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特許7002774フッ素イオン濃度検出用試験紙、フッ素イオン濃度の測定方法及びフッ素イオン濃度測定装置
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  • 特許-フッ素イオン濃度検出用試験紙、フッ素イオン濃度の測定方法及びフッ素イオン濃度測定装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】フッ素イオン濃度検出用試験紙、フッ素イオン濃度の測定方法及びフッ素イオン濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20220113BHJP
   G01N 31/22 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
G01N31/00 Q
G01N31/22 121F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020052758
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152471
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-06-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】木村 睦
(72)【発明者】
【氏名】エウヘニオ オタル
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1815201(CN,A)
【文献】特開2005-156323(JP,A)
【文献】特開昭56-129856(JP,A)
【文献】特開昭48-051692(JP,A)
【文献】細川 厳,総説 天然水中のフッ素の分析化学的考察,分析化学,日本,1967年,Vol.16,No.11,Page.1259-1265
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00-31/22
G01N 1/00- 1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフッ素イオンを含む試料水のフッ素イオン濃度を測定するフッ素イオン濃度検出用試験紙であって、
前記フッ素イオン濃度検出用試験紙は、前記試料水に浸漬する浸漬部と、前記試料水が浸透する浸透部と、前記試料水が集束する集束部と、をこの順で備え、
前記集束部は、前記浸透部を基端とする先端方向に向かってテーパー状に幅が縮小した先端部を備え、
前記先端部は金属イオンを含有し、
前記浸漬部は前記金属イオンと錯体を形成可能な有機配位子を含有し、
前記有機配位子はチオシアン酸、カルセイン及びサリチル酸からなる群より選択される1種以上である、フッ素イオン濃度検出用試験紙。
【請求項2】
前記金属イオンは鉄イオン、ジルコニウムイオン及びアルミニウムイオンからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のフッ素イオン濃度検出用試験紙。
【請求項3】
前記フッ素イオン濃度検出用試験紙は不織布である、請求項1又は2に記載のフッ素イオン濃度検出用試験紙。
【請求項4】
前記フッ素イオン濃度検出用試験紙は、120°以下の角αと、前記角αとは異なる2つの鈍角と、隣り合う2つの直角を有する五角形状である、請求項1~のいずれか1項に記載のフッ素イオン濃度検出用試験紙。
【請求項5】
前記試料水のフッ素イオン濃度は20ppm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のフッ素イオン濃度検出用試験紙。
【請求項6】
少なくともフッ素イオンを含む試料水のフッ素イオン濃度を測定する方法であって、
請求項1~のいずれか1項に記載のフッ素イオン濃度検出用試験紙を試料水に浸漬する工程と、
