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特許7003283末梢血から間葉系幹細胞集団を製造する方法及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】末梢血から間葉系幹細胞集団を製造する方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20220128BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20220128BHJP
   A61K 35/28 20150101ALN20220128BHJP
   A61P 19/00 20060101ALN20220128BHJP
   A61P 25/00 20060101ALN20220128BHJP
   A61P 9/00 20060101ALN20220128BHJP
   A61P 1/16 20060101ALN20220128BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20220128BHJP
   A61P 37/02 20060101ALN20220128BHJP
   A61P 37/06 20060101ALN20220128BHJP
   A61P 17/02 20060101ALN20220128BHJP
   A61L 27/38 20060101ALN20220128BHJP
   A61K 35/545 20150101ALN20220128BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N5/078
A61K35/28
A61P19/00
A61P25/00
A61P9/00
A61P1/16
A61P35/00
A61P37/02
A61P37/06
A61P17/02
A61L27/38 300
A61K35/545
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020545832
(86)(22)【出願日】2017-11-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 CN2017113305
(87)【国際公開番号】W WO2019104466
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】521392893
【氏名又は名称】シュン、ジョンチュアン
【氏名又は名称原語表記】HSIUNG,Joun-Chaung
【住所又は居所原語表記】No.207,Bo’ai Rd.,Fengshan Dist.Kaohsiung City,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】シュン、ジョンチュアン
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/069121(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/0775
C12N 5/078
A61K 35/28
A61P 19/00
A61P 25/00
A61P 9/00
A61P 1/16
A61P 35/00
A61P 37/02
A61P 37/06
A61P 17/02
A61L 27/38
A61K 35/545
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢血から未分化ヒト間葉系幹細胞(hMSC)集団を提供する方法であって、
前記末梢血にグリセリンを添加するステップ(a)と、
ステップ(a)の末梢血中の他の体性幹細胞からhMSCを分離するステップ(b)と、
ステップ(b)の分離されたhMSCをグリセリン含有培地中で培養することにより、hMSC集団を製造するステップ(c)と、を含み、
上記培地は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるいずれかの動員剤を含まない、方法。
【請求項2】
ステップ(b)において、前記末梢血は、溶血剤を含まないチューブに収集される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)において、前記グリセリンは、約1-10mg/mLの濃度で前記末梢血に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(c)において、前記培地は、少なくとも20%(v/v)の血清を含み、前記グリセリンは、約0.1-1.0mg/mLの濃度で前記培地に存在し、前記hMSCは、37℃でグリセリン含有培地を含む培養プレート中で少なくとも12時間培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
培養したhMSCを、ステップ(c)の培養プレートよりも少なくとも20倍大きい表面積を有する別の培養プレートに移し、引き続きグリセリン含有培地中で培養し、未分化hMSC集団を製造するステップ(d)をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(d)において、hMSCを少なくとも4日培養することにより未分化hMSC集団を製造する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記のように製造された未分化hMSC集団は、細胞表面マーカーCD34-、CD45-、及びHLA-DRに対して陰性であり、細胞表面マーカーCD73+、CD90+、及びCD105+に対して陽性である、請求項4から6の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、間葉系幹細胞(MSC)を単離及び増殖する方法、並びにそれに由来する細胞集団に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(MSC)は、新生児組織(例、ヒトの臍帯のホウォートンゼリー)、骨髄、末梢血、胎盤、臍帯血、脂肪組織を含む様々な組織から単離できる。そのうち、末梢血からは、MSCが最も容易に得られる。しかしながら、MSCは末梢血中に非常に低いレベルで存在し、MSCをインビトロで増殖させても、その後の分化及び使用のために十分な量のMSCを得ることができない。
