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特許7003054非水電解質二次電池負極および非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池負極および非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20220214BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220214BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20220214BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20220214BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220214BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220214BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220214BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220214BHJP
   C08B 11/12 20060101ALN20220214BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/133
H01M4/134
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M10/0566
C08B11/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018552460
(86)(22)【出願日】2017-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2017037457
(87)【国際公開番号】W WO2018096838
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2016228621
(32)【優先日】2016-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 志穂
(72)【発明者】
【氏名】佐貫 淳
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/064464(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/13
H01M 4/133
H01M 4/134
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/48
H01M 10/0566
C08B 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体および上記集電体上に形成された負極活物質層を備えた非水電解質二次電池用負
極であって、
上記活物質層が、炭素系負極活物質、ケイ素系負極活物質、導電剤、およびカルボキシメ
チルセルロースまたはその塩を含有し、
上記カルボキシメチルセルロースまたはその塩のエーテル化度が0.4以上2.0以下で
あり、2質量%水溶液粘度(25℃、B型粘度計)が1000mPa・s以下であり、P
VI値が0.5以下であり、構造粘性が50以上であり、
上記カルボキシメチルセルロースまたはその塩の含有量が上記負極活物質層の全質量に対
し4質量%以上15質量%以下であり、
上記炭素系負極活物質とケイ素系負極活物質の含有量の合計量に対するケイ素系負極活物
質の含有量が3質量%以上19質量%以下であることを特徴とする非水電解質二次電池負
極。
【請求項2】
上記ケイ素系負極活物質がケイ素、ケイ素合金、およびSiOx(ただし、xは0.5
≦x≦1.6を表す)で表されるケイ素酸化物から選択された1種または2種以上である
ことを特徴とする、請求項1に記載の非水電解質二次電池負極。
【請求項3】
負極と正極と、負極と正極との間に配置されるセパレーターと、電解液とを備えた非水
電解質二次電池であって、上記負極が、請求項1または2に記載の非水電
解質二次電池負極であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池負極およびこれを備えた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高いエネルギー密度を有し、高容量である非水電解質二次電池(例えばリチウム二次電池など)は、携帯機器などに広く利用されている。非水電解質二次電池負極の高容量化を目的にケイ素系負極活物質の検討がすすめられている(特許文献1ないし4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-043678号公報
【文献】特開2016-027561号公報
【文献】特開2015-103449号公報
