】
排ガス浄化フィルタ1において、隔壁11の気孔率は、60%以上70%以下とすることができる。隔壁11の気孔率を60%以上とすることにより、初期の圧損低減とPM捕集性能の向上とを図りやすくなる。また、隔壁11の気孔率を70%以下とすることにより、排ガス浄化フィルタ1自体の強度を確保しやすくなり、ケーシング時の応力やPM2の再生処理時の発熱によるクラックを抑制しやすくなる。隔壁11の気孔率は、初期の圧損低減等の観点から、好ましくは、62%以上、より好ましくは、63%以上とすることができる。また、隔壁11の気孔率は、排ガス浄化フィルタ1の強度向上等の観点から、好ましくは、68%以下、より好ましくは、67%以下、さらに好ましくは、66%以下とすることができる。なお、これら上下限は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
【0040】
隔壁11の気孔率は、隔壁11の平均気孔径Aの測定方法と同様にして、水銀圧入法の原理を用いた水銀ポロシメータにより測定される。具体的には、隔壁11の気孔率は、次の関係式より算出することができる。
隔壁11の気孔率(%)=総気孔容積/(総気孔容積+1/隔壁材料の真比重)×100
なお、隔壁材料がコーディエライトの場合、コーディエライトの真比重としては2.52を用いることができる。
【0041】
排ガス浄化フィルタ1は、20g/L以上40g/L以下の灰分23が堆積した状態において、排ガス流入側のフィルタ端面15から10mmの位置X
10(
図2参照)における隔壁11のガス透過係数をk
10、排ガス流入側のフィルタ端面15と排ガス流出側のフィルタ端面16との間の中央位置X
C(
図2参照)における隔壁のガス透過係数をk
cとしたとき、ガス透過係数比k
c/k
10の値が1.5以下である構成とすることができる。この構成によれば、灰分堆積後の圧損上昇の抑制を確実なものとすることができる。
【0042】
上記において、灰分23の堆積量が20g/Lより少なくなると、排ガス流入側のフィルタ端面15から10mmの位置X10、および、排ガス流入側のフィルタ端面15と排ガス流出側のフィルタ端面16との間の中央位置XCともに、隔壁11外部に灰分23が堆積されず、もしくは、微量であるため、灰分23の剥離による効果が分かり難い。そのため、上記において、灰分23の堆積量は20g/L以上とされる。一方、灰分23の堆積量が40g/Lより多くなると、剥離してフィルタ最下流部10に堆積した灰分23が多くなり、排ガス流入側のフィルタ端面15と排ガス流出側のフィルタ端面16との間の中央位置XCにまでその影響が及ぶことが考えられ、灰分23の剥離による効果が分かり難い。そのため、上記において、灰分23の堆積量は40g/L以下とされる。
【0043】
kc/k10は、ガス透過係数kcとガス透過係数k10との大小関係を示す指標である。隔壁11のガス透過係数は、灰分23が堆積するほど値が小さくなる。また、排ガス浄化フィルタ1のセル12内に導入された排ガスGの流速は、排ガス流入側のフィルタ端面15から10mmの位置X10の方が、排ガス流入側のフィルタ端面15と排ガス流出側のフィルタ端面16との間の中央位置XCよりも速い。すなわち、排ガス流入側のフィルタ端面15から10mmの位置X10の方が、排ガス流入側のフィルタ端面15と排ガス流出側のフィルタ端面16との間の中央位置XCよりも灰分23の堆積量が多い関係となる。これをガス透過係数に置き換えて考えると、灰分23堆積後のガス透過係数k10とガス透過係数kcの関係は、ガス透過係数k10よりもガス透過係数kcの方が大きくなる。つまり、本開示の構成を備えていない従来の排ガス浄化フィルタでは、kc/k10の値が大きくなるのが通常である。実験例にて後述するが、具体的には、kc/k10の値が1.5を超えると、初期圧損に対する灰分23堆積後の圧損上昇率が高くなり好ましくない。これは、排ガス流入側のフィルタ端面15から10mmの位置X10における隔壁11表面の灰分23が剥離されず、気孔110内に堆積するためであると考えられる。よって、圧損上昇率を抑制するためには、kc/k10の値が1.5以下であることが好ましい。これは、排ガス流入側のフィルタ端面15から10mmの位置X10周辺における隔壁11表面の灰分23の剥離が促進されるためであると考えられる。もっとも、全ての灰分23が、剥離してフィルタ最下流部10の封止部13付近に輸送され、堆積するわけではない。一部の灰分23は、隔壁11内や隔壁11表面付近に残存する。上記結果としてkc/k10の値が1.5以下の範囲では、初期圧損に対する灰分23堆積後の圧損上昇率を低く抑えることが可能になる。
