(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】生体用電極装着具
(51)【国際特許分類】
A61B 5/256 20210101AFI20220113BHJP
A61N 1/04 20060101ALI20220113BHJP
A61H 1/02 20060101ALI20220113BHJP
A61B 5/296 20210101ALI20220113BHJP
【FI】
A61B5/256 220
A61N1/04
A61H1/02 G
A61B5/296
(21)【出願番号】P 2017006354
(22)【出願日】2017-01-18
【審査請求日】2019-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000102500
【氏名又は名称】SMK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095636
【氏名又は名称】早崎 修
(72)【発明者】
【氏名】江尻 孝一郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 晴彦
【審査官】▲瀬▼戸井 綾菜
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-202948(JP,A)
【文献】特開2016-16042(JP,A)
【文献】特開2005-349021(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0366504(US,A1)
【文献】特開2011-161025(JP,A)
【文献】特開2010-246745(JP,A)
【文献】特開平11-253560(JP,A)
【文献】特開2000-314002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/24-5/398
A61N 1/00-1/44
A61H 1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体表面に接し、体表面内の筋を伸縮させる電気刺激信号を出力若しくは体表面内の筋の活動電位を入力する複数の生体用電極と、
相互に若しくは前記生体用電極を介して網目状に連結されることにより全体で円筒形状に形成され、それぞれ長手方向に伸縮し、複数の導電性連結材と複数の絶縁性連結材とからなる複数の細長連結材とを備え、
前記複数の生体用電極は、各生体用電極が前記細長連結材の所定位置に固定されて、前記複数の細長連結材により形成される円筒形状の円筒面上に分散して配置され、
前記細長連結材が伸張して前記円筒形状内に身体の一部が挿通し、前記細長連結材間の隙間から前記生体用電極を目視できる状態で、複数の前記各生体用電極が前記身体の一部の体表面に密着し、
前記生体用電極又は前記導電性連結材を介して相互に電気接続された二以上の前記生体用電極の周囲に配線される全ての前記細長連結材を前記絶縁性連結材として、周囲の前記生体用電極から絶縁された一又は二以上の前記生体用電極からなる生体用電極群が形成され、
前記生体用電極群の生体用電極に、電気刺激信号を出力する刺激信号出力手段又は前記生体用電極群の生体用電極に表れる筋活動電位を検出する筋電信号検出手段が電気接続することを特徴とする生体用電極装着具。
【請求項2】
平面に沿って網目状に連結される複数の前記細長連結材の前記平面に沿った一方向で対向する一側と他側に相互に係合する第1係合部と第2係合部が取付けられ、
第1係合部と第2係合部を係合して、網目状に連結される複数の前記細長連結材の全体が円筒形状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の生体用電極装着具。
【請求項3】
一方向に沿った複数の位置に第1係合部と係合する第2係合部が取付けられていることを特徴とする請求項2に記載の生体用電極装着具。
【請求項4】
複数の前記生体用電極から、前記刺激信号出力手段に電気接続する第1生体用電極群と、前記筋電信号検出手段に電気接続する第2生体用電極群が形成され、
前記刺激信号出力手段から第1生体用電極群に電気刺激信号を出力することによって、第2生体用電極群に表れる誘発筋電位を前記筋電信号検出手段が検出することを特徴とする請求項1に記載の生体用電極装着具。
【請求項5】
前記生体用電極群に、前記生体用電極群の生体用電極に電気刺激信号を出力する刺激信号出力手段と、前記生体用電極群の生体用電極に表れる筋活動電位を検出する筋電信号検出手段とのいずれかが選択的に電気接続することを特徴とする請求項1に記載の生体用電極装着具。
