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7003062トロンボキサンA2受容体拮抗薬により筋ジストロフィーを治療する組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】トロンボキサンA2受容体拮抗薬により筋ジストロフィーを治療する組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/422 20060101AFI20220113BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20220113BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220113BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
A61K31/422
A61P21/04
A61P9/00
A61P1/04
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018559861
(86)(22)【出願日】2017-05-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 US2017032151
(87)【国際公開番号】W WO2017197107
(87)【国際公開日】2017-11-16
【審査請求日】2020-05-11
(31)【優先権主張番号】62/334,748
(32)【優先日】2016-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504154171
【氏名又は名称】カンバーランド ファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】501271033
【氏名又は名称】バンダービルト・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】VANDERBILT UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パブリブ,レオ
(72)【発明者】
【氏名】マシアス-ペレス,イネス
(72)【発明者】
【氏名】ウェスト,ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】キャリア,エリカ
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/176060(WO,A1)
【文献】Am J Respir Crit Care Med,2016年05月01日,Vol.193,A7213
【文献】Pediatric Neurology,1996年,Vol.14, No.1,p.7-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
[1S-(1α,2α,3α,4α)]-2-[[3-[4-[(ペンチルアミノ)カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチル]-ベンゼンプロパン酸(イフェトロバン)又はその薬学的に許容可能な塩を含有する、筋ジストロフィーの治療を必要とする患者において筋ジストロフィーを治療又は改善するための組成物。
【請求項2】
前記筋ジストロフィーがデュシェンヌ型MD(DMD)、ベッカー型MD、及び肢帯型MDから成る群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
慢性的な前記患者に投与するための、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
組成物の投与によって前記患者の心機能が維持又は向上される、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
1S-(1α,2α,3α,4α)]-2-[[3-[4-[(ペンチルアミノ)カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチル]-ベンゼンプロパン酸の1ナトリウム塩(イフェトロバンナトリウム)を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
経口投与、鼻腔内投与、直腸投与、膣投与、舌下投与、口腔内投与、非経口投与又は経皮投与される、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
非経口投与される、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
経口投与される、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記患者において心筋症を予防するために予防的に投与される、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記患者において胃腸障害を予防するために予防的に投与される、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
日当たり約50mg~約500mg、又は約150mg~約350mgのイフェトロバンを経口投与するための、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
[1S-(1α,2α,3α,4α)]-2-[[3-[4-[(ペンチルアミノ)カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチル]-ベンゼンプロパン酸(イフェトロバン)又はその薬学的に許容可能な塩を含有する、筋ジストロフィーを患うヒト患者において、心機能不全及び/又は胃腸障害を治療するための組成物であって、前記ヒト患者に慢性投与するものである、組成物。
【請求項13】
日当たり約100mg~約500mg、又は約150mg~約350mgのイフェトロバンを経口投与するための、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
1S-(1α,2α,3α,4α)]-2-[[3-[4-[(ペンチルアミノ)カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチル]-ベンゼンプロパン酸1ナトリウム塩(イフェトロバンナトリウム)を含有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
前記筋ジストロフィーがDMDである請求項12~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記胃腸障害が平滑筋機能不全である、請求項12~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
組成物の投与によって前記患者の心臓の心室機能を向上させる、請求項12~14のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類、例えばヒトの筋ジストロフィーの治療におけるトロンボキサンA受容体拮抗薬(例えばイフェトロバン)の使用、及び同一用途の医薬組成物であってトロンボキサンA受容体拮抗薬(例えばイフェトロバン)を前記疾患を治療するのに有効な量含む、医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
筋ジストロフィー(MD)は、健康な筋肉を形成するのに必要なタンパク質であるジストロフィンの変異により進行性の衰弱及び筋量の低下を引き起こす、30以上の疾患群である。デュッシェンヌ型MD(DMD)はMDの半分を構成し、3,500人に1人の男児に発症し、1/3は家族歴を有しない。発症は2~3歳の間であり、急速に進行する。ベッカー型MD(BMD)はMDの2番目に一般的な形で、30,000人に1人の男児に発症する。BMDはDMDに比べて穏やかに、かつゆっくりと進行し、10代、20代半ば又はそれ以降まで症状が見られないこともある。肢帯型MD(LGMD)は、14,500人に1人もの数に発症し、近位の腕及び脚の筋肉の衰弱と消耗を引き起こす。
【0003】
筋ジストロフィーの合併症には、歩行不能、呼吸障害、脊柱側弯症、心筋症、嚥下障害が含まれる。治療法はなく、現在までの治療は症状を管理し進行を遅らせることである。
【0004】
