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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】レーダ装置及び信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/42 20060101AFI20220113BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
G01S13/42
G01S7/02 218
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018018409
(22)【出願日】2018-02-05
(65)【公開番号】P2019135475
(43)【公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘貴
【審査官】九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-215044(JP,A)
【文献】特開2012-159432(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0271323(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 -13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の間隔で配置された複数の第1の受信アンテナと、
前記第1の間隔より広い第2の間隔で配置された複数の第2の受信アンテナと、
複数の前記第2の受信アンテナを用いて導出された物標の複数の角度候補を算出する第1の算出部と、
複数の前記角度候補それぞれに関して、複数の前記第1の受信アンテナで受信された受信信号を前記角度候補の方向と直交方向とにベクトル分解し、前記直交方向のパワーを算出する第2の算出部と、
複数の前記角度候補のうち、前記直交方向のパワーが最小となる角度候補を、前記物標の角度として選択する選択部と、
を備える、レーダ装置。
【請求項2】
複数の前記第1の受信アンテナを用いた物標の導出では、少なくとも前記レーダ装置の出力有効範囲において、位相折り返しが発生しない、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記選択部は、前記直交方向のパワーが所定値以下である角度候補を、前記直交方向のパワーが最小となる角度候補とみなす、請求項1又は請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記第2の算出部が、複数の前記角度候補それぞれに関して、複数の前記第1の受信アンテナで受信された受信信号を前記角度候補の方向と複数の互いに異なる前記直交方向とにベクトル分解する場合、
前記選択部は、複数の互いに異なる前記直交方向の各パワーのうちの最大値同士を比較して、複数の前記角度候補のうち、比較対象である前記直交方向のパワーが最小となる角度候補を、前記物標の角度として選択する、請求項1~3のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記第1の算出部が、複数の前記第2の受信アンテナを用いて導出された複数の前記物標それぞれの複数の角度候補を算出する場合、
前記第2の算出部が、複数の前記物標それぞれの複数の角度候補の組み合わせそれぞれに関して、複数の前記第1の受信アンテナで受信された受信信号を前記角度候補の方向と直交方向とにベクトル分解し、前記直交方向のパワーを算出する、請求項1~4のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
第1の間隔で配置された複数の第1の受信アンテナと、
前記第1の間隔より広い第2の間隔で配置された複数の第2の受信アンテナと、を備えるレーダ装置の信号処理方法であって、
複数の前記第2の受信アンテナを用いて導出された物標の複数の角度候補を算出する第1の算出工程と、
複数の前記角度候補それぞれに関して、複数の前記第1の受信アンテナで受信された受信信号を前記角度候補の方向と直交方向とにベクトル分解し、前記直交方向のパワーを算出する第2の算出工程と、
複数の前記角度候補のうち、前記直交方向のパワーが最小となる角度候補を、前記物標の角度として選択する選択工程と、
を備える、信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置によって導出される物標の角度を複数の受信アンテナにより受信された到来電波の位相差に基づいて推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置によって導出される物標の角度を複数の受信アンテナにより受信された到来電波の位相差に基づいて推定する場合、受信アンテナの間隔が到来電波の半波長よりも広ければ、位相折り返しが発生する。
