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特許7002788ポリペプチドの薬学的に許容される塩およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】ポリペプチドの薬学的に許容される塩およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20220224BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220224BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20220224BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220224BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20220224BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20220224BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20220224BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220224BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220224BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20220224BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220224BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220224BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20220224BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220224BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20220224BHJP
   C40B 40/10 20060101ALN20220224BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
C07K19/00
C07K7/08
A61P25/00
A61P25/04
A61P25/22
A61P25/08
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61P21/00
A61P9/10
A61K38/08
A61K38/16
A61K47/64
C40B40/10
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020522762
(86)(22)【出願日】2017-07-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 CN2017091792
(87)【国際公開番号】W WO2019006690
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2020-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】520005071
【氏名又は名称】拜西欧斯(北京)生物技術有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】韓化敏
(72)【発明者】
【氏名】田雨佳
(72)【発明者】
【氏名】賈紅軍
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-530057(JP,A)
【文献】特表2011-520900(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0156704(US,A1)
【文献】国際公開第2012/176172(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2005/0019841(US,A1)
【文献】Stroke,2008年,Vol.39,p.2544-2553
【文献】Stroke,2011年,Vol.42,p.3265-3270
【文献】Nature,2012年,Vol.483,p.213-217
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/06
C07K 7/08
A61P 25/00
A61P 25/04
A61P 25/22
A61P 25/08
A61P 25/28
A61P 25/16
A61P 25/14
A61P 21/00
A61P 9/10
A61K 38/08
A61K 38/16
A61K 47/64
C07K 7/06
C07K 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドの薬学的に許容される塩であって、
当該ポリペプチドは、アミノ酸配列YEKLLDTEI(配列番号:1)又はその機能的変異体を含み、
当該機能的変異体は、アミノ酸配列YEKLLDTEI(配列番号:1)において、1つまたは複数の保存的置換を有する変異体であって、
前記保存的置換は、DとEとの間の置換、LとVとIとの間の置換、およびTとSとの間の置換からなる群から選ばれるものであり、
前記ポリペプチドは、PSD-95のPDZ1/2ドメインへの結合能を有し、且つ、PSD-95とNMDARとの結合を阻害し、
前記塩は、酢酸塩である、
ポリペプチドの薬学的に許容される塩。
【請求項2】
前記機能的変異体は、配列番号:1におけるLDTEIセグメントの1つまたは複数の保存的置換によって生成された変異体であり、前記保存的置換は、DとEとの間の置換、LとVとIとの間での置換、およびTとSとの間の置換からなる群より選ばれる、請求項1に記載のポリペプチドの薬学的に許容される塩。
【請求項3】
前記機能的変異体は、配列番号:1におけるLDTEI(配列番号:6)セグメントを、LDTEL(配列番号:7)、LDTEV(配列番号:8)、LDTDI(配列番号:9)、LDTDL(配列番号:10)、LDTDV(配列番号:11)、LDSEI(配列番号:12)、LDSEL(配列番号:13)、LDSEV(配列番号:14)、LDSDI(配列番号:15)、LDSDL(配列番号:16)、LDSDV(配列番号:17)、LETEI(配列番号:18)、LETEL(配列番号:19)、LETEV(配列番号:20)、LETDI(配列番号:21)、LETDL(配列番号:22)、LETDV(配列番号:23)、VDTEI(配列番号:24)、VDTEL(配列番号:25)、VDTEV(配列番号:26)、VDTDI(配列番号:27)、VDTDL(配列番号:28)、VDTDV(配列番号:29)、IDTEI(配列番号:30)、IDTEL(配列番号:31)、IDTEV(配列番号:32)、IDTDI(配列番号:33)、IDTDL(配列番号:34)、IDTDV(配列番号:35)、IETEI(配列番号:36)、IETEL(配列番号:37)、IETEV(配列番号:38)、IETDI(配列番号:39)、IETDL(配列番号:40)、およびIETDV(配列番号:41)からなる群より選ばれる配列のいずれかで置換することによって生成される変異体である、請求項2に記載のポリペプチドの薬学的に許容される塩。
【請求項4】
前記ポリペプチドは、内在化ペプチド部分および活性ペプチド部分を含むキメラペプチドであり、前記活性ペプチド部分は、アミノ酸配列YEKLLDTEI(配列番号:1)またはその機能的変異体であり、前記内在化ペプチド部分は、前記キメラペプチドが細胞に取り込まれることを促進できる、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリペプチドの薬学的に許容される塩。
【請求項5】
前記内在化ペプチド部分は、アミノ酸配列YGRKKRRQRRR(配列番号:2)を含む、請求項4に記載のポリペプチドの薬学的に許容される塩。
【請求項6】
前記キメラペプチドは、アミノ酸配列YGRKKRRQRRRYEKLLDTEI(配列番号:3)を含む、請求項5に記載のポリペプチドの薬学的に許容される塩。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリペプチドの薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体、賦形剤および/または希釈剤とを含む、医薬組成物。
