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特許7003215糸、織布、ならびに糸および織布を製造するための方法
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  • 特許-糸、織布、ならびに糸および織布を製造するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】糸、織布、ならびに糸および織布を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/09 20060101AFI20220128BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20220128BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20220128BHJP
   B30B 15/02 20060101ALI20220128BHJP
   D06M 101/30 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
D06M11/09
D03D15/283
D03D1/00 Z
B30B15/02 E
D06M101:30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020501207
(86)(22)【出願日】2018-07-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 EP2018068619
(87)【国際公開番号】W WO2019011895
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-03-09
(31)【優先権主張番号】202017003632.0
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514013967
【氏名又は名称】ヒュック ライニッシェ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】HUECK Rheinische GmbH
【住所又は居所原語表記】Helmholtzstrasse 9, D-41747 Viersen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ロルフ エスペ
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-539279(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01300235(EP,A1)
【文献】米国特許第03968296(US,A)
【文献】特表平09-507794(JP,A)
【文献】特開昭57-080039(JP,A)
【文献】特開2014-136259(JP,A)
【文献】国際公開第2007/107261(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00-23/18
C08G 77/00-77/62
D03D 15/00-15/68
D03D 1/00
B30B 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
押し出しされかつ押し出し後に架橋された、フッ化ゴム成分を含有するシリコーンゴムから成る経糸および/または緯糸を備えた織布から成る液圧式のプレスのプレスクッションであって、前記経糸および/または前記緯糸は、前記フッ化ゴム成分を表面にのみ含有することを特徴とする、プレスクッション。
【請求項2】
糸(1)を製造するための方法であって、前記糸(1)を押出し機によってシリコーンゴムから連続的に押し出し、かつ押出し後に複数のローラを経由させながら架橋させ、かつ前記糸(1)はフッ化ゴム成分を有している、方法において、
前記複数のローラを経由してフッ化された糸(2)を、巻取りステーションによって巻き取ることによって、前記フッ化ゴム成分を、架橋された前記糸(1)をフッ化ガスによって表面だけ連続でフッ化させることによって製造する
ことを特徴とする、方法。
【請求項3】
前記糸(1)は、処理室(4)内に配置されたローラシステム(5)において、前記複数のローラを経由した連続的なフッ化時に案内され、前記糸(1)は、第1のロックゲートシステム(3)を介して前記処理室(4)に入り、第2のロックゲートシステム(15)を介して前記処理室(4)から出る
ことを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
経糸および/または緯糸を備えた織布を製造するための方法であって、請求項2または3記載の方法にしたがって製造された糸から成る経糸および/または緯糸を用いて製織を行う
ことを特徴とする、方法。
【請求項5】
前記フッ化ガスは、少なくとも0.5容量%のフッ素ガスまたはフッ化剤と、少なくとも50容量%の不活性ガスとから成っている、
請求項2から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記フッ化ガスは、少なくとも10容量%のフッ素ガスまたはフッ化剤と、少なくとも50容量%の不活性ガスとから成っている、
