(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】電力変換装置および電力変換装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/487 20070101AFI20220113BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20220113BHJP
【FI】
H02M7/487
H02M7/48 E
(21)【出願番号】P 2018076721
(22)【出願日】2018-04-12
【審査請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】児山 裕史
(72)【発明者】
【氏名】影山 隆久
(72)【発明者】
【氏名】藤田 崇
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-257780(JP,A)
【文献】特開平08-317663(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第10301456(CN,A)
【文献】特開2007-181398(JP,A)
【文献】特開2014-007854(JP,A)
【文献】Josep Pou,Fast-Processing Modulation Strategy for the Neutral-Point-Clamped Converter With Total Elimination of Low-Frequency Voltage Oscillations in the Neutral Point,IEEE TRANSACTIONS ON INDSUTRIAL ELECTROINICS,VOL.54,No.4,IEEE,2007年08月,pp.2288-2294
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/487
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性点クランプ型の電力変換器と、
前記電力変換器を構成する各相の第1のスイッチング素子群と第2のスイッチング素子群とに対し、それぞれ、前記電力変換器の各相の電圧指令値を用いて生成される第1の電圧指令値と第2の電圧指令値とを与えることで前記電力変換器の中性点電位の変動を抑制する制御を行う制御手段と
を具備し、
前記制御手段は、
前記電力変換器の各相の電圧指令値に当該電力変換器の零相電圧を重畳して得られる新たな各相の電圧指令値から前記第1の電圧指令値と前記第2の電圧指令値とを生成する第1の制御モードと、
前記電力変換器の各相の電圧指令値とその最大値と最小値とに基づいて前記第1の電圧指令値と前記第2の電圧指令値とを生成する第2の制御モードと、
を切り替えて実施する手段を有する、電力変換装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記第1の制御モードにおいて、前記零相電圧が重畳された各相の電圧指令値のいずれかの変調率が所定の範囲を超える場合に、前記第2の制御モードへの切り替えを行う、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記電力変換器の運転条件によって、前記第1の制御モードと前記第2の制御モードとの間の切り替えを行う、
請求項1記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記第2の制御モードにおいて、前記第1の電圧指令値と前記第2の電圧指令値のそれぞれの状態に応じて、前記電力変換器のキャリア周波数を変化させる、
請求項1記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御手段は、
前記第2の制御モードにおいて、前記第1のスイッチング素子群と前記第2のスイッチング素子群とを合わせた素子群のスイッチング周波数が一定以上増える期間に、前記電力変換器のキャリア周波数を低下させる、
請求項4記載の電力変換装置。
【請求項6】
中性点クランプ型の電力変換器を有する電力変換装置の制御方法であって、
