(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】テラヘルツ放射を生成する方法および装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/37 20060101AFI20220113BHJP
G02F 1/39 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
G02F1/37
G02F1/39
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017055106
(22)【出願日】2017-03-21
【審査請求日】2019-12-13
(32)【優先日】2016-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517099270
【氏名又は名称】ドイチェス エレクトローネン-シンクロトロン デズィ
【氏名又は名称原語表記】Deutsches Elektronen-Synchrotron DESY
【住所又は居所原語表記】Notkestrasse 85, 22607 Hamburg, Bundesrepublik Deutschland
(73)【特許権者】
【識別番号】507141044
【氏名又は名称】マサチューセッツ・インスティチュート・オブ・テクノロジー(エムアイティー)
【氏名又は名称原語表記】Massachusetts Institute of Technology(MIT)
【住所又は居所原語表記】77 Massachusetts Avenue,Cambridge,MA 02139,United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100105360
【氏名又は名称】川上 光治
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【氏名又は名称】川本 学
(72)【発明者】
【氏名】フランツ イクス ケルトナー
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン エヌ バーレ
(72)【発明者】
【氏名】ミケル ヘンメル
(72)【発明者】
【氏名】ジョヴァンニ チルミ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー デー ミュッケ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリオ マリア ロッシ
(72)【発明者】
【氏名】アーヤ ファラーヒ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス ハー マトリス
(72)【発明者】
【氏名】ルイス イー ザパタ
(72)【発明者】
【氏名】コーストゥバン ラヴィ
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ライヘルト
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第07349609(US,B1)
【文献】特開2003-015175(JP,A)
【文献】特開2003-324226(JP,A)
【文献】特開2008-170582(JP,A)
【文献】特開2006-091802(JP,A)
【文献】米国特許第07339718(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125、1/21-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ放射を生成する方法であって、
- 入力放射源装置(10)で光入力放射を生成する工程と、
- 単一通過構成で配置された第1の変換結晶装置(30)に前記光入力放射を照射する工程と、
- 前記光入力放射に応答して、前記第1の変換結晶装置(30)において光-テラヘルツ変換プロセスによってテラヘルツ周波数を有する前記テラヘルツ放射を生成する工程と、
を含み、
- 多重線周波数スペクトルが、前記光入力放射によって前記第1の変換結晶装置(30)において形成され、
- 前記光-テラヘルツ変換プロセスは、前記多重線周波数スペクトルを用いたカスケード差周波発生を含み、
特徴として、
- 前記入力放射源装置(10)で生成された前記光入力放射は、生成される前記テラヘルツ放射の前記テラヘルツ周波数だけ離れた光周波数を含む第1の放射成分および第2の放射成分を含み、
前記第1の放射成分と前記第2の放射成分は、前記第1の変換結晶装置(30)を通るビーム経路に沿って相互に空間的および時間的に重なり合って前記第1の変換結晶装置(30)を照射し、
前記多重線周波数スペクトルは、前記第1および第2の放射成分の前記光周波数から導出されるビート周波数によって形成されるものである、
方法。
【請求項2】
前記第1の放射成分および前記第2の放射成分は、前記第1の変換結晶装置(30)を共線的な幾何学的配置で照射するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記入力放射線源装置(10)は、互いに同期され前記第1の放射線成分および前記第2の放射線成分をそれぞれ生成する2つのレーザ源を有し、
前記2つのレーザ源は、
- 2つの連続波レーザ源、
- 2つの擬似連続波レーザ源、特に100ps乃至10nsの範囲の持続時間を有するパルスを放出する2つの疑似連続波レーザ源、
- 1つの連続波レーザ源および1つの疑似連続波レーザ源、
- 2つのパルス・レーザ源、特に、10fs乃至100psの範囲の変換限界持続時間を有するパルスを放出する2つのパルス・レーザ源、
- パルス・ストレッチャ(11.2)と組み合わされた1つの広帯域チャープ・パルス・レーザ源(11.1)と、相対遅延部と組み合わされた1つのパルス・レーザ源、または
- 相対遅延部と組み合わされた2つの広帯域チャープ・パルス・レーザ源
を含むものである、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記2つのレーザ源は、異なる出力パワーを有する前記第1の放射成分および前記第2の放射成分を生成し、
より強い出力パワーに対するより弱い出力パワーの割合は、0.01%より大きく、特に0.1%より大きく、50%より小さいものである、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記テラヘルツ周波数を有する前記第2の放射成分は、
- ポンプ変換結晶装置における単一の超短光パルスの光整流、
- 前記第1および第2の放射成分を用いたカスケード型パラメトリック増幅、または
- ポンプ第1の変換結晶装置(30)における複数のパルスのシーケンスの光整流
によって生成されるものである、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
テラヘルツ放射を生成する方法であって、
- 入力放射源装置(10)で光入力放射を生成する工程と、
- 単一通過構成で配置された第1の変換結晶装置(30)に前記光入力放射を照射する工程と、
- 前記光入力放射に応答して、前記第1の変換結晶装置(30)において光-テラヘルツ変換プロセスによってテラヘルツ周波数を有する前記テラヘルツ放射を生成する工程と、
を含み、
- 多重線周波数スペクトルが、前記光入力放射によって前記第1の変換結晶装置(30)において形成され、
- 前記光-テラヘルツ変換プロセスは、前記多重線周波数スペクトルを用いたカスケード差周波発生を含み、
特徴として、
前記入力放射源装置(10)で生成された前記光入力放射は、生成される前記テラヘルツ放射の前記テラヘルツ周波数の逆数の整数倍に等しい時間間隔(Δt)を有する光レーザ・パルスのシーケンスを含み(Δt=N・1/f
THz、N=1,2,...)、
前記多重線周波数スペクトルは、前記光入力放射によって直接形成されるものである、
方法。
【請求項7】
- 前記第1の変換結晶装置(30)は、一連の交互に分極反転した結晶領域を含む周期的分極反転型の非線形結晶を含み、
- 前記周期的分極反転型の非線形結晶の領域周期は、Λ=c/(f
THzΔn)の整数倍に等しく、
ここで、f
THzは生成される前記テラヘルツ放射の周波数であり、Δnは光入力の群屈折率とテラヘルツ屈折率の差の絶対値Δn=|n
THz-n
g|である、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記入力放射線源装置(10)は、
- 生成される前記テラヘルツ放射の前記テラヘルツ周波数のパルス繰返しレートを有する超短パルス・レーザ発振器を含む、
- 超高速レーザ発振器を含み、パルスのシーケンスが、マルチパルス発生器によって、特に入来光パルスを分割して積み重ねるマルチパルス発生器によって、生成される、または
- 特に光パルスをチャープし遅延させることに基づく、光パルス・インタリーバまたはパルス整形器を含む
の中の1つである、
請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の変換結晶装置(30)は、
- 前記第1の変換結晶装置(30)が、擬似位相整合するよう適合化され、特に、周期的に反転された結晶装置軸での複数のウェハの結合によってまたは幾つかのより小さい周期的に分極反転された結晶装置の積み重ねによって擬似位相整合するよう適合化される、
- 前記第1の変換結晶装置(30)が、前記
第1の変換結晶装置(30)を通るビーム経路に沿って徐々に変化する擬似位相整合周期と擬似位相整合するよう適合化される、
- 前記第1の変換結晶装置(30)が、生成される前記テラヘルツ放射の前記テラヘルツ周波数について位相整合される正規の位相整合に適合化される、
- 前記第1の変換結晶装置(30)が、前記光入力放射に対してブリュースタ角で配置された複数の結晶層を含む、
- 前記第1の変換結晶装置(30)が、バルク結晶または周期的分極反転型の結晶を含む、
- 前記第1の変換結晶装置(30)が、コングルエントなニオブ酸リチウム(cLN)、化学量論的なニオブ酸リチウム(sLN)、コングルエントなタンタル酸リチウム(cLT)、化学量論的なタンタル酸リチウム(sLT)、チタニルリン酸カリウム(KTP)、チタニルヒ酸カリウム(KTA)、リン化亜鉛ゲルマニウム(ZGP)、カドミウムシリコンホスフィド(CdSiP
2)、またはリン化ガリウム(GaP)を含む、
- 前記第1の変換結晶装置(30)が少なくとも1種のドーパントを含む、または
- 前記第1の変換結晶装置(30)が、少なくとも5mmおよび/または最大10cmのビーム経路長を有する、
という特徴の中の少なくとも1つの特徴を有するものである、
請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
- 前記第1の変換結晶装置(30)の出力側に配置された少なくとも1つの別の変換結晶装置に前記光入力放射および前記テラヘルツ放射の少なくとも一方を照射する工程と、
- 前記光入力放射に応答して前記少なくとも1つの別の変換結晶装置において前記光-テラヘルツ変換プロセスによってテラヘルツ放射を生成する工程と、
を含む、請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
- 前記第1の変換結晶装置(30)および前記少なくとも1つの別の変換結晶装置は、擬似位相整合に適合化され、
- 前記第1の変換結晶装置(30)および前記少なくとも1つの別の変換結晶装置は、異なる疑似位相整合周期を有するものである、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
各変換結晶装置が冷却装置で冷却される、請求項1乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
テラヘルツ放射を生成するよう適合化されたテラヘルツ源装置であって、
- 光入力放射を生成するように配置された入力放射源装置(10)と、
- 前記光入力放射線が照射されるように配置された第1の変換結晶装置(30)と、
を含み、
- 前記第1の変換結晶装置(30)は、前記光入力放射に応答して光-テラヘルツ変換プロセスによってテラヘルツ周波数を有する前記テラヘルツ放射を生成するようにかつ単一通過構成で配置され、
- 前記入力放射源装置(10)および前記第1の変換結晶装置(30)は、多重線周波数スペクトルが、前記光入力放射によって前記第1の変換結晶装置(30)において形成され、前記光-テラヘルツ変換プロセスが、前記多重線周波数スペクトルを用いた前記光入力放射のカスケード差周波発生を含むように、構成され、
特徴として、
