(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】化合物誘発性肝臓傷害を正確に予測するためのハイスループット方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20220214BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220214BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220214BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20220214BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/48 P
G01N33/50 P
G01N33/53 Y
G06T7/00 350B
C12Q1/04
(21)【出願番号】P 2019503896
(86)(22)【出願日】2017-04-11
(86)【国際出願番号】 SG2017050206
(87)【国際公開番号】W WO2017180061
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-03-18
(31)【優先権主張番号】10201602855P
(32)【優先日】2016-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】508305029
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ジンク ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】アクバル フセイン ヌル ファエザ ベーグム
(72)【発明者】
【氏名】ロー リト シン
(72)【発明者】
【氏名】ラム アー ワー
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/103535(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2005/0014217(US,A1)
【文献】国際公開第2009/002565(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0029204(US,A1)
【文献】Ran Su et al.,High.throughput imaging.based nephrotoxicity predictionfor xenobiotics with diverse chemical structures,Arch Toxicol,2016年,Vol.90,pp.2793-2808
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
G06T 7/00
C12Q 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
細胞培養物から得られた蛍光染色細胞の画像を獲得する工程であって、細胞が、ある用量範囲の少なくとも試験化合物およびそのビヒクルによって処理されている、工程;
獲得された画像をセグメント化する工程;
セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および分析する工程であって、1つまたは複数の表現型特徴が
、強度特徴、テクスチャ特徴、形態学的特徴、またはレシオメトリック特徴の群より選択される、
セグメント化された画像における(a)DNA、(b)RELA(NF-κB p65)、ならびに(c)細胞小器官およびその下部構造の特徴である、工程;
処理された試料からの結果をビヒクル対照に対して正規化する工程;ならびに
機械学習法を用いて、抽出および選択された表現型特徴の、正規化された試験化合物誘発性の変化に基づいて、試験化合物による肝臓傷害の確率を予測する工程
を含む、試験化合物によって誘発される肝臓傷害を予測するための方法であって、
セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および選択する工程が
、(
i)セグメント化された画像における染色体領域でのRELAマーカーの強度の平均、ならびに/または(
ii)セグメント化された画像における核領域でのRELAマーカーに基づく物体の強度の割合の1つまたは複数を抽出および選択することを含む、
方法。
【請求項2】
セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および選択する工程が、セグメント化された画像における核領域でのグレーレベル同時生起行列(GLCM)から求められたDNAマーカーの強度の和平均(sum average)の平均を抽出および選択することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞が、肝臓細胞、人工多能性幹細胞(iPS)由来肝細胞様細胞、初代肝細胞、(不死化)肝細胞細胞株、およびヘパトーマ細胞を含む群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
肝臓細胞が肝前駆細胞様細胞に由来する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
細胞がヒト細胞である、請求項3または4記載の方法。
【請求項6】
細胞が動物細胞である、請求項3または4記載の方法。
【請求項7】
細胞培養物の細胞が2D培養で培養される、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
RELA(NF-κB p65)、ならびにDNA、F-アクチン、γH2AX、および細胞全体の1つまたは複数を検出するために、細胞を蛍光標識する工程をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
細胞の処理が、少なくとも12時間または一晩である予め決められた期間にわたって少なくとも1種類の試験化合物およびビヒクルで処置することを含む、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
細胞の処理が、16時間以上の予め決められた期間にわたって少なくとも1種類の試験化合物およびビヒクルで処置することを含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
以下の工程:
細胞培養物から得られた蛍光染色細胞の画像を獲得する工程であって、細胞が、ある用量範囲の少なくとも試験化合物およびそのビヒクルによって処理されている、工程;
獲得された画像をセグメント化する工程;
セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および分析する工程であって、1つまたは複数の表現型特徴が
、強度特徴、テクスチャ特徴、形態学的特徴、またはレシオメトリック特徴の群より選択される、
セグメント化された画像における(a)DNA、(b)RELA(NF-κB p65)、ならびに(c)細胞小器官およびその下部構造の特徴である、工程;
処理された試料からの結果をビヒクル対照に対して正規化する工程;ならびに
機械学習法を用いて、抽出および選択された表現型特徴の、正規化された試験化合物誘発性の変化に基づいて、試験化合物による肝臓傷害の確率を予測する工程
を含む、試験化合物によって誘発される肝臓傷害を予測するための方法であって、
試験化合物による肝臓傷害の確率を予測する工程が、
細胞を、ある用量範囲の試験化合物およびビヒクルによって処理すること;
表現型特徴に関する最大反応値(Δ
max)を求めること;ならびに
化合物誘発性の特徴変化の最大反応値(Δ
max)に基づいて肝毒性を予測するために、機械学習法を用いること
を含み、
セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および選択する工程が
、(
i)セグメント化された画像における染色体領域でのRELAマーカーの強度の平均、ならびに/または(
ii)セグメント化された画像における核領域でのRELAマーカーに基づく物体の強度の割合の1つまたは複数を抽出および選択することを含む、
方法。
【請求項12】
肝毒性を予測するために機械学習法を用いることが、細胞の選択および正規化された表現型特徴変化の最大反応値(Δ
max)の中央値を化合物分類のために用いる機械学習法を用いることを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
最大反応値が、1mM、2mM、または5mMの試験化合物濃度での反応値を含む、請求項11記載の方法。
【請求項14】
肝臓毒性を予測する工程が、