【0003】
特許文献1で開示されているレーダ装置では、アンテナ間隔が異なる2つの受信アンテナ対でそれぞれ検出される物標の角度(方位)が一致したときの角度を、レーダ装置によって検出された物標の角度として採用することで、物標の角度の誤検出を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-230974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アンテナ間隔が狭い受信アンテナ対はアンテナ間隔が広い受信アンテナ対よりも熱ノイズやアンテナ自体の固有ノイズ等のノイズが多い。このため、アンテナ間隔が狭い受信アンテナ対で検出される物標の角度の信頼性が低いと判断され、アンテナ間隔が狭い受信アンテナ対で検出される物標の角度が出力されない場合がある。このような場合、アンテナ間隔が異なる2つの受信アンテナ対でそれぞれ検出される物標の角度が一致しないことになり、特許文献1で開示されているレーダ装置は、物標の角度を検出することができない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて、アンテナ間隔が狭い複数の受信アンテナにおいてノイズ多い場合でも位相折り返しの問題を解消して、レーダ装置によって導出される物標の角度精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るレーダ装置は、第1の間隔で配置された複数の第1の受信アンテナと、前記第1の間隔より広い第2の間隔で配置された複数の第2の受信アンテナと、複数の前記第2の受信アンテナを用いて導出された物標の複数の角度候補を算出する第1の算出部と、複数の前記角度候補それぞれに関して、複数の前記第1の受信アンテナで受信された受信信号を前記角度候補の方向と直交方向とにベクトル分解し、前記直交方向のパワーを算出する第2の算出部と、複数の前記角度候補のうち、前記直交方向のパワーが最小となる角度候補を、前記物標の角度として選択する選択部と、を備える構成(第1の構成)である。
【0008】
上記第1の構成のレーダ装置において、複数の前記第1の受信アンテナを用いた物標の導出では、少なくとも前記レーダ装置の出力有効範囲において、位相折り返しが発生しない構成(第2の構成)であってもよい。
【0009】
上記第1又は第2の構成のレーダ装置において、前記選択部は、前記直交方向のパワーが所定値以下である角度候補を、前記直交方向のパワーが最小となる角度候補とみなす構成(第3の構成)であってもよい。
【0010】
上記第1~第3いずれかの構成のレーダ装置において、前記第2の算出部が、複数の前記角度候補それぞれに関して、複数の前記第1の受信アンテナで受信された受信信号を前記角度候補の方向と複数の互いに異なる前記直交方向とにベクトル分解する場合、前記選択部は、複数の互いに異なる前記直交方向の各パワーのうちの最大値同士を比較して、複数の前記角度候補のうち、比較対象である前記直交方向のパワーが最小となる角度候補を、前記物標の角度として選択する構成(第4の構成)であってもよい。
【0011】
上記第1~第4いずれかの構成のレーダ装置において、前記第1の算出部が、複数の前記第2の受信アンテナを用いて導出された複数の前記物標それぞれの複数の角度候補を算出する場合、前記第2の算出部が、複数の前記物標それぞれの複数の角度候補の組み合わせそれぞれに関して、複数の前記第1の受信アンテナで受信された受信信号を前記角度候補の方向と直交方向とにベクトル分解し、前記直交方向のパワーを算出する構成(第5の構成)であってもよい。
【0012】
本発明に係る信号処理方法は、第1の間隔で配置された複数の第1の受信アンテナと、前記第1の間隔より広い第2の間隔で配置された複数の第2の受信アンテナと、を備えるレーダ装置の信号処理方法であって、複数の前記第2の受信アンテナを用いて導出された物標の複数の角度候補を算出する第1の算出工程と、複数の前記角度候補それぞれに関して、複数の前記第1の受信アンテナで受信された受信信号を前記角度候補の方向と直交方向とにベクトル分解し、前記直交方向のパワーを算出する第2の算出工程と、複数の前記角度候補のうち、前記直交方向のパワーが最小となる角度候補を、前記物標の角度として選択する選択工程と、を備える構成(第6の構成)である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、アンテナ間隔が狭い複数の受信アンテナにおいてノイズが多い場合でも位相折り返しの問題を解消して、レーダ装置によって導出される物標の角度精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】レーダ装置の構成例を示す図
