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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】低砥粒シリカ粒子の水性組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20220113BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20220113BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20220113BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
C09G1/02
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017198636
(22)【出願日】2017-10-12
(65)【公開番号】P2018070870
(43)【公開日】2018-05-10
【審査請求日】2020-09-28
(31)【優先権主張番号】15/297,716
(32)【優先日】2016-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504089426
【氏名又は名称】ローム アンド ハース エレクトロニック マテリアルズ シーエムピー ホウルディングス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】イ・グォ
(72)【発明者】
【氏名】デビッド・モズリー
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・ヴァン・ハネヘム
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-080406(JP,A)
【文献】特表2017-515302(JP,A)
【文献】特開2000-345144(JP,A)
【文献】特開2003-133267(JP,A)
【文献】特表2010-541203(JP,A)
【文献】特開2010-267960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
H01L 21/304
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク遠心システムによって測定された重量平均粒子径(CPS)が互いに20nm未満だけ異なる、球形コロイダルシリカ粒子と、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子との混合物を含む水性ケミカルメカニカルプラナリゼーション(CMP)研磨組成物であって、前記組成物が2.5~5.3の範囲のpHを有し、前記球形コロイダルシリカ粒子及び前記細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子の少なくとも一つが一つ以上のカチオン性窒素原子を含有し、更に、前記細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子の量が、水性CMP研磨組成物中のシリカ固形分の全重量に基づいて30~99重量%の範囲である、水性CMP研磨組成物。
【請求項2】
前記細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子の量が、水性CMP研磨組成物中のシリカ固形分の全重量に基づいて40~90重量%の範囲である、請求項1に記載の水性CMP研磨組成物。
【請求項3】
前記一つ以上のカチオン性窒素原子が、水性CMP研磨組成物のpHで一つ以上のカチオン性窒素原子を含有するアミノシランに由来し、その結果、前記球形コロイダルシリカ粒子又は前記細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子の少なくとも一つがアミノシラン基含有シリカ粒子である、請求項1に記載の水性CMP研磨組成物。
【請求項4】
前記アミノシランが、一つ以上の第三級アミン基、又は一つ以上の第二級アミン基を含有するアミノシランから選択される、請求項1に記載の水性CMP研磨組成物。
【請求項5】
前記アミノシランの量が、水性CMP研磨組成物中の全シリカ固形分に基づいて0.0020~0.25重量%の範囲である、請求項4に記載の水性CMP研磨組成物。
【請求項6】
二つの第四級アンモニウム基を含有する化合物を更に含む、請求項1に記載の水性CMP研磨組成物。
【請求項7】
前記二つの第四級アンモニウム基を含有する化合物の量が、水性CMP研磨組成物中の全シリカ固形分に基づいて1~2000ppmの範囲である、請求項6に記載の水性CMP研磨組成物。
【請求項8】