制御手段により、前記電力変換器を構成する各相の第1のスイッチング素子群と第2のスイッチング素子群とに対し、それぞれ、前記電力変換器の各相の電圧指令値を用いて生成される第1の電圧指令値と第2の電圧指令値とを与えることで前記電力変換器の中性点電位の変動を抑制する制御を行うこと
を含み、前記制御は、
前記電力変換器の各相の電圧指令値に当該電力変換器の零相電圧を重畳して得られる新たな各相の電圧指令値から前記第1の電圧指令値と前記第2の電圧指令値とを生成する第1の制御モードと、
前記電力変換器の各相の電圧指令値とその最大値と最小値とに基づいて前記第1の電圧指令値と前記第2の電圧指令値とを生成する第2の制御モードと、
を切り替えて実施することを含む、電力変換装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置および電力変換装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直流と交流を変換する電力変換器は、インバータやコンバータとも呼ばれ、社会の中で幅広い分野で用いられている。最も基本的なインバータは、2つの半導体スイッチング素子による2レベルインバータであり、1つのレグで2つの電圧レベルを出力する。
【0003】
一方、
図7に示すように、相毎に、1のレグに4つ半導体スイッチング素子と2つのダイオード(半導体スイッチング素子でも良い)を備え、各相に共通する直流分圧コンデンサを有する、中性点クランプ型(NPC(Neutral-Point-Clamped))インバータが存在する。
図7では三相のNPCインバータ100からなる電力変換装置1の例を示している。NPCインバータ100は1レグで3つの電圧レベルを出力することができ、高耐圧化、損失低減、高調波低減に寄与するため、様々なインバータに用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】J. Pou, et al., ”Fast-Processing Modulation Strategy for the Neutral-Point-Clamped Converter With Total Elimination of Low-Frequency Voltage Oscillations in the Neutral Point”, IEEE Transactions on Industrial Electronics, vol. 54, no. 4, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7の例では、NPCインバータ100は、相毎に、1つのレグに6つ半導体スイッチング素子S
1~S
6を備え、直流電圧v
PNを分圧する直流分圧コンデンサC
1,C
2を有する。ここで、直流分圧コンデンサC
1,C
2の中性点NPの電位をv
nとする。NPCインバータ100の中性点電位v
nはインバータ動作に従い基本波の3倍で変動する性質を持つ。この中性点電位v
nの変動が大きいと、半導体スイッチング素子にかかる電圧が変動し、電圧が高い時には耐圧超過で素子が破損する可能性があり、電圧が低い時には所望の電圧が出せず過変調となる可能性がある。
【0006】
中性点電位v
nの変動の大きさは、変調率と力率、コンデンサ容量、負荷電流が関係する。コンデンサ容量と負荷電流を一定値とし、変調率と力率による中性点電位v
nの変動の大きさを計算すると、
図8のグラフのように表される。
図8では、力率は、電圧と電流との位相差として表している。変調率が高いほど、また力率が低いほど(位相差=π/2に近いほど)、中性点電位v
nの変動は大きいことが分かる。
【0007】
中性点電位vnの変動を抑える最も単純な方法は、コンデンサ容量を増加させることである。しかし、コンデンサ容量の増加はインバータの体積、コストの増加を招き、事故時のエネルギーも大きくなる。
【0008】
この中性点電位v
nの変動は制御により抑制できる(例えば、非特許文献1)。一般に、NPCインバータの相毎の指令値は1つだが、
図9のように上アーム用電圧指令値v
upと下アーム用電圧指令値v
unの2つを用いる方法がある。上アーム用電圧指令値v
upは、
図7中の各アームの上半分に位置する半導体スイッチング素子S
1,S
2,S
5に与える指令値であり、下アーム用電圧指令値v
unは、
図7中の各アームの下半分に位置する半導体スイッチング素子S
3,S
4,S