図2】信号処理装置の動作を示すフローチャート
図3】ピーク角度の例を示す図
図4】方位演算及びピーク角度の出力を行う処理の流れを示すフローチャート
図5】物標の角度候補を示す図
図6】物標の角度候補を示す図
図7】物標の角度候補を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
<1.レーダ装置の構成>
図1は本実施形態に係るレーダ装置1の構成を示す図である。レーダ装置1は、例えば自動車などの車両に搭載されている。以下、レーダ装置1が搭載される車両を「自車両」という。また、自車両の直進進行方向であって、運転席からステアリングに向かう方向を「前方」という。また、自車両の直進進行方向であって、ステアリングから運転席に向かう方向を「後方」という。また、自車両の直進進行方向及び鉛直線に垂直な方向であって、前方向を向いている運転手の右側から左側に向かう方向を「左方向」という。また、自車両の直進進行方向及び鉛直線に垂直な方向であって、前方向を向いている運転手の左側から右側に向かう方向を「右方向」という。
【0017】
レーダ装置1は自車両の前端に搭載されている。レーダ装置1は、周波数変調した連続波であるFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)を用いて、自車両の前方に存在する物標に係る物標データを取得する。
【0018】
レーダ装置1は、物標から反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに受信されるまでの距離(以下、「縦距離」という。) [m]、自車両に対する物標の相対速度[km/h]、自車両の左右方向における物標の距離(以下、「横位置」という。)[m]などのパラメータを有する物標データを導出する。縦位置は、例えば、自車両のレーダ装置1を搭載している位置を原点Oとし、自車両の前方では正の値、自車両の後方では負の値で表現される。横位置は、例えば、自車両のレーダ装置1を搭載している位置を原点Oとし、自車両の右側では正の値、自車両の左側では負の値で表現される。
【0019】
図1に示すように、レーダ装置1は、送信部2と、受信部3n及び3wと、信号処理装置4と、複数の受信アンテナ31nと、を主に備えている。受信部3nでは、隣接する受信アンテナ31nの間隔が第1の間隔d1であり、受信部3wでは、隣接する受信アンテナ31wの間隔が第1の間隔d1より広い第2の間隔d2であるが、受信部3nと受信部3wの基本的な構成は同一である。このため、以下の説明では、適宜、受信部3nと受信部3wとを区別せずに受信部3として説明する。
【0020】
送信部2は、信号生成部21と発信器22とを備えている。信号生成部21は、三角波状に電圧が変化する変調信号を生成し、発信器22に供給する。発信器22は、信号生成部21で生成された変調信号に基づいて連続波の信号を周波数変調し、時間の経過に従って周波数が変化する送信信号を生成し、送信アンテナ23に出力する。
【0021】
送信アンテナ23は、発信器22からの送信信号に基づいて、送信波TWを自車両の前方に出力する。送信アンテナ23が出力する送信波TWは、所定の周期で周波数が上下するFMCWとなる。送信アンテナ23から自車両の前方に送信された送信波TWは、人、他車両などの物体で反射されて反射波RWとなる。
【0022】
受信部3は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ31と、その複数の受信アンテナ31に接続された複数の個別受信部32とを備えている。本実施形態では、受信部3は、例えば、4つの受信アンテナ31と4つの個別受信部32とを備えている。4つの個別受信部32は、4つの受信アンテナ31にそれぞれ対応している。各受信アンテナ31は物体からの反射波RWを受信して受信信号を取得し、各個別受信部32は対応する受信アンテナ31で得られた受信信号を処理する。
【0023】
各個別受信部32は、ミキサ33とA/D変換器34とを備えている。受信アンテナ31で得られた受信信号は、ローノイズアンプ(図示省略)で増幅された後にミキサ33に送られる。ミキサ33には送信部2の発信器22からの送信信号が入力され、ミキサ33において送信信号と受信信号とがミキシングされる。これにより、送信信号の周波数と受信信号の周波数との差となるビート周波数を有するビート信号が生成される。ミキサ33で生成されたビート信号は、A/D変換器34でデジタルの信号に変換された後に、信号処理装置4に出力される。
【0024】
