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特許7002785複合樹脂組成物、架橋性樹脂組成物、及び複合樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】複合樹脂組成物、架橋性樹脂組成物、及び複合樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/00 20060101AFI20220113BHJP
   C08F 251/02 20060101ALI20220113BHJP
   C08F 265/00 20060101ALI20220113BHJP
   C08F 2/22 20060101ALI20220113BHJP
   C08F 2/32 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
C08L51/00
C08F251/02
C08F265/00
C08F2/22
C08F2/32
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020188666
(22)【出願日】2020-11-12
【審査請求日】2020-11-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105877
【氏名又は名称】サイデン化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】篠田 雅晴
【審査官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-077143(JP,A)
【文献】特開2016-155897(JP,A)
【文献】特開2017-171900(JP,A)
【文献】特開2019-189824(JP,A)
【文献】特開2020-094180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 51/00 - 51/10
C08F 251/00 - 283/00
C08F 283/02 - 289/00
C08F 291/00 - 297/08
C08F 2/00 - 2/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性分散媒と、前記水性分散媒に乳化している樹脂粒子と、前記水性分散媒に分散しているセルロースナノファイバーと、を含有する複合樹脂組成物であって、
前記樹脂粒子は、架橋反応性高分子に取り囲まれたエチレン性不飽和単量体を含む単量体成分が重合した重合体粒子と、前記重合体粒子を覆う前記架橋反応性高分子で形成された保護層とを含む、マイクロエマルション重合物であり、
前記架橋反応性高分子は、反応性基を有する反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位を含むとともに、その構造単位として、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を、前記架橋反応性高分子の全質量を基準として、5~20質量%含み、
前記複合樹脂組成物は、前記架橋反応性高分子が有する前記反応性基と反応可能な架橋剤とともに用いられるものであり、
前記複合樹脂組成物中の前記水性分散媒、前記樹脂粒子、及び前記セルロースナノファイバーからなる組成物試料に前記架橋剤が添加されたものから形成される厚さ40μmの皮膜のヘイズ値Vと、前記組成物試料の不揮発分の質量を基準とした前記セルロースナノファイバーの含有量C(質量%)とから下記式(1)により求められる、前記セルロースナノファイバーの前記含有量1質量%当たりのヘイズ値VH1が5.0未満である複合樹脂組成物。
H1=V/C (1)
【請求項2】
前記複合樹脂組成物に前記架橋剤が添加されたものから形成される皮膜について、23℃の環境下、引張速度20mm/分の条件で測定される引張伸び(%)に対する、引張速度2mm/分の条件で測定される引張伸び(%)の比である伸度比が1.0以上である請求項1に記載の複合樹脂組成物。
【請求項3】
前記複合樹脂組成物に前記架橋剤が添加されたものの不揮発分濃度を10質量%に調整した試料について測定される25℃での表面張力が40mN/m未満である請求項1又は2に記載の複合樹脂組成物。
【請求項4】
前記複合樹脂組成物中の前記セルロースナノファイバーの含有量が、前記複合樹脂組成物中の前記樹脂粒子100質量部当たり、0.05~25質量部である請求項1~3のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項5】
前記架橋反応性高分子は、前記カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位における前記カルボキシ基の一部又は全部が中和されているものである請求項1~4のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項6】
前記架橋反応性高分子は、前記反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位として、前記カルボキシ基含有重合性単量体以外の反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位をさらに含む請求項1~5のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項7】
前記架橋反応性高分子は、前記反応性基含有重合性単量体以外の重合性単量体に由来する構造単位をさらに含む請求項1~6のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項8】
前記エチレン性不飽和単量体は、少なくとも(メタ)アクリル酸エステルを含み、
前記重合体粒子は、前記重合体粒子の全質量を基準として、前記(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を50質量%以上含む請求項1~7のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項9】
前記重合体粒子及び前記架橋反応性高分子の総質量に占める前記架橋反応性高分子の質量の割合は20~80質量%である請求項1~8のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項10】
前記架橋剤はジカルボン酸ジヒドラジドを含み、
前記反応性基含有重合性単量体はジアセトンアクリルアミドを含む請求項1~9のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項11】
乳化剤の含有量が、前記複合樹脂組成物の全質量を基準として、0.5質量%未満に制限されている請求項1~10のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項12】
前記樹脂粒子の平均粒子径は、10~200nmである請求項1~11のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物と、前記架橋剤とを含有する架橋性樹脂組成物。
【請求項14】
反応性基を有する反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位を含む架橋反応性高分子であって、前記反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位として、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を前記架橋反応性高分子の全質量を基準として5~20質量%含む前記架橋反応性高分子と、セルロースナノファイバーとを含有する水性液を得る工程と、
前記水性液に、エチレン性不飽和単量体を含む単量体成分を添加し、混合してマイクロエマルションを得た後に、ソープフリーマイクロエマルション重合を行い、前記エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含む重合体粒子と、前記重合体粒子を覆う前記架橋反応性高分子で形成された保護層とを含むマイクロエマルション重合物である樹脂粒子を合成する工程と、を含み、
前記水性液を得る工程は、溶剤中で、前記カルボキシ基含有重合性単量体を含む前記反応性基含有重合性単量体を含有する単量体成分を重合させて前記架橋反応性高分子を合成した後、塩基性物質による中和後に前記セルロースナノファイバーの水分散液を加えつつ水相に反転乳化することを含む複合樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
前記ソープフリーマイクロエマルション重合を油溶性重合開始剤の存在下で行う請求項14に記載の複合樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
前記マイクロエマルションを得るに当たり、水を含有せずに前記エチレン性不飽和単量体を含む単量体成分及び前記油溶性重合開始剤を含有する混合液を、前記水性液に添加する請求項15に記載の複合樹脂組成物の製造方法。
【請求項17】
前記水性液を得る工程は、前記反転乳化の後に、前記溶剤を除去することを含む請求項14~16のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合樹脂組成物及び複合樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバー(以下、「CNF」と記載することがある。)は、主に植物の細胞壁に由来するセルロース繊維をナノサイズまで細かく解きほぐす(解繊する)ことで得られる繊維素材である。CNFは、軽量、高強度、高弾性率、熱による変形が小さい等の多くの利点に加え、植物由来の様々なバイオマスから取り出すことができる点で環境負荷が小さく、持続型資源として注目されており、ゴムや樹脂等の他の素材との複合材料の開発も進められている。
【0003】
例えば特許文献1には、平均直径が3~400nmであるセルロースナノファイバーを樹脂中に含有し、透明化度と強度を両立した成形体の製造を可能とするべく構成された複合樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、ラテックスエマルジョンの保持力等を高くするために、天然ゴム系ラテックスやアクリル系エマルジョン等に、セルロースナノファイバーを所定量配合したラテックスエマルジョンが開示されている。
【0004】
さらに、特許文献3には、重合性化合物とセルロースナノファイバーとを溶媒に分散させた分散液中で、重合性化合物を重合させることにより得られる、複合樹脂組成物が開示されている。また、特許文献4には、セルロースナノファイバー分散液中で、エチレン性不飽和単量体を共重合させることで、エチレン性不飽和単量体からなる共重合体とセルロースナノファイバーを含有する複合体を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-167202号公報
【文献】特開2015-218228号公報
【文献】特開2014-105217号公報
【文献】特開2016-155897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CNF及び樹脂を含有する従来の複合樹脂組成物では、CNFと樹脂の混合時において、CNFが凝集したり、不均一に分散したりするなど、CNFの分散性が低いことがある。前述の特許文献3及び4では、所定の重合性化合物、CNF、乳化剤、及び水を含有する分散液中で、上記重合性化合物を重合させることにより、CNFの樹脂中での分散性を高めることが提案されている。
【0007】
一方、CNF及び樹脂を含有する複合樹脂組成物を用いて皮膜を形成する場合には、CNFを含有させたことによって皮膜の剛性(例えば引張強さ及び引張弾性率等)を充分に向上させうることが望ましい。しかし、本発明者らの検討の結果、上述の従来技術によっては、CNFを含有させても皮膜の剛性が充分に向上しない場合があることがわかった。これは、従来技術における複合樹脂組成物や皮膜の製造方法によっては、皮膜にCNFが充分に高いレベルで均一に分散し難い場合があることや、皮膜にひびやCNFの凝集物が生じる場合があることが原因と考えられる。
【0008】
そこで本発明は、樹脂及びセルロースナノファイバーを含有する複合樹脂組成物について、剛性が充分に向上した皮膜を容易に形成することが可能な複合樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水性分散媒と、前記水性分散媒に乳化している樹脂粒子と、前記水性分散媒に分散しているセルロースナノファイバーと、を含有する複合樹脂組成物であって、前記樹脂粒子は、架橋反応性高分子に取り囲まれたエチレン性不飽和単量体を含む単量体成分が重合した重合体粒子と、前記重合体粒子を覆う前記架橋反応性高分子で形成された保護層とを含み、前記架橋反応性高分子は、反応性基を有する反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位を含むとともに、その構造単位として、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を、前記架橋反応性高分子の全質量を基準として、1~50質量%含み、前記複合樹脂組成物中の前記水性分散媒、前記樹脂粒子、及び前記セルロースナノファイバーからなる組成物試料から形成される厚さ40μmの皮膜のヘイズ値Vと、前記組成物試料の不揮発分の質量を基準とした前記セルロースナノファイバーの含有量C(質量%)とから下記式(1)により求められる、前記セルロースナノファイバーの前記含有量1質量%当たりのヘイズ値VH1が5.0未満である複合樹脂組成物を提供する。
H1=V/C (1)
【0010】
