(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】接合金物及びこれを用いた接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20220113BHJP
E04B 1/26 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
E04B1/58 508L
E04B1/26 G
(21)【出願番号】P 2021063354
(22)【出願日】2021-04-02
【審査請求日】2021-08-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591000757
【氏名又は名称】株式会社アクト
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 出
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-234613(JP,A)
【文献】特開2009-249935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38-1/61
E04B 1/26
F16B 23/00-43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の構成材に固定されて、他方の構成材との接合を行う接合金物であって、
前記一方の構成材に固定される筐体と、前記筐体に挿通保持される連結軸を備え、
前記筐体が、前記一方の構成材又は他方の構成材に当接する前面板と、前記前面板の後方に空間を開けて設けられた後面板と、前記前面板と前記後面板との間において前記空間を露出させる窓部を有するとともに、
前記前面板と前記後面板に、前記連結軸を挿通させる挿通穴が形成され、
前記連結軸が、外周面に雄ねじを有するとともに、
前記連結軸の長手方向の中間部
における前記前面板と前記後面板との間に対応する位置に
、前記連結軸より大径で前記連結軸に対する回転力が入力される締結部が設けられ、
前記連結軸における前記締結部よりも前記後面板側の部分の前記雄ねじに、前記後面板側から順に下ナット及び上ナットが保持され
、
前記締結部を締め込んで前記前面板を締め付けたときに、前記下ナットを前記後面板に対して締め込めるようにした
接合金物。
【請求項2】
前記後面板に、前記一方の構成材に固定される固定部を備え、
前記固定部が前記一方の構成材の少なくとも一部としての線材の端面から形成された差し込み溝に差し込まれる差し込み片である
請求項1に記載の接合金物。
【請求項3】
前記前面板に、前記一方の構成材に固定される固定部を備え、
前記固定部が固着部材を挿入する貫通穴である
請求項1に記載の接合金物。
【請求項4】
前記挿通穴がルーズホールである
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の接合金物。
【請求項5】
前記連結軸の先端部に螺合する部材として、前記雄ねじに螺合する雌ねじを内周面に有する筒状に形成されて前記他方の構成材に内蔵保持される連結筒部材を備える
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の接合金物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の接合金物を用いて、木造軸組建築物の構成材同士を接合した
木造軸組建築物の接合構造。
【請求項7】
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の接合金物を用いて、前記締結部の締め込みで前記前面板を挟み込んだ締結状態を、前記後面板に向けて順に締め込んだ前記下ナット及び前記上ナットによる緩み止めで保持する
接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば木造軸組建築物における柱や横架材などのような構成材同士を接合する接合金物に関する。
【背景技術】
【0002】
構成材同士の接合構造として下記特許文献1に開示されているようにボルトを用いるものが知られている。
【0003】