【0003】
そのため、当該技術分野において、その後の治療用途のために十分なMSC集団の製造を可能にする末梢血からMSCを得る改善された方法は必要とされる。
【発明の概要】
【0004】
以下は、読者に基本的な理解を提供するために本開示の簡略化された概要を提示する。この概要は、開示の広範な概要ではなく、本開示の重要な/決定的な要素を特定するものでも、本開示の範囲を描写するものでもない。その唯一の目的は、後に提示されるより詳細な説明の前置きとして、本明細書に開示されるいくつかの概念を簡略化した形で提示することである。
【0005】
本発明は、間葉系幹細胞(MSC)をヒト被験体の末梢血から単離し、グリセリン含有培地中でインビトロで増殖することにより、自家移植に適しかつ実質的に純粋な単離された未分化ヒトMSC(hMSC)集団を製造できることを発見した。
【0006】
したがって、本開示の第1の態様は、未分化hMSC集団を提供する方法に関する。上記方法は、
ヒト被験体から末梢血を得るステップ(a)と、
ステップ(a)の末梢血にグリセリンを添加するステップ(b)と、
ステップ(b)の末梢血中の他の体性幹細胞からhMSCを分離するステップ(c)と、
ステップ(c)の分離されたhMSCをグリセリン含有培地中で培養することにより、未分化hMSC集団を製造するステップ(d)と、を含み、
上記培地は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるいずれかの動員剤を含まない。
【0007】
本開示の実施形態によれば、ステップ(a)において、上記末梢血は、溶血剤を含まないチューブに収集される。
【0008】
本開示の実施形態によれば、ステップ(b)において、グリセリンは、約1-10mg/mLの濃度で末梢血に存在する。
【0009】
本開示の実施形態によれば、ステップ(d)において、上記培地は、少なくとも20%(v/v)の血清を含み、上記グリセリンは、約0.1-1mg/mLの濃度で上記培地に存在し、37℃でhMSCをグリセリン含有培地を含む培養プレート中で少なくとも12時間培養する。
【0010】
本開示の任意の実施形態によれば、上記方法は、
培養したhMSCを、ステップ(d)の培養プレートよりも少なくとも16倍大きい表面積を有する別の培養プレートに移し、引き続きグリセリン含有培地中で少なくとも4日間培養することにより、未分化hMSC集団を製造するステップ(e)をさらに含む。
【0011】
本開示の実施形態によれば、ステップ(e)において、hMSCを少なくとも6日間培養することにより未分化hMSC集団を製造する。
【0012】
本開示の実施形態によれば、上記のように製造された未分化hMSC集団は、細胞表面マーカーCD34-、CD45-、及びHLA-DRに対して陰性であり、細胞表面マーカーCD73+、CD90+、及びCD105+に対して陽性である。
【0013】
したがって、本開示は、本開示の方法により製造された実質的に純粋な未分化hMSC集団を含むクローン細胞株の発見に関する。
【0014】
さらに、本開示は、治療を必要とする被験体の疾患若しくは障害の治療のために本開示の方法により製造された未分化hMSC集団又はその分化した子孫の使用にも関する。
【0015】
本開示の実施形態によれば、hMSC集団は実質的に純粋なhMSCである。
【0016】
本開示の実施形態によれば、上記実質的に純粋なhMSCは、軟骨細胞、軟骨及び脂肪細胞に分化するように誘導され得る。
【0017】
したがって、自家のヒト間葉系幹細胞(hMSC)を移植する必要がある被験体の疾患又は障害を治療する方法が提供される。この方法は、有効量の本開示の方法により製造された未分化hMSC集団を上記被験体に投与して上記疾患又は障害を治療することを含む。
【0018】
本開示の実施形態によれば、hMSCの自家移植によって治療可能な疾患又は障害は、骨又は軟骨疾患、神経変性疾患、心疾患、肝疾患、がん、自己免疫疾患、移植片対宿主病(GvHD)、創傷治癒及び組織再生からなる群より選択される。
【0019】
本開示の特定の実施形態によれば、被験体に有効量の未分化hMSC集団又はその分化した子孫を3日以下、2日以下又は1日以下の期間投与する。
【0020】
本開示の付随する特徴及び利点の多くは、添付の図面に関連して考慮される以下の詳細な説明を参照してよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
特許又は出願書類には、少なくとも1つのカラー図面が含まれる。この特許又は特許出願の刊行物のカラー図面の写しは、請求及び必要な手数料の支払いがあった場合に庁によって提供される。
【0022】
本説明は、添付の図面に照らして以下の詳細な説明を読むとよりよく理解されるであろう。
【0023】
図1図1Aから1Cは、それぞれ本開示の一実施形態に係る、(A)CD90、(B)CD105に対して陽性であり、(C)CD34に対して陰性である実施例1のhMSCを示す。
図2A】本開示の一実施形態に係る、アルカリホスファターゼ染色により確認された実施例1のhMSCから分化した軟骨細胞を示す写真である。
図2B】本開示の一実施形態に係る、アルシアンブルーで染色された実施例1のhMSCから分化した軟骨を示す写真である。
