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特許7002548金属ピース品の表面に亜鉛含有皮膜を析出させるための水性アルカリ電解液
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  • 特許-金属ピース品の表面に亜鉛含有皮膜を析出させるための水性アルカリ電解液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】金属ピース品の表面に亜鉛含有皮膜を析出させるための水性アルカリ電解液
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/56 20060101AFI20220113BHJP
   C25D 5/26 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
C25D3/56 D
C25D5/26 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019533422
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 EP2017084331
(87)【国際公開番号】W WO2018115413
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2019-08-09
(31)【優先権主張番号】102016015366.0
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510057615
【氏名又は名称】カール・フロイデンベルク・カー・ゲー
(73)【特許権者】
【識別番号】519219003
【氏名又は名称】プロヴェサ アーベー
【氏名又は名称原語表記】PROVEXA AB
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】プレイクスシャット,パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】スカルスキー,アンデルス
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-098382(JP,A)
【文献】特開2001-226793(JP,A)
【文献】特表2013-503968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/22,3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄および/または鋼製の金属ピース品の表面上に、亜鉛、鉄、およびマンガンから本質的になる皮膜をめっき析出させるための水性アルカリ電解液において、前記電解液は、
- 亜鉛イオンを、4~60g/lの量で含有し、
- 鉄イオンを、0.5~30g/lの量で含有し、
- マンガンイオンを、0.1~15g/lの量で含有する
ことを特徴とする、水性アルカリ電解液。
【請求項2】
鉄および/または鋼製の金属ピース品の表面上に、亜鉛、鉄、マンガン含有皮膜をめっき析出させるための水性アルカリ電解液において、
前記電解液は、
水と、
水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムと、
亜鉛イオン供給源と、
鉄イオン供給源と、
マンガンイオン供給源と、
析出を均一に行うための、金属分布を改善するための、および/または、光沢度を調整するための、1以上の有機添加剤と、から作られ、
- 亜鉛イオンを、4~60g/lの量で含有し、
- 鉄イオンを、0.5~30g/lの量で含有し、
- マンガンイオンを、0.1~15g/lの量で含有する
ことを特徴とする、水性アルカリ電解液。
【請求項3】
前記マンガンイオンの含有量が、0.2~8g/lである、請求項1または2に記載の水性アルカリ電解液。
【請求項4】
前記鉄イオンの含有量が、1.5~30g/lである、請求項1から3のいずれかに記載の水性アルカリ電解液。
【請求項5】
鉄および/または鋼製の金属ピース品の表面上に、亜鉛、鉄、およびマンガンから本質的になる皮膜をめっき析出させる方法であって、前記金属ピース品を、請求項1から4のいずれかに記載の水性アルカリ電解液に導入し、前記金属ピース品上に亜鉛/鉄/マンガン合金をめっき析出させる方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法により、鉄および/または鋼製の金属ピース品の表面上に亜鉛、鉄、およびマンガンから本質的になる皮膜を被覆する、被覆金属ピース品を製造する製造方法。
【請求項7】
鉄および/または鋼製の金属ピース品上の防食体としての、請求項1から4のいずれかに記載の水性アルカリ電解液から製造された亜鉛、鉄、およびマンガンから本質的になる皮膜の使用。
【請求項8】
鉄および/または鋼製の金属ピース品の表面に亜鉛、鉄、およびマンガンから本質的になる皮膜を備えた、被覆金属ピース品であり、
前記皮膜は、亜鉛、鉄およびマンガンの総重量に対して、亜鉛が77重量%~89重量%の範囲であり、鉄が10重量%~20重量%の範囲であり、マンガンが、0.5重量%~3重量%の範囲である、被覆金属ピース品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性アルカリ電解液および金属ピース品の表面への亜鉛含有皮膜の析出方法に関する。特に本発明は、水性アルカリ電解液、およびピース品の表面への亜鉛含有皮膜の析出方法であって、該ピース品を該水性アルカリ電解液に導入する方法に関する。本発明はさらに、亜鉛含有皮膜を備えたピース品、ならびに金属ピース品上の防食体としての、特に鉄および鋼製の金属ピース品上の防食体としての該亜鉛含有皮膜の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術において、金属材料表面を腐食性の環境の影響から保護するために様々な方法を利用することができる。当技術分野において広く用いられかつ確立されている方法の一つに、保護すべき金属被加工物への金属被覆の施与がある。例えば、鉄および鋼製の被加工物を腐食性の環境の影響から保護すべく、該被加工物にめっきを施すことが多い。この場合、被覆金属は、腐食性媒体中で、材料の地金単独よりも電気化学的に貴または卑に挙動し得る。被覆金属がより卑に挙動する場合、該被覆金属は、腐食性媒体中で、地金に対するカソード防食の意味で犠牲アノードとして作用する。したがって、亜鉛による防食は、亜鉛が地金よりもさらに卑であり、したがってまず自身のみが腐食による攻撃を受けることに基づいている。
【0003】
表面への亜鉛含有皮膜の析出は、多くの工業分野で広く用いられている。この場合、亜鉛による被覆は、特に機能性被覆の分野において適している。例えば、一般に小部品、例えばねじ、ナット、ワッシャ、プレハブ建築要素、例えばアングルプレートまたはコネクティングプレートなどを多量に被覆することが可能である。
【0004】
亜鉛皮膜は、化学的および物理的な様々な方法での施与が可能であり、例えば溶融浸漬法による施与が可能であるが、その場合には合金が一般的であり、特に電着による施与が可能である。亜鉛めっきには、非常に特殊な特性を示す様々な電解液が使用され、有機添加剤によって均一性および光沢度を調整することができる。多くの特許文献に典型的な電解液組成物が記載されているが、以下に重要な電解液の種類のみを列挙する。
【0005】
・多少なりとも強酸性の硫酸塩電解液(実際には専ら非常に高い電流密度および高い相対速度で行われ、何ら有機添加剤を使用せずに行われることが多い、連続的な管材および帯材の亜鉛めっき向け)。
【0006】
・弱酸塩化物電解液(これには有機添加剤が必須であることから、例外的な場合のみ連続的な帯材の亜鉛めっき向け。塩化物電解液は、ほぼ専らピース品のめっきにおいて比較的高速でかつ部分的に高光沢の亜鉛めっきに使用される)。
【0007】
・シアン化アルカリ電解液、特に歴史的にはラック用途およびバレル用途でのピース品のめっき向け。
【0008】
・シアン化物不含のアルカリ電解液、ピース品のめっき向け。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】独国特許出願公開第10306823号明細書
