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  • 特許-モータ駆動装置 図1
  • 特許-モータ駆動装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/24 20060101AFI20220113BHJP
   H02P 3/12 20060101ALI20220113BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20220113BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220113BHJP
【FI】
H02P6/24
H02P3/12
H02P27/06
H02M7/48 M
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019225610
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021097445
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2020-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000106944
【氏名又は名称】シナノケンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】下形 伸介
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-039277(JP,A)
【文献】特開2012-196143(JP,A)
【文献】国際公開第2012/127665(WO,A1)
【文献】特開2010-119253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/24
H02P 3/12
H02P 27/06
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コントローラの指令によりインバータ回路を通じて三相モータコイルのうちいずれか二相コイルに通電方向を切り替えて通電するモータ駆動回路であって、
モータに直流電圧を供給する直流電源と、
前記直流電源とモータコイルに対して直列に接続される一対のハイサイドスイッチング素子及びローサイドスイッチング素子を複数有し、いずれか二相のモータコイルと接続される前記インバータ回路と、
前記直流電源と前記インバータ回路の接続をスイッチング制御する第一スイッチング素子と、
前記インバータ回路の前記ハイサイドスイッチング素子とグラウンド電位間に第二スイッチング素子と抵抗素子が直列接続された制動回路と、を備え、
前記直流電源に並列に接続されて電源電圧を平滑化するキャパシタは、前記制動回路と前記第一スイッチング素子を介して接続されており、前記コントローラは、ブレーキ動作時に前記第一スイッチング素子をオフし前記第二スイッチング素子をオンすることによりモータへの電源供給を遮断し、モータコイルに生じた誘起電圧に基づく誘導電流を、前記インバータ回路のハイサイドスイッチング素子及びローサイドスイッチング素子を逆向きに流れて第二スイッチング素子を通じて前記制動回路の抵抗素子を通じて前記グラウンド電位に流すことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
前記キャパシタは、前記直流電源と第一スイッチング素子のコレクタ側端子との間に接続されている請求項1記載のモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばブラシレスモータを使用してモータ制動運転時にモータの発熱を抑えることが可能なモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばブラシレスモータを回転駆動するモータ駆動回路は、電源電圧(直流電圧)が印加されるパワーライン間に、直列に接続される二つのスイッチング素子間をモータの巻線に接続した複数のアームを介装した駆動回路を備え、各アームのスイッチング素子を開閉動作させることで、モータを駆動するようにしている。上記モータ駆動回路には、各アームと電源との間に介装したリレーと、各アームの両端に接続されて上記巻線を短絡するバイパスと、バイパスの途中に設けた短絡用スイッチング素子と、を備えている。
【0003】
フェール動作時には、リレーを開動作させるとともに短絡用スイッチング素子を閉動作させて、バイパスで巻線を短絡させモータを制動させている。このフェール動作時に短絡用スイッチング素子を保護して確実にフェール動作を行うために特許文献1に示すモータ駆動回路が提案されている。
【0004】
