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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】蓄光シート
(51)【国際特許分類】
   G09F 13/20 20060101AFI20220113BHJP
   E04F 11/16 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
G09F13/20 D
E04F11/16 502S
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017174461
(22)【出願日】2017-09-12
(65)【公開番号】P2019049666
(43)【公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 佳克
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-121718(JP,A)
【文献】特開平08-326253(JP,A)
【文献】特開2008-050917(JP,A)
【文献】特開2009-229803(JP,A)
【文献】特開2008-121275(JP,A)
【文献】登録実用新案第3141463(JP,U)
【文献】特開平10-088531(JP,A)
【文献】特開2005-016170(JP,A)
【文献】米国特許第05904017(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 9/00-11/00
E04F 11/00-11/18
G09F 13/00-13/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状基板の表面に、テープ長さ方向に連続しており、先端に膨頭状の塊部を有している畝状突状体、またはテープ長さ方向に一定間隔をおいて列をなして存在しており、先端に膨頭状の塊部を有している多数の突起からなる列がテープ幅方向に平行に複数本存在しているテープ状シートであって、該基板、畝状突状体、突起からなる列および塊部はそれぞれ蓄光顔料を3~20質量%含有する熱可塑性樹脂からなり、かつ畝状突状体または突起の高さおよび幅がそれぞれ1.5~5mmおよび0.4~1.5mmで、テープ幅方向に隣り合う畝状突状体または突起からなる列の間隔が2~5mmであり、基板厚さが0.1~0.3mmである蓄光シート。
【請求項2】
テープ状基板がテープ長さ方向に延伸された状態である請求項1に記載の蓄光シート。
【請求項3】
熱可塑性樹脂が、エラストマー系樹脂を5~25質量%含有する請求項1または2に記載の蓄光シート。
【請求項4】
突起のテープ長さ方向幅が0.5~2.0mmで、テープ長さ方向に隣り合う突起の間隔が0.5~2.0mmである請求項1~3のいずれかに記載の蓄光シート。
【請求項5】
畝状突状体または突起が付け根から先端部に行くほど幅が細くなっている請求項1~4のいずれかに記載の蓄光シート。
【請求項6】
基板の表面に存在している畝状突状体または突起からなる列に対応する基板裏面に、テープ長さ方向に連続する基板裏面から畝状に盛り上がる畝状盛り上がり部を有している請求項1~のいずれかに記載の蓄光シート。
【請求項7】
基板の表面に平行な面での突起の断面形状が四角形である請求項4に記載の蓄光シート。
【請求項8】
階段の踏み板の手前部に貼り付けて踏み外し防止用あるいは滑り防止用として使用する請求項1~のいずれかに記載の蓄光シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を吸収して蓄光し、夜間や停電時等の暗闇で発光することができる蓄光シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、夜間や暗闇での避難誘導などの目的で蓄光顔料の発光現象を利用した蓄光シートが用いられている。さらに、暗闇で階段を踏み外すことがないようにあるいは階段からの滑落を防止するために、階段の踏み板の存在が分かるように踏み板の手前部に蓄光顔料を塗布または添加した蓄光シートを貼り付けることも広く行われている。
【0003】
