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特許7002725花冠状第二リン酸カルシウム二水和物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】花冠状第二リン酸カルシウム二水和物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/32 20060101AFI20220113BHJP
   A61K 8/24 20060101ALI20220113BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20220113BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
C01B25/32 G
A61K8/24
A61Q11/00
C09K17/06 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017232420
(22)【出願日】2017-12-04
(65)【公開番号】P2019099420
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000190943
【氏名又は名称】新田ゼラチン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森岡 保夫
(72)【発明者】
【氏名】玉田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】袋布 昌幹
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 剛司
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-165108(JP,A)
【文献】国際公開第2011/064836(WO,A1)
【文献】特開昭56-155052(JP,A)
【文献】特開2007-031226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸および第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方を含む第1溶液を準備する工程と、
前記第1溶液に、コラーゲン加水分解物を添加することにより反応溶液を得る工程と、
前記反応溶液に対し、カルシウムイオンを含む塩基性溶液を添加することにより前記反応溶液のpHの値を上昇させ、前記コラーゲン加水分解物の存在下で、前記リン酸および前記第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方と、前記カルシウムイオンとを反応させることにより花冠状第二リン酸カルシウム二水和物を得る工程とを含む、花冠状第二リン酸カルシウム二水和物の製造方法。
【請求項2】
前記コラーゲン加水分解物は、前記リン酸および前記第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方に対し、10ppm以上10000ppm以下の質量濃度比で前記反応溶液に含まれる、請求項1に記載の花冠状第二リン酸カルシウム二水和物の製造方法。
【請求項3】
前記コラーゲン加水分解物は、その分子量が132以上10000以下である、請求項1または2に記載の花冠状第二リン酸カルシウム二水和物の製造方法。
【請求項4】
前記リン酸および前記第一リン酸カルシウム一水和物は、鉱物由来または脊椎動物の骨由来である、請求項1~3のいずれか1項に記載の花冠状第二リン酸カルシウム二水和物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花冠状第二リン酸カルシウム二水和物、これを用いた土壌改良剤、歯科用研磨剤、および花冠状第二リン酸カルシウム二水和物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第二リン酸カルシウム二水和物(以下、「DCPD」とも記す)は、従来から肥料、化粧料、医科用剤または歯科用剤の原材料などとして多方面に用途があることが知られている。最近では、土壌および水質を改善する改良剤としての有効性も見出されている。たとえば、特開2017-048269号公報(特許文献1)は、重金属などで汚染された土壌にDCPDを土壌改質材として適用することにより、土壌のpHを排水基準値である5.8~8.6の範囲内に収めたことを開示している。特開2015-226879号公報(特許文献2)は、DCPDを用いてフッ素含有廃水中のフッ素を低コストで除去する方法を提案している。
【0003】
DCPDは、一般にリン酸または第一リン酸カルシウム一水和物を含む酸性溶液に対し、消石灰を加えてpHを上昇させることにより製造される。この方法により製造されたDCPDは、二次元的な平板状に成長した結晶体として得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-048269号公報
【文献】特開2015-226879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようにDCPDには多方面の用途があるため、その物性の向上が要求されている。たとえば土壌および水質を改善する改良剤としての用途では、以下のような物性改善が求められている。すなわち上述のようなフッ素の除去能力(フッ素固定能)などの土壌および水中における不要物の吸着除去能(以下、「固液分離能」とも記す)の向上、容器への充填性を良好として大量に運搬することを可能とする運搬性の向上、ならびに優れた反応性を呈するための透水性の向上などである。しかしながら、DCPDについて望んだ物性を得ることには未だ至っておらず、その開発が切望されている。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされ、土壌および水中における固液分離能、運搬性、および透水性の性能が向上したDCPDである花冠状第二リン酸カルシウム二水和物、これを用いた土壌改良剤、歯科用研磨剤、および花冠状第二リン酸カルシウム二水和物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、リン酸または第一リン酸カルシウム一水和物を含む酸性溶液に対して消石灰を加える際に、コラーゲン加水分解物(所謂コラーゲンペプチド)を併せて添加した場合、微小粒子が放射状に凝集し、三次元的に特徴ある形状(花冠様)を有する第二リン酸カルシウム二水和物が得られることを知見した。この花冠状のDCPDの物性を評価したところ、運搬性、土壌および水中における固液分離能、ならびに透水性などの各種の物性が向上することが示され、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、微小粒子が放射状に凝集した花冠様の形状を有する花冠状第二リン酸カルシウム二水和物であって、上記花冠状第二リン酸カルシウム二水和物は、その体積基準の粒度分布をヒストグラムに基づく折れ線グラフとして表わす場合、上記折れ線グラフは、横軸に粒径を対数により示す階級をとり、かつ縦軸に粒子数を示す度数をとることにより表され、上記折れ線グラフは、正規分布に近似した上記粒度分布を示し、かつ上記度数が最大を示す上記階級よりも上記階級が小さい側にショルダー構造を有する。
【0009】
上記花冠状第二リン酸カルシウム二水和物は、以下の(A)、(B)および(C)からなる群より選ばれる少なくとも一の特性を示すことが好ましい。
(A)圧縮度が30%以下である。
(B)水中での沈降速度が1mL/秒以上である。
(C)透水係数が2.2×10-6以上である。
【0010】
本発明に係る土壌改良剤は、上記花冠状第二リン酸カルシウム二水和物を用いることが好ましい。
【0011】
本発明に係る歯科用研磨剤は、上記花冠状第二リン酸カルシウム二水和物を用いることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明に係る花冠状第二リン酸カルシウム二水和物の製造方法は、リン酸および第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方を含む第1溶液を準備する工程と、上記第1溶液に、コラーゲン加水分解物を添加することにより反応溶液を得る工程と、上記反応溶液に対し、カルシウムイオンを含む塩基性溶液を添加することにより上記反応溶液のpHの値を上昇させ、上記コラーゲン加水分解物の存在下で、上記リン酸および上記第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方と、上記カルシウムイオンとを反応させることにより花冠状第二リン酸カルシウム二水和物を得る工程とを含む。
【0013】
上記コラーゲン加水分解物は、上記リン酸および上記第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方に対し、10ppm以上10000ppm以下の質量濃度比で上記反応溶液に含まれることが好ましい。
【0014】
上記コラーゲン加水分解物は、その分子量が132以上10000以下であることが好ましい。
【0015】
上記リン酸および上記第一リン酸カルシウム一水和物は、鉱物由来または動物の骨由来であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
上記によれば、土壌および水中における固液分離能、運搬性、および透水性の性能が向上したDCPDである花冠状第二リン酸カルシウム二水和物、これを含む土壌改良剤、歯科用研磨剤、および花冠状第二リン酸カルシウム二水和物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(A)は、本実施形態に係る花冠状DCPDの電子顕微鏡像を示す図面代用写真であり、(B)は、従来(平板状)のDCPDの電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
