(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】シリコーングリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/00 20060101AFI20220128BHJP
C10M 107/50 20060101ALN20220128BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20220128BHJP
C10M 117/00 20060101ALN20220128BHJP
C10M 135/06 20060101ALN20220128BHJP
C10M 135/04 20060101ALN20220128BHJP
C10M 135/02 20060101ALN20220128BHJP
C10M 135/36 20060101ALN20220128BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20220128BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220128BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20220128BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C10M169/00
C10M107/50
C10M115/08
C10M117/00
C10M135/06
C10M135/04
C10M135/02
C10M135/36
C10N10:02
C10N30:06
C10N40:04
C10N50:10
(21)【出願番号】P 2016148283
(22)【出願日】2016-07-28
【審査請求日】2019-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】竹山 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 岩樹
(72)【発明者】
【氏名】吉成 照
【審査官】宮地 慧
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-225843(JP,A)
【文献】国際公開第2015/016376(WO,A1)
【文献】特開2008-143927(JP,A)
【文献】特開2001-187892(JP,A)
【文献】特開2011-084698(JP,A)
【文献】特開平06-279777(JP,A)
【文献】特開2008-239840(JP,A)
【文献】特開2010-095684(JP,A)
【文献】特開2013-018857(JP,A)
【文献】特開平06-122889(JP,A)
【文献】特開昭63-275696(JP,A)
【文献】特開平05-132689(JP,A)
【文献】特開2017-160373(JP,A)
【文献】特開2017-160374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石けん系増ちょう剤又はウレア系増ちょう剤、基油としてシリコーンオイル、添加剤として摩擦調整剤を含み、摩擦調整剤がチアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である硫黄-窒素系添加剤を、組成物の全質量を基準として、1.0~15.0質量%の量で含むシリコーングリース組成物で
あって、
前記シリコーンオイルが、下記一般式(1)で表されるシリコーンオイルである、前記シリコーングリース組成物。
(CH
3
)
3
SiO-[-Si(R1)(R2)-O-]n -Si(CH
3
)
3
(1)
(式中のR1、R2は、それぞれ独立してメチル基またはフェニル基を示す。全有機基に占めるメチル基の割合は、50~100モル%である。)
【請求項2】
更に硫化油脂、硫化オレフィン、硫化エステル、及びサルファイドの群からなる群から選ばれる1種類以上の硫黄系添加剤を含む請求項1記載のシリコーングリース組成物。
【請求項3】
前記硫黄-窒素系添加剤の含有量が、組成物の全質量を基準として、3.0~15.0質量%である請求項1
又は2記載のシリコーングリース組成物。
【請求項4】
増ちょう剤がリチウム石けんである請求項1~
3のいずれか1項記載のシリコーングリース組成物。
【請求項5】
クラッチまたはトルクリミッタ機構用である、請求項1~
4のいずれか1項記載のシリコーングリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーングリース組成物に関する。詳しくは、高い摩擦係数と優れた耐摩耗性を要求される潤滑部、具体的にはクラッチやトルクリミッタ機構の潤滑部等に好適に使用できるシリコーングリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球の環境問題を考慮して自動車の軽量化が実施されてきており、それに伴って従来よりも多様な箇所にクラッチやトルクリミッタ機構の適用が行われてきている。グリース組成物が使用されているクラッチまたはトルクリミッタ機構のうち、もっともトルクが大きく、使用条件の厳しい箇所は、自動車のエンジンスタータのクラッチである。