【0044】
なお、各ガス透過係数k10、kcは、次のようにして測定される。先ず、排ガス浄化フィルタ1に20g/L以上40g/L以下の灰分23を堆積させる。灰分23の堆積は、エンジンオイル由来の灰分を2%含むガソリンを用いてガソリンエンジンを動かし、排気通路に搭載された排ガス浄化フィルタ1へ灰分を堆積させることにより実施することができる。具体的には、(1)ストイキ雰囲気下、排ガス浄化フィルタ1の中心温度800℃にて9分間の条件にてPM2を堆積させ、(2)大気雰囲気下、排ガス浄化フィルタ1の中心温度800℃~900℃にて1分間の条件にてPM2を再生処理する。上記(1)によるPM2の堆積と、上記(2)によるPM2の再生処理とを繰り返すことにより、排ガス浄化フィルタ1に灰分23を堆積させる。灰分23の堆積量は、適宜、排ガス浄化フィルタ1を取り出して重量測定することにより把握することができる。
【0045】
次いで、上記所定量の灰分23を堆積させた排ガス浄化フィルタ1について、排ガス流入側のフィルタ端面15から10mmの位置X10、および、排ガス流入側のフィルタ端面15と排ガス流出側のフィルタ端面16との間の中央位置XCから、封止部13を含まない測定試料をそれぞれくり抜き採取する。この際、位置X10における測定試料は、排ガス流入側のフィルタ端面15から10mmの位置が上流側端面となるように採取する。一方、中央位置XCにおける測定試料は、中央位置XCが上流側端面となるように採取する。各測定試料の形状は、直径30mm、フィルタ軸方向の長さ25mmの円柱形状とされる。なお、くり抜かれた各測定試料のスキン部14は、例えば、セメンティングにより形成することが可能である。
【0046】
次いで、
図15に例示されるように、測定試料3のフィルタ軸方向Xにおける両端面315、316にそれぞれポリエステルテープ315a、316aを貼り付ける。次いで、ポリエステルテープ315a、316aによって交互の封止部13が形成されるように、例えば、半田ごてなどによってポリエステルテープ315a、316aを部分的に消失させる。このようにして、測定試料3における排ガス流入側のフィルタ端面である上流側端面315では、
図16(a)に例示されるように、例えば13個のセル12を開口させるとともに残りのセル12をポリエステルテープ315aよりなる封止部13によって閉塞させる。一方、測定試料3における排ガス流出側のフィルタ端面である下流側端面316では、
図16(b)に例示されるように、例えば24個のセル12を開口させるとともに残りのセル12をポリエステルテープ316aよりなる封止部13によって閉塞させる。つまり、セラミックスからなる封止部13の代わりに、ポリエステルテープ315a、316aからなる封止部13を形成する。なお、ここでは、ガス透過係数の測定にあたり、ポリエステルテープ315a、316aによって封止部13を形成した測定試料3について説明したが、セラミックス製の封止部13を形成した測定試料3を用いても同様の結果が得られる。
【0047】
次いで、
図15に例示されるように、測定試料3の上流側端面315から測定試料3の下流側端面316に向けてガスを流し、パームポロメータ4により、ガス流速と圧損との関係を測定する。具体的には、ガス流速を変更した際の圧損を測定する。なお、
図15における矢印はガスの流れを示す。そしてガス流速(X軸)と圧損(Y軸)との関係図を求める。
図17に、ガス流速(X軸)と圧損(Y軸)との関係図の一例を示す。この関係図にはパームポロメータ4による実測値(プロット点)と、以下の式(i)~(viii)により求めた計算値(破線)が示される。以下、式(i)~(viii)について説明する。
【0048】