このような目的に使用される蓄光顔料として、ストロンチウム・アルミネート系顔料が知られており、このような蓄光顔料を用いたシートとして、蓄光顔料を添加した熱可塑性樹脂を加熱溶融させて押し出してシート状としたものや、蓄光顔料を含有するインキを熱可塑性樹脂シートの上に塗布したものや蓄光顔料含有テープを貼り付けたもの等が知られている。
【0004】
このような蓄光顔料を添加した熱可塑性シートとして、十分に鮮やかに発光させるものとして、蓄光顔料を20重量%以上添加した熱可塑性樹脂をシート状に成形したものが特許文献1に記載されており、同文献の実施例では、樹脂100重量部に対して50重量部もの多量の蓄光顔料を添加し、この添加した樹脂をTダイスから溶融押し出してシート化したことが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、シート基材の表面に蓄光顔料を混合した透明なエラストマー層を積層したものが蓄光シートとして使用できることが記載されており、同文献でも、蓄光顔料の添加量として樹脂100重量部に対して30~300重量部もの多量の蓄光顔料の添加量が採用されている。
【0006】
このように公知の蓄光シートに使用されている蓄光顔料の添加量は、十分な蓄光性を得るために樹脂に対して多量であるが、蓄光顔料は極めて高価であり、その添加量を低下させることは極めて重要なことではある。しかしながら、蓄光顔料の添加量を減少させると充分な明るさの発光現象が得られないという蓄光シートとして致命的な問題点を生じることとなる。
【0007】
このような問題点を解消するために、前記したように、シート全体に蓄光顔料を添加するのではなく、表面に多量の蓄光顔料を添加したインキを塗布する方法や多量の蓄光顔料を加えたテープを貼り付ける方法も一般的に行われているが、このような方法で得られる蓄光シートは、接着剤や粘着剤が劣化してシート表面から蓄光層や蓄光テープが剥がれたり、あるいは表面が擦られることにより蓄光層が摩耗したりすることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004―154941号公報(0053段落)
【文献】特開2009-161699号公報(0009段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、蓄光顔料を練り込んだ熱可塑性樹脂からなる蓄光シートであって、蓄光顔料の添加量が少ないにもかかわらず、鮮やかな明るい発光性を有し、しかも従来技術のように蓄光顔料層が剥離したり、擦れにより容易に蓄光性能が低下したりすることのない蓄光シートを提供することにある。
【0010】
さらに、階段の踏み板の手前部に取り付けると、蓄光により階段の視認性が向上して踏み外しが減少するほかに、蓄光シートの表面が滑りを防止し、それによっても階段からの落下を防ぐことができ、しかも蓄光層が摩耗したり、剥がれたりすることのない蓄光シートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、テープ状基板の表面に、テープ長さ方向に連続している畝状突状体またはテープ長さ方向に一定間隔をおいて列をなして存在している多数の突起からなる列がテープ幅方向に平行に複数本存在しているテープ状シートであって、該基板、畝状突状体および突起からなる列はそれぞれ蓄光顔料を3~20質量%含有する熱可塑性樹脂からなり、かつ畝状突状体または突起の高さおよび幅がそれぞれ1.5~5mmおよび0.4~1.5mmで、テープ幅方向に隣り合う畝状突状体または突起からなる列の間隔が2~5mmであり、基板厚さが0.1~0.3mmである蓄光シートである。
【0012】
好ましくは、テープ状基板(単に基板と称する場合もある。)がテープ長さ方向に延伸された状態である上記の蓄光シート、また熱可塑性樹脂が、エラストマー系樹脂を5~25質量%含有する上記の蓄光シートである。
さらに好ましくは、突起のテープ長さ方向幅が0.5~2.0mmで、テープ長さ方向に隣り合う突起の間隔が0.5~2.0mmである上記の蓄光シート、また畝状突状体または突起が付け根から先端部に行くほど幅が細くなっている上記の蓄光シートである。
【0013】
また本発明は、好ましくは畝状突状体または突起の先端に膨頭状の塊部を有しており、該塊部が、蓄光顔料を3~20質量%含有する熱可塑性樹脂からなる上記の蓄光シートであり、また基板の表面に存在している畝状突状体または多数の突起からなる列に対応する基板裏面に、テープ長さ方向に連続する基板裏面から畝状に盛り上がる畝状盛り上がり部を有している上記の蓄光シートであり、また基板に平行な面での突起の断面形状が四角形である上記の蓄光シートである。