前記入力放射源装置(10)は、光周波数を含む第1の放射成分と、生成される前記テラヘルツ放射の前記テラヘルツ周波数だけ前記第1の放射成分の前記光周波数から離れた光周波数を含む第2の放射成分と、を生成するように配置され、
前記第1の放射成分と前記第2の放射成分は、前記第1の変換結晶装置(30)を通るビーム経路に沿って相互に空間的および時間的に重なり合って前記第1の変換結晶装置(30)を照射するものである、
テラヘルツ源装置。
【請求項14】
前記入力放射源装置(10)は、互いに同期され前記第1の放射成分および前記第2の放射成分を生成する2つのレーザ源を有し、
前記2つのレーザ源は、
- 2つの連続波レーザ源、
- 2つの擬似連続波レーザ源、特に100ps乃至10nsの範囲の持続時間を有するパルスを放出する2つの擬似連続波レーザ源、
- 1つの連続波レーザ源および1つの疑似連続波レーザ源、
- 2つのパルス・レーザ源、特に、10fs乃至100psの範囲の持続時間を有するパルスを放出する2つのパルス・レーザ源、
- パルス・ストレッチャ(11.2)と組み合わされた1つの広帯域チャープ・パルス・レーザ源(11.1)、および相対遅延部(11.3)と組み合わされた1つのパルス・レーザ源、または
- 相対遅延部と組み合わされた2つの広帯域チャープ・パルス・レーザ源、
を含むものである、
請求項13に記載のテラヘルツ源装置。
【請求項15】
前記入力放射源装置(10)は、
- ポンプ変換結晶装置における単一の超短光パルスの光整流、
- 前記第1および第2の放射成分を用いたカスケード型パラメトリック増幅、または
- ポンプ第1変換結晶装置(30)における複数のパルスのシーケンスの光整流、
によって、前記テラヘルツ周波数を有する前記第2の放射成分を生成するよう適合化されるものである、請求項13または14に記載のテラヘルツ源装置。
【請求項16】
テラヘルツ放射を生成するよう適合化されたテラヘルツ源装置であって、
- 光入力放射を生成するように配置された入力放射源装置(10)と、
- 前記光入力放射線が照射されるように配置された第1の変換結晶装置(30)と、
を含み、
- 前記第1の変換結晶装置(30)は、前記光入力放射に応答して光-テラヘルツ変換プロセスによってテラヘルツ周波数を有する前記テラヘルツ放射を生成するようにかつ単一通過構成で配置され、
- 前記入力放射源装置(10)および前記第1の変換結晶装置(30)は、多重線周波数スペクトルが、前記光入力放射によって前記第1の変換結晶装置(30)において形成され、前記光-テラヘルツ変換プロセスが、前記多重線周波数スペクトルを用いた前記光入力放射のカスケード差周波発生を含むように、構成され、
特徴として、
- 前記入力放射源装置(10)は、生成される前記テラヘルツ放射の前記テラヘルツ周波数の逆数の整数倍に等しい時間的間隔(Δt)を有する光レーザ・パルスのシーケンスを生成するように配置されたものである(Δt=N・1/f
THz、N=1,2,...)、
テラヘルツ源装置。
【請求項17】
前記入力放射線源装置(10)は、
- 生成される前記テラヘルツ放射の前記テラヘルツ周波数のパルス繰返しレートを有する超短パルス・レーザ発振器を含む、
- 超高速レーザ発振器を含み、パルスのシーケンスが、マルチパルス発生器によって、特に入来光パルスを分割して積み重ねるマルチパルス発生器によって、生成される、および
- 特に光パルスをチャープし遅延させることに基づく、光パルス・インタリーバまたはパルス整形器を含む、
の中の1つである、請求項16に記載のテラヘルツ源装置。
【請求項18】
- 前記光入力放射および前記テラヘルツ波放射のうちの少なくとも一方が照射される前記第1の変換結晶装置(30)の出力側に配置された少なくとも1つの別の変換結晶装置を含み、
- 前記少なくとも1つの別の変換結晶装置は、前記光入力放射に応答して前記光-テラヘルツ変換プロセスによってテラヘルツ放射を生成するように配置されるものである、
請求項13乃至17のいずれかに記載のテラヘルツ源装置。
【請求項19】
- コヒーレントX線発生用(薬品製造業、大学研究室、リソグラフィ、医療システム用の位相コントラスト画像化用)または画像化および医療治療用の高エネルギ・テラヘルツ銃および電子加速器の駆動、
- 画像化(例えば障害検出用)、
- コヒーレント回折画像化、
- 分光法、
- 感知応用、特に爆発物検出、
- 小角X線散乱、
- テラヘルツまたは光ポンプおよびX線プローブ時間分解型分光法、
- X線ポンプおよびX線プローブ時間分解型分光法、
- 指向性無線通信、
- レーダ技術、
- 高い相関性の量子システムの新しい位相への駆動、
- テラヘルツ範囲での遷移を有する量子情報装置の駆動、および
- 前記テラヘルツ源装置の電磁アンジュレータとしての使用、
の用途の中の少なくとも1つの用途のために、請求項13乃至18のいずれかに記載のテラヘルツ源装置を使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ(THz)を生成する方法に関し、特に、光入力放射を変換結晶装置(デバイス)に供給して照射し、光-テラヘルツ変換プロセスによってテラヘルツ放射を生成する方法に関する。さらに、本発明は、テラヘルツ放射を生成するよう適合化されていて、入力放射源装置と、光-テラヘルツ変換プロセスによってテラヘルツ放射を生成するための変換結晶装置とを含むテラヘルツ源装置に関する。
【0002】
本発明の適用例は、強電界プロセスおよび特に粒子の加速を駆動するのに利用可能である。本発明の好ましい適用例によれば、テラヘルツ源装置は、例えば電子のような荷電粒子のテラヘルツ加速器において使用される。
【背景技術】
【0003】
本明細書において、従来技術を説明するために、特に次に引用する刊行物を参照する。
[1]米国特許第7764422号B2、
[2]米国特許第7400660号B2、
[3]米国特許第8554083号B2、
[4]S. Carbajo et al. in "Optics Letters", vol. 40, pp.5762-5765, 2015;
[5]K. Vodopyanov et al. in "Applied Physics Letters", vol.99, p.041104, 2011;
[6]欧州特許出願公開第2309325号A1、
[7]米国特許第7953128号B2、
[8]C. Klieber et al. in "Applied Physics Letters", vol.98, p.211908, 2011、
[9]Z. Chen et al. in "Applied Physics Letters", vol.99, p.071102, 2011、
[10]S. R. Tripathi et al. in "Optics Letters", vol. 39, no.6, p. 1649, 2014、
[11]K. Kawase et al. in "Journal of Physics D: Applied Physics", vol.35, pp.R1-R13, 2002、
[12]米国特許第8699124号B2、
[13]米国特許第8305679号B2、
[14]T. D. Wang et al. in "Optics Express", vol.21, no.2, p.2452, 2013、
[15]J. R. Danielson, et al. in "Journal of Applied Physics", vol.104, p.033111, 2008、
[16]M. Cronin-Golomb in "Optics Letters", vol.29, no.17, p.2046, 2004、
[17]K. Vodopyanov et al. in "Optics Express", vol.14, no.6, p.2263, 2006、 および
[18]L. Pengxiang et al. in "Journal of Lightwave Technology", vol.31, no.15, pp.2508-2514, 2013。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第7764422号
【文献】米国特許第7400660号
【文献】米国特許第8554083号
【文献】欧州特許出願公開第2309325号
【文献】米国特許第7953128号
【文献】米国特許第8699124号
【文献】米国特許第8305679号
【非特許文献】
【0005】
【文献】S. Carbajo et al. in "Optics Letters", vol. 40, pp.5762-5765, 2015
【文献】K. Vodopyanov et al. in "Applied Physics Letters", vol.99, p.041104, 2011
【文献】C. Klieber et al. in "Applied Physics Letters", vol.98, p.211908, 2011
【文献】Z. Chen et al. in "Applied Physics Letters", vol.99, p.071102, 2011
【文献】S. R. Tripathi et al. in "Optics Letters", vol. 39, no.6, p. 1649, 2014
【文献】K. Kawase et al. in "Journal of Physics D: Applied Physics", vol.35, pp.R1-R13, 2002
【文献】T. D. Wang et al. in "Optics Express", vol.21, no.2, p.2452, 2013
【文献】J. R. Danielson, et al. in "Journal of Applied Physics", vol.104, p.033111, 2008
【文献】M. Cronin-Golomb in "Optics Letters", vol.29, no.17, p.2046, 2004
【文献】K. Vodopyanov et al. in "Optics Express", vol.14, no.6, p.2263, 2006; and
【文献】L. Pengxiang et al. in "Journal of Lightwave Technology", vol.31, no.15, pp.2508-2514, 2013
【発明の開示】
【0006】
テラヘルツ(波)放射(radiation:エネルギ、電磁波、線、光)は、自由電子レーザ、真空電子装置、例えばジャイロトロン、分子レーザまたは光伝導スイッチで生成できることが、一般的に知られている。これらの技術は、複雑性およびコスト、制限された周波数範囲、低い変換効率、制限されたテラヘルツ・パルス・エネルギ範囲、および限定されたピーク・パワーおよび/または平均パワー範囲の中の少なくとも1つに関して、欠点を有する。さらに、テラヘルツ放射はレーザ・ベースの手法で生成することができ、その手法は、入力放射源からのレーザ・パルスを使用して、非ゼロの2次非線形性を有する非線形結晶を励起し(ポンプし)、差周波発生(DFG)または光整流を含む光-テラヘルツ変換プロセス(過程)を介してテラヘルツ放射を生成する。DFGは、テラヘルツ発生に2つの異なる狭帯域入力レーザを使用し、一方、光整流は、周期的分極反転型の結晶におけるパルス内DFGによってテラヘルツ放射を生成する単一の広帯域入力パルスに基づくものである。
属請求項に記載されている。
【0007】
光-テラヘルツ変換プロセス(過程)に基づく低パワー・テラヘルツ生成システムの提案が、例えば、文献[1]、[2]および[3]に記載されている。しかし、これらのシステムは、これまで、例えば粒子加速器への適用などに必要な、10MW乃至GWのピーク・パワーおよびmJ乃至数mJのパルス・エネルギのテラヘルツ放射を生成していない。通常のレーザ・ベースのテラヘルツ生成方法で報告された最良の光-テラヘルツ・エネルギ変換効率(またはエネルギー変換効率または変換効率)は、0.1%である[4]。変換効率をより高いレベルにスケールする(増減変化させる)限界は、主として、以下に説明するように、使用される入力放射源、非線形結晶および光-テラヘルツ変換プロセスの詳細から得られるものである。
【0008】
第一に、対象とする充分な0.1kHz乃至数kHzの繰返しレート(周波数)およびジュール・レベルのパルス・エネルギを有する変換効率をスケールするための高エネルギ・レーザ源は、1.1μm未満、例えば1.1μm~800nmの波長のものが、最も入手可能である。しかし、レーザ・ベースのテラヘルツ発生に通常使用される非線形結晶の一般的な特徴、例えば、ヒ化ガリウム(GaAs)、リン化ガリウム(GaP)、他の半導体材料または有機材料の一般的な特徴は、1.3μmより長い波長の入力放射源を必要とすることである。特に、1.42eVのバンドギャップ・エネルギを有するGaAsおよび2.26eVのバンドギャップ・エネルギを有するGaPまたはテルル化亜鉛(ZnTe)は、1μm/800nmのレーザの多光子吸収を生じる傾向があるので、テラヘルツ・エネルギおよび変換効率をスケールするには非現実的な候補である。1Jの一部分、ましてそれより大きいポンプ・エネルギを生成する1.3μm以上の波長のレーザ源を工学的に設計することは、極度に困難である。