排ガス浄化フィルタ1の圧損ΔP(単位:Pa)と、セル12にガスが流入する際の縮合圧損ΔPinletとセル12からガスが流出する際の拡大圧損ΔPexitとの和ΔPinlet/exit(単位:Pa)と、セル12内のガス通過における圧損ΔPchannel(単位:Pa)と、隔壁11のガス通過における圧損ΔPwall(単位:Pa)とは、下記の式(i)の関係を満たす。
ΔP=ΔPinlet/exit+ΔPchannel+ΔPwall ・・・(i)
【0049】
また、ΔPinlet/exitと、セル12の開口面積Aopen(単位:m2)、排ガス流入側のフィルタ端面15におけるセル12の開口面積Ain(単位:m2)、セル12内のガス流速Vchannel(単位:m/s)、空気密度ρ(単位:kg/m3)とは、下記の式(ii)の関係を満たす。
【0050】
【0051】
また、ΔPchannel+ΔPwallと、ガス透過係数k(単位:m2)と、排ガス浄化フィルタ1のフィルタ軸方向Xの長さL(単位:m)と、セル12の水力直径a1(単位:m)と、隔壁11の厚みw(単位:m)と、セル12内の摩擦係数F(単位:無次元)と、レイノルズ数(単位:無次元)と、ガス粘度μ(単位:Pa・s)と、セル12内のガス流速Vchannel(単位:m/s)とは、下記の式(iii)~式(viii)の関係を満たす。なお、式(iii)において、eは指数関数expのことである。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
上記式(i)~(viii)に基づいて、圧損値を算出する。
図17に例示したガス流速(X軸)と圧損(Y軸)との関係図に示す計算値による破線は、計算によって求めた圧損値である。式(i)~(viii)より理解されるように、圧損値は、ガス透過係数kを除き、フィルタ長さL、セルの開口面積A
open、水力直径a
1、隔壁11の厚みwを測定することにより算出され、ガス流速を変更してもこれらの値は変わらない。したがって、ガス透過係数に任意の値を入力することにより、ガス流速(X軸)と圧損(Y軸)との関係図における計算値を導出することができる。
【0059】
例えば、ガス透過係数の大きい値を入力すれば、実測値よりも圧損値が低くなり、計算値が実測値を下回る。一方、ガス透過係数の小さい値を入力すれば、計算値が実測値を上回る。そこで、計算値が実測値に最も近くなるように近似させるために、最小二乗法にて計算値と実測値の差が最小となるガス透過係数kを算出する。この算出値がガス透過係数kとなる。つまり、ガス透過係数kは、パームポロメータにて測定した圧損の実測値から、式(i)~(viii)よりガス透過係数を逆算した値である。以上のようにして、所定量の灰分が堆積した状態における所定位置でのガス透過係数k10、kcを求めることができる。なお、パームポロメータには、例えば、Porous Materials社製のCEP-1100AXSHJなどを用いることができる。
【0060】
上述した排ガス浄化フィルタ1は、隔壁11に触媒が担持された状態にて使用されることによって十分な効果を発揮することができるが、隔壁11に触媒が担持されない状態にて使用されることもできる。なお、隔壁11に触媒を担持させる場合、触媒量は、例えば、30g/L以上150g/L以下とすることができる。一般的に、触媒が担持されると隔壁11内の気孔110の一部が触媒によって閉塞される。また、触媒の担持方法は様々な手法があり、例えば、隔壁11内に均質に担持する場合や、隔壁11表層に多く担持する方法などがあるが、これらの担持方法によって、PM捕集率が向上することもあれば、悪化することもある。本開示では、隔壁11表面における表面開口径が重要であり、これを考慮すると、触媒を隔壁11内に均質に担持する方法が好ましい。触媒を隔壁11内に均質に担持する方法であれば、隔壁11の平均気孔径に対する隔壁11表面における気孔110の平均表面開口径の比は、触媒担持をしない場合に対して変化しない。これにより、PM捕集率は低下、初期圧損は上昇する傾向となるが、灰分23堆積圧損の作用効果は変わらない。
【0061】
<実験例>