【請求項6】
細長連結材は、伸縮性繊維を加工した細長帯状の布地であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の生体用電極装着具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋の体表面に密着する生体用電極に電気刺激信号を出力して体表面内の筋をトレーニングしたり、生体用電極から筋の活動電位を検出し、体表面内の筋の状態を検出する目的で、筋の体表面に生体用電極を密着させる生体用電極装着具に関する。
【背景技術】
【0002】
筋力アップやダイエットを目的として、筋に電気刺激信号を加え筋を伸縮させてトレーニングする筋トレーニング装置では、トレーニングする筋の体表面に複数の生体用電極を密着させ、各生体用電極を介して体表面内の筋へ電気刺激信号を加えて強制的に伸縮させ、筋をトレーニングしている(特許文献1)。また、筋の組成や筋の活動状態を得る筋の評価装置においても、評価しようとする筋の体表面に複数の生体用電極を密着させて、各生体用電極から検出される筋活動電位によって筋の組成や活動状態を評価している(特許文献2)。
【0003】
いずれの場合にも、電気刺激信号の出力装置や筋の評価装置にそれぞれ接続する各生体用電極を体表面の所定位置へ密着させる作業は手間がかかり、また、各生体用電極毎に粘着シート等の密着手段が必要となるので、従来、一枚のシートや布地に複数の生体用電極を固定しておき、シートや布地を筋の体表面に沿って装着して複数の生体用電極をまとめて体表面へ密着させる生体用電極装着具が知られている(特許文献3、特許文献4)。
【0004】
このうち、特許文献3の生体用電極装着具は、弾性ストッキング等の身体に着用する弾性布地の一部に生体用電極を形成した弾性着衣であり、弾性布地の着圧によって生体用電極を体表面に密着し、低周波治療のための刺激電極や生体電気信号を取得するための記録電極として使用している。
【0005】
また、特許文献4の生体用電極装着具100は、
図8に示すように、麻痺肢110に装着する筒状のシート本体101と、シート本体の101の体表面に対向する内面側に網目状に配線される複数の信号線102と、信号線102が交差する位置に接続される多数の生体用電極103とから構成されている。この生体用電極装着具100は、シート本体101をトレーニングする筋の周囲の麻酔肢110に巻き付けて、筋の体表面に生体用電極103を密着させるもので、複数の信号線102を介して生体用電極103に電気刺激信号を加えて麻酔肢110内の筋を電気刺激し、筋をトレーニングしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-348859号公報
【文献】特開2001-276005号公報
【文献】特開2005-349021号公報
【文献】特開2015-228958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の生体用電極装着具100は、複数の生体用電極を一括して筋の体表面へ密着できるが、各生体用電極は、平面状のシート本体に固定され、立体方向の移動が拘束されるので、複雑な湾曲面の体表面に全ての生体用電極を追従させることができず、一部の生体用電極が体表面から離れたり、体表面に接触していても十分な接触圧で生体用電極を体表面に接触させることができないという問題があった。
【0008】
特許文献3の生体用電極装着具は、生体用電極を固定する布地を弾性布地としてこの問題を改善しているが、各生体用電極が平面状の布地に固定されているので、それぞれ独立して体表面に追従させるには十分ではなかった。
【0009】
また、いずれの従来の生体用電極装着具も、生体用電極を弾性布地やシート本体の内面側に露出させて固定するので、生体用電極と生体用電極を密着させる体表面の位置を対比して目視確認することができず、最適な体表面の位置に生体用電極を密着させることができないという問題があった。
【0010】
特に、脚に弾性ストッキング等の弾性布地を装着したり、麻酔肢110に筒状のシート本体101を巻き付ける際に、弾性布地が伸縮したり、シート本体101の一部が撓んで、生体用電極の密着位置に位置ずれが生じても、その位置ずれを確認できず、意図しない体表面の位置に生体用電極が密着される恐れがあった。
【0011】
また、弾性布地やシート本体に生体用電極が固定されているので、生体用電極の周囲の通気性が悪く、埃や水滴等の異物が生体用電極と体表面の間に介在しても排除されず、生体用電極間の絶縁不良や生体用電極と体表面間の接触不良の原因となっていた。例えば、筋に負荷をかける運動中に生体用電極に表れる筋の活動電位から筋の活動状態を評価しようとする場合に、生体用電極が密着する体表面が弾性布地やシート本体で覆われるので、体表面に生じる汗が蒸発せずに生体用電極と体表面の間に残り、その間の抵抗値が大幅に上昇するという問題があった。
【0012】
更に、複数の生体用電極間を電気接続する場合には、弾性布地やシート本体上に生体用電極間を接続する電線を配線する必要があり、別に接続する電線を用意すると共に、煩雑な配線接続工程を要するものであった。
【0013】
本発明は、このような従来の問題点を考慮してなされたものであり、複数の生体用電極を一括して筋の体表面に密着させることができ、各生体用電極が所定の接触圧で体表面に密着する生体用電極装着具を提供することを目的とする。
【0014】
また、複数の各生体用電極をそれぞれ体表面の所定位置に位置ずれすることなく密着させる生体用電極装着具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の目的を達成するため、請求項1に記載の生体用電極装着具は、体表面に接し、体表面内の筋を伸縮させる電気刺激信号を出力若しくは体表面内の筋の活動電位を入力する複数の生体用電極と、相互に若しくは生体用電極を介して網目状に連結されることにより全体で円筒形状に形成され、それぞれ長手方向に伸縮し、複数の導電性連結材と複数の絶縁性連結材とからなる複数の細長連結材とを備え、複数の生体用電極は、各生体用電極が細長連結材の所定位置に固定されて、複数の細長連結材により形成される円筒形状の円筒面上に分散して配置され、細長連結材が伸張して円筒形状内に身体の一部が挿通し、細長連結材間の隙間から生体用電極を目視できる状態で、複数の各生体用電極が身体の一部の体表面に密着し、生体用電極又は導電性連結材を介して相互に電気接続された二以上の生体用電極の周囲に配線される全ての細長連結材を絶縁性連結材として、周囲の生体用電極から絶縁された二以上の生体用電極からなる生体用電極群が形成され、 生体用電極群の生体用電極に、電気刺激信号を出力する刺激信号出力手段又は生体用電極群の生体用電極に表れる筋活動電位を検出する筋電信号検出手段が電気接続することを特徴とする。
【0016】
細長連結材を伸張させて円筒形状内に身体の一部を挿通すると、円筒形状を形成する各細長連結材が収縮して身体の一部を囲って位置決めされ、細長連結材に固定される全ての生体用電極は、細長連結材が収縮することにより身体の一部の体表面に所定の接触圧で密着する。
【0017】
生体用電極群の生体用電極に刺激信号出力手段を電気接続すれば、生体用電極群を構成する二以上の全ての生体用電極に同期する電気刺激信号が出力され、生体用電極群の生体用電極に筋電信号検出手段を電気接続すれば、生体用電極群を構成するいずれかの生体用電極に表れる筋活動電位を筋電信号検出手段が検出することができる。
【0018】
請求項2に記載の生体用電極装着具は、平面に沿って網目状に連結される複数の細長連結材の平面に沿った一方向で対向する一側と他側に相互に係合する第1係合部と第2係合部が取付けられ、第1係合部と第2係合部を係合して、網目状に連結される複数の細長連結材の全体が円筒形状に形成されることを特徴とする。
【0019】
第1係合部と第2係合部を係合するだけで、網目状に連結される複数の細長連結材の全体は、身体の一部を挿通させる円筒形状に形成される。
【0020】
請求項3に記載の生体用電極装着具は、一方向に沿った複数の位置に第1係合部と係合する第2係合部が取付けられていることを特徴とする。
【0021】
第1係合部を一方向に沿って異なる位置に取付けられる第2係合部へ係合することにより、網目状に連結される複数の細長連結材の全体の円筒形状の内径が変化する。
【0022】
請求項4に記載の生体用電極装着具は、複数の生体用電極から、刺激信号出力手段に電気接続する第1生体用電極群と、筋電信号検出手段に電気接続する第2生体用電極群が形成され、刺激信号出力手段から第1生体用電極群に電気刺激信号を出力することによって、第2生体用電極群に表れる誘発筋電位を筋電信号検出手段が検出することを特徴とする。
【0023】
第1生体用電極群から筋に電気刺激信号を加えることにより、第2生体用電極群に誘発筋電位が表れ、筋電信号検出手段は、第2生体用電極群から誘発筋電位を検出する。
【0024】
請求項5に記載の生体用電極装着具は、生体用電極群に、生体用電極群の生体用電極に電気刺激信号を出力する刺激信号出力手段と、生体用電極群の生体用電極に表れる筋活動電位を検出する筋電信号検出手段とのいずれかが選択的に電気接続することを特徴とする。
