(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルムロール
(51)【国際特許分類】
B41M 5/41 20060101AFI20220113BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220113BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220113BHJP
C08L 57/00 20060101ALI20220113BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
B41M5/41 400
C08J5/18 CFD
C08K3/22
C08L57/00
C08L67/00
(21)【出願番号】P 2016208938
(22)【出願日】2016-10-25
【審査請求日】2019-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 弘二
(72)【発明者】
【氏名】井崎 公裕
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第99/029488(WO,A1)
【文献】特開平07-249218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08L 67/00-67/08
C08K 3/22
B41M 5/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯にポリエステルフィルムが捲回されているフィルムロールであって、
当該ポリエステルフィルムは、平均粒径0.1~1.0μmのアルミナ粒子を0.1~0.3重量%、平均粒径0.5~1.0μmの架橋高分子粒子を0.01~0.05重量%含有し、厚みが1.5~6.0μm、表面平均粗さRaが8~25nmであり、前記架橋高分子粒子が1個の不飽和結合を有するモノビニル化合物(a)と、架橋剤として分子中に2個以上の不飽和結合を有する化合物(b)との共重合体であることを特徴とする
感熱転写プリンター用リボン用ポリエステルフィルムロール。
【請求項2】
前記ポリエステルフィルムの片面に塗布層を設けた請求項1に記載の
感熱転写プリンター用リボン用ポリエステルフィルムロール。
【請求項3】
ポリエステルフィルムを基材とする感熱転写プリンター用リボンであって、
当該ポリエステルフィルムは、平均粒径0.1~1.0μmのアルミナ粒子を0.1~0.3重量%、平均粒径0.5~1.0μmの架橋高分子粒子を0.01~0.05重量%含有し、厚みが1.5~6.0μm、表面平均粗さRaが8~25nmであることを特徴とする感熱転写プリンター用リボン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムロールに関し、例えば、感熱転写プリンター用リボンに用いた場合には、ロール状ポリエステルフィルム製品の巻取り性あるいは作業性が良好であるとともに、高速で印字してもインクの転写斑がなく、かつ印字性能に優れ、高精細な印字が可能なポリエステルフィルムロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、6μm以下の超薄膜領域のフィルム用途例として、感熱転写プリンター用リボンのベースフィルムが例示される。また、当該用途のポリエステルフィルムにおいては、フィルム表面粗さを規定した技術(特許文献1)が知られている。感熱転写記録方式の中でも昇華型感熱転写方式は、高画質のフルカラー画像を簡便に出力できる記録方式として、市場で広く認知されている。
昇華型感熱転写方式の原理は、熱昇華性染料をバインダー中に含有させ、熱によって染料のみが昇華し、被転写紙の受像層に吸収され、階調性の画像を形成させる方式である。 従来から、印字速度の高速化に伴い、その対応策として、印画時、サーマルヘッドからの熱伝達効率向上のため、ベースフィルムの薄膜化が進行する状況下にある。
【0003】
近年、昇華型感熱転写方式においては、より高精細な画像が必要とされる状況にある。そのため、印画時、サーマルヘッドからのフィルム表面への熱伝達を、従来よりもさらに向上させることが必要とされている。しかしながら、従来から使用されていたポリエステルフィルム基材を用いた場合、サーマルヘッドからの熱伝達が往々にして不十分になりやすい傾向にあり、所望する高精細な画像を得るのが困難な状況にあった。
【0004】
そこで上記問題点の解決策としてフィルム表面をさらに平滑化させると、印画時、サーマルヘッドからのフィルム表面への熱伝達の更なる向上効果が期待できる反面、ポリエステルフィルム製造段階において、ロール状フィルム製品を例えば3万m以上の長尺で巻き取る際、巻取り性が低下し、シワの発生等の不具合を生じる問題があった。(特許文献3、特許文献4)
【0005】
そのため、特にフィルム厚みが6μm以下の超薄膜領域において、ポリエステルフィルム基材の平滑化に伴う、印画時、サーマルヘッドからフィルム表面への熱伝達の更なる向上と、ロール状ポリエステルフィルム製品の巻取り性確保という、相反する特性を高度なレベルで両立させることが困難な状況にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭62-299389号公報
【文献】特開平11-263077号公報
【文献】特開2002-283450号公報
【文献】特開2009-241373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点を解決しようとするものであり、ポリエステルフィルムの巻取り性や作業性が良好であると共に、例えば6μm以下という超薄膜領域のフィルム厚みを必要とされる用途、感熱転写リボン用として、印画時、サーマルヘッドからのフィルム表面への熱伝達が良好であり、高精細な印画が可能なポリエステルフィルムを捲回したポリエステルフィルムロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、特定の構成を有するポリエステルフィルムを用いれば、前記課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明の要旨は、巻芯にポリエステルフィルムが捲回されているフィルムロールであって、