図2C】本開示の一実施形態に係る、オイルレッドOで染色された実施例1のhMSCから分化した脂肪細胞を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付の図面に関連して以下に提供される詳細な説明は、本実施例の説明として意図されており、本実施例が構築又は利用され得る唯一の形態を表すものではない。この説明は、この実施例の機能と、この実施例を構成し動作させるための一連のステップを示す。しかし、同じ又は同等の機能及び順序は、異なる実施例によって達成されてもよい。
【0025】
1.定義
便宜上、本明細書、実施例及び添付する特許請求の範囲で使用される特定の用語がここに集められる。別途規定されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0026】
文脈で別途明記示されない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は複数の言及を含む。
【0027】
用語「幹細胞」は広い意味で使用され、伝統的な幹細胞、前駆細胞、前前駆細胞などを含む。用語「幹細胞」は、増殖してより多くの前駆細胞を生じさせることができる未分化細胞を指す。前記前駆細胞は、分化した又は分化可能な娘細胞を生じさせることができる多数の母細胞を生成する能力を有する。娘細胞自体は、誘導されることで増殖し、その後、1つ又は複数の成熟細胞型に分化する子孫を生成することができる。用語「幹細胞」は、特定の状況下で、より特殊化若しくは分化した表現型に分化する能力又は潜在力を有し、特定の状況下で実質的に分化することなく増殖する能力を保持する細胞を指す。
【0028】
用語「間葉系幹細胞(MSC)」は、複数の特定の種類の結合組織(例えば、脂肪組織、骨組織、間質組織、軟骨組織、弾性組織及び線維性結合組織)に分化できる多能性幹細胞を指す。同定の目的については、ヒトMSCは、表現型マーカーCD34、CD45、CD73、CD90及びCD105の発現、並びに要素を特別に支持する組織(軟骨細胞、軟骨及び脂肪細胞を含むがこれらに限定されない)に分化する能力に基づいて同定することができる。
【0029】
単離されたhMSC集団に関する用語「集団」は、細胞の混合又は異質集団から除去及び分離されたhMSCの集団を指す。いくつかの実施形態において、細胞が分離され又は増加した異種集団と比較して、hMSC集団は、実質的に純粋なhMSC集団である。
【0030】
特定の細胞集団に関する用語「実施的に純粋」は、全細胞集団を構成する細胞に対して少なくとも約70%、好ましくは約80%、より好ましくは約90%、最も好ましくは約95%純粋な細胞集団を指す。本開示に記載の方法により製造されたhMSC集団に関する用語「実施的に純粋」は、約30%未満、より好ましくは約20%、15%、10%、8%未満、最も好ましくは約5%、4%、3%、2%、1%未満又は1%未満の他の非hMSCを含むhMSC集団を指す。いくつかの実施形態によれば、本開示は、末梢血から単離されたhMSC集団を増殖させる方法を含み、ここで、増殖した末梢血由来のhMSC集団は、実質的に純粋なhMSC集団である。
【0031】
用語「クローン細胞株」は、培地で培養可能で、無限に継代できる細胞系統を指す。クローン細胞株は、幹細胞株(例えば、本開示の末梢血に由来するhMSC)であってもよく、又は末梢血由来のhMSCに由来するものであってもよい。クローン細胞株は、本開示の末梢血に由来するhMSCを含むクローン細胞株の文脈で使用され、少なくとも1ヶ月分化せずに増殖することを可能にするインビトロ条件下で培養されている。このようなクローン幹細胞株(例えば、本開示の末梢血に由来するhMSC)は、元の幹細胞からいくつかの細胞系統に沿って分化する潜在力を有する。
【0032】
細胞個体発生の文脈では、「分化した」という修飾語は相対的な用語である。「分化した細胞」とは、比較される細胞よりも発生経路がさらに進んだ細胞である。したがって、幹細胞は、系統が限定される前駆細胞に分化し、次いで、下流の他の種類の前駆細胞に分化し、さらに、末期分化細胞に分化することができる。この末期分化細胞は、特定の組織タイプで特有の役割を果たし、増殖する能力を保持する場合と保持しない場合がある。
【0033】
本明細書で用いられる用語「治療」は、所望の薬理学的及び/又は生理的効果、例えば、組織再生を得ることを意味することを意図する。効果は、疾患又はその症状の発生を完全に又は部分的に予防又は阻害する観点から防止的であってもよく、及び/又は、疾患及び/又は疾患に起因する副作用を部分的に又は完全に治癒する観点から治療的であってもよい。本明細書で用いられる「治療」は、哺乳動物(特にヒト)の疾患の予防(例えば、防止)、治癒又は一時的に軽くする治療を含み、そして、(1)疾患の傾向にあるが、まだ診断されていない個人で生じる疾患又は状態(例えば、創傷)の予防(例えば、防止)、治癒又は一時的に軽くする治療、(2)(例えば、疾患の発症を抑制することによって)疾患を阻害すること、又は(3)疾患を緩和する(例えば、疾患と関連した症状を低減する)こと、を含む。
【0034】
用語「投与される」、「投与する」若しくは「投与」、又は「移植」は、本明細書では互換的に使用され、本発明のhMSC集団を被験体の所望の部位(少なくとも一部のhMSCは、生存状態である)に投与する任意の適切な送達経路(静脈内、筋肉内、腹腔内、動脈内、頭蓋内、又は皮下を含むが、これらに限定されない)を指す。被験体への投与後の細胞の生存期間は、数時間(例えば、24時間)から数日のような短い期間又は数ヶ月のような長い期間であり得る。
【0035】