【0009】
効率的なテラヘルツ発生には、非線形結晶における位相整合または速度整合が必要である。通常用いられる位相整合技術は、例えば、傾斜パルス・フロント(パルス面)技術、擬似位相整合および導波路ベースの位相整合による、光入力とテラヘルツ放射の位相整合を含んでいる。変換効率をスケールするための制限は、特に、高エネルギ・ポンプ・パルスに対して高い複雑性を有する傾斜パルス・フロント技術、およびテラヘルツ放射の位相速度の工学的設計を用いた導波路ベースの位相整合において、存在する。特に、導波路の各寸法が、テラヘルツ波長(近似的mm)のオーダ(程度)でなければならないので、導波路構造(特に光ファイバ)は、損傷限界に起因して、ジュール・レベルの光パルス・エネルギによって励起(ポンプ)することができない。
【0010】
非線形結晶を励起(ポンプ)し、DFGの使用によってテラヘルツ波放射を生成するための通常の入力放射源は、例えば、生成されるテラヘルツ周波数だけ離れた(で分離された)各周波数を有しかつ各同期化レーザ・パルス繰返しレートおよび各位相を有する2つ以上の擬似単色(モノクロ)レーザを使用する。しかし、少なくとも2つのレーザを使用するこれらの入力放射源の適用は、低いパワーのテラヘルツ生成システムに限定されていた。
【0011】
パルス内DFGを用いる光整流の一例が、文献[4]に記載されている。
図26(従来技術)に概略的に示したように、単一通過構成(single pass configuration)が形成され、例えば、入力放射源10’からの光入力放射、例えば単一の広帯域レーザ・パルスは、結像系20’で非線形結晶30’内に結像され、そこでテラヘルツ放射が光入力放射の単一(一回)の通過によって生成される。入力放射源10’は、超短パルス型のモードロック(モード同期)型発振器を含み、それが、技術水準の固体(半導体)増幅器を用いることによって、典型的にkHzの繰返しレートの数mJの高エネルギに増幅される。しかし、極低温冷却およびパルス帯域幅の最適化によっても、変換効率は、周期的分極反転型のニオブ酸リチウム結晶(PPLN)におけるテラヘルツ生成に関して、0.1%に制限される[4]。
【0012】
(テラヘルツ周波数に対して最適化された結晶の疑似位相整合周期(quasi phase matching period)を有する)極低温に冷却されたニオブ酸リチウムにおける種々のテラヘルツ周波数用のポンプ・レーザの変換限界パルス持続時間(transform limited pulse duration)の関数としての変換効率の数値シミュレーションによって、ピーク変換効率が、より大きいテラヘルツ周波数に対してより短い変換限界パルス持続時間で生じることが示される。これは、テラヘルツ放射が基本的に光スペクトルのスペクトル成分のビート生成(うなり)によって生成されるので、当然のことである。長いパルス持続時間では、より高いテラヘルツ周波数の効率的発生に充分なスペクトル内容(コンテンツ)が存在しない。しかし、実際には、ジュール・レベルのポンプ・エネルギおよび高い繰返しレートの、500fsより短い圧縮パルスを得ることは、非常に困難であり、事実上前例がない。実際には、ピコ秒(ps)の長さのパルスが、高いパルス・エネルギで、より実現可能である。しかし、このパラメータ範囲では、変換効率は1%レベルよりはるかに低い。
【0013】
代替形態として、テラヘルツ生成は、特に縮退(degeneration)に近い光パラメトリック発振器(キャビティに基づく装置)(OPO)を用いる通常のDFGに基づくものとすることができる[6]。しかし、これは光-テラヘルツ・エネルギ変換効率にも制限を課す。文献[5]によれば、
図27(従来技術)に概略的に示したように、一連の周波数線は、1.3乃至2μmの波長の光を用いてGaAs製の非線形結晶30’においてテラヘルツ放射を生成するために、光パラメトリック増幅器を含む入力放射源10’で生成された。非線形結晶30’は、非線形結晶30’に光入力放射の複数の通路を形成する共振キャビティ20’内に配置される。この手法の欠点は、第一に、kHzのオーダの低い繰返しレートがOPO構成を用いて実現するのが難しいこと、である。さらに、この実証例では、平均光ポンプ・パワー20~30Wで平均テラヘルツ・パワー200μWしか生成されなかった。これは、0.001%のオーダ(程度)の低い変換効率に対応する。最後に、共振キャビティ20’は、テラヘルツ生成に使用できる光ポンプ周波数の範囲を制限する。その理由は、そのキャビティが小さい1組の周波数に対してだけ安定的だからである。これによって、そのようにして達成される光-テラヘルツ・エネルギ変換が制限される。従って、高エネルギのジュール・レベルの2μmの光入力放射を生成する課題が解決されたとしても、その手法はその変換効率に関して基本的に制限される。
【0014】
室温(即ち300K)で1.064μmの光ポンプ源によって励起(ポンプ)されたバルクのニオブ酸リチウム結晶における非共線的位相整合型の発生プロセスにおけるシード(seed:注入光)としてテラヘルツを使用する別のパラメトリック増幅器システムが、10nJのテラヘルツ・パルスを生成すること、が実証された([10]、[11]、[12]および[13])。そのような構成の光-テラヘルツ・エネルギ変換効率は、pJ乃至nJレベルのテラヘルツ・シードに起因して、非常に低い。第二に、非共線的な構成は実験的に面倒である(tedious)。第三に、テラヘルツ・シードの使用では、高い値のテラヘルツ・シード・エネルギを得るのが困難なので、高い変換効率を達成する可能性が制限される。文献[14]では、周期的分極反転型のニオブ酸リチウムのOPAの性質(挙動)が、0.1%レベルでのまたはマンリー-ロウ限界(Manley-Rowe limit)内での生成のために大きい吸収(室温動作に対応する)の条件下で研究された(但し実証されなかった)。
【0015】
光パラメトリック発振器方式によって生成された複数のポンプ信号の中の1つの信号での差周波数発生を用いたテラヘルツ発生システムが導入された[7]。複数のテラヘルツ発生段が含まれ、複数のDFG段が複数のOPO源によって駆動された。しかし、多数のOPOの構築は面倒で実用的ではない。
【0016】
最後に、チャープおよび遅延の手法を用いて、超高速広帯域光パルスがチャープされ、2つに分割され、次いで相対的な遅延で再結合(合成)されて、所望のテラヘルツ周波数に同調された干渉パターン(interferometric pattern)が生成される。この技術は、ZnTe[15]において、およびニオブ酸リチウムにおける傾斜パルス・フロント技術[9]についても、実証された。ZnTeについて、変換効率は約0.0003%であった。しかし、考察されているように、ZnTeは、最も可能性ある800nm/1μmのレーザ技術との不適合性に起因して、非常に高い変換効率へのスケールを受け入れることができない。さらに、考察されているように、傾斜パルス・フロント技術は、高エネルギ・ビームでのその使用を妨げる基本的な制限を有する。
【0017】
DFGに基づくテラヘルツ発生の他の研究が文献[16]および[17]に記載されており、DFGプロセスは等しい強度の2つの線に基づいている。さらに、ω
Pを、ポンプ光子の周波数とし、ω
THzを、発生したテラヘルツ周波数の周波数とすると、文書[16]によって得られるカスケード型DFG形態(レジーム)の変換効率は次式の通りである。
【数1】
ここで、最大値Nで、理論的に達成できる変換効率は約2のみである。
【0018】
文献[18]に記載されたテラヘルツ発生によれば、本来的に非共線的(non-collonear)であり発生テラヘルツ波の複数回の反射を含むチェレンコフ(Cerenkov)位相整合が用いられる。従って、文献[18]は単一(1回)通過の装置を使用しない。これは特に正しく、その理由は、文献[18]が、テラヘルツ波が最初に生成される非線形プロセスを使用し、それ(テラヘルツ波)が非共線的に(non-collinearly)伝播し、スラブ(平板、厚板)の各壁面で反射し、その結晶において伝播光場を再結合するからである。そのシステムを記述するのに使用されるモデルは、実際には、劇的にカスケード化された(直列の)形態では成立しないかもしれない近似である。さらに、文献[18]で使用される導波路状の幾何学的形状は、カスケード化プロセスを制限するかなりの分散(dispersion)を誘発する。第二に、テラヘルツの吸収はカスケード化の程度を制限もするであろう。ここに記載されたスペクトルは、再び、等しい強度の2本の線を含んでいる。
【0019】
本発明の目的は、通常の技術の限界を回避することができる、テラヘルツ放射を発生するための改良された方法および改良された装置を実現することである。特に、テラヘルツ放射は、通常のレーザ・ベースのテラヘルツ発生技術と比較して、増大されたテラヘルツ出力エネルギおよび/または変換効率および/またはテラヘルツ・ピーク・パワーで、生成されることになる。
【0020】
発明の概要
これらの目的は、独立請求項に記載された、テラヘルツ放射を生成する方法およびテラヘルツ源装置によって達成(解決)される。本発明の有利な実施形態および適用例は、従属請求項に記載されている。
【0021】
本発明の第1の態様または特徴によれば、上述の目的は、光入力放射を生成する工程(ステップ)と、単一通過構成で配置された第1の変換結晶装置に光入力放射を照射する工程と、光入力放射に応答して第1の変換結晶装置において光-テラヘルツ変換プロセス(過程)によってテラヘルツ周波数を有するテラヘルツ放射を生成する工程と、を含むテラヘルツ放射を生成する方法によって達成(解決)される。本発明によれば、光入力放射の生成は、第1の変換結晶装置において多重線周波数スペクトルを有する光放射場が形成されかつテラヘルツ放射のカスケード型の(cascaded:カスケード化された、カスケード)差周波発生に多重線周波数スペクトルが用いられる形態で、行われる。多重線周波数スペクトルは、生成されるテラヘルツ周波数に等しい分離(周波数間隔)を有する複数の周波数線を含んでいる。各線の線幅は、生成されるテラヘルツ周波数より小さい。
【0022】
本発明の第2の一般的な態様によれば、上述の目的は、光入力放射を生成するように配置された入力放射源装置と、任意に結像(画像化)装置と、光入力放射が照射されるように配置された少なくとも1つの変換結晶装置(第1の変換結晶装置)とを含む、テラヘルツ放射を生成するよう適合化されたテラヘルツ源装置によって達成(解決)される。入力放射源装置、任意の結像系(システム)、および第1の変換結晶装置は、光入力放射に応答して光-テラヘルツ変換プロセスによってテラヘルツ周波数を有するテラヘルツ放射を生成するように単一通過構成で配置される。本発明によれば、入力放射源装置および第1の変換結晶装置は、多重線周波数スペクトルを有する光放射場が光入力放射によって第1の変換結晶装置において形成され、光-テラヘルツ変換プロセスが多重線周波数スペクトルを用いた光入力放射のカスケード型差周波発生を含む形態で、構成される。
【0023】
利点として、生成されたテラヘルツ放射には、狭帯域(複数サイクルまたは複数周期)の、特に、均一な連続のテラヘルツ放射、または広帯域(単一サイクルまたは数サイクル)のテラヘルツ放射が含まれる。テラヘルツ放射は、特に100GHz(または0.1THz)乃至3000GHz(または3THz)の周波数範囲にわたる電磁波放射を含んでいることが好ましい。テラヘルツ放射は、ミリジュール(mJ)の、少なくとも1mJ乃至数mJのレベルの、例えば10乃至100mJの、テラヘルツ・パルス出力エネルギを有することが好ましい。重要な利点として、本発明によって、複雑な自由電子レーザを、高エネルギで高いパワーのテラヘルツ・パルスを達成できるコンパクトで低コストの供給源(レーザ源)で置き換えることができる。
【0024】
第1の変換結晶装置における光-テラヘルツ変換プロセス(過程)は、多重線周波数スペクトルのカスケード型の差周波発生である。カスケード化は、更なる複数の線を生成することと、更なるテラヘルツ放射が生成されるに従ってスペクトル位置がより低い周波数へ向かって変化することと、を指す。テラヘルツ放射の発生は、カスケード化のマーカ(標識、しるし)と考えられる。初期スペクトルとして形成された多重線スペクトルを用いて、追加的な複数の線が、高い変換効率で、例えば0.3Hzで変換効率5%で、少なくとも50本の線(特に
