(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】ロータリジョイント
(51)【国際特許分類】
F16L 27/087 20060101AFI20220113BHJP
F16J 15/34 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
F16L27/087
F16J15/34 J
(21)【出願番号】P 2018130426
(22)【出願日】2018-07-10
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084342
【氏名又は名称】三木 久巳
(72)【発明者】
【氏名】大賀 光治
(72)【発明者】
【氏名】原 勇気
【審査官】▲高▼藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-166619(JP,A)
【文献】特開2009-030665(JP,A)
【文献】特開2001-141150(JP,A)
【文献】特開平4-145267(JP,A)
【文献】特開2008-121891(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002691(WO,A1)
【文献】米国特許第6109617(US,A)
【文献】特開2014-219020(JP,A)
【文献】特許第6087439(JP,B2)
【文献】特開2013-7477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 27/00-27/12
F16J 15/34-15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のケース体とこれに同心をなして相対回転自在に連結した回転軸体との間に、当該両体の一方に固定した固定密封環と当該両体の他方に軸線方向移動可能に保持した可動密封環との対向端面が接触状態で相対回転することによりシール機能を発揮する4個以上のメカニカルシールを軸線方向に縦列状に配置して、隣接するメカニカルシールでシールされた通路接続空間を形成し、
前記両体に当該通路接続空間を介して連通する一連の流路を形成し、
前記両体間に形成された空間であって当該メカニカルシールによって通路接続空間と区画されたクエンチング空間に、クエンチング液を供給するように構成されており、
少なくとも1組の隣接するメカニカルシールの固定密封環を両端面が可動密封環と接触する1個の固定密封環で兼用し、
当該兼用された固定密封環の両端面に、可動密封環の端面との接触部を前記クエンチング空間に開口する複数個の潤滑溝を形成し、
当該固定密封環の両端面の一方に形成された各潤滑溝とその他方に形成された各潤滑溝とが固定密封環の周方向において重ならないように配置されていることを特徴とするロータリジョイント。
【請求項2】
前記固定密封環の両端面の一方に形成された複数個の潤滑溝とその他方に形成された複数個の潤滑溝とが、夫々、当該固定密封環の周方向に等間隔を隔てて形成されたものであることを特徴とする、請求項1に記載するロータリジョイント。
【請求項3】
前記固定密封環の両端面の一方に形成された各潤滑溝が、当該固定密封環の周方向において、当該固定密封環の両端面の他方に形成された隣接する潤滑溝間の中間に位置していることを特徴とする、請求項2に記載するロータリジョイント。
【請求項4】
前記4個以上のメカニカルシールを軸線方向に縦列状に配置してなるメカニカルシール群の両端部に位置するメカニカルシールを除くすべてのメカニカルシールにおいて、隣接するメカニカルシールの固定密封環が前記1個の固定密封環で兼用されていることを特徴とする、請求項1~3の何れかに記載するロータリジョイント。
【請求項5】
前記4個以上のメカニカルシールを軸線方向に縦列状に配置してなるメカニカルシール群のすべてのメカニカルシールにおいて、隣接するメカニカルシールの固定密封環が前記1個の固定密封環で兼用されていることを特徴とする、請求項1~3の何れかに記載するロータリジョイント。
【請求項6】
前記各メカニカルシールにおいて、固定密封環が回転軸体に固定されると共に、可動密封環がケース体に軸線方向移動可能に保持されていることを特徴とする、請求項1~5の何れかに記載するロータリジョイント。
【請求項7】