前記シリカ粒子の重量平均粒子径(CPS)が10nm~200nmの範囲である、請求項1に記載の水性CMP研磨組成物。
【請求項9】
pKaが3~7の(ジ)カルボン酸のカルボン酸塩である緩衝剤を全(湿)組成物1kgあたり0~50ミリモル(m/kg)の量で更に含む、請求項1に記載の水性CMP研磨組成物。
【請求項10】
前記シリカ粒子の全量が組成物の全重量に基づいて1~30重量%の範囲である、請求項1に記載の水性CMP研磨組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球形コロイダルシリカ粒子と、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子との混合物を含む水性ケミカルメカニカルプラナリゼーション(CMP)研磨組成物であって、球形コロイダルシリカ粒子及び細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子の少なくとも一つがカチオン性窒素原子を含有する、水性CMP研磨組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、基板を研磨するためにCMP研磨パッドとともに使用される水性ケミカルメカニカルプラナリゼーション(CMP)研磨組成物のユーザーは、そのような研磨に使用される水性砥粒スラリーの固形分含量を1~10重量%のレベルまで減らすことによってコストを下げることを望んでいる。しかし、そのような水性シリカスラリーCMP組成物は、特に、メモリーチップ又はモジュールのような硬い絶縁体ウェーハ基板の場合に求められる高ダウンフォース条件下では、十分に性能を発揮することができない。高ダウンフォースCMP研磨においては、ウェーハ基板と研磨パッド表面との間の空間が著しく狭められ、それにより、研磨中、パッドの縁からパッド中心への砥粒輸送の障害を生じさせる。その結果、高ダウンフォースCMP研磨を使用して研磨された基板における平坦さが実質的に欠如し、平坦化効率に悪影響を及ぼすものであった。加えて、研磨中、パッドと基板との間の摩擦が著しく増し、研磨温度を上昇させ、基板を研磨する代わりにパッドの摩耗又は摩損を生じさせ、結果的にパッド寿命の短縮を招く。更に、ダウンフォースが増すとともに、公知の水性シリカスラリーを使用する場合に見られる基板除去速度は停滞し、低下することさえある。
【0003】
Higuchiらへの米国特許公開公報第US2011/0163262A1は、コロイダルシリカと、二次粒子としての、枝分かれした、又は曲がったシリカ粒子との混合物を含有する組成物及びそのようなシリカ組成物を製造する方法を開示している。Higuchiは、得られる水性スラリー組成物の純度を重視している。しかし、Higuchiの組成物のいずれも、研磨中に次第に増大する過度な摩擦又は高ダウンフォースCMP研磨から生じる基板の平坦さの欠如という課題に対処しておらず、ましてやそれを解決してもいない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、高ダウンフォース用途において、シリカ固形分含量が低くても、より一貫した基板研磨性能を提供する水性シリカCMP研磨組成物を提供するという課題を解決しようと尽力した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1.本発明によれば、水性ケミカルメカニカルプラナリゼーション(CMP)研磨組成物は、重量平均粒子径(CPS)が互いに20nm未満だけ異なる、球形コロイダルシリカ粒子と、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子との混合物を含み、その組成物は2.5~5.3、又は好ましくは3~5の範囲のpHを有し、球形コロイダルシリカ粒子及び細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子の少なくとも一つは、一つ以上のカチオン性窒素原子を含有し、更に、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子の量は、水性CMP研磨組成物中のシリカ固形分の全重量に基づいて30~99重量%、又は30~95重量%、又は好ましくは40~90重量%、又はより好ましくは40~85重量%の範囲である。
【0006】
2.上記項目1記載の水性CMP研磨組成物に従い、一つ以上のカチオン性窒素原子は、水性CMP研磨組成物のpHで一つ以上のカチオン性窒素原子を含有するアミノシランに由来し、その結果、球形コロイダルシリカ粒子又は細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子の少なくとも一つはアミノシラン基含有シリカ粒子であり、好ましくは、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子は更にプロトン化アミン又は第四級アンモニウムを含有する。