6に与える指令値である。
【0009】
図9ではu相の指令値を例に示している。上アーム用電圧指令値v
upは上キャリアcar
pと比較処理されることで、上アームの半導体スイッチング素子S
1,S
2,S
5に与えるゲート信号が得られる。一方、下アーム用電圧指令値v
unは下キャリアcar
nと比較処理されることで、下アームの半導体スイッチング素子S
3,S
4,S
6に与えるゲート信号が得られる。上キャリアcar
pは変調率0~1の間を変化し、下キャリアcar
nは変調率-1~0の間を変化する。
【0010】
三相分の上アーム用電圧指令値vipおよび下アーム用電圧指令値vin(但し、i=u,v,w)は、次の式(1)により求められる。
【0011】
【0012】
ここで、minは引数の中の最小値を求める関数、maxは最大値を求める関数である。
【0013】
例えば、
図10(a)に示される三相の電圧指令値v
u,v
v、v
wがある場合、u相の電圧指令値v
uは式(1)より
図10(b)のように変換される。更に
図10(c)に示される上キャリアcar
pと上アーム用電圧指令値v
upとの比較処理、および下キャリアcar
nと下アーム用電圧指令値v
unとの比較処理を経て、
図10(d)のようなPWM状のu相出力電圧v
uoutが得られる。
【0014】
この制御による変調法を適用した場合の、変調率と力率による中性点電位の変動の大きさを計算すると、
図11のグラフのように表される。すなわち、一定の運転領域において中性点電位の変動を完全に抑制できることが分かる。
【0015】
しかしながら、
図10(d)のPWM波形を見ると、上アームのスイッチング素子群も下アームのスイッチング素子群もスイッチングしている区間がある。通常の変調法ではNPCインバータは上アームのスイッチング素子群と下アームのスイッチング素子群のどちらかしかスイッチングしないが、この区間では両方ともスイッチングするのでスイッチング周波数が倍になる。この区間は1周期の1/3なので、平均的に、インバータのスイッチング周波数が1.33倍に増加する。すると、スイッチング損失の増大を招く。また、これを解決するためにはインバータの冷却装置が大型化し、コストが高くなる。また、インバータのランニングコストも増加する。
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、より広い動作領域で中性点電位の変動を抑制しつつ、スイッチング損失の増大を抑制することを可能にする電力変換装置および電力変換装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
実施形態の電力変換装置は、中性点クランプ型の電力変換器と、前記電力変換器を構成する各相の第1のスイッチング素子群と第2のスイッチング素子群とに対し、それぞれ、前記電力変換器の各相の電圧指令値を用いて生成される第1の電圧指令値と第2の電圧指令値とを与えることで前記電力変換器の中性点電位の変動を抑制する制御を行う制御手段とを具備し、前記制御手段は、前記電力変換器の各相の電圧指令値に当該電力変換器の零相電圧を重畳して得られる新たな各相の電圧指令値から前記第1の電圧指令値と前記第2の電圧指令値とを生成する第1の制御モードと、前記電力変換器の各相の電圧指令値とその最大値と最小値とに基づいて前記第1の電圧指令値と前記第2の電圧指令値とを生成する第2の制御モードと、を切り替えて実施する手段を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、より広い動作領域で中性点電位の変動を抑制しつつ、スイッチング損失の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施形態におけるNPCインバータの一例を示す図。
【
図2】同実施形態における中性点電位変動抑制制御の機能構成の一例を示す図。
【
図3】同実施形態における零相電圧重畳による中性点電位変動抑制制御の動作の一例を示す図。
【
図4】同実施形態における零相電圧重畳による中性点電位の変動の一例を示す図。
【
図5】第3の実施形態におけるキャリア比較処理の機能構成の一例を示すブロック図。
【
図6】同実施形態におけるキャリア比較処理の波形の一例を示す図。
【
図7】従来技術におけるNPCインバータの回路の一例を示す図。
【
図8】従来技術における中性点電位の変動の一例を示す図。