さらに本発明は、階段の踏み板の手前部に貼り付けて踏み外し防止用あるいは滑り防止用として使用する上記の蓄光シートである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の蓄光シートは、テープ状基板表面に、テープ長さ方向に連続している畝状突状体またはテープ長さ方向に一定間隔をおいて列をなして存在している多数の突起からなる列がテープ幅方向に平行に複数本存在しており、これら畝状突状体または突起からなる列にはそれぞれ蓄光顔料が添加されており、その添加量が従来の蓄光シートと比べてはるかに少ないにもかかわらず、この畝状突状体または突起からなる列が、集中的に発光することにより、鮮明な明るい発光が得られる。しかも、この畝状突状体または突起からなる列は薄い基板から立ち上がっており、薄い基板のわずかの発光と対照的に畝状突状体または突起からなる列の発光が鮮明に見えることとなる。
【0015】
そして、特にこの突起からなる列(以下、突起列と略す場合もある。)は、列柱状にテープ長さ方向に列をなして並んでいるため、この列柱状に並んでいる突起により、畝状突状体のようにテープ長さ方向に連続して存在している場合より一層鮮明に発光しているように見える。さらに基板の表面に存在している畝状突状体または突起列に対応する基板裏面にも、テープ長さ方向に連続する基板裏面から畝状に盛り上がる畝状盛り上がり部を有していることにより、発光がより一層鮮明となる。また突起の基板に平行な面での断面形状が四角形であることにより、発光がより一層鮮明となる。さらに畝状突状体または多数の突起列の先端部に膨頭状の塊を有している場合には畝状突状体または突起列の存在が鮮明となり、引いては発光がより一層鮮明となる。
【0016】
さらに畝状突状体または多数の突起列が平行に複数列存在することにより、階段の踏み板の手前部を取り付けることにより、暗闇でも踏み板の状態が鮮明に分かることとなり、さらに畝状突状体または突起列の存在により足が踏み板から踏み外すことが極めて減少し、階段からの滑落を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の蓄光シートの好適な一例を模式的に示した斜視図である。
図2図1に示す蓄光シートのX方向から見た側面図である。
図3】蓄光シートの突起の先端部に膨頭状の塊を有している場合の好適な一例を図2と同様にX方向から見た側面図である。
図4図1に示す蓄光シートのY方向からの側面図である。
図5】蓄光シートの突起先端部に膨頭状の塊を有している場合の好適な一例を図4と同様にY方向から見た側面図である。
図6図2において円で囲った部分の拡大図である。
図7図4において円で囲った部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の蓄光シートについて詳細に説明する。図1は、本発明の蓄光シートの好適な一例を模式的に示した斜視図であり、図2はそのX方向から見た側面図、図4は、そのY方向から見た側面図である。そして、図3は突起の先端部に膨頭状の塊を有している場合の一例を図2と同様にX方向から見た側面図で、図5はそのY方向から見た側面図である。
【0019】
図1に示すように、本発明の蓄光シートは基板(1)の表面に多数の畝状突状体または突起(2)を有しており、畝状突状体または突起(2)はテープ長さ方向に連続していても、あるいは断続していてもよく、本発明では、連続している場合を畝状突状体、断続している場合、即ちテープ長さ方向に一定間隔をおいて列をなして存在している多数の突起からなる列を突起列と称している。図1は、断続している状態、すなわち突起列の場合を示している。図1では、突起(2)が、テープ長さ方向(LD方向)に列をなして並んでおり、さらにこのような列がテープ幅方向(WD方向)に複数列(図1では6列)存在している。このような列は基板幅1cm当たり2列以上、特に2.5列以上存在しているのが好ましい。
【0020】
このような突起(2)が列をなしてテープ長さ方向に連なり、そしてそのような列がテープ幅方向に複数列存在していることにより、少ない蓄光顔料の添加量であるにもかかわらず鮮明な発光性が得られる。
【0021】