【0007】
3.上記項目1又は2のいずれか一つに記載の水性CMP研磨組成物に従い、アミノシランは、一つ以上の第三級アミン基を含有するアミノシラン、例えばN,N-(ジエチルアミノメチル)トリエトキシシラン(DEAMS)又は一つ以上の第二級アミン基を含有するアミノシラン、例えばN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(AEAPS)もしくはN-アミノエチルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン(DETAPS)、好ましくは一つ以上の第三級アミン基を含有するアミノシランから選択される。
【0008】
4.上記項目2又は3のいずれか一つに記載の水性CMP研磨組成物に従い、アミノシランの量は、水性CMP研磨組成物中の全シリカ固形分に基づいて0.0020~0.25重量%、又は好ましくは0.003~0.1重量%、又はより好ましくは0.003~0.02重量%の範囲である。
【0009】
5.上記項目1、2、3又は4のいずれか一つに記載の水性CMP研磨組成物に従い、二つの第四級アンモニウム基を含有する化合物、例えばヘキサブチルC~Cアルカンジアンモニウム二水酸化物又はその塩、例えば二ハロゲン化物、例えばN,N,N′,N′,N′-ヘキサブチル-1,6-ヘキサンジアンモニウム二水酸化物、又は好ましくはN,N,N,N′,N′,N′-ヘキサブチル-1,4-ブタンジアンモニウム二水酸化物(HBBAH)を更に含む。
【0010】
6.上記項目5に記載の水性ケミカルメカニカルプラナリゼーション(CMP)研磨組成物に従い、二つの第四級アンモニウム基を含有する化合物の量は、水性CMP研磨組成物中の全シリカ固形分に基づいて1~2000ppm、又は好ましくは5~500ppm、又はより好ましくは10ppmから200ppmの範囲である。
【0011】
7.上記項目1、2、3、4、5又は6のいずれか一つに記載の水性ケミカルメカニカルプラナリゼーション(CMP)研磨組成物に従い、一つ以上のカチオン性窒素原子は、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子内に含有されるプロトン化アミン又は第四級アンモニウムに由来し、又は好ましくは、一つ以上のカチオン性窒素原子は、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子内に含有されるプロトン化アミン又は第四級アンモニウムに由来するのみならず、アミノシラン、二つの第四級アンモニウム基を含有する化合物又はアミノシランと二つの第四級アンモニウム基を含有する化合物との両方にも由来する。
【0012】
8.上記項目1、2、3、4、5、6又は7のいずれか一つに記載の水性ケミカルメカニカルプラナリゼーション(CMP)研磨組成物に従い、シリカ粒子の重量平均粒子径(CPS)は10nm~200nm、又は好ましくは25nm~80nmの範囲である。
【0013】
9.上記項目1~8のいずれか一つに記載の水性ケミカルメカニカルプラナリゼーション(CMP)研磨組成物に従い、pKaが3~7、又は好ましくはpKaが3~6の(ジ)カルボン酸のカルボン酸塩である緩衝剤を、全(湿)組成物1kgあたり0~50ミリモル(mm/kg)、又は好ましくは0.1~10ミリモル(mm/kg)の量で更に含む。
【0014】
10.上記項目1~9のいずれか一つに記載の水性ケミカルメカニカルプラナリゼーション(CMP)研磨組成物に従い、絶縁体又は酸化物含有基板の研磨用であり、組成物は、過酸化水素のような酸化剤化合物を含まない。
【0015】
11.上記項目1~10のいずれか一つに記載の水性ケミカルメカニカルプラナリゼーション(CMP)研磨組成物に従い、シリカ粒子の全量は、組成物の全重量に基づいて1~30重量%、又は好ましくは15~30重量%の範囲である。
【0016】
12.本発明の別の側面に従い、水性CMP研磨組成物を製造する方法は、(i)球形コロイダルシリカ粒子の水性スラリーと、(ii)水性CMP研磨組成物中のシリカ固形分の全重量に基づいて30~99重量%、又は30~95重量%、又は好ましくは40~90重量%、又はより好ましくは40~85重量%の細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子の水性スラリーとを、組成物(i)及び(ii)が重量平均粒子径(CPS)において互いに20nm未満だけ異なるように混合する工程、及び得られる混合物のpHを、緩衝剤又はカルボン酸、好ましくはコハク酸によって、2.5~5.3、又は好ましくは3~5に調節して、水性CMP研磨組成物を形成する工程を含み、球形コロイダルシリカ粒子及び細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子の少なくとも一つ又は両方が、一つ以上のカチオン性窒素原子を含有する、又は好ましくは、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子が、一つ以上の追加のカチオン性窒素原子を提供するプロトン化アミン又は第四級アンモニウムを含む。
