(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】衣類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A41H 43/00 20060101AFI20220113BHJP
D06J 1/02 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
A41H43/00 A
D06J1/02
A41H43/00 Z
(21)【出願番号】P 2019131704
(22)【出願日】2019-07-17
【審査請求日】2020-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390033891
【氏名又は名称】株式会社三宅デザイン事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】特許業務法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸子
【審査官】森本 哲也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0226688(US,A1)
【文献】特開平10-204772(JP,A)
【文献】特開2003-147606(JP,A)
【文献】特開2001-234463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41H 43/00
D06J 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
身頃の表地を構成する複数の生地片を準備し、
前記複数の生地片をプリーツの形成方向に繋ぎ合わせて、開いた生地を形成し、
前記開いた生地にプリーツ加工を施し、
プリーツ加工後の前記開いた生地において前身頃及び後身頃に相当する部位の上端部同士を縫い合わせて、肩部を形成する
工程を含むことを特徴とする衣類の製造方法。
【請求項2】
前記生地片は、袖を構成する生地片を含み、
前記肩部の形成後に、前記身頃に前記袖を縫い合わせる工程を更に含むこと、
を特徴とする請求項1に記載の衣類の製造方法。
【請求項3】
前記生地片は更に裏地及び芯地を含み、
前記開いた生地を形成することは、前記表地に前記裏地及び前記芯地を取り付けることを含むこと、
を特徴とする請求項1又は2に記載の衣類の製造方法。
【請求項4】
前記開いた生地に、所望の前記プリーツ加工を施すためのガイドを取り付ける工程
を更に含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の衣類の製造方法。
【請求項5】
150℃以上、210℃以下に加熱した加工機を用いて前記プリーツ加工を施すこと、
を特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の衣類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類の製造方法に関し、特にプリーツ加工が施される衣類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリーツ加工が施される衣類の製造方法が、種々提案されている。例えば、下記の特許文献1~3では、例えばブラウス、ワンピース、スカートなどの比較的薄手の衣類の製造工程において、生地又は生地片を折り畳んだ状態でプリーツ加工を施すことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平6-41667号公報
【文献】特開平10-204772号公報
【文献】特開2001-234463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えばジャージ生地のような比較的厚手の生地片を繋ぎ合わせることで作製される衣類について、上記の特許文献1~3のように生地を折り畳んだ状態でプリーツ加工することは、確実なプリーツの形成の観点からは現実的でない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、比較的厚手の生地片を繋ぎ合わせて作製される衣類について、生地に確実にプリーツ加工を施すことができる衣類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決すべく、本発明は、身頃の表地を構成する複数の生地片を準備し、前記複数の生地片をプリーツの形成方向に繋ぎ合わせて、開いた生地を形成し、前記開いた生地にプリーツ加工を施し、プリーツ加工後の前記開いた生地において前身頃及び後身頃に相当する部位の上端部同士を縫い合わせて、肩部を形成する工程を含むことを特徴とする衣類の製造方法を提供する。
【0007】