本明細書で用いられる「有効量」という用語は、血小板凝集に起因する疾患の治療に関して所望の結果を成し遂げるために必要な期間及び投与量で有効なhMSCの量を指す。例えば、創傷の治療において、皮膚及び関連する軟組織の再生を促進する薬剤(即ち、本開示のhMSC)が効果的である。有効量の薬剤は、必ず疾患又は状態を治癒することを要求せず、疾患又は病状の発症を遅延、妨害又は防止するか、或いは疾患又は病状を改善するような疾患又は状態の治療を提供する。具体的な有効量又は十分量は、治療される特定の病状、患者の身体状態(例えば、患者の体重、年齢、又は性別)、治療される哺乳動物又は動物の種類、治療期間、併用療法の性質(ある場合)、及び使用される特定の製剤などの要因によって異なる。有効量は、指定期間全体にわたって1、2又は3回以上で投与される適切な形態で1、2又は3以上の投与量に分けてもよい。
【0036】
用語「被験体」及び「患者」は、本明細書では互換的に使用され、本発明の化合物によって治療可能な人類を含む哺乳動物を意味する。用語「哺乳動物」は、ヒト、霊長類、家畜、及び、農場動物、例えば、ウサギ、ブタ、ヒツジ又は牛;動物園、スポーツ又はペット動物;及びマウス及びラットのようなげっ歯類を含む哺乳綱のすべてのメンバーを指す。さらに、用語「被験体」又は「患者」は、1つの性別が特定されていない限り、オスとメスの両方の性別を指すことが意図される。従って、用語「被験体」又は「患者」は、本開示の治療方法から利益を得ることができる任意の哺乳動物を含む。「被験体」又は「患者」の例は、ヒト、ラット、マウス、モルモット、サル、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、トリ及びニワトリを含むがこれらに限定されない。好ましい実施形態において、被験体はヒトである。
【0037】
用語「培地」は、組織若しくは細胞集団を維持し、又は細胞集団を培養するための培地(例えば、培養培地)であって、細胞生存を維持し、増殖をサポートする栄養素を含むものを指す。細胞培養培地には、塩、緩衝液、アミノ酸、グルコース又は他の糖、抗生物質、血清又は血清代替物、及び他の成分、例えば成長因子などのいずれかの適切な組み合わせが含まれる。特定の細胞型に通常使用される細胞培養培地は、当業者に知られている。
【0038】
本明細書において、用語「動員」は、細胞がそれらの存在するニッチ(例えば、骨髄)を離れ、血液に入る過程を指す。用語「動員剤」は、末梢組織及び骨髄の幹細胞ニッチに存在する幹細胞(例えば、MSC)のプール又は集団に接着性を喪失させる薬剤を指す。
【0039】
2.末梢血に由来するヒト間葉系幹細胞(hMSC)の単離及び培養
間葉系幹細胞(MSC)は、通常、骨髄から得られる非造血幹細胞である。MSCは、非常に低レベルで末梢血に存在し、末梢血からの採取では、インビトロで増殖しても治療用途のために十分な量の細胞が得られない場合が多い。本発明者らは、予期せぬことに、末梢血に由来するMSCを単離及び増殖する方法を発見することにより、単独で又は他の細胞と組み合わせて再生療法における自家療法(例えば、創傷治癒、骨修復、及び他の整形外科の適応症)に適用可能な実質的に純粋なhMSC集団の製造を可能にする。
【0040】
したがって、本開示の第1態様は、未分化hMSC集団の提供方法を提供することを目的とする。この方法は、
ヒト被験体から末梢血を得るステップ(a)と、
グリセリンをステップ(a)の末梢血に添加するステップ(b)と、
ステップ(b)の末梢血における他の体性幹細胞からhMSCを分離するステップ(c)と、
ステップ(c)の分離されたhMSCをグリセリン含有培地中で培養し、hMSC集団を製造するステップ(d)と、を含み、
上記培養は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるいずれかの薬剤を含まない。
【0041】
いくつかの実施形態によれば、本発明方法のステップ(a)において、ヒト被験体から末梢血を採取し、抗凝固剤(例えば、ヘパリン)が入ったチューブに収集する。本開示の実施形態によれば、被験体は、健康な被験体、又はhMSC移植を必要とする疾患若しくは障害に罹患している被験体であり得る。さらに、本発明のhMSCの製造のために末梢血を採取する被験体には、特定の年齢制限がない。特定の実施形態によれば、末梢血は、20歳から30歳のヒト被験体から採取される。他の実施形態によれば、末梢血は、50歳から60歳のヒト被験体から採取される。さらなる実施形態によれば、末梢血は、70歳から80歳のヒト被験体から採取される。
【0042】
末梢血を収集した直後、グリセリンと混合し、37℃で少なくとも4時間、好ましくは少なくとも6時間インキュベートする(本発明方法のステップ(b))。本開示の実施形態によれば、グリセリンは、好ましくは約1-10mg/mL(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10mg/mL)、より好ましくは約2-8mg/mL(例えば、2、3、4、5、6、7及び8mg/mL)、最も好ましくは約5mg/mLの量で末梢血に存在する。
【0043】
インキュベートした後、セルソーター又は遠心エルトリエーションなどの適切な手段によりグリセリン含有末梢血中のhMSCを他の体性幹細胞から分離する(本発明方法のステップ(c))。
【0044】