前記フッ素イオン濃度検出用試験紙の色彩情報を計測してフッ素イオン濃度を測定する工程と、を備える、フッ素イオン濃度の測定方法。
【請求項7】
予め作成したフッ素イオン濃度と色彩情報との関係を示す検量線データに基づいてフッ素イオン濃度を測定する、請求項に記載のフッ素イオン濃度の測定方法。
【請求項8】
少なくともフッ素イオンを含む試料水のフッ素イオン濃度を測定するフッ素イオン濃度測定装置であって、
フッ素イオン濃度検出部を備え、前記フッ素イオン濃度検出部は、請求項1~のいずれか1項に記載のフッ素イオン濃度検出用試験紙を有する、フッ素イオン濃度測定装置。
【請求項9】
さらに、画像取得手段とフッ素イオン濃度判定手段を備える、請求項に記載のフッ素イオン濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素イオン濃度検出用試験紙、フッ素イオン濃度の測定方法及びフッ素イオン濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アフリカ東部にはアルカリ火山活動によって、高濃度のフッ素を含む火山岩類が分布している。特にタンザニアでは、その高濃度のフッ素を含む地中を通過してきた地下水や河川水が淡水水資源として使われている。このような淡水資源には高濃度のフッ素が含まれる。
【0003】
フッ素を含む淡水資源が生活用水や農業用水に使用されると、人体にフッ素が蓄積していく。
しかし、フッ素は急性影響又は慢性影響を示す毒物としての側面を持つ。フッ素の慢性毒性は強く、アフリカ諸外国をはじめ、飲料水のフッ素汚染によるフッ素中毒症が発生している。フッ素中毒症としては、斑状歯、骨硬化症等の症状があげられる。フッ素中毒症の治療は困難であり、重症の急性中毒例では死亡する場合もある。
【0004】
一方で、地理的又は経済的な水不足から、淡水資源を利用することが求められる。
淡水資源を利用するにあたり、淡水資源に含まれるフッ素濃度を測定する方法が求められる。
【0005】
例えば非特許文献1には、Tb/Eu-MOF(テルビウム/ユウロピウム金属有機構造体)の溶液とフッ素液とを混合したときに生じる色変現象から、フッ素濃度を測定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Visual Detection of Fluoride Anions Using Mixed Lanthanide Metal‐Organic Frameworks with a Smartphone Anal.Chem.2020,92,2,2097-2102 Publication Date(web):December 16,2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フッ素は淡水資源に微量に含まれる場合であっても人体に蓄積するため、フッ素中毒症の予防のためには低濃度のフッ素を測定する方法が求められる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、低濃度のフッ素イオン濃度を測定することができるフッ素イオン濃度検出用試験紙、フッ素イオン濃度の測定方法及びフッ素イオン濃度検出装置を提供することを課題とする。
本発明において「低濃度のフッ素イオン濃度」とは、20ppm以下のフッ素イオン濃度を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の[1]~[10]を含む。
[1]少なくともフッ素イオンを含む試料水のフッ素イオン濃度を測定するフッ素イオン濃度検出用試験紙であって、前記フッ素イオン濃度検出用試験紙は、前記試料水に浸漬する浸漬部と、前記試料水が浸透する浸透部と、前記試料水が集束する集束部と、をこの順で備え、前記集束部は、前記浸透部を基端とする先端方向に向かってテーパー状に幅が縮小した先端部を備え、前記先端部は金属イオンを含有し、前記浸漬部は前記金属イオンと錯体を形成可能な有機配位子を含有する、フッ素イオン濃度検出用試験紙。
[2]前記金属イオンは、鉄イオン、ジルコニウムイオン及びアルミニウムイオンからなる群より選択される1種以上である、[1]に記載のフッ素イオン濃度検出用試験紙。
