(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】粘度特性に優れたリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20220203BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220203BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2020118436
(22)【出願日】2020-07-09
(62)【分割の表示】P 2016065257の分割
【原出願日】2016-03-29
【審査請求日】2020-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】原田 祐作
(72)【発明者】
【氏名】池田 大貴
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-500556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00ー4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質、導電剤、バインダー、溶剤を含み、
前記導電剤が、比表面積が40m
2/g以上、300m
2/g未満のカーボンブラックであり、
前記正極活物質の比表面積が0.2~1.0m
2/gであり、
固形分の配合比率が、前記正極活物質80~99.8質量%、前記導電剤0.1~10質量%、前記バインダー0.1~10質量%であり、
固形分濃度が、50~70質量%であり、
せん断速度1s
-1における粘度が10Pa・s以下であり、せん断速度0.01~100s
-1の範囲における任意のせん断速度γ
1、γ
2(γ
1<γ
2)に対する粘度η
1、η
2がη
1>η
2を満たす、リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物。
【請求項2】
前記正極活物質が、コバルト酸リチウム及びニッケル・マンガン・コバルト酸リチウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載のスラリー組成物。
【請求項3】
前記カーボンブラックの結晶層厚みLcと平均一次粒子径から算出した結晶化率が、60%以上である、請求項1又は2に記載のスラリー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度特性及び塗工性に優れたリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物及びそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池はスマートフォンやタブレット型パソコンなど小型電子機器の電源として幅広く用いられている。リチウムイオン二次電池は一般に、電極、セパレータ、電解質を含む電解液を備えて構成される。電極は、活物質、導電剤、バインダーなどを溶媒に分散させた電極スラリーを集電体用金属板上に塗工・乾燥させ、合材層とすることで製造される。
【0003】
導電剤の役割は、導電性の低い活物質に導電性を付与すること、充放電時に活物質が繰り返し膨張収縮して導電性が損なわれるのを防止することである。そのため、電極内で活物質と導電剤の分散状態が悪いと、局所的に導電性の劣る部分が現れ、活物質が有効に利用されずに放電容量が低下し、電池特性が低下する原因となる。すなわち、電池特性は活物質の化学組成や導電剤の導電性といった材料特性だけでなく、合材層中の材料の配合比率及び混合・分散状態、合材層の密度、空隙率といった構造的特性にも影響を受けるため、それらの最適化が必要となる。また、合材層の構造を最適な状態に維持しながら、安定的に電極を生産し続けるためには、電極スラリーの塗工むらや合材層厚みのばらつきを極限まで減少させる必要がある。
【0004】
従来使用されている導電剤の比表面積は40~70m2/g程度であり、正極活物質の比表面積(0.2~1.0m2/g)と比べて非常に高い。例えば比表面積0.7m2/gの正極活物質92質量%と、比表面積65m2/gの導電剤8質量%を混合した場合、導電剤が占める表面積の比率は89%にも及ぶことになり、電極スラリーの塗工性には導電剤の特性が支配的であることがわかる。
【0005】
近年、リチウムイオン二次電池のさらなる高容量化が求められており、合材層中の活物質の配合比率は増加し、逆に導電剤やバインダーの配合比率は減少する傾向にある。導電剤の配合比率が減少すると電極内での導電パスの形成が困難となり、電池特性が低下してしまう。そこで小粒径の導電剤を用いることで導電パスを維持する検討が行われている。しかしながら、小粒径化に伴い比表面積および吸液性が高くなり、電極スラリーの粘度が著しく上昇してしまうため、均一分散が困難となる。また、塗工時にむらが生じやすく、高性能な電極を安定的に生産することができないという問題があった。