【請求項8】
予備凍結乾燥製剤、凍結乾燥製剤、又は再構成製剤である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
個体の神経系損傷、神経系損傷に関する疾患もしくは疼痛、神経変性疾患、不安またはてんかんを治療、改善または予防するために用いられ、あるいは神経保護剤として用いられる、請求項又はに記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記神経系損傷は、興奮性神経毒性によって引き起こされる神経系損傷である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記興奮性神経毒性によって引き起こされる神経系損傷は、脳卒中、脊髄損傷、脳もしくは脊髄の虚血性または外傷性損傷、中枢神経系(CNS)神経細胞の損傷(急性CNS損傷、虚血性脳卒中または脊髄損傷と、低酸素症、虚血、機械的損傷とを含み)、および神経変性疾患、不安、てんかん、脳卒中による損傷からなる群より選ばれる損傷を含む、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、およびハンチントン病からなる群より選ばれる、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記神経系損傷に関する疾患は脳卒中である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記脳卒中は、虚血性卒中、出血性卒中、および虚血性卒中から変換された出血性卒中からなる群より選ばれる、請求項13に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般に生物医学分野に関する。具体的に、本発明は、神経系に関連する病症(障害、状態)を治療、改善または予防するためのポリペプチドの薬学的に許容される塩、組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
神経系関連疾患は様々な形で現れ、人々の健康と生活の質を深刻に損なうことになっている。
【0003】
脳卒中は、中老や高齢者の急性脳血管疾患であり、且つ若年層への進展する傾向がある。それは、現在、世界中にヒトに最も有害である3つの疾患(癌、心血管疾患、糖尿病)の一つである。統計によれば、中国では、毎年、約300万人が脳血管疾患に起因して死亡し、米国やヨーロッパよりも4~5倍高く、日本の3.5倍であり、タイやインドなどの発展途上国よりもさらに高くなっている。発病率が年間のあたり8.7%の速率で上昇し、再発率が30%を超え、5年内に再発率が54%に達し、脳卒中患者の生存者の75%が様々な程度で作業能力を失い、重度の障害が40%である。
【0004】
脳卒中は、虚血性脳卒中および出血性脳卒中という2つの種類に大きく分けることができ、虚血性脳卒中は、脳卒中患者の総数の85%を占める。現在、虚血性脳卒中の治療薬は、主に次の種類:血管拡張剤(例えば、ジピリダモールなど)、微小循環を改善し、血液容量を拡張する薬物(例えば、低分子デキストランなど)、血栓溶解薬(例えば、ウロキナーゼなど)、抗凝固療法、(例えば、アスピリン)、中国医学、神経保護などを防ぐために、キナーゼ)、抗凝固療法、血小板凝集防止剤(例えば、アスピリンなど)、漢方薬、神経細胞保護剤などに分けられるが、これらの薬は、ほとんど副作用が大きく、潜在的なリスクがあり、または治療効果が著しくない問題を持っているため、脳卒中の発病メカニズムを検討してその発病メカニズムに対して医薬品開発を行い、脳血管疾患の発生や進展を予防および治療するために重要な社会的意義を持っている。
【0005】
脳卒中は、局所虚血領域、脳出血領域および/または創傷領域における神経細胞死であることを特徴とする。脳虚血により引き起こされる神経細胞死または損傷は、損傷カスケード反応のプロセスであり、脳虚血後、組織の血液灌流が減少し、興奮性神経伝達物質が増加し、NMDAおよびAMPA受容体を活性化させ、イオンチャネルの開放、カルシウムイオンの流入を引き起こし、多くの酵素を活性化させてシグナルカスケード反応をもたらし、複数の経路における神経細胞損傷を誘発する。その下流のシナプス後密度95タンパク質(PSD-95)は、様々なタンパク質との相互作用を介して一連の虚血性損傷を引き起こし、脳虚血損傷の鍵サイトであり、同時に薬物療のための潜在的な標的であるため、PSD-95阻害剤の研究開発は、脳卒中を含む多種の興奮性神経毒性による神経系損傷に対して非常に大きい薬用意義を持っている。
【0006】
また、研究によれば、興奮性神経伝達物質NMDAは、不安、てんかん(癲癇)、および様々な神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病またはハンチントン病などにおいて重要な役割を果たしていることが示されている。例えば、研究によれば、中枢におけるグルタミン酸作動系(glutamatergic system)の過剰興奮は不安をもたらすことができ、且つNMDA受容体(NMDAR)は、グルタミン酸興奮性神経毒性の主要な部分を担っていることが示されている。てんかんの発作は、起動、発作性放電の維持および拡大、並びに発作性放電の抑制という3つの異なる連続病態生理学的プロセスを含み、該プロセスにおいてグルタミン酸、アスパラギン酸などの興奮性神経伝達物質は重要な役割を果たしている。アルツハイマー病では、PSD-95はGluR6-PSD-95-MLK3経路により、それにつながる神経毒性のメカニズムに関与している。さらに、ハンチントン病では、PSD-95はNMDA受容体、およびハンチンチンの突然変異体の神経毒性のメディエーターである。したがって、PSD-95阻害剤の研究開発は、上記の疾患の治療、改善および予防のためにも重要な意味を持っている。
【発明の概要】
【0007】
第1の態様によれば、本発明は、ポリペプチドがアミノ酸配列YEKLLDTEI(配列番号:1)またはその機能的変異体を含む、ポリペプチドの薬学的に許容される塩を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記機能的変異体は、配列番号:1におけるLDTEIセグメントに1つまたは複数の箇所で保存的置換によって生成された変異体である。
いくつかの実施形態において、保存的な置換は、DとEの間、L、VとIの間、およびTとSの間の置換からなる群から選ばれる。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記機能的変異体は、配列番号:1におけるLDTEI(配列番号:6)セグメントがLDTEL(配列番号:7)、LDTEV(配列番号:8)、LDTDI(配列番号:9)、LDTDL(配列番号:10)、LDTDV(配列番号:11)、LDSEI(配列番号:12)、LDSEL(配列番号:13)、LDSEV(配列番号:14)、LDSDI(配列番号:15)、LDSDL(配列番号:16)、LDSDV(配列番号:17)、LETEI(配列番号:18)、LETEL(配列番号:19)、LETEV(配列番号:20)、LETDI(配列番号:21)、LETDL(配列番号:22)、LETDV(配列番号:23)、VDTEI(配列番号:24)、VDTEL(配列番号:25)、VDTEV(配列番号:26)、VDTDI(配列番号:27)、VDTDL(配列番号:28)、VDTDV(配列番号:29)、IDTEI(配列番号:30)、IDTEL(配列番号:31)、IDTEV(配列番号:32)、IDTDI(配列番号:33)、IDTDL(配列番号:34)、IDTDV(配列番号:35)、IETEI(配列番号:36)、IETEL(配列番号:37)、IETEV(配列番号:38)、IETDI(配列番号:39)、IETDL(配列番号:40)、およびIETDV(配列番号:41)からなる群より選ばれる配列のいずれかで置換することによって生成される変異体である。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記ポリペプチドは、内在化ペプチド部分および活性ペプチド部分を含むキメラペプチドであり、前記活性ペプチド部分は、アミノ酸配列YEKLLDTEI(配列番号:1)またはその機能的変異体であり、前記内在化ペプチド部分は、前記キメラペプチドが細胞に取り込まれることを促進できる。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記内因性ペプチドは、アミノ酸配列YGRKKRRQRRR(配列番号:2)を含む。
いくつかの実施形態において、前記キメラペプチドは、アミノ酸配列YGRKKRRQRRRYEKLLDTEI(配列番号:3)を含む。