【0025】
生体用電極群を構成する生体用電極を、筋のトレーニング用の刺激電極と筋活動状態を判別する筋電検出電極のいずれかに選択できる。
【0026】
請求項6に記載の生体用電極装着具は、細長連結材が、伸縮性繊維を加工した細長帯状の布地であることを特徴とする。
【0027】
細長連結材が接する体表面が布地で覆われるので、通気性と吸湿性が得られる。
【発明の効果】
【0028】
請求項1の発明によれば、複数の生体用電極を一括して筋の体表面へ密着でき、全ての生体用電極は、収縮する細長連結材に固定されているので、それぞれ複雑な曲面の体表面に対して所定の接触圧で密着する。
【0029】
また、細長連結材間の隙間から、生体用電極と生体用電極を密着させる体表面の位置を対比して目視確認することができので、最適な体表面の位置に生体用電極を密着させることができる。
【0030】
また、生体用電極が密着する部位の周囲の体表面は、細長連結材の間から外部に露出して通気性がよいので、体表面の汗は蒸発し、汗や塵埃等の異物が生体用電極間や生体用電極と体表面の間に介在することがなく、生体用電極間の絶縁不良や生体用電極と体表面間の接続不良が生じない。
【0031】
また、生体用電極群を構成する複数の生体用電極間を、導電線を配線することなく、導電性連結材により電気接続できる。
【0032】
また、生体用電極が密着する特定の体表面に限らず、体用電極群を構成する生体用電極が密着する一定領域の体表面について、複数位置から筋を刺激する電気刺激信号を加えたり、一定領域のいずれかに表れる筋活動電位を検出できる。
【0033】
請求項2の発明によれば、平面に沿って網目状に連結される複数の細長連結材の所定位置に容易に生体用電極を固定することができ、その後、平面に沿って網目状の連結される細長連結材を、第1係合部と第2係合部を係合して、容易に身体の一部を挿通する円筒形状とすることができる。
【0034】
請求項3の発明によれば、生体用電極を密着させる身体の一部の体表面の太さに応じて、網目状に連結される複数の細長連結材の全体の円筒形状の内径を変化させて、網目状に連結される細長連結材が収縮する状態で身体の一部を囲って装着できる。
【0035】
請求項4の発明によれば、第1生体用電極群を構成する生体用電極から出力される電気刺激信号により筋に誘発筋活動電位を発生させるので、脳からの指令による電気信号や運動負荷時の筋肉が発生する電気信号のノイズと識別して、第2生体用電極群に電気接続する筋電信号検出手段から正確に誘発筋電位を検出できる。
【0036】
請求項5の発明によれば、生体用電極群を構成する生体用電極を、筋のトレーニング用の刺激電極と筋活動状態を判別する筋電検出電極に併用できる。
【0037】
請求項6の発明によれば、細長連結材が布地で形成されるので、体表面へ装着感を損なうことがなく、通気性と吸湿性に優れているので、体表面の汗は蒸発したり布地に球種刺され、汗が生体用電極間や生体用電極と体表面の間に介在することがない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本願発明の第1実施の形態に係る生体用電極装着具1の斜視図である。
【
図2】平面状の生体用電極装着具1の部分省略平面図である。
【
図3】平面状の生体用電極装着具1の部分省略正面図である。
【
図4】生体用電極装着具1の使用状態参考図である。
【
図5】第2実施の形態に係る生体用電極装着具10の使用状態参考図である。
【
図6】生体用電極装着具10に接続する筋トレーニング装置40のブロック図である。
【
図7】平面状の他の実施の形態に係る生体用電極装着具11の平面図である。
【
図8】従来の生体用電極装着具100の使用状態参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の第1実施の形態に係る生体用電極装着具1を
図1乃至
図4を用いて説明する。本実施の形態に係る生体用電極装着具1は、筋50に電気刺激信号を加えて、筋50を伸縮させてトレーニングする用途で用いられるもので、電気刺激信号を出力する生体用電極2を筋50の体表面に密着させる装着具である。本明細書において、筋50のトレーニングとは、筋50の体表面に電気刺激信号であるトレーニング刺激信号を加えて筋50を伸縮させる電気的筋肉刺激EMS(Electrical Mascle Stimulation)をいい、従って、筋50をトレーニングする目的は、筋50を伸縮させて付近の脂肪を燃焼させるダイエット、筋力アップ、損傷した筋50を再生させる再生医療などのいずれであってもよく、生体用電極装着具1は、これらのいずれの目的で用いられるものであってもよい。
