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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】酸化ケイ素薄膜積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/24 20060101AFI20220113BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20220113BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20220113BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20220113BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
B05D7/24 302Y
C09D183/04
C09D7/40
B05D3/06 102Z
B05D7/02
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017148291
(22)【出願日】2017-07-31
(65)【公開番号】P2019025434
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097928
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 数彦
(72)【発明者】
【氏名】高木 厚志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄一
【審査官】塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-173345(JP,A)
【文献】特開平11-279304(JP,A)
【文献】特開2005-179543(JP,A)
【文献】特開昭63-007883(JP,A)
【文献】特開2016-087843(JP,A)
【文献】特開平09-001064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
C08G 77/00-77/62
C08J 7/04-7/06
C09D 1/00-10/00
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性シラン化合物を加水分解および縮合反応させて得られる反応組成物より成るバインダー液とシリカ微粒子とを含有する酸化ケイ素薄膜形成用塗工液をプラスチック基材表面に塗布した後、乾燥し、酸素の存在下に紫外線(ただし、照射強度が100mW/cm 以下の紫外線を除く)を照射して硬化させることを特徴とする酸化ケイ素薄膜積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ケイ素薄膜積層体の製造方法に関し、詳しくは、プラスチック基材の表面に多孔質酸化ケイ素薄膜を積層した酸化ケイ素薄膜積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ケイ素薄膜形成方法として、ゾルゲル法により形成されたところの、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、及びハフニウムより成る群から選択される少なくとも一種の元素の無機化合物を含有するゾル液を、基材上に塗布し、200℃を超えない温度に加熱処理しながら、大きくとも100mJ/cmの紫外線を照射する酸化ケイ素薄膜形成方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-187738号公報
【0004】
ところで、加熱工程が必須である上記の方法をプラスチック基材に適用した場合、基材の劣化を免れず、反射防止フィル等の高精度の光学部材を得ることは困難である。加えて、均一熱処理の困難性を考慮すると、大面積成膜には対応できず、しかも、短時間成膜が困難であるため、生産性に劣るという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、プラスチック基材の表面に多孔質酸化ケイ素薄膜を積層する酸化ケイ素薄膜積層体の製造方法であって、加熱工程を必須とせず、従って、精度の高い光学部材に適用でき、しかも、大面積・短時間成膜が可能な酸化ケイ素薄膜積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を達成するため、ゾルゲル法において、加水分解性シラン化合物を巧みに活用し、特定条件での紫外線照射を行うならば、加熱工程を必須とせずにプラスチック基材の表面に多孔質酸化ケイ素薄膜を形成することが出来るとの知見を得た。