【文献】特開昭58-210191号公報
【文献】独国特許出願公開第3428345号明細書
【文献】独国特許出願公開第3619385号明細書
【文献】特開昭63-176490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
弱酸塩化物電解液は、一般に隠蔽力が非常に良好であり、また析出速度が高く高効率であることを特徴とするが、典型的には金属分布が劣悪であり、つまり得られる亜鉛皮膜において皮膜厚の差が大きい。アルカリ電解液中では、亜鉛はアニオンとして、つまり亜鉛酸イオンとして存在し、さらに錯化剤、歴史的に特に好ましくはシアン化物が存在し得る。しかし、これらの大半は、シアン化物不含のアルカリ亜鉛電解液に代替されている。シアン化物不含のアルカリ亜鉛電解液は、金属分布が非常に良好であり、効率値、ひいては析出速度値が、十分に許容可能である。本明細書における「シアン化物不含」とは、以前のような支持電解質としてのシアン化ナトリウムまたはシアン化カリウムの意図的な添加を行わないことを意味する。シアン化物不含の電解液中にも、自然に存在するまたは生じる極微量のシアン化物が認められる場合がある。さらに、弱酸塩化物だけでなく様々なアルカリ電解液においても、例えばポリマーや界面活性剤や錯化剤、そして光沢度に影響を及ぼす極性分子、いわゆる光沢剤といった特定の有機添加剤が必ず用いられる。
【0011】
電着亜鉛皮膜自体は、例えば塩溶液、酸またはアルカリ液といった腐食性媒体中で通常は非常に迅速に犠牲となって、嵩高い塊状の腐食生成物が形成される。したがって、電着亜鉛皮膜自体は、追加の障壁皮膜、典型的には化成皮膜(クロメート処理、不動態化)および/または薄いラッカー皮膜(シーリング、シーラー、トップコート)によって、過度に迅速な犠牲からほぼ常に保護される。そのため、得られる防食体は2種類の腐食に関連して表されることが多く、すなわち、被覆腐食、つまり亜鉛腐食生成物(「白錆」とも呼ばれる)の形成と、地金腐食(鉄または鋼の場合には「赤錆」とも呼ばれる)とに関連して表される。一般的な試験方法は、中性塩水噴霧試験DIN EN ISO 9227またはASTM B117および耐候性試験、例えばVDA 233-102である。ある程度の白錆は、保護機構の一部であるためカソード防食には通常のことであるが、企業の仕様では、視認可能な変化なく塩水噴霧試験において高い防食値が得られることがますます求められている。
【0012】
ここで、亜鉛+不動態化の系は、これ以上は超えることのできない技術的限界に達しているが、多くの用途にとっては完全に十分である。より高い要求に対して、1980年代頃から数多くの亜鉛合金(亜鉛と1種または複数種の他の金属との同時析出)が提案されており、それらのうち実質的には、亜鉛/コバルトおよび亜鉛/鉄(どちらもCoまたはFeの合金割合が1%未満と、非常に低い)および亜鉛/ニッケル(Niが7%超)が、実用的に比較的広範に用いられている。これらのうち、ニッケル含有率13~15%の亜鉛/ニッケルが、ほぼ唯一の亜鉛合金系として確立されている。この系は、防食性、耐熱性およびアルミニウム合金との接触腐食の回避に関して、現在の最高水準である。特に自動車産業ではこの皮膜が広く用いられている。ピース品のめっきにおける他の電着亜鉛合金は、完全にまたは大部分が亜鉛/ニッケルに代替されている。
【0013】
残念ながら、ニッケルは、強力なアレルゲンであるという欠点を抱えている。さらに、ニッケル含有率が過度に高いと亜鉛/ニッケル皮膜が沈殿することがあり、この沈殿は、ニッケルが約17%の状態ですでに始まる。そのような皮膜は、地金に対してもはや卑ではなく、したがってカソード防食系における犠牲アノードとしてのその機能を失う。したがって、ニッケル不含であっても亜鉛/ニッケル皮膜とほぼ同等の高い防食性を提供するが、その欠点を有しない亜鉛含有皮膜の開発が重要である。
【0014】