【
図9】従来技術の中性点電位変動抑制制御による変調方法の一例を示す図。
【
図10】従来技術の中性点電位変動抑制制御による変調波形の一例を示す図。
【
図11】従来技術の中性点電位変動抑制制御による中性点電位変動の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
[第1の実施形態]
最初に、第1の実施形態について説明する。以下では、前述した従来の構成と共通する部分の説明を省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0022】
図1は、第1の実施形態に係る電力変換装置の構成の一例を示す図である。なお、この
図1では、前述した
図7と共通する要素に同一の符号を付している。
【0023】
電力変換装置1を構成するNPCインバータ100は、
図7に示したものと同様の一般的な三相のNPCインバータである。但し、この例に限定されるものではない。例えば、本実施形態では中性点クランプ型の電力変換器としてNPCインバータを例示するが、これをNPCコンバータに代えて実施してもよい。また、中性点クランプは、T型中点クランプであってもよいし、それ以外のタイプであってもよい。
【0024】
この電力変換装置1には、更に、NPCインバータ100の通常動作の制御と中性点電位vnの変動を抑制する制御(以下、「中性点電位変動抑制制御」と呼ぶ。)を行う制御装置10が備えられる。
【0025】
制御装置10は、NPCインバータ100を構成する各相の半導体スイッチング素子S1,S2,S5(各アームの上半分に位置する第1のスイッチング素子群)と半導体スイッチング素子S3,S4,S6(各アームの下半分に位置する第2のスイッチング素子群)とに対し、それぞれ、NPCインバータ100の各相の電圧指令値vu,vv、vwを用いて生成される第1の電圧指令値と第2の電圧指令値とを与えることでNPCインバータ100の通常動作の制御と中性点電位vnの変動を抑制する制御を行うものである。
【0026】
特に、この制御装置10は、NPCインバータ100の各相の電圧指令値vu,vv、vwに当該NPCインバータ100の零相電圧を重畳して得られる新たな各相の電圧指令値から上アーム用電圧指令値(第1の電圧指令値)vup,vvp、vwpと下アーム用電圧指令値(第2の電圧指令値)vun,vvn、vwnとを生成する第1の制御モードと、NPCインバータ100の各相の電圧指令値vu,vv、vwとその最大値と最小値とに基づいて前述した式(1)を用いて上アーム用電圧指令値vup,vvp、vwpと下アーム用電圧指令値vun,vvn、vwnとを生成する第2の制御モードと、を切り替えて実施する機能を有する。
【0027】
例えば、制御装置10は、第1の制御モードにおいて、零相電圧が重畳された各相の電圧指令値のいずれかの変調率が所定の範囲(例えば変調率が1よりも小さく-1よりも大きい範囲)を超える場合、第2の制御モードへの切り替えを行う。一方、第2の制御モードにおいて、零相電圧が重畳された各相の電圧指令値のすべての変調率が所定の範囲内に収まれば、第1の制御モードへの切り替えを行う。
【0028】
式(1)を用いた第2の制御モードによる中性点電位変動抑制制御では、前述した通り、一定の運転領域において中性点電位の変動を完全に抑制できるが、この制御だけでは、上アームのスイッチング素子群S1,S2,S5と下アームのスイッチング素子群S3,S4,S6とが両方ともスイッチングしている区間でスイッチング周波数が増加するため、スイッチング損失が増大する。そこで、本実施形態では、零相電圧が重畳された各相の電圧指令値の変調率がいずれも所定の範囲内に収まる期間(過変調でない期間)は、第1の制御モードによる中性点電位変動抑制制御を行う。第1の制御モードにおいては、上アームのスイッチング素子群S1,S2,S5と下アームのスイッチング素子群S3,S4,S6とが両方ともスイッチングしている区間が無い。これにより、より広い動作領域で中性点電位変動を抑制しつつ、損失の増加を最低限に抑制することが可能になる。
【0029】
図2は、本実施形態に係る電力変換装置1に備えられる制御装置10によるNPCインバータ100の中性点電位変動抑制制御の機能構成の一例を示す図である。但し、この構成例は一例であり、この例に限定されるものではない。
【0030】
制御装置10は、
