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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】青果物の最適鮮度制御システム
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/152 20060101AFI20220128BHJP
   F25D 23/00 20060101ALI20220128BHJP
   F25D 16/00 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
A23B7/152
F25D23/00 302F
F25D23/00 302M
F25D23/00 302Z
F25D16/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017165212
(22)【出願日】2017-08-30
(65)【公開番号】P2019041601
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000125680
【氏名又は名称】株式会社ケーイーコーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】593184743
【氏名又は名称】岩ヶ谷 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】梶本 丈喜
(72)【発明者】
【氏名】岩ヶ谷 孝
(72)【発明者】
【氏名】土屋 ▲清▼
【審査官】茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-108680(JP,A)
【文献】特開2004-198043(JP,A)
【文献】特開2014-081111(JP,A)
【文献】特開2003-114075(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0180953(US,A1)
【文献】特開平6-311843(JP,A)
【文献】特開平9-172959(JP,A)
【文献】実開平2-14984(JP,U)
【文献】鈴木芳夫 ほか,新蔬菜園芸学,朝倉書店,1993年,pp. 188-206
【文献】Sensors,2015年,Vol. 15, No. 3,pp. 4781-4795,doi: 10.3390/s150304781
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00-9/34
A23L 3/00-3/3598
F25D 17/04-17/08; 23/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保存する青果物の種別および大きさ、色具合等の特異内容と、保存温度及び湿度と、希望出荷時期を入力情報として利用し、温度と湿度を静的制御し、ガス組成を動的制御することで、青果物を保存した保存庫の内部環境を、温度・湿度・ガス組成の点から制御して、前記青果物を前記希望出荷時期に最適な鮮度にもってくる青果物の最適鮮度制御システムにおいて、
活性化ガスとしてエチレンガスとオゾンガスが噴出するようになっており、
システムコントロール部が、過去の保存実績による最適な保存条件をルール化し、知識化した保存知識ベースと、エチレンガスを含むガス代謝量に関する計測情報により、希望出荷時期に合わせて、前記活性化ガスの発生量を、以下の回帰モデルに従って、推論し、これに基づいて前記活性化ガスを発生させることを特徴とする最適鮮度制御システム。
鮮度維持期間=
切片+オゾン濃度×回帰係数1+エチレン濃度×回帰係数2+観測誤差
【請求項2】
請求項1に記載した最適鮮度制御システムにおいて、
システムコントロール部が、環境計測情報を学習用に取り込んで知識ベースのデータを更新最適化することを特徴とする最適鮮度制御システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載した最適鮮度制御システムにおいて、
システムコントロール部が希望出荷時期の変更要求を受けると、許容範囲内であれば変更することを特徴とする最適鮮度制御システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した最適鮮度制御システムにおいて、
保存庫の庫内に1または2以上の複数の観測機が移動可能に設置されており、