【0006】
そこで電極スラリーの均一分散を目的として、特許文献1では高圧ジェットミルにより導電剤を分散させる試みが検討されている。しかしこの方法によると特殊な装置による処理が必要であり、また、サブミクロンオーダーにまで微細化されるため、導電剤の微細構造が変化し、導電性が低下するといった問題があった。特許文献2では活物質とバインダーからなる固形分材料の凝集状態を制御する検討がなされているが、導電剤の凝集状態は制御しておらず、小粒径の導電剤を用いる場合には目標とする電極スラリー特性を達成することが困難であった。また、特許文献3ではあらかじめ幅広い粒径分布を有する導電剤スラリーを調整することが検討されているが、導電剤の微細構造が解砕されない条件で処理しているため、凝集力が強い小粒径の導電剤の粒径分布を制御することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-281096号公報
【文献】特許第5500395号公報
【文献】特許第5561559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、粘度特性及び塗工性に優れたリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)活物質、導電剤、バインダー、溶剤を含み、導電剤は結晶層厚みLcと平均一次粒子径から算出した結晶化率が60%以上のカーボンブラックであることを特徴とするリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物。
(2)固形分の配合比率が活物質80~99.8質量%、導電剤0.1~10質量%、バインダー0.1~10質量%、固形分濃度が50~70質量%であり、せん断速度1s-1における粘度が10Pa・s以下であり、せん断速度0.01~100s-1の範囲における任意のせん断速度γ1、γ2(γ1<γ2)に対する粘度η1、η2がη1>η2を満たす、前記(1)に記載のスラリー組成物。
(3)前記(1)または(2)に記載のスラリー組成物を用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物は粘度特性及び塗工性に優れているため、高性能なリチウムイオン二次電池を生産性良く提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】せん断速度0.01~100s
-1の範囲における電極スラリー粘度の例
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物は、活物質、導電剤、バインダー、溶剤を含む。なお、目的に応じて分散剤や難燃剤などの添加剤を含有させることもできる。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物に用いられる導電剤は、結晶層厚みLcと平均一次粒子径から算出した結晶化率が60%以上のカーボンブラックであることを特徴とする。ここで結晶化率とは、カーボンブラックの平均一次粒子径に対する表面結晶層の占める体積割合であり、式(1)によって求めることができる。
【0014】
【数1】
ここでdはカーボンブラックの平均一次粒子径、Lcは結晶層厚みである。
【0015】
本発明者はリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物の粘度特性及び塗工性を改善するために鋭意検討を行った結果、導電剤であるカーボンブラックの結晶化率がこれらの特性に大きく影響することを見出した。すなわち、カーボンブラックの結晶化率が60%以上であると、カーボンブラックの微細構造の破壊が起こるような強いせん断を与えることなく均一分散した電極スラリーを作成することができ、これを用いたリチウムイオン二次電池の特性を大幅に向上させることができる。詳細なメカニズムは不明であるが、カーボンブラック粒子表面の結晶性が高くなることにより、溶剤との濡れ性に何らかの変化が生じたことが考えられる。カーボンブラックの結晶化率が60%未満であるとこの効果は発現せず電極スラリーの均一分散が困難となり、塗工時にむらが生じやすく、高性能な電極を安定的に生産することができない。
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物に導電剤として用いられるカーボンブラックの結晶層厚みLcはX線回折により求めることができる。具体的には、CuKα線を用い、測定範囲2θ=10~40゜、スリット幅0.5゜の条件でX線回折を行う。得られた(002)面の回折線を用いて、Scherrerの式:Lc(Å)=(K×λ)/(β×cosθ)により結晶子サイズLcを求めることができる。ここでKは形状因子定数0.9、λはX線の波長1.54Å、θは(002)回折線吸収バンドにおける極大値を示す角度、βは(002)回折線吸収バンドにおける半価幅(ラジアン)である。カーボンブラックの結晶層厚みLcはカーボンブラックの合成温度によって調整できる。また、合成後のカーボンブラックを不活性雰囲気中で加熱処理することによっても調整できる。