デルタ‐サルコグリカン(DSG)は、ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(Dystrophin-associated glycoprotein complex、DGC)として形成する、膜貫通糖タンパク質である。DGCは、細胞外マトリックス(「ECM」;コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、及び体液を含む物質であり、細胞によって産生され、その中に細胞が埋め込まれる)と細胞骨格(細胞の内部構造の要素又はバックボーン。細胞質中に広がる微小管及び多様なフィラメントから成り、構造的な支え及び細胞内輸送の手段の両方を与える。)をつなげることにより細胞膜の統合性を維持することにおいて中心的な役割を果たす。
【0005】
骨格筋及び心筋の両方において、DGCはジストロフィン、シントロフィン、a-及びb-ジストログリカン(a, b-DG)、サルコグリカン(a-, b-, g-, d-SG)及びサルコスパン(SSPN)から成る。
【0006】
ジストロフィン遺伝子内の変異は、DMD及びBMDにおいて心筋症の高い発生率をもたらす。DGCのうちサルコグリカンにおける変異は、肢帯型MDの原因となり、心筋症と関連する。ジストロフィンの主な役割は、ECMを細胞骨格と架橋することにより筋細胞膜を強化することである。ユートロフィンとa7b1インテグリンも同一の役割を果たす。ジストロフィンは筋細胞膜を細胞質内のアクチン細胞骨格につなげるよう働く。機能異常により膜が不安定となり、[Ca2+]Iが上昇し、NOシグナリングが攪乱される。γ‐及びδ‐SGは、他のSGの膜への輸送/保持に必要なコアを形成する。
【0007】
DSG内の変異を有する患者(例えば、筋ジストロフィーを患う患者)は、心筋症を呈す。
【0008】
デュッシェンヌ型の筋ジストロフィー(DMD)において、ジストロフィンの欠如は筋細胞の進行性の崩壊を引き起こす。心臓では、ジストロフィンの欠損は、異常に増加した細胞内カルシウム、収縮タンパク質の分解、線維症及び心筋の死をもたらす。呼吸補助の発達に伴い、心筋症は現在ではDMD患者の間で主要な死因となっている。DMD患者は、心不全をもたらす潜行性の心機能の低下を生じ、不整脈を発症する可能性もあり、たとえ身体的症状又は心エコー図検査による心機能の低下が最小限であっても、突然の心臓死の可能性を有する。このため、心臓磁気共鳴(CMR)は、DMD患者において初期の心臓の合併症を検出するのに有益である。CMRにおいて心筋線維症の増大及び細胞外体積の拡大は左心室(LV)の機能不全を予測し、不整脈及び心不全での入院又は心臓死のリスクの増加と関連する。
【0009】
骨格筋及び心筋ほど深刻に影響されないものの、腸管平滑筋の機能も委縮症と線維症により変化することがある。DMD患者では、特に車いす生活の場合は、これは弱い腸運動
、胃食道逆流及び慢性の便秘をもたらすことがあり、患者の生活の質にネガティブに影響する。より重要なことに、拡張症、宿便又は腸偽閉塞の起こりうる合併症は生命を脅かす可能性がある。
【0010】
DMDの細胞損傷特性はまた、活性酸素種の形成又は酸化ストレスの増加と関連している(非特許文献1)。これらのフリーラジカルは膜リン脂質と反応し、ホスホリパーゼによる放出後自由に循環するイソプロスタンを形成する。比較的安定な15-F2t-イソプロスタン(F2-IsoP)はインビボの酸化ストレスの主要なバイオマーカーとなる(非特許文献2)。DMD患者において血漿のF2-ISoPレベルは増加しており(非特許文献1)、また、心不全の患者において尿のF2-ISoPレベルは増加しており、それらは疾患の重症度と相関している(非特許文献3)。イソプロスタンは、細胞ストレスを告知することに加え、トロンボキサン/プロスタノイド受容体(TPr)の活性化を介して損傷の原因になる可能性もあり、TPrを通したF2-IsoPシグナリングは、血管新生を減少させ血管収縮(非特許文献4)及び線維症を引き起こす(非特許文献5、6)。
【0011】
線維症とは、修復又は反応過程における器官又は組織における過剰な線維性結合組織の形成である。これは反応性、良性、又は病理学的状態であってもよく、結合組織を沈着させるよう生理学的に作用し、下にある器官又は組織の構造及び機能を消失させ得る。線維症は線維組織の過剰な沈着の病理学的状態及び治癒における結合組織の沈着過程を記述するために使用される。線維組織の形成は正常であり、線維組織は身体の器官や組織の正常な構成物であるが、線維症的状態によって生じる傷跡により下にある器官又は組織の構造は消失し得る。
【0012】
現在まで、線維性疾患を治療又は予防するのに有効な、商業的に利用可能な治療法は存在しない。従来の治療ではよくプレドニゾンなどのコルチコステロイド及び/又は筋力を向上させ特定のタイプの筋ジストロフィーの進行を遅らせる他の薬剤が用いられる。また、筋ジストロフィーが心臓に損傷を与える場合、アンジオテンシン変換酵素(ACE)の阻害剤又はベータ遮断薬等の心臓薬が筋ジストロフィー患者に投与されることもある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Grosso等、Isoprostanes in dystrophinopathy: Evidence of increased oxidative stress. Brain Dev. 2008;30(6):391-5. doi:10.1016/j.braindev.2007.11.005. PubMed PMID: 18180123
【文献】Montuschi等、Isoprostanes: markers and mediators of oxidative stress. FASEB J. 2004;18(15):1791-800. doi: 10.1096/fj.04-2330rev
【文献】Cracowski等、Increased formation of F(2)-isoprostanes in patients with severe heart failure. Heart. 2000;84(4):439-40. PubMed PMID:10995421; PMCID: PMC172944614
【文献】Bauer等、Pathophysiology of isoprostanes in the cardiovascular system: implications of isoprostane-mediated thromboxane A2 receptor activation. Brit J Pharmacol. 2014;171:3115-3115
【文献】Acquaviva等、Signaling pathways involved in isoprostane-mediated fibrogenic effects in rat hepatic stellate cells. Free Radic Biol Med. 2013;65:201-7, doi:10.1016/j.freeradbiomed.2013.06.023. PubMed PMID: 23792773
【文献】Comporti等、Isoprostanes and hepatic fibrosis, Mol Aspects Med. 2008;29(1-2):43-9. doi: 10.1016/j.mam.2007.09.011. PubMed PMID: 18061254
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、哺乳類、例えばヒトにおいて筋ジストロフィーを治療する新たな方法を提供することである。
【0015】
上述の目的のために、本発明は、治療有効量のトロンボキサンA受容体拮抗薬を、それを必要とする患者に投与することにより筋ジストロフィーを治療する方法を提供する。
【0016】
上述の目的のために、一部において本発明は、筋ジストロフィーの治療を必要とする患者において筋ジストロフィーを治療又は改善する方法であって、治療有効量のトロンボキサンA受容体拮抗薬を患者に投与することを含む方法を対象とする。筋ジストロフィーはデュッシェンヌ型MD(DMD)、ベッカー型MD及び肢帯型MDから成るグループから選択される線維症である。トロンボキサンA受容体拮抗薬は経口投与、鼻腔内投与、直腸投与、膣投与、舌下投与、口腔内投与、非経口投与又は経皮投与されてもよい。いくつかの好ましい実施形態においては、当該方法はさらにトロンボキサンA受容体拮抗薬を患者に慢性投与することを含む。ある実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬は治療有効量の[1S-(1α,2α,3α,4α)]-2-[[3-[4-[(ペンチルアミノ)カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチル]-ベンゼンプロパン酸(イフェトロバン)及びその薬学的に許容可能な塩を含む。ある実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬は治療有効量の[1S-(1α,2α,3α,4α)]-2-[[3-[4-[(ペンチルアミノ)カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチル]-ベンゼンプロパン酸の1ナトリウム塩(イフェトロバンナトリウム)を含む。ある好ましい実施形態では、患者の心機能が維持、又は向上される。本発明のある実施形態は、患者において心筋症を予防するために、及び/又は患者において胃腸障害を予防するために、トロンボキサンA受容体拮抗薬が予防的に投与される方法を対象とする。ある好ましい実施形態では、治療有効量は約50mg~約500mgである。ある好ましい実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬はイフェトロバンであり、治療有効量は1日当たり約150mg~約350mgである。ある実施形態では、イフェトロバンは経口投与される。ある実施形態では、本発明は筋ジストロフィーの治療及び/又は改善をそれを必要とする患者において行う方法であって、治療有効量のトロンボキサンA受容体拮抗薬を、それを必要とする患者に投与して、約0.1ng/ml~約10,000ng/mlの所望のトロンボキサンA受容体拮抗薬の血漿濃度を与えることを含む方法を対象とする。