実施例および比較例の各排ガス浄化フィルタについて説明する。本実験例では、各排ガス浄化フィルタは、SiO2:45質量%以上55質量%以下、Al2O3:33質量%以上42質量%以下、MgO:12質量%以上18質量%以下を含む化学組成を有するコーディエライトを主成分とする。なお、コーディエライトを主成分とするとは、50質量%以上がコーディエライトであることを意味する。したがって、本実験例における各排ガス浄化フィルタの作製にあたっては、焼成によってコーディエライトが生成するようにSi源、Al源およびMg源を含むコーディエライト形成原料が用いられる。
【0062】
-排ガス浄化フィルタの作製-
(実施例1)
実施例1の排ガス浄化フィルタの作製にあたり、表1に示す配合割合(質量%)となるように、多孔質シリカ(Si源)、タルク(Mg源)、水酸化アルミニウム(Al源)を配合することにより、コーディエライト形成原料を調製した。
【0063】
なお、使用した多孔質シリカの嵩密度は、0.22g/cm3である。嵩密度の測定には、タップ密度法流動性付着力測定器であるセイシン企業製のタップデンサを用いた。具体的には、測定器のシリンダにシリカを充填後、シリカをタッピングにより圧縮させ、圧縮状態のシリカの質量とシリンダの体積とから嵩密度を算出した。また、水酸化アルミニウムには、平均粒子径が3μmのものと8μmのものとを併用した。「平均粒子径」は、レーザ回折・散乱法によって求められた粒度分布における体積積算値が50%のときの粒径をいう。
【0064】
コーディエライト形成原料に、表1に示す配合割合(質量%)となるように、水(溶媒)、メチルセルロース(バインダ)、分散剤を加え、混練機により混合することにより、コーディエライト形成原料を含む坏土を作製した。上記分散剤は、主に粒子同士の凝集を抑制し、解こう性を向上させるものであり、具体的には、平均分子量が4550であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセリルエーテルを使用した。
【0065】
【0066】
ここで、実施例1のように多孔質シリカを用いる原料系においては、粒子間の隙間が多く存在するため、坏土化する際に多くの溶媒(ここでは水)が必要になる。このように溶媒量が多い中で上記の解こう性を上げるためには、坏土混練時の練りを強くすることが有効である。しかし、その練りによって粒子の凝集を抑制し、坏土内にて粒子が分散したか否かを直接確認することは難しい。
【0067】
そこで、本実験例では、混練された坏土内における新たな粒子分散性の指標として坏土密度乖離率を導入した。具体的には、金型にて押出成形する前の坏土を取り出し、ランダムに8か所の坏土を抜き取る。抜き取った坏土を、島津製作所社製の加圧測定器「オートグラフ」における直径25mm、長さ20mmの測定器内に投入し、1kNの加圧にて圧縮して取り出した坏土の容積および重量から坏土密度を算出する。8か所の坏土について算出された坏土密度の平均値を、実測による坏土密度とする。これに対し、予め原料の配合割合から計算される坏土密度を、計算による坏土密度とする。この計算による坏土密度に対して、実測による坏土密度の差(乖離率)を確認することにより、粒子分散性を判断することが可能になる。実測による坏土密度が計算による坏土密度よりも小さくなるほど、分散剤の濡れ性が悪いことによって粒子表面に空気が多く存在するため、粒子分散性が悪くなる。一方、実測による坏土密度が計算による坏土密度の値に近づくほど、粒子分散性が良くなる。
【0068】
実施例1では、混練機の速度や混練機に坏土を繰り返し通す回数を任意に変化させ、以下の坏土密度乖離率が10%未満となるように調整した坏土を用いた。なお、混練機の速度を高めると、坏土密度乖離率が小さくなる方向へ動く傾向がある。また、混練機に坏土を繰り返し通す回数が多くなると、坏土密度乖離率が小さくなる方向へ動く傾向がある。
坏土密度乖離率(%)=100×{(計算による坏土密度)-(実測による坏土密度)}/(計算による坏土密度)
【0069】
上記のように調整した坏土を、押出成形にてハニカム状に成形した。成形体は、乾燥後に所定の長さに切断した。
【0070】
次いで、成形体を1430℃にて焼成し、ハニカム構造の焼結体を得た。
【0071】
次いで、ディッピング法を用い、ハニカム構造の焼結体と同種のセラミック原料を含むスラリーにてセルの排ガス流入端面と排ガス流出端面とを交互に埋めて焼成することにより、封止部を形成した。
【0072】
以上により、実施例1の排ガス浄化フィルタを作製した。
【0073】
(実施例2~実施例7)
実施例1において、コーディエライト形成原料における多孔質シリカの平均粒子径、嵩密度を変更した。多孔質シリカの平均粒子径が大きくなるほど、形成される隔壁の気孔径が大きくなり、多孔質シリカの嵩密度が小さくなるほど、形成される隔壁の気孔率が高くなる。また、粒子径の大小異なる水酸化アルミニウムの配合において粒子径大の割合を増やすと表面開口率と平均表面開口径が大きくなる。さらに焼成時における1200℃から1430℃間の昇温速度を速くすると、気孔径と平均表面開口径を大きくすることができる。これらの条件を組み合わせて作製した。なお、水酸化アルミニウムの総配合割合は実施例1と同じとし、粒子径の大小異なる水酸化アルミニウムの配合を変更し、その他の坏土の配合割合は、実施例1と同じとした。そして、実施例1と同様にして、混練機の速度や混練機に坏土を繰り返し通す回数を任意に変化させ、坏土密度乖離率が10%未満となるように調整した坏土を用い、焼成時における1200℃から1430℃間の昇温速度を変化させることにより、実施例2~実施例7の排ガス浄化フィルタを作製した。
【0074】
(比較例1)
比較例1の排ガス浄化フィルタの作製にあたり、表2に示す配合割合(質量%)となるように、溶融シリカ(Si源)、タルク(Mg源)、水酸化アルミニウム(Al源)を配合することにより、コーディエライト形成原料を調製した。なお、使用した溶融シリカの嵩密度は、1.35g/cm3である。
【0075】
コーディエライト形成原料に、表2に示す配合割合となるように、水(溶媒)、メチルセルロース(バインダ)、潤滑油、グラファイトを加え、混練機により混合することにより、コーディエライト形成原料を含む坏土を作製した。潤滑油は、坏土と成形機および金型表面の金属部におけるすべりを向上させて成形速度を速くすることを目的とするものである。潤滑油には、植物油である菜種油を使用した。また、坏土密度乖離率は、10%未満になるように調整した。上記のように調整した坏土を用い、以降は実施例1と同様にして比較例1の排ガス浄化フィルタを作製した。
【0076】
【0077】
(比較例2)
実施例1において、混練機の速度や混練機に坏土を繰り返し通す回数を任意に変化させ、坏土密度乖離率が10%以上となるように調整した坏土を用いることにより、比較例2の排ガス浄化フィルタを作製した。
【0078】
(比較例3、比較例4)
比較例1において、コーディエライト形成原料における溶融シリカおよびタルクの平均粒子径、グラファイトの配合割合を変更した。その他は、比較例1と同様にして、坏土密度乖離率が10%以上となるように坏土を調整し、比較例3、比較例4の排ガス浄化フィルタを作製した。
【0079】
-隔壁特性の測定-
実施例、比較例の排ガス浄化フィルタについて、隔壁特性を測定した。具体的には、上述した測定方法に従って、隔壁の気孔率、隔壁の平均気孔径Aを測定した。この際、水銀ポロシメータには、島津製作所社製のオートポアIV9500を用いた。また、上述した測定方法に従って、隔壁表面における気孔の平均表面開口径B、隔壁表面における気孔の表面開口率を測定した。この際、SEMには、FEI社製のQuanta250FEGを用いた。画像解析ソフトには、三谷商事社製のWinROOF Ver.7.4を用いた。また、上述した測定方法に従って、隔壁1mm2当たりの連通孔数、全連通孔における最小径が10μm以下である連通孔の割合を求めた。この際、X線CT装置には、Xradia社製の「Versa XRM-500」を用いた。また、ミクロ構造シミュレーションソフトには、SCSK社より販売される GeoDict 2017を用いた。また、上述した測定方法に従って、排ガス浄化フィルタにおけるガス透過係数比kc/k10の値を求めた。この際、パームポロメータには、Porous Materials社製のCEP-1100AXSHJを用いた。
【0080】
-評価-
各排ガス浄化フィルタについて、初期PM捕集率、初期圧損、灰分堆積後の圧損を測定した。なお、初期PM捕集率、初期圧損および灰分堆積後の圧損は、体格がφ118.4mm(フィルタ直径)×L120mm(フィルタ長)であり、隔壁の厚さが8.5mil、セル数が300cpsiであるセル構造を有する排ガス浄化フィルタを用いた。
【0081】
(初期PM捕集率、初期圧損)
初期PM捕集率は、次のようにして測定した。作製した排ガス浄化フィルタをガソリン直噴エンジンの排気管内に取り付け、排ガス浄化フィルタにPMを含む排ガスを流した。このとき、排ガス浄化フィルタに流入する前の排ガス中のPM数であるNin、排ガス浄化フィルタから流出する排ガス中のPM数であるNoutを測定し、100×(Nin-Nout)/Ninの式より、初期PM捕集率を算出した。この際、測定条件は、温度450℃、排ガス流量2.8m3/分とした。上記PM数の測定には、AVL社製のPM粒子数カウンタ「AVL-489」を用いた。一方、初期圧損は、次のようにして測定した。初期PM捕集率の測定と同時に、圧力センサにより排ガス浄化フィルタ前(上流)の圧力と排ガス浄化フィルタ後(下流)の圧力とを測定し、その差分を初期圧損とした。この際、測定条件は、温度720℃、排ガス流量11.0m3/分とした。なお、いずれの測定にも、PMが堆積していない初期状態、かつ、触媒がコートされていない各排ガス浄化フィルタを用いた。
【0082】
本実験例では、初期PM捕集率が70%以上であった場合を、初期のPM捕集率が十分に確保されているとして「A」とした。初期PM捕集率が60%以上70%未満であった場合を、初期のPM捕集率が確保されているとして「B」とした。初期PM捕集率が60%未満であった場合を、初期のPM捕集率が確保されていないとして「C」とした。また、初期圧損が6kPa以下であった場合を、初期の圧損低減の効果が十分に得られているとして「A」とした。初期圧損が6kPa超7kPa以下であった場合を、初期の圧損低減の効果が得られているとして「B」とした。初期圧損が7kPa超であった場合を、初期の圧損低減の効果が得られなかったとして「C」とした。
【0083】
(灰分堆積後の圧損)
PMが堆積していない初期状態、かつ、触媒がコートされていない各排ガス浄化フィルタに対して、20g/L以上40g/L以下の灰分を堆積させた。灰分の堆積は、エンジンオイル由来の灰分を2%含むガソリンを用いてガソリンエンジンを動かし、排気通路に搭載された排ガス浄化フィルタへ灰分を堆積させることにより実施した。具体的には、(1)ストイキ雰囲気下、排ガス浄化フィルタの中心温度800℃にて9分間の条件にてPMを堆積させるというPM堆積と、(2)大気雰囲気下、排ガス浄化フィルタの中心温度800℃~900℃にて1分間の条件にてPMを再生処理するというPM再生処理とを繰り返すことにより、排ガス浄化フィルタに灰分を堆積させた。この際、灰分の堆積量は、適宜、排ガス浄化フィルタを取り出して重量測定することにより把握した。その後は、上記初期圧損と同様にして、圧力センサにより排ガス浄化フィルタ前の圧力と排ガス浄化フィルタ後の圧力とを測定し、その差分を灰分堆積後圧損とした。本実験例では、30g/Lの灰分が堆積した際の灰分堆積後圧損が13kPa以下であった場合を、灰分堆積後の圧損上昇の抑制の効果が十分に得られているとして「A」とした。同様に、灰分堆積後圧損が13kPa超15kPa以下であった場合を、灰分堆積後の圧損上昇の抑制の効果が得られているとして「B」とした。灰分堆積後圧損が15kPa超であった場合を灰分堆積後の圧損上昇の抑制の効果が得られなかったとして「C」とした。また、初期圧損をP
fresh、灰分堆積後の圧損をP
ash-loadedとしたとき、初期圧損に対する灰分堆積後の圧損上昇率を、100×(P
ash-loaded-P
fresh)/P
freshの式より求めた。
図18に、ガス透過係数比k
c/k
10と圧損上昇率との関係を示す。なお、
図18は、各実施例の代表例として実施例1の排ガス浄化フィルタの結果を示したものである。
【0084】
上記実験の結果をまとめて表3に示す。
【0085】
【0086】
表3に示されるように、隔壁1mm2当たりの連通孔数が特定本以上とされており、かつ、隔壁の平均気孔径Aμm、隔壁表面における気孔の平均表面開口径BμmがA≧Bを満たす実施例1~実施例7の排ガス浄化フィルタは、初期の圧損低減、初期のPM捕集率の確保、および、灰分堆積後の圧損上昇の抑制を図ることができることが確認された。