図22B参照)が、多重線スペクトルの複数の線および/または多重線スペクトルの複数の形成された線の段階的なビート生成(stepwise beating)によって、生成される。生成される線の数は、変換効率およびそのようにして生成されたテラヘルツ周波数に応じて決まる。これまでのところ、そのような劇的なカスケード化またはスペクトルの位置の変化、およびそのような多数の線の生成を可能にする実用的な設計は、考案されていない。これは、従来の手法(アプローチ)と比較して、かなりより高い変換効率を形成するのに重要である。多重線パルス・フォーマットの使用は、レーザで誘起された損傷を緩和するのにも役立つ。
【0025】
光入力放射として単一の広帯域パルスの光整流でテラヘルツを生成するために単一通過構成を使用する文献[4]の技術とは対照的に、また、複数通過構成での多重線入力放射の通常のDFGを使用する文献[5]とは対照的に、本発明は、多重線周波数スペクトルに基づくカスケード型の差周波数発生を使用する。多重線周波数スペクトルからなる光入力放射は、生成されるテラヘルツ放射の周波数またはその倍数の周波数だけ離れた複数の周波数を含んでいる。線の数は、少なくとも2本、好ましくは少なくとも3本、実際的な観点では10本未満である。但し、これらの数は単なる非限定的な例を表すにすぎない。実際には、線の数は、周波数および他の動作パラメータに応じて決めてもよく、線の数は、10本より多く、例えば最大で20本またはそれより多い本数、例えば最大100本とすることができる。
【0026】
利点として、カスケード型のDFGで、テラヘルツ・エネルギに変換された光ポンプ・エネルギの割合または部分は、それらの光子エネルギの比(マンリー-ロウ限界(Manley-Rowe limit))を大きく超えることができる。これは、非カスケード型のDFGを用いた通常の技術では得られていない。例えば、300THzで励起(ポンプ)された0.3THz放射の発生において、光子エネルギの比は10
-3であり、これはエネルギ変換効率η=0.1%に対応する。非カスケード型DFGは、基本的に約0.1%以下の値に制限され、一方、カスケード型DFGは、光の光子をテラヘルツ光子に繰り返しダウンコンバート(逓降)することによってこれらの値を大幅に超える。ω
Pがポンプ光子の周波数であり、ω
THzが生成されたテラヘルツ周波数の周波数である場合、本発明によって得られるカスケード型DFG形態(方式、レジーム)は、次の変換効率ηを有することが好ましい。
【数2】
ここで、N≧5、例えば、少なくとも5、好ましくは少なくとも10である。変換効率について上で指定したNの値は、以前にカスケード化として観察されまたは報告された、追加のストークスまたは反ストークスの光の線(stokes or anti-stokes optical lines)の数と区別される。理論的には、テラヘルツ放射を発生させることなく、2次的な赤/青方偏移(シフト)線の劇的な発生を得ることが、可能である。ここでは光スペクトルのカスケード化が生じる一方で、それはテラヘルツ放射の相応または同等の成長(増大)(commensurate growth)を伴わない。従って、光の線の偏移はテラヘルツ発生を伴う。従来技術では、これは当てはまらず、これは従来技術で得られる低い効率を説明し得るであろう。
【0027】
マンレー-ロウ限界を大幅に超えるようなカスケード型DFG態様(方式、レジーム)への移行、および上述の変換効率の実現は、(a)光周波数範囲における充分低い分散(dispersion)、(b)光周波数およびテラヘルツ周波数に対する充分低い吸収、(c)光放射およびテラヘルツ放射の充分な重なり合い(オーバラップ)、および(d)変換結晶装置における適切なポンプ(励起)スペクトルおよび強度、を選択することによって、得られることが好ましい。これらの条件は、ポンプ波長、入力光スペクトル、テラヘルツ周波数、および位相整合の幾何学的配置の選択によって満たされ、その結果、正帰還効果およびカスケード型DFGが得られる。
【0028】
多重線周波数スペクトルは、カスケード型光パラメトリック増幅によって自己生成されてもよい(以下、本発明の第1の実施形態)。この場合、多重線周波数スペクトルの複数の線は、第1の変換結晶装置において、光入力放射に含まれる光周波数および/またはテラヘルツ周波数をビートすること(beating:のビート生成)によって得られる各周波数を有する追加の複数の線を生成する複数のビート工程(ステップ)のカスケードによって形成され、またはそのカスケードの先行の複数のビート工程で形成される。利点として、第1の変換結晶装置を通る光入力放射の通過の期間において、多重線周波数スペクトルは、追加的な複数の線のカスケード化された生成によって広げられ、テラヘルツ発生は、第1の変換結晶装置における多重線周波数スペクトルの複数の線の発生によって増大する。
【0029】
代替形態として、多重線周波数スペクトルは、光入力放射の時間的多重線パルス・フォーマットによって直接形成されてもよく、そのテラヘルツ周波数およびその倍数の周波数を含む多重線周波数スペクトルの複数の線のビート生成によって任意にさらに広げられてもよい(以下、本発明の第2の実施形態)。利点として、第1の変換結晶装置を通る光入力放射の通過期間において、時間的多重線パルスの全ての線がテラヘルツ発生に寄与するので、テラヘルツ発生が増大する。
【0030】
両実施形態で、テラヘルツ発生の効率を基本的に増大させ、特に5乃至10%の範囲の光-テラヘルツ・エネルギ変換効率、および1~100mJ以上のテラヘルツ・エネルギの範囲まで、増大させることができる。これによって大幅な改善が実現される。それは、5~10%レベルの光-テラヘルツのエネルギ変換効率を結果的に生じさせ得る技術的解決策が、特に高い光入力エネルギの、通常のレーザ・ベースの技術では利用できないからである。さらに、多重線周波数スペクトルを実現することによって、より実現可能な光ポンプ・レーザを含む入力放射源装置で光入力放射を生成することができ、より高い入力エネルギおよびパワーへ大幅にスケールする(増減変化させる)ことが可能になる。別の利点として、テラヘルツ源装置は、コンパクトな構造および経済的な動作を備えることができる。
【0031】
本発明の第1の実施形態によれば、光入力放射は、光周波数を含むスペクトル内容(コンテンツ)を有する第1の放射成分(または、ポンプ放射、ポンプ・パルス)と、生成されるテラヘルツ放射のテラヘルツ周波数または光周波数を含むスペクトル内容を有する第2の放射成分(または、シード放射、シード・パルス)とを含んでいることが好ましい。第2の放射成分の光周波数は、生成されるテラヘルツ放射のテラヘルツ周波数だけ、第1の放射成分の光周波数から離される。第1と第2の放射成分は、第1の変換結晶装置を通るビーム経路に沿った相互の空間的および時間的な重ね合わせ(オーバラップ)の形態で、第1の変換結晶装置中へ向けて結合される(結合されて第1の変換結晶装置中に供給される)。第1および第2の放射成分は、同時にまたは相対的遅延を伴って、第1の変換結晶装置中へ向けて結合されることが好ましい。その遅延は、両成分の空間的および時間的な重ね合わせが依然として可能であるように、選択される。特に、文献[10]とは対照的に、多重線周波数スペクトルは、第1の放射成分の光周波数および第2の放射成分の光またはテラヘルツ周波数から導出されるカスケード化されたビート(うなり)周波数によって形成される。
【0032】
第1の実施形態は、幾つかの理由で通常の光パラメトリック増幅(OPA)と区別されるカスケード型光パラメトリック増幅(COPA)を用いる。通常の光パラメトリック増幅(OPA)では、DFGプロセスに関係する三波相互作用における最高周波数の波は、残りの他の波と比較して、かなりより高い強度のもの(ポンプとして知られている)である。この初期条件の下では、DFGプロセスに関係する他のより低い2つの周波数の波の成長(増大)は、伝播長さに対して指数関数的(exponential)なものである。逆に、COPAでは、最高周波数の波が最高強度である必要はない。その理由は、カスケード化が開始すると、多重周波数線が生成され、初期条件が“消される”(washed out)からである。
【0033】
さらに、一般的に、COPAは、通常のOPAにおける単なる三波混合プロセスとは対照的に、多数トライアド(triads:3つ組)波混合プロセスであり、合計N個の波について、N!/(3!(N-3)!)個(ここで!は階乗である)のトライアドが存在する。ここで、1つのトライアド(3つ組)は、DFGプロセスに関係する1組の3つの波に対応する。従って、パラメトリック増幅を用いることによって、単一の強い疑似(準)連続波(CW)光ポンプおよび弱いシード(テラヘルツまたは光のいずれか)を使用することが可能になり、ポンプのエネルギの僅か0.1%の少ないシードで、最高10%の非常に高い効率でテラヘルツ放射を生成することができる。利点として、ジュール・レベルの単一の疑似CWまたはCW光ポンプ源の開発は、通常使用されるレーザ源に比べてより容易に実現可能であり、それによってこの第1の実施形態が非常に魅力的なものとなる。
【0034】
第1の実施形態の好ましい変形例では、第1の放射成分および第2の放射成分は、共線的な幾何学的配置で第1の変換結晶装置を照射する。利点として、その結果、第1の変換結晶装置の全長に沿った第1と第2の放射成分の空間的および時間的な重ね合わせ(オーバラップ)の最適化が得られる。
【0035】
第2の放射成分が光周波数を有する場合、入力放射源装置は、互いにロック(同期)されそれぞれ第1の放射成分および第2の放射成分を生成する2つのレーザ源を含んでいることが好ましい。利点として、光入力放射を生成するために使用できる複数のレーザ源の複数の組合せが利用可能である。好ましくは、それらのレーザ源には、2つの連続波レーザ源;2つの疑似連続波レーザ源(特に100ps~10nsのパルスを生成するもの);1つの連続波レーザ源および1つの疑似連続波レーザ源;2つのパルス・レーザ源(10fs~100psのパルスを生成するもの);パルス・ストレッチャと組み合わされた1つの広帯域チャープ・パルス・レーザ源および1つのパルス・レーザ源であって、その両者(2つのレーザ源)の一方が相対遅延部(ユニット)と組み合わされているもの;または、1つの相対遅延部と組み合わされた2つの広帯域チャープ・パルス・レーザ源、が含まれる。要約すると、ポンプ成分またはシード成分(CW、疑似CW、チャープ・パルス)について、異なる変形例が存在し、従って、システムに対して合計3*3=9のバリエーション(変形)が許容される。
【0036】
第2の放射成分がテラヘルツ周波数を有する場合、入力放射源装置は、ポンプ変換結晶装置における単一超短光パルスの光整流、第1および第2の放射成分を用いたカスケード型パラメトリック増幅、またはポンプの第1の変換結晶装置における複数のパルスのシーケンスの光整流によって、テラヘルツ周波数を生成するよう適合化されることが好ましい。利点として、利用可能なテラヘルツ源を使用して、第2の放射のテラヘルツ周波数を生成することができる。
【0037】
第1の実施形態の特に好ましい実施形態によれば、複数のレーザ源は、異なる出力パワーを有する第1の放射成分および第2の放射成分を生成し、その際、より強い出力パワーに対するより弱い出力パワーの割合は、0.01%より大きく、特に0.1%より大きく、かつ50%より小さい。好ましい例では、第1の放射成分は、光周波数f1の強い(第2の放射成分に対して相対的に強い)光ポンプ放射であり、第2の放射成分は、弱い(第1の放射成分に対して相対的に弱い)シード(光またはテラヘルツのいずれか)である。シードは、エネルギ的にポンプより1000倍(1000分の1)も小さいものとすることができる。シードおよびポンプは、最初のDFGプロセスに関与して、テラヘルツ周波数fTHzおよびf2=f1-fTHzの光子を生成し、従ってfTHzとf2の双方を増幅する。次いでその後で、それらのプロセス・カスケード、即ちf3=f2-fTHz、f4=f3-fTHzが生成され、その間ずっと第1の変換結晶装置においてfTHzのテラヘルツ波が増幅される。その方式(レジーム)では、テラヘルツ強度の初期の成長は、通常のDFGの場合のように、長さに関して4次ではなく指数関数的である。
【0038】
本発明の第2の実施形態によれば、光入力放射は、生成されるテラヘルツ放射のテラヘルツ周波数の逆数の整数倍に等しい時間的間隔または分離(Δt)を有する複数の光レーザ・パルスの時間的なシーケンス(一連のパルス)(パルス列)(Δt=N・1/fTHz、N=1,2,...)を含むことが好ましく、多重線周波数スペクトルは、光入力放射によって直接形成される。
【0039】
入力放射源装置は、第1の変換結晶装置を通る光レーザ・パルスのビーム経路の縦方向(長手方向)の長さと等しいかまたはそれより長い空間的長さを有する光レーザ・パルスのシーケンスを生成することが好ましい。利点として、これによって、光入力放射をテラヘルツ放射に効率的に変換することができる。代替形態として、そのパルス列は、第1変換結晶装置を通るビーム経路よりも短くすることができる。
