(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】下肢の自動運動用装置
(51)【国際特許分類】
A61H 1/02 20060101AFI20220113BHJP
【FI】
A61H1/02 N
(21)【出願番号】P 2017010879
(22)【出願日】2017-01-25
【審査請求日】2019-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】517027125
【氏名又は名称】株式会社根本製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【氏名又は名称】大森 桂子
(74)【代理人】
【識別番号】100165135
【氏名又は名称】百武 幸子
(72)【発明者】
【氏名】清水 如代
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正志
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】田中 健太
(72)【発明者】
【氏名】水越 紀二
(72)【発明者】
【氏名】水越 力
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-34755(JP,A)
【文献】特開2000-233031(JP,A)
【文献】特開2007-83023(JP,A)
【文献】登録実用新案第3112700(JP,U)
【文献】特開2005-245742(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0060339(US,A1)
【文献】国際公開第2009/057518(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が自ら下肢を動かして行う自動運動に用いられる装置であって、
基体と、
前記基体に、中心軸が前記基体表面に対して垂直となるように固定されたシャフトと、
前記シャフトに回転可能に取り付けられ、前記シャフトの中心軸に対する角度が等しい2方向に延びるアームと、
前記アームの先端部に、前記基体表面に対して平行な回転軸及び前記基体表面に対して垂直でかつ前記シャフトの中心軸とは異なる回転軸によりそれぞれ独立して回転可能に取り付けられ、右足又は左足を支持する1対の足裏支持板と、
各足裏支持板の裏面側に設置され、前記基体表面に対して平行な回転軸による後方回転に対して反力を付与する反力付与部材と、
を少なくとも備え
、
前記使用者の下肢の動きに応じて、前記1対の足裏支持板がそれぞれ、前記シャフトを中心軸とした回転、前記基体表面に対して平行な回転軸を中心軸とした回転、及び前記基体表面に対して垂直でかつ前記シャフトの中心軸とは異なる回転軸を中心軸とした回転をする下肢の自動運動用装置。
【請求項2】
前記足裏支持板は、前記基体よりも上方に配置されている請求項1に記載の下肢の自動運動用装置。
【請求項3】
中央から前後方向に下方傾斜し、前記中央が使用者の膝裏に位置するよう配置され、膝を曲げた状態で前記使用者の下肢を保持する山型の台を備える請求項1又は2に記載の下肢の自動運動用装置。
【請求項4】
前記足裏支持板には、使用者の足を保持する保持具が取り付けられている請求項1~3のいずれか1項に記載の下肢の自動運動用装置。
【請求項5】
前記保持具に足底静脈叢圧迫部材が設けられている請求項4に記載の下肢の自動運動用装置。
【請求項6】
ベッドの柵に設置するためのフック部材を備える請求項1~5のいずれか1項に記載の下肢の自動運動用装置。
【請求項7】
前記足裏支持板の位置を前後方向及び上下方向に調整する調整機構を備える請求項1~6のいずれか1項に記載の下肢の自動運動用装置。
【請求項8】
前記自動運動は、足関節の背屈、底屈、内がえし、外がえし又はこれらのうち2種以上の複合運動である請求項1~7のいずれか1項に記載の下肢の自動運動用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者などが自ら下肢を動かして行う自動運動用の装置に関する。より詳しくは、床上で下肢自動運動を行うための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超高齢社会を迎え、変形性関節症は高齢者の健康寿命に大きく影響し、要介護状態につながる可能性が高くなっている。その対応策の1つである下肢人工関節置換術は、生活の質(Quality of Life:QOL)の大きな改善が見込めるが、その一方で、術後に下肢深部静脈血栓症(Deep Vein Thrombosis:DVT)を発症するリスクが高いという課題もある。