また、本発明は、反応性基を有する反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位を含む架橋反応性高分子であって、前記反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位として、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を前記架橋反応性高分子の全質量を基準として1~50質量%含む前記架橋反応性高分子と、セルロースナノファイバーとを含有する水性液に、エチレン性不飽和単量体を含む単量体成分を添加してソープフリーマイクロエマルション重合を行い、前記エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含む重合体粒子と、前記重合体粒子を覆う前記架橋反応性高分子で形成された保護層とを含む樹脂粒子を合成する工程を含む複合樹脂組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂及びセルロースナノファイバーを含有する複合樹脂組成物について、剛性が充分に向上した皮膜を容易に形成することが可能な複合樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0013】
<複合樹脂組成物>
本発明の一実施形態の複合樹脂組成物(以下、単に「複合樹脂組成物」と記載することがある。)は、水性分散媒と、水性分散媒に乳化している樹脂粒子と、水性分散媒に分散しているセルロースナノファイバー(CNF)とを含有する。樹脂粒子は、架橋反応性高分子に取り囲まれたエチレン性不飽和単量体を含む単量体成分が重合した重合体粒子と、重合体粒子を覆う上記架橋反応性高分子で形成された保護層とを含む。上記架橋反応性高分子は、反応性基を有する反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位を含むとともに、その構造単位として、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を、架橋反応性高分子の全質量を基準として、1~50質量%含む。そして、複合樹脂組成物は、その複合樹脂組成物中の上記の水性分散媒、樹脂粒子、及びCNFからなる組成物試料から形成される厚さ40μmの皮膜のヘイズ値が、上記組成物試料の不揮発分の質量を基準としたCNFの含有量1質量%当たりの換算値(VH1)として、5.0未満である性質を有する。上記のCNFの含有量1質量%当たりのヘイズ値VH1は、下記式(1)により求められる。
H1=V/C (1)
:上記組成物試料から形成される厚さ40μmの皮膜のヘイズ値
:上記組成物試料の不揮発分の質量を基準としたCNFの含有量(質量%)
【0014】
一般的な従来の水系樹脂エマルションは、粒子形態がいわゆる単一型であるかコア・シェル型であるかに関わらず、樹脂粒子の周囲に、樹脂粒子に対して数質量%乃至十数質量%程度の乳化剤又は分散剤の層が存在することによって、安定な分散状態を保つことが可能であるものが多い。一方、本複合樹脂組成物中の樹脂粒子は、架橋反応性高分子に取り囲まれたエチレン性不飽和単量体を含む単量体成分が重合した重合体粒子と、その重合体粒子を覆う上記架橋反応性高分子で形成された保護層とを含む。この保護層をなす架橋反応性高分子は、重合体粒子を形成する単量体成分を取り囲み、その状態で当該単量体成分が重合したことで重合体粒子を覆っているものであり、かつ、カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を1~50質量%含むものである。そのため、保護層(架橋反応性高分子層)は、乳化剤や分散剤のように、複合樹脂組成物中で樹脂粒子を分散させる機能を有することが可能となる。これにより、複合樹脂組成物は、エマルション系の組成物であるものの、樹脂粒子を分散させるための乳化剤や分散剤によらずとも、樹脂粒子の安定な分散状態を保つことが可能である。
【0015】
また、この複合樹脂組成物は、上記のCNFの含有量1質量%当たりのヘイズ値VH1が5.0未満である性質を有する。上記ヘイズ値VH1が5.0未満であることは、CNFの分散状態が良好であることの指標を表す。仮に、複合樹脂組成物においてCNFの分散性が低い場合、その複合樹脂組成物による組成物試料から形成される皮膜のヘイズ値は、皮膜中に生じたCNFの凝集等に起因して、高くなる。これに対して、複合樹脂組成物においてCNFの分散状態が良好である場合、その複合樹脂組成物による組成物試料から形成される皮膜のヘイズ値は、皮膜中にCNFの凝集が生じ難いことから、低くなる。このように、上記ヘイズ値VH1は、複合樹脂組成物におけるCNFの分散状態を示す指標と捉えることができる。複合樹脂組成物においてCNFの分散性が良好であっても、CNFの含有量が多い場合には、皮膜においてCNFによる多重散乱・屈折が生じるためにヘイズ値は高くなる。この点を考慮して、上記指標には、CNFの含有量1質量%当たりに換算したヘイズ値VH1をとる。
【0016】
また、上記ヘイズ値VH1が、上記の組成物試料から形成される皮膜について測定される値をとることは、複合樹脂組成物には、必須成分以外の成分も含有されうるためである。すなわち、複合樹脂組成物は、例えば、顔料及び染料等の着色剤のように、皮膜の透明性やヘイズ値に大きな影響を及ぼす成分を含有してもよいものであるが、仮にそのような成分を含有する複合樹脂組成物による皮膜のヘイズ値では、CNFの分散状態を示す指標として採用し難い。そのため、上記ヘイズ値VH1は、複合樹脂組成物中の水性分散媒、樹脂粒子、及びCNFからなる組成物試料から形成される皮膜について測定される値をとる。なお、複合樹脂組成物が、実質的に、水性分散媒、樹脂粒子、及びCNFのみからなる場合や、必須成分以外に、皮膜のヘイズ値に大きな影響を及ぼす成分を含有しない場合には、その複合樹脂組成物を組成物試料とすることができる。
【0017】
本明細書において、ヘイズ値Vは、ガラス板と、当該ガラス板上に複合樹脂組成物中の水性分散媒、樹脂粒子、及びCNFからなる組成物試料を乾燥膜厚が40μmとなるように塗工し、23℃、50%RHの環境下で24時間乾燥させることで設けられた皮膜と、からなる試験板を用いて、当該試験板の皮膜表面について測定される値をとる。また、ヘイズ値Vは、ヘーズメーターを用いて、未塗工の上記ガラス板を基準として測定される値をとる。
【0018】
上述の通り、上記の複合樹脂組成物は、保護層により樹脂粒子の分散性が良好であり、かつ、CNFの分散性が良好であるため、この複合樹脂組成物によって、より高いレベルで均質な皮膜を形成することができる。その結果、この複合樹脂組成物によって、CNFを含有することによる剛性が充分に向上した皮膜を、造膜助剤の使用や加熱プレスによる製造方法等によらずとも、容易に形成することができ、それにより、環境負荷の低減により貢献することも可能である。
【0019】
複合樹脂組成物における樹脂粒子及びCNFの良好な分散安定性、並びに上記ヘイズ値VH1は、樹脂粒子における保護層に起因するところが大きいと考えられる。換言すれば、上記ヘイズ値VH1を満たす構成の保護層とすることができる。このような保護層を含む樹脂粒子は、後述する複合樹脂組成物の製造方法によって好適に製造されうる。具体的には、カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を1~50質量%含む架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液中でエチレン性不飽和単量体を含む単量体成分をソープフリーマイクロエマルション重合により重合させる。これにより、架橋反応性高分子に取り囲まれた上記単量体成分が重合した重合体粒子とそれを覆う架橋反応性高分子で形成された保護層とを含む樹脂粒子を得ることが可能である。この保護層(架橋反応性高分子層)によって、上記の特定のヘイズ値VH1を満たす構成とすることが可能になると考えられる。架橋反応性高分子が、重合体粒子を形成する単量体成分を取り囲み、重合体粒子を覆う保護層を形成しやすいことから、上記重合の際、上記架橋反応性高分子が有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位におけるカルボキシ基の一部又は全部が中和されていることが好ましい。これにより、架橋反応性高分子が、上記水性液中に一部溶解したり、親水性が高まったりするようになることで、重合体粒子を形成する単量体成分を取り囲みやすくなる。
【0020】
複合樹脂組成物は、その一態様において、複合樹脂組成物からなる皮膜について、引張速度20mm/分の条件で測定される引張伸び(%)に対する、引張速度2mm/分の条件で測定される引張伸び(%)の比である伸度比が1.0以上である性質を有することができる。上記の引張伸び(%)はいずれも23℃の環境下で測定される値をとる。引張試験において、一般的に熱可塑性樹脂は、引張速度が低速であるほど弱い力で塑性変形を起こし、その結果として、皮膜は破断する。これに対して、複合樹脂組成物は、CNFを含有することで弾性率と粘りの両方が高まりやすく、引張速度が低速である場合の方が、高速である場合に比べて、引張伸びが高くなる傾向にある。この原因は明らかではないが、CNFがOH基を直線状に多数有していることから、低速条件下で引張時に一旦切れた水素結合が別のOH基と再び水素結合したり、あるいは引力が働いて強度を発現させたりすることを繰り返すことで、結果として、上記伸度比が1.0以上となる傾向にあると考えられる。
【0021】
なお、本明細書において、皮膜とは、複合樹脂組成物、液状樹脂組成物、エマルション、塗料、接着剤、インク、粘着剤、及びコーティング剤等の膜形成能を有する材料(皮膜形成材料)から形成される膜をいう。
【0022】
複合樹脂組成物は、樹脂粒子の最外層をなす保護層が架橋反応性高分子であるため、一態様において、複合樹脂組成物の不揮発分濃度を10質量%に調整した試料について測定される25℃での表面張力が40mN/m未満である性質を有することができる。この構成を有する複合樹脂組成物は、表面張力が低いことで、皮膜を設ける対象物である基材に対して、良好な濡れ性及び密着性を有しやすい。この観点から、上記の表面張力は、39.9mN/m以下であることが好ましく、39.5mN/m以下であることがより好ましく、また、下限は特に限定されないが、例えば22.5mN/m以上とすることができる。
【0023】
本明細書において、複合樹脂組成物の不揮発分濃度を10質量%に調整した試料の25℃での表面張力は、JIS K2241:2017の6.3.3の規定に準じて、ウィルヘルミー法(ウィルヘルミー表面張力計)により測定される値をとることができる。複合樹脂組成物の不揮発分濃度を10質量%とした試料の値をとるのは、複合樹脂組成物に含有されうる添加剤の影響を緩和するためである。測定対象である複合樹脂組成物の不揮発分が10質量%を超える場合、例えば、当該複合樹脂組成物に脱イオン水(イオン交換水)を添加することで当該複合樹脂組成物の不揮発分を10質量%に調整した試料を得ることができる。また、測定対象の複合樹脂組成物の不揮発分が10質量%未満である場合、例えば、複合樹脂組成物中の水性分散媒を一部除去するなどして、当該複合樹脂組成物の不揮発分を10質量%に調整した試料を得ることができる。複合樹脂組成物の不揮発分は、JIS K6828-1:2003の規定に準じて、乾燥温度140℃、乾燥時間0.5時間の条件で測定される値をとることができる。なお、本明細書において、不揮発分を固形分と記載することもある。
【0024】
以下、複合樹脂組成物について、上記ヘイズ値VH1を満たしやすい観点や、目的とする複合樹脂組成物が得られやすい観点等から、各成分に関し、好ましい構成等を説明する。
【0025】
[水性分散媒]
複合樹脂組成物は、少なくとも水を含む液状媒体である水性媒体を含有する。複合樹脂組成物において、水性媒体は、分散質である樹脂粒子及びCNFの分散媒をなすことから、水性分散媒である。水性分散媒としては、水のみを使用してもよいし、水、及び水と混じり合うことができる有機溶剤のうちの1種又は2種以上を含む混合溶剤を用いてもよい。水には、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチルカルビトール、及びN-メチルピロリドン等を挙げることができるが、これらに限定されない。水性分散媒としては、水を主成分として用いることが好ましく、水性分散媒の全質量を基準として、水を50~100質量%用いることがより好ましい。
【0026】
複合樹脂組成物中の水性分散媒の含有量は、特に限定されない。複合樹脂組成物の一態様において、水性分散媒の含有量は、複合樹脂組成物の全質量を基準として、50~90質量%であることが好ましく、55~85質量%であることがより好ましく、60~80質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
[樹脂粒子]
複合樹脂組成物は、樹脂粒子を含有する。複合樹脂組成物において、樹脂粒子は、水性分散媒に乳化している状態、すなわち、エマルションの状態で存在する。この樹脂粒子は、架橋反応性高分子に取り囲まれたエチレン性不飽和単量体を含む単量体成分が重合した重合体粒子と、重合体粒子を覆う架橋反応性高分子で形成されている保護層とを含む。
【0028】
本明細書において、エチレン性不飽和単量体とは、分子中に、重合性二重結合を少なくとも1つ有する、ラジカル重合可能な単量体を意味する。重合性二重結合としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、及び3-ブテニル基等を挙げることができるが、ラジカル重合しうる重合性二重結合を有する基であれば、これらに限定されない。
【0029】
(重合体粒子)
重合体粒子は、樹脂粒子におけるコア部分である。重合体粒子は、1種のエチレン性不飽和単量体が重合した重合体(単独重合体)の粒子でもよく、すなわち、1種のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含む重合体(単独重合体)の粒子でもよい。重合体粒子は、2種以上のエチレン性不飽和単量体が重合(共重合)した重合体(共重合体)の粒子であることが好ましく、すなわち、2種以上のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含む重合体(共重合体)の粒子であることが好ましい。また、重合体粒子の粒子形態は、単一型(単一層)及びコア・シェル型(複層)のいずれであってもよい。