[3]前記有機配位子は、チオシアン酸、カルセイン及びサリチル酸からなる群より選択される1種以上である、[1]又は[2]に記載のフッ素イオン濃度検出用試験紙。
[4]前記フッ素イオン濃度検出用試験紙は不織布である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のフッ素イオン濃度検出用試験紙。
[5]前記フッ素イオン濃度検出用試験紙は、120°以下の角αと、前記角αとは異なる2つの鈍角と、隣り合う2つの直角を有する五角形状である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のフッ素イオン濃度検出用試験紙。
[6]前記試料水のフッ素イオン濃度は20ppm以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のフッ素イオン濃度検出用試験紙。
[7]少なくともフッ素イオンを含む試料水のフッ素イオン濃度を測定する方法であって、[1]~[6]のいずれか1つに記載のフッ素イオン濃度検出用試験紙を試料水に浸漬する工程と、前記フッ素イオン濃度検出用試験紙の色彩情報を計測してフッ素イオン濃度を測定する工程と、を備える、フッ素イオン濃度の測定方法。
[8]予め作成したフッ素イオン濃度と色彩情報との関係を示す検量線データに基づいてフッ素イオン濃度を測定する、[7]に記載のフッ素イオン濃度の測定方法。
[9]少なくともフッ素イオンを含む試料水のフッ素イオン濃度を測定するフッ素イオン濃度測定装置であって、フッ素イオン濃度検出部を備え、前記フッ素イオン濃度検出部は、[1]~[6]のいずれか1つに記載のフッ素イオン濃度検出用試験紙を有する、フッ素イオン濃度測定装置。
[10]さらに、画像取得手段とフッ素イオン濃度判定手段を備える、[9]に記載のフッ素イオン濃度測定装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低濃度のフッ素イオン濃度を測定することができるフッ素イオン濃度検出用試験紙、フッ素イオン濃度の測定方法及びフッ素イオン濃度検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のフッ素イオン濃度検出用試験紙の模式図である。
図2】実施例において作成した検量線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための好ましい例について詳細に説明する。以下の説明は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。本発明の範囲内において、特に制限の無い限り、必要に応じて、数、量、材料、形状、位置、種類などを、変更、追加、省略、及び/又は交換することも可能である。
【0013】
<フッ素イオン濃度検出用試験紙>
本実施形態は、少なくともフッ素イオンを含む試料水のフッ素イオン濃度を測定するために用いられるフッ素イオン濃度検出用試験紙である。以下「フッ素イオン濃度検出用試験紙」を「試験紙」と略記する場合がある。
以下、本実施形態の試験紙について図面を参照して説明する。
【0014】
[全体構成]
図1に、本実施形態の試験紙1の一例の模式図を示す。
試験紙1は、浸漬部11と、浸透部12と、集束部13と、を備える。
試験紙1は、120°以下の角αと、前記角αとは異なる2つの鈍角β1及びβ2と、隣り合う2つの直角γ1及びγ2を有する五角形状である。
【0015】
浸漬部11は、試料水に浸漬する領域である。浸透部12は、試料水が等速に移動可能に設けられている。集束部13は、浸透部12を基端とする先端方向に向かってテーパー状に幅が縮小した先端部13aを備える。
【0016】
先端部13aは金属イオンを含有する。浸漬部11は先端部13aが含有する金属イオンと錯体を形成可能な有機配位子を含有する。
【0017】
金属イオンは有機配位子と錯体を形成して発色する。錯体としては例えばFe-チオシアン酸複合体が挙げられる。発色している錯体にフッ素イオンが作用すると、退色が生じる。