【0003】
下肢深部静脈血栓症(DVT)及びそれに続発する肺血栓塞栓症(Pulmonary Embolism:PE)は、外科手術における重大な合併症である。また、災害による避難生活などのように活動が制限された環境においても、DVTやPEの発症率が高くなるため、その予防策が必要となっている。
【0004】
現行のDVT予防ガイドラインでは、抗凝固薬などを用いた薬物的予防法と、早期離床、弾性ストッキングの着用、間欠的空気圧迫法及び下肢自動運動などの理学的予防法が推奨されている。その中でも特に自動運動により下肢静脈の血流を増加させる方法が、DVTやPEの予防には有効であるとされている。
【0005】
従来、下肢静脈の血流を増加させるため、他動的又は自動的に足関節を運動させる装置が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。特許文献1,2に記載の装置は、モータなどの駆動源を用いて足底保持板を動作させることにより、装着者の足関節の背屈及び伸展運動を補助する構成となっている。また、特許文献3に記載の装置は、患者が自力で行う自動運動用の装置であり、患者の足を保持する左右のホルダが、左右方向に旋回可能で、かつ前後方向には同期して移動する構成となっている。
【0006】
一方、足底固定部と、下腿に巻かれるように該下腿に固定される帯状体を有する装着部と、足底固定部と装着部とを接続して足関節を回動させる際に該回動に抗して付勢力を与える弾性材料からなる弾性部を備える予防具も提案されている(特許文献4参照)。この予防具を装着して足関節底屈運動を行うと、帯状体が腓腹部を圧迫して下腿の深部静脈の血流速度を上昇させると共に、弾性部が足関節底屈運動の負荷となるため、運動効果を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-302019号公報
【文献】特開2012-29787号公報
【文献】特開2013-34755号公報
【文献】特開2016-165365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述した従来の下肢運動用器具には、以下に示す問題点がある。ヒラメ筋を収縮・弛緩させる運動を行うと、血栓発症率が低下することが知られているが、特許文献1,2に記載の装置は、足首や脛を固定し、足関節のみを動かすものである。足関節の底屈には、腓腹筋とヒラメ筋が作用する。ヒラメ筋は、血栓の好発部位であり収縮させることが望ましいが、膝伸展位で足関節を底屈させると、腓腹筋が主動筋となるため、ヒラメ筋の収縮が十分に得られない可能性がある。
【0009】
また、特許文献1,2に記載の装置は、モータなどの駆動源が必要であるため、装置が大型で重量もあり、取り扱い性に劣る。更に、これらの装置で実施するのは他動運動であり、自動運動に比べてDVT予防効果が低い。
【0010】
一方、特許文献3に記載の装置は、患者自らが下肢を動かして自動運動を行うものであり、高いDVT予防効果が期待できるが、ヒラメ筋の収縮動作は十分とは言えず、運動効率の更なる向上が求められている。この特許文献3に記載の装置は、重量が重く、ベッドなどの寝具への取り付けや位置の調整が容易でないという課題もある。更に、特許文献4に記載の予防具は、床上での使用には不向きであり、装着に手間がかかるため、肢人工関節置換術直後の患者への適用は困難である。
【0011】
そこで、本発明は、床上で、血栓症の予防効果が高い下肢自動運動を行うことができる下肢の自動運動用装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る下肢の自動運動用装置は、使用者が自ら下肢を動かして行う自動運動に用いられる装置であって、基体と、前記基体に、中心軸が前記基体表面に対して垂直となるように固定されたシャフトと、前記シャフトに回転可能に取り付けられ、前記シャフトの中心軸に対する角度が等しい2方向に延びるアームと、前記アームの先端部に、前記基体表面に対して平行な回転軸及び前記基体表面に対して垂直でかつ前記シャフトの中心軸とは異なる回転軸によりそれぞれ独立して回転可能に取り付けられ、右足又は左足を支持する1対の足裏支持板と、各足裏支持板の裏面側に設置され、前記基体表面に対して平行な
回転軸による後方回転に対して反力を付与する反力付与部材とを少なくとも備え、前記使用者の下肢の動きに応じて、前記1対の足裏支持板がそれぞれ、前記シャフトを中心軸とした回転、前記基体表面に対して平行な回転軸を中心軸とした回転、及び前記基体表面に対して垂直でかつ前記シャフトの中心軸とは異なる回転軸を中心軸とした回転をするものである。