エンジンスタータのクラッチは、クラッチアウタとクラッチインナ、クラッチアウタの回転をクラッチインナへ伝達するためにクラッチアウタとクラッチインナとの間に形成されたくさび状空間に配置されたローラ、ローラをくさび状空間の狭い方に付勢するためのスプリングで構成される。クラッチアウタが回転するとローラはくさび状空間の狭い方に移動し、クラッチアウタとクラッチインナの間に挟まることでクラッチインナへ回転が伝達される(トルク伝達状態)。従ってこの箇所に使用されるグリース組成物は、クラッチアウタとクラッチインナとローラが滑らないように高い摩擦係数が求められる。
これまでに、摩擦係数0.18以上の基油としてシリコーン油を含むオーバーランニングクラッチ用グリース(特許文献1)や、所定割合のフェニル基又はメチル基を有するオルガノポリシロキサンを基油としたグリース組成物(特許文献2,3)、所定の動粘度を有するジメチルシリコーン基油を1~40重量%の割合で含む基油と、金属酸化物の微粒子と、増ちょう剤とを含むトラクショングリース組成物(特許文献4)が知られている。これは、シリコーン油の摩擦係数が高いことによるが、シリコーン油の表面張力は20~25dyn/cm2と他の油に比べ小さいため、潤滑膜を形成しにくく、そして境界潤滑状態に成り易いという特徴があるためである。
また、クラッチインナの回転速度がクラッチアウタに比べて高くなると、ローラはスプリングを圧縮しながらくさび状空間の広い方へ自動的に移動するので回転は伝達されなくなる(トルク非伝達状態)。この際クラッチアウタ、クラッチインナ、ローラの間で相対回転が発生するので滑り状態となる。従ってこの箇所に使用されるグリース組成物は、耐摩耗性も求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平7-35824号公報
【文献】特開平5-230486号公報
【文献】特開平6-279777号公報
【文献】特開2003-176489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既述のとおり、近年の自動車の軽量化に伴い、クラッチやトルクリミッタ機構も小型化、軽量化が求められ、使用条件も過酷化している。特にトルク伝達性については、より厳しい使用条件でも十分にトルクを伝達することが求められるので、グリース組成物にはより高い摩擦係数が要求される。クラッチやトルクリミッタ機構には、同時に、耐摩耗性も要求される。
従って、本発明は、高い摩擦係数と耐摩耗性を要求される潤滑部に使用した場合でも、耐摩耗性を低下することなく、高摩擦性を向上させたシリコーングリース組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはこの課題に対し、摩擦調整剤として、硫黄-窒素系添加剤を含むシリコーングリース組成物を使用することで、高摩擦性を低下させることなく、摩耗を抑制するグリース組成物を発明した。
すなわち、本発明により、以下のグリース組成物を提供する:
1.増ちょう剤、基油としてシリコーンオイル、添加剤として摩擦調整剤を含み、摩擦調整剤が硫黄-窒素系添加剤を含むシリコーングリース組成物。
2.更に硫化油脂、硫化オレフィン、硫化エステル、及びサルファイドの群からなる群から選ばれる1種類以上の硫黄系添加剤を含む前記1項記載のシリコーングリース組成物。
3.前記硫黄-窒素系添加剤が、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、チウラム系化合物、チオカルバミン酸塩系化合物、及びイミダゾール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記1又は2項記載のシリコーングリース組成物。
4.前記硫黄-窒素系添加剤の含有量が、組成物の全質量を基準として、0.1~15.0質量%である前記1~3のいずれか1項記載のシリコーングリース組成物。
5.増ちょう剤がリチウム石けんである前記1~4のいずれか1項記載のシリコーングリース組成物。
6.クラッチまたはトルクリミッタ機構用である、前記1~5のいずれか1項記載のシリコーングリース組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高い摩擦係数と耐摩耗性を要求される潤滑部に使用した場合でも、耐摩耗性を低下することなく、高摩擦性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<基油>
本発明のグリース組成物に使用する基油はシリコーン油である。
シリコーン油としては、具体的にはジメチルシリコーン油、メチルフェニルシリコーン油(フェニル変性シリコーン油)、メチルハイドロジェンシリコーン油、ポリエーテル変性シリコーン油、アラルキル変性シリコーン油、フロロアルキル変性シリコーン油、アルキル変性シリコーン油、脂肪酸エステル変性シリコーン油等が挙げられる。好ましくはジメチルシリコーン油、メチルフェニルシリコーン油である。特に好ましいのは下記一般式(1)で表されるシリコーン油である。
(CH3)3SiO-[-Si(R1)(R2)-O-]n -Si(CH3)3 (1)
(式中のR1、R2は、それぞれ独立してメチル基またはフェニル基を示す。全有機基に占めるメチル基の割合は、50~100モル%である。)