文献には、ニッケル不含の亜鉛合金が多数記載されている。例えば、独国特許出願公開第10306823号明細書(DE 10306823 A1)から、亜鉛・マンガン合金の析出が知られている。しかしこの場合、腐食生成物は鮮やかな赤褐色であり、赤錆とほとんど区別できない。また1980年代以降、例えば特開昭58-210191号公報(JP 58210191)日新製鋼株式会社(1982)、独国特許出願公開第3428345号明細書(DE 3428345)OMI(1983)、独国特許出願公開第3619385号明細書(DE 3619385)Elektro-Brite(1987)といった特許出願には、上記で引用した市場で用いられている皮膜よりも鉄含有率が約0.5%だけ高い亜鉛/鉄皮膜も記載されている。しかし、こうした皮膜は特に、その防食性が一貫して高いわけではなく、また多くの白色の腐食生成物を伴う塊状の異常物が繰り返し存在することから、これまで認められ得なかった。亜鉛/鉄電解液は、帯材および管材を連続的に被覆するための多少なりとも強酸性の硫酸塩電解液として、またラック装置およびバレル装置におけるピース品のめっき用のアルカリ電解液として提案されている。
【0015】
本発明の課題は、ニッケル不含であっても、その犠牲アノードとしての特性を失うことなく可能な限り高い防食性を示す亜鉛含有皮膜を提供することである。さらに本発明の課題は、部材の使用という意味で耐熱性であり、かつアルミニウム合金との接触腐食から良好に保護することである。特に、必然的に生じる腐食生成物が可能な限り目立たないことが望ましく、特に典型的な亜鉛腐食生成物のように白色でかつ嵩高くなることのないようにすることが望ましい。
【0016】
確かに1987年以降、日本の特許出願である特開昭63-176490号公報(JP 63176490 A)が存在し、これにはリン酸塩処理可能な亜鉛/鉄/マンガン皮膜が記載されているが、これは、電解ストリップ亜鉛めっきに慣例であるように、電流密度およびストリップ速度が非常に高い硫酸塩電解液中で行われる方法である。硫酸塩電解液は、高速・高電流密度(ピース品のめっきにおける慣例のおよそ50~100倍の高さ)に最適化されており、またさらに異なるアノード・カソード間距離に対して非常に敏感に反応することから、ピース品のめっきには適さない。さらに、硫酸塩電解液は、有機添加剤での調整が不可能であるかまたは困難である。ストリップ亜鉛めっきでは、アノード・カソード間距離が固定的に設定され、実用上は変更されない。ピース品のめっきで被覆される部材には、単に平坦な薄板だけでなく、部分的に要求の多い三次元形状を有する完成成形部材またはさらには鋳造部材もある。したがって、特開昭63-176490号公報(JP 63176490 A)に記載された教示は、本課題にとって有用ではない。
【0017】
したがって、金属分布が良好であり、合金組成が均一であり、かつ有機添加剤による調整が可能な、ラックめっきにもバレルめっきにも使用可能なアルカリ電解液を見出すことが必要である。亜鉛、鉄およびマンガンを、広範囲の電流密度で、十分な均質性で以て、強度に成形された部材上にも電着させ得ることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題は、金属ピース品、特に鉄および/または鋼製のピース品の表面上に、亜鉛、鉄、マンガン含有皮膜をめっき析出させるための水性アルカリ電解液において、前記電解液は、
- 亜鉛イオンを、4~60g/l、好ましくは4~45g/l、さらにより好ましくは4~30g/l、さらにより好ましくは5~20g/l、特に7~10g/lの量で含有し、
- 鉄イオンを、0.5~30g/l、好ましくは0.5~25g/l、さらにより好ましくは0.6~25g/l、さらにより好ましくは0.7~10g/l、特に1~3g/lの量で含有し、
- マンガンイオンを、0.1~15g/l、好ましくは0.1~10g/l、さらにより好ましくは0.2~8g/l、さらにより好ましくは0.2~5g/l、特に0.3~1g/lの量で含有する
ことを特徴とする水性アルカリ電解液により解決される。
【0019】
さらに、好ましくは以下のものが含まれる。
【0020】
1. 可溶性亜鉛酸イオンの生成に十分な水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム、