複数種の試験化合物が試験された時に、異なる試験化合物に由来する表現型特徴を同じ範囲に正規化すること;および
試験化合物セットとは統計学的に独立したトレーニング化合物セットでトレーニングされている機械学習分類アルゴリズムを用いることによって肝臓毒性を予測すること
を含む、
請求項
11記載の方法。
【請求項15】
機械学習分類アルゴリズムがランダムフォレストアルゴリズムである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
機械学習分類アルゴリズムがサポートベクターマシンである、請求項14記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1種類の試験化合物によって誘発される肝臓傷害を予測するためのシステムであって、
細胞培養物を少なくとも1種類の試験化合物およびそのビヒクルで処理し、かつ該細胞培養物を蛍光検出のために染色するための器具と、
細胞およびその染色された成分を検出する目的で蛍光染色細胞の画像を獲得するための、該器具に対して並べられた画像化装置と、
獲得された画像を受け取りかつセグメント化するための、該画像化装置につなげられた演算装置と
を備え、
該演算装置が、セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および分析するための特徴抽出モジュールを備え、
1つまたは複数の表現型特徴が、強度特徴、テクスチャ特徴、形態学的特徴、またはレシオメトリック特徴の群より選択され
る、セグメント化された画像における(a)DNA、(b)RELA(NF-κB p65)、ならびに(c)細胞小器官およびその下部構造の特徴であり、
該演算装置が、処理された試料からの結果をビヒクル対照に対して正規化し、かつ、機械学習法を用いて、抽出および選択された表現型特徴の、正規化された試験化合物誘発性の変化に基づいて、試験化合物による肝臓傷害の確率を予測するための予測モジュールをさらに備え、
特徴抽出モジュールが、(
i)セグメント化された画像における染色体領域でのRELAマーカーの強度の平均、ならびに/または(
ii)セグメント化された画像における核領域でのRELAマーカーに基づく物体の強度の割合の1つまたは複数を測定することにより、分析のために、セグメント化された画像から表現型特徴を抽出および分析する、
システム。
【請求項18】
特徴抽出モジュールが、セグメント化された画像からの表現型特徴を抽出および選択し、セグメント化された画像における核領域でのグレーレベル同時生起行列(GLCM)から求められたDNAマーカーの強度の和平均の平均を測定する、請求項17記載のシステム。
【請求項19】
演算装置の予測モジュールが、少なくとも1種類の試験化合物およびビヒクルで処理された細胞の表現型特徴変化に関する最大反応値(Δ
max)に基づいて、機械学習法を用いることによって肝毒性を予測する、請求項17または18記載のシステム。
【請求項20】
演算装置の予測モジュールが、選択および正規化された表現型特徴変化の最大反応値(Δ
max)の中央値を用いる機械学習法を用いることによって肝毒性を予測する、請求項19記載のシステム。
【請求項21】
最大反応値が、1mM、2mM、または5mMの試験化合物濃度での反応値を含む、請求項19記載のシステム。
【請求項22】
演算装置の予測モジュールが、複数種の試験化合物が用いられた時に同じ範囲に正規化された表現型特徴変化に基づいて、かつ統計学的に独立したトレーニング化合物セットでトレーニングされた機械学習分類アルゴリズムを用いることによって、肝毒性を予測する、請求項17~21のいずれか一項記載のシステム。
【請求項23】
機械学習分類アルゴリズムがランダムフォレストアルゴリズムである、請求項22記載のシステム。
【請求項24】
機械学習分類アルゴリズムがサポートベクターマシンである、請求項22記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本願は、2016年4月11日に出願されたシンガポール特許出願第10201602855P号に係る優先権を主張する。
【0002】
技術分野
本発明は概して化合物誘発性肝毒性に関し、さらに詳細には、インビボでの肝細胞損傷に基づいて化合物誘発性肝臓傷害を正確に予測するためのハイスループット方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
開示の背景
肝臓は化合物誘発性毒性の主要な標的となるヒト臓器である。肝臓を損傷する化合物には、薬物、薬用植物を原料とする化合物および真菌を原料とする化合物、食品成分および化粧品成分、栄養補助食品、工業化学物質、ならびに環境毒物が含まれる。従って、化学産業、食品産業および栄養産業、化粧品産業およびコンシューマーケア産業および医薬品産業は、化合物によって誘発される肝毒性に対処しなければならない。
【0004】
薬物誘発性肝臓傷害は、臓器移植を必要とする急性肝不全の主な原因の1つである。げっ歯類種と非げっ歯類種を組み合わせて用いる規制上の動物毒性試験では、ヒトにおいて肝毒性がある化合物のうち約50パーセントしか特定されない。現行の前臨床肝毒性モデルの感度が低いことは、開発後期段階での縮小の主な理由の1つであり、以前には検出されていなかった肝毒性のせいで薬物が市場から撤退し続けている理由でもある。
【0005】
肝毒性予測のための改良されたプラットフォームはまた化粧品産業でも必要とされる。化粧品産業では、動物を用いない予測プラットフォームが特に必要とされている。動物試験が禁止されたため、欧州、ノルウェー、イスラエル、インドで開発または販売される化粧品を試験するために、もはや動物モデルを使用することができない。ニュージーランド、カナダ、台湾、ブラジル、韓国、そしておそらくアルゼンチン、米国、中国も追随すると予想される。
【0006】
また、食品産業も、目下、動物活動家グループからかなりの圧力にさらされている。この圧力のかかった状態で、コカコーラのような大手食品会社は動物試験の使用をすでに止めており、この圧力にさらされた直近の食品会社はキッコーマンである。従って、ヒトでの肝毒性および他の毒性を正確に予測するための動物を用いないプラットフォームが緊急に必要とされる。肝臓、腎臓、および他の臓器について一般に認められているインビトロモデルまたはインシリコモデルは存在しない。
【0007】
従って、必要とされているものは、化合物誘発性肝臓傷害を正確に予測する、化合物誘発性肝臓傷害のハイスループットインビトロモデリングのための方法およびシステムである。工業的規模で大きな化合物ライブラリーを試験するための、高度に拡張可能であり、かつ適切なハイスループットスクリーニングに基づく方法およびシステムも必要とされる。さらに、他の望ましい特徴および特性は、添付の図面および本開示のこの背景と併せて、この後に続く詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかになる。
【発明の概要】
【0008】
概要
一局面では、以下の工程を含む、試験化合物によって誘発される肝臓傷害を予測するための方法が提供される:細胞培養物から得られた蛍光染色細胞の画像を獲得する工程であって、細胞が、ある用量範囲の少なくとも試験化合物およびそのビヒクルによって処理されている、工程;獲得された画像をセグメント化する工程;セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および分析する工程であって、1つまたは複数の表現型特徴が、セグメント化された画像における(a)DNAの特徴、(b)RELA(NF-□B p65)の特徴、(c)異なる細胞下領域にあるアクチンフィラメントの特徴、ならびに(d)細胞小器官およびその下部構造の特徴からなる、強度特徴、テクスチャ特徴、形態学的特徴、またはレシオメトリック特徴の群より選択される、工程;処理された試料からの結果をビヒクル対照に対して正規化する工程;ならびに機械学習法を用いて、抽出および選択された表現型特徴の、正規化された試験化合物誘発性の変化に基づいて、試験化合物による肝臓傷害の確率を予測する工程。
【0009】
一態様において、セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および選択する工程は、セグメント化された画像における染色体領域でのDNAマーカーの強度の変動係数を抽出および選択する工程を含んでもよい。
【0010】
一態様において、セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および選択する工程は、セグメント化された画像における核領域でのグレーレベル同時生起行列(GLCM)から求められたDNAマーカーの強度の和平均(sum average)の平均を抽出および選択する工程を含んでもよい。
【0011】
一態様において、セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および選択する工程は、セグメント化された画像における染色体領域でのRELAマーカーの強度の平均を抽出および選択する工程を含んでもよい。