モータ駆動回路と、パワーライン間に電源に並列に接続されて電源電圧を平滑化するキャパシタと、パワーライン間と電源との間に介装した電源スイッチと、パワーライン間に介装されて巻線を短絡するバイパスと、バイパスの途中に設けられた短絡用スイッチング素子とを備え、フェール動作時に電源スイッチを開くとともに短絡用スイッチング素子を閉動作させてモータの巻線を短絡させ、電源スイッチの開動作に遅延させて短絡用スイッチング素子を閉動作させるとともに、少なくとも電源スイッチが開動作してから短絡用スイッチング素子を閉動作するまではモータを界磁制御する。これにより、短絡用スイッチング素子が閉動作してバイパスにて巻線を短絡するまでの間に、モータを界磁制御するので、キャパシタの放電が進んで短絡用スイッチング素子へ過電流が流れ込むことが阻止され、短絡用スイッチング素子の破壊が防止され、フェール動作を確実に行って、モータを巻線の短絡による制動トルクで停止させることができる(特許文献1:特開2011-151879号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-151879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フェール動作時に電源スイッチを開くとともに短絡用スイッチング素子を閉動作させてモータの巻線を短絡させるとその短絡経路にパワーライン間にキャパシタが電源に並列に接続されているため、キャパシタが有するエネルギーも制動回路に流れ込むことになり、制動回路の負荷が大きくなり、電流を抵抗器等で制限している場合にはモータの制動力が低下する。
また、例えばブロワ用モータなどのように、高速回転とそれより減速した低速回転とを交互に繰り返し運転する場合、モータコイルに流れる電流量が多くなり、モータの発熱を抑えることができない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、モータ制動運転時に制動回路の負荷を軽減しモータの発熱を抑えることが可能なモータ駆動装置を提供することにある。
【0008】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
コントローラの指令によりインバータ回路を通じて三相モータコイルのうちいずれか二相コイルに通電方向を切り替えて通電するモータ駆動回路であって、モータに直流電圧を供給する直流電源と、前記直流電源とモータコイルに対して直列に接続される一対のハイサイドスイッチング素子及びローサイドスイッチング素子を複数有し、いずれか二相のモータコイルと接続される前記インバータ回路と、前記直流電源と前記インバータ回路の接続をスイッチング制御する第一スイッチング素子と、前記インバータ回路の前記ハイサイドスイッチング素子とグラウンド電位間に第二スイッチング素子と抵抗素子が直列接続された制動回路と、を備え、前記直流電源に並列に接続されて電源電圧を平滑化するキャパシタは、前記制動回路と前記第一スイッチング素子を介して接続されており、前記コントローラは、ブレーキ動作時に前記第一スイッチング素子をオフし前記第二スイッチング素子をオンすることによりモータへの電源供給を遮断し、モータコイルに生じた誘起電圧に基づく誘導電流を、前記インバータ回路のハイサイドスイッチング素子及びローサイドスイッチング素子を逆向きに流れて第二スイッチング素子を通じて前記制動回路の抵抗素子を通じて前記グラウンド電位に流すことを特徴とする。
これにより、コントローラは、モータの制動動作を実行する際に、第一スイッチング素子をオフしてモータへの電源供給を遮断し、第二スイッチング素子をオンすると、モータ電流が逆向きに流れて第二スイッチング素子を介して制動回路に流れ、モータには逆転トルクが作用し制動力が発生する。このとき、モータコイルで発生した誘導起電力による誘導電流をハイサイドスイッチング素子及びローサイドスイッチング素子を逆流させて第二スイッチング素子を介して制動回路の抵抗素子を通じてグラウンド側に流すことで、モータコイルに過大な電流が流れることはないので、モータの発熱を抑えることができる。
【0009】
前記キャパシタは、前記直流電源と第一スイッチング素子のコレクタ側端子との間に接続されていると、第一スイッチング素子がオフすれば、キャパシタの有するエネルギーが制動回路へ放出されることはなくなり制動回路の負荷を軽減することができる。
【発明の効果】
【0011】
上述したモータ駆動装置を用いれば、モータ制動動作時に制動回路の抵抗でエネルギーを消費させモータコイルに過大な電流が流れずモータの発熱を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】モータ駆動装置のブロック構成図である。
図2図1のインバータ回路の要部及び制動回路の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るモータ駆動装置の一実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。モータ駆動装置は、一例として三相ブラシレスモータの駆動装置を例示して説明する。
先ず、モータ駆動装置の概略構成について、図1のブロック構成図を参照して説明する。直流電源1は、コントローラ2やスイッチ回路3(第一スイッチング素子7及び第二スイッチング素子9)に直流電源Vccを供給する。コントローラ2は、MPU(マイクロプロセッサユニット)等が用いられ、インバータ回路4のスイッチング素子にコマンドを出力し、インバータ回路4は三相モータコイル(U相、V相、W相)のうち、いずれか二相コイルに通電方向を切り替えて通電する。モータ5は、三相ブラシレスモータが用いられる。モータコイルは、スター結線されたもの或いはデルタ結線されたものが用いられる。モータ5には、ホールセンサ等の回転検出センサ6が設けられ、回転子の位置と速度が検出される。回転検出センサ6の検出結果はコントローラ2に出力される。コントローラ2は、回転子位置に基づいて、インバータ回路4を通じてモータコイルに対して回転子の回転を付勢するように通電切り替えを行う。
【0014】