【0017】
本発明はまた、本明細書に記載のようにトロンボキサンA受容体拮抗薬を投与することにより、筋ジストロフィーを患うヒト患者に心臓保護効果を与える方法を対象とする。
【0018】
本発明はさらに、本明細書に記載のようにトロンボキサンA受容体拮抗薬を投与することにより、筋ジストロフィーを患うヒト患者においてストレス負荷に対する適正な心臓の適応を向上させる方法を対象とする。
【0019】
本発明はさらに、筋ジストロフィーを患うヒト患者において心機能障害及び/又は胃腸障害を治療する方法であって、治療有効量のトロンボキサンA受容体拮抗薬をヒト患者に慢性投与することを含む方法を対象とする。ある好ましい実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬は[1S-(1α,2α,3α,4α)]-2-[[3-[4-[(ペンチルアミノ)カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチル]-ベンゼンプロパン酸(イフェトロバン)及びその薬学的に許容可能な塩であり、最も好ましい実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬は[1S-(1α,2α,3α,4α)]-2-[[3-[4-[(ペンチルアミノ)カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチル]-ベンゼンプロパン酸の1ナトリウム塩(イフェトロバンナトリウム)である。治療有効量は例えば約100mg~約500mgであっても良い。トロンボキサンA受容体拮抗薬は、例えば1日当たり約50又は100mgから約500mgの量で投与されても良い。ある実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬はイフェトロバン又はその薬学的に許容可能な塩であり、1日用量が1日当たり約150mg~約350mgである。ある実施形態では、イフェトロバンは経口投与される。ある実施形態では胃腸障害は平滑筋機能不全である。ある実施形態では、治療有効量のイフェトロバンが患者の心臓の心室機能を向上させる。
【0020】
本発明はまた、筋ジストロフィーの治療を、それを必要とする哺乳類又はヒトにおいて行うための方法及び組成物に関し、当該方法は治療有効量のトロンボキサンA受容体拮抗薬を、それを必要とする対象又は患者に投与することを含む。好ましくは、当該治療方法は組成物を投与することを含み、治療有効量のトロンボキサンA受容体拮抗薬を、それを必要とする筋ジストロフィー患者に心機能を向上するのに有効な量投与することを含む。さらに、線維症又は硬化症の予防を、そのような治療を必要とする対象又は患者において行う方法であって、トロンボキサンA受容体拮抗薬を含む組成物を、そのような治療がされない場合に起こりうる線維性又は硬化性組織の形成を減少させるのに有効な量で投与することを含む、方法が提供される。
【0021】
ある実施形態では、線維症は心臓の線維症、腎線維症、肝線維症、肺線維症及び全身性硬化症から成るグループから選択される線維増殖性の疾患と関連する。
【0022】
以下の図面は本発明の実施形態を説明するものであり、請求項に包含される発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1A】10週目にビヒクル処理したDKO(ダブルノックアウト)マウスの写真である。
図1B】10週目にイフェトロバン処理したDKOマウスの写真である。
図2】(ビヒクル処理対イフェトロバン処理の)3カ月目のdSG KO オスにおける血漿cTNIを示すグラフである。
図3】マウスにおける3カ月目のエコーデータを示すグラフである(WT(野生型)、dSG-ビヒクル、及びdSG-イフェトロバン処理)。
図4】3カ月目のオスマウスについての心拍出量データを与えるグラフである(WT、dSG KO-ビヒクル、及びdSG KO-イフェトロバン処理)。
図5】6カ月齢オスについての自発的運動データを与えるグラフである(WT、dSG-ビヒクル、及びdSG-イフェトロバン処理);。
図6】6カ月目のオスマウスにおける平均のワイヤーぶら下がり時間を示すグラフである(WT、dSG-ビヒクル、及びdSG-イフェトロバン処理)。
図7】6カ月でのワイヤーぶら下がり実験の結果(平均のぶら下がり時間)を示すグラフである(WT、dSG;ビヒクル対イフェトロバン処理;2-way ANOVAにより遺伝子型についてP=0.0056)。
図8】試験されたオスマウスについての6カ月目でのワイヤーぶら下がり時間(最長時間)を示すグラフである(WT、dSG-ビヒクル、dSG-イフェトロバン処理)。
図9】dSG KOオスの心臓組織学を示す心臓組織の断面である(ビヒクル及びイフェトロバン処理)。
図10】dSG KOオスの心臓組織学を示す、心臓組織の断面である(マッソントリクロームを使用、2x;ビヒクル及びイフェトロバン処理)
図11】dSG KOオスの心臓組織学を示す、心臓組織の断面である(マッソントリクロームを使用、10x;ビヒクル及びイフェトロバン処理)。
図12】WT及びdSG KOオスの骨格筋組織学を示す、心臓組織の断面図である(脛骨筋横断面、マッソントリクロームを使用;ビヒクル及びイフェトロバン処理)。
図13】腸組織の断面であり、イフェトロバン処理されたdSG KOマウスはビヒクル処理されたdSG KOマウスよりも軽い線維症を有することを示す(H&E、10x)。
図14】イフェトロバン又はビヒクルで処理されたdSG KOオス及びメスの生存パーセントを示すグラフである。
図15】10週目のWT及びDKOオスにおけるワイヤーぶら下がりを示すグラフである(イフェトロバン処理(「ife」)対ビヒクル)。
図16】9-10週で測定されるWT及びDKOマウスにおける自発的な走行を示すグラフである(DKO-ビヒクル及びDKO-イフェトロバン処理)。
図17】すべてのDKOマウスについての生存を示すグラフである(ビヒクル及びイフェトロバン処理)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上述の目的の通り、治療有効量のトロンボキサンA受容体拮抗薬を、それを必要とする対象又は患者に投与することにより筋ジストロフィーに関連する心筋症を治療することができると考えられる。
【0025】
「治療有効量」という語句は、任意の治療に適用可能な、妥当な利益/リスク比で所望の局所的又は全身的効果を生じる物質の量を指す。そのような物質の有効量は、治療される対象と病状、対象の体重と年齢、病状の重症度、及び投与方法等によって異なり、当業者によって容易に決定されうる。
【0026】
TPrは、血小板、免疫細胞、平滑筋、及び心筋細胞に局在するGタンパク質共役受容体であり、その活性化は心臓に有害な結果をもたらす。我々は最近、拮抗薬であるイフェトロバンによるTPrの遮断は劇的に右心室の線維症を減少させ、肺動脈高血圧症の圧過負荷モデルにおいて心機能を向上させることを示した(米国特許出願公開第2015/0328190号)。TPrには、F2-IsoP、トロンボキサンA2、プロスタグランジンH2及び20-HETEを含む複数の内生のリガンドがあるが、オザグレルによるトロンボキサン合成酵素の遮断、又はアスピリンによるプロスタグランジン/トロンボキサン合成の遮断は、我々の圧過負荷モデルにおいて線維症又は心機能に効果がなかった。このため、F2-IsoPはストレスのかかった心臓においてTPrの活性化リガンドとして優れた候補である。右心室に加え、TPrの活性化はまた、全身性高血圧及びGh-過剰発現のマウスモデルにおいて、左心室肥大及び心不全の一因となる。さらに、TPrの活性化は細胞内カルシウムの増加、不整脈、及び心室心筋細胞における細胞死を引き起こし、腸において蠕動を減少させる。MDにおけるTPrの役割はまだ知られていないが、これらの作用は当該受容体を、DMDにおけるいくつかの最も差し迫った問題に影響を与えるよう位置づける。
【0027】
