(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 319/20 20060101AFI20220113BHJP
C07C 321/30 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
C07C319/20
C07C321/30
(21)【出願番号】P 2020532598
(86)(22)【出願日】2018-07-12
(86)【国際出願番号】 CN2018095380
(87)【国際公開番号】W WO2019119785
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-06-12
(31)【優先権主張番号】201711408777.1
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517223657
【氏名又は名称】浙江新和成股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG NHU CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 418 Dadao West Road, Xinchang Shaoxing, Zhejiang 312500, China
(73)【特許権者】
【識別番号】310006626
【氏名又は名称】浙江大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518138206
【氏名又は名称】浙江新和成特種材料有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG NHU SPECIAL MATERIALS CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ジロン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ウォユアン
(72)【発明者】
【氏名】イン,ホン
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ,グイヤン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ハオラン
(72)【発明者】
【氏名】パン,シュアイフェン
(72)【発明者】
【氏名】リアン,ミン
(72)【発明者】
【氏名】チン,グアンデ
(72)【発明者】
【氏名】リ,チシュアン
【審査官】池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-532770(JP,A)
【文献】特開平05-078308(JP,A)
【文献】特開平01-106858(JP,A)
【文献】特開平04-182463(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1590371(CN,A)
【文献】Tetrahedron Letters,1998年,39 (7),543-546
【文献】Journal of Materials Chemistry C,2015年,3(17),4283-4289
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 321/30
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料であるフェニルスルフィドをハロゲン化反応させて4-ハロフェニルスルフィドを得る工程と、
前記4-ハロフェニルスルフィドをメルカプト化反応させて4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩を得る工程と、
前記4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩を酸性化する工程と、
を含む4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンの製造方法であって、
前記ハロゲン化反応は、フェニルスルフィド、有機溶媒、ハロゲン化剤、無機酸を含む混合溶液に過酸化物を加えてハロゲン化反応を行わせ、分離により4-ハロフェニルスルフィドを得、
前記メルカプト化反応は、得られた前記4-ハロフェニルスルフィドをSMAB-NaHS複合体とメルカプト化反応させ、抽出分離により、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩を含む水層を得、
前記酸性化反応は、前記4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩を含む水層を酸性水溶液中で酸性化反応させ、分離により前記4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンを得る、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化反応において、前記ハロゲン化剤は臭素化ナトリウム、臭素化カリウムからなる群より選ばれた1つ以上であり、
前記無機酸は硫酸、塩酸、リン酸からなる群より選ばれた1つ以上であり、
フェニルスルフィド1molに対して、前記ハロゲン化剤の使用量は0.9~1.0molであり、前記無機酸の使用量は0.9~1.0molであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化反応において、前記有機溶媒はジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタンからなる群より選ばれた1つ以上であり、フェニルスルフィド1molに対して、前記有機溶媒の使用量は4~6molであることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化反応において、前記過酸化物は過酸化水素であり、フェニルスルフィド1molに対して、前記過酸化物の使用量は0.45~0.5molであり、かつ、添加時間が2~10時間となるように制御することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記ハロゲン化反応において、前記ハロゲン化反応の温度は10~40℃であり、合計反応時間は4~15時間であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記メルカプト化反応において、フェニルスルフィド1molに対して、前記SMAB-NaHS複合体の使用量は0.9~1.0molであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記メルカプト化反応において、前記SMAB-NaHS複合体は、