一方、金属イオンとフッ素イオンとの反応は、金属イオンと有機配位子との錯体形成反応よりも強い。このため、金属イオン、フッ素イオン及び有機配位子の共存下では、金属イオンと有機配位子と錯体形成反応は起こりにくく、発色は生じにくい。フッ素イオンと金属イオンとが反応したフッ化物は、金属イオンの種類にもよるが、淡い呈色を示す程度である。フッ素イオンと有機配位子とは反応しにくいため、フッ素イオンと有機配位子に起因する変色も生じにくい。
上述の機構から、試験紙1において、金属イオンと有機配位子との錯体形成反応により観察される発色はフッ素イオンの存在量によって変化する。このため、試験紙1を試料水に浸漬したときの先端部13aの色彩情報から、試料水中のフッ素イオン濃度を測定することができる。
【0018】
[詳細構成]
以下、試験紙1の各構成について説明する。
【0019】
(浸漬部11)
浸漬部11は、試験紙1のうち隣り合う2つの直角γ1及びγ2を含む領域である。試験紙1には、試料水に浸漬する位置を示すガイド線FGを備えていてもよい。図1の示す試験紙1を例に挙げると、四角形CDGFの領域を浸漬部14とし、ガイド線FGの位置まで試験紙を試料水に浸漬すればよい。試験紙1において四角形CDGFは、辺CFと辺DGの長さ等しい長方形である。
【0020】
線CFの長さは線CBの長さの50%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。また、線CFの長さは線CBの長さの5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。
線CFの長さの上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、線CFの長さは線CBの長さの5%以上50%以下、10%以上40%以下、20%以上30%以下が挙げられる。
【0021】
浸漬部11は、金属イオンと錯体を形成可能な有機配位子を含有する。
有機配位子はチオシアン酸、カルセイン及びサリチル酸からなる群より選択される1種以上である。
【0022】
浸漬部に含まれる有機配位子の含有量は、10マイクロモル以上100マイクロモル以下の範囲で適宜調整できる。
【0023】
(浸透部12)
浸透部12において、毛細管現象により試料水及び有機配位子が浸漬部11から集束部13まで等速に移動する。「等速に移動する」とは、試料水が浸透するときの浸透流速が等しいことを意味する。
試料水を等速に移動させるため、浸透部12は辺BF及び辺EGの長さが等しい四角形であることが好ましい。
【0024】
(集束部13)
試料水は、浸透部12を通り、集束部13の先端部13aにおいて集束する。
集束部13は、浸透部12を基端とする先端方向に向かってテーパー状に幅が縮小した先端部13aを備える。先端部13aは、金属イオンを含有する。
浸透部12から集束部13にかけての角β1及び角β2が同一角度の鈍角であることにより、浸透部12を基端とする先端方向に向かってテーパー状に幅が縮小し、頂点Aを有する先端部13aを形成している。
【0025】
集束部13の先端部13aの角度αは、120°以下であり、100°以下が好ましく、直角又は略直角であることが好ましい。ここで「略直角」とは、完全な直角である必要はなく、90°±5°の範囲を含むことを意味する。
【0026】
先端部13aの角度αが上記の範囲であることにより、有機配位子を含む試料水が先端部13aに集束する。
【0027】
金属イオンは鉄イオン、ジルコニウムイオン及びアルミニウムイオンからなる群より選択される1種以上である。
【0028】
先端部に含まれる金属イオンの含有量は、10マイクロモル以上100マイクロモル以下の範囲で適宜調整できる。
【0029】
本実施形態において、金属イオン1Mに対し、有機配位子を6M以上10M以下とすることが好ましい。
【0030】
フッ素イオンの存在下で錯体の退色が観察され、フッ素イオン濃度を測定することができる有機配位子と金属イオンの組み合わせは下記の通りである。
【0031】
・チオシアン酸と鉄イオンの組み合わせ。
・チオシアン酸とジルコニウムイオンの組み合わせ。
・チオシアン酸とアルミニウムイオンの組み合わせ。