本出願人は、TPrの活性が筋ジストロフィーにおける病状の一因となる可能性を探索した。予備調査では、肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)の、δ‐サルコグリカンノックアウト(dSG KO)マウスモデルにおいてTPr活性の遮断の効果。我々は、飲料水に入れて与えられた拮抗薬イフェトロバンによる治療は、上昇した血漿中の心臓トロポニンIレベル(臨床的に使用される心外傷のバイオマーカー)を正常化しつつ、心線維症の形成を制限し、心機能の低下を予防することを発見した。左心室心外膜の線維症の抑制は、心線維症が典型的には左心室(LV)自由壁の心外膜下において始まり、残りのLV自由壁及び中隔を含むよう進行するDMD患者に対し、特に適用可能であり得る。イフェトロバンによる治療はまたdSG KOマウスにおいて生存を著しく向上させ、重症のDMDのモデルであるユートロフィン/ジストロフィンダブルノックアウト(DKO)マウスにおいて、イフェトロバンによるTPr拮抗作用は10週間の生存を56%から100%に向上させた。したがって、TPr活性は筋ジストロフィーにおける病状の一因となると考えられる。
【0028】
本発明によれば、TPrを通したイソプロスタンシグナリングの増加は、DMDにおいて心筋症及び平滑筋機能不全の一因となる。このため、(DMDの前臨床マウスモデルにおいて実証されるように)経口活性なTPr拮抗薬であるイフェトロバンによる治療は、哺乳類において心臓及び腸の機能を向上させ自然発生的な死亡率を低下させる。また、トロンボキサンA受容体拮抗薬(イフェトロバン)による治療は、心臓の再生能力を増大させることにより心臓保護に寄与する可能性があり、それゆえ心臓の機能向上(例えば向上した心室機能)を提供し得ると考えられる。このように本発明は一部において、DMDにおける心機能障害及び/又は胃腸障害の治療としてのTPr拮抗薬の使用を対象とする。本発明はまた、一部において、筋ジストロフィー(ヒト)患者の心臓の再生能力を増大させること及び/又は心臓の機能向上を提供することにより、心臓保護を提供するためのTPR拮抗薬の使用を対象とする。
【0029】
本明細書で用いられる「トロンボキサンA受容体拮抗薬」という用語は、標準的なバイオアッセイ又はインビボにおいて又は治療上有効な投与量で使用された場合に、トロンボキサン受容体の発現又は活性を、少なくとも又は少なくとも約30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%阻害する化合物を指す。ある実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬はトロンボキサンAの受容体への結合を阻害する。トロンボキサンA受容体拮抗薬は競合的拮抗薬(すなわち受容体に対してアゴニストと競合する拮抗薬)及び非競合的拮抗薬を含む。トロンボキサンA受容体拮抗薬は受容体に対する抗体を含む。抗体はモノクローナルであっても良い。それらはヒト又はヒト化抗体であっても良い。トロンボキサンA受容体拮抗薬はまた、トロンボキサン合成酵素阻害剤、並びにトロンボキサンA受容体拮抗薬活性及びトロンボキサン合成酵素阻害剤活性の両方を有する化合物を含む。
【0030】
トロンボキサンA 受容体拮抗薬
トロンボキサンA受容体拮抗薬の発見及び開発は、約30年間多くの製薬会社の目標であった(Dogne J-M等、Exp. Opin. Ther. Patents 11: 1663-1675 (2001))。これらの会社によって同定された、トロンボキサンA合成酵素阻害活性が付随している又は付随していない、個々の化合物には、イフェトロバン(BMS)、リドグレル(Janssen)、テルボグレル(BI)、UK-147535(Pfizer)、GR32191(Glaxo)、及びS-18886(Servier)が含まれる。前臨床薬理により、このクラスの化合物は、トロンボキサン経路の阻害により得られる有効な抗血栓作用を有することが立証された。これらの化合物はまた、血管床内でトロンボキサンA受容体に作用するトロンボキサンA及びその他のプロスタノイドにより誘導される血管収縮を抑制し、このため肝腎症候群及び/又は肝性脳症の予防及び/又は治療における使用に有益であり得る。
【0031】
本発明における使用に適したトロンボキサンA受容体拮抗薬は、例えば、限定されないが、イフェトロバン (BMS; [1S-(1α,2α,3α,4α)]-2-[[3-[4-[(ペンチルアミノ)カルボニル-l]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2 イル]メチル]ベンゼンプロパン酸)のような小分子、並びに米国特許出願公開第2009/0012115号(その開示は全体的に本明細書に参照により組み込まれる)に記載の他の分子を含んでも良い。
【0032】
本明細書における使用に適した更なるトロンボキサンA受容体拮抗薬はまた、米国特許第4,839,384号(Ogletree); 5,066,480号(Ogletree等); 5,100,889号(Misra等); 5,312,818号(Rubin等); 5,399,725号(Poss等); 及び6,509,348号(Ogletree) に記載されており、それらの開示は全体的に本明細書に参照により組み込まれる。これらは、限定されないが、米国特許第5,100,889号に開示されている、インターフェニレン 7-オキサビシクロ‐ヘプチル置換複素環アミドであるプロスタグランジン類似体を含んでもよく、以下を含む:
[1S-(1α, 2 α, 3 α, 4α)]-2-[[3-[4-[[(4-シクロ-ヘキシルブチル)アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-イル]メチル]ベンゼンプロパン酸 (SQ 33,961)、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-(1α, 2 α, 3 α, 4α)]-2-[[3-[4-[[[(4-クロロ- フェニル)-ブチル]アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチル]ベンゼンプロパン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-(1α, 2 α, 3 α, 4α)]-3-[[3-[4-[[(4-シクロヘキシルブチル)-アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]ベンゼン酢酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-(1α, 2 α, 3 α, 4α)]-[2-[[3-[4-[[(4-シクロヘキシル-ブチル)アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチル]フェノキシ]酢酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-(1α, 2α, 3α, 4α]-2-[[3-[4-[[(7,7-ジメ-チルオクチル)-アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-メチル]ベンゼンプロパン酸、又はそのエステル若しくは塩。
【0033】
1992年3月31日に発行された米国特許第5,100,889号に開示されている、7-オキサビシクロヘプチル置換複素環アミドであるプロスタグランジン類似体、例えば
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α)]-6-[3-[4-[[(4-シクロヘキシルブチル)アミノ]-カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[4-[[(4-シクロヘキシル-ブチル)アミノ]カルボニル]-2-チアゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[4-[[(4-シクロヘキシル-ブチル)メチルアミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ-[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[4-[(1-ピロリジニル)-カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[4-[(シクロヘキシルアミノ)-カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[4-[[(2-シクロヘキシル-エチル)アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[4-[[[2-(4-クロロ-フェニル)エチル]アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ-[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α)]-6-[3-[4-[[(4-クロロフェニル)-アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[4-[[[4-(4-クロロ-フェニル)ブチル]アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ-[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[11α, 2α (Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[4.