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特許7003521静電荷像現像用トナー及び静電荷像現像用トナーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー及び静電荷像現像用トナーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20220113BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20220113BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/08 381
G03G9/087 325
G03G9/097 365
G03G9/097 375
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017179702
(22)【出願日】2017-09-20
(65)【公開番号】P2019056736
(43)【公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須釜 宏二
(72)【発明者】
【氏名】上田 昇
(72)【発明者】
【氏名】宮島 謙史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 奈津紀
(72)【発明者】
【氏名】春木 秀仁
(72)【発明者】
【氏名】大野 陽平
(72)【発明者】
【氏名】浅野 圭亮
【審査官】野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-116712(JP,A)
【文献】特開2006-039515(JP,A)
【文献】特開2005-284269(JP,A)
【文献】特開2015-052684(JP,A)
【文献】特開2006-058857(JP,A)
【文献】特開2008-298993(JP,A)
【文献】特開2008-170901(JP,A)
【文献】特開2013-200524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00 - 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凸部及び凹部を有するトナー母体粒子と、前記トナー母体粒子の表面に付着される外添剤とを含む静電荷像現像用トナーであって、
前記トナー母体粒子が、少なくとも第1の樹脂及び離型剤を含有し、
前記凸部が、少なくとも第2の樹脂を含有し、
前記第1の樹脂が非晶性ポリエステル樹脂又はビニル樹脂であり、前記第1の樹脂が非晶性ポリエステル樹脂である場合、前記第2の樹脂がビニル樹脂であり、前記第1の樹脂がビニル樹脂である場合、前記第2の樹脂が非晶性ポリエステル樹脂若しくはビニル系重合セグメントとポリエステル系重合セグメントとが結合してなるハイブリット非晶性ポリエステル樹脂であり、
前記凸部は、以下の方法で得られる基準面に対してトナー母体粒子の中心と反対側に向かう方向に0.03μm以上離間する部分に対応する箇所であって、かつ、当該箇所の輪郭を二本の平行線で挟んだときにその距離が最大となる部分の距離を長辺の長さとして、前記長辺の長さが0.05~2.0μmである箇所であり、
前記凹部は、以下の方法で得られる基準面に対してトナー母体粒子の中心側に向かう方向に0.03μm以上離間する部分に対応する箇所であって、かつ、当該箇所の輪郭を二本の平行線で挟んだときにその距離が最大となる部分の距離を長辺の長さとして、前記長辺の長さが0.05~2.0μmである箇所であり、
前記凸部の平均密度分布D1が、20~50個/μmの範囲内であり、
前記凸部の平均密度分布D1と前記凹部の平均密度分布D2との比の値D1/D2が、10~100の範囲内であることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
[基準面の取得方法]
走査型電子顕微鏡により倍率10000倍で撮影された画像に含まれるトナー粒子について、トナー母体粒子表面の曲面にそったプロファイルを抽出し、当該曲線にフィッティングする。その曲線が直線になるように断面プロファイルの補正を行い、得られた直線を、撮影画像面に直交する方向に拡張した面を基準面とする。
【請求項2】
前記凸部の長辺の長さの平均値が、0.1~0.5μmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記凸部の長辺の長さの平均値が、0.1~0.3μmの範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記凹部の長辺の長さの平均値が、0.1~0.5μmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
前記凹部の長辺の長さの平均値が、0.1~0.3μmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】
前記凹部の平均密度分布D2が、0.2~5.0個/μmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項7】
前記トナー母体粒子表面における前記凸部同士の平均間隔が、0.02~0.20μmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項8】
前記外添剤が、個数平均一次粒径が70~160nmの範囲内の大径シリカ粒子を含むことを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法であって、
前記第1の樹脂を含有する第1の樹脂粒子を含有する第1の樹脂粒子分散液を調製する第1工程と、
前記第1工程で調製した分散液に凝集剤を添加して昇温し、前記第1の樹脂粒子を凝集・融着させて凝集粒子を形成する第2工程と、
前記第2工程で調製した分散液に、少なくとも離型剤粒子を含有する離型剤粒子分散液を添加し、前記凝集粒子と前記離型剤粒子とを凝集・融着させて前記凝集粒子を成長させる第3工程と、
前記第3工程における前記凝集粒子の成長を停止させる第4工程と、
前記第4工程で調製した混合液を、前記離型剤粒子の融点より10~20℃高い温度で1時間以上保持する第5工程と、
前記第5工程で調製した混合液に、前記第2の樹脂を含有し、体積基準のメジアン径(D 50 %径)が50~550nmの範囲内にある第2の樹脂粒子を少なくとも含有する第2の樹脂粒子分散液を添加し、前記凝集粒子の表面に前記第2の樹脂粒子を融着させる第6工程と、を有することを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷像現像用トナー及び静電荷像現像用トナーの製造方法に関する。本発明は、特に、低温定着性に優れ、画像濃度安定性の高い画像を形成でき、長期間にわたって高い耐フィルミング性及びクリーニング性を維持することができる静電荷像現像用トナー、及びそのような静電荷像現像用トナーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消費電力の低減、印刷の高速化、適応可能な用紙の種類の拡大等を実現させるべく、従来よりも低い温度でトナー画像を用紙等の記録媒体上に定着させる低温定着性に優れた静電荷像現像用トナー(以下、単にトナーともいう。)が注目されている。このようなトナーにおいては、プロダクションプリンティング市場への展開に伴って、用紙種や環境によらず長期間にわたって安定して画像を出力できるものが求められており、具体的には、帯電状態の安定性、現像性、転写性及びクリーニング性の向上への要求が高まっている。
【0003】
これらに対応してトナーの低温定着化と小粒形化が進み、さらに印刷の高速化に伴って現像器内のトナーを含む現像剤の撹拌強度が高くなり、これによって現像剤が受ける機械的ストレスが増大している。この機械的ストレスにより、トナーに含有されるトナー母体粒子等が感光体やキャリアの表面に付着する「フィルミング」と呼ばれる現象が発生し、多数枚プリントすると画像欠陥が発生するという問題がある。
【0004】
このような問題に対し、トナー母体粒子の表面に凸部を形成することで、トナー母体粒子と他の部材との接触面積を小さくし、低温定着性を保ったまま他の部材への付着性を低減させ、高品質な画像形成を可能とする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、上記技術にあっては、現像器内の撹拌によるトナー母体粒子とキャリア粒子の衝突や、トナー母体粒子同士の衝突が長期間にわたり継続すると、トナー母体粒子表面に存在する外添剤の埋没や遊離が徐々に進行する。このため、帯電性の低下による画像濃度の低下、さらにはトナーのすり抜けや外添剤のすり抜けによるクリーニング性の低下等を招くという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-95286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、低温定着性に優れ、画像濃度安定性の高い画像を形成でき、長期間にわたって高い耐フィルミング性及びクリーニング性を維持することができる静電荷像現像用トナー、及びそのような静電荷像現像用トナーの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、静電荷像現像用トナーが、表面に凸部及び凹部を有するトナー母体粒子と、当該トナー母体粒子の表面に付着される外添剤とを含み、当該トナー母体粒子が少なくとも第1の樹脂及び離型剤を含有し、凸部が少なくとも第2の樹脂を含有し、凸部の平均密度分布D1が特定の数値範囲内であり、凸部の平均密度分布D1と凹部の平均密度分布D2との比の値D1/D2が特定の数値範囲内であることで、低温定着性に優れ、画像濃度安定性の高い画像を形成でき、長期間にわたって高い耐フィルミング性及びクリーニング性を維持することができる静電荷像現像用トナーとすることができることを見いだした。
すなわち、本発明に係る課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.表面に凸部及び凹部を有するトナー母体粒子と、前記トナー母体粒子の表面に付着される外添剤とを含む静電荷像現像用トナーであって、
前記トナー母体粒子が、少なくとも第1の樹脂及び離型剤を含有し、
前記凸部が、少なくとも第2の樹脂を含有し、
前記第1の樹脂が非晶性ポリエステル樹脂又はビニル樹脂であり、前記第1の樹脂が非晶性ポリエステル樹脂である場合、前記第2の樹脂がビニル樹脂であり、前記第1の樹脂がビニル樹脂である場合、前記第2の樹脂が非晶性ポリエステル樹脂若しくはビニル系重合セグメントとポリエステル系重合セグメントとが結合してなるハイブリット非晶性ポリエステル樹脂であり、
前記凸部は、以下の方法で得られる基準面に対してトナー母体粒子の中心と反対側に向かう方向に0.03μm以上離間する部分に対応する箇所であって、かつ、当該箇所の輪郭を二本の平行線で挟んだときにその距離が最大となる部分の距離を長辺の長さとして、前記長辺の長さが0.05~2.0μmである箇所であり、
前記凹部は、以下の方法で得られる基準面に対してトナー母体粒子の中心側に向かう方向に0.03μm以上離間する部分に対応する箇所であって、かつ、当該箇所の輪郭を二本の平行線で挟んだときにその距離が最大となる部分の距離を長辺の長さとして、前記長辺の長さが0.05~2.0μmである箇所であり、
前記凸部の平均密度分布D1が、20~50個/μmの範囲内であり、
前記凸部の平均密度分布D1と前記凹部の平均密度分布D2との比の値D1/D2が、10~100の範囲内であることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
[基準面の取得方法]
走査型電子顕微鏡により倍率10000倍で撮影された画像に含まれるトナー粒子について、トナー母体粒子表面の曲面にそったプロファイルを抽出し、当該曲線にフィッティングする。その曲線が直線になるように断面プロファイルの補正を行い、得られた直線を、撮影画像面に直交する方向に拡張した面を基準面とする。
【0010】
2.前記凸部の長辺の長さの平均値が、0.1~0.5μmの範囲内であることを特徴とする第1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0011】
3.前記凸部の長辺の長さの平均値が、0.1~0.3μmの範囲内であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0012】
4.前記凹部の長辺の長さの平均値が、0.1~0.5μmの範囲内であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0013】
5.前記凹部の長辺の長さの平均値が、0.1~0.3μmの範囲内であることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0014】
6.前記凹部の平均密度分布D2が、0.2~5.0個/μmの範囲内であることを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0015】
7.前記トナー母体粒子表面における前記凸部同士の平均間隔が、0.02~0.20μmの範囲内であることを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0016】
8.前記外添剤が、個数平均一次粒径が70~160nmの範囲内の大径シリカ粒子を含むことを特徴とする第1項から第7項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0017】
9.第1項から第8項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法であって、
前記第1の樹脂を含有する第1の樹脂粒子を含有する第1の樹脂粒子分散液を調製する第1工程と、
前記第1工程で調製した分散液に凝集剤を添加して昇温し、前記第1の樹脂粒子を凝集・融着させて凝集粒子を形成する第2工程と、
前記第2工程で調製した分散液に、少なくとも離型剤粒子を含有する離型剤粒子分散液を添加し、前記凝集粒子と前記離型剤粒子とを凝集・融着させて前記凝集粒子を成長させる第3工程と、
前記第3工程における前記凝集粒子の成長を停止させる第4工程と、
前記第4工程で調製した混合液を、前記離型剤粒子の融点より10~20℃高い温度で1時間以上保持する第5工程と、
前記第5工程で調製した混合液に、前記第2の樹脂を含有し、体積基準のメジアン径(D 50 %径)が50~550nmの範囲内にある第2の樹脂粒子を少なくとも含有する第2の樹脂粒子分散液を添加し、前記凝集粒子の表面に前記第2の樹脂粒子を融着させる第6工程と、を有することを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低温定着性に優れ、画像濃度安定性の高い画像を形成でき、長期間にわたって高い耐フィルミング性及びクリーニング性を維持することができる静電荷像現像用トナー、及びそのような静電荷像現像用トナーの製造方法を提供することができる。
【0019】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
本発明のトナーにおいては、トナー母体粒子が表面に凸部を有することで、トナー母体粒子と感光体等の他の部材との接着面積が小さくなるために、他の部材への付着性を低減させることができ、低温定着性を保ったまま耐フィルミング性を向上させることができる。
また、トナー母体粒子が表面に凹部を有することで、当該凹部に外添剤が入り込むことで、現像器内の高強度の撹拌による外添剤の遊離が抑制される。また、凹部に外添剤が入り込むことで、トナー母体粒子とキャリア粒子との衝突や、トナー母体粒子同士の衝突による衝撃力を外添剤が直接的に受けることが抑制され、外添剤の埋没も抑制される。これにより、トナーの帯電性能が安定し、現像性及び転写性の悪化が抑制でき、画像濃度安定性が向上したと推察される。
さらに、凸部の平均密度分布D1と凹部の平均密度分布D2との比の値D1/D2が10~100であることで、凸部が感光体とブレードとの間で引っ掛かり、トナーすり抜けが抑制される。また、D1/D2が上記範囲内にあることで、連続出力時にトナーに機械的ストレスがかかった際に凹部内に存在する外添剤が凸部上に移動して、トナーの流動性及び帯電性を長期にわたって安定化させることができる。また、凸部に移動した外添剤の一部がトナーから遊離して、感光体とクリーニングブレードとの当接部近傍で静止層を形成するために、外添剤すり抜けも抑制でき、長期間にわたって高クリーニング性を維持することができるものと推察される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の静電荷像現像用トナーは、表面に凸部及び凹部を有するトナー母体粒子と、前記トナー母体粒子の表面に付着される外添剤とを含む静電荷像現像用トナーであって、
前記トナー母体粒子が、少なくとも第1の樹脂及び離型剤を含有し、
前記凸部が、少なくとも第2の樹脂を含有し、
前記第1の樹脂が非晶性ポリエステル樹脂又はビニル樹脂であり、前記第1の樹脂が非晶性ポリエステル樹脂である場合、前記第2の樹脂がビニル樹脂であり、前記第1の樹脂がビニル樹脂である場合、前記第2の樹脂が非晶性ポリエステル樹脂若しくはビニル系重合セグメントとポリエステル系重合セグメントとが結合してなるハイブリット非晶性ポリエステル樹脂であり、
前記凸部は、以下の方法で得られる基準面に対してトナー母体粒子の中心と反対側に向かう方向に0.03μm以上離間する部分に対応する箇所であって、かつ、当該箇所の輪郭を二本の平行線で挟んだときにその距離が最大となる部分の距離を長辺の長さとして、前記長辺の長さが0.05~2.0μmである箇所であり、
前記凹部は、以下の方法で得られる基準面に対してトナー母体粒子の中心側に向かう方向に0.03μm以上離間する部分に対応する箇所であって、かつ、当該箇所の輪郭を二本の平行線で挟んだときにその距離が最大となる部分の距離を長辺の長さとして、前記長辺の長さが0.05~2.0μmである箇所であり、
前記凸部の平均密度分布D1が、20~50個/μmの範囲内であり、
前記凸部の平均密度分布D1と前記凹部の平均密度分布D2との比の値D1/D2が、10~100の範囲内であることを特徴とする。
[基準面の取得方法]
走査型電子顕微鏡により倍率10000倍で撮影された画像に含まれるトナー粒子について、トナー母体粒子表面の曲面にそったプロファイルを抽出し、当該曲線にフィッティングする。その曲線が直線になるように断面プロファイルの補正を行い、得られた直線を、撮影画像面に直交する方向に拡張した面を基準面とする。
この特徴は、下記各実施形態に共通する又は対応する技術的特徴である。
本発明においては、前記凸部の長辺の長さの平均値が、0.1~0.5μmの範囲内であることが好ましい。これにより、耐フィルミング性を向上させることができる。
また、本発明においては、前記凸部の長辺の長さの平均値が、0.1~0.3μmの範囲内であることが好ましい。これにより、耐フィルミング性をより向上させることができる。
また、本発明においては、前記凹部の長辺の長さの平均値が、0.1~0.5μmの範囲内であることが好ましい。これにより、画像濃度安定性を向上させることができる。
また、本発明においては、前記凹部の長辺の長さの平均値が、0.1~0.3μmの範囲内であることが好ましい。これにより、画像濃度安定性をより向上させることができる。
また、本発明においては、前記凹部の平均密度分布D2が、0.2~5.0個/μmの範囲内であることが好ましい。
また、本発明においては、前記トナー母体粒子表面における前記凸部同士の平均間隔が
、0.02~0.20μmの範囲内であることが好ましい。これにより、低温定着性を良好にできるとともに、耐フィルミング性を向上させることができる。
また、本発明においては、前記外添剤が、個数平均一次粒径が70~160nmの範囲内の大径シリカ粒子を含むことが好ましい。これにより、クリーニング性及び画像濃度安定性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法は、上記静電荷像現像用トナーの製造方法であって、前記第1の樹脂を含有する第1の樹脂粒子を含有する第1の樹脂粒子分散液を調製する第1工程と、前記第1工程で調製した分散液に凝集剤を添加して昇温し、前記第1の樹脂粒子を凝集・融着させて凝集粒子を形成する第2工程と、前記第2工程で調製した分散液に、少なくとも離型剤粒子を含有する離型剤粒子分散液を添加し、前記凝集粒子と前記離型剤粒子とを凝集・融着させて前記凝集粒子を成長させる第3工程と、前記第3工程における前記凝集粒子の成長を停止させる第4工程と、前記第4工程で調製した混合液を、前記離型剤粒子の融点より10~20℃高い温度で1時間以上保持する第5工程と、前記第5工程で調製した混合液に、前記第2の樹脂を含有し、体積基準のメジアン径(D 50 %径)が50~550nmの範囲内にある第2の樹脂粒子を少なくとも含有する第2の樹脂粒子分散液を添加し、前記凝集粒子の表面に前記第2の樹脂粒子を融着させる第6工程と、を有することを特徴とする。これにより、低温定着性に優れ、画像濃度安定性の高い画像を形成でき、長期間にわたって高い耐フィルミング性及びクリーニング性を維持することができる静電荷像現像用トナーをより確実に得ることができる。
【0022】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0023】
《静電荷像現像用トナーの概要》
本発明の静電荷像現像用トナーは、表面に凸部及び凹部を有するトナー母体粒子と、当該トナー母体粒子の表面に付着される外添剤とを含む静電荷像現像用トナーであって、トナー母体粒子が、少なくとも第1の樹脂及び離型剤を含有し、凸部が、少なくとも第2の樹脂を含有し、凸部の平均密度分布D1が、20~50個/μmの範囲内であり、凸部の平均密度分布D1と凹部の平均密度分布D2との比の値D1/D2が、10~100の範囲内であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明におけるトナーとは、トナー粒子の集合体をいう。また、トナー粒子とは、トナー母体粒子に外添剤を添加したものをいう。なお、本発明においては、トナー母体粒子とトナー粒子とを区別する必要がない場合には、単にトナー粒子と称することがある。
【0025】
(トナー粒子の平均円形度)
本発明で用いられるトナー粒子の平均円形度は、例えば、0.940~0.980の範囲内であることが好ましい。
【0026】
ここで、トナー粒子の平均円形度は、フロー式粒子像分析装置「FPIA-2100」(Sysmex社製)を用いて測定することができる。
【0027】
具体的には、トナー粒子を界面活性剤水溶液に湿潤させ、超音波分散を1分間行い、分散した後、「FPIA-2100」を用い、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3000~10000個の範囲内の適正濃度で測定を行う。この範囲であれば、再現性のある測定値が得られる。円形度は下記式で計算される。
円形度=(粒子像と同じ投影面積を持つ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
また、平均円形度は、各粒子の円形度を足し合わせ、測定した全粒子数で割った算術平均値である。
【0028】
(トナー粒子の粒径)
本発明で用いられるトナー粒子の粒径は、例えば、体積基準メジアン径(D50%径)で3~10μmの範囲内であることが好ましい。
【0029】
体積基準メジアン径(D50%径)を上記範囲内とすることにより、例えば、1200dpi(dpi;1インチ(2.54cm)あたりのドット数)レベルの非常に微小なドット画像を忠実に再現することが可能になる。
【0030】
トナー粒子の体積基準メジアン径(D50%径)は、例えば、「マルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)」に、データ処理用のコンピュータシステムを接続した装置を用いて測定、算出することができる。
【0031】
測定手順としては、トナー粒子0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)で馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー粒子分散液を調製する。このトナー粒子分散液を、サンプルスタンド内のISOTONII(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定濃度5~10質量%の範囲内になるまでピペットにて注入し、測定機カウントを25000個に設定して測定する。なお、マルチサイザー3のアパチャー径は100μmのものを使用する。測定範囲1~30μmの範囲を256分割しての頻度数を算出し、体積積算分率が大きい方から50%の粒子径を体積基準メジアン径(D50%径)とする。
【0032】
(トナーの軟化点)
本発明に係るトナーの軟化点は、例えば、90~115℃の範囲内であることが好ましい。トナーの軟化点がこの範囲内であると、好ましい低温定着性が得られる。
【0033】
本発明に係るトナーの軟化点は、フローテスター「CFT-500D」(島津製作所製)を用いて、後述するトナー母体粒子前駆体用樹脂と同様の測定方法で測定することができる。
【0034】
《トナー母体粒子》
本発明に係るトナー母体粒子は、第1の樹脂及び離型剤を含有するトナー母体粒子前駆体の表面に、第2の樹脂を含有する凸部が複数形成されて構成されている。また、トナー母体粒子前駆体には、凹部が複数形成されている。
【0035】
本発明において、トナー母体粒子表面に形成される凸部及び凹部は、次のようにして特定される。
すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)により倍率10000倍で撮影された画像に含まれるトナー粒子について、トナー母体粒子表面の曲面にそったプロファイルを抽出し、当該曲線にフィッティングする。その曲線が直線になるように断面プロファイルの補正を行い、得られた直線を、撮影画像面に直交する方向に拡張した面を基準面とする。得られた基準面に対して、トナー母体粒子の中心と反対側に向かう方向に0.03μm以上離間する部分に対応する箇所であって、後述する方法で測定される長辺の長さが0.05~2.0μmのものを凸部とする。また、得られた基準面に対して、トナー母体粒子の中心側に向かう方向に0.03μm以上離間する部分に対応する箇所であって、後述する方法で測定される長辺の長さが0.05~2.0μmのものを凹部とする。
【0036】
(凸部の長辺の長さの平均値)
本発明に係る凸部の長辺の長さの平均値は、他の部材との付着性を低減して耐フィルミング性を向上させる観点から、0.1~0.5μmの範囲内であることが好ましく、0.1~0.3μmの範囲内であることがより好ましい。
【0037】
本発明において、凸部の長辺の長さ、及びその平均値は、以下のようにして測定することができる。
すなわち、凸部の長辺の長さは、走査型電子顕微鏡により倍率10000倍で撮影された画像データにおいて、凸部を目視で確認し、個々の凸部について輪郭線を描き、この輪郭線を二本の平行線で挟んだとき、二本の平行線の距離が最大となる部分をいう。この測定を、長辺の長さが0.05~2.0μmの範囲内である凸部100個について行い、その平均値を本発明に係る凸部の長辺の長さの平均値とした。
【0038】
(凸部の平均密度分布D1)
本発明に係る凸部の平均密度分布D1は、20~50個/μmの範囲内であり、好ましくは25~45個/μmの範囲内である。これにより、トナーの他の部材への付着性を低減できるとともに、感光体表面とクリーニングブレードとの間で凸部が引っ掛かることでトナー粒子のすり抜けをより確実に抑制することができる。
【0039】
本発明において、凸部の平均密度分布D1は、以下のようにして測定することができる。
すなわち、走査型電子顕微鏡により倍率10000倍で撮影された画像データにおいて、トナー粒子20個について、長辺の長さが0.05~2.0μmの凸部の個数を測定し、各トナー粒子の表面積の単位面積あたりの個数(個/μm)の平均値を算出し、これを本発明に係る凸部の平均密度分布D1とした。
【0040】
(凸部同士の平均間隔)
本発明に係る凸部同士の平均間隔は、例えば、0.02~0.20μmの範囲内であることが好ましい。これにより、トナー母体粒子表面上で凸部が偏在せず、ある程度均一に存在している状態とすることができる。よって、定着時のトナー溶融を阻害せずに低温定着性を向上させることができるとともに、凸部による他の部材への付着性を低減できるので耐フィルミング性に優れ、トナー粒子のすり抜けをより確実に抑制することができる。
【0041】
凸部同士の平均間隔は、以下の方法で測定することができる。
すなわち、走査型電子顕微鏡により倍率10000倍で撮影された画像データにおいて、対象の凸部から最も近い順に4個の凸部をピックアップし、対象の凸部の外周から4個の凸部の外周までの最短距離をそれぞれ測定し、それらの平均最短距離を算出する。ここで、上記凸部の長辺の長さの測定において、走査型電子顕微鏡により倍率10000倍で撮影された画像データに描かれる輪郭線を凸部の外周とする。そして、平均最短距離の算出を、トナー母体粒子5個について、それぞれ長辺の長さが30nm以上の凸部20個に対して行い、計100個の凸部の平均最短距離の平均値を、本発明に係る凸部同士の平均間隔とする。
【0042】
(凹部の長辺の長さの平均値)
本発明に係る凹部の長辺の長さの平均値は、0.1~0.5μmの範囲内であることが好ましく、0.1~0.3μmの範囲内であることがより好ましい。これらの数値範囲は、その内側に外添剤が入り込む程度の大きさとして適しており、また、トナー粒子に機械的ストレスがかかったときに凹部の内側に入り込んだ外添剤が移動できる程度の大きさとして適している。これにより、トナーの長期間にわたる帯電量を安定化し、画像濃度安定性を向上させることができる。
【0043】
本発明において、凹部の長辺の長さ、及びその平均値は、以下のようにして測定することができる。
すなわち、凹部の長辺の長さとは、走査型電子顕微鏡により倍率10000倍で撮影された画像データにおいて、凹部を目視で確認し、個々の凹部について輪郭線を描き、この輪郭線を二本の平行線で挟んだとき、二本の平行線の距離が最大となる部分をいう。この測定を、長辺の長さが0.05~2.0μmの範囲内である凹部20個について行い、その平均値を本発明に係る凹部の長辺の長さの平均値とした。
【0044】
(凹部の平均密度分布D2)
本発明に係る凹部の平均密度分布D2は、0.2~5.0個/μmの範囲内であることが好ましい。
【0045】
本発明において、凹部の平均密度分布D2は、以下のようにして測定することができる。
すなわち、走査型電子顕微鏡により倍率10000倍で撮影された画像データにおいて、トナー粒子20個について、長辺の長さが0.05~2.0μmの凹部の個数を測定し、各トナー粒子の表面積の単位面積あたりの個数(個/μm)の平均値を算出し、これを本発明に係る凹部の平均密度分布D2とした。
【0046】
(凸部の平均密度分布D1と凹部の平均密度分布D2との比の値D1/D2)
本発明に係る凸部の平均密度分布D1と凹部の平均密度分布D2との比の値D1/D2は、10~100の範囲内であり、好ましくは20~70の範囲内である。これにより、凹部の内側に入り込んだ外添剤が凸部に移動してトナーの帯電量を安定させ、かつ凸部に移動した外添剤の一部が遊離して感光体とクリーニングブレードとの当接部近傍で静止層を安定して形成することで、外添剤のすり抜けをより確実に抑制することができる。
【0047】
D1/D2は、上記したようにして求められる凸部の平均密度分布D1、及び凹部の平均密度分布D2から算出することができる。
【0048】
[トナー母体粒子前駆体]
トナー母体粒子前駆体は、少なくとも、第1の樹脂としての結着樹脂と、離型剤と、を含有する。
以下、トナー母体粒子前駆体を構成する結着樹脂を、トナー母体粒子前駆体用樹脂ともいう。
【0049】
トナー母体粒子前駆体の平均円形度は、0.890以上であることが好ましい。
ここで、トナー母体粒子前駆体の平均円形度は、フロー式粒子像分析装置「FPIA-2100」(Sysmex社製)を用いて測定することができる。
具体的には、トナー母体粒子前駆体を界面活性剤水溶液に湿潤させ、超音波分散を1分間行い、分散した後、「FPIA-2100」を用い、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3000~10000個の範囲内の適正濃度で測定を行う。この範囲であれば、再現性のある測定値が得られる。円形度は下記式で計算される。
なお、乳化凝集法でトナー母体粒子を製造する場合には、湿式で作製していることから、上述の界面活性剤水溶液に湿潤させ、超音波分散を1分間行い、分散する工程を省略することができる。
【0050】
円形度=(粒子像と同じ投影面積を持つ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
また、平均円形度は、各粒子の円形度を足し合わせ、測定した全粒子数で割った算術平均値である。
【0051】
(1)トナー母体粒子前駆体用樹脂
トナー母体粒子前駆体用樹脂としては、例えば、ビニル樹脂を含有することが好ましく、ビニル樹脂及び結晶性樹脂を含有することがより好ましい。
【0052】
ここで、結晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC(Differential scanning calorimetry))により得られる吸熱曲線において、融点、すなわち昇温時に明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、10℃/minの昇温速度で昇温したときの吸熱曲線において半値幅が15℃以内のピークをいう。
一方、非晶性樹脂とは、上記と同様の示差走査熱量測定を行った際に得られる吸熱曲線において、ガラス転移が生じたことを示すベースラインのカーブは見られるが、上述した明確な吸熱ピークが見られない樹脂のことをいう。
【0053】
(1-1)ビニル樹脂
本発明に係るビニル樹脂は、少なくともビニル系単量体を用いた重合により得られる樹脂である。非晶性のビニル樹脂として、具体的には、アクリル樹脂、スチレン・アクリル共重合体樹脂等が挙げられる。中でも、非晶性のビニル樹脂としては、スチレン系単量体とアクリル系単量体が重合したスチレン・アクリル系樹脂であることが好ましい。これにより、フィルミングの発生をより確実に抑制できるという効果が得られる。
【0054】
上記スチレン・アクリル系樹脂に用いられる重合性単量体としては、例えば、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体が挙げられ、ラジカル重合を行うことができるエチレン性不飽和結合を有するものが好ましい。
【0055】
芳香族系ビニル単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレン、p-クロロスチレン、p-エチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、3,4-ジクロロスチレン等、及びその誘導体が挙げられる。これらの芳香族系ビニル単量体は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、β-ヒドロキシアクリル酸エチル、γ-アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステル系単量体は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
上記の中でも、スチレン系単量体と、アクリル酸エステル系単量体又はメタクリル酸エステル系単量体と、を組み合わせて使用することが好ましい。
【0058】
上記重合性単量体としては、第三のビニル系単量体を使用することもできる。第三のビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、ビニル酢酸等の酸単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、エチレン、プロピレン、ブチレン塩化ビニル、N-ビニルピロリドン、ブタジエン等が挙げられる。
【0059】
上記重合性単量体としては、さらに多官能ビニル系単量体を使用しても良い。多官能ビニル単量体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等のジアクリレート、ジビニルベンゼン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三級以上のアルコールのジメタクリレート及びトリメタクリレート等が挙げられる。多官能ビニル系単量体の重合性単量体全体に対する共重合比は通常、0.001~5質量%の範囲内、好ましくは0.003~2質量%の範囲内、より好ましくは0.01~1質量%の範囲内である。多官能ビニル系単量体の使用により、テトラヒドロフランに不溶のゲル成分が生成するが、ゲル成分の重合物全体に占める割合は通常40質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0060】
(1-2)結晶性樹脂
本発明に係るトナー母体粒子前駆体に含有される結晶性樹脂は、例えば、トナー母体粒子に含まれる樹脂全体の質量に対して、3~20質量%の範囲内で含有されていることが好ましく、特に5~15質量%の範囲内が好ましい。3質量%以上であると、定着性が良好で、20質量%以下であると、トナー母体粒子前駆体表面、及びトナー母体粒子表面での存在量が増えすぎることによる耐熱性の低下を防止でき、また、電気抵抗の低下に伴う転写不良も防止できる。
【0061】
本発明に係るトナー母体粒子前駆体に含有される結晶性樹脂は、公知の結晶性樹脂を使用できる。
【0062】
優れた低温定着性を得る観点からは、トナー母体粒子が、結晶性樹脂として結晶性ポリエステル樹脂を含有し、トナー母体粒子中の結晶性ポリエステル樹脂の含有量が、例えば、3~20質量%の範囲内にあることが好ましい。3質量%以上であると、十分な低温定着性がより確実に得られ、20質量%以下であると、帯電性の低下によるトナーの飛散をより確実に抑えることができる。
【0063】
結晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)単量体と、2価以上のアルコール(多価アルコール)単量体との重合反応によって得られるポリエステル樹脂のうち、結晶性を示す樹脂をいう。
【0064】
結晶性ポリエステル樹脂の合成に使用できる多価カルボン酸単量体としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、1,10-デカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、1,12-ドデカンジカルボン酸(テトラデカン二酸)等の飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸;これらカルボン酸化合物の無水物、炭素数1~3のアルキルエステル等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0065】
結晶性ポリエステル樹脂の合成に使用できる多価アルコール単量体としては、例えば、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオール等の脂肪族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール等の3価以上の多価アルコール等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0066】
(1-3)トナー母体粒子前駆体用樹脂のガラス転移点及び軟化点
トナー母体粒子前駆体用樹脂のガラス転移点(Tg)は、例えば、40~60℃の範囲内であることが好ましい。
また、トナー母体粒子前駆体用樹脂の軟化点は、例えば、80~130℃の範囲内であることが好ましい。
【0067】
本発明において、トナー母体粒子前駆体用樹脂のガラス転移点は、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418-82に規定された方法(DSC法)によって測定することができる。
【0068】
具体的には、試料3.0mgを小数点以下二桁まで精秤し、アルミニウム製パンに封入して、示差走査カロリメーター「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)のサンプルホルダーにセットする。リファレンスは、空のアルミニウム製パンを使用し、測定温度0~200℃の範囲内、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分にて、昇温-降温-昇温の温度制御を行い、その2回目の昇温におけるデータを基に解析を行う。第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1の吸熱ピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間における最大傾斜を示す接線との交点の値をガラス転移温度とする。
【0069】
本発明において、トナー母体粒子前駆体用樹脂の軟化点(Tsp)は、以下のようにして測定することができる。
【0070】
まず、20±1℃・50±5%RHの環境下において、樹脂1.1gをシャーレに入れ平らに均し、12時間以上放置した後、成型器「SSP-10A」(島津製作所製)によって3820kg/cmの力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作製する。次いで、この成型サンプルを、24±5℃・50±20%RHの環境下において、フローテスター「CFT-500D」(島津製作所製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度Toffsetを、樹脂の軟化点とする。
【0071】
(1-4)トナー母体粒子前駆体用樹脂の製造方法
本発明に係るトナー母体粒子前駆体用樹脂は、例えば、乳化重合法で調製されることが好ましい。乳化重合は、水系媒体中にスチレン、アクリル酸エステル等の重合性単量体を分散し重合することによって行うことができる。水系媒体に重合性単量体を分散するためには分散安定剤を用いることが好ましく、また、重合には重合開始剤、連鎖移動剤等を用いることができる。
【0072】
(1-4-1)分散安定剤
重合性単量体を水系媒体中に分散して乳化重合法によりトナー母体粒子前駆体用樹脂を調製する場合には、分散した液滴の凝集を防ぐため、通常、分散安定剤が添加される。分散安定剤としては、公知の界面活性剤が使用可能であり、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等の中から選択される分散安定剤を用いることができる。これらの界面活性剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。なお、分散安定剤は、着色剤やオフセット防止剤等の分散液にも使用できる。
【0073】
カチオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
【0074】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル、ノリルフェニルポリキオシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンモノオレアートポリオキシエチレンエーテル、スチリルフェニルポリオキシエチレンエーテル、モノデカノイルショ糖等が挙げられる。
【0075】
アニオン性界面活性剤の具体例としては、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪族石鹸や、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0076】
(1-4-2)重合開始剤
トナー母体粒子前駆体用樹脂の重合に使用される重合開始剤としては、特に限定されるものではなく、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化-tert-ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1-フェニル-2-メチルプロピル-1-ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸-tert-ヒドロペルオキシド、過ギ酸-tert-ブチル、過酢酸-tert-ブチル、過安息香酸-tert-ブチル、過フェニル酢酸-tert-ブチル、過メトキシ酢酸-tert-ブチル、過N-(3-トルイル)パルミチン酸-tert-ブチル等の過酸化物類;2,2′-アゾビス(2-アミノジプロパン)塩酸塩、2,2′-アゾビス-(2-アミノジプロパン)硝酸塩、1,1′-アゾビス(1-メチルブチロニトリル-3-スルホン酸ナトリウム)、4,4′-アゾビス-4-シアノ吉草酸、ポリ(テトラエチレングリコール-2,2′-アゾビスイソブチレート)等のアゾ化合物等が挙げられる。重合開始剤の添加量は、所望する分子量や分子量分布によって異なるが、具体的には重合性単量体に対して、例えば、0.1~5.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0077】
(1-4-3)連鎖移動剤
本発明に係るトナー母体粒子前駆体用樹脂の製造においては、上記の重合性単量体とともに連鎖移動剤を添加しても良い。連鎖移動剤を添加することによって重合体の分子量を制御できる。前述の芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合させる際に、スチレン・アクリル系重合体セグメントの分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、アルキルメルカプタン、メルカプト脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0078】
連鎖移動剤の添加量は、所望する分子量や分子量分布によって異なるが、具体的には重合性単量体に対して、例えば、0.1~5.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0079】
(2)離型剤
本発明に係るトナー母体粒子前駆体に含有される離型剤としては、例えば、ワックスを挙げることができる。
【0080】
ワックスとしては、例えば、低分子量ポリエチレンワックス、低分子量ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス等のような炭化水素系ワックス類、カルナウバワックス、ペンタエリスリトールベヘン酸エステル、ベヘン酸ベヘニル、クエン酸ベヘニル等のエステルワックス類等が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
ワックスとしては、トナーの低温定着性及び離型性を確実に得る観点から、その融点が、例えば、50~95℃の範囲内であるものを用いることが好ましい。
なお、本発明において、離型剤の融点は、トナーの示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry:DSC)を行うことにより求めることができる。示差走査熱量測定には、例えば、示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いることができる。
測定は、昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温し、5分間200℃で等温保持する1回目の昇温過程、冷却速度10℃/minで200℃から0℃まで冷却し、5分間0℃で等温保持する冷却過程、及び、昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温する2回目の昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によって行う。上記測定は、離型剤3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」のサンプルホルダーにセットして行う。リファレンスとして空のアルミニウム製パンを使用する。
上記測定において、1回目の昇温過程により得られた吸熱曲線から解析を行い、離型剤成分由来の吸熱ピークのトップ温度を、融点(℃)とする。
【0082】
ワックスの含有比率は、例えば、トナー母体粒子前駆体用樹脂全量に対して2~20質量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3~18質量%の範囲内、さらに好ましくは4~15質量%の範囲内である。
【0083】
[凸部]
本発明に係る凸部は、少なくとも第2の樹脂としての凸部用樹脂を含有する。凸部用樹脂としては、例えば、トナー母体粒子前駆体用樹脂にポリエステル樹脂が用いられる場合にはビニル樹脂等を含有することが好ましく、トナー母体粒子前駆体用樹脂にビニル樹脂が用いられる場合にはビニル系重合セグメントとポリエステル系重合セグメントとが結合してなるハイブリット非晶性ポリエステル樹脂等を含有することが好ましい。
【0084】
[1]ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂
凸部用樹脂は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂とは、スチレン・アクリル系重合体等から構成されるビニル系重合セグメントと、非晶性ポリエステル樹脂から構成されるポリエステル系重合セグメントとが、両反応性単量体を介して結合した樹脂である。
ビニル系重合セグメントとは、芳香族ビニル系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合して得られる重合体部分をいう。
【0085】
本発明においては、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂におけるビニル系重合セグメントの含有比率は、例えば、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の総質量に対して、5~30質量%の範囲内であることが好ましく、特に、10~20質量%の範囲内であることが好ましい。また、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂は、ポリエステル系重合セグメントを、例えば、50~95質量%の範囲内で含有することが好ましい。
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂が、5~30質量%の範囲内でビニル系重合セグメントを含有することで、トナー母体粒子からの凸部の脱離を起きにくくすることができ、トナー母体粒子の耐久性を向上させることができる。また、トナー調製時に、凸部同士での合一を起こりにくくさせることができるとともに、トナー母体粒子前駆体表面に結晶性樹脂を露出させにくくすることができ、凸部としての効果を十分に得ることができる。
【0086】
なお、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂におけるビニル系重合セグメントの含有比率とは、具体的には、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を合成するために用いられる樹脂材料の全質量、すなわち、ポリエステル系重合セグメントとなる未変性のポリエステル樹脂を形成する重合性単量体と、ビニル系重合セグメントとなる芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体と、これらを結合させるための両反応性単量体との全質量に対する、ビニル系重合セグメントを形成する芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体の質量の比率をいう。
【0087】
また、トナー母体粒子中のハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の含有量は、例えば、全樹脂量中、5~20質量%の範囲内であることが、定着性を阻害せずに、凸部としての効果を得ることができる点で好ましい。
【0088】
[2]ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点及び軟化点
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂は、低温定着性の観点から、例えば、ガラス転移点が50~70℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは50~65℃の範囲内であり、軟化点が80~110℃の範囲内であることが好ましい。
【0089】
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点は、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418-12elに規定された方法(DSC法)によって測定された値であり、前述のトナー母体粒子前駆体用樹脂と同様の測定方法で測定することができる。
【0090】
また、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の軟化点は、前述のトナー母体粒子前駆体用樹脂と同様の測定方法で測定することができる。
【0091】
[3]ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の製造方法
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を製造する方法としては、既存の一般的なスキームを使用することができる。代表的な方法としては、例えば、次の(A)~(D)の四つが挙げられる。
【0092】
(A)ポリエステル系重合セグメントをあらかじめ重合しておき、当該ポリエステル系重合セグメントに両反応性単量体を反応させ、さらに、ビニル系重合セグメントを形成するための芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を反応させることにより、ビニル系重合セグメントを形成する方法。すなわち、ビニル系重合セグメントを形成するための芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を、ポリエステル系重合セグメントを形成するための多価カルボン酸単量体又は多価アルコール単量体と反応し得る基と重合性不飽和基とを有する両反応性単量体、及び未変性のポリエステル樹脂の存在下で重合させる方法。
【0093】
(B)ビニル系重合セグメントをあらかじめ重合しておき、当該ビニル系重合セグメントに両反応性単量体を反応させ、さらに、ポリエステル系重合セグメントを形成するための多価カルボン酸単量体及び多価アルコール単量体を反応させることにより、ポリエステル系重合セグメントを形成する方法。
【0094】
(C)ポリエステル系重合セグメント及びビニル系重合セグメントをそれぞれあらかじめ重合しておき、これらに両反応性単量体を反応させることにより、両者を結合させる方法。
【0095】
(D)ポリエステル系重合セグメントをあらかじめ重合し、そのポリエステル系重合セグメントの重合性不飽和基にビニル系重合性単量体を付加重合、又はビニル系重合セグメント中のビニル基と反応させ両者を結合する方法。
【0096】
ここで、両反応性単量体とは、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂のポリエステル系重合セグメントを形成するための多価カルボン酸単量体又は多価アルコール単量体と反応し得る基と、重合性不飽和基とを有する単量体である。
【0097】
(A)の方法について具体的に説明すると、ポリエステル系重合セグメントを形成するための未変性のポリエステル樹脂と、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体と、両反応性単量体とを混合する混合工程、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を、両反応性単量体と未変性のポリエステル樹脂の存在下で重合させる重合工程、を経ることにより、ポリエステル系重合セグメントの末端にビニル系重合セグメントを形成させることができる。この場合、ポリエステル系重合セグメントの末端のヒドロキシ基と両反応性単量体のカルボキシ基とがエステル結合を形成し、両反応性単量体のビニル基が芳香族系ビニル単量体又は(メタ)アクリル酸系単量体のビニル基と結合することによってビニル系重合セグメントが結合される。上記合成法の中で(A)の方法が最も好ましい。
【0098】
上記混合工程においては、加熱することが好ましい。加熱温度としては、未変性のポリエステル樹脂、芳香族系ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及び両反応性単量体を混合させることができる範囲であれば良い。具体的には、それらの材料を良好に混合でき、かつ重合制御が容易となる観点から、例えば、80~120℃の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは85~115℃の範囲内、さらに好ましくは90~110℃の範囲内である。
【0099】
また、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体の相対的な割合は、下記式(i)で表されるFOX式で算出されるガラス転移点(Tg)が35~80℃の範囲内、好ましくは40~60℃の範囲内となるような割合とすることが好ましい。
式(i):1/Tg=Σ(Wx/Tgx)
(上記式(i)中、Wxは、単量体xの質量分率を表し、Tgxは、単量体xの単独重合体のガラス転移点を表す。)
なお、本発明においては、両反応性単量体はガラス転移点の計算に用いないものとする。
【0100】
上記の芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合させる重合工程における重合温度は、特に限定されず、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体間の重合及びポリエステル樹脂への結合が進行する範囲において適宜選択することができる。例えば、85~125℃の範囲内であることが好ましく、90~120℃の範囲内であることがより好ましく、95~115℃の範囲内であることがさらに好ましい。
【0101】
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の製造においては、上記重合工程後の残留単量体等の乳化物からの揮発性有機物質が、1000ppm以下に抑制されることが実用上好ましく、500ppm以下に抑制されることがより好ましく、200ppm以下に抑制されることがさらに好ましい。
【0102】
[3-1]ポリエステル系重合セグメント
本発明に係るハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を構成するポリエステル系重合セグメントを調製するために用いる樹脂は、多価カルボン酸単量体(誘導体)及び多価アルコール単量体(誘導体)を原料として適宜の触媒の存在下で重縮合反応によって得られるものであることが好ましい。
【0103】
多価カルボン酸単量体としては、例えば、多価カルボン酸単量体のアルキルエステル、酸無水物及び酸塩化物を用いることができ、多価アルコール単量体としては、例えば、多価アルコール単量体のエステル及びヒドロキシカルボン酸を用いることができる。
【0104】
多価カルボン酸単量体としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、メサコン酸、アジピン酸、β-メチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、フマル酸、シトラコン酸、ジグリコール酸、シクロヘキサン-3,5-ジエン-1,2-ジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、ヘキサヒドロテレフタール酸、マロン酸、ピメリン酸、酒石酸、粘液酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p-カルボキシフェニル酢酸、p-フェニレン二酢酸、m-フェニレンジグリコール酸、p-フェニレンジグリコール酸、o-フェニレンジグリコール酸、ジフェニル酢酸、ジフェニル-p,p′-ジカルボン酸、ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-1,5-ジカルボン酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ドデセニルコハク酸等の2価のカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸等の3価以上のカルボン酸等を挙げることができる。
【0105】
中でも、多価カルボン酸単量体としては、フマル酸、マレイン酸、メサコン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸を用いることが好ましく、特に、上記一般式(A)で表される不飽和脂肪族ジカルボン酸を用いることが好ましい。また、本発明においては無水マレイン酸等のジカルボン酸の無水物を用いることもできる。
【0106】
多価アルコール単量体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等の2価のアルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミン等の3価以上のポリオール等を挙げることができる。
【0107】
本発明に係るハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を構成するポリエステル系重合セグメントを形成するためには、多価カルボン酸及び多価アルコールとして直鎖アルキル基を含まない単量体を使用することが好ましい。
【0108】
上記の多価カルボン酸単量体と多価アルコール単量体の比率は、例えば、多価アルコール単量体のヒドロキシ基[OH]と多価カルボン酸のカルボキシ基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]が、好ましくは1.5/1~1/1.5の範囲内、さらに好ましくは1.2/1~1/1.2の範囲内である。
【0109】
ポリエステル系重合セグメントを合成するために用いられる触媒としては、従来公知の種々の触媒を使用することができる。
【0110】
ポリエステル系重合セグメントを構成する非晶性ポリエステル樹脂は、例えば、ガラス転移点が40~70℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは50~65℃の範囲内である。当該非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点が40℃以上であると、当該非晶性ポリエステル樹脂について高温領域における凝集力が適切なものとなり、定着の際にホットオフセット現象を生じることが抑制される。また、非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点が70℃以下であると、定着の際に十分に溶融させることができ、十分な最低定着温度を確保することができる。
【0111】
また、当該非晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、例えば、1500~60000の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3000~40000の範囲内である。重量平均分子量が1500以上であると、トナー母体粒子全体として好適な凝集力が得られ、定着の際に高温オフセット現象を生じることが抑制される。また、重量平均分子量が60000以下であると、十分な溶融粘度を得ることができ、十分な最低定着温度を確保することができるので定着の際に低温オフセット現象を生じることが抑制される。
【0112】
当該非晶性ポリエステル樹脂は、用いられる多価カルボン酸単量体又は多価アルコール単量体として、カルボン酸価数又はアルコール価数を選択すること等によって、一部枝分かれ構造や架橋構造等が形成されていても良い。
【0113】
[3-2]両反応性単量体
ビニル系重合セグメントを形成するための両反応性単量体としては、ポリエステル系重合セグメントを形成するための多価カルボン酸単量体又は多価アルコール単量体と反応し得る基と重合性不飽和基とを有する単量体であれば良い。具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸等を用いることができる。本発明においては、両反応性単量体として、アクリル酸又はメタクリル酸を用いることが好ましい。
【0114】
両反応性単量体の使用割合は、例えば、用いられる樹脂材料の全質量、すなわち、未変性のポリエステル樹脂、芳香族系ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及び両反応性単量体の全質量を100質量%としたとき、0.1~5.0質量%の範囲内であることが好ましく、0.5~3.0質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0115】
[3-3]ビニル系重合セグメント
ビニル系重合セグメントを形成するための芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、ラジカル重合を行うことができるエチレン性不飽和結合を有するものである。
【0116】
芳香族系ビニル単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレン、p-クロロスチレン、p-エチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、3,4-ジクロロスチレン等、及びその誘導体が挙げられる。これらの芳香族系ビニル単量体は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0117】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、β-ヒドロキシアクリル酸エチル、γ-アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0118】
ビニル系重合セグメントを形成するための芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、優れた帯電性、画質特性等を得る観点から、スチレン又はその誘導体を多く用いることが好ましい。具体的には、スチレン又はその誘導体の使用量が、例えば、スチレン・アクリル系重合体セグメントを形成するために用いられる全単量体(芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体)中の50質量%以上であることが好ましい。
【0119】
[3-4]重合開始剤
上記した芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合させる重合工程においては、ラジカル重合開始剤の存在下で重合を行うことが好ましい。ラジカル重合開始剤の添加タイミングは、特に制限されないが、ラジカル重合の制御が容易であるという点で、混合工程の後であることが好ましい。
【0120】
重合開始剤としては、公知の種々の重合開始剤が好適に用いられる。具体的には、例えば、過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化-tert-ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1-フェニル-2-メチルプロピル-1-ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸-tert-ヒドロペルオキシド、過ギ酸-tert-ブチル、過酢酸-tert-ブチル、過安息香酸-tert-ブチル、過フェニル酢酸-tert-ブチル、過メトキシ酢酸-tert-ブチル、過N-(3-トルイル)パルミチン酸-tert-ブチル等の過酸化物類;2,2′-アゾビス(2-アミノジプロパン)塩酸塩、2,2′-アゾビス-(2-アミノジプロパン)硝酸塩、1,1′-アゾビス(1-メチルブチロニトリル-3-スルホン酸ナトリウム)、4,4′-アゾビス-4-シアノ吉草酸、ポリ(テトラエチレングリコール-2,2′-アゾビスイソブチレート)等のアゾ化合物等が挙げられる。重合開始剤の添加量は、所望する分子量や分子量分布によって異なるが、例えば、重合性単量体に対して、0.1~5.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0121】
[3-5]連鎖移動剤
上記した芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合させる重合工程においては、スチレン・アクリル系重合体セグメントの分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、アルキルメルカプタン、メルカプト脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0122】
連鎖移動剤は、上記の混合工程において樹脂形成材料とともに混合させておくことが好ましい。
【0123】
連鎖移動剤の添加量は、所望するスチレン・アクリル系重合体セグメントの分子量や分子量分布によって異なるが、例えば、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体、並びに両反応性単量体の全質量に対して、0.1~5.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0124】
[その他の材料]
本発明に係るトナー母体粒子は、必要に応じて、着色剤、荷電制御剤等を含有していても良い。
【0125】
(着色剤)
着色剤としては、例えば、カーボンブラック、磁性体、顔料、染料等を任意に使用することができる。
【0126】
カーボンブラックとしては、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等を用いることができる。
【0127】
また、磁性体としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト等の強磁性金属、これらの金属を含む合金、フェライト、マグネタイト等の強磁性金属の化合物等を用いることができる。
【0128】
また、顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、同3、同5、同7、同15、同16、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同123、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同208、同209、同222、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー3、同9、同14、同17、同35、同36、同65、同74、同83、同93、同94、同98、同110、同111、同138、同139、同153、同155、同180、同181、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同15:4、同60、中心金属が亜鉛、チタン、マグネシウム等であるフタロシアニン顔料等を用いることができ、これらの混合物も用いることができる。
【0129】
染料としