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特許7002690摩擦攪拌接合装置及び接合ツールの挿入量制限方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合装置及び接合ツールの挿入量制限方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20220113BHJP
【FI】
B23K20/12 340
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021076226
(22)【出願日】2021-04-28
【審査請求日】2021-04-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(73)【特許権者】
【識別番号】390020477
【氏名又は名称】トライエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石黒 幸一
(72)【発明者】
【氏名】船原 恒平
(72)【発明者】
【氏名】篠原 俊
(72)【発明者】
【氏名】宮部 昇三
(72)【発明者】
【氏名】岡 丈晴
(72)【発明者】
【氏名】東 和也
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-105975(JP,A)
【文献】特許第6561187(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体と、
前記装置本体に取り付けられたZ軸上下動駆動モータと、
主軸支持部を介して前記Z軸上下動駆動モータに取り付けられた主軸と、
前記主軸の内部に配置された接合ヘッドと、
ショルダ部とプローブ部とで構成され、前記接合ヘッドに支持された接合ツールと、
前記接合ヘッドに連結されて前記接合ツールを所定の回転数で回転させる主軸モータと、
前記主軸外周部に取り付けられたバックアップ挿入量制限機構と、
を備え、
前記接合ツールを所定の回転速度で回転しながら被接合部材の適正位置まで挿入し、摩擦入熱により前記被接合部材を軟化させて摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置であって、
前記バックアップ挿入量制限機構は、当該バックアップ挿入量制限機構を前記主軸外周部に取付固定する支持部材と、当接部材と、前記支持部材と前記当接部材とを連結する連結部材と、を有し、
前記接合ツールを前記被接合部材に挿入していき、所定の面積を有して前記当接部材の下端部を構成する接合ツールの近傍に配設した当接面部が前記被接合部材の表面部の位置に到達したときに、前記被接合部材の表面部に当接して前記接合ツールの挿入位置限界として作用することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項2】
請求項に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記支持部材の上端部と前記主軸外周部との間に挿入する所定の厚みを有する第1の高さ調整部材の員数、又は/及び、前記支持部材の下端部と前記当接部材の上端部との間に挿入する所定の厚みを有する第2の高さ調整部材の員数により、前記当接面部の高さを前記ショルダ部の下端部と前記Z軸上下動駆動モータの目標追込み量によって定まる前記ショルダ部の相対位置との範囲内で調整することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項3】
請求項に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記当接部材と前記ショルダ部の外周部との間に所定の間隙をもって円環状体を構成し、
前記当接面部の全面を水平となるように水平面加工して構成すること、又は、前記当接面部の全面を前記接合ツールを前記被接合部材に挿入するときの傾斜角度に応じて傾斜面加工して構成すること、又は、前記接合ツールの進行方向と反対側の前記当接面部の一部の面を前記接合ツールを前記被接合部材に挿入するときの傾斜角度に応じて傾斜面加工して構成することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項4】
請求項1に記載の摩擦攪拌接合装置の接合ツールの被接合部材への挿入量を制限する接合ツールの挿入量制限方法であって、