【文献】特開2015-053152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ケイ素系負極活物質を用いた場合、充放電時に負極活物質層が激しく膨張および収縮するため、負極に多大な応力が加わる。その結果、集電体上に形成された負極活物質層にクラックが発生したり、負極活物質層と集電体との間で剥離を生じたり、負極活物質層の見かけの厚さが増加するといった問題がある。これらの問題を解決するための検討が多く行われている。黒鉛材料単独系の負極活物質を用いる場合は、溶剤系処方においてはPVDF、水系処方おいてはCMCとSBRが併用されているのに対し、ケイ素系負極活物質を併用した負極活物質を用いる場合は、溶剤系処方においてはアルコキシシリル基含有樹脂(特許文献1)やポリアミドイミド(特許文献2)、水系処方においてはポリアクリル酸のアミン塩(特許文献3)、ポリアクリル酸とCMCを併用したバインダなどが検討されている(特許文献4)。これらの処方においては非水電解質二次電池として必要な特性を発現するためにバインダの熱硬化処理が必要なこと、複数のバインダを併用するといった処方の煩雑さが課題となっている。
【0005】
そこで、本発明は、環境負荷の少ない水系の処方かつ、簡易な処方であって、熱硬化処理等を必要としない工程によって製造が可能な非水電解質二次電池負極(以下、単に負極ということもある。)、および優れたサイクル寿命を有する上記負極を備えた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の[1]ないし[]を提供するものである。
[1]集電体および上記集電体上に形成された負極活物質層を備えた非水電解質二次電池用
負極であって、
上記活物質層が、炭素系負極活物質、ケイ素系負極活物質、導電剤、およびカルボキシメ
チルセルロースまたはその塩を含有し、
上記カルボキシメチルセルロースまたはその塩のエーテル化度が0.4以上2.0以下で
あり、2質量%水溶液粘度(25℃、B型粘度計)が1000mPa・s以下であり、P
VI値が0.5以下であり、構造粘性が50以上であり、
上記カルボキシメチルセルロースまたはその塩の含有量が上記負極活物質層の全質量に対
し4質量%以上15質量%以下であり
上記炭素系負極活物質とケイ素系負極活物質の含有量の合計量に対するケイ素系負極活物
質の含有量が3質量%以上19質量%以下であることを特徴とする非水電解質二次電池負
極。
[]上記ケイ素系負極活物質がケイ素、ケイ素合金、およびSiOx(ただし、xは0.5≦x≦1.6を表す)で表されるケイ素酸化物から選択された1種または2種以上であることを特徴とする、[1]に記載の非水電解質二次電池負極。
[]負極と正極と、負極と正極との間に配置されるセパレーターと、電解液とを備えた非
水電解質二次電池であって、上記負極が、[1]または [2]に記載の非水電解質二次電池負極であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、環境負荷の少ない水系の処方かつ、簡易な処方であって、熱硬化処理等を必要としない工程によって製造が可能な非水電解質二次電池負極、および優れたサイクル寿命を有する非水電解質二次電池を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0009】
本実施形態に係る非水電解質二次電池負極は、集電体および上記集電体上に形成された負極活物質層を備えたものである。
【0010】
上記集電体は、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体であれば何でも使用可能である。例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金等の他に、接着性、導電性、耐酸化性向上の目的で、銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理したものを用いることができる。これらの集電体材料は表面を酸化処理することも可能である。また、その形状については、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、発泡体等の成形体も用いられる。厚みは特に限定はないが、1~100μmのものが通常用いられる。
【0011】
上記負極活物質層は、炭素系負極活物質、ケイ素系負極活物質、導電剤、およびカルボキシメチルセルロースまたはその塩を含有するものである。
【0012】
上記炭素系負極活物質は、炭素(原子)を含み、かつ電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質であれば特に制限無く使用することができる。上記炭素系活物質としては、例えば、黒鉛活物質(人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)等が挙げられ、これらを2種以上併用したものも使用することができる。
【0013】
上記ケイ素系負極活物質は、ケイ素(原子)を含み、かつ、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質である。ケイ素系負極活物質としては、例えば、ケイ素単体の微粒子、ケイ素化合物の微粒子等が挙げられる。ケイ素化合物は、リチウムイオン二次電池の負極活物質として使用されるものであれば特に制限されないが具体的にはケイ素酸化物及びケイ素合金等が挙げられる。これらのうち、ケイ素、ケイ素合金、およびSiOx(ただし、xは0.5≦x≦1.6を表す)で表されるケイ素酸化物から選択された1種または2種以上が好ましい。