図2】本実施形態に係る製造方法により製造される花冠状DCPDに関し、リン酸および第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方を含む第1溶液にコラーゲン加水分解物を添加することにより反応溶液を得る工程において、(A)は、対リン酸比で10ppmの質量濃度のコラーゲン加水分解物(平均分子量5000、以下、「コラーゲンペプチド」または「CP」とも記す)を添加した場合に得られる花冠状DCPDを、(B)は、対リン酸比で100ppmの質量濃度のCPを添加した場合に得られる花冠状DCPDを、(C)は、対リン酸比で1000ppmの質量濃度のCPを添加した場合に得られる花冠状DCPDを、(D)は、対リン酸比で2500ppmの質量濃度のCPを添加した場合に得られる花冠状DCPDを、(E)は、対リン酸比で5000ppmの質量濃度のCPを添加した場合に得られる花冠状DCPDを、(F)は、対リン酸比で10000ppmの質量濃度のCPを添加した場合に得られる花冠状DCPDを、それぞれ電子顕微鏡像として示す図面代用写真である。
図3】本実施形態に係る製造方法により製造される花冠状DCPDに関し、リン酸および第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方を含む第1溶液にコラーゲン加水分解物を添加することにより反応溶液を得る工程において、(A)は、対リン酸比で10ppmの質量濃度のCPを添加した場合に得られる花冠状DCPDの粒度分布を、(B)は、対リン酸比で100ppmの質量濃度のCPを添加した場合に得られる花冠状DCPDの粒度分布を、(C)は、対リン酸比で1000ppmの質量濃度のCPを添加した場合に得られる花冠状DCPDの粒度分布を、(D)は、対リン酸比で2500ppmの質量濃度のCPを添加した場合に得られる花冠状DCPDの粒度分布を、(E)は、対リン酸比で5000ppmの質量濃度のCPを添加した場合に得られる花冠状DCPDの粒度分布を、(F)は、対リン酸比で10000ppmの質量濃度のCPを添加した場合に得られる花冠状DCPDの粒度分布を、それぞれ示すグラフである。
図4】実施例および比較例の圧縮度を求めるために行なった密度測定試験の結果を示すグラフである。
図5】実施例および比較例の沈降速度を求めるために行なった沈降試験の結果を示すグラフである。
図6】実施例および比較例の透水係数を求めるために行なった透水試験の結果を示すグラフである。
図7】密度測定試験に用いた試験器具(測定容器)を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態について、さらに詳細に説明する。ここで、本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0019】
≪花冠状第二リン酸カルシウム二水和物≫
本発明は、微小粒子が放射状に凝集した花冠様の形状を有する花冠状第二リン酸カルシウム二水和物(以下、「花冠状DCPD」とも記す)に係る。従来の製造方法に基づけば、第二リン酸カルシウム二水和物(DCPD)は、図1(B)に示すような平板状に成長した結晶体として得られる。本発明者らは、従来の製造方法における所定の工程中にコラーゲン加水分解物(以下、「コラーゲンペプチド」とも記す)を添加するという改良を加えてDCPDを製造したところ、図1(A)に示すように微小粒子が放射状に凝集した状態で花冠様の形状を呈するDCPDが得られることを知見した。
【0020】
本発明において、花冠状DCPDの粒子が花冠様の形状を呈することになる詳細なメカニズムは不明であるが、以下の機構が考えられる。すなわちDCPDの粒子は、その成長に必要となる空間中にコラーゲンペプチドが存在する場合、コラーゲンペプチドの存在によって平板状に成長することが阻害される。一方向への成長が阻害されたDCPDは、成長の向きを変えて再び平板状に成長しようとする。しかしながら、再び成長しようとする空間中にもコラーゲンペプチドが存在する場合、その再成長も阻害される。
【0021】
このような粒子の成長と阻害とが繰り返される結果、図1(A)に示すような花冠様の形状を有する花冠状DCPDの粒子が形成されると推察される。図1(A)の電子顕微鏡像には、微小粒子が多数集合し、全体として放射状に凝集した状態であって、所定の粒径を有する花冠様粒子(花冠状DCPD)が示されている。
【0022】
花冠状DCPDは、その体積基準の粒度分布をヒストグラムに基づく折れ線グラフとして表わす場合、上記折れ線グラフは、横軸に粒径を対数により示す階級をとり、縦軸に粒子数を示す度数をとることにより表され、上記折れ線グラフは、正規分布に近似した粒度分布を示し、かつ度数が最大を示す階級よりも階級が小さい側にショルダー構造を有する。たとえば図3(A)には、後述する本実施形態に係る製造方法により製造される花冠状DCPDに関し、10質量%のリン酸試薬(等級:試薬特級、和光純薬工業株式会社製)に対し、10ppmの質量濃度比でコラーゲンペプチド(商品名:「SCP-5100」、新田ゼラチン株式会社製)を添加したときに得られる花冠状DCPDの体積基準の粒度分布が、折れ線グラフにより示されている。この折れ線グラフは、花冠状DCPDの体積基準の粒度分布を、横軸に粒径を対数により示す階級をとり、縦軸に粒子数を示す度数をとるヒストグラムとした後に、各階級における度数を結線することにより表される。なお、図3(A)および後述する図3(B)~図3(F)は、横軸(粒径)を対数で示した片対数グラフにより表されている。
【0023】