本開示のいくつかの実施形態によれば、本発明方法のステップ(c)において、レーザースキャンフローサイトメータなどのセルソーターを用いて末梢血中のhMSCを他の体性幹細胞から分離する。フローサイトメータは通常、レーザー光源と、流量測定チャンバーと、光学システム(レンズ、フィルター及び光検出器からなる)から構成される。2つの光電子増倍管(1つはレーザーに対して180度、もう1つは90度)によりそれぞれ前方散乱(FSC)及び側方散乱(SCC)を測定する。前方向チューブにおけるフィルターと光電子増倍管から構成される3つの蛍光検出器により蛍光を検出する。蛍光活性化セルソーティング(FACS)装置は、特定の前方散乱及び/又は側方散乱の細胞が選択されるように設定される。FSCは細胞の表面積又はサイズに比例する。FSCは、主に回折光の測定に用いられ、フォトダイオードにより順方向における入射レーザービームの軸から少し外れて検出される。FSCは、粒子の蛍光に関係なく、所定サイズより大きい粒子を検出する適切な方法を提供する。側方散乱光(SCC)は、粒度又は内部の複雑さに比例する。SSCは、主に屈折率の変化がある細胞内の任意の界面で発生する屈折光と反射光の測定に用いられる。SSCは、集光レンズによってレーザービームに対して約90度で集光され、ビームスプリッターによって適切な検出器に転送される。よって、特定のFSC及びSSCでゲーティングすることにより、細胞を選択することができる。本開示の実施例によれば、細胞表面の発現レベルに基づいて末梢血中のhMSCを他の体性幹細胞から分離し、異なる蛍光強度で染色されたイベントにゲートが設定された細胞集団を選択する。
【0045】
さらに、ステップ(c)において、ステップ(b)で得られたグリセリン含有末梢血をセルソーター(例えば、COBE Spectra Apherasis System)に注入し、必要に応じて血液が凝固しないように抗凝固剤を添加する。次に、この混合物を遠心分離機で回転させて、末梢血をMSC集団と他の血液成分や血漿からの単核細胞に分離する。その後、分離されたMSCを収集バッグに入れて保存し、一方、他の血液成分及び血漿を廃棄するか、又は被験体に戻す。
【0046】
さらに、本発明方法のステップ(c)において、遠心エルトリエーションによりグリセリン含有末梢血中のhMSCを他の体性幹細胞から分離する。遠心エルトリエーションでは、サイズの大きな幹細胞から小さな幹細胞が分離される。特定の実施形態において、ステップ(b)のグリセリン含有末梢血を回転遠心分離機に配置された一般的な漏斗形状の分離チャンバーに導入する。液体エルトリエーション緩衝液の流れを末梢血を含むチャンバーに導入する。チャンバーを通る液体エルトリエーション緩衝液の流速が増加すると、サイズがより小さく、沈降がより遅い細胞は液体によってチャンバー内のエルトリエーション境界に掃引され、サイズがより大きく、沈降がより速い細胞は遠心力と沈降力のバランスが取れているチャンバーの領域に移動する。したがって、末梢血は多くの異なる幹細胞集団を含むので、エルトリエーションにより別個の集団に分離することができる。エルトリエーションでは、サイズの大きな幹細胞から小さな幹細胞が分離される。末梢血に由来するMSCの取得及び/又は単離には、任意のエルトリエーション装置を使用することができる。
【0047】
本発明方法のステップ(d)において、ステップ(c)で製造されたhMSCを、さらに、単離されたhMSCの増殖を増強する条件で培養することにより増殖させる。本開示の好ましい実施形態によれば、ステップ(c)で得られたhMSCをペトリ皿(表面積約10cm)におけるグリセリン含有成長培地中で培養する。この成長培地には、既知の幹細胞動員剤(顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない)が含まれない。特定の成分を含まない培地に言及する場合、本開示は、培地にこの成分が含まれるが、その最小活性を示す濃度よりも小さい濃度で含まれることを意図することが理解され得る。したがって、例えば、特定の培地には、微量の上記幹細胞動員剤(即ち、G-CSF、GM-CSF又はこれらの組み合わせ)を含み得る。しかしながら、本開示の方法は、市販の培地の調製品に含まれるか、又は培地成分濃度の全体的な調整から生じる増殖因子以外に、外因的に加えられた増殖因子を含まない培地に関する。
【0048】
本発明のhMSCを培養するのに適した典型的な培地は、完全培地(例えば、DMEM)であり得る。この完全培地は、少なくとも20%(v/v)の血清、好ましくは少なくとも30%(v/v)の血清、より好ましくは少なくとも50%の血清を含み、完全培地におけるグリセリンの濃度は、好ましくは約0.1-1.0mg/mL(例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9及び1.0mg/mL)、より好ましくは約0.2-0.8mg/mL(例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7及び0.8mg/mL)、最も好ましくは約0.5mg/mLの濃度である。いくつかの実施形態において、hMSCを培養するための成長培地は、0.1-1.0mg/mLのグリセリンが添加されてもよい100%(v/v)血清である。培養中に、細胞代謝に必要なサプリメント(例えば、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、及びトランスフェリンなどの有用なタンパク質など)を添加することができる。培地は酵母、細菌、及び真菌による汚染を防ぐために抗生物質を含んでもよい。抗生物質は、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシンなどであり得る。本開示の一実施形態によれば、培地は脳下垂体抽出物、血漿及びウシ胎児血清を含む。一定期間培養してhMSCを増殖させてもよい。これによって、十分量のhMSCを製造することができる。特定の実施形態によれば、ステップ(c)で得られたhMSCを30%(v/v)の血清及び0.5mg/mLのグリセリンを含む培地中で37℃で少なくとも12時間、好ましくは少なくとも16時間、より好ましくは少なくとも24時間培養することにより、自家移植に適したhMSC集団を製造する。
【0049】
本開示の実施形態によれば、本発明方法により製造されたhMSC集団は、造血幹細胞マーカーCD34及びCD45、並びに移植片対宿主病(GvHD)を媒介することが知られているヒト白血球抗原-抗原D関連(HLA-DR)細胞表面マーカーに対して陰性染色を示し、細胞表面マーカーCD73、CD90及びCD105に対して陽性染色を示す。細胞表面マーカー発現を決定する方法は、当技術分野でよく知られている。例には、免疫学的方法(例えば、FACS)及び生化学的方法(例えば、放射性、蛍光、又はアビジン-ビオチンによる細胞表面標識)が含まれる。或いは、磁気細胞選別(MACS)又はイムノパニングにより細胞を同定することができる。
