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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】磁気軸受装置および真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/04 20060101AFI20220113BHJP
   F04D 19/04 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
F16C32/04 A
F04D19/04 H
F04D19/04 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017027994
(22)【出願日】2017-02-17
(65)【公開番号】P2018132166
(43)【公開日】2018-08-23
【審査請求日】2019-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】小崎 純一郎
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-076792(JP,A)
【文献】特開平04-000014(JP,A)
【文献】特開平07-019244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/04
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ軸を径方向に磁気浮上支持するラジアル磁気軸受と、
電磁石コイルを有し、前記ロータ軸と一体に回転するロータディスクを軸方向に磁気浮上支持するアキシャル磁気軸受と、
前記アキシャル磁気軸受の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置され、前記ロータディスクの軸方向の変位を検出するアキシャル変位センサと、を備え、
前記アキシャル変位センサは、高周波電圧が印加されるコイルと、前記コイルのロータディスク側を除く周囲に配置される第1フェライトコア部材と、を有し、
前記アキシャル変位センサは、所定の厚みを有するリング形状を有し、
前記電磁石コア、前記電磁石コイルが配置されるコイル配置部と、前記アキシャル変位センサが配置されるセンサ配置部とを有し
センサ配置部は、前記アキシャル変位センサのリング形状と対応するリング形状を有し、かつ、前記アキシャル変位センサの前記所定の厚みと同じ深さを有する凹部であり、
前記アキシャル変位センサが前記センサ配置部の凹部に嵌合することにより、前記アキシャル変位センサの前記ロータディスクに対向する側の面と前記電磁石コアの前記ロータディスクに対向する側の面とが同一面となる、
磁気軸受装置。
【請求項2】
ロータ軸を径方向に磁気浮上支持するラジアル磁気軸受と、
前記ロータ軸と一体に回転するロータディスクを軸方向に磁気浮上支持するアキシャル磁気軸受と、
前記アキシャル磁気軸受の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置され、前記ロータディスクの軸方向の変位を検出するアキシャル変位センサと、を備え、
前記アキシャル変位センサは、高周波電圧が印加されるコイルと、前記コイルのロータディスク側を除く周囲に配置される第1フェライトコア部材とを備え、
前記アキシャル変位センサは、外周側から順番に、外側緩衝リング、前記第1フェライトコア部材としての外側フェライトリング、前記コイル、前記第1フェライトコア部材としての内側フェライトリング、および、内側緩衝リングを、同心状に配置したものである、磁気軸受装置。
【請求項3】
ロータ軸を径方向に磁気浮上支持するラジアル磁気軸受と、
前記ロータ軸と一体に回転するロータディスクを軸方向に磁気浮上支持するアキシャル磁気軸受と、
前記アキシャル磁気軸受の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置され、前記ロータディスクの軸方向の変位を検出するアキシャル変位センサと、を備え、
前記アキシャル変位センサは、高周波電圧が印加されるコイルと、前記コイルのロータディスク側を除く周囲に配置される第1フェライトコア部材と、を備え、
前記ロータディスクには、前記アキシャル変位センサが対向する領域に第2フェライトコア部材が設けられている、磁気軸受装置。
【請求項4】
ロータ軸を径方向に磁気浮上支持するラジアル磁気軸受と、
前記ロータ軸と一体に回転するロータディスクを軸方向に磁気浮上支持するアキシャル磁気軸受と、