図2に示されるように、各種の機能として零相電圧重畳処理部11、判定部12,13、演算部14~17、切替部SW11,SW12,SW21,SW22を有する。
【0031】
これらの要素のうち、切替部SW21,SW22は、第1の制御モードと第2の制御モードのうちの一方が選択されるように切替を行うものである。
【0032】
第1の制御モードによる中性点電位変動抑制制御は、零相電圧重畳処理部11、判定部12,13、切替部SW11,SW12、および切替部SW21,SW22を用いて実現される。一方、第2の制御モードによる中性点電位変動抑制制御は、演算部14~18、および切替部SW21,SW22を用いて実現される。
【0033】
零相電圧重畳処理部11は、NPCインバータ100の零相電圧を以下に示す式(2)を用いて計算し、当該零相電圧を各相の電圧指令値vu,vv,vwに重畳して電圧指令値vu0,vv0,vw0として出力する機能を有する。この制御装置10は、零相電圧の重畳によって符号が変化する電圧指令値がある場合、当該電圧指令値の符号を反転させて零相電圧の再計算を行い、再計算後の零相電圧を各相の電圧指令値に重畳して電圧指令値vu0,vv0,vw0として出力する機能をも備えている。これにより、より広い動作領域で中性点電位vnの変動を抑制することを可能にしている。更に、この制御装置10は、零相電圧の重畳によって符号が変化した電圧指令値がない場合であっても、前述した式(2)の分母が0を跨いで変化する場合には、中間値の電圧指令値の符号を反転させて零相電圧の再計算を行う機能をも更に備えている。これにより、式(2)の分母が0を跨ぐことで過大な零相電圧が生じることを防ぎ、変動抑制制御を正常に作用させることを可能にしている。
【0034】
零相電圧重畳処理部11では、以下の式(2)が使用される。
【0035】
【0036】
但し、vu,vv,vwは1で規格化された各相のレグに対する電圧指令値を表し、iu,iv,iwは各相のレグから出力される電流を表す。signは符号関数を表す。
【0037】
ここで、
図3を参照して、零相電圧重畳処理部11の動作の一例を説明する。
【0038】
零相電圧重畳処理部11は、電圧指令値vu,vv,vwとNPCインバータ100から得られる出力電流iu,iv,iwとに基づき、式(2)を用いて零相電圧の計算を行って零相電圧v0を求める(S11)。なお、電圧指令値vu,vv,vwは、この後、中間値の算出のほか零相電圧v0reの再計算などにも使用する場合があるため、所定の記憶領域に一旦保存しておく(S12)。
【0039】
また、零相電圧重畳処理部11は、電圧指令値vu,vv,vwの中間値を求める(S13)。
【0040】
一方で、零相電圧重畳処理部11は、電圧指令値vu,vv,vwのそれぞれに、求めた零相電圧v0を加算し、電圧指令値vu0,vv0,vw0を求める(S14)。これら電圧指令値vu0,vv0,vw0についても、電圧指令値vu0,vv0,vw0の中間値を求めておく。
【0041】
次に、零相電圧重畳処理部11は、零相電圧v0を加算する前と後とで中間値の符号が変化したか否かを判定する(S15)。すなわち、零相電圧v0を加算する前と後とで中間値の符号が一致するか否かを判定する。双方の間で符号が一致する場合は、零相電圧v0を加算する前と後とで中間値の符号が変化していないとみなすことができる(S15のNo)。一方、双方の間で符号が一致しない場合は、零相電圧v0を加算する前と後とで中間値の符号が変化したとみなすことができる(S15のYes)。
【0042】
ステップS15において、中間値が変化していれれば(S15のYes)、ステップS16の処理へと進む。
【0043】
一方、ステップS15において、中間値が変化していなければ(S15のNo)、零相電圧重畳処理部11は、式(2)の分母が0を跨いで変化したか否かの判定を実施する(S21~S23)。
【0044】
ここで、力率が0より大で、かつ、分母が0以下でなければ(S21のYes,S22のNo)、零相電圧重畳処理部11は、分母が0を跨いで変化していないとみなし、ステップS14で求めた電圧指令値vu0,vv0,vw0を出力する。一方、力率が0より大で、かつ、分母が0以下であれば(S21のYes,S22のYes)、零相電圧重畳処理部11は、分母が0を跨いで変化したとみなし、ステップS16の処理へと進む。
【0045】