【0050】
本発明方法により製造されたhMSC集団上の細胞表面マーカーの発現のパターンは、このhMSC集団が確かに未分化の成熟hMSCの豊富な集団であることを証明し、このhMSC集団は自家幹細胞移植を必要とする再生療法で使用され得る。
【0051】
3.ヒトMSCクローン細胞株
本開示の他の態様は、上記のいずれかの方法により製造された実質的に純粋な未分化hMSC集団を含むクローン細胞株に関する。
【0052】
本開示のこの態様によれば、新たに単離された又は上記の方法で製造されたhMSCを、分化を誘導しない条件下(例えば、分化因子の非存在下)で培養することによりさらに増殖させる。一般に、hMSCが宿主から単離され、又はhMSC集団(例えば、本発明方法のステップ(d)で製造されたhMSC)を製造するために選択された後、ステップ(d)よりも少なくとも16倍、少なくとも17倍、少なくとも18倍又は少なくとも20倍大きい表面積を有する培養プレート中で培養し、引き続き上記グリセリン含有培地(即ち、ステップ(d)の培地)で培養する。上記hMSC集団は、異質細胞集団又は純粋なhMSC集団であってもよい。必要に応じて、hMSCをバイオリアクターで培養して大量の細胞を製造する。本開示の実施形態によれば、本発明のステップに適した培地は、細胞動員剤(例えば、G-CSF、GM-CSF及びこれらの組み合わせ)を含まず、好ましくは約0.1-1.0mg/mL(例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9及び1.0mg/mL)、より好ましくは約0.2-0.8mg/mL(例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7及び0.8mg/mL)、最も好ましくは0.5mg/mLの濃度でグリセリンを含む。同質の未分化hMSC集団を製造するために、培養は、少なくとも7日間、好ましくは少なくとも10日間、より好ましくは少なくとも14日間行う。同質の未分化hMSC集団は、好ましくは少なくとも70%のhMSC、より好ましくは少なくとも80%のhMSC、最も好ましくは少なくとも90%のhMSCを含む。
【0053】
本開示の実施形態によれば、hMSCは、少なくとも2倍の集団倍加、少なくとも4倍の集団倍加、少なくとも6倍の集団倍加、少なくとも8倍の集団倍加、少なくとも10倍の集団倍加、少なくとも12倍の集団倍加、少なくとも15倍の集団倍加、少なくとも20倍の集団倍加、少なくとも30倍の集団倍加、又は少なくとも40倍の集団倍加に増殖することができる。
【0054】
上記ステップ(d)と同様に、このようにして製造された同質hMSC集団は、未分化のままであり、造血幹細胞マーカーCD34及びCD45、並びに細胞表面マーカーHLA-DRに対して陰性染色を示し、細胞表面マーカーCD73、CD90及びCD105に対して陽性染色を示す。
【0055】
本発明方法により製造されたhMSC集団培養物は、新たに使用するか、又は使用するまで保存することができる。保存は、例えば、凍結保存剤(グリセロール、ジメチルスルホキシド(DMSO)などを含むが、これらに限定されない)の存在下で凍結保存される。
【0056】
4.本発明のhMSCを含む組成物
本開示のhMSCは、単独で、培地と共に、又は医薬的に許容されるキャリア及び他の添加剤と組み合わせて提供され得る。添加剤(例えば、免疫抑制剤、抗生物質、成長因子など)は、細胞生着及び/又は臓器機能を促進することができる。したがって、本開示のhMSCは、医薬組成物で被験体に投与され得る。医薬組成物において、本開示のhMSCは、医薬的キャリア又は希釈剤(例えば、滅菌生理食塩水及び水性緩衝溶液)と混合される。
【0057】
適切な投与経路には、経口、直腸、経粘膜(例えば、経鼻)、腸内又は非経口送達(筋肉内、皮下、心室内注射、髄腔内、脳室内、静脈内、腹腔内又は眼内注射)が含まれるが、これらに限定されない。
【0058】
或いは、全身的ではなく局所的に医薬組成物を投与してもよい。例えば、標的部位(例えば、臓器)に直接医薬組成物を注射することができる。
【0059】
本開示によれば、医薬組成物は、1つ以上の医薬的に許容されるキャリアを使用して従来の方法で製剤化することができる。適切な製剤は投与経路に依存する。
【0060】
注射のために、本開示のhMSCは、水溶液、好ましくは生理学的に許容される緩衝液(例えば、リンガー溶液)又は生理学的に許容される塩溶液に製剤化され得る。
【0061】
本開示の文脈での使用に適した医薬組成物は、活性成分(例えば、hMSC)が所望の目的を達成するのに有効な量で含まれる組成物を含む。有効量の決定は、当業者の能力の範囲内であり、特に本開示の説明に照らして行われる。
【0062】
本開示の医薬組成物は、本発明のhMSCを含む1つ又は複数の単位剤形を含み得るキットとして提示されてもよい。上記キットはさらに、キット上又はキットに付随してラベル又は添付文書を含んでもよい。ラベル又は添付文書は、キットが特定の疾患及び/又は障害の治療用であることを示す。キットは、リン酸緩衝生理食塩水又はリンガー溶液などの緩衝液をさらに含んでもよい。キットは、本発明のhMSCを所望の標的部位に投与する方法についての指示をさらに含んでもよい。
【0063】
一実施形態によれば、上記キットは、少なくとも(a)本発明のhMSCを含む第1容器と、必要に応じて(b)緩衝液を含む第2容器と、(c)キットの使用方法をユーザーに提示するためのキットに関連した凡例とを含んでもよい。凡例は、パンフレット、テープ、CD、VCD、又はDVDの形式であり得る。