【0040】
図1乃至
図4の各図に示すように、生体用電極装着具1は、体表面下の筋50へ電気刺激を加えるための多数の生体用電極2、2・・と、網目状に連結された多数の細長連結材である伸縮線材3、3・・と、相互に係合する複数の係合フック4及び係合受け部5とを備えている。
【0041】
生体用電極2は、導電性金属材料により円板状に形成され、その体表面に接する側の内面は、金メッキなどの導電性金属によりメッキ処理されている。しかしながら、生体用電極2の形状は、円板状に限らず、半球状や矩形板状等任意の形状とすることができる。複数の各生体用電極2は、互いに直交する伸縮線材3、3間に介在して固定され、これにより直交する伸縮線材3、3間が格子状に連結される。すなわち、
図3に示すように、各生体用電極3から90度間隔で4本の伸縮線材3が放射状に連結され、隣り合う生体用電極2、2間が1本の伸縮線材3によって連結されることにより、25個の生体用電極2、2・・が、5行5列の行列の各位置に分散して配置される。
【0042】
多数の生体用電極2、2・・は、上述のように、直交する伸縮線材3、3の交差位置で伸縮線材3間に介在させて、行列の各位置に分散して配置しているが、直交する伸縮線材3、3が交差する伸縮線材3、3間の交差位置の内面側に固定してもよく、また、交差位置に限らず、密着させる体表面の位置に応じて網目状に連結された多数の伸縮線材3、3・・の任意の位置に固定することができる。
【0043】
本実施の形態では、網目状に連結される多数の細長連結材である伸縮線材3は、各図において黒色の太線で表す導電性連結材となる導電性伸縮線材31と白抜きの二重線で表す絶縁性連結材となる絶縁性伸縮線材32とのいずれかからなり、後述する連結部位に応じていずれかを選択して用いている。いずれの伸縮線材31、32も、身体を屈伸させることにより体表面が伸張しても、伸縮線材31、32に固定される生体用電極3が伸張する体表面に密着して追従するように、最大40乃至50%程度の体表面の伸縮率を越える50%以上の伸張率であることが望ましい。
【0044】
導電性伸縮線材31は、例えば、らせん状に撚り合わされた導体線と、導体線と逆方向に撚り合わされた伸縮性及び可撓性を有する弾性長繊維とを編み合わせることにより形成され、軸方向及び曲げ方向に変形自在であるとともに復元性を備えている。伸張率が50%以上の導電性伸縮線材31として、例えば、特開2010-20949号に開示された導電性伸縮線材を用いる。しかしながら、この態様に限らず、例えば弾性を有する樹脂等の材料に導電性材料を混練して線材状に加工したものや伸縮性を有する線維等の材料に伸縮性導電性材料を印刷するものであってもよい。
【0045】
また、絶縁性伸縮線材32は、弾性を有する絶縁性の樹脂線維を撚り合わせ、若しくは弾性を有する絶縁性の樹脂を線材状に加工する等の方法で形成され、軸方向及び曲げ方向に変形自在であるとともに復元性を備えている。
【0046】
生体用電極装着具1の形成過程では、
図2、
図3に示すように、導電性伸縮線材31と絶縁性伸縮線材32が混在する多数の伸縮線材3を格子状に連結して、全体を横長長方形の輪郭の平面状の伸縮ネット30としている。伸縮ネット30の内側の5行5列の行列状の各交差位置に固定される25個の生体用電極2のうち、第1列の5個の生体用電極2は、縦方向で隣り合う生体用電極2、2間が導電性伸縮線材31で連結されて相互に電気接続するとともに、その周囲は絶縁性伸縮線材32で連結されて周囲と絶縁することにより、
陰極側生体用電極群21を構成する。また、第2列から第5列までの20個の生体用電極2についても、隣り合う生体用電極2、2間が導電性伸縮線材31で連結されて相互に電気接続するとともに、その周囲が絶縁性伸縮線材32で連結されて周囲と絶縁することにより、陽極側生体用電極群22を構成する。
【0047】
本実施の形態に係る生体用電極装着具1は、
図4に示すように、筋50に電気刺激信号を加えて筋50をトレーニングする用途で用いるので、図示しない筋トレーニング装置の電気刺激出力部41から陽極側生体用電極群22と陰極側生体用電極群21へ電気刺激信号であるトレーニング刺激信号を出力している。すなわち、接地電位とした電気刺激出力部41の-側出力電極41(-)を陰極側生体用電極群21に接続する導電性伸縮線材31に電気接続した状態で、+側出力電極41(+)を陽極側生体用電極群22に接続する導電性伸縮線材31に電気接続して、陽極側生体用電極群22の20個の生体用電極2から筋50へトレーニング刺激信号を加えている。
【0048】