いくつかの実施形態において、前記薬学的に許容される塩は、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、塩酸塩およびリン酸塩からなる群より選ばれる。
【0012】
第2の態様によれば、本発明は、第1の態様に記載のポリペプチドの薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体、賦形剤および/または希釈剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記医薬組成物は予備凍結乾燥製剤であり、好ましくは、ヒスチジンおよびトレハロースを含む。
いくつかの実施形態において、医薬組成物は凍結乾燥製剤であり、好ましくは、前記予備凍結乾燥製剤を凍結乾燥することにより製造される。
【0014】
いくつかの実施形態において、医薬組成物は再構成製剤であり、好ましくは、前記凍結乾燥製剤を水溶液と組み合わせすることにより製造される。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記医薬組成物は、個体の神経系損傷、神経系損傷に関する疾患もしくは疼痛、神経変性疾患、不安またはてんかんを治療、改善または予防するために用いられる。
いくつかの実施形態において、前記医薬組成物は、神経保護剤として用いられる。
【0016】
第3の態様によれば、本発明は、第1の態様に記載のポリペプチドの薬学的に許容される塩、あるいは第2の態様に記載の医薬組成物を個体に投与することを含む、前記個体の神経系損傷、神経系損傷に関する疾患もしくは疼痛、神経変性疾患、不安またはてんかんを治療、改善または予防する方法を提供する。
【0017】
第4の態様によれば、本発明は、第1の態様に記載のポリペプチドの薬学的に許容される塩、あるいは第2の態様に記載の医薬組成物の、個体における神経系損傷、神経系損傷に関する疾患もしくは疼痛、神経変性疾患、不安またはてんかんを治療、改善または予防するために用いられる医薬の製造あるいは神経保護剤の製造における使用を提供する。
【0018】
第2、第3または第4の態様のいくつかの実施形態において、前記神経系損傷は、興奮性神経毒性によって引き起こされる神経系損傷である。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記興奮性神経毒性によって引き起こされる神経系損傷は、脳卒中、脊髄損傷、脳もしくは脊髄の虚血性または外傷性損傷、中枢神経系(CNS)神経細胞の損傷(急性CNS損傷、虚血性脳卒中または脊髄損傷と、低酸素症、虚血、機械的損傷とを含み)、および神経変性疾患、不安、てんかん、脳卒中による損傷からなる群より選ばれる損傷を含む。
【0020】
第2、第3および第4の態様のいくつかの実施形態において、前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、およびハンチントン病からなる群より選ばれる。
【0021】
第2、第3または第4の態様のいくつかの実施形態において、前記神経系損傷または疼痛は、末梢神経系または中枢神経系に位置する。
【0022】
第2、第3または第4の態様のいくつかの実施形態において、前記神経系損傷に関する疾患は、脳卒中である。いくつかの実施形態において、前記脳卒中は、虚血性脳卒中、出血性卒中、および虚血性卒中から変換された出血性卒中を含む。いくつかの実施形態において、前記脳卒中は虚血性脳卒中である。
【0023】
第2、第3または第4の態様のいくつかの実施形態において、前記個体は、例えば、非霊長類または霊長類などの哺乳類(例えば、ヒト)である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、プルダウン(Pull-down)実験でP5とPDZ1/2ドメインとの相互作用を検出することを示している図である。Mはタンパク質分子量マーカーを表し、レーン1はHis+PDZ1/2+P5であり、レーン2は単独のP5であり、レーン3はHis+P5であり、レーン4はHis+PDZ1/2である。レーン1に示す溶出バンドには、P5およびPDZ1/2の両方を含み、P5がPDZ1/2ドメインとを結合できることが裏付けられる。
図2図2は、ラットの生体内で異なるポリペプチド塩の薬力学実験データの比較を示している図である。
図3図3は、異なるポリペプチド塩の細胞毒性の測定結果を示している図である。
図4図4は、異なるポリペプチド塩の安定性を示しており、図4のAおよびBには、それぞれ、異なるポリペプチド塩の固形物形態の、光照(光照射)+紫外(UV、紫外線)で高温、高湿条件下に置かれた後の含有量と不純物の種類数を示しており、図4のCおよびDには、それぞれ異なるポリペプチド塩の水溶液形態の、光照で高温の条件下に置かれた後の含有量と不純物の種類数を示している。
【発明の詳細な説明】
【0025】
本願の発明者らは、少なくとも一部のNMDAR興奮性神経毒性に媒介される神経障害の損傷効果を低減することができるペプチドを鋭意検討した。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、このようなペプチドの少なくとも一部は、NMDARとシナプス後肥厚部95タンパク質(PSD-95)との間の相互作用を阻害することにより機能する(すなわち、PSD-95阻害剤)と考えられている。これに基づいて、本出願の発明者らは、神経系関連疾患の複数の治療ターゲットに対して深く検討し、生体内外の薬理学的および薬力学実験を介してポリペプチドの神経保護剤を設計してスクリーニングし、そしてスクリーニングされたペプチドをさらに改善して望ましい特性を有するポリペプチドの薬学的に許容される塩が得られた。
【0026】
特に断らない限り、本明細書に記載の用語は、一般的に、当業者によって理解される意味を有する。
【0027】
本明細書に記載のアミノ酸に対して単一文字または3文字の略語は、国際慣習に従っているものである。
【0028】
本明細書および特許請求の範囲に記載の用語「含む」、「含有/有する」および「備える/挙げられる」などの類似な形態とは、「…を含むがこれらに限定されない」ということを意味し、その他の部分(parts)、添加物、成分(components)または手順(steps)を除外することを意図していない。
【0029】
第1の態様によれば、本発明は、ポリペプチドがアミノ酸配列YEKLLDTEI(配列番号:1)またはその機能的変異体を含む、ポリペプチドの薬学的に許容される塩を提供する。
【0030】
用語「機能的変異体」は、母体(親)が同一または類似の生物学的機能および特性を有する変異体を指す。非限定的な例として、「機能的変異体」は、母体における1つまたは複数の箇所で保存的置換を行うことによって得られてもよい。アミノ酸配列YEKLLDTEI(配列番号:1)またはその機能的変異体は、本発明において「活性ペプチド部分」とも呼ばれ、それは、本発明において、中枢神経系損傷の治療のために用いられ、または神経保護剤の活性部位として用いられる。
【0031】
既存の研究では、NMDARとPSD-95との間の相互作用を阻害する活性ペプチドは、NMDARの構造に基づくものである。例えば、NMDAR2B(GenBank ID 4099612)は、C末端における20個のアミノ酸のFNGSSNGHVYEKLSSLESDV(配列番号:42)、およびPLモチーフESDV(配列番号:43)を有する。いくつかの既知の活性ペプチドは、NMDAR2BのC末端の一部アミノ配列を選択することにより、NMDAR2BとがPSD-95に対する競争阻害を生じる。ある研究では、上記ペプチドにおけるESDVまたはLESDV(配列番号:44)セグメントは、NMDARとPSD-95タンパク質との相互作用を阻害することで重要な役割を果たしていることが考えられる。本出願の発明者らは、解析および検証によりペプチド配列YEKLLDTEIを得、それは上記のNMDAR2BのC末端のアミノ酸組成に対してKL後のSSの2つの残基を含まない同時に、PLモチーフに対してN末端方向におけるYEKL(配列番号:45)アミノ酸配列を増加したことを見出した。本出願の発明者らはこのような配列が活性ペプチドとPDZ1/2ドメインとの相互作用を高めることが裏つけられる。YEKLモチーフに対して、そのC末端におけるLDTEIセグメントは、変更することができ、活性ペプチドの活性に影響を及ぼさなく、またはその活性を高める可能性があることが予想されている。したがって、いくつかの実施形態において、本発明に係る機能的変異体は、配列番号:1におけるLDTEIセグメントに1つまたは複数の箇所で保存的置換によって生成された変異体である。
【0032】
いくつかの実施形態において、保存的な置換は、DとEの間、L、VとIの間、およびTとSの間の置換からなる群から選ばれる。
【0033】