図3(A)の折れ線グラフは、正規分布に近似した粒度分布を示す。さらに度数が最大(以下、「第1ピーク」とも記す)を示す階級よりも階級が小さい側にショルダー構造を有している。具体的には、図3(A)において折れ線グラフは、度数が第1ピークを示す階級が100μm超140μm以下として区分した粒径範囲に含まれる。ショルダー構造を有している階級は、10μm超80μm以下として区分した粒径範囲に含まれる。
【0024】
本明細書において「ショルダー構造」とは、折れ線グラフとして表される釣鐘状の曲線上に、その傾きが変化することによって現われる肩状部をいう。この肩状部によって花冠状DCPDの粒度分布は左右対称の正規分布ではなくなり、正規分布に近似する分布を示す。さらに本明細書では、粒度分布を示すのに一般的な「体積基準」により、花冠状DCPDの相対粒子量(度数)を表わすものとする。
【0025】
花冠状DCPDの粒度分布において、体積基準の累積値が50%となるときの粒径D50(以下、「平均粒径D50」とも記す)は、特に限定されるべきではないが、60μm超120μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは60μm超80μm以下である。平均粒径D50が60μm超120μm以下である場合、後述する花冠状DCPDの各種の物性試験において特に優れた評価を得ることができる。
【0026】
さらに花冠状DCPDは、上記の折れ線グラフにおいて、度数が第1ピークを示す階級が70μm超140μm以下の粒径範囲に含まれることが好ましく、ショルダー構造を有する階級が10μm超90μm以下の粒径範囲に含まれることが好ましく、10μm超70μm以下の粒径範囲に含まれることがより好ましい。この場合も、後述する花冠状DCPDの各種の物性試験において特に優れた評価を得ることができる。
【0027】
本発明において、花冠状DCPDの体積基準の粒度分布は、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(商品名:「SALD2200」、株式会社島津製作所製)を用いて測定することができる。たとえば後述する製造方法により製造した花冠状DCPDを、試料として0.05~2グラム(g)計り取って懸濁液を作製し、これを上記装置の試料室に投入することにより、上記粒度分布を測定することができる。さらに上記装置に搭載されたソフトウエアによって、花冠状DCPDの粒度分布をヒストグラムにより表すことができる。
【0028】
本発明に係る花冠状第二リン酸カルシウム二水和物は、以下の(A)、(B)および(C)からなる群より選ばれる少なくとも一の特性を示すことが好ましい。これにより、土壌および水中における固液分離能、運搬性、および透水性の性能がより向上した花冠状DCPDを提供することが可能となる。
(A)圧縮度が30%以下である。
(B)水中での沈降速度が1mL/秒以上である。
(C)透水係数が2.2×10-6以上である。
【0029】
<圧縮度>
本発明に係る花冠状DCPDは、圧縮度が30%以下であることが好ましい。本明細書において圧縮度とは、JIS R 1628:1997(ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法)において「ファインセラミックス粉末の初期かさ密度およびタップかさ密度を求めるための測定方法」として規定された方法を用いて測定されるタップかさ密度と、初期かさ密度とを用いた[(1-初期かさ密度の測定値/タップかさ密度の測定値)×100](%)で算出したものをいう。圧縮度は、その値が大きい程タップにより圧縮される体積が大きいことを意味する。このため圧縮度が小さい花冠状DCPDであるほど、充填性に優れるために運搬性が向上することが理解される。本明細書において「タップ」とは、図7に示す測定容器の底部を机上面、床面などに軽く当てる操作をいう。
【0030】
圧縮度の具体的な測定方法は、JIS R 1628:1997の規定に沿うことによって、次のようにして行なうことが可能である。まず80℃で24時間の風乾により乾燥させた80gの花冠状DCPDを200mLメスシリンダー(株式会社宮原計量器製作所製)を用いて製作した図7に示す測定容器に投入し、その時点で上記メスシリンダーの目盛りを読んでかさ密度(g/mL)を算出する。続いて、上記測定容器を10回、100回、200回、300回、400回、600回の順にタップし、その都度上記メスシリンダーの目盛りを読んで花冠状DCPDの密度(g/mL)を算出する。このとき、花冠状DCPDのかさの変化が1mm未満となれば、その時点での密度を花冠状DCPDのタップかさ密度(g/mL)とする。花冠状DCPDのかさの変化が1mm以上となる場合、さらに100回タップする毎に上記メスシリンダーの目盛りを読んで花冠状DCPDの密度(g/mL)を算出することを繰り返す。その後、花冠状DCPDのかさの変化が1mm未満となった時点で、その密度を花冠状DCPDのタップかさ密度(g/mL)とする。
【0031】
花冠状DCPDは、より好ましくは圧縮度が27%以下である。圧縮度が30%を超える場合、充填性が優れるとはいえないために運搬性の向上効果が見込めない。圧縮度の下限値は、特に限定されるべきではないが、圧縮度が5%未満となると飛散性の増大に伴う環境への影響が懸念されるなどの観点から、たとえば5%とすればよい。