そして、このような突起(2)は、図2の円で囲った部分を拡大した図6に示すように、高さ(H)が幅(D)よりはるかに大きく、すなわち基板(1)から険しくそそり立つように存在しており、かつ基板厚さ(T)と比べると遥かに高く、厚さの薄い基板(1)から立ち上がっている。好ましくは、突起(2)は、図1に示すように、切れ目により分かれており、この突起が列をなして並んでいる場合であり、このことにより発光部分の顕著性が向上し、列の発光性がより鮮明に見えることとなる。
【0022】
そして、基板(1)の表面に存在している畝状突状体または突起(2)に対応する基板裏面に、テープ長さ方向に連続する基板裏面から畝状に盛り上がる畝状盛り上がり部(4)を有している場合には、この畝状盛り上がり部の発光性も付加され、それが薄い基板層を通して畝状突状体または突起列の発光性を一段と高めることとなる。
【0023】
さらに、畝状突状体または突起の先端に、図3に示すように膨頭状の塊部(3)を有しており、この塊部も、基板や畝状突状体や突起と同一の蓄光顔料入り熱可塑性樹脂から形成されている場合には、この塊部も発光性を一層高めることとなる。塊部(3)は、図3に示すようなテープ幅方向断面が傘型に広がる形状であっても、あるいはT字型の形状、Y字型の形状や丸形の形状を有していてもよい。
【0024】
さらに塊部(3)はその下の突起も合せて、テープ長さ向の断面が図5に示すように基板に至る垂直な切断面で隣り合う突起と分離されているのが、鮮やかな発光性の点で好ましい。つまり塊部はテープ幅方向のみに突起から突出している形状が好ましい。そしてさらに、基板に平行な面での突起の断面形状が四角形である場合には、突起の存在がより際立つこととなり、この点でも発光性は向上する。
【0025】
本発明の蓄光シートにおいて、基板、畝状突状体および突起はそれぞれ蓄光顔料を3~20質量%含有する熱可塑性樹脂からなる。そして本発明の蓄光シートは上記したような、特異な断面形状を有していることにより、従来は十分な発光性を得るためには高価な蓄光顔料を多量に添加する必要があったところを、わずかに3~20質量%という、従来の常識では考えられないようなわずかな量で、十分な発光性が得られている。
【0026】
添加量が3質量%未満の場合には、もはや本発明のような特異な断面形状を以てしても実用性のある十分な発光効果は得られない。添加量が20質量%を超える場合には、本発明のような特異な断面形状を用いなくとも十分な発光性が得られるが、高価な蓄光顔料を多量に使用することから蓄光シートが極めて高価なものとなる。好ましくは、4~18質量%の範囲であり、さらに好ましくは4.5~16質量%の範囲である。
【0027】
さらに本発明の蓄光シートにおいて、畝状突状体または突起の高さ(図6に示すH)および幅(図6に示すD)がそれぞれ1.5~5mmおよび0.4~1.5mmであることが発光性の点で必要であり、畝状突起または突起の高さ(H)が1.5mm未満の場合には少量の添加量で十分な発光性が得られず、また5mmを越える高さの場合には、隣り合う畝状突状体または突起列との関係で、十分な発光性が得られず、さらに畝状突状体または突起の強度の点でも問題となる。好ましくは高さ(H)が1.2~4mmの範囲でありより好ましくは、2.0~4.2mmの範囲である。
【0028】
また畝状突起の幅(D)が0.4mm未満の場合には、畝状突状体または突起の存在が目立たず、その結果発光性が低下する。また1.5mmを越える場合には、畝状突状体または突起の存在が顕著とならず、発光性が劣ることとなる。好ましくは、幅(D)が0.5~1.2mmの範囲であり、より好ましくは0.6~1.2mmの範囲である。そして、H/Dが2~4の場合に畝状突状体または突起による発光性が一段と向上する。
【0029】
なお、本発明でいう畝状突状体または突起の高さ(H)とは、図6に示すように基板表面から畝状突状体または突起の最頂部までの距離である。また畝状突状体または突起の幅(D)はHの1/2の高さの部分におけるテープ幅方向の距離である。そのような幅であれば、基板から畝状突状体または突起の先端に沿って幅が細くなった場合でも十分発光性に優れる。いずれも任意に選んだ10本の平均値である。畝状突状体または突起が先端部に塊部を有している場合には、HおよびDはこの塊部も含んだ値である。
【0030】