2. 上記カチオンに対する対イオンとしての、およびナトリウムイオンおよびカリウムイオンと併用される支持電解質としての、アニオン、例えば酢酸イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、ケイ酸イオン、硫酸イオン、ならびに/または
3. 可溶性錯体を安定化させるための、析出を均一に行うための、金属分布を改善するための、および所望の光沢度に調整するための、有機添加剤。
【発明の効果】
【0021】
驚くべきことに、鉄含有率が比較的高いと同時に特定のマンガン含有率を有する亜鉛皮膜によって、上記の欠点が回避されるだけでなく、すでに優れている亜鉛/ニッケルの防食値を上回ることも可能であることが判明した。該皮膜は、三価またはクロム不含の化成皮膜において不動態化可能であり、さらには有機または無機トップコートの付与が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】中性塩水噴霧試験での例IIから得られたサンプルを示す図である。
図2】中性塩水噴霧試験での例III.1から得られたサンプルを示す図である。
図3】中性塩水噴霧試験での例III.2から得られたサンプルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ここで、本発明による電解液は、以下の経済的および生態学的利点を有する。
【0024】
本発明による電解液では、作業安全上の理由から強力なアレルゲンとして避けることが望ましいニッケルを使用せずに済む。しかし、該電解液により生じ得る防食性は、従来技術による亜鉛/ニッケル皮膜に匹敵するものであり、したがって該電解液は、はるかにより良好に適合し得る代替物である。亜鉛、鉄およびマンガンは、人間にとって必須であり、一般に良好な適合性を示す。本発明による電解液はアルカリ性であり、好ましくは強アルカリ性であって、pH値は13を上回り、好ましくは13.5~14.5であり、特に約14である。しかし、その点以外には特に危険性はない。合金化の相手方が1つから2つに増え、それに伴って本発明による電解液が複雑になるにもかかわらず、アルカリ亜鉛/ニッケル浴と同等の効率で運転することが可能である。
【0025】
適切な亜鉛イオン供給源は、例えば塩化亜鉛、硫酸亜鉛などの可溶性亜鉛化合物、またはさらには例えばメタンスルホン酸亜鉛などの有機亜鉛化合物であり得る。通常は、酸化亜鉛、さらには金属亜鉛を強アルカリ電解液に溶解させることで、必要な亜鉛酸イオンを生成させる。
【0026】
適切な鉄イオン供給源は、例えば塩化鉄、硫酸鉄、炭酸鉄などの可溶性鉄化合物、またはさらには例えば酢酸鉄などの有機鉄化合物であり得る。
【0027】
適切なマンガンイオン供給源は、例えば塩化マンガン、硫酸マンガン、炭酸マンガン、またはさらには過マンガン酸カリウムなどの可溶性マンガン化合物であり得る。過マンガン酸カリウムは、浴調製物において好ましくは若干のメタノールにより還元されて、可溶性マンガン化合物が生成される。
【0028】
同様に、該電解液は、錯化剤、特にアミン、ポリアルキレンイミン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、他のキレート配位子、例えばアセチルアセトン、尿素、尿素誘導体、および錯化作用を示す官能基が窒素、リンまたは硫黄を含む他の錯体配位子を含有することができる。該電解液のさらなる任意成分は、光沢剤、湿潤剤およびこれらの混合物からなる群から選択される添加剤である。これらには、好ましくはベンジルピリジニウムカルボキシレート、ニコチン酸、N-メチルピリジニウムカルボキシレートおよびアルデヒドが含まれる。
【0029】
アノードは、好ましくは、鋼、ニッケル、ニッケルめっき鋼、白金めっきチタンもしくは他の白金めっき不活性金属、または混合酸化物で被覆されたチタンもしくは混合酸化物で被覆された他の不活性金属からなる。
【0030】
カソードとして接続された金属被加工物は、ラックに固定されるか、またはバレル装置もしくは量産ピース品に適した他の装置内で被覆される。
【0031】
本発明によれば、ピース品の表面上に亜鉛含有皮膜をめっき析出させる方法であって、ピース品を上述の電解液に導入し、該ピース品上に亜鉛含有皮膜をめっき析出させる方法も同様に提供される。
【0032】