前記各メカニカルシールにおいて、固定密封環がケース体に固定されると共に、可動密封環が回転軸体に軸線方向移動可能に保持されていることを特徴とする、請求項1~5の何れかに記載するロータリジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体分野等で使用される回転機器(例えば、CMP装置(CMP(Chemical Mechanical Polishing)法による半導体ウエハの表面研摩装置)等)における相対回転部材間で流体を流動させるロータリジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のロータリジョイントとして、特許文献1の
図6に開示されるように、筒状のケース体とこれに同心をなして相対回転自在に連結した回転軸体との対向周面間に、ケース体に固定した固定密封環と回転軸体に軸線方向移動可能に保持した可動密封環との対向端面を接触状態で相対回転させることによりシール機能を発揮するように構成された6個のメカニカルシールを軸線方向に縦列状に配設して、隣接するメカニカルシールでシールされた通路接続空間を形成し、当該両体に通路接続空間を介して連通する一連の流路を形成したもの(以下「従来ロータリジョイント」という)が周知である。
【0003】
而して、かかる従来ロータリジョイントにあっては、特許文献1の
図6に示される如く、メカニカルシール群の両端部に位置するメカニカルシールを除く2組の隣接するメカニカルシールの固定密封環を両端面が可動密封環と接触する1個の固定密封環(以下「兼用固定密封環」という)で兼用していることから、特許文献1の
図1に開示されたもののように、全メカニカルシールの固定密封環が一方の端面のみを可動密封環との接触面とする独立部材としたロータリジョイントに比して、ロータリジョイントの軸長(両体の相対回転軸線方向における長さ)を短縮し得て小型化を図ることができ、また部品点数の削減によりメカニカルシールの構成つまりロータリジョイントの構成を簡素化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来ロータリジョイントにあって、上記兼用固定密封環については、その両端面が夫々可動密封環との接触により発熱することから、一方の端面のみが可動密封環と接触する場合に比して当該兼用固定密封環に熱膨張による大きな熱歪が生じ易い。しかも、兼用固定密封環を使用する2個のメカニカルシールによってシールされた夫々の通路接続空間を流動する流体に圧力差があったり或いは当該流体の圧力が変動することにより、当該兼用固定密封環の両端面における可動密封環との接触圧が異なると、当該兼用固定密封環の両端面における接触部での発熱量つまり熱歪が異なることになり、兼用固定密封環に生じる熱歪が周方向に不均一となり易い。
【0006】
したがって、従来ロータリジョイントでは、兼用固定密封環にこのような周方向に不均一で大きな熱歪が生じ易いため、兼用固定密封環と可動密封環との接触が適正に行われず、兼用固定密封環を使用するメカニカルシールによる通路接続空間のシール機能が良好に発揮されない虞れがあった。
【0007】
本発明は、このような兼用固定密封環を使用するメカニカルシールにおける上記した問題を解決して、通路接続空間を良好にシールすることができるロータリジョイントを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成すべく、筒状のケース体とこれに同心をなして相対回転自在に連結した回転軸体との間に、当該両体の一方に固定した固定密封環と当該両体の他方に軸線方向移動可能に保持した可動密封環との対向端面が接触状態で相対回転することによりシール機能を発揮する4個以上のメカニカルシールを軸線方向に縦列状に配置して、隣接するメカニカルシールでシールされた通路接続空間を形成し、前記両体に当該通路接続空間を介して連通する一連の流路を形成し、前記両体間に形成された空間であって当該メカニカルシールによって通路接続空間と区画されたクエンチング空間に、クエンチング液を供給するように構成されており、少なくとも1組の隣接するメカニカルシールの固定密封環を両端面が可動密封環と接触する1個の固定密封環(以下「兼用固定密封環」という)で兼用し、当該兼用固定密封環の両端面に、可動密封環の端面との接触部を前記クエンチング空間に開口する複数個の潤滑溝を形成し、当該兼用固定密封環の両端面の一方に形成された各潤滑溝とその他方に形成された各潤滑溝とが当該兼用固定密封環の周方向において重ならないように配置されていることを特徴とするロータリジョイントを提案する。