そして、本発明の蓄光シートにおいて、テープ幅方向に隣り合う畝状突状体または突起列間の距離(図6に示すL)は2~5mmであることが発光性の点で必要であり、2mm未満の場合には、隣り合う畝状突状体または突起列との境界が不鮮明となり発光性は低下し、5mmを越えると畝状突状体または突起列の列数が少なくなり、蓄光シートとしての価値が低下する。好ましくは2.1~4mmの範囲であり、さらに好ましくは2.5~4mmの範囲である。なお、テープ幅方向に隣り合う畝状突状体または突起間の距離は、図6に示すように、畝状突起の高さの1/2の場所における距離である。
【0031】
そして、本発明の蓄光シートにおいて、基板の厚さ(図6に示すT)としては、0.1~0.3mmの範囲が用いられる。0.1mm未満の場合には、蓄光シートの耐久性が劣り、畝状突起を倒す方向に力が掛かった場合には、基板が裂けることがある。また0.3mmを超える場合には、薄い基板層がもたらす発光性効果が低下することとなる。より好ましくは0.12~0.25mmの範囲である。なお基板の厚さは、表面に畝状突状体や突起や裏面に畝状盛り上がり部を有していない部分の厚さであり、前記したように任意の10点を測定してその平均値を求める。
【0032】
さらに本発明の蓄光シートにおいて、テープ長さ方向に列をなして並んでいる多数の突起列からなり、図4の円で囲った部分の拡大図である図7に示すように、突起のテープ長さ方向幅(A)が0.5~2.0mmで、突起の長さ方向に隣り合う突起の間隔(B)が0.5~2.0mmであるのが、シートの強度の点で、また突起の存在が目立ち、より一層の発光性が得られる点で好ましい。
【0033】
そして本発明の蓄光シートにおいて、基板の表面に存在している畝状突状体または突起の列に対応する基板裏面に、テープ長さ方向に連続する基板裏面から畝状に盛り上がる畝状盛り上がり部を有しているのが発光性を向上させる上から好ましく、畝状の盛り上がり部の高さとしては、基板面から0.2~0.6mmが好ましい。この畝状の盛り上がり部は、蓄光シートを接着剤や粘着剤等により貼り付ける際にアンカーとしても働き、高い接着力が得られる。
【0034】
本発明の蓄光シートにおいて、基板、その表面に存在する畝状突状体や突起及びその裏面に存在している畝状盛り上がり部は、製造の上からさらに畝状突状体や突起の耐剥離の点から、ともに蓄光顔料を含む同一の樹脂から形成されている必要がある。
【0035】
基板、畝状突状体、突起および畝状盛り上がり部を構成する素材としては、熱可塑性でかつ常温付近で弾性変形しにくい(すなわち非エラストマー系の)合成樹脂が挙げられる。かかる樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル系、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系等の熱可塑性樹脂が挙げられる。中でもポリオレフィン系、特にポリプロピレンまたはポリエチレンを少量ブレンドしたポリプロピレン樹脂が好ましく用いられる。
【0036】
特に、基板を薄くすることが畝状突状体や突起の存在を引き立たせて蓄光シートの発光性を向上させる上で好ましいこととなるが、基板を薄くするために基板をテープ長さ方向に延伸してテープ長さ方向に結晶配向させた状態であることが好適手段として用いられる。そして基板が延伸された状態であることにより、基板が薄いにもかかわれず強度に優れることとなる。その点からも、本発明の蓄光シートを構成する樹脂としては延伸性の樹脂、例えばポリプロピレンやポリエチレンを主体とする樹脂が好ましいこととなる。
【0037】
これら熱可塑性樹脂には、剛性を下げ、柔軟性を高め、さらに三次元への易曲性を高めるために、エラストマー系の熱可塑性樹脂が混合されていることも好ましい。エラストマー系の熱可塑性樹脂とは、特に常温付近でゴムのような弾性や屈曲性をもつものであって、かつ高温条件下では軟化して容易に成形できる材料であって、具体的にはスチレン系、塩ビ系、オレフィン系、ウレタン系、エステル系、アミド系のエラストマーが挙げられるが、特に基板を構成する主材としてポリオレフィン系の樹脂、例えばポリプロピレンを選択した場合には、それに添加する熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系エラストマーが主材との均一混合性や成形性や得られる係合部材の強度等の点で優れている。なお、オレフィン系エラストマーとは、ポリプロピレン樹脂にエチレン-プロピレンラバーやEPDM等を添加してゴム弾性を付与したものである。
【0038】
