(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】土壌内菌清浄化材
(51)【国際特許分類】
D06M 11/83 20060101AFI20220113BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20220113BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20220113BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20220113BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
D06M11/83
A01N25/00 102
A01N25/34 B
A01N59/16 A
A01P3/00
(21)【出願番号】P 2018005355
(22)【出願日】2018-01-17
【審査請求日】2021-01-08
(31)【優先権主張番号】P 2017020759
(32)【優先日】2017-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517041763
【氏名又は名称】中川 榮一
(72)【発明者】
【氏名】中川 榮一
(72)【発明者】
【氏名】中川 稔啓
(72)【発明者】
【氏名】多田 富美子
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-131016(JP,A)
【文献】特開2005-048315(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0107484(KR,A)
【文献】特表2016-535179(JP,A)
【文献】実開昭53-115181(JP,U)
【文献】特開2002-153547(JP,A)
【文献】特開2004-161632(JP,A)
【文献】特開2004-344351(JP,A)
【文献】特表2007-511679(JP,A)
【文献】特開2008-202195(JP,A)
【文献】特開2011-167226(JP,A)
【文献】特開2013-185292(JP,A)
【文献】特開2014-040416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00 - 65/48
D06M 10/00 - 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀または銅の抗菌性微粒子を溶液に混合したA液を透水性不織布材に塗着し、前記A液を粒度調整した不溶性多孔質粒子に付着担持したB粒子を、前記A液の硬化前に前記透水性不織布材に付着した、透水性不織布。
【請求項2】
請求項1において、前記抗菌性微粒子は、粒径が数nmから数10nmであり、前記A液は、1000ポイズ以下に粘度調整した有機系または無機系の溶液に100PPMから200PPMの濃度に混合したものであり、前記B粒子は、前記A液を数μmから数千μmの粒径に調整した前記不溶性多孔質粒子に付着担持したものであり、前記透水性不織布材は、10mm以下の厚みである透水性不織布。
【請求項3】
請求項1において、前記B粒子は、前記A液を前記不溶性多孔質粒子に塗着した粒径1cm以下のものである、透水性不織布。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかの透水性不織布材と共に、炭素繊維を含む電導発熱体、または前記電導発熱体を包含した筐体により、土壌温度を摂氏60度から摂氏75度、好ましくは摂氏65度から摂氏70度に3時間以上、好ましくは6時間以上加熱して土壌の長期浄化維持を行う植物病害菌の浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土壌内菌清浄化材に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は農園芸分野において黴菌、糸状菌等の土壌菌を防除する際に、作業時においての土壌菌浄化効果のみだけでなく人畜にたいして安全に作業出来かつ効果が長期間有効な浄化手段を提供するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
土壌中のフサリウムなどの有害糸状菌対策は多種の農作物栽培にとって重要であり長期間にわたり安全且つ有効な方策の策定は重要で必要な課題である。
【0005】
在来の解決手段では農薬による燻蒸殺菌浄化、蒸気配管による土壌の加熱法、太陽熱殺菌浄化法などが存在する。
【0006】
それぞれの対策法は短期的には有効な方法であるが燻蒸殺菌では毎年の農薬散布から生じる農地近隣への薬害気化と残留農薬が課題とされる。
【0007】
蒸気管加熱法では有害菌浄化に有効な土壌温度の均一性の維持管理と設備費用が問題である。
【0008】
つまり、蒸気管加熱法では有害糸状菌の浄化に適正な温度60度から70度の範囲に均一に対象土壌を加熱する温度の維持管理が困難で必要以上に加熱して有効菌をも浄化してしまうなどが課題である。