【0014】
上記導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば、特に限定なく使用することができる。通常、アセチレンブラックやケッチンブラック等のカーボンブラックが使用されるが、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛など)、人造黒鉛、カーボンウイスカー、炭素繊維や金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉末、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料でもよい。これらの導電剤の内、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブやその誘導体、炭素繊維が挙げられる。これらは2種類以上の混合物として使用することもできる。その添加量は負極活物質量に対して0.1質量%以上30質量%以下が好ましく、特に0.2質量%以上20質量%以下が好ましい。
【0015】
上記カルボキシメチルセルロースまたはその塩は、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基がカルボキシメチルエーテル基に置換された構造を持つものであり、カルボキシル基を有するものでも、ナトリウム塩などのカルボン酸金属塩の形態を持つでもよく、双方の形態を持つものでもよい。金属塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が挙げられる。
【0016】
上記カルボキシメチルセルロースまたはその塩は、エーテル化度が0.4以上2.0以下である。上記エーテル化度がこれ以下である場合は水への溶解性が低下し、これ以上である場合はエーテル化剤の使用量が多くなり製造時のコストが高くなる。上記エーテル化度の下限は0.5以上が好ましく0.6以上がより好ましい。一方上限は、1.2以下が好ましく、1.0以下がより好ましい。
【0017】
上記カルボキシメチルセルロースまたはその塩は、2質量%水溶液粘度(25℃、B型粘度計)が1000mPa・s以下である。2質量%水溶液粘度が上記範囲とすることにより、カルボキシメチルセルロースまたはその塩の含有量が高い負極の作製する場合において高濃度のカルボキシメチルセルロースまたはその塩の水溶液を調整が容易となる。2質量%水溶液粘度の上限は50mPa・s以下が好ましく、40mPa・s以下がより好ましい。
【0018】
上記カルボキシメチルセルロースまたはその塩は、PVI値が0.5以下であり、構造粘性が50以上である。上記カルボキシメチルセルロースまたはその塩のこのような範囲とすることにより、負極活物質と集電体との結着性および、充放電時のケイ素系負極活物質の膨張収縮による電極の劣化の抑制がより優れたものとなる。上記PVI値の上限は好ましくは0.50以下であり、より好ましくは0.45以下であり、上記構造粘性の下限は好ましくは50以上であり、より好ましくは60以上である。なお、本発明におけるPVI値および構造粘性とは後述の実施例において定義および測定される数値を示す。
【0019】
上記カルボキシメチルセルロースまたはその塩は、一般的な上記カルボキシメチルセルロースまたはその塩の製造方法により製造することができる。すなわち、セルロースにアルカリを反応させるアルカリセルロース化反応を行った後、得られたアルカリセルロースにエーテル化剤を添加してエーテル化反応を行うことで製造される。例えば、水と有機溶媒を含む混合溶媒を用いてアルカリセルロース化反応を行った後、モノクロロ酢酸を加えてエーテル化反応を行い、その後、過剰のアルカリを酸で中和した後、混合溶媒の除去、洗浄および乾燥を経て、粉砕する事により製造することができる。
【0020】
上記カルボキシメチルセルロースまたはその塩は、以下の工程を備えることが好ましい。
【0021】
(工程1)アルカリセルロース化反応工程
本発明におけるアルカリセルロース化反応工程は、アルカリ金属水酸化物を10質量%以上15質量%以下含む含水有機溶媒(全量100質量%)中であって、セルロース質原料のグルコース単位1モル当り1.0モル以上5.0モル以下のアルカリ金属水酸化物を用いて30℃以上40℃以下で50分間以上80分間以下の時間で反応を行うことが好ましい。
【0022】
上記アルカリ金属水酸化物は例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられ、いずれか1種または2種以上組み合わせて用いることができる。上記アルカリ金属水酸化物の添加量が1.0モル未満では、エーテル化度0.4以上のカルボキシメチルセルロースまたはその塩を得ることが困難となる。さらに、セルロース質原料の結晶化領域が十分に破壊されず、カルボキシメチルエーテル化反応の促進が不十分となる。一方、アルカリ金属水酸化物の添加量がグルコース単位1モル当り5モルを超えると、エーテル化反応において過剰のアルカリ金属塩がエーテル化剤を分解することにより、エーテル化剤の有効利用率が低下する。
【0023】
