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特許7003031溶融炉監視装置、溶融炉監視方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】溶融炉監視装置、溶融炉監視方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/28 20060101AFI20220113BHJP
   F27B 1/28 20060101ALI20220113BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
G01B11/28 H
F27B1/28
F27D21/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018237034
(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公開番号】P2019152652
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2018037588
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100125645
【弁理士】
【氏名又は名称】是枝 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100145609
【弁理士】
【氏名又は名称】楠屋 宏行
(72)【発明者】
【氏名】浜元 和久
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特許第3242315(JP,B2)
【文献】特開2003-13129(JP,A)
【文献】特開2003-294219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/28
F27B 1/28
F27D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炉の出滓口を連続的に撮影した複数の画像を取得する画像取得手段と、
前記複数の画像のそれぞれにおいて、輝度の閾値による判定によってスラグ領域を抽出するスラグ領域抽出手段と、
前記複数の画像において共通して前記スラグ領域が抽出された領域を固着スラグ領域として特定する固着スラグ領域特定手段と、
を備える溶融炉監視装置。
【請求項2】
前記固着スラグ領域の面積に基づいて前記出滓口の開口率を算出する開口率算出手段をさらに備える、
請求項1に記載の溶融炉監視装置。
【請求項3】
前記画像の輝度ムラを抑制する輝度ムラ抑制手段をさらに備え、
前記スラグ領域抽出手段は、輝度ムラが抑制された前記画像において前記スラグ領域を抽出する、
請求項1又は2に記載の溶融炉監視装置。
【請求項4】
前記輝度ムラ抑制手段は、周波数が所定以下の成分を制限するフィルタを含む、
請求項3に記載の溶融炉監視装置。
【請求項5】
前記スラグ領域抽出手段は、輝度ムラが抑制された前記画像の輝度分布に基づいて前記閾値を決定する、
請求項3又は4に記載の溶融炉監視装置。
【請求項6】
前記画像の輝度急変部を抽出する輝度急変部抽出手段をさらに備え、
前記スラグ領域抽出手段は、輝度ムラが抑制され且つ輝度急変部が除かれた前記画像の輝度分布に基づいて前記閾値を決定する、
請求項3乃至5の何れかに記載の溶融炉監視装置。
【請求項7】
前記スラグ領域抽出手段は、前記輝度分布の所定の低輝度範囲にオフセット値を加えた補正輝度分布に基づいて前記閾値を決定する、
請求項5又は6に記載の溶融炉監視装置。
【請求項8】
前記画像の輝度急変部を抽出する輝度急変部抽出手段をさらに備え、
前記スラグ領域抽出手段は、閾値候補を適用したときの前記スラグ領域と非スラグ領域との領域境界部と前記輝度急変部との一致割合に基づいて前記閾値を決定する、
請求項5乃至7の何れかに記載の溶融炉監視装置。
【請求項9】
前記スラグ領域抽出手段は、前記スラグ領域となる低輝度領域と前記非スラグ領域となる高輝度領域との分離度を表す判別関数と前記一致割合とを掛け合わせた判別関数が最大となる閾値候補を前記閾値として決定する、
請求項8に記載の溶融炉監視装置。
【請求項10】
溶融炉の出滓口を連続的に撮影した複数の画像を取得し、
前記複数の画像のそれぞれにおいて、輝度の閾値による判定によってスラグ領域を抽出し、