当該ポリエステルフィルムは、平均粒径0.1~1.0μmのアルミナ粒子を0.1~0.3重量%、平均粒径0.5~1.0μmの架橋高分子粒子を0.01~0.05重量%含有し、厚みが1.5~6.0μm、表面粗さRaが8~25nmであることを特徴とするポリエステルフィルムロールに存する。
【発明の効果】
【0010】
ポリエステルフィルムの巻取り性や作業性を向上させると共に、6μm以下の超薄膜領域における用途、例えば、感熱転写リボン用として用いた場合には印画時、サーマルヘッドからのフィルム表面への熱伝達が良好なポリエステルフィルムを捲回したポリエステルフィルムロールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリエステルフィルムロールは、管などの円柱状の巻芯にポリエステルフィルムを捲回したフィルムロールである。
ここで「巻芯」とは、ポリエステルフィルムをフィルムロールにする際に使用するコアであり、円柱形状のものをいう。好ましい具体例としては、紙管、プラスチック管等の管が挙げられる。
【0012】
本発明のポリエステルフィルムロールにおける巻芯の内径は、3~20インチが好ましい。巻芯の内径が上記範囲内を満たすことによって、大量輸送だけでなく、ポリエステルフィルムにかかる負荷を軽減させることができる。
【0013】
[ポリエステルフィルム]
本発明のポリエステルフィルムロールで捲回されるポリエステルフィルムは、押出口金から溶融押出される、いわゆる押出法により押し出した溶融ポリエステルシートを冷却した後、必要に応じ、延伸したフィルムである。
【0014】
本発明においてフィルムを構成するポリエステルとは、ジカルボン酸とジオールとから、あるいはヒドロキシカルボン酸とから重縮合によって得られるエステル基を含むポリマーを指す。ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等を、ジオールとしては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール等を、ヒドロキシカルボン酸としては、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等をそれぞれ例示することができる。その製法としては、例えば、芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとの間でエステル交換反応をさせるか、あるいは芳香族ジカルボン酸とグリコールとを直接エステル化させるかして、実質的に芳香族ジカルボン酸のビスグリコールエステル、またはその低重合体を形成させ、次いでこれを減圧下、加熱して重縮合させる方法が採用される。
かかるポリマーの代表的なものとして、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンー2、6ナフタレート等が例示される。これらのポリマーはホモポリマーであってもよく、また第3成分を共重合させたものでもよい。
【0015】
本発明において、ポリエステルフィルムにアルミナ粒子が含まれていることが重要である。アルミナ粒子が含まれることによって、良好な耐摩耗性だけでなく、フィルム表面に微細な凹凸表面形状を設けることが出来る。微細な凹凸表面形状を有することによって、十分な滑り性が付与される。これによって、ポリエステルフィルムロールを作製する上で、製膜時の巻き上げ工程やスリット工程での作業性が向上する効果を有する。
【0016】
本発明に用いるアルミナ粒子の平均粒径は0.1~1.0μmであり、好ましくは0.2~0.8μmである。アルミナ粒子の平均粒径が0.1μm未満であることによって、ポリエステルフィルムの滑り性が不十分となり、製膜時の巻き上げ工程やスリット工程での作業性が低下する。一方、アルミナ粒子の平均粒径が1.0μmを超えると、微細な凹凸表面形状を有するポリエステルフィルムを作製することが困難になる。
なお粒子の平均粒径の測定方法に関して、遠心沈降式粒度分布測定装置(SA-CP3型、島津製作所社製)を用いてストークスの抵抗値にもとづく沈降法によって測定する。
【0017】
アルミナ粒子の添加量は、ポリエステルフィルム中に0.1~0.3重量%であり、好ましくは0.12~0.2重量%である。アルミナ粒子の添加量が0.1重量%未満であることによって、ポリエステルフィルムの滑り性が不十分となり、製膜時の巻き上げ工程やスリット工程での作業性が低下する。一方、添加量が0.3重量%を超えると、微細な凹凸表面形状を有するポリエステルフィルムを作製することが困難になる。
【0018】
かかるアルミナ粒子の製造法としては特に限定されないが、例えば熱分解法、すなわち無水塩化アルミニウムを原料として火焔加水分解させる方法、あるいはアンモニウム明礬熱分解法、すなわち水酸化アルミニウムを原料として硫酸と反応させて硫酸アルミニウムとした後硫酸アンモニウムと反応させてアンモニウム明礬として焼成する方法等を挙げることができる。
【0019】
また本発明において、ポリエステルフィルムに架橋高分子粒子が含まれていることが重要である。中でも、ポリエステルとの相溶性が良好であり、且つ延伸追随性を有する架橋性高分子粒子が好ましい。
架橋高分子粒子は、適度な粒子変形度を有するため、延伸による粒子周辺の空隙の発生が少なく、耐摩耗性に極めて優れるという長所をあわせもつ。また、特定の表面粗さを有するポリエステルフィルムを設計する上で十分有効である。
【0020】
本発明に用いる架橋高分子粒子の平均粒径は0.5~1.0μmであり、好ましくは0.5~0.8μmである。架橋高分子粒子の平均粒径が0.5μm未満の場合、ポリエステルフィルムを巻き取ってフィルムロールを作製する際、滑り性が不十分であるため、しわが多発し、加工工程での作業性が低下する。一方、架橋高分子粒子の平均粒径が1.0μmを超えるとフィルム表面が過度に粗面化してスペースファクターが増大するため、感熱転写プリンター用リボンとして用いる際、印画性の低下や切断の増加等をもたらす。
なお架橋高分子粒子の平均粒径の測定方法に関して、添加粒子の場合は、遠心沈降式粒度分布測定装置(SA-CP3型、島津製作所社製)を用いてストークスの抵抗値にもとづく沈降法によって測定する。また、析出粒子の場合は、粒子を含むポリエステルフィルムをプレパラートに挟み溶解、冷却後顕微鏡にて観察する。その画像に関して、ライカ社製画像処理装置(Quantimet500+)を用いて測定する。
【0021】