さらに添加する蓄光顔料が水分により劣化する傾向があることから、水分を含まない樹脂が好ましく、この点からもポリオレフィン系の樹脂、特にポリプロピレンやポリエチレンを主体とする樹脂が好適に用いられる。
【0039】
基板の主体となる非エラストマー系熱可塑性樹脂に対するこれら熱可塑性エラストマーの添加量としては、熱可塑性樹脂がエラストマー系樹脂を5~25質量%含有している程度が適切である。
【0040】
本発明において、添加される蓄光顔料としては、現在、蓄光顔料として一般に市販されているアルミン酸ストロンチウム系のものが用いられる。そして、その添加量としては、前記したように、熱可塑性樹脂と蓄光顔料の合計質量に対して3~20質量%である。
【0041】
本発明の蓄光シートは好適には以下に述べる方法により製造される。
すなわち、まず、図2図3に示すような形状に類似したスリットを有するノズルから、熱可塑性樹脂をテープ状に溶融押出し、冷却して、基板表面に、基板に対して直立し、かつテープ長さ方向に連続している畝状突状体をテープ幅方向に平行に複数列有し、また基板裏面に畝状盛り上がり部を有するテープを成型する。
【0042】
図2のようなノズルを用いた場合には、先端に行くほど細くなっている畝状突状体を、また図3のようなノズルを用いた場合には、基板表面に直立したキノコ状の畝状突状体を、テープ長さ方向に連続してそれぞれ8列等間隔で存在しており、裏面には畝状盛り上がり部列条を表面の畝状突起に対応する裏面位置に8列等間隔で有しているテープ状物が得られる。
【0043】
畝状突状体のテープ幅方向の本数としては、延伸した後のテープ幅1cm当り2~4列が好ましい。またテープ幅としては、延伸後で2~10cmが好ましい。
【0044】
次に、得られたテープの表面に存在する畝状突状体に、該畝状突状体長さ方向を横切る方向に小間隔で該突状体の先端から付け根付近まで基板に垂直に切れ目を入れる。この際の切れ目の角度がテープ状物の長さ方向と直角である場合には、係合素子のステムの基板と平行な断面での断面形状が正方形または長方形となり、直角よりずれている場合には平行四辺形となる。直角から外れるにしたがって、より鋭角な平行四辺形となる。切れ目の間隔としては、0.5~2mm、特に0.7~1.5mmの範囲が好適である。
【0045】
次いで、切れ目を入れたテープを長さ方向に延伸する。延伸倍率としては、延伸後のテープの長さが元のテープの長さの1.3~3.5倍となる程度が採用される。この延伸により、畝状突状体に入れられた切れ目が広がり、畝状突状体が独立した多数の突起の列となる。より好ましくは1.6~2.5倍の延伸である。
【0046】
以上の方法により、表面に多数の独立した突起からなる列を有し、裏面には畝状盛り上がり部を有する蓄光シートが得られる。なお、畝状盛り上がり部はテープ長さ方向に連続していてもよいし、また突起のように長さ方向に不連続であってもよい。
【0047】
本発明の蓄光シートを、夜間や暗闇での避難誘導などの目的で、不特定多数の人が利用する場所の所定箇所に、避難方向が分かるように避難方向等の文字型に切って貼り付けることにより、あるいは矢印状に切って貼り付けることにより避難誘導シートや夜間表示シートとして使用できる。
【0048】
また、本発明の蓄光シート上に非常口等の字や図を描くことにより製造することもできる。さらに衣類や自転車等の所定箇所に貼り付けることにより、夜間通行する際の事故を防止できる。もちろん、本発明の蓄光シート単独では幅が狭い場合には、複数枚を組み合わせて所定の大きさのシートとできることは言うまでもない。
【0049】
さらに本発明の蓄光シートを、階段の踏み板の手前部に貼り付けて踏み外し防止用あるいは滑り防止用として使用することも可能であり、この場合には、突起の先端に前記した塊部を有していると、踏んだ場合に足に対する刺激が穏やかとなり、さらに用いられている熱可塑性樹脂がエラストマーを含有している場合には、肌触りが柔らかとなり、しかも滑り難いという効果がより一層達成されることとなる。また、塊部を有することで、塊部が係合機能を併せ持つため、蓄光面ファスナーとして使用することも可能である。
【0050】
このようなシート上面から力が掛かる用途に用いられる場合には、畝状突状体または突起が付け根から先端部に行くほど幅が細くなっているのが、畝状突状体や突起が折れたり曲がったりし難いことから、好ましい。
【実施例
【0051】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0052】