前記複数の画像において共通して前記スラグ領域が抽出された領域を固着スラグ領域として特定する、
溶融炉監視方法。
【請求項11】
溶融炉の出滓口を連続的に撮影した複数の画像を取得する画像取得手段、
前記複数の画像のそれぞれにおいて、輝度の閾値による判定によってスラグ領域を抽出するスラグ領域抽出手段、及び、
前記複数の画像において共通して前記スラグ領域が抽出された領域を固着スラグ領域として特定する固着スラグ領域特定手段、
としてコンピュータを機能させるプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融炉監視装置、溶融炉監視方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、廃棄物溶融炉の湯口の斜め下方に設置した熱画像カメラにより湯口の熱画像を撮影し、この熱画像中の高輝度部分の面積の減少程度により湯口の閉塞を監視することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3242315号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スラグを排出するための出滓口にスラグが固着すると、出滓口の実質的な開口率が低下し、溶融スラグの排出が妨げられるおそれがある。しかしながら、溶融スラグと固着フラグは輝度が近く、判別が困難である。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、出滓口の固着スラグを判別することが可能な溶融炉監視装置、溶融炉監視方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一の態様の溶融炉監視装置は、溶融炉の出滓口を連続的に撮影した複数の画像を取得する画像取得手段と、前記複数の画像のそれぞれにおいて、輝度の閾値による判定によってスラグ領域を抽出するスラグ領域抽出手段と、前記複数の画像において共通して前記スラグ領域が抽出された領域を固着スラグ領域として特定する固着スラグ領域特定手段と、を備える。
【0007】
また、本発明の他の態様の溶融炉監視方法は、溶融炉の出滓口を連続的に撮影した複数の画像を取得し、前記複数の画像のそれぞれにおいて、輝度の閾値による判定によってスラグ領域を抽出し、前記複数の画像において共通して前記スラグ領域が抽出された領域を固着スラグ領域として特定する。
【0008】
また、本発明の他の態様のプログラムは、溶融炉の出滓口を連続的に撮影した複数の画像を取得する画像取得手段、前記複数の画像のそれぞれにおいて、輝度の閾値による判定によってスラグ領域を抽出するスラグ領域抽出手段、及び、前記複数の画像において共通して前記スラグ領域が抽出された領域を固着スラグ領域として特定する固着スラグ領域特定手段、としてコンピュータ機能させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、出滓口の固着スラグを判別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】溶融炉監視装置及びガス化溶融炉を模式的に示す図である。
図2】溶融炉監視装置の構成例を示すブロック図である。
図3】溶融炉監視方法の手順例を示すフロー図である。
図4】スラグ領域抽出処理の手順例を示すフロー図である。
図5】原画像及び出滓口形状テンプレートの例を示す図である。
図6】スラグ領域抽出処理を説明する図である。
図7】スラグ領域画像の例を示す図である。
図8】固着スラグ領域の特定及び出滓口開口率の計算を説明する図である。
図9】変形例に係る溶融炉監視方法の手順例を示すフロー図である。
図10】オフセットの例を説明するための図である。
図11】判別関数の例を説明するための図である。
図12】検出結果の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す各実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための方法及び装置を例示するものであって、本発明の技術的思想は下記のものに限定されるわけではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0012】