【0030】
本明細書において、「構造単位」とは、樹脂(重合体)を形成する単量体の単位を意味する。「(単量体に)由来する構造単位」とは、例えば、当該単量体における重合性二重結合(C=C)が開裂して単結合(-C-C-)となった構造単位等が挙げられる。また、本明細書においては、単独重合及び共重合を特に区別することなく単に「重合」と記載することがある。
【0031】
重合体粒子に用いるエチレン性不飽和単量体の種類及びその量は、複合樹脂組成物の用途に応じて、適宜決めることができるが、エチレン性不飽和単量体は、少なくとも(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましい。この場合、重合体粒子は、重合体粒子の全質量を基準として、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を50質量%以上(50~100質量%)含むことが好ましい。この重合体粒子の全質量を基準とした(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量は、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。上記含有量は、重合体粒子に使用された単量体成分の総質量に対する、重合体粒子に使用された(メタ)アクリル酸エステルの質量の割合で求めることができる。また、上記含有量は、重合体粒子に(メタ)アクリル酸エステルが2種以上用いられている場合には、その2種以上の合計の含有量を意味する。
【0032】
また、重合安定性及び分散安定性の観点から、重合体粒子を構成する重合体(共重合体)の溶解度パラメータ(SP値)が11.0以下となるような、エチレン性不飽和単量体の種類及び量とすることが好ましい。ここで、SP値とは、下記式(2)より算出される凝集エネルギー密度の平方根で定義される物性値である。
δ(SP値)=(ΣEcoh/ΣV)1/2 ・・・(2)
上記式(2)に示されるように、SP値は、その分子構造からFedorsの推算法により算出されるものであり、凝集エネルギー密度とモル分子容を基に計算される。すなわち、物質の各官能基の凝集エネルギー密度の合計ΣEcohと、モル分子容の合計ΣVより、上記式(2)のように定義することができる。凝集エネルギーの単位はJ/molの場合が多いが、本明細書では、J/molの単位のSP値を4.19の係数で除してcal/molを用いた。原子団、基固有の凝集エネルギー、モル分子容の定数は「R.F.Fedors, Polym. Eng. Sci., 14 [2], 147-154(1974)」に記載の数値を用いることができる。共重合体のSP値は、共重合体中のそれぞれの繰り返し単位(エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位)の単独(各単独のエチレン性不飽和単量体)でのSP値をもとに、その使用量の比率(モル比)を用いて算出することができる。
【0033】
本明細書において、「(メタ)アクリル」との文言には、「アクリル」及び「メタクリル」の両方の文言が含まれることを意味する。また、同様に、「(メタ)アクリレート」との文言には、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方の文言が含まれることを意味する。以下の単量体の説明において、特に断りのない限り、当該説明中の単量体は、いずれも1種又は2種以上を用いることができる。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アラルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル、及びヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル、並びにそれら以外の他の(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。これらのなかでも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。
【0035】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。この(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基の炭素原子数は、1~22であることが好ましく、1~16であることがより好ましく、1~10であることがさらに好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ウンデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びベヘニル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0036】
(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルとしては、シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルの具体例としては、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0037】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、例えば、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、及び2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0038】
(メタ)アクリル酸アラルキルエステルとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェニルエチル(メタ)アクリレート、メチルベンジル(メタ)アクリレート、及びナフチルメチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0039】
(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、トリル(メタ)アクリレート、及びナフチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0040】
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、及び[4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル]メチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0041】
他の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;2-クロロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、及びパーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のハロゲン原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、及び3-(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;グリシジル(メタ)アクリレート、2-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル及びその誘導体;2-スルホエチル(メタ)アクリレート、及び3-スルホプロピル(メタ)アクリレート等のスルホン酸基を有する(メタ)アクリレート;2-(ホスホノオキシ)エチル(メタ)アクリレート等のリン酸基を有する(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸2-イソシアナトエチル等のイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の複素環を有する(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、及びフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキル基又はアリール基末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0042】
重合体粒子は、上述の(メタ)アクリル酸エステル、及び(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を含む単量体成分が重合した重合体粒子であってもよい。この場合、重合体粒子は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位と、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有することができる。
【0043】
他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸系単量体、スチレン系単量体、窒素原子を有する不飽和単量体、ビニル系単量体、不飽和アルコール、ビニルエーテル系単量体、ビニルエステル系単量体、エポキシ基を有する不飽和単量体、及びスルホン酸基を有する不飽和単量体等を挙げることができる。
【0044】
不飽和カルボン酸系単量体には、不飽和カルボン酸、並びにその無水物及びモノエステルが含まれる。不飽和カルボン酸系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、及びシトラコン酸等の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、及び無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸の無水物;マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、及びイタコン酸モノブチルエステル等の不飽和カルボン酸のモノエステルを挙げることができる。
【0045】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-,p-メチルスチレン、o-,m-,p-エチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、o-,m-,p-ヒドロキシスチレン、o-,m-,p-メトキシスチレン、o-,m-,p-エトキシスチレン、o-,m-,p-クロロスチレン、o-,m-,p-ブロモスチレン、o-,m-,p-フルオロスチレン、及びo-,m-,p-クロロメチルスチレン等を挙げることができる。これらのなかでも、スチレンが好ましい。
【0046】
窒素原子を有する不飽和単量体としては、例えば、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等のシアノ基を有する不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-[2-ジメチルアミノエチル](メタ)アクリルアミド、N-[3-ジメチルアミノプロピル](メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、4-アクリロイルモルホリン、及び4-メタクリロイルモルホリン等のアクリルアミド系単量体;N-ビニルアセトアミド、及びN-ビニル-N-メチルアセトアミド等のビニル基を有するアセトアミド系単量体;N-ビニル-2-ピロリドン、4-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール、2-ビニル-2-オキサゾリン、及び2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等のビニル基を有する含窒素複素環式化合物等を挙げることができる。
【0047】
ビニル系単量体としては、例えば、塩化ビニル及びフッ化ビニル等が挙げられる。不飽和アルコールとしては、例えば、ビニルアルコール及びアリルアルコール等が挙げられる。ビニルエーテル系単量体としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、及びジエチレングリコールモノビニルエーテル等が挙げられる。ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、及びバーサチック酸ビニル等が挙げられる。エポキシ基を有する不飽和単量体としては、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。スルホン酸基を有する不飽和単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、及び2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0048】
さらに、重合体粒子を形成する単量体成分には、エチレン性不飽和単量体として、重合性二重結合を2以上有する単量体(以下、「多官能モノマー」という。)を用いることも可能である。多官能モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びグリセリンジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン;並びにジアリルフタレート等が挙げられる。
【0049】
また、重合体粒子を形成する単量体成分には、エチレン性不飽和単量体として、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を用いることも可能である。