いくつかの特定の実施形態において、機能的変異体は、配列番号:1におけるLDTEIセグメントを、LDTEL、LDTEV、LDTDI、LDTDL、LDTDV、LDSEI、LDSEL、LDSEV、LDSDI、LDSDL、LDSDV、LETEI、LETEL、LETEV、LETDI、LETDL、LETDV、VDTEI、VDTEL、VDTEV、VDTDI、VDTDL、VDTDV、IDTEI、IDTEL、IDTEV、IDTDI、IDTDL、IDTDV、IETEI、IETEL、IETEV、IETDI、IETDL、およびIETDVからなる群より選ばれる配列のいずれかで置換することによって生成される変異体である。
【0034】
いくつかの実施形態において、本発明に記載の機能的変異体は、前記ペプチドと少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列をさらに含む。本領域で既に分かるように、2種の蛋白質の間の「同一性(アイデンティティ)」は、1種のタンパク質のアミノ酸配列と、その保守的アミノ酸で置換された第2種の蛋白質の配列との比較によって決定される。2種のタンパク質の間の同一性の程度は、当業者に周知のコンピュータアルゴリズムおよび方法によって決定される。2つのアミノ酸配列の間の同一性は、好ましくは、BLASTPアルゴリズムによって決定される。
【0035】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の機能的変異体は、上記ペプチドに比べると、上記で開示された具体的なペプチドと異なっている1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上のアミノ酸残基の置換、削除、追加、および/または挿入を有する。
【0036】
前述のように、機能的変異体は、1つまたは多数の置換、削除、追加、および/または挿入により、上記で開示された特定のペプチドから区別することができる。これらの変異体は、天然に存在しまたは合成的に生成したものでもよい。例えば、本明細書に記載の上記ペプチド配列の1つ以上を修飾し、本明細書に記載の当該分野によく知られている様々な技術のいずれかでその生物活性を評価することができる。
【0037】
いくつかの実施形態において、前記ポリペプチドは、内在化ペプチド部分および活性ペプチド部分を含むキメラペプチドであり、前記活性ペプチド部分は、アミノ酸配列YEKLLDTEI(配列番号:1)またはその機能的変異体であり、前記内在化ペプチド部分は、前記キメラペプチドが細胞に取り込まれることを促進できる。
【0038】
活性ペプチドおよび内因性ペプチドをキメラペプチドに組み込む主な目的は、より良好に活性ペプチドを作用の標的に送達することにあると、当業者によって理解されるべきである。また、当業者は、活性ペプチドの作用ターゲットが主に神経細胞内にあるために、神経細胞に特異的に適合することができる内因性ペプチドが好ましいと、理解すべきである。いくつかの実施形態において、内因性ペプチドはTatペプチドであってもよい。いくつかの実施形態において、Tatペプチドのアミノ酸配列はYGRKKRRQRRR(配列番号:2)である。いくつかの実施形態において、キメラペプチドは、アミノ酸配列YGRKKRRQRRRYEKLLDTEI(配列番号:3)を含む。
【0039】
内因性ペプチドは、アミド結合を介して活性ペプチドに連結されて融合ペプチドを形成することができると理解すべきであるが、また、化学結合などの他の適切な手段を介して連結されてもよい。2つのコンポーネントのカップリングは、カップリング剤や接合剤により実現できる。このような試薬の多くは市販されており、「S.S.Wong,Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking,CRC Press(1991)」に記載されている。架橋剤のいくつかの例としては、J-スクシンイミド-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPOP)またはN、N’-(1,3-フェニレン)ビスマレイミド、N、N’-エチリデン-ビス-(ヨードアセトアミド)または、6~11個の炭素メチレン橋(carbon methylene bridges)を有する他のこのような試薬(これはチオール基に対して比較的特異的である)、および1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(それとアミノ基およびチロシン基とが不可逆的な結合を形成する)が挙げられる。その他の架橋剤は、P,P’-ジフルオロ-m,m’-ジニトロジフェニルスルホン(これはアミノ基とフェノール基と不可逆的な架橋を形成する)、ジエチルアミンヘキサン酸ジメチル(これはアミノ基に特異的である)、フェノール-1,4-ジスルホニルクロライド(これは主にアミノ基と反応する)、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートもしくはジイソチオシアネート、またはフェニルアゾーpージイソシアネート(これは主にアミノ基と反応する)、グルタルアルデヒド(これはいくつかの異なる側鎖と反応する)およびビスジアゾ化ベンチジン(これは主にチロシンやヒスチジンと反応する)が挙げられる。
【0040】
本発明に係る活性ペプチド、およびそれを内因性ペプチドに融合した融合ペプチドは、固相合成法または組換え方法で合成される。ペプチドミメティクスは、科学文献および特許文献に記載の様々なプロトコルや方法により合成することができ、前記科学文献および特許文献は、例えば、「Organic Syntheses Collective Volumes,Gilmanら(編集)John Wiley&Sons,Inc.,NY,al-Obeidi(1998)Mol.Biotechnol.9:205-223;Hruby(1997)Curr.Opin.Chem.Biol.1:114-119;0stergaard(1997)Mol.Divers.3:17-27;0stresh(1996)Methods Enzymol.267:220-234」が挙げられる。
【0041】
いずれの理論に拘束されることは望まなく、薬物と反対の電荷を持つ分子またはイオンを使用して薬物と結合して塩を形成すると、例えば薬物の溶解度または溶出度を変化させ、吸湿性を低下させ、安定性を向上させ、融点を変化させるなどの、薬物のいくつかの好ましくない理化学的性質または生物学的性質を改善することが期待されている。理想的な塩の形態を最終的に決定するには、理化学的性質と生物学的性質との間でバランスを見いだす必要がある。薬物の薬学的に許容される塩形態を選択する場合、溶解性、吸湿性、異なる状態での環境因子に対する安定性という要件を優先的に考慮する必要がある。本発明に係るポリペプチドの薬学的に許容できる塩は、任意の適切な薬学的に許容できる塩の形態であってもよい。いくつかの実施形態において、ポリペプチドの薬学的に許容される塩は、トリフルオロ酢酸塩である。いくつかの実施形態において、ポリペプチドの薬学的に許容される塩は、酢酸塩である。いくつかの実施形態において、ポリペプチドの薬学的に許容される塩は、塩酸塩である。いくつかの実施形態において、ポリペプチドの薬学的に許容される塩は、リン酸塩である。いくつかの具体的実施形態において、ポリペプチドの薬学的に許容される塩は、酢酸塩または塩酸塩である。
【0042】
第2の態様によれば、本発明は、第1の態様に記載のポリペプチドの薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体、賦形剤および/または希釈剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0043】
本明細書に記載の化合物は、凍結乾燥製剤の形態として製造することができる。いくつかの実施形態において、本発明は、凍結乾燥製剤を提供する。凍結乾燥製剤は、凍結乾燥により予備凍結乾燥製剤から製造され、少なくとも活性成分、緩衝剤、充填剤、および水を含み、その中でも活性成分が本発明に係る化合物またはその薬学的に許容される塩である。いくつかの実施形態において、好ましくは、緩衝液はヒスチジンである。その他の緩衝液としては、コハク酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、酢酸塩、リン酸塩およびTris等からなる群より選ばれる。充填剤は凍結乾燥化合物に構造を提供するものである。いくつかの実施形態において、充填剤は、マンニトール、トレハロース、デキストラン-40、グリシン、乳糖、ソルビトールおよびショ糖等からなる群より選ばれ、そのうち、トレハロースが好ましい。いくつかの実施形態において、本発明に係る凍結乾燥製剤は、上記化合物またはその薬学的に許容される塩、ならびにヒスチジンおよびトレハロースを含む。
【0044】