この場合、析出は、好ましくは20~40℃の温度で、特に好ましくは25℃の温度で行われる。析出時の電流密度は、好ましくは0.1~20A/dm、特に0.5~3A/dmの範囲にある。
【0033】
本発明のもう1つの対象は、上記の方法により製造された亜鉛含有皮膜である。
【0034】
本発明の一実施形態において、亜鉛、鉄、マンガン含有皮膜は、金属亜鉛および金属鉄ならびに金属マンガンおよび/または酸化マンガンを含有する。元素の重量分率は、エネルギー分散型X線分光法EDXにより測定可能である。
【0035】
実際の実験において、励起電圧20kVでエネルギー分散型X線分光法(EDX)により測定した場合に、本発明による方法によって析出させた亜鉛、鉄、マンガン含有皮膜中の元素の重量分率は、通常は次の範囲にあることが判明した。亜鉛は、亜鉛、鉄、マンガンの総重量に対して、通常は40重量%~96重量%、好ましくは65重量%~92重量%、さらにより好ましくは77重量%~89重量%の範囲にある。
【0036】
鉄の重量分率は、亜鉛、鉄、マンガンの総重量に対して、通常は4重量%~50重量%、好ましくは8重量%~30重量%、さらにより好ましくは10重量%~20重量%の範囲にある。
【0037】
マンガンの重量分率は、亜鉛、鉄、マンガンの総重量に対して、通常は0.05重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~5重量%、さらにより好ましくは0.5重量%~3重量%の範囲にある。
【0038】
亜鉛含有皮膜の厚さは、例えば所望の防食性に応じて変動し得る。大半の用途には、亜鉛含有皮膜が3μm~30μm、好ましくは5μm~20μm、特に7μm~15μmの平均皮膜厚を有するように調節することが有利であることが判明した。この場合、皮膜厚を、磁気誘導的に銅部分の蛍光X線によって求めることができ、また走査型電子顕微鏡での断面の測定によって求めることもできる。
【0039】
本発明の好ましい一実施形態によれば、適合された不動態化、例えばSurTec 680 Chromitierungによる不動態化を行った亜鉛、鉄、マンガン含有皮膜は、物体に対して、例えば120℃で24時間にわたる熱負荷の有無にかかわらず、ISO 9227および/またはASTM B 117-73に準拠した塩水噴霧試験において、DIN 50961、第10章に記載の初期の攻撃が生じるまでの時間が400時間超であり、好ましくは500時間超であり、特に600時間超であるという防食性を付与する。
【0040】
したがって、本発明による亜鉛、鉄、マンガン含有皮膜を有する物体または物品を、永続的に、したがって特に有利に防食することができる。本発明による亜鉛含有皮膜を備えた物体または物品もまた、本発明の対象である。
【0041】
金属ピース品上の防食体としての、特に鉄および鋼製の金属ピース品上の防食体としての、請求項1記載の水性アルカリ電解液から製造された、亜鉛、鉄、マンガン含有皮膜の使用も同様に、本発明の対象である。
【実施例
【0042】
以下に、いくつかの非限定的な実施例をもとに本発明につき詳説する。
【0043】
本発明による2種の電解液を、以下のように調製した。
【0044】
I. 2種の亜鉛溶液を、以下のように調製した。
【0045】
1. 約50kgの軟水に、35kgのNaOHを溶解させた。次いで、この高温の溶液に4kgの酸化亜鉛を撹拌しながら溶解させた。これが完全に溶解したらすぐに、100kgとなるまで軟水で満たした。=亜鉛酸ナトリウム溶液。
【0046】
500ml/lの軟水および225ml/lの上記亜鉛酸ナトリウム溶液に、1.5g/lの鉄(硫酸塩として)および錯化剤としての0.66g/lのEDTAおよび15g/lのトリエタノールアミンを加えた。次いで、その中に2g/lの過マンガン酸カリウムを溶解させ、4ml/lのメタノールで還元した。生じた溶液を、電解液がちょうど1リットルとなるまで軟水で満たした。
【0047】
2. 約50kgの軟水に、40kgのKOHを溶解させた。次いで、この高温の溶液に3kgの酸化亜鉛を撹拌しながら溶解させた。これが完全に溶解したらすぐに、100kgとなるまで軟水で満たした。=亜鉛酸カリウム溶液。
【0048】