架橋高分子粒子の添加量は、ポリエステルフィルム中に0.01~0.05重量%であり、0.02~0.04重量%とするのが好ましい。架橋高分子粒子の添加量が0.01重量%未満では、ポリエステルフィルムロールを作製する上で、フィルムの巻き取り性が低下する。一方、添加量が0.05重量%を超える場合、フィルム表面が過度に粗面化するため、例えば、感熱転写リボンとして熱転写プリンターで高速印字すると、フィルムの熱伝達率低下に伴い、高精細な印字が困難になる場合がある。
なお架橋高分子粒子の含有量は、遠心沈降式粒度分布測定装置SA-CP3型(SA-CP3型、島津製作所社製)をストークスの抵抗値にもとづく沈降法によって測定する。
【0022】
本発明において、架橋高分子粒子の具体例として、例えば、適度な架橋構造を有する高分子微粉体を例示することができる。前記高分子微粉体としては、1個の不飽和結合を有するモノビニル化合物(a)と、架橋剤として分子中に2個以上の不飽和結合を有する化合物(b)との共重合体を例示することができる。この場合、かかる共重合体はポリエステルと反応し得る官能基を持っていてもよい。
【0023】
前記共重合体の一成分である化合物(a)としては、アクリル酸、メタクリル酸、およびこれらのメチルまたはグリシジルエステル、無水マレイン酸およびそのアルキル誘導体、ビニルグリシジルエーテル、酢酸ビニル、スチレン、アルキル置換スチレン等を挙げることができる。また、化合物(b)としてはジビニルベンゼン、ジビニルスルホン、エチレングリコールジメタクリレート等を挙げることができる。化合物(a)および(b)は各々一種以上用いるが、エチレンや、窒素や酸素等のヘテロ原子を有する化合物を共重合させてもよい。
【0024】
前記共重合体のガラス転移温度は、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下、さらに好ましくは85℃以下である。前記ガラス転移温度が100℃以下であることによって、架橋高分子粒子のガラス転移温度が低くなり、十分な易変形性が得られる。
また、前記化合物(a)および(b)のみで架橋高分子粒子を得る場合は、ガラス転移温度が-200℃以上0℃以下の化合物を新たに共重合成分として導入することが好ましい。
【0025】
かかる化合物の具体的な例としては、アクリル酸の炭素数6~12のアルキルエステル、P位に炭素数6~12のアルキル置換基を有するスチレン誘導体を挙げることができるが、勿論これに限定される訳ではない。
また、架橋度も易変形性に大きな影響を与えるが、本発明においては、耐熱性が許容される範囲で比較的架橋度を低くしたものが好ましい。具体的には、共重合中の(b)成分の好ましい重量比が0.5~20重量%、より好ましくは0.7~15重量%、さらに好ましくは1~1重量5%の範囲である。
【0026】
本発明において、ポリエステルフィルム中のアルミナ粒子と架橋性高分子粒子の合計の粒子添加量は0.11~0.35重量%が好ましく、0.15~0.30重量%がより好ましい。
合計の粒子添加量が、0.11重量%未満の場合、フィルム巻き取り性等の作業性が低下する。一方、0.35重量%を超える場合、所望する表面粗さを有するポリエステルフィルムを得るのが困難になる。
【0027】
本発明におけるポリエステルフィルムは、アルミナ粒子、架橋高分子粒子に加えて、さらに第3成分として、本発明の主旨を損なわない範囲において、他の微粒子を含有させてもよい。その場合、他の微粒子としては、例えば、平均粒径が上記のアルミナ粒子、架橋高分子粒子の平均粒径の範囲内に入り、且つ、含有させている架橋高分子粒子およびアルミナ粒子の粒径よりも小さいものが好ましい。すなわち、平均粒径が0.01~3.0μmであるのが好ましく、0.1~1.0μmであるのがより好ましい。
他の微粒子の具体的な種類として、シリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン、バリウム塩等が挙げられる。
【0028】
本発明においては、ポリエステルフィルム中にアルミナ粒子および架橋高分子粒子が含まれることにより、フィルム表面の平均粗さ(Ra)が8~25nmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得ることができる。Raが8nm未満の場合、滑り性が不十分で、巻取性が低いため、ポリエステルフィルムロールを作製する上で不具合が生じる。一方、Raが25nmより大きい場合、例えば、熱転写プリンターで高速印字する際、フィルム表面の熱伝導性が不十分になる。その結果、より高精細な印字画像を得るのが困難になる。
【0029】
本発明におけるポリエステルフィルム中にアルミナ粒子、架橋高分子粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用し得る。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し重縮合反応を進めてもよい。また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法、ポリエステル製造工程系で粒子を析出させる方法になどによって行われる。
【0030】
本発明で使用するポリエステルの極限粘度は、通常0.40~0.90dl/g、好ましくは0.45~0.80dl/g、さらに好ましくは0.50~0.75dl/gである。極限粘度が0.40dl/g未満では、フィルムの機械的強度が弱くなる傾向があり、極限粘度が0.90dl/gを超える場合は、溶融粘度が高くなり、押出機に負荷がかかったり、製造コストがかかったりする。
【0031】
次に本発明におけるポリエステルフィルムロールの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。
【0032】
まず、先に述べたポリエステル原料を使用し、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高める必要があり、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70~120℃、好ましくは80~110℃であり、延伸倍率は通常2.5~7.0倍、好ましくは3.0~6.0倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸する。延伸温度は通常70~170℃であり、延伸倍率は通常3.0~7倍、好ましくは3.5~6.0倍である。そして、引き続き180~270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸延伸フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0033】