この接合構造は、柱の側面に対してほぞ結合した梁材の端部を梁材の長手方向に延びるボルトで固定するものである。つまり、柱と梁には、柱における梁の結合面とは反対側の面から梁の端部内にかけてまっすぐに延びる挿通穴が形成されている。梁の端部における挿通穴の端に対応する位置には上面から下に向けてナットが入るナット穴が形成されて、挿通穴は貫通状態になっている。接合に際しては、挿通穴に対して柱側からボルトを挿通して、ボルトの先端をナット穴に突き出して、その先端にナットを螺合する。ボルトの頭部を回転して締め付けると、柱と梁の強固な接合が行える。
【0004】
このように、ボルトを用いる接合構造ではボルトの頭部を回転して締め付けを行うのが通常であり、ボルトの頭部は構成材の外部空間に開放されている必要があった。
【0005】
このため、通常のボルトを用いた接合構造では接合できる構造に制約がある。例えば柱や横架材などの軸材からなる構成材同士を直角に接合する場合には特許文献1のように行えるが、同一方向に延びる軸材同士の間にそれらと直交する軸材を挟んだ態様の接合は困難である。
【0006】
また、ボルトの頭部が端部にあるので、そのボルト部分を用いた別の結合はできない。
【0007】
さらに、ボルトを用いた接合構造では緩み止めを行うのが望ましいが、ボルトの頭部に相当する部分において緩み止めを行う手段は、緩み止めワッシャに限られる。しかしながら、接合される構成材が木材である場合には、緩み止めワッシャは木材にめり込みが生じるため適さない。しかもそのめり込みは木材の損傷となるので、解体して構成材を再使用することができなくなる。そもそも、緩み止めワッシャを用いると接合後の分離ができない場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明は、これまで不可能であったような接合ができるとともに、緩み止めが行え、構成材の再利用もできるようにすることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのための手段は、一方の構成材に固定されて、他方の構成材との接合を行う接合金物であって、前記一方の構成材に固定される筐体と、前記筐体に挿通保持される連結軸を備え、前記筐体が、前記一方の構成材又は他方の構成材に当接する前面板と、前記前面板の後方に空間を開けて設けられた後面板と、前記前面板と前記後面板との間において前記空間を露出させる窓部を有するとともに、前記前面板と前記後面板に、前記連結軸を挿通させる挿通穴が形成され、前記連結軸が、外周面に雄ねじを有するとともに、前記連結軸の長手方向の中間部に前記連結軸より大径で前記連結軸に対する回転力が入力される締結部が設けられ、前記連結軸における前記締結部よりも前記後面板側の部分の前記雄ねじに、前記後面板側から順に下ナット及び上ナットが保持された接合金物である。
【0011】
この構成では、一方の構成材に固定された筐体から延びる連結軸の雄ねじが前面板を通して他方の構成材に螺合し、窓部を通しての締結部の締め付けを行うことにより、連結軸は挿通穴内を他方の構成材側に移動し、前面板等を挟み付ける締結状態が得られる。この状態が、のちになされる後面板に向けて締め付けられる下ナットと、下ナットに重ねられる上ナットとによる緩み止め操作で、後面板を押した状態のまま維持される。これにより、連結軸は筐体内において、前面板に接する部分と後面板に接する部分の2カ所で突っ張った状態となり変位が規制される。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、連結軸に設けられた締結部を回転して接合する構成であるので、通常のボルトを用いた従来の接合構造のように適用範囲に制限はなく、多様な接合構造を得ることができる。しかも、他の構成材に対して延びて接合する部分は雄ねじを有する構成であるので、連結軸を利用して更なる連結が可能である。
【0013】
また、連結軸に備えられた下ナットと上ナットはいわゆるダブルナットとして緩み止めを行うので、締結部による締め付け状態を維持して、接合状態の耐久性を高められる。そのうえ、緩み止めはダブルナットを利用しているので、緩み止めナット等を利用して緩み止めを行った場合と異なり、分離することができるとともに構成材が木材であっても損傷を防止できる。つまり、構成材が木造軸組建築物を構成する骨組みとなる構造材である場合には、解体を可能にすることができるとともに、分離した構成材の再利用、再構築なども可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図5】
図1の接合金物における
図3のB-B切断位置での断面図。
【
図9】接合金物を用いた外壁パネルの一部破断正面図。
【
図20】接合金物を用いた外壁パネルの要部の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