【0050】
(保護層)
複合樹脂組成物における樹脂粒子は、上述の重合体粒子を覆う保護層を含む。保護層は、架橋反応性高分子の存在下、架橋反応性高分子に取り囲まれた単量体成分が重合したことで当該単量体成分が重合した重合体粒子を覆うこととなった架橋反応性高分子の層である。架橋反応性高分子は、反応性基を有する反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位を含むとともに、その構造単位として、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を、架橋反応性高分子の全質量を基準として、1~50質量%含む。カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位の含有量は、架橋反応性高分子に使用された単量体成分の総質量に対する、架橋反応性高分子に使用されたカルボキシ基含有重合性単量体の質量の割合で求めることができる。また、上記含有量は、当該単量体に該当する単量体が2種以上用いられている場合には、その2種以上の合計の含有量を意味する。
【0051】
カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を1~50質量%含む架橋反応性高分子(及びCNF)を含有する水性液中で重合体粒子を形成する単量体成分を重合させることにより、重合体粒子を覆い、安定な分散状態を保つことが可能な保護層を得ることが可能である。この観点から、カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位の含有量は、架橋反応性高分子の全質量を基準として、2~30質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがさらに好ましい。また、架橋反応性高分子は、上記水性液中に一部溶解したり、親水性が高まったりするようになることで、重合体粒子を形成する単量体成分を取り囲みやすくなることから、カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位におけるカルボキシ基の一部又は全部が中和されているものであることが好ましい。
【0052】
架橋反応性高分子における反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位は、カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位のみで構成されていてもよいし、カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位と、それ以外の反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位とから構成されていてもよい。
【0053】
架橋反応性高分子は、架橋反応性高分子の全質量を基準として、上記カルボキシ基含有重合性単量体を1~50質量%含むことから、上記カルボキシ基含有重合性単量体以外の重合性単量体に由来する構造単位を50~99質量%含むことができる。カルボキシ基含有重合性単量体以外の重合性単量体としては、上記カルボキシ基含有重合性単量体以外の反応性基含有重合性単量体(以下、「他の反応性基含有重合性単量体」と記載することがある。)、及び反応性基含有重合性単量体以外の重合性単量体(以下、「他の重合性単量体」と記載することがある。)を挙げることができる。架橋反応性高分子を形成する単量体成分には、他の反応性基含有重合性単量体、及び他の重合性単量体の1種又は2種以上を用いることができる。
【0054】
本明細書において、重合性単量体とは、分子中に、重合性二重結合及び重合性三重結合等の重合性不飽和結合を少なくとも1つ有する、ラジカル重合可能な単量体を意味する。重合性不飽和結合としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、3-ブテニル基、及びエチニル基等を挙げることができるが、ラジカル重合しうる重合性不飽和結合を有する基であれば、これらに限定されない。
【0055】
反応性基含有重合性単量体は、重合性不飽和結合と、重合性不飽和結合以外の反応性基とを有する重合性単量体であって、重合後の架橋反応性高分子に反応性基を含有させる単量体であればよい。反応性基含有重合性単量体には、架橋剤が有する官能基と反応可能な反応性基を有する単量体を好適に用いることができる。したがって、反応性基含有重合性単量体は、皮膜を得る際に使用されうる架橋剤が有する官能基の種類に応じて架橋反応性を示しうるものである。使用する架橋剤の種類に応じて架橋反応性を示しうる観点から、反応性基を有する重合性単量体(反応性基含有重合性単量体)を広く用いることができるものとする。
【0056】
反応性基としてカルボキシ基を有する反応性基含有重合性単量体、すなわち、カルボキシ基含有重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、及びシトラコン酸等の不飽和カルボン酸;並びにマレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、及びイタコン酸モノブチルエステル等の不飽和カルボン酸のモノエステル;を挙げることができる。また、カルボキシ基含有重合性単量体としては、水に溶解した際にカルボキシ基を生じるものでもよく、例えば、無水マレイン酸、及びイタコン酸無水物等の不飽和カルボン酸の無水物も挙げられる。カルボキシ基含有重合性単量体のなかでも、不飽和カルボン酸が好ましく、(メタ)アクリル酸がより好ましい。
【0057】
反応性基含有重合性単量体が有する好適な反応性基としては、カルボキシ基含有重合性単量体が有するカルボキシ基のほか、例えば、カルボニル基、リン酸基、リン酸エステル基、水酸基、グリシジル基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、及びアルコキシシリル基等を挙げることができる。これらの反応性基のうちの1種又は2種以上が反応性基含有重合性単量体に含まれていてもよい。また、架橋反応性高分子は、反応性基含有重合性単量体に由来する上記反応性基のうちの1種又は2種以上を有することができ、上記反応性基のうちの2種以上を有することが好ましい。これにより、複合樹脂組成物(それにおける架橋反応性高分子)を変更することなく、複合樹脂組成物の用途に応じて、その使用時において様々な架橋剤を選択しうることから、様々な用途に好適に利用しうる汎用性の高い複合樹脂組成物とすることができる。上記反応性基のなかでも、カルボキシ基のほか、カルボニル基、及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有することが好ましく、少なくともカルボニル基を有することがより好ましい。
【0058】
反応性基としてカルボニル基を有する反応性基含有重合性単量体としては、例えば、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリレート、及びアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0059】
反応性基としてリン酸基又はリン酸エステル基を有する反応性基含有重合性単量体としては、例えば、2-(ホスホノオキシ)エチル(メタ)アクリレート等のリン酸基を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0060】
反応性基として水酸基を有する反応性基含有重合性単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、及び[4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル]メチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。
【0061】
反応性基としてグリシジル基を有する反応性基含有重合性単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、2-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0062】
反応性基としてイソシアネート基又はブロック化イソシアネート基を有する反応性基含有重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-イソシアナトエチル、及び2-(2-メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアナート等のイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0063】
反応性基としてアルコキシシリル基を有する反応性基含有重合性単量体としては、例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を挙げることができる。
【0064】
反応性基含有重合性単量体としては、前述の重合体粒子に用いられるエチレン性不飽和単量体の説明で挙げた具体例のうち、上述した反応性基を有するエチレン性不飽和単量体を用いることもできる。
【0065】
カルボキシ基含有重合性単量体以外の反応性基含有重合性単量体(他の反応性基含有重合性単量体)は、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、及び水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、及び2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0066】
架橋反応性高分子の形成に用いうる反応性基含有重合性単量体以外の重合性単量体(他の重合性単量体)としては、前述の重合体粒子に用いられるエチレン性不飽和単量体の説明で挙げた具体例のうち、上述した反応性基を有しないエチレン性不飽和単量体を用いることができる。そのなかでも、前述の(メタ)アクリル酸エステル((メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アラルキルエステル、及び(メタ)アクリル酸アリールエステル等)、並びにスチレン系単量体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。
【0067】
架橋反応性高分子は、反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位として、カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位とともに、カルボキシ基含有重合性単量体以外の反応性基含有重合性単量体(他の反応性基含有重合性単量体)に由来する構造単位をさらに含むことが好ましい。また、架橋反応性高分子は、カルボキシ基含有重合性単量体を含む反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位とともに、反応性基含有重合性単量体以外の重合性単量体(他の重合性単量体;反応性基非含有の重合性単量体)に由来する構造単位をさらに含むことが好ましい。さらに、架橋反応性高分子は、カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位と、他の反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位と、他の重合性単量体に由来する構造単位とを含むことがより好ましい。
【0068】
架橋反応性高分子は、架橋反応性高分子の全質量を基準として、反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位を5~50質量%、及び反応性基含有重合性単量体以外の重合性単量体(他の重合性単量体)に由来する構造単位を50~95質量%含むことがより好ましい。架橋反応性高分子の全質量を基準とした反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位の含有量は、5~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましい。架橋反応性高分子の全質量を基準とした、他の重合性単量体に由来する構造単位の含有量は、60~95質量%であることがより好ましく、70~90質量%であることがさらに好ましい。上記の単量体に由来する構造単位の含有量は、架橋反応性高分子に使用された単量体成分の総質量に対する、架橋反応性高分子に使用された当該単量体(反応性基含有重合性単量体又は他の重合性単量体)の質量の割合で求めることができる。また、上記の各単量体の含有量は、当該単量体に該当する単量体が2種以上用いられている場合には、その2種以上の合計の含有量を意味する。
【0069】
架橋反応性高分子は、架橋反応性高分子の全質量を基準として、カルボキシ基含有重合性単量体以外の反応性基含有重合性単量体(他の反応性基含有重合性単量体)に由来する構造単位を0~49質量%含むことが好ましい。架橋反応性高分子の全質量を基準とした上記他の反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位の含有量は、3~38質量%であることがより好ましく、5~25質量%であることがさらに好ましい。上記の他の反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位の含有量は、架橋反応性高分子に使用された単量体成分の総質量に対する、架橋反応性高分子に使用された当該他の反応性基含有重合性単量体の質量の割合で求めることができる。また、上記の他の反応性基含有重合性単量体の含有量は、当該単量体に該当する単量体が2種以上用いられている場合には、その2種以上の合計の含有量を意味する。
【0070】