【0009】
本発明のロータリジョイントにあっては、前記兼用固定密封環の両端面の一方に形成された複数個の潤滑溝とその他方に形成された複数個の潤滑溝とが、夫々、当該兼用固定密封環の周方向に等間隔を隔てて形成されたものであることが好ましい。更には、前記兼用固定密封環の両端面の一方に形成された各潤滑溝が、当該兼用固定密封環の周方向において、当該兼用固定密封環の両端面の他方に形成された隣接する潤滑溝間の中間に位置していることが好ましい。
【0010】
また、前記4個以上のメカニカルシールを軸線方向に縦列状に配置してなるメカニカルシール群の両端部に位置するメカニカルシールを除くすべてのメカニカルシールにおいて、或は当該メカニカルシール群のすべてのメカニカルシールにおいて、隣接するメカニカルシールの固定密封環が前記1個の兼用固定密封環で兼用されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明のロータリジョイントにあっては、前記各メカニカルシールにおいては、固定密封環が回転軸体に固定されると共に可動密封環がケース体に軸線方向移動可能に保持されているか、或は固定密封環がケース体に固定されると共に可動密封環が回転軸体に軸線方向移動可能に保持されているか、何れも可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のロータリジョイントにあっては、兼用固定密封環の両端面に複数個の潤滑溝が形成されているから、潤滑溝に侵入したクエンチング液により冷却されて当該兼用固定密封環に大きな熱歪が生じることがない。しかも、兼用固定密封環の各端面においては、クエンチング液が直接に接触する潤滑溝が形成された部分では冷却効果が高く熱歪が小さくなり、逆にクエンチング液が直接に接触しない潤滑溝が形成されていない部分では冷却効果が低く熱歪が大きくなるが、兼用固定密封環の一方の端面に形成された各潤滑溝と当該兼用固定密封環の他方の端面に形成された各潤滑溝とが当該兼用固定密封環の周方向において重ならないように配置されていることから、当該兼用固定密封環の周方向においては、前記一方の端面における冷却効果が高く熱歪が小さくなる部分(潤滑溝が形成された部分)と前記他方の端面における冷却効果が低く熱歪が大きくなる部分(潤滑溝が形成されていない部分)とが当該兼用固定密封環の周方向において同一位置又は略同一位置となる。その結果、当該兼用固定密封環に生じる熱歪が周方向において均一となり、当該兼用固定密封環の各端面と可動密封環の端面との接触が適正に行われることになる。
【0013】
このように、本発明のロータリジョイントにあっては、兼用固定密封環に生じる熱歪が小さく且つその熱歪が当該兼用固定密封環の周方向に均一となるから、当該兼用固定密封環と可動密封環との接触が適正に行われて、兼用固定密封環を使用するメカニカルシールによる通路接続空間のシール機能が良好に発揮され、流体を、その性状に拘わらず、相対回転するケース体と回転軸体との間に形成された流路において漏れを生じることなく良好に流動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は本発明に係るロータリジョイントの一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は
図1と異なる位置で断面した当該ロータリジョイントの断面図である。
【
図6】
図6は本発明に係るロータリジョイントの変形例を示す
図3相当の要部の断面図である。
【
図7】
図7は本発明に係るロータリジョイントの他の変形例を示す概略断面図である。
【
図8】
図8は
図7のVIII-VIII線に沿う要部の断面図である。
【
図9】
図9は本発明に係るロータリジョイントの更に他の変形例を示す
図7対応の概略断面図である。
【
図11】
図11は本発明に係るロータリジョイントの更に他の変形例を示す
図7対応の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて具体的に説明する。
【0016】
図1は本発明に係るロータリジョイントの一例を示す断面図であり、
図2は
図1と異なる位置で断面した当該ロータリジョイントの断面図であり、
図3は
図1の要部を拡大して示す詳細断面図であり、
図4は