前記足裏支持板は、前記基体よりも上方に配置することができる。
本発明の自動運動用装置は、中央から前後方向に下方傾斜し、前記中央が使用者の膝裏に位置するよう配置され、膝を曲げた状態で前記使用者の下肢を保持する山型の台を備えていてもよい。
また、前記足裏支持板には、使用者の足を保持する保持具が取り付けられていてもよい。その場合、前記保持具には足底静脈叢圧迫部材が設けられていてもよい。
本発明の自動運動用装置は、ベッドの柵に設置するためのフック部材を備えていてもよい。
また、前記足裏支持板の位置を前後方向及び上下方向に調整する調整機構を備えていてもよい。
そして、前記自動運動は、例えば足関節の背屈、底屈、内がえし、外がえし又はこれらのうち2種以上の複合運動である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、床上で、静脈還流促進効果が高い自動運動を行うことができるため、血栓症の発症を効率的に予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態の自動運動用装置の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す自動運動用装置10の平面図である。
【
図3】A,Bは足関節の各運動を示す概念図である。
【
図4】
図1に示す自動運動用装置10の使用例を示す模式図である。
【
図5】保持具5a,5bの一例を示す模式図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態の自動運動用装置の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図7】本発明の第3の実施形態の自動運動用装置の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態の変形例の自動運動用装置の構成を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1実施形態に係る自動運動用装置について説明する。
図1は本実施形態の自動運動用装置の構成を示す斜視図であり、
図2は平面図である。本実施形態の自動運動用装置は、患者などの使用者が自ら下肢を動かして行う下肢自動運動を補助するものであり、
図1,2に示すように、基体1に固定されたシャフト2に、2方向に延びるアーム3a,3bが回転可能に取り付けられ、各アーム3a,3bの先端部にはそれぞれ足裏支持板4a,4bが取り付けられている。なお、前述した各部材は、例えば金属材料により形成することができる。
【0017】
[基体1]
基体1は、例えば平板状部材であり、その大きさや厚さは、特に限定されるものではないが、シャフト2、アーム3a,3b及び足裏支持板4a,4bなどの部材を安定して支持することができ、かつベッドなどへの設置や撤去が容易な大きさであることが望ましい。
【0018】
[シャフト2]
シャフト2は、その中心軸が基体1の表面に対して略垂直となるように配置され、ボルトなどの固定部材によって、基体1に固定されている。シャフト2は、アーム3a,3b、足台4a,4b及び保持具5a,5bなどを支持可能で、使用時にかかる負荷に耐えうる強度を有していればよく、その材質及び太さは特に限定されるものではない。
【0019】
[アーム3a,3b]
アーム3a及びアーム3bは、シャフト2の中心軸に対する角度が同じであれば、一体で形成されていても、別体で形成されていてもよい。一体で形成されている場合は、中心がシャフト2に取り付けられ、両端部に足裏支持板4a,4bが取り付けられる。また、アーム3a,3がそれぞれ別体で形成されている場合は、各アーム3a,3bの一方の端部がシャフト2に取り付けられ、他方の端部に足裏支持板4a,4bが取り付けられる。その場合、アーム3a,3bは、シャフト2を軸としてそれぞれ独立して左右方向に回転してもよいし、相互に同期して回転してもよい。
【0020】
また、アーム3a,3bは、例えば内角αを一定に保持しつつ、シャフト2を軸として左右方向に回転可能とすることもできる。ここでいう「内角α」とは、
図2に示すように、アーム3aとアーム3bとがなす角のうち角度が小さいものをいう。なお、内角αの大きさは、使用者の体型や状態に応じて適宜設定することができるが、130~150°とすることが好ましい。内角αがこの範囲になるようにアーム3a及びアーム3bの位置を設定し、回転運動中もこの角度を保持することにより、使用者は、臥位のまま、両下肢に負担をかけずに、ヒラメ筋を効率的に収縮させる運動を行うことができる。その結果、従来の装置よりも、血栓症の予防効果が高い下肢自動運動を行うことが可能となる。