【0064】
5.本発明のhMSC又はその分化した子孫の使用
上述した本発明方法により製造された未分化hMSC集団又はその分化した子孫は、自家移植によって有益な効果が達成される無数の疾患及び/又は障害を治療及び/又は予防するために自家移植に使用することができる。
【0065】
本開示の他の態様は、被験体の疾患及び/又は病状を治療する方法に関する。当該方法では、有効量の本発明方法により製造されたhMSC集団及びその分化した子孫を被験体に数日から数週間投与する。
【0066】
MSCは、様々な細胞系統に分化することができる。分化は、望ましい表現型を有する細胞(例えば骨芽細胞、脂肪細胞)が豊富な成長環境でMSCを培養することによって達成できる。培養物は、特定の系統への分化を増強する薬剤を含み得る。本開示の一実施形態によれば、hMSC集団はデキサメタゾン、アスコルビン酸、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸を含む培地でコンフルエントに達するまで培養することにより、軟骨細胞に分化する(Williams et al.(2003)Tissue Engineering.9(4),679を参照)。分化した軟骨細胞は、アルカリホスファターゼ染色により確定される。本開示の他の実施形態によれば、hMSC集団は、商業的な軟骨形成培地で培養することにより、軟骨に分化する。分化した軟骨は、プロシアグリカンをアルシアンブルーで染色することにより確認される。本開示のさらなる実施形態によれば、hMSC集団は、脂肪細胞に分化する。脂肪生成分化を誘導するために、hMSCは脂肪生成培地で処理される。脂肪生成培地は、ヒドロコルチゾン、インドメタシン、及び/又は市販のMSC脂肪生成刺激サプリメント(例えば、StemCell Technologies Inc(Vancouver,CA)から購入されるもの)を含む。脂肪生成分化は、オイルレッド染色によって確認される。
【0067】
本開示の実施形態によれば、hMSC集団又はその分化した子孫によって治療可能な疾患及び/又は障害は、骨又は軟骨疾患、神経変性疾患、心疾患、肝疾患、がん、自己免疫疾患、移植片対宿主病(GvHD)、創傷治癒及び組織再生からなる群より選択される。
【0068】
本発明方法で製造されたhMSC集団又はその分化した子孫による治療に適した骨欠損には、骨形成不全症、骨折、先天性骨欠損などが含まれるが、これらに限定されない。
【0069】
本発明方法で製造されたhMSC集団又はその分化した子孫は、被験体に移植することにより、整形外科及び他の(例えば、歯科用)補綴装置、例えば、関節置換及び/又は歯牙移植に骨と結合組織の支持を提供することができる。
【0070】
MSCが軟骨に分化できるため、本発明方法で製造されたhMSC集団及びその分化した子孫は、間接病状(変形性関節症、関節リウマチ、炎症性関節炎、軟骨軟化症、無血管性壊死、外傷性関節炎などを含むが、これらに限定されない)の治療に適している。
【0071】
本発明方法で製造された集団は、CNS障害の治療にも適用できる。CNS障害の例には、疼痛障害、運動障害、解離性障害、気分障害、情動障害、神経変性疾患、及びけいれん性障害が含まれるが、これらに限定されない。このような障害のより具体的な例には、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症、ハンチントン病、自己免疫性脳脊髄炎、糖尿病性神経障害、緑内障性神経障害、黄斑変性症、行動性振戦及び遅発性ジスキネジア、パニック、不安うつ病、アルコール依存症、不眠症、躁病、アルツハイム病及び癲癇が含まれますが、これらに限定されない。
【0072】
MSCは造血幹細胞や免疫細胞と相互作用することが知られており、同種造血生着の促進及び移植片対宿主病(GvHD)の防止のための潜在的な細胞治療を示している。したがって、本発明方法で製造されたhMSC集団は、GvHDの治療にも適用できる。
本発明方法で製造されたhMSC集団又はその分化した子孫は、組織再生の促進にも適用できる。hMSCの移植は、自己免疫疾患、炎症性疾患、急性及び慢性の虚血性状態の治療、組織工学、新しい組織の再生、並びに罹患臓器又は損傷臓器の自然治癒に有用である。
【0073】
MSCを梗塞した心臓に導入することにより、有害なリモデリングが防止され、回復が促進されることが知られている。MSCが梗塞部位に直接注射されるか、又は静脈内投与されると、損傷部位に戻ることが確認された。したがって、本発明のhMSC集団又はその分化した子孫は、心疾患、特に心筋梗塞の治療にも適用できる。
【0074】
本発明のhMSC集団又はその分化した子孫によって治療可能ながんの例には、乳がん、脳腫瘍、黒色腫、肺がん、リンパ腫、神経上皮腫、腎臓がん、前立腺がん、胃がん、結腸がん、直腸がん、膵臓がん、子宮がんが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、がんは転移性である。
【0075】
上記hMSC集団又はその分化した子孫は、性質が移植部位に依存する様々な移植アプローチにより治療を受ける個体に移植することができる。細胞は、組織の損傷又は健康な領域に移植されてもよい。hMSCが健康な領域に投与された場合、hMSCは損傷領域に移動する。
【0076】
上記hMSC集団又はその分化した子孫は臓器への直接注射、血流への注射、腹腔内注射、リンパ系臓器への直接注射によって移植することができる。適切な移植方法は、所望の臓器への移植細胞のホーミング及び生着、所望の臓器特異的マーカーの発現、及び被験体の所望の臓器の機能をモニタリングすることによって決定することができる。
【0077】