伸縮ネット30の上辺と下辺の各右端には、一組の鈎型の係合フック4、4が取付けられ、また、各係合フック4、4が取付けられた上辺と下辺の左側には、生体用電極2が露出する伸縮ネット30の面を内側として伸縮ネット30を円筒形に湾曲させた際に、一組の各係合フック4、4に係合自在の3個のフック受け5a、5b、5cが上辺と下辺に沿った異なる位置に取付けられている。一組の各係合フック4、4を左側のフック受け5aから右側のフック受け5cへ係合させるにつれて円筒形の伸縮ネット30の内径は小径となり、フック受け5を選択することにより最適な内径に調整できる。これによって、生体用電極装着具1を装着する身体の太さに応じて、伸縮線材3の伸縮量を調整し、最適な接触圧で生体用電極2、2・・を筋50の体表面へ密着させることができる。
【0049】
このように構成された生体用電極装着具1を用いて、
図4に示すように下肢の筋50をトレーニングする場合には、伸縮線材3を伸張させながらトレーニングする筋50の周囲の下肢に伸縮ネット30を巻き付け、一組の各係合フック4、4を下肢の太さに合わせていずれかのフック受け5a、5b、5cへ係合し、円筒形の伸縮ネット30を下肢の周囲に巻き付けて位置決めする。その後、電刺激出力部41の+側出力電極41(+)と-側出力電極41(-)間にトレーニング刺激信号を出力し、+側出力電極41(+)に接続する20個の生体用電極2から構成される陽極側生体用電極群22より筋50へトレーニング刺激信号を出力する。従って、20カ所の異なる体表面の位置から同期するトレーニング刺激信号が出力され、筋50の全体にむらなく電気刺激を加えることができる。
【0050】
本発明の第2実施の形態に係る生体用電極装着具10は、上述の筋50に電気刺激信号を加えてトレーニングするトレーニングモードの他に、筋50の活動状態からトレーニングの効果を確認する筋状態判別モードでも動作する筋トレーニング装置40に用いられるもので、トレーニングモードでは、生体用電極装着具10の生体用電極2からトレーニング刺激信号を出力し、筋状態判別モードでは、生体用電極装着具10のいずれかの生体用電極2から誘発筋刺激信号を出力し、他の生体用電極2から誘発筋刺激信号を受けて筋50に誘発される誘発筋電信号を検出する。
【0051】
以下、この第2実施の形態に係る生体用電極装着具10を、
図5と
図6を用いて説明する。生体用電極装着具10の各部について、上述の生体用電極装着具1と同一若しくは同様に作用する構成には、同一の番号を用いてその詳細な説明を省略する。
【0052】
生体用電極装着具10は、導電性伸縮線材31と絶縁性伸縮線材32が混在する多数の伸縮線材3を格子状に連結して、全体を縦長方形の輪郭の平面状の伸縮ネット35とし、その左右両端に取付けられた図示しない係合フック4とフック受け5とを係合して、上腕部60の周囲に伸縮線材3を伸張させた状態で巻き付けられている。伸縮ネット35の上腕部60に対向する内面側には、7行3列の行列の各位置で直交する伸縮線材3、3の交差位置に、21個の生体用電極2が固定され、それぞれ、伸縮線材3が伸張された状態で巻き付けられることにより上腕部60の筋50の体表面に所定の接触圧で密着している。
【0053】
21個の生体用電極2は、
図5に示すように、隣接する生体用電極2、2が導電性伸縮線材31で電気接続される9個の生体用電極2からなる陽極側生体用電極群23と、6個の生体用電極2からなる陰極側生体用電極群24と、それぞれ2個の生体用電極2からなる3種類の筋電検出生体用電極群25a、25b、25cとに分けられ、各生体用電極群23、24、25a、25b、25cは、その周囲に接続する全ての伸縮線材3が絶縁性伸縮線材32であることによって周囲と絶縁されている。
【0054】
図6は、生体用電極装着具10を用いる筋トレーニング装置40のブロック図であり、筋トレーニング装置40は、陽極側生体用電極群23に接続する出力端子42と、陽極側生体用電極群22に接続する接地電位のアース端子と、制御部44から出力される選択制御信号を受けて3種類の筋電検出生体用電極群25a、25b、25cのいずれかに選択的に接続するマルチプレクサ43とで生体用電極装着具10に接続している。
【0055】
制御部44には、トレーニングモードと筋状態判別モードのいずれかで動作し、後述する筋状態判別部47の判別結果や制御部44の一連の動作プログラムが記憶される記憶部39と、使用者が筋トレーニング装置40の起動や動作停止を入力操作する操作部48と、トレーニングの進行状況や筋状態判別部47が判別した筋疲労度等を表示する表示部49と、電気刺激出力部41が接続されている。制御部44は、操作部48から起動命令を受けると、筋状態判別モードからトレーニングモードの一連の動作を筋トレーニング装置40が実行するように、筋トレーニング装置40の各部をシーケンス制御する。