図1は、溶融炉監視装置1及びガス化溶融炉2を模式的に示す図である。ガス化溶融炉2は、例えばゴミ処理施設に用いられるガス化溶融炉である。ガス化溶融炉2は、溶解炉21を備えている。ガス化炉(不図示)で熱分解された可燃性ガスと未燃分とが流入路23を通って溶融炉21の炉内に流入する。溶融炉21は、未燃分を高温で燃焼させ、その灰分を溶融させることでスラグを生成する。溶融したスラグは、溶融炉21の下部に形成された出滓口25から排出され、排出路27を通って溶融炉21の炉外に取り出される。
【0013】
溶融炉21の下方には、出滓口25を撮影するためのカメラ3が設けられている。カメラ3は、出滓口25の斜め下に配置されており、排出路27設けられた監視穴29を通じて出滓口25を撮影する。カメラ3は、出滓口25を撮影した撮影データを溶融炉監視装置1に出力する。
【0014】
溶融炉監視装置1は、カメラ3から供給される撮影データに基づいて出滓口25の開口率を計算する。算出された開口率の情報は、作業員Pに提示される又はガス化溶融炉2の制御装置に送信される。開口率の情報を参照した作業員P又は受信した制御装置は、出滓口25の開口率を改善するように各種操作を実行する。
【0015】
図2は、溶融炉監視装置1の構成例を示すブロック図である。溶融炉監視装置1は、例えばサーバコンピュータ等によって実現される。溶融炉監視装置1は、制御部10、記憶部12、操作部13、表示部14、及び入出力部15を備えている。
【0016】
制御部10は、少なくとも一つのマイクロプロセッサ(CPU)を含んでおり、記憶部22に記憶されたプログラムに従って情報処理を実行する。記憶部12は、主記憶部(例えばRAM)及び補助記憶部(例えばハードディスクドライブ又はソリッドステートドライブ)を含んでいる。
【0017】
プログラムは、例えば光ディスク又はメモリカード等の情報記憶媒体を介して記憶部12に供給される。又は、プログラムは、例えばインターネット等の通信ネットワークを介して記憶部12に供給されてもよい。
【0018】
操作部13は、例えばキーボード、マウス又はタッチパネル等である。表示部14は、例えば液晶表示ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等である。入出力部15は、カメラ3等の外部機器を接続するためのインターフェースである。
【0019】
図3は、溶融炉監視方法の手順例を示すフロー図である。図4は、スラグ領域抽出処理の手順例を示すフロー図である。溶融炉監視装置1の制御部10は、図3及び図4に示す処理をプログラムに従って実行する。
【0020】
まず、制御部10は、カメラ3により撮影されたカメラ画像を取得する(S1:画像取得手段としての処理)。制御部10は、カメラ3の撮影データから所定時間毎(例えば1秒毎)のカメラ画像を抽出する。撮影データは、例えば動画像データ又は画像データであり、出滓口25を連続的に撮影した複数のカメラ画像を含んでいる。
【0021】
次に、制御部10は、カメラ画像上の出滓口25の位置を検出する(S2)。制御部10は、出滓口25の形状・大きさに対応する出滓口形状テンプレート(図5(a)参照)を用い、カメラ画像と出滓口形状テンプレートとのテンプレートマッチングを行うことにより、カメラ画像上の出滓口25の位置を特定する(図5(b)参照)そして、制御部10は、出滓口25が画像中央に来るようにカメラ画像を平行移動させる。
【0022】
テンプレートマッチングでは、例えばカメラ画像と出滓口形状テンプレートとの相関係数が最大化する位置が探索される。これに限らず、例えば相互相関関数が最大化する位置が探索されてもよいし、二乗差が最小化する位置が探索されてもよいし、乗算値が最大化する位置が探索されてもよい。
【0023】
次に、制御部10は、カメラ画像の輝度ムラを抑制する輝度ムラ除去処理を実行する(S3:輝度ムラ抑制手段としての処理)。制御部10は、周波数が所定以下の成分を制限するフィルタ(例えばローカットフィルタ)をカメラ画像に適用することにより、カメラ画像の輝度ムラを抑制する。これに限らず、例えば輝度ムラと一緒に微細ノイズも除去するためにバンドパスフィルタを適用してもよい。
【0024】
出滓口25を撮影したカメラ画像は、炉内の燃焼反応を光源としているため、燃焼状態に応じて輝度が不均一になることがある。例えば画像中心が最も明るく、周辺部に行くほど徐々に暗くなるような輝度ムラのある画像がしばしば撮影される(図6(a)参照)。このようなカメラ画像では、出滓口25奥の炉壁よりもスラグが明るくなることがあるため、そのまま二値化処理をかけると、スラグ領域を上手く抽出できないおそれがある。
【0025】
そこで、本実施形態では、カメラ画像の輝度ムラを抑制したムラ除去後画像(図6(b))を作成し、このムラ除去後画像からスラグ領域を抽出している。これにより、カメラ画像に輝度ムラがあっても、輝度ムラの影響を受けずにスラグ領域を検出することが可能となる。