【0017】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物に導電剤として用いられるカーボンブラックの平均一次粒子径は17nm以上、50nm未満であることが好ましく、36nm以下であることがより好ましく、27nm以下であることがさらに好ましい。従来の電極スラリーに用いられるカーボンブラックは結晶化率が60%未満であるため、平均一次粒子径が27nm以下になるとスラリー化が困難であった。一方、本発明に用いるカーボンブラックは結晶化率が60%以上であるため、平均一次粒子径が27nm以下であってもスラリー化することができる。このように小粒径のカーボンブラックの使用が可能となることにより、合材層における配合比率が低くても高い導電性を発揮することができる。一方、平均一次粒子径が17nm未満となると、比表面積が大幅に増加して、導電剤が溶剤又はバインダーを吸着する量が増加するため電極スラリーは増粘してしまい、均一な合材層を形成することが困難となる。カーボンブラックの平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)の5万倍画像から100個のカーボンブラックの一次粒子径を測り、平均値を算出して求めることができる。カーボンブラックの一次粒子はアスペクト比が小さく真球に近い形状をしているが、完全な真球ではない。そこで、TEM画像における一次粒子の外周2点を結ぶ線分のうちで最大のものをカーボンブラックの一次粒子径とした。なお、カーボンブラックの一次粒子径は合成反応場の温度に大きく影響を受け、温度が高いほど一次粒子径は小さくなることが一般的に知られている。
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物に導電剤として用いられるカーボンブラックの比表面積は40m2/g以上、300m2/g未満であることが好ましい。これは従来から導電剤に使用されているカーボンブラックの比表面積と比べて高いことが特徴である。比表面積が40m2/g以上であると、合材層中で活物質との接触点が増加し、導電性を向上させることができる。比表面積が300m2/g以上であると、導電剤が溶剤又はバインダーを吸着する量が増加するため電極スラリーは増粘してしまい、均一な合材層を形成することが困難となる。更には、本発明のカーボンブラックは表面の凹凸ないしは細孔、又は親水性の表面官能基が非常に少ないカーボンブラックであるため比表面積が300m2/g以上であると電極スラリーでの分散が困難となる。一方で、300m2/gを超える高比表面積のカーボンブラックにおいては、親水性の表面官能基が多く付与されていると電極スラリーへの高分散が可能となる場合もある。比表面積はJIS K6217-2に従ってBET法により測定することができる。カーボンブラックの比表面積は、一次粒子の小粒径化や中空化、粒子表面の多孔質化などにより高めることができ、必ずしも一次粒子径のみに依存するものではない。
【0019】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、炭化水素などの原料ガスを反応炉の炉頂に設置されたノズルから供給し、熱分解反応及び又は部分燃焼反応によりカーボンブラックを製造し、反応炉下部に直結されたバグフィルターから捕集することができる。使用する原料ガスは特に限定されるものではなく、アセチレン、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、ブタジエンなどのガス状炭化水素や、トルエン、ベンゼン、キシレン、ガソリン、灯油、軽油、重油などのオイル状炭化水素をガス化したものを使用することができる。またこれらの複数を混合して使用することもできる。中でも不純物が少ないアセチレンガスを使用することが好ましい。アセチレンガスの分解熱により反応炉内の温度が高くなるため、小粒径で結晶層厚みL c の大きいカーボンブラックが得られる。
【0020】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物の固形分配合比率は活物質80~99.8質量%、導電剤0.1~10質量%、バインダー0.1~10質量%であることが好ましい。高結晶化率であるカーボンブラックを導電剤に用い、上記固形分配合とすることにより、電極スラリーの塗工性や導電性を損なうことなく合材層中の活物質の配合比率を高めることができ、リチウムイオン二次電池の高容量化が達成できる。また、高結晶化率で小粒径のカーボンブラックを用いることにより、同一の固形分配合であっても導電性を向上させることができ、リチウムイオン二次電池の高出力化が達成できる。