上記の構成を有する本発明の衣類の製造方法は、前記生地片が、袖を構成する生地片を含み、前記肩部の形成後に、前記身頃に前記袖を縫い合わせる工程を更に含むことが好ましい。
【0008】
また、上記の構成を有する本発明の衣類の製造方法では、前記生地片が更に裏地及び芯地を含み、前記開いた生地を形成することが、前記表地に前記裏地及び前記芯地を取り付けることを含むことが好ましい。
【0009】
また、上記の構成を有する本発明の衣類の製造方法は、前記開いた生地に、所望の前記プリーツ加工を施すためのガイドを取り付ける工程を更に含むことが好ましい。
【0010】
また、上記の構成を有する本発明の衣類の製造方法では、150℃以上、210℃以下に加熱した加工機を用いて前記プリーツ加工を施すことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、比較的厚手の生地片を繋ぎ合わせて作製される衣類について、生地に確実にプリーツ加工を施すことができる。また、多くのパーツを初めから所望の位置に配置した状態でプリーツ加工を施すことで、プリーツ加工されたジャケット等の衣類を一気に完成することができ、衣類の製造が効率化する。更に、パーツの継ぎ目でプリーツ模様が乱れることを抑制できるから、衣類に美しいプリーツ模様を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る衣類の製造工程を示すフローチャートである。
【
図2】衣類1を構成する生地片10の概略図(裏側から見た図)である。
【
図3】表地21A~21L,31A~31B,41A~41Bをプリーツ形成方向に繋ぎ合わせて生地20,30,40を形成した状態を示す図(裏側から見た図)である。
【
図4】生地20,30,40に裏地22,32,42を縫い合わせた状態を示す図(裏側から見た図)である。
【
図5】破線L1~L6,M1~M2,N1~N2に沿ってしつけ線を生地20,30,40に取り付けた状態を示す図(表側から見た図)である。
【
図6】プリーツ加工後の生地20,30,40の概略図(裏側から見た図)である。
【
図7】肩部及び襟部が形成された状態の身頃2、及び袖3,4の概略図である。
【
図9】プリーツ加工機60の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の代表的な実施形態に係る衣類の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために、必要に応じて寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表している場合もあり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0014】
1.衣類について
衣類の製造方法の説明に先立ち、本実施形態における衣類の概要を述べる。ここでは、衣類として、ジャケットなどの上着を想定しているが、本発明はこれに限られるものではない。
【0015】
本実施形態における衣類1は、
図8に例示するように身頃2及び袖3,4を含み、全体的にプリーツ加工を施されている。
図8において上下(肩側から腰側)に延びる破線はプリーツを表している。ただし、衣類1は袖3,4を含んでいなくてもよい。また、衣類1は、プリーツ加工を施されていない部位を含んでいてもよい。
【0016】
衣類1を構成する生地片10は、
図2に示すように、表地21(21A~21L),31(31A~31B),41(41A~41B)、裏地22(22A~22C)、32,42、及び、芯地23(23A~23L),33(33A~33B),43(43A~43B)を含んでいる。ここで、表地21,31,41はそれぞれ表地21A~21L、31A~31B、41A~41Bの総称であり、裏地22は裏地22A~22Cの総称であり、芯地23,33,43はそれぞれ芯地23A~23L、33A~33B、43A~43Bの総称であるものとする。
【0017】
また、
図3に示すように、表地21、裏地22及び芯地23は、身頃2を構成する生地20に含まれ、表地31、裏地32及び芯地33は、袖3を構成する生地30に含まれ、表地41、裏地42及び芯地43は、袖4を構成する生地40に含まれるものとする。
【0018】
表地21,31,41は、天然繊維からなる生地でも化学繊維からなる生地でよく、また、織物、編物及び不織布のいずれでもよいが、比較的厚手の生地であるものとする。ここでは、表地21,31,41は、ポリエステル繊維からなるジャージ生地であるものとするが、これに限られるものではない。
【0019】
裏地22,32,42もまた、天然繊維からなる生地でも化学繊維からなる生地でよく、織物、編物及び不織布のいずれでもよいが、ここではポリエステル繊維からなる織物であるものとする。
【0020】