(a)接合ツールの被接合部材への挿入量の限界点を設定するステップと、
(b)Z軸上下動駆動モータを駆動して主軸をZ軸下方向に下降動作して前記接合ツールを前記被接合部材の目標挿入位置まで挿入する挿入段階、又は、前記挿入段階終了後に前記目標挿入位置を保持しながら前記接合ツールにより前記被接合部材を接合する接合段階において、前記接合ツールの挿入位置が前記限界点に到達したときにはそれ以上前記接合ツールを前記被接合部材に挿入させないように前記接合ツールの最大の挿入位置を制限するステップと、
を有することを特徴とする接合ツールの挿入量制限方法。
【請求項5】
請求項に記載の接合ツールの挿入量制限方法であって、
前記摩擦攪拌接合装置のバックアップ挿入量制限機構に所定の厚みを有する高さ調整部材を取付ける員数によって前記限界点を調整することを特徴とする接合ツールの挿入量制限方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合部材同士を摩擦攪拌接合により接合する摩擦攪拌接合装置の構成とその制御に係り、特に、高品質(高精度)な接合が要求される被接合部材の接合に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
円柱状の接合ツールを回転させて発生する摩擦熱で被接合材料を軟化させ、その部分を攪拌することで被接合材料同士を接合する摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)は、材料以外の素材を用いないため、疲労強度が高く、材料も溶融しないことから溶接変形(ひずみ)の少ない接合が可能であり、航空機や自動車のボディなど、幅広い分野での応用が期待されている。
【0003】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には「接合ツール本体の外周面にマーキングを施し、接合ツールを被接合部材に挿入しながら測定装置を用いて現在マーキングの位置(現在マーキング位置)を検出し、現在マーキング位置が目標マーキング位置に到達した時点で挿入処理を終了する制御方法」が開示されている。
【0004】
この制御方法により、接合ツールの被接合部材への挿入量を制限している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-206026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示された接合ツールを被接合部材に挿入する方法は、被接合部材の接合部近傍の入熱量が所定の範囲内である場合に有効な方法であると思われる。
【0007】
しかしながら、入熱は、現在の接合部から周囲に伝播することがあり、これにより影響を受けた接合部はより入熱量が大きくなり、軟化することとなる。その結果、接合ツールは制御の範囲を超えて被接合部材に挿入され、接合品質に影響を与えることが予想される。
【0008】
例えば、被接合部材の厚みが薄く、表面のZ軸位置座標と摩擦攪拌接合装置の載置台表面のZ軸位置座標との偏差が小さい場合、接合ツール先端部は被接合部材を突き抜けて載置台表面に接触してしまうおそれもある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、接合ツールを回転しながら被接合部材に挿入して摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置において、接合ツールを必要以上に被接合部材に挿入することなく、かつ、被接合部材の接合部近傍の入熱量が大きくなることにより接合ツールが目標とする挿入量を超えて被接合部材に挿入するのを防止可能な信頼性の高い摩擦攪拌接合装置及び接合ツールの挿入量制限方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、装置本体と、前記装置本体に取り付けられたZ軸上下動駆動モータと、主軸支持部を介して前記Z軸上下動駆動モータに取り付けられた主軸と、前記主軸の内部に配置された接合ヘッドと、ショルダ部とプローブ部とで構成され、前記接合ヘッドに支持された接合ツールと、前記接合ヘッドに連結されて前記接合ツールを所定の回転数で回転させる主軸モータと、前記主軸外周部に取り付けられたバックアップ挿入量制限機構と、を備え、前記接合ツールを所定の回転速度で回転しながら被接合部材の適正位置まで挿入し、摩擦入熱により前記被接合部材を軟化させて摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置であって、前記バックアップ挿入量制限機構は、当該バックアップ挿入量制限機構を前記主軸外周部に取付固定する支持部材と、当接部材と、前記支持部材と前記当接部材とを連結する連結部材と、を有し、前記接合ツールを前記被接合部材に挿入していき、所定の面積を有して前記当接部材の下端部を構成する接合ツールの近傍に配設した当接面部が前記被接合部材の表面部の位置に到達したときに、前記被接合部材の表面部に当接して前記接合ツールの挿入位置限界として作用することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記の摩擦攪拌接合装置の接合ツールの被接合部材への挿入量を制限する接合ツールの挿入量制限方法であって、(a)接合ツールの被接合部材への挿入量の限界点を設定するステップと、(b)Z軸上下動駆動モータを駆動して主軸をZ軸下方向に下降動作して前記接合ツールを前記被接合部材の目標挿入位置まで挿入する挿入段階、又は、前記挿入段階終了後に前記目標挿入位置を保持しながら前記接合ツールにより前記被接合部材を接合する接合段階において、前記接合ツールの挿入位置が前記限界点に到達したときにはそれ以上前記接合ツールを前記被接合部材に挿入させないように前記接合ツールの最大の挿入位置を制限するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、接合ツールを回転しながら被接合部材に挿入して摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置において、接合ツールを必要以上に被接合部材に挿入することなく、かつ、被接合部材の接合部近傍の入熱量が大きくなることにより接合ツールが目標とする挿入量を超えて被接合部材に挿入するのを防止可能な信頼性の高い摩擦攪拌接合装置及び接合ツールの挿入量制限方法を実現することができる。
【0013】
これにより、被接合部材同士の高品質(高精度)な摩擦攪拌接合が可能となる。
【0014】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1に係る摩擦攪拌接合装置の全体概要を示す図である。
図2A図1のバックアップ挿入量制限機構部の拡大断面図である。
図2B図1のバックアップ挿入量制限機構部の拡大断面図である。
図3A】実施例1のバックアップ挿入量制限機構部の作用を示す図である。
図3B】実施例1のバックアップ挿入量制限機構部の作用を示す図である。
図4】実施例2のバックアップ挿入量制限機構部及びその作用を示す図である。
図5】実施例3のバックアップ挿入量制限機構部及びその作用を示す図である。
図6】実施例4のバックアップ挿入量制限機構部及びその作用を示す図である。
図7】接合ツールの挿入位置と当接面部の座標との関係を示す図である。
図8】摩擦攪拌接合装置の動作と接合ツールの挿入位置の変化を示す図である。
図9】本発明の実施例1に係る接合ツールの挿入量制限方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【0017】
また、以下で説明する「追込み量」とは、接合ツールが被接合部材の表面からどれだけの深さまで挿入するかを決める接合ツールの下降量、すなわち接合ツール及びZ軸上下動駆動モータの回転軸に垂直な移動量を意味する。
【実施例1】
【0018】
本発明は、金属や樹脂などの被接合部材に接合ツールを目標回転速度で回転しながら適正位置まで挿入し、摩擦入熱により前記被接合部材を軟化させて摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置であって、接合ツールが適正位置を所定量超えて被接合部材に挿入され、制限位置に到達したときに、接合ツールの挿入量を制限する摩擦攪拌接合装置に関するものである。
【0019】
先ず、図1及び図8を参照して、本発明の対象となる摩擦攪拌接合装置の構成とその制御について説明する。図1は、本実施例に係る摩擦攪拌接合装置の全体概要を示す図である。図8は、摩擦攪拌接合装置の動作と接合ツールの挿入位置の変化を示す図である。
【0020】
本実施例の摩擦攪拌接合装置1は、図1に示すように、主要な構成として、装置本体2と、Z軸上下動駆動機構部3を介して装置本体2に接続される主軸支持部4と、主軸支持部4により保持される主軸15と、主軸15により保持されるツールホルダ(接合ヘッド)5と、ツールホルダ(接合ヘッド)5により保持される接合ツール6とを備えて構成されている。