【0056】
電気刺激出力部41は、トレーニング刺激信号と誘発筋刺激信号の2種類の電気刺激信号を生成し、制御部44がトレーニングモードで動作する際にはトレーニング刺激信号を、筋状態判別モードで動作する際には誘発筋刺激信号を出力端子42を介して陽極側生体用電極群23へ出力する。ここでは、電気刺激出力部41で生成されるトレーニング刺激信号は、10乃至80mA程度の電流値で、10乃至30Hzの周波数の交流信号波形の電気刺激信号であり、誘発筋刺激信号は、電流値が5mA以上で電圧が100Vのパルス幅が0.5msecの矩形波の電気刺激信号である。
【0057】
マルチプレクサ43は、筋状態判別モードで動作する制御部44から入力される選択制御信号を受けて、3種類の筋電検出生体用電極群25a、25b、25cから選択制御信号信号で指定された筋電検出生体用電極群25を順にその後段に接続する増幅部45へ接続し、各筋電検出生体用電極群25a、25b、25cにおいて検出した筋電信号の筋活動電位を増幅部45とA/D変換部46を通して筋状態判別部47へ出力する。すなわち、体表面に密着する筋電検出生体用電極群25a、25b、25cから検出される筋電信号の筋活動電位は微小値であるため、増幅部45で増幅した後、A/D変換部46でデジタル値に変換し、筋状態判別部47で判別可能な値とする。
【0058】
筋50をトレーニングしてその疲労が亢進すると、筋50の収縮性を補うための運動単位の動員数及び発火頻度が増加し、筋電信号の振幅が大きくなるので、筋状態判別部47は、各筋電検出生体用電極群25a、25b、25c毎に検出した筋電信号の振幅の変化や各筋電検出生体用電極群25a、25b、25cから検出した筋電信号の振幅の総和の変化からトレーニングモードで筋50をトレーニングすることによる筋50の疲労状態を判別する。
【0059】
また、筋50をトレーニングしてその疲労が亢進すると、筋50は、筋線維と直交する方向に膨らんだ状態で伸縮量が減少する。すなわち、筋線維と直交する方向の体表面に密着する3種類の筋電検出生体用電極群25a、25b、25cから検出される各筋電信号のレベルの標準偏差が減少するので、筋状態判別部47は、標準偏差の変化から筋50の疲労状態を判別することもできる。
【0060】
筋状態判別部47は、筋状態判別部47による筋50の判別結果を制御部44へ出力し、制御部44は、その判別結果を表示部49へ表示して使用者へ伝えると共に、筋50の疲労度の判別結果によってトレーニングモードに移行し、若しくは筋トレーニング装置40の動作を停止する。
【0061】
以下、生体用電極装着具10を用いた筋トレーニング装置40により、上腕部60の筋50をトレーニングする方法を説明する。使用者が上腕部60の筋50をトレーニングする場合には、多数の伸縮線材3が網目状に連結されてなる伸縮ネット35を、伸縮線材3を伸張させながら生体用電極2が体表面側に対向する向きで上腕部60の体表面に沿って巻き付け、図示しない係合フック4とフック受け5とを係合して、上腕部60の周囲に円筒形にして巻き付ける。この装着の際に、多数の生体用電極2の体表面への密着位置は、網目状に連結された伸縮線材3の隙間から目視できるので、3種類の筋電検出生体用電極群25a、25b、25cのうち、筋電検出生体用電極群25bが筋50の筋線維方向に沿った中央の体表面に、筋電検出生体用電極群25a、25cがその側方の体表面にそれぞれ密着するように伸縮ネット35を上腕部60周りに移動させて位置決めすることができる。
【0062】
係合フック4とフック受け5とを係合し、上腕部60周りに巻き付けた状態で、各伸縮線材3は収縮するように作用するので、伸縮線材3に固定された生体用電極2は、筋50の体表面の分散する各位置に所定の接触圧で密着する。
【0063】
その後、使用者が操作部48へ筋トレーニング装置40を起動させる入力操作を行い、筋トレーニング装置40が起動すると、制御部44は始めに筋状態判別モードで動作し、電気刺激出力部41から陽極側生体用電極群23へ誘発筋刺激信号を出力するとともに、マルチプレクサ43へ3種類の筋電検出生体用電極群25a、25b、25cを順にその後段の増幅部45へ接続する選択制御信号を出力し、誘発筋刺激信号により各筋電検出生体用電極群25a、25b、25cに誘発される誘発筋電信号を筋状態判別部47へ出力する。
【0064】
筋状態判別部47は、この誘発筋電信号から判別した筋50の初期状態の疲労度を制御部44へ出力し、制御部44は、初期状態の疲労度を記憶部39へ記憶するとともに、トレーニングモードに移行して、電気刺激出力部41から陽極側生体用電極群23へトレーニング刺激信号を出力し、筋50を電気刺激により伸縮させてトレーニングする。