【0008】
シリコーン油の動粘度は特に限定されないが、25℃において20~10000mm2/s、好ましくは50~2000mm2/s、より好ましくは50~150mm2/sの範囲のものが適当である。25℃における動粘度がこのような範囲にあると、基油がグリースから分離し難く、粘性抵抗による低温でのトルク増大を抑制することができるため好ましい。
上記一般式(1)中のR1、R2はそれぞれ独立してメチル基またはフェニル基を示し、全有機基に占めるメチル基の割合は、50~100モル%である。メチル基の割合がこのような範囲にあると、温度による粘度変化が小さく、流動点上昇を抑制でき、低温でのトルク増大を抑制することができるため好ましい。好ましくは60~100モル%、より好ましくは80~98%、より好ましくは90~95%の範囲とすることが良い。
シリコーン油の含有量は、組成物の全質量に対して55~90質量%であるのが好ましい。70~90質量%であるのがより好ましい。このような量でシリコーン油が含まれると、高い摩擦係数を示すため好ましい。
【0009】
また、シリコーン油にはその性能を低下させない範囲で他の基油を混合しても良い。他の基油としては、鉱物油、ポリα-オレフィン、ポリブテン、アルキルベンゼン、動植物油、有機酸エステル、ジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニールエーテル、ポリフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上があげられる。併用するその他の基油の量は、本発明の基油であるシリコーン油に対して0~50質量%が好ましく、高い摩擦係数を損なわないためには本発明の潤滑油基油に対して0~20質量%であることが好ましい。0~10質量%であることが特に好ましい。他の基油を含まないのが最も好ましい。
【0010】
<増ちょう剤>
本発明のグリース組成物に使用する増ちょう剤は特に限定されない。具体的には、リチウム石けんや複合リチウム石けんに代表される石けん系増ちょう剤、ジウレアに代表されるウレア系増ちょう剤、有機化クレイやシリカに代表される無機系増ちょう剤、ポリテトラフルオロエチレン及びメラミンシアヌレートに代表される有機系増ちょう剤等が挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも一種を使用することが出来る。好ましくは、シリカ、リチウム石けん、複合リチウム石けん及びウレア化合物からなる群から選ばれ、より好ましくはリチウム石けんである。リチウム石けんとしては、ステアリン酸リチウム又は12-ヒドロキシステアリン酸リチウムが好ましく、ステアリン酸リチウムがさらに好ましい。リチウム石けんは、潤滑性が良好であり、耐摩耗性に優れる。また、欠点が少なく、且つ高価でないため、実用性のある増ちょう剤である。
【0011】
増ちょう剤の含有量は目的のちょう度に合わせて適宜決定されるが、通常は2~35質量%であり、好ましくは5~30質量%であり、更に好ましくは10~25質量%である。
増ちょう剤の含有量がこのような範囲にあると、グリースとして使用するのに適度な硬さであって、低温トルク増大を抑制することができるので好ましい。
【0012】
<摩擦調整剤>
本発明のグリース組成物は、摩擦調整剤として硫黄-窒素系化合物を含む。硫黄-窒素系化合物の具体例としては、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、チウラム系化合物、チオカルバミン酸塩系化合物、イミダゾール系化合物が挙げられる。
チアゾール系化合物としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、ビス(ベンゾチアゾール-2-イルチオ)亜鉛、メルカプトチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、2-(4'-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、2-(ジエチルチオカルバモイルチオ)ベンゾチアゾール、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、ターシャリーブチルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド、ジシクロヘキシルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド、メルカプトベンゾチアゾール誘導体等が挙げられる。
【0013】