【0021】
[足裏支持板4a,4b]
足裏支持板4aはアーム3aの先端部に、足裏支持板4bはアーム3bの先端部に、それぞれ取り付けられている。これら足裏支持板4a,4bは、基体1の上面よりも高い位置に設置し、床上で使用したときに足の位置が心臓よりも高くなるようにすることが好ましい。これにより、ヒラメ筋の収縮効果を高めて、下肢静脈の血流量を増加させることができる。なお、足裏支持板4a,4b高さは、使用者の体型や状態に応じて、適宜設定することができるが、血流促進の観点から、床面から5~10cmとすることが好ましい。
【0022】
また、足裏支持板4a,4bは、基体1の表面に対して平行な軸x1,x2及び基体1の表面に対して垂直な軸z1,z2に対して、任意の角度で回転可能となっている。そして、前述したシャフト2を中心軸とした回転、軸x1,x2を中心軸とした回転、軸z1,z2を中心軸とした回転の3つの回転動作により、足裏支持板4a,4bは、足関節の背屈、底屈、内がえし、外がえし及びこれらの複合運動に相当する動きが可能となる。
【0023】
図3A,Bは足関節の各運動を示す概念図である。一般に、健常者の足関節の可動域は、背屈が20°、底屈が45°、内がえしが20°、外がえしが20°とされている。そこで、本実施形態の自動運動用装置10では、足裏支持板4a,4bの表面が基体1の表面に対して垂直の位置にあるときを0°としたとき、足裏支持板4a,4bの回転角度(可動域)は、
図3Aに示す背屈側(主に、軸x
1による前方への回転)が20°~30°、底屈側(主に、軸x
1による後方への回転)に50~60°、
図3Bに示す内がえし側(主に、軸z
1による内側への回転)が20~30°、外がえし側(主に、軸z
1による外側への回転)が10~20°とすることが好ましい。これにより、健常者も効率的に自動運動を行うことが可能となる。
【0024】
ここで、「軸x1による前方への回転」とは、使用者側、即ち、紙面下側方向への回転であり、「軸x1による後方への回転」とは、紙面上側への回転である。また、「軸z1による内側への回転」は、足裏支持板4aは紙面右側への回転、足裏支持板4bは紙面左側への回転であり、「軸z1による外側への回転」は、その逆で、足裏支持板4aは紙面左側への回転、足裏支持板4bは紙面右側への回転である。
【0025】
[反力付与部材7]
本実施形態の自動運動用装置10は、足裏支持板4a,4bの裏面側に反力付与部材7が設置されており、足裏支持板4a,4bの基体1の表面に対して平行な軸x1,x2を中心軸とする後方回転、即ち、底屈運動に対して、反力が付与されるようになっている。一方、反力付与部材7は、足裏支持板4a,4bの基体1の表面に対して平行な軸x1,x2を中心軸とする前方回転の力を有しているため、背屈運動における負荷は軽減される。
【0026】
一般に、底屈運動では、ヒラメ筋又は腓腹筋が収縮し、背屈運動では前脛骨筋が収縮する。従って、反力付与部材7による負荷の付与及び軽減なしに、使用者が背屈及び底屈の自動運動を行うと、ヒラメ筋や腓腹筋よりも小さい前脛骨筋が先に疲労し、自動運動を継続できないことがある。これに対して、本実施形態の自動運動用装置10では、反力付与部材7により、背屈運動を軽減し、底屈運動に負荷をかけているため、下肢自動運動の効率が向上し、ヒラメ筋を効果的に収縮させることができる。
【0027】
この自動運動用装置10に用いられる反力付与部材7としては、バネ、油圧シリンダ及び空圧シリンダなどを用いることができるが、装置の小型化や反力の大きさの調整しやすさの観点から、バネが好適である。また、反力付与部材7による反力の大きさは、使用者の体型や状態に応じて、適宜設定することができるが、運動効率の向上と下肢への過剰負荷を防止する観点から、足裏支持板4a,4bのモーメント長さ(約20cm)への負荷荷重を0.98N(100gf)以上、使用者の体重以下の範囲、即ち、負荷トルクを0.2Nm以上、2×使用者の体重(kg)Nm以下の範囲にすることが好ましい。
【0028】
なお、反力付与部材7は、使用者ごと又は使用者のその日の状態に応じて、反力の大きさを調整できる反力調整機構が設けられていることが好ましい。また、本実施形態の自動運動用装置10は、足裏支持板4a,4bの裏面側に反力付与部材7が設けられているため、運動前の初期状態では、足裏支持板4a,4bと、基体1の表面とがなす角度が90°以下となっている。
【0029】
[保持具5a,5b]
本実施形態の自動運動用装置10は、必要に応じて、足裏支持板4a,4bに、使用者の足を保持するための保持具を取り付けることができる。なお、ここでいう「足」は、くるぶしよりも下の部分を指す。
