(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】魚の鎮静化装置
(51)【国際特許分類】
A01K 79/00 20060101AFI20220113BHJP
A01K 63/00 20170101ALI20220113BHJP
【FI】
A01K79/00 Z
A01K63/00 B
(21)【出願番号】P 2018027951
(22)【出願日】2018-02-20
【審査請求日】2021-02-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000110882
【氏名又は名称】ニチモウ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505290944
【氏名又は名称】株式会社 ニチモウマリカルチャー
(73)【特許権者】
【識別番号】506088067
【氏名又は名称】西日本ニチモウ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081282
【氏名又は名称】中尾 俊輔
(74)【代理人】
【識別番号】100085084
【氏名又は名称】伊藤 高英
(74)【代理人】
【識別番号】100117190
【氏名又は名称】前野 房枝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 翔
(72)【発明者】
【氏名】池田 怜史
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/130017(WO,A1)
【文献】特開2003-047413(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02417408(GB,A)
【文献】特開2003-250465(JP,A)
【文献】特開平08-173020(JP,A)
【文献】特開2007-061051(JP,A)
【文献】特開2012-228194(JP,A)
【文献】カナダ国特許出願公開第02637860(CA,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0258057(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106035589(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 63/00 - 63/10
A01K 79/00 - 79/02
A22B 3/00 - 3/12
A22C 25/00 - 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚が自重で通過するように傾斜配置された導電材料からなる魚滑落板と、前記魚滑落板の上方に位置する電極枠に垂設され、魚に接触して通電する複数の可撓性線状電極とを有し、魚が接触した前記線状電極と前記魚滑落板との間に魚を介して通電し、魚を鎮静化するとともに
、前記可撓性線状電極を支持する電極支持板および前記魚滑落板を共に傾斜角度を調整できるように配設し、かつ
、前記可撓性線状電極を前記魚滑落板との間隔を変化しうるように可動に配設し、魚の移動方向における前記魚滑落板の上流側に魚の三次元形状を計測するセンサを配設し、前記センサによる魚の三次元形状に基づいて前記可撓性線状電極を支持する電極支持板および前記魚滑落板の傾斜角度を共に制御するとともに前記可撓性線状電極の高さを制御するようにしたことを特徴とする魚の鎮静化装置。
【請求項2】
前記複数の可撓性線状電極を、魚の移動方向とこの移動方向に直交する方向の両方向にそれぞれ複数ずつ配置したことを特徴とする請求項1に記載の魚の鎮静化装置。
【請求項3】
前記各可撓性線状電極は、前記電極枠に鉛直方向下方に垂設されている請求項1または請求項2に記載の魚の鎮静化装置。
【請求項4】
船上に設置されている請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の魚の鎮静化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚の鎮静化装置に係り、特に、水揚げした魚を暴れないように静かにさせる魚の鎮静化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、魚の水揚げの際に魚が暴れると魚の体内に乳酸が溜まり味が落ちるため、従来から、水揚げする魚を鎮静化するために電気ショックを利用して鎮静化をはかることが実行されている。
【0003】
例えば、水中に設置した電極間に通電して、電極間に存在する魚類に電気ショックを与えて鎮静化する手法が提案されている。
【0004】