芯地23,33,43は、表地21,31,41と裏地22,32,42との間に介在し、衣類1の芯となって衣類1に張りを与える。ここでは、芯地23,33,43は、接着芯地として表地21,31,41に貼り付けられる。
【0021】
接着芯地としての芯地23,33,43は、ここでは図示しないが、基布と、基布の表面に付着した熱可塑性の接着剤と、を含む。接着性及び接着ムラの観点からは、ドットタイプ、とりわけダブルドットタイプの芯地が好ましい。また、基布としては、例えばポリエステル、レーヨン等の化学繊維を平織したものを用いることができる。接着剤としては、例えばポリアミド系、ポリ塩化ビニル系(PVC)、ポリエチレン系、エチレン酢ビ共重合体(EVA)系、ポリエステル系のものを用いることができる。ただし、表地に接着された状態において接着剤が表地から染み出さないように、接着剤の粒径は適宜選択される。
【0022】
2.衣類の製造工程について
上述した衣類1は、
図1に示すように概ね次の工程で製造される。
- 生地片の準備:ステップS1
- 生地片の連結:ステップS2
- プリーツ加工:ステップS3
- 肩部等の形成:ステップS4
- 袖の取付:ステップS5
以下、上記の各工程を詳細に説明する。
【0023】
(1)生地片の準備:ステップS1
まず、生地片10を準備する。生地片10は、
図2に示すように、表地21A~21L,31A~31B,41A~41B、裏地22A~22C、32,42、及び、芯地23A~23L,33A~33B,43A~43Bを含み、型紙にしたがって裁断されている。
【0024】
(2)生地片の連結:ステップS2
次いで、生地片10をプリーツの形成方向に連結する。プリーツの形成方向とは、プリーツが形成されていく向きであり、プリーツが整列する方向とも言える。例えば、プリーツ加工が
図9のようなプリーツ加工機60で施される場合、プリーツの形成方向は、生地20,30,40をプリーツ加工機60に搬送する方向と一致し、一条のプリーツが延びる方向(上下方向)とほぼ直交することとなる。
【0025】
具体的に述べると、
図3に示すように、身頃(前身頃及び後身頃)2を構成する表地21(21A~21L)をプリーツの形成方向に繋ぎ合わせて、生地20を形成する。また、袖3,4の表地31,41(31A~31B,41A~41B)を、それぞれプリーツの形成方向に繋ぎ合わせて、生地30,40を形成する。この時点では、生地20,30,40は開いており、重なり合っている箇所はない。
【0026】
生地20の形成途中又は形成後に、
図3のように、表地21に芯地23(23A~23L)を貼り付けるとともに、
図4のように裏地22(22A~22C)を縫い合わせてもよい。また、生地30,40の形成途中又は形成後に、表地31,41に芯地33(33A~33B),43(43A~43B)を貼り付けるとともに、裏地32,42を縫い合わせてもよい。
【0027】
なお、生地20,30,40の形成順序は適宜変更されてもよい。例えば、表地21A~21E、21H~21L、裏地22A,22C、芯地23A~23E、23H~23Lを縫合して左右の前身頃の生地を形成し、表地21F,21G、裏地22B、芯地23F,23Gを縫合して後身頃の生地を形成し、その後、左右の前身頃の生地及び後身頃の生地を縫合して身頃の生地20を作製してもよい。
【0028】
次いで、生地20,30,40にガイドを取り付ける。ガイドは、生地20,30,40に所望のプリーツ加工を施すために設けられ、より具体的には、生地20,30,40にプリーツを歪みなく形成するべく、生地20,30,40を適切な向きでプリーツ加工機に搬送するために設けられる。ガイドはまた、生地20,30,40の表裏の把握を容易にするとともに、プリーツ加工時に裏地がずれないように仮固定する役割をも果たす。
【0029】
本実施形態では、ガイドとして、しつけ線(しつけ糸、しつけ縫い)を想定しているが、本発明はこれに限られるものではない。しつけ線は、プリーツの形成方向(つまりプリーツ加工機60の搬送方向)とほぼ直交するように設けられ、例えば
図5の破線L1~L6、M1~M2、N1~N2に沿って糸を生地20,30,40(例えば表地21,31,41)に縫い付けることで形成すればよい。
【0030】
しつけ線は、生地20,30,40がプリーツ加工機60に搬送される際に、プリーツ加工機60におけるローラ62の回転軸62Aにほぼ平行となる。したがって、作業者は、しつけ線がローラ62とほぼ平行になるように生地20,30,40をプリーツ加工機60にセットすればよい。
【0031】
(3)プリーツ加工:ステップS3
次いで、生地20,30,40にプリーツ加工を施す。本実施形態では、開いた状態の生地20,30,40をプリーツ加工機60に投入することで、生地20,30,40にプリーツ加工を施すこととする。プリーツ加工機60としては、例えば
図9のようなクリスタルプリーツマシンを想定しているが、本発明はこれに限られるものではない。なお、クリスタルプリーツマシンによって形成されるヒダには表と裏があるので、生地をプリーツマシンにセットする際、生地の表側と裏側とを正しく配置することに注意する。