【0016】
接合金物11は、一方の構成材に固定されて、他方の構成材との接合を行う接合金物であって、例えば木造軸組建築物を構成する構成材、つまり柱や横架材などのように骨組みとなるいわゆる構造材をはじめとする各種の部材の接合に使用されるものである。以下の説明では、木造軸組建築物を構成する構成材を接合する接合金物11を示す。
【0017】
接合金物11は金属製であり、一方の構成材に固定される筐体12と、筐体12に挿通保持されて他方の構成材に延びる連結軸13を備えている。この接合金物11は、一方の構成材に対する固定態様に応じて大きく2つのタイプに分けられる。
【0018】
ひとつの接合金物11aは、筐体12を一方の構成材51aと他方の構成材51bとの間に介在させるように一方の構成材に対して固定するタイプである。このタイプの接合金物11aを、以下、後方固定タイプという(
図1、
図2、
図10参照)。
【0019】
他の一つの接合金物11bは、筐体12を一方の構成材51aの裏側、つまり一方の構成材51aにおける他方の構成材51bの反対側に固定するタイプである。このタイプの接合金物11bを、以下、前方固定タイプという(
図7、
図18参照)。
【0020】
説明においては、まず、後方固定タイプの接合金物11aについて述べたのち、重複部分を省いて前方固定タイプの接合金物11bについて説明する。
【0021】
図1は後方固定タイプの接合金物11aの正面図であり、
図2はその斜視図である。
図2には、向きを異にした2つの図、(a)と(b)を示している。
【0022】
これらの図に示したように、接合金物11の筐体12は外観が直方体形状であり、木造軸組建築物の柱や横架材などの角材から成る構成材51としての軸材52の端面に固定できるように構成されている。
図2に例示した軸材52の横断面形状は正方形であるので、筐体12における軸材52が固定される面とその反対側の面は正方形である。
【0023】
直方体形状の筐体12は中空であり、一方の構成材51a又は他方の構成材51bに当接する前面板21と、前面板21の後方に空間を開けて設けられた後面板22と、前面板21と後面板22との間において空間を露出させる窓部23を有している。
【0024】
図1、
図2に例示した接合金物11は後方固定タイプの接合金物11aであるので、後面板22が一方の構成材51aとしての軸材52に接し、前面板21が他方の構成材51bに当接することになる。
【0025】
正方形をなす前面板21と後面板22は、それらの4辺のうち、相対向する2辺が側壁24で結合されている。側壁24は長方形であり、所定の高さに設定される。側壁24を有しない2面が前述の窓部23である。
【0026】
図1のA-A断面図である
図3に示したように、側壁24の内側面には複数枚のリブ25a,25bが形成されている。リブ25a,25bは、側壁24の両端に位置する2枚の端部リブ25aと、側壁24の中間に位置する中間リブ25bであり、前面板21と後面板22を連結している。窓部23は内部の空間に対する操作を可能にするためのものであるので、端部リブ25aは中間リブ25bよりも短く形成される。また、中間リブ25b同士の間隔は、冶具の挿入とその操作を考慮して設定される。
【0027】
前面板21と後面板22の中央には、連結軸13を挿通させる挿通穴26が形成されている。挿通穴26は円形であり、その大きさは連結軸13を挿通できる大きさであればよい。
【0028】
後面板22には、一方の構成材51aに固定される固定部が設けられる。この例の固定部は、
図2に仮想線で示したように軸材52の端面から形成された差し込み溝52aに差し込まれる1枚の差し込み片27である。差し込み片27は軸材52に収まる長方形板状であり、窓部23を有する面と平行に形成されている。差し込み片27に設けられた複数の貫通穴27aは、固定のためのドリフトピン15を挿通する穴である。
【0029】
筐体12は、所定形状に切り出された金属板を、連結軸13を保持した状態で溶接等により結合一体化して製造される。
【0030】
筐体12に保持される連結軸13は、
図4に示したようにおおよそ寸切りボルト状に構成されている。すなわち、連結軸13は外周面に雄ねじ31を有するとともに、連結軸13の長手方向の中間部に連結軸13より大径で連結軸13に対する回転力が入力される締結部32が設けられている。締結部32は前面板21の挿通穴26よりも大径であり、一般のナットと同様の六角柱状に形成されている。締結部32は連結軸13に一体であり、相対回転不可である。
