(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】シリコーン混和物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20220113BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20220113BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220113BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20220113BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/04
C08K3/36
C08K5/14
C08J3/24 Z CFH
(21)【出願番号】P 2017214707
(22)【出願日】2017-11-07
【審査請求日】2020-07-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510017594
【氏名又は名称】株式会社SMPテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】517382725
【氏名又は名称】株式会社名南ゴム工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】林 俊一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 敏宏
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-060624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/04-83/12
C08K 3/36
C08K 5/14
C08J 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミラブル型シリコーンゴム、架橋サイトが含まれないシリコーン高重合体、加硫剤、およびゴム補強用シリカを含み、
前記ミラブル型シリコーンゴムおよび前記シリコーン高重合体の和を100重量部とした場合に、前記シリコーン高重合体が40重量部以上80重量部以下含まれ、
0℃~50℃における損失正接(Tanδ)が0.3以上0.6以下の硬化物となりえるシリコーン混和物。
【請求項2】
前記シリコーン高重合体が、ジメチルシリコーン高重合体である請求項1に記載のシリコーン混和物。
【請求項3】
前記加硫剤が過酸化物系加硫剤である請求項1または請求項2に記載のシリコーン混和物。
【請求項4】
オルガノシリコーンと無機キャリヤーの混合物であるオルガノシリコーン系滑剤をさらに含む請求項1~3のいずれかに記載のシリコーン混和物。
【請求項5】
前記ミラブル型シリコーンゴムおよび前記シリコーン高重合体の和を100重量部とした場合に、前記ゴム補強用シリカが0.1重量部以上20重量部以下含まれる請求項1~
4のいずれかに記載のシリコーン混和物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載のシリコーン混和物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン混和物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコーンゴムの需要は益々高まっており、優れた特性を有するシリコーンゴムの開発が望まれている。
【0003】
特許文献1では、熱硬化性シリコーンゴム組成物に高い帯電防止性能を付与する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5462425号公報(段落[0008])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、人体との親和性を備えたシリコーンゴムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のシリコーン混和物は以下の手段を採用する。
本発明は、ミラブル型シリコーンゴム、架橋サイトが含まれないシリコーン高重合体、加硫剤、およびゴム補強用シリカを含み、0℃~50℃における損失正接(Tanδ)が0.3以上0.6以下である硬化物となりえるシリコーン混和物およびその硬化物を提供する。
【0007】
上記発明の一態様において、前記シリコーン高重合体が、ジメチルシリコーン高重合体であってよい。
【0008】
上記発明の一態様において、シリコーン混和物は、オルガノシリコーン系滑剤をさらに含むことが好ましい。
【0009】
上記発明の一態様において、前記加硫剤は、過酸化物系加硫剤であってよい。
【0010】
上記発明の一態様において、前記ミラブル型シリコーンゴムおよび前記シリコーン高重合体の和を100重量部とした場合に、前記シリコーン高重合体が40重量部以上含まれるとよい。
【0011】
上記発明の一態様において、前記ミラブル型シリコーンゴムおよび前記シリコーン高重合体の和を100重量部とした場合に、前記ゴム補強用シリカが0.1重量部以上20重量部以下含まれるとよい。
【0012】