また、力率が0より大ではなく、かつ、分母が0以上でなければ(S21のNo,S23のNo)、零相電圧重畳処理部11は、分母が0を跨いで変化していないとみなし、ステップS14で求めた電圧指令値vu0,vv0,vw0を出力する。一方、力率が0より大ではなく、かつ、分母が0以上であれば(S21のNo,S23のYes)、零相電圧重畳処理部11は、分母が0を跨いで変化したとみなし、ステップS16の処理へと進む。
【0046】
ステップS16において、零相電圧重畳処理部11は、ステップS13で求めた電圧指令値vu,vv,vwの中間値の符号を反転させた上で、零相電圧の再計算を行って零相電圧v0reを求め(S16)、求めた零相電圧v0reを、ステップS12で保存しておいた電圧指令値vu,vv,vwのそれぞれに加算して、電圧指令値vu0,vv0,vw0を求め(S17)、求めた電圧指令値vu0,vv0,vw0を出力する。
【0047】
なお、上述したS21~S23の処理は、必ずしも必要とされるものではなく、その実施を省略してもよい。その場合、ステップS15において中間値が変化していなければ(S15のNo)、零相電圧重畳処理部11は、零相電圧の再計算を行うことなく、ステップS14で求めた電圧指令値vu0,vv0,vw0を出力する。
【0048】
このように、零相電圧を重畳することで中間値の符号が変わる場合には、符号を反転させて零相電圧の再計算を行い、零相電圧v0reを得て、この零相電圧v0reを各相の電圧指令値vu,vv,vwに重畳する。これにより、変動抑制効果が適正に発揮される。
【0049】
零相電圧重畳処理部11から出力される電圧指令値vu0,vv0,vw0は、各相の1つのレグに対する指令値であるため、判定部12、SW11およびSW12により、当該電圧指令値を上アーム用電圧指令値vup,vvp、vwpと下アーム用電圧指令値vun,vvn、vwnとに分ける。
【0050】
具体的には、判定部12により変調率が正であるか負であるかを判定し、変調率が正であれば、電圧指令値vu0,vv0,vw0が上アーム用電圧指令値vup,vvp、vwpとして出力され、固定値「0」が下アーム用電圧指令値vun,vvn、vwnとして出力されるように、切替部SW11,SW12をそれぞれ操作する。一方、変調率が正でなければ(負であれば)、固定値「0」が上アーム用電圧指令値vup,vvp、vwpとして出力され、電圧指令値vu0,vv0,vw0が下アーム用電圧指令値vun,vvn、vwnとして出力されるように、切替部SW11,SW12をそれぞれ操作する。
【0051】
また、判定部13、SW21およびSW22により、零相電圧重畳処理部11から出力される電圧指令値vu0,vv0,vw0のいずれかの変調率が例えば1よりも小さく-1よりも大きい範囲を超えるか否かに応じて、第1の制御モードまたは第2の制御モードが選択されるようにする。
【0052】
具体的には、判定部13により電圧指令値vu0,vv0,vw0のいずれも変調率の絶対値が1よりも小さいか否かを判定し、小さければ、切替部SW11から出力される値が切替部SW21を通じて上アーム用電圧指令値vup,vvp、vwpとして出力され、切替部SW12から出力される値が切替部SW22を通じて下アーム用電圧指令値vun,vvn、vwnとして出力されるように、切替部SW21,SW22をそれぞれ操作する。この場合、第1の制御モードが設定される。
【0053】
一方、電圧指令値vu0,vv0,vw0のいずれかの変調率の絶対値が1よりも小さくなければ、演算部16から出力される値が切替部SW21を通じて上アーム用電圧指令値vup,vvp、vwpとして出力され、演算部18から出力される値が切替部SW22を通じて下アーム用電圧指令値vun,vvn、vwnとして出力されるように、切替部SW21,SW22をそれぞれ操作する。この場合、第2の制御モードが設定される。
【0054】
演算部14~18は、前述した式(1)の演算を実施する要素である。演算部14,15,16により「(vi/2)-(min(vu,vv、vw)/2)」(但し、i=u,v,w)を計算し、上アーム用電圧指令値vip(即ち、vup,vvp,vwp)を求める一方で、演算部14,17,18により「(vi/2)-(max(vu,vv,vw)/2)」を計算し、下アーム用電圧指令値vin(即ち、vun,vvn、vwn)を求める。
【0055】