a.NMP溶媒に水酸化ナトリウム水溶液を加え、反応終了後、脱水処理を行う工程と、
b.水硫化ナトリウム水溶液を加え、さらに脱水処理を行い、SMAB-NaHS複合体を得る工程と、
を含む方法により調製されることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
フェニルスルフィド1molに対して、前記水酸化ナトリウムの使用量は0.9~1.0molであり、前記NMP溶媒使用量は4.0~5.0molであり、前記水硫化ナトリウム使用量は0.9~1.0molであることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
工程a、bにおいて、前記脱水処理は180~250℃の条件下で行うことを特徴とする請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記メルカプト化反応を150~230℃で行わせ、前記メルカプト化反応の時間は3~6時間であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記メルカプト化反応終了後、脱溶媒してから抽出分離を行い、前記脱溶媒により回収したNMPを、SMAB-NaHS複合体の調製に直接再利用
することを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記ハロゲン化反応終了後、分離により水層と有機層を得、前記水層を酸性化反応において酸性水溶液として使用し、前記有機層を脱溶媒し、回収した溶媒に水を加えたものを、メルカプト化反応後の抽出に使用することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
前記メルカプト化反応後の抽出分離により得られた有機層をハロゲン化反応における溶媒として再利用することを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記酸性化反応後、層分離処理を行い、得られた水層を冷却して結晶化させることで、結晶水を含むNa
2SO
4を得、残りの母液を濃縮させてから前記ハロゲン化反応の原料として再利用することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンの製造方法に関し、有機化学合成分野に属する。
【背景技術】
【0002】
環境問題に対する人々の関心が高まるにつれて、各国のハロゲン規制が厳しくなってきており、欧州では、エレクトロニクス産業で使用される材料に含まれる臭素と塩素の含有量がそれぞれ900ppm未満であることが求められている。現在、ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」と略称する。)製品の70%が電子電器及び自動車産業で使用されているが、硫化ナトリウム法による制限のため、PPSには塩素末端基が多く含まれた結果、従来のPPS樹脂製品が現在のハロゲン規制の要件を満たすことは困難であった。
【0003】
先行文献1は、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン(以下、「PTT」と略称する。)をブロッキング剤として用いて低塩素化PPSを調製する方法を開示している。これまで知られているブロッキング剤と比較して、置換基-S-C6H5がパラ位に追加されるため、反応性が高くなり、これまで報告されたブロッキング剤よりもPPSの塩素含有量の低減効果が優れるという点と、ブロッキング後、ポリマー末端基構造とPPS分子鎖構造が類似しており、PPS樹脂の性能には特に影響がないという点で、有意な利点がある。
【0004】
しかしながら、従来の技術ではPTT合成方法に関する研究は非常に少なかった。
先行文献2は、次のような合成経路(4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン合成反応)を持つブロッキング剤PTTの合成方法を報告している。この方法は、メチルフェニルスルフィドを出発物質として使用し、最初に100℃で氷酢酸中で液体臭素と反応させて4-ブロモチオアニソールを形成し、次にキノリンとピリジンとの混合溶媒中で、Cu
2Oを触媒として用いて、160°Cでチオフェノールと反応させて1-メチルチオ-4-フェニルチオベンゼンを形成した後、DMFを溶媒として使用し、5質量%のプロピルメルカプタンナトリウムを添加して、160℃で2~3時間反応させることで、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンを収率93%で得た。
【化1】
【0005】
この方法は製造プロセスが複雑で、各工程で使用される溶媒が異なり、臭素原子の利用率が低く、また、工程2ではチオフェノールを原料として使用することから、製造中において環境問題が発生しやすい。
【0006】
先行文献3において、フェニルチオール基を導入する方法(ヒドロキシル基をメルカプト基に変換する反応機構)は下記の図に示すとおりである。この方法は、高価なフッ素含有化合物と配位子パラジウム触媒を使用するため、コストが高い。
【化2】
【0007】
先行文献4では、ハロゲン化アリール化合物を原料として使用し、ニッケル系触媒の存在下でチオ尿素と反応させることで、対応するアリールチオールを得るが、この方法は、触媒を多く消費するだけでなく、収率も低く、約55%だけであった。
【0008】
先行文献5では、ジスルフィドを用いてチオール基化合物を調製する。この方法では、触媒としてMgを使用し、溶媒としてメタノールを使用し、収率は高かったが、この方法は単純な芳香族チオール化合物にしか適用できず、PTTには適しない。
【0009】
以上より、PTTの合成方法に関しては報告はあるが、コスト制御や収率、環境性等の改善が十分であるとはいえず、工業的大量生産のより高い要件を満たすことは困難である。