【0009】
太陽熱殺菌浄化では有害菌浄化に必要な温度を土壌表面から十分な深さまで得られないことと農閑期に行われることが多く十分な日射量が安定しないことで殺菌に数週間の時間を要している。
【0010】
在来の各対策は共通の欠点として当該有害菌の再侵入防止対策が無く、または土中深くに存在する有害菌の再活性に対しての十分な防止対策が困難であり、これまでは長期間有効な有害菌浄化効果の維持を得られないことが課題である。
【0011】
本発明は、以上のような従来の対策の欠点に鑑み、燻蒸殺菌法のような薬害の懸念が無く、陽熱浄化殺菌法のように農閑期に浄化するなどと時期に関係なくいつでも浄化作業が行え、太陽熱殺菌法のような深さの制約を受けないで、病原菌の浄化に必要な深さまでの土壌を浄化出来て、蒸気管加熱法のような設備投資費、維持運転費を要しない、浄化の有効な期間を長くするために病原菌の再活性化と侵入を防止することができる土壌内浄化材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題を解決するために、本発明は、銀または銅の抗菌性微粒子を溶液に混合したA液を透水性不織布材に塗着した透水性不織布とする。(請求項1)
【0013】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、銀または銅の抗菌性微粒子を溶液に混合したA液を透水性不織布材に塗着し、前記A液を粒度調整した不溶性多孔質粒子に付着担持したB粒子を、前記A液の硬化前に前記透水性不織布材に付着した透水性不織布とする。(請求項2)
【0014】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、請求項2において、前記抗菌性微粒子は、粒径が数nmから数10nmであり、前記A液は、1000ポイズ以下に粘度調整した有機系または無機系の溶液に100PPMから200PPMの濃度に混合したものであり、前記B粒子は、前記A液を数μmから数千μmの粒径に調整した前記不溶性多孔質粒子に付着担持したものであり、前記透水性不織布材は、10mm以下の厚みである透水性不織布とする。(請求項3)
【0015】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、請求項2において、前記B粒子は、前記A液を前記不溶性多孔質粒子に塗着した粒径1cm以下のものである透水性不織布とする。(請求項4)
【0016】
また、前記の課題を解決するために、請求項1~4のいずれかの透水性不織布材または抗菌性微粒子と共に、炭素繊維を含む電導発熱体、または前記電導発熱体を包含した筐体により、土壌温度を摂氏60度から摂氏75度、好ましくは摂氏65度から摂氏70度に3時間以上、好ましくは6時間以上加熱して土壌の長期浄化維持を行う植物病害菌の浄化方法とする。
【発明の効果】
【0017】
燻蒸殺菌法や蒸気管殺菌法や太陽熱殺菌法と比べて無農薬で随時に必要な深さまで浄化が出来る。本発明は、燻蒸殺菌法のような薬害の懸念が無く、太陽熱浄化殺菌法のような時期的な制約なく、いつでも浄化作業が行え、太陽熱殺菌法のような有効深さの限度制約を受けないで、病原菌の浄化に必要な深さまでの土壌を浄化出来て、蒸気管加熱法のような設備投資費、維持運転費を要しない、かつ浄化後の土壌内において病原菌の再活性化と浄化区域外からの侵入を防止することができる。フサリウム菌属を浄化するだけでなく土壌を豊かにする枯草菌などのバクテリア細菌を増加する結果を期待できる。
発熱体を用いて任意の範囲で土壌加熱を行うことで在来の手段より短時間に天候に左右されずに随時に無農薬で対象土壌を浄化出来る。
本発明による土壌を65度乃至70度にて6時間熱処理する無農薬加熱法はフサリウム菌属の糸状菌を減少することが出来る一方で、その他の糸状菌、土壌醸成に良いバクテリア細菌が増加すること出来る。
透水性不織布で浄化区域と非浄化区域を区分して土壌病原菌の侵入を防護できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の不織布の構成要素を表す図 不織布繊維と抗菌性金属微粒子が直接付着する部分と多孔質微粒子Bが不織布繊維に付着した状態
【
図2】浄化作業対象区域(e)と対象区域外(h)との境界に設置する不織布(d)を示す図
【
図3】浄化作業区域(e)傍らに設置した加熱用筐体(g)断面略図と本発明の不織布(d) を示す図
【
図4】浄化作業区域(e)内に散布混合した多孔質粒子体(b)と本発明の不織布(d) を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は二段階で行う。はじめの段階は土壌加熱工程であり、対象とする土壌を加熱して有害菌を浄化するために発熱体を設置する。発熱体は効率よくするために導電性炭素繊維を用いる。発熱体の設置の方法は土中に直接適正な間隔に配置するか、または対象とする土壌を発熱体を内包する筐体に移す。この場合は土壌を浄化後戻す。
有効な発熱温度である65度から70度の土中温度を得るためには土壌成分により発熱体の間隔を管理する。加熱時間は通電時間により管理する。