また、本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物の固形分濃度は50~70質量%であることが好ましい。固形分濃度が70質量%を超えると電極スラリー混練時に強いせん断が加わるため、導電剤の一次凝集が破壊され、導電性が低下してしまう。また、乾燥工程においてひび割れが生じやすくなる。一方、固形分濃度が50質量%未満であると塗工後の乾燥工程で時間を要するため、生産性が低下してしまう。
【0021】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物は、せん断速度1s-1における粘度が10Pa・s以下であることが好ましい。集電体への電極スラリー塗工方法にはドクターブレード法、ロールコーター法、ダイコーター法などがあるが、塗工速度は10~50m/min程度が一般的である。この領域に相当するせん断速度1s-1における粘度が10Pa・s以下であると均一な塗工が可能となる。せん断速度1s-1における粘度は1Pa・s以上であることが好ましい。1Pa・s未満であると塗工後に活物質の沈降が起こりやすくなり、合材層の構造に偏りが生じてしまうおそれがある。電極スラリーの粘度はレオメーターによって測定することができる。なお本発明における粘度とは測定温度25℃における粘度とする。電極スラリーの粘度は活物質、導電剤、バインダーといった固形分の配合比率や、固形分濃度、分散条件、分散剤の添加、導電剤であるカーボンブラックの結晶化率などを変更することによって調整できる。
【0022】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物は、せん断速度0.01~100s-1の範囲における任意のせん断速度γ1、γ2(γ1<γ2)に対する粘度η1、η2がη1>η2であることが好ましい。通常、電極スラリーの粘度はせん断速度の増加に対して単調に減少する傾向にある。したがってη1>η2であると塗工時にはたらくせん断速度が変化しても流動特性が変化することがなく、安定した塗工が可能となる。η1≦η2であると、せん断速度上昇時に粘度が上がる、またはせん断速度低下時に粘度が下がるといったように、通常とは異なる流動特性を示すため、安定した塗工が困難となる。詳細なメカニズムは不明であるが、カーボンブラック粒子表面の結晶性が高くなることにより、溶剤との濡れ性に何らかの変化が生じたため流動特性が向上したと考えられる。カーボンブラックの結晶化率が60%未満であると、溶剤との濡れ性が悪く粒子が凝集する等の現象が要因となってη1≦η2を示し、電極スラリーの均一分散が困難となり、塗工時にむらが生じやすく、高性能な電極を安定的に生産することができない。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物に用いられる活物質は特に限定されるものではないが、コバルト酸リチウムまたはニッケル・マンガン・コバルト酸リチウムであることが好ましい。また、活物質の平均粒子径は1~20μmであることが好ましい。1μm未満であると電極スラリーが増粘してしまい、20μmを超えると平滑な電極を作製することが困難となる。
【0024】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物に用いられるバインダーは特に限定されるものではなく、例えばポリエチレン、ニトリルゴム、ポリブタジエン、ブチルゴム、ポリスチレン、スチレン・ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ニトロセルロース、セチルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、四フッ化エチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化クロロプレンなどを使用することができる。また、これらをあらかじめ溶剤に溶解させたものを使用することもできる。
【0025】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物に使用する溶剤は特に限定されるものではなく、例えばN-メチルピロリドンやエタノール、酢酸エチルなどを使用することができる。
【0026】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物作製時の混練方法は特に限定されるものではなく、例えばミキサー、ニーダー、分散機、ミル、自転公転式回転装置などの一般的な装置を使用することができる。
【0027】