請求項2から4までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押し出されかつ押出し後に架橋されたシリコーンゴムから成る糸、ならびに経糸および/または緯糸と、架橋されたシリコーンゴムから成るコーティングとを備えた織布であって、このとき糸もしくはコーティングが、フッ化ゴム成分を有している、糸ならびに織布に関する。さらに本発明は、このような糸および織布を製造するための方法に関する。
【0002】
このような糸および織布は、液圧式の単段高温プレスおよび多段高温プレスにおける圧力補償織布(いわゆるプレスクッション)において、熱硬化性樹脂を含浸させた装飾紙による合板の被覆時、または高圧ラミネートの製造時に使用される。
【0003】
プレスクッションは、高温プレスにおいて高い持続温度にさらされ、さらに、設備からのオイル漏れによって発生するオイル作用による化学的な負荷が生じる。さらなる化学的な負荷としては、例えばプレート材料および樹脂材料から逃げるホルムアルデヒドの蒸気作用がある。これによってクッションの早期の摩耗が惹起され、戻り特性が著しく低下してしまう。加硫されたシリコーンゴムおよびその共重合体は、接着性の表面を有する傾向があるので、さらに糸は押出し後に、タルク、シリコーンオイル、またはその他の添加物によって処理する必要があり、これによって巻取りプロセス時における糸の接着、および後の製織プロセス時における走行障害の発生を回避することができる。フッ化ゴム(FKM)およびフッ化シリコーンゴム(MFQ/FVMQ)は、シリコーンゴム(MVQ/VMQ)に比べて、良好な耐熱性および耐化学性を有している。
【0004】
独国実用新案登録第20008249号明細書には、導入部において挙げられた形式の糸を備えたプレスクッションが開示され、かつ特に、糸を混合エラストマから製造することが提案されており、このとき架橋の前に(汎用の)シリコーンゴムとシリコーン・フッ化ゴムとから成る混合物が製造される。フッ化ゴム成分は、糸の表面においては極めて僅かであり、加えられる化学物質に対する十分な保護を形成することができない。
【0005】
本発明の背景において欧州特許出願公開第1300235号明細書には、プレスクッションを製造するために金属製の熱伝導糸から成る織布を、シリコーンゴムによってコーティングし、次いでコーティングを架橋することが提案されている。独国特許出願公開第2319593号明細書には、シリコーンエラストマ内に埋め込まれた金属織布を備えた別のプレスクッションが開示されている。欧州特許出願公開第0735949号明細書に基づいて、シリコーンエラストマ糸と金属糸とから成る織布を備えたプレスクッションが公知である。
【0006】
課題
本発明の根底を成す課題は、耐熱性および耐化学性を改善することである。
【0007】
解決策
公知の糸から出発して本発明によれば、糸が、フッ化ゴム成分を表面にだけ有していることが提案される。フッ化ゴム成分を糸の表面に集中させることによって、糸の耐熱性および耐化学性は著しく改善されている。
【0008】
好ましくは、本発明によれば織布が、このような糸を経糸および/または緯糸として有している。シリコーンエラストマ製の糸を備えた織布が、従来技術に基づいて公知である。
【0009】
公知の織布から出発して、本発明によれば択一的に、コーティングが、フッ化ゴム成分を表面にだけ有していることが提案される。この構成においても、コーティングの表面にフッ化ゴム成分を集中させることによって、コーティングの耐熱性および耐化学性が著しく改善されている。
【0010】
好ましくは、本発明に係る織布の経糸および/または緯糸は、金属から成っている。このとき経糸および/または緯糸は、著しく高められた機械的な安定性を有している。さらに好ましくは、金属は撚られている。このとき経糸および/または緯糸は、等しい横断面の中実ワイヤに比べて、高い引張り強度と、同時に高い曲げ弾性とを有している。さらに好ましくは、金属は銅である。このとき経糸および/または緯糸は、他の金属に比べて、高い熱伝導性を有している。
【0011】
好ましくは、本発明によれば液圧式のプレスが、このような織布から成るプレスクッションを備えて作動させられる。プレスクッション、およびシリコーンエラストマ製のまたはシリコーンエラストマを備えた織布を有する液圧式のプレスの作動は、従来技術に基づいて公知である。
【0012】
糸またはコーティングされた織布を製造するための公知の方法から出発して、本発明によれば、フッ化ゴム成分を、架橋された糸もしくはコーティングをフッ化ガスによって表面だけフッ化させることによって製造することが提案される。本発明に係る方法は、上に記載した本発明に係る糸または織布を製造し、かつ同様に上において述べた利点によって傑出している。
【0013】
好ましくは、経糸および/または緯糸を、本発明に係る方法において、まず、シリコーンゴムによってコーティングし、次いで織布へと製織する。この順番は、例えば独国実用新案登録第20008249号明細書に基づいて公知である。
【0014】
さらに好ましくは、シリコーンゴムを、このような本発明に係る方法において、製織前に架橋しかつフッ化させる。製織前における架橋もまた、例えば独国実用新案登録第20008249号明細書に基づいて公知である。フッ化によって、シリコーンエラストマ(つまり架橋後におけるシリコーンゴム)の表面張力は、低減される。織機における糸の走行特性は、織布が作動時にエラストマ糸における減じられた摩耗を有するように著しく改善される。
【0015】
択一的に好ましくは、経糸および/または緯糸を、本発明に係る方法において、まず織布へと製織し、かつ織布を、シリコーンゴムによってコーティングする。この順番は、例えば欧州特許出願公開第1300235号明細書に基づいて公知である。