・チオシアン酸と鉄イオン及びジルコニウムイオンの組み合わせ。
・チオシアン酸と鉄イオン及びアルミニウムイオンの組み合わせ。
・チオシアン酸とジルコニウムイオン及びアルミニウムイオンの組み合わせ。
・チオシアン酸と鉄イオン、ジルコニウムイオン及びアルミニウムイオンの組み合わせ。
【0032】
・カルセインと鉄イオンの組み合わせ。
・カルセインとジルコニウムイオンの組み合わせ。
・カルセインとアルミニウムイオンの組み合わせ。
・カルセインと鉄イオン及びジルコニウムイオンの組み合わせ。
・カルセインと鉄イオン及びアルミニウムイオンの組み合わせ。
・カルセインとジルコニウムイオン及びアルミニウムイオンの組み合わせ。
・カルセインと鉄イオン、ジルコニウムイオン及びアルミニウムイオンの組み合わせ。
【0033】
・サリチル酸と鉄イオンの組み合わせ。
・サリチル酸とジルコニウムイオンの組み合わせ。
・サリチル酸とアルミニウムイオンの組み合わせ。
・サリチル酸と鉄イオン及びジルコニウムイオンの組み合わせ。
・サリチル酸と鉄イオン及びアルミニウムイオンの組み合わせ。
・サリチル酸とジルコニウムイオン及びアルミニウムイオンの組み合わせ。
・サリチル酸と鉄イオン、ジルコニウムイオン及びアルミニウムイオンの組み合わせ。
【0034】
試験紙1の大きさは、適宜調整可能である。一例を挙げると、幅L1は20mm以上50mm、幅L2は10mm~30mmの範囲で調整可能である。幅L1は、幅L2よりも長いものとする。
【0035】
(試験紙1の材質)
試験紙1の材質としては、コットン、パルプ及び綿などの天然繊維が挙げられる。なかでもコットン又は綿等の植物繊維が好ましい。
また、セルロース繊維から構成される不織布を用いることが好ましい。このような不織布としては、例えば旭化成株式会社製のベンコットが挙げられる。
【0036】
[変形例]
本実施形態の試験紙は、集束部の厚みが基端から先端部13aにかけて薄くなる形状であってもよい。このような形状とすることにより、先端部13aにフッ素イオンを集中させることができる。
【0037】
(試料水)
本実施形態に用いる試料水は河川水、湖水、地下水又は井戸水等の淡水資源が挙げられる。
本実施形態において、河川、湖、地下水又は井戸水から採取したサンプルをそのまま試料水として用いる。本実施形態によれば、試料水の前処理等の工程は不要であるため、試料水を採取した現地でフッ素イオン濃度を測定することができる。測定に必要な試料水は、少なくとも10ml程度あればよい。
【0038】
本実施形態においては、20ppm以下の低濃度のフッ素イオンを含む試料水のフッ素イオン濃度を好適に測定できる。さらに10ppm以下の低濃度のフッ素イオンを含む試料水のフッ素イオン濃度を好適に測定できる。
【0039】
<フッ素イオン濃度の測定方法>
本実施形態は、少なくともフッ素イオンを含む試料水のフッ素イオン濃度を測定する方法である。
本実施形態のフッ素イオン濃度の測定方法は、前記本実施形態のフッ素イオン濃度検出用試験紙を試料水に浸漬する工程と、本実施形態のフッ素イオン濃度検出用試験紙の色彩情報を計測してフッ素イオン濃度を測定する工程と、を備える。
【0040】
[フッ素イオン濃度検出用試験紙を試料水に浸漬する工程]
試験紙の浸漬部を、試料水に浸漬する。試料液を浸透部において等速に浸透させる観点から、浸漬する工程においては、例えば図1に示す試験紙1の辺BC及び辺DEが試料水の水面に垂直又は略垂直となる方向に浸漬することが好ましい。「略垂直」とは、完全な垂直である必要はなく、辺BC及び辺DEは水面に対して±5°程度傾斜していてもよいことを意味する。
【0041】
図1に示す試験紙1のように、浸漬ガイド線FGが設けられている場合には、浸漬ガイド線FGの位置まで試験紙を試料水に浸漬する。
【0042】
試験紙を試料水の中に浸漬する時間は、1分間以上30分間以下が挙げられる。本実施形態においては、フッ素イオン濃度の検出時間を短くできるという観点から、浸漬時間は3分間以上20分間以下が好ましく、3分間以上10分間以下がより好ましく、3分間以上5分間以下がさらに好ましい。
本実施形態によれば、長くとも30分間以下の時間で試料水中のフッ素イオン濃度を測定することができる。
