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特許7003057グリコシル化クロリンe6誘導体、または、その薬学的に許容される塩、医薬組成物、標的を破壊する方法、および、グリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩の製造方法
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  • 特許-グリコシル化クロリンe6誘導体、または、その薬学的に許容される塩、医薬組成物、標的を破壊する方法、および、グリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】グリコシル化クロリンe6誘導体、または、その薬学的に許容される塩、医薬組成物、標的を破壊する方法、および、グリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 15/14 20060101AFI20220203BHJP
   A61K 31/7056 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20220203BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220203BHJP
   C07H 1/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C07H15/14 CSP
A61K31/7056
A61K41/00
A61P17/00
A61P27/02
A61P35/00
A61P43/00 121
C07H1/00
A61K49/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018554260
(86)(22)【出願日】2017-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2017043144
(87)【国際公開番号】W WO2018101434
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2016233486
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516360720
【氏名又は名称】片岡 洋望
(73)【特許権者】
【識別番号】516360731
【氏名又は名称】西江 裕忠
(73)【特許権者】
【識別番号】507029030
【氏名又は名称】城 卓志
(73)【特許権者】
【識別番号】500018273
【氏名又は名称】矢野 重信
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】矢野 重信
(72)【発明者】
【氏名】片岡 洋望
(72)【発明者】
【氏名】西江 裕忠
(72)【発明者】
【氏名】城 卓志
(72)【発明者】
【氏名】福本 圭介
(72)【発明者】
【氏名】仲野 靖浩
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-532890(JP,A)
【文献】国際公開第2008/102669(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第1113914(CN,A)
【文献】LONIN, I. S. et al.,Mendeleev Communications,2012年,22(3),p.157-8,DOI 10.1016/j.mencom.2012.05.016
【文献】AKSENOVA, A. A. et al.,Russian Journal of Bioorganic Chemistry,2000年,26(2),p.111-114
【文献】SYLVAIN, I. et al.,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2002年,10(1),p.57-69
【文献】AKSENOVA, A. A. et al.,Russian Journal of Bioorganic Chemistry,2001年,27(2),p.124-129
【文献】矢野重信ら,医工連携による次世代光医療用糖鎖連結光感受性物質の開発,MEDICAL PHOTONICS,2016年07月13日,2(22),p.19-28
【文献】FUHRHOP, J. H. et al.,Journal of the American Chemical Society,1992年,114(11),p.4159-65
【文献】CIECKIEWICZ, E. et al.,European Journal of Organic Chemistry,2015年,(27),p.6061-74
【文献】JIANG, X. et al.,Tetrahedron Letters,1995年,36(3),p.365-368
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(4)、(5)または(6)で示される、グリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
【化1】
【化2】
【化3】
式(4)~(6)中、nは3~10の整数である。
【請求項2】
腫瘍、皮膚疾患、眼疾患または加齢黄斑変性の光線力学治療用であり、請求項1に記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む医薬組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、医薬組成物。
【請求項4】
腫瘍、皮膚疾患、眼疾患または加齢黄斑変性の、治療、診断または検出のための、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
クロリンe6と糖とを連結基を介して結合させる工程を含む、請求項1に記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光線力学的療法(Photodynamic therapy;PDT)および/または、光線力学的診断(Photodynamic diagnosis:PDD)において好適に用いることができる、グリコシル化クロリンe6誘導体、または、その薬学的に許容される塩に関する。また、本発明は、医薬組成物、標的を破壊する方法、および、グリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光線力学的療法(PDT)は、標的となる疾患組織(以下、「標的組織」ともいう。)を有する患者に光感受性物質を投与し、標的組織(癌組織、腫瘍組織、皮膚病変部、および、新生血管等)に光感受性物質を集積させた後、光感受性物質を励起するのに適切な波長の光を照射することにより、標的組織のみを選択的に破壊する治療方法である。この場合、光励起されて活性化した光感受性物質が、近傍の分子状酸素に対して直接的または間接的にエネルギー移動を行い、これによる一重項酸素の生成が標的組織破壊の主要メカニズムであると考えられている。
【0003】
PDTに用いられる光感受性物質としては、ヘマトポルフィリン誘導体(例えばフォトフリン(登録商標))がよく知られており、既に実用化されている。しかしヘマトポルフィリン誘導体は、人体に投与した際に副作用として一時的な光過敏症を引き起こすことが知られている。また、ヘマトポルフィリン誘導体の癌組織に対する選択性は充分なものではなく、正常組織への集積性も認められる。したがって、投与を受けた患者は、正常組織に集積したヘマトポルフィリン誘導体(ポルフィマーナトリウム)による光増感作用で正常細胞が破壊されないように、それが体外に排泄されるまで長時間に渡って暗所に留まることが必要である。しかし、ポルフィマーナトリウムは正常組織からの排出速度が遅いため、4週間以上にわたって光過敏症が残ることが報告されている。加えて、ポルフィリン誘導体の最大吸収波長は約630nmであり、モル吸光係数も低いため、PDTの治療効果(言い換えれば、標的組織)が5~10nm程度の表層癌に限定されてしまう。
【0004】
このような化合物に対し、より長波長領域(650nm~800nm)に吸収をもつフタロシアニン系化合物、および、クロリン系化合物等が第2世代の薬物として提案されている。例えば、クロリン系化合物にアスパラギン酸を結合させたタラポルフィンナトリウム(以下、本明細書において、「TS」ともいう。レザフィリン(登録商標))等は既に実用化され、臨床使用量を徐々に伸ばしている。このような薬剤においては、代謝性および吸収波長の長波長化等の問題をクリアしているものの、殺腫瘍細胞性および腫瘍組織の成長抑制効果については不十分といった問題がある。
【0005】
上記のようなPDT用薬剤として、特許文献1には、クロリン系化合物であるクロリンe6と葉酸とを結合させた化合物が提案されている。また特許文献2にはガレクチンバイオマーカーの検出用にクロリン系化合物とガラクトサミンとを結合させた化合物が提案されている。さらに、非特許文献1には、124ヨウ素でラベルしたクロリン系化合物に糖を結合させた化合物を合成し、PET(Positron Emission Tomography)イメージングおよび光線力学的療法への提案がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2011-518890号公報
【文献】KR2009047872A
【非特許文献】
【0007】
【文献】Ravindra K . Pandey et al., Journal of Medical Chemistry 2009, 52, 445-455
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、ポルフィリン系化合物およびクロリン系化合物についても開発、研究が進められているが、殺腫瘍細胞性および腫瘍組織の成長抑制効果の点では改善の余地があった。
そこで、本発明は、優れた殺腫瘍細胞性(光毒性)、および、優れた腫瘍組織の成長抑制効果を有するグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩の提供を課題とする。
また本発明は、医薬組成物、標的を破壊する方法、および、グリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩の製造方法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々のポルフィリン誘導体、および、クロリン誘導体を検討した結果、光線力学的治療用薬として有用な、生体に対する安全性を確保し且つ少量で高い光毒性を示す光感受性物質となる、新規なグリコシル化クロリンe6誘導体およびその製造方法を見出し、本発明に至ったのである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1] 後述する一般式(1)で示されるグリコシル化クロリンe6誘導体、または、その薬学的に許容される塩。
[2] 後述する一般式(1)において、R、RおよびRが、それぞれ独立に、炭素数1~6のアセトキシアルキル基または炭素数1~6の炭化水素基である、[1]に記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
[3] 後述する一般式(1)において、R、RおよびRが、メチル基である、[1]または[2]に記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
[4] 後述する一般式(1)において、-X-が-X-O-であり、後述する一般式(2)で示される、[1]~[3]のいずれかに記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
[5] 後述する一般式(2)において、Xが、Rのアノマー位炭素原子と結合した基、または、アノマー位炭素原子に隣接する炭素原子と結合した基である、[4]に記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
[6] 後述する一般式(2)において、-X-が-S-X-であり、後述する一般式(3)で示される、[4]または[5]に記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
[7] 後述する一般式(3)において、Xが、炭素数1~16の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基である、[6]に記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
[8] 後述する一般式(3)において、Xが-(CH-で示されるアルキレン基であり、nが1~16の整数である、[6]または[7]に記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
[9] 後述する一般式(3)において、Xが-(CH-で示されるアルキレン基であり、nが3~10の整数である、[6]~[8]のいずれかに記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
[10] 糖が、単糖類、オリゴ糖、多糖類、アミノ基を含む単糖類、アミノ基を含むオリゴ糖、またはアミノ基を含む多糖類である、[1]~[9]のいずれかに記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
[11] 糖が、単糖類であり、SがRのアノマー位炭素原子と結合した、[1]~[10]のいずれかに記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