【0020】
次の段階は浄化の維持工程である。浄化区域外から菌の再侵入汚染防止や土中残留胞子の再活性を防止するために対象土壌区域と区域外との境界に本発明による透水性不織布で遮断して防御壁を設ける。
【0021】
この遮断防御機能の透水性不織布には銅または銀の数nmから数10nmサイズにした微粒子が好ましく、この微粒子を溶液状に混合し,これをA液と称す。
【0022】
透水性不織布に塗着するA液は200ポイズから500ポイズの粘度の接着性溶液である。
【0023】
このA液を好ましくは数μmから数百μmに粒度調整した牡蠣殻や火山灰などの多孔質粒子に塗着してこれをB粒子と称し、この多孔質B粒子を更に厚み10mm以下の透水性不織布にA液を用いて空隙構造に塗着する。この透水性不織布を遮断防御材とする。
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は本発明の透水性不織布であり遮断防護に使用するものの構成である。
図2は浄化処理後に病原菌の侵入を防護するために透水性不織布を配置する。
図3に示すgは加熱用筐体略図である。筐体内部に発熱伝熱体を5CM毎に水平方向と垂直方向に配置してある場合の断面図である。
対象とする土壌を筐体に移転して加熱するためのものである。
【実施例1】
【0025】
次に、土壌加熱による土壌菌の浄化状態の試験実施例を示す。
内容積22Lの筐体に発熱電線を張り巡らせ、100V交流電流を通じることで摂氏70度まで内部の土壌を処理することができる。供試した微生物菌種は土壌病原菌の中からフサリウム菌属の「Fusarium oxysporumNBRC31631」と「Fusarium oxysporumMAFF306716」を選んだ。
この種は新パナマ病の原因菌であるF.oxysporum TR4と近似である。
【0026】
土壌は園芸用赤玉土と完熟腐葉土を1対1で混合したものを約22L加熱筐体に投入した。温度計により土壌の表面温度を測定するとともに、棒温度計を用いて、土壌の10か所について経時的な温度変化を測定した。筐体内の土壌温度分布を65度から70度にして6時間加熱継続した。
【0027】
次に、菌数の評価方法について説明する。
F.oxysporumを80Lの1/2YPD液体培地(2%glucose,1%Polypepton,0.5%yeast extract pH6.5)にて2日間培養して、これを土壌20Lに混合した。
【0028】
熱処理前後の土壌を各10箇所から採取し、等量の減菌蒸留水に懸濁し、蒸留水で2段階希釈して、0.1Lを1/2YPD寒天培地(2%glucose 1%Polypepton 0.55 yeast extract 1.5 agar )に塗布して、28度Cで2日間培養した。Fusariumと思われる糸状菌のコロニー、それ以外の真菌類と思われるコロニー、細菌と思われるコロニーをカウントして、CFUであらわした。
【0029】
次に、PCR法によるフサリウム菌の確認について説明する。
F.oxysporum のリゾホームDNAのITSに特異的な以下のプライマー及びTakaRaのExTaq polymeraseを用い、減菌蒸留水で段階希釈した被検サンプル5Μl
をtemplateDNAとして50μLのスケール でPCR反応によりDNAを増幅した(編成温度94度、アニーリング温度52度、伸長反応で、25サイクル)。
【0030】
次に、遺伝子レベルでの確認について説明する。
反応後、2%アガロースゲルで電気泳動して特異的な領域の増幅を確認した。
FOF1 (forward primer) 5’-ACATACCACTTGTTGCCTCG-3’
FOR1 (reverse primer) 5’-CGCCAATCAATTTGAGGAACG-3’
即ち遺伝子レベルでも被検体はフサリウム菌であることを確認した。
【実施例2】
【0031】
本発明の銀微粒子含有溶液A液塗着面での黴菌への影響は最小発育濃度(MIC)試験にて有効性を確認する。
【0032】
銀微粒子の溶媒をアクリルモノマー溶質に溶かした溶液のTSSC原液濃度2000ppmであるので試験法により20%希釈即ち濃度400ppm、10%希釈即ち200ppm、5%希釈即ち100ppm 2.5%希釈濃度50ppm 1.25%希釈濃度25ppmの試験液を作り、試験片に塗着した。
【0033】
その結果、400ppm 200ppmでは発育をみとめられない。100ppm、 50ppm、25ppmでは発育をみとめられた。
即ち200ppm以上の濃度範囲で塗着した透水性不織布は対象の有害菌の発育を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
フサリウム菌の病害に悩まされている多くの蔬菜栽培者にとって、随時に、かつ無農薬で長期間に効果が維持できる本発明は生産効率の向上に利用できる。
【符号の説明】
【0035】
(a) 数nmから数10nmの銀または銅の抗菌性金属微粒子
(b) (a)を付着し多孔質微粒子B
(c) (a)を溶かした溶液A
(d) (a)と(b)を付着した厚み10mm以下の透水性不織布
(e) 浄化作業対象区域
( f ) 対象土壌
( g ) 筐体