前記アキシャル磁気軸受の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置され、前記ロータディスクの軸方向の変位を検出するアキシャル変位センサと、を備え、
前記アキシャル磁気軸受は、前記ロータディスクの表面側に対向配置された第1アキシャル電磁石と、前記ロータディスクの裏面側に対向配置された第2アキシャル電磁石とを有し、
前記第1および第2アキシャル電磁石は、それぞれ前記アキシャル変位センサを備え、
前記アキシャル磁気軸受の励磁電流は、第1アキシャル電磁石のアキシャル変位センサからの信号と第2アキシャル電磁石のアキシャル変位センサからの信号との差動信号に基づいて制御される、磁気軸受装置。
【請求項5】
ロータ軸を径方向に磁気浮上支持するラジアル磁気軸受と、
前記ロータ軸と一体に回転するロータディスクを軸方向に磁気浮上支持するアキシャル磁気軸受と、
前記アキシャル磁気軸受の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置され、前記ロータディスクの軸方向の変位を検出するアキシャル変位センサと、を備え、
前記アキシャル変位センサは、高周波電圧が印加されるコイルと、前記コイルのロータディスク側を除く周囲に配置される第1フェライトコア部材と、を備え、
前記アキシャル変位センサの磁路領域と前記アキシャル磁気軸受の磁路領域との間における前記ロータディスクおよび前記電磁石コアの互いに対向する面の少なくとも一方の面に、溝が形成されている、磁気軸受装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の磁気軸受装置において、
前記ロータ軸の下部と摺動可能に配置され、前記アキシャル磁気軸受の非動作時において前記ロータ軸を支持するメカニカルベアリングと、
前記ロータ軸の下部の前記メカニカルベアリングよりも下方に前記ロータディスクを固定するナットと、
前記ナットにより前記ロータディスクと共締めされて前記メカニカルベアリングの下側端面と上端で当接可能であり、前記ロータディスクと前記メカニカルベアリングの間に配置され、軸方向厚さにより、前記非動作時における前記ロータディスクと前記電磁石コアとの間のクリアランスを調整する調整部材と、
を備える、磁気軸受装置。
【請求項7】
ロータ軸を径方向に磁気浮上支持するラジアル磁気軸受と、
前記ロータ軸と一体に回転するロータディスクを軸方向に磁気浮上支持するアキシャル磁気軸受と、
前記アキシャル磁気軸受の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置され、前記ロータディスクの軸方向の変位を検出するアキシャル変位センサと、
前記アキシャル変位センサは高周波電圧が印加されるコイルとを備え、
前記アキシャル変位センサの磁路領域と前記アキシャル磁気軸受の磁路領域との間における前記ロータディスクおよび前記電磁石コアの互いに対向する面の少なくとも一方の面に、溝が形成されている、磁気軸受装置。
【請求項8】
請求項7に記載の磁気軸受装置において、
前記アキシャル磁気軸受は、前記ロータディスクの表面側に対向配置された第1アキシャル電磁石と、前記ロータディスクの裏面側に対向配置された第2アキシャル電磁石とを有し、
前記アキシャル変位センサは、前記第1アキシャル電磁石の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置される第1のセンサと、前記第2アキシャル電磁石の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置される第2のセンサとを有し、
前記アキシャル磁気軸受の励磁電流は第1のセンサからの信号と第2のセンサからの信号との差動信号に基づいて制御される、磁気軸受装置。
【請求項9】
請求項4に記載の磁気軸受装置において、
前記アキシャル変位センサは、高周波電圧が印加されるコイルと、前記コイルのロータディスク側を除く周囲に配置される第1フェライトコア部材とを備えている、磁気軸受装置。
【請求項10】
ポンプロータのロータ軸を磁気浮上支持する請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の磁気軸受装置と、