【0040】
特に好ましくは、第1の変換結晶装置は、交互する配向を有する結晶領域(ドメイン)のシーケンスを含む周期的分極反転型の非線形結晶を含み、周期的分極反転型の非線形結晶の領域(ドメイン)周期Λは、次式に等しい。
【数3】
ここで、cは光速であり、f
THzは生成されたテラヘルツ周波数であり、n
gは光入力放射の群屈折率(群速度)であり、n
THzはそのようにして生成されたテラヘルツ周波数でのテラヘルツ屈折率である。利点として、これによって、テラヘルツ発生の効率が増大する。
【0041】
本発明の第2の実施形態によれば、入力放射源装置は、生成されるテラヘルツ放射のテラヘルツ周波数のパルス繰返しレートを有する超短パルス・レーザ発振器、パルスのシーケンスを生成し特に入来光パルスを分割し積み重ねるマルチパルス発生器、または、特に光パルスをチャープし遅延させることに基づく、光パルス・インタリーバ(挿間器)またはパルス整形器、を含んでいることが、好ましい。
【0042】
第1の変換結晶装置は、バルクの単結晶、周期的分極反転型の結晶層の積層体(スタック)(周期的に分極反転した結晶)、または互いに分離した複数の結晶層の配置を含んでいる。周期的分極反転型の結晶は周期的分極を有し、実効(有効)2次非線形感受率(second order nonlinear susceptibility)χ(2)の符号は周期的に、特に交互に反転する。第1の変換結晶装置は、光入力放射の進行方向に沿ったビーム経路長、少なくとも5mmおよび/または最大10cmを有することが好ましい。第1の変換結晶装置は、以下の複数の特徴の中の少なくとも1つの特徴を有することが特に好ましい。
【0043】
第1の変換結晶装置は、特に、周期的分極反転型の結晶層軸を有する複数のウェハの結合(接合、接着)によって、または幾つかのより小さい周期的分極反転型の結晶層を積み重ねる(積層する)ことによって、疑似位相整合(QPM)に適合化させることができる。ジュール級(joule-class)の光入力放射について、非線形性の反転(inversion of nonlinearity)を生じさせるのにも重要な関連性のある結晶軸を反転(invert)させる周期的に回転させた複数のウェハを結合することによって、複数の大きい開孔が形成されてもよい。QPMは、ポンプ・レーザを用いた非線形周波数発生プロセスの効率を増大させるための非線形光学系において知られている。特に、QPMは、狭帯域テラヘルツ放射を生成するための利点を有する。QPMにおいて、光入力放射は、第1の変換結晶装置に入射して、明確に定義された周波数のテラヘルツ放射を生成する。これは、特に特定のテラヘルツ周波数f
THzが生成されることを可能にする次のQPM周期(期間)
【数4】
を有する2次非線形性の交互の符号を有する領域(ドメイン)からなる結晶を用いることによって、達成される。ここで、n
THzはテラヘルツ屈折率であり、n
gは光ポンプ・レーザの群屈折率であり、cは真空中の光の速度である。
【0044】
特に、第1の変換結晶装置は、ビーム経路に沿って徐々に変化する擬似位相整合周期(期間)と擬似位相整合するよう適合化させることができる。利点として、これによって、変換効率を増大させることができる。
【0045】
代替形態として、第1の変換結晶装置は、生成されるテラヘルツ放射のテラヘルツ周波数に位相整合される正規の(regular:通常の、標準的な)位相整合に適合化させることができる。
【0046】
第1の変換結晶装置が、互いに分離された複数の結晶層の配列を含む場合、それらの結晶層は、光入力放射に対してブリュースタ角で配置されることが好ましい。従って、光入力放射の損失を最小化することができる。
【0047】
バルク結晶または周期的分極反転型の結晶としての第1の変換結晶装置を形成することができる複数の材料が利用可能である。非線形材料の選択は、光入力放射波長、および他の材料特性、例えば、損傷閾値、非線形特性、および充分な結晶開孔の利用可能性、に応じて決まる。好ましい材料は、コングルエントな(congruent)ニオブ酸リチウム(Lithium Niobate)(cLN)または化学量論的な(stoichiometric)ニオブ酸リチウム(sLN)、コングルエントなタンタル酸リチウム(Lithium Tantalate)(cLT)または化学量論的なタンタル酸リチウム(sLT)、チタニルリン酸カリウム(Potassium Titanyl Phosphate)(KTP)、チタニルヒ酸カリウム(potassium titanyl arsenate)(KTA)、リン化亜鉛ゲルマニウム(Zinc Germanium Phosphide:亜鉛ゲルマニウムホスフィド)(ZGP)、カドミウムシリコンホスフィド(Cadmium Silicon Phosphide:リン化カドミウムシリコン)(CdSiP2)、およびリン化ガリウム(Gallium Phosphide)(GaP)を含んでいる。その材料には、1種またはそれより多いドーパント(不純物)、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、鉄(Fe)、水素(H)、クロム(Cr)またはルビジウム(Rb)が含ませることができ、これらは、特に、寄生非線形効果を低減するようにまたは損傷閾値を増大させるように、結晶の非線形特性に影響を与えるものである。
【0048】
上述の複数の例の中で、コングルエントなおよび化学量論的なニオブ酸リチウムおよびコングルエントなおよび化学量論的なタンタル酸リチウム(任意に、1種以上のドーパント、例えば酸化マグネシウム、鉄またはクロムを含む)が、変換効率を増大させるのに特に好ましい。4eVの非常に大きいバンドギャップで、それらは、最近の1μmレーザ技術と既製の800nmのTi:サファイア技術で入手可能な比較的容易に利用可能な1Jレベルのパルス・エネルギと完全に適合性がある。また、それらは、優れた非線形特性を有し、特に、GaAsの3倍、GaPの6倍の2次の非線形性を有する。さらに、それは、GaAsに比べて(100倍低い)、GaPに比べて(10倍低い)、およびZnTeに比べて(10倍低い)、はるかに小さい非線形屈折率のような付加的な有利な特性を有する。ニオブ酸リチウムまたはタンタル酸リチウムの結晶は、コングルエントなおよび化学量論的な結晶の形態で使用することができる。また、任意にルビジウムのドーパントを含むKTPおよびKTAは、1μm/800nmのレーザでも好ましく、cLN/SLNに比べてより良好な損傷特性を有し得るが、僅かに劣った非線形特性を有し得る。
【0049】
本発明の別の好ましい特徴によれば、第1の変換結晶装置(および多段構成の任意の別の変換結晶装置)を、冷却装置で、好ましくは150K未満の温度まで、冷却することができる。冷却は、特にニオブ酸リチウムまたはタンタル酸リチウムの結晶にとって好ましい。他の材料、例えば、リン化ガリウム、カドミウムシリコンホスフィド(CdSiP2)は、冷却なしで使用することができる。
【0050】
本発明の他の利点は、多段テラヘルツ発生で得ることができ、その際、第1の変換結晶装置の出力側に配置された少なくとも1つの別の変換結晶装置に、前の変換結晶装置からの光入力放射とテラヘルツ放射出力の少なくとも一方が照射される。テラヘルツ放射は、少なくとも1つの別の変換結晶装置において光入力放射に応答して、カスケード型差周波発生を含む光-テラヘルツ変換プロセスによって生成される。別の変換結晶装置は、第1の変換結晶装置の複数の特徴の中の少なくとも1つの特徴を有することが好ましい。利点として、多段テラヘルツ発生は、テラヘルツ放射の変換効率および/または出力パワーの更なる増大を形成する。
【0051】
その第1の変換結晶装置および少なくとも1つの別の変換結晶装置は、擬似位相整合に適合化されることが好ましく、その際、第1の変換結晶装置および少なくとも1つの別の変換結晶装置は、相異なる擬似位相整合周期(期間)を有する。
【0052】
本発明によるテラヘルツ源装置の別の利点は、その広い範囲の適用例、例えば、コヒーレントX線発生用(薬品製造業、大学研究室、リソグラフィ、医療システム用の位相コントラスト画像化用)または画像化および医療治療用の高エネルギ・テラヘルツ銃および電子加速器の駆動、画像化(例えば障害検出用)、コヒーレント回折画像化、分光法、感覚または感知応用例、特に爆発物検出、小角X線散乱、テラヘルツまたは光ポンプおよびX線プローブ時間分解型分光法、X線ポンプおよびX線プローブ時間分解型分光法、指向性無線通信、レーダ技術、高い相関性の量子システムの新しい位相への駆動、テラヘルツ範囲での遷移を有する量子情報装置の駆動、および/または、テラヘルツ源装置の電磁アンジュレータとしての使用、で得られる。
【0053】
さらに、本発明の他の詳細および利点を、図面を参照して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】
図1は、2つの光源を含む、本発明によるテラヘルツ放射を生成する第1の実施形態の概略図である。
【
図2】
図2は、
図1の第1の実施形態の多段の変形例の概略図である。
【
図4】
図4~6は、
図1の本発明のテラヘルツ源装置100で得られる実際の結果である。
【
図7】
図7は、光源およびテラヘルツ源を含む、本発明によるテラヘルツ放射を生成する第1の実施形態の概略図である。
【
図8】
図8は、
図7の第1の実施形態の多段の変形例の概略図である。
【
図9】
図9~13は、
図1の本発明のテラヘルツ源装置100で得られたシミュレーション結果である。
【
図14】
図14は、マルチパルス入力放射を用いる、本発明によるテラヘルツ放射を生成する第2の実施形態の概略図である。
【
図15】
図15は、周波数(A)および時間(B)の領域におけるマルチパルス入力放射のグラフ図である。
【
図18】
図18~22は、
図14の本発明によるテラヘルツ源装置100で得られたシミュレーション結果である。
【
図23】
図23~25は、本発明によるテラヘルツ放射を生成するのに使用される変換結晶装置の概略図である。
【
図26】
図26および27は、テラヘルツ放射を生成する通常の技術(従来技術)の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明を、第1の変換結晶装置(デバイス)における光入力放射によって多重線周波数スペクトルを形成する第1および第2の実施形態を参照して説明する。多重線周波数スペクトルを使用するカスケード型の差周波発生を使用する光-テラヘルツ変換プロセスの物理的性質は、両実施形態において、等しいので、第1の実施形態に関して説明する特徴は第2の実施形態で使用することができ、またその逆の場合も同様である。
【0056】
例えば、入射放射源装置、光入力放射、結像系および第1のまたは他の変換結晶装置の各詳細は、以下で説明する実際的試験または数値シミュレーションに基づいて選択することができる。特に、数値シミュレーションの結果は、本発明によるテラヘルツ源装置を設計するのに直接使用することができる。本発明の実際の実装は、記載された例に限定されることなく、変形された特徴でも可能であることを強調しておく。
【0057】
本発明を、特に、変換結晶およびカスケード型テラヘルツ発生における多重線周波数スペクトルを有する光放射場の形成に関して説明する。本発明の詳細、例えば位相整合の詳細は、それらが従来技術で知られている場合は、説明しない
【0058】
本発明の第1の実施形態
本発明の第1の実施形態の特徴を
図1乃至13を参照して説明する。
【0059】
図1は、光入力放射を生成するための入力放射源装置10と、結像系(システム)20と、テラヘルツ生成用の第1の変換結晶装置30とを含むテラヘルツ源装置100の概略図を示している。入力放射源装置10は、第1の放射成分を生成する光ポンプ源11と、第2の放射成分を生成する光シード源12とを有するポンプ・システムを含んでいる。この場合、テラヘルツ源装置100は、タイプOのテラヘルツ-COPA(カスケード型光パラメトリック増幅)と称される。代替的事例では(
図7参照)、テラヘルツ・シード源13が使用され、テラヘルツ源装置100はタイプTのテラヘルツ-COPAと称される。光ポンプ源11および光シード源12に関する種々の可能な実現例を以下で説明する。
【0060】
結像系20(詳細は図示せず)は、屈折および/または反射の光学系、およびビーム合成器(結合器、コンバイナ)装置、例えばダイクロイック(二色性)ビーム合成器に基づくもの、を含んでいる。それら(光学系、装置)は、第1と第2の放射成分を重ね合わせて、それらを第1の変換結晶装置30内に向けてコリメートし(平行にし、視準を合わせ)、集束しまたは発散させる(diverging)よう構成されている。結像系20は、ビームからの収差(aberrations)を除去するために、真空ベースの(真空に基づく)結像系を含んでいることが好ましい。