[12] 糖が、グルコース、ガラクトースまたはマンノースである、[1]~[11]のいずれかに記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
[13] 下記一般式(4)、(5)または(6)で示される、[1]~[12]のいずれかに記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
[14] 腫瘍、皮膚疾患、眼疾患または加齢黄斑変性の光線力学治療用であり、[1]~[13]のいずれかに記載のクロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む医薬組成物。
[15] ウイルス、微生物およびこれらのいずれかの感染細胞、腫瘍細胞、腫瘍状組織、ならびに、新生血管からなる群より選択される標的に、[1]~[13]のいずれかに記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩を接触させた後に、標的に対して、クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩に吸収される波長の光を照射する工程を含む、標的を破壊する方法。
[16] [1]~[13]のいずれかに記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、医薬組成物。
[17] 腫瘍、皮膚疾患、眼疾患または加齢黄斑変性の、治療、診断または検出のための、[16]に記載の医薬組成物。
[18] クロリンe6と糖とを連結基を介して結合させる工程を含む、[1]~[13]のいずれか1項に記載のグリコシル化クロリンe6誘導体、またはその薬学的に許容される塩の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態に係るグリコシル化クロリンe6誘導体、または、その薬学的に許容される塩(以下、単に「本クロリン誘導体等」ともいう。)は、暗所での毒性が非常に低く、生体に対する安全性を確保し、光線照射による殺腫瘍細胞性および腫瘍組織の成長抑制効果に優れているため、インビトロまたはインビボにて、標的となるウイルス、細菌、若しくはこれらの感染細胞、腫瘍細胞、または腫瘍状組織と接触させた後、本クロリン誘導体等に吸収される波長の光線を照射することにより、上記標的を破壊する用途に適用できる。従って、本クロリン誘導体等は、上記本クロリン誘導体等を有効成分とする医薬、特に、腫瘍、または皮膚病の光線力学的治療用薬、あるいは光線力学診断薬として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係るグリコシル化クロリンe6誘導体の製造方法の一例を説明するための図である。
図2】本発明の実施形態に係るグリコシル化クロリンe6誘導体の製造方法の一例を説明するための図である。
図3】食道癌細胞株および不死化食道正常上皮細胞株を用いた、本発明の実施形態に係るグリコシル化クロリンe6誘導体の細胞内取り込み性能評価結果を表すグラフである。
図4】光線力学的療法における、本発明の実施形態に係るグリコシル化クロリンe6誘導体の抗腫瘍効果の評価結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔グリコシル化クロリンe6誘導体およびその製造方法〕
以下では、本クロリン誘導体等のうち、特に、グリコシル化クロリンe6誘導体を例に説明することがあるが、その説明は、特に記載した場合を除き、グリコシル化クロリンe6誘導体の薬学的に許容される塩にも当てはまる。
【0014】
【化1】
【0015】
一般式(1)中、XおよびXは、それぞれ独立に、H(水素原子)またはR-X-*で表される基(*は結合位置を表す)であり、かつ、XおよびXの少なくとも一方はR-X-*で表される基である。合成がより容易である観点、すなわち、より優れた生産性を有する観点からは、XおよびXのいずれか一方がR-X-*で表される基であることが好ましく、XがR-X-*で表される基であり、かつ、XがH(水素原子)であることがより好ましい。
【0016】
ここで、Rは糖の残基(以下「糖残基」という。)を表す。糖残基とは糖が有する炭素原子に結合した水酸基を1個除いた残基を表し、糖のヘミアセタール性(アノマー性)の水酸基を除いた残基が好ましい。
XはRを構成する炭素原子のいずれか1つと結合した2価の基であり、かつ、RはC(炭素原子)、N(窒素原子)、O(酸素原子)、H(水素原子)、およびS(硫黄原子)からなる群より選択される少なくとも1種の原子からなる直鎖状または分岐鎖状の2価の基である。Xとしては、例えば、-S-、-O-、-NR-(Rは水素原子、または、ヘテロ原子を有してもよい炭化水素基)、カルボニル基、アルキレン基、アルケニレン基、および、これらを組合せた基が挙げられ、O(酸素原子)および/またはS(硫黄原子)を含むことが好ましく、-S-、-O-、および、アルキレン基からなる群より選択される2種以上を組み合わせた基がより好ましく、-S-、-O-、および、アルキレン基とを組み合わせた基がさらに好ましい。
【0017】
Rの糖としては、特に制限されないが、例えば、アルドペントース(リボース、アラビノース、キシロース、および、リキソース等)、アルドヘキソース(アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、および、タロース等)、アルドヘプトース、ケトペントース(リブロース、および、キシルロース等)、ケトヘキソース(プシコース、フルクトース、ソルボース、および、タガトース等)、ケトヘプトース(セドヘプツロース、および、コリオース等)、並びに、アミノ基を有するこれらの誘導体等の単糖類;
ショ糖、マルトース、ラクトース、マルトトリオース、ラフィノース、および、マルトテトラオース等のオリゴ糖、並びに、アミノ基を有するこれらの誘導体;
デンプン、アミロース、および、グリコーゲン等の多糖類、並びに、アミノ基を有するこれらの誘導体;等が挙げられる。なかでも、単糖類が好ましく、ヘキソースまたはヘキソサミンがより好ましく、ヘキソースがさらに好ましく、グルコースが特に好ましい。
単糖類は、D体であってもよいし、L体であってもよいが、D体が好ましい。
【0018】
なお、本明細書において、オリゴ糖とは2~9個の単糖単位を含む化合物を意味し、多糖類とは10個以上の単糖単位を含む化合物を意味する(J.D.ROBERTS&M.C.CASERIO(1964).BASIC PRINCIPLES OF ORGANIC CHEMISTRY. W.A.Benjamin.Inc.(J.D.ロバーツ&M.C.カセリオ 大木道則(訳)(1969).ロバーツ有機化学 株式会社東京化学同人)より引用)。グリコシド結合する単糖同士は、同じでもよく、異なっていてもよい。また、単糖同士のグリコシド結合は、α-結合であっても、β-結合であってもよい。
【0019】
ヘキソースとしては、具体的には、グルコース、ガラクトース、マンノース、アロース、アルトロース、グロース、イドース、および、タロースが挙げられ、これらのうち、グルコースが最も好ましい。グルコースのときの光毒性が優れているからである。
【0020】
ヘキソサミンとしては、具体的には、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、ダウノサミン、および、ペロサミンが挙げられ、これらのうち、グルコサミンが最も好ましい。グルコサミンのときの光毒性が優れているからである。
【0021】
式(1)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、H(水素原子)、炭素数1~6のアセトキシアルキル基または炭素数1~6の炭化水素基であり、R、RおよびRの少なくとも1つは炭素数1~6のアセトキシアルキル基または炭素数1~6の炭化水素基である。
ここで、炭素数1~6のアセトキシアルキルとしては、アセトキシメチル、アセトキシエチル、アセトキシプロピル、およびアセトキシブチル等が挙げられる。また、炭素数1~6の炭化水素としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、およびシクロヘキシル等の炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状または環状アルキルが挙げられる。なかでも、より優れた本発明の効果を有するグリコシル化クロリンe6誘導体が得られる点で、R、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~6のアセトキシアルキル基または炭素数1~6の炭化水素基であることが好ましい。癌細胞に対する取り込み性が向上するからである。
【0022】
またR、RおよびRは、水溶性の観点から、それぞれ独立に、炭素数は1~3の炭化水素基であることが好ましく、メチル基がより好ましい。
【0023】
R-X-*で表される基(*は結合位置を表す)において、2価の基(連結基)Xには、O(酸素原子)が含まれることが好ましく、OおよびS(硫黄原子)が含まれていることがより好ましい。
なかでも、より優れた本発明の効果を有するグリコシド化クロリンe6誘導体が得られる点で、R-X-*で表される基としては、R-X-O-*で表される基が好ましい。ここで、Xは、C、N、O、H、およびSからなる群より選択される少なくとも1種からなる直鎖状または分岐鎖状の2価の基であり、かつ、Rを構成する炭素原子のいずれか1個と結合している。Xの2価の基としては特に制限されないが、すでに説明したXの2価の基と同様の形態である。
すなわち、グリコシド化クロリンe6誘導体は、以下の式(2)で表されることが好ましい。なお、式(2)中、糖残基Rの形態としては、式(1)中のRとして既に説明したとおりである。
【0024】
【化2】
【0025】
さらに優れた本発明の効果を有するグリコシド化クロリンe6誘導体が得られる点で、R-X-O-*で表される基としては、R-L-S-X-O-*で表される基がさらに好ましい。ここで、Lは、単結合または2価の基を表す。Lの2価の連結基としては特に制限されないが、例えば、Xの2価の基として既に説明したとおりである。
なかでも、より優れた本発明の効果を有するグリコシド化クロリンe6誘導体が得られる点で、R-L-S-X-O-*で表される基のLが単結合であることが好ましい。すなわち、R-X-*で表される基は、R-S-X-O-*で表される基、言い換えれば、糖残基Rが-S-X-O-に直接連結された基が好ましい。ここで直接連結とは、例えば糖のアノマー位のC(炭素原子)と-S-X-O-が連結している構造(-C-S-X-O-)を指す。
【0026】
【化3】
【0027】
また、R-S-X-O-*で表される基におけるS(硫黄原子)は、合成の観点からRのアノマー位炭素原子(1位炭素原子)と結合した連結基、またはアノマー位炭素原子に隣接する炭素原子(2位炭素原子)と結合した連結基であることが好ましく、Rのアノマー位炭素原子(1位炭素原子)と結合した連結基であることがより好ましい。
【0028】
はO(酸素原子)とS(硫黄原子)と結合している。また、XはC(炭素原子)およびH(水素原子)を有する直鎖状または分岐鎖状の2価の基である。Xとしては特に制限されないが、例えばアルキレン基、オキシアルキレン基、およびアルキレンオキシ基等が挙げられるが、なかでも、炭素数1~16の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であることが好ましく、-(CH)n-で示される直鎖状アルキレン基であることがより好ましい。nは1~16の整数であることが好ましく、nが2~13の整数であることがより好ましく、nが3~10の整数であることがさらに好ましい。合成が容易であり、かつ化合物の水溶性が高まるからである。
【0029】
なお、式(3)中、糖残基Rの形態としては、式(1)中のRとして既に説明したとおりである。
【0030】
なかでも、特に優れた本発明の効果を有する点で、グリコシル化クロリンe6誘導体は、下記式(4)、(5)、または、(6)で表されることが好ましい。なお、下記式(4)~(6)において、nは、それぞれ3~10の整数を表す。
【0031】
【化4】
【0032】
【化5】
【0033】
【化6】
【0034】
なお、グリコシル化クロリンe6誘導体1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0035】
薬学的に許容される塩としては、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、およびカリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例えばマグネシウム塩、およびカルシウム塩等)、アンモニウム塩、モノ-、ジ-またはトリ-低級(アルキルまたはヒドロキシアルキル)アンモニウム塩(例えばエタノールアンモニウム塩、ジエタノールアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、トロメタミン塩)、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、トリクロロ酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、メシチレンスルホン酸塩およびナフタレンスルホン酸塩等が挙げられる。
また、塩は、無水物、または溶媒和物であってよく、溶媒和物としては、水和物、メタノール和物、エタノール和物、プロパノール和物、および2-プロパノール和物等が挙げられる。
【0036】