【0032】
<水中での沈降速度>
本発明に係る花冠状DCPDは、水中での沈降速度が1mL/秒以上であることが好ましい。本明細書において沈降速度とは、JIS A 1204:2009(土の粒度試験方法)において「沈降測定」として規定された方法を用いて測定される固体の沈降速度をいう。この沈降速度は、その値が大きい(速度が速い)程、上記固体が沈降しやすいことを意味する。このため水中での沈降速度の値が大きい花冠状DCPDであるほど、固液分離能に優れることが理解される。
【0033】
水中での沈降速度の具体的な測定は、JIS A 1204:2009の規定に沿うことによって、次のようにして行うことが可能である。まず80℃で24時間の風乾により乾燥させた花冠状DCPDを150g秤量し、目開き1mmの平網(線径0.8mm)を通じて凝集体を分散させた試料を1Lメスシリンダー(株式会社宮原計量器製作所製)に投入する。続いてこの1Lメスシリンダーに蒸留水を注ぐことにより、1Lメスシリンダー内の内容物の全体体積が1Lとなるようにする。その後、花冠状DCPDと蒸留水との温度が同一または略同一となるまで放置する(本実施形態では、1Lメスシリンダー内に花冠状DCPDと蒸留水とを混合してから1時間経過すれば、花冠状DCPDと蒸留水との温度が同一または略同一であるとみなした)。この放置の期間中は、花冠状DCPDと蒸留水との温度が同一となることを促進させるため、1Lメスシリンダー内の内容物を棒でかき混ぜるなどの操作を複数回行なうことが好ましい。
【0034】
花冠状DCPDと蒸留水との温度が同一または略同一となったら、1Lメスシリンダーに蓋をし、これを逆さにしたり戻したりする操作を1分程度続けることにより、1Lメスシリンダー内の内容物を蒸留水中に花冠状DCPDが均一に懸濁された懸濁液とする。その後、直ちに1Lメスシリンダーを静置する。
【0035】
次に、1Lメスシリンダー内の懸濁液に対し、1分毎に清澄界面高の変化を読み取る。懸濁液の清澄界面高が目視により変化なしと判断される時点をもって測定を終了する。さらに横軸に時間(分)、縦軸に清澄界面高(cm)をとるグラフとして上記測定の結果をプロットすることにより沈降曲線を描き、その曲線の傾きから沈降速度を算出することができる。
【0036】
花冠状DCPDは、上述のように好ましくは水中での沈降速度が1mL/秒以上である。水中での沈降速度が1mL/秒未満である場合、所望の固液分離能を得ることができない。水中での沈降速度の上限値は、特に限定されるべきではないが、常識的な費用対効果の観点から、たとえば2mL/秒とすることができる。
【0037】
<透水係数>
本発明に係る花冠状DCPDは、透水係数が2.2×10-6(m/s)以上であることが好ましい。本明細書において透水係数とは、「透水係数kt」で表され、JIS A 1218:2009(土の透水試験方法)において規定される比例定数をいう。この比例定数は、粉体に対する浸透流の見掛けの流速と動水勾配とを関係付ける数値であり、比例定数の値が大きい程、上記粉体の透水性が良く水中および土壌中での反応性が良いことを意味する。このため花冠状DCPDは、透水係数ktの値が大きい程、水中および土壌中での反応性に優れることが理解される。水中および土壌中での反応性に優れることは、水量または土壌量が少ない場合にも反応が進みやすいことも意味する。
【0038】
透水係数ktの具体的な測定および算出は、JIS A 1218:2009(土の透水試験方法)に沿うことによって、次のようにして行うことが可能である。まず外部と通じる孔が下底に形成され、かつ水平方向に所定の断面積Aを有する透水円筒、およびこの透水円筒を収容可能な容積を有する越流水槽を準備する。さらにJIS A 1210:2009(突固めによる土の締固め試験方法)に準拠することにより、透水円筒の下底に、乾燥させた花冠状DCPDを所定の長さLで締固めて収容する。次に、越流水槽内に花冠状DCPDが収容された透水円筒を配置した後、この越流水槽に水を満たし、透水円筒にも水を注ぐ。透水円筒の水位が一定になり、かつ越流水槽から越流する水量(流出水量)が一定になるのを待った後、所定の測定時間tの間に越流水槽から越流する流出水量Qを測定する。越流水槽の水と透水円筒の水との水位差hも測定する。最後に次の式(1)に、断面積A、花冠状DCPDの所定の長さL、流出水量Q、測定時間tおよび水位差hの数値をそれぞれ代入することにより、透水係数ktを算出することができる。
【0039】
【数1】
【0040】
花冠状DCPDは、上述のように好ましくは透水係数が2.2×10-6(m/s)以上である。透水係数が2.2×10-6(m/s)以上である場合、従来の平板状のDCPDに比べて水中および土壌中で反応性が良好となる。透水係数の上限値は、特に限定されるべきではないが、常識的な費用対効果の観点から、たとえば1×10-5(m/s)である。
【0041】
<土壌改良剤>
本発明は、上記花冠状第二リン酸カルシウム二水和物を用いた土壌改良剤にも係る。このような土壌改良剤は、上述した圧縮度、水中での沈降速度および透水係数などの物性を有する。このため運搬性、土壌および水中での固液分離能および反応性に優れる土壌改良剤として、土壌および水中における窒素固定、固液分離用途などに好適となる。