一例として、海水中においては、海水が魚類より電気伝導度が高いので、単に電極間に通電しても海水中の魚には電流が流れないために、水中の魚に通電可能な電極機能を備えた網部に通電することによって網部の近くを遊泳する魚に電気ショックを付与して鎮静化させ、鎮静化状態にある魚を網部に取り込んで水中より取り上げることが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、水揚げ用網をもって海中より脊椎を有する複数の魚を纏めて掬い揚げ、全部の魚が海中から空中に取り出された後に、水揚げ用網に設置された2極の電極に通電して全部の魚に当該魚の体表面に付着している海水を通して通電して、当該魚を脊椎が損傷しない程度に感電させて鎮静化させ、その後水揚げ用網から鎮静化状態の魚を次工程に供出することも提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-165720号公報
【文献】特開2017-018028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示す鎮静化方法は、網と直接接触していない海水中の魚に電気ショックを付与する方式であるために、魚に対する通電電力を過大に設定する必要があり、過大な電気ショックを受けた魚においては、脊椎が折損したり、折れた部位の近傍に内出血が発生する等の不都合があった。
【0008】
また、特許文献2に示す鎮静水揚げ方法は、空中において魚に付着した水分とタモ網内で互いに接触し合う複数の魚自体を介して通電するものであるため、魚への通電の安定性に欠けるおそれがあった。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、複数の魚を纏めて水揚げする際に、脊椎の折損や内出血を発生させることなく確実に鎮静化することができる魚の鎮静化装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するため、本発明に係る魚の鎮静化装置は、魚が自重で通過するように傾斜配置された導電材料からなる魚滑落板と、前記魚滑落板の上方に位置する電極枠に垂設され、魚に接触して通電する複数の可撓性線状電極とを有し、魚が接触した前記線状電極と前記魚滑落板との間に魚に付着している水分を介して通電し、魚を鎮静化するとともに、前記可撓性線状電極を支持する電極支持板および前記魚滑落板を共に傾斜角度を調整できるように配設し、かつ、前記可撓性線状電極を前記魚滑落板との間隔を変化しうるように可動に配設し、魚の移動方向における前記魚滑落板の上流側に魚の三次元形状を計測するセンサを配設し、前記センサによる魚の三次元形状に基づいて前記可撓性線状電極を支持する電極支持板および前記魚滑落板の傾斜角度を共に制御するとともに前記可撓性線状電極の高さを制御するようにした点にある。
【0011】
そして、このような構成を採用したことにより、通電された電気ショックで魚は鎮静化するので、特に、魚体を傷つけることなく魚を鎮静化することができる。そして、このような構成を採用したことにより、鎮静化される魚の形状に合わせて確実に魚を鎮静化することができる。しかも、魚の単尾ずつの通電により魚の骨折率を大幅に改善することができる。
【0014】
本発明に係るさらに他の魚の鎮静化装置は、請求項1に記載のものにおいて、前記複数の可撓性線状電極を、魚の移動方向とこの移動方向に直交する方向の両方向にそれぞれ複数ずつ配置した点にある。
【0015】
そして、このような構成を採用したことにより、魚への通電をより確実に行うことができる。
【0016】
本発明に係るさらに他の魚の鎮静化装置は、請求項1または請求項2に記載のものにおいて、前記各可撓性線状電極は、前記電極枠に鉛直方向下方に垂設されている点にある。
【0017】
そして、このような構成を採用したことにより、魚を電極に引っかけることなく確実に通電することができる。
【0018】
本発明に係るさらに他の魚の鎮静化装置は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のものにおいて、船上に設置されている点にある。
【0019】
そして、このような構成を採用したことにより、水揚げした魚を直ちに鎮静化することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る魚の鎮静化装置によれば、水揚げした魚を連続的に確実に単尾ずつ鎮静化することができ、魚の骨折率を劇的に減少することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る魚の鎮静化装置の実施形態を示す概略側面図
【
図3】
図1の可撓性線状電極の配置の一例を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1ないし
図3は、本発明の実施形態を示すものであり、魚の鎮静化装置1は、一例として図示しない漁船の甲板に設置されている。
【0023】