以上のような構成を有する本クロリン誘導体等は、暗所では細胞毒性は示さないが、光線照射下で強い細胞毒性を示す。そして、ポルフィリン誘導体と比べて長波長における吸収が大きく(吸収極大波長650nm)、また糖の連結により化合物は細胞親和性および/または細胞透過性が高くなっているものと推測される。
【0037】
次に、本クロリン誘導体等の製造方法について説明する。本発明の実施形態に係るクロリン誘導体等の製造方法は、クロリンe6と糖とを連結基を介して結合させる(グリコシド化)工程を含む。より具体的には、クロリンe6アルキルエステルの3位二重結合と糖とを連結基を介して結合させ、グリコシル化する工程を含む。連結基を結合させる手順は、糖と連結基とを結合させた後にクロリンe6と連結させてもよいが、連結基とクロリンe6とを結合させた後に糖と連結させてもよく、目的に応じて製造方法を選択すればよい。
【0038】
以下では、まず、糖と連結基とを結合させた後にクロリンe6と連結させる製造方法を図1を参照しつつ詳述する。
まず、チオール糖(R-SH)に対し、チオール糖と連結できる官能基、例えばハロゲン、トシル基、およびメシル基等の脱離基(E)を有し、かつヒドロキシル基(-OH)を有する連結基(E-X-OH)を導入する。
【0039】
ここで用いられるチオール糖(R-SH)の有する糖残基Rは、水酸基がアシル基等の保護基で保護されることが好ましい。保護基としては、アセチル、およびピバロイル等の脂肪族アシル基;ベンゾイル基等の芳香族アシル基;ベンジル基等のアラルキル基が挙げられる。これらの保護基のうち、アセチル基が特に好ましい。
【0040】
チオール糖(R-SH)と連結させる連結基(E-X-OH)としては、クロロアルコール、ブロモアルコール、ヨードアルコール、トシルアルコール、およびメシルアルコール等が挙げられる。
【0041】
この反応において用いられる溶媒としては、反応が進行する限り特に制限されないが、例えば、ピリジン、ルチジン、および、キノリン等の芳香族アミン類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、および、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、ペンタン、および、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、および、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、および、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、および、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;水;および、これらの混合物等が挙げられる。上記反応で特に好ましい溶媒は、クロロホルム、または、ジクロロメタンである。
【0042】
またこの反応において塩基が用いられる場合は、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、および、炭酸セシウム等の塩基性塩類;水酸化ナトリウム、および、水酸化カリウム等の無機塩基類;ピリジン、および、ルチジン等の芳香族アミン類;トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、シクロヘキシルジメチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルピロリジン、および、N-メチルモルホリン等の第3級アミン類;水素化ナトリウム、および、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物類;ナトリウムアミド、リチウムジイソプロピルアミド、および、リチウムヘキサメチルジシラジド等の金属アミド類;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、および、カリウムtert-ブトキシド等の金属アルコキシド類;等から選択される。
なお、この反応で得られる最終生成物は、濃縮、溶媒抽出、分溜、結晶化、再結晶、および、クロマトグラフィー等の公知の手段によって反応混合物から単離、精製できる。
【0043】
次に、クロリンe6トリメチルエステルに対し、チオール糖連結基結合体(R-S-X-OH)を導入する。
【0044】
まずクロリンe6トリメチルエステルに対し、ポルフィリン環の1~24番号法における3位の二重結合に、ハロゲン化水素を付加することにより、クロリンe6トリメチルエステルハロゲン化水素付加体を得る。使用するハロゲン化水素としては、塩化水素、臭化水素、およびヨウ化水素等が挙げられる。ハロゲン化水素としては、クロリンe6トリメチルエステルハロゲン化水素付加体の反応性と安定性の観点から、臭化水素が好ましい。
この反応において用いられる溶媒としては、反応が進行する限り特に制限されないが、ギ酸、酢酸、およびプロピオン酸等が挙げられる。
【0045】
得られたクロリンe6トリメチルエステルハロゲン化水素付加体に、チオール糖連結基結合体(R-S-X-OH)を作用させて、チオール糖連結基結合体(R-S-X-OH)をクロリンe6トリメチルエステルハロゲン化水素付加体に結合させて、糖連結クロリンe6トリメチルエステルを得る。上記反応で加える、チオール糖連結基結合体(R-S-X-OH)は、クロリンe6トリメチルエステルハロゲン化水素付加体に対し、3等量以上加えることが好ましい。糖連結クロリンe6トリメチルエステルの収率が向上するためである。
【0046】
また、この反応において塩基が用いられる場合は、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、および、炭酸セシウム等の塩基性塩類;、水酸化ナトリウム、および、水酸化カリウム等の無機塩基類;ピリジン、および、ルチジン等の芳香族アミン類;トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、シクロヘキシルジメチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルピロリジン、および、N-メチルモルホリン等の第3級アミン類;水素化ナトリウム、および、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物類;ナトリウムアミド、リチウムジイソプロピルアミド、および、リチウムヘキサメチルジシラジド等の金属アミド類;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、および、カリウムtert-ブトキシド等の金属アルコキシド類等から選択される。
この反応において用いられる溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、ピリジン、ルチジン、および、キノリン等の芳香族アミン類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、および、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、ペンタン、および、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、および、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、および、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、および、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類またはこれら二種以上の混合物等が挙げられる。上記反応で特に好ましい溶媒は、反応性の観点からジクロロメタン、クロロホルムおよびこれらの混合物である。
【0047】
なお、この反応で得られる最終生成物は、濃縮、溶媒抽出、分溜、結晶化、再結晶、およびクロマトグラフィー等の公知の手段によって反応混合物から単離、精製できる。
【0048】
次に、連結基とクロリンe6とを結合させた後に糖と連結させる製造方法を、図2を参照しつつ詳述する。
【0049】
まず、クロリンe6トリメチルエステルに対し、糖と連結できる官能基、例えばハロゲン、トシル基、およびメシル基等の脱離基(E)を有し、かつヒドロキシル基(-OH)を有する連結基(E-X-OH)を導入する。
【0050】
クロリンe6トリメチルエステルにおいて、ポルフィリン環の1~24番号法における3位の二重結合に、ハロゲン化水素を付加することにより、クロリンe6トリメチルエステルハロゲン化水素付加体を得る。使用するハロゲン化水素としては、塩化水素、臭化水素、および、ヨウ化水素等が挙げられる。ハロゲン化水素としては、クロリンe6トリメチルエステルハロゲン化水素付加体の反応性と安定性の観点から、臭化水素が好ましい。
この反応において用いられる溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、ギ酸、酢酸、および、プロピオン酸等が挙げられる。
【0051】
得られたクロリンe6トリメチルエステルハロゲン化水素付加体に、連結基(E-X-OH)を作用させて、連結基(E-X-OH)をクロリンe6トリメチルエステルハロゲン化水素付加体に結合させて、連結基結合クロリンe6トリメチルエステルを得る。
連結基(E-X-OH)としては、クロロアルコール、ブロモアルコール、ヨードアルコール、トシルアルコール、およびメシルアルコール等が挙げられる。上記反応で加える、連結基(E-X-OH)は、クロリンe6トリメチルエステルハロゲン化水素付加体に対し、10等量以上加えることが好ましい。連結基結合クロリンe6トリメチルエステルの収率が向上するためである。
【0052】
またこの反応において塩基が用いられる場合は、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、および、炭酸セシウム等の塩基性塩類;水酸化ナトリウム、および、水酸化カリウム等の無機塩基類;ピリジン、および、ルチジン等の芳香族アミン類;トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、シクロヘキシルジメチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルピロリジン、および、N-メチルモルホリン等の第3級アミン類;水素化ナトリウム、および、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物類;ナトリウムアミド、リチウムジイソプロピルアミド、および、リチウムヘキサメチルジシラジド等の金属アミド類;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、および、カリウムtert-ブトキシド等の金属アルコキシド類等から選択される。
この反応において用いられる溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、ピリジン、ルチジン、および、キノリン等の芳香族アミン類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、および、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、ペンタン、および、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、および、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、および、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、および、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;これら二種以上の混合物等が挙げられる。上記反応で特に好ましい溶媒は、反応性の観点からジクロロメタン、クロロホルムおよびこれらの混合物である。
【0053】
なお、この反応で得られる最終生成物は、濃縮、溶媒抽出、分溜、結晶化、再結晶、およびクロマトグラフィー等の公知の手段によって反応混合物から単離、精製できる。
次に、連結基結合クロリンe6トリメチルエステルに対し、チオール糖(R-SH)を導入する。
【0054】
ここで用いられるチオール糖(R-SH)は、糖中の水酸基をアシル基等の保護基で保護したものを用いることが好ましい。保護基としては、アセチル基、および、ピバロイル基等の脂肪族アシル基;ベンゾイル基等の芳香族アシル基;ベンジル基等のアラルキル基;等が挙げられる。これらの保護基のうち、アセチル基が特に好ましい。
【0055】
この反応において用いられる溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、ピリジン、ルチジン、および、キノリン等の芳香族アミン類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、および、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、ペンタン、および、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、および、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、および、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、および、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;水;これら二種以上の混合物等が挙げられる。上記反応で特に好ましい溶媒は、クロロホルム、および、ジクロロメタンである。