また、本発明におけるポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は前記の未延伸シートを通常70~120℃、好ましくは80~110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法で、延伸倍率としては、面積倍率で4~50倍、好ましくは7~35倍、さらに好ましくは10~25倍である。そして、引き続き、170~250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸延伸フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来から公知の延伸方式を採用することができる。
【0034】
[塗布層]
さらに上述のポリエステルフィルムの延伸工程中にフィルム表面を処理する、いわゆる塗布延伸法(インラインコーティング)を施すことができる。塗布延伸法によりポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、延伸と同時に塗布が可能になると共に塗布層の厚みを延伸倍率に応じて薄くすることができ、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
【0035】
本発明におけるポリエステルフィルムに関して、特に6μm以下の超薄膜領域におけるスリット性を更に良好とするために、ポリエステルフィルムの片面に塗布層を設けるのが好ましい。
【0036】
本発明における塗布層を構成する構成材料に関して、以下に説明する。
かかる塗布層としては、架橋剤と各種バインダー樹脂との組み合わせからなるものが好ましく、バインダー樹脂としては接着性の観点から、通常ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等の中から選ばれたポリマーを採用することができる。上記のポリマーは、それぞれそれらの誘導体をも含むものとする。ここでいう誘導体とは、他のポリマーとの共重合体、ポリマー中の官能基に反応性化合物を反応させたポリマーを指す。
【0037】
本発明において、塗布層を構成するポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸成分とグリコール成分とを構成成分とする線状ポリエステルと定義する。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4-ジフェニルジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、フェニルインダンジカルボン酸、ダイマー酸等を例示することができる。これらの成分は二種以上を用いることができる。さらに、これらの成分とともにマレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のような不飽和多塩基酸やp-ヒドロキシ安息香酸、p-(β-ヒドロキシエトキシ)安息香酸等のようなヒドロキシカルボン酸を少割合用いることができる。不飽和多塩基酸成分やヒドロキシカルボン酸成分の割合は高々10モル%、好ましくは5モル%以下である。
【0038】
また、グリコール成分としては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ポリ(エチレンオキシ)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシ)グリコール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、水添ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等を例示することができる。これらは2種以上を用いることができる。
【0039】
かかるポリオール成分の中でもエチレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物やプロピレンオキサイド付加物、1,4-ブタンジオールが好ましく、さらにエチレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物やプロピレンオキサイド付加物が好ましい。
【0040】
また、本発明におけるフィルムを構成する塗布層中には、水分散化或いは水溶性化を容易にするためにスルホン酸(塩)基を有するポリエステル樹脂を少なくとも1種類以上を含有することが好ましい。
【0041】
スルホン酸(塩)基を有するポリエステル樹脂としては、例えば5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-アンモニウムスルホイソフタル酸、4-ナトリウムスルホイソフタル酸、4-メチルアンモニウムスルホイソフタル酸、2-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-カリウムスルホイソフタル酸、4-カリウムスルホイソフタル酸、2-カリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホコハク酸等のスルホン酸アルカリ金属塩系またはスルホン酸アミン塩系化合物等が好ましく挙げられる。
【0042】
本発明における塗布層を構成する前記ポリエステル樹脂において、ガラス転移温度(以下、Tgと略記する場合がある。)は40℃以上であるのが好ましく、さらに好ましくは60℃以上がよい。Tgが40℃未満の場合、接着性向上を目的として塗布層を厚くした場合、ブロッキングし易くなる等の不具合を生じる場合がある。
【0043】
本発明で用いるアクリル樹脂とは、アクリル系、メタアクリル系のモノマーに代表されるような、炭素-炭素二重結合を持つ重合性モノマーからなる重合体である。これらは、単独重合体あるいは共重合体いずれでも差し支えない。また、それら重合体と他のポリマー(例えばポリエステル、ポリウレタン等)との共重合体も含まれる。例えば、ブロック共重合体、グラフト共重合体である。さらにポリエステル溶液、またはポリエステル分散液中で炭素-炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にポリウレタン溶液、ポリウレタン分散液中で炭素-炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にして他のポリマー溶液、または分散液中で炭素-炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマー混合物)も含まれる。