上記零相電圧による中性点電位変動抑制制御を適用した場合の中性点電位v
nの変動を、変調率、力率(電圧と電流との位相差)ごとに計算し、グラフ化すると、
図4のようになる。すなわち、変調率が低く、力率が低い(位相差=π/2に近い)運転領域では、中性点電位の変動を完全に抑制できることが分かる。
【0056】
上記零相電圧による中性点電位変動抑制制御では、上アームのスイッチング素子群S
1,S
2,S
5と下アームのスイッチング素子群S
3,S
4,S
6とが両方ともスイッチングしている区間がなく、スイッチング周波数は増加しないので、式(1)のみを用いた制御よりも損失を小さくすることができる。また、本実施形態を適用する事で、
図4で変動が出ている運転領域では式(1)を用いた制御が適用されるため、より広い動作領域で中性点電位の変動を抑制することができる。この場合、中性点電位v
nの変動のグラフは
図11と同様になる。
【0057】
このように第2の実施形態によれば、より広い動作領域で中性点電位変動を抑制しつつ、損失の増加を最低限に抑制できる。また、コンデンサ容量の増加を防ぎつつ、スイッチング損失の増大を抑制し、小型・低コストの電力変換装置を提供することが可能になる。
【0058】
なお、本実施形態では、零相電圧を重畳する際に電圧指令値vu,vv,vwのうち中間値の符号が変化することから、当該中間値を対象に符号の変化を判定する場合を例示したが、この例に限定されるものではない。例えば、電圧指令値vu,vv,vwの中間値を判定する処理を行うことなく、各相の電圧指令値vu,vv,vwのそれぞれについて、符号の変化を判定するようにしてもよい。また、符号が変化する電圧指令値の判定を上記以外の手法で行うようにしても構わない。
【0059】
また、零相電圧を重畳する前後の電圧指令値の符号の変化の有無は、零相電圧を重畳する前後の2つの電圧指令値の減算結果をもとに判定してもよいが、これに限らず、別の手法(例えば他の種類の論理回路など)を用いて判定してもよい。
【0060】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。以下では、第1の実施形態と共通する部分の説明を省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0061】
第2の実施形態に係る電力変換装置の構成は、
図1に示したものと同様である。但し、第2の実施形態における制御装置10は、第1の実施形態の
図2に示した判定部13と異なる判定部(図示せず)を備え、第1の実施形態と異なる判定基準で制御モードの切替を行う。
【0062】
第2の実施形態における制御装置10は、NPCインバータ100の運転条件によって第2の制御モードから第1の制御モードへの切り替え(もしくは第1の制御モードから第2の制御モードへの切替)を行う。第1の制御モードを適用する運転条件または第2の制御モードを適用する運転条件は、例えば、変調率および力率を用いて予め定められる。なお、これに限らず、有効電力指令および無効電力指令などを用いて定めてもよい。運転条件を示す情報は、所定の記憶領域に保存され、NPCインバータ100の運転中、制御モードを切り替える判定基準として使用される。
【0063】
例えば、第1の制御モードによる第1の運転範囲と、第2の制御モードによる第2の運転範囲との境界を、例えば変調率および力率を用いて予め定めておき、第1の運転領域での運転には第1の制御モードを適用し、第2の運転領域での運転には第2の制御モードを適用する。
【0064】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態に比べ、制御モードを切り替える判定基準をより細やかに設定することができるため、損失抑制と中性点電位変動抑制とのバランスをより良くし、運転状況に応じたより適切な制御モードでの運転を実現することができる。
【0065】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態について説明する。以下では、第1の実施形態と共通する部分の説明を省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0066】
第2の実施形態に係る電力変換装置の構成は、
図1に示したものと同様である。但し、第2の実施形態における制御装置10は、さらに、第2の制御モードにおいて、上アーム用電圧指令値v