【0017】
13.上記項目12に記載の水性CMP研磨組成物を製造するための本発明の方法に従い、水性スラリー(i)又は(ii)の少なくとも一つ又は両方は、粒子をpH6~9、好ましくは7~8の水性アミノシランで処理し、5~180分、例えば60分又はそれ以下の激しい撹拌下、混合物に一つ以上のカチオン性窒素原子を含有するアミノシラン基含有シリカ粒子組成物を形成せしめ、得られた組成物のpHを2.5~5.2、又は好ましくは3~5に調節することによって形成される。
【0018】
14.項目13に記載の水性CMP研磨組成物を製造するための本発明の方法に従い、その方法は、二つの第四級アンモニウム基を含有する化合物を混合して水性CMP研磨組成物を製造する工程を更に含む。
【0019】
15.項目12に記載の水性CMP研磨組成物を製造するための本発明の方法に従い、水性スラリー(i)又は(ii)の少なくとも一つ又は両方は、水性スラリーを、二つの第四級アンモニウム基を含有する化合物と合わせて、一つ以上のカチオン性窒素原子を含有するシリカ粒子を形成することによって形成される。
【0020】
16.上記項目13、14又は15のいずれか一つに記載の水性CMP研磨組成物を製造する方法に従い、水性アミノシランは、一つ以上の第三級アミン基を含有するアミノシラン、例えばN,N-(ジエチルアミノメチル)トリエトキシシラン(DEAMS)、又は一つ以上の第二級アミン基を含有するアミノシラン、例えばN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(AEAPS)もしくはN-アミノエチルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン(DEAPS、DETAPSとも呼ばれる)を含む。
【0021】
16.項目14又は15のいずれか一つに記載の水性CMP研磨組成物を製造する方法に従い、二つの第四級アンモニウム基を含有する化合物は、ヘキサブチルC~Cアルカンジアンモニウム二水酸化物又はその塩、例えば二ハロゲン化物、好ましくはN,N,N,N′,N′,N′-ヘキサブチル-1,4-ブタンジアンモニウム二水酸化物(HBBAH)から選択される。
【0022】
17.上記項目11~16のいずれか一つに記載の水性CMP研磨組成物を製造するための本発明の方法に従い、水性スラリー(i)及び水性スラリー(ii)それぞれは15~30重量%の固形分含量を有する。
【0023】
18.上記項目17に記載の水性CMP研磨組成物を製造するための本発明の方法に従い、その方法は、水性CMP研磨組成物を、組成物の全重量に基づいて1~10重量%の全シリカ粒子含有率まで希釈する工程を更に含む。
【0024】
19.本発明の更に別の局面に従い、CMP基板、例えば半導体、メモリー又は光学絶縁基板をCMP研磨パッド及び水性CMP研磨組成物で研磨する方法は、パッド及び上記項目1~10のいずれか一つに記載の水性CMP研磨組成物で基板を研磨する工程を含む。
【0025】
20.上記項目19に記載のCMP基板を研磨する方法に従い、その研磨ダウンフォースは、20.7kPa(3psi)~41.5kPa(6psi)、又は好ましくは24.15kPa(3.5psi)~36kPa(5.2psi)の範囲である。
【0026】
特段の指示がない限り、温度及び圧力の条件は周囲温度及び標準圧力である。記載されるすべての範囲は閾値を含み、組み合わせ可能である。
【0027】
特段の指示がない限り、括弧を含む語は、括弧書きがない場合の語と括弧をはずした語、及び各選択肢の組み合わせを択一的に指す。すなわち、語「(ポリ)イソシアネート」は、イソシアネート、ポリイソシアネート又はそれらの混合物を指す。
【0028】
すべての範囲は閾値を含み、かつ組み合わせ可能である。例えば、語「50~3000cPの範囲、又は100cP又はそれ以上」は、50~100cP、50~3000cP及び100~3000cPのそれぞれを含む。
【0029】
本明細書の中で使用される語「ASTM」とは、ASTM International(West Conshohocken,PA)の刊行物をいう。
【0030】
本明細書の中で使用される語「コロイド安定性」とは、所与の組成物が、所与の温度で所与の時間の後、ゲル化又は沈殿せず、目視検査で明澄であることをいう。
【0031】
本明細書の中で使用される語「硬い塩基」とは、NaOH、KOH、又はCa(OH)のようなアルカリ(土類)金属水酸化物を含む金属水酸化物をいう。
【0032】
本明細書の中で使用される語「ISO」とは、International Organization for Standardization(Geneva,CH)の刊行物をいう。