チアジアゾール系化合物としては、アセタゾラミド、4-アミノ-2,1,3-ベンゾチアジアゾール、2-アミノ-5-(ベンジルチオ)-1,3,4-チアジアゾール、4-アミノ-5-クロロ-2,1,3-ベンゾチアジアゾール、2-アミノ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-アミノ-5-メチル-1,3,4-チアジアゾール、2-アミノ-5-[(5-ニトロ-2-チアゾリル)チオ]-1,3,4-チアジアゾール、2-アミノ-1,3,4-チアジアゾール、5-アミノ-1,2,3-チアジアゾール 、2,1,3-ベンゾチアジアゾール、4,7-ビス(5-ブロモ-4-ドデシル-2-チエニル)-2,1,3-ベンゾチアジアゾール、4,7-ビス(5-ブロモ-4-n-オクチル-2-チエニル)-2,1,3-ベンゾチアジアゾール、4,7-ビス(5-ブロモ-2-チエニル)-2,1,3-ベンゾチアジアゾール、ビスムチオール、ビスムチオールII水和物、5,6-ビス(n-オクチルオキシ)-2,1,3-ベンゾチアジアゾール、4,7-ビス(5-n-オクチル-2-チエニル)-2,1,3-ベンゾチアジアゾール、4,7-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-2,1,3-ベンゾチアジアゾール、4,7-ビス(5-トリメチルスタンニル-2-チエニル)-2,1,3-ベンゾチアジアゾール、4,8-ビス(1,3-ジチオール-2-イリデン)-4H,8H-ベンゾ、3-クロロ-4-モルホリノ-1,2,5-チアジアゾール、4,7-ジブロモ-2,1,3-ベンゾチアジアゾール、5,6-ジブロモ-2,1,3-ベンゾチアジアゾール、4,7-ジブロモ-5,6-ビス(ドデシルオキシ)-2,1,3-ベンゾチアジアゾール、4,7-ジ(2-チエニル)-2,1,3-ベンゾチアジアゾール、2-メルカプト-5-メチルチオ-1,3,4-チアジアゾール、(5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール-2-イルチオ)酢酸、4-ニトロ-2,1,3-ベンゾチアジアゾール、1,3,4-チアジアゾール-2-チオール、メルカプトチアジアゾール誘導体等が挙げられる。
【0014】
チウラム系化合物としては、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等が挙げられる。
チオカルバミン酸塩系化合物としては、下記の一般式(2)で表されるものが挙げられる。
[R3R4N-CS-S-]mM (2)
(式中、R3及びR4は同一でも異なっていても良く、炭素数4~9のアルキル基または炭素数6~9のアリール基を示す。Mは亜鉛、ナトリウム、銅、鉄、テルルを示す。mはMの価数を表す。)
【0015】
イミダゾール系化合物としては、メルカプトベンゾイミダゾール、メルカプトメチルベンゾイミダゾール、メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩などが挙げられる。
本発明の硫黄-窒素系化合物としては、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、チオカルバミン酸塩系化合物が好ましく、チアゾール系化合物がより好ましい。
硫黄-窒素系化合物の含有量は、組成物の全質量を基準として、0.1~15.0質量%が好ましい。1.0質量%~10.0質量%がより好ましく、3.0質量%~5.0質量%がより好ましい。硫黄-窒素系化合物の含有量がこのような範囲にあると、所期の効果と経済性とを両立できる。
【0016】
本発明のグリース組成物はさらに、硫化油脂、硫化オレフィン、硫化エステル、及びサルファイドからなる群から選ばれる1種類以上の硫黄系添加剤を含むことができる。
硫化オレフィンとサルファイドとしては、下記の一般式(3)で表されるものが挙げられる。なお、後述するように、硫化オレフィンはオレフィン類を硫化して得られ、サルファイドはオレフィン類以外の炭化水素原料を硫化して得られる。
R10-Sx-(R20-Sx-)p-R30 (3)
上記一般式中、R10及びR30は同一または異なる一価の炭化水素基である。R10及びR30としては、炭素数2~20の直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、炭素数2~26の芳香族炭化水素基等を挙げることができる。具体的には、エチル基、プロピル基、ブチル基、ノニル基、ドデシル基、プロペニル基、ブテニル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、ヘキシルフェニル基などがある。R20としては、炭素数2~20の直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、炭素数6~26の芳香族炭化水素基等を挙げることができる。具体的にはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、フェニレン基などがある。xは1以上の整数で、好ましくは1~8の整数であり、繰り返し単位中においてそれぞれxは同一または異なる数である。xが小さいと極圧性が小さくなり、xが大きすぎると熱酸化安定性が低下する傾向にある。xは1~6の整数が好ましく、より好ましくは2~4の整数であり、特に好ましくは2~3の整数である。pは0または1以上の整数である。
【0017】
硫化オレフィンとしては、ポリイソブチレンやテルペン類などのオレフィン類を硫黄その他の硫化剤で硫化して得られるものが挙げられる。サルファイド化合物の具体的としては、ジイソブチルジサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジ-tert-ブチルポリサルファイド、ジ-tert-ベンジルポリサルファイドなどが挙げられる。