【0031】
このような連結軸13における締結部32よりも後面板22側の部分の雄ねじ31には、後面板22側から順に下ナット33及び上ナット34が保持されている。これら下ナット33と上ナット34は、一般的なナットで構成される。
【0032】
下ナット33と上ナット34を備えるため、筐体12における側壁24の高さ、つまり前面板21と後面板22の間の距離は、
図5に示したように設定される。すなわち、少なくとも締結部32と下ナット33と上ナット34が余裕をもって収まる高さであって、締結部32の上に上ナット34と下ナット33が順に接した状態において他方の構成材51bに向けて必要な移動量が得られる高さである。
図5は、接合金物11における
図3のB-B切断位置における断面図である。
【0033】
前面板21と後面板22の間の距離と連結軸13との関係及び連結軸13について説明すると、
図6に示したように、連結軸13の長さL1は、前面板21と後面板22の間の距離L2よりも長く、連結軸13の両端部が挿通穴26から突出する長さである。また、連結軸13における締結部32よりも先端側、つまり前面板21側の部分の長さL3は、前面板21の厚さt1を引いても他方の構成材51bに対する結合を可能にする長さである。
【0034】
連結軸13における締結部32の前面板21側の面(前面32a)よりも後端側、つまり後面板22側の部分の長さL4は、締結部32を前面板21に接触させたときでも後端部が挿通穴26から突出するように、前面板21と後面板22の間の距離L2よりも長い。締結部32の高さh1は、回転のための冶具を確実に作用させられる高さであり、同様に、下ナット33と上ナット34の高さも冶具により一つずつ回転できる高さである。
【0035】
後面板22に設けられた差し込み片27について付言すると、前述のように連結軸13の後端部は挿通穴26から突出する構成であるので、差し込み片27における挿通穴26の延長上の部分には、連結軸13の後端部を受け入れる切欠き部27bが形成されている。
【0036】
つぎに、前方固定タイプの接合金物11bについて説明する。
図7は後方固定タイプの接合金物11bの斜視図であり、
図8はその断面図である。
図8の(a)は前面板21の上面位置における横断面図(
図7のC-C断面図)、
図8の(b)は筐体12の端部リブ25aと中間リブ25bとの間の位置における縦断面図(
図7のD-D断面図)である。
【0037】
これらの図に示したように、接合金物11の筐体12は外観が直方体形状であり、木造軸組建築物の柱や横架材などの角材から成る構成材としての軸材52の側面(長手方向に沿った面)に固定できるように構成されている。すなわち、前面板21と後面板22は、軸材52の側面に収まる大きさの長方形である。前面板21と後面板22の平面視形状は正方形であってもよい。
【0038】
この接合金物11は前方固定タイプであるので、前面板21が一方の構成材51aに接することになる。
【0039】
長方形をなす前面板21と後面板22の4辺のうち、長辺を有する部分に窓部23が形成され、短辺側に側壁24が形成されている。
【0040】
前面板21における側壁24を有する側には、外方に突出する固定片28が延設されている。固定片28は前面板21と面一である。この固定片28は、一方の構成材51aに固定される固定部として、釘やねじなどの固着部材16を挿入するための複数の貫通穴28aを有している。
【0041】
前面板21と後面板22には連結軸13を挿通保持するための挿通穴26が形成されるが、この挿通穴26はルーズホールである。つまり、挿通穴26の大きさは連結軸13が嵌合対応する大きさよりも大きく、挿通穴26と連結軸13が必要量相対変位できる大きさである。挿通穴26をルーズホールとするのは、固定位置のずれを吸収できるようにするためである。相対変位量はわずかでよく、例えば3mm程度でよい。
【0042】
挿通穴26がルーズホールであるので、連結軸13の締結部32の前面32a、つまり前面板21に対向する面には六角の締結部32よりも大径の座金部32bが形成されるとよい。
【0043】
連結軸13に保持される下ナット33についても同様であり、図示例の下ナット33は通常のナット形状に描いているが、六角面よりも大径の座金部を有するものであってもよい。
【0044】
連結軸13について、このほかの点は前述と同様であるが、前述のように前方固定タイプの接合金物11は一方の構成材51aを貫通する必要があるため、連結軸13の先端側の長さは、後方固定タイプの接合金物11aの場合よりも長くなる。