【0007】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は、加水分解性シラン化合物を加水分解および縮合反応させて得られる反応組成物より成るバインダー液とシリカ微粒子とを含有する酸化ケイ素薄膜形成用塗工液をプラスチック基材表面に塗布した後、乾燥し、酸素の存在下に紫外線(ただし、照射強度が100mW/cm 以下の紫外線を除く)を照射して硬化させることを特徴とする酸化ケイ素薄膜積層体の製造方法に存する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
先ず、加水分解性シラン化合物を加水分解および縮合反応させて得られる反応組成物より成るバインダー液について説明する。
【0010】
バインダーは、シリカ粒子間に作用して酸化ケイ素薄膜を形成すると共に、基材表面に酸化ケイ素薄膜を接着させる作用を有するが、その作用は、その調製法の違いによって得られる反応組成物の性状によって大きく異なり、理想的なバインダーは、-OH基を多量に備えた直鎖状構造に富む反応組成物である。そして、斯かる理想的なバインダーを使用するならば、基材に対する酸化ケイ素薄膜の密着性を顕著に改善することが出来る。
【0011】
バインダー液の調製においては、2官能の加水分解性シラン化合物から成り且つその少なくとも50重量%が多量体である加水分解性シラン化合物を使用し、シリカ粒子の不存在下、加水分解性シラン化合物を溶解した親水性溶媒溶液中に撹拌条件下で酸触媒水溶液を連続的に滴下して前記の反応を行うのが好ましい。
【0012】
加水分解性シラン化合物は、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、アミノキシ基、アミド基、ケトオキシム基、イソシアネート基、ハロゲン原子等の加水分解性基を有するシラン化合物である。
【0013】
上記の中ではアルコキシシラン化合物が好適に使用される。アルコキシ基(-OR)のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基が例示される。加水分解性基の数により、1~4官能のものが知られている。
【0014】
アルコキシシラン化合物の代表例としては、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、ジメチルジエトキシシラン(DMDES)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、テトラエトキシシラン(TEOS)等が挙げられる。
【0015】
加水分解性シラン化合物の多量体は上記のような単量体を縮合により多量化重合(オリゴマー化)したものである。この反応においては、先ず、アルコキシ基の加水分解によりシラノール基(-Si-OH)が形成される。同時にアルコール(R-OH)が生成する。次いで、シラノール基の(脱水)縮合によりシロキサン結合(-Si-O-Si-O-)が形成され、この縮合を繰り返してシロキサンオリゴマーが形成される。アルコキシシラン化合物の多量体としては、アルコキシ基の加水分解性、縮合性などの面から、Rがメチル基であるテトラメトキシシランの多量体またはRがエチル基であるテトラエトキシシランの多量体が好ましい。
【0016】
多量体の構造には、直鎖状、分枝状、環状、網目状構造があるが、直鎖状構造を持つものとしてテトラアルコキシシランの多量体を示せば、次の一般式で表される。
[化1]
RO(Si(OR)O)R・・・(I)
【0017】
一般式中、nは多量体の多量化度を表わす。通常入手できる多量体はnが異なる多量体の組成物であり、従って、分子量分布を有する。なお、多量化度は平均したnで表される。
【0018】