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、本発明の電極スラリーを金属箔からなる集電体に塗工、その後乾燥して被着させることによって製造することができる。正極と負極とをセパレータを介して積層あるいは捲回して形成される電極群に電解液を浸漬することで二次電池を製造することができる。本発明の電極スラリーは小粒径、高比表面積の導電剤を含有しながらも優れた塗工性を有するため、優れた電池特性を発揮することができる。
【0028】
集電体は特に限定されるものではなく、金、銀、銅、白金、アルミニウム、鉄、ニッケル、クロム、マンガン、鉛、タングステン、チタン等、ないしはこれらを主成分とする合金の金属箔が使用される。正極にはアルミニウムを、負極には銅を用いることが好ましい。
【0029】
電解液は特に限定されるものではなく、リチウム塩を含む非水電解液またはイオン伝導ポリマーなどを使用することができる。リチウム塩を含む非水電解液における非水電解質の非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどが挙げられる。また、非水溶媒に溶解できるリチウム塩としては、六フッ化リン酸リチウム、ホウ四フッ化リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムなどが挙げられる。
【0030】
セパレータは特に限定されるものではなく、ポリエチレンやポリプロピレンなどの合成樹脂を使用することができる。電解液の保持性が良いことから多孔性フィルムを用いることが好ましい。
【0031】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。しかし、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1
カーボンブラック反応炉(炉長5m、炉直径0.5m)の炉頂に設置されたノズルからアセチレンガスを12m3/h、酸素ガスを9m3/h、水素ガスを0.5m3/h噴霧し、アセチレンガスの熱分解及び燃焼反応を利用してカーボンブラックを製造した。このカーボンブラックを窒素雰囲気中1700℃で1時間加熱処理した。得られたカーボンブラックについて、以下の物性を測定した。評価結果を表1に示す。
(1)結晶層厚みLc:X線回折装置(Brucker社製「D8ADVANCE」)により、CuKα線を用いて測定範囲2θ=10~40゜、スリット幅0.5゜の条件でX線回折を行った。測定角度の校正にはX線標準用シリコン(三津和化学薬品社製金属シリコン)を用いた。得られた(002)面の回折線を用いて、Scherrerの式:Lc(Å)=(K×λ)/(β×cosθ)により結晶層厚みLcを求めた。ここでKは形状因子定数0.9、λはX線の波長1.54Å、θは(002)回折線吸収バンドにおける極大値を示す角度、βは(002)回折線吸収バンドにおける半価幅(ラジアン)である。
(2)平均一次粒子径:透過型電子顕微鏡(TEM)の5万倍画像より、100個のカーボンブラック一次粒子径を測り、平均値を算出した。
(3)結晶化率:カーボンブラックの平均一次粒子径に対する表面結晶層の占める体積割合であり、下式によって求めることができる。
(4)比表面積:JIS K 217-2に従い測定した。
【0033】
【数2】
ここでdはカーボンブラックの平均一次粒子径、Lcは結晶層厚みである。
【0034】
得られたカーボンブラック4質量部と活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(日本化学工業社製「CELLSEED NMC Ni:Mn:Co=1:1:1」)92質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(クレハ社製「クレハKFポリマーW#1100」)4質量部、溶剤としてN-メチルピロリドン(Aldrich社製)67質量部を脱泡混練機(日本精機製作所社製「NBK-1」)回転数1000rpmの条件で15分間混練し、固形分濃度60質量%の電極スラリーを作製した。この電極スラリーの25℃における粘度を粘弾性測定機(AntonPaar社製「MCR102」、φ30mm、角度3°のコーンプレート使用、ギャップ1mm)で評価した。せん断速度は0.01から100s-1へ変化させて測定した。せん断速度1s-1における粘度及び任意のせん断速度γ1、γ2(γ1<γ2)に対する粘度η1、η2の関係を表1に示す。
また、電極スラリーの分散度をJIS K5600-2-5に従って粒ゲージ法により評価した。具体的には、粒ゲージ台上に電極スラリー0.5mlを滴下し、スクレーパーにてゲージ溝に薄く引き延ばし、ゲージ上に観察された最も大きい粒の粒径を測定した。測定を3回行い、平均値を測定値とした。評価結果を表1に示す。
【0035】