【0032】
ここで、クリスタルプリーツマシンとしてのプリーツ加工機60は、
図9に例示するように、刃61、ローラ62及びバンド63を含んで構成されている。
【0033】
ローラ62は、所定の回転速度で回転し、供給された生地20,30,40を加熱しながら搬送する部材であり、ローラ62にはバンド63が所定の張力で架け渡されている。ローラ62は、生地20,30,40の搬送方向にほぼ直交する回転軸62Aを有している。ここで、搬送方向はプリーツの形成方向にほぼ一致している。
【0034】
また、ローラ62は、図示しないヒータを内蔵しており、生地20,30,40がローラ62とバンド63との間に送り込まれると、ヒータで加熱されたローラ表面とバンド63とで生地20,30,40を挟み込みながら(つまり生地を加圧しながら)、生地20,30,40を送り出す。
【0035】
ローラ62における搬送方向の手前側には刃61が配置されている。刃61は、ローラ62の回転軸62Aに平行に配置されるとともに、上下に揺動可能に支持されており、搬送されてきた生地20,30,40を折り込む。
【0036】
かかるプリーツ加工機60では、生地20,30,40は、バンド63とローラ62との間に送り込まれると、刃61によって折り込まれる。そして、折り込まれた生地20,30,40は、ローラ62の表面において加熱されながらローラ62とバンド63との間で加圧され、これにより生地20,30,40にヒダが形成される。
【0037】
このとき、比較的厚手の生地20,30,40に確実にプリーツを施すとともに風合いを保持するためには、プリーツ加工機60の設定温度が150℃以上、210℃以下であることが好適であり、とりわけ195℃以上、205℃以下であることが好ましい。ちなみに、一般的なプリーツ加工機の設定温度は130℃程度であるから、本実施形態において、厚手の生地にプリーツを形成するために高い温度設定を採用していることが容易に理解できる。なお、生地20,30,40をプリーツ加工機60に搬送するに際し、生地20,30,40を保護紙で挟み込んでもよい。
【0038】
図6は、プリーツ形成後の生地20,30,40の一例を示している。この図に示すように、プリーツ加工により生地20,30,40がプリーツ形成方向に縮んでいる。なお、
図6において破線はプリーツを示している。
【0039】
(4)肩部等の形成及び袖の取付:ステップS4,S5
次いで、プリーツ形成後の生地20において、前身頃及び後身頃に相当する部位の上端部SH1,SH2及びSH3,SH4同士をそれぞれ縫合して肩部を形成する。併せて、襟片C1,C2同士を縫合するとともに後身頃の首部C3とも縫合して、襟部を形成する(
図6及び
図7参照)。
【0040】
そして、プリーツ形成後の生地30,40をそれぞれ縫い合わせて管状の袖3,4を形成した後、身頃2に袖3,4を取り付ける。更に、ボタンホールの形成及びボタンの取付等を行うと、
図8のような衣類1が完成する。
【0041】
以上のように、本実施形態では、表地21,31,41、裏地22,32,42及び芯地23,33,43を縫合することで形成される比較的厚い生地20,30,40を開いた状態でプリーツ加工する。しかもプリーツ加工機60の設定温度は、プリーツ加工における一般的な設定温度よりも高温である。したがって、縫合箇所を含めた比較的厚手の生地に確実にプリーツを形成することが可能となる。また、多くのパーツを初めから所望の位置に配置した状態でプリーツ加工を施すことで、プリーツ加工されたジャケット等の衣類を一気に完成することができ、衣類の製造が効率化する。更に、パーツの継ぎ目でプリーツ模様が乱れることを抑制できるから、衣類に美しいプリーツ模様を施すことができる。
【0042】
また、生地20,30,40にしつけ線(ガイド)を取り付けることで、比較的長い生地20や矩形でなくプリーツ形成方向を把握しにくい生地30,40に対しても、所望のプリーツを形成することができる。
【0043】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、かかる設計変更した態様も全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【0044】
例えば、衣類としては、ジャケットのほか、ベスト、コート、ブルゾン、シャツが挙げられる。また、表地としては、ジャージ生地のような編物のほか、布帛つまり織物が挙げられる。
【符号の説明】
【0045】
1・・・衣類、
2・・・身頃、
3,4・・・袖、
10・・・生地片、
21,21A~21L,31,31A~31B,41,41A~41B・・・表地、
22,22A~22C,32,42・・・裏地
23,23A~23L,33,33A~33B,43,43A~43B・・・芯地