【0056】
またこの反応において塩基が用いられる場合は、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、および、炭酸セシウム等の塩基性塩類;水酸化ナトリウム、および、水酸化カリウム等の無機塩基類;ピリジン、およびルチジン等の芳香族アミン類;トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、シクロヘキシルジメチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルピロリジン、および、N-メチルモルホリン等の第3級アミン類;水素化ナトリウム、および、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物類;ナトリウムアミド、リチウムジイソプロピルアミド、および、リチウムヘキサメチルジシラジド等の金属アミド類;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、および、カリウムtert-ブトキシド等の金属アルコキシド類;等から選択される。
なお、この反応で得られる最終生成物は、濃縮、溶媒抽出、分溜、結晶化、再結晶、および、クロマトグラフィー等の公知の手段によって反応混合物から単離、精製できる。
【0057】
以上の製造方法において、保護基で水酸基がブロックされている糖残基Rを使用した場合には、次いで、アルカリ処理等により、保護基を脱離除去する。保護基がアシル基の場合には、アルカリ溶液を加えて加水分解すればよい。例えば、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、またはこれらの混合溶媒中、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム-t-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、および、カリウム-t-ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシドのようなアルカリを用いて保護された化合物を処理することにより、保護基を除去する。保護基がアラルキル基の場合には、パラジウム触媒を使った水素添加により除去することができる。糖残基Rの水酸基を脱保護すると、細胞内への本クロリン誘導体等の移行がより促進され、細胞毒性により優れる。
【0058】
〔用途〕
本クロリン誘導体等は、暗所下では細胞毒性を示さないが、光線照射下で強い細胞毒性を示すことを利用して、標的となる生物材料と、暗所下でインビトロまたはインビボで接触させて細胞内に取り込ませた後、本クロリン誘導体等の吸収波長の光を照射することにより、標的を破壊する用途に用いることができる。
【0059】
ここで、標的としては、ウイルス、微生物およびこれらの感染細胞、腫瘍細胞、腫瘍状組織、ならびに新生血管からなる群より選択される標的が挙げられ、特に腫瘍細胞に親和性を有し、腫瘍細胞により集積されやすいことから、腫瘍の破壊に用いることができる。
【0060】
従って、本クロリン誘導体等は、悪性腫瘍(malignant tumor)に分類される癌(cancer)の治療薬として利用できる。悪性腫瘍としては、上皮性悪性腫瘍、および、肉腫(sarcoma)に分類されるような非上皮組織を発生母地とするような悪性腫瘍等が挙げられる。本クロリン誘導体等は、腫瘍細胞のうち、特に腫瘍細胞が塊状、および、充実性に増殖する固形癌(solid carcinoma)、光が届く表層癌の治療にとくに有用である。
具体的には、食道癌、肺癌、胃癌、子宮頸癌、子宮体癌等の子宮癌、皮膚癌、前立腺癌、および、腎臓癌等が挙げられる。皮膚癌には、原発性(扁平上皮癌、基底細胞癌、および、表皮付属機癌)の他、内臓癌の皮膚転移も含まれる。
【0061】
また、本クロリン誘導体等は、腫瘍細胞のうち、良性腫瘍に対しても親和性を有することから、局所投与により、日光角化症、重症ニキビ、および、皮膚乾癬症等の皮膚病の光線力学的治療用薬としての利用、ならびに、加齢黄斑変性等の眼疾患の光線力学的治療用薬としての利用も可能である。
【0062】
さらに、本発明のグリコシル化クロリンe6誘導体の腫瘍集積性を利用して、PET等との併用により、癌の診断に利用することも可能である。さらに本発明のグリコシル化クロリン誘導体は、その腫瘍集積性および良性腫瘍に対する親和性を利用して、腫瘍の検出に利用することも可能である。
【0063】
〔標的を破壊する方法〕
既に説明したとおり、本クロリン誘導体等は、上記の標的を破壊する方法に適用できる。本発明の実施形態に係る標的を破壊する方法は、標的に、本クロリン誘導体等を接触させた後に、標的に対して、本クロリン誘導体等に吸収される波長の光を照射する工程を含む。
なお、上記方法は、ヒト個体、及び、ヒト個体以外で実施できる。すなわち、上記標的を破壊する方法は、ヒト個体での実施が可能であり、及び、ヒト個体での実施を除く形態での実施も可能である。
【0064】
〔医薬組成物〕
本発明の実施形態に係る医薬組成物は、腫瘍、皮膚疾患、眼疾患または加齢黄斑変性の光線力学治療用であり、上記グリコシル化クロリンe6誘導体を有効成分として含有する。なかでも腫瘍の光線力学治療用としてより優れた効果を有する。
【0065】
有効成分であるグリコシル化クロリンe6誘導体は、上述のように、優れた水溶性を有し、しかも細胞透過性に優れ、光毒性が高いので、腫瘍(特に固形癌)の光線力学的治療用薬として好適に使用できる。
【0066】
本医薬組成物は、カテーテル、静脈内または筋肉内注射により投与でき、またその他の非経口的な経路で投与できる。
また、クリーム状の薬剤組成物としてもよく、これにより経皮的にも投与できる。その他、体内の深部の腫瘍組織へ直接に局所注入できる。
【0067】
また、本医薬組成物は、本クロリン誘導体等を含有していれば、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、賦形剤が挙げられる。
【0068】
賦形剤としては、例えば、固形物として、乳糖、カオリン、ショ糖、結晶セルロース、コーンスターチ、タルク、寒天、ペクチン、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、レシチン、および、塩化ナトリウム等が挙げられ、液状物として、グリセリン、落花生油、ポリビニルピロリドン、オリーブ油、エタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、および、水等が挙げられる。
【0069】
本医薬組成物は、賦形剤以外にも、必要に応じて、基剤、界面活性剤、保存剤、乳化剤、着色剤、矯臭剤、香料、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤、潤沢剤、抗菌剤、溶解補助剤、懸濁化剤、結合剤、および、崩壊剤等を含有してもよい。
【0070】
本医薬組成物の剤型としては、特に制限されず、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ剤、乳液、軟ゼラチンカプセル、ゲル、ペースト、注射用製剤、クリーム、ジェル、ローション、および、貼付剤等が挙げられる。
【0071】
本医薬組成物に用いられる担体は、製剤の種類に応じて適宜選択される。注射用製剤として調製する場合、本クロリン誘導体等を含む無菌の水溶液もしくは分散液または本クロリン誘導体等を含む無菌の凍結乾燥剤の形に製剤化できる。液体担体としては、例えば、水、生理食塩水、エタノール、含水エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、および、植物油等が好ましい。
【0072】
本医薬組成物には、本クロリン誘導体等とともに、ラクトース、スクロース、第2リン酸カルシウム、および、カルボキシメチルセルロース等の希釈剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、および、タルクのような滑剤;デンプン、グルコース、糖蜜、ポリビニルピロリドン、セルロース、および、その誘導体等;の結合剤を含み得る。
【0073】
本実施形態における一製剤当たりの有効成分の含量は、治療すべき対象や用法によって適宜とすることができるが、例えば、グリコシル化クロリンe6誘導体の量として、1~2000mgとすることができ、5~1000mgが好ましく、10~500mgがさらに好ましい。
【0074】
本クロリン誘導体等の投与量は、治療すべき対象や目的によって異なるが、一般に、本クロリン誘導体等の量として、腫瘍の診断または検出、腫瘍治療のためには0.1~30mg/kg、好ましくは0.2~20mg/kgが目安となる。
有効成分である本クロリン誘導体等は、その細胞毒性が高いことから、従来品(フォトフリンやレザフィリン)よりも投与量を少なくして、同等以上の効果を得ることを期待できる。このことは、代謝、および、排泄に要する時間が短くて済むことを意味し、光線力学的療法の活用利便性を高める。
【0075】
腫瘍の治療のためには、本クロリン誘導体等を投与した後、治療すべき部位に、該当化合物の吸収帯を含む光線を照射する。具体的には、500nm以上の光線照射により一重項酸素を発生して、目的の細胞毒性を発揮することができるが、好ましくは最大吸収波長の光の割合が高い光線を照射することである。
【0076】
照射源としては、LED(Light Emitting Diode)、レーザー、および、ハロゲンランプ等が用いられる。レーザーとしては、色素レーザー、半導体レーザー、および、アルゴンレーザー等、励起に必要な波長の光線が得られるものであればよい。
【実施例
【0077】
以下に本発明を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。ただし、本発明はこれらによってなんら制限されるものではない。実施例および比較例に基づいて製造した化合物は以下の方法によって評価を実施した。
【0078】
[光毒性の評価方法]
光毒性評価にはIC50(Half maximal(50%)inhibitory concentration)を用いることとし、以下の手順で測定した。
ヒト胃癌由来細胞であるMKN45(JCRB細胞バンクより入手して6か月間継代培養したもの)およびMKN28(株式会社免疫生物研究所より入手して6か月間継代培養したもの)を、それぞれ96穴プレートの所定数量のwellに5×10個/well播種し(FBSを10%含むRPMI1640培地、100μL)、5%CO存在下、37℃で24時間培養した。次にそれぞれのwellに、薬剤を異なる濃度で含む同培地溶液を100μL加え、各wellを所定の薬剤濃度に調整し、4時間培養した後、100μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS:Phosphate-Buffered Saline)で1回洗浄し、再度100μLのPBSを加えた。その後、660nmのLED光源(30.8mW/cm、LEDR-660DL, OptoCode)を用いて8分40秒、光線照射した(16J/cm)。照射後、PBSを取り除き、2%FBSを含むRPMI1640培地を100μL加え、24時間培養した。
【0079】
培養後、Cell Counting kit-8(Dojindo Laboratories:生細胞数測定キット)のプロトコルに従って操作を行い、マイクロプレートリーダー(SPECTRA MAX340,Molecular Devices社製)で450nmの吸光度を測定することで、薬剤を添加していない場合に対する相対値としての細胞生存率を算出した。なお測定はn=8で行い、8回で得た値の最大値と最小値を除き、平均値をIC50の値とし、IC50が0.01μmol/L未満のものはA、0.01μmol/L以上0.1μmol/L未満のものはB、0.1μmol/L以上1μmol/L未満のものはC、1μmol/L以上10μmol/L未満のものはD、10μmol/L以上のものはEと評価した。
【0080】
[腫瘍成長抑制率の評価方法]
ヌードマウス(各群各々4~6匹ずつ、雌4~5週齢、体重20±2g、BioLASCO社より入手)の右臀部に、5%CO下、37℃で10%ウシ胎児血清(Gibco BRL製)および1%抗生物質を添加した1mmol/lピルビン酸ナトリウム含有ダルベッコ変法イーグル培地(Gibco BRL製)にて増殖させたヒト大腸癌細胞株HT29を2×10個皮下注射(0日目)し、腫瘍の大きさを2日ごとに測定した。腫瘍体積は、1/2(4π/3)(L/2)(W/2)Hで計算した(L:腫瘍の長さ、W:幅、H:高さ)。腫瘍体積が50~100mm3に達したところ(10日目)で、ヌードマウスの側部尾静脈からそれぞれ生理食塩水(コントロール群)を0.1ml、生理食塩水または20%PEG水溶液に薬剤濃度1.25mMで溶解させた薬剤溶液0.1mlを投与した。投与4時間後または24時間後に、腫瘍に660nm(15Jcm-2)、直径2cmのスポットのダイオードレーザー(100mW/cm、CrystaLaser CL660)を照射した。
腫瘍の大きさを2日ごとに測定し、腫瘍成長抑制率(TGI%)を24日目の腫瘍体積から次式で計算を行い、TGI%が65%未満のものはD、65%以上70%未満のものはC、70%以上75%未満のものはB、75%以上のものはAと評価した。
【0081】
TGI%=((コントロール群の腫瘍体積)-(処理群の腫瘍体積))/(コントロール群の腫瘍体積)× 100%
【0082】
[実施例1]
1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチ
ルエステルの製造と評価
(1-1)1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテートの合成