重合体粒子及び架橋反応性高分子(保護層)の総質量に占める、架橋反応性高分子の質量の割合は、20~80質量%であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましく、40~60質量%であることがさらに好ましい。
【0071】
樹脂粒子の含有量は、特に限定されない。複合樹脂組成物の一態様において、樹脂粒子の含有量は、複合樹脂組成物の全質量を基準として、10~50質量%であることが好ましく、15~45質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることがさらに好ましい。樹脂粒子の質量は、上記の重合体粒子及び架橋反応性高分子(保護層)の総質量で求めることができ、また、それぞれに使用された単量体成分の質量に基づいて求めることができる。
【0072】
複合樹脂組成物中の樹脂粒子の平均粒子径は、10~200nmであることが好ましく、30~150nmであることがより好ましく、40~100nmであることがさらに好ましい。本明細書において、平均粒子径は、動的光散乱法によって測定される体積基準の粒度分布における累積50%となる粒子径(D50;メディアン径)を意味する。動的光散乱法を利用した粒度分布測定装置を用いて、平均粒子径を測定することができる。
【0073】
[セルロースナノファイバー]
複合樹脂組成物は、セルロースナノファイバー(CNF)を含有する。複合樹脂組成物において、CNFは、水性分散媒に分散している状態で存在する。CNFの種類は特に制限されず、どのような種類のCNFでも使用可能である。CNFの種類としては、例えば、主に物理的・機械的解繊処理により得られたCNF(以下、「機械解繊型CNF」と記載することがある。)、及び主に化学的な解繊処理により得られたCNF(以下、「化学解繊型CNF」と記載することがある。)、並びにそれらを何れも主要な処理として組み合わせた処理により得られたCNF等を挙げることができる。それらのうちの1種のCNFを単独で用いてもよく、2種以上のCNFを併用してもよく、2種以上のCNFの混合物を用いてもよい。また、例えばパルプ等の原料(原料繊維)から製造したCNFを用いてもよいし、市販のCNF製品を用いてもよい。
【0074】
機械解繊型CNFとしては、例えば、水中対向衝突法(ACC法)により得られたCNFや、機械を用いて粉砕する方法により得られたCNF、その他の別の物理的・機械的解繊処理の方法で得られたCNF等を挙げることができる。ACC法によるCNFは、例えば、パルプ等の原料を含有する懸濁水を加圧し、相対するノズルから噴射及び衝突させ、衝突時に発生するエネルギーによって繊維間の結合を開裂して原料をナノサイズに微細化することで、得ることができる。ACC法によるCNFとしては、例えば、中越パルプ工業社製の商品名「nanoforest(登録商標)」等を用いることができる。また、機械的な粉砕によるCNFは、例えば、原料を含有する懸濁水を、湿式の撹拌装置(例えば高圧ホモジナイザー、超高速ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、及びビーズミル等)を用いて高速で撹拌し、原料を機械的に解繊することで得ることができる。
【0075】
化学解繊型CNFとしては、例えば、パルプ等の原料を含有する懸濁水を、化学処理又は酵素処理してから水中で繊維を取り出す(解繊する)方法により得られたCNF、その他の化学的な解繊処理の方法で得られたCNF等を挙げることができる。化学処理を用いた方法により得られるCNFとしては、例えば、TEMPO触媒酸化法により製造されたCNFを挙げることができる。このようなTEMPO酸化CNFとしては、例えば、日本製紙社製の商品名「cellenpia(登録商標)」、及び第一工業製薬社製の商品名「レオクリスタ(登録商標)」等を用いることができる。また、酵素処理を用いた方法により得られるCNFとしては、例えば、セルラーゼ(セルロースの加水分解酵素)で処理することにより製造されたCNFを挙げることができる。
【0076】
CNFの主要な原料としては、各種のパルプを挙げることができる。パルプとしては、材質の違いから、例えば、針葉樹パルプ及び広葉樹パルプ等の木材パルプ;イネパルプ、ケナフパルプ、麻(リネン)パルプ、クワパルプ、バガスパルプ、ワラパルプ、綿パルプ、竹パルプ、果実パルプ、ラグパルプ、及びリンターパルプ等の非木材パルプ;古紙パルプ;並びに合成繊維パルプ等を挙げることができる。また、パルプとしては、製法の違いから、例えば、砕木パルプ(GP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、及びケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の機械パルプ;並びにクラフトパルプ(KP)、サルファイドパルプ(SP)、及びアルカリパルプ(AP)等の化学パルプ;並びに未晒パルプ及び晒パルプ等を挙げることができる。さらに、CNFの原料としては、例えば、動物性材料(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌等)、及び微生物産生物等に由来するセルロース等を挙げることもできる。
【0077】
CNFのサイズは、繊維幅が概ねナノサイズ(1000nm以下)であれば特に制限されない。CNFの繊維幅は、例えば、1~1000nmの範囲内であることが好ましく、2~500nmの範囲内であることがより好ましく、3~300nmの範囲内であることがさらに好ましい。CNFの繊維長は、例えば、0.1~500μmの範囲内であることが好ましく、0.1~100μmの範囲内であることがより好ましく、0.1~50μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0078】
CNFを使用する際、CNFを複合樹脂組成物に含有させる際には、CNFを水性分散媒に分散させた液状、ペースト状、及びゲル状等のものを用いてもよく、CNFを乾燥させた固体状のものを用いてもよい。複合樹脂組成物を製造しやすい観点から、CNFの含有量が例えば0.01~10質量%程度の範囲内に調整された水分散液を用いることが好ましい。
【0079】
複合樹脂組成物中のCNFの含有量は、複合樹脂組成物中の樹脂粒子(樹脂粒子を構成する単量体成分の総量)100質量部当たり、0.05~20質量部であることが好ましく、0.5~15質量部であることがより好ましく、1~10質量部であることがさらに好ましい。また、複合樹脂組成物の不揮発分(固形分)中のCNFの含有量は、複合樹脂組成物の不揮発分(固形分)の質量を基準として、0.05~16質量%であることが好ましく、0.5~13質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることがさらに好ましい。
【0080】
[架橋剤]
複合樹脂組成物は、架橋剤を含有しない場合、及び架橋剤とともに用いられない場合でも、上述の通り、樹脂粒子及びCNFの分散性に優れることで皮膜を容易に形成可能であることから、樹脂粒子同士の融着によって、剛性が向上した皮膜を形成することが可能である。剛性がさらに向上した皮膜を得る観点から、複合樹脂組成物は、架橋反応性高分子(保護層)が有する反応性基と反応可能な架橋剤をさらに含有するもの、又はその架橋剤とともに用いられるものであることが好ましい。これにより、複合樹脂組成物を用いて皮膜を形成する際に、樹脂粒子の保護層をなす架橋反応性高分子が有する反応性基含有重合性単量体に由来する反応性基と架橋剤とを反応させることができる。それにより、皮膜に三次元網目構造を形成することが可能となり、保護層を硬化させて、引張強さ及び引張弾性率、並びに耐久性がさらに向上した皮膜を得ることが可能である。
【0081】
架橋剤としては、保護層である架橋反応性高分子が有する反応性基と反応しうる官能基を2以上有する架橋剤を好適に用いることができる。例えば、架橋反応性高分子が反応性基として有するカルボキシ基に対して架橋剤を反応させる場合に好適に使用しうる架橋剤としては、多官能エポキシ化合物;多官能カルボジイミド化合物;メチロールメラミン等のメラミン系架橋剤;多官能オキサゾリン化合物;並びに多価金属等を挙げることができる。
【0082】
また同様に、上記反応性基にカルボニル基が含まれる場合に好適に使用しうる架橋剤としては、例えば、多官能ヒドラジド化合物、及びポリアミン等を挙げることできる。上記反応性基にリン酸基又はリン酸エステル基が含まれる場合に好適に使用しうる架橋剤としては、例えば、水酸基を多く有する化合物(例えばポリオール)等を挙げることができる。上記反応性基に水酸基が含まれる場合に好適に使用しうる架橋剤としては、例えば、多官能イソシアネート化合物、そのブロック化イソシアネート化合物、及び酸無水物等を挙げることができる。上記反応性基にグリシジル基が含まれる場合に好適に使用しうる架橋剤としては、例えば、多官能カルボキシ基含有化合物、ポリアミン、及び酸無水物等を挙げることができる。上記反応性基にイソシアネート基又はブロック化イソシアネート基が含まれる場合に好適に使用しうる架橋剤としては、例えば、ポリオール、ポリアミン、及びポリカルボン酸化合物等を挙げることができる。上記反応性基にアルコキシシリル基が含まれる場合に好適に使用しうる架橋剤としては、例えば、ポリアルコキシシリル基化合物等を挙げることができる。上記の架橋剤の1種又は2種以上を用いることができる。
【0083】
上述の通り、架橋反応性高分子は、カルボキシ基を有するとともに、少なくともカルボニル基を有することがより好ましいことから、架橋剤として、多官能ヒドラジド化合物を用いることがより好ましい。多官能ヒドラジド化合物としては、入手の容易さ等の観点から、ジカルボン酸ジヒドラジドを好適に用いることができる。ジカルボン酸ジヒドラジドとしては、例えば、しゅう酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、及びセバシン酸ジヒドラジド等の炭素原子数が2~18の飽和脂肪族ジカルボン酸ジヒドラジド;並びにマレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、及びイタコン酸ジヒドラジド等のモノオレフィン性不飽和ジカルボン酸ジヒドラジド等を挙げることができる。これらのなかでも、飽和脂肪族ジカルボン酸ジヒドラジドが好ましく、アジピン酸ジヒドラジドがより好ましい。架橋剤と反応性基含有重合性単量体の組み合わせに関し、架橋剤は、ジカルボン酸ジヒドラジドを含み、反応性基含有重合性単量体は、ジアセトンアクリルアミドを含むことがさらに好ましい。
【0084】
架橋剤の使用量は、複合樹脂組成物における樹脂粒子(樹脂粒子を構成する単量体成分の総量)100質量部に対して、0.05~10質量部であることが好ましく、0.1~8質量部であることがより好ましく、0.5~5質量部であることがさらに好ましい。また、架橋剤の使用量は、架橋反応性高分子(保護層)が有する反応性基に対して、0.01~3モル当量であることが好ましく、0.1~2モル当量であることがより好ましく、0.5~1.5モル当量であることがさらに好ましい。
【0085】
前述の通り、複合樹脂組成物は、樹脂粒子の最外層をなす保護層が架橋反応性高分子であることで安定な分散状態を保つことが可能であるため、また、樹脂粒子がソープフリーマイクロエマルション重合によって得ることができるものであるため、乳化剤を実質的に含有しないものであってもよい。具体的には、乳化剤の含有量は、複合樹脂組成物の全質量を基準として、0.5質量%未満に制限されていることが好ましく、0.05質量%未満に制限されていることがより好ましく、0.01質量%未満に制限されていることがさらに好ましい。このよう範囲で乳化剤の含有量が制限されていることで、複合樹脂組成物から形成される皮膜の耐水性を高めやすくなる。なお、複合樹脂組成物の用途に応じて、あるいはCNF及び/又は樹脂粒子の分散性を高める目的等で、複合樹脂組成物には、種々の乳化剤、界面活性剤、又は分散剤を配合してもよい。
【0086】
また、複合樹脂組成物は、必要に応じて、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、顔料及び染料等の着色剤、金属化合物、可塑剤、発泡剤、滑剤、ゲル化剤、造膜助剤、凍結防止剤、架橋剤、pH調整剤、粘度調整剤、防腐剤、防黴剤、殺菌剤、防錆剤、難燃剤、湿潤剤、消泡剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、帯電防止剤、及びブロッキング防止剤等を挙げることができる。
【0087】
複合樹脂組成物は、樹脂粒子及びCNFの分散性に優れることで皮膜を容易に形成可能であることから、例えば、塗料、インク、接着剤、粘着剤、及びコーティング剤等の皮膜形成材料に好適に利用されうる。複合樹脂組成物を用いて皮膜を形成する際には、皮膜を設ける対象物である基材に、複合樹脂組成物や、複合樹脂組成物を含む皮膜形成材料を塗布し、乾燥させることで皮膜を形成することができる。塗布方法は、特に限定されず、例えば、ロールコート法、バーコート法、スクリーンコート法、ダイコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、及びスプレーコート法等を挙げることができる。上記基材も特に限定されず、例えば、各種プラスチック、木材、ガラス、金属、及び紙等を挙げることができる。
【0088】
<複合樹脂組成物の製造方法>
上述した複合樹脂組成物は、以下に述べる本発明の一実施形態の複合樹脂組成物の製造方法によって得られたものであることが好ましい。以下に述べる複合樹脂組成物の製造方法において用いられる用語は、いずれも、前述の本発明の一実施形態の複合樹脂組成物の説明で挙げた用語と同様に説明されるものである。
【0089】