【0021】
Z軸上下動駆動機構部3には、図1に例示するように、例えばボールスクリュー、リニアガイドなどが用いられ、Z軸上下動駆モータ16により装置本体2に対して主軸支持部4をZ軸方向(上下方向)に駆動させる。
【0022】
接合ツール6はショルダ部7およびプローブ部(接合ピン)8で構成され、主軸モータ14に連結(図1では直結)されている。主軸モータ14は、接合ツール6を所定方向に回転させる。
【0023】
装置本体2は、Z軸上下動駆動機構部3を介して主軸支持部4を支持し、装置本体2に搭載(付属)された制御部(制御装置)11から主軸モータ14に駆動信号を付与して接合ツール6を回転させながら接合線に沿って進行させる。つまり、装置本体2は、主軸支持部4と、主軸15と、ツールホルダ(接合ヘッド)5を保持し、接合ツール6を回転させると共に、接合ツール6を図1のX軸方向およびZ軸方向に移動させる。
【0024】
接合ツール6を所定の回転数で回転させながら、載置台10上に載置された被接合部材9(9a,9b)表面の接合線上にショルダ部7とプローブ部8とを押し付けることにより摩擦熱を発生させて被接合部材9を軟化させ、ショルダ部7とプローブ部8とを被接合部材9に必要量挿入し、当該回転数を保持することで塑性流動が生じ、挿入部が攪拌される。接合ツール6を引き抜く、又は移動することで攪拌部(接合部)が冷却され、被接合部材9は接合される。
【0025】
なお、図1では、ツールホルダ(接合ヘッド)5及び接合ツール6が、主軸15及び主軸支持部4、Z軸上下動駆動機構部3を介して装置本体2に接続(保持)される構成を示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、Z軸上下動駆動機構部3のみを介して装置本体2に接続(保持)される構成や、他の可動手段を介して装置本体2に接続(保持)される構成、ツールホルダ(接合ヘッド)5及び接合ツール6が直接装置本体2に接続(保持)される構成、或いは、図1の構成に、さらにツールホルダ(接合ヘッド)5と装置本体2の間にC型フレームを設ける構成、多軸ロボットアームを有する装置本体2に接続(保持)される構成なども本実施例の範囲に含むものとする。また、コラム型や門型の工作機タイプの摩擦攪拌接合装置にも適用可能である。
【0026】
また、ショルダ部7とプローブ部(接合ピン)8とが同一である接合ツール(つまりプローブを有さず、ショルダのみ)であっても良く、また、ショルダ部7が回転しない構造であっても良い。
【0027】
装置本体2には、摩擦攪拌接合装置1の動作を制御する制御部(制御装置)11が設置(付属)されている。制御部(制御装置)11は、接合ツール6による接合条件を決定する接合条件信号やZ軸上下動駆動機構部3による接合ツール6の鉛直方向(Z方向)の保持位置(接合ピン8の挿入量)を決定する保持位置決定信号などの接合パラメータ(FSW接合条件)を記憶する記憶部(図示せず)を備えている。なお、制御部11は、制御装置として装置本体とは別に構成してもよい。
【0028】
また、装置本体2には、X軸方向に駆動可能なX軸前後駆動機構部12が設けられており、X軸前後動駆モータ13により装置本体2の上部をX軸方向に設けられたリニアガイドのレールに沿って移動させることで、ツールホルダ(接合ヘッド)5及び接合ツール6をX軸方向(接合方向)へ移動させることができる。
【0029】
なお、図1のバックアップ挿入量制限機構部17については後述する。
【0030】
図8を用いて、摩擦攪拌接合装置1の動作と接合ツール6の挿入位置の変化について説明する。
【0031】
摩擦攪拌接合装置は、図8に示すように、被接合部材を摩擦攪拌接合する際、接合ツールを被接合部材の接合対象部位に位置合せをし、高品質の接合を確保するために、被接合部材の材質、厚みなどの接合条件に基づき、挿入段階において、接合ツールを所定の回転速度で回転させながら、目標とする適正挿入位置まで被接合部材に接合ツールを挿入する。
【0032】
その後、被接合部材の接合部が目標入熱量に到達するまで、その挿入位置において接合ツールを回転させて入熱処理を実行する。接合部が目標入熱量に到達すると、接合段階に移行して接合ツールにより被接合部材を接合する。
【0033】
ここで、上述した「本発明が解決しようとする課題」について詳しく説明する。
【0034】