【0061】
第1の変換結晶装置30は、例えば、疑似位相整合(QPM)結晶である非線形結晶31、例えば、必要なテラヘルツ周波数に対して位相整合された、周期的分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)または望ましい非線形パラメータを有する規則的位相整合結晶である。約800nm/1μmの波長領域で利用可能なジュール・レベルの光入力放射について、ドーパントを含むコングルエントな/化学量論的なタンタル酸リチウムおよびコングルエントな/化学量論的なニオブ酸リチウムが、高効率のテラヘルツ発生に適している。さらに、周期的分極反転(Periodic Poling)を有して入手可能なチタニルリン酸カリウム(Potasium Titanyl Phosphate)(KTP)(PPKTP)およびチタニルヒ酸カリウム(Potasium Titanyl Arsenate)(PPKTA)であってルビジウムのドーパントを含むものは、同様に、これらの周波数範囲での実行可能な解決策である。さらに、より長い波長のジュール級のレーザが使用されるとき、非線形結晶31は、例えばリン化亜鉛ゲルマニウム(ZGP)およびカドミウムシリコンホスフィド(CdSiP
2)のような他の材料で形成することができる。擬似位相整合(QPM)結晶の製造の他の詳細を、
図23乃至25を参照して以下で説明する。
【0062】
入力放射源装置10の実装のための多数の方法が存在する。第1の例として、所望のテラヘルツ周波数だけ離れた(で分離された)2つの連続波レーザ11、12は、一方が高いパワーのレーザであり、他方がかなり低いパワーのレーザであり、互いにロックする(同期させる)ことができる。第2の例として、テラヘルツ周波数だけ離れたそれぞれの中心周波数を有する、約100ps(強)乃至nsの範囲のパルス持続時間を有する疑似CW(連続波)波が使用されてもよい。第3の例として、入力放射源装置10は、広帯域パルス(10fs~100psの変換限界持続時間(transform limited durations))光ポンプおよびシード源11、13を含んでいる。本発明のこの変形例では、多数の手法が存在し、例えば、(i)所望のテラヘルツ周波数だけ離れたそれぞれの中心周波数を有する変換限界パルスの生成;(ii)所望のテラヘルツ周波数だけ離れたそれぞれの中心周波数を有するチャープ広帯域パルスの生成であり、それは、2つの変換限界狭帯域パルス(チャープおよび無遅延の手法、CANDy)を使用する状況を模倣するように重ね合わせることもできるもの;または(iii)適切な量の相対遅延を有するチャープ広帯域パルスの生成であり、その1つまたは一方はその他のものよりはるかに弱い強度のものであるもの、(手法)を使用することもできる。これは、チャープおよび遅延の手法(
図3参照)と類似しているが、それらのパルスのうちの1つまたは一方がかなり低いエネルギである点で、かなり異なる。
【0063】
テラヘルツ源装置100は、
図2に示されているような多段の構成で形成することができる。入力放射源装置10、結像系20および第1の変換結晶装置30を含む第1段は、
図1を参照して上で説明したように構成される。第2段は、入力放射源装置10Aとしての第1段と、第2の結像系20Aと、第2の変換結晶装置30Aとを含んでいる。他の各段、例えば図示のような第3段は、入力放射源装置としての前段、例えば10Bと、別の結像系、例えば20Bと、別の変換結晶装置、例えば30Bと、を含んでいる。各結像系および各変換結晶装置は、
図1を参照して上で説明したように構成することができる。各段でのテラヘルツ放射出力は、多段テラヘルツ光源装置100のテラヘルツ出力を供給するように結合される。代替形態として、各段でのテラヘルツ放射出力を別のチャネルで使用することができる。利点として、多段階構成を使用して、変換効率を高レベルに増大させることができる。
【0064】
代替形態として、生成されたテラヘルツ放射と光ポンプ放射の双方は、互いに対してそれらを遅延させることによってリフェーズ(re-phased:再位相整合、再位相調整)することができ、第2段および別の各段に注入することができる。このプロセスは繰り返すことができ、
図8に示すように、第N段でテラヘルツを抽出することができる。
【0065】
複数のカスケード・サイクルの期間において、光スペクトルはかなり下方偏移(ダウンシフト)し、材料分散に起因して、位相整合条件が変化し、それによって、カスケード・サイクルの数が制限され、従って達成可能なテラヘルツ変換効率が制限される。従って、テラヘルツ発生を分散制限することができて、非常に高い変換効率となる(分散制限されたテラヘルツ発生を生じさせることができれば非常に高い変換効率となる)。これは、伝播長さに沿って、QPM結晶30、30A、30B、・・・の周期を徐々に変化させることによって、回避することができる。代替形態として、複数段が用いられるとき、各段は、異なる最適なQPM周期を有する結晶を含むことができる。
【0066】
チャープおよび遅延手法に基づいて入力放射源装置10で光学入力放射を供給する上述の変形例が、
図3における例で示されている。入力放射源装置10は、フェムト秒レーザ源11.1、格子伸長器(grating stretcher)11.2、および一組の部分反射ミラー、特にエタロン11.3を含んでいる。例えば、それぞれ非常に短いパルス持続時間、例えば30fsを有する2つのパルスは、それぞれの長い持続時間にチャープを加えることによって、最初に格子伸長器(圧縮器)11.2で伸長することができる。これらのチャープ・パルスは、エタロン11.3で相対的に遅延させることができ、その結果、多重周波数線を含むチャープ・パルスが形成され、それ(パルス)が非線形結晶31に入力される。さらに、必要なテラヘルツ周波数だけ離れたそれぞれの中心周波数を有する2つのチャープ・パルスを使用してもよい。この場合、遅延(CANDy)が義務的に必要ではない。
図3の設定は一例にすぎない。それは、例えばビーム・スプリッタを用いて、変形できる。
【0067】
図4乃至6は、本発明によるテラヘルツ源装置100で得られる例示的な実際的な結果を示し、
図4は実験的な光ポンプ・スペクトルおよびシード・スペクトルを示し、
図5は種々の非共線的位相整合の可能性に関する位相整合図を示し、
図6は、異なる位相整合条件に対応する2つの異なる周波数の各光スペクトルの増幅に起因する、進行および後退の位相整合テラヘルツ波の実験的な証拠を示している。
【0068】
図4乃至6の結果を得るのに使用されるテラヘルツ光源装置100は、パルス持続時間0.25~0.3ns、中心波長1029.5nm、エネルギ15mJおよび繰返しレート(率、周波数)0.1kHzを有するポンプ・パルス(第1の放射成分)を放出するレーザを含む光ポンプ源11と、パルス持続時間0.25~0.3ns、実効(有効)中心波長1031.25nm、エネルギ200μJ、および繰返しレート0.1kHzを有するシード・パルス(第2の放射成分)を放出するレーザを含む光シード源12とを含んでいる。光ポンプ源11と光シード源12の双方は、ポンプ・パルスとシード・パルスが非線形結晶31において重ね合わせられる(オーバラップされる)ように、同期化される。非線形結晶31は、300Kで格子周期212μmを有するニオブ酸リチウムの周期的分極反転に基づく長さ1cmのQPM構造体である。
【0069】
第1の試験では、光シードが、ポンプ(励起)に対して角度θ=0.42°で発射される。非共線的位相整合テラヘルツ周波数は、
図5における種々の位相整合図に示されているように、後退伝播または進行伝播のいずれかで生成することができる。2つの異なるテラヘルツ発生周波数は、条件が
図5におけるクラス(級)1またはクラス2の位相整合を満たすかどうかに応じて、位相整合される。2つの可能なテラヘルツ周波数が生成できるという事実は、異なる遅延によって2つの異なる位相整合テラヘルツ発生周波数が生成される
図6において、実験的に観察される。別の試験では、光学シードとポンプの双方が共線的に擬似位相整合結晶31中に発射され、その結果として再びテラヘルツ発生が得られる。
【0070】
図7によれば、テラヘルツ源装置100は、光入力放射を生成するための入力放射源装置10と、結像系20と、テラヘルツ発生用の第1の変換結晶装置30とを含んでいる。
図1と違って、入力放射源装置10は、生成されるテラヘルツ放射の周波数に等しい周波数を有するテラヘルツ・パルスを放出するテラヘルツ・シード源13を含んでいる。
【0071】
実際的な例では、互いにロック(同期)された光ポンプ源11およびテラヘルツ・シード源13は、疑似CW(連続波)ポンプ・レーザおよび疑似CWテラヘルツ源を含んでいる。光ポンプ源11は、長さ100ps乃至数nsの疑似CW光パルスを生成し、テラヘルツ・シード源13は、複数サイクルのテラヘルツ・パルスを生成する。その光源は、CW(連続波)、変換限界(または圧縮)パルス、広帯域伸長パルス、テラヘルツ周波数の逆数の倍数だけ離れた(分離された)一連のパルス(チャープおよび遅延で得られる、多重線またはパルス列)、または疑似CW源であってもよい。テラヘルツは、CW、疑似CW、複数サイクル(超短レーザ・パルスの光整流によって得られる数十サイクル(周期))であってもよいし、第1または第2の実施形態で得られてもよい。
【0072】
また、
図7のテラヘルツ源装置100は、
図8に示されているような多段構成で形成することができる。この場合、前段からの光放射とテラヘルツ放射の双方が後段に入力される。
図2を参照して上述したように、入力放射源装置10、結像系20および第1の変換結晶装置30を有する第1段は、第2段の入力放射源装置10Aを形成し、以下同様である。
【0073】
第1の実施形態の数値シミュレーション
第1の実施形態の数値シミュレーションを、以下のモデル式を用いて行った。一般的に、周波数ω
m=ω
0+mΩ
0(ここで、ω
0は中心光角周波数、Ω
0は生成されたテラヘルツ角周波数)の光縦モードの電界は、E
m=A
mexp(-jk
mz)で与えられる。ここで、A
mはm番目の縦モードのエンベロープ、k
mは非線形媒質におけるm番目の縦モードの波数(wave number)である。エンベロープA
mの展開は、式(1)で与えられる。
【数5】
【0074】
式(1)の右辺の第1の項は、赤方偏移光周波数成分A
m-1とテラヘルツ場(電界)の間の和(sum)周
波発生である。式(1)の右辺の第2の項は、青方偏移光周波数成分A
m+1とテラヘルツ場の間の差周
波発生である。同様に、式(2)は、テラヘルツ場エンベロープA
THzの展開を記述する。
【数6】
【0075】
式(2)の右辺の第1の項はテラヘルツ吸収に対応し、第2の項は、光周波数成分相互間の全ての差周波発生プロセスの集合体に相当する。
【0076】
図1によるテラヘルツ源装置100の変換効率の数値シミュレーションは、
図9乃至12に示すように行われ、入力放射源装置10の中心波長約1μm、QPMニオブ酸リチウム結晶31、および、連続的ポンプ、シードおよびテラヘルツ波、が仮定された。2次非線形係数をχ
(2)=(2/π)336pm/Vと仮定し、係数2/πはQPM構造の周期性から得られるものとした。テラヘルツ波および光波の全分散を考慮した材料の屈折率データは、文献データに基づくものである。
【0077】
図1の実施形態(タイプOのテラヘルツ-COPA)のシミュレーション(結果)が
図9および10に示されている。これらのシミュレーションでは、強い光ポンプ・パルスが1030nmを中心とすると仮定され、注入光シードが所望のテラヘルツ発生周波数によって周波数が下方へ偏移(ダウンシフト)される。結晶31は、そのテラヘルツ周波数および光ポンプ周波数に対して位相整合される。シードのエネルギの割合(百分率)は、変えられ、ポンプ・エネルギの10%以下の大きさに制限される。従って、エネルギ1Jが光ポンプとして使用される場合、最大で100mJのシードが仮定される。このようなシステムは、実現可能なレーザ技術の範囲内にある。ポンプ・フルエンス(流束量)は、損傷(ダメージ)フルエンスより係数2だけ小さく(の2分の1に)なるように、即ち約1.5J/cm
2に制限される。結晶31は、100Kの極低温であると仮定される。結晶の長さは5cm以下に制限される。
【0078】
図9は、種々の初期光シード・エネルギについてのテラヘルツ周波数の関数としてのピーク変換効率を示しており、シード・エネルギはポンプのエネルギの小さい割合として表される。
図10Aは、僅か0.1%のシードのエネルギを仮定した場合の、種々のテラヘルツ周波数に対する長さの関数としての変換効率を示しており、或る長さを超える場合の変換効率の低下は、分散によって生じる位相不整合に起因する。
図10Bは、種々のシード・レベルについてのテラヘルツ周波数の関数としての最適な結晶長さを示している。