硫化油脂は、油脂と硫黄との反応生成物であり、油脂としてラード、牛脂、鯨油、パーム油、ヤシ油、ナタネ油などの動植物油脂を使用し、これを硫化反応して得られるものである。この反応生成物は、単一のものではなく、種々の物質の混合物であり、化学構造そのものは明確でない。
硫化エステルは、上記油脂と各種アルコールとの反応により得られる脂肪酸エステルを硫化することにより得られ、硫化油脂と同様、化学構造そのものは明確でない。
硫黄系添加剤の含有量は、組成物の全質量を基準として、0.1~15.0質量%が好ましい。1.0~10.0質量%がより好ましく、3.0~5.0質量%がより好ましい。硫黄系添加剤の含有量がこのような範囲にあると、高い摩擦係数を維持しつつ耐摩耗性の一層の向上が可能であり、また経済性も両立できるので好ましい。
【0018】
<その他の添加剤>
本発明のシリコーングリース組成物はさらに、硫黄-窒素系摩擦調整剤以外の、グリース組成物に通常使用される添加剤を含むことができる。
その他の添加剤としては、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、清浄分散剤、極圧添加剤、消泡剤、抗乳化剤、油性向上剤、固体潤滑剤などが挙げられる。これらは単独又は2種以上混合して用いることができる。なお、これら添加剤は必要に応じて添加され、その添加量は、一般的には0.01~10質量%であるが、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
<ちょう度>
本発明のグリース組成物の混和ちょう度は好ましくは200~400であり、さらに好ましくは230~380であり、最も好ましくは250~350である。
【0019】
本発明のシリコーングリース組成物は、高い摩擦係数と優れた耐摩耗性を要求される潤滑部、詳しくはクラッチやトルクリミッタ機構の潤滑部に好適に使用される。より具体的には自動車スタータのオーバーランニングクラッチ、事務機器のワンウェイクラッチおよび各種トラクション駆動機構等に使用される。特に、潤滑部の表面が鋼である部材であるのが好ましい。
【実施例】
【0020】
<シリコーングリース組成物の製造>
・基油
式(1)中、R1及びR2がメチル基またはフェニル基であり、全有機基に占めるメチル基の割合が95モル%であるシリコーン油(動粘度:112mm2/s@25℃)を用いた。基油の動粘度はJIS K 2220 23.に従って測定した。
・増ちょう剤
ステアリン酸と、水酸化リチウムとから合成される石けんを用いた。
・添加剤
摩擦調整剤
硫黄-窒素系化合物・・・Vanlube 601(R. T. Vanderbilt社製)
硫化オレフィン・・・ANGLAMOL 33(ザルーブリゾールコーポレーション社製)
硫化エステル・・・ADDITIN RC-8000(Rhein Chemie RheinauGmbH社製)
リン酸エステル・・・Vanlube 672(R. T. Vanderbilt社製)
ZnDTP・・・Lubrizol 1395(ザルーブリゾールコーポレーション社製)
その他添加剤
コハク酸無水物(防錆剤)
酸化亜鉛(防錆剤)
ベンゾトリアゾール(金属不活性化剤)
基油にステアリン酸を投入し、加温した後、水酸化リチウム水溶液を添加し、再度加熱した後、急冷したものをベースグリースとし、そこに、残りの基油と添加剤を加え、混和ちょう度が300(JIS K2220、60回混和ちょう度)となるようにミル処理してグリースを調製した。
【0021】
<試験方法>
・摩擦試験
この試験は、クラッチのトルク伝達状態の潤滑条件を想定したものである。
ASTM D 2670に規定されるFalex試験機を用いて行った。ジャーナルおよびブロックに試験グリースを塗布し、あらかじめ既定の荷重で挟み込み、約1秒間ジャーナルを回転させる。発生する摩擦力を記録し、ここから起動0.001秒後の初期摩擦係数を求める。試験片、試験条件は以下の通りである。
ジャーナル :外径φ1/4n, SAE3135STEEL, Rb87~91
ブロック :AISI1137STEEL, Rc20-24
面圧 :200 kgf/mm2
周速 :0.096 m/sec
【0022】
・摩耗試験
この試験は、クラッチのトルク非伝達状態の潤滑条件を想定したものである。
ASTM D 2714に規定されるLFW#1試験機を用いる。リングにコロをあてがい、荷重を負荷し、リングを回転させてコロに生じた摩耗をマイクロメータで測定した。試験片、試験条件は以下の通りである。
リング :外径φ35mm×幅8.7mm、SAE4620STEEL, Rc58~63, RMS6~12
コロ :コロ軸受用円筒コロ,φ6mm×6mm, SUJ-2
面圧 :10 kgf/mm2
周速 :12.8 m/sec
【0023】
<評価基準>
・摩擦試験 摩擦係数
○:0.02≦μ
×:μ<0.02
【0024】
・摩耗試験 摩耗幅
○:<3mm
×:≧3mm
結果を表1及び表2に示す。なお、表中、増ちょう剤及び摩擦調節剤の質量%は、グリース組成物の全質量を基準とする値である。残部は基油である。
【0025】
【表1】
※コハク酸無水物(0.5mass%)、酸化亜鉛(1.0mass%)、ベンゾトリアゾール(0.1mass%)
【0026】
【表2】
※コハク酸無水物(0.5mass%)、酸化亜鉛(1.0mass%)、ベンゾトリアゾール(0.1mass%)