通常、摩擦攪拌接合装置においては、接合ツールを目標とする挿入位置に挿入する際、実験等で求めた適正とするZ軸上下動駆動モータの追込み量を設定し、挿入段階においてZ軸上下動駆動モータの追込み量を適正とする追込み量まで増加させて挿入する。
【0035】
その挿入位置において入熱処理を行いその後接合段階の処理に移行し、被接合部材の表面に沿うように、Z軸上下動駆動モータの位置を変えずに接合処理を実行する。
【0036】
一部の摩擦攪拌接合装置においては、接合ツールの現在の挿入位置を取得して目標値と比較することで挿入量を制御しているものもある。
【0037】
例えば、上記特許文献1のように、接合ツール本体の外周部にマーキングし、当該マーキングと被接合部材との距離を一定に保持するように制御する方法である。
【0038】
この方法は、通常は接合ツールの挿入量に対する有効な制御方法であるが、本願発明者らは、被接合部材の接合部の状態によっては必ずしも有効に機能しないことを確認した。この課題について以下、詳述する。
【0039】
摩擦攪拌接合装置は、接合ツールを目標とする回転速度で高速に回転させて、被接合部材の接合する位置(接合部)に接合ツールを押し当てて摩擦熱を発生させて被接合部材を軟化させる。いわゆる塑性流動を生じさせる。そして、接合ツールを目標とする挿入位置まで被接合部材に挿入し、摩擦熱を発生させ、必要な入熱量を確保するまで摩擦入熱処理を行う。ここまでの処理が終了した後、接合段階に移行する。
【0040】
接合段階においては、スポット接合(点接合)であれば接合ツールを被接合ツールから引き抜くこと、線接合であれば接合線に沿って移動することにより、塑性流動が生じた部位が冷却され接合することとなる(固相接合)。線接合においては、接合線に沿って塑性流動及び固相接合を連続的に行っていくことになる。
【0041】
本願発明者らは、金属や樹脂などである被接合部材に生じる摩擦熱の性質から、次の現象が生じることを実験により確認した。
【0042】
接合ツールが回転することにより生じた摩擦熱は、その全部が接合部に滞留することはなく、一部は周辺部に伝播することになる。接合を開始してからあまり時間が経過していないときは他の接合部に影響を与えることは少ないが、接合を開始してから時間が経過するにつれて摩擦熱の伝播は次以降の接合部に影響を与えることとなる。
【0043】
影響を受けた接合部においては、当該接合部で接合ツールが生じさせた摩擦熱に、それより前の接合部で生じた摩擦熱の一部が加わることにより、必要以上に接合部が軟化することとなる。その結果、接合ツールの挿入位置は制御の範囲を超えてしまい、所望の接合品質を得られない挿入位置で接合することとなる。被接合部材が、自動車の軽量化を目的に採用が進んでいるアルミ薄板材においては、最悪の場合、被接合部材を突き出てしまうこととなる。
【0044】
そこで、本発明では、摩擦攪拌接合装置に、バックアップ挿入量制限機構部17を設ける。バックアップ挿入量制限機構部17は、接合ツール6を被接合部材9に挿入するときに、又は、接合ツール6により被接合部材9を摩擦攪拌接合するときに、接合ツール6の挿入位置限界として作用し、6接合ツールの挿入量を制限する。
【0045】
以下、図2Aから図3Bを参照して、バックアップ挿入量制限機構部17の構成及びバックアップ挿入量制限機構部17を適用した摩擦攪拌接合装置1の動作について詳述する。
【0046】
図2A及び図2Bは、図1のバックアップ挿入量制限機構部17の拡大断面図である。図2Aは、第1の高さ調整部材23が挿入された状態を示し、図2Bは、第1の高さ調整部材23及び第2の高さ調整部材24の両方が挿入された状態を示している。
【0047】
図3A及び図3Bは、バックアップ挿入量制限機構部17の作用を示す図である。図3Aは、バックアップ挿入量制限機構部17(当接部材21)が被接合部材9(9a,9b)に当接する前の状態を示し、図3Bは、バックアップ挿入量制限機構部17(当接部材21)が被接合部材9(9a,9b)に当接した状態を示している。
【0048】
図2A及び図2Bに示すように、バックアップ挿入量制限機構部17は、支持部材19と当接部材21と連結部材20とを含んで構成されている。
【0049】
支持部材16は、バックアップ挿入量制限機構部17を主軸15(図1参照)の外周部に取付固定するものである。支持部材19の最上端部において、主軸外周部18全周に環状に取付固定してもよいし、半環状に取付固定してもよいし、支柱等で固定してもよい。
【0050】