信号処理装置4は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリ41などを含むマイクロコンピュータを備えている。信号処理装置4は、演算の対象とする各種のデータを、記憶装置であるメモリ41に記憶する。メモリ41は、例えばRAM(Random Access Memory)などである。信号処理装置4は、マイクロコンピュータでソフトウェア的に実現される機能として、送信制御部42、フーリエ変換部43A、フーリエ変換部43B、及び、データ処理部44を備えている。送信制御部42は、送信部2の信号生成部21を制御する。フーリエ変換部43Aとフーリエ変換部43Bの基本的な構成は同一である。このため、以下の説明では、適宜、フーリエ変換部43Aとフーリエ変換部43Bとを区別せずにフーリエ変換部43として説明する。
【0025】
フーリエ変換部43は、複数の個別受信部32のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換(FFT)を実行する。これにより、フーリエ変換部43は、複数の受信アンテナ31wそれぞれの受信信号に係るビート信号を、周波数領域のデータである周波数スペクトラムに変換する。フーリエ変換部43Aで得られた周波数スペクトラムは、データ処理部44内の第1の算出部45aに入力される。フーリエ変換部43Bで得られた周波数スペクトラムは、データ処理部44内の第2の算出部45bに入力される。第2の算出部45a及び第2の算出部45bの詳細については後述する。
【0026】
データ処理部44は、物標データ取得処理を実行し、複数の受信アンテナ31wそれぞれの周波数スペクトラムと複数の受信アンテナ31nの受信信号に基づいて、自車両の前方の物標に係る物標データを取得する。また、データ処理部44は、物標データを車両制御ECU61などに出力する。
【0027】
図1に示すように、データ処理部44は、主な機能として、物標データ導出部45、物標データ処理部46、及び物標データ出力部47を備えている。
【0028】
物標データ導出部45は、フーリエ変換部43Aで得られた周波数スペクトラムに基づいて物標に係る物標データを導出する。物標データ導出部45は、第1の算出部45aと、第2の算出部45bと、選択部45cと、ペアリング処理部45dと、を備えている。第1の算出部45a、第2の算出部45b、選択部45c、及びペアリング処理部45dそれぞれが実行する処理の詳細については後述する。
【0029】
物標データ処理部46は、導出された物標データを対象にしてフィルタリングなどの各種の処理を行う。物標データ出力部47は、物標データを車両制御ECU61などに出力する。これにより、車両制御ECU61などは、物標データを例えばACC(Adaptive Cruise Control)やPCS(Pre-crash Safety System)に用いることができる。
【0030】
<2.信号処理装置の動作>
次に、信号処理装置4の動作について説明する。図2は、信号処理装置4の動作を示すフローチャートである。信号処理装置4は、図2に示す処理を一定時間(例えば、1/20秒)ごとに周期的に繰り返す。
【0031】
図2に示す処理の開始前に、送信制御部42による信号生成部21の制御が完了している。まず、フーリエ変換部43が、複数の個別受信部32のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換を実行する(ステップS1)。そして、4つの受信アンテナ31の全てに関してアップ区間(送信波TWの周波数が上昇する区間)及びダウン区間(送信波TWの周波数が下降する区間)の双方の周波数スペクトラムが、フーリエ変換部43からデータ処理部44に入力される。
【0032】
次に、物標データ導出部45が、周波数スペクトラムを対象にピーク周波数を抽出する(ステップS2)。物標データ導出部45は、周波数スペクトラムのうち、所定の閾値を超えるパワーを有するピークが表れる周波数を、ピーク周波数として抽出する。
【0033】
次に、物標データ導出部45は、方位演算処理により、抽出したピーク周波数の信号に係る物標の角度を推定する。方位演算処理では、一つのピーク周波数の信号から、複数の角度、及びそれら複数の角度それぞれの信号のパワーが導出される。方位演算処理としては、ESPRIT、MUSIC、PRISMなどの周知の方位演算処理を用いることができる。
【0034】
図3は、方位演算処理により推定された角度を、角度スペクトラムとして概念的に示す図である。図中において、横軸は角度(deg)、縦軸は信号のパワーを示している。角度(deg)は、自車両の前方直進進行方向とレーダ装置1から物標に向かう方向とのなす角度であり、例えば物標が自車両の前方右側に存在する場合に正の値で表現され物標が自車両の前方左側に存在する場合に負の値で表現される。横位置は、例えば、自車両のレーダ装置1を搭載している位置を原点Oとし、自車両の右側では正の値、自車両の左側では負の値で表現される。角度スペクトラムにおいて、方位演算処理により推定された角度はピークPaとして表れる。以下、方位演算処理により推定された角度を「ピーク角度」といい、ピーク角度の信号のパワーを「角度パワー」という。このように一つのピーク周波数の信号から同時に導出された複数のピーク角度は、同一の縦距離(当該ピーク周波数に対応する縦距離)に存在する複数の物標の角度を示す。