凍結乾燥製剤を再構成(復元)することができ、すなわち溶液で凍結乾燥製剤を肉眼では見えない微粒子の溶液に再水和する。いくつかの実施形態において、本発明は、凍結乾燥製剤を水溶液と組み合わせることにより製造される再構成製剤を提供する。いくつかの実施形態において、前記水溶液は注射用水である。いくつかの実施形態において、前記水溶液は生理食塩水である。
【0045】
用語「凍結乾燥」は、乾燥しようとする原料をまず凍結し、次に真空環境で昇華させて氷や凍結溶剤を除去するプロセスに関する。
【0046】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるポリペプチドの薬学的に許容される塩は、医薬組成物の形で投与することができる。医薬組成物は、従来の方法、例えば、混合、溶解、造粒、錠剤化、研磨、乳化、カプセル化、捕捉、または凍結乾燥という方法により調製することができる。
【0047】
医薬組成物は、1つ以上の生理学的に許容される、ポリペプチドの薬学的に許容される塩を医薬用可能な製剤に調製しやすい担体、希釈剤、賦形剤または補助原料を用い、従来の方法で製剤化することができる。適切な製剤化は、その選ばれる投与経路に依存する。
【0048】
いくつかの実施形態において、投与は、非経口、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、髄腔内、腹腔内、局所、鼻腔内、または筋肉内であってもよく、静脈内投与であることが好ましい。
【0049】
いくつかの実施形態において、非経口投与のための医薬組成物は、好ましくは無菌、および実質的に等張性である。注射については、ポリペプチドの薬学的に許容される塩を水溶液に加えて調製してもよく、好ましくは、(注射部位に不快感を低減させるために)生理学的に適合する緩衝液、例えばハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理食塩水もしくは酢酸緩衝液に加えて調製する。当該溶液は、懸濁剤、安定剤、および/または分散剤などの製剤化薬剤を含有してもよい。
【0050】
あるいは、ポリペプチドの薬学的に許容される塩は、使用前に適切な担体(例えば、滅菌非熱源水)から構成するための粉末形態であってもよい。
【0051】
経粘膜投与については、浸透しようとするバリアに適した浸透剤が製剤中に用いられる。該投与経路は、化合物を鼻腔まで転送することに用いられ、または舌下投与に用いられる。
【0052】
いくつかの実施形態において、経口投与については、ポリペプチドの薬学的に許容される塩と薬学的に許容可能な担体(キャリア)と共に、タブレット、丸剤、錠剤、トローチ、カプセル、液体、ゲル(ジェル)、シロップ、スラリー、懸濁液などに調製して、患者の治療のために経口摂取することに用いられる。例えば、粉末、カプセルおよびタブレットなどの経口固形製剤(調合物)に対して適切な賦形剤は、乳糖、ショ糖、マンニトールおよびソルビトール等の糖類などの充填剤、コーンスターチ、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースおよび/またはポビドン(PVP)などのセルロース製剤、並びに造粒剤および結合剤が挙げられる。必要に応じて、崩壊剤(例えば、架橋性のポリビニルピロリドン、寒天など)、またはアルギン酸もしくはその塩(例えば、アルギン酸ナトリウムなど)を添加することができる。必要に応じて、固形剤形は、標準的な技術を用いて、糖または腸溶性コーティングで被覆することができる。例えば、懸濁剤、エリキシル剤および液剤などのような経口液体製剤に対して適切な担体、賦形剤または希釈剤は、水、グリセロール、油およびアルコールが挙げられる。さらに、香味剤、防腐剤、着色剤等を添加してもよい。
【0053】
前述製剤に加えて、本発明に係るポリペプチドの薬学的に許容される塩をデポー製剤として製剤化してもよい。そのような長時間作用型製剤は、移植(例えば、皮下または筋肉内)、または筋肉内注射によって投与することができる。従っ従って、例えば、化合物は、適当なポリマー材料、または疎水性材料(例えば、許容される油におけるエマルジョンとして調製され)、またはイオン交換樹脂と共に製剤化することができ、または、例えば難溶性塩のような難溶性誘導体に製剤化することができる。
【0054】
あるいは、他の薬物送達システムを用いることができる。キメラペプチドは、リポソーム、エマルションを用いて送達することができる。また、例えばジメチルスルホキシドのようないくつかの有機溶剤をも用いることができる。さらに、化合物は、治療剤含有固体重合体の半透性基質のような徐放性システム(持続放出性製剤)を用いて送達することができる。
【0055】
化学的性質によると、徐放性カプセルは、キメラペプチドを数週間乃至100日間以上まで放出することができる。治療剤の化学的性質と生物学的安定性によると、タンパク質の安定化のための他の策略を用いることができる。
【0056】
ポリペプチドの薬学的に許容される塩は、意図した目的を効果的に達成する(例えば、損傷的な脳卒中関連障害の損傷効果を低減させる)ための量で用いられる。治療有効量とは、本発明に係るポリペプチドの薬学的に許容される塩で治療していない患者(または動物モデル)対照群における中枢神経系の損傷に対して、本発明に係るポリペプチドの薬学的に許容される塩で治療している患者(または動物モデル)における、脳卒中によって引き起こされる損傷を有意に低減するのに十分な量を意味する。本明細書に記載の方法によって治療が行われない比較可能な患者対照群における平均出力(梗塞ボリュームまたは障害指数によって測定される)に比べると、個体(対象)として治療された患者がより良い出力を達成した場合、この量は治療有効であると見なされる。個体として治療された患者がランキンスケール(Rankin scale)において2以下の障害を示しており、またはバーテルスケール(Barthel scale)において75以上を示している場合、この量も治療有効量であると考えられる。比較可能な、治療していない群に比べると、治療された患者群が障害スケールに有意な改善(すなわち、障害がより少ない)のスコア分布を示している場合、この用量も治療上有効であると考えられる(Leesら、N.Engl.J.Med 2006;354:588-600を参照)。治療的に有効なレジメンは、治療的に有効な用量および上記所望な目的を達成するために必要な投与頻度の組み合わせを表す。
【0057】
いくつかの実施形態において、ポリペプチドの薬学的に許容される塩の好ましい用量範囲は、患者の体重1kgあたり本発明に係る塩0.001から20μmolの用量範囲、必要に応じて患者の体重1kgあたり0.03から3μmolの用量範囲、それらの範囲内における任意の数値またはいずれか2つの数値の間の用量範囲を含んでいる。いくつかの方法において、6時間以内、患者体重1kgあたり0.1~20μmolの本発明に係る塩を投与する。いくつかの方法において、6時間以内、患者体重1kgあたり0.1~10μmolの本発明に係る塩を投与し、より好ましくは、6時間以内、患者体重1kgあたり約0.3μmolの本発明に係る塩を投与する。また、他の場合、用量範囲は患者体重1kgあたり0.005~0.5μmolの本発明に係る塩である。6.2で除することにより、異なる表面積:質量比を補償して体重1kgあたりの用量をラットからヒトに変換することができる。言い換えると、グラムで計算し、ヒトに適用される本発明に係る塩の適切な用量は、0.01~100mg/kg患者体重、より好ましくは0.01~30mg/kg患者体重、または0.01~10mg/kg患者体重、または0.01~1mg/kg患者体重の用量範囲を含み、それらの範囲内における任意の数値またはいずれか2つの数値の間の用量範囲を含んでいる。
【0058】
いくつかの実施形態では、投与されるポリペプチドの薬学的に許容される塩の量は、治療されている被験者の体重、痛みの重症度、投与方法、処方医師の調整に依存している。症状が検出可能の時に、ひいては検出不能の時に、治療を繰り返すことができる。治療には、単独または他の薬と組み合わせてを投与することができる。
【0059】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリペプチドの薬学的に許容される塩の治療に有効な投与量は、有意な毒性を引き起こすことがなく、治療上の有益効果を与えることができる。キメラペプチドの毒性は、標準的な薬学的手順によって細胞培養物または実験動物において測定し、例えば、LD50(個体群の50%を殺す用量)やLD100(個体群の100%%を殺す用量)を測定して決定することができる。毒性効果と治療効果との用量比は、治療指数である。高い治療指数を示しているポリペプチドの薬学的に許容される塩が好ましい(例えば、Fingl等、1975、In:The Pharmacological Basis of Therapeutics、第1章、第1頁を参照)。
【0060】