【0016】
好ましくは、本発明に係る方法において、フッ化ガスは、少なくとも0.5容量%のフッ素ガスまたはフッ化剤と、少なくとも50容量%の不活性ガスとから成っている。さらに好ましくは、10容量%のフッ素ガスまたはフッ化剤から成っている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】押出しおよび架橋後に、本発明に係る糸1をさらに製造するための装置を概略的に示す図である。
【0018】
実施形態
次に1実施形態について本発明を説明する。本発明に係る糸1は、まず、1.5mmの太さで、撚られた銅糸製の芯糸を備えた架橋されていないシリコーンゴムから連続的に押し出され、かつ押出し機に接続する加熱ゾーンにおいてシリコーンエラストマに架橋される。図面には、押出しおよび架橋後に、本発明に係る糸1をさらに製造するための装置2が概略的に示されている。すなわち糸1は、第1のロックゲートシステム3を通過して処理室4内に走入する。上昇・下降するローラ6を備えたローラシステム5において、ローラ6の数およびローラ6の間隔が、約2分のフッ化ガスの作用時間を確定する。
【0019】
不活性ガスを流入させるための弁7、フッ素ガス混合物を流入させるための弁8、および空気を流入させるための弁9を介して、装置2にはガスが供給される。調量器10を介して、導入されたガス量が測定される。別の弁11を介して、排気管路12および最後の弁13が、フッ化水素とフッ素ガス混合物とを分離するための吸着体14への排ガスを調整する。
【0020】
フッ化された糸1は、第2のロックゲートシステム15を介して装置2から進出し、かつ図示されていない後続の巻取りステーションに導かれる。ロックゲートシステム3,15は、処理室4からの図示されていないフッ化ガスの流出を阻止する。
【0021】
糸1は、加熱ゾーンからの流出後になお、フッ化を促進する50~80℃の温度を有している。択一的な構成では、処理室4は追加的にヒータを備えていてもよい。
【0022】
処理室4は、まず、大気圧下で室温において、不活性ガス(窒素、アルゴン、ネオン、ヘリウム、または希ガスの列の他のガス)によって掃気され、かつこれによって空気が除去され、次いで、10容量%のフッ素ガス(F)と90容量%の窒素(N)とから成るフッ化ガスが導入される。択一的な構成では、フッ化ガスは、分子のフッ素の代わりに、フッ化ハロゲンまたはフッ化希ガスから成っていてもよい。
【0023】
調量器10を介して、処理室4への充填が調整され、吸着体への弁は閉鎖されている。プロセスは連続的なので、プロセスガスは後調整されねばならない。
【0024】
フッ化は、化学反応であり、コーティングではない。したがってシリコーンエラストマの表面内へのフッ素原子の進入深さは、分子の領域であり、したがって糸もしくはコーティングは、単に「表面的な」フッ化シリコーン成分だけを有している。シリコーンゴムの主鎖は、交互のケイ素原子および酸素原子と、これらの原子に付着する炭化水素基とから成っている。フッ化によって、炭化水素基における表面において水素原子がフッ素原子によって置換される。このとき発生するフッ化水素(HF)は、炭化カルシウム吸着体を介して導かれ、フッ化カルシウム(蛍石)に変換される。
【0025】
フッ化後にエラストマ糸は、ポリメチルシロキサン共重合体とフッ素・シリコーンゴム共重合体とから成っている。炭素および水素に比べて高い、炭素とフッ素との結合エネルギに基づいて、発生しているフッ化ゴムは、明らかに高い耐熱性および耐化学性を有している。
【0026】
シリコーンエラストマの高い弾性は、維持されたままである。フッ化された表面は、さらに非偏光物質に対する遮断層を有しており、同時に、浸透、拡散、および移行、ならびに悪臭を放つおそれがある、シリコーンエラストマからの揮発性物質の流出が低減される。全体として、等しいままの材料品質において、プレスクッションの比較的長い使用時間が観察された。
【0027】
糸1のコーティングは、フッ化前に、31mN/mの表面張力を、フッ化後に56mN/mの表面張力を有している。静止摩擦/滑り摩擦は、約4.5Nから2Nに半分ほど低下し、ガラスにおける摩擦力は、約10Nから0.8Nに低下する。これによって本発明に係る糸1の表面は、フッ化後にもはや接着性を有していない。糸1がパッケージに巻き取られる前に、分離剤添加物、特にタルクの使用は必要ない。織機の機械部分における分離剤添加物の沈着による汚染は、もはや発生しない。織機において糸1は、停止時間なしに、特に緯方向において申し分なく走行し、静止摩擦および滑り摩擦、ならびに接着性は、既に公知の従来技術に対して、明らかに減じられている、もしくは消滅させられている。さらにシリコーンエラストマの分解による無酸素状態におけるエージングは、十分に回避されている。
【0028】
本発明に係る糸1、および本発明に係る織布から製造されたプレスクッションは、高温の蒸気、高温のナフテン系および芳香族系のオイル、ベンジン、脂肪族系および芳香族系のオレフィン、ケトン、シリコーンオイル、塩化水素、酸素、および苛性アルカリ溶液に対する高い耐性と、高温(>130℃)時における良好な持続耐性とを有している。さらに高い柔軟性および戻り特性によって傑出している。
【符号の説明】
【0029】
1 糸
2 装置
3 ロックゲートシステム
4 処理室
5 ローラシステム
6 ローラ
7 不活性ガス用の弁
8 フッ素ガス/フッ素ガス混合物用の弁
9 空気用の弁
10 調量器
11 排気用の弁
12 排気管路
13 排気用の弁
14 吸着体
15 ロックゲートシステム
図1