【0035】
物標データ導出部45は、同一の縦距離に存在する複数の物標それぞれのピーク角度と、角度パワーとを導出する(ステップS3)。
【0036】
これにより、物標データ導出部45は、自車両の前方に存在する複数の物標それぞれに対応する区間データを導出する。物標データ導出部45は、アップ区間及びダウン区間の双方で、ピーク周波数、ピーク角度、及び、角度パワーのパラメータを有する区間データを導出する。物標データ導出部45は区間データに含めるピーク角度を選択しており、物標データ導出部45によって選択されたピーク角度が物標データ導出部45のペアリング処理部45dに出力される。方位演算及びピーク角度の出力を行う処理に関する詳細は後述する。
【0037】
次に、物標データ導出部45のペアリング処理部45dは、アップ区間の区間データとダウン区間の区間データとを対応付ける(ステップS4)。物標データ導出部45は、例えば、マハラノビス距離を用いた演算を用いて、類似のパラメータ(ピーク周波数、ピーク角度、及び、信号のパワー)を有する2つの区間データを対応付ける。
【0038】
物標データ導出部45は、さらに、アップ区間及びダウン区間の2つの区間データの対応付けができた場合は、それら2つの区間データに基づくペアデータを導出する。物標データ導出部45は、導出したペアデータのそれぞれに関して、ペアデータの元となったアップ区間及びダウン区間の2つの区間データのパラメータを用いることで、ペアデータのパラメータ(縦距離、相対速度及び横位置)を導出する(ステップS5)。
【0039】
次に、物標データ導出部45は、導出したペアデータのうちから物標に係る物標データを確定する。物標データ導出部45が導出したペアデータには、ノイズなどの不要なデータが含まれる。このため、物標データ導出部45は、導出したペアデータのうち物標に係るペアデータのみを物標データとして確定する。
【0040】
物標データ導出部45は、パラメータに基づいて、導出したペアデータのそれぞれを過去に確定した物標データと対応付ける。物標データ導出部45は、類似のパラメータ(縦距離、相対速度及び横位置)を有するペアデータと過去の物標データとを対応付ける。そして、物標データ導出部45は、過去の物標データと対応付けができたペアデータを、物標に係る物標データとして確定する。
【0041】
また、過去の物標データとの対応付けができなかったペアデータには、新規に検出された物標に係る物標データも含まれている。このため、物標データ導出部45は、過去の物標データとの対応付けができなかったペアデータについては、次回以降の物標データ取得処理において所定回数(例えば、3回)以上連続して過去のペアデータと対応付けができた場合に、新規に検出された物標に係る物標データとして確定する。
【0042】
このような処理により、物標データ導出部45は、自車両の周辺の物標に係る物標データを導出する。物標データ取得処理は一定時間(例えば、1/20秒)ごとに周期的に繰り返されることから、物標データ導出部45は、物標に係る物標データを一定時間ごとに導出することになる。
【0043】
物標データ処理部46は、物標データのパラメータ(縦距離、相対速度及び横位置)を時間軸方向に平滑化するフィルタリングを行う(ステップS6)。このようなフィルタリングの後の物標データは、瞬時値を表すペアデータに対して「フィルタデータ」とも呼ばれる。
【0044】
次に、物標データ処理部46が、物標データのパラメータ(縦距離、相対速度及び横位置)に基づいて、同一の物体に関する物標データであると推測できる複数の物標データを1つのグループに纏める(ステップS7)。
【0045】
最後に物標データ出力部47が、このように処理された物標データを車両制御ECU61などに送る。物標データ出力部47は、グループ化された物標データから所定数(例えば、10個)の物標データを出力対象として選択する(ステップS8)。物標データ出力部47は、物標データの縦距離と横位置とを考慮して、自車両に近い物標に係る物標データを優先的に選択する。
【0046】
以上のような処理で出力対象として選択された物標データはメモリ41に記憶され、次回以降の物標データ取得処理において過去の物標データとして用いられることになる。
【0047】
<3.方位演算及びピーク角度の出力>
次に、図2に示すステップS3の処理すなわち方位演算及びピーク角度の出力を行う処理の詳細について説明する。図4は、方位演算及びピーク角度の出力を行う処理の流れを示すフローチャートである。