hMSC集団又はその分化した子孫は、被験体において所望の治療効果を達成する量で投与される。本発明方法で使用されるhMSCの有効量は、インビトロ及び/又はインビトロ細胞培養アッセイから推定することができる。例えば、投与量は、実験動物で策定して望ましい濃度を達成し、さらにこの情報を用いてヒト用の投与量をより正確に決定することができる。投与量は投与経路によって異なる。正確な投与量及び投与経路は、主治医によって患者の病状と病歴に基づいて決定することができる。
【0078】
治療すべき病状に応じて、有効量の本発明のhMSCは、単回投与又は複数回投与であり得る。治療コースは、数日から数週間の期間であってもよく、効果的に治癒するか又は疾患の症状が軽減されるまで続いてもよい。
【0079】
本開示のさらなる目的、利点及び特徴は、限定することを意図しない以下の実施例を検討すると、当業者に明らかになるであろう。
【実施例
【0080】
材料と方法
表面抗原分析
0.25%トリプシン-EDTAを用いて細胞を培養プレートから分離した。細胞を1%BSAを含むPBS溶液で洗浄し、フルオレセインイソチオシアニド(FITC)又はフィコエリトリン(PE)結合抗体で4℃で30分間染色した。MSCマーカーは、抗CD29(インテグリンβ1鎖)、抗CD105(SH2、エンドグリンCD73(+))であり、造血幹細胞マーカーは、抗CD34(陰性対照)であり、白血球マーカーは、抗CD45(白血球共通抗原)である。次に細胞をPBSで洗浄し、FACS Caliburフローサイトメーター(FACSCanto,BD Biosciences,Becton,Dickinson and Company,San Jose,CA)により分析した。励起用光源として488nmのアルゴンレーザービームを使用して、細胞を最大1,000細胞/秒の速度で通過させた。FITC及びPE結合アイソタイプコントロール抗体で染色した細胞を使用してバックグラウンド蛍光を計算した。
【0081】
STEMPRO骨形成分化キット(Gibco)を用いて骨細胞へのhMSCの分化を誘導し、STEMPRO脂肪生成分化キット(Gibco)及び軟骨形成誘導培地(Gibco)を用いて脂肪細胞及び軟骨細胞へのhMSCの分化を誘導した。次に、これらの細胞を37℃で95%空気及び5%CO加湿インキュベーター内で維持した。14日間2~5日間ごとに培地を交換した。標準的な手順に従ってアルシアンブルー染色により分化した軟骨を評価した。標準的な手順に従ってオイルレッドO染色より分化した脂肪細胞を評価した。
【0082】
実施例1:ヒト間葉系幹細胞(hMSC)の製造及び培養
本研究には、書面でインフォームドコンセントに同意した15人のヒト被験体が含まれる。これらの被験体は、年齢に応じて各群5人で50-60歳群、70-80歳群、及び20-30群に分けられた。各被験者から血液(10mL)を採取し、ヘパリンを含むチューブに収集し、次に、グリセリン0.5mg(100mg/mL)を添加し、グリセリンを含む血液を37℃のインキュベーターに6時間保存した。次に、血液を含むグリセリンを3,500rpmの速度で18分間遠心分離した。遠心分離後、チューブの中間層の細胞を抽出し、PBS溶液(8mL)に再懸濁した。細胞懸濁液を18×gの速度で再度13分間遠心分離し、上清を捨て、チューブの中間層の細胞を抽出し、10mLのthermo-life培地(ケラチノサイト-SFM 500mL、ウシ下垂体抽出物2.5mL、13%の新鮮なヒト冷凍血漿(FFP)、30%のウシ胎児血清、15mLのグリセリン(100mg/mL)、及び上皮成長因子(EGF,2.5μg)を含む)を含む培養プレート(表面積:約10cm)に接種した。次に、細胞接種培養プレートをインキュベーターに置き、37℃、70%RH(相対湿度)、5%COの条件で16~18時間インキュベートした。その後、細胞を収集し、上記thermo-life培地10mLを含む別の培養プレート(表面積:175cm)に再接種した。培地を3日ごとに交換し、培地の交換を少なくとも1回繰り返した。間葉系幹細胞は5日目に現れ始め、最終的に7日目頃にコンフルエントに達した。得られたhMSCを単離し、使用するまで凍結温度で保存した。
【0083】
さらに、hMSCは、高齢被験体(例えば、70~80歳の被験体)の末梢血から成功裏に取得し、インビトロで増殖できることが発見された。
【0084】
実施例2:実施例1のhMSCの特性
2.1 細胞表面抗原分析
トリプシン/EDTAを用いて実施例1の接着細胞を単離し、「材料及び方法」に記載の順に従ってフローサイトメータにより表面抗原分析を行なった、結果を図1に示す。
【0085】
実施例1の細胞は、細胞表面マーカーCD73(データ示さず)、CD90(図1A)及びCD105(図1B)に対して陽性を示し、CD34(図1C)、CD45(データ示さず)及びHLA-DR(データ示さず)に対して陰性を示した。この結果により、これらの細胞は間葉系幹細胞であることが実証された。
【0086】
2.2 実施例1のhMSCの分化
この実施例において、実施例1のhMSCが依然として分化能力を有することを証明するために、hMSCのその後の分化を誘発する薬剤をそれぞれ含む培地でhMSCを培養した。実施例1のhMSCから分化した軟骨細胞、軟骨及び脂肪細胞は、標準的な手順に従って、それぞれアルカリホスファターゼ(図2A)、アルシアンブルー(図2B)、及びオイルレッドO(図2C)で染色することにより確認された。
【0087】
実施形態の上記の説明が単なる例として与えられており、当業者によって様々な変更がなされ得ることが理解されるだろう。上記の明細書、実施例及びデータは、本発明の例示的な実施形態の構造及び使用の完全な説明を提供する。本発明の様々な実施形態が、ある程度具体的に、又は1又は複数の個々の実施形態を参照して、上述されているが、当業者は、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、開示された実施形態に多数の変更を行うことができる。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C