接合ツール6を被接合部材9に挿入したとき、又は、接合線に沿って移動したときなどに位置ずれが生じなければ取付固定部の形状は問わない。
【0051】
支持部材19は、主軸外周部18に取付固定された最上端部から下方向に延伸し、上層部と下層部とから構成される。上層部は主軸15に沿って所定長さ分延伸し、下層部に移る。下層部は、ツールホルダ(接合ヘッド)5に沿って下方向にショルダ部7の付け根近傍に延伸する。上層部と下層部は、環状構造とする。
【0052】
なお、支持部材19の最上端部は、ねじ止めなどにより主軸外周部18のフランジ部に取付固定する。
【0053】
当接部材21は、その最下端部に当接面部22を備える。当接面部22は、所定の面積を有してショルダ部7の外周部全周に環状に配置される。
【0054】
連結部材20は、当接部材21を支持部材19に連結固定する。連結の方法は、接合ツール6(ショルダ部7及びプローブ部8)を被接合部材9に挿入するとき、接合線に沿って接合ツール6を移動するときなどにおいて、当接部材21が動くことなく固定されるものであればどのようなものでもよい。
【0055】
図示していないが、一例を説明する。支持部材19の下層部外周部と連結部材20の上層部にネジ溝加工を施し、一方をオネジ部で他方をメネジ部として、連結部材20を支持部材19にねじ込むように取付固定する。その際、連結部材20の下層部のL字型形状部により当接部材21の上層部の一部を抑え込んで当接部材21を連結部材20に取付固定することで、支持部材19と当接部材21とを連結する。
【0056】
バックアップ挿入量制限機構部17は、支持部材19と主軸外周部18との取付固定部に所定の厚みを有する第1の高さ調整部材23を介在させること、及び/又は、当接部材21と連結部材20との取付固定部に所定の厚みを有する第2の高さ調整部材24を介在させることにより、当接座標を変えることのできる構成とする。
【0057】
なお、第1の高さ調整部材23及び第2の高さ調整部材24は、それぞれ複数枚を介在させる構成とし、被接合部材9(9a,9b)の接合条件やユーザのニーズなどに応えられるようにする。
【0058】
ショルダ部7の最下端部の位置を当接原点とし、当該当接原点から主軸外周に沿って上方向の相対位置を当接座標とし、現在の当接面部22の座標を現在当接座標とした場合、図3Aに示すように、Z軸上下動駆動モータ16を駆動して接合ツール6を含む主軸15を下降動作していき、当接座標が現在当接座標に到達したとき、つまり、接合ツール6の挿入位置と適正位置との偏差が所定量に到達した位置を示す制限位置に到達したとき、図3Bに示すように、当接面部22が被接合部材9(9a,9b)の表面に当接することで当接面部22が接合ツール6の挿入量を制限することとなる。つまり、バックアップ挿入量制限機構が作用することとなる。
【0059】
当接面部22は、接合ツール6を被接合部材9(9a,9b)に挿入するときの状態に応じて加工することにより好適に当接することができる。図3A及び図3Bは、接合ツール6(ショルダ部7及びプローブ部8)を傾斜せず(傾斜角0°)、被接合部材に挿入するケースである。この場合、当接面部22を平面加工する。これにより、当接座標が現在当接座標に到達したとき当接面部22全面が被接合部材9(9a,9b)の表面に当接する。
【0060】
次に、図7を参照して、バックアップ挿入量制限機構部17を適用した摩擦攪拌接合装置1の一動作について説明する。図7は、接合ツール6の挿入位置と当接面部22の座標との関係を示す図である。
【0061】
摩擦攪拌接合装置1は、目標とする接合ツール6の回転速度を示す目標回転速度と、接合ツール6の挿入位置を適正な位置に挿入するためにZ軸上下動駆動モータ16の目標追込み量とを設定して接合ツール6を被接合部材9の摩擦攪拌接合を開始する位置に位置決めし、挿入処理を開始する。
【0062】
挿入段階においては、Z軸上下動駆動モータ16の追込み量を目標追込み量になるまで増加していき、目標追込み量との偏差が所定範囲内に到達した時点で挿入処理を終了し、接合ツール6の挿入位置を保持する。
【0063】
その位置において、適正な入熱状態になるまで入熱処理を実行する。適正な入熱状態になった後、接合処理に移行する。
【0064】
接合段階においては、スポット接合であれば目標時間、同じ接合部において接合ツール6を回転させて接合ツール6を引き抜く。線接合であれば、接合線に沿って所定の進行速度により接合ツール6を進行させる。当然、接合ツール6の挿入位置は保持したままである。
【0065】