【0048】
方位演算及びピーク角度の出力を行う処理では、まず、物標データ導出部45は、方位演算処理により、間隔が広い4つの受信アンテナ31wを用いて物標の角度を推定する(ステップS31)。具体的には、物標データ導出部45の第1の算出部45aは、4つの個別受信部32wのそれぞれから出力されるビート信号を高速フーリエ変換して得られる周波数スペクトラムからピーク周波数を抽出し、抽出したピーク周波数の信号からピーク角度を算出する。以下、ステップS31で算出されたピーク角度を物標の角度候補と呼ぶ。
【0049】
次に、物標データ導出部45は、角度パワー及び直交方向のパワーを算出する(ステップS32)。具体的には、物標データ導出部45の第2の算出部45bは、複数の角度候補それぞれに関して、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nで受信された受信信号を角度候補の方向と直交方向とにベクトル分解し、角度パワー及び直交方向のパワーを算出する。なお、ベクトル分解の詳細については後述する。ベクトル分解の対象となる「受信アンテナ31nで受信された受信信号」とは、4つの個別受信部32nのそれぞれから出力されるビート信号を高速フーリエ変換して得られる周波数スペクトラムから抽出されるピーク周波数の信号の内、4つの個別受信部32wのそれぞれから出力されるビート信号を高速フーリエ変換して得られる周波数スペクトラムから抽出されるピーク周波数と同じ周波数のピーク周波数の信号を意味している。
【0050】
最後に、物標データ導出部45の選択部45cは、直交方向のパワーが最小となる角度候補を物標の角度として選択する(ステップS33)。これにより、間隔が広い4つの受信アンテナ31wを用いて導出される物標の角度において位相折り返しが発生して物標の角度候補が複数存在しても、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nで受信された受信信号をベクトル分解して得られる直交方向のパワーを手がかりとして、位相折り返しの問題を解消して物標の角度を出力することができる。すなわち、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nで物標の角度を検出する必要がないので、間隔が狭い4つの受信アンテナ31nにおけるノイズが多い場合でも、位相折り返しの問題を解消して高精度の角度を出力することができる。また、物標の角度精度が向上することにより、複数の物標が近接する場合に複数の物標を分離して導出することができる分離性能も向上する。そして、物標データ導出部45は、ステップS33の処理を終えると、図4に示すフロー動作を終了する。
【0051】
<4.ベクトル分解>
ここで、まず始めにベクトル分解の概要を説明するために、間隔が狭い受信アンテナ31nを2つとし、間隔が広い受信アンテナ31wも2つとし、レーダ装置1と前方他車両V1とが図5(a)に示す位置関係である場合について考える。
【0052】
例えば、物標の角度に関するレーダ装置1の出力有効範囲を-75deg~+75degとし、間隔が広い2つの受信アンテナ31wの代わりに間隔が狭い2つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定すると仮定した場合の折り返し角度範囲を150degとし、間隔が狭い2つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定する場合にはレーダ装置1の出力有効範囲において位相折り返しが発生しないようにする。
【0053】
また、例えば、間隔が広い2つの受信アンテナ31wを用いて物標の角度を推定する場合の折り返し角度範囲を50degとする。これにより、前方他車両V1に対応する物標T1の角度候補として、図5(b)に示すようにθ-50、θ、θ+50の3つが導出される。
【0054】
図5(c)は、前方他車両V1に対応する物標T1の角度候補それぞれに関して、間隔が狭い2つの受信アンテナ31nで受信された受信信号をベクトル分解した結果を模式的に示している。図5(c)において、ベクトルP0は間隔が狭い2つの受信アンテナ31nで受信された受信信号のパワーを示しており、ベクトルP1は角度候補の方向のパワー(角度パワー)を示しており、ベクトルP2は直交方向のパワーを示している。
【0055】
図5(c)に示すように、正しい角度の方向でベクトル分解すると、直交方向のパワーが小さくなる。従って、上述したステップS33の通り、物標データ導出部45の選択部45cは、直交方向のパワーが最小となる角度候補を物標の角度として選択する。
【0056】
次に、間隔が狭い受信アンテナ31nを3つとし、間隔が広い受信アンテナ31wも3つとし、レーダ装置1と前方他車両V1とが図6(a)に示す位置関係である場合について考える。