実施例1
図2に示す形状と同様の形状のスリットを有するノズルからポリプロピレン樹脂76.5質量部、ポリオレフィン系エラストマー13.5質量部および蓄光顔料(アルミン酸ストロンチウム系顔料)10質量部からなる配合樹脂組成物を溶融押出し、冷却して、テープ状物を得た。得られたテープ状物は、図1図2に示すように、基板の表面にテープ長さ方向に連続する畝状突状体をテープ幅方向に10本有し、基板の裏面には表面の畝状突状体に対応する位置に基板長さ方向に連続する畝状の盛り上がり部を有していた。
【0053】
得られたこのテープ状物の表面の畝状突状体に1.0mm間隔でテープ幅方向に平行に、畝状突状体の頂部から付け根に至る切れ目を入れ、そして2.0倍の延伸をして、畝状突状体を、テープ長さ方向に一定間隔をおいて列をなして存在している多数の突起からなる列に変更した。
【0054】
このようにして得られた蓄光シートは、クリーム色の淡い色を帯びた半透明の色調を有しており、突起列の存在が日中の明るさの中でも線状に分かるものであり、このシートの幅36mmの基板の表面に、10本の突起列を有しており、各突起列は、高さ(H)が2.8mm、幅(D)が0.8mmで、隣り合う突起列との間隔(L)が2.5mm、テープ長さ方向の突起の幅(A)は1.0mm、テープ長さ方向に隣り合う突起の間隔(B)は1.0mmであった。
【0055】
そして、基板裏面には、表面の突起列に対応する場所に、テープ長さ方向に連続する高さ0.5mmの畝状盛り上がり部を有し、基板の厚さ(T)は0.20mmであった。さらにこの蓄光シートでは、突起が付け根から先端部に行くほど幅が細くなっており、そして基板は延伸されていることにより強度が高く、また基板に平行な面での突起の断面形状は長方形であった。
【0056】
得られた蓄光シートを、階段の踏み板(合板製)の手前部に踏み板の端部に合わせて表面側が外側となるように接着剤で貼り付け、さらに踏み板の手前垂直部に接着剤で貼り付けた。その結果、階段の照明を消した後も、突起列が鮮明に輝き、踏み板の存在が明確に認識でき、さらに表面に存在している10列の突起列により足が踏み板から滑ることを防止可能となることで、安全性が向上し、近所の老人ホームにおいて階段に接着剤で貼り付けたところ、極めて好評であった。
【0057】
実施例2~5
実施例1で使用したノズルの形状を変更することにより、以下のような寸法の突起列を有する蓄光シートを作製し、得られた蓄光シートを実施例1と同様に階段の踏み板に接着剤で貼り付け、暗闇での視認性の確認を行った。その結果を以下の表1に示す。
【0058】
なお、製造する際の延伸倍率は実施例1と同一であり、したがってテープ長さ方向の突起の幅(A)とテープ長さ方向に隣り合う突起の間隔(B)は、実施例1と同一である。また、使用した樹脂と添加した蓄光顔料の量も実施例1と同一である。
【0059】
【表1】
【0060】
上記の結果、得られた蓄光シートは、シート全体が曲げやすく、踏み板の端部に沿って貼り付けることが可能であった。また、得られたシートは、いずれも蓄光顔料の添加量が少ないにもかかわらず、暗闇で鮮明に発光するシートであった。ただ、実施例3の蓄光シートは、使用した樹脂や蓄光顔料の量が実施例1のものと比べると多く、同じ効果を得るために要する量の点で若干の問題を有していた。また実施例2の蓄光シートは、突起が小さいことが原因かもしれないが、暗闇での発光性の点でわずかに劣るという人もいた。
【0061】
比較例1
実施例1で使用したのと同一の樹脂および同一の蓄光顔料を実施例1と同一の配合量で配合し、直線状のノズルから押し出し、そして得られたテープ状物を2.0倍延伸して表面がフラットな厚さ0.8mmの蓄光シートを得た。
【0062】
このシートを暗闇において発光性を確認したところ、全体に鈍く発光するだけのシートであり、鮮やかさの点で、上記実施例のいずれの蓄光シートと比べてもはるかに劣るものであった。また階段の踏み板に接着剤により貼り付けたが、滑り防止機能は無いことから滑りやすく、さらにシート自体が曲げ難く、踏み板に沿って隙間なく接着することが難しく、接着力の点でも劣るものであった。
【0063】
比較例2~5
また、上記実施例1で使用したノズルの形状を変更することにより、以下のような寸法の突起列を有する蓄光シートを作製し、得られた蓄光シートを実施例1と同様に階段の踏み板に接着剤で貼り付け、暗闇での視認性の確認を行った。その結果を以下の表2に示す。