第2の態様によれば、本発明は、第1の態様に記載のポリペプチドの薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体、賦形剤および/または希釈剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0061】
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、個体の神経系損傷、神経系損傷に関する疾患もしくは疼痛、神経変性疾患、不安またはてんかんを治療、改善または予防するために用いられる。
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、神経保護剤として用いられる。
いくつかの実施形態において、神経系損傷は、興奮性神経毒性によって引き起こされる神経系損傷である。
【0062】
いくつかの実施形態において、興奮性神経毒性によって引き起こされる神経系損傷は、脳卒中、脊髄損傷、脳もしくは脊髄の虚血性または外傷性損傷、中枢神経系(CNS)神経細胞の損傷(急性CNS損傷、虚血性脳卒中または脊髄損傷と、低酸素症、虚血、機械的損傷とを含み)、および神経変性疾患、不安、てんかん、脳卒中による損傷からなる群より選ばれる損傷を含む。
【0063】
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、虚血性脳卒中、または虚血性脳卒中に起因する神経系損傷を治療、改善または予防するために用いられる。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、出血性脳卒中、または出血性脳卒中に起因する神経系損傷を治療、改善または予防するために用いられる。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、虚血性卒中から変換された出血性卒中、または虚血性卒中から変換された出血性卒中に起因する神経系損傷を治療、改善または予防するために用いられる。
【0064】
脳卒中は、中枢神経系中の被害の血流によって引き起こされる病症である。可能な原因は、塞栓(症)、出血(症)、血栓(症)を含む。いくつかの神経細胞(ニューロン細胞)は、被害の血流に起因してすぐに死亡する。これらの細胞は、その構成分子(グルタミン酸を含む)を放出し、そして前記構成分子はNMDA受容体を活性化させ、前記NMDA受容体が細胞内カルシウムレベルおよび細胞内酵素レベルを高め、これにより、さらに多くの神経細胞死(興奮性神経毒性カスケード増幅)をもたらす。中枢神経系(CNS)組織の死亡を梗塞と言われる。梗塞体積(すなわち、脳中に脳卒中による死亡の神経細胞の体積)は、脳卒中による病理学的損傷の程度の指標として使用できる。症候性効果は、梗塞の体積と梗塞の脳における存在場所との両方に依存している。障害指数は、症候性損傷の尺度(指標)、例えば、ランキン卒中出力ランキンスケール(Rankin Stroke Outcome Scale,Rankin,Scott MedJ;2:200-15(1957))およびバーテルインデックス(Barthel Index)として用いることができる。ランキンスケールは、次のとおり患者の全身状態(全身症状)を直接に評価することに基づいている。
【0065】
0: 症状がまったくない。
1: 症状があるが、顕著な障害がなく、日常の仕事や活動を実行できる。
2: 軽度の障害で、すべての以前の活動を実行することができないが、助けなしに自分の身辺の世話をすることができる。
3: いくつかの助けを必要となる中等度の障害であるが、助けなしに歩くことができる。
4: 中等度から重度の障害であり、助けなしに歩くことができなく、助けがなければ自分の体の世話をすることができない。
5: 重度の障害であり、寝たきり、失禁、且つ持続的なケアと注意を必要とする。
【0066】
Barthelインデックスは、患者の日常生活における10種類の基本的な活動を実施する能力について一連の質問に基づき、前記質問から0と100の間のスコアを得、低いスコアはより多くの障害を表す(Mahoneyら、Maryland State Medical Journal 14:56-61(1965))。
【0067】
あるいは、Web(ワールドワイドウェブ)においてninds.nih.gov/doctors/NIH_Stroke_Scale_Booklet.pdfから入手可能であるNIH脳卒中スケールを用いて脳卒中の重症度/出力を測定することができる。該スケールは、患者の意識、運動、感覚、言語機能のレベルの評価を含む11群の機能を実行する患者の能力に基づいている。
【0068】
虚血性脳卒中は、より明確に、脳への血流の閉塞による脳卒中の1種類であることを指定している。そのような閉塞の潜在的な病状は、最も一般的に、血管壁に沿って脂肪沈着物が起こっていることである。この病症は、アテローム性動脈硬化症と呼ばれている。これらの脂肪沈着物は、2種類の閉塞を引き起こす可能性がある。脳血栓症は、血管の閉塞部で形成された血栓(血塊)を指す。「脳塞栓症」は、通常、血液中の様々な塞栓(例えば、心臓内の壁性血栓、動脈硬化性プラーク、脂肪、腫瘍細胞、線維軟骨または空気など)のような血流に伴って脳動脈に入って血管を閉塞し、側副循環で補償できない場合、該脳動脈での血液供給領域における脳組織が虚血性壊死を引き起こして局所神経障害となっていることを意味する。塞栓症の第2の要因は、動脈細動と呼ばれる不整脈である。これは、次の病症を引き起こし、その中でも血塊が心に形成し、移動して脳に転送されることが可能である。虚血性脳卒中の他の潜在的な原因は、出血、血栓、動脈や静脈の切断、心停止、何らかの原因(出血を含む)によるショック、および脳血管または脳に導入する血管に対する直接の外科手術的損傷あるいは心臓手術に行く医原性原因が挙げられる。虚血性脳卒中は、すべての脳卒中症例の約83%を占めている。
【0069】
いくつかの他の神経学的病症は、NDMARにより媒介される興奮性神経毒性による神経細胞死を引き起こす可能性もある。上記病症は、神経変性疾患、不安、てんかん、低酸素症、脳卒中と関係のないCNSへの損傷、例えば外傷性脳損傷および脊髄損傷などが挙げられる。したがって、いくつかの実施形態において、医薬組成物は、神経変性疾患、不安またはてんかんを治療、改善または予防するために用いられ、前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、およびハンチントン病を含む。
【0070】
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、神経保護剤として用いられる。
【0071】
第3の態様によれば、本発明は、第1の態様に記載のポリペプチドの薬学的に許容される塩、あるいは第2の態様に記載の医薬組成物を個体に投与することを含む、前記個体の神経系損傷、神経系損傷に関する疾患もしくは疼痛、神経変性疾患、不安またはてんかんを治療、改善または予防する方法を提供する。
【0072】
いくつかの実施形態において、神経系損傷は、興奮性神経毒性によって引き起こされる神経系損傷であり、その中で前記損傷または疼痛は末梢神経系または中枢神経系に位置する。いくつかの実施形態において、興奮性神経毒性によって引き起こされる神経系損傷は、脳卒中もしくは脊髄損傷、脳もしくは脊髄の虚血性または外傷性損傷、中枢神経系(CNS)神経細胞の損傷(急性CNS損傷、虚血性脳卒中または脊髄損傷と、低酸素症、虚血、機械的損傷とを含み)、および神経変性疾患、不安、てんかん、脳卒中による損傷からなる群より選ばれる損傷を含む。
【0073】
いくつかの実施形態において、神経変性疾患は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、およびハンチントン病を含む。
【0074】
いくつかの実施形態において、前記疾患は、虚血性脳卒中、または虚血性脳卒中に起因する神経系損傷である。いくつかの実施形態において、前記疾患は、出血性脳卒中、または出血性脳卒中に起因する神経系損傷である。いくつかの実施形態において、前記疾患は、虚血性卒中から変換された出血性卒中、または虚血性卒中から変換された出血性卒中に起因する神経系損傷である。
【0075】
第4の態様によれば、本発明は、第1の態様に記載のポリペプチドの薬学的に許容される塩、あるいは第2の態様に記載の医薬組成物の、個体における神経系損傷、神経系損傷に関する疾患もしくは疼痛、神経変性疾患、不安またはてんかんを治療、改善または予防するために用いられる医薬の製造あるいは神経保護剤の製造における使用を提供する。
【0076】
いくつかの実施形態において、前記神経系損傷は、興奮性神経毒性によって引き起こされる神経系損傷であり、前記損傷または疼痛は末梢神経系または中枢神経系に位置する。いくつかの実施形態において、興奮性神経毒性によって引き起こされる神経系損傷は、脳卒中もしくは脊髄損傷、脳もしくは脊髄の虚血性または外傷性損傷、中枢神経系(CNS)神経細胞の損傷(急性CNS損傷、虚血性脳卒中または脊髄損傷と、低酸素症、虚血、機械的損傷とを含み)、および神経変性疾患、不安、てんかん、脳卒中による損傷からなる群より選ばれる損傷を含む。