アルファ.-[[-(6-シクロヘキシル-ヘキシル)アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[4-[[(6-シクロヘキシル-ヘキシル)アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α]]-6-[3-[4-[(プロピルアミノ)-カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[4-[[(4-ブチルフェニル)-アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[4-[(2,3-ジヒドロ-1H-インドール-1-イル)カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ( 2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[4-[[(4-シクロヘキシル-ブチル)アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-N-(フェニルスルホニル)-4-ヘキセンアミド;
[1S-[11α, 2α (Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[4-[[(4-シクロヘキシル-ブチル)アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-N-(メチルスルホニル)-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセンアミド;
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α)]]-7-[3-[4-[[(4-シクロヘキシル-ブチル)アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ (2.2.1]ヘプト-2-イル]-5-ヘプテン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[1α, 2α (Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[4-[[(4-シクロヘキシル-ブチル)アミノ]カルボニル]-1H-イミダゾール-2-イル]-7-オキサビシクロ-[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[1α, 2α, 3α, 4α)]-6-[3-[4-[[(7, 7-ジメチルオクチル)-アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
[1S-[1α, 2α(E), 3α, 4α)]]-6-[3-[4-[[(4-シクロヘキシル-ブチル)アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸;
[1S-[1α, 2α, 3α, 4α)]-3-[4-[[(4-(シクロヘキシルブチル)-アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-ヘキサン酸、又はそのエステル若しくは塩,
[1S-[1α, 2α(Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[4-[[(4-シクロヘキシル- ブチル)アミノ]カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ-[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸、又はそのエステル若しくは塩;
【0034】
[1S-(1α, 2α(Z), 3α(1E, 3S*, 4R*), 4α)]]-7-[3-(3-ヒドロキシ-4-フェニル-1-ペンテニル)-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-5-ヘプテン酸(SQ 29,548)等の、Snitman等の米国特許第4,537,981号(その開示は全体的に本明細書に参照により組み込まれる)に開示されている7-オキサビシクロヘプタン及び7-オキサビシクロヘプテン化合物;[1S-[1α, 2α(Z), 3α, 4α)]]-7-[3-[[2-(フェニルアミノ)カルボニル]-ヒドラジノ]メチル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-5-ヘプテン酸等の、Nakane等の米国特許第4,416,896号(その開示は全体的に本明細書に参照により組み込まれる)に開示されている7-オキサビシクロヘプタン置換アミノプロスタグランジン類似体;[1S-[1α, 2α(Z), 3α, 4α)]]-7-[3-[[[[(1-オキソヘプチル)アミノ]-アセチル]アミノ]メチル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-5-ヘプテン酸及び対応するテトラゾール、並びに[1S-[1α, 2α(Z), 3α,4α)]]-7-[3-[[[[(4-シクロヘキシル-1-オキソブチル)-アミノ]アセチル]アミノ]メチル]-7-オキサビシクロ]2.2.1]ヘプト-2-イル]-5-ヘプテン酸等の、Nakane等の米国特許第4,663,336号(その開示は全体的に本明細書に参照により組み込まれる)に開示されている、7-オキサビシクロヘプタン置換ジアミドプロスタグランジン類似体;
【0035】
米国特許第4,977,174号(その開示は全体的に本明細書に参照により組み込まれる)に開示されている、7-オキサビシクロヘプタンイミダゾールプロスタグランジン類似体:
[1S-[1α, 2α(Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[[4-(4-シクロヘキシル-1-ヒドロキシブチル)-1H-イミダゾール-1-イル]メチル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸又はそのメチルエステル;
[1S-[1α, 2α(Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[[4-(3-シクロヘキシル-プロピル)-1H-イミダゾール-1-イル]メチル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸又はそのメチルエステル;
[1S-[1α., 2α(X(Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[[4-(4-シクロヘキシル-1-オキソブチル)-1H-イミダゾール-1-イル]メチル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸又はそのメチルエステル;
[1S-[1α, 2α(Z), 3α, 4α]]-6-[3-(1H-イミダゾール-1-イルメチル)-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸又はそのメチルエステル;又は
[1S-[1α, 2α(Z), 3α, 4α)]]-6-[3-[[4-[[(4-シクロヘキシル-ブチル)アミノ]カルボニル]-1H-イミダゾール-1-イル]メチル-7-オキサビシクロ-[2.2.1]- ヘプト-2-イル]-4-ヘキセン酸又はそのメチルエステル等;
【0036】
4-[2-(ベンゼンスルファミド)エチル]フェノキシ-酢酸(BM 13,177-Boehringer Mannheim)を含む、Witte等の米国特許第4,258,058号(その開示は全体的に本明細書に参照により組み込まれる)に開示されているフェノキシアルキルカルボン酸、4-[2-(4-クロロベンゼンスルホンアミド)エチル]-フェニル酢酸(BM 13,505, Boehringer Mannheim)を含む、Witte等の米国特許第4,443,477号(その開示は全体的に本明細書に参照により組み込まれる)に開示されているスルホンアミドフェニルカルボン酸、4-(3-((4-クロロフェニル)スルホニル)プロピル)ベンゼン酢酸を含む、米国特許第4,752,616号(その開示は全体的に本明細書に参照により組み込まれる)に開示されているアリールチオアルキルフェニルカルボン酸。