上記含水有機溶媒は所定の有機溶媒と水の混合溶媒である。上記有機溶媒としてはカルボキシメチルセルロースまたはその塩の製造に一般的に用いられる有機溶媒を使用することができる。特に制限されないが具体的には、エチルアルコール、メチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコールおよびイソブチルアルコールなどのアルコール溶媒、アセトン、ジエチルケトンおよびメチルエチルケトンなどのケトン溶媒、ジオキサン、ジエチルエーテルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。これらのうち、水との相溶性が優れることから、炭素数1~4の一価アルコールが好ましく、炭素数1~3の一価アルコールがさらに好ましい。
【0024】
上記含水有機溶媒の有機溶媒100質量部に対する水の含有割合は特に制限されないが、20質量部以上60質量部以下であることが好ましい。上記水の含有量は、下限が25質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましい。また、上限が50質量部以下であることがより好ましい。
【0025】
上記アルカリセルロース化反応は、反応温度30℃以上40℃以下で行うことがカルボキシメチルセルロースまたはその塩の水溶液に非ニュートン性を付与するために好ましい。また、反応時間が50分間未満では、十分にアルカリセルロース化反応が進まず、得られるCMC-Na水溶液の透明性が低下する傾向がある。反応時間が80分間を超えると、セルロース質原料の重合度が低下し、高粘度のカルボキシメチルセルロースまたはその塩の取得が困難となる。
【0026】
なお、アルカリセルロース化工程は、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することができる反応機を用いて行うことができ、従来からアルカリセルロース化反応に用いられている各種の反応機を用いることができる。
【0027】
(工程2)エーテル化反応工程
本発明におけるエーテル化反応工程は、エーテル化剤の添加を30℃以上40℃以下で50分以上80分以下の時間で行い、エーテル化反応を70℃以上100℃以下で50分以上120分以下行うことが好ましい。
【0028】
上記エーテル化剤としては、モノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、モノクロロ酢酸メチル、モノクロロ酢酸エチル、モノクロロ酢酸イソプロピルなどが挙げられる。
【0029】
上記エーテル化剤の添加量は、カルボキシメチルセルロースまたはその塩の設定エーテル化度に応じて適宜設定されるものである。
【0030】
上記エーテル化反応は、エーテル化剤を30℃以上45℃以下、より好ましくは30℃以上40℃以下で50分間以上80分間以下かけて添加することが好ましく、30分間以上、より好ましくは40分間以上で70℃以上100℃以下まで昇温し、さらに50分間以上120分間以下エーテル化反応を行うことが好ましい。上記の条件において、エーテル化剤の添加およびエーテル化反応を行うことがカルボキシメチルセルロースまたはその塩の水溶液に非ニュートン性を付与するために好ましい。なお、エーテル化工程は、アルカリセルロース化反応に用いた反応機をそのまま用いて行ってもよく、あるいはまた、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することが可能な別の反応機を用いて行ってもよい。
【0031】
(工程3)減粘工程
本発明におけるカルボキシメチルセルロース塩の製造において、エーテル化工程後のカルボキシメチルセルロースまたはその塩に、pH7.0以上の反応系で過酸化水素を添加して、80℃以上120℃以下で、80分間以上100分間以下で減粘を行うことが好ましい。
【0032】
上記減粘工程における過酸化水素の添加量は、原料のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩に対して0.1質量%以上10質量%以下添加することが好ましい。添加方法は均一とするために噴霧するのが好ましい。なお、上記減粘工程において過酸化水素は濃度20w/v%の水溶液を使用することができる。
【0033】
上記減粘工程は反応温度80℃以上120℃以下の条件にて80分間以上100分間以下行うことがカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の水溶液に非ニュートン性を付与する点で好ましい。
【0034】
上記減粘工程後のカルボキシメチルセルロースまたはその塩の過剰のアルカリを酸で中和した後、含水有機溶媒の除去、洗浄および乾燥を経て、粉砕する事により本発明のカルボキシメチルセルロースまたはその塩を製造することができる。
【0035】
上記負極活物質層において、上記カルボキシメチルセルロースまたはその塩の含有量は4質量%以上15質量%以下である。含有量が上記範囲内であれば、バインダとしてカルボキシメチルセルロースまたはその塩のみの添加であっても充放電時の負極活物質層の膨張収縮による電極の劣化を抑制でき、且つ乾燥時の収縮による電極割れを生じないという優れた効果を有する。上記含有量の下限は好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上である。一方下限は、好ましくは12質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0036】
上記負極活物質層において、上記炭素系負極活物質の含有量は特に制限されないが具体的には60質量%以上が好ましい。含有量が上記範囲内の場合充放電時の負極活物質層の膨張収縮による電極の劣化の抑制に優れるというメリットがある。上記含有量はより好ましくは70質量%以上である。