【0012】
一態様において、セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および選択する工程は、セグメント化された画像における核領域でのRELAマーカーに基づいて物体の強度の割合を抽出および選択する工程を含んでもよい。
【0013】
一態様において、細胞は、肝臓細胞、人工多能性幹細胞(iPS)由来肝細胞様細胞、初代肝細胞、(不死化)肝細胞細胞株、およびヘパトーマ細胞を含む群より選択されてもよい。
【0014】
一態様において、肝臓細胞は肝前駆細胞様細胞に由来してもよい。
【0015】
一態様において、細胞はヒト細胞である。別の態様において、細胞は動物細胞である。
【0016】
一態様において、肝臓細胞はHepaRG(商標)細胞でもよい。
【0017】
一態様において、細胞培養物の細胞は2D培養で培養されてもよい。
【0018】
一態様において、方法は、DNA、RELA(NF-κB p65)、F-アクチン、γH2AX、および細胞全体の1つまたは複数を検出するために、細胞を蛍光標識する工程をさらに含んでもよい。
【0019】
一態様において、細胞の処理は、少なくとも12時間または一晩である予め決められた期間にわたって少なくとも1種類の試験化合物およびビヒクルで処理することを含んでもよい。
【0020】
一態様において、細胞の処理は、16時間以上の予め決められた期間にわたって少なくとも1種類の試験化合物およびビヒクルで処理することを含んでもよい。
【0021】
一態様において、肝毒性を予測する工程は、細胞を、ある用量範囲の少なくとも1種類の試験化合物およびビヒクルによって処理する工程;表現型特徴に関する最大反応値(Δmax)を求める工程;および機械学習法を用いて、化合物誘発性の特徴変化に基づいて肝毒性を予測する工程を含んでもよい。
【0022】
一態様において、機械学習法を用いて肝毒性を予測する工程は、細胞の選択および正規化された表現型特徴変化の最大反応値(Δmax)の中央値を化合物分類のために用いる機械学習法を用いる工程を含んでもよい。
【0023】
一態様において、最大反応値は、1mM、2mM、または5mMの試験化合物濃度での反応値を含んでもよい。
【0024】
一態様において、肝臓毒性を予測する工程は、複数種の試験化合物が用いられた時に、異なる試験化合物に由来する表現型特徴を同じ範囲に正規化する工程;および試験化合物セットとは統計学的に独立したトレーニング化合物セットでトレーニングされている機械学習分類アルゴリズムを用いることによって肝臓毒性を予測する工程を含んでもよい。
【0025】
一態様において、機械学習分類アルゴリズムはランダムフォレストアルゴリズムでもよく、サポートベクターマシンでもよい。
【0026】
別の局面において、細胞培養物を少なくとも1種類の試験化合物およびそのビヒクルで処理し、該細胞培養物を蛍光検出のために染色するための器具と;細胞およびその染色された成分を検出する目的で蛍光染色細胞の画像を獲得するための、器具に対して並べられた画像化装置と;獲得された画像を受け取りかつセグメント化するための、画像化装置につなげられた演算装置とを備えた、少なくとも1種類の試験化合物によって誘発される肝臓傷害を予測するためのシステムが提供され、演算装置が、セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および分析するための特徴抽出モジュールを備え、1つまたは複数の表現型特徴が、セグメント化された画像における(a)DNAの特徴、(b)RELA(NF-□B p65)の特徴、(c)異なる細胞下領域にあるアクチンフィラメントの特徴、ならびに(d)細胞小器官およびその下部構造の特徴からなる、強度特徴、テクスチャ特徴、形態学的特徴、またはレシオメトリック特徴の群より選択され、演算装置が、処理された試料からの結果をビヒクル対照に対して正規化し、機械学習法を用いて、抽出および選択された表現型特徴の、正規化された試験化合物誘発性の変化に基づいて、試験化合物による肝臓傷害の確率を予測するための予測モジュールをさらに備える。
【0027】
一態様において、特徴抽出モジュールは、セグメント化された画像からの表現型特徴を抽出および選択し、セグメント化された画像における染色体領域でのDNAマーカーの強度の変動係数を測定してもよい。
【0028】
一態様において、特徴抽出モジュールは、セグメント化された画像からの表現型特徴を抽出および選択し、セグメント化された画像における核領域でのグレーレベル同時生起行列(GLCM)から求められたDNAマーカーの強度の和平均の平均を測定してもよい。
【0029】
一態様において、特徴抽出モジュールは、セグメント化された画像からの表現型特徴を抽出および選択し、セグメント化された画像における染色体領域でのRELAマーカーの強度の平均を測定してもよい。
【0030】
一態様において、特徴抽出モジュールは、セグメント化された画像からの表現型特徴を抽出および選択し、セグメント化された画像における核領域でのRELAマーカーに基づいて物体の強度の割合を測定してもよい。
【0031】
一態様において、演算装置の予測モジュールは、少なくとも1種類の試験化合物およびビヒクルで処理された細胞の表現型特徴変化に関する最大反応値(Δmax)に基づいて、機械学習法を用いることによって肝毒性を予測してもよい。
【0032】
一態様において、演算装置の予測モジュールは、選択および正規化された表現型特徴変化の最大反応値(Δmax)の中央値を用いる機械学習法を用いることによって肝毒性を予測してもよい。
【0033】
一態様において、最大反応値は、1mM、2mM、または5mMの試験化合物濃度での反応値を含んでもよい。
【0034】
一態様において、演算装置の予測モジュールは、複数種の試験化合物が用いられた時に同じ範囲に正規化された表現型特徴変化に基づいて、かつ統計学的に独立したトレーニング化合物セットでトレーニングされた機械学習分類アルゴリズムを用いることによって、肝毒性を予測してもよい。
【0035】
一態様において、機械学習分類アルゴリズムはランダムフォレストアルゴリズムでもよく、サポートベクターマシンでもよい。
【0036】
本発明の少なくとも1つの態様によれば、試験化合物による肝細胞損傷に起因するインビボでの肝臓傷害を予測するための方法が提供される。方法は、細胞培養物から得られた蛍光染色細胞の画像を獲得する工程であって、細胞が、ある用量範囲の少なくとも試験化合物およびそのビヒクルによって処理されている、工程、ならびに、獲得された画像をセグメント化する工程を含む。方法は、セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および分析する工程であって、1つまたは複数の表現型特徴が、セグメント化された画像における(a)DNAの特徴、(b)RELA(NF-κB p65)の特徴、(c)異なる細胞下領域にあるアクチンフィラメントの特徴、ならびに(d)細胞小器官およびその下部構造の特徴からなる、強度特徴、テクスチャ特徴、形態学的特徴、またはレシオメトリック特徴の群より選択される、工程をさらに含む。最後に、方法は、処理された試料からの結果をビヒクル対照に対して正規化する工程、および機械学習法を用いて、抽出された表現型特徴の正規化された試験化合物誘発性の変化に基づいて、試験化合物による肝臓傷害の確率を予測する工程を含む。
【0037】
本発明の別の態様によれば、少なくとも1種類の試験化合物による肝細胞損傷に起因するインビボでの肝臓傷害を予測するためのシステムが提供される。システムは、細胞培養物を少なくとも1種類の試験化合物およびそのビヒクルで処理し、蛍光検出のために細胞を染色するための器具と、画像化装置と、演算装置とを備える。画像化装置は、細胞およびその染色された成分を検出する目的で蛍光染色細胞の画像を獲得するために、器具に対して並べられている。演算装置は、獲得された画像を受け取りかつセグメント化するために、画像化装置につなげられている。演算装置は、セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および分析するための特徴抽出モジュールを備え、1つまたは複数の表現型特徴は、セグメント化された画像における(a)DNAの特徴、(b)RELA(NF-κB p65)の特徴、(c)異なる細胞下領域にあるアクチンフィラメントの特徴、ならびに(d)細胞小器官およびその下部構造の特徴からなる、強度特徴、テクスチャ特徴、形態学的特徴、またはレシオメトリック特徴の群より選択される。演算装置はまた、処理された試料からの結果をビヒクル対照に対して正規化し、機械学習法を用いて、抽出された表現型特徴の正規化された試験化合物誘発性の変化に基づいて、試験化合物による肝臓傷害の確率を予測するための予測モジュールも備える。
[本発明1001]