前記ポンプロータを回転駆動するモータと、を備える真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気軸受装置および真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプにおいては、オイルフリー化のためにロータ支持用軸受として磁気軸受が採用される。ターボ分子ポンプには、一般に5軸制御型の磁気軸受が用いられる(例えば、特許文献1参照)。ターボ分子ポンプに用いられる5軸制御型磁気軸受では、構造の複雑化を避ける等の理由から、1個のアキシャル変位センサによりロータの軸方向変位を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-20520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の磁気軸受装置では、アキシャル磁気軸受の構成部品であるロータディスクをロータ軸に固定するためのナットをセンサターゲットとし、アキシャル電磁石に固定される基板上のセンサターゲット対向面にインダクタンス方式のアキシャル変位センサを搭載するようにしている。そのため、アキシャル変位センサの積層配置する際の積層誤差が生じやすく、また、ナットの締め具合によってナットと基板との距離が変化するため、機台毎にアキシャル変位センサとセンサターゲットとの間のギャップ寸法が異なっていた。その結果、アキシャル変位センサの感度に関する電気的なオフセット調整を機台毎に行う必要があり、調整作業に手間がかかるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の好ましい実施形態による磁気軸受装置は、ロータ軸を径方向に磁気浮上支持するラジアル磁気軸受と、電磁石コイルを有し、前記ロータ軸と一体に回転するロータディスクを軸方向に磁気浮上支持するアキシャル磁気軸受と、前記アキシャル磁気軸受の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置され、前記ロータディスクの軸方向の変位を検出するアキシャル変位センサと、を備え、前記電磁石コアが、前記電磁石コイルが配置されるコイル配置部と、前記アキシャル変位センサが配置されるセンサ配置部とを有し、且つ前記センサ配置部はリング状の凹部であることにより、前記ロータディスクに対する前記アキシャル変位センサの位置関係を、前記ロータディスクに対する前記電磁石コアの位置関係と同一とする
本発明の好ましい実施形態による磁気軸受装置は、ロータ軸を径方向に磁気浮上支持するラジアル磁気軸受と、前記ロータ軸と一体に回転するロータディスクを軸方向に磁気浮上支持するアキシャル磁気軸受と、前記アキシャル磁気軸受の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置され、前記ロータディスクの軸方向の変位を検出するアキシャル変位センサと、を備え、前記アキシャル変位センサは、高周波電圧が印加されるコイルと、前記コイルのロータディスク側を除く周囲に配置される第1フェライトコア部材とを備え、前記アキシャル変位センサは、外周側から順番に、外側緩衝リング、前記第1フェライトコア部材としての外側フェライトリング、前記コイル、前記第1フェライトコア部材としての内側フェライトリング、および、内側緩衝リングを、同心状に配置したものである
本発明の好ましい実施形態による磁気軸受装置は、ロータ軸を径方向に磁気浮上支持するラジアル磁気軸受と、前記ロータ軸と一体に回転するロータディスクを軸方向に磁気浮上支持するアキシャル磁気軸受と、前記アキシャル磁気軸受の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置され、前記ロータディスクの軸方向の変位を検出するアキシャル変位センサと、を備え、前記ロータディスクには、前記アキシャル変位センサが対向する領域に第2フェライトコア部材が設けられている。
本発明の好ましい実施形態による磁気軸受装置は、ロータ軸を径方向に磁気浮上支持するラジアル磁気軸受と、前記ロータ軸と一体に回転するロータディスクを軸方向に磁気浮上支持するアキシャル磁気軸受と、前記アキシャル磁気軸受の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置され、前記ロータディスクの軸方向の変位を検出するアキシャル変位センサと、を備え、前記アキシャル磁気軸受は、前記ロータディスクの表面側に対向配置された第1アキシャル電磁石と、前記ロータディスクの裏面側に対向配置された第2アキシャル電磁石とを有し、前記第1および第2アキシャル電磁石は、それぞれ前記アキシャル変位センサを備え、前記アキシャル磁気軸受の励磁電流は、第1アキシャル電磁石のアキシャル変位センサからの信号と第2アキシャル電磁石のアキシャル変位センサからの信号との差動信号に基づいて制御される。