【0033】
本明細書の中で使用される語「粒子径(CPS)」とは、CPS Instruments(The Netherlands)ディスク遠心システムによって測定される組成物の重量平均粒子径をいう。粒子は、溶媒中、遠心力によって粒子径ごとに分けられ、光散乱法を使用して定量される。
【0034】
本明細書の中で使用される語「シリカ粒子固形分」又は「シリカ固形分」とは、所与の組成物について、球形シリカ粒子の全量+細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子の全量(それらの粒子のいずれかを処理するのに使われたものを含む)をいう。
【0035】
本明細書の中で使用される語「固形分」とは、その物理的状態にかかわらず使用条件下で揮発しない、水又はアンモニア以外の物質をいう。すなわち、使用条件下で揮発しない液体シラン類又は添加物は「固形分」と判断される。
【0036】
本明細書の中で使用される語「強酸」とは、2又はそれ以下のpKを有するプロトン酸、例えば硫酸又は硝酸のような無機酸をいう。
【0037】
本明細書の中で使用される語「使用条件」とは、所与の組成物が使用されるときの温度及び圧力(使用中の、又は使用の結果としての温度及び圧力の上昇をも含む)をいう。
【0038】
本明細書の中で使用される語「重量分率シリカ」とは、組成物/100%の全重量に基づくシリカの全重量%をいう。例えば、30重量%シリカは重量分率0.3に等しい。
【0039】
本明細書の中で使用される「重量%」は重量百分率の略である。
【0040】
本明細書の中で使用される語「ゼータ電位」とは、Malvern Zetasizer計器によって計測される所与の組成物の電荷をいう。すべてのゼータ電位計測は、例に記載されたような(希釈)スラリー組成物に対して実施したものである。報告される値は、指示された組成物のそれぞれについて計器によって得られた>20の値を使用してゼータ値の計測値の平均値を取ったものである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明者らは、驚くべきことに、重量平均粒子径(CPS)が互いに20nm(コロイドサイズ)未満だけ異なる、球形コロイダルシリカ粒子と、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子との混合物を含む水性CMP研磨組成物であって、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子又は球形コロイダルシリカ粒子の少なくとも一つがカチオン性窒素原子を含有する、水性CMP研磨組成物が、研磨中の摩擦を低減し、研磨中の研磨温度を低下させるということを見出した。更に、球形コロイダルシリカ粒子と、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子との混合物は、研磨ダウンフォースが増すに従い、一貫した除去速度(RR)及び除去プロファイルの均一性の改善を可能にする。更に、本発明の組成物は、著しく低下した研磨温度をも可能とし、これはパッドテクスチャー摩耗の減少に好都合である。本発明の水性CMP研磨組成物の性能を評価すると、研磨ダウンフォースが増すに従い、RR(y)対圧力(x)のグラフが直線化する。なお更に、球形シリカ粒子と、曲がった、又は細長いシリカ粒子とのブレンドは、基板の横方向に中心から縁まで移動するとき、RRにおける改善された一貫性及び均一性を可能にする。したがって、本発明の水性CMP研磨組成物は、固形分1~5重量%という経済的な低砥粒固形分で良好な研磨性能を可能にする。
【0042】
本発明の中で使用される語「細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子」とは、最長寸法と、最長寸法に対して垂直である直径とのアスペクト比が1.8:1~3:1であるシリカ粒子をいう。
【0043】
好適な細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子は、テトラエトキシシラン(TEOS)又はテトラメトキシシラン(TMOS)のような前駆体から公知の方法で形成されるシラノール類の加水分解縮合によって懸濁重合から製造される。細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子を製造する方法は公知であり、例えばHiguchiらへの米国特許第8,529,787号に見出すことができる。加水分解縮合は、前駆体を、水性懸濁液中、塩基性触媒、例えばアルキルアンモニウム水酸化物、アルキルアミン類又はKOH、好ましくは水酸化テトラメチルアンモニウムの存在下に、反応させることを含み;加水分解縮合法は、一つ以上のカチオン性窒素原子を細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子の中に導入することができる。好ましくは、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子はpH4でカチオン性である。