以下の工程を含む、試験化合物によって誘発される肝臓傷害を予測するための方法:
細胞培養物から得られた蛍光染色細胞の画像を獲得する工程であって、細胞が、ある用量範囲の少なくとも試験化合物およびそのビヒクルによって処理されている、工程;
獲得された画像をセグメント化する工程;
セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および分析する工程であって、1つまたは複数の表現型特徴が、セグメント化された画像における(a)DNAの特徴、(b)RELA(NF-κB p65)の特徴、(c)異なる細胞下領域にあるアクチンフィラメントの特徴、ならびに(d)細胞小器官およびその下部構造の特徴からなる、強度特徴、テクスチャ特徴、形態学的特徴、またはレシオメトリック特徴の群より選択される、工程;
処理された試料からの結果をビヒクル対照に対して正規化する工程;ならびに
機械学習法を用いて、抽出および選択された表現型特徴の、正規化された試験化合物誘発性の変化に基づいて、試験化合物による肝臓傷害の確率を予測する工程。
[本発明1002]
セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および選択する工程が、セグメント化された画像における染色体領域でのDNAマーカーの強度の変動係数を抽出および選択することを含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および選択する工程が、セグメント化された画像における核領域でのグレーレベル同時生起行列(GLCM)から求められたDNAマーカーの強度の和平均(sum average)の平均を抽出および選択することを含む、本発明1001の方法。
[本発明1004]
セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および選択する工程が、セグメント化された画像における染色体領域でのRELAマーカーの強度の平均を抽出および選択することを含む、本発明1001の方法。
[本発明1005]
セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および選択する工程が、セグメント化された画像における核領域でのRELAマーカーに基づいて物体の強度の割合を抽出および選択することを含む、本発明1001の方法。
[本発明1006]
細胞が、肝臓細胞、人工多能性幹細胞(iPS)由来肝細胞様細胞、初代肝細胞、(不死化)肝細胞細胞株、およびヘパトーマ細胞を含む群より選択される、本発明1001の方法。
[本発明1007]
肝臓細胞が肝前駆細胞様細胞に由来する、本発明1006の方法。
[本発明1008]
細胞がヒト細胞である、本発明1006または1007の方法。
[本発明1009]
細胞が動物細胞である、本発明1006または1007の方法。
[本発明1010]
肝臓細胞がHepaRG(商標)細胞である、本発明1007の方法。
[本発明1011]
細胞培養物の細胞が2D培養で培養される、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
DNA、RELA(NF-κB p65)、F-アクチン、γH2AX、および細胞全体の1つまたは複数を検出するために、細胞を蛍光標識する工程をさらに含む、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
細胞の処理が、少なくとも12時間または一晩である予め決められた期間にわたって少なくとも1種類の試験化合物およびビヒクルで処置することを含む、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
細胞の処理が、16時間以上の予め決められた期間にわたって少なくとも1種類の試験化合物およびビヒクルで処置することを含む、本発明1013の方法。
[本発明1015]
肝毒性を予測する工程が、
細胞を、ある用量範囲の少なくとも1種類の試験化合物およびビヒクルによって処理すること;
表現型特徴に関する最大反応値(Δ
max
)を求めること;ならびに
化合物誘発性の特徴変化に基づいて肝毒性を予測するために、機械学習法を用いること
を含む、
本発明1001~1014のいずれかの方法。
[本発明1016]
肝毒性を予測するために機械学習法を用いることが、細胞の選択および正規化された表現型特徴変化の最大反応値(Δ
max
)の中央値を化合物分類のために用いる機械学習法を用いることを含む、本発明1015の方法。
[本発明1017]
最大反応値が、1mM、2mM、または5mMの試験化合物濃度での反応値を含む、本発明1015の方法。
[本発明1018]
肝臓毒性を予測する工程が、
複数種の試験化合物が試験された時に、異なる試験化合物に由来する表現型特徴を同じ範囲に正規化すること;および
試験化合物セットとは統計学的に独立したトレーニング化合物セットでトレーニングされている機械学習分類アルゴリズムを用いることによって肝臓毒性を予測すること
を含む、
本発明1001の方法。
[本発明1019]
機械学習分類アルゴリズムがランダムフォレストアルゴリズムである、本発明1018の方法。
[本発明1020]
機械学習分類アルゴリズムがサポートベクターマシンである、本発明1018の方法。
[本発明1021]
少なくとも1種類の試験化合物によって誘発される肝臓傷害を予測するためのシステムであって、
細胞培養物を少なくとも1種類の試験化合物およびそのビヒクルで処理し、かつ該細胞培養物を蛍光検出のために染色するための器具と、
細胞およびその染色された成分を検出する目的で蛍光染色細胞の画像を獲得するための、該器具に対して並べられた画像化装置と、
獲得された画像を受け取りかつセグメント化するための、該画像化装置につなげられた演算装置と
を備え、
該演算装置が、セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および分析するための特徴抽出モジュールを備え、
1つまたは複数の表現型特徴が、セグメント化された画像における(a)DNAの特徴、(b)RELA(NF-κB p65)の特徴、(c)異なる細胞下領域にあるアクチンフィラメントの特徴、ならびに(d)細胞小器官およびその下部構造の特徴からなる、強度特徴、テクスチャ特徴、形態学的特徴、またはレシオメトリック特徴の群より選択され、
該演算装置が、処理された試料からの結果をビヒクル対照に対して正規化し、かつ、機械学習法を用いて、抽出および選択された表現型特徴の、正規化された試験化合物誘発性の変化に基づいて、試験化合物による肝臓傷害の確率を予測するための予測モジュールをさらに備える、
システム。
[本発明1022]
特徴抽出モジュールが、セグメント化された画像からの表現型特徴を抽出および選択し、セグメント化された画像における染色体領域でのDNAマーカーの強度の変動係数を測定する、本発明1021のシステム。
[本発明1023]
特徴抽出モジュールが、セグメント化された画像からの表現型特徴を抽出および選択し、セグメント化された画像における核領域でのグレーレベル同時生起行列(GLCM)から求められたDNAマーカーの強度の和平均の平均を測定する、本発明1021のシステム。
[本発明1024]
特徴抽出モジュールが、セグメント化された画像からの表現型特徴を抽出および選択し、セグメント化された画像における染色体領域でのRELAマーカーの強度の平均を測定する、本発明1021のシステム。
[本発明1025]
特徴抽出モジュールが、セグメント化された画像からの表現型特徴を抽出および選択し、セグメント化された画像における核領域でのRELAマーカーに基づいて物体の強度の割合を測定する、本発明1021のシステム。
[本発明1026]
演算装置の予測モジュールが、少なくとも1種類の試験化合物およびビヒクルで処理された細胞の表現型特徴変化に関する最大反応値(Δ
max
)に基づいて、機械学習法を用いることによって肝毒性を予測する、本発明1022~1025のいずれかのシステム。
[本発明1027]
演算装置の予測モジュールが、選択および正規化された表現型特徴変化の最大反応値(Δ
max
)の中央値を用いる機械学習法を用いることによって肝毒性を予測する、本発明1026のシステム。
[本発明1028]
最大反応値が、1mM、2mM、または5mMの試験化合物濃度での反応値を含む、本発明1026のシステム。
[本発明1029]
演算装置の予測モジュールが、複数種の試験化合物が用いられた時に同じ範囲に正規化された表現型特徴変化に基づいて、かつ統計学的に独立したトレーニング化合物セットでトレーニングされた機械学習分類アルゴリズムを用いることによって、肝毒性を予測する、本発明1023~1028のいずれかのシステム。
[本発明1030]
機械学習分類アルゴリズムがランダムフォレストアルゴリズムである、本発明1029のシステム。
[本発明1031]
機械学習分類アルゴリズムがサポートベクターマシンである、本発明1029のシステム。
【図面の簡単な説明】