(先行文献)
【0010】
(先行文献1)CN201611260486.8
(先行文献2)TetrahedronLetters、1998、Vol.39、No.7、p.543-546
(先行文献3)TetrahedronLetters、1996、Vol.37、No.26、p.4523-4524
(先行文献4)US5338886
(先行文献5)SyntheticCommunications、1997、Vol.27、Issue8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上述した従来の技術における問題に着目して、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンの製造方法を提供する。本発明の4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンの製造方法は、環境汚染につながるチオフェノールなどの物質の使用を避ける新しい合成経路を採用し、反応材料、溶媒、水などを効率的に回収して再利用する、環境に優しいグリーンな4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンの合成方法である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
原料であるフェニルスルフィドをハロゲン化反応させて4-ハロフェニルスルフィドを得る工程、
前記4-ハロフェニルスルフィドをメルカプト化反応させて4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩を得る工程、
前記4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩を酸性化する工程、
を含む4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンの製造方法を提供する。
【0013】
上述の製造方法において、
前記ハロゲン化反応は、フェニルスルフィド、有機溶媒、ハロゲン化剤、無機酸を含む混合溶液に過酸化物を加えてハロゲン化反応を行わせ、分離により4-ハロフェニルスルフィドを得る。
前記メルカプト化反応は、得られた前記4-ハロフェニルスルフィドをSMAB-NaHS複合体とメルカプト化反応させ、抽出分離により、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩を含む水層を得る。
前記酸性化反応は、前記4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩を含む水層を酸性水溶液中で酸性化反応させ、分離により前記4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンを得る。
【0014】
上述の製造方法において、前記ハロゲン化反応において、前記ハロゲン化剤はハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化カリウムからなる群より選ばれた1つ以上であり、好ましくはハロゲン化ナトリウムである。前記無機酸は硫酸、塩酸、リン酸からなる群より選ばれた1つ以上であり、好ましくは硫酸である。フェニルスルフィド1molに対して、前記ハロゲン化剤の使用量は0.9~1.0molで、好ましくは0.95~0.99molであり、前記無機酸の使用量は0.9~1.0molで、好ましくは0.95~0.99molである。
【0015】
上述の製造方法において、前記ハロゲン化反応において、前記有機溶媒はジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタンからなる群より選ばれた1つ以上であり、好ましくはジクロロメタンである。あるいは、場合によって、上記薬品をメインとして、例えばNMP、水等のその他の溶媒を少量(例えば溶媒量の10質量%以下)で存在させてもよい。フェニルスルフィド1molに対して、前記有機溶媒の使用量は4~6molである。
【0016】
上述の製造方法において、前記ハロゲン化反応において、前記過酸化物は過酸化水素であり、フェニルスルフィド1molに対して、使用量が0.45~0.5molであり、前記過酸化物の添加時間を2~10時間となるように制御し、好ましくは滴下で添加する。
【0017】
上述の製造方法において、前記ハロゲン化反応において、前記ハロゲン化反応の温度は10~40℃であり、合計反応時間は4~15時間である。
【0018】
上述の製造方法において、前記メルカプト化反応において、フェニルスルフィド1molに対して、前記SMAB-NaHS複合体の使用量は0.9~1.0molであり、好ましくは0.95~0.99molである。
【0019】
上述の製造方法において、前記メルカプト化反応において、前記SMAB-NaHS複合体は、
a.NMP溶媒に水酸化ナトリウム水溶液を加え、反応終了後、脱水処理を行う工程と、
b.水硫化ナトリウム水溶液を加え、さらに脱水処理を行い、SMAB-NaHS複合体を得る工程と、
を含む方法により調製される。
【0020】
上述のSMAB-NaHS複合体の製造方法において、フェニルスルフィド1molに対して、前記水酸化ナトリウムの使用量は0.9~1.0molであり、前記NMP溶媒の使用量は4.0~5.0molであり、前記水硫化ナトリウム使用量は0.9~1.0molである。
【0021】
上述のSMAB-NaHS複合体の製造方法において、工程a、bにおいて、前記脱水処理は180~250℃の条件下で行う。
【0022】
上述の製造方法において、前記メルカプト化反応を150~230℃で、好ましくは180~210℃で行わせ、前記メルカプト化反応の時間は3~6時間である。
【0023】
上述の製造方法において、前記メルカプト化反応終了後、脱溶媒してから抽出分離を行う。脱溶媒して回収した溶媒、例えばNMPを、SMAB-NaHS複合体の調製に直接再利用してもよい。
【0024】
上述の製造方法において、前記ハロゲン化反応終了後、分離により水層と有機層を得、前記水層を酸性化反応において酸性水溶液として使用し、前記有機層を脱溶媒し、回収した溶媒に水を加えたものを、メルカプト化反応後の抽出に使用する。前記メルカプト化反応後の抽出分離により得られた有機層をハロゲン化反応における溶媒として再利用する。