upと下アーム用電圧指令値v
unのそれぞれの状態に応じて、NPCインバータ100のキャリア周波数を変化させる機能を備えている。
【0067】
例えば、制御装置10は、上アーム用電圧指令値vupと下アーム用電圧指令値vunの両方が0でない場合に、キャリア周波数を例えば通常の1/2の周波数に低下させる機能、あるいは、上アームの半導体スイッチング素子S1,S2,S5と、下アームの半導体スイッチング素子S3,S4,S6とを合わせた素子群のスイッチング周波数が一定以上増える期間に、NPCインバータ100のキャリア周波数を例えば通常の1/2の周波数に低下させる機能を有する。
【0068】
図5は、本実施形態に係る電力変換装置1に備えられる制御装置10に備えられるキャリア周波数切替制御の機能構成の一例を示す図である。但し、この構成例は一例であり、この例に限定されるものではない。
【0069】
キャリアはcar1とcar2の2種類があり、car1が通常キャリア、car2が切替キャリアである。ここで、car2は、例えばcar1の周波数の1/2の周波数であるものとするが、これに限定されるものではない。car2は、例えばcar1の周波数の1/3の周波数であってもよい。
【0070】
制御装置10は、比較部31,32、演算部33,34、判定部35,36、演算部37、切替部SW31,SW32を有する。
【0071】
比較部31は、上アーム用電圧指令値vupと通常キャリアcar1との比較結果、または、上アーム用電圧指令値vupと切替キャリアcar2との比較結果を、上アーム素子用のゲート信号gupとして出力する。
【0072】
比較部32は、下アーム用電圧指令値vunと、演算部33で計算される通常キャリアcar1と値「1」との差分との比較結果、または、下アーム用電圧指令値vunと、演算部34で計算される切替キャリアcar2と値「1」との差分との比較結果を、下アーム素子のゲート信号gunとして出力する。
【0073】
判定部35は、上アーム用電圧指令値vupが0であるか否かを判定し、0であれば1を出力し、0でなければ0を出力する。
【0074】
判定部36は、下アーム用電圧指令値vunが0であるか否かを判定し、0であれば1を出力し、0でなければ0を出力する。
【0075】
演算部37は、判定部35,36の出力の少なくとも一方が0でないならば(即ち、上アーム用電圧指令値vupと下アーム用電圧指令値vunが少なくとも一方が0であれば)、切替部SW31,SW32がそれぞれ接点0を選択するように操作する。一方、判定部35,36の出力が両方とも0であれば(即ち、上アーム用電圧指令値vupと下アーム用電圧指令値vunが両方とも0ではないならば)、切替部SW31,SW32がそれぞれ1接点を選択するように操作する。
【0076】
このような構成において、上アーム用電圧指令値v
upと下アーム用電圧指令値v
unが少なくとも一方が0である期間では、通常キャリアcar1が適用される。一方、上アーム用電圧指令値v
upと下アーム用電圧指令値v
unが両方とも0ではない期間では、切替キャリアcar2が適用される。これを波形図で示すと、
図6のようになる。
【0077】
上アーム用電圧指令値vupと下アーム用電圧指令値vunが両方とも0ではない期間に、仮に通常キャリアcar1を適用すると、上アームと下アームの合計スイッチング回数は、倍になるが、本実施形態では、キャリアcar2が適用されるため、キャリア周波数が1/2になり、切替前と比べて全体のスイッチング回数は変わらない。即ち、スイッチング損失の増加は抑制される。
【0078】
第3の実施形態によれば、第1の実施形態に比べ、スイッチング損失の増加をより一層抑制することが可能になる。
【0079】
以上詳述したように、各実施形態によれば、より広い動作領域で中性点電位の変動を抑制しつつ、スイッチング損失の増大を抑制することができる。
【0080】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0081】
10…制御装置、11…零相電圧重畳処理部、12,13…判定部、14~17…演算部、31,32…比較部、33,34…演算部、35,36…判定部、37…演算部、100…NPCインバータ、SW11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32…切替部。