【0038】
添付の図面では、同様の符番が図面全体を通して同一の要素または機能的に類似する要素を指す。添付の図面は下記の詳細な説明と共に本明細書に組み入れられ、かつ本明細書の一部をなしており、様々な態様を例示し、本態様に従う様々な原理および利点を説明するのに役立つ。
【0039】
【
図1】本態様に従う、少なくとも1種類の試験化合物によって誘発される肝臓傷害を予測するためのシステムのブロック図を図示する。
【
図2】本態様に従う、化合物誘発性肝臓傷害を正確に予測するためのハイスループットインビトロモデリングのための、
図1のシステムの演算装置によって用いられる画像化およびデータ分析方法のフローチャートを図示する。
【
図3】
図3には
図3A~3Fが含まれ、本態様に従う、異なる化合物を用いて核染色およびNF-
KB染色により得られた例示的な免疫蛍光画像データを図示する。
【
図4-1】化合物誘発性傷害を正確に予測するための、本態様に従うHepaRG細胞を用いるハイスループット方法の検証に用いられた参照化合物情報の表を図示する。
【
図4-2】化合物誘発性傷害を正確に予測するための、本態様に従うHepaRG細胞を用いるハイスループット方法の検証に用いられた参照化合物情報の表を図示する。
【
図4-3】化合物誘発性傷害を正確に予測するための、本態様に従うHepaRG細胞を用いるハイスループット方法の検証に用いられた参照化合物情報の表を図示する。
【
図5】本態様に従う、HepaRG細胞を用いた表現型特徴セットとその予測性能の表を図示する。
【
図6】化合物誘発性傷害を正確に予測するための、本態様に従う人工多能性幹細胞(iPS)由来肝細胞様細胞を用いるハイスループット方法の前検証に用いられた参照化合物情報の表を図示する。
【
図7】インビボで肝細胞を損傷する化合物によって誘発された、iPS由来肝細胞様細胞の表現型変化を示した画像データを示す。
【0040】
当業者は、図面の中にある要素が簡便さおよび明確さのために示されており、必ずしも縮尺通りに描かれているわけではないことを理解する。
【発明を実施するための形態】
【0041】
詳細な説明
以下の詳細な説明は本質的には単なる例示であり、本発明または本願および本発明の使用を限定すると意図されない。さらに、前述の発明の背景または以下の詳細な説明に示される、いかなる理論によっても拘束される意図はない。以下の説明において、肝臓は、ウシ、ブタ、ウマ、イヌ、オオカミ、ネコ、マウス、ヒツジ、鳥類、魚類、ヤギ、カラス、アクリン(acrine)、またはイルカ(delphine)として分類される動物を含むが、それに限定されるわけではない、非ヒト哺乳動物およびヒトなどの動物の肝臓である。一例では、肝臓はヒト肝臓である。本態様の目的は、肝細胞の自動画像化と、機械学習を利用した表現型プロファイリング結果分類による画像データの自動計算解析とを組み合わせた、インビボでの肝細胞毒性を正確に予測するためのハイスループットシステムおよび方法を提供することである。
【0042】
培養肝細胞に対する化合物の毒性を確かめる従来のシステムおよび方法とは異なり、本態様に従うシステムおよび方法は、インビトロ培養細胞において誘発された変化を調べ、観察された変化を用いてインビボでの肝細胞毒性を予測する。
【0043】
最も有望な肝細胞モデルの1つであるHepaRG(商標)細胞を用いて最適な結果が得られる。HepaRG(商標)細胞株は、2つの異なる細胞表現型(すなわち、胆管様細胞および肝細胞様細胞)に分化することができるヒト二分化能前駆細胞株である。この細胞株は慢性C型肝炎に関連する肝臓腫瘍から樹立された。HepaRG細胞は、形態、ならびに重要な代謝酵素、核受容体、および薬物輸送体の発現を含む初代ヒト肝細胞の多くの特性を示す。HepaRG細胞はHepG2細胞およびFa2N-4細胞とは異なり、高いP450活性と、全ての核受容体の完全発現を有する。iPS由来ヒト肝細胞様細胞、初代ヒト肝細胞、および他のヒト肝細胞細胞株も適している場合がある。
【0044】
図1を見ると、ブロック
図100は、本態様に従って肝臓傷害を予測するためのシステムを図示する。システム100は細胞培養・染色器具110を備える。細胞培養・染色器具110では、化合物に曝露するために細胞培養物を試験化合物およびビヒクルで16時間以上の期間にわたって処理する。化合物で処理した後に、処理した細胞を蛍光検出のために染色し、それによって、様々な細胞成分(DNA、RELA(NF-KB p65)、およびF-アクチン)ならびに細胞全体を蛍光標識する。このように、本態様に従って、細胞培養・染色器具110の標準的なコラーゲンコーティングマルチウェルプレート内でヒト肝細胞を二次元(2D)単層として培養する。ここではHepaRG細胞を使用したが、初代ヒト肝細胞、iPS由来肝細胞様細胞、および他のタイプの肝細胞または肝細胞様細胞が本態様に従って適している場合がある。
【0045】
画像化装置120は、細胞およびその染色された成分を検出する目的で蛍光染色細胞の画像を獲得するために、細胞培養・染色器具110に対して光学的に並べられている。画像化装置120は、化合物で処理した後の、RELA(NF-kB p65)、F-アクチン、γH2AX、および4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI、DNA検出))の免疫蛍光を検出する、ならびに細胞全体染色(WCS)を検出するために、蛍光染色細胞を自動的に画像化するハイコンテントアナライザーである。
【0046】
画像化装置120は、獲得された画像を受け取りかつセグメント化するための、画像化装置120につなげられた演算装置130に、獲得された画像を提供する。演算装置130は表現型プロファイリングによって表現型特徴を分析し、結果分類および予測性能分析のために機械学習法を使用する。
【0047】
演算装置130は、セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出する特徴抽出モジュール132を備える。本態様によれば、(a)セグメント化された画像における染色体領域または核領域でのDNAマーカーの強度特徴またはテクスチャ特徴、および(b)セグメント化された画像における染色体領域または核領域でのRELAマーカーの強度特徴またはレシオメトリック特徴、を含む表現型特徴の群より選択される表現型特徴が特徴抽出モジュール132によって抽出される。演算装置130はまた、特徴抽出モジュール132につなげられた、抽出された表現型特徴を用いて肝臓傷害を予測する予測モジュール134も備える。さらに詳細には、本態様によれば、予測モジュール134は、表現型特徴を用いて開発された教師あり分類器を用いてインビボでの肝細胞毒性を予測する。本態様のシステムは、有利なことに、試験感度61.4%、試験特異度86.1%、および試験平均正解率(balanced accuracy)73.8%で高い予測性を提供する。この結果は従来の方法およびシステムより大幅に改善されている。
【0048】
図2を見ると、フローチャート200は、本態様に従って、インビボでの化合物誘発性肝細胞傷害をハイスループット予測するために演算装置130によって用いられる画像化・データ分析方法を図示する。演算装置130は画像202を受け取り、特徴抽出モジュール132による画像セグメント化および特徴抽出206の準備として画像の鮮明さを改善するためのバックグラウンド補正204を行う。予測モジュールは用量反応曲線フィッティングおよびΔ
max推定プロセス208を行った後に、処理された画像に対して自動特徴選択210を行う。
【0049】
本態様に従う自動特徴選択210には、2つの新規の方法:再帰的特徴消去アルゴリズム212および特徴選択アルゴリズムが含まれる。特徴選択アルゴリズムは再帰的特徴消去アルゴリズム212の後に行われ、特徴重要度推定工程214および最終特徴サブセット選択工程216を含む。特徴重要度推定工程214は、10x10分割交差検証の全ての試験と分割にわたる平均特徴重要度の推定を含む。最終特徴サブセット選択工程216は、工程214で得られた平均特徴重要度値に基づく最終特徴サブセット選択を含む。
【0050】
結果は、選択された最終特徴サブセットFfinal218である。検証のために、Ffinalの最終トレーニング正解率および試験正解率の推定を10x10分割交差検証を用いて行う220。
【0051】
図3A~
図3Fを含む
図3を見ると、画像300、310、320、330、340、350は、本態様に従ってRELA(赤色)および核DNA(青色)を蛍光染色した後の、異なる化合物を用いて得られた例示的な免疫蛍光画像データを図示する。
図3Aを見ると、画像300は、細胞が100μg/mLピューロマイシンで処理されている細胞培養物から得られた蛍光染色HepaRG細胞を図示する(正の対照)。
図3Bおよび
図3C(画像310、320)を見ると、細胞は、それぞれ、1000μg/mLアカルボースおよび1000μg/mLテトラサイクリンで処理されている。両化合物ともインビボで肝細胞に対して毒性がある。