【0044】
上記炭素-炭素二重結合を持つ重合性モノマーとしては、特に限定はしないが、代表的な化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸のような各種カルボキシル基含有モノマー類、およびそれらの塩;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、モノブチルヒドロキルフマレート、モノブチルヒドロキシイタコネートのような各種の水酸基含有モノマー類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートのような各種の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミドまたは(メタ)アクリロニトリル等のような種々の窒素含有ビニル系モノマー類。また、これらと併用して以下に示すような重合性モノマーを共重合することができる。すなわち、スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエンのような各種スチレン誘導体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのような各種のビニルエステル類;γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メタクリロイルシリコンマクロマー等のような種々の珪素含有重合性モノマー類;燐含有ビニル系モノマー類;塩化ビニル、塩化ビリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロクロルエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンのような各種のハロゲン化ビニル類;ブタジエンのような各種共役ジエン類等が例示される。
【0045】
本発明における塗布層を構成するアクリル樹脂において、ガラス転移温度(以下、Tgと略記する場合がある。)は40℃以上であるのが好ましく、さらに好ましくは60℃以上がよい。Tgが40℃未満の場合、接着性向上を目的として、塗布層の塗布厚みを厚くした場合、ブロッキングし易くなる等の不具合を生じる場合がある。
【0046】
本発明における塗布層に対する接着性を良好とするためにウレタン樹脂を含んでもよい。その中でも、ポリカーボネート構造を有するウレタン樹脂が好ましい。
ポリカーボネート構造を有するウレタン樹脂とは、ウレタン樹脂の主要な構成成分であるポリオールの一つがポリカーボネートポリオール類であるウレタン樹脂を指す。
【0047】
ポリカーボネートポリオール類は、多価アルコール類とカーボネート化合物とから、脱アルコール反応によって得られる。多価アルコール類としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン等が挙げられる。カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート等が挙げられ、これらの反応から得られるポリカーボネート系ポリオール類としては、例えば、ポリ(1,6-ヘキシレン)カーボネート、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレン)カーボネート等が挙げられる。
【0048】
本発明におけるポリカーボネート構造を有するウレタン樹脂を構成するポリイソシアネート類としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が例示される。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。また、上記イソシアネートの中でも、活性エネルギー線硬化性塗料との密着性の向上、および紫外線による黄変防止の点から、芳香族イソシアネートよりも脂肪族イソシアネートまたは脂環族イソシアネートがより好ましい。
【0049】
ウレタン樹脂を合成する際に鎖延長剤を使用しても良く、鎖延長剤としては、イソシアネート基と反応する活性基を2個以上有するものであれば特に制限はなく、一般的には、水酸基またはアミノ基を2個有する鎖延長剤を主に用いることができる。
【0050】
水酸基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール等の脂肪族グリコール、キシリレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香族グリコール、ネオペンチルグリコール、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレート等のエステルグリコールといったグリコール類を挙げることができる。また、アミノ基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、トリメチルヘキサンジアミン、2-ブチル-2-エチル-1,5-ペンタンジアミン、1 ,8-オクタンジアミン、1 ,9-ノナンジアミン、1 ,10-デカンジアミン等の脂肪族ジアミン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、イソプロビリチンシクロヘキシル-4,4’-ジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1 ,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、イソホロンジアミン等の脂環族ジアミン等が挙げられる。
【0051】
本発明におけるウレタン樹脂は、有機溶剤を媒体とするものであってもよいが、好ましくは水を媒体とするものである。ウレタン樹脂を水に分散または溶解させるには、乳化剤を用いる強制乳化型、ウレタン樹脂中に親水性基を導入する自己乳化型あるいは水溶型等がある。特に、ウレタン樹脂の骨格中にイオン基を導入しアイオノマー化した自己乳化タイプが、液の貯蔵安定性や得られる塗布層の耐水性、透明性、密着性に優れており好ましい。