【0045】
以上のように構成された接合金物11は、次のように使用されて接合構造を得る。
【0046】
図9は接合構造の一例を示し、木造軸組建築物の外壁パネル61を示している。この外壁パネル61は、複数枚のパネル62,63を結合一体化したものであり、接合金物11はパネル62,63同士の接合のほか、パネル62,63の組立てにも使用される。なお、
図9の接合構造に使用する接合金物11は、後方固定タイプの接合金物11aである。
【0047】
図9に例示した外壁パネル61は、3枚のパネル62,63を接合して構成されたものであり、縦に延びる軸材52としての柱材64を左右両端に有する軸パネル62と、柱材64よりも細い枠材65を左右両端に有する枠パネル63を交互に接合している。軸パネル62と枠パネル63の上部の接合部分、すなわち
図9中、e部分の平面図を
図10の(a)に示し、断面図を
図10の(b)に示している。また、軸パネル62と枠パネル63を分離した状態の斜視図を
図11に示す。
図9と
図10において、軸パネル62と枠パネル63の外周は太い実線で囲んでいる。
【0048】
図10の(b)に示したように、軸パネル62は柱材64の上端に横架材としての梁材66を接合して構成され、枠パネル63は枠材65の上端に梁材66を接合して構成されている。いずれのパネル62,63も外面に構造用合板からなる面材67を有している。面材67における接合金物11の窓部23に対応する部位には、窓部23を開放するための切欠き67aが形成されている。
【0049】
柱材64と梁材66を接合する接合金物11は、一方の構成材51aとしての梁材66の端部に固定される。梁材66に対する接合金物11の固定は、接合金物11の差し込み片27を梁材66の差し込み溝52aに差し込んでドリフトピン15を打ち込むことで行う。
【0050】
他方の構成材51bとしての柱材64には、連結軸13の先端部に螺合する部材として、連結筒部材17が内蔵保持される。連結筒部材17は、筒状に形成されており、連結軸13の雄ねじ31に螺合する雌ねじを内周面に有している。連結筒部材17の長さは、柱材64の太さに対応した長さであり、長手方向の両側部分に端面から中間点に向けて延びる雌ねじ17aを有している。中間点には、連結筒部材17の長手方向、つまり雌ねじ17aの延びる方向とは直交する方向の貫通穴17bが形成されている。貫通穴17bはドリフトピン15を挿入する部分であり、連結筒部材17を柱材64に挿入した状態でドリフトピン15を打ち込むことで、連結筒部材17は柱材64に対して結合一体化される。
【0051】
梁材66と柱材64の接合は、
図12に示したように、接合金物11の連結軸13の先端部をできるだけ後退させた状態にして、梁材66と柱材64を突き合わせて、連結軸13を柱材64に内蔵した連結筒部材17の雌ねじ17aに螺合する。螺合操作は、筐体12の窓部23を通して行う。
【0052】
連結軸13の締結部32を締め込むことで、
図13に示したように連結軸13の先端部は連結筒部材17に対して螺合し、前面板21を締め付ける。これにより連結軸13の連結筒部材17に対する締結は完了し、梁材66と柱材64が結合する。このとき、接合金物11の後面板22は梁材66の端面と同じ大きさであり面接触し、前面板21は柱材64の側面に全体が面接触するため、強固な結合状態が得られる。
【0053】
このあと、下ナット33と上ナット34を回転させて、
図13に仮想線で示したように、後面板22に向けて移動させる。まず、下ナット33を後面板22に対して締め込み、次に上ナット34を下ナット33に対して締め込む。この状態で、上ナット34を固定しながら下ナット33を逆方向に少し回転するという緩み止め操作を行う。緩み止め操作によって、上ナット34と下ナット33の間に突っ張り力が作用して緩み止めが完了する。
【0054】
枠パネル63は、軸パネル62の柱材64に相当する部分が柱材64よりも細い枠材65であるので、接合金物11は梁材66に固定されるものの、枠材65との積極的な接合は不要である。枠パネル63の接合金物11は、いわば、梁材66に固定されているだけである。
図15に示したように、接合金物11の連結軸13の先端部は枠材65を貫通している。連結軸13における先端側部分の長さは枠材65の厚み分、締め付け対象の構成材51を直接接合する場合よりも長く形成されている。
【0055】
軸パネル62と枠パネル63の接合も前述の梁材66と柱材64の接合と同様であり、枠パネル63の接合金物11を用いて接合がなされる。つまり、この場合、枠パネル63が一方の構成材51aであり、軸パネル62が他方の構成材51bである。