前記観測機からの環境計測情報を、無線受信によりシステムコントロール部が受け取ることで一元的なモニタリングを実現していることを特徴とする最適鮮度制御システム。
【請求項5】
請求項から4のいずれかに記載した最適鮮度制御システムにおいて、
システムコントロール部がネットワークを介してクラウドサーバと接続されており、前記クラウドサーバ上に知識ベースのデータベース部が存在していることを特徴とする最適鮮度制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生鮮食品のうち特に青果物の最適鮮度制御方法とその方法を実施するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
青果物(野菜、果物)、魚介類、肉類等の生鮮食品については、近年の消費者の鮮度志向に対応して、産地では、洗浄施設、低温保存施設と言った鮮度保持施設が数多く導入され、流通段階では、機能性フィルム等の利用等、鮮度保持対策が積極的に採られている。特許文献1には、低温保存施設の一例が紹介されている。
従って、鮮度を保持したままの広域販売が可能になって、生産量が拡大した産地も増加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-131872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
而して、鮮度保持対策は未だ万全であるとは言えない。生鮮食品は人工品と異なり、種別が同じでも生育環境等に由来して大きさ、色具合等に違いがあり、これらの違いに細やかに対応してこそ、その施設を有効に活用することになるからである。
しかも、出荷時期に品質を最適な状態にもってくることで、市場での商機に合わせて商品としての価値を最大限に高めることができるが、生鮮食品のうち特に青果物は、他と異なり、収穫後も1個の生命体として生命を維持するために呼吸をはじめとする様々な生理作用を続けており、特別な配慮が必要になっている。
【0005】
それ故、本発明は、上記課題を解決するために、青果物を希望出荷時期に最適な鮮度にもってくることができる最適鮮度制御方法と、その方法を効率良く実施できるコンピュータを利用したシステムを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
青果物を鮮度保持すると共に希望の出荷時期に最適な品質状態とするには、[温度・湿度]と、[ガス組成]の観点からの検討が必要である。
【0007】
[温度・湿度]
低温で保存すれば、大部分の青果物については、呼吸を遅らせ、蒸散作用を抑制できることから、効果的な鮮度保持手法として以前から採用されており、更に、葉菜類等、一部の蒸散作用が抑制されない種別については包装した上で保存したり、湿度を高めに設定したりする等の工夫を加えることも既に提案されている。
しかしながら、葉菜類にも様々なものがあり、結球性のものの方が非結球性のものより蒸散作用が抑制される。また、果菜類は概して厚いクチクラ層を持っているが、きゅうり、なすなどのような比較的生育期間の短いもののクチクラ層は薄く、クチクラ層を介しての蒸散が低温になっても激しい。
更に、同じ種別でも、全体のサイズが大きくなることで表面積が拡大すれば、蒸散が急速に進む。
【0008】
[ガス組成]
ガス組成についても、酸素濃度を低くし二酸化炭素濃度を高くすることでも呼吸を遅くできるとして、以前からガス組成の調整も鮮度保持に利用されている。
しかしながら、呼吸をはじめとする代謝系は変動する。例えば、果実類では肥大期までは減少傾向にあった呼吸が成熟期に入ると急激に増加傾向に転じる。
エチレンの化学式はC24と極めて単純で、常温では気体の物質があるが、この単純な物質が、青果物の老化・成熟に関与する植物ホルモンになっている。
果実類では上記のように成熟への転換期に呼吸量が増加するが、それに伴い、エチレンの排出量も増大するので、老化・成熟が加速する。
【0009】
一方、オゾンはその強い酸化力でエチレンを分解することができる。また、オゾンは、保存中に発生し易いカビを殺菌することができる。しかも、オゾンはどのような食品にも制約なく使用でき、自然に消滅して残留しないため、殺菌後に洗浄等の必要がなく、人体に毒性のない低濃度で十分な殺菌効果が得られる。
なお、上記ではエチレンを老化の点から捕えているが、成熟のトリガーとして利用することも考えられる。例えば、果実類に対してエチレンを外から与えると、それが引き金となって内成エチレンが急激に増加し、成熟を早めることができる。
【0010】