また、導入するイオン基としては、カルボキシル基、スルホン酸、リン酸、ホスホン酸、第4級アンモニウム塩等、種々のものが挙げられるが、カルボキシル基が好ましい。ウレタン樹脂にカルボキシル基を導入する方法としては、重合反応の各段階の中で種々の方法が取り得る。例えば、プレポリマー合成時に、カルボキシル基を持つ樹脂を共重合成分として用いる方法や、ポリオールやポリイソシアネート、鎖延長剤などの一成分としてカルボキシル基を持つ成分を用いる方法がある。特に、カルボキシル基含有ジオールを用いて、この成分の仕込み量によって所望の量のカルボキシル基を導入する方法が好ましい。例えば、ウレタン樹脂の重合に用いるジオールに対して、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ビス-(2-ヒドロキシエチル)プロピオン酸、ビス-(2-ヒドロキシエチル)ブタン酸等を共重合させることができる。またこのカルボキシル基はアンモニア、アミン、アルカリ金属類、無機アルカリ類等で中和した塩の形にするのが好ましい。特に好ましいものは、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミンである。
【0052】
本発明におけるポリカーボネート構造を有するウレタン樹脂は、ガラス転移点(以下、Tgと記載することがある)が好ましくは0℃以下、より好ましくは-15℃以下、さらに好ましくは-30℃以下である。Tgが0℃以下であることにより、十分なスリット性を得ることができる。ここで言うTgは、ウレタン樹脂の乾燥皮膜を作成し、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した温度を指す。
【0053】
本発明におけるメラミン樹脂としては、特に限定されるものではないが、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロール化メラミン誘導体、メチロール化メラミンに低級アルコールを反応させて部分的あるいは完全エーテル化した化合物、およびこれらの混合物などを用いることができる。
【0054】
また、メラミン樹脂は、単量体、あるいは2量体以上の多量体からなる縮合物のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。上記エーテル化に用いる低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノールなどを好ましく使用することができる。官能基としては、イミノ基、メチロール基、あるいはメトキシメチル基やブトキシメチル基等のアルコキシメチル基を1分子中に有するもので、イミノ基型メチル化メラミン、メチロール基型メラミン、メチロール基型メチル化メラミン、完全アルキル型メチル化メラミンなどを用いることができる。その中でもメチロール化メラミンが最も好ましい。さらに、メラミン樹脂の熱硬化促進を目的として、例えば、p-トルエンスルホン酸などの酸性触媒を併用することもできる。
【0055】
塗布層中におけるアクリル樹脂の割合は通常10~80重量%、ウレタン樹脂および/またはポリエステル樹脂の割合は通常10~80重量%である。メラミン樹脂の割合は、通常6~80重量%、好ましくは10~60重量%である。
【0056】
さらに塗布層の固着性、滑り性改良を目的として、本発明の主旨を損なわない範囲において、塗布層中に無機系粒子を含有してもよく、具体例としてはシリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン、バリウム塩等が挙げられる。
【0057】
また、必要に応じて塗布層中に消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、有機系高分子粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤発泡剤、染料等が含有されてもよい。
【0058】
本発明の要旨を越えない範囲において、塗布層を塗工する際に使用する有機溶剤は一種類のみでもよく、適宜、二種類以上を使用してもよい。
【0059】
塗布層の塗工量(乾燥後)は塗工性の面から、通常、0.005~0.5g/m2、好ましくは0.005~0.1g/m2、さらに好ましくは0.01~0.08g/m2範囲である。塗工量(乾燥後)が0.005g/m2未満の場合、塗工性の面より安定性に欠け、均一な塗膜を得るのが困難になる場合がある。一方、0.5/m2を超えて厚塗りにする場合には塗布層自体の塗膜密着性、硬化性等が低下する場合がある。
【0060】
本発明において、ポリエステルフィルムに塗布層を設ける方法として、リバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。塗工方式に関しては「コーティング方式」槇書店 原崎勇次著1979年発行に記載例がある。
【0061】
また、ポリエステルフィルムには予め、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0062】
本発明で使用するポリエステルフィルムの厚みは1.5~6.0μmの範囲であることが重要である。好ましくは、1.5~5.0μmである。厚みが6.0μmを超えると、感熱転写プリンター用リボンとして印字する際にフィルム表面までの熱伝導に時間を要するため好ましくない。一方、厚みが1.5μm未満の場合、フィルム張力が不十分となり、スリット性等の加工適性が不十分であるため、ポリエステルフィルムロールを作製する上で支障となるため好ましくない。
【0063】
本発明で使用するポリエステルフィルムの表面平均粗さ(Ra)は、サーマルヘッドからの熱伝達を均一にするために、8~25nmの範囲である必要がある。好ましくは、Raは10~20nmである。前記Raが8nm未満の場合、スリット性等の作業性が低下する。一方、Raが25nmを超える場合には、フィルム表面の粗面化によって、印画時にサーマルヘッドからのフィルム表面への熱伝達性向上効果が不十分となり、所望する高精細な印画が困難になる。
【0064】
本発明のフィルムロールを構成するポリエステルフィルムの長さは限定されないが、本発明によれば、ポリエステルフィルムの巻き取り性や作業性が向上するため、例えば10000m以上、更には20000m以上、特に30000m以上捲回された捲回体であっても、上記の特性を発揮することができる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における評価方法やサンプルの処理方法は下記のとおりである。また、実施例および比較例中の「部」は「重量部」を示す。
【0066】
(1)ポリエステルの極限粘度