【0026】
次に、制御部10は、スラグ領域抽出処理を実行する(S4:スラグ領域抽出手段としての処理)。スラグ領域抽出処理では、制御部10は、輝度ムラが抑制されたカメラ画像に二値化処理をかけ、輝度が閾値以下の領域をスラグ領域として抽出する。
【0027】
図4に示すスラグ領域抽出処理の手順例について説明する。まず、制御部10は、カメラ画像における輝度急変部を抽出する(S41:輝度急変部抽出手段としての処理、図6(c))。輝度急変部の抽出は、カメラ画像に対してエッジ強調処理及び二値化処理をかけることによって行われる。
【0028】
エッジ強調処理としては、例えばGradientフィルタ、Sobelフィルタ、ラプラスフィルタ、Canny法、ハイパスフィルタ等がある。この処理により、輝度急変部で画素値が大きいエッジ強調画像が得られる。二値化処理としては、例えば大津の二値化法(判別分析法)、Pタイル法、モード法などがある。この処理により、輝度ヒストグラムから閾値が自動決定され、エッジ強調画像が二値化される。これらの処理の結果、輝度急変部が抽出される。なお、これらの処理に加え、膨張フィルタを用いて輝度急変部を膨張させてもよい。
【0029】
次に、制御部10は、カメラ画像から輝度急変部を除いて輝度ヒストグラムを計算する(S42)。制御部10は、輝度急変部を除くための輝度急変部除去マスク(図6(d))を作成し、ムラ除去後画像(図6(b))のうち、輝度急変部除去マスクの有効領域(白抜部分)に相当する領域から輝度ヒストグラム(図6(e))を計算する。輝度急変部除去マスクは、輝度急変部の抽出結果及び出滓口形状テンプレートに基づいて作成され、出滓口外側又は輝度急変部が無効領域(黒塗部分)とされ、出滓口内側且つ輝度急変部以外が有効領域(白抜部分)とされる。
【0030】
輝度急変部を除く理由について説明する。カメラ画像の輝度ムラを抑制したムラ除去後画像では、輝度急変部が高輝度になることがある(図6(b)参照)。このようなムラ除去後画像において二値化処理のための閾値を自動決定すると、輝度急変部とそれ以外とを分けるように閾値が決定されてしまい、スラグ領域を上手く抽出できないおそれがある。
【0031】
そこで、本実施形態では、ムラ除去後画像から輝度急変部を除いて輝度ヒストグラムを計算し、二値化処理のための閾値を決定している。これにより、ムラ除去後画像において輝度急変部が高輝度になっても、ムラ除去後画像からスラグ領域を抽出することが可能となる。なお、輝度急変部を除くための処理(S41及びS42)は必須でなく、省略されてもよい。
【0032】
次に、制御部10は、輝度ヒストグラムに基づき閾値を自動決定し、二値化処理を実行する(S43)。制御部10は、例えば大津の二値化法(判別分析法)、Pタイル法、モード法などの方法により、輝度ヒストグラム(図6(e))から最も分離性が高い閾値を決定し、決定した閾値を用いて二値化処理を行い、二値化画像(図6(f))を得る。そして、制御部10は、出滓口形状テンプレート(図6(g))と二値化画像(図6(f))との差分を取ることで、スラグ領域画像(図6(h))を得る。閾値は、作業員により手動決定されてもよい。
【0033】
このようにして得られるスラグ領域画像は、出滓口25におけるスラグを表すスラグ領域(白抜部分)と、それ以外(例えば出滓口25奥の炉壁)を表す非スラグ領域(黒塗部分)とを含んでいる(図7参照)。
【0034】
図3の説明に戻る。スラグ領域抽出処理(S4)が終了すると、制御部10は、一定期間において共通してスラグ領域が抽出された領域を固着スラグ領域として特定する(S5:固着スラグ領域特定手段としての処理)。
【0035】
具体的には、制御部10は、一定期間に取得された所定時間毎(例えば1秒毎)の複数のカメラ画像から複数のスラグ領域画像(図8(h))をそれぞれ生成し、これらのスラグ領域画像において共通してスラグ領域が抽出された領域を固着スラグ領域として特定し(図8(i))、固着スラグ画像(図8(j))を得る。固着スラグ画像は、出滓口25における固着スラグを表す固着スラグ領域(白抜部分)を含んでいる。ここでは、複数のスラグ領域画像において、スラグ領域の有無が時間的に変化する領域を溶融スラグ、時間的に変化しない領域を固着スラグとして判別している。
【0036】
次に、制御部10は、固着スラグ領域、出滓口25の位置・形状から出滓口25の開口率を計算する(S6:開口率算出手段としての処理)。
【0037】