図3のIV-IV線に沿う要部の断面図であり、
図5は
図3のV-V線に沿う要部の断面図である。なお、以下の説明において、上下とは
図1~
図3における上下をいうものとする。
【0017】
図1及び
図2に示すロータリジョイント(以下「第1ロータリジョイントR1」という)は、筒状のケース体1とこれに同心をなして相対回転自在に連結された回転軸体2とを具備し、両体1,2の対向周面間に、4個以上のメカニカルシール3を軸線方向(両体1,2の相対回転軸線方向)つまり上下方向に縦列させて配置して、隣接するメカニカルシール3,3でシールされた複数個の通路接続空間4を形成すると共に、当該通路接続空間4とメカニカルシール3により区画されたクエンチング空間5を形成したものであり、両体1,2間に通路接続空間4を介して連通してなる複数個の一連の流路6(
図2参照)を形成した竪型のものであって、CMP装置等の回転機器の相対回転部材間で適宜の流体(例えば、液体、気体又はスラリ流体)Fを各流路6により各別に流動させるものである。
【0018】
ケース体1は、
図1及び
図2に示す如く、上下方向に延びる円形内周部を有するもので、上下方向に複数個の環状部分に分割された筒状構造をなす。ケース本体1は、回転機器の固定側部材(例えば、CMP装置の装置本体)に取り付けられる。
【0019】
回転軸体2は、
図1及び
図2に示す如く、上下方向に延びる円柱状の軸本体21と、これに上下方向に所定間隔を隔てて縦列状に嵌合された複数個のスリーブ22と、軸本体21の上端部に嵌合された有底筒状のベアリング受体23とで構成されており、ベアリング受体23とケース体1の上端部との間及び軸本体21の下端部に形成した大径のベアリング受部21aとケース体1の下端部との間に夫々装填したベアリング24,25によりケース体1の内周部に同心をなして相対回転自在に支持されている。回転軸体2は、軸本体21の下端部において回転機器の回転側部材(例えば、CMP装置のトップリング又はターンテーブル)に取り付けられる。
【0020】
各メカニカルシール3は、
図1及び
図3に示す如く、両体1,2の一方(この例では回転軸体2)に固定した固定密封環31とこれに対向して両体1,2の他方(この例ではケース体1)に軸線方向移動可能に保持された可動密封環32とこれを固定密封環31に押圧接触させるスプリング33とを具備して、両密封環31,32の対向端面である密封端面31a,32aを接触状態で相対回転させることにより、密封端面31a,32aの接触部S(
図3参照)の内周側領域である通路接続空間4とその外周側領域であるクエンチング空間5とをシールするように構成された端面接触形のメカニカルシールである。
【0021】
各固定密封環31は、
図1及び
図2に示す如く、両体1,2の軸線(相対回転軸線)と同心をなす断面方形の円環状体であり、隣接する固定密封環31,31の相互間隔をスリーブ22によって規制された状態で回転軸体2の軸本体21に嵌合固定されている。すなわち、固定密封環31は、
図1に示す如く、ベアリング受体23をボルト26により軸本体21に締め付けて、スリーブ22を介してベアリング受体23と軸本体21のベアリング受体23との間に挟圧させることにより、軸線方向に等間隔を隔てた縦列状態で回転軸体2に固定されている。なお、各スリーブ22の上端部(最下位のスリーブ22については上下端部)と軸本体21との間には、
図1~
図3に示す如く、軸本体21と各固定密封環31との嵌合部分をシールするOリング27が装填されている。
【0022】
各可動密封環32は、
図3に示す如く、回転軸体2と同心をなす断面略L字状の円環状体であり、端面を固定密封環31の密封端面31aに全面的に接触する密封端面32aに構成してある。すなわち、可動密封環32の密封端面32aの内径は固定密封環31の密封端面31aの内径より大きく設定されており、その外径は当該密封端面31aの外径より小さくしてある。各可動密封環32は、
図1及び
図3に示す如く、ケース体1の内周部に突出形成した環状の保持壁11にOリング34を介して軸線方向移動可能に保持されている。なお、各可動密封環32は、
図1及び
図3に示す如く、その外周部に形成した係合凹部を、保持壁11に貫通支持されたドライブバー35に係合させることにより、軸線方向への相対移動を所定範囲で許容された状態でケース体1に相対回転不能に保持されている。
【0023】
スプリング33は、
図1及び