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0067】
(2)平均粒径、粒度分布
(2-1)添加粒子の場合
島津製作所社製遠心沈降式粒度分布測定装置(SA-CP3型)を用いてストークスの抵抗値にもとづく沈降法によって平均粒径および粒度分布を測定した。
(2-2)析出粒子の場合
粒子を含むポリエステルフィルムをプレパラートに挟み溶解、冷却後顕微鏡にて観察した。その画像に関して、ライカ社製画像処理装置(Quantimet500+)を用いて平均粒径および粒度分布を測定した。
析出粒子の濃度は、ポリエステル100gにo―クロルフェノール1.0リットルを加え120℃で3時間熱加熱後、日立工機社製超遠心分離機(55P-72)を用いて40分間遠心分離し得られた粒子を100℃で真空乾燥した。該粒子を走査型差動熱量計にて測定したとき、ポリマーに相当する融解ピークが認められた場合には該粒子にo―クロルフェノールを加え加熱冷却後再び遠心分離操作を行った。融解ピークが認められなくなったとき該粒子を析出粒子とする。遠心分離操作は通常2回で足りる。
【0068】
(3)表面粗さRaの測定
小坂研究所製表面粗さ測定機(SE3500)を使用し、JIS-B0601(1994)の方法に準じてRaを測定した。なおカットオフ値は80μmとして測定した。
【0069】
(4)ポリエステルフィルムの厚さの測定
試料の重量、長さ、幅、密度より次式にて測定した。
厚さ=(試料の重量)/((試料の長さ)×(試料の幅)×(試料の密度))
【0070】
(5)巻き取り性
試料フィルムをマスターロールから500mm幅、35000m長のロール状に巻取る際に入るしわの程度を観察し、下記の基準で評価した。
《判定基準》
A:しわは発生せず、極めて安定に巻取りが可能。
B:しわはほとんど発生せず、安定に巻取りが可能。
C:しわが時々発生し、安定に巻取りができない。
D:大きなしわが多発し、実質的に安定な巻き取りが不可能。
【0071】
(6)昇華型感熱転写リボンの作製
上記(5)にて作製した500mm幅のフィルムロールを巻き出し、当該フィルムロールの内側の表面全面に亘って後述する組成で調整したバックコート層用塗料をグラビアコート方式により塗工後、55℃のオーブンにて5日間保存し硬化させてバックコート層を形成した。
<バックコート層用塗料>
・ポリビニルアセタール系樹脂:デンカブチラール#3000K(電気化学工業(株)製) 5.0重量部
・イソシアネート:コロネートL(日本ポリウレタン工業(株)製) 0.5重量部
・燐酸エステル:フォスファノールGB520(東邦化学(株)製) 20重量部
・シリカ:Nipsil E-200A(日本シリカ工業(株)製) 0.5重量部
・メチルエチルケトン 37重量部
・トルエン 37重量部
【0072】
続いて、バックコート層硬化後のロール状フィルムを再度巻き出し、バックコート層の反対面に順次、後述する組成で調整したイエロー(黄)、マゼンダ(赤)、シアン(青)の各色の染料および画像保護層(オーバーコート)用塗料を繰り返しグラビアコーティングにより塗布、乾燥した。3色の染料は何れも最終厚み1.0μmとし、画像保護層は最終厚み2.0μmとした。
<イエロー(黄)染料>
・マクロレックスイエロー6G(バイエル社製) 2.0重量部
・ポリビニルアセトアセタールKS-5D(積水化学社製) 3.0重量部
・メチルエチルケトン 47.5重量部
・トルエン 47.5重量部
【0073】
<マゼンダ(赤)染料>
・バイミクロンVPSN2670(バイエル社製) 3.0重量部
・ポリビニルアセタールKS-5D(積水化学社製) 4.0重量部
・メチルエチルケトン 46.5重量部
・トルエン 46.5重量部
【0074】
<シアン(青)染料>
・カヤセットブルー714(日本化薬社製) 4.0重量部
・ポリビニルアセタールKS-5D(積水化学社製) 4.0重量部
・メチルエチルケトン 46.0重量部
・トルエン 46.0重量部
【0075】
<画面保護層用塗料>
・セルロース・アセテートブチレート樹脂:CAB500-0.5(イーストマンケミカル社製) 20.0重量部
・メチルエチルケトン 40.0重量部
・トルエン 40.0重量部
【0076】
(7)画像の作製(各色の転写および保護層の転写)
印画紙の染料受容層に印画及び熱転写するにあたり、キヤノン(株)製昇華型CONPACT PHOTO PRINTER SELPHY CP750シリーズ純正メディアのインクリボンの一部分を切断し、上記(6)に記載した方法にて作製したリボンを継いで貼りあわせることによって使用した。
【0077】
(7-1)印画むら判定用画像(黒ベタ画像)の作製
Adobe社製のソフトウエア「Adobe Photoshop」を使用して、黒のベタ画像を作成し、そのデータをキヤノン社製昇華型CONPACT PHOTO PRINTER SELPHY CP750に転送、インクリボンの一部に、本発明の熱転写フィルムを置き換えたインクリボンを使用して、印画紙に黒ベタ画像を当該プリンターの熱転写ヘッドにより転写印画した後、その画像上に保護層をベタ転写し、黒ベタの最終画像を得た。
【0078】
(7-2)光沢度および光沢度の異方性の判定用画像(白ベタ画像)の作製
上記(7-1)と同様の方法にて、印画紙に白ベタ画像を転写印画した後、その画像上に保護層をベタ転写し、白ベタの最終画像を得た。
【0079】
(8)印画むら
上記(7-1)で記載した方法にて作製した最終画像の表面の印画むらの欠陥を目視観察した。すなわち、各色の転写時にリボンにしわが入った場合には、しわ部分の色の転写が行われず、最終色が黒(=黄+赤+青の合成)にならず、他の色になり、目視にて判断できる。印画性を以下の基準で判定した。
《判定基準》
A:印画むらがまったく認められず、優秀
B:印画むらが、わずかに認められるが、実用上、問題ないレベルであり、良好
C:印画むらが実用に耐えないレベルであり、不良
【0080】
(9)総合評価
実施例および比較例で得られた各ポリエステルフィルムにつき、下記基準により判定を行った。
《判定基準》
A:巻き取り性、印画むらがすべてA。(実用上、問題ないレベル)
B:巻き取り性、印画むらがすべてB以上(実用上、問題になる場合があるレベル)
C:巻き取り性、印画むらの少なくとも一つがC以下
【0081】
以下の実施例および比較例にて使用した粒子およびポリエステル原料は次の方法にて製造した。
【0082】
<架橋高分子粒子の製造>