具体的には、制御部10は、出滓口形状テンプレート(図8(g))と固着スラグ画像(図8(j))との差分を取ることで、開口部画像(図8(k))を得る。開口部画像は、出滓口25の実質的な開口を表す開口領域(白抜部分)を含んでいる。そして、制御部10は、開口部画像(図8(k))と出滓口形状テンプレート(図8(g))とから出滓口25の開口率を算出する(図8(m))。出滓口25の開口率は、出滓口形状テンプレートにおける出滓口25の面積に対する開口部画像における開口領域の面積の割合として算出される。
【0038】
最後に、制御部10は、算出した出滓口25の開口率をオペレータに提示し(S7)、処理を終了する。オペレータへの提示は、例えば出滓口25の開口率を表示部14に表示することによって行われる。
【0039】
以上に説明した実施形態では、連続して撮影された複数のカメラ画像において共通して抽出される領域をスラグ領域として特定することで、単一のカメラ画像のみでは判別が困難な溶融スラグと固着スラグを判別している。これにより、出滓口25における固着スラグ領域を特定し、出滓口25の実質的な開口率を精度良く算出することが可能となる。
【0040】
以下、変形例について説明する。
【0041】
上記実施形態では、図4のS43において、輝度ヒストグラムから二値化処理のための閾値を例えば大津の二値化法(判別分析法)などの方法によって決定する。これは、図6(e)に示したように、輝度ヒストグラム上で比較的輝度が低いスラグに起因する分布(以下、スラグ部という)と比較的輝度が高い開口に起因する分布(以下、開口部という)とがある程度分離していることによる。
【0042】
しかしながら、例えばスラグの量が少ない場合など、スラグの量や位置、炉の運転状況によっては、輝度ヒストグラム上でスラグ部と開口部とが分離せずに単峰性になることがある。その場合、スラグ部と開口部とを分離する閾値を上手く求められないおそれがある。
【0043】
そこで、本変形例では、以下に説明する手順によって、輝度ヒストグラム上でスラグ部と開口部とが分離していない画像であっても、スラグ部と開口部とを精度良く分離する閾値の決定を可能としている。
【0044】
図9は、変形例に係る溶融炉監視方法の手順例を示すフロー図である。上記実施形態と重複する手順については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。
【0045】
制御部10は、カメラ画像から輝度急変部を除いて輝度ヒストグラムを計算した後(S42)、所定の低輝度範囲にオフセット値を加えて輝度ヒストグラムを補正する(S53)。以下、本処理で補正された輝度ヒストグラムを「補正輝度ヒストグラム」という。
【0046】
所定の低輝度範囲は、例えば輝度値0~画像最低輝度値の区間(両端を含む)である。制御部10は、輝度ヒストグラムの輝度値0~画像最低輝度値の区間の一部または全部にオフセット値を加える。ここでは、輝度ヒストグラムの開口部に対するスラグ部側が低輝度側となる。輝度ヒストグラムの低輝度範囲にオフセット値を加えることは、輝度ヒストグラム上でスラグ部を疑似的に作成することに相当する。
【0047】
具体的には、図10(a)のように画像最低輝度値のみにオフセット値を加えてもよいし、図10(b)のように輝度値0~画像最低輝度値の区間に等しくオフセット値を加えてもよいし、図10(c)のように輝度値0~画像最低輝度値の区間に正規分布に従ったオフセット値を加えてもよい。オフセット値は、例えば輝度ヒストグラムの輝度全域(0~255)の度数合計値としてもよい。
【0048】
このように補正された補正輝度ヒストグラムを用いることで、画像内にスラグが少ししか含まれず、輝度ヒストグラム上でスラグ部と開口部とが分離していない場合であっても、スラグ部と開口部とを精度良く分離する閾値を求めることが可能となる。
【0049】
なお、本例では、輝度値0~画像最低輝度値の区間にオフセット値を加えたが、これに限らず、画像最低輝度値よりやや大きい区間にオフセット値を加えてもよい。
【0050】
図9の説明に戻り、制御部10は、補正輝度ヒストグラムに基づき閾値候補t毎の判別関数O(t)を計算する(S54)。判別関数O(t)は、輝度値の閾値候補tを例えば1又は2以上変化させる毎に計算される。
【0051】
ここで、判別関数O(t)は、補正輝度ヒストグラムに基づき統計指標により低輝度領域と高輝度領域とを判別するための関数であり、本例では、大津の二値化法の閾値決定用の関数を用いる。すなわち、下記数式1に示す「クラス間分散最大/クラス内分散最小」の最大値を探索するための関数を用いる。