500ml/lの軟水および225ml/lの上記亜鉛酸カリウム溶液に、1.5g/lの鉄(硫酸塩として)、錯化剤としての0.66g/lのEDTAおよび15g/lのトリエタノールアミンを加えた。次いで、その中に2g/lの過マンガン酸カリウムを溶解させ、4ml/lのメタノールで還元した。生じた溶液を、電解液がちょうど1リットルとなるまで軟水で満たした。
【0049】
双方の電解液を、市販のアルカリ亜鉛めっき用のベースおよび光沢添加剤、例えばSurTec 704 IおよびIIを用いて半光沢となるように調整した。脱脂および酸洗いした鋼板を各電解液に浸漬し、23℃、電流密度2A/dmで被覆した。
【0050】
生じた厚さ約6μmの皮膜を、EDXで調べた。測定により以下の値が得られた。
【0051】
亜鉛酸カリウム電解液:鉄:11.8~12.5%、マンガン:0.2~2.0%、残部 亜鉛、
亜鉛酸ナトリウム電解液:鉄:11.9~12.5%、マンガン:0.2~2.0%、残部 亜鉛。
【0052】
双方の薄板をSurTec 680 Chromitierung中で不動態化させ、乾燥させた。乾燥させたこれらの薄板を120℃で24時間熱処理することにより、VDAの要求に相応する防食性に低下させた。
【0053】
中性塩水噴霧試験では、双方の薄板とも、変色も黒色の点状物も示すことなく600時間超の防食性を達成した(比較:アルカリ電解液から得られた非合金化亜鉛は、同一の条件下ですでに比較的激しい腐食を示し、アルカリ電解液から得られた亜鉛/ニッケルは、多少なりとも明らかな灰色の変色を示す。)。
【0054】
II. 本発明によるさらなる亜鉛溶液を、以下のように調製した。
【0055】
1. 500ml/lの軟水および225ml/lの例I.1で得られた亜鉛酸ナトリウム溶液に、1.5g/lの鉄(塩化物として)および錯化剤としての12g/lのグルコン酸を加えた。次いで、その中に2g/lの過マンガン酸カリウムを溶解させ、4ml/lのメタノールで還元した。生じた溶液を、電解液がちょうど1リットルとなるまで軟水で満たした。
【0056】
III. 本発明によらない2種の亜鉛溶液を、比較のために以下のように調製した。
【0057】
1. 500ml/lの軟水および225ml/lの例I.1で得られた亜鉛酸ナトリウム溶液に、1.5g/lの鉄(塩化物として)および錯化剤としての12g/lのグルコン酸を加えた。生じた溶液を、電解液がちょうど1リットルとなるまで軟水で満たした。
【0058】
2. 500ml/lの軟水および225ml/lの例I.2で得られた亜鉛酸カリウム溶液に、1.5g/lの鉄(硫酸塩として)および錯化剤としての12g/lのグルコン酸を加えた。生じた溶液を、電解液がちょうど1リットルとなるまで軟水で満たした。
【0059】
比較のために、例III.1およびIII.2では、マンガンの添加を行わなかった。
【0060】
3種の電解液をいずれも、市販のアルカリ亜鉛めっき用のベースおよび光沢添加剤、例えばSurTec 704 IおよびIIを用いて半光沢となるように調整した。脱脂および酸洗いした鋼板を各電解液に浸漬し、23℃、電流密度2A/dmで被覆した。
【0061】
生じた厚さ約6μmの皮膜を、EDXで調べた。測定により以下の値が得られた。
【0062】
II.1:鉄:11.8~12.5%、マンガン:0.2~2.0%、残部 亜鉛、
III.1:鉄:11.9~12.5、残部 亜鉛、
III.2:鉄:11.9~12.5%、残部 亜鉛。
【0063】
3種類すべての電解液から、薄板を、コバルト不含でかつケイ酸塩を含有する中間皮膜不動態化剤であるSurTec 675/551中で不動態化させ、乾燥させた。
【0064】
例IIから得られたサンプルは、中性塩水噴霧試験において1608時間まで被覆腐食(「白錆」)も赤錆も示さなかった(図1)のに対して、例III.1およびIII.2から得られたサンプルは、はるかに劣悪であった。サンプルIII.1(図2)は、1032時間のNSSで嵩高い被覆腐食および初期の赤錆を示した。腐食試験をここで中止した。サンプルIII.2(図3)は、384時間のNSSですでに被覆および地金の腐食を示し、768時間の中性塩水噴霧試験(NSS)で、より多くの地金腐食および嵩高い被覆腐食に伴って試験を中止した。
図1
図2
図3