【0037】
本明細書における使用に適したトロンボキサンA受容体拮抗薬の他の例は、限定されないが、バピプロスト(好ましい例である)、R68,070‐Janssen Research Laboratoriesとも呼ばれる(E)-5-[[[(ピリジニル)]3-(トリフルオロメチル)フェニル]メチレン]アミノ]-オキシ]ペンタン酸、3-[1-(4-クロロフェニルメチル)-5-フルオロ-3-メチルインドール-2-イル]-2,-2-ジメチルプロパン酸[(L-655240 Merck-Frosst) Eur. J. Pharmacol. 135(2):193, Mar. 17, 87]、5(Z)-7-([2,4,5-シス]-4-(2-ヒドロキシフェニル)-2-トリフルオロメチル-1,3-ジオキサン-5-イル)ヘプテン酸(ICI 185282, Brit. J. Pharmacol. 90 (Proc. Suppl):228 P-Abs, March 87)、5(Z)-7-[2,2-ジメチル-4-フェニル-1,3-ジオキサン-シス-5-イル]ヘプテン酸(ICI 159995, Brit. J. Pharmacol. 86 (Proc. Suppl):808 P-Abs., December 85)、N,N'-ビス[7-(3-クロロベンゼンアミノ-スルホニル)-1,2,3,4-テトラヒドロ-イソキノリル]ジスルホニルイミド(SKF 88046, Pharmacologist 25(3):116 Abs., 117 Abs, August 83)、(1.アルファ.(Z)-2.ベータ., 5.アルファ.]-(+)-7-[5-[[(1,1'-ビフェニル)-4-イル]-メトキシ]-2-(4-モルホリニル)-3-オキソシクロペンチル]-4-ヘプテン酸(AH 23848 -Glaxo, Circulation 72(6):1208, December 85、レバロルファンアリルブロミド(CM 32,191 Sanofi, Life Sci. 31 (20-21):2261, Nov. 15, 82)、(Z,2-エンド-3-オキソ)-7-(3-アセチル-2-ビシクロ [2.2.1]ヘプチル-5-ヘプタ-3Z-エン酸、4-フェニル-チオセミカルバゾン(EP092-Univ. Edinburgh, Brit. J. Pharmacol. 84(3):595, March 85); GR 32,191 (バピプロスト)-[1R-[1.アルファ.(Z), 2.ベータ., 3.ベータ., 5.アルファ.]]-(+)-7-[5-([1,1'-ビフェニル]-4-イルメトキシ)-3-ヒドロキシ-2-(1-ピペリジニル)シクロペンチル]-4-ヘプテン酸; ICI 192,605-4(Z)-6-[(2,4,5-シス)2-(2-クロロフェニル)-4-(2-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキサン-5-イル]ヘキセン酸; BAY u 3405 (ラマトロバン)-3-[[(4-フルオロフェニル)-スルホニル]アミノ]-1,2,3,4-テトラヒドロ-9H-カルバゾール-9-プロパン酸;又はONO 3708-7-[2.アルファ., 4.アルファ.-(ジメチルメタノ)-6.ベータ.-(2-シクロペンチル-2.ベータ.-ヒドロキシアセトアミド)-1.アルファ.-シクロヘキシル]-5(Z)-ヘプテン酸; (.+-.)(5Z)-7-[3-エンド-((フェニルスルホニル)アミノ]-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エキソ-イル]-ヘプテン酸(S-1452, Shionogi domitroban, Anboxan(登録商標));(-)6,8-ジフルオロ-9-p-メチルスルホニルベンジル-1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾール-1-イル-酢酸(L670596, Merck)及び(3-[l-(4-クロロベンジル)-5-フルオロ-3-メチル-インドール-2-イル]-2,2-ジメチルプロパン酸(L655240, Merck)を含む。
【0038】
本発明の好ましいトロンボキサンA受容体拮抗薬は、イフェトロバン又は任意のその薬学的に許容可能な塩である。
【0039】
ある好ましい実施形態では、好ましいトロンボキサンA受容体拮抗薬はイフェトロバンナトリウム(化学的に[1S-(1α,2α,3α,4α)]-2-[[3-[4-[(ペンチルアミノ)カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチル]-ベンゼンプロパン酸の1ナトリウム塩として知られている)である。
【0040】
治療方法
本発明のある実施形態では、治療有効量のトロンボキサンA受容体拮抗薬を、それを必要とする患者に投与することにより、患者又は患者集団において心筋症を治療及び/又は改善する方法が提供される。
【0041】
治療有効量のトロンボキサンA受容体拮抗薬の投与は、経口投与、鼻腔内投与、直腸投与、膣投与、舌下投与、口腔内投与、非経口投与又は経皮投与を含むがこれらに限定されない、任意の治療上有用な投与経路により行われても良い。ある好ましい実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬は非経口投与される。ある更なる実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬は関節内注射により投与される。ある更なる実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬は罹患した解剖学的部位に直接投与される。他の実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬は肝動脈を通して投与される。
【0042】
ある好ましい実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬の血漿濃度は約0.1 ng/ml~約10,000 ng/mlの範囲である。好ましくは、トロンボキサンA受容体拮抗薬の血漿濃度は約1 ng/ml~約1,000 ng/mlである。
【0043】
トロンボキサンA受容体拮抗薬がイフェトロバンである場合、ある実施形態において筋ジストロフィーにおける心筋症の治療のために望ましい血漿濃度は約10 ng/mL(イフェトロバン遊離酸)より高くなるべきである。トロンボキサンA受容体拮抗薬、例えばイフェトロバン、のいくつかの治療効果は約1 ng/mLより高い濃度で見られうる。
【0044】
投与量は患者の年齢、体重及び状態、並びに投与経路、剤形、投薬計画及び所望の結果に従って調整すべきである。
【0045】
筋ジストロフィー患者における心筋症の治療のためにトロンボキサンA受容体拮抗薬の望ましい血漿濃度を得るために、トロンボキサンA受容体拮抗薬の1日用量は、好ましくは約0.1 mg~約5000 mgの範囲である。より好ましい実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬は慢性投与される。1日用量は、一日当たり約1 mg~約1000 mg; 約10 mg~約1000 mg; 約50 mg~約500 mg; 約100 mg~約500 mg; 約200 mg~約500 mg; 約300 mg~約500 mg; 又は約400 mg~約500 mgの範囲であっても良い。前記哺乳類がヒト患者である、ある好ましい実施形態では、治療有効量は1日当たり約100mg~約2000mg、又は1日当たり約10mg若しくは約100mg~約1000mgであり、ある実施形態では、より好ましくは1日当たり約50~約500mg、又は1日当たり約100mg~約500mgである。1日用量は、分割された用量で、1回のボーラス若しくは単位用量で、又は同時投与される複数の投薬量で、投与されても良い。これに関して、イフェトロバンは経口投与、鼻腔内投与、直腸投与、膣投与、舌下投与、口腔内投与、非経口投与又は経皮投与されても良い。ある好ましい実施形態では、上述の医薬組成物、治療有効量は1日当たり約10mg~約1000mgのイフェトロバン(又はその薬学的に許容可能な塩)である。ある好ましい実施形態では治療有効量が1日当たり約100~約500mgであり、ある実施形態では1日当たり約150mg~約350mgにより、筋ジストロフィーの治療のために治療上有効な血漿レベルのイフェトロバン遊離酸が生じる。ある好ましい実施形態では、約10mg~約250mg(イフェトロバン遊離酸の量)のイフェトロバンナトリウムの1日用量により、筋ジストロフィーの治療のために治療上有効な血漿レベルのイフェトロバン遊離酸が生じる。
【0046】