【0052】
【数1】
【0053】
但し、ω(t)は閾値候補t以上の領域の画素数を表し、ω(t)は閾値候補t以下の領域の画素数を表し、mは閾値候補t以上の領域の輝度平均値を表し、mは閾値候補t以下の領域の輝度平均値を表す。
【0054】
次に、制御部10は、閾値候補t毎に、閾値候補tを適用したときの領域境界部中にスラグ境界を表す輝度急変部が含まれる一致割合R(t)を計算する(S55)。
【0055】
輝度急変部は、上記S41で抽出されたものを流用してもよいし、新たに抽出されてもよい。輝度急変部は、上記S41で説明した抽出手法の他に、微分画像又は二次微分画像を計算し、それを任意の閾値で二値化することで抽出されてもよいし、微分画像又は二次微分画像の輝度値平均、輝度値標準偏差から導出した閾値で二値化することで抽出されてもよい。
【0056】
領域境界部は、閾値候補tを適用して実際に二値化処理を行うことにより抽出されてもよいし、下記数式2又は数式3を満たす画素P(x,y)を探索することにより抽出されてもよい。
【0057】
【数2】
【0058】
【数3】
【0059】
但し、MIN(a1,a2,a3,・・・,an)は、a1~anの最小値を返す関数であり、MAX(a1,a2,a3,・・・,an)は、a1~anの最大値を返す関数である。
【0060】
輝度急変部として抽出された領域を領域Aとし、領域境界部として抽出された領域を領域B(t)として、領域Aと領域B(t)との共通領域C(t)を導出し、下記数式4により一致割合R(t)を閾値候補t毎に計算する。
【0061】
【数4】
【0062】
なお、この計算を行う際に、領域A及び領域B(t)の一方又は両方に膨張処理を施したものを使用してもよい。
【0063】
次に、制御部10は、閾値候補t毎に判別関数J(t)を計算し(S56)、判別関数J(t)が最大となる閾値候補t’を閾値として輝度ムラ除去後画像を二値化する(S57)。
【0064】
判別関数J(t)は、下記数式5に示すように、上記S54で計算された判別関数O(t)と、上記S55で計算された一致割合R(t)とが掛け合わされたものである。
【0065】
【数5】
【0066】
すなわち、判別関数J(t)は、低輝度領域(スラグ部)と高輝度領域(開口部)との分離度が高く、且つ輝度急変部と領域境界部との一致割合が高くなる閾値を探索するための関数であり、これら2つの条件を満たすために、判別関数J(t)が最大となる閾値候補t’が閾値として採用される。
【0067】
図11は、判別関数の例を説明するための図である。同図に示すように、判別関数J(t)は、一致割合R(t)を含むことによって、閾値となる最大値が判別関数O(t)よりも低輝度側にシフトしている。
【0068】
このような判別関数J(t)を用いることにより、画像内にスラグが少ししか含まれず、輝度ヒストグラム上でスラグ部と開口部とが分離していない場合であっても、スラグ部と開口部とを精度良く分離する閾値を求めることが可能となる。
【0069】
具体的には、二値化時の低輝度領域と高輝度領域との領域境界部を、スラグ境界とより一致させることが可能となり、開口領域をスラグ領域として誤検出してしまうことを抑制することが可能となる。
【0070】
図12は、検出結果の例を説明するための図である。(a)は原画像を表し、(b)はムラ除去後画像を表し、(c)は輝度急変部除去マスクを表し、(d)大津の二値かによる検出結果(オフセット無し)を表し、(e)大津の二値化による検出結果(オフセット有り)を表し、(f)は判別関数J(t)による検出結果を表す。
【0071】
これによると、(d)よりも(e)の方が、さらには(e)よりも(f)の方が、開口領域をスラグ領域とする誤検出が少ない(すなわち(a)と見た目が近い)ことが分かる。
【0072】
なお、以上に説明した変形例では、輝度ヒストグラムの補正(S53)と、判別関数J(t)による閾値決定(S54~S56)との両方を実施するが、これに限らず、何れか一方のみを実施してもよい。また、一致割合R(t)のみにより閾値決定を実施してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 溶融炉監視装置、10 制御部、12 記憶部、13 操作部、14 表示部、15 入出力部、2 ガス化溶融炉、21 溶解炉、23 流入路、25 出滓口、27 排出路、29 監視穴、3 カメラ

図1
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図12