【0052】
図3Dを見ると、画像330はビヒクル対照の蛍光染色細胞を図示する。
図3Eおよび
図3F(画像340および350)を見ると、細胞は、それぞれ、100μg/mLエチレングリコールおよび1000μg/mL塩化リチウムで処理されている。
【0053】
画像300、310、320、330、340、350は、ハイコンテントアナライザー(画像化装置120)を用いてハイスループットスクリーニングによって画像化されたHepaRG細胞を図示する。画像300、310、320において肝臓毒(hepatotoxicant)はビヒクル対照画像330と比較して表現型の変化およびRELA(NF-κB p65)分布の変化を誘発した302。このような表現型変化は、画像340、350に示したように細胞が非肝毒性化合物で処置された時には観察されなかった。肝臓毒アカルボース(画像310)はヒト腎臓近位尿細管細胞に対して毒性がない。従って、腎臓モデルについての以前の研究では、肝臓毒アカルボースによって誘発されるヒト初代腎臓近位尿細管細胞(HPTC)またはHPTC様細胞の変化は観察されなかった。しかしながら、画像310に示したように肝臓毒アカルボースはHepaRG細胞において明らかな変化を誘発した。エチレングリコール(腎毒性および神経毒性)ならびに塩化リチウム(腎毒性)は両方ともヒトでは肝臓よりも他の臓器の方が毒性が高い。だが、画像340、350に示したように、これらの化合物はHepaRG細胞において明らかな表現型変化を誘導しなかった。これらの結果および他の結果から、細胞の反応は高度に臓器特異的であることが示唆される。従来の肝毒性試験では、ヒトにおいて肝毒性がないが他の毒性があるほぼ全ての化合物から、HepG2に基づくモデルにおいて陽性結果が得られた。従って、本態様に従うHepaRGに基づくモデルとは対照的に、従来のHepG2に基づくモデルは肝臓特異的ではなく、細胞傷害性全般を検出する。
【0054】
図4を見ると、化合物誘発性傷害を正確に予測するための本態様に従うハイスループット方法の検証に使用した参照化合物情報の表が示されている。PubMed(商標)およびGoogle(登録商標)を用いた文献調査に基づいてヒトの肝細胞に対して毒性があると特定されている化合物を「+」で示した。
【0055】
図5を見ると、表は、4種類の特徴からなる、選択された最終特徴サブセットF
final (218)を示す。推定された最終トレーニング正解率および試験正解率(220)についてΔ
max(208)を示した。これらの結果は、蛍光標識されたHepaRG細胞と、前検証に使用した98種類の化合物のセット(
図4)を用いて得られた。
【0056】
図6は、化合物誘発性傷害を正確に予測するための本態様に従う人工多能性幹細胞(iPS)由来肝細胞様細胞を用いるハイスループット方法の前検証に使用した参照化合物情報の表を図示する。
【0057】
図7は、インビボで肝細胞を損傷する化合物によって誘発された、iPS由来肝細胞様細胞の表現型変化を図示した画像データを示す。特に、
図7では、iPS由来肝細胞様細胞(iCell肝細胞)を、インビボの肝細胞に対して毒性があることが知られている、示された濃度の化合物(上の横列に列挙した化合物-アザチオプリン、塩化カドミウム、ラニチジンHCL、ピューロマイシン)、または毒性がないことが知られている、示された濃度の化合物(下の横列に列挙した化合物-アスパルテーム、カフェイン、ニコチン、DMSO)(ヒトにおける化合物によって誘発される臨床効果に関する文献に基づいた分類)、ならびにそれぞれの正の対照(125μMピューロマイシン)およびビヒクル対照(0.5%ジメチルスルホキシド、DMSO)で処理した。RELA(赤色)および核DNA(青色)を免疫蛍光染色した後に、細胞をハイコンテントスクリーニングによって画像化した。これらの画像データは、インビボで肝細胞を損傷する化合物によって誘発された、例となる表現型細胞変化を示す(上の列にある画像)。
【0058】
iCell肝細胞(iCell)をCellular Dynamics(Madison, Winconsin, USA)から購入した。iCellを、1X B27、20ng/mLオンコスタチンM、0.1μMデキサメタゾン、25μg/mLゲンタマイシン、および1X iCell Hepatocyte Medium Supplementを含有するRPMIを用いて解凍した。
【0059】
次いで、iCellを、コラーゲンIでコーティングした384ウェルプレートに30,000細胞/ウェルの播種密度で播種した。細胞を7日間培養した後に化合物で処理した。iCellを、2μM~1mMに及ぶ7種類の濃度からなる用量範囲の試験化合物を用いて16時間処理した。
【0060】
前検証に使用したライブラリーは、ヒトの肝細胞に対して十分裏付けされた臨床効果がある24種類の化合物(
図4に列挙した98種類の化合物の一部)を含んだ。このライブラリーは、薬物、工業化学物質、農薬、環境毒物、および食品添加物を含む多種多様なタイプの化学物質を含んだ。
【0061】
化合物で処理した後に、免疫染色によってバイオマーカーを検出し、細胞全体をWCSで染色した。ハイコンテントスクリーニングを、20x対物レンズとImageXpress Micro XLS system(Molecular Devices, Sunnyvale, CA, USA)を用いて行った。
【実施例】
【0062】
本態様を証明するために、HepG2細胞(対照として使用した)およびHepaRG細胞を、それぞれ、American Type Culture Collection(ATCC, Manassas, Virginia, USA)およびThermoFisher Scientific(Singapore)から購入した。HepG2細胞を、10%胎仔ウシ血清(FBS)および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)が入っているT75 Corning Costarフラスコの中で培養した。HepG2細胞を、底が透明な384ウェル黒色プレート(#781091; Greiner, Kremsmuenster, Austria,)に10,000細胞/cm2の密度で播種した。コンフルエンシーを得るためにHepG2細胞を3日間培養した後に、16時間、化合物の一晩処理を行った。HepaRG細胞を、100μg/mLコラーゲンIでコーティングした、底が透明な384ウェル黒色プレート(#781091; Greiner)に250,000細胞/cm2の密度で直接播種した。培養して最初の24時間の間に、HepaRG Thaw, Plate & General Purpose培地を加えたウイリアムスE培地を使用した。その後に、HepaRG細胞を、HepaRG Tox培地と1%GlutaMAXを加えたウイリアムスE培地中で7日間培養した(全ての培地および添加物はThermoFisher Scientificから入手した)。培養の1日目および4日目に培地を補充した。HepaRG細胞を7日間培養した後に、16時間、化合物の一晩処理を行った。毒性試験のためのHepaRG培養プロトコールはThermoFisher Scientificから入手した。
【0063】
化合物処理
細胞を、
図4の表に列挙した98種類の化合物で16時間処理した。各化合物について、以下の7種類の濃度:2μM、15μM、63μM、125μM、250μM、500μM、および1mMからなる用量範囲を用いることによってスクリーニングを行った。ピューロマイシン(125μM)およびクロルプロマジン(15μM)を正の対照として使用した。これに対して、デキサメタゾン(250μMおよび1mM)を負の対照として使用した。プレートごとに未処理細胞(薬物なし、ビヒクルなし)と、それぞれのビヒクル対照(ジメチルスルホキシド(DMSO)または水)を含めた。各処理条件について4回の技術的反復を含めた(データ点1つにつき4個のウェル)。各プレートのZ'値を計算した。値は全て0.5を上回り、0.62~0.89であった。
【0064】
免疫染色
16時間の化合物曝露後に、細胞を、リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解した3.7%ホルムアルデヒドで6時間固定した。次いで、5%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.2%Triton X-100を含有するPBSを用いて細胞を室温で1時間ブロックおよび透過処理した。その後に、1μg/mLのウサギポリクローナル抗RELA抗体(#ab16502; Abcam, Cambridge, UK)または2μg/mLのマウスモノクローナル抗γH2AX(phosphor S139)抗体(#ab26350; Abcam)と共に試料を室温で1時間インキュベートした。次いで、試料を、5μg/mLのAlexa-488結合ヤギ抗ウサギ二次抗体(#A11008; Life Technologies, Singapore)またはAlexa-647結合ヤギ抗マウス二次抗体(#A21235, Life Technologies)と共にインキュベートした。プレートごとに、ローダミンファロイジン(#R415; 1:100; Invitrogen, Singapore)を用いてF-アクチンを検出した。プレートごとに、4ng/mLの4’,6-ジアミジノ-2フェニルインドール二塩酸(DAPI; #268298; Merck, Darmstadt, Germany)を用いて細胞核および細胞全体を染色した。細胞全体は赤色に染色される(WCS; #8403402; 1:100; Cellomics, Rockford, United States of America)。