【0037】
上記負極活物質層において、上記ケイ素系負極活物質の含有量は上記炭素系負極活物質に対して5質量%以上25質量%以下が好ましい。含有量が上記範囲内とすることで 充放電時の負極活物質層の膨張収縮による電極の劣化の抑制しながら電極の容量を増大できる。上記含有量の下限は、より好ましくは、10質量%以上であり、上限は、より好ましくは20質量%以下である。
【0038】
上記炭素系負極活物質とケイ素系負極活物質の含有量の合計量に対するケイ素系負極活物質の含有量が3質量%以上19質量%以下である。ケイ素系負極活物質の含有量が上記範囲内とすることで充放電時の負極活物質層の膨張収縮による電極の劣化の抑制しながら電極の容量を増大できる。上記含有比率の下限は、より好ましくは4質量%以上である。
【0039】
上記負極活物質層において、上記導電剤の含有量は特に制限されないが具体的には0.5質量%以上10質量%以下が好ましい。含有量が上記範囲内の場合、電極の導電性が良好になるとともにカルボキシメチルセルロースまたはその塩による分散が良好となる。上記含有量の下限は、より好ましくは1質量%以上であり、上限は、より好ましくは5質量%以下である。
【0040】
上記炭素系負極活物質、ケイ素系負極活物質および導電剤は順次カルボキシメチルセルロースまたはその塩の水溶液に添加し混合し、さらに水で希釈する事によりスラリー状またはペースト状の電極用組成物を調製し、該電極用組成物を集電体に塗工し、水を揮発させることにより非水電解質二次電池負極を形成するものである。上記非水電解質二次電池負極は、上記炭素系負極活物質、ケイ素系負極活物質および導電剤を乾式混合した後、カルボキシメチルセルロースまたはその塩を水に溶解させた水溶液を加えて混合することにより、スラリー状またはペースト状の電極用組成物を調製しても良い。
【0041】
本発明の非水電解質二次電池は、負極として上記非水電解質二次電池負極を備えるものである。一実施形態に係る非水電解質二次電池の構造は、特に限定されず、例えば、正極、負極、セパレーター、および非水電解質で構成することができ、正極と負極のいずれか一方または双方に上記本実施形態に係る電極が用いられる。一実施形態として、電池は、セパレーターを介して正極と負極を交互に積層した積層体と、該積層体を収容する容器と、容器内に注入された電解液など非水電解質とを備えてなるものでもよい。
【実施例
【0042】
つぎに、実施例について比較例とあわせて説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」とあるのは、特に限定のない限り質量基準を意味する。
【0043】
[カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の製造]
[製造例1](実施例1、3、比較例7)
2軸の攪拌翼を備えた容量3Lのニーダー型反応機に、家庭用ミキサーで粉砕した低密度パルプ100gを仕込んだ。IPA:水を80:20の質量比で混合した含水有機溶媒500gに、水酸化ナトリウム60gを溶解した後、パルプを仕込んだ前記反応機内に投入し、35℃で60分間撹拌してアルカリセルロース化反応を行い、アルカリセルロースを得た。次いで、モノクロル酢酸55gを上記含水有機溶媒32.7gに溶解し25℃に調整後、前記アルカリセルロースを35℃に維持したまま60分かけて添加した後、30分かけて80℃まで昇温し、80℃にて50分間エーテル化反応を行った。
【0044】
エーテル化反応後、20%過酸化水素水溶液5gを添加し、100℃で90分間減粘反応を行った。上記反応後、未反応の過剰の水酸化ナトリウムを、50重量%の酢酸で中和し、pH6.5~7.5とした。スラリー状となった上記中和物を反応機より取り出し、遠心分離によりIPAを除去して、粗カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を得た。この粗カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を、70重量%メタノール水溶液で洗浄し、副生物の食塩、グリコール酸ナトリウムおよび酢酸ナトリウムを除去した。この洗浄操作を2回繰り返した後、90~105℃で4時間乾燥し、粉砕してカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を得た。
【0045】
得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の各種物性を上記測定方法にて測定した結果、エーテル化度は0.75、2質量%水溶液粘度は15mPa・s、PVI値は0.42、構造粘性は64であった。
【0046】
[製造例2~6]
水酸化ナトリウム仕込み量、アルカリセルロース化反応工程条件、モノクロル酢酸仕込み量、モノクロル酢酸を溶解する含水有機溶媒量、モノクロル酢酸添加条件、エーテル化反応工程条件、減粘工程条件を下記表1に示す通りに変更した以外は製造例1と同様に製造を行い、製造例2ないし6のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を得た。これらの各種物性は上記測定方法により測定した。測定結果を併せて表1に示す。
【0047】
[カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の物性測定]
<エーテル化度>
カルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.6gを105℃で4時間乾燥した。乾燥物の質量を精秤した後、ろ紙に包んで磁製ルツボ中で灰化した。灰化物を500mlビーカーに移し、水250mlおよび0.05mol/lの硫酸水溶液35mlを加えて30分間煮沸した。冷却後、過剰の酸を0.1mol/lの水酸化カリウム水溶液で逆滴定した。なお、指示薬としてフェノールフタレインを用いた。測定結果を用いて、下記(式1)よりエーテル化度を算出した。
(エーテル化度)=162×A/(10000-80A)…(式1)
A=(af-bf1)/乾燥物の重量(g)
A:試料1g中の結合アルカリに消費された0.05mol/lの硫酸水溶液の量(ml)
a:0.05mol/lの硫酸水溶液の使用量(ml)
f:0.05mol/lの硫酸水溶液の力価
b:0.1mol/lの水酸化カリウム水溶液の滴定量(ml)
f1:0.1mol/lの水酸化カリウム水溶液の力価
【0048】
<2質量%水溶液粘度>
カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(約4.4g)を共栓付き300ml三角フラスコに入れて精秤した。ここに、計算式「試料(g)×(99-水分量(質量%))」により算出される量の水を加えて12時間静置し、さらに5分間混合した。得られた溶液を用いて、JIS Z8803に準じてBM型粘度計(単一円筒型回転粘度計)を用いて25℃における粘度を測定した。その際、(a)ロータ回転数を60rpmとして測定し、(b)上記(a)での測定値が8000mPa・s以上の場合にはロータ回転数を30rpmに変更して測定し、(c)上記(b)での測定値が16000mPa・s以上の場合にはロータ回転数を12rpmに変更して測定した。
【0049】
<PVI値>
カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を用いて粘度が10000±500mPa・sの水溶液を調整してよくかき混ぜた後、ラップでカバーして25℃恒温器中で一夜放置した。次に恒温器中より取り出しガラス棒にて充分に攪拌した。次にBH型粘度計、ロータNO.5を用いて回転数2rpmにて粘度を測定した(η2)。次に回転数20rpmにて粘度を測定した(η20)。これらの測定値より下記(式2)にてPVI値を算出した。PVI値は1.0に近いほどニュートン性が強く、0に近いほど非ニュートン性が強い事を示す。
PVI*=η20/η2…(式2)
*rinting iscosity ndex
【0050】
<構造粘性>
カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を用いて粘度が10000±500mPa・sの水溶液を調整してよくかき混ぜた後、ラップでカバーして25℃恒温器中で一夜放置した。次に恒温器中より取り出しBH型粘度計、ロータNO.5を用いて20rpmの粘度を測定した(ηM)。次にスリーワンモーターを用いて400rpmで10分間攪拌した後BH型粘度計、ロータNO.5を用いて20rpmの粘度を測定した(ηm)。測定したそれぞれの粘度を用いて下記(式3)にて構造粘性を算出した。
構造粘性(%)=(ηM-ηm)/ηM …(式3)
【0051】
【表1】
[負極の作成]
(実施例1)
製造例1で得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の12質量%水溶液50質量部に、減圧下において1000℃の熱処理で不均化反応させたSiO(以下、SiOxと表記する)を9.1質量部混合し、自公転式攪拌機にて、40rpmの回転速度で10分間攪拌した後、導電剤としてカーボンブラック1.5質量部およびカーボンナノチューブ1.5質量部を添加し、40rpmの回転速度で10分間攪拌した。さらに、天然黒鉛81.9質量部を3回に分割して添加し、その都度40rpmの回転速度で10分間攪拌した。その後、蒸留水54質量部を3回に分割して添加し、その都度40rpmの回転速度で10分間攪拌して負極スラリーを得た。得られたスラリーを塗工機にて銅箔(厚さ10μm)に塗工し、100℃で予備乾燥を行った後、130℃で8時間真空乾燥を行った。乾燥して得られた電極をローラープレス機により加圧成形することにより、銅箔の片面に厚みが30μmの負極合剤層を形成した。その後、これをφ12mmの打ち抜き機で円形に打ち抜き、評価用の負極1を得た。
【0052】
(比較例1)
製造例1で得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を製造例2で得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩に変更した以外は実施例1と同様に操作を行い評価用の負極2を得た。
【0053】
(比較例2)
製造例1で得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を製造例3で得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩に変更した以外は実施例1と同様に操作を行い評価用の負極3を得た。
【0054】
(比較例3)