図3に示す如く、隣接するメカニカルシール3,3において、保持壁11に形成された軸線方向の貫通孔51に保持されていて、保持壁11の上下両側に位置する両可動密封環32,32を各固定密封環31へと押圧附勢する共通部材とされている。
【0024】
両体1,2の対向周面間には、
図1~
図3に示す如く、固定密封環群31の両端に位置する固定密封環31,31とケース体1との対向周面間に装填された環状シール部材(公知のオイルシール等)52,53でシールされた空間であって、通路接続空間4とメカニカルシール3によって区画されたクエンチング空間5が形成されている。クエンチング空間5は、各両密封環31,32の接触部Sの外周側領域を各保持壁11の貫通孔51を介して連通させることにより形成されたもので、ケース体1に形成された給排液通路54,55により適宜のクエンチング液(冷却液)Qが循環供給される。すなわち、
図1に示す如く、給液通路54をクエンチング空間5の下部(最下端の保持壁11の貫通孔51)に連通させると共に排液通路55をクエンチング空間5の上部(上位の環状シール部材52と最上位の可動密封環32との間の空間部)に連通させて、給液通路54からクエンチング空間5に供給されたクエンチング液Qがクエンチング空間5を通過し(各両密封環31,32の接触部Sの外周側領域を順次通過し)排液通路55から排出されるようになっている。クエンチング空間5に供給されるクエンチング液Qの圧力は各流路6を流動する流体Fの圧力より低圧であり、クエンチング液Qとしては常温の清浄水、純水等が使用されている。なお、ケース体1には、
図1に示す如く、下位の環状シール部材53とベアリング25との間の空間部に連通するドレン56が形成されている。
【0025】
而して、メカニカルシール群3のうち少なくとも1組の隣接するメカニカルシール3,3の固定密封環31,31は、
図3に示す如く、両端面を可動密封環32,32の密封端面32a,32aが接触する密封端面31a,31aとする1個の固定密封環31(以下「兼用固定密封環31A」という)で兼用されている。この例では、上下方向に縦列するメカニカルシール群3の両端部(上下端部)に位置するメカニカルシール3,3を除くすべてのメカニカルシール3において、隣接するメカニカルシール3,3の固定密封環31,31を1個の兼用固定密封環31Aで兼用している。すなわち、上下方向に縦列する固定密封環群31のうち両端部(上下端部)に位置する固定密封環31,31を除いて、すべての固定密封環31を兼用固定密封環31Aとしている。
【0026】
各流路6は、
図2に示す如く、ケース体1に形成したケース側通路61と回転軸体2に形成した軸側通路62,63,64とを通路接続空間4を介して連通させてなる一連のものである。各ケース側通路61は、保持壁11の貫通孔51と交差しない状態でケース体1を径方向に貫通して形成されており、その一端部は保持壁11の内周面において通路接続空間4に開口すると共にその他端部は回転機器の固定側部材に形成された流路に接続される。各軸側通路62,63,64は、スリーブ22の内周面に形成した環状凹部を軸本体21で閉塞してなる環状空間であって、スリーブ22と軸本体21との対向周面間に形成されたヘッダ空間62と、スリーブ22を径方向に貫通してヘッダ空間62と通路接続空間4とを連通する複数個の連通孔63と、軸本体21をその下端部から軸線方向に貫通してヘッダ空間62に連通する接続通路64とで構成されており、接続通路64の下端部は回転機器の回転側部材に形成された流路に接続される。
【0027】
各軸側通路における複数個の連通孔63は、スリーブ22の軸線方向中央部にスリーブ22の周方向に等間隔を隔てて形成されており、各スリーブ22と兼用固定密封環31を挟んで隣接するスリーブ22とは、一方のスリーブ22に形成された連通孔63と他方のスリーブ22に形成された連通孔63とがスリーブ22の周方向において齟齬する状態(重ならない状態)で、軸本体21に嵌合されている。この例では、
図5に示す如く、各スリーブ22に5個の連通孔63が形成されており、隣接するスリーブ22,22が、一方のスリーブ22に形成された各連通孔(同図に実線で示す連通孔)63が他方のスリーブ22に形成された隣接する連通孔(同図に破線で示す連通孔)63,63の周方向中間に位置する状態で、軸本体21に嵌合されている。
【0028】
各兼用固定密封環31Aの各端面(密封端面)31aには、