【0025】
上述の製造方法において、前記酸性化反応後、層分離処理を行い、得られた水層を冷却して結晶化させることで、結晶水を含むNa2SO4を得、残りの母液を濃縮させてから前記ハロゲン化反応の原料として再利用する。
【発明の効果】
【0026】
本発明による4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンの製造方法は以下のように優れた効果を有する。
(1)本発明は、悪臭を持つ従来のチオフェノールの代わりに、低臭気のフェニルスルフィドを採用し、生産環境の改善に寄与する。また、フェニルスルフィドの供給源が幅広いので、PTT合成のコストを大幅に低減できる。
(2)本発明によるPTTの製造方法は簡単で、ハロゲン化剤、有機溶媒、水の回収及び再利用を可能とするとともに、ハロゲン原子を反応系から離れないように制御し、さらに、反応に用いる酸とアルカリを反応量内に制御することで、余計の廃酸や廃アルカリ水の発生は避けられる。その結果、再利用に基づく製品収率は100%に達することができ、有機廃棄物は排出されず、グリーンな4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン合成は可能になる。
(3)本発明の副生成物であるNa2SO4・10H2Oは純度が高く、単独の製品となり得るため、本発明の経済性も高い。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について詳しく説明する。
【0028】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態は、原料であるフェニルスルフィドをハロゲン化反応させてハロゲン化フェニルスルフィドを得、本発明の実施形態において、前記ハロゲン化フェニルスルフィドが4-ハロフェニルスルフィドであり、前記4-ハロフェニルスルフィドとメルカプト化剤をメルカプト化反応させて4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩を得、さらに、前記4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩を酸性化して4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンを得ることを含む4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンの製造方法を提供する。
【0029】
具体的には、上記製造方法は、
(1)フェニルスルフィド、有機溶媒、ハロゲン化剤、無機酸を含む混合溶液に過酸化物を加えて臭素化反応を行わせ、反応終了後、層分離させ、有機層中の有機溶媒を除去して4-ハロフェニルスルフィドを得るハロゲン化反応と、
(2)工程(1)で得られた4-ハロフェニルスルフィドをSMAB-NaHS複合体とメルカプト化反応させ、反応終了後、抽出、層分離させて、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩を含む水層を得るメルカプト化反応であって、前記SMABが4-メチルアミノ-酪酸ナトリウム、前記NaHSが水硫化ナトリウムであるメルカプト化反応と、
(3)前記4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩を含む水層を酸性水溶液中で酸性化反応させ、反応終了後、層分離させて、有機層である4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンを得る酸性化反応と、
を含む。
【0030】
ハロゲン化反応
本実施形態において、原料であるフェニルスルフィドをハロゲン化反応させて4-ハロフェニルスルフィドを得る。フェニルスルフィドは低臭気という利点を有し、生産環境の改善につながるとともに、フェニルスルフィド原料の供給源が幅広いので、PTT合成のコストを大幅に低減できる。
【0031】
本実施形態において、ハロゲン化反応の進め方又は条件は特に限定されず、例えばハロゲン化反応において、当業界の一般的な温度及び圧力で、ハロゲン化剤とフェニルスルフィドをハロゲン化反応させることができる。また、無機酸等を助剤成分として使用してもよく、典型的には例えば硫酸を使用できる。
【0032】
工程(1)において、フェニルスルフィド、有機溶媒、ハロゲン化剤、無機酸を含む混合溶液に過酸化物を徐々に添加することによってハロゲン化反応を行わせ、好ましくは滴下により添加する。過酸化物の添加時間を制御することにより、ハロゲン化反応の進行速度を効果的に制御できる。前記過酸化物は特に限定されず、当業界で一般的に用いられる過酸化物を使用でき、典型的には過酸化水素等を使用できる。フェニルスルフィド1molに対して、前記過酸化物の使用量は0.45~0.5molであり、前記過酸化物の添加時間は2~10時間とする。
【0033】
工程(1)において、前記ハロゲン化剤は収率の観点から、例えば種々の一般的なハロゲン化物等を使用できる。さらに、ハロゲン化剤は金属のハロゲン化物であってもよく、好ましくはアルカリ金属のハロゲン化物である。本発明のハロゲン化物は、好ましくは臭素化ナトリウム、臭素化カリウムからなる群より選ばれた1つ以上であり、より好ましくは臭素化ナトリウムである。前記無機酸は硫酸、塩酸、リン酸からなる群より選ばれた1つ以上であり、好ましくは硫酸である。フェニルスルフィド1molに対して、前記ハロゲン化剤の使用量は0.9~1.0molで、好ましくは0.95~0.99molであり、前記無機酸の使用量は0.9~1.0molで、好ましくは0.95~0.99molである。前記ハロゲン化剤及び無機酸の使用量を上記範囲内にすることにより、反応系におけるハロゲン系の含有量及び廃酸の量を低減でき、環境への影響をできるだけ少なくすることができる。
【0034】
工程(1)において、前記ハロゲン化反応は二相系を採用し、ハロゲン化反応が有機相において発生するため、前記有機溶媒は、当業界の一般的な非極性溶媒を使用でき、例えば非極性のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられ、好ましくはジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタンからなる群より選ばれた1つ以上であり、より好ましくはジクロロメタンである。フェニルスルフィド1molに対して、前記有機溶媒の使用量は4~6molである。