その複合樹脂組成物の製造方法は、反応性基を有する反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位を含む架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液に、エチレン性不飽和単量体を含む単量体成分を添加してソープフリーマイクロエマルション重合を行う工程を含む。この工程において、上記架橋反応性高分子には、反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位として、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を、架橋反応性高分子の全質量を基準として、1~50質量%含む架橋反応性高分子を用いる。また、上記工程において、上記ソープフリーマイクロエマルション重合により、エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含む重合体粒子と、重合体粒子を覆う架橋反応性高分子で形成された保護層とを含む樹脂粒子を合成することができる。この複合樹脂組成物の製造方法により、前述の本発明の一実施形態の複合樹脂組成物を製造することが可能である。
【0090】
本明細書において、「ソープフリー」とは、乳化剤、界面活性剤、及び分散剤を使用しないことを意味する。また、「マイクロエマルション重合」とは、単量体を油相成分としてマイクロエマルションを作製し、重合反応を行う重合方法を意味する。「マイクロエマルション」とは、ミセルの直径が100nm程度以下と小さく、強い撹拌を要せず容易に形成されるものをいう。
【0091】
架橋反応性高分子と、重合体粒子を形成するためのエチレン性不飽和単量体を含む単量体成分との比率は、架橋反応性高分子及び当該単量体成分の総質量に対して、架橋反応性高分子の質量の割合が20~80質量%の範囲となる比率とすることが好ましい。この割合は、30~70質量%であることがより好ましく、40~60質量%であることがさらに好ましい。架橋反応性高分子の質量は、当該架橋反応性高分子に使用された反応性基含有重合性単量体を含む単量体成分の総質量に基づいて求めることができる。重合体粒子の質量は、当該重合体粒子に使用されたエチレン性不飽和単量体を含む単量体成分の総質量に基づいて求めることができる。
【0092】
ソープフリーマイクロエマルション重合を行う際には、水溶性重合開始剤及び油溶性重合開始剤等の重合開始剤を用いることができる。本製造方法では、重合安定性の観点から、ソープフリーマイクロエマルション重合を、油溶性重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。これにより、架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液に分散したモノマー滴(重合体粒子を形成する、エチレン性不飽和単量体を含む単量体成分の油相滴)に溶解した油溶性重合開始剤からラジカルを発生させることができる。このラジカルにより重合を進行させることができ、油相中でラジカルが発生することによる一種の懸濁重合を行うことができる。
【0093】
油溶性重合開始剤には、油溶性であり、かつ、油相中でラジカルを発生させる重合開始剤を使用することができる。油溶性重合開始剤としては、例えば、油溶性有機過酸化物や油溶性アゾ化合物等を用いることができる。油溶性有機過酸化物としては、例えば、4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、ベンゾイルパーオキサイド、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、及びt-ブチルパーオキサイド等を挙げることができる。
【0094】
油溶性アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、及び2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)等を挙げることができる。上記の油溶性重合開始剤の1種又は2種以上を用いることができる。上記の油溶性重合開始剤のなかでも、油溶性アゾ化合物を用いることが好ましい。
【0095】
油溶性重合開始剤の使用量は、重合体粒子の合成に使用する、エチレン性不飽和単量体を含む単量体成分100質量部に対して、0.01~3.0質量部であることが好ましく、0.03~2.0質量部であることがより好ましく、0.1~1.0質量部であることがさらに好ましい。
【0096】
ソープフリーマイクロエマルション重合を行う際には、重合体粒子を形成するための単量体成分を少なくとも含むマイクロエマルションを予め調製し、そのマイクロエマルションを架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液に添加することができる。この際、重合開始剤として、水溶性重合開始剤を用いる場合には、例えば、マイクロエマルションとは別に、上記水性液に水溶性重合開始剤を添加することができる。また、重合開始剤として好適な油溶性重合開始剤を用いる場合には、例えば、マイクロエマルションとは別に、上記水性液に油溶性重合開始剤を添加してもよいし、好ましくはマイクロエマルションに油溶性重合開始剤を含有させることができる。すなわち、上記単量体成分及び油溶性重合開始剤を含むマイクロエマルションを用いることが好ましい。架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液へのマイクロエマルションや重合開始剤の添加方法は特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、及び多段添加法等の方法を採ることができ、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0097】
ソープフリーマイクロエマルション重合を行う際の重合温度は、使用する重合開始剤の種類にもよるが、40~100℃であることが好ましく、50~90℃であることがより好ましく、55~85℃であることがさらに好ましい。また、この際の重合時間は、1~24時間が好ましく、3~12時間がより好ましく、5~10時間がさらに好ましい。
【0098】
本発明の一実施形態の複合樹脂組成物の製造方法は、上記の樹脂粒子を合成する工程の前に、架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液を得る工程をさらに含んでいてもよい。架橋反応性高分子は溶剤を用いなくても合成可能であるが、好適には、次のようにして架橋反応性高分子を含有する水性液を得ることができる。水性液を得る工程は、溶剤中で、カルボキシ基含有重合性単量体を含む反応性基含有重合性単量体を含有する単量体成分を重合させて架橋反応性高分子を合成した後、塩基性物質による中和後にCNFの水分散液を加えつつ水相に反転乳化して、架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液を得ることを含む工程であることが好ましい。
【0099】
上記の溶剤には、非反応性の溶剤を好適に用いることができる。溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、及びオクタン等の脂肪族炭化水素;カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、及びベヘニルアルコール等の炭素原子数8以上(より好ましくは8~22)の高級アルコール;酢酸エチル、酢酸プロピル、及び酢酸ブチル等のエステル系溶剤;メチルイソブチルケトン、及びメチルブチルケトン等のケトン系溶剤等を挙げることができる。溶剤の1種又は2種以上を用いることができる。溶剤を除去して、架橋反応性高分子の水性液を得ることが好ましいことから、沸点が100℃未満の溶剤、又は水と共沸可能な溶剤を用いることが好ましい。
【0100】
溶剤の使用量は、架橋反応性高分子の合成に使用する、反応性基含有重合性単量体を含む単量体成分100質量部に対して、0~300質量部であることが好ましく、30~200質量部であることがより好ましく、50~150質量部であることがさらに好ましい。
【0101】
上記のように溶剤中で反応性基含有重合性単量体を含む単量体成分を重合させる場合、この重合は、油溶性重合開始剤の存在下で行うことができる。油溶性重合開始剤には、上記の油溶性有機過酸化物や油溶性アゾ化合物等を用いることができる。架橋反応性高分子を得る際の油溶性重合開始剤の使用量は、架橋反応性高分子の合成に使用する、反応性基含有重合性単量体を含む単量体成分100質量部に対して、0.01~3.0質量部であることが好ましく、0.03~2.0質量部であることがより好ましく、0.1~1.0質量部であることがさらに好ましい。
【0102】
中和に使用する塩基性物質としては、例えば、アンモニア;メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、及びジメチルアミノエタノール等のアミン類;1-アミノ-2-プロパノール、及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール等のアミノアルコール類;並びに水酸化カリウム、及び水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物;等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。塩基性物質は、水溶液の形態で用いることが好ましい。塩基性物質の使用量は、架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液のpHが5.0~9.0、より好ましくは5.5~8.5、さらに好ましくは6.0~8.0の範囲内となる量とすることができる。
【0103】
架橋反応性高分子を得る際の重合には、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、例えば、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸メトキシブチル、メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、及びα-メチルスチレンダイマー等を挙げることができる。連鎖移動剤の1種又は2種以上を用いることができる。
【0104】
架橋反応性高分子を得る際の重合温度は、使用する重合開始剤の種類にもよるが、40~100℃であることが好ましく、50~90℃であることがより好ましく、55~85℃であることがさらに好ましい。また、この際の重合時間は、1~24時間が好ましく、3~12時間がより好ましく、5~10時間がさらに好ましい。
【0105】
反転乳化の際に使用する水相には、CNFの水分散液を用いる。このCNFの水分散液中のCNFの含有量(CNF濃度)は、0.01~10質量%であることが好ましく、0.02~5質量%であることがより好ましく、0.05~3質量%であることがさらに好ましい。CNFの水分散液を用いた反転乳化により、架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液を得ることができる。得られる水性液は、水性媒体中に架橋反応性高分子が分散している形態でもよいし、水性媒体中に架橋反応性高分子が溶解している形態でもよいし、水性媒体中に架橋反応性高分子の一部が分散し、かつ他の一部が溶解している形態でもよい。
【0106】
上記の水性液を得る工程は、上記の反転乳化の後に、溶剤を除去することを含むことが好ましい。架橋反応性高分子、CNF、溶剤、及び水を含有する液を、例えば、減圧、加熱、又はそれらの両方の処理を行うことで、溶剤を除去することが可能である。溶剤を除去する際の温度は、40~90℃であることが好ましく、40~80℃であることがより好ましく、50~70℃であることがさらに好ましい。減圧条件は、例えば、-0.45~0.75MPa程度とすることが好ましい。
【0107】
前述の架橋剤を含有する複合樹脂組成物を製造する場合には、上記のソープフリーマイクロエマルション重合を行って樹脂粒子を合成した後の組成物に、架橋剤を添加すればよい。架橋剤は、水溶液又は水分散液の形態で用いることが好ましい。ソープフリーマイクロエマルション重合後の組成物に架橋剤を添加する際には、重合後の組成物を室温(例えば5~35℃の範囲)程度に冷却してから、架橋剤を添加することが好ましい。また、架橋剤は、複合樹脂組成物の使用時に添加されてもよい。
【0108】
以上詳述した通り、本技術は、以下の構成をとることが可能である。
[1]水性分散媒と、前記水性分散媒に乳化している樹脂粒子と、前記水性分散媒に分散しているセルロースナノファイバーと、を含有する複合樹脂組成物であって、
前記樹脂粒子は、架橋反応性高分子に取り囲まれたエチレン性不飽和単量体を含む単量体成分が重合した重合体粒子と、前記重合体粒子を覆う前記架橋反応性高分子で形成された保護層とを含み、
前記架橋反応性高分子は、反応性基を有する反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位を含むとともに、その構造単位として、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を、前記架橋反応性高分子の全質量を基準として、1~50質量%含み、
前記複合樹脂組成物中の前記水性分散媒、前記樹脂粒子、及び前記セルロースナノファイバーからなる組成物試料から形成される厚さ40μmの皮膜のヘイズ値Vと、前記組成物試料の不揮発分の質量を基準とした前記セルロースナノファイバーの含有量C(質量%)とから下記式(1)により求められる、前記セルロースナノファイバーの前記含有量1質量%当たりのヘイズ値VH1が5.0未満である複合樹脂組成物。
H1=V/C (1)
[2]前記複合樹脂組成物から形成される皮膜について、23℃の環境下、引張速度20mm/分の条件で測定される引張伸び(%)に対する、引張速度2mm/分の条件で測定される引張伸び(%)の比である伸度比が1.0以上である上記[1]に記載の複合樹脂組成物。
[3]前記複合樹脂組成物の不揮発分濃度を10質量%に調整した試料について測定される25℃での表面張力が40mN/m未満である上記[1]又は[2]に記載の複合樹脂組成物。
[4]前記複合樹脂組成物中の前記セルロースナノファイバーの含有量が、前記複合樹脂組成物中の前記樹脂粒子100質量部当たり、0.05~25質量部である上記[1]~[3]のいずれかに記載の複合樹脂組成物。