【0056】
接合に際しては、軸パネル62と枠パネル63を互い接合するとともに、窓部23から冶具を差し込んで連結軸13の締結部32を回転して連結軸13の先端部を軸パネル62の柱材64に内蔵した連結筒部材17に螺合する。十分に締め込んだ後、前述と同様に緩み止め操作を行う。
【0057】
つぎに、別の接合構造の例を示す。
【0058】
図16は木造軸組建築物の軸パネル62である。この軸パネル62は、左右2本の柱材64と、上端の梁材66と下端の土台68、それに梁材66と平行に柱材64間の上部に横架された内梁材69と、一方の柱材64と平行に内梁材69と土台68との間に設けられた内柱材70を有している。梁材66と内梁材69との間には空間を塞ぐように面材67が固定され、同様に、柱材64と内柱材70との間にも面材67が張られている。また、面材67の長手方向の中間部、すなわち梁材66と内梁材69の長手方向の中間位置と、内柱材70の長手方向の中間位置には、それぞれ梁材66と内梁材69、柱材64と内柱材70を接続する束材71が設けられ、面材67を分割している。束材71の太さは荷重を支える柱材64等と同じである。
【0059】
内梁材69と内柱材70と土台68と柱材64で囲まれる領域のうち面材67を有する部分以外の空間には、前述例の枠材65と同じ太さの支持枠72が縦横に設けられており、柱材64と土台68の内側面にも支持枠72が設けられている。
【0060】
この軸パネル62には、後方固定タイプの接合金物11aのほか、前方固定タイプの接合金物11bも使用されている。
【0061】
後方固定タイプの接合金物11aは、内梁材69の長手方向の両端と、内柱材70の長手方向の両端に固定され、それぞれ対向する部位に内蔵した連結筒部材17に結合されている(
図17参照)。
【0062】
前方固定タイプの接合金物11bは、構成材51の側面、つまり構成材51の長手方向に沿った面に固定されて、その構成材51を隔てた位置に存在する構成材51に結合される。
【0063】
接合金物11bを使用する部分の一例は、内柱材70を有しないほうの柱材64における長手方向の中間に近い位置である。
図17、
図18に示したように、一方の構成材51aとしての支持枠72に接合金物11bが固定され、支持枠72に重なる他方の構成材51bとしての柱材64に内蔵した連結筒部材17に連結軸13が結合される。
【0064】
他の例は、内柱材70と柱材64を結合する束材71部分である。この接合金物11bの固定位置は、内柱材70を有しないほうの柱材64の接合を行う接合金物11bと同じ高さである。
図17に示したように、一方の構成材51aとしての内柱材70と他方の構成材51bとしての柱材64を、束材71を介して接合する。
【0065】
このようにして構成された軸パネル62は、
図19に示したように、その前方固定タイプの接合金物11bと対応する位置に前方固定タイプの接合金物11bを備えた枠パネル63と接合される。
【0066】
図20に示した接合構造は、柱材64の両側面に内梁材69を直接接合して外壁パネル61を構成する例を示している。この場合、2本の内梁材69が一方の構成材51aであり、これらの間に位置する柱材64が、双方に共通となる他方の構成材51bである。
【0067】
図21に、前方固定タイプの接合金物11bについての他の使用態様を示す。すなわち、一方の構成材51aとしての枠材65に接合金物11bが固定され、他方の構成材51bとしての枠材65が側面同士を接触させた状態で接合される。他方の構成材51bとしての枠材65は細いため連結筒部材17のような締結のための部材を内蔵できないので、座付きナット18を枠材65の反接合面に固定する。座付きナット18の座部には釘やねじ等の固着部材16を挿通する貫通穴18aが形成されている。
【0068】
図22に示した前方固定タイプの接合金物11bの使用態様は、例えば枠材65で囲まれた間仕切りパネルを、床板73を載せた大引74の上に接合する場合のような例である。一方の構成材51aとしての枠材65に接合金物11bは固定され、床板73を隔てた位置にある大引74に内蔵された連結筒部材17に接合金物11bの連結軸13が結合される。
【0069】
図23~
図25に、前方固定タイプの接合金物11bについての他の例を示す。
【0070】
図23の接合金物11bは、前面板21に備えられる固定部である貫通穴29を、筐体12の内部領域に形成している。