【0057】
例えば、物標の角度に関するレーダ装置1の出力有効範囲を-75deg~+75degとし、間隔が広い2つの受信アンテナ31wの代わりに間隔が狭い2つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定すると仮定した場合の折り返し角度範囲を150degとし、間隔が狭い2つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定する場合にはレーダ装置1の出力有効範囲において位相折り返しが発生しないようにする。
【0058】
また、例えば、間隔が広い2つの受信アンテナ31wを用いて物標の角度を推定する場合の折り返し角度範囲を50degとする。これにより、前方他車両V1に対応する物標T1の角度候補として、図6(b)に示すようにθ-50、θ、θ+50の3つが導出される。
【0059】
図6(c)は、前方他車両V1に対応する物標T1の角度候補それぞれに関して、間隔が狭い3つの受信アンテナ31nで受信された受信信号をベクトル分解した結果を模式的に示している。図6(c)において、ベクトルP0は間隔が狭い3つの受信アンテナ31nで受信された受信信号のパワーを示しており、ベクトルP1は角度候補の方向のパワー(角度パワー)を示しており、ベクトルP2は一方の直交方向のパワーを示しており、ベクトルP3は他方の直交方向のパワーを示している。
【0060】
誤った角度の方向でベクトル分解すると、互いに異なる複数の直交方向のうちの一つに最も影響が現れる。従って、第2の算出部45bが、図6(c)に示すように、3つの角度候補θ-50、θ、θ+50それぞれに関して、間隔が狭い3つの受信アンテナ31nで受信された受信信号を角度候補の方向と2つの互いに異なる前記直交方向とにベクトル分解する場合、選択部45cは、2つの互いに異なる直交方向の各パワーのうちの最大値同士を比較して、3つの角度候補θ-50、θ、θ+50のうち、比較対象である直交方向のパワーが最小となる角度候補を、物標の角度として選択すればよい。
【0061】
これにより、直交方向が複数存在する場合でも、位相折り返しの問題を解消して高精度の角度を出力することができる。
【0062】
次に、間隔が狭い受信アンテナ31nを3つとし、間隔が広い受信アンテナ31wも3つとし、レーダ装置1と前方他車両V1及びV2とが図7(a)に示す位置関係である場合について考える。前方他車両V1と前方他車両V2の縦距離は略同一である。
【0063】
例えば、物標の角度に関するレーダ装置1の出力有効範囲を-75deg~+75degとし、間隔が広い2つの受信アンテナ31wの代わりに間隔が狭い2つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定すると仮定した場合の折り返し角度範囲を150degとし、間隔が狭い2つの受信アンテナ31nを用いて物標の角度を推定する場合にはレーダ装置1の出力有効範囲において位相折り返しが発生しないようにする。
【0064】
また、例えば、間隔が広い2つの受信アンテナ31wを用いて物標の角度を推定する場合の折り返し角度範囲を50degとする。これにより、前方他車両V1に対応する物標T1の角度候補としてθ-50、θ、θ+50の3つが導出され、前方他車両V2に対応する物標T2の角度候補としてθ’-50、θ’、θ’+50の3つが導出される(図7(b)参照)。従って、前方他車両V1に対応する物標T1の3つの角度候補と前方他車両V2に対応する物標T2の3つの角度候補との組み合わせとしては、(θ-50,θ’-50)、(θ-50,θ’)、(θ-50,θ’+50)、(θ,θ’-50)、(θ,θ’)、(θ,θ’+50)、(θ+50,θ’-50)、(θ+50,θ’)、(θ+50,θ’+50)の9通りである。
【0065】
図7(c)は、(θ-50,θ’-50)の組み合わせに関して、間隔が狭い3つの受信アンテナ31nで受信された受信信号をベクトル分解した結果を模式的に示している。図7(c)において、ベクトルP0は間隔が狭い3つの受信アンテナ31nで受信された受信信号のパワーを示しており、ベクトルP1は物標T1の角度候補θ-50の方向のパワー(角度パワー)を示しており、ベクトルP2は物標T2の角度候補θ’-50の方向のパワー(角度パワー)を示しており、ベクトルP3は上記θ-50の方向と上記θ’-50の方向のどちらにも直交する方向のパワーを示している。
【0066】
第2の算出部45bは、他の8通りに関しても同様のベクトル分解を行う。そして、選択部45cは、直交方向のパワーが最も小さくなる前方他車両V1に対応する物標T1の角度候補と前方他車両V2に対応する物標T2の角度候補との組み合わせを、前方他車両V1に対応する物標T1の角度と前方他車両V2に対応する物標T2の角度との組み合わせとして選択すればよい。
【0067】