図3に示す如く、可動密封環32の密封端面32aとの接触部Sの一部分(外周側部分)をクエンチング空間5に開口する複数個の潤滑溝31bが形成されている。各潤滑溝31bは一般にハイドロカットと呼ばれる凹溝であり、この例では、
図4に示す如く、兼用固定密封環31Aの各密封端面31aに3個の潤滑溝31bが当該密封端面31aの周方向に等間隔を隔てて形成されており、当該密封端面31aにおける接触部Sの外周側部分(可動密封環32の密封端面32aの外周部分と重なる部分)を通過する直線と当該密封端面31aの外周縁とで囲繞された扇形状部分を所定深さに切り欠いてなる断面矩形状のものである。
【0029】
而して、各兼用固定密封環31Aの一方の密封端面31aに形成された複数個の潤滑溝31bと他方の密封端面31aに形成された同数の潤滑溝31bとは当該兼用固定密封環31の周方向において齟齬する(重ならない)ように形成されている。この例では、各兼用固定密封環31Aの両密封端面31a,31aにおける各潤滑溝31bの形成位置を、
図4に示す如く、一方の密封端面31aに形成された各潤滑溝(同図に実線で示す潤滑溝)31bが他方の密封端面31aに形成された隣接する潤滑溝(同図に破線で示す潤滑溝)31b,31bとの周方向中間に位置するように設定してある。すなわち、各兼用固定密封環31Aの両密封端面31a,31aにおいて、一方の密封端面31aに形成された潤滑溝31bと他方の密封端面31aに形成された潤滑溝31bとが周方向に等間隔を隔てて交互に位置するように設定してある。
【0030】
ところで、ロータリジョイントを構成する構成部材の構成材は、当該構成部材に要求される機能、機械的強度等に応じて選択される他、流路6を流動する流体Fの性状や使用目的に応じて選択しておくことが必要であり、一般に、当該流体Fに対して不活性なものを選択しておくことが好ましい。流体Fに対して不活性な構成材は、当該流体Fの性状や使用条件(金属汚染の回避等)との関係において決定されるものであり、例えば、当該流体Fが半導体ウエハの処理に使用する研磨液や洗浄液等のように金属汚染を回避すべきものである場合には、流体との接触により金属成分を溶出したり金属粉を発生したりすることがないセラミックスやプラスチック(例えば、PEEK,PES,PC等)が使用される。すなわち、各密封環31,31A,32は一般に炭化ケイ素等のセラミックスや超硬合金(タングステンカーバイド)等で構成されるが、この例では、各密封環31,31A,32を炭化珪素で構成すると共に、ケース体1及び回転軸体2の構成部材(軸本体21及び各スリーブ22等)をPEEKで構成してある。
【0031】
以上のように構成された第1ロータリジョイントR1にあっては、兼用固定密封環31Aの両密封端面31a,31aに上記したような潤滑溝31b,31bを形成しているから、冒頭で述べたような問題は生じない。
【0032】
すなわち、兼用固定密封環31の各密封端面31aは、各潤滑溝31bに侵入したクエンチング液Qにより冷却されることから、兼用固定密封環に潤滑溝を形成していない従来ロータリジョイントに比して、兼用固定密封環31に大きな熱膨張による大きな熱歪が生じることがない。
【0033】
ところで、兼用固定密封環31Aの各密封端面31aにおける潤滑溝31bが形成された部分では、クエンチング液Qが直接に接触することから、クエンチング液Qによる冷却効果が高くなり、熱膨張により発生する熱歪量が小さくなる。一方、当該各密封端面31aにおける潤滑溝31bが形成されていない部分では、クエンチング液Qが直接接触しないことから、クエンチング液Qによる冷却効果が小さく、熱膨張により発生する熱歪量が大きくなる。したがって、当該各密封端面31aには、周方向において、熱歪が小さな部分(潤滑溝31bが形成された部分)と熱歪が大きな部分(潤滑溝31bが形成されていない部分)とが交互に存在することになり、当該各密封端面31aが周方向にうねり状の熱歪が生じることになる。
【0034】
しかし、兼用固定密封環31Aにおいては、
図4に示す如く、一方の密封端面31aに形成された潤滑溝31bと他方の密封端面31aに形成された潤滑溝31bとが周方向に重ならないように配置されており、周方向においては、一方の密封端面31aにおける潤滑溝31bが形成された部分は他方の密封端面31aにおいては潤滑溝31bが形成されていない部分となり、逆に当該一方の密封端面31aにおける潤滑溝31bが形成されていない部分は当該他方の密封端面31aにおいては潤滑溝31bが形成されている部分となることから、両密封端面31a,31aにおいてはうねり状熱歪の山部(熱歪の大きな部分)とうねり状熱歪の谷部(熱歪の小さな部分)とが重なることになる。その結果、兼用固定密封環31Aに生じる熱歪が周方向に均一となり、その熱歪量も小さくなる。かかる効果は、