本発明の好ましい実施形態による磁気軸受装置は、ロータ軸を径方向に磁気浮上支持するラジアル磁気軸受と、前記ロータ軸と一体に回転するロータディスクを軸方向に磁気浮上支持するアキシャル磁気軸受と、前記アキシャル磁気軸受の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置され、前記ロータディスクの軸方向の変位を検出するアキシャル変位センサと、を備え、前記アキシャル変位センサの磁路領域と前記アキシャル磁気軸受の磁路領域との間における前記ロータディスクおよび前記電磁石コアの互いに対向する面の少なくとも一方の面に、溝が形成されている。
さらに好ましい実施形態では、前記アキシャル磁気軸受の非動作時において前記ロータディスクを支持するメカニカルベアリングと、前記ロータ軸に装着され、前記メカニカルベアリングの軸方向端面に当接することで、前記ロータ軸のアキシャル方向の可動範囲を規定する制限部材と、前記ロータディスクを前記制限部材との間に挟持するように、前記ロータディスクをロータ軸に固定するナットと、を備え、前記制限部材の軸方向厚さにより、前記ロータ軸における前記ロータディスクの軸方向位置が設定される。
本発明の好ましい実施形態による磁気軸受装置は、ロータ軸を径方向に磁気浮上支持するラジアル磁気軸受と、前記ロータ軸と一体に回転するロータディスクを軸方向に磁気浮上支持するアキシャル磁気軸受と、前記アキシャル磁気軸受の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置され、前記ロータディスクの軸方向の変位を検出するアキシャル変位センサと、前記アキシャル変位センサは高周波電圧が印加されるコイルとを備え、前記アキシャル変位センサの磁路領域と前記アキシャル磁気軸受の磁路領域との間における前記ロータディスクおよび前記電磁石コアの互いに対向する面の少なくとも一方の面に、溝が形成されている。
さらに好ましい実施形態では、前記アキシャル磁気軸受は、前記ロータディスクの表面側に対向配置された第1アキシャル電磁石と、前記ロータディスクの裏面側に対向配置された第2アキシャル電磁石とを有し、前記アキシャル変位センサは、前記第1アキシャル電磁石の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置される第1のセンサと、前記第2アキシャル電磁石の電磁石コアの前記ロータディスクに対向する面に配置される第2のセンサとを有し、前記アキシャル磁気軸受の励磁電流は第1のセンサからの信号と第2のセンサからの信号との差動信号に基づいて制御される。
さらに好ましい実施形態では、前記アキシャル変位センサは、高周波電圧が印加されるコイルと、前記コイルのロータディスク側を除く周囲に配置される第1フェライトコア部材とを備えている。
本発明の好ましい実施形態による真空ポンプは、ポンプロータのロータ軸を磁気浮上支持する前記磁気軸受装置と、前記ポンプロータを回転駆動するモータと、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、アキシャル変位センサのセンサ特性の機台ばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、磁気軸受装置を備えた磁気軸受式ターボ分子ポンプの概略構成を示す図である。
図2図2は、アキシャル電磁石のコアの形状を示す図である。
図3図3は、アキシャル変位センサの構成を示す図である。
図4図4は、実施形態におけるアキシャル電磁石の制御ブロック図である。
図5図5は、従来の磁気軸受装置におけるアキシャル変位センサの構成の一例を示す図である。
図6図6は、図5に示すアキシャル変位センサの制御ブロック図である。
図7図7は、図5の構成の場合のアキシャル変位信号を説明する図である。
図8図8は、実施形態におけるアキシャル変位信号を説明する図である。
図9図9は、変形例を示す図である。
図10図10は、図5に示す構成における機械的な調整機構の一例を示す図である。
図11図11は、本実施の形態における機械的な調整機構の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は、磁気軸受装置を備えた磁気軸受式ターボ分子ポンプの概略構成を示す図である。ターボ分子ポンプは、ポンプ本体1と、ポンプ本体1を駆動制御するコントロールユニットとにより構成されている。なお、図1では、コントロールユニットの図示を省略した。
【0009】
ポンプロータ3に設けられたロータ軸5は、ラジアル磁気軸受4A,4Bおよびアキシャル磁気軸受4Cによって非接触支持される。ラジアル磁気軸受4A,4Bの各々は、ロータ軸5の径方向に配置された4つのラジアル電磁石を備えている。アキシャル磁気軸受4Cは、ロータ軸5の下部に固定されたロータディスク10を軸方向に挟むように配置された一対のアキシャル電磁石4C1,4C2を備えている。ロータディスク10はナット11によってロータ軸5に固定されている。