【0044】
好適な曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子は、Fuso Chemical Co.,Ltd.,Osaka,JP(Fuso)から商品名HL-2、HL-3、HL-4、PL-2、PL-3又はBS-2及びBS-3スラリーとして入手可能である。FusoからのHL及びBSシリーズ粒子は、pH4でカチオン電荷を付与する一つ以上の窒素原子を含有する。
【0045】
本発明の水性CMP研磨組成物のコロイド安定性を確保するためには、組成物は、2.5~5.3、又は好ましくは3~5の範囲のpHを有する。組成物は、所望のpH範囲よりも上ではその安定性を失う傾向がある。
【0046】
好ましくは、本発明に従い、二つの第四級アンモニウム基を含有する化合物、例えばN,N,N,N′,N′,N′-ヘキサブチル-1,4-ブタンジアンモニウム二水酸化物(HBBAH)を含む水性CMP研磨組成物である。そのような化合物は、水性CMP研磨組成物の高い除去速度を維持しつつ、貯蔵、輸送及び熱老化に対する安定性を高める。
【0047】
本発明に従い、二つの第四級アンモニウム基を含有する好適な化合物は、ヘキサブチルC~Cアルカンジアンモニウム二水酸化物又はその塩、例えば二ハロゲン化物、又は好ましくはN,N,N,N′,N′,N′-ヘキサブチル-1,4-ブタンジアンモニウム二水酸化物(HBBAH)を含むことができる。
【0048】
本発明に従い、二つの第四級アンモニウム基を含有する化合物の適量は、組成物中の全シリカ固形分に基づいて1~2000ppm、又は好ましくは5~500ppm、又はより好ましくは10ppm~200ppmの範囲である。その量は、安定化効果を確保するのに十分な量とすべきである。より高いシリカ濃度及び/又はより低いアミノシラン濃度を有する濃縮物及び組成物を安定化するためには、二つの第四級アンモニウム基を含有する化合物がより多く必要になる。また、より小さい平均粒子径の粒子を安定化する場合にも、表面積の増大や潜在的なオリゴマー化又はゲル化の可能性ゆえに、より多くが必要になる。
【0049】
本発明に従い、本発明のアミノシラン基含有シリカ粒子を製造するために使用するのに適したアミノシラン類は、第三級アミン基及び第二級アミン基を含有するアミノシラン類である。本発明の水性CMP研磨組成物に使用するのに適したアミノシラン類は、一つ以上の第三級アミン基を含有するアミノシラン、例えばN,N-(ジエチルアミノメチル)トリエトキシシラン(DEAMS)、又は一つ以上の第二級アミン基を含有するアミノシラン、例えばN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(AEAPS)もしくはN-アミノエチルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン(DEAPS、DETAPSとも呼ばれる)を含む。
【0050】
本発明に従う水性CMP研磨組成物に使用するためのアミノシランの適量は、の範囲である。
【0051】
本発明の組成物は、層間絶縁体(ILD)のような絶縁体研磨のためのものであることが意図されている。
【実施例
【0052】
以下の例は、本発明の様々な特徴を説明する。
【0053】
以下の例においては、特段の指示のない限り、温度及び圧力の条件は周囲温度及び標準圧力である。
【0054】
以下の例においては以下の材料を使用した。
【0055】
HBBAH=N,N,N,N′,N′,N′-ヘキサブチル-1,4-ブタンジアンモニウム二水酸化物、98重量%(Sachem,Austin,TX)。
AEAPS=N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、98%(Gelest Inc.,Morrisville,PA);
DEAMS=(N,N-ジエチルアミノメチル)トリエトキシシラン、98%(Gelest Inc.)。
【0056】
例において使用した様々なシリカ粒子を以下の表Aに掲載する。
【0057】
【表1】
【0058】
以下の例においては以下の略号を使用した。
【0059】
POU:ポイントオブユース;RR:除去速度;
【0060】
以下の例においては以下の試験法を使用した。
【0061】
POUのpH:ポイントオブユースのpH(POUのpH)とは、指示された濃縮組成物を指示された固形分含量まで水で希釈した後の除去速度試験中に計測されたpHである。
【0062】
不均一性:パッドの中心から縁まで移動する複数の位置で計測された除去速度から得られた平均除去速度値からの標準偏差である。
【0063】