上記発明のシリコーン混和物は、ミラブル型シリコーンゴムを加硫剤で硬化させることで、0℃~50℃におけるTanδが0.3以上0.6以下である硬化物となりえる。そのような硬化物は、人体との親和性が高く、人肌に触れる部分に使用すると、快適な付け心地を実現する。
【0013】
架橋されたミラブル型シリコーンゴムおよび架橋サイトが含まれないシリコーン高重合体は、それぞれハードセグメントおよびソフトセグメントの役割を果たす。これらの比率を調整することで所望のTanδが発現するシリコーン混和物にできる。
【発明の効果】
【0014】
従来のシリコーンゴムにおいて、Tanδで材料を定義するニーズはなかったが、本発明は、人肌と同じ力学特性をもつ新素材のシリコーンゴムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係るシリコーン混和物およびその硬化物の一実施形態について説明する。
【0016】
本実施形態に係るシリコーン混和物の硬化物は、0℃~50℃における力学的損失正接(Tanδ)が、0.3以上0.6以下、好ましくは0.4以上0.6以下である。
【0017】
シリコーン混和物の硬化物のTanδは、ミラブル型シリコーンゴムの硬度設定と、ミラブル型シリコーンゴム/シリコーン高重合体の比率を最適化することで所望の値となる。
【0018】
シリコーン混和物は、ゴム成分、加硫剤、およびゴム補強用シリカを含む。ゴム成分は、ミラブル(millable)型シリコーンゴムおよび架橋サイトが含まれないシリコーン高重合体で構成される。シリコーン混和物は、滑剤を含んでもよい。
【0019】
シリコーン混和物は、ゴム成分100重量部に対し、シリコーン高重合体が40重量部以上含まれるとよい。シリコーン高重合体の含有量は、ゴム成分100重量部に対し、80重量部以下とする。
【0020】
ミラブル型シリコーンゴムは、ビニル基を含有したポリオルガノシロキサン組成物である。ミラブル型シリコーンゴムは、可塑性で測定されるような高粘度のシリコーンゴム組成物である。ミラブル型シリコーンゴムは、加硫剤(硬化剤)を配合して加熱硬化するシリコーンゴムである。シリコーン混和物において、ミラブル型シリコーンゴムは、エラストマーのハードセグメントにあたり、弾性体としての性質を支配する。
【0021】
ミラブル型シリコーンゴムは、高引裂き性ミラブル型シリコーンゴムであることが好ましい。本実施形態において「高引裂き性」は、引裂強さ(クレセント)が概ね30N/mm{kgf/cm}以上のものと定義する。高引裂き性ミラブル型シリコーンゴムは、湿式で製造される。高引裂き性ミラブル型シリコーンゴムは、乾式で製造された一般的なシリコーンゴムよりも引裂に対する耐性が高い。
【0022】
ミラブル型シリコーンゴムは、シリコーン混和物の硬化物が所望のTanδを得られる硬度のものを選択する。ミラブル型シリコーンゴムの硬度(タイプAデュロメーター)は、20以上90以下が好ましい。ミラブル型シリコーンゴムの硬度(JIS-A形)は、20°以上90°以下が好ましい。ミラブル型シリコーンゴムとして高硬度剤を選択すると、弾性体としての影響が強く出るためTanδが発現しにくくなる。JIS-A形は旧JIS(JIS K 6301)で使用されていていたスプリング式硬さ試験機により得られる硬度である。
【0023】
シリコーン高重合体は、架橋サイト(例えばビニル基)を有していない。シリコーン高重合体は、シリコーン混和物中に分散して存在する。シリコーン混和物の硬化物において、シリコーン高重合体は、エラストマーのソフトセグメントにあたり、粘性体としての性質を支配する。シリコーン高重合体は、ミラブル型シリコーンゴムが硬化(架橋)する際の反応促進には寄与しない。シリコーン高重合体は、ジメチルシリコーン高重合体であることが好ましい。
【0024】
加硫剤は、加熱することでミラブル型シリコーンゴムを架橋・硬化させる薬剤である。加硫剤は、過酸化物系加硫剤であるとよい。シリコーン混和物において、加硫剤の含有量は、ミラブル型シリコーンゴムを100%架橋させるために必要な量(理論値)以上2倍以下とする。シリコーン混和物において、ミラブル型シリコーンゴムはシリコーン高重合体により希釈されている。そのため、材料全体に対する架橋点が少ない。加硫剤が少なすぎると、架橋反応が進まず、硬化物としたときに所望の弾性を得られない。シリコーン混和物中の架橋サイトは限られている。そのため、加硫剤を多量にいれたとしても一定量を超えた分の加硫剤は、その量にみあった反応促進効果を期待できない。一定量を超えた加硫剤は、シリコーン混和物を希釈するだけとなり好ましくない。
【0025】
ゴム補強用シリカは、シリコーン混和物に硬度を付与するシリカ粒子である。ゴム補強用シリカは、シリコーン混和物中に分散されている。ゴム補強用シリカは、ミラブル型シリコーンゴムの架橋反応の促進には寄与しない。シリコーン混和物において、ゴム補強用シリカは、ゴム成分100重量部に対して、0.1重量部以上20重量部以下含まれるとよい。ゴム補強用シリカが多すぎると、ミラブル型シリコーンゴムが希釈されるため架橋反応が進まなくなる恐れがある。ゴム補強剤シリカが多くなると、変形時の白化が顕著となる。ゴム補強用シリカが少なすぎると、シリコーン混和物が所望の硬度を維持できなくなる。
【0026】
滑剤は、シリコーンゴムのタック性を抑え、滑り性を付与する添加物である。滑剤は、高温安定性に優れ、ミラブル型シリコーンゴムの架橋反応時に劣化しない。滑剤は、オルガノシリコーン系であることが好ましい。シリコーン混和物において、滑剤は、ゴム成分100重量部に対して、1重量部以上6重量部以下で含まれるとよい。