図24の(a)に示したように、貫通穴29は挿通穴26を囲む4か所に形成されている。
図24の(a)は、筐体12における前面板21の上面位置で切断した横断面図であり、(b)は端部リブ25aと中間リブ25bの間における貫通穴29を有する位置で切断した縦断面図である。後面板22における貫通穴29に対応する位置には、貫通穴29から固着部材16を打ち込むための操作のために切欠き窓22aが形成されている。
【0071】
すなわち、前述例のように筐体12が固定片28を有する場合には、固定片28が邪魔になって所望位置に固定できない場合があるが、外方に突出する部分がないので、例えば出隅や入隅のような狭小な部位であっても固定できる。
【0072】
図25は、筐体12の形態についての他の例を示している。すなわち、筐体12は3面を側壁24で塞いで、一つの面に窓部23を形成している。
図25の(a)は、筐体12における前面板21の上面位置で切断した横断面図であり、(b)は端部リブ25aと中間リブ25bの間における貫通穴29を有する位置で切断した縦断面図である。
【0073】
接合金物11は前述例のように使用されて、多様な接合構造を得る。接合状態において、一方の構成材51aに固定された筐体12は連結軸13を保持し、保持された連結軸13は、筐体12の前面板21を締め付けつつ他の構成材51bに締結される。しかも、連結軸13の後端部は後面板22に規制されつつ下ナット33と上ナット34による回り止めがされる。つまり、連結する構成材51を繋ぐように延びる連結軸13は先端部が他の構成材51bと緊結された状態でありながら、さらに後端部が筐体12内で突っ張ったような状態になって緩み止めがなされる。このため、強固な固定状態を良好に維持できる。
【0074】
しかも、締結部32の締め付けは、筐体12の側面の窓部23から行えるので、これまで不可能であった態様の接合が可能となり、例えば前述例のように面材67を張った外壁パネル61等であっても容易に接合できる。このため、利便性を大幅に向上できる上に、新規の構成材の開発にも貢献する。
【0075】
そのうえ、接合金物11が外部に突出することを防止できる。
【0076】
また、連結軸13の緩み止めは連結軸13の後端部に設けられた下ナット33と上ナット34による、いわゆるダブルナットで行うので、接合した構成材51を分離することができる。また、緩み止めを行っても構成材51を損傷することもない。このため、必要に応じて解体して移動し、再度構築したり、組み替えたり、再利用したりすることができる。特に、構成材51が木造軸組建築物を構成するものであると、移築や改修、間仕切り変更なども容易になるうえ、産廃の発生を抑えることにもなり、非常に有益である。
【0077】
以上の構成はこの発明を実施するための一形態であって、この発明は前述の構成のみに限定されるのではなく、その他の構成を採用することもできる。
【0078】
たとえば、接合金物は木製の構成材のほか、たとえば軽量鉄骨など他の材料の接合に使用するものとすることも可能である。また、建築物のほか、例えば家具や什器などの構成に用いることもできる。
【0079】
筐体12に備えられる固定部は、構成材に応じて適宜構成し得る。
【0080】
筐体12は構成材の内部に埋め込まれるように構成してもよく、連結軸13は複数本備えてもよい。
【符号の説明】
【0081】
11…接合金物
12…筐体
13…連結軸
17…連結筒部材
17a…雌ねじ
21…前面板
22…後面板
23…窓部
26…挿通穴
27…差し込み片
28a,29…貫通穴
31…雄ねじ
32…締結部
33…下ナット
34…上ナット
51a…一方の構成材
51b…他方の構成材
【要約】
【課題】柱材や梁材などのような構成材同士の接合の多様化をはかるとともに、緩み止めを行っても解体して構成材の再利用ができるようにする。
【解決手段】一方の構成材51aに固定される筐体12と、筐体12に挿通保持される連結軸13を備える。筐体12には、一方の構成材51a又は他方の構成材51bに当接する前面板21と、前面板21の後方に空間を開けて設けられた後面板22と、前面板21と後面板22との間において空間を露出させる窓部23を設ける。前面板21と後面板22には、連結軸13を挿通保持させる挿通穴26を形成し、連結軸13には、外周面に雄ねじ31を形成し、長手方向の中間部に連結軸13より大径で連結軸13に対する回転力が入力される締結部32を設ける。そして、連結軸13における締結部32よりも後面板22側の部分の雄ねじ31に、後面板22側から順に下ナット33と上ナット34を保持する。
【選択図】
図14