【0079】
図9から、初期シード値はピーク変換効率にあまり影響しないことが分かる。その理由は、その光スペクトルのカスケード化が生じると、それによって初期条件(初期周波数)がその位置からまたはその後段では(周波数成分に)もはや関係しなくなるからである。ピーク変換効率は、周波数とともに増大するが、最終的に飽和を示す。変換効率の飽和は主に分散に起因する。高い変換効率では、広がった光スペクトルは、もはや、生成されたテラヘルツ放射と充分に位相整合されることがなく、それによって、
図10Aにおいてシード比0.1%についての長さの関数としての変換効率のプロットで示されているように、或る長さを超えて変換効率が低下する。最大の変換効率は、より高い周波数に対してより短い長さで生じ、それは通常のOPAの理解と一致する。周波数および初期シード・エネルギの関数としての最適結晶長さが
図10Bにプロットされている。ここで、より高いシード・エネルギおよびテラヘルツ発生周波数によって、必要な結晶長さがどのように減少するか、が示されている。さらに、これらの計算を用いて、ポンプとして相対的に容易に実現可能な1Jの擬似CWパルスを使用して、5%より高い変換効率がどのようにして達成できるか、が示される。損傷制限が緩和された場合に、フルエンスと共に近似的にスケール(増減変化)するより高い変換効率が達成される。
【0080】
図7の実施形態(タイプTのテラヘルツ-COPA)のシミュレーション(結果)が
図11および
図12に示されている。これらのシミュレーションでは、強い光ポンプ・パルスと、光シードの代わりに弱いテラヘルツ・シードとが用いられる。テラヘルツ・シードは、上で概説したように多数の方法で生成することができる。他の例では、単一超短パルスの光整流、チャープおよび遅延の手法、マルチパルス手法(本発明の第2の実施形態)、およびタイプOのテラヘルツ-COPAを用いて、初期テラヘルツ放射を生成することができる。
【0081】
図11は、種々の初期テラヘルツ・シード・エネルギについてのテラヘルツ周波数の関数としてのピーク変換効率を示している。ここで、シード・エネルギは、ポンプのエネルギの小さい割合として表される。
図12Aは、種々のテラヘルツ周波数についての長さの関数としての変換効率を示しており、僅か0.1%のシードのエネルギを仮定している。ここで、或る長さを超える場合の変換効率の低下は、分散によって生じる位相不整合に起因する。
図12Aにおいて、1Jの光ポンプについて、0.1%のシードがテラヘルツ・シードの1mJに対応する。
図12Bは、種々のシード・レベルについてのテラヘルツ周波数の関数としての最適な結晶長さを示している。また、結晶長さは5cmに制限された。
【0082】
図11および12に示された性質または振舞いは、
図9および10に示された光シードを使用する場合と同様である。しかし、複数mJまたは数mJのテラヘルツ・シードを得ることは困難な見通しなので、直に大量のテラヘルツ・エネルギのシードを形成する(seed:をシードする)ことは、実際にはより困難となり得る。従って、タイプOのテラヘルツ-COPAがより好ましい。弱いシードで開始するタイプTのCOPAは、複数段で実装されてもよい。
【0083】
図2および8に示されているように、光放射だけをリサイクル(再循環、再使用)するか(
図2)または光放射とテラヘルツ放射の双方を使用する(
図8)かのいずれかを含む多段テラヘルツ-COPA装置を実現することができる。実験的に最も単純な手法は、
図2に示されているように、テラヘルツ・ビーム輸送および操作における困難に起因して、単純に光放射をリサイクルすることである。
【0084】
多段構成のシミュレーション(結果)が
図13Aおよび13Bに示されており、
図13Bは2段のタイプOのテラヘルツ-COPAに関する変換効率を示し、
図13Aは約8%の変換効率が得られる3段構造を示している。これらは、例示的なシミュレーション(結果)であり、可能性の限界を反映していない。例えば、他の段を含めると、変換効率が10%を超える可能性がある。
図13Aによれば、第1段に関する結晶長さは、最適な長さ、例えば5cmに設定され、第1段からの光放射は基本的に第2段においてリサイクルされる。最良の変換効率を達成するために、その構造のQPM周期が最適化される(
図13B参照)。
図13BにおけるQPM周期に対する変換効率の感度は、そのプロセスが分散制限されることを示している。その理由は、光スペクトルがカスケード化すると、群速度が変化し、その結果、異なるQPM周期がテラヘルツ放射を最適に位相整合することが必要とされるからである。同様に、単結晶内でも格子周期を徐々に変化させることが可能である。
【0085】
本発明の第2の実施形態
本発明の第2の実施形態の特徴を
図14~17を参照して説明する。
【0086】
図14は、マルチパルス光入力放射を生成するための入力放射源装置10と、結像系20と、テラヘルツ発生用の第1の変換結晶装置30と、を含むテラヘルツ源装置100の概略図を示している。入力放射源装置10は、生成されるテラヘルツ放射のテラヘルツ周波数の逆数の整数倍に等しい時間的間隔または分離(Δt)を有する超短パルスのシーケンスを生成するよう適合化される(Δt= N・1/f
THz、N=1,2,...)。この実施形態では、第1の変換結晶装置30における光入力放射によって、多重線周波数スペクトルが形成される。
【0087】
図15には、周波数領域における光入力放射の時間的パルス・フォーマットおよび対応するスペクトルが示されている。時間的パルス・フォーマット(
図15B)は、時間的間隔または分離が、生成されたテラヘルツ放射の周期(またはその整数倍)に等しいような、超短パルスのシーケンスである。それに対応して、パルス・シーケンスは、
図15Aに示されているように、テラヘルツ周波数だけ離れた複数の周波数線を含んでいる。
【0088】
パルス・シーケンスの各超短レーザ・パルス(
図15B)は、第1の変換結晶装置30においてテラヘルツ波を生成する。パルス間の遅延がテラヘルツ場振動(発振)と時間的に同等な(parallel)ので、連続的な超高速パルスはコヒーレントにテラヘルツ場を増大させる。このようにして、テラヘルツ変換効率が増強され、高い度合の単色性(単色度)が確保される。単一パルスにパック(充填、詰込み)できるエネルギの量は、F
damage=400τ
1/2mJ/cm
2で定められる損傷フルエンスによって制限される。ここで、複数のパルスを使用して、この制限を回避でき、大量のエネルギを累積的にそのシーケンス中にパックすることができる。従って、単一パルスから複数パルスへと移行する利益または利得(gains)は、ジュール級のポンプ・レーザに関して特に明白である。
【0089】
結像系20(詳細は図示せず)は、光入力放射を第1の変換結晶装置30内に集束するよう構成された屈折および/または反射光学系を含んでいる。
【0090】
第1の変換結晶装置30は、非線形結晶31を含むことが好ましく、非線形結晶31は疑似位相整合(QPM)結晶であり、例えば、周期的分極反転型のニオブ酸リチウム(PPLN)または周期的分極反転を有するチタニルリン酸カリウム(KTP)(PPKTP)または周期的分極反転を有するチタニルヒ酸カリウム(KTA)(PPKTA)である。
【0091】
ジュール・レベルのポンプ(励起)について、パルス・フォーマットに応じて、10mm*10mmより大きい非線形結晶31の大きい各開孔を設けることができる。市販の疑似位相整合ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムの各構造は、周期的に印加される電圧を用いて周期的に領域を反転させることによって生成される。しかし、この手法によって、結果として、現在最良1.5~2cm
2の大きさの開孔しか得られない可能性がある。特に繰返しレート1kHzでの、F
damageによるニオブ酸リチウムの損傷フルエンスが経験的にスケールする(増減変化する)ので、より大きい開孔が必要になる場合、非線形結晶31は、
図25を参照して以下説明するように組み立てることができる。より低い繰返しレートでは、損傷閾値がより高くなる。
【0092】
図16A~16Dに示されている入力放射源装置10の実装には複数の方法が存在する。
図16Aによれば、入力放射源装置10は、マルチパルス・レーザ源14およびレーザ増幅器15を含んでいる。マルチパルス・レーザ源14は、数GHzのパルス列を放出する特徴を有する高い繰返しレートの主(マスタ)発振器であり、それは、例えば、キャビティ長を最小化する基本的にモードロック型(モード同期)のレーザ、例えば、最高約100GHzまでの現在のパルス繰返しレートを生成するモードロック型の集積外部キャビティ面発光レーザ(MIXSEL)であり、または繰返しレート7乃至1100GHzを可能にするキャビティ内干渉計を用いるものであり、または、高調波モードロック型のレーザを用いるものである。その繰返しレートは、生成される所望のテラヘルツ周波数に対応する。
【0093】
図16Bの変形バージョンでは、入力放射源装置10は、マルチパルス・レーザ源14と、パルス・ピッカ部(ユニット)(パルス選別部)16と、レーザ増幅器15とを含んでいる。パルス・ピッカ部16は、例えば、マルチパルス・レーザ源14によって生成された高い繰返しレートのパルスのシーケンスを選択する電気-光変調器または音響-光変調器を含んでいる。このパルスのバーストは、レーザ増幅器15で超高エネルギに増幅される。このようにして、そのバーストは、パワー増幅器での増幅後に、より高いパルス・エネルギを含むことができる。バーストとバーストの間の繰返しレートは、典型的には、数HzまたはkHzである。また、パルス・ピッカ部16によってバースト・エンベロープの整形が可能になる。
【0094】
図16Cによれば、入力放射源装置10は、主発振器17と、マルチパルス発生器18と、レーザ増幅器15とを含んでいる。主発振器17は、所望のテラヘルツ周波数よりはるかに低い繰返しレートのパルスを放出する超短パルス・レーザ発振器を含んでいる。特に、数μJ乃至mJのパルスを放出する超短レーザについて、繰返しレートは、典型的にはMHz乃至kHzの範囲にある。マルチパルス発生器18は、主発振器17のレーザ・パルスを、テラヘルツ周波数の逆数またはその複数の高調波の中の1つの逆数だけ離れた幾つかのパルスに分割するよう適合化される。例えば、マルチパルス発生器18は、複数のオプションとして、複屈折性結晶の積層体、複数の半反射面、複数のジル・トルノア(Gires-Tournois)干渉計ミラー、フーリエ面内に位相格子を有する4fパルス整形器、音響-光パルス整形器、またはデススター(Death-Star)パルス整形器が存在する[8]。マルチパルス発生器18によって形成されるパルス整形器が損失を示す場合、パルス整形器をパワー増幅器の前に配置することは有用であり得、さもなければその装置もレーザの出力に外付けすることができる。
【0095】
代替形態として、マルチパルス発生器18は、広帯域パルスをチャープし適切な遅延の後で互いに重なり合う2つの部分に分割する装置とすることができる。その遅延およびチャープは、所望のテラヘルツ周波数を生成するように調整してもよい。
【0096】
図16Dは別の変形例を示しており、入力放射源装置10は、複数の疑似連続的な長い持続時間のパルスまたは周波数線を生成して混合する源(供給源)19と、各周波数線を増幅するレーザ増幅器15とを含んでいる。源19は、例えば、位相ロック(同期)された2つのcw(連続波)単一周波数レーザを含んでいる。これらのcwレーザからの長いパルスは、各レーザ内のレーザ・ダイオードの電流をまたは代替的に外部光変調器によって光信号出力を制御することによって生成することができる。その外部光変調器は、ポッケルス・セル(Pockels cell)、音響-光変調器または電気-光変調器とすることができる。
【0097】
本発明の第2の実施形態のテラヘルツ源装置100は、
図17に示されているように、多段構成で形成することができる。第1段は、マルチパルス光入力放射を生成するための入力放射源装置10と、上述のテラヘルツ生成用の第1の変換結晶装置30とを含んでいる。第1段は、第2の変換結晶装置30Aを含む第2段の入力放射源装置10Aを形成する。さらに、他の段が続く。
【0098】
多段構成は、後続のテラヘルツ発生段用の光入力放射のリサイクルを形成する。ここで、ポンプ・レーザ・システムは、マルチパルス・レーザ・システムまたは任意の他のポンプ・レーザ・システムを指すことができる。提案された別のテラヘルツ放射を生成するようにポンプのリサイクルを使用するの[7]とは対照的に、本発明で得られる高い変換効率のニオブ酸リチウムの場合のポンプのリサイクルは特有のものである。その理由は、変換効率が百分率(%)レベルに達すると、光周波数の下方変換(ダウンコンバージョン、逓降)の繰り返しが存在するからである。この歪んだスペクトルを依然として使用してその後続の各段においてテラヘルツ放射を生成することができるという事実は、前代未聞のことである。従って、低い変換効率でのリサイクルは、大きい変換効率でのリサイクルとは全く異なる。
【0099】
第2の実施形態の数値シミュレーション
第2の実施形態の数値シミュレーションを、以下のモデル式を用いて行った。角周波数Ωの発生したテラヘルツ場は、以下で示す式に基づいて計算することができる。
【数7】
ここで、A(Ω,z)はテラヘルツ電界であり、χ
(2)は実効二次非線形性であり、n(Ω)はテラヘルツ屈折率であり、αはテラヘルツ吸収係数であり、Δkは光ポンプ・レーザと発生テラヘルツの間の位相不整合であり、cは真空中の光速である。
【数8】
は、光ポンプ・レーザのポンプ強度のフーリエ変換である。
【0100】
次に、光-テラヘルツ変換効率は、次のようにすぐに評価される。
【数9】
【0101】
上述の式(3)および(4)に基づいて、Eop(t)で与えられたパルス・フォーマットについての光-テラヘルツ変換効率を計算することができる。ニオブ酸リチウムおよび光ポンプ波長1030nmの場合について、計算が行われる。関連するパラメータのリストを下表に示す。
【0102】
【0103】
非線形変換プロセスを数値的にモデル化するために、以下の1次元(1-D)方程式を使用した。
【数10】
【数11】
【0104】
方程式(5)は、角周波数Ωにおけるテラヘルツ電界エンベロープATHz(Ω)の展開を考慮している。第1項はテラヘルツ放射の吸収である。第2項は、種々の光スペクトル成分間の全ての可能な差周波発生プロセスの総和(sum)である光整流プロセスに対応する。
【0105】
方程式(6)は、角周波数ωにおける光電界エンベロープAIR(ω)の展開を考慮している。第1項は、光スペクトルのテラヘルツ誘発スペクトル広がりに対応する。第2項は自己位相変調項に対応する。
【0106】
図18Aは、生成されたテラヘルツ周波数に対応する時間間隔(区間)だけ離れた時間的なパルスのシーケンスを示している。
図18Bは、種々のテラヘルツ周波数での種々の変換限界パルス持続時間に関する、式(3)を用いた、長さにわたって最適化された変換効率を示しており、極低温冷却ニオブ酸リチウムについて、2パルス(実線)、10パルス(破線)および30(点線)パルスのシーケンスに関するものである。
図18Cは、それぞれ0.3および0.1THzに関する1シーケンスにおけるパルス数(N)の関数としての変換効率を示している。
【0107】
理想的には、テラヘルツ場は、ポンプ・パルスの数とともに、線形に成長する。テラヘルツ・エネルギは電界の2乗に比例するので、合計の変換効率もパルス数と共に線形にスケールする(増減変化する)。しかし、光損傷が考慮されるとき、この成長は或る値Nを超えて線形でなくなる。
図18Aでは、1シーケンスのパルスの特定の場合が示されており、1シーケンスにおける各パルスの強度は同一である。
図18Bでは、合計フルエンスはF
damageによって与えられる損傷フルエンス値の半分で一定に維持される。
図18Bで分かるように、単一パルスの場合と比較して、変換効率は、パルスの数が増大するにしたがって、成長し続ける。
図18Cに示された計算では、0.3THzで10%を超える変換効率が達成でき、0.1THzで約2%の変換効率が達成できることが、明らかにされている。
【0108】
図18の場合、1シーケンスにおける各ポンプ・パルスの強度は等しい。しかし、最初に生成されたテラヘルツ放射が最も吸収され、最後に生成されたテラヘルツは、結晶を最初に出て、その結果、1シーケンス中の後続パルスと最も少ない重ね合わせ(オーバラップ)を有するので、変換効率が増大することができるのは、1シーケンス中のポンプ・パルスの強度が以下のように変化する場合である。最大効率利得において、パルス・シーケンスは、テラヘルツ・パルスが、パルス・シーケンスからの最大のコヒーレント成長と最小の吸収の双方を経験するように、形成される。パルス・シーケンスは、ガウス形状を有するエンベロープを有することが好ましい。利点として、これによって、パルス・シーケンスにわたる平坦なエンベロープに関連して(に対して)より高い変換効率が得られる。
【0109】
ガウス外形(プロファイル、分布)を有するエンベロープを有するパルス・シーケンスは、幾つかの方法によって生成することができる。第一に、超短レーザ・パルス装置用のパルス・スプリッタおよびスタッカ(stacker)は、例えば文献[8]に記載されているように、パルス・シーケンスを整形するのに使用することができる。第二に、パルス・シーケンスは、
図19を参照して例示したように、それぞれ長い疑似連続パルスに対応する2つ以上の周波数線を混合することによって、整形することができる。
【0110】
図19Aは、ガウス型エンベロープを有する生成されたテラヘルツ周波数に対応する時間間隔だけ離れたパルスのシーケンスを示している。そのような強度パターンは、1対の周波数線またはそれぞれ持続時間150psの疑似連続波パルスで、生成される。
図19Cは、極低温に冷却されたニオブ酸リチウム(100K)に関する種々のテラヘルツ周波数における種々の疑似連続パルス持続時間についての長さにわたって最適化された変換効率を示している。
図19Bは、極低温に冷却されたニオブ酸リチウムに関する0.3および0.1THzについての周波数線の数Nの関数としての変換効率を示している。
【0111】
図19Cに示された正確に1対の線についての各周波数線の変換限界パルス持続時間の関数としての変換効率の計算によって、約6%という高い変換効率が、0.3THzだけ離れた1対の300psのパルスを用いて達成できることが示されている。
図19Aにおける1対の線の強度パターンでは、それらは、近似的に、ガウス型エンベロープで正確に(f
THz)
-1=Δt=3.33psだけ離れた複数パルスからなる一列のパルスとして現れる。留意すべきこととして、パルスのシーケンス内のフルエンスの再分配に起因して、ちょうどN個のパルスの場合と比較して、より高い変換効率が達成され得る。例えば、
図19Bに見られるように、0.3THzについては20%のオーダ(程度)および0.1THzについては5%のオーダの変換効率が計算で求められる。
【0112】
第三に、代替的な変形例では、超短パルスへのパルス整形が用いられる。具体的には、超短パルスはチャープされ、分割され、そのそれぞれのコピーが、例えば
図3の配置で、互いに相対的に遅延される。そのチャープ、分割および遅延の順序は変更することができる。この方法は、例えば市販の800nmのTi:サファイア・パルスのような、広帯域光ポンプ・パルスに特に適用可能である。この手法では、大きい帯域幅のパルスがチャープされ、そのチャープ・パルスが2つの部分パルスに分割され、そのように互いに相対的に適切に遅延された2つの部分パルスが相互干渉され重なり合って、所望の周波数のテラヘルツが生成される。
【0113】
図20Aおよび20Bにおいて、最適化された変換効率は、極低温に冷却されたニオブ酸リチウム(100K)におけるそれぞれ0.3および0.1THzのチャープ・パルス持続時間の関数として示されている。
図20Aは、そのチャープおよび遅延の手法を用いた、種々の変換限界持続時間(30fs、330fs、600fsおよび1ps)に関するチャープ・パルス持続時間τ2の関数として、長さにわたって最適化された0.3THzでの変換効率を示している。
図20Bは、極低温に冷却されたニオブ酸リチウム(100K)における、チャープおよび遅延の手法を用いた、種々の変換限界持続時間(30fs、330fs、600fsおよび1ps)に関するチャープ・パルス持続時間τ2の関数として、長さにわたって最適化された0.1THzでの変換効率を示している。
【0114】
図21Aは、0.1THzについて位相整合された同じQPM周期Λを有する5つの結晶中をそれぞれが通過する500fsの一列の32個のパルスに関する長さの関数としての変換効率を示している。毎回、効率は約1%以上である。従って、累積的効率は約5%である。これ(効率)は、他の段を追加することおよび/または各段についてのQPM周期を最適化することによって、および/または結晶長さに沿った適切に変化する値Λを有する単結晶を有することによって、さらに増大させることができる。従って、非常に高い累積的変換効率を得るために、
図17に示されているように、光ポンプ・パルスをリサイクルする幾つかの段を用いることができる。第5段の終端部における光スペクトルが
図21Bにプロットされている。
【0115】
図22Aは、各段において同じQPM周期値Λを有する、0.3THzについて位相整合された擬似位相整合結晶を通してリサイクル(再循環)する光パルスの3段についての長さの関数としての変換効率を示している。元の入力光場は、それぞれ500fsの32個のパルスからなる一列のパルスを含んでいる。第1段では、6%に近い変換効率が達成された。第2段では2%の変換効率が達成され、第3段では1%に近い変換効率が達成された。累積的には、これは9%のオーダ(程度)の変換効率に対応する。再び、これは、各段および/または追加の複数段においてQPM周期Λのさらなる最適化を用いることができるので、限界を表すものではいない。第3段の終端部における広がったスペクトルが
図22Bにプロットされている。従って、光パルスをリサイクルする手法によって、結果的に、非常に高い累積的な変換効率を得ることができる。
【0116】
変換結晶装置の構成
本発明の第1または第2の実施形態で使用することができる第1の変換結晶装置または他の変換結晶装置の好ましい構成が、
図23乃至25に示されている。周期的分極反転型のニオブ酸リチウム(PPLN)結晶について例示的に説明する。それに対応して、上述のような他の材料で形成された周期的分極反転型の非線形結晶を設けることができる。
【0117】
図23Aによれば、最大1.5乃至2cm
2までの開孔をそれぞれ有する市販の複数のPPLN結晶を使用することができる。代替形態として、
図23Bおよび25に示されているように、互いに結合(接合、接着)された複数のウェハから、大面積(大領域)の複数のPPLN結晶を作製することができる。別の代替形態として、
図23Cに示されているように、幾つかのより小さいPPLN結晶を積み重ねる(積層する)ことによって形成された複数の構造体を使用することができる。
【0118】
QPMの周期は伝播長に沿って変化するまたは一定に維持することができ、および/または異なる一様な周期を有する複数の結晶をテラヘルツ発生の相異なる各段に用いて、増大された変換効率を形成することができる。それに加えて、共線的な幾何学的配置、非共線的な幾何学的配置を採用してもよい。
【0119】
非共線的な幾何的配置は、複数の構造体の製造に関して有利であり得る。例えば、幾つかのウェハをそれぞれ適切な角度だけ回転させ、
図24に示されているようにテラヘルツ波長よりも短い距離を置いて(隔てて)配置するだけでよい。光パルスは、光ビームに対する全ての反射が回避されるように、ブリュースタ角αで入射することができる。テラヘルツ波は、波長よりもはるかに小さい界面に遭遇する(見る)ことなく、あたかも界面が存在しないかのように通過する。この実施形態は、QPM構造体を製造するために高価なウェハ・ボンディング(結合)プロセスを採用する必要性がないという利点がある。
【0120】
図25は、さらに、非線形結晶31が複数のウェハで形成された
図23Bの構造を示している。それらのウェハは、非線形結晶31によって適切なQPMが得られるように、互いに回転される。その後、それらのウェハは互いに結合される。この構造は、ウェハ結合型のQPM(WB-QPM)構造体と称されることがある。このようにして、大きい開孔の周期的分極反転型の結晶を製造することができる。非線形感受率は、結晶軸と入射電界の間の相対的角度の関数である。従って、各結晶軸の交互の回転によって、結果的に、交互する符号の2次感受率が得られる。ニオブ酸リチウムの場合、結晶のz軸に沿った電界は、最大のテラヘルツ・エネルギを生成する。実際的な例では、プロトタイプの非線形結晶31が、交互するz軸が互いに拡散結合(接合)され、15~20cm
2の開孔を有する8つの厚さ0.5mmで酸化マグネシウム5%ドープ(添加)のコングルエントなニオブ酸リチウムの複数のウェハで製造される。代替的な例では、非線形結晶31は、例えば酸化マグネシウムまたは鉄またはクロムまたはルビジウムのような種々のドーパントを含む、化学量論的なニオブ酸リチウム、コングルエントな/化学量論的なタンタル酸リチウム、リン化ガリウム、チタニルリン酸カリウムおよびチタニルヒ酸カリウムのウェハで形成することができる。
【0121】
上述の説明、図面および特許請求の範囲に開示された本発明の特徴は、その様々な実施形態における本発明の実現のために、個々にならびに組み合わせまたは部分的組合せについて重要であり得る。