魚の鎮静化装置2は、魚を投入する上部開口6を備えたホッパ4を有している。このホッパ4の下方から魚の移動方向下流側にかけては、魚の移動方向下流側ほど低位に位置するように傾斜配置された平板状の魚滑落板8が配設されており、この魚滑落板8は、ステンレスのような導電材料により形成されている。この魚滑落板8は、一例として水平方向に対し約17度の角度をもって配設されており、前記ホッパ4から投入された魚が自重により滑落されるようになっている。また、この魚滑落板8は、図示しない公知の駆動装置により傾斜角度を調整されるようになっている。さらに、前記魚滑落板8の両側には、魚の落下を防止する側板(図示せず)が立設されている。
【0024】
魚の移動方向における前記魚滑落板8の下流側には、魚の鎮静化装置2により鎮静化された魚を投入する開口12(
図2)を備えた底板10が配設されている。
【0025】
前記魚滑落板8の上方には、複数本の可撓性線状電極14,14…を、縦横、すなわち魚の移動方向とこの移動方向に直交する方向の両方向にそれぞれ複数ずつ格子状に配置されるように支持する平板状の電極枠たる電極支持板16が、前記魚滑落板8とほぼ平行に位置するように傾斜配置されている。この電極支持板16は、前記魚滑落板8との間隔ならびに傾斜角度をそれぞれ調整可能となるように、図示しない公知の駆動装置に接続支持されている。
【0026】
前記各可撓性線状電極14は、ステンレスのような導電材料により可撓性を得られるような太さに形成されている。また、前記各可撓性線状電極14は前記電極支持板16に揺動自在に支持されており、したがって、特に魚が接触しない状態においては、鉛直方向に垂設されることになる。この状態において、各可撓性線状電極14の先端と前記魚滑落板8とは間隔を有するように設定される。なお、前記各可撓性線状電極14は前記電極支持板16に揺動自在に支持されていることにより、魚滑落板8上を滑落する魚との接触時間を長くすることができ、魚を確実に鎮静化することができる。
【0027】
前記各可撓性線状電極14と、前記魚滑落板8との間には、図示しない電源ならびに電気制御装置により所望のときに通電されるようになっており、この通電のときの電圧、電流などは任意に設定できるようになっている。
【0028】
前記ホッパ4と前記電極支持板16との間には、ホッパ4の上部開口6から投入される魚の大きさ(三次元形状)を計測するセンサ18が配設されており、このセンサ18は、図示しないLSI(大規模集積回路)のような制御装置と接続されている。前記制御装置によるセンサ18による魚の三次元形状に基づいて制御装置が前記各可撓性線状電極の高さ、すなわち電極支持板16の高さを制御するようになっている。前記魚滑落板8の傾斜角度もセンサが検出した魚の大きさにより魚が滑落しやすく、かつ魚に付着した水分を介しての通電を安定的に行いやすくする角度に設定される。
【0029】
また、前記ホッパ4に投入される魚は、同種のほぼ三次元形状の類似するものであることが、通電が安定的に行われるために好ましい。
【0030】
つぎに、前述した実施形態の作用について説明する。
【0031】
本実施形態の魚の鎮静化装置2が漁船の甲板に設置されている場合、漁獲された魚の魚種や大きさを事前に分別し、同一魚種でほぼ同じような大きさの魚をホッパ4の上部開口6から投入する。すると、センサ18が魚体の大きさ(三次元形状)を計測して、この計測値を制御装置(図示せず)が演算し、魚体の大きさに応じた電極支持板16の高さ、魚滑落板8の傾斜角度、魚に電気ショックを与えるための電気的数値の制御などを行う。ない、これらの調整は、1バッチの複数尾の魚ごとに行えばよい。
【0032】
前述したようにして、電気制御装置をONにした状態で同一魚種でほぼ同じような大きさの魚をホッパ4の上部開口6から投入すると、投入された各魚が魚滑落板8を滑落する。このとき、魚滑落板8上に魚滑落板8と間隔をもって対向している複数の格子状配置された可撓性線状電極14のいずれか複数の先端に接触し、接触した可撓性線状電極14を揺動および撓ませるようになる。このとき、接触している可撓性線状電極14と魚滑落板8との間に魚の表面に付着している水分を介して電流が流れ、魚に電気ショックを与える。この結果、電気ショックを受けた各魚は失神し、鎮静化される。しかも鎮静化される魚は、1尾ずつ魚滑落板8上を滑落しているので、魚同士が絡み合ったりして生じる骨折を防止することができる。
【0033】
鎮静化された各魚は、底板10の開口12を介して所望の収納場所に収納される。
【0034】
このように本実施形態の魚の鎮静化装置によれば、漁獲された魚を確実に鎮静化することができ、しかも魚の骨折などを回避できるので、商品価値の高い魚を得ることができる。
【0035】
なお、本発明は、このような構成に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。本発明の魚の鎮静化装置は、漁船に設置するばかりでなく、陸上に設けることももちろん可能である。
【符号の説明】
【0036】
2 魚の鎮静化装置
4ホッパ
6ホッパ4の上部開口
8魚滑落板
10底板
12底板10の開口
14可撓性線状電極
16電極支持板(電極枠)