これにより、物標が複数存在する場合でも、位相折り返しの問題を解消して高精度の角度を出力することができる。なお、例えば間隔が狭い受信アンテナ31nを4つとし、間隔が広い受信アンテナ31wも4つとし、レーダ装置1と前方他車両V1及びV2とが図7(a)に示す位置関係である場合には、第2の算出部45bが、前方他車両V1に対応する物標T1の複数の角度候補と前方他車両V2に対応する物標T2の複数の角度候補との組み合わせそれぞれに関して、2つの互いに異なる直交方向のパワーを算出することになる。この場合には、選択部45cは、2つの互いに異なる直交方向の各パワーのうちの最大値同士を比較して、前方他車両V1に対応する物標T1の角度候補と前方他車両V2に対応する物標T2の角度候補との組み合わせのうち、比較対象である直交方向のパワーが最小となる組み合わせを、前方他車両V1に対応する物標T1の角度と前方他車両V2に対応する物標T2の角度との組み合わせとして選択すればよい。
【0068】
第2の算出部45bは、例えばpropagator法により角度パワーと直交方向のパワーとを算出する。以下、propagator法による算出の手順について説明する。なお、間隔が広い受信アンテナ31wをk本設けた場合、最大チャンネル数はkになる。
【0069】
まず始めに、a([角度])が最大チャンネル数次のモードベクトルを意味するものとして、
A=(a(θ1),・・・,a(θm))
を定義する。なお、mは、角度数であり、最大チャンネル数から1を引いた値以下の自然数である。
【0070】
モードベクトルa(θ)とは、或る角度θからきた振幅1の信号の各チャンネルの理想的な信号を並べたものであり、例えば次のように表される。
【数1】
【0071】
ここで、λは信号の波長である。また、dk-1は、k番目のアンテナと1番目のアンテナとの距離を示す。1番目~k番目のアンテナは一直線上に配置されているとする。
【0072】
次に、上記のAを以下のようにA1とA2の2つに分割する。
A1:Aの(1~m)行(1~m)列を取り出した行列
A2:Aの(m+1~最大チャンネル数)行(1~m)列を取り出した行列
【0073】
次に、下記のPを計算する。
【数2】
【0074】
ここで、上付きのHはエルミート転置(要素を共役複素数に変換してから転置)であり、Iは(最大チャンネル数-m)次の単位行列である。
【0075】
そして、Pの各列ベクトルに対して以下の計算をする。なお、以下の計算式においてPtはPの列ベクトルを示している。
計算式:sqrt(最大チャンネル数)*Pt/|Pt|
【0076】
次に、上記計算をした後のPに対して、AとPを結合した最大チャンネル数次正方行列
B=(A P)
を定める。そして、間隔が狭い最大チャンネル数分の受信アンテナ31nの受信信号をYとして、
C=B-1×Y
を計算する。
【0077】
ここで、Cの各成分Cの絶対値を取り、以下の変換式でデシベル変換を行なう。
変換式:パワー[dB]=20*log10(ABS(C))
【0078】
Cの成分C~Cまでのデシベル変換値が対応する角度の値となるので、Cの成分C~Cまでのデシベル変換値を角度パワーとして扱う。また、Cの成分Cm+1~C最大チャンネル数までのデシベル変換値を直交方向のパワーとして扱う。
【0079】
<5.その他>
本明細書中に開示されている種々の技術的特徴は、上記実施形態のほか、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。また、本明細書中に示される複数の実施形態及び変形例は可能な範囲で組み合わせて実施されてよい。
【0080】
例えば、上述した実施形態ではレーダ装置1はFMCW方式のレーダ装置であったが、他の方式のレーダ装置を用いてもよい。例えば、例えばFCM(Fast-Chirp Modulation)方式のレーダ装置を用いてもよい。なお、FCM方式のレーダ装置はペアリング処理を行わないので、本発明をFCM方式のレーダ装置に適用する場合、選択部45cの出力先はペアリング処理部45dではなく例えば物標の横位置を演算する演算部などになる。
【0081】
また例えば、選択部45cが、直交方向のパワーが所定値以下である角度候補を、直交方向のパワーが最小となる角度候補とみなすようにしてもよい。これにより、直交方向のパワーが所定値以下である角度候補が見つかると、残りの角度候補に関してベクトル分解を行う必要がなくなるため、計算の負荷を軽減することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 レーダ装置
2 送信部
3n、3w 受信部
4 信号処理装置
44 データ処理部
45 物標データ導出部
45a 第1の算出部
45b 第2の算出部
45c 選択部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7