接合段階に移行してから時間経過が小さい間は、摩擦熱の接合部以外の部位への伝播量は小さく、他の接合部への影響も小さい。従って、他の接合部において、それ以前の接合部の摩擦熱の影響により必要以上に入熱量が大きくなることはなく、接合ツール6の挿入位置への影響は小さく問題とならない。
【0066】
しかしながら、接合開始からの経過時間が大きくなるにつれて、摩擦熱の他部位への伝播量が大きくなってくる。そして、以前の接合部の摩擦熱の影響により、現在の接合部における入熱量は必要以上に大きくなることがある。
【0067】
その結果、現在の接合部はより大きく軟化することとなり、接合部において生じている挿入方向と逆方向への反力が弱くなる。その分、それまで反力の影響で挿入方向と逆方向に撓んでいた装置本体が挿入方向に戻ろうとする。これにより、被接合部材のZ軸上下動駆動モータ16の追込み量を増加しなくても接合ツール6はより深く挿入することとなる。
【0068】
そして、当接面部22の位置まで接合ツール6が挿入した時点で当接面部22が被接合部材9の表面に当接し、バックアップ挿入量制限機構部17が接合ツール6の更なる挿入を停止し、挿入量を制限する。
【0069】
なお、図7では、接合ツール6の挿入段階と、接合ツール6による被接合部材9の接合段階とを明確に分けていない。接合ツール6の挿入位置と当接面部22の座標と関係は、挿入段階及び接合段階の何れの段階でも生じるからである。
【0070】
以上は、摩擦攪拌接合装置1の最もシンプルな動作について述べたが、次に述べるように、接合ツール6の挿入量制限を、ソフトウェアとハードウェアの両面で行ってもよい。この場合、本発明のバックアップ挿入量制限機構部17はハードウェアストッパとして作用する。
【0071】
図9を参照して、接合ツール6の挿入量制限方法を説明する。図9は、本実施例の接合ツールの挿入量制限方法を示すフローチャートである。
【0072】
摩擦攪拌接合装置1は、目標とする接合ツール目標回転速度と、接合ツール6の挿入位置を適正な位置に制御するための制御対象パラメータ(ここでは主軸モータ14の負荷トルクを使用して説明する。)の目標値(目標負荷トルク)と、所望の接合品質を得ることのできる接合ツール6の挿入位置の限界値に対応するZ軸上下動駆動モータ16の追込み量としての目標追込み量とを設定する。(ステップS1)
摩擦攪拌接合装置1は、先ず、挿入段階において、接合ツール6を被接合部材9の摩擦攪拌接合を開始する位置に位置決めし、Z軸上下動駆動モータ16の追込み量を増加して接合ツール6の挿入処理を開始する。(ステップS2)
次に、摩擦攪拌接合装置1は、負荷トルクの現在値を示す現在負荷トルクを定時に取得する。現在トルクと目標負荷トルクとの偏差を示す第一の偏差が所定の範囲内に到達するまで、Z軸上下動駆動モータ16の追込み量を増加していく。(ステップS3)
続いて、第一の偏差と所定の範囲を比較する。(ステップS4)
第一の偏差が所定の範囲内に到達したら、挿入段階の処理を終了する。第一の偏差が所定の範囲外の場合、ステップS3に戻る。
【0073】
その後、接合部において所望の入熱量が確保されるまで入熱処理を行う。必要な入熱量が確保できたら、接合段階の処理に移行する。接合段階においても挿入段階と同様に、現在負荷トルクと目標負荷トルクとの偏差を所定の範囲内に保持するように制御する。(ステップS5)
これにより、接合ツール6の挿入量の制御は可能となるが、前述したように、他の接合部において発生した摩擦熱の伝播の影響により、現在の接合部が必要以上に軟化し、接合ツール6の挿入量が制御の範囲を超えてしまい、挿入位置が高品質を得ることのできる位置を超えてしまうことがある。
【0074】
この場合に、Z軸上下動駆動モータ16の目標追込み量がソフトウェアとしての接合ツール6の挿入量制限機構として作用することになる。
【0075】
摩擦攪拌接合装置1は、現在負荷トルクを取得する際に、Z軸上下動駆動モータ16の現在の追込み量を示す現在追込み量も取得する。
【0076】
接合ツール6の挿入位置が制御の範囲を超えた場合、現在追込み量と目標追込み量との偏差を示す第二の偏差が所定の範囲に到達したかチェックし(ステップS6)、到達した場合は、接合ツール6の挿入位置が限界点に到達したとして、Z軸上下動駆動モータ16の駆動を停止する。(ステップS7)この位置がソフトウェアとしての挿入量制限位置の作用点である。
【0077】