【0035】
工程(1)において、前記ハロゲン化反応の温度は10~40℃であり、合計反応時間は4~15時間である。
【0036】
本発明のハロゲン化反応が発生する位置について、フェニルスルフィド中のベンゼンの4位において起こる。また、上述のフェニルスルフィド及びハロゲン化剤の量比を制御することによって、このハロゲン化反応が主にフェニルスルフィド中の1つのベンゼン環において起こるように制御する。
【0037】
典型的には、臭素化ナトリウム及び硫酸を採用する場合、本実施形態におけるハロゲン化反応の式は下記のとおりである。
【化3】
【0038】
ハロゲン化反応終了後、系を静置して層分離させ、系が水層と有機層に分けられ、例えば分液装置等の一般装置により両者を分離する。ここで、得られた水層は酸性物質を含み、例えば本発明の好適な一実施形態において、酸性物質は、例えばNaHSO4のような金属の硫酸水素塩である。このような酸性物質を含む水層及び有機層は有用であり、例えば、水層は直接、後述で説明する酸性化工程の酸性溶液として使用でき、有機層は生成物の分離及び溶媒回収の後、以下のメルカプト化反応生成物の分離における有機相の抽出に使用できる。水層及び有機層の再利用により、本発明の製造方法において生成される種々の物質を十分に利用し、廃物の発生を減少させ、コストを削減することができる。
【0039】
メルカプト化反応
本実施形態において、工程(1)で得られた前記4-ハロフェニルスルフィドをSMAB-NaHS複合体とメルカプト化反応させて4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩を得る。
【0040】
本発明の上記メルカプト化反応は、メルカプト化剤の存在下で行われる反応である。上記メルカプト化剤としては、金属の水硫化物が挙げられ、本発明の好適な実施形態において、メルカプト化反応はSMAB-NaHS複合体の存在下で行われ、前記SMABは4-メチルアミノ-酪酸ナトリウムであり、前記NaHSはナトリウムの水硫化物である。
【0041】
本発明の上記好適な実施形態において、前記SMAB-NaHS複合体はSの求核活性を高め、4-ハロフェニルスルフィドとのメルカプト化反応に寄与するため、生成物の収率を向上させる。
【0042】
本実施形態において、前記メルカプト化反応の式は下記のとおりである。
【化4】
【0043】
工程(2)において、フェニルスルフィド1molに対して、前記SMAB-NaHS複合体の使用量は0.9~1.0molであり、好ましくは0.95~0.99molである。
【0044】
工程(2)において、前記メルカプト化反応を150~230℃で行わせ、好ましくは180~210℃であり、前記メルカプト化反応の時間は3~6時間である。
【0045】
メルカプト化反応は、有機溶媒の存在下で行ってもよい。有機溶媒は極性溶媒であってもよく、好ましくはNMPである。前記NMPは、未使用のNMPを使用してもよいが、好ましくは後述のSMAB-NaHSの調製時に導入したNMPを使用する。メルカプト化反応終了後、脱溶媒処理を行い、NMPを回収して、SMAB-NaHSを調製するための溶媒として再利用できる。その後、脱溶媒した系を抽出により有機相と水相に分離させる。前記抽出剤としては、有機溶媒及び任意の水相を使用でき、前記有機溶媒としては、上述のハロゲン化反応後に回収した有機溶媒を使用してもよい。分離後、フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩を含む水層が得られる。
【0046】
前記メルカプト化反応において、本発明の好適な実施形態では、市販又は当業界の一般的な方法により入手するSMAB-NaHS複合体を好ましいメルカプト化剤として使用し、好ましくは、本実施形態における前記SMAB-NaHS複合体を以下の方法により調製することができる。
a.NMP溶媒に水酸化ナトリウムの水溶液を加え、反応終了後、脱水処理を行い、
b.脱水後、水硫化ナトリウム水溶液を加え、さらに脱水処理を行い、SMAB-NaHS複合体を得る。
【0047】
前記SMAB-NaHS複合体の反応式は下記のとおりである。
【化5】
【0048】
工程aにおいて、NMPとアルカリ性物質は水の存在下で4-メチルアミノ-酪酸ナトリウム(SMAB)を生成する。この工程において、フェニルスルフィド1molに対して、前記水酸化ナトリウムの使用量は0.9~1.0molである。
【0049】
工程bにおいて、前記金属水硫化物はアルカリ金属の水硫化物であり、さらに好ましくは水硫化ナトリウムである。フェニルスルフィド1molに対して、前記NMPの使用量は4.0~5.0molであり、前記金属水硫化物(NaHS)の使用量は0.9~1.0molである。
【0050】
工程bにおいて、脱水条件下で、SMABとNaHSの混合、加熱により、SMAB-NaHS複合体という複合物が得られる。前記脱水は180~250℃の条件下で行われる。脱水後、必要に応じて、必要な分だけの有機溶媒、好ましくはNMPを加えてもよい。
【0051】
一般的なワンステップ法による脱水工程では、NaHS、NMP及びNaOHを加えて一緒に脱水し、脱水工程はだいぶ時間がかかるため、揮発により損失した硫黄成分(硫化水素)の量が多い。本発明は通常の脱水方法を改良してツーステップ法で脱水を行い、最初のステップでは硫黄源を導入しないので、硫黄源の損失を低減できる。
【0052】
メルカプト化反応終了後、反応系において4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩が生成される。次の酸性化工程が容易に行えるように、抽出技術により4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩を単離する必要がある。抽出に使用する有機溶媒は、工程(1)における有機溶媒と同種又は異種でもよいが、回収及び再利用の観点から、好ましくは両者を同種とする。上述のとおり、ここで、抽出に使用する溶媒は、コスト削減及び環境性の観点から、好ましくは工程(1)の反応終了後に有機層から回収する溶媒に若干の水を加えたものである。
【0053】
酸性化反応