【0042】
<歯科用研磨剤>
本発明は、上記花冠状第二リン酸カルシウム二水和物を用いた歯科用研磨剤にも係る。このような歯科用研磨剤は、上述した圧縮度、水中での沈降速度および透水係数などの物性を有する。このため運搬性、口腔内での不要物の吸着除去および反応性に優れる歯科用研磨剤として、歯の研磨とともに口腔内における不要物の吸着除去用途に好適となる。
【0043】
≪花冠状第二リン酸カルシウム二水和物の製造方法≫
本発明に係る花冠状第二リン酸カルシウム二水和物の製造方法は、リン酸および第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方を含む第1溶液を準備する工程(第1工程)と、第1溶液にコラーゲン加水分解物を添加することにより反応溶液を得る工程(第2工程)と、反応溶液に対し、カルシウムイオンを含む塩基性溶液を添加することにより反応溶液のpHの値を上昇させ、コラーゲン加水分解物の存在下で、リン酸および第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方と、カルシウムイオンとを反応させることにより花冠状第二リン酸カルシウム二水和物を得る工程(第3工程)とを含む。
【0044】
本発明では上述した製造方法により、土壌および水中における固液分離能、運搬性および透水性などの性能が向上した花冠状DCPDを製造することができる。
【0045】
<第1工程>
第1工程は、リン酸および第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方を含む第1溶液を準備する工程である。このリン酸および第一リン酸カルシウム一水和物は、鉱物由来または脊椎動物の骨由来であることが好ましい。花冠状DCPDをより安定的に製造することができるからである。ただし、リン酸および第一リン酸カルシウム一水和物は、いずれも市販のものを用いることができる。
【0046】
第1溶液に含まれるリン酸および第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方の濃度は、花冠状DCPDを製造することができる限り、制限されるべきではない。しかしながらその濃度は、花冠状DCPDをより安定的に製造する観点から、リン酸および第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方の総和として0.5~20質量%であることが好ましい。さらに花冠状DCPDをより安定的に製造する観点から、第1溶液のpHは、2~4.5であることが好ましい。第1工程は、室温(15~35℃)で行なうことができる。
【0047】
<第2工程>
第2工程は、上記第1溶液にコラーゲン加水分解物を添加することにより反応溶液を得る工程である。コラーゲン加水分解物は、リン酸および第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方に対し、10ppm以上10000ppm以下の質量濃度比で反応溶液に含まれることが好ましい。さらにコラーゲン加水分解物は、その分子量が132以上10000以下であることが好ましい。これらの場合にも、花冠状DCPDをより安定的に製造することができる。
【0048】
上記反応溶液において、リン酸および第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方に対するコラーゲン加水分解物の添加量が10ppm未満である場合、花冠状DCPDを製造することができなくなる恐れがある。一方、上記反応溶液において、リン酸および第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方に対するコラーゲン加水分解物の添加量が10000ppmを超える場合、後述する第3工程における反応時に溶液の泡立ちが目立つようになり、第3工程における反応が効率よく進まない恐れがある。ただし、リン酸および第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方に対するコラーゲン加水分解物の添加量が10000ppmを超えても、花冠状DCPDを製造することは可能である。
【0049】
第1溶液に添加するコラーゲン加水分解物は、上述のとおり分子量が132以上10000以下であることが好ましい。分子量が132未満のコラーゲン加水分解物は、理論上存在し得ない。上記溶液に分子量が10000を超えるコラーゲン加水分解物を添加した場合、花冠状DCPDを効率的に製造することが困難となり、平板状のDCPDが製造されてしまう恐れがある。第2工程は、室温(25~35℃)で行なうことができる。コラーゲン加水分解物の分子量の単位は「Da(ダルトン)」である。さらにコラーゲン加水分解物について平均分子量を述べる場合、その平均分子量とは「重量平均分子量」を意味する。
【0050】
なお、コラーゲン加水分解物の分子量は、GB規格に沿った以下の測定条件の下で求めることができる。
カラム:TSKGel(登録商標)G2000SWXL
溶離液:45質量%アクリルニトリル(0.1質量%TFAを含む)
流速 :1.0mL/min
注入量:15μL
検出 :UV214nm
分子量マーカー:以下の5種を使用