窒素雰囲気下、1-チオ-β-D-グルコーステトラアセテート(2.73g、7.50mmol)をクロロホルム(5.0ml)に溶解し、トリエチルアミン(2.08ml、15.00mmol)を加えた。得られた溶液を0℃に冷却し、3-ブロモ-1-プロパノール(0.85ml、9.75mmol)をゆっくり滴下しながら撹拌した。滴下終了後、溶液の温度を25℃に上げて3時間撹拌した。撹拌後の溶液に水(50ml)、クロロホルム(30ml)を入れて分液操作を行い、クロロホルム層を分取した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水(50ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水させた。
次に、得られたクロロホルム溶液を吸引ろ過し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ハイフラッシュカラム、山善株式会社製)に充填し、酢酸エチルとヘキサンの混合溶媒にて溶離した。溶離液を減圧濃縮することにより、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテートを得た(収量2.68g、収率85%)。
【0083】
得られた化合物は、J.Org.Chem.2013,78,5196-5204に基づき、1H-NMR(400MHz,重クロロホルム溶媒)にて確認した。
【0084】
【化7】
【0085】
(1-2)クロリンe6トリメチルエステルの合成
窒素雰囲気下、クロリンe6(11.93g、20.00mmol)を脱水ジクロロメタン(500ml)と脱水メタノール(250ml)の混合溶媒に溶解した。得られた溶液にトリメチルシリルジアゾメタン(2.0mol/lヘキサン溶液、34.0ml)を滴下し、25℃で2時間撹拌した。得られた反応液から溶媒を減圧留去し、得られた残渣をジクロロメタン/ヘキサンから再結晶することにより、クロリンe6トリメチルエステルを得た(収量11.64g、収率91%)。
【0086】
得られた化合物は、Photochemistry and Photobiology,2007,83,1006-1015に基づき、H-NMR(400MHz,重クロロホルム溶媒)にて確認した。
【0087】
【化8】
【0088】
(1-3)1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート連結クロリンe6トリメチルエステルの合成
上記(1-2)で合成したクロリンe6トリメチルエステル(0.95g、1.48mmol)を窒素雰囲気下、25%臭化水素-酢酸溶液(18.0ml)に溶解し、30℃で2時間撹拌した。得られた反応液から臭化水素-酢酸溶液を減圧留去し、反応液を乾固させた。得られた残渣を脱水ジクロロメタン(50ml)に溶解し、炭酸カリウム(2.05g、14.80mmol)を入れて、30℃で30分撹拌した。得られた溶液に、上記(1-1)で合成した1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート(1.88g、4.45mmol)を脱水ジクロロメタン(50ml)に溶解して滴下し、30℃で5時間撹拌した。得られた反応液に水(100ml)とジクロロメタン(200ml)を加えて分液操作を行い、ジクロロメタン層を分取した。得られたジクロロメタン層を水(200ml)および飽和食塩水(200ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水させた。得られたジクロロメタン溶液を吸引ろ過し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ハイフラッシュカラム,山善株式会社製)に充填し、酢酸エチルとジクロロメタンの混合溶媒にて溶離した。溶離液を減圧濃縮することにより、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート連結クロリンe6トリメチルエステルを得た(収量0.42g、収率27%)。
【0089】
得られた化合物はH-NMR(400MHz,重クロロホルム溶媒)にてクロリンe6トリメチルエステルの3位二重結合に由来するピークが消失し、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテートが結合していることを確認した。またESI+MS(Electrospray Ionization mass Spectrometry)法による解析にて分子量が一致することを確認した。
MS:m/z([M+H]+);calcd.1061.45 for C546816S、found.1061.41。
【0090】
【化9】
【0091】
(1-1′)3-ブロモ-1-プロパノール連結クロリンe6トリメチルエステルの合成
上記(1-2)で合成したクロリンe6トリメチルエステル(0.96g、1.50mmol)を窒素雰囲気下、25%臭化水素-酢酸溶液(18.0ml)に溶解し、30℃で2時間撹拌した。得られた反応液から臭化水素-酢酸溶液を減圧留去し、反応液を乾固させた。得られた残渣を脱水ジクロロメタン(50ml)に溶解し、炭酸カリウム(2.07g、15.00mmol)を入れて、30℃で30分撹拌した。得られた溶液に、3-ブロモ-1-プロパノール(2.60ml、30.00mmol)を滴下し、30℃で5時間撹拌した。得られた反応液に水(100ml)とジクロロメタン(200ml)を加えて分液操作を行い、ジクロロメタン層を分取した。得られたジクロロメタン層を水(200ml)、飽和食塩水(200ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水させた。得られたジクロロメタン溶液を吸引ろ過し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ハイフラッシュカラム,山善株式会社製)に充填し、酢酸エチルとジクロロメタンの混合溶媒にて溶離した。溶離液を減圧濃縮することにより、3-ブロモ-1-プロパノール連結クロリンe6トリメチルエステルを得た(収量0.91g、収率78%)。
【0092】
得られた化合物はH-NMR(400MHz,重クロロホルム溶媒)にてクロリンe6トリメチルエステルの3位二重結合に由来するピークが消失し、3-ブロモ-1-プロパノールが結合していることを確認した。またESI+MS法による解析にて分子量が一致することを確認した。
【0093】
MS:m/z([M+H]+);calcd.777.29 for C4049BrN、found.777.29。
【0094】
【化10】
【0095】
(1-2′)1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート連結クロリンe6トリメチルエステルの合成
窒素雰囲気下、1-チオ-β-D-グルコーステトラアセテート(131mg、0.36mmol)をクロロホルム(1.0ml)に溶解し、トリエチルアミン(90μl、0.65mmol)を加えた。得られた溶液を0℃に冷却し、3-ブロモ-1-プロパノール連結クロリンe6トリメチルエステル(86mg、0.11mmol)をゆっくり滴下しながら撹拌した。滴下終了後、溶液の温度を20℃に上げて14時間撹拌した。撹拌後の溶液に水(10ml)、クロロホルム(10ml)を入れて分液操作を行い、クロロホルム層を分取した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水(10ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水させた。得られたクロロホルム溶液を吸引ろ過し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ハイフラッシュカラム,山善株式会社製)に充填し、酢酸エチルとジクロロメタンの混合溶媒にて溶離した。溶離液を減圧濃縮することにより、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート連結クロリンe6トリメチルエステル(収量52mg、収率45%)。
得られた化合物は、H-NMR(400MHz、重クロロホルム溶媒)にて1-チオ-β-D-グルコーステトラアセテートが結合していることを確認した。またESI+MS法による解析にて分子量が一致することを確認した。
【0096】
MS:m/z([M+H]+);calcd.1061.45 for C546816S、found.1061.45。
【0097】
【化11】
【0098】
(1-4)1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステルの合成
上記(1-3)および(1-2′)で合成した1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート連結クロリンe6(107mg、0.10mmol)を窒素雰囲気下、脱水メタノール(8.0ml)に溶解し、ナトリウムメトキシド(54mg、1.00mmol)を入れて25℃で30分撹拌した。得られた反応溶液に酢酸(58μl、1.00mmol)を加えて反応を停止させた。得られた溶液から溶媒を減圧留去し、残渣をPLCガラスプレート(シリカゲル60 F254、メルク株式会社製)に充填し、ジクロロメタンとメタノールの混合溶媒にて溶離した。溶離液を減圧濃縮後、逆相シリカゲルクロマト(Sep-Pak C18、Waters社製)に充填し、イオン交換水で塩を溶離させた後、メタノールにて溶離した。得られたメタノール溶液を減圧濃縮し、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステルを得た(収量64mg、収率72%)。
得られた化合物は、H-NMR(400MHz,重クロロホルム溶媒)にて1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート連結クロリンe6トリメチルエステルのアセチル基由来のピークが消失していることを確認した。またESI+MS法による解析にて分子量が一致することを確認した。
【0099】
MS:m/z([M+H]+);calcd.893.40 for C466012S、found.893.45。
【0100】
【化12】
【0101】
(1-5)1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステルの評価
上記製造方法に基づいて得られた1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステルについて、光毒性の評価方法および腫瘍成長抑制率の評価方法に基づいて評価を実施した。結果を表1、表2および表3に示す。また腫瘍成長抑制率の評価期間内において、全てのヌードマウスが体重減少することなく生存していることを確認し、薬剤投与およびレーザー照射によるヌードマウスへの悪影響は見られなかった。
【0102】
[実施例2]
1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステルの製造と評価
(2-1)1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテートの合成
窒素雰囲気下、1-チオ-β-D-グルコーステトラアセテート(1.37g、3.75mmol)をクロロホルム(2.5ml)に溶解し、トリエチルアミン(1.04ml、7.50mmol)を加えた。得られた溶液を0℃に冷却し、6-ブロモ-1-ヘキサノール(0.66ml、4.88mmol)をゆっくり滴下しながら撹拌した。滴下終了後、溶液の温度を25℃に上げて3時間撹拌した。撹拌後の溶液に水(25ml)、クロロホルム(15ml)を入れて分液操作を行い、クロロホルム層を分取した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水(25ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水させた。得られたクロロホルム溶液を吸引ろ過し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ハイフラッシュカラム,山善株式会社製)に充填し、酢酸エチルとヘキサンの混合溶媒にて溶離した。溶離液を減圧濃縮することにより、1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテートを得た(収量1.39g、収率80%)。
【0103】
構造同定は、J.Org.Chem.2013,78,5196-5204に基づき、H-NMR(400MHz,重クロロホルム溶媒)にて行った。
【0104】
H-NMR(CDCl3,400MHz)δ5.22(t,J=9.4Hz,1H,H-3),5.08(t,J=10.0Hz,1H,H-4),5.04(t,J=10.0Hz,1H,H-2)4.48(d,J=10.8Hz,1H,H-1),4.25(dd,J=11.2Hz,J=2.3Hz,1H,H-6),4.14(dd,J=11.2Hz,J=2.3Hz,1H,H-6),3.70-3.72(m,1H,H-5),3.63-3.65(m,2H,CHOH),2.64-2.72(m,2H,SCH),2.06,2.05,2.03,2.01(s,12H,4×OCOCH),1.52-1.65(m,4H,-CH-),1.35-1.42(m,4H,-CH-)
【0105】
【化13】
【0106】
(2-2)1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート連結クロリンe6トリメチルエステルの合成