【0077】
いくつかの実施形態において、前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、およびハンチントン病を含む。
【0078】
いくつかの実施形態において、前記疾患は、虚血性脳卒中、または虚血性脳卒中に起因する神経系損傷である。いくつかの実施形態において、前記疾患は、出血性脳卒中、または出血性脳卒中に起因する神経系損傷である。いくつかの実施形態において、前記疾患は、虚血性卒中から変換された出血性卒中、または虚血性卒中から変換された出血性卒中に起因する神経系損傷である。
【0079】
本明細書に記載の「個体」とは、鳥類、爬虫類および哺乳類を含む動物を意味する。いくつかの実施形態において、前記個体は哺乳類動物であり、霊長類および非霊長類動物、例えば、ヒト、チンパンジー、牛、ウマ、豚、ヒツジ、ヤギ、イヌ、猫、およびラット、マウス等のげっ歯類動物を含む。
【0080】
上記の詳細な説明は、本発明を当業者にさらに明確に理解させるだけを目指しているが、いずれの態様を限定するものではないことを理解すべきである。当業者は、前記実施形態に様々な修正および変更をすることができる。
【実施例
【0081】
以下の実施例は、単に本発明のいくつかの実施形態を説明するために提供されたものであり、如何なる制限の目的や性質にならない。
【0082】
実施例1: 活性ペプチド分子のスクリーニング
既に報告された研究結果によれば、Tat膜貫通ペプチドYGRKKRRQRRR(配列番号:2)を選択して他の異なる数のアミノ酸に連結してペプチドライブラリーを形成した。ペプチドライブラリーにおけるキメラペプチド分子を、それぞれ生体外で発現・精製されたPDZ1/2ドメインに相互作用し、相互作用力の強さによりポリペプチドに対して予備スクリーニングをした。
【0083】
固定相分子(リガンド)は、PDZ1/2タンパク質で、分子量:約20kD、濃度:2mg/mLである。移動相分子(分析物)は、スクリーニングされているポリペプチドで、分子量:約2kD、濃度:10mg/mLであった。Biacore 3000機器を使用して、CM5チップが固定に用いられた。泳動バッファーは、PBS+0.005%Tween20であった。アミノカップリング法を用いて固定した。リガンドの濃度は、10μg/mLであった。固定バッファーは、10mMの酢酸ナトリウム、pH4.0であった。一定量の1400RUでフロー細胞(flowcell)2に固定された。流速が10μL/mLであり、リガンド試料導入(サンプル注入)が1分間である。再生液がPH2.0+2.5の10mMのGlyを用い、再生は流速30μL/分間で行った。試料導入時間は30sであった。
【0084】
動力学的分析は以下の条件で行われ、すなわち、対照チャネル:フロー細胞1、泳動バッファー:PBS、運行モード:Kinetic Analysis Wizardモード、濃度勾配:6.25nM、12.5nM、25nM、50nM、100nM、200nM、400nM、試料導入時間:1分間、解離時間:2分間、流速:30μL/分間。
【0085】
データは、フィッティングソフトウェアBIAevaluation4.1により適合(フィッティング)させた。フィッティングモデルは、1:1の結合モデルである。解離定数KD値は作用力に反比例した。
【0086】
スクリーニングにより、PDZ1/2ドメインと強い相互作用能力を持つキメラペプチドが得られ、P5と命名し、その配列は次の通りである。
【0087】
P5: YGRKKRRQRRRYEKLLDTEI
報告された研究における類似のキメラペプチドと直接に比較するために、次のような配列を持つ対照キメラペプチドNA-1が導入された。
【0088】
NA-1: YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:4)
また、P5とNA-1との構造的差異を比較することにより、キメラペプチドNA-1の活性ペプチドのN末端に2つの残基YEを追加したキメラペプチドYE-NA-1はさらに導入され、その配列は、次の通りである。
【0089】
YE-NA-1: YGRKKRRQRRRYEKLSSIESDV(配列番号:5)
キメラペプチドNA-1、YE-NA-1とP5と同時に上記のPDZ1/2ドメインとの相互作用を試験した結果、下記表1に示した。
【0090】
【表1】
表1に示すように、対照キメラペプチドNA-1に比べると、キメラペプチドYE-NA-1およびP5とPDZ1/2ドメインとの相互作用力はより強く、且つP5の作用性質はより良い。したがって、本発明者らの推測によれば、活性ペプチドのN末端に付加的な2つのアミノ酸残基YEは、ポリペプチドとPDZ1/2ドメインとの相互作用に対して一定の強化効果をもたらした。また、P5は、YE-NA-1のカルボキシル末端に対して疎水性が比較的弱いセリン(SS)2つを低減した。発明者らの推測によれば、これによりポリペプチドとPDZ1/2ドメインとの相互作用をさらに高める可能性がある。
【0091】
実施例2:プルダウン実験でP5とPDZ1/2ドメインとの相互作用を検出する
P5がPDZ1/2ドメインとを相互作用できることを裏付けるために、プルダウン実験をした。
【0092】
カラムは、100μLのHisビーズおよび1mLのMCAC-0バッファーを用いて5分間平衡させた。4℃で振とうした。得られた混合物を、4℃で5000gで遠心分離させ、上澄みを捨てた。混合物に、PDZ1/2タンパク質1mgを加え、そしてバッファーを用いて1mLになるまで追加した。4℃で、得られた混合物を1時間回転して結合させた。前記混合物を、4℃で5000gで1分間遠心分離させ、上澄みを捨てた。得られた混合物を、1mLのMCAC-0バッファーを用いて、1回あたり5分間(4℃で、振とうで洗浄し)で3回洗浄した。混合物に、P5タンパク質1mgを加え、そしてバッファーを用いて1mLになるまで追加した。4℃で、得られた混合物を2時間回転して結合させた。前記混合物を、4℃で5000gで1分間遠心分離させ、上澄みを捨てた。得られた混合物を、1mLの溶解液(lysis buffer)を用いて、1回あたり5分間(4℃で、振とうで洗浄し)で3回洗浄した。洗浄後、20μLのMCAC-300を加えた。遠心分離し、溶出液を取ってSDS-PAGE検出を行った。実験結果は図1に示した。
【0093】
図1に示すように、キメラペプチドP5の溶出バンドに、P5とPDZ1/2ドメインとの両方を同時に含んでおり、これにより、キメラペプチドP5がPDZ1/2ドメインに結合できることが裏付けられた。
【0094】
実施例3: 異なるP5塩のラットMCAOモデルに対する治療効果
本発明者らは、実施例1および2で得られたキメラペプチドP5に基づき、P5-トリフルオロ酢酸塩(P5-TFA)、P5-酢酸塩(P5-Ac)、P5-塩酸塩(P5-Cl)を設計し、中国杭州にあるChinese Peptide Co.,Ltd.に合成を依頼した。製造された3種類のP5塩には、その治療効果についてラットMCAOモデルで測定した。
【0095】
実験動物および材料
動物: 成年SDラット(Vittalia)、SPFグレード、体重220~250g、雄を用いた。
【0096】
機器および薬品: 線切断用鋏1つ、眼科手術鋏2つ、湾曲ピンセット4つ、手術用縫合糸4#と5#、三角形縫合針6×17、直径0.26mmの咬合線、持針器1つ。Enbipu塩化ナトリウム注射剤(NBP)(石薬グループ恩必普薬業有限公司(Shijiazhuang Group NBP Pharmaceutical Co.,Ltd.))、抱水クロラール、フロセミド(20mg/瓶)、硫酸ゲンタマイシン(80mg/瓶)、綿棒、医用トレイなど。
【0097】
MCAOモデル方法:
局所脳虚血再灌流モデルの作製は、ロンガ(longa)によって提案された可逆中大脳動脈閉塞(MCAO)縫合法に従ってラットの脳解剖学的構造に基づいて改善し、局所脳虚血再灌流モデルの作製した。10%抱水クロラールを用いて用量0.3mL/kgで腹腔内投与して麻酔させた。麻酔後、頚部正中線で切開して総頚動脈(CCA)、外頚動脈(ECA)と翼口蓋動脈を露出させた。モノフィラメントナイロン釣り糸(0.26mm)の糸端部(0.5cm)をパラフィンで被覆し、長さ20mmの位置をマークし、全てのラットに対して右側CCA切口部から挿入され、翼口蓋動脈が誤挿入を防止するために一時的にクランプで締められた。咬合線の長さは、CCA分岐部から約18~20mmとし、動物体重によって決め、右側にある中大脳動脈を閉塞し、次いで皮膚を縫合し、咬合線の末端部が皮膚に固定された。虚血が2時間に達した後、慎重に咬合線を抽出し、すなわち、再灌流を形成した。体の温度は、虚血期間および再灌流後2時間、(37±0.5)℃に維持した。モデルの成功マーカー(判断基準)としては、ラットが手術麻酔から覚めた後、左側の肢体が麻痺しており、直立が不安定になっていることで、ラットの尾を持ち上げた時に片側に回すことである。