ここで、図2を参照してインバータ回路4の構成と制動回路8の構成について説明する。インバータ回路4は、直流電源1とモータコイルに対して直列に接続される一対のハイサイドスイッチング素子4a1,4a2,4a3及びローサイドスイッチング素子4b1,4b2,4b3を複数組有している。コントローラ2はインバータ回路4のハイサイドスイッチング素子4a1,4a2,4a3及びローサイドスイッチング素子4b1,4b2,4b3をスイッチング制御することで、いずれか二相のモータコイルが直列に接続されるようになっている。
【0015】
コントローラ2は、回転検出センサ6の回転子の位置情報に応じていずれか一対のハイサイドスイッチング素子4a1,4a2,4a3及びローサイドスイッチング素子4b1,4b2,4b3をオンオフすることで三相モータコイルのいずれか二相のモータコイルに通電するようになっている。ハイサイドスイッチング素子4a1,4a2,4a3とローサイドスイッチング素子4b1,4b2,4b3はトランジスタやFET(電界効果トランジスタ)等が用いられる。直流電源1とインバータ回路4はスイッチ回路3(第一スイッチング素子7)を介して接続されている。コントローラ2は、第一スイッチング素子7をオンし第二スイッチング素子9をオフしたままインバータ回路4を通じていずれか二相のモータコイルへ通電する(図2の実線矢印A参照)。また、第一スイッチング素子7をオフし第二スイッチング素子9をオンすると、後述するようにモータ5側から制動回路8へ通電可能となる(図2の破線矢印B参照)。
【0016】
制動回路8は、スイッチ回路3の一部(第二スイッチング素子9)を用いている。即ち、スイッチ回路3において、第一スイッチング素子7と直列に接続された第二スイッチング素子9を用いている。インバータ回路4のハイサイドスイッチング素子4a1,4a2,4a3とグラウンド電位間に第二スイッチング素子9と抵抗素子10が直列接続されている。図2では第二スイッチング素子9のコレクタ側端子は、インバータ回路4のハイサイドスイッチング素子4a1,4a2,4a3と直列に接続されている。また、第二スイッチング素子9のエミッタ側端子とグラウンド電位間には抵抗素子10が直列に接続されている。尚、制動回路8の他例として、インバータ回路4のハイサイドスイッチング素子4a1,4a2,4a3と抵抗素子10が直列に接続され、抵抗素子10と第二スイッチング素子9のコレクタ側端子が直列に接続されていてもよい。上記第一スイッチング素子7や第二スイッチング素子9にはトランジスタやFET(電界効果トランジスタ)等が用いられる。
【0017】
直流電源1に並列に接続されて電源電圧(Vcc)を平滑化するキャパシタ11は、制動回路8と直接接続されておらず第一スイッチング素子7を介して接続されている。具体的には、直流電源1と第一スイッチング素子7のコレクタ側端子との間に接続されている。これにより、第一スイッチング素子7がオフすれば、キャパシタ11の有するエネルギーが制動回路8へ放出されることはなくなり、制動回路8の負荷を軽減することができる。
【0018】
コントローラ2は、モータ5に対してブレーキ動作をするとき、第一スイッチング素子7をオフし第二スイッチング素子9をオンする。モータ5に対する電源供給を遮断し、インバータ回路4は通常通りスイッチング動作している。このため、コントローラ2による回転検出センサ6の検出信号に基づきインバータ回路4を動作させると、モータコイルに誘導起電力が発生しモータ5側の電位が高くなるため、第一スイッチング素子7がオンしていたときと逆向きの電流が流れる。
【0019】
例えば、図2において第一スイッチング素子7がオンし第二スイッチング素子9がオフしていたときに、ハイサイドスイッチング素子4a2、モータ5、ローサイドスイッチング素子4c1を経て実線矢印A方向に流れていたモータ電流が、第一スイッチング素子7がオフし第二スイッチング素子9がオンすると、破線矢印B方向にモータ5を逆向きに流れ出し、ローサイドスイッチング素子4c1、モータ5、ハイサイドスイッチング素子4a2を経て第二スイッチング素子9を通じて抵抗素子10に向かう制動回路8に電流が流れ、回転子には逆転トルクが作用しモータ5に制動力が発生する。このように、モータ5への電源供給の遮断によりモータコイルに生ずる逆起電力を、主としてモータコイル及び抵抗素子10への通電による発熱により消費させる。
【0020】
このとき、第一スイッチング素子7がオフしているため、制動回路8には、キャパシタ11に蓄積されたエネルギーが放出されることはないので制動回路8の負荷が減り、モータコイルに過大な電流が流れることもないので、モータ5の発熱を抑えることができる。
例えば、ブロワモータ等で回転数が40,000(rpm)を超える運転から10,000(rpm)程度の運転のように加減速を交互に切り替えて運転する場合に、モータ5の発熱を20℃程度抑えることができた。
尚、インバータ回路4に設けられたスイッチング素子、スイッチ回路3に設けられたスイッチング素子は、トランジスタが用いられるが、FETやMOSFET、IGBTなどの他のスイッチング素子でもよい。
【符号の説明】
【0021】
1 直流電源 2 コントローラ 3 スイッチ回路 4 インバータ回路 4a1,4a2,4a3 ハイサイドスイッチング素子 4b1,4b2,4b3 ローサイドスイッチング素子 5 モータ 6 回転検出センサ 7 第一スイッチング素子 8 制動回路 9 第二スイッチング素子 10 抵抗素子 11 キャパシタ
図1
図2