脱塩水120重量部に、水溶性重合開始剤の過硫酸カリウム0.25重量部および分散安定剤を添加し均一に溶解させた後、エチレングリコールモノメタクリレート7重量部、n-ブチルアクリレート4重量部およびジビニルベンゼン1重量部の混合溶液を加えた。次いで窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら70℃で6時間重合反応を行った。得られた架橋高分子粒子の粒度分布が1.2、平均粒径は0.8μmであった。次いで、得られた粒子の水スラリーにエチレングリコール2000重量部加え、加熱、減圧下で水を留去し、エチレングリコールスラリーとした。
【0083】
<ポリエステルAの製造>
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部を出発原料とし、触媒として、酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を使用し、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェ-ト0.04重量部を添加した後、三酸化アンチモン0.03重量部を加えて、4時間重縮合反応を行った。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度が0.65dl/gに相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ポリエステルAのチップを得た。このポリエステルAの極限粘度は0.65dl/gであった。
【0084】
<ポリエステルBの製造>
三酸化アンチモン0.03重量部を加える際に、平均粒子0.3μmのアルミナ粒子1.5重量%を併せて加えた以外はポリエステルAと同様にして重縮合反応を行った。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度が0.65dl/gに相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ポリエステルBのチップを得た。このポリエステルBの極限粘度は0.61dl/gであった。
【0085】
<ポリエステルCの製造>
三酸化アンチモン0.03重量部を加える際に、平均粒子0.8μmの架橋高分子粒子0.5重量%を併せて加えた以外はポリエステルAと同様にして重縮合反応を行った。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度が0.65dl/gに相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ポリエステルCのチップを得た。このポリエステルCの極限粘度は0.61dl/gであった。
【0086】
(実施例1)
<ポリエステルフィルムの製造>
ポリエステルA、ポリエステルB、及びポリエステルCを表1に示す配合割合で混合し、平均粒径0.3μmのアルミナ粒子0.15重量%および平均粒径0.8μmの架橋高分子粒子0.03重量%を含有する原料とした。この混合原料を常法により乾燥して押出機に供給し、290℃で溶融してシート状に押出し、静電印加密着法を用いて冷却ロール上で急冷し、無定形シートとした。得られたシートを、ロール延伸法を用いて縦方向に90℃で2.7倍延伸した後、さらに75℃で1.5倍延伸した。その後、下記塗布層組成から構成される塗布液を塗布量(乾燥後)が0.08g/m2になるように塗布した後、テンターに導いて、横方向に110℃で4.5倍延伸し、224℃で熱処理を行い、厚み4.5μmの二軸延伸ポリエステルフィルム(マスターロール)を得た。このマスターロールから500mm幅にトリミングしながら、内径6インチの巻芯にトータル長35000m、250m/分の速度でロール状に巻き取り、フィルムロール(マスターロール)を作製した。
【0087】
《塗布層組成》
A:ヘキサメトキシメチロールメラミン 40重量%
B:水性ポリエステル樹脂(下記) 25重量%
C:水性ウレタン樹脂(下記) 30重量%
D:コロイダルシリカ(平均粒径70nm)5重量%
上記成分をイオン交換水で希釈し、固型分濃度が2重量%の塗布液を作製した。
【0088】
<B:水性ポリエステル樹脂>
Tg=63℃
酸成分:テレフタル酸 50モル%
イソフタル酸 48モル%
5-Naスルホイソフタル酸 2モル%
ジオール成分:エチレングリコール 50モル%
ネオペンチルグリコール 50モル%
【0089】
<C:水性ポリウレタン樹脂>
先ず、テレフタル酸664重量部、イソフタル酸631重量部、1,4-ブタンジオール472重量部、ネオペンチルグリコール447重量部から成るポリエステルポリオールを得た。次いで、得られたポリエステルポリオールに、アジピン酸321重量部、ジメチロールプロピオン酸268重量部を加え、ペンダントカルボキシル基含有ポリエステルポリオールAを得た。更に、該ポリエステルポリオールA1880重量部にヘキサメチレンジイソシアネート160重量部を加えて水性ポリウレタン系樹脂水性塗料を得た。
【0090】
(実施例2)~(実施例3)
実施例1のポリエステルフィルムの製造において、フィルム厚みをそれぞれ、3.0μm、6.0μmに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルフィルムを得た。ポリエステルフィルムの特性は表1に示す。
【0091】
(実施例4)~(実施例5)
実施例1のポリエステルフィルムの製造において、ポリエステル原料の比率を変更することにより粒子の添加量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で基材フィルムを得た。ポリエステルフィルムの特性は表1に示す。
【0092】
(比較例1)~(比較例4)
ポリエステル原料の比率を変更することにより、粒子の添加量、あるいは合計の粒子添加量を表1に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様の方法でポリエステルフィルムを得た。ポリエステルフィルムの特性は表1に示す。
【0093】
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のポリエステルフィルムロールは、ロール状フィルム製品の巻取り性や作業性を向上させると共に、例えば6μm以下の極めて薄いフィルム厚みを要求される感熱転写リボン用として、印画時、サーマルヘッドからのフィルム表面への熱伝達向上効果が良好であり、高精細な印字が可能なポリエステルフィルムロールを提供することが可能である。