本実施形態において、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンは、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩の酸性化により得られる。本実施形態における酸性化反応の進め方又は条件は特に限定されない。好ましくは、例えばNaHSO4又はKHSO4水溶液のような低酸性の酸性水溶液で酸性化することにより、反応装置の腐食やキズを抑制し、その使用寿命を延長させ、製造コストを削減することができる。上述のとおり、前記酸性化反応は、工程(1)の反応終了後に分離により得られた水層を使用してもよく、工程(1)で生じた酸性水層を十分に利用できる。
【0054】
典型的には、本実施形態においてNaHSO
4水溶液を採用する場合、前記酸性化反応の式は下記のとおりである。
【化6】
【0055】
メインな生成物である4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンが得られるとともに、本発明では非常に高純度のNa2SO4水和物が得られる。このような生成物が非常に高純度であり、このような生成物を生成する反応の反応物、反応プロセスが比較的簡単であるため、Na2SO4水和物は直接の分離又は例えば再結晶化などの簡単な処理だけで得られる。そのため、本発明による方法の経済性はさらに高まる。
【0056】
なお、本実施形態において使用する装置は原則、上述の反応又はプロセスを実施できるものであれば、特に制限されない。
【0057】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態は、製造時に使用する原料、溶媒及び水等を回収して再利用する4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンの製造方法を提供する。つまり、本実施形態では、最初の反応に必要な原料だけがすべて未使用の新品であり、後の連続生産において、本発明の工程(1)~工程(3)で生じる水相、有機溶媒を再利用する。ここで、合計回収・再利用率について、水相、有機相はそれぞれ80%であり、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、最も好ましくは100%に近い。
【0058】
本実施形態において、工程(1)では、前記ハロゲン化反応は二相系を採用する。ハロゲン化反応は有機相において起こり、反応中に生成される無機塩は水相に残る。
【0059】
工程(1)の水層の回収及び再利用の観点から、工程(1)における無機酸は好ましくは強い無機酸を使用し、より好ましくは硫酸を使用する。ハロゲン化反応終了後、層分離により、強酸の酸性塩を含む酸性の水層を得、装置の管路を介して後の工程(3)の前記酸性化反応に直接使用できる。すなわち、工程(3)の酸性化反応は、工程(1)の層分離により得られた水層を、工程(2)の層分離により得られた水層に加えて酸性化反応を行わせ、反応終了後、層分離させ、有機層である4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンを得る。
【0060】
典型的には、ハロゲン化剤である臭素化ナトリウムと硫酸を例に言えば、ハロゲン化反応後、層分離により、NaHSO4を含む水層を得、後の工程(3)の前記酸性化反応に直接使用できる。また、NaHSO4が酸性化反応においてNa2SO4となり、酸性化終了後の層分離により得られた水層を後に簡単に冷却して結晶化させれば、結晶水を含むNa2SO4製品が得られる。析出した結晶水含有Na2SO4製品は通常、Na2SO4・10H2Oの形態で存在する。酸性化終了後、層分離により得られた水層を冷却して結晶化させ、結晶水を含むNa2SO4が析出した後、残りの母液を適宜濃縮させてから、工程(1)における前記ハロゲン化反応の原料(ハロゲン化剤と少量の4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン塩とを含むもの)として直接再利用でき、回収した水を工程(2)における前記メルカプト化反応の抽出処理に使用できる。
【0061】
ハロゲン化反応終了後、層分離により有機層を得、有機層から除去して回収した有機溶媒に必要に応じて水を加えたものを、抽出剤として、工程(2)における抽出処理に使用できる。
【0062】
工程(2)に関する説明から明らかなように、前記NMPは、SMAB-NaHS複合体を合成するための原料として使用されるとともに、メルカプト化反応の溶媒としても使用できる。前記メルカプト化反応終了後、NMPを除去し、除去により回収したNMPをSMAB-NaHS複合体の調製に直接再利用できる。
【0063】
上述の脱NMP工程後、工程(2)における抽出処理をさらに行い、層分離により、少量の未臭素化フェニルスルフィド及び少量の非メルカプト化4-ハロフェニルスルフィドを含む有機層と、4-フェニルチオフェニルメルカプタン塩を含む水層とが得られる。前記有機層は、工程(1)の臭素化反応の有機溶媒として、工程(1)に再利用でき、その中に含まれる少量の非臭素化フェニルスルフィド及び少量の非メルカプト化4-ハロフェニルスルフィドは直接、原料として反応に参加できる。
(実施例)
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0064】
(1)ハロゲン化反応
グラスライニング製リアクターにジクロロメタン34.0kg(400mol)、フェニルスルフィド18.6kg(100mol)、臭素化ナトリウム9.27kg(90mol)、20%硫酸44.1kg(90mol)を投入して、窒素ガスをパージし、撹拌しながら混合液を40℃まで昇温させ、そして濃度30%の過酸化水素5.1kg(45mol)をリアクターに滴下し、滴下時間が2時間となるように制御し、滴下終了後、さらに保温して2時間反応させた。反応終了後、得られた反応液を静置して層分離させ、水層を工程(3)の酸性化反応に使用し、有機層を脱溶媒して、4-ブロモフェニルスルフィドを得、除去したジクロロメタン33.1kgを、工程(2)における抽出処理に使用する。
【0065】
(2)メルカプト化反応
ステンレス製リアクターにN-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」と略称する。)39.6kg(400mol)、50%水酸化ナトリウム水溶液7.2kg(90mol)を投入し、撹拌しながら、窒素ガスの雰囲気下で、100℃まで昇温させ、2時間保温した。保温後、1.5℃/minの速度で190℃まで昇温させ、3.96kgの水溶液(含水率91%)を除去してから、110℃まで降温させた。50%水硫化ナトリウム10.1Kg(90mol)を加えた後、さらに1.5℃/minの速度で180℃まで昇温させて、5.5kgの水溶液(含水率92%)を除去し、脱水後、NMP0.8kgを追加し、150℃まで降温させて、SMAB-NaHS複合体を得た。