除去速度:指示された基板に対する研磨からの除去速度試験を、指示された研磨機、例えばStrasbaugh 6EC 200mmウェーハ研磨機もしくは「6EC RR」(Axus Technology Company,Chandler,AZ)又はApplied Materials Mirra(商標)20mm研磨機もしくは「Mirra RR」(Applied Materials,Santa Clara,CA)を指示どおりに使用し、指示されたダウンフォースならびにテーブル及びキャリヤ回転速度(rpm)で、指示されたCMP研磨パッド及び砥粒スラリー(所与の砥粒スラリー流量200mL/min)を用いて実施した。Diagrid(商標)AD3BG-150855ダイアモンドパッドコンディショナ(Kinik Company,Taiwan)を使用して研磨パッドをコンディショニングした。そのCMP研磨パッドを、パッドコンディショナにより、6.35kg(14.0lb)のダウンフォースを使用して20分間ならし運用し、その後、研磨に先立ち、4.1kg(9lb)のダウンフォースを使用して10分間更にコンディショニングした。その研磨パッドを、4.1kg(9lb)のダウンフォースを用いて、研磨パッドの中心から4.32cm~23.37cmまでを10スイープ/分で研磨中、その場で更にコンディショニングした。KLA-Tencor(商標)FX200計測ツール(KLA Tencor,Milpitas,CA)を使用し、エッジ除外領域3mmで49点スパイラルスキャンを使用して、研磨前後の膜厚を計測することにより、除去速度を求めた。
【0064】
ゼータ電位:Malvern Zetasizer(商標)計器(Malvern Instruments,Malvern,UK)を使用して、15~30重量%濃縮物として、指示された組成物のゼータ電位を計測した。報告される値は、指示された組成物ごとに一回の計測から得られたものである。
【0065】
例1:研磨
除去速度試験において、Mirra(商標)(Applied Materials)研磨装置を、1778ミクロン(70mils)のピッチを有する円形溝及び半径方向溝のオーバレイを有するVP6000(商標)K7+R32パッド(The Dow Chemical Company,Midland,MI(Dow))と共に用いて、以下の表1Aに規定されたCMP研磨組成物を、スラリー流量200ml/分、プラテン速度123rpm、及びキャリヤ速度177rpmで使用して、TEOS基板を研磨した。これらの研磨組成物は、全シリカ固形分含量1~2重量%で使用した。POUでの希釈の直後、最終pHを得た。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
上記表1B及び1Cに示すように、本発明の組成物は、スラリー群中、より高い研磨ダウンフォースでの改善された除去速度、より均一な研磨(均一性)及び低下した温度、ひいては研磨中のパッド摩耗の減少、比較的顕著でない中心低速プロファイル、並びに低下したRR対ダウンフォース曲線曲げ挙動のすべてを示す。比較例1、2、5、7及び8において、スラリーA中のDEAMS含有球形シリカ粒子と、スラリーG又はスラリーK中の細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子との混合物を用いていないため、水性CMP研磨組成物調合のいずれも、ダウンフォース増大とともに除去速度が増大又は一定である線形P曲線を示さなかった。更に、34.47kPaにおいては、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子スラリーのみを用いた比較例1、2、5、7及び8の水性CMP研磨組成物は、>10%のプロファイル不均一性を示した。一方、重量平均粒子径(CPS)が互いに20nm未満だけ異なる、球形コロイダルシリカと、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子との混合物を含有する本発明の例3、4及び6はすべて、ダウンフォースを上げても、5%未満の34.47kPa不均一性、及びより高い除去速度におけるより線形のP曲線を示した。加えて、本発明の水性CMP研磨組成物の研磨温度は、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子のみの組成物の研磨温度よりも著しく低く、これは、パッドテクスチャーの摩耗がより少なく、パッド寿命が潜在的により長いことを示唆するものであった。
【0070】
例2:より大きなパッドの研磨
除去速度試験において、Reflexion(商標)(Applied Materials)研磨装置を、IC1000(商標)K7+R32パッド(Dow)と共に用いて、以下の表2Aに規定されたCMP研磨組成物を、スラリー流量300ml/min、プラテン速度93rpm、及びキャリヤ速度87rpmで使用して、TEOS基板を研磨した。研磨組成物は、全シリカ固形分含量1~2重量%で使用した。POUでの希釈の直後、最終pHを得た。