好ましくは、筋ジストロフィーの治療のためにトロンボキサンA受容体拮抗薬の治療上有効な血漿濃度は約1ng/ml~約1,000ng/mlの範囲である。
【0047】
トロンボキサンA受容体拮抗薬がイフェトロバンである場合、A/プロスタグランジンエンドペルオキシド受容体(TPr)活性化の阻害効果、ひいては脳微小血管の活性化の低下を提供するための望ましい血漿濃度は約10ng/mL(イフェトロバン遊離酸)より高いものとすべきである。トロンボキサンA受容体拮抗薬、例えばイフェトロバン、のいくつかの阻害効果は約1ng/mLよりも高い濃度で見られ得る。
【0048】
投与量は患者の年齢、体重及び状態、並びに投与経路、剤形、投薬計画及び所望の結果に従って慎重に調整しなければならない。
【0049】
しかしながら、トロンボキサンA受容体拮抗薬の望ましい血漿濃度を得るために、約0.1mg~約5000mgの範囲の1日用量のトロンボキサンA受容体拮抗薬が投与されなければならない。好ましくは、トロンボキサンA受容体拮抗薬の1日用量は、1日当たり約1 mg~約1000 mg; 約10 mg~約1000 mg; 約50 mg~約500 mg; 約100 mg~約500 mg; 約200 mg~約500 mg; 約300 mg~約500 mg; 又は約400 mg~約500 mgの範囲である。
【0050】
ある好ましい実施形態では、約10mg~約250mg(イフェトロバン遊離酸の量)のイフェトロバンナトリウムの1日用量により、有効な血漿レベルのイフェトロバン遊離酸が生じる。
【0051】
医薬組成物
本発明のトロンボキサンA受容体拮抗薬は任意の薬学的に有効な経路により投与することができる。例えば、トロンボキサンA受容体拮抗薬は経口投与、鼻腔内投与、直腸投与、膣投与、舌下投与、口腔内投与、非経口投与又は経皮投与することができるような方法で製剤化することができ、したがって、適宜製剤化することができる。
【0052】
ある実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬は薬学的に許容可能な経口剤形で製剤化され得る。経口剤形は、限定されないが、経口固形剤形及び経口液状剤形を含み得る。
【0053】
経口固形剤形は、限定されないが、錠剤、カプセル、カプレット、粉薬、ペレット、多粒子、ビーズ、球及びこれらの任意の組み合わせを含み得る。これらの経口固形剤形は即放性、制御放出、持続性(徐放性)、放出調節製剤として製剤化され得る。
【0054】
本発明の経口固形剤形はまた、充填剤、希釈剤、潤沢剤、界面活性剤、滑剤、結合剤、分散剤、懸濁剤、分散剤、増粘剤、皮膜形成剤、造粒助剤、着香料、甘味料、コーティング剤、可溶化剤、及びこれらの組み合わせ等の薬学的に許容可能な賦形剤を含みうる。
【0055】
所望の放出特性に応じて、本発明の経口固形剤形は適量の制御放出剤、徐放剤、放出調節剤を含みうる。
【0056】
経口液状剤形は、限定されないが、液剤、乳剤、懸濁液、シロップ剤を含む。これらの経口液状剤形は、液状剤形の調合のために当業者に知られている任意の薬学的に許容可能な賦形剤を用いて製剤化されても良い。例えば水、グリセリン、単シロップ、アルコール、及びこれらの組み合わせである。
【0057】
本発明のある実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬は非経口的に使用するのに適した剤形に製剤化されても良い。例えば、剤形は凍結乾燥粉末、溶液、懸濁液(例えばデポー懸濁液)であっても良い。
【0058】
他の実施形態では、トロンボキサンA受容体拮抗薬は、局所用の剤形、例えば限定されないが、貼付剤、ゲル剤、ペースト剤、クリーム剤、乳剤、リニメント剤、バルム、ローション、軟膏等に製剤化され得る。
【実施例
【0059】
下記の実施例は限定することを目的とせず、本発明の特定の実施形態を表す。
[実施例1]
この実施例では、イフェトロバンナトリウム錠剤を、下記の表1に記載の成分で調合する。
【0060】
【表1】
【0061】
イフェトロバンナトリウム塩、酸化マグネシウム、マンニトール、微結晶性セルロース、及びクロスポビドンを適切なミキサーを使用して約2~約10分間混合した。得られた混合物を#12~#40の網目サイズのふるいに通した。その後、ステアリン酸マグネシウム及びコロイド状シリカを加え、約1~約3分間混合し続けた。
【0062】
その後、得られた均質の混合物を圧縮し、各々35mgのイフェトロバンナトリウム塩を含む錠剤とした。
【0063】
[実施例2]
この実施例では、各々400mgのイフェトロバンナトリウムを含む1000個の錠剤を、下記の表2に記載の成分から製造した。
【0064】
【表2】
【0065】
[実施例3]
イフェトロバンナトリウムの注射可能な溶液を、下記の表3に記載の成分で、静脈内で用いるために調合した。
【表3】
【0066】
イフェトロバンのナトリウム塩、保存料、及び塩化ナトリウムを3リットルの注射用水に溶解し、その後体積を5リットルまでかさ上げする。当該溶液を滅菌フィルターを通して濾過し、事前に滅菌されたバイアルに無菌的に充填し、そしてバイアルを事前に滅菌されたゴム蓋で閉じる。各々のバイアルは、150mLの溶液につき75mgの活性成分の濃度を含む。
【0067】
[実施例4]
心臓の表現型で選ばれるdSG KOマウスはLGMDのモデルであるが、新生男児(1)約3500人に1人の割合で起こるDMDはLGMDよりもはるかに一般的な疾患である。DMDのmdxマウスモデルは、DMD患者に見られる短縮された平均余命、心線維症、及び心筋症を十分に再現しない。ユートロフィン/ジストロフィンDKOモデルは、10週までに顕著な死亡率を有するが、TPr拮抗薬であるイフェトロバンで治療すると、この所定の時点まで100%が生存する。TPr拮抗作用はDMDにおいて自然死を予防し得るが、重度の後湾症及び衰弱のため、DMDのDKOモデルを用いて多くの有用な心臓データを得ることはできなかった。
【0068】
実施例4はWest/Carrier筋ジストロフィー動物モデル(デルタ‐サルコグリカンノックアウトマウス(sgcd-/-))を使用した。DSGを欠くマウスは心筋症及びMDを発症し、最初の3カ月以内に壊死、筋新生(muscular regeneration)、炎症、及び線維症などの進行性疾患の徴候を伴う。標的の変異についてホモ接合性であるマウスは生存可能であり、繁殖力があり、大きさが普通である。遺伝子産物(タンパク質)は骨格筋ミクロソーム試料においてまったく免疫検出されない。8週齢で突然死の発生があり、28週目には50%の生存率となる。クレアチンキナーゼの血清レベルの上昇は横紋筋変性を示している。骨格筋組織の組織病理により、筋線維の変性及び新生、炎症性浸潤、血管周囲線維症並びに石灰化が明らかとなる。12週齢で、心筋組織はまた、変性、炎症性浸潤及び血管周囲線維症を示し始める。筋原線維膜は、エバンスブルー色素の筋原線維細胞質への取り込みにより評価される透過性の欠陥を有する。変異マウスの骨格筋は、機械的に誘導される筋線維鞘の損傷に対する感度が上昇する。ジストロフィン欠損マウスは25%だけ平均余命が減少するという最小限の臨床症状を有し、75%減少するDMDのヒトとは異なる。これはおそらく、マウスでは代償機構が上方調節されるためである。ジストロフィンの主要な機能は、ECMを細胞骨格と架橋することにより筋線維鞘を強化することである。ユートロフィン及びa7b1インテグリンも同一の機能を果たし、mdxマウスにおいて上方調節されている。これらは筋線維鞘を細胞質のアクチン細胞骨格に結合させるよう機能する。機能異常により膜が不安定となり、[Ca2+]Iが上昇し、NOシグナリングが攪乱される。γ‐及びδ‐SGは、他のSGの膜への輸送/保持に必要なコアを形成する。
【0069】
DSG KOマウス(sgcd-/-)は機能的なデルタ‐サルコグリカンを欠くが、MDの表現型はヒトの疾患よりも軽い。ジストロフィン関連タンパク質であるユートロフィンは、ジストロフィンの欠損を補うことができるため、ユートロフィン及びジストロフィンの欠損(DKO)はより重度の表現型をもたらす。DKOは顕著に小さく、より重度の筋肉疾患(MDのヒトの筋肉疾患と同様又はそれより悪い)を示す。マウスは作出し世話をするのが難しく、大抵早期に死亡する。イフェトロバン治療は離乳後3週目に始められた。
【0070】
実施例4では、ビヒクル処理したマウスを慎重に世話し、10週齢に到達させた(例えば、マウスは常にチェックされ、マウスがあまり動く必要のない状態で栄養を与えるために、ケージでマウスがうずくまっている場所のすぐ隣に砕いた餌と水を入れた低い皿を置いた)。
【0071】
図1は、イフェトロバン処理されたDKOマウスと比較されるビヒクル処理されたDKOマウスの写真である。図1Aは、ビヒクル処理されたDKOマウスの10週目の写真である。図1Bは、イフェトロバン処理されたDKOマウスの10週目の写真である。ワイヤーの周囲に尾を巻きつける能力は筋肉の機能に依存する。DKOマウスがワイヤーぶら下がり(wire hang)において評価するのが実際に困難な理由は、DKOマウスが重度の脊柱側弯症を有し、その後肢がその前肢に非常に近いため、苦痛にもかかわらず、後肢を上げて四肢でつかむことは困難でないためである。