[5]前記架橋反応性高分子は、前記カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位における前記カルボキシ基の一部又は全部が中和されているものである上記[1]~[4]のいずれかに記載の複合樹脂組成物。
[6]前記架橋反応性高分子は、前記反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位として、前記カルボキシ基含有重合性単量体以外の反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位をさらに含む上記[1]~[5]のいずれかに記載の複合樹脂組成物。
[7]前記架橋反応性高分子は、前記反応性基含有重合性単量体以外の重合性単量体に由来する構造単位をさらに含む上記[1]~[6]のいずれかに記載の複合樹脂組成物。
[8]前記エチレン性不飽和単量体は、少なくとも(メタ)アクリル酸エステルを含み、前記重合体粒子は、前記重合体粒子の全質量を基準として、前記(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を50質量%以上含む上記[1]~[7]のいずれかに記載の複合樹脂組成物。
[9]前記重合体粒子及び前記架橋反応性高分子の総質量に占める前記架橋反応性高分子の質量の割合は20~80質量%である上記[1]~[8]のいずれかに記載の複合樹脂組成物。
[10]前記複合樹脂組成物は、前記架橋反応性高分子が有する前記反応性基と反応可能な架橋剤をさらに含有するもの、又は前記架橋剤とともに用いられるものである上記[1]~[9]のいずれかに記載の複合樹脂組成物。
[11]前記架橋剤はジカルボン酸ジヒドラジドを含み、前記反応性基含有重合性単量体はジアセトンアクリルアミドを含む上記[10]に記載の複合樹脂組成物。
[12]乳化剤の含有量が、前記複合樹脂組成物の全質量を基準として、0.5質量%未満に制限されている上記[1]~[11]のいずれかに記載の複合樹脂組成物。
[13]反応性基を有する反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位を含む架橋反応性高分子であって、前記反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位として、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を前記架橋反応性高分子の全質量を基準として1~50質量%含む前記架橋反応性高分子と、セルロースナノファイバーとを含有する水性液に、エチレン性不飽和単量体を含む単量体成分を添加してソープフリーマイクロエマルション重合を行い、前記エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含む重合体粒子と、前記重合体粒子を覆う前記架橋反応性高分子で形成された保護層とを含む樹脂粒子を合成する工程を含む複合樹脂組成物の製造方法。
[14]前記ソープフリーマイクロエマルション重合を油溶性重合開始剤の存在下で行う上記[13]に記載の複合樹脂組成物の製造方法。
[15]前記樹脂粒子を合成する工程の前に、前記水性液を得る工程をさらに含み、前記水性液を得る工程は、溶剤中で、前記カルボキシ基含有重合性単量体を含む前記反応性基含有重合性単量体を含有する単量体成分を重合させて前記架橋反応性高分子を合成した後、塩基性物質による中和後に前記セルロースナノファイバーの水分散液を加えつつ水相に反転乳化して、前記架橋反応性高分子及び前記セルロースナノファイバーを含有する前記水性液を得ることを含む上記[13]又は[14]に記載の複合樹脂組成物の製造方法。
[16]前記水性液を得る工程は、前記反転乳化の後に、前記溶剤を除去することを含む上記[15]に記載の複合樹脂組成物の製造方法。
【実施例
【0109】
以下、実施例及び比較例を挙げて、前述の一実施形態のさらなる具体例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0110】
<架橋反応性高分子の製造>
(製造例A1)
撹拌機、温度計、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた四ツ口セパラブルフラスコに、酢酸ブチル100.6質量部と、n-ブチルアクリレート(以下、BA)49.0質量部、メチルメタクリレート(以下、MMA)35.0質量部、アクリル酸(以下、AAc)10.0質量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート(以下、HEA)1.0質量部、及びジアセトンアクリルアミド(以下、DAAM)5.0質量部からなる単量体成分(合計100.0質量部;そのうち反応性基含有重合性単量体はAAc、HEA、及びDAAMで合計16.0質量部)と、N-ドデシルメルカプタン(以下、L-SH)1.0質量部とを仕込み、窒素雰囲気下に撹拌しながら50℃に昇温した。
【0111】
アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBN)0.4質量部を上記フラスコ内に添加して直ちに85℃まで昇温し、フラスコ内の液度を85℃に維持しながら、3時間重合した。その後、上記フラスコ内の液に、25質量%アンモニア水12.0質量部及び脱イオン水40.0質量部からなる溶液を30分かけて添加して中和を行い、フラスコ内の液のpHを8.0に調整した。この液を30分撹拌した後、この液に、化学解繊型CNFの水分散液(日本製紙株式会社製の商品名「cellenpia」;TEMPO酸化CNF標準品;固形分1.0質量%;以下、「CNF水分散液1」と記載する。)200.0質量部及び脱イオン水200.0質量部からなる分散液を1時間かけて添加し、連続相を水(水相)に反転乳化させた。次に、上記フラスコ内の液温を50~70℃の範囲内とし、-0.45~0.75MPaの減圧下で酢酸ブチルを水とともに留去した。このようにして、固形分が25.5質量%である半透明液体として、架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液(A1)を得た。
【0112】
(製造例A2)
製造例A1で使用した「CNF水分散液1」の使用量を、300.0質量部に変更したこと以外は、製造例A1と同様の方法により、固形分が25.8質量%である半透明液体として、架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液(A2)を得た。
【0113】
(製造例A3)
製造例A1で使用した「CNF水分散液1」200.0質量部及び脱イオン水200.0質量部からなる分散液を、別の化学解繊型CNFの水分散液(日本製紙株式会社製の商品名「cellenpia」;TEMPO酸化CNF短繊維品;固形分5.0質量%;以下、「CNF水分散液2」と記載する。)40.0質量部及び脱イオン水250.0質量部からなる分散液に変更したこと以外は、製造例A1と同様の方法により、固形分が25.5質量%である半透明液体として、架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液(A3)を得た。
【0114】
(製造例A4)
製造例A1で使用した「CNF水分散液1」を「CNF水分散液2」に変更したこと以外は、製造例A1と同様の方法により、固形分が27.5質量%である半透明液体として、架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液(A4)を得た。
【0115】
(製造例A5)
製造例A1で使用した「CNF水分散液1」200.0質量部を、「CNF水分散液2」400.0質量部に変更したこと以外は、製造例A1と同様の方法により、固形分が30.0質量%である半透明液体として、架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液(A5)を得た。
【0116】
(製造例A6)
製造例A1で使用した「CNF水分散液1」200.0質量部を、機械解繊型CNFの水分散液(中越パルプ工業株式会社製の商品名「nanoforest-S(BB-C)」;ACC法による解繊;固形分1.2質量%;以下、「CNF水分散液3」と記載する。)166.7質量部に変更したこと以外は、製造例A1と同様の方法により、固形分が25.5質量%である半透明液体として、架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液(A6)を得た。
【0117】
(製造例A0)
製造例A1で使用した「CNF水分散液1」200.0質量部及び脱イオン水200.0質量部からなる分散液を、脱イオン水300.0質量部のみに変更したこと以外は、製造例A1と同様の方法により、固形分が25.0質量%である半透明液体として、架橋反応性高分子を含有する水性液(A0)を得た。
【0118】
製造例A1~A6及びA0で製造した架橋反応性高分子を含有する水性液(A1)~(A6)及び(A0)の製造条件について、その製造過程における重合、中和、反転乳化、及び溶剤除去の各段階に分けて表1に示す。
【0119】
【0120】
<樹脂組成物の製造>
(実施例1)
n-ブチルアクリレート(BA)25.0質量部及びメチルメタクリレート(MMA)25.0質量部からなる単量体成分(合計50.0質量部)、並びにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2質量部からなる単量体混合液を調製した。一方、撹拌機、温度計、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた四ツ口セパラブルフラスコに、架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液(A1)200.0質量部及び脱イオン水16.2質量部を仕込んだ。上記フラスコ内を窒素雰囲気下に撹拌しながら、フラスコ内に、上記の単量体混合液を30分かけて添加した。続いて、上記フラスコ内の液温を70℃に昇温し、8時間かけて重合反応(ソープフリーマイクロエマルション重合)を行った。得られたエマルション型の樹脂組成物は、乳化剤を使用していないにも関わらず、安定な分散状態を保っていた。このことから、マイクロエマルション重合で使用した単量体成分が重合した重合体粒子と、それを覆う架橋反応性高分子からなる保護層とを含む樹脂粒子、及びCNFを含有する複合樹脂組成物が得られたことが認められる。
【0121】
その後、得られた樹脂組成物を室温(25℃)まで冷却した後、その樹脂組成物に、架橋剤として5質量%アジピン酸ジヒドラジド(ADH)水溶液24.8質量部を添加した。このようにして、実施例1のエマルション型の常温架橋性アクリル系樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物は、固形分が35.0質量%であり、平均粒子径が72nmであった。
【0122】
(実施例2~9)
実施例1で使用した架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液並びに単量体成分の種類及び使用量、並びに脱イオン水及び5質量%ADH水溶液の使用量を表2(表2-1及び表2-2)に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様の方法により、実施例2~9のエマルション型の常温架橋性アクリル系樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物はいずれも、固形分が35.0質量%であった。なお、実施例9では、重合体粒子を形成するための単量体成分として、BA25.0質量部、MMA20.0質量部、及びスチレン(以下、ST)5.0質量部からなる単量体成分(合計50.0質量部)を用いた。
【0123】
(比較例1)
実施例1において、セパラブルフラスコに仕込んだ、架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液(A1)200.0質量部及び脱イオン水16.2質量部を、CNFを含有しない、架橋反応性高分子の水性液(A0)200.0質量部及び脱イオン水15.8質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、比較例1のエマルション型の常温架橋性アクリル系樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物は、固形分が35.0質量%であり、平均粒子径が46nmであった。
【0124】
(比較例2)
撹拌機、温度計、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた四ツ口セパラブルフラスコに、脱イオン水116.2質量部及び反応性アニオン乳化剤としてアリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩(商品名「アクアロンKH-10」、第一工業製薬株式会社製;以下の反応性アニオン乳化剤も同じである。)0.8質量部を仕込み、撹拌しながら液温を80℃まで昇温させた。一方、上記フラスコとは別に、BA25.0質量部及びMMA25.0質量部からなる単量体成分(合計50.0質量部)、並びに反応性アニオン乳化剤3.6質量部、及び脱イオン水25.0質量部を、ホモディスパーで乳化させ、1段階目の単量体乳化液を調製した。
【0125】
次に、上記フラスコ内の液温を80℃に維持しながら、そのフラスコ内に、10質量%過硫酸アンモニウム水溶液1.0質量部を添加し、直ちに、調製した1段階目の単量体乳化液を滴下ロートから1時間かけて均一に滴下し、これと同時に、1質量%過硫酸アンモニウム水溶液10.0質量部を、1時間かけて均一に滴下した。さらに1時間重合した後に1段階目の乳化重合液を得た。
【0126】