【0065】
画像獲得
20x対物レンズおよびImageXpressMICROsystem(Molecular Devices, Sunnyvale, CA, USA)を用いて自動画像化を行った。ウェル1個あたり9箇所を、4つのチャンネルによって画像化し、画像を16ビットTIFFフォーマットで保存した。
【0066】
画像セグメント化および特徴抽出
不均一なバックグラウンド照明を減らすために、ImageJ(NIH, v1.48)に実装されている「ローリングボール」アルゴリズムを用いて画像を補正した。細胞セグメント化および特徴測定を、知的所有権により保護されているcellXpress(商標)ソフトウェアプラットフォームを用いて行った。
【0067】
ハラリック(Haralick)テクスチャ特徴
グレーレベル同時生起行列(GLCM)は、N
gグレーレベルを用いて、N
x×N
y画像、I(x,y)における、ある特定のオフセット(Δx,Δy)における同時生起グレーレベル値の分布を表す行列である。これらの表記法では、xは行の添え字(row index)であり、yは列の添え字(column index)である。GLCM行列は、式1
によって定義される。式中、iおよびjは画像のグレーレベル値または強度値である。正規化されたGLCM行列は、
である。和確率行列(sum probability matrix)は、
と計算される。式中、
である。GLCMの和平均を、式(4)
に示した。
【0068】
検証研究において、画像は、セグメント化された細胞を取り囲むバウンディングボックスであり、バックグラウンド画素を全て0に設定した。次いで、画像をNg=256グレーレベルに量子化し、0度(Δx=0,Δy=1)、45度(Δx=1,Δy=1)、90度(Δx=1,Δy=0)、および135度(Δx=1,Δy=-1)オフセットについて全てのハラリック特徴を算出した。それぞれの特徴について、全てのオフセット値の平均を使用し、cellXpress(商標)ソフトウェアプラットフォームを用いて全てのテクスチャ特徴を抽出した。
【0069】
濃度反応曲線およびΔ
max
推定
特徴抽出後、試験した全化合物濃度における特徴の値を、対応するビヒクル対照条件下の特徴の値で割った。次いで、この比をlog2変換した(Δ)。濃度反応曲線および毒性分類器の作成を含めて、さらなるデータ分析は全て、R statistical environment(the R foundation, v3.0.2)およびWindows7オペレーティングシステム(Microsoft, USA)の下で、カスタマイズされたスクリプトを用いて行った。
【0070】
それぞれの特徴について、式(5)に示したように、標準的な対数ロジスティック(log-logistic)モデルを用いて濃度反応曲線を推定した。
式中、xは生体異物化合物の濃度であり、eは、下限cと上限dの中間の反応であり、bは、eの周囲での相対勾配(relative slope)である。R environment下での「drc」ライブラリー(v2.3-96)を用いて、b、c、d、およびeの値をフィットさせた。この後に、推定された反応曲線を用いて最大反応値(Δ
max)を求めた。理論上は、Δ
maxは上限dと等しくなるはずである。しかしながら、実際には、一部の化合物の反応は、試験した最高投与量でもプラトーに達しない場合がある。従って、推定されたd値が正確でない場合がある。そうではなく、Δ
maxは1mM、2mM、または5mMでの反応値であると定めた。1mM、2mM、または5mMは、化合物の大部分について試験した最高濃度に近い濃度であった。最後に、全ての反復にわたってΔ
maxの中央値を算出した。
【0071】
特徴正規化
データ分類の前に、式(6)に示したように、それぞれの特徴行列f
iを同じ範囲[-1,1]に正規化した。
式中、f
minおよびf
maxは特徴の最小値および最大値である。トレーニングデータセットおよび試験データセットが互いに独立していることを確かなものにするために、これらの2つの正規化係数をトレーニングデータのみを用いて推定したが、トレーニングデータセットと試験データセットの両方に適用した。
【0072】
ランダムフォレスト分類
ランダムフォレストアルゴリズムはサポートベクターマシン、k近傍法、および単純ベイズを含む他の一般的に用いられる分類器より性能が優れていると以前に示されていたので、このアルゴリズムを用いて、生体異物によって誘発される腎毒性を予測した。さらに、R environmentの下で「ランダムフォレスト」ライブラリー(v4.6-10)を使用した。
【0073】
分類性能推定
層化10分割交差検証法を用いて、表現型特徴の毒性予測性能を推定した。使用した性能測定を式(7)、(8)、および(9)に示した。
式中、TPは真の陽性の数であり、TNは真の陰性の数であり、FPは偽陽性の数であり、FNは偽陰性の数である。
図5は、本態様に従う、3つ全てのデータセットに対する単特徴分類器および多特徴分類器の全予測性能をまとめた表を図示する。
【0074】
図5を見ると、表には、本態様に従って
図4に列挙した98種類の化合物に対して試験した時の、HepaRG細胞を用いた表現型特徴セットとその予測性能が載っている。表現型特徴セットには、染色体領域でのDNAマーカーの強度の変動係数、核領域でのDNAグレーレベル同時生起行列(GLCM)の和平均の平均、染色体領域でのRELAマーカーの強度の平均、および核領域でのRELA物体の全強度に対する割合が含まれる。RELA物体の核割合=
であり、RELA物体は、高レベルのRELA染色を有する細胞下領域であり、I(D)は、RELA物体領域にある全画素の強度値の合計であり、I(C∩D)は、細胞質領域とRELA物体領域の共通部分にある全画素の強度値の合計である。これらの特徴セットの組み合わせの最大反応値(Δ
max)を推定するために1mMの濃度を用いると、試験感度47.9~61.4%、試験特異度86.1~92.1%、および試験正解率70.0~73.8%が得られた。
【0075】
従って、本態様は、インビボでの化合物誘発性肝細胞傷害を予測するための、ハイスループットスクリーニング(HTS)に基づく正確な方法およびシステムを利用した、ヒトにおける薬物誘発性肝臓傷害についての改善された予測モデルを提供するとみなすことができる。本態様に従うインビボでの肝細胞毒性の予測はHepaRG細胞に基づいており、HepG2細胞に基づいておらず、高い感度および正解率が得られた(試験した98種類の化合物について、試験感度は61.4%であり、試験特異度は86.1%であり、試験平均正解率は73.8%である)。
【0076】
培養肝細胞に対する化合物の毒性を確かめる従来のモデルとは異なり、本態様に従うシステムおよび方法は、インビトロ培養細胞において誘発された変化を調べ、これらの変化を用いるだけで、インビボでの肝細胞毒性を予測する。本態様に従うHTSモデルはバイナリー予測を行い、インビボでの肝細胞毒性について、はい/いいえの答えを出す。しかしながら、用量については予測することができない。このことは、HTSモデルを、ヒト用量反応を予測する計算モデルまたは他のインビトロモデルで補うことによって克服することができる。このようなモデルは今なお実験段階にあるが、将来、これは選択肢になりうる。本態様の利点はハイスループットであることである。本態様は、化合物スクリーニングの非常に早い段階で効率的に適用することができ、インビボで肝細胞に対して毒性があると予測されたすべての化合物にフラグを立てること(flagging)が可能になるだろう。これらの化合物の大部分について、用量反応に関するさらに詳細な情報は必要とされない場合がある。
【0077】
さらに、本開示は、以下の項の態様を含む。
【0078】