図4は
図1に示す自動運動用装置10の使用例を示す模式図であり、
図5は保持具5a,5bの構成例を示す模式図である。
図4に示すように、保持具5a,5bは、例えば使用者の足裏と、甲と、踵を保持し、足裏支持板4a,4bに脱着可能な構造となっている。
【0030】
保持具5a,5bの素材は、特に限定されるものではなく、織物、不織布、合成樹脂、革などを使用することができるが、装着感から革製が好ましい。また、保持具5a,5bを足裏支持板4a,4bに取り付ける方法は特に限定されるものではないが、使用中にずれたり、外れたりしないように、保持具5a,5bは、螺子などを用いて、足裏支持板4a,4bに強固に固定されていることが望ましい。
【0031】
また、
図5に示すように、保持具5a,5bの足裏と接する面には、足底静脈叢を圧迫するための部材が設けられていてもよい。この足底静脈叢圧迫用部材15は、例えば低反発弾性フォームなどの低反発素材を用いることができる。このような足底静脈叢圧迫用部材15を設けることで、下肢自動運動による血流改善効果を高めることができる。なお、足底静脈叢圧迫用部材15の位置や大きさは、使用者に応じて適宜設定することができる。
【0032】
[台6]
図5に示すように、本実施形態の自動運動用装置10は、膝を曲げた状態で足裏支持板4a,4bに足裏を合わせ又は保持具5a,5bで足を保持して運動を行うが、その際、中央から前後方向に下方傾斜する山型の台6を用いて、膝の裏側を保持することもできる。これにより、術後患肢を保持できると共に、保持具を装着する際に適切な関節角度に設定することができる。
【0033】
[その他の部材]
本実施形態の自動運動用装置10には、前述した各部材に加えて、運動回数を数えるカウンター(図示せず)を設置することもできる。カウンターによる運動回数の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えば、足裏支持板4a,4bに磁気センサを搭載し、任意の底屈角度まで踏み込み動作を行うことができたら1回とカウントする方法などがある。
【0034】
[動作]
次に、本実施形態の自動運動用装置10の動作について説明する。本実施形態の自動運動用装置10を用いて自動運動を行う場合は、例えば基体1をベッドの床面などに設置し、使用者は、臥位のまま膝を20°~50°程度曲げた状態で、左右の足裏をそれぞれ足裏支持板4a,4bに合わせるか、又は左右の足部を保持具5a,5bで保持する。このように、膝を曲げた状態(膝屈曲位)で底屈運動を行うと、腓腹筋の筋活動が低下し、相対的にヒラメ筋活動が上昇するため、床上で、静脈還流促進効果が高い自動運動を行うことが可能となる。
【0035】
次に、使用者自ら、右足と左足を交互に動かす。例えば、使用者が右足を伸ばすと、足裏支持板4bはシャフト2、軸x
2及び軸z
2を中心軸として回転し、右足は
図3Aに示す底屈運動を行う。その際、アーム3a,3bは、シャフト2を中心軸として左回転するため、足裏支持板4bは使用者に近づく方向に動き、左足は背屈運動を行う。左足を伸ばした場合はその逆で、左足が底屈運動を行い、右足は背屈運動を行う。これにより、使用者は、足関節だけでなく、膝の屈曲及び伸展、股関節の屈曲及び伸展の動作を行うこととなる。
【0036】
また、本実施形態の自動運動用装置10は、基体1の表面に対して垂直な軸z1,z2に対して所定角度回転可能となっているため、足関節の内がえし及び外がえしの運動も可能である。その際、使用者は、股関節の内旋運動及び外旋運動を併せて行うことができる。更に、本実施形態の自動運動用装置10は、前述したシャフト2を中心軸とした回転、軸x1,x2を中心軸とした回転、軸z1,z2を中心軸とした回転の3つの回転動作が可能であるため、使用者は、足関節の背屈、底屈、内がえし及び外がえしの複合運動、並びに、膝屈曲伸展、股関節屈曲伸展内外旋といった下肢全体の複合運動を行うことができる。
【0037】
以上詳述したように、本実施形態の自動運動用装置は、左右の足裏支持板を、シャフト、基体表面に対して平行な中心軸、基体表面に対して垂直な中心軸で回転する構成としたため、足関節の背屈、底屈、内がえし、外がえし又はこれらの運動のうち2以上の複合運動を使用者自らが自動的に行うことが可能である。特に、足関節の背底屈運動に内返し及び外返し運動を加えた複合運動は、底背屈運動を単独で行う場合に比べて、下肢血流の改善効果が高いことが知られており(例えば、D. H. Sochart, K. Hardinge、” The relationship of foot and ankle movements to venous return in the lower limb”、THE JOURNAL OF BONE AND JOINT SURGERY、1999年7月、VOL. 81-B、NO. 4、pp.700-704参照。)、本実施形態の装置を用いて自動運動を行うことで、肢人工関節置換術直後の患者などでも高い血栓症の防止効果が期待できる。