実施例1で合成したクロリンe6トリメチルエステル(664mg、1.04mmol)を窒素雰囲気下、25%臭化水素-酢酸溶液(12.0ml)に溶解し、30℃で2時間撹拌した。得られた反応液から臭化水素-酢酸溶液を減圧留去し、反応液を乾固させた。得られた残渣を脱水ジクロロメタン(35ml)に溶解し、炭酸カリウム(1437mg、10.40mmol)を入れて、30℃で30分撹拌した。得られた溶液に、上記(1-1)で合成した1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート(1450mg、3.12mmol)を脱水ジクロロメタン(35ml)に溶解して滴下し、30℃で5時間撹拌した。得られた反応液に水(70ml)とジクロロメタン(140ml)を加えて分液操作を行い、ジクロロメタン層を分取した。得られたジクロロメタン層を水(140ml)、飽和食塩水(140ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水させた。得られたジクロロメタン溶液を吸引ろ過し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ハイフラッシュカラム,山善株式会社製)に充填し、酢酸エチルとジクロロメタンの混合溶媒にて溶離した。溶離液を減圧濃縮することにより、1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート連結クロリンe6トリメチルエステルを得た(収量145mg、収率13%)。
【0107】
得られた化合物はH-NMR(400MHz,重クロロホルム溶媒)にてクロリンe6トリメチルエステルの3位二重結合に由来するピークが消失し、1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテートが結合していることを確認した。またESI+MS法による解析にて分子量が一致することを確認した。
【0108】
【化14】
【0109】
(2-3)1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステルの合成
上記(2-2)で合成した1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート連結クロリンe6トリメチルエステル(134mg、0.12mmol)を窒素雰囲気下、脱水メタノール(10.0ml)に溶解し、ナトリウムメトキシド(65mg、1.21mmol)を入れて25℃で30分撹拌した。得られた溶液に酢酸(69μl、1.21mmol)を加えて反応を停止させた。得られた溶液から溶媒を減圧留去し、残渣をPLCガラスプレート(シリカゲル60 F254、メルク株式会社製)に充填し、ジクロロメタンとメタノールの混合溶媒にて溶離した。溶離液を減圧濃縮後、逆相シリカゲルクロマト(Sep-Pak C18、Waters社製)に充填し、イオン交換水で塩を溶離させた後、メタノールにて溶離した。得られたメタノール溶液を減圧濃縮し、1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステルを得た(収量75mg、収率67%)。
【0110】
得られた化合物はH-NMR(400MHz、重クロロホルム溶媒)にて1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート連結クロリンe6トリメチルエステルのアセチル基由来のピークが消失していることを確認した。またESI+MS法による解析にて分子量が一致することを確認した。
【0111】
【化15】
【0112】
(2-4)1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステルの評価
上記製造方法に基づいて得られた1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステルについて、光毒性の評価方法および腫瘍成長抑制率の評価方法に基づいて評価を実施した。結果を表1、表2および表3に示す。また腫瘍成長抑制率の評価期間内において、全てのヌードマウスが体重減少することなく生存していることを確認し、薬剤投与およびレーザー照射によるヌードマウスへの悪影響は見られなかった。
【0113】
[実施例3]
1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステルの製造と評価
(3-1)1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテートの合成
窒素雰囲気下、1-チオ-β-D-グルコーステトラアセテート(1.37g、3.75mmol)をクロロホルム(2.5ml)に溶解し、トリエチルアミン(1.04ml、7.50mmol)を加えた。得られた溶液を0℃に冷却し、10-ブロモ-1-デカノール(1.00ml、4.88mmol)をゆっくり滴下しながら撹拌した。滴下終了後、溶液の温度を25℃に上げて3時間撹拌した。撹拌後の溶液に水(25ml)、クロロホルム(15ml)を入れて分液操作を行い、クロロホルム層を分取した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水(25ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水させた。得られたクロロホルム溶液を吸引ろ過し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ハイフラッシュカラム,山善株式会社製)に充填し、酢酸エチルとヘキサンの混合溶媒にて溶離した。溶離液を減圧濃縮することにより、1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテートを得た(収量1.60g、収率82%)。
【0114】
構造同定は、J.Org.Chem.2013,78,5196-5204に基づき、H-NMR(400MHz、重クロロホルム溶媒)にて行った。
【0115】
H-NMR(CDCl3,400MHz)δ5.22(t,J=9.4Hz,1H,H-3),5.07(t,J=10.0Hz,1H,H-4),5.03(t,J=10.0Hz,1H,H-2)4.49(d,J=10.8Hz,1H,H-1),4.25(dd,J=11.2Hz,J=2.3Hz,1H,H-6),4.13(dd,J=11.2Hz,J=2.3Hz,1H,H-6),3.69-3.72(m,1H,H-5),3.61-3.64(m,2H,CHOH),2.60-2.72(m,2H,SCH),2.07,2.05,2.02,2.01(s,12H,4×OCOCH),1.52-1.65(m,4H,-CH-),1.25-1.42(m,12H,-CH-)
【0116】
【化16】
【0117】
(3-2)1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート連結クロリンe6トリメチルエステルの合成
実施例1で合成したクロリンe6トリメチルエステル(715mg、1.12mmol)を窒素雰囲気下、25%臭化水素-酢酸溶液(13.0ml)に溶解し、30℃で2時間撹拌した。得られた反応液から臭化水素-酢酸溶液を減圧留去し、反応液を乾固させた。得られた残渣を脱水ジクロロメタン(40ml)に溶解し、炭酸カリウム(1549mg、11.20mmol)を入れて、30℃で30分撹拌した。得られた溶液に、上記(3-1)で合成した1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート(1750mg、3.36mmol)を脱水ジクロロメタン(40ml)に溶解して滴下し、30℃で5時間撹拌した。得られた反応液に水(80ml)とジクロロメタン(160ml)を加えて分液操作を行い、ジクロロメタン層を分取した。得られたジクロロメタン層を水(160ml)、飽和食塩水(160ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水させた。得られたジクロロメタン溶液を吸引ろ過し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ハイフラッシュカラム,山善株式会社製)に充填し、酢酸エチルとジクロロメタンの混合溶媒にて溶離した。溶離液を減圧濃縮することにより、1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート連結クロリンe6トリメチルエステルを得た(収量285mg、収率22%)。
【0118】
得られた化合物はH-NMR(400MHz,重クロロホルム溶媒)にてクロリンe6トリメチルエステルの3位二重結合に由来するピークが消失し、1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテートが結合していることを確認した。またESI+MS法による解析にて分子量が一致することを確認した。
【0119】
【化17】
【0120】
(3-3)1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステルの合成
上記(3-2)で合成した1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート連結クロリンe6トリメチルエステル(268mg、0.23mmol)を窒素雰囲気下、脱水メタノール(20.0ml)に溶解し、ナトリウムメトキシド(125mg、2.31mmol)を入れて20℃で1時間撹拌した。得られた溶液に酢酸(132μl、2.31mmol)を加えて反応を停止させた。得られた溶液から溶媒を減圧留去し、残渣をPLCガラスプレート(シリカゲル60 F254、メルク株式会社製)に充填し、ジクロロメタンとメタノールの混合溶媒にて溶離した。溶離液を減圧濃縮後、逆相シリカゲルクロマト(Sep-Pak C18、Waters社製)に充填し、イオン交換水で塩を溶離させた後、メタノールにて溶離した。得られたメタノール溶液を減圧濃縮し、1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステルを得た(収量149mg、収率65%)。
【0121】
得られた化合物はH-NMR(400MHz,重クロロホルム溶媒)にて1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコーステトラアセテート連結クロリンe6トリメチルエステルのアセチル基由来のピークが消失していることを確認した。またESI+MS法による解析にて分子量が一致することを確認した。
【0122】
【化18】
【0123】
(3-4)1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステルの評価
上記製造方法に基づいて得られた1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステルについて、光毒性の評価方法および腫瘍成長抑制率の評価方法に基づいて評価を実施した。結果を表1、表2および表3に示す。また腫瘍成長抑制率の評価期間内において、全てのヌードマウスが体重減少することなく生存していることを確認し、薬剤投与およびレーザー照射によるヌードマウスへの悪影響は見られなかった。
【0124】
[実施例4]
1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-ガラクト―ス連結クロリンe6トリメチルエステルの製造と評価
(4-1)1-チオ-β-D-ガラクトーステトラアセテートの合成
2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-D-ガラクトピラノース(348mg、1.0mmol)をジクロロメタン(5.0ml)に溶解し、テトラブロモメタン(663mg、2.0mmol)とトリフェニルホスフィン(525mg、2.0mmol)を入れて25℃で4時間撹拌した。得られた反応溶液に対し、ジメチルホルムアミド(2.0ml)に溶解させた二硫化炭素(114mg、1.5mmol)と硫化ナトリウム9水和物(480mg、2.0mmol)の混合溶液を加え、25℃で5分撹拌した。得られた反応溶液に水(30ml)、ジクロロメタン(50ml)を入れて分液操作を行い、ジクロロメタン層を分取した。得られたジクロロメタン層を水(30ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水させた。得られたジクロロメタン層を吸引ろ過し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物を得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ハイフラッシュカラム、山善株式会社製)に充填し、酢酸エチルとヘキサンの混合溶媒にて溶離した。溶離液を減圧濃縮することにより、1-チオ-β-D-ガラクトーステトラアセテートを得た(収量291mg、収率80%)。
【0125】
構造同定はBeilstein J.Org.Chem.2013,9,974-982に基づき、H-NMR(400MHz,重クロロホルム溶媒)にて行った。
【0126】
【化19】
【0127】
(4-2)1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-ガラクト―ス連結クロリンe6トリメチルエステルの合成と評価
1-チオ-β-D-グルコーステトラアセテートの代わりに(4-1)で合成した1-チオ-β-D-ガラクトーステトラアセテートを用いて、実施例1と同様の製造方法を実施し、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-ガラクト―ス連結クロリンe6トリメチルエステルを得た。
【0128】