得られた電極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)上に塗工機(宝泉株式会社製「MINI-COATER MODEL:MC10」)を用いて塗工し、乾燥したものを、プレス、裁断して、正極を作製した。この正極の極板抵抗を交流インピーダンス法により評価した。具体的には、正極をSUS製三極式セルにセットして、インピーダンスアナライザー(東陽テクニカ社製「電気化学測定システム12608W型」、電極面積1.54cm2、掃引周波数1MHz→1Hz、印加電圧10mV、測定温度20度)で電極の交流抵抗を測定した。評価結果を表1に示す。
【0036】
正極に対する対極に金属リチウム(本城金属社製)を用い、これらを電気的に隔離するセパレータとしてポリオレフィン繊維製不織布を用いてコインセル(CR-2032型)を作製した。電解液にはエチレンカーボネート(Aldrich製)/ジメチルカーボネート(Aldrich製)を1/1の容積比で混合した溶液中に六フッ化リン酸リチウム(ステラケミファ社製)を1mol/L溶解させたものを用いた。電池の放電試験として、まず0.7mA/cm2の電流密度、上限電圧5.0Vにて定電流・定電圧充電を行い、次いで0.7mA/cm2の電流密度、下限電圧3.0Vにて定電流放電を行った際の放電容量を測定し、正極活物質量で除した容量密度(mAh/g)を初期容量とし、この容量(mAh)を1時間で充放電可能な電流値を「1C」とした。そして、出力特性の評価として、電流を0.2C、上限電圧を5.0Vとして定電流・定電圧充電を行った後、電流を3C、下限電圧を3.0Vとして定電流放電を行い、この際の放電容量を正極活物質量で除した値(mAh/g)を3C放電容量として算出した。評価結果を表1に示す。
【0037】
比較例1
カーボンブラックを窒素雰囲気中1700℃で1時間加熱処理しないこと以外は実施例1と同様にして電極スラリーを得た。電極スラリーの粘度が高かったため、塗工することができなかった。評価結果を表1に示す。
【0038】
実施例2、比較例2
加熱処理温度を1900℃、1600℃に変更し、カーボンブラックの結晶層厚みLcを表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして電極スラリーを得た。評価結果を表1に示す。
【0039】
実施例3~6
溶媒の配合量を108質量部、100質量部、43質量部、39質量部、に変更し、電極スラリーの固形分濃度を表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして電極スラリーを得た。評価結果を表1に示す。
【0040】
実施例7
脱泡混練機での電極スラリー分散条件を回転数800rpmで10分間混練に変えたこと以外は実施例1と同様にして電極スラリーを得た。評価結果を表1に示す。
【0041】
実施例8
合材層中の配合比率を活物質94質量部、カーボンブラック2質量部、バインダー4質量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして電極スラリーを得た。評価結果を表1に示す。
【0042】
実施例9
導電剤に市販のカーボンブラック(デンカ社製「デンカブラック粉状」)を窒素雰囲気中1700℃で1時間加熱処理したものを用い、合材層中の配合比率を活物質88質量部、カーボンブラック7質量部、バインダー5質量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして電極スラリーを得た。評価結果を表1に示す。
【0043】
実施例10
導電剤に市販のカーボンブラック(デンカ社製「デンカブラックHS-100」)を窒素雰囲気中1700℃で1時間加熱処理したものを用い、合材層中の配合比率を活物質82質量部、カーボンブラック10質量部、バインダー8質量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして電極スラリーを得た。評価結果を表1に示す。
【0044】
実施例11
導電剤に市販のカーボンブラック(デンカ社製「デンカブラックFX-35」)を窒素雰囲気中1700℃で1時間加熱処理したものを用いたこと以外は実施例1と同様にして電極スラリーを得た。評価結果を表1に示す。
【0045】
比較例3
カーボンブラックを窒素雰囲気中1700℃で1時間加熱処理しないこと以外は実施例9と同様にして電極スラリーを得た。評価結果を表1に示す。
【0046】
【0047】
表1の評価結果より、本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物は、導電剤に結晶層厚みLcと平均一次粒子径から算出した結晶化率が60%以上のカーボンブラックを用いているため、粘度特性及び塗工性に優れている。そのため、高性能なリチウムイオン二次電池を生産性良く提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物は、リチウムイオン二次電池の電極として利用することができる。