さらに接合ツール6の挿入が継続した場合は、当接座標がバックアップ挿入量制限機構の当接面部位置に到達したときに、当接面部22が被接合部材9の表面に当接し、バックアップ挿入量制限機構部17がハードウェアとしての挿入量制限機構として作用し、それ以上の接合ツール6の被接合部材9への挿入を抑止し制限する。(ステップS8)
【実施例2】
【0078】
図4を参照して、本発明の実施例2の摩擦攪拌接合装置及び接合ツールの挿入量制限方法について説明する。図4は、本実施例のバックアップ挿入量制限機構部及びその作用を示す図である。
【0079】
本実施例は、接合ツール6(ショルダ部7及びプローブ部8)に所定の角度をもたせて傾斜して被接合部材9(9a,9b)に挿入するケースである。
【0080】
この場合、当接面部22全面を、傾斜角に応じて傾斜面加工する。図4では、接合方向の後方側を当接面部22aとし、接合方向の前方側を当接面部22bとしている。
【0081】
これにより、当接座標が現在当接座標に到達したとき当接面部22の一部の面(22a)が被接合部材9(9a,9b)の表面に対して平行な面状に当接する。
【実施例3】
【0082】
図5を参照して、本発明の実施例3の摩擦攪拌接合装置及び接合ツールの挿入量制限方法について説明する。図5は、本実施例のバックアップ挿入量制限機構部及びその作用を示す図である。
【0083】
本実施例も、接合ツール6(ショルダ部7及びプローブ部8)に所定の角度をもたせて傾斜して被接合部材9(9a,9b)に挿入するケースである。
【0084】
図5では、接合方向の後方側を当接面部22aとし、接合方向の前方側を当接面部22cとしている。この場合、当接面部22の一部の面(22a)を、傾斜角に応じて傾斜面加工する。
【0085】
これにより、当接座標が現在当接座標に到達したとき当接面部22の傾斜面加工した部位(22a)が被接合部材9(9a,9b)の表面に対して平行な面状に当接する。
【実施例4】
【0086】
図6を参照して、本発明の実施例4の摩擦攪拌接合装置及び接合ツールの挿入量制限方法について説明する。図6は、本実施例のバックアップ挿入量制限機構部及びその作用を示す図である。
【0087】
本実施例も、接合ツール6(ショルダ部7及びプローブ部8)に所定の角度をもたせて傾斜して被接合部材9(9a,9b)に挿入するケースである。
【0088】
しかし、当接面部22は平面加工としている。図6では、接合方向の後方側を当接面部22dとし、接合方向の前方側を当接面部22cとしている。
【0089】
これにより、当接座標が現在当接座標に到達したとき当接面部22dのエッジ部が被接合部材の表面に当接する。接合部は摩擦熱により、塑性流動が生じて軟化していて、当接面部のエッジ部だけが被接合部材9(9a,9b)の表面に当接した状態であっても接合ツール6を進行することは可能である。
【0090】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1…摩擦攪拌接合装置、2…装置本体、3…Z軸上下動駆動機構部、4…主軸支持部、5…ツールホルダ(接合ヘッド)、6…接合ツール、7…ショルダ部、8…プローブ部(接合ピン)、9,9a,9b…被接合部材、10…載置台、11…制御部(制御装置)、12…X軸前後駆動機構部、13…X軸前後動駆モータ、14…主軸モータ、15…主軸、16…Z軸上下動駆動モータ、17…バックアップ挿入量制限機構部、18…主軸外周部、19…支持部材、20…連結部材、21…当接部材、22,22a,22b,22c…当接面部、23…第1の高さ調整部材、24…第2の高さ調整部材。
【要約】
【課題】
接合ツールを回転しながら被接合部材に挿入して摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置において、接合ツールを必要以上に被接合部材に挿入することなく、かつ、被接合部材の接合部近傍の入熱量が大きくなることにより接合ツールが目標とする挿入量を超えて被接合部材に挿入するのを防止可能な信頼性の高い摩擦攪拌接合装置を提供する。
【解決手段】
接合ツールを所定の回転速度で回転しながら被接合部材の適正位置まで挿入し、摩擦入熱により前記被接合部材を軟化させて摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置であって、前記接合ツールが前記適正位置を超えて前記被接合部材に挿入され、所定の制限位置に到達したときに、前記接合ツールの挿入量を制限することを特徴とする。
【選択図】 図2B
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9