製造例1で得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を製造例4で得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩に変更した以外は実施例1と同様に操作を行い評価用の負極4を得た。
【0055】
(実施例2)
製造例1で得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の水溶液の濃度を10質量%に変更した以外は実施例1と同様に操作を行い、負極スラリーを得た。蒸留水54質量部を3回に分割して添加し希釈した後、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)の50質量%水分散体を2質量部添加し、20rpmの回転速度で10分間攪拌して負極スラリーの固形分が50質量%となる負極スラリーを得た。該負極スラリーを用いて実施例1と同様の操作を行い、評価用の負極5を得た。
【0056】
(比較例4)
製造例1で得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を製造例5で得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩に変更し、その水溶液の濃度を4質量%に変更した以外は実施例1と同様に操作を行い、評価用の負極6を得た。
【0057】
(比較例5)
製造例1で得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を製造例6で得られカルボキシメチルセルロースナトリウム塩に変更し、その水溶液の濃度を 4質量%に変更した以外は実施例1と同様に操作を行い、負極スラリーを得た。負極スラリーに固形分が50質量%となる蒸留水51質量部を3回に分割して添加し希釈した後、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)の50質量%水分散体を2質量部添加し、20rpmの回転速度で10分間攪拌して負極スラリーを得た。
【0058】
(比較例6)
当該負極スラリーを用いて実施例1と同様の操作を行い、評価用の負極7を得た。SiOxを18.2質量部、天然黒鉛72.8質量部に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、評価用の負極8を得た。
【0059】
(比較例7)
SiOxを27.3質量部、天然黒鉛63.7質量部に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、評価用の負極9を得た。
【0060】
[リチウムイオン二次電池の作製]
上記で得られた負極、セパレーター(サンクメタル社製セルガード2325)、作用極としてリチウム金属(φ15mm)の順で、日本トムセル製TJ-ACコインセル内の所定の位置に配置した。さらに、1mol/LのLiPF6を含むエチレンカーボネート、メチルエチルカーボネートの混合溶液にビニレンカーボネートを添加した電解液濃度を注液し、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0061】
<特性の評価>
初回充放電特性は以下のようにして調べた。20℃の雰囲気下、上記負極の理論容量に基づいて得られた0.1Cの電流値で電圧値が0.01Vとなるまで定電流定電圧条件で充電を行い、電流値が0.05Cに低下した時点で充電を停止した。次いで、電流値0.1Cの条件で金属Liに対する電圧が1.0Vとなるまで放電を行い、初回放電容量を測定した。この充放電サイクルを再度繰り返し、2回目放電容量を測定した。
【0062】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。20℃の雰囲気下、2回目放電容量に基づいて得た0.2Cの電流値で、電圧値が0.01Vとなるまで定電流定電圧条件で充電を行い、電流値が0.05Cに低下した時点で充電を停止した。次いで、電流値1Cの条件で、金属Liに対する電圧が1.0Vとなるまで放電を行った。総サイクル数が100となるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に50サイクル目および100サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除し、容量維持率(%)として算出した。結果を下記表2に示す。
【0063】
【表2】
表2より、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の構造粘性が低い場合(比較例1、3)やPVI値が高い場合(比較例2、3)は、100サイクル後の容量保持率が低下することが明らかとなった。
【0064】
また、電極中のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の含有量が少ない場合(比較例4、5)も容量保持率が低下することが明らかとなった。
【0065】
さらに、炭素系負極活物質とケイ素系負極活物質の含有量の合計量に対するケイ素系負極活物質の含有量が多い場合(比較例6、7)は、電極容量は大きくなるが、100サイクル後の容量保持率が極端に低下することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の非水電解質二次電池負極およびこれを備えた非水電解質二次電池は携帯機器などに広く利用することができる。