【0010】
ロータ軸5の変位は、ラジアル変位センサ50x1,50y1,50x2,50y2,とアキシャル変位センサ6z1,6z2によって検出される。変位センサ50x1,50y1,50x2,50y2,6z1,6z2には、インダクタンス式変位センサが用いられている。
【0011】
図示上側のアキシャル電磁石4C1は電磁石コイル40およびコア41,42を備え、図示下側のアキシャル電磁石4C2は電磁石コイル43およびコア44,45を備える。アキシャル変位センサ6z1,6z2はロータディスク10を挟んで対向するように配置され、アキシャル変位センサ6z1はコア41の下端面に設けられ、アキシャル変位センサ6z2はコア44の上端面に設けられている。
【0012】
磁気軸受4A,4B,4Cによって回転自在に磁気浮上されたポンプロータ3は、モータ42により高速回転駆動される。モータ42にはブラシレスDCモータ等が用いられる。なお、図1では、模式的にモータ42と記載しているが、より詳細には、符号42で示した部分はモータステータを構成し、ロータ軸5側にモータロータが設けられている。なお、磁気軸受が動作していないときには、ロータ軸5は非常用のメカニカルベアリング26a,26bによって支持される。
【0013】
ポンプロータ3には、回転側排気機能部を構成する複数段の回転翼3aと円筒部3bとが形成されている。一方、固定側には、固定側排気機能部である固定翼22とネジステータ24とが設けられている。複数段の固定翼22は、軸方向に対して回転翼3aと交互に配置されている。ネジステータ24は、円筒部3bの外周側に所定のギャップを隔てて設けられている。
【0014】
各固定翼22は、スペーサリング23を介してベース20上に載置される。ポンプケーシング21の固定フランジ21cをボルトによりベース20に固定すると、積層されたスペーサリング23がベース20とポンプケーシング21との間に挟持され、固定翼22が位置決めされる。ベース20には排気ポート25が設けられ、この排気ポート25にバックポンプが接続される。ポンプロータ3を磁気浮上させつつモータ42により高速回転駆動することにより、吸気口21a側の気体分子は排気ポート25側へと排気される。
【0015】
図2はアキシャル電磁石4C2のコア44の形状を示す図であり、図2(a)は平面図、図2(b)は断面図である。コア44には、電磁石コイル43が配置されるコイル配置部440と、アキシャル変位センサ6z2が配置されるセンサ配置部441とが形成されている。センサ配置部441はリング状の凹部であって、この凹部内にリング状のアキシャル変位センサ6z2が配置される。図示は省略するが、アキシャル電磁石4C1のコア41に関しても、コア41の下端面にリング状の凹部から成るセンサ配置部が同様に形成されており、その凹部内にリング状のアキシャル変位センサ6z1が配置される。なお、図2(b)に示す例では、センサ配置部441を構成する凹部をザグリ加工により形成したが、リング状の溝としても良い。
【0016】
図3はアキシャル変位センサ6z2の構成を示す図であり、図3(a)は平面図、図3(b)断面図である。なお、アキシャル変位センサ6z1についても、図3のアキシャル変位センサ6z2と同一構成とされる。アキシャル変位センサ6z2は、外側緩衝リング61、外側フェライトリング62、リング状の空芯コイル63、内側緩衝リング65および内側フェライトリング64を、同心状に配置したものである。フェライトリング62,64には、ニッケル亜鉛系フェライトが適している。
【0017】
これらの部材をコア44のロータディスク側端面のセンサ配置部441に配置し、エポキシ樹脂等の接着剤により固定する。その際に、アキシャル変位センサ6z2を構成する複数の部材の全体を、エポキシ樹脂等でモールドするようにしても良い。なお、アキシャル変位センサ6z2を構成部品の全体を樹脂モールドする場合には、フェライトリング62,64を衝撃等から保護するための保護部材である外側緩衝リング61および内側緩衝リング65を省略しても良い。ここで、センサ配置部441の溝深さは、アキシャル変位センサ6z2の上端面とコア44の上端面(ロータディスク側端面)とがほぼ同一面となるように設定されている。すなわち、ロータディスク10に対するコア端面および変位センサ端面の軸方向位置は、ほぼ同一になっている。
【0018】