【0087】
これらに対し、隔壁1mm2当たりの連通孔数が特定本未満、あるいは、隔壁の平均気孔径Aμm、隔壁表面における気孔の平均表面開口径BμmがA<Bを満たす比較例1~比較例4の排ガス浄化フィルタは、初期の圧損低減、初期のPM捕集率の確保、および、灰分堆積後の圧損上昇の抑制のいずれかを達成することができなかった。
【0088】
実施例4、6と実施例1~3、5、7の排ガス浄化フィルタを比較すると、全連通孔における最小径が10μm以下である連通孔11の割合が90%以上であると、初期のPM捕集性能を向上させることができることがわかる。また、実施例5と、実施例1~4、6、7の排ガスフィルタを比較すると、隔壁の平均気孔径Aを15μm超の範囲でより大きくするほど、初期の圧損低減効果を得やすくなることがわかる。また、実施例4と、実施例1~3、5~7の排ガスフィルタを比較すると、隔壁の平均気孔径Aを21μm未満の範囲でより小さくすることにより、初期のPM捕集性能を確保しやすくなることがわかる。また、実施例1~7、比較例2の排ガス浄化フィルタを比較すると、隔壁表面における気孔の表面開口率を30%以上とすることにより、初期の圧損低減効果を得やすくなることがわかる。また、実施例1~7、比較例1、3、4の排ガス浄化フィルタを比較すると、隔壁表面における気孔の表面開口率を40%以下とすることにより、灰分を含むPMが隔壁内部に堆積し難く、灰分の剥離が生じやすくなり、車両の経年使用における堆積残存灰分による圧損上昇を抑制しやすくなることがわかる。
【0089】
なお、実施例1~7の排ガス浄化フィルタは、20g/L以上40g/L以下の灰分が堆積した状態においてガス透過係数比k
c/k
10の値が1.5以下であった。この構成によれば、
図18に示されるように、灰分堆積後の圧損上昇の抑制を確実なものとすることができるといえる。
【0090】
本発明は、上記実施形態、実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、実施形態、実験例に示される各構成は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
以下、参考形態の例を付記する。
項1.
ガソリンエンジンの排気通路に配置される排ガス浄化フィルタ(1)であって、
多数の気孔(110)を有する隔壁(11)と、
上記隔壁により区画された複数のセル(12,121,122)と、
フィルタ両端部において複数の上記セルを交互に目封じする封止部(13)と、を有しており、
上記隔壁は、
隣接する上記セル間を連通させる連通孔(111)を含んでおり、
上記隔壁1mm
2
当たりの上記連通孔の数である連通孔数が4000本以上であり、
上記隔壁の平均気孔径をAμm、上記隔壁表面における上記気孔の平均表面開口径をBμmとしたとき、A≧Bを満たす、
排ガス浄化フィルタ(1)。
項2.
上記連通孔のうち最小径が10μm以下である上記連通孔の数をN
min
、上記連通孔の全数をN
all
としたとき、100×N
min
/N
all
の式にて表される、上記最小径が10μm以下である上記連通孔の割合が90%以上である、項1に記載の排ガス浄化フィルタ(1)。
項3.
上記隔壁の平均気孔径Aが15μm超21μm未満であり、
上記隔壁表面における上記気孔の平均表面開口径Bが11μm以上20μm以下である、項1または項2に記載の排ガス浄化フィルタ(1)。
項4.
上記隔壁表面における上記気孔の表面開口率が30%以上40%以下である、項1~項3のいずれか1項に記載の排ガス浄化フィルタ(1)。
項5.
20g/L以上40g/L以下の灰分(23)が堆積した状態において、
排ガス流入側のフィルタ端面(15)から10mmの位置(X
10
)における上記隔壁のガス透過係数をk
10
、上記排ガス流入側のフィルタ端面と排ガス流出側のフィルタ端面(16)との間の中央位置(X
C
)における上記隔壁のガス透過係数をk
c
としたとき、
ガス透過係数比k
c
/k
10
の値が1.5以下である、項1~項4のいずれか1項に記載の排ガス浄化フィルタ。
【符号の説明】
【0091】
1 排ガス浄化フィルタ
11 隔壁
110 気孔
12 セル
13 封止部
G 排ガス