【0027】
ゴム補強用シリカおよび滑剤の種類は、ゴム成分に応じて相性のよいものが適宜選択されるとよい。
【0028】
シリコーン混和物は、ミラブル型シリコーンゴムの架橋反応を妨げず、かつ、硬化物のTanδに影響を与えない範囲で、機能性鉱物、顔料、香料等の添加物を含んでもよい。影響を与えないとは、所望の0℃~50℃における損失正接(Tanδ)が所望の範囲内に収まる程度を意味する。
【0029】
次にシリコーン混和物および硬化物の製造方法について説明する。
シリコーン混和物は、ニーダ、二本ロール等の公知の混練機を用いて製造できる。本実施形態では、二本ロール混練機を用いることとする。ロールを個別のモータで駆動し、各々の回転速度を変更することで、シリコーンゴムの混練に適した混練力に調整する。
【0030】
二本ロール混練機にミラブル型シリコーンゴムおよび加硫剤を投入し混練する。次に、シリコーン高重合体を投入し混練する。次に、ゴム補強用シリカおよび滑剤を投入し混練する。これにより、シリコーン混和物が得られる。
【0031】
シリコーン混和物を150℃~200℃で、5分~15分加熱し、ミラブル型シリコーンゴムを架橋させることで硬化物となる。
【0032】
シリコーン混和物は、圧縮成形、射出成形、トランスファー成形等により成形してもよい。
【実施例】
【0033】
(材料)
(1)ミラブル型シリコーンゴム
TSE260-3U、TSE260-4U、TSE2297U(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)
(2)シリコーン高重合体
TSE200(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、分子量約37万)
(3)加硫剤
TC8(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、2,5ジメチル2,5ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン)
(4)ゴム補強用シリカ
Nipsil LP(東ソー・シリカ株式会社製、沈殿法シリカ粒子(粉末))
(5)滑剤
WS280(Schill+Seilacher “Struktol” Aktiengesellschaft社製、エスアンドエス株式会社輸入代理、オルガノシリコーンと無機キャリヤーの混合物(粉末))
【0034】
上記材料を用いて、上記実施形態に従いシリコーン混和物を製造した。
【0035】
シリコーン混和物を成形型に入れ、180℃で15分、圧縮加熱して、ミラブル型シリコーンゴムを架橋させ、硬化物とした。
【0036】
上記で得られた硬化物について、物性を評価した。比較対象として、一般的なシリコーンゴム(モメンティブ社製/TSE221-4U)およびエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM/ランクセス社製、Keltan)を用意し、同様に物性を評価した。結果を表1に示す。
【0037】
【0038】
*1 タイプAデュロメーター
*2 JIS-A形
*3,4 硬化物から第3号ダンベル状試験片を打ち抜き、得られた試験片を用いて、JIS C3005に準拠して引張試験を行った。引張試験は、引張速度500mm/min、標線間隔20mmの条件にて行い、引張強さ(MPa)および破断伸び(%)を測定した。
*5 巾10mm、長さ40mmの試験片について、粘弾性測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DMS6100)を用い、測定温度を変えたときの試験片の貯蔵弾性率E’および損失弾性率E”を測定した。測定条件は、測定モード:引張、周波数1Hz、測定温度:-60~110℃、昇温速度:5℃/分とした。貯蔵弾性率E’に対する損失弾性率E”の比(E”/E’)をTanδとした。表1には30℃のときのTanδを示した。
*6 触感にて判断、○は良(good),△は可(passing)である。
【0039】
表2に、人体各部の皮膚粘弾性(力学的Tanδ)を示す。
【表2】
出典:高橋元次、高分子33巻1984
【0040】
実施例1~3のTanδは、0.3~0.6の範囲内だった。比較例1~3のTanδは、0.1以下だった。表2に示すように、人肌のTanδは、0.5付近である。実施例1~3のシリコーン混和物は、ひと肌に近い力学的Tanδ(振動吸収性)を持つことから、人肌に触れる部分に使用すると、自然な付け心地を実現し、快適さを感じることができる。
【0041】
本実施形態に係るシリコーン混和物およびその硬化物は、イヤープラグ、イヤホンのイヤーピース、メガネ鼻あて・耳あて類、ゴーグルシール部材、下着・運動着各種部材等人体・生体に接する部材に好適である。
【0042】
(着用試験)
表1の実施例2および比較例1のシリコーン混和物を用い、それぞれイヤープラグの形状に成形した硬化物を製造した。
【0043】
6名の被験者に、上記で製造したイヤープラグをそれぞれ3日間(各日3~5時間)着用してもらい、付け心地を5段階(5:大変良い、4:良い、3:普通、2:悪い、1:大変悪い)で評価してもらった。表3に、結果を示す。
【0044】
【0045】
表3によれば、実施例2(本発明のシリコーン混和物)で製造したイヤープラグは、比較例2(従来のシリコーン)製のイヤーププラグよりも付け心地がよいことがわかった。