図4は、アキシャル変位センサ6z1,6z2の信号に基づくアキシャル電磁石4C1の制御を説明するブロック図である。アキシャル変位センサ6z1,6z2には、抵抗Rを介して高い周波数(通常は10kHzオーダー)のセンサキャリア電圧(センサキャリア信号)が印加される。抵抗Rは、アキシャル変位センサ6z1,6z2のインダクタンスLに対して、R>Lωのように設定される。ωは、センサキャリア信号の角振動数である。
【0019】
アキシャル変位センサ6z1,6z2のインピーダンスの大きさ(ωL)は、アキシャル変位センサ6z1,6z2とセンサターゲットであるロータディスク10との間のギャップ寸法に対して反比例関係にある。そのため、ロータ軸5と一体に回転するロータディスク10が軸方向に変位して上記ギャップが変化すると、そのときのインピーダンス変化によってセンサキャリア信号が振幅変調されることになる。以下では、振幅変調されたセンサキャリア信号を変位変調波信号と呼ぶことにする。
【0020】
アキシャル変位センサ6z1から出力される変位変調波信号、およびアキシャル変位センサ6z1から出力される変位変調波信号は、差動アンプ100に入力される。差動アンプ100からは、それらの変位変調波信号の差分信号が出力される。差動アンプ100から出力された差分信号は、フィルタ101において角振動数ωを中心とするバンドパス処理が施される。
【0021】
フィルタ101から出力された信号は復調部102に入力され、復調部102において復調演算が行われる。復調部102の演算結果は浮上制御部103に入力され、浮上制御部103は、復調部102の演算結果に基づいて比例制御、積分制御および微分制御、位相補正、その他の制御補償を行い、浮上制御電流設定を生成する。そして、浮上制御電流設定に基づいて励磁アンプ104を駆動することで、アキシャル電磁石4C1に供給される励磁電流の制御が行われる。
【0022】
ところで、従来の磁気軸受装置におけるアキシャル変位センサ6zは、例えば、図5に示すようにロータ軸の端面(下端面)に締結されたナット12に対向するように配置される。アキシャル変位センサ6zは、ナット12との間のギャップ変化を、変位信号として検出する。センサターゲットであるナット12はロータディスク10をロータ軸に固定する締結具としても機能するものであり、組み立て時の締め付け具合によって軸方向位置が若干変化する。
【0023】
また、アキシャル変位センサ6zは、アキシャル電磁石4C2のコア44の下端面に取り付けられる基板13上に搭載されている。そのため、積層誤差や組み付け誤差等によってアキシャル変位センサ6zの軸方向位置に機台ばらつきが生じる。すなわち、アキシャル変位センサ6zとナット12のターゲット面との間のギャップ寸法が、機台ごとに異なることになり、それに起因するセンサ感度のばらつきが問題となる。そのため、従来は、センサ感度のばらつきを解消するために機械的な調整構成を設けたり、電気的な調整構成(例えば、トリマ抵抗等を用いる調整機構)を設けたりしている。
【0024】
図10は、図5に示す従来構成の場合の機械的な調整機構の一例を示す図である。図10に示す例では、機械的な調整機構は、タッチダウンベアリングとして機能するメカニカルベアリング26b付近に設けられている。機械的な調整では、アキシャル変位センサ6zとターゲット(ナット12)間のクリアランスCL1、および、アキシャル電磁石間のロータディスク位置CL2の調整が必要である。CL1,CL2の調整に伴い、ロータ軸5のアキシャル方向のクリアランスCL3も加えて、各々適切になるように、2つのリング状調整部材51,52の高さ寸法を選択することでシム調整をしている。そのため、調整に手間がかかるという問題があった。
【0025】
(C1)一方、本実施の形態では、図1に示すように、アキシャル変位センサ6z1,6z2を、アキシャル磁気軸受4Cを構成するアキシャル電磁石4C1,4C2のコア41,44のロータディスク10に対向する面に配置しているので、ロータディスク10に対するアキシャル変位センサ6z1,6z2の位置関係を、ロータディスク10に対するコア41,44の位置関係とほぼ同一とすることができる。その結果、図5,10に示すような従来の構成の場合に必須であったアキシャル変位センサ6zに関する調整作業を、省略することが可能となる。
【0026】
例えば、図11(a)に示すように、アキシャル変位センサ6z2とターゲットであるロータディスク10との間のクリアランスは、アキシャル電磁石間のロータディスク10の位置に関するクリアランスCL2と同じであって、両方のクリアランスの調整を同時に行うことができる。すなわち、一つのリング状調整部材53によってそれぞれのクリアランスCL2,CL3の調整を行うことができ、それによって、後述する非線形性の改善を図ることができる。
【0027】
また、クリアランスCL2には冗長性が許容され、さらにロータ軸5のアキシャル方向ストロークのクリアランスCL3についてもばらつきが小さいので、機械的な調整を不要とすることができる。従って、高さ寸法が固定されたリング状調整部材53とロータディスク10とをナット11で共締めすることで、クリアランスCL2,CL3を設定することも可能となる。なお、リング状調整部材53は、タッチダウンベアリングとして機能するメカニカルベアリング26bの内輪の図示下側端面に当接することで、ロータ軸5のアキシャル方向の可動範囲(ポンプ吸気口側への可動範囲)を規定する部材としても用いられる。
【0028】
また、図5に示す従来構成のナット12はセンサターゲットとして用いられているが、本実施の形態のナット11は単にロータディスク10を固定するだけであるため、複雑な構造を必要とせず、一般的なナットを使用することができる。さらに、ナット12をセンサターゲットとした場合、ナット12をセンサターゲットとして構成すると共に、ナット12に対向するようにアキシャル変位センサ6zを配置する必要があるが、本実施の形態では、コア41,44にアキシャル変位センサ6z1,6z2を配置しているので、ポンプ本体1の軸方向寸法をより小さくすることができる。
【0029】
なお、図1に示す実施形態では、ロータディスク10を挟むように一対のアキシャル変位センサ6z1,6z2を設けて差動構成としたが、いずれか一方のみを配置するようにしても良い。その場合も、上述の場合と同様に積層誤差の低減、およびセンサ調整作業の簡略化を図ることができる。図11(b)は、アキシャル変位センサ6z2のみをコア44に設ける場合のロータディスク10の取り付け構成を示す図である。この場合も、図11(a)の場合と同様に、一つのリング状調整部材53それぞれのクリアランスCL2,CL3の調整を行うことができる。
【0030】
(C2)さらに、本実施の形態では、ロータディスク10の表裏面に対向するように配置された2つのアキシャル電磁石4C1,4C2のコア41,44のロータディスク対向面にアキシャル変位センサ6z1,6z2を配置し、アキシャル変位センサ6z1のセンサ信号とアキシャル変位センサ6z2のセンサ信号との差分である差動信号に基づいて、アキシャル磁気軸受4Cの励磁電流が制御される。そのため、後述するようにアキシャル変位信号の非線形性を改善することができ、外乱応答性、安定性、浮上制御性が向上する。
【0031】
一方、図5に示す従来の構成の場合には、一つのアキシャル変位センサ6zしか設けられていないため、図6に示すように、オフセット除去のためのダミー信号S1を差動アンプ100に入力することで、変位変調波信号を擬似的に差動化している。そのため、実際の変位と変位信号である電圧値との関係が線形でなく非線形性が強いという欠点を有している。
【0032】
図6は、図5に示すアキシャル変位センサ6zの場合の制御ブロック図を示す図である。ダミー信号S1は、センサキャリア信号をゲイン調整部202にてゲイン調整し、さらに位相シフト回路204において変位変調波信号と同位相となるように位相調整することによって形成される。
【0033】
ロータディスク10の所定の基準浮上位置をD0とし、基準浮上位置D0からの変位増分をΔdとすると、アキシャル変位センサ6zとセンサターゲットとのギャップ寸法はD0+Δdとなる。すなわち、インピーダンスの大きさωLとギャップ寸法D0+Δdとは、次式(1)のような反比例の関係にある。この場合、インピーダンスは、Δdが負の値でその大きさが大きいほど増加し、Δdが正の値でその大きさが大きいほど減少する、図7に示すような双曲線関係の非線形性を示す。
ωL∝1/(D0+Δd) …(1)
【0034】
通常、R>ωLを満たすようにRが選ばれており、ロータ運動によるギャップ変化から生じるインピーダンス変化にほぼ比例した振幅となる電圧が生成される。この電圧はセンサキャリア信号がギャップ変化により振幅変調された電圧信号であり、ロータ位置が上述の基準浮上位置D0において復調後のアキシャル変位信号が0となるように、ダミー信号S1が生成される。復調後にも基準浮上位置D0での値が0となるようにさらに微調整されるが、浮上制御に用いられるアキシャル変位信号の非線形性は図7(a)と同様に改善されないままである(図7(b))。
【0035】
一方、本実施の形態では、ロータディスク10の表裏面に対向する2つのアキシャル変位センサ6z1,6z2を設け、図4に示すように、アキシャル変位センサ6z1,6z2のそれぞれから出力される変位変調波信号の差分信号を復調し、浮上制御に用いるようにした。図8の曲線L1はアキシャル変位センサ6z1から出力される変位変調波信号の振幅を表し、曲線L2はアキシャル変位センサ6z2から出力される変位変調波信号の振幅を表したものである。図8の縦軸は信号の振幅であり、例えば電圧値である。
【0036】
本実施の形態では、図1のような構成とすることで、アキシャル電磁石4C1,4C2の中間位置と、アキシャル変位センサ6z1,6z2の中間位置とをほぼ一致させることができる。そのため、アキシャル変位センサ6z1側のギャップ変化をΔdとすると、アキシャル変位センサ6z2側のギャップ変化は-Δdとなり、曲線L1と曲線L2とは、D軸上のD0点に関してほぼ点対称になっていると考えて良い。その結果、2つの変位変調波信号の差分信号を表す曲線L12はほぼ直線となり、復調後の微調整は不要で、非線形性もほぼ解消される。
【0037】
図9は、変形例を示す図である。変形例では、アキシャル変位センサ6z1が配置されるコア41の溝底部にフェライトリング302を設け、アキシャル変位センサ6z2が配置されるコア44の溝底部にフェライトリング304を設ける。さらに、ロータディスク10側には、アキシャル変位センサ6z1が対向する面にフェライトリング301を配置し、アキシャル変位センサ6z2が対向する面にフェライトリング303を配置する。破線b1はアキシャル変位センサ6z1に関する磁路を模式的に示したものであり、破線b2はアキシャル変位センサ6z1に関する磁路を模式的に示したものである。
【0038】
(C3)このように、アキシャル変位センサ6z1,6z2の背面側(溝底部側)にフェライトリング302,304を配置することで、コア41,44側における漏れ磁束の低減を図ることができる。
【0039】
(C4)また、前記ロータディスク10のアキシャル変位センサ6z1,6z2が対向する領域にフェライトコア部材であるフェライトリング301,303を設けることで、ロータディスク10における漏れ磁束を低減し、アキシャル変位センサ6z1とフェライトリング301との間、およびアキシャル変位センサ6z2とフェライトリング303との間に空芯コイル63の形成する磁束を集中させることができる。
【0040】
(C5,C6)さらに、図9に示すように、アキシャル変位センサ6z1の磁路b1が通る領域(磁路領域)とアキシャル電磁石4C1の磁路C1が通る領域(磁路領域)との間におけるロータディスク10およびコア41の互いに対向する面の少なくとも一方の面に溝g1を形成し、アキシャル変位センサ6z2の磁路b2が通る領域(磁路領域)とアキシャル電磁石4C2の磁路C2が通る領域(磁路領域)との間におけるロータディスク10およびコア44の互いに対向する面の少なくとも一方の面に溝g2を形成するようにしても良い。図9に示す例では、ロータディスク10およびコア41の互いに対向する面の両方に溝g1を形成し、ロータディスク10およびコア44の互いに対向する面の両方に溝g2を形成している。
【0041】
このような溝g1,g2を形成することで、磁路b1,b2と磁路C1,C2とが分離されやすくなり、アキシャル変位信号への電磁石磁束の影響を低減することができる。なお、ロータディスク10側およびコア41,44側のいずれか一方に溝g1,g2を形成する場合には、磁路C1,C2を生成する側であるコア41,44側が優先される。
【0042】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。例えば、上述した実施の形態ではターボ分子ポンプに用いられる磁気軸受装置を例に説明したが、これに限らず種々の磁気軸受装置に適用することができる。また、上述した実施形態ではラジアル磁気軸受に関してもアキシャル磁気軸受と同様に変位センサからの信号に基づいて軸受制御を行う構成としたが、変位センサを用いないセルフセンシングタイプのラジアル磁気軸受としても良いし、永久磁石を用いた受動型のラジアル磁気軸受としても良い。
【符号の説明】
【0043】
1…ポンプ本体、4A,4B…ラジアル磁気軸受、4C…アキシャル磁気軸受、4C1,4C2…アキシャル電磁石、5…ロータ軸、6z,6z1,6z2…アキシャル変位センサ、10…ロータディスク、11,12…ナット、13…基板、40,43…電磁石コイル、41,42,44,45…コア、50x1,50y1,50x2,50y2…ラジアル変位センサ、53…リング状調整部材、61…外側緩衝リング、62…外側フェライトリング、63…空芯コイル、64…内側フェライトリング、65…内側緩衝リング、100…差動アンプ、102…復調部、103…浮上制御部、104…励磁アンプ、301~304…フェライトリング、441…センサ配置部、g1,g2…溝
図1
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