【0066】
工程(1)で得られた4-ブロモフェニルスルフィドをSMAB-NaHS複合体と混合し、窒素ガスの雰囲気下で、撹拌しながら250℃まで昇温させてメルカプト化反応を行わせ、保温して3時間反応させた。反応終了後、180℃まで降温させ、減圧蒸留して、NMP39.5kgを除去し、これを次回のSMAB-NaHS複合体の調製に直接再利用できる。脱溶媒後、工程(1)の脱溶媒時に得られたジクロロメタン33.1kg及び水50kgを加えて抽出を行い、層分離させ、有機層(10.5molのフェニルスルフィド、1.2molの4-ブロモフェニルスルフィドを含むジクロロメタン溶液)を回収して次回の工程(1)の臭素化反応に再利用する。層分離により得られた水層は、臭素化ナトリウムと、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンナトリウム塩とを含む水溶液である。
【0067】
(3)酸性化反応
工程(1)の層分離により得られた水層を、工程(2)で得られた臭素化ナトリウムと4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンナトリウム塩とを含む水溶液に加え、30min撹拌した。反応終了後、静置して層分離させた。有機層を減圧脱水して、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン16.4kg(88.3mol)を得た。
【0068】
層分離により得られた水相を段階的に2℃まで降温させ、Na2SO4・10H2O29.1kgを析出させた。母液を濃縮した後、工程(1)の臭素化剤として再利用でき、回収した水を工程(2)の抽出に使用できる。
【実施例2】
【0069】
(1)ハロゲン化反応
グラスライニング製リアクターに、実施例1のメルカプト化反応から回収した有機層(10.5molのフェニルスルフィド、1.2molの4-ブロモフェニルスルフィドを含むジクロロメタン溶液)、フェニルスルフィド16.42kg(88.3mol)、実施例1の工程(3)の母液、98%硫酸9.0kg(90mol)を投入して、窒素ガスをパージし、撹拌しながら混合液を40℃まで昇温させ、そして濃度30%の過酸化水素5.1kg(45mol)をリアクターに滴下し、滴下時間が2時間となるように制御し、滴下終了後、さらに保温して2時間反応させた。反応終了後、得られた反応液を静置して層分離させ、水層を工程(3)の酸性化反応に使用し、有機層を脱溶媒して、4-ブロモフェニルスルフィドを得、除去したジクロロメタン33.0kgを、工程(2)における抽出処理に使用する。
【0070】
(2)メルカプト化反応
ステンレス製リアクターに、実施例1のメルカプト化反応の脱溶媒により得られたNMP39.5kgを加え、さらにNMP0.1kgを追加し(合計で400molとなり)、50%水酸化ナトリウム水溶液7.2kg(90mol)を投入し、撹拌しながら、窒素ガスの雰囲気下で、100℃まで昇温させ、2時間保温した。保温後、1.5℃/minの速度で190℃まで昇温させ、3.96kgの水溶液(含水率91%)を除去してから、110℃まで降温させた。50%水硫化ナトリウム10.1Kg(90mol)を加えた後、さらに1.5℃/minの速度で180℃まで昇温させて、5.5kgの水溶液(含水率92%)を除去し、脱水後にNMP0.8kgを追加し、150℃まで降温させて、SMAB-NaHS複合体を得た。
【0071】
工程(1)で得られた4-ブロモフェニルスルフィドをSMAB-NaHS複合体と混合し、窒素ガスの雰囲気下で、撹拌しながら250℃まで昇温させて、メルカプト化反応を行わせ、保温して3時間反応させた。反応終了後、180℃まで降温させ、減圧蒸留して、NMP39.5kgを除去し、これを次回のSMAB-NaHS複合体の調製に直接再利用できる。脱溶媒後、工程(1)の脱溶媒時に得られたジクロロメタン33.0kg及び水50kgを加えて抽出を行い、層分離させ、有機層(10.3molのフェニルスルフィド、1.4molの4-ハロフェニルスルフィドを含むジクロロメタン溶液)を回収して次回の工程(1)の臭素化反応に再利用する。層分離により得られた水層は、臭素化ナトリウムと、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンナトリウム塩とを含む水溶液である。
【0072】
(3)酸性化反応
工程(1)の層分離により得られた水層を、工程(2)で得られた臭素化ナトリウムと4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンナトリウム塩とを含む水溶液に加え、30min撹拌した。反応終了後、静置して層分離させた。有機層を減圧脱水して、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン16.4kg(88.3mol)を得た。新たに投入したフェニルスルフィドを基準に計算した結果、収率は100%であった。
【0073】
層分離により得られた水相を段階的に2℃まで降温させ、Na2SO4・10H2O30.5kgを析出させた。母液を濃縮した後、工程(1)の臭素化剤として再利用でき、回収した水を工程(2)の抽出に使用できる。
【実施例3】
【0074】
(1)ハロゲン化反応
グラスライニング製リアクターに、実施例2のメルカプト化反応から回収した有機層(10.3molのフェニルスルフィド、1.4molの4-ブロモフェニルスルフィドを含むジクロロメタン溶液)、ジクロロメタン8.5kg(100mol)、フェニルスルフィド16.42kg(88.3mol)、実施例1の工程(3)の母液、臭素化ナトリウム0.52kg(5mol)、98%硫酸9.5kg(95mol)を投入して、窒素ガスをパージし、撹拌しながら混合液の温度を20℃に調整し、そして濃度30%の過酸化水素5.38kg(47.5mol)を、滴下時間が6時間となるようにリアクターに滴下した後、さらに保温して3時間反応させた。反応終了後、得られた反応液を静置して層分離させ、水層を工程(3)の酸性化反応に使用し、有機層を脱溶媒して、4-ブロモフェニルスルフィドを得、除去したジクロロメタン41.2kgを、工程(2)における抽出処理に使用する。