続けて、予め調製した2段階目の単量体乳化液と1質量%過硫酸アンモニウム水溶液10.0質量部とを同時に、1時間かけて上記1段階目の乳化重合液に滴下した。2段階目の単量体乳化液には、BA25.0質量部、MMA20.0質量部、AAc2.0質量部、HEA0.5質量部、及びDAAM2.5質量部からなる単量体成分(合計50.0質量部)、並びにL-SH0.5質量部、反応性アニオン乳化剤3.6質量部、及び脱イオン水24.4質量部からなる単量体乳化液を使用した。滴下終了後の重合液を80℃で3時間維持した後、室温(25℃)まで冷却し、重合液に25質量%アンモニア水1.7質量部を添加して中和した後、5質量%ADH水溶液24.8質量部を添加し、比較例2の常温架橋性アクリル系樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物は、固形分が35.0質量%であり、平均粒子径が101nmであった。
【0127】
(比較例3)
撹拌機、温度計、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた四ツ口セパラブルフラスコに、脱イオン水22.3質量部及び反応性アニオン乳化剤0.2質量部を仕込み、撹拌しながら液温を80℃まで昇温させた。一方、上記フラスコとは別に、BA25.0質量部及びMMA25.0質量部からなる単量体成分(合計50.0質量部)、並びに反応性アニオン乳化剤3.8質量部、及び脱イオン水20.3質量部を、ホモディスパーで乳化させ、1段階目の単量体乳化液を調製した。
【0128】
次に、上記フラスコ内の液温を80℃に維持しながら、そのフラスコ内に、10質量%過硫酸アンモニウム水溶液1.0質量部を添加し、直ちに、調製した1段階目の単量体乳化液を滴下ロートから1時間かけて均一に滴下し、これと同時に、1質量%過硫酸アンモニウム水溶液10.0質量部を、1時間かけて均一に滴下した。さらに1時間重合した後に1段階目の乳化重合液を得た。
【0129】
続けて、予め調製した2段階目の単量体乳化液と1質量%過硫酸アンモニウム水溶液10.0質量部とを同時に、1時間かけて上記1段階目の乳化重合液に滴下した。2段階目の単量体乳化液には、BA25.0質量部、MMA20.0質量部、AAc2.0質量部、HEA0.5質量部、及びDAAM2.5質量部からなる単量体成分(合計50.0質量部)、並びにL-SH0.5質量部、反応性アニオン乳化剤4.0質量部、及び脱イオン水20.1質量部からなる単量体乳化液を使用した。滴下終了後の重合液を80℃で3時間維持した後、室温(25℃)まで冷却してから、重合液に25質量%アンモニア水1.7質量部を添加して中和した後、「CNF水分散液1」100.0質量部(CNFとして1.0質量部)及び脱イオン水35.0質量部からなる分散液、並びに5質量%ADH水溶液24.8質量部を添加した。このようにして、比較例3の常温架橋性アクリル系樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物は、固形分が30.0質量%であり、平均粒子径が172nmであった。
【0130】
(比較例4)
比較例3で使用した「CNF水分散液1」の使用量を、50.0質量部(CNFとして0.5質量部)に変更したこと以外は、比較例3と同様の方法により、比較例4の常温架橋性アクリル系樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物は、固形分が32.0質量%であり、平均粒子径が156nmであった。
【0131】
(比較例5)
比較例3で使用した「CNF水分散液1」の使用量を、200.0質量部(CNFとして2.0質量部)に変更したこと以外は、比較例3と同様の方法により、樹脂組成物の製造を試みた。しかし、CNFを含む凝集物が多量に生じてしまい、評価しうる程度の樹脂組成物を得ることができなかった。
【0132】
(比較例6)
撹拌機、温度計、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた四ツ口セパラブルフラスコに、脱イオン水57.2質量部、「CNF水分散液1」100.0質量部、及び反応性アニオン乳化剤0.2質量部を仕込み、撹拌しながら液温を80℃まで昇温させた。一方、上記フラスコとは別に、BA25.0質量部及びMMA25.0質量部からなる単量体成分(合計50.0質量部)、並びに反応性アニオン乳化剤3.8質量部、及び脱イオン水20.3質量部を、ホモディスパーで乳化させ、1段階目の単量体乳化液を調製した。
【0133】
次に、上記フラスコ内の液温を80℃に維持しながら、そのフラスコ内に、10質量%過硫酸アンモニウム水溶液1.0質量部を添加し、直ちに、調製した1段階目の単量体乳化液を滴下ロートから1時間かけて均一に滴下し、これと同時に、1質量%過硫酸アンモニウム水溶液10.0質量部を、1時間かけて均一に滴下した。さらに1時間重合した後に1段階目の乳化重合液を得た。
【0134】
続けて、予め調製した2段階目の単量体乳化液と1質量%過硫酸アンモニウム水溶液10.0質量部とを同時に、1時間かけて上記1段階目の乳化重合液に滴下した。しかし、CNFを含む凝集物が多量に生じてしまい、評価しうる程度の樹脂組成物を得ることができなかった。なお、2段階目の単量体乳化液には、BA25.0質量部、MMA20.0質量部、AAc2.0質量部、HEA0.5質量部、及びDAAM2.5質量部からなる単量体成分(合計50.0質量部)、並びにL-SH0.5質量部、反応性アニオン乳化剤4.0質量部、及び脱イオン水20.2質量部からなる単量体乳化液を使用した。
【0135】
<評価>
上記の実施例及び比較例で得た各樹脂組成物について、以下に述べる方法にて、不揮発分10質量%としたときの25℃での表面張力を測定した。また、上記の実施例及び比較例で得た各樹脂組成物を用いて作製した皮膜について、以下に述べる方法にて、皮膜のヘイズ値Vの測定、及び引張試験を行った。それらの結果を表2(表2-1及び表2-2)及び表3に示す。なお、これらの表には、各樹脂組成物における、樹脂粒子100質量部当たりのCNFの含有量(質量部)、並びに不揮発分中のCNF含有率(質量%)をあわせて示した。また、実施例においては、前述した式(2)に基づき算出した重合体粒子のSP値も示した。
【0136】
(表面張力)
製造できた各樹脂組成物について、不揮発分濃度を10質量%に調整したときの25℃での表面張力を測定した。具体的には、樹脂組成物をイオン交換水で希釈して、不揮発分濃度を10質量%に調整した試料を用意した。次いで、その試料について、JIS K2241:2017の6.3.3の規定に準じたウィルヘルミー法により、表面張力計(商品名「DY-300」、協和界面科学株式会社製)を用いて、25℃における表面張力を測定した。測定は同一試料に対して5回以上行った。得られた数値の標準偏差と平均値の関係が標準偏差≦平均値×0.02を満たさない場合は試料の調整から再度行い、標準偏差≦平均値×0.02を満たすまで試験を繰り返した。
【0137】
(皮膜のヘイズ)
製造できた各樹脂組成物を用いて皮膜を作製し、その皮膜について、ヘイズ値を測定した。具体的には、ガラス板上に、乾燥膜厚が40μmとなるように樹脂組成物を塗工し、温度23℃及び相対湿度50%RHの環境下で24時間乾燥させて皮膜を作製した。このガラス板上に皮膜を設けた試験板と、ヘーズメーター(商品名「NDH-5000W」、日本電色工業株式会社製)を用いて、樹脂組成物を塗工する前のガラス板を基準として、上記試験板の皮膜表面のヘイズ値Vを測定した。また、前掲の式(1)により、樹脂組成物の不揮発分の質量を基準としたCNFの含有量1質量%当たりのヘイズ値VH1を算出した。
【0138】
(引張試験)
製造できた各樹脂組成物を用いて皮膜を作製し、その皮膜について引張試験を行った。具体的には、樹脂組成物を、温度23℃及び相対湿度50%RHの環境下で1週間乾燥させ、短冊状(長さ約60mm、幅約10mm、厚さ約0.7mm)の皮膜試料を作製した。その皮膜試料について、引張試験機(商品名「テンシロン万能試験機 RTG-1210」、株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて、23℃、引張速度20mm/分、チャック間距離20mmの条件にて引張試験を行い、引張強さ(破断強度;MPa)及び引張伸び(破断伸度;%)を測定した。また、引張試験により得られた応力-ひずみ曲線から、引張弾性率(ヤング率;MPa)を求めた。さらに、引張伸び(破断伸度;%)については、23℃、引張速度2mm/分、チャック間距離20mmの条件で行った引張試験でも測定した。表2及び表3には、引張速度20mm/分の条件で測定された引張伸び(%)に対する、引張速度2mm/分の条件で測定された引張伸び(%)の比である伸度比も示した。
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
表2に示す通り、実施例1~9のアクリル系樹脂組成物は、水性分散媒と、重合体粒子及びそれを覆う架橋反応性高分子(保護層)からなる樹脂粒子と、CNFとを含有する複合樹脂組成物であり、当該組成物から形成される皮膜のヘイズ値VH1が5.0未満であった。この点からも、実施例1~9の複合樹脂組成物は、CNFの分散性に優れることが確認された。また、実施例1~9の複合樹脂組成物は、引張強さ及び引張弾性率が充分に向上した皮膜を形成できたことが確認された。
【0143】
これに対し、実施例で使用した単量体成分と概ね同等程度の単量体成分を用いて2段階乳化重合により得られた比較例3及び4のエマルション型樹脂組成物は、表3に示す通り、当該組成物から形成される皮膜のヘイズ値VH1が5.0を超えていた。また、比較例3及び4のエマルション型樹脂組成物から作製した皮膜は、CNFを含有しない比較例2のエマルション型樹脂組成物から作製した皮膜と比べて、引張強さ及び引張弾性率の向上は認められなかった。
【0144】
以上の結果から、実施例では、架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液中でソープフリーマイクロエマルション重合により重合体粒子を合成したことで、重合体粒子とそれを取り囲む架橋反応性高分子で形成された保護層とを含む樹脂粒子が得られたと認められる。そして、その樹脂粒子における保護層によって、上記のヘイズ値VH1が5.0未満であることを満たしたと推察される。
【0145】
なお、以下に述べる試験例の通りに製造する場合にも、上記のヘイズ値VH1が5.0未満であり、剛性が充分に向上した皮膜を容易に形成することが可能な複合樹脂組成物を得ることができる。
(試験例B1)製造例A1で使用した単量体成分を、BA49.0質量部、MMA35.0質量部、AAc10.0質量部、及びDAAM6.0質量部からなる単量体成分に変更すること以外は、製造例A1と同様の方法により製造する架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液を、水性液(A1)の代わりに用いること以外は、実施例1と同様の方法により製造する。
(試験例B2)製造例A1で使用した単量体成分を、BA49.0質量部、MMA15.0質量部、シクロヘキシルメタクリレート15.0質量部、AAc15.0質量部、HEA1.0質量部、及びDAAM5.0質量部からなる単量体成分に変更すること以外は、製造例A1と同様の方法により製造する架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液を、水性液(A1)の代わりに用いること以外は、実施例1と同様の方法により製造する。
(試験例B3)実施例1における重合体粒子の形成に用いた単量体成分を、BA40.0質量部、MMA50.0質量部、及びエチレングリコールジメタクリレート10.0質量部からなる単量体成分に変更すること以外は、実施例1と同様の方法により製造する。
(試験例B4)実施例1における重合体粒子の形成に用いた単量体成分を、MMA75.0質量部、及び3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン25.0質量部からなる単量体成分に変更すること以外は、実施例1と同様の方法により製造する。
(試験例B5)実施例1で使用した架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液(A1)の使用量200.0質量部を、66.7質量部に変更すること以外は、実施例1と同様の方法により製造する。
(試験例B6)実施例1で使用した架橋反応性高分子及びCNFを含有する水性液(A1)の使用量200.0質量部を、400.0質量部に変更すること以外は、実施例1と同様の方法により製造する。
(試験例B7)実施例1で架橋剤として用いた5質量%ADH水溶液24.8質量部を、ポリイソシアネート系架橋剤の水分散液(商品名「タケネート WD-725」、三井化学株式会社製;固形分25質量%)12.0質量部(固形分3質量部)に変更すること以外は、実施例1と同様の方法により製造する。
(試験例B8)実施例1で架橋剤として用いた5質量%ADH水溶液24.8質量部を、多官能カルボジイミド系架橋剤の水溶液(商品名「カルボジライト V-02」、日清紡ケミカル株式会社製;固形分50質量%)10.0質量部(固形分5.0質量部)に変更すること以外は、実施例1と同様の方法により製造する。
(試験例B9)実施例1における5質量%ADH水溶液を使用しないこと以外は、実施例1と同様の方法により製造する。

【要約】
【課題】剛性が充分に向上した皮膜を容易に形成可能な複合樹脂組成物を提供する。
【解決手段】水性分散媒と、水性分散媒に乳化している樹脂粒子と、水性分散媒に分散しているセルロースナノファイバー(CNF)と、を含有する複合樹脂組成物を提供する。樹脂粒子は、架橋反応性高分子に取り囲まれたエチレン性不飽和単量体を含む単量体成分が重合した重合体粒子と、重合体粒子を覆う架橋反応性高分子で形成された保護層とを含む。架橋反応性高分子は、反応性基を有する反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位として、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を1~50質量%含む。複合樹脂組成物中の水性分散媒、樹脂粒子、及びCNFからなる組成物試料から形成される厚さ40μmの皮膜のヘイズ値が、CNFの含有量1質量%当たりの換算値で5.0未満である。
【選択図】なし