【0064】
なお、蓄光シートを製造する際に使用した延伸倍率は実施例1と同一の値であり、したがってテープ長さ方向の突起の幅(A)とテープ長さ方向に隣り合う突起の間隔(B)は、実施例1と同一である。また、使用した樹脂と添加した蓄光顔料の量も実施例1と同一である。
【0065】
【表2】
【0066】
上記の結果、得られた比較例2の蓄光シートは、暗闇での発光性に劣り、上記比較例1のものと殆ど変わりのない、鈍い暗い発光性を示すものであり、蓄光シートとしては不十分なものであった。
【0067】
また比較例3の蓄光シートは、突起が大きいにもかかわらず、突起の存在があまり目立たず、全体に鈍く光るもので、比較例1の蓄光シートよりわずかに優れている程度の物であった。そして表面の突起が大き過ぎることから階段の踏み板の滑り防止材としては適したものではなかった。
【0068】
また比較例4の蓄光シートは、テープ幅方向の突起列本数が少ないことから、暗闇での発光が不十分であり、また基板厚さが薄すぎて耐久性の点でも問題であった。接着方法や使用形態によってはテープ幅方向に裂ける可能性が十分に予想された。
【0069】
さらに比較例5の蓄光シートは、テープ幅方向の突起列本数が多すぎることから、突起の存在が目立たず、暗闇での発光の確認では、比較例1のものよりましではあるが、実施例のものと比べると遥かに劣るものであった。
【0070】
実施例6、7、比較例6、7
上記実施例1において、蓄光顔料の添加量を下記表3に示すように、変更させて実施例1と同一の形状を有する蓄光シートを作製した。そしてこれら得られた蓄光シートの暗闇での発光性の確認を行った。
【0071】
【表3】
【0072】
上記実施例6で得られた蓄光シートは、実施例1の蓄光シートに比べるとより淡い白っぽい半透明性を有しており、上記実施例7で得られた蓄光シートは、実施例1の蓄光シートと比べてより一層クリーム色に乳濁して透明性の殆どないシートであった。そしてこれら実施例の蓄光シートは共に暗闇で十分に発光するものであった。
【0073】
しかしながら、比較例6の蓄光シートはあまりにも蓄光顔料の添加量が少な過ぎることから暗闇での発光性は鈍く、暗闇に慣れた目でやっと分かる程度の夜光性に乏しいもので、視認性の点で満足できるものではなかった。また比較例7の蓄光シートは、シート全体が発光し、突起列の発光の鮮明性にかけ、表面に突起列を設ける効果がほとんど得られず、さらに高価な蓄光顔料を多量に使用していることから、価格の点でユーザーの建材メーカーから受け入れられるものではなかった。
【0074】
実施例8
上記実施例1において、押し出されたテープ状物をテープ幅方向に切れ目を入れることなく、2倍の延伸を行った。得られた蓄光シートは、表面にテープ長さ方向に連続している畝状突状体を有しており、畝状突状体の高さ(H)は2.0mm、畝状突状体の幅(D)は0.6mm、基板厚さ0.20mm、テープ長さ方向に隣り合う畝状突状体の間隔は2.5mmであった。
【0075】
この蓄光シートの暗闇での発光の確認を行ったところ、実施例1のものと比べるとわずかに発光の鮮明性に劣るものの十分に満足できるものであった。さらに、階段の踏み板に取り付けたところ、滑り難さの点で実施例1の蓄光シートより劣るものの、満足できるものであった。
【0076】
実施例9
実施例1において、押し出し成形に使用するノズルの形状を図3のようなものを使用する以外は実施例1と同様にして蓄光シートを作製した。得られた蓄光シートは実施例1と同様に暗闇で優れた発光を示すものであり、特に階段の踏み板に貼り付けた場合には、突起の頂部に存在している塊部が人の足裏に過度の刺激を与えることなく、利用した人からは実施例9の蓄光シートの方が良いと述べる人が多くいた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の蓄光シートは、停電等の暗闇でも発光することが可能なため、表示物や誘導表示シート、階段の滑り防止用シートとして用いられる。
【符号の説明】
【0078】
1:基板
2:突起
3:塊部
4:畝状盛り上がり部
LD:テープ長さ方向
WD:テープ幅方向
H:突起高さ
D:突起幅
T:基板厚さ
L:突起列間距離
A:突起のテープ長さ方向幅
B:テープ長さ方向に隣り合う突起の間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7