上記製造方法に基づいて得られた1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-ガラクト―ス連結クロリンe6トリメチルエステルについて、光毒性の評価方法および腫瘍成長抑制率の評価方法に基づいて評価を実施した。結果を表1、表2および表3に示す。また腫瘍成長抑制率の評価期間内において、全てのヌードマウスが体重減少することなく生存していることを確認し、薬剤投与およびレーザー照射によるヌードマウスへの悪影響は見られなかった。
【0129】
[実施例5]
1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-ガラクト―ス連結クロリンe6トリメチルエステルの製造と評価
1-チオ-β-D-グルコーステトラアセテートの代わりに(4-1)で合成した1-チオ-β-D-ガラクトーステトラアセテートを用いて、実施例2と同様の製造方法を実施し、1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-ガラクト―ス連結クロリンe6トリメチルエステルを得た。
【0130】
上記製造方法に基づいて得られた1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-ガラクト―ス連結クロリンe6トリメチルエステルについて、光毒性の評価方法および腫瘍成長抑制率の評価方法に基づいて評価を実施した。結果を表1、表2および表3に示す。また腫瘍成長抑制率の評価期間内において、全てのヌードマウスが体重減少することなく生存していることを確認し、薬剤投与およびレーザー照射によるヌードマウスへの悪影響は見られなかった。
【0131】
[実施例6]
1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-ガラクト―ス連結クロリンe6トリメチルエステルの製造と評価
1-チオ-β-D-グルコーステトラアセテートの代わりに(4-1)で合成した1-チオ-β-D-ガラクトーステトラアセテートを用いて、実施例3と同様の製造方法を実施し、1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-ガラクト―ス連結クロリンe6トリメチルエステルを得た。
【0132】
上記製造方法に基づいて得られた1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-ガラクト―ス連結クロリンe6トリメチルエステルについて、光毒性の評価方法および腫瘍成長抑制率の評価方法に基づいて評価を実施した。結果を表1、表2および表3に示す。また腫瘍成長抑制率の評価期間内において、全てのヌードマウスが体重減少することなく生存していることを確認し、薬剤投与およびレーザー照射によるヌードマウスへの悪影響は見られなかった。
【0133】
[実施例7]
1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-マンノ―ス連結クロリンe6トリメチルエステルの製造と評価
(7-1)1-チオ-β-D-マンノーステトラアセテートの合成
2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-D-マンノピラノース(348mg、1.0mmol)をジクロロメタン(5.0ml)に溶解し、テトラブロモメタン(663mg、2.0mmol)とトリフェニルホスフィン(525mg、2.0mmol)を入れて25℃で4時間撹拌した。得られた反応溶液に対し、ジメチルホルムアミド(2.0ml)に溶解させた二硫化炭素(114mg、1.5mmol)と硫化ナトリウム9水和物(480mg、2.0mmol)の混合溶液を加え、25℃で5分撹拌した。得られた反応溶液に水(30ml)、ジクロロメタン(50ml)を入れて分液操作を行い、ジクロロメタン層を分取した。得られたジクロロメタン層を水(30ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水させた。得られたジクロロメタン層を吸引ろ過し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物を得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ハイフラッシュカラム、山善株式会社製)に充填し、酢酸エチルとヘキサンの混合溶媒にて溶離した。溶離液を減圧濃縮することにより、1-チオ-β-D-マンノーステトラアセテートを得た(収量255mg、収率70%)。
【0134】
構造同定はBeilstein J.Org.Chem.2013,9,974-982に基づき、H-NMR(400MHz、重クロロホルム溶媒)にて行った。
【0135】
【化20】
【0136】
(7-2)1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-マンノ―ス連結クロリンe6トリメチルエステルの合成と評価
1-チオ-β-D-グルコーステトラアセテートの代わりに(7-1)で合成した1-チオ-β-D-マンノ―ステトラアセテートを用いて、実施例1と同様の製造方法を実施し、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-マンノ―ス連結クロリンe6トリメチルエステルを得た。
【0137】
上記製造方法に基づいて得られた1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-マンノ―ス連結クロリンe6トリメチルエステルについて、光毒性の評価方法および腫瘍成長抑制率の評価方法に基づいて評価を実施した。結果を表1、表2および表3に示す。また腫瘍成長抑制率の評価期間内において、全てのヌードマウスが体重減少することなく生存していることを確認し、薬剤投与およびレーザー照射によるヌードマウスへの悪影響は見られなかった。
【0138】
[実施例8]
1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-マンノース連結クロリンe6トリメチルエステルの製造と評価
1-チオ-β-D-グルコーステトラアセテートの代わりに(4-1)で合成した1-チオ-β-D-マンノ―ステトラアセテートを用いて、実施例2と同様の製造方法を実施し、1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-マンノ―ス連結クロリンe6トリメチルエステルを得た。
【0139】
上記製造方法に基づいて得られた1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-マンノ―ス連結クロリンe6トリメチルエステルについて、光毒性の評価方法および腫瘍成長抑制率の評価方法に基づいて評価を実施した。結果を表1、表2および表3に示す。また腫瘍成長抑制率の評価期間内において、全てのヌードマウスが体重減少することなく生存していることを確認し、薬剤投与およびレーザー照射によるヌードマウスへの悪影響は見られなかった。
【0140】
[実施例9]
1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-マンノース連結クロリンe6トリメチルエステルの製造と評価
1-チオ-β-D-グルコーステトラアセテートの代わりに(4-1)で合成した1-チオ-β-D-マンノ―ステトラアセテートを用いて、実施例3と同様の製造方法を実施し、1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-マンノ―ス連結クロリンe6トリメチルエステルを得た。
【0141】
上記製造方法に基づいて得られた1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-マンノ―ス連結クロリンe6トリメチルエステルについて、光毒性の評価方法および腫瘍成長抑制率の評価方法に基づいて評価を実施した。結果を表1、表2および表3に示す。また腫瘍成長抑制率の評価期間内において、全てのヌードマウスが体重減少することなく生存していることを確認し、薬剤投与およびレーザー照射によるヌードマウスへの悪影響は見られなかった。
【0142】
[比較例1]
タラポルフィンナトリウムの評価
市販品のタラポルフィンナトリウム(モノ-L-アスパルチルクロリンe6、Medkoo Biosciences社製)を用いて、前記光毒性の評価方法および腫瘍成長抑制率の評価方法に基づいて評価を実施した。結果を表1、表2および表3に示す。また腫瘍成長抑制率の評価期間内において、全てのヌードマウスが体重減少することなく生存していることを確認し、薬剤投与およびレーザー照射によるヌードマウスへの悪影響は見られなかった。
【0143】
[光毒性の評価結果]
光毒性の評価結果を以下の表1および表2に示した。なお、表中、「IC50」とあるのは、「IC50」を表す。
【0144】
【表1】
【0145】
【表2】
【0146】
[腫瘍成長抑制率の評価結果]
【0147】
【表3】
【0148】
表1および表2より、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例1)、1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例2)、1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例3)、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-ガラクトース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例4)、1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-ガラクトース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例5)、1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-ガラクトース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例6)、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-マンノース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例7)、1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-マンノース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例8)および1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-マンノース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例9)のIC50は、いずれもタラポルフィンナトリウム(比較例1)のIC50よりも小さいことが分かった。
【0149】
表3より、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例1)、1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例2)、1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例3)、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-ガラクトース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例4)、1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-ガラクトース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例5)、1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-ガラクトース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例6)、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-マンノース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例7)、1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-マンノース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例8)および1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-マンノース連結クロリンe6トリメチルエステル(実施例9)の腫瘍成長抑制率は、いずれもタラポルフィンナトリウム(比較例1)の腫瘍成長抑制率よりも大きいことが分かった。
【0150】