【0038】
前述した従来の装置は、膝などの足首よりも上の部分を固定し、足関節底背屈や内外がえしといった足関節運動のみを行うものであった。これに対して、本実施形態の自動運動装置は、使用時には、足部挙上位及び膝屈曲位となるため、足関節の複合運動に加え、膝の屈曲・伸展、股関節の屈曲・伸展・内旋・外旋といった自動下肢複合運動が可能である。このように、床上臥位で、下肢全体の複合運動を可能にする装置は従来なく、本発明者の研究に基づいて発明された本装置独自の機構である。
【0039】
また、本実施形態の自動運動用装置は、足裏支持板にバネなどの反力付与部材を設置して、背屈方向の負荷を軽減し、逆に底屈方向に押し込んだ際に負荷がかかるようにしているため、背屈に使う前脛骨筋が先に疲労することによる自動運動の中断という公知技術の課題を克服することが可能となり、運動効率が向上し、ヒラメ筋を更に効果的に収縮させることができる。その結果、本実施形態の自動運動用装置を用いることにより、床上で、静脈還流促進効果が高い自動運動を行うことができ、血栓症の発症を効率的に予防することができると共に、筋力維持の効果も得られる。
【0040】
更に、本実施形態の自動運動用装置では、足裏支持板に保持具を取り付けると共に、保持具に足底静脈叢圧迫用部材を設けることにより、下肢自動運動による血流量増加効果を更に高めることもできる。
【0041】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る自動運動用装置について説明する。前述した第1の実施形態では、左右の足用の2つの足台を備える構成を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、1つの足裏支持板で左右両方の足を支持して運動することもできる。
図6は本実施形態の自動運動用装置の構成を示す斜視図である。なお、
図6においては、
図1に示す自動運動用装置10と同じ構成には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0042】
図6に示すように、本実施形態の自動運動用装置11は、アーム3a,3bで1枚の足裏支持板14を支えている以外は、前述した第1の実施形態の自動運動用装置と同様である。本実施形態の自動運動用装置11でも、足裏支持板14に保持具を取り付けることができる。その場合、第1の実施形態と同様に、右足用及び左足用の2つの保持具を取り付けてもよいが、右足を保持する部分と左足を保持する部分が一体化した保持具を用いることもできる。また、保持具の取り付け方法は、前述した第1の実施形態と同様に、使用中に保持具が移動するなどの不具合を避けるため、螺子など強固に固定できる方法を適用することが好ましい。
【0043】
前述した第1の実施形態の自動運動用装置は、左右の足を交互に動かす必要があるため、例えば、下肢の一方に麻痺がある患者には適用が困難である。これに対して、本実施形態の自動運動用装置11は、1枚の足裏支持板14で左右両方の足を支持し、左右の足を連動して運動させるため、一方の足に麻痺がある場合でも下肢の自動運動が可能となる。その結果、幅広い患者に適用することができる。
【0044】
なお、本実施形態の自動運動用装置11は、左右の足裏支持板が一体化されており、左右の足を連動して運動させるものであるため、基体表面に対して垂直な軸での回転はない。即ち、本実施形態の自動運動用装置11は、足裏支持板14が、シャフト2及び基体表面に対して平行な軸x1,x2の2つの中心軸で回転する。これにより、一方の下肢に麻痺がある場合でも、足関節の背屈及び底屈を患者自らが自動的に行うことが可能となる。
【0045】
また、本実施形態の自動運動用装置11は、足関節を内外反させることなく底背屈させることができるので、脳卒中患者に適用すると、内反尖足などの足部の変形を予防する効果も期待できる。更に、本実施形態の自動運動用装置11も、足裏支持板14にバネなどの反力付与部材7が設置されているため、運動効率が高く、ヒラメ筋をより効果的に収縮させることができる。なお、本実施形態における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0046】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る自動運動用装置について説明する。
図7は本実施形態の自動運動用装置をベッドに設置した状態を示す斜視図である。なお、
図7においては、
図6に示す自動運動用装置11と同じ構成には同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
図7に示すように、本実施形態の自動運動用装置20には、ベッド40の柵41など設置するための設置用部材21が、基体1に取り付けられている。
【0047】
[設置用部材21]
設置用部材21は、例えば
図7に示す側面視L字状のベース部材22と、ベッド40の柵41に掛けるためのフック部材23とで構成されている。自動運動用装置20のように、ベッド40の柵41に掛ける構成とすることで、設置及び撤去の作業が容易となり、更に、ひもやベルトで固定する場合に比べて、安定性も向上する。
【0048】
この設置用部材21のベース部材22には、基体1の前後方向の位置を調整するためのガイド孔と、高さ方向に位置を調整するためのガイド孔22aを設けることができる。その場合、基体1の対応する位置にも前後方向に伸びるガイド孔1aを設け、ベース部材22に対して基体1をスライドさせることにより、その前後方向の位置を調整することができる。
【0049】
同様に、フック部材23にも上下方向に伸びるガイド孔を設け、フック部材23に対してベース部材22をスライドさせることにより、基体1の上下方向の位置を調整することができる。これにより、使用者の体型やベッドの大きさに応じて足裏支持板14の位置を調整することができるため、使用者は常に最適な位置で自動運動を行うことが可能となる。
【0050】
なお、
図7では
図6に示す第2の実施形態の自動運動用装置に設置用部材を設けた場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、この設置用部材は、
図1に示す第1の実施形態の自動運動用装置にも適用可能であり、同様の効果が得られる。そして、本実施形態における上記以外の構成及び効果は、前述した第1及び第2の実施形態と同様である。
【0051】
(第3の実施形態の変形例)
次に、本発明の第3の実施形態の変形例に係る自動運動用装置について説明する。前述した第3の実施形態では、平板状の基体1に、側面視L字状のベース部材22を備える設置用部材21を取り付けた場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ベース部材と基体とが一体で形成されていてもよい。
図8は本変形例の自動運動用装置の構成を示す斜視図である。
図8に示すように、本変形例の自動運動用装置30は、側面視L字状の基体31に、フック部材33が取り付けられている。
【0052】
[基体31]
基体31は、底面にシャフト2の前後方向の位置を調整するためのガイド孔31aを設けてもよく、また、壁面のフック部材33が取り付けられる部分には、基体31の上下方向(高さ方向)の位置を調整するためのガイド孔31bを設けてもよい。ガイド孔31aの形状は、例えば直線状又は直線状孔に一定間隔で横孔が形成されている形状などとすることができる。
【0053】
一方、ガイド孔31bは、例えば、上下方向に伸びる直線状孔であり、フック部材33にも同様に上下方向に伸びるガイド孔を設け、フック部材33に対して基体31をスライドさせることで、基体31の上下方向の位置を調整することができる。なお、
図8には、前後方向に伸びるガイド孔31aが形成され、シャフト2を使用者に近づく方向又は遠ざかる方向に移動させる例を示しているが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、シャフト2を移動させたい方向に任意の形状のガイド孔を形成することができる。
【0054】
本変形例の自動運動用装置は、設置用部材の一部が基体と一体化しているため、部品数が少なく取り扱い性が向上する。また、本変形例も基体にガイド孔を設けることで、使用者の体型やベッドの大きさに応じて足台の位置を容易に調整することが可能でとなる。なお、本変形例における上記以外の構成及び効果は、前述した第3の実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0055】
1、31 基体
1a、22a、31a、31b ガイド孔
2 シャフト
3a、3b アーム
4a、4b、14 足裏支持板
5a、5b 保持具
6 台
7 反力付与部材
10、11、20、30 自動運動装置
15 足底静脈叢圧迫用部材
21 設置部材
22 ベース部材
23、33 フック部材
40 ベッド
41 柵