Cytochrom C Mw:12000
Aprotinin Mw:6500
Bacitracin Mw:1450
Gly-Gly-Tyr-Arg Mw:451
Gly-Gly-Gly Mw:189。
【0051】
ここでコラーゲン加水分解物は、コラーゲンペプチドとも称される。コラーゲンペプチドは、従来公知のゼラチンの製造方法を用いることよって得ることができる。すなわち牛、豚、鶏、ダチョウ、魚の皮膚、骨、軟骨、腱、鱗などの原料に対して酸処理またはアルカリ処理をし、続いて熱抽出することによりコラーゲンペプチドを調製することができる。コラーゲンペプチドの分子量は、熱抽出することにより得たゼラチンに対し、たとえばペプシン、キモシン、カテプシンD、レニンなどのタンパク質分解酵素を加えることにより調整することができる。
【0052】
<第3工程>
第3工程は、上記反応溶液に対し、カルシウムイオンを含む塩基性溶液を添加することにより反応溶液のpHの値を上昇させ、コラーゲン加水分解物の存在下で、リン酸および第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方と、カルシウムイオンとを反応させることにより花冠状DCPDを得る工程である。第3工程では、上記反応溶液に対してカルシウムイオンを含む塩基性溶液を、0.5~20質量%濃度で添加することが好ましい。この濃度は、5~15質量%濃度であることがさらに好ましい。あるいは、任意の濃度のカルシウムイオンを含む塩基性溶液を反応溶液に添加することにより、そのpHを4.5~6.5の範囲に上昇させることが好ましい。これらの場合に、花冠状DCPDを効率よく安定的に製造することができる。
【0053】
第3工程では、形状に優れた花冠状DCPDを効率よく安定的に製造する観点から、上記反応溶液を撹拌しながら、約3~4時間をかけてカルシウムイオンを含む塩基性溶液を徐々に添加することにより、上記反応溶液のpHの値を上述の4.5~6.5の範囲に上昇させることが好ましい。カルシウムイオンを含む塩基性溶液は、カルシウムイオンを含む塩基性の溶液であれば特に限定されるべきではないが、使い勝手の観点から消石灰(水酸化カルシウム)の水溶液、水産業廃棄物などで得られる炭酸カルシウムなどの未利用カルシウム資源などを例示することができる。第3工程も、室温(25~35℃)で行なうことができる。
【0054】
<作用>
本発明に係る花冠状第二リン酸カルシウム二水和物は、上述した製造方法により製造されることが好ましい。上述した製造方法により製造された花冠状DCPDは、従来の平板状のDCPDに比して、土壌および水中における固液分離能、運搬性、および透水性の性能が向上している。このため、たとえば土壌改良剤として土壌および水中における窒素固定、ならびに固液分離用途などに好適となり、かつ歯科用研磨剤として歯の研磨とともに口腔内における不要物の吸着除去用途に好適となる。
【実施例
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下に説明する試料1~6の花冠状DCPDが実施例であり、試料Aおよび試料B(いずれも市販品)のDCPDが比較例である。
【0056】
≪花冠状DCPDの製造≫
<試料1>
(第1工程)
まず、リン酸および第一リン酸カルシウム一水和物のいずれか一方または両方を含む第1溶液として、10質量%のリン酸試薬(試薬特級、和光純薬工業株式会社製)を300mL準備した。
【0057】
(第2工程)
次に、上記第1溶液に対し、対リン酸比で10ppmの質量濃度のコラーゲン加水分解物(コラーゲンペプチド、商品名:「SCP-5100」、新田ゼラチン株式会社製、平均分子量5000)を添加することにより反応溶液を得た。この時点での反応溶液のpHは0.7であった。
【0058】
(第3工程)
上記反応溶液を撹拌しながら、上記反応溶液に対してカルシウムイオンを含む塩基性溶液である10質量%濃度の消石灰水溶液230mLを3時間かけて添加することにより、上記反応溶液のpHの値をpH6に上昇させた。これによりコラーゲン加水分解物の存在下で、反応溶液中のリン酸およびカルシウムイオンを反応させて、試料1の花冠状DCPDを得た。試料1の花冠状DCPDの電子顕微鏡像を図2(A)に示す。
【0059】
<試料2>
第1溶液に添加するコラーゲン加水分解物の質量濃度を、対リン酸比で100ppmとすること以外について試料1と同じ製造方法とし、試料2の花冠状DCPDを得た。試料2の花冠状DCPDの電子顕微鏡像を図2(B)に示す。
【0060】
<試料3>
第1溶液に添加するコラーゲン加水分解物の質量濃度を、対リン酸比で1000ppmとすること以外について試料1と同じ製造方法とし、試料3の花冠状DCPDを得た。試料3の花冠状DCPDの電子顕微鏡像を図2(C)に示す。
【0061】
<試料4>
第1溶液に添加するコラーゲン加水分解物の質量濃度を、対リン酸比で2500ppmとすること以外について試料1と同じ製造方法とし、試料4の花冠状DCPDを得た。試料4の花冠状DCPDの電子顕微鏡像を図2(D)に示す。
【0062】
<試料5>
第1溶液に添加するコラーゲン加水分解物の質量濃度を、対リン酸比で5000ppmとすること以外について試料1と同じ製造方法とし、試料5の花冠状DCPDを得た。試料5の花冠状DCPDの電子顕微鏡像を図2(E)に示す。