テトラアルコキシシラン等の4官能加水分解性シラン化合物またはその多量体の多量化度を「シリカ分」で表すこともある。「シリカ分」とは、その化合物から生成するシリカ(SiO)の質量割合であり、その化合物を安定に加水分解し、焼成して生成するシリカの量を測定することにより得られる。また、「シリカ分」はその化合物の1分子に対して生成するシリカの割合を示すものでもあり、次式で計算される値である。
[数1]
シリカ分(質量部)=多量化度×SiOの分子量/該化合物の分子量
【0019】
多量化度nは、通常2~100、好ましくは2~70、更に好ましくは2~50である。斯かる多量体は、既に市販されているのでそれを利用するのが簡便である。多量化度nが大きくなるに従い、生成するバインダーの分子量が大きくなり、かつ分子量分布が広くなるため、多量化度nが100を超える多量体は不適切である。
【0020】
加水分解性シラン化合物の多量体の市販品としては、三菱ケミカル社製のMKCシリケートMS51、MKCシリケートMS56、MKCシリケートMS57、MKCシリケートMS56S(いずれもテトラメトキシシランの多量体)、コルコート社製のメチルシリケート51(テトラメトキシシランの多量体)、メチルシリケート53A、エチルシリケート40、エチルシリケート48、多摩化学工業社製のエチルシリケート40、シリケート45(いずれもテトラエトキシシランの多量体)等が挙げられる。
【0021】
2官能の加水分解性シラン化合物中の多量体比率は好ましくは70重量%以上である。多量体の使用量が少ない場合は、単量体の受ける加水分解および縮合反応により、OH基が減少することや、反応組成物中に分枝状、環状、網目状構造が増加する。
【0022】
加水分解および縮合反応は逐次に行われ、その(加熱による)反応過程にシリカ粒子が存在すると反応途中に生成した各成分がシリカ粒子表面に吸着する。この吸着は、バインダー成分OH基とシリカ粒子OH基が水素結合や、シロキサン結合が形成された強固な状態であり、バインダーの持つ基材密着性や酸化ケイ素薄膜の強度増加に寄与するOH基が減少することになる。また、シリカ粒子に吸着したバインダー成分が架橋点となり、分岐構造や網目構造を増加させる。これに対して、シリカ粒子の不存在下に調製された反応生成物はOH基を多量に備えた直鎖構造に富んだものとなる。そこで、シリカ粒子の不存在下にバインダー液を調製し、得られたバインダー液とシリカ微粒子とを室温にて混合することにより酸化ケイ素薄膜形成用塗工液を調製する。
【0023】
前記の反応は、加水分解性シラン化合物を溶解した親水性溶媒溶液中に撹拌条件下で酸触媒水溶液を連続的に滴下して行う。
【0024】
親水性溶媒としては、加水分解性シラン化合物の多量体を溶解し得る限り、特に制限されないが、一般的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピルセロソルブ類などのセロソルブ類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコールなどのグリコール類が使用される。
【0025】
親水性溶媒の使用量は、特に制限されないが、バインダー液にシリカ微粒子を混合して調製される酸化ケイ素薄膜形成用塗工液の塗布性を考慮し、加水分解性シラン化合物100重量部に対する割合として、通常0.1~100重量倍、好ましくは1~10重量で倍ある。因に、加水分解性シラン化合物の多量体は、前述のように多量化度の異なる成分から成る組成物であり、重合度が高くなるに従い粘度が高くなる。一方、その単量体、例えば、ジメチルジメトキシシランの市販品は、通常99重量%純度の溶液である。
【0026】
酸触媒水溶液中の酸濃度は、通常0.1~0.0001重量%、好ましくは0.01~0.001重量%の範囲である。酸触媒をこのような低濃度の水溶液として使用するならば、反応系内に多量の水が同伴させられることとなり、その結果、競争反応である縮合反応の反応速度を抑制することが出来る。そのため、傾向としては、加水分解で生じたOH基が適切な速度で消失し、OH基を多量に備えた直鎖構造に富む反応組成物が得られ易くなる。
【0027】
酸触媒の使用量は、親水性溶媒溶液中の加水分解性シラン化合物の加水分解性基(代表的にはアルコキシ基)の総量100モルに対して、通常0.001~10ミリモル、好ましくは0.01~10ミリモルである。
【0028】
酸触媒水溶液は連続的に滴下されるが、その滴下速度は反応系内の温度が急上昇しないように適宜選択される。酸触媒水溶液の滴下速度は、親水性溶媒溶液100ml当たり、通常1~10ml/min、好ましくは3~5ml/minである。滴下された触媒水溶液は撹拌により直ちに均一に拡散され均一な加水分解が行われる。なお、撹拌方法は通常の化学反応で採用されている方法を採用することが出来る。
【0029】
加水分解性シラン化合物の加水分解および縮合反応は、実際的には、逐次に且つ並行して行われる。OH基を多量に備えた直鎖構造に富む反応組成物を得るとの観点から、可能な限り加水分解と縮合反応とが各別に行われるように、次の3段階に分けて行うのが好ましい。
【0030】
(1)加水分解反応工程:
撹拌条件下に親水性溶媒溶液に酸触媒水溶液を滴下することによって行う。反応温度は、通常5~50℃、好ましく10~40℃である。反応温度が上記範囲未満では加水分解反応が遅くなり過ぎ、上記範囲超過では縮合反応の回避が困難となる。反応温度の制御は、反応器のジャケットに導通される冷媒の温度・循環量や酸触媒水溶液の滴下速度などによって行われる。親水性溶媒の沸点が低い場合は還流条件下に加水分解反応を行う。反応時間は、通常1~60分、好ましくは5~30分である。
【0031】
加水分解反応は発熱反応であり、反応液は通常1~15℃温度上昇する。加水分解反応が実質的に完了したことを確認するため、酸触媒水溶液の滴下終了後に反応温度が5~10℃低下するまで撹拌を続行するのが好ましい。
【0032】
(2)縮合反応工程:
前記工程に引き続き、必要に応じて反応温度を高め、撹拌条件下に行う。反応温度は、通常40~80℃、好ましく50~60℃である。反応温度が上記範囲未満では縮合反応が遅くなり過ぎ、上記範囲超過では過剰な縮合反応の回避が困難となる。昇温速度は、通常0.1~10℃/分とされる。
反応時間は、通常1~120分、好ましくは5~60分である。
【0033】
(3)縮合反応停止工程:
反応液を冷却して縮合反応を停止する。冷却温度は通常10~30℃である。この際、縮合反応組成物の濃度低減のために親水性溶媒を添加する冷却希釈により縮合反応を停止するのが一層効果的である。なお、親水性溶媒は反応溶媒と同一のものが好適であるが、液性調整のため別の親水性溶媒を使用しても良い。
【0034】
親水性溶媒の添加量は、加水分解性シラン化合物、反応に供した親水性溶媒および酸触媒水溶液の総量に対する親水性溶媒の濃度として表した場合、通常50~150重量%の範囲である。
【0035】
前記の冷却希釈による縮合反応停止工程によれば、得られるバインダー液の保存安定性が高くなり、また、各用途の要求に合う濃度に調整し得るバインダー液の調製が可能になる。
【0036】
前上記の縮合反応工程により、得られる反応組成物の重量平均分子量が決定される。重量平均分子量は、通常1000~5000、好ましくは2000~4000である。斯かる分子量は均多量化度nが2~100の多量体に相当する。
【0037】
上記の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により下記の条件で測定された値である。
【0038】
[溶媒] テトラヒドロフラン
[装置名] TOSOH HLC-8220GPC
[カラム] TOSOH TSKgel Super HM-N(2本)とHZ1000(1本)を接続して使用。
[カラム温度] 40℃
[試料濃度] 0.01質量%
[流速] 0.6ml/min
[較正曲線] PEG(分子量20000、4000、1000、200の4点3次式近似による較正曲線を使用。
【0039】
前記の反応組成物より成る酸化ケイ素薄膜形成用バインダー液は、実質的に透明であり、カオリン濁度計を用いて測定した結果濁度は10以下である。
【0040】
次に、酸化ケイ素薄膜形成用塗工液について説明する。酸化ケイ素薄膜形成用塗工液は、前記で得られたバインダー液とシリカ微粒子とを混合することにより調製される。
【0041】
シリカ微粒子としては、特に制限されず、平均粒子径5~100nmの球状非凝集シリカ微粒子、平均粒子径が10~100nmの中空状非凝集シリカ微粒子、平均一次粒径が5~100nmの鎖状凝集シリカ微粒子の少なくとも一種からなるシリカ微粒子などが挙げられる。これらは、形成される酸化ケイ素薄膜の目的に応じて適宜選択される。
【0042】
球状非凝集シリカ微粒子の具体例としては、日産化学工業株式会社製の「スノーテックス(登録商標)-O」、「スノーテックス(登録商標)-O-40」、「スノーテックス(登録商標)-OL」、扶桑化学工業製の「クォートロン(登録商標)-PL-1」、「クォートロン(登録商標)-PL-3」、「クォートロン(登録商標)-PL-7」等が挙げられる。
【0043】
鎖状凝集シリカ微粒子の具体例としては、日産化学工業株式会社製の「スノーテックス(登録商標)-OUP」(平均長さ:40~100nm)、「スノーテックス(登録商標)-UP」(平均長さ:40~100nm)、「スノーテックス(登録商標)PS-M」(平均長さ:80~150nm)、「スノーテックス(登録商標)PS-MO」(平均長さ:80~150nm)、「スノーテックス(登録商標)PS-S」(平均長さ:80~120nm)、「スノーテックス(登録商標)PS-SO」(平均長さ:80~120nm)、「IPA-ST-UP」(平均長さ:40~100nm)、日本国触媒化成工業株式会社製の「ファインカタロイドF-120」等が挙げられる。
【0044】
酸化ケイ素薄膜形成用塗工液は、基材に塗布する際の塗工性、塗膜の膜厚や平滑性などを考慮して、適切な濃度に調製される。濃度調整は前述の親水性溶媒の添加により行われるが、この濃度調整はシリカ微粒子を混合する前に行うことも後に行うこともできる。
【0045】
次に、酸化ケイ素薄膜の形成について説明する。酸化ケイ素薄膜は、酸化ケイ素薄膜形成用塗工液をプラスチック基材表面に塗布した後に乾燥と硬化を行うことによって形成される。
【0046】
プラスチック基材は、フィルム(100μm以下)であってもそれより厚いシートであってもよい。因に、プラスチックスとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)等が挙げられる。基材の表面は、表面改質処理したものでも、処理してないものでも、どちらにでも適用できる。
【0047】
塗工液の塗布は、特に制限されず、ディップコート法、スピンコート法、ダイコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、ロールコート法、カーテンコート法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法を挙げることができる。
【0048】
塗布膜厚は形成される酸化ケイ素薄膜の目的に応じて適宜選択される。通常50~5000nmである。
【0049】
上記の乾燥は溶媒を除去するために行われ、乾燥温度は通常50~80℃であり、熱風乾燥機などが好適に使用される。乾燥時間は通常1~10分、好ましくは1~5分である。
【0050】
上記の硬化処理は、主としてバインダー液に含まれるシラノール基(Si-OH)と基材表面のヒドロキシル基やカルボキシル基などの酸素含有官能基を結合させるために行われ、これにより酸化ケイ素薄膜が形成される。
【0051】
上記の硬化処理は酸素の存在下に紫外線を照射して行う。紫外線には、近紫外線(near UV、波長200~380nm)、遠紫外線(波長10~200nm)及び極端紫外線(extreme UV、波長1~10nm)が含まれるが、通常は遠紫外線が有効である。紫外線の線源としては、例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、エキシマ紫外線(エキシマUV)ランプ、ハライドランプ、レーザー等が挙げられる。紫外線の照射時間は通常1秒~3分である。
【0052】
基材としてプラスチックス基材を使用し、酸素の存在下に紫外線を照射して行う硬化処理の場合、基材密着性が顕著に改良された酸化ケイ素薄膜が形成される。その理由は次のように推定される。
【0053】
すなわち、紫外線の作用で発生した活性酸素によりプラスチック基材表面が活性化(改質)され、バインダー液に含まれるシラノール基(Si-OH)と基材表面とが強固に結合される。
【0054】
本発明の酸化ケイ素薄膜積層体の製造方法においては、前記の硬化処理に加熱工程を必須としないため、大面積・短時間成膜が可能である。また、枚葉式の他長尺のプラスチックス基材を使用した連続的製造も可能である。
【0055】
連続的製造としては、特に、ロール状に巻回されたプラスチック基材を引き出しながらその表面に酸化ケイ素薄膜形成用コーティング液をコーティングする第1工程と、第1工程から搬出されたプラスチック基材の表面のコーティング液を乾燥する第2工程と、第2工程から搬出されたプラスチック基材の表面に酸素の存在下に紫外線を照射して硬化させる第3工程とを包含する酸化ケイ素薄膜積層体の連続的製造方法が推奨される。
【実施例
【0056】
以下、本発明を実施例より更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。以下の諸例における分析方法は次の通りである。
【0057】
実施例1
<酸化ケイ素薄膜形成用バインダー液の調製>
(1)加水分解反応工程:
2Lのジャケット付き反応器に、信越シリコーン社製の商品「KBM22」(ジメチルメトキシシラン含量99重量%)50質量部、三菱ケミカル社製商品「シリケートMS51」(平均多量化度n:7、メチルシリケートオリゴマー含量99.8重量%)200質量部、エタノール500質量部を仕込み、反応上限温度を40℃に設定し、攪拌条件下、0.007重量%の塩酸水溶液330質量部を10分かけて滴下した。この時、発熱反応により5~10℃反応温度が上昇した。反応温度が5~10℃低下するまで撹拌を続行した。なお、2官能の加水分解性シラン化合物中の多量体の割合(「KBM22」と「シリケートMS51」の合計量に対するシリケートMS51の割合)は80重量%である。
【0058】
(2)縮合反応工程:
塩酸水溶液滴下後、撹拌条件下、30分かけて60℃に昇温し、60℃で30分間保持した。その後、室温まで冷却した。
【0059】
(3)縮合反応停止工程:
冷却後、エタノール1100質量部を混合し、30分攪拌することにより、アルコキシシラン組成物(A)2180質量部を得た。
【0060】
<酸化ケイ素薄膜形成用塗工液の調製>
前記で得られたアルコキシラン組成物(A)2180質量部に、エタノール12000質量部を加え、30分攪拌することにより、アルコキシシラン組成物(B)14180を得た。
【0061】
上記で得られたアルコキシシラン組成物(B)14180質量部に球状非凝集シリカ2040質量部(日産化学工業社製の商品「スノーテックスO」)を加え、30分攪拌することにより、酸化ケイ素薄膜形成用塗工液を得た。
【0062】
<酸化ケイ素薄膜積層体の製造>
52×76mmにカットした厚み125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製の「コスモシャインA-4100」)の易接着未処理面に、実施例1で得られた酸化ケイ素薄膜形成用塗工液を滴下し、スピンコーター(ミカサ社製の「MS-A150」)で1200rpm、30秒コートすることで薄膜を作製した。
【0063】
その後、溶媒を除去するために、定温恒温送風機(ヤマト科学社製)に入れ、70℃、1分で乾燥した。次に、大気下で高圧水銀ランプ(アイグラフィックス社製)を用いて、照度130mW/cm、積算光量1000mJ/cmの紫外線を照射することで、厚さ100nmの酸化ケイ素薄膜積層PETを得た。
【0064】
[密着性試験方法]
JIS K5600に準拠して、付着テープとしてニチバン(株)製の工業用24mmセロテープ(登録商標)を用いて、クロスカット法による付着性試験を行い、密着性を評価した。
すなわち、カッターナイフで5mm間隔の25個の碁盤目を作り、セロハンテープを膜表面に貼付け、引き離した後に、膜が剥離せずに残った数を数えて評価した。
なお、酸化ケイ素薄膜は、ガラス質に近い性状であるため、カッターナイフで碁盤目を作る際に亀裂が生じ易く、その正確な密着性試験が困難となるため、JIS K5600の碁盤目の間隔は1mmまたは2mmとなっているが、碁盤目の間隔を5mmに変更した。
マス目の合計(25個)に対する剥がれなかったマス目の数の割合(膜残存率)を求めた。結果を表1に示す。
【0065】
[耐湿熱性試験]
実施例および比較例で作成した酸化ケイ素薄膜積層PETを、温度60℃、相対湿度95%の環境に設定した環境試験器内(ESPEC社製SH-641)に30分保持し、耐久性評価を行った。密着性の低下状態について上記の密着性試験方法により評価した。結果を表1に示す。
【0066】
比較例1:
紫外線を照射しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、酸化ケイ素薄膜積層PETの作製を行った。結果を表1に示す。
【0067】
比較例2:
溶媒の除去を120℃、10分行い、紫外線を照射しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、酸化ケイ素薄膜積層PETの作製を行った。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】