【0043】
[フッ素イオン濃度検出用試験紙の色彩情報を計測してフッ素イオン濃度を測定する工程]
前記本実施形態の試験紙は、金属イオンと有機配位子との錯体形成反応により観察される色彩情報がフッ素イオンの存在量によって変化する。例えば、金属イオンとして鉄イオンを含み、有機配位子としてチオシアン酸を含む試験紙を用いた場合、鉄イオンとチオシアン酸とが錯体を形成するとは赤色に発色する。ここにフッ素イオンが存在すると、フッ素イオンの存在量が多いほど赤色が退色していく。退色した部分の色を観察することで、試料水中のフッ素イオン濃度を測定できる。
【0044】
例えば、予め作成したフッ素イオン濃度と色彩情報との関係を示す比色スケールを参照することで、試料水中に含まれるフッ素イオン濃度を目視で測定することができる。
【0045】
また、退色した部分の色彩情報を画像解析することで、フッ素イオン濃度を測定することができる。
例えば、色彩情報を計測し、予め作成したフッ素イオン濃度と色彩情報との関係を示す検量線データに基づいてフッ素イオン濃度を測定することが好ましい。
【0046】
色彩情報とは、例えば、画像取得手段により得た画像から、色情報をピクセルごとに数値とした、R(赤色)、G(緑色)、及びB(青色)とした数値情報(RGB値)である。
各ピクセルの色は、R(赤色)、G(緑色)及びB(青色)の各色を0~255の値で指定してその値の組合せによって決まる。
【0047】
まず、全ピクセルについてR(赤色)、G(緑色)及びB(青色)のRGB値を求め、それぞれを合計しピクセル数で割って、R(赤色)、G(緑色)及びB(青色)それぞれについてRGB値の平均値を求める。
【0048】
例えば、Fe-チオシアン酸複合体は、青色と緑色の強度が高く、わずかに赤色を含む。Fe-F化合物は、青色と緑色の強度が低下し、わずかに赤色を含む。Fe-チオシアン酸複合体とFe-F化合物は共に赤色強度が同程度であるため、赤色をバックグラウンドとすると、青色強度と赤色強度の差がフッ素イオン濃度に比例することになる。
【0049】
このため、色彩情報として、青色強度と赤色強度の差(IB-IR)を利用し、青色強度と赤色強度の差(IB-IR)とフッ素イオン濃度との関係を示す検量線を作成してもよい。
【0050】
また、色彩情報として青色強度と赤色強度の比(IB/IR)を利用し、青色強度と赤色強度の比(IB/IR)とフッ素イオン濃度との関係を示す検量線を作成してもよい。
【0051】
検量線を作成する方法としては、演算処理を行うことにより、試料水中のフッ素イオン濃度と色彩情報との関係を、高い相関性で表す検量線を作成できるものであれば限定されない。
具体的には、このような検量線を作成するソフトウェアをインストールしたコンピュータが好ましい。
【0052】
<フッ素イオン濃度測定装置>
本実施形態は、少なくともフッ素イオンを含む試料水のフッ素イオン濃度を測定するフッ素イオン濃度測定装置である。
本実施形態のフッ素イオン濃度測定装置は、フッ素イオン濃度検出部を備える。フッ素イオン濃度検出部は、前記本実施形態のフッ素イオン濃度検出用試験紙を有する。
【0053】
本実施形態のフッ素イオン濃度測定装置は、さらに、画像取得手段とフッ素イオン濃度判定手段を備えることが好ましい。
画像取得手段としては、例えばデジタルカメラ、スマートフォン、CCDカメラ、画像取得機能を有するメディアタブレット端末等が挙げられる。
【0054】
本実施形態のフッ素イオン濃度測定装置は、さらに、フッ素イオン濃度判定手段を備えることが好ましい。
フッ素イオン濃度判定手段は、演算手段を用いてフッ素イオン濃度測定用検量線を作成し、得られた検量線から試料水のフッ素イオン濃度を判定する手段であることが好ましい。
【0055】
演算手段は、基準濃度色彩情報と、試料水色彩情報とから、試料水のフッ素イオン濃度を判定する手段であることが好ましい。
【0056】
基準濃度色彩情報は、2つ以上の異なる既知のフッ素イオン濃度溶液について、画像取得手段により得た画像から、色情報をピクセルごとに数値とした、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)の各数値情報である。
【0057】
試料水色彩情報は、試料水について、画像取得手段により得た画像から、色情報をピクセルごとに数値とした、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)の各数値情報である。
【0058】
基準濃度色彩情報と、それぞれの基準濃度色彩情報を与えた既知フッ素イオン濃度とから、フッ素濃度測定用検量線を作成する。
【0059】
得られたフッ素濃度測定用検量線情報と、試料水色彩情報とから、試料水のフッ素イオン濃度を判定する。
【0060】
上記の演算手段がプログラムにより実行されることが好ましい。
フッ素イオン濃度判定手段は、フッ素濃度測定用検量線のデータを保存する手段を備えることがさらに好ましい。
【実施例
【0061】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
<実施例1:フッ素イオン濃度検出用試験紙の製造>
試験紙として、5角形のベンコットン(旭化成株式会社製、BEMCOT M-1)を用いた。
図1に試験紙の模式図を示す。実施例1において用いた試験紙1は、5角形形状であって、L1:25mm、L2:15mm、α:90°、β1及びβ2:135°、γ1及びγ2:90°である。
【0063】
四角形CDFGを浸漬部14(CF及びDG:5mm)、四角形BFGEを浸透部13、三角形ABEを集束部12とした。
【0064】
20μLのチオシアン酸溶液を、浸透部14の全域に浸透させた。チオシアン酸溶液の濃度は、2.66Mとした。50℃のホットプレートに1分間静置して乾燥させた。
【0065】
20μLの鉄溶液を、集束部12の先端部含む領域に浸透させた。鉄溶液の濃度は、0.33mMとした。50℃のホットプレートに1分間静置して乾燥させた。
上記の操作により、フッ素イオン濃度検出用試験紙を製造した。
【0066】
<フッ素イオン濃度の測定>
得られたフッ素イオン濃度検出用試験紙を2枚のスライドガラスで挟持した。2枚のスライドガラスの主面間距離は1mmとした。
スライドガラスで挟持したフッ素イオン濃度検出用試験紙の浸漬部11を、浸漬ガイド線FGの位置まで、0-10ppmのフッ素イオンを含む試料水(5mL)にそれぞれ2分間浸漬した。
【0067】
≪検量線の作成≫
0-10ppmのフッ素イオンを含む試料水(5mL)にそれぞれ2分間浸漬した試験紙をデジタルカメラ(富士フイルム社製X-A5)で撮影し、それぞれのサンプルのデジタル画像を取得した。
得られたデジタル画像は、ピクセルごとにR(赤色)、G(緑色)及びB(青色)の色彩情報(RGB値)を有する。RGB値は、色を指定するための値である。各ピクセルの色は、R(赤色)、G(緑色)及びB(青色)の各色を0~255の値で指定してその値の組合せによって決まる。
【0068】
全ピクセルについてR(赤色)、G(緑色)及びB(青色)のRGB値を求め、それぞれを合計しピクセル数で割って、R(赤色)、G(緑色)及びB(青色)それぞれについてRGB値の平均値を求めた。
Fe-チオシアン酸複合体は、青色と緑色の強度が高く、わずかに赤色を含む。Fe-F化合物は、青色と緑色の強度が低下し、わずかに赤色を含む。Fe-チオシアン酸複合体とFe-F化合物は共に赤色強度が同程度であるため、赤色をバックグラウンドとすると、青色強度と赤色強度の差がフッ素イオン濃度に比例することになる。
【0069】
得られた検量線を図2に示す。
図2に示す通り、本実施形態の試験紙を用いた場合に、フッ素イオン濃度が増加するに従って、青色強度と赤色強度の差(IB-IR)が低下した。
フッ素イオン濃度が20ppm以下という低濃度の試料水を用いた場合でも、本実施形態の試験紙を用いると、フッ素イオンの存在を測定することが確認できた。
【0070】
得られた検量線と、フッ素イオン濃度検出用試験紙の色彩情報から、試料水に含まれるフッ素イオン濃度を測定することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…フッ素イオン濃度検出用試験紙、11…浸漬部、12…浸透部、13…集束部、13a…先端部
図1
図2