【0098】
実験の群分け(グルーピング)
実験動物は、対照群(正常群)、モデル群(生理食塩水群)、陽性薬物ブチルフタリド群(NBP)およびP5塩投与群に分けられた。虚血のモデル化1時間後、生理食塩水、陽性薬ブチルフタリド(2.5mg/kg)、各種のP5塩(10mg/kg)を、それぞれ各群のラットに尾静脈を介して注射した。
【0099】
梗塞体積の計算
投与24時間後、ラットを断頭により犠牲死させ、脳組織を速やかに取って-20℃の冷蔵庫に入れ、10分間後、室温環境下に置いた。そして、前記脳をラット脳切片用金型に配置して嗅球、小脳および低脳幹部を切除した後、プロファイルに示すような厚さ(間隔)2mmで5回カットして6つの脳連続冠状粗切片にカットした。その後、脳切片は速やかに2%のTTCを含む溶液5mLに入れ、恒温37℃、遮光で30分間インキュベートし、この期間5分間おきに脳切片を反転した。TTC染色後、正常組織はローズレッドを呈し、梗塞組織は未染色で白色を呈した。各群の脳切片をきれいに配列し、撮影して保存し、画像解析システムのソフトウエアで処理して統計し、各脳切片の梗塞面積を計算して各脳切片の厚さ2mmを乗じた。個々の動物は、それぞれのすべての脳切片の梗塞面積に厚さを掛けて加算すると、脳梗塞体積となる。体積は、脳浮腫の影響を排除するために、大脳半球を占める割合として表した。
【0100】
実験結果を図2に示した。その結果は、モデル群に比べ、P5-TFA、P5-Ac、P5-Clの投与により、ラット脳部の梗塞体積を有意に減少させ、そのうちp<0.01である。陽性薬物NBPに比べ、P5-TFA、P5-Ac、P5-Clの投与により、ラット脳部の梗塞体積を減少させる効果も陽性薬物NBPより著しく優れ、そのうちp<0.05であることを示した。
【0101】
実施例4:異なるP5塩の細胞毒性の測定
本実施例では、実施例3におけるP5-AcおよびP5-Clの二種類のポリペプチド塩の細胞毒性を検出した。
【0102】
実験材料
検出用細胞株PC12細胞、垂直層流クリーンベンチ、蒸気滅菌器、遠心分離機、顕微鏡、マイクロプレートリーダー、カバースリップ、血球計算板、手動カウンター、アルコールランプ、ピペット(計器)、ピペットチューブ、ピペットチップ、遠心管、96ウェルプレート、PBS/生理食塩水、高糖DMEM培地(10%FBSおよび1%二重抗体を含む)。CCK8はSolarbio社から購入した。
【0103】
実験手順
対数期の細胞を消化し、それらを4×10/ウェルの密度で96ウェルプレートに移し、各群で3つの重複ウェルを設定し、そして細胞を一晩培養した。培地でP5塩(例えば5μM)を調製した。96ウェルプレートの上清を捨て、PBS/生理食塩水で2~3回洗浄した後、各ウェルにP5塩100μLを加え、ブランク対照(細胞なし)に同じP5塩を加え、細胞を24時間培養した。96ウェルプレートの各ウェルにCCK8を10μL加え、1時間インキュベートした。96ウェルプレートを取り出し、マイクロプレートリーダーを使用して波長450nmでの吸光度を測定した。測定された数値から細胞生存率を算出した。計算式は次のとおりである。
【0104】
細胞生存率(%)=(実験群-対応のブランク対照群)/(0μM実験群-0μMブランク対照群)×100%
実験結果を図3に示した。結果は、P5-AcおよびP5-Clの2種類のP5ポリペプチドの薬学的に許容される塩は、5μMの濃度で有意な細胞毒性を持たないことを示した。
【0105】
実施例5:異なるP5塩の安定性
本実施例は、実施例3における3種類のP5塩の光照、高温高湿条件下での安定性をそれぞれ検出した。
【0106】
P5塩粉末の安定性分析
実施例3で調製された3種類のP5塩の粉末を、光照(3000Lx)+紫外、高温(60℃)および高湿(75%RH)の条件下で10日間処理した。処理後、粉末を水に溶解して濃度2mg/mLの溶液に調製し、そして精密に10μLを取って液体クロマトグラフに注入し、クロマトグラムを記録し、相対面積比較法に基づいて関連物質を計算して含有量と不純物の種類を分析した。
【0107】
計器および試薬
高速液体クロマトグラフ(Agilent、1260 EZChrom)、クロマトグラフィーカラム(Agilent、ZORBAX 300SB-C18(4.6*250mm、5μm)SN:USHH008416)、分析天秤(Sartorius、BT25S)、濾過膜(Millipore、0.45μm PTFE)、アセトニトリル(MREDA)、水(ALKAQUA)、TFA(MREDA)、3箱型総合薬物安定性試験ボックス(上海佐誠実験儀器有限公司(Shanghai Zuocheng Experimental Instrument Co.,Ltd.)、型番:SHH-3SDT)。
【0108】
クロマトグラフィー条件
移動相:A 0.065%TFA-水、
B 0.05%TFA-ACN
検出波長λ=220nm、流速V=1.0mL/min、温度T=36℃
注入量Inj=10μL
勾配条件:0~30min、B%=5~65%
【0109】
結果の分析
3種類のP5塩粉末の安定性分析の結果を以下の表2と図4のAおよびBに示した。
【0110】
【表2】
結果が下記のように明らかにした。
【0111】
光照+紫外条件下で処理した後、3種類の塩の主ピーク面積百分率、不純物の種類数が明らかに異なっており、相対的安定性の順序は、「トリフルオロ酢酸塩>酢酸塩>塩酸塩」である。
高温条件で処理した後、3種類の塩の主ピーク面積百分率はいずれも99.5%以上であり、明らかな差がなく、不純物の種類数で比べると、酢酸塩は最も安定的である。
【0112】
高湿条件下で処理した後、酢酸塩の主ピーク面積百分率が明らかに低減しており、相対的安定性の順序は、「トリフルオロ酢酸塩>塩酸塩>酢酸塩」である。
【0113】
全体的に言えば、3種類の塩は異なる処理下で比較的よい安定性を示した。
【0114】
P5食塩水の安定性分析
実施例3の3種類のP5塩を水に溶解して2mg/mLの溶液に調製した。光照(3000Lx)および高温(60℃)の条件下で10日間処理した。処理後、精密に10μLを取って液体クロマトグラフに注入し、クロマトグラムを記録し、相対面積比較法(area normalization method)に基づいて関連物質を計算して含有量と不純物の種類を分析した。
【0115】
計器および試薬
高速液体クロマトグラフ(Agilent、1260 EZChrom)、クロマトグラフィーカラム(Agilent、ZORBAX 300SB-C18(4.6*250mm、5μm)SN:USHH008416)、分析天秤(Sartorius、BT25S)、濾過膜(Millipore、0.45μm PTFE)、アセトニトリル(MREDA)、水(ALKAQUA)、TFA(MREDA)、3箱型総合薬物安定性試験ボックス(上海佐誠実験儀器有限公司(Shanghai Zuocheng Experimental Instrument Co.,Ltd.)、型番:SHH-3SDT)。
【0116】
クロマトグラフィー条件
移動相:A 0.065%TFA-水、
B 0.05%TFA-ACN
検出波長λ=220nm、流速V=1.0mL/min、温度T=36℃
注入量Inj=10μL
勾配条件:0~30min、B%=5~65%
【0117】
結果の分析
3種類のP5塩の水溶液の安定性分析の結果を表3と図4のCおよびDに示した。
【0118】
【表3】
結果が下記のように明らかにした。
【0119】
光照条件下で処理した後、3種類の塩溶液の主ピーク面積百分率、不純物の種類数が異なっており、相対的安定性の順序は、「酢酸塩>トリフルオロ酢酸塩>塩酸塩」である。
【0120】
高温条件下で処理した後、塩酸塩と酢酸塩の主ピーク面積百分率、不純物の種類数が異なっており、相対的安定性の順序は、「酢酸塩>塩酸塩」である。
【0121】
全体的に言えば、3種類の塩の溶液は異なる処理下でも比較的よい安定性を示した。
【0122】
本明細書に引用されている全ての出版物、特許文献は、個々の出版物または特許がそれぞれ本明細書に組み込まれて参照としていることを明確に示されているように、参照により本明細書に援用する。本発明に開示された真の精神および範囲から逸脱しない限り、本明細書に記載の実施形態に対して様様な変更および均等物に置き換えることができる。特に文脈で断らない限り、本明細書に記載の実施態様に係る任意の特徴、ステップや実施形態は、任意の他の特徴、ステップや実施形態とを組み合わせて用いることができる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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