以上の実施例と比較例より、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステル、1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステル、1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステル、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-ガラクトース連結クロリンe6トリメチルエステル、1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-ガラクトース連結クロリンe6トリメチルエステル、1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-ガラクトース連結クロリンe6トリメチルエステル、1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-マンノース連結クロリンe6トリメチルエステル、1-(6-ヒドロキシ-ヘキサンチオ)-β-D-マンノース連結クロリンe6トリメチルエステルおよび1-(10-ヒドロキシ-デカンチオ)-β-D-マンノース連結クロリンe6トリメチルエステルは、タラポルフィンナトリウムに比較して優れた光毒性と優れた腫瘍成長抑制効果を有する。
【0151】
[使用細胞株を変更した光毒性の評価]
食道癌細胞株:KYSE30(No.11D028; ECACC)、OE21(No.11D028;ECACC)、胃癌細胞株:MKN45(No.0254;Japanese Cancer Research Bank)、および、大腸癌細胞株:HT29(No.HTB-38;ATCC)を使用し、以下の条件で培養した。
【0152】
KYSE30:RPMI 1640
OE21:RPMI 1640とHam′s F12の半量ずつの混合液
MKN45: RPMI 1640
HT29: McCoy’s 5A
全ての培養液は10%牛胎児血清、100U/mlのペニシリンとストレプトマイシン、0.25mg/mlのアンホテリシンBを含有し、5%CO濃度、37℃の条件下で培養した。
【0153】
上記細胞を使用し、既に説明した「光毒性の評価方法」と同様の方法で、実施例1の1-(3-ヒドロキシ-プロパンチオ)-β-D-グルコース連結クロリンe6トリメチルエステル(表3中「実施例1」と記載した。)、および、TS(比較例)について、IC50(50%癌細胞殺細胞濃度)を求め、「光毒性の評価方法」と同様の基準で評価した。結果を表4に示した。
【0154】
【表4】
【0155】
表4に示した結果から、実施例1の化合物は、優れた光毒性を有しており、本発明の効果を有していることがわかった。
一方、比較例のTSは、癌細胞株の種類によらず、本発明の効果を有していなかった。
【0156】
[癌細胞株への取り込み性能の評価]
細胞株として、ヒト胃癌細胞株:MKN45(No.0254;Japanese Cancer Research Bank)、および、大腸癌細胞株:HT29(No.HTB-38;ATCC)を使用した。
【0157】
細胞培養の条件、および、使用機器は以下のとおりである。
【0158】
培養条件:
培養液としてMKN45についてはRPMI 1640を使用し、HT29についてはMcCoy’s 5Aを使用した。全ての培養液は10%牛胎児血清、100U/mlのペニシリンとストレプトマイシン、0.25mg/mlのアンホテリシンBを含有し、5%CO濃度、37℃の条件下で培養した。
【0159】
使用実験機器:
Flow cytometryには、FACSCantoII(BD Biosicences)を使用した。
【0160】
(試験方法)
6cm培養プレートを用いて、2×10cell/wellの上記癌細胞株を、それぞれ上記条件で28時間培養した。
次に、培養液を除去し、(1)培養液のみ(コントロール)、(2)5μMの実施例1のグリコシル化クロリンe6誘導体を含有した培養液、(3)5μMのTalaporfin Sodium (TS; レザフィリン(登録商標)、Meiji Seikaファルマ)を含有した培養液に置換しさらに4時間培養した。
4時間の培養後、培養液を除去しphosphate-buffered saline(PBS)で3回洗浄し、TrypLE-Express(Invitrogen)を使用して培養プレートより細胞を回収した。
次に、上記FACSCantoIIを用いて、405nmで励起して、680nmの蛍光発光を測定した。各サンプルで少なくとも10,000イベントは測定を行った。測定は、TS、および、実施例1の化合物の蛍光波長帯である650nm近傍を評価するMean Amcyan area(MAA)を測定し、結果を表5に示した。
【0161】
【表5】
【0162】
表5に示したとおり、細胞株としてMKN45を用いた場合、TS(比較例)のMAAは235、実施例1の化合物のMAAは17051であり、実施例1の化合物のMAAは、TSのMAAの約70倍高い値だった。
また、細胞株として、HT29を用いた場合、TS(比較例)のMAAは97、実施例1の化合物のMAAは18669であり、実施例1の化合物のMAAは、TSの約190倍高い値だった。
【0163】
上記から、実施例1の化合物は臨床応用されているTS(比較例)と比較しin vitroでは約70~190倍高い細胞内への取り込み性能を有していることがわかった。このことから、本クロリン誘導体等を用いると、強い腫瘍蛍光が得られることから、光線力学的診断(Photodynamic Diagnosis; PDD)に適用した場合、より優れた感度が得られることが推測される。また、本クロリン誘導体等は、TSと比較して、癌細胞株へのより優れた取り込み性能を有しており、このことから、本クロリン誘導体等が、TSよりも優れたPDTによる殺細胞効果を有していることがわかった。
【0164】
[食道癌細胞株および不死化食道正常上皮細胞株を用いた細胞内取り込み性能評価]
食道癌細胞株:OE21(No.11D028;ECACC)および不死化食道上皮細胞株:Het-1A(No. 3527836;ATCC)を使用し、細胞内取り込み性能を評価した。
【0165】
細胞培養の条件は以下のとおりである。
OE21:RPMI 1640とHam′s F12の半量ずつの混合液
Het-1A:BEGM Bullet kitを培養液として使用した
全ての培養液は10%牛胎児血清、100U/mlのペニシリンとストレプトマイシン、25mg/mlのアンホテリシンBを含有し、5%CO濃度、37℃の条件下で培養した。
【0166】
(試験方法)
96穴プレートを用いて5×10cell/wellの細胞を24時間培養した。その後、1μMのTalaporfin Sodium(TS;レザフィリン(登録商標)、Meiji Seikaファルマ)を含有した培養液、および、1μMの実施例1の化合物を含有した培養液でそれぞれ置換し、4時間培養した。次に、培養液を吸引除去後、phosphate-buffered saline(PBS)で細胞を洗浄し、各well 100μlのPBSを入れ、スペクトロメーター(Gemini EM、Molecular Device)を使用し、波長405nmの光で励起し、細胞からの波長650nmの蛍光発光の強度を測定した。各検体の蛍光強度はブランクで除した値とした。得られた結果はSoftMAX pro softwareで解析した。8回の独立した実験から結果を解析した。結果を図3に示した。なお、図3のグラフの縦軸が蛍光発光強度を示し、これが大きいほど細胞内に化合物が取り込まれていることを表している。
【0167】
図3のグラフに示した結果から、正常食道上皮であるHet-1AではTS(比較例)、実施例1の化合物の細胞内取り込み性能には差は見られなかった。一方、食道癌細胞株であるOE21においてはTS(比較例)と比較して、実施例1の化合物の細胞内取り込み性能が有意に亢進していた(Bonferroni検定 P=0.0002)。
【0168】
[光線力学的療法における抗腫瘍効果の評価]
細胞株として、マウス大腸癌細胞株:CT26(No.CRL-2638;ATCC)を使用した。細胞培養の条件、使用した動物、および、マウス皮下腫瘍モデルの作製方法は以下のとおりである。
【0169】
培養条件:
DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)に10%牛胎児血清、100U/mlのペニシリンとストレプトマイシン、0.25mg/mlのアンホテリシンBを含有し、5%CO濃度、37℃の条件下で培養した。
【0170】
使用動物:
マウスは8~10週齢、雌、約20g体重マウス(BALB/c CrSlc)を使用した。マウスは2週間飼育し環境に順応させた。
【0171】
マウス皮下腫瘍モデルの作製:
マウス右大腿根部背側を中心として約10mm程度の円形に除毛し、皮下に27G針を使用して1×10個のCT26を接種した。接種7日後、腫瘍サイズが平均100mm(長径(mm)×短径(mm)×短径(mm))の皮下腫瘍モデルが作製された。
【0172】
(試験方法)
作製されたマウス皮下腫瘍モデルを3群(未治療コントロール群、実施例1の化合物による治療群、Talaporfin Sodium(TS(比較例);レザフィリン(登録商標)、Meiji Seikaファルマ)治療群)に平均腫瘍サイズが均等になるように10匹ずつ割り付けた。マウス尾静脈より1.56μmol/Kgの濃度の実施例1の化合物またはTSを経静脈投与し、30分後に664nmの赤色半導体レーザー(KOYO-PDL664、OKファイバーテクノロジー)を使用し、計100J/cm(150mW/cm)の単回照射を施行した。治療後の腫瘍サイズは3日毎に電子ノギスを使用し計測した。計測結果はwelchのt検定を用いて2群間を比較した。結果を図4のグラフに示した。
【0173】
図4のグラフに示したとおり、実施例1の化合物を投与した群はコントロールと比較し有意に腫瘍抑制を示しつつ、かつ、マウスの死亡率は0%であった(n=10)。さらに、腫瘍完全消失率は10例中4例で40%であった。一方、TSを投与した群では治療後数日で全例が死亡した。
上記の結果から、実施例1の化合物を用いた場合、投与後30分後に光線を照射しても、マウスの死亡率は0%であり、かつ、高い抗腫瘍効果を示した。これは、実施例1の化合物が、体外へより移出されやすく、投与後の早期に光線照射しても、安全性がより高いことを示している。一方、TSは、投与30分後に光線を照射すると、マウスが全例死亡してしまうことから、投与後の早期に光線照射した場合に、安全性が劣ることが示された。
【0174】
[マウスを用いた単回静脈内投与毒性試験]
実施例1の化合物をマウス(Crl:CD1(ICR)、雌雄各5匹/用量群)に、60、125、および、250mg/kgの用量で単回静脈内投与し、現れる毒性変化を確認した。
照明条件による毒性発現の差を確認するため、本試験では通常照明下(明条件下)と暗条件下の2飼育条件を設定した。投与液量は10ml/kgとした。投与液媒体として10%Cremophor+5%エタノール含有局方生理食塩液を用いた。
【0175】
投与の結果:明条件飼育の250mg/kg群において、雄3例、雌1例が第2日、雌1例が第3日に死亡した。また、暗条件飼育の250mg/kg群においても、雄2例が第2日と第5日に、雌3例が第2~4日に死亡した。これらの動物の一部では、自発運動の低下、呼吸緩徐、および、体温低下が認められた。死亡の発現状況に明暗条件間の差は認められなかった。
【0176】
生存例における一般状態観察:明条件飼育の250mg/kg群の雄2例、雌3例において、第2日以降に尾の腫脹、第9日から耳介の変色が認められた。尾の腫脹は第12日には消失し、回復したが、耳介の変色については、解剖時まで回復せず、雄2例では耳介の一部が欠損となった。暗条件飼育の250mg/kg群の雄1例においても、第14日より耳介の変色が認められたが、耳介先端部における限局的なものであり、症状は明条件飼育において顕著に発現した。
【0177】
体重測定:明条件および暗条件飼育ともに125および250mg/kg群で第4日または第8日に体重減少が認められた。いずれも一時的なものであり、回復する傾向が認められた。体重変動に明暗条件間の差は認められなかった。
【0178】
剖検結果:250mg/kg群に一般症状として認められた耳介の変色、欠損、および、尾の痂皮が認められたのみであった。
【0179】
上記の結果から、実施例1の化合物の単回静脈内投与における最小致死量は、本試験条件下では明飼育条件、暗飼育条件のいずれにおいても雌雄共に250mg/kgであると結論した。また、明条件飼育下では、250mg/kg群投与で尾の腫脹および耳介の変色が認められ、照明条件による差が認められた。
上記の結果から、実施例1の化合物は、安全性が認められる用量で十分な本発明の効果が得られることが推測された。
【0180】
[実施例1の化合物の薬物動態試験]
14C標識された実施例1の化合物を、ラットに静脈内投与し、以下の結果を得た(dose:5mg/kg)。
最初の測定時間である投与後5分に血漿中放射能濃度23.30μg eq. of S実施例1化合物/mlを示した後、急速に減少した。投与後6~8時間において、血漿中放射能濃度の再上昇が認められた後、消失半減期(t1/2)42.65hで消失した。投与直後の血漿中放射能濃度(C)は51.52μg eq./ml、AUC0-lastは30.42μg eq h/ml、AUC0-∞は31.89μg eq.・h/mlであった。実施例1の化合物とTSの結果を表6に示した。
【0181】
【表6】
【0182】
表6に示した結果から、実施例1の化合物は、TSと比較して、血漿中から消失しやすい(消失が早い)ものと推測される。
【0183】
投与後4時間までの胆汁中に投与放射能の88.9%、48時間までに94.9%が排泄された。投与後48時間までの尿及び糞中に、それぞれ投与放射能の4.4%及び0.8%が排泄された。投与後48時間における体内残存率は0.8%であり、総回収率は100.9%であった。以上の結果より,実施例1の化合物の主排泄経路は胆汁を介した糞排泄であることが示唆された。結果を表7に示した。
【0184】
【表7】
【0185】
表7に示した結果から、実施例1の化合物はTSと比較して、0-24時間、及び、48時間後の排出量がいずれもTSを上回っており、より排出されやすいものと推測される。
図1
図2
図3
図4