図4に示す如く、兼用固定密封環31Aの両密封端面31a,31aにおいて一方の密封端面31aに形成された潤滑溝31bと他方の密封端面31aに形成された潤滑溝31bとが周方向に等間隔を隔てて交互に位置するように工夫しておくことにより、より顕著に発揮される。
【0035】
したがって、第1ロータリジョイントR1によれば、兼用固定密封環31Aが、熱歪が周方向に不均一となる従来ロータリジョイントに比して、兼用固定密封環31aの各密封端面31aと可動密封環32の密封端面32aとの接触が適正に行われ、兼用固定密封環31Aを使用するメカニカルシール3によるシール機能が良好に発揮される。
【0036】
また、第1ロータリジョイントR1にあっては、兼用固定密封環31Aの各密封端面31aと可動密封環32の密封端面32aとの接触部Sが複数個の潤滑溝31bから侵入したクエンチング液Qにより潤滑されるから、兼用固定密封環31とその両側の可動密封環32,32との接触が円滑に行われる。その結果、通路接続空間4を流動する流体Fが液体である場合には勿論、当該流体Fが気体である場合にも、当該接触部Sにおける摩耗が可及的に防止され、流体Fが摩耗粉によって汚染される虞れがない。しかも、クエンチング液Qの圧力は通路接続空間4を流動する流体Fの圧力より低いため、前記接続部Sからの流体Fの漏れが可及的に防止される。なお、第1ロータリジョイントR1においては、メカニカルシール群3の両端部に位置するメカニカルシール3,3においても、各固定密封環31の密封端面31aに前記した潤滑溝31bと同様の潤滑溝を形成しておくことができ、このようにすれば、当該メカニカルシール3,3においても各固定密封環31と可動密封環32との接触部でのシールをより良好に行うことができる。
【0037】
ところで、第1ロータリジョイントR1においては、兼用固定密封環31A,31A間をプラスチック製(PEEK製)のスリーブ22で規制すると共に、スリーブ22にボルト26の締め付けによる軸方向押圧力が作用することにより、兼用固定密封環31Aをスリーブ22との摩擦係合力により固定するようにしているが、スリーブ22がプラスチック製(上記の例ではPEEK製)のものであり剛体ではないため、スリーブ22による兼用固定密封環31Aへの押圧力が当該スリーブ22の周方向において均一とならず、兼用固定密封環31,31Aに大きな歪が生じる虞れがある。かかる歪は兼用固定密封環31Aの数が多くなるに従い兼用固定密封環群31,31A全体として極めて大きくなり、メカニカルシール群3によるシール機能に悪影響を及ぼす虞れがある。
【0038】
しかし、第1ロータリジョイントR1にあっては、各スリーブ22にその周方向に並列する複数個の連通孔63が形成されていて、連通孔63が形成されたスリーブ部分による兼用固定密封環31Aへの押圧力が連通孔63が形成されていないスリーブ部分による兼用固定密封環31Aへの押圧力より小さくなる。そして、隣接するスリーブ22,22に形成した複数個の連通孔63,63が、
図5に示す如く、周方向に重ならないように配置してあるから、周方向において、兼用固定密封環31Aの一方の端面31aにおいて大きな押圧力が作用する部分では他方の端面31aにおいて小さな押圧力が作用し、兼用固定密封環31の両端面31a,31aにおいては、大小の押圧力が同時に作用する部分が周方向に交互に存在することになる。
【0039】
したがって、兼用固定密封環31Aにはスリーブ22の周方向において上記押圧力による歪が均一となり、兼用固定密封環31Aに大きな歪が生じることが可及的に防止され、上記した潤滑溝31bによる効果と相俟って、メカニカルシール3によるシール機能を良好に発揮させることができる。
【0040】
ところで、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本原理を逸脱しない範囲において、適宜に改良,変更することができる。
【0041】
例えば、潤滑溝31bの形状及び数は任意であり、潤滑溝31bの断面形状は、
図6に示す如く、潤滑溝31aの深さが兼用固定密封環31Aの密封端面31aの内周方向に漸次浅くなる三角形状としておくことができる。潤滑溝31bの断面形状が