【0065】
従って、筋50をトレーニングするトレーニングモードと、筋50の活動状態(疲労度)を判別する筋状態判別モードとで、同一の陽極側生体用電極群23を兼用することができ、その目的によって生体用電極装着具10を付け替える必要がない。また、陽極側生体用電極群23を構成する9個の生体用電極2は、筋50の体表面の格子状の各位置に分散して密着しているので、筋50の各位置にむらなくトレーニング刺激信号や誘発筋刺激信号を加えることができる。
【0066】
制御部44は、所定のトレーニング時間が経過した後、トレーニングモードを終了し、再び、筋状態判別モードに移行し、筋トレーニング装置40は、上記筋状態判別モードでの動作を繰り返す。この動作によって、筋状態判別部47は、所定のトレーニング時間の経過後の筋50の疲労度を判別し、制御部44は、記憶部39に記憶された初期状態の筋50の疲労度と、筋状態判別部47から新たに入力される所定のトレーニング時間の経過後の筋50の疲労度を比較し、その比較結果によって、筋50のトレーニングが十分でなければ再びトレーニングモードに移行し、トレーニングの目的に達する程度に筋50が疲労している場合には、筋トレーニング装置40の動作を終了させる。
【0067】
上述の各実施の形態では、多数の伸縮線材3を格子状に連結して伸縮ネット30、35を形成しているが、全体が網目状に連結され、それぞれ長手方向に伸縮する細長連結材であれば、伸縮線材3に限らず、所望の材質や形状で形成してもよい。
【0068】
図7は、細長連結材を長手方向に伸縮する細長帯片6で構成した更に他の実施の形態に係る生体用電極装着具11を表す平面図である。細長帯片6は、伸縮性繊維を撚り若しくは編んで細長帯状の布地としたもので、互いに直交する多数の細長帯片6間を連結し、図示するように全体で格子状の伸縮ネット36を形成している。また、生体用電極7は、細長帯片6間が連結する交差位置に縫い付けて固定され、伸縮ネット36の内側で体表面に密着するように支持される。
【0069】
このように細長連結材を長手方向に伸縮する細長帯状の布地の細長帯片6で形成することによって、伸縮ネット36の肌触りがよく、生体用電極装着具11を筋の周囲の体表面に装着させる際に使用者に不快感が生じない。また、細長帯片6が布地の素材で形成されているので、通気性と吸湿性に優れ、体表面から発汗があっても、気化したり細長帯片6に吸収され、生体用電極7と体表面間に介在せず、その間の接触抵抗が増大しない。
【0070】
尚、細長帯片6を構成する伸縮性繊維は、一般に絶縁性であるので、ここで説明する細長帯片6は絶縁性連結材であるが、生体用電極7間を電気接続するなど、細長帯片6を導電性連結材として作用させたい場合には、細長帯片6の伸縮率以上に伸縮する導電性インクを細長帯片6に沿って印刷したり、細長帯片6に平行にジャンパー線を接続する。
【0071】
また、多数の細長連結材に導電性連結材と絶縁性連結材を用いて、周囲と絶縁された複数の生体用電極2からなる生体用電極群(21、22、23、24、25)を形成しているが、周囲と絶縁された1個の生体用電極2を細長連結材に固定するものであってもよく、網目状に連結する全ての細長連結材を、導電性連結材若しくは絶縁性連結材としてもよい。
【0072】
また、上述の各実施の形態では、平面状の伸縮ネット30、35の両端に設けた一対の係合部4、5を係合させて円筒形としているが、装着する身体の一部の外径よりわずかに短い内径の円筒形としたサポーター型の伸縮ネットを予め形成しておき、その円筒形の伸縮ネットに身体の一部を挿入してその周囲に生体用電極装着具を装着してもよい。
【0073】
また、生体用電極装着具10の筋電検出生体用電極群25は、筋50に誘発筋刺激信号を加えることにより筋50に誘発される誘発筋電信号を検出する目的で用いたが、筋50が随意的に活動することができる骨格筋であり、運動神経からの刺激を受けて骨格筋を構成する複数の筋線維に発生する筋活動電位を検出する目的で用いるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、筋へ電気刺激を加えたり、筋の活動電位を検出するために、筋の体表面に生体用電極を密着させる生体用電極装着具に適している。
【符号の説明】
【0075】
1、10 生体用電極装着具
2 生体用電極
3 伸縮線材
4 係合フック(第1係合部)
5 フック受け(第2係合部)
22 陽極側生体用電極群(第1生体用電極群)
25 筋電検出生体用電極群(第2生体用電極群)
31 導電性伸縮線材
32 絶縁性伸縮線材