【0075】
(2)メルカプト化反応
ステンレス製リアクターに、実施例2のメルカプト化反応の脱溶媒により得られたNMP39.5kgを加え、さらにNMP5.05kgを追加し(合計で450molとなり)、50%水酸化ナトリウム水溶液7.6kg(95mol)を投入し、撹拌しながら、窒素ガスの雰囲気下で、100℃まで昇温させ、2時間保温した。保温後、1.5℃/minの速度で190℃まで昇温させ、4.18kgの水溶液(含水率91%)を除去してから、110℃まで降温させた。50%水硫化ナトリウム10.64Kg(95mol)を加え、1.5℃/minの速度で210℃まで昇温させて、6.1kgの水溶液(含水率87.2%)を除去し、脱水後、NMP1.16kgを追加し、150℃まで降温させて、SMAB-NaHS複合体を得た。
【0076】
工程(1)で得られた4-ブロモフェニルスルフィドをSMAB-NaHS複合体と混合し、窒素ガスの雰囲気下で、210℃まで昇温させてメルカプト化反応を行わせ、保温して4時間反応させた。反応終了後、180℃まで降温させ、減圧蒸留して、NMP44.3kgを除去し、これを次回のSMAB-NaHS複合体の調製に直接再利用できる。脱溶媒後、工程(1)の脱溶媒時に得られたジクロロメタン41.2kgと水55kgを加えて抽出を行い、層分離させ、有機層(5.5molのフェニルスルフィド、1.3molの4-ハロフェニルスルフィドを含むジクロロメタン溶液)を回収して次回の工程(1)の臭素化反応に再利用する。層分離により得られた水層は、臭素化ナトリウムと、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンナトリウム塩とを含む水溶液である。
【0077】
(3)酸性化反応
工程(1)の層分離により得られた水層を、工程(2)で得られた臭素化ナトリウムと4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンナトリウム塩とを含む水溶液に加え、30min撹拌した。反応終了後、静置して層分離させた。有機層を減圧脱水して、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン20.32kg(93.2mol)を得た。
【0078】
層分離により得られた水相を段階的に2℃まで降温させ、Na2SO4・10H2O32.2kgを析出させた。母液を濃縮した後、工程(1)の臭素化剤として再利用でき、回収した水を工程(2)の抽出に使用できる。
【実施例4】
【0079】
(1)ハロゲン化反応
グラスライニング製リアクターに、実施例3のメルカプト化反応から回収した有機層(5.5molのフェニルスルフィド、1.3molの4-ハロフェニルスルフィドを含むジクロロメタン溶液)、ジクロロメタン8.5kg(100mol)、フェニルスルフィド17.34kg(93.2mol)、実施例2の工程(3)の母液、臭素化ナトリウム0.52kg(5mol)、98%硫酸10.0kg(100mol)を投入して、窒素ガスをパージし、撹拌しながら混合液の温度を10℃に調整し、そして濃度30%の過酸化水素5.67kg(50mol)を、滴下時間が10時間となるようにリアクターに滴下した後、さらに保温して5時間反応させた。反応終了後、得られた反応液を静置して層分離させ、水層を工程(3)の酸性化反応に使用し、有機層を脱溶媒して、4-ブロモフェニルスルフィドを得、除去したジクロロメタン49.5kgを、工程(2)における抽出処理に使用する。
【0080】
(2)メルカプト化反応
ステンレス製リアクターに、実施例3のメルカプト化反応の脱溶媒により得られたNMP44.3kgを加え、さらにNMP5.2kgを追加し(合計で500molとなり)、50%水酸化ナトリウム水溶液8.0kg(100mol)を投入し、撹拌しながら、窒素ガスの雰囲気下で、100℃まで昇温させ、2時間保温した。保温後、1.5℃/minの速度で190℃まで昇温させ、4.4kgの水溶液(含水率91%)を除去してから、110℃まで降温させた。50%水硫化ナトリウム11.2g(100mol)を加え、1.5℃/minの速度で250℃まで昇温させて、6.5kgの水溶液(含水率86.2%)を除去し、脱水後、NMP1.3kgを追加し、150℃まで降温させて、SMAB-NaHS複合体を得た。
【0081】
工程(1)で得られた4-ブロモフェニルスルフィドをSMAB-NaHS複合体と混合し、窒素ガスの雰囲気下で、150℃まで昇温させて3時間反応させた後、さらに230℃まで昇温させ、2時間保温してメルカプト化反応を行わせた。反応終了後、180℃まで降温させ、減圧蒸留して、NMP49.3kgを除去し、これを次回のSMAB-NaHS複合体の調製に直接再利用できる。脱溶媒後、工程(1)の脱溶媒時に得られたジクロロメタン49.5kgと水60kgを加えて抽出を行い、層分離させ、有機層(0.6molのフェニルスルフィド、1.1molの4-ハロフェニルスルフィドを含むジクロロメタン溶液)を回収して次回の工程(1)の臭素化反応に再利用する。層分離により得られた水層は、臭素化ナトリウムと、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンナトリウム塩とを含む水溶液である。
【0082】
(3)酸性化反応
工程(1)の層分離により得られた水層を、工程(2)で得られた臭素化ナトリウムと4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンナトリウム塩とを含む水溶液に加え、30min撹拌した。反応終了後、静置して層分離させた。有機層を減圧脱水して、4-フェニルチオ-フェニルメルカプタン21.52kg(98.7mol)を得た。
【0083】
層分離により得られた水相を段階的に2℃まで降温させ、Na2SO4・10H2O33.7kgを析出させた。母液を濃縮した後、工程(1)の臭素化剤として再利用でき、回収した水を工程(2)の抽出に使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明による4-フェニルチオ-フェニルメルカプタンの製造方法は簡単で、原料及び溶媒を容易に回収でき、原料、溶媒等の再利用を可能とし、大規模の工業的生産に適する。