図4に示す如き矩形状である場合には、一般に、潤滑溝31bを切削工程により形成する必要があり、兼用固定密封環31Aの成形工程後に潤滑溝31bの形成工程(切削工程)を行う必要があるが、潤滑溝31bの断面形状を上記した如き三角形状とすると、兼用固定密封環31Aの成形と潤滑溝31bの形成とを兼用固定密封環31Aの成形工程により同時に行うことができ、潤滑溝31bを有する兼用固定密封環31Aの製造、更には大量生産が容易となる。
【0042】
また、メカニカルシール3及び兼用固定密封環31Aを含む固定密封環31の数並びに各密封環31,31A,32をケース体1及び回転軸体2の何れに設けるかは、流動させる流体Fの種類、性状やロータリジョイントを装備する回転機器に応じて任意に設定することができる。例えば、本発明に係るロータリジョイントは、
図7、
図9又は
図11に示す如く構成することができる。
【0043】
すなわち、
図7に示すロータリジョイント(以下「第2ロータリジョイントR2」という)は、回転軸体2が軸本体21の外周部に複数個の密封環保持体28を取り付けてなる点、固定密封環31,31Aをケース体1に固定すると共に可動密封環32を密封環保持体28に軸線方向移動可能に保持した点、通路接続空間4が固定密封環31,31Aと可動密封環32との接触部Sの外周側領域であり、クエンチング空間5が密封環保持体28に形成した貫通孔57を介して連通する当該接触部Sの内周側領域である点、軸側通路が軸本体21に形成された接続通路64と密封環保持体28に形成されて当該接続通路64を通路接続空間4に接続する連通孔65とからなる点、及び
図8に示す如く、兼用固定密封環31Aの各密封端面31aの内周側部分に前記接触部Sをクエンチング空間5に開口する複数個の潤滑溝31bを形成した点を除いて、第1ロータリジョイントR1と同様構造をなすものである。
【0044】
また、
図9に示すロータリジョイント(以下「第3ロータリジョイントR3」という)は、すべてのメカニカルシール3における固定密封環31を兼用固定密封環31Aとした点、通路接続空間4が兼用固定密封環31Aと可動密封環32との接触部Sの内周側領域であり、クエンチング空間5が兼用固定密封環31Aに形成した貫通孔58を介して連通する当該接触部Sの外周側領域である点、兼用固定密封環31Aにケース側通路61と通路接続空間4とを連通する連通孔66を形成した点、軸側通路が軸本体21に形成した接続通路64を通路接続空間4に接続させてなる点、及び
図10に示す如く、兼用固定密封環31Aの各密封端面31aの外周側部分に前記接触部Sをクエンチング空間5に開口する複数個の潤滑溝31bを形成した点を除いて、第2ロータリジョイントR2と同様構造をなすものである。
【0045】
また、
図11に示すロータリジョイント(以下「第4ロータリジョイントR4」という)は、すべてのメカニカルシール3における固定密封環31を兼用固定密封環31Aとした点、通路接続空間4が兼用固定密封環31Aと可動密封環32との接触部Sの外周側領域であり、クエンチング空間5が兼用固定密封環31Aに形成した貫通孔59を介して連通する当該接触部Sの内周側領域である点、軸側通路が軸本体21に形成された接続通路64と兼用固定密封環31Aに形成されて当該接続通路64を通路接続空間4に接続する連通孔67とからなる点、及び
図12に示す如く、兼用固定密封環31Aの各密封端面31aの内周側部分に前記接触部Sをクエンチング空間5に開口する複数個の潤滑溝31bを形成した点を除いて、第1ロータリジョイントR1と同様構造をなすものである。
【0046】
以上のように構成された第2~第4ロータリジョイントR2,R3,R4においても、第1ロータリジョイントR1と同様に、潤滑溝31bに侵入したクエンチング液Qにより接触部Sの潤滑、冷却が良好に行われることは勿論、兼用固定密封環31Aに生じる熱歪が周方向に均一となって、可動密封環32との接触が適正に行われ、通路接続空間4を良好にシールすることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 ケース体
2 回転軸体
3 メカニカルシール
4 通路接続空間
5 クエンチング空間
6 流路
31 固定密封環
31A 兼用固定密封環(固定密封環)
31a 固定密封環の端面(密封端面)
31b 潤滑溝
32 可動密封環
32a 可動密封環の端面(密封端面)
F 流体
Q クエンチング液
S 接触部