本発明では、上記を考慮して、収穫した青果物の最適な鮮度制御方法効果的に実現できるシステムを提案する。
すなわち、請求項1の発明は、保存する青果物の種別および大きさ、色具合等の特異内容と、保存温度及び湿度と、希望出荷時期を入力情報として利用し、温度と湿度を静的制御し、ガス組成を動的制御することで、青果物を保存した保存庫の内部環境を、温度・湿度・ガス組成の点から制御して、前記青果物を前記希望出荷時期に最適な鮮度にもってくる青果物の最適鮮度制御システムにおいて、活性化ガスとしてエチレンガスとオゾンガスが噴出するようになっており、システムコントロール部が、過去の保存実績による最適な保存条件をルール化し、知識化した保存知識ベースと、エチレンガスを含むガス代謝量に関する計測情報により、希望出荷時期に合わせて、前記活性化ガスの発生量を、以下の回帰モデルに従って、推論し、これに基づいて前記活性化ガスを発生させることを特徴とする最適鮮度制御システムである。
鮮度維持期間=
切片+オゾン濃度×回帰係数1+エチレン濃度×回帰係数2+観測誤差
【0012】
請求項の発明は、請求項に記載した最適鮮度制御システムにおいて、システムコントロール部が、環境計測情報を学習用に取り込んで知識ベースのデータを更新最適化することを特徴とする最適鮮度制御システムである。
【0013】
請求項の発明は、請求項またはに記載した最適鮮度制御システムにおいて、システムコントロール部が希望出荷時期の変更要求を受けると、許容範囲内であれば変更することを特徴とする最適鮮度制御システムである。
【0014】
請求項の発明は、請求項からのいずれかに記載した最適鮮度制御システムにおいて、保存庫の庫内に1または2以上の複数の観測機が移動可能に設置されており、前記観測機からの環境計測情報を、無線受信によりシステムコントロール部が受け取ることで一元的なモニタリングを実現していることを特徴とする最適鮮度制御システムである。
【0015】
請求項の発明は、請求項からのいずれかに記載した最適鮮度制御システムにおいて、システムコントロール部がネットワークを介してクラウドサーバと接続されており、前記クラウドサーバ上に知識ベースのデータベース部が存在していることを特徴とする最適鮮度制御システムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の最適鮮度制御方法によれば、収穫した青果物を最適に保存でき、希望出荷時期に最適な品質で出荷することができる。
また、システム化できるので、その方法を効果的に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る青果物の最適鮮度制御システムの構成図である。
図2図1の入力画面の説明図である。
図3図1のデータベース部に蓄積するデータの例である。
図4図1のシステムの改変例の構成図である。
図5図1のシステムの改変例の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態に係る青果物の最適鮮度制御方法では、保存する青果物の種別および大きさ、色具合等の特異内容と、保存温度・湿度と、出荷時期を入力情報として利用し、温度・湿度を静的制御し、ガス組成を動的制御しており、青果物を保存した保存庫の内部環境を、温度・湿度・ガス組成の点から制御することを特徴とする。
この最適鮮度制御方法は、コンピュータを利用してシステム化することで効率良く実現できる。
【0019】
本発明の最適鮮度制御システムは、保存庫に青果物を入れて保存する際に、保存庫の内部環境をコンピュータ制御するようになっている。図1は本発明の最適鮮度制御システム1の構成図であり、システムコントロール部3は、インターフェース、CPU、ROM及びRAMを備えており、記憶された制御プログラムを実行することで、システム全体の制御を行う。
青果物の種別及び特異内容(大きさ、色具合)と、保存条件(温度、湿度、期間)を入力情報として利用しており、この入力は、図2に示すように、画面に予め決められた内容を表示させ、プルダウン方式で選択することで促すようになっている。
また、インターフェースを介して環境計測センサ5から、温度・湿度の計測情濃度報と、二酸化炭素・酸素・エチレンなどのガスの計測情報を取得する。
【0020】
データベース部7には、長年の研究及び実験により蓄積されたデータ(例えば、岩田隆1993「収穫後の生理と品質保持、鈴木芳夫ほか著、新疏菜園芸学(188-206))(図3参照)に基づいて、種別毎に保存条件が登録されている。このデータベース部7と上記したシステムコントロール部3はパソコン21を利用して構成されている。