【0072】
図2は、3カ月目のdSG KOオスにおける、血漿cTNIを示す。「cTNI」という用語は、血漿心臓トロポニンI(plasma cardiac troponin I)を意味する。「KO」という用語はノックアウトを意味する。「dSG」という用語はデルタサルコグリカンを意味する。「WT」という用語は野生型を意味する。血漿心臓トロポニンI(cTNI)は心筋組織に非常に特異的かつ高感度であり、迅速に測定することができる。これは心臓の損傷についての信頼できるバイオマーカーである。図2では、血漿cTNIレベルはWTマウスよりもdSG KOマウスにおいてはるかに高いことを確認することができる。
【0073】
図3は、3カ月目のエコーデータを与える。それに示される結果により、dSG KOオスは3カ月目に心機能障害を示し、イフェトロバンが心機能障害を防ぐことが実証される。
【0074】
図4は、3カ月目のオスdSG KOマウスについての心拍出量データを与える。図4は、イフェトロバンで処理されたdSG KOマウスは、ビヒクルに比べ、改善された心機能障害を有することを示す。心機能はWTレベルと同程度に改善した。
【0075】
図5は、6カ月齢オスについての自発的運動データを与える。運動は、4.5Mの処理後10日間の自発的なホイール走行(当該ホイールは自由に利用することができる)であった。オスは6Mで骨格機能の欠損を示し、これはイフェトロバン処理されたDSG KOマウスではあまり見られない。遺伝子型に関わらずオスよりも多く走っていたメスでは、相違はみられなかった。
【0076】
図6は6カ月のdSGマウスにおけるワイヤーぶら下がりを示す。イフェトロバンで処理されたdSGマウスにおいて、ワイヤーぶら下がり時間が改善されていることは明らかである。one-way ANOVA後、ダネットの多重比較事後検定によりWTと比べ*p<0.05。Veh及びife-処理されたグループは互いにNS検定された。丸括弧内のN。「ife」はイフェトロバン。
【0077】
図7は、6カ月でのワイヤーぶら下がり実験の結果を示しており、平均のぶら下がり時間がdSG及びWTマウスについてプロットされている。
【0078】
図8は、試験されたマウスについてのワイヤーぶら下がり時間を示す。オスマウスはメスに比べ長時間ぶら下がらない。イフェトロバンにより生じる何らかの相違は、あったとしても、測定するのは困難であった。
【0079】
図9は、dSG KOオスの心臓組織を示す。イフェトロバン処理されたRVでは、線維症がより軽いことが分かる。示すのは、肉眼的組織学についての4xでのマッソントリクロームである。すべての裂け目/しわ/赤色のホットスポットは、病理ではなくスライスの作成によるものである。一部のRVはまた、スライスの影響を受けている可能性がある(矢印)。
【0080】
図10は、dSG KOオスの心臓組織を示す(マッソントリクロームを使用、2x)。イフェトロバン処理されたRVでは線維症がより軽いことを見ることができる。RV=右心室。
【0081】
図11は、dSG KOオスの心臓組織を示す(マッソントリクロームを使用、10x)。LV=左心室、RV=右心室。イフェトロバン処理されたKOマウスでは線維症がより軽いことが分かった。
【0082】
図12は、WT及びdSG KOオスの骨格筋組織を示す(脛骨筋横断面、マッソントリクロームを使用)。一部の線維症は筋肉の特定断面によるものである可能性がある。
【0083】
図13は、腸組織の横断面であり、イフェトロバンは大腸筋層における腸管平滑筋の損失を予防し得ることを示す。DSG KOマウスは平滑筋を欠損していた(特に縦走平滑筋を欠損していた)が、イフェトロバン処理されたマウスはWT平滑筋と同様の断面を有していた。「H&E」=ヘマトキシリン及びエオシン。図13は、イフェトロバン処理されたdSG KOマウスはビヒクル処理されたdSG KOマウスよりも軽い線維症を有することを示す。
【0084】
図14は、イフェトロバン又はビヒクルで処理されたdSG KOオス及びメスの生存パーセントを示すグラフである。
【0085】
図15は、10週目のDKOオスにおけるワイヤーぶら下がりを示すグラフである(イフェトロバン(「ife」)処理対ビヒクル)。結果は、イフェトロバン処理されたマウスはビヒクルで処理されたマウスより平均ぶら下がり時間が著しく長かったことを示す。
【0086】
図16は、9-10週で測定される、DKOマウスにおける自発的な走行を示す。
【0087】
図17は、すべてのDKOマウスについての生存を示す。イフェトロバン処理されたマウスは70日を超えて生存したが、ビヒクル処理されたマウス(オスとメスの両方)はそうではなかった。
【0088】
前述の明細書において、本発明は、その特定の例示的な実施形態及び実施例に言及しながら説明された。しかしながら、請求項に記載される本発明の広範な意図及び範囲から離れずに、そこに様々な改変及び変更が行われ得ることは明らかであろう。従って明細書及び図面は、限定的な意味ではなく例示的な意味で捉えられるべきである。
本発明は以下を提供する。
1. 筋ジストロフィーの治療を必要とする患者において筋ジストロフィーを治療又は改善する方法であって、治療上有効な量のトロンボキサンA2受容体拮抗薬を前記患者に投与することを含む、方法。
2. 前記筋ジストロフィーがデュシェンヌ型MD(DMD)、ベッカー型MD、及び肢帯型MDから成る群から選択される線維症である、上記1に記載の方法。
3. 慢性的な前記患者に前記トロンボキサンA2受容体拮抗薬を投与することを更に含む、上記1に記載の方法。
4. 前記患者の心機能が維持又は向上される、上記1~3のいずれかに記載の方法。
5. 前記トロンボキサンA2受容体拮抗薬が[1S-(1α,2α,3α,4α)]-2-[[3-[4-[(ペンチルアミノ)カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチル]-ベンゼンプロパン酸(イフェトロバン)及びその薬学的に許容可能な塩である、上記1~3のいずれかに記載の方法。
6. 前記トロンボキサンA2受容体拮抗薬が[1S-(1α,2α,3α,4α)]-2-[[3-[4-[(ペンチルアミノ)カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチル]-ベンゼンプロパン酸の1ナトリウム塩(イフェトロバンナトリウム)である、上記1~3のいずれかに記載の方法。
7. 前記トロンボキサンA2受容体拮抗薬が経口投与、鼻腔内投与、直腸投与、膣投与、舌下投与、口腔内投与、非経口投与又は経皮投与される、上記1に記載の方法。
8. 前記トロンボキサンA2受容体拮抗薬が非経口投与される、上記1に記載の方法。
9. 前記トロンボキサンA2受容体拮抗薬が経口投与される、上記1に記載の方法。
10. 前記トロンボキサンA2受容体拮抗薬が前記患者において心筋症を予防するために予防的に投与される、上記2に記載の方法。
11. 前記患者において胃腸障害を予防するために前記トロンボキサンA2受容体拮抗薬が予防的に投与される、上記2に記載の方法。
12. 前記治療上有効な量が1日当たり約50mg~約500mg、好ましくは約150mg~約350mgであり、前記イフェトロバンが経口投与される、上記11に記載の方法。
13. 筋ジストロフィーを患うヒト患者において、心機能不全及び/又は胃腸障害を治療する方法であって、治療上有効な量のトロンボキサンA2受容体拮抗薬を前記ヒト患者に慢性投与することを含む、方法。
14. 前記治療上有効な量が1日当たり約100mg~約500mg、好ましくは約150mg~約350mgであり、イフェトロバンが経口投与される、上記14に記載の方法。
15. 前記トロンボキサンA2受容体拮抗薬が[1S-(1α,2α,3α,4α)]-2-[[3-[4-[(ペンチルアミノ)カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチル]-ベンゼンプロパン酸(イフェトロバン)及びその薬学的に許容可能な塩である、上記13又は14に記載の方法。
16. 前記トロンボキサンA2受容体拮抗薬が[1S-(1α,2α,3α,4α)]-2-[[3-[4-[(ペンチルアミノ)カルボニル]-2-オキサゾリル]-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチル]-ベンゼンプロパン酸1ナトリウム塩(イフェトロバンナトリウム)である、上記13又は14に記載の方法。
17. 前記筋ジストロフィーがDMDである上記13又は14に記載の方法。
18. 前記胃腸障害が平滑筋機能不全である、上記13に記載の方法。
19. 前記治療上有効な量のトロンボキサンA2受容体拮抗薬が前記患者の心臓の心室機能を向上させる、上記13に記載の方法。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17