第1項. 以下の工程を含む、試験化合物によって誘発されるヒト肝臓傷害を予測するための方法:細胞培養物から得られた蛍光染色細胞の画像を獲得する工程であって、細胞が、ある用量範囲の少なくとも試験化合物およびそのビヒクルによって処理されている、工程;獲得された画像をセグメント化する工程;セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および分析する工程であって、1つまたは複数の表現型特徴が、セグメント化された画像における、(a)DNAの特徴、(b)RELA(NF-κB p65)の特徴、(c)異なる細胞下領域にあるアクチンフィラメントの特徴からなる、強度特徴、テクスチャ特徴、形態学的特徴、またはレシオメトリック特徴の群より選択さる、工程;処理された試料からの結果をビヒクル対照に対して正規化する工程;ならびに教師あり分類器を用いて、抽出された表現型特徴の、正規化された試験化合物誘発性の表現型変化に基づいて、試験化合物によるヒト肝臓傷害の確率を予測する工程。
【0079】
第2項. セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出する工程が、表現型特徴を抽出し、セグメント化された画像における染色体領域でのDNA強度の変動係数を測定することを含む、第1項記載の方法。
【0080】
第3項. セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出する工程が、(a)セグメント化された画像における染色体領域での、全DNA物体強度に対する割合、および(b)セグメント化された画像における核領域での、グレーレベル同時生起行列(GLCM)から求められたRELAマーカーの分散の合計の平均、からなる2種類の表現型特徴を抽出することを含む、第1項記載の方法。
【0081】
第4項. セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出する工程が、(a)セグメント化された画像における染色体領域での、全DNA物体強度に対する割合、(b)セグメント化された画像における核領域での、グレーレベル同時生起行列(GLCM)から求められたRELAの分散の合計の平均、(c)セグメント化された画像における核領域の1つまたは複数の周囲長、および(d)セグメント化された画像における染色体領域と核領域との間の全RELA強度の比、からなる4種類の表現型特徴を抽出することを含む、第1項記載の方法。
【0082】
第5項. 細胞が、分化した肝臓細胞、人工多能性幹細胞(iPS)由来ヒト肝細胞様細胞、初代ヒト肝細胞、および(不死化)ヒト肝細胞細胞株を含む群より選択される、第1項記載の方法。
【0083】
第6項. 分化した肝臓細胞がヒト肝前駆細胞様細胞株に由来する、第5項記載の方法。
【0084】
第7項. ヒト肝前駆細胞様細胞株に由来する分化した肝臓細胞がHepaRG(商標)細胞である、第6項記載の方法。
【0085】
第8項. 細胞培養物の細胞が2D培養で培養される、第1~7項のいずれか一項記載の方法。
【0086】
第9項. DNA、RELA(NF-κB p65)、F-アクチン、γH2AX、および細胞全体の1つまたは複数を検出するために、細胞培養物中で培養された細胞を蛍光標識する工程をさらに含む、第1~8項のいずれか一項記載の方法。
【0087】
第10項. 細胞の処理が、少なくとも12時間または一晩である予め決められた期間にわたってヒト肝細胞を少なくとも1種類の試験化合物およびビヒクルで処理することを含む、第1~9項のいずれか一項記載の方法。
【0088】
第11項. 細胞の処理が、16時間以上の予め決められた期間にわたってヒト肝細胞を少なくとも1種類の試験化合物およびビヒクルで処理することを含む、第10項記載の方法。
【0089】
第12項. ヒト肝毒性を予測する工程が、細胞を、ある用量範囲の少なくとも1種類の試験化合物およびビヒクルによって処理すること;表現型特徴に関する最大反応値(Δmax)を求めること;ならびに化合物誘発性の特徴変化に基づいてヒト肝毒性を予測するために、教師あり分類器を用いることを含む、第1~11項のいずれか一項記載の方法。
【0090】
第13項. 教師あり分類器を用いてヒト肝毒性を予測することが、細胞の正規化された表現型特徴変化の最大反応値(Δmax)の中央値を化合物分類のために用いる教師あり分類器を用いることを含む、第12項記載の方法。
【0091】
第14項. 最大反応値が、1mM、2mM、または5mMの試験化合物濃度での反応値を含む、第12項記載の方法。
【0092】
第15項. ヒトにおける肝臓毒性を予測する工程が、複数種の試験化合物が用いられた時に、異なる試験化合物に由来する表現型特徴を同じ範囲に正規化すること;および試験化合物セットとは統計学的に独立したトレーニング化合物セットでトレーニングされている機械学習分類アルゴリズムを用いることによってヒトにおける肝臓毒性を予測することを含む、第1項記載の方法。
【0093】
第16項. 機械学習分類アルゴリズムがランダムフォレストアルゴリズムである、第15項記載の方法。
【0094】
第17項. 機械学習分類アルゴリズムがサポートベクターマシンである、第15項記載の方法。
【0095】
第18項. 少なくとも1種類の試験化合物によって誘発されるヒト肝臓傷害を予測するためのシステムであって、細胞培養物を少なくとも1種類の試験化合物およびそのビヒクルで処理し、かつ該細胞培養物を蛍光検出のために染色するための器具と、細胞およびその染色された成分を検出する目的で蛍光染色細胞の画像を獲得するための、器具に対して並べられた画像化装置と、獲得された画像を受け取りかつセグメント化するための、画像化装置につなげられた演算装置とを備え、該演算装置が、セグメント化された画像から1つまたは複数の表現型特徴を抽出および分析するための特徴抽出モジュールを備え、1つまたは複数の表現型特徴が、セグメント化された画像における(a)DNAの特徴、(b)RELA(NF-κB p65)の特徴、および(c)異なる細胞下領域にあるアクチンフィラメントの特徴からなる、強度特徴、テクスチャ特徴、形態学的特徴、またはレシオメトリック特徴の群より選択され、該演算装置が、処理された試料からの結果をビヒクル対照に対して正規化し、かつ、教師あり分類器を用いて、抽出された表現型特徴の、正規化された試験化合物誘発性の表現型変化に基づいて、試験化合物によるヒト肝臓傷害の確率を予測するための予測モジュールをさらに備える、システム。
【0096】
第19項. 特徴抽出モジュールが、セグメント化された画像からの表現型特徴を抽出し、セグメント化された画像における染色体領域でのDNA強度の変動係数を測定する、第18項記載のシステム。
【0097】
第20項. 特徴抽出モジュールが、(a)セグメント化された画像における染色体領域での、全DNA物体強度に対する割合、および(b)セグメント化された画像における核領域での、グレーレベル同時生起行列(GLCM)から求められたRelAマーカーの分散の合計の平均、からなる2種類の表現型特徴を抽出する、第19項記載のシステム。
【0098】
第21項. 特徴抽出モジュールが、(a)セグメント化された画像における染色体領域での、全DNA物体強度に対する割合、(b)セグメント化された画像における核領域での、グレーレベル同時生起行列(GLCM)から求められたRelAマーカーの分散の合計の平均、(c)セグメント化された画像における核領域の1つまたは複数の周囲長、および(d)セグメント化された画像における染色体領域と核領域との間の全RelAマーカー強度の比、からなる4種類の表現型特徴を抽出する、第19項記載のシステム。
【0099】
第22項. 演算装置の予測モジュールが、少なくとも1種類の試験化合物およびビヒクルで処理された細胞の表現型特徴変化に関する最大反応値(Δmax)に基づいて、教師あり分類器を用いることによってヒト肝毒性を予測する、第19~21項のいずれか一項記載の記載のシステム。
【0100】
第23項. 演算装置の予測モジュールが、正規化された表現型特徴変化の最大反応値(Δmax)の中央値を用いる教師あり分類器を用いることによってヒト肝毒性を予測する、第22項記載のシステム。
【0101】
第24項. 最大反応値が、1mM、2mM、または5mMの試験化合物濃度での反応値を含む、第22項記載のシステム。
【0102】
第25項. 演算装置の予測モジュールが、複数種の試験化合物が用いられた時に同じ範囲に正規化された表現型特徴変化に基づいて、かつ統計学的に独立したトレーニング化合物セットでトレーニングされた機械学習分類アルゴリズムを用いることによって、ヒト肝毒性を予測する、第20~24項のいずれか一項記載のシステム。
【0103】
第26項. 機械学習分類アルゴリズムがランダムフォレストアルゴリズムである、第25項記載のシステム。
【0104】
例示的な態様が前述の本発明の詳細な説明において示されたが、数多くのバリエーションが存在することが理解されるはずである。さらに、例示的な態様は例にすぎず、本発明の範囲、適用可能性、操作、または構成を限定すると意図されないことが理解されるはずである。もっと正確に言うと、前述の詳細な説明は、本発明の例示的な態様を実施するための便利なロードマップを当業者に提供し、添付の特許請求の範囲に示された本発明の範囲から逸脱することなく、例示的な態様に記載された機能ならびに操作の工程および方法の取り合わせに様々な変更が加えられ得ることが理解される。