保存庫9の内部には、上記した環境計測センサ5と共に、冷水噴霧装置11が配設されており、この冷水噴霧装置11からの冷水の噴霧により温度と湿度を調整するようになっている。また、活性化ガスとして使用するオゾンガスとエチレンガスのそれぞれの噴出ノズル13、15も入り込んでおり、この噴出ノズル13、15からオゾンガスとエチレンガスが噴出するようになっている。
【0021】
冷水の供給機構としては種々のものが提案されているが、特開2001-221468の「氷蓄熱式冷水供給システム」では、冷却水槽に蓄氷槽を付設して両者の間に冷水の循環経路を形成しているが、冷却水槽で利用された冷水が直接蓄氷槽に戻ってこれから冷却水槽へ供給される冷水と直接混じることが無いよう工夫されたり、水の循環を停止したときにブラインと静止した水とが配管を介して長時間接触して配管内の水が凍結したりしないよう工夫されており、これの利用が推奨される。
【0022】
システムが稼働すると、保存庫9の内部では環境計測センサ5で温度・湿度が逐次監視されており、システムコントロール部3が入力条件を維持するために冷水噴霧装置11を適宜動作させて、静的に制御する。
【0023】
また、活性化ガスについては、オゾンガスとエチレンガスをそれぞれのボンベの開閉電磁弁を適宜動作させて、動的に制御する。活性化ガスの取り扱いは、従来は人間の勘に任せていたが、このシステムでは、推論エンジン17を利用している。
すなわち、過去の保存実績による最適な保存条件をルール化し、知識化した保存知識ベースと、環境計測センサ5からの温度・湿度・ガス代謝量に関するリアルタイムの環境計測情報により、特異内容と希望出荷時期に合わせて活性化ガスの発生量を推論し、これに基づいて活性化ガスの噴出ノズル13、15から活性化ガスを噴出させる。この保存知識ベースとして上記したデータベース部7が利用されている。
なお、動作の実行毎にそのデータは学習用に取り込まれて知識ベースが更新最適化しており、この更新された知識ベースが次回の保存に利用されるので、保存精度が逐次向上している。
【0024】
活性化ガスの発生量の推論には、機械学習の手法である回帰分析を用いたソフトウェア処理が一例として利用されている。内容としては、予め設定された規約規制に基づくルールベースにより確信度を求め、その確信度を利用して活性化ガス発生量を確定するものである。
具体的には、確信度とその確信度の算出に影響を及ぼす要因情報とを互いに対応付けた計測行列に当てはめ、この計測行列を回帰分析することで求めた回帰係数と、蓄積された保存知識ベースから取得したデータから抽出された要因情報の実測値である抽出情報とに基づいて確信度を算出している。
【0025】
回帰モデルは、「目的変数」として鮮度維持期間、「予測したい変数」を「説明する変数」であるオゾン濃度とエチレン濃度として構築しており、式にすると以下のものである。
鮮度維持期間=切片+オゾン濃度×回帰係数1+エチレン濃度×回帰係数2+観測誤差
【0026】
故に、庫内は恒温・恒湿状態を保ち、湿り気のある冷気で満たされることになり、青果物は瑞々しさそのままで保存される。また、当該青果物は希望出荷時期に最適な鮮度で活性化される。
なお、市場での商機に合わせようとすれば、最初に設定した希望出荷時期が途中でずれることもあるが、その場合には、図2のメニューを表示させ、変更することが可能である。但し、変更が可能か否かは、推論エンジン17を利用して推論した上で判断している。
【0027】
保存庫9の内部には、図4に示すように、環境計測センサ5に無線通信機能を持たせた観測機19、19、……を複数設置し、観測機19、19、……からの環境計測情報を、無線受信によりパソコン21の中継器23が受け取り、一元的なモニタリングを実現することも可能である。
また、図5に示すように、パソコン21やスマートフォン25側にシステムコントロール部3を備えさせ、クラウドサーバ27側にデータベース部を備えさせ、ネットワークを介して保存庫9の内部環境を制御するように構成することも可能である。
【0028】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、オゾンガスを、人間の立入らない夜間に比較的高濃度で供給して、除菌・殺菌を効率良く行うことも考えられる。
【符号の説明】
【0029】
1…最適鮮度制御システム 3…システムコントロール部 5…環境計測センサ
7…データベース部 9…保存庫 11…冷水噴霧装置
13、15…噴出ノズル 17…推論エンジン 19…観測機
21…パソコン 23…中継器 25…スマートフォン
27…クラウドサーバ
図1
図2
図3
図4
図5