【0063】
<試料6>
第1溶液に添加するコラーゲン加水分解物の質量濃度を、対リン酸比で10000ppmとすること以外について試料1と同じ製造方法とし、試料6の花冠状DCPDを得た。試料6の花冠状DCPDの電子顕微鏡像を図2(F)に示す。
【0064】
<試料A>
試料Aとして、DCPD(太平化学産業株式会社製)を用いた。試料Aの電子顕微鏡像は図示を省略するが、図1(B)の電子顕微鏡像と同様の平板状のDCPDを観察することができた。
【0065】
<試料B>
試料Bとして、DCPD(米山化学工業株式会社製)を用いた。試料Bの電子顕微鏡像は図示を省略するが、図1(B)の電子顕微鏡像と同様の平板状のDCPDを観察することができた。
【0066】
≪花冠状DCPDの形状≫
図2(A)~図2(F)によれば、試料1~試料6の花冠状DCPDは、微小粒子が放射状に凝集した花冠様の形状を有すると理解される。
【0067】
≪花冠状DCPDの粒径分布≫
試料1~試料6、ならびに試料Aおよび試料Bに対し、それぞれ粒径分布を上述した装置を用いて測定した。その結果を表1、および図3(A)~図3(F)に示す。表1には、試料1~試料6、ならびに試料Aおよび試料Bの平均粒径D50、第1ピークを示す階級が含まれる粒径範囲およびショルダー構造を示す階級が含まれる粒径範囲をそれぞれ示した。ただし試料Aおよび試料Bの粒度分布では、第1ピークのみが示され、ショルダー構造は示されなかった。
【0068】
【表1】
【0069】
次に、試料1の花冠状DCPDの粒径分布を図3(A)に、試料2の花冠状DCPDの粒径分布を図3(B)に、試料3の花冠状DCPDの粒径分布を図3(C)に、試料4の花冠状DCPDの粒径分布を図3(D)に、試料5の花冠状DCPDの粒径分布を図3(E)に、試料6の花冠状DCPDの粒径分布を図3(F)にそれぞれ示した。試料Aおよび試料Bの粒径分布については、その図示を省略した。
【0070】
表1および図3(A)~図3(F)によれば、実施例に係る花冠状DCPDは、正規分布に近似する粒度分布を示し、かつ度数が第1ピークを示す階級よりも階級が小さい側にショルダー構造を有することが理解される。
【0071】
≪花冠状DCPDの圧縮度≫
試料5の花冠状DCPD、ならびに試料Aおよび試料BのDCPDに対し、上述した測定方法を用いてかさ密度およびタップかさ密度を測定することにより、これらの試料の圧縮度を算出した。これにより得られたかさ密度、タップかさ密度および圧縮度の各数値を表2に示し、これらの数値をヒストグラム化したものを図4に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2および図4によれば、実施例(試料5)に係る花冠状DCPDは、比較例(試料Aおよび試料B)に比してその圧縮度が小さく、充填性に優れるために運搬性が向上することが理解される。試料1~4および6の花冠状DCPDについても、図示を省略するが比較例に比してその圧縮度が小さいために、充填性に優れて運搬性が向上することが分かった。
【0074】
≪花冠状DCPDの水中での沈降速度≫
試料5の花冠状DCPD、ならびに試料Aおよび試料BのDCPDに対し、上述した測定方法を用いて水中での沈降速度を測定した。その結果を、時間経過とともに減少する清澄界面高を表わすグラフとして図5に示す。
【0075】
図5によれば、実施例(試料5)に係る花冠状DCPDは、その沈降速度が1.04mL/sであって、比較例(試料Aおよび試料B)の沈降速度(0.836mL/s)に比してその値が大きく、固液分離能に優れることが理解される。試料1~4および6の花冠状DCPDについても、図示を省略するが比較例に比して沈降速度の値が大きく、固液分離能に優れることが分かった。
【0076】
≪花冠状DCPDの透水係数≫
試料5の花冠状DCPDおよび試料AのDCPDに対し、上述した測定方法および上記式(1)を用いて透水係数を算出した。その結果を、DCPDを絞め固めた所定の長さLの逆数(cm-1)と時間当たりの流水水量(mL/s)との関係を表わすグラフとして図6に示す。この場合において透水係数は、グラフに描かれる直線の傾きとして得られる。
【0077】
図6によれば、実施例(試料5)に係る花冠状DCPDは、その透水係数が2.22×10-6[m/s]と算出され、比較例(試料A)の透水係数は2.03×10-6[m/s]と算出された。このため実施例(試料5)に係る花冠状DCPDの透水係数は、比較例(試料A)に比してその値が大きく、水中および土壌中での反応性に優れることが理解される。試料1~4および6の花冠状DCPDについても、図示を省略するが比較例に比して透水係数の値が大きく、水中および土壌中での反応性に優れることが分かった。
【0078】
したがって、本発明に係る花冠状DCPDは、土壌および水中における運搬性、沈降性(固液分離能)および透水性などの物性が従来の平板状のDCPDに比して優れていることが分かる。
【0079】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0080】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7