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
【表7】
【0074】
上記表2B及び2Cに示すように、球形コロイダルシリカと、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカとの固形分重量比1:1の例12の水性CMP研磨組成物(2%)は、比較例13のずっと高い粒子固形分(6%)を有する球形コロイダルシリカの酸性スラリーと比較すると、線形のP曲線及びフラットな5psiRRプロファイルを与えた。スラリーG(1.125%)の5psiでの中心部低速問題は残った。比較例11の低固形分水性CMP研磨組成物と比較すると、例12の本発明の水性CMP研磨組成物の研磨温度が低いまま維持されたことは注目に値する。
【0075】
例3:様々なアミノシラン類との研磨組成物
除去速度試験において、Mirra(商標)(Applied Materials)研磨装置を、VP6000(商標)K7+R32パッド(Dow)と共に用いて、以下の表3Aに規定されたCMP研磨組成物を、スラリー流量200ml/分、プラテン速度93rpm、及びキャリヤ速度87rpmで使用して、TEOS基板を研磨した。研磨組成物は、全シリカ固形分含量2重量%で使用した。POUでの希釈の直後、最終pHを得た。
【0076】
【表8】
【0077】
【表9】
【0078】
第二級アミン基含有アミノシラン(AEAPS)を用いると、例15及び16の本発明の組成物は、第三級アミン基含有アミノシラン(DEAMS)を含有する例14の組成物と同様の除去速度及び均一性挙動を示した。すべての例は1:1重量比を有するものであった。P曲線(除去速度曲線)は妥当に線形であり、AEAPSを含有する組成物の5psi除去プロファイルは、それらの除去速度が若干低めであるとしても、より高いダウンフォース(34.47kPa)で、DEAMSを含有する組成物と同様に一定している。
【0079】
例4:研磨性能
除去速度試験において、Mirra(商標)(Applied Materials)研磨装置を、VP6000(商標)K7+R32パッド(Dow)と共に用いて、以下の表4Aに規定されたCMP研磨組成物を、スラリー流量200ml/分、プラテン速度123rpm、及びキャリヤ速度117rpmで使用して、TEOS基板を研磨した。研磨組成物は、全シリカ固形分含量1~2重量%で使用した。POUでの希釈の直後、最終pHを得た。
【0080】
【表10】
【0081】
【表11】
【0082】
【表12】
【0083】
上記表4B及び4Cに示すように、重量平均粒子径(CPS)が互いに20nm未満だけ異なる、球形コロイダルシリカと、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子との本発明の混合物は、研磨における優れた除去速度及び均一性を与えるのみならず、パッド摩耗を減らす研磨を可能にする。比較例18及び21にそれぞれ示すように、二つの細長いシリカ粒子をブレンドするだけでは、又は一つのタイプの繭状粒子だけでは、高ダウンフォースでの効果的な研磨は可能ではない。球形シリカ粒子を、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子の調合に導入すると、研磨されるウェーハの不均一性が著しく改善した。本発明の例19~20を例17に比較すると、ケイ酸ナトリウムから作られた球形シリカ粒子は、例えば27.58kPaにおいて、TMOS及びTEOSのようなテトラアルコキシシリケートから懸濁重合によって作られた球形シリカ粒子よりも、優れた研磨摩耗結果及びより一定した研磨結果を与える。
【0084】
例5:調合を変えての研磨
除去速度試験において、Mirra(商標)(Applied Materials)研磨装置を、VP6000(商標)K7+R32パッド(Dow)と共に用いて、以下の表5Aに規定されたCMP研磨組成物を、スラリー流量200ml/分、プラテン速度123rpm、及びキャリヤ速度117rpmで使用して、TEOS基板を研磨した。研磨組成物は、全シリカ固形分含量1~2重量%で使用され、以下の表5Aに示されている。POUでの希釈の直後、最終pHを得た。
【0085】
【表13】
【0086】
【表14】
【0087】
【表15】
【0088】
上記表5B及び5Cに示すように、重量平均粒子径(CPS)が互いに20nm未満だけ異なる、球形コロイダルシリカと、細長い、曲がった、又はこぶのあるシリカ粒子との混合物を有する本発明の例24及び25の組成物は、シリカ粒子の混合物を含まない(比較例22~23)、又は混合物が細長いシリカ粒子だけを含む(比較例26~27)比較例22~23及び26の組成物の性能を劇的に上回る。比較例28は良好な除去速度性能を与えるが、研磨中に熱を発生、蓄積し、潜在的な摩耗の可能性を生じさせる。上記表5Bに示すように、本発明の例24及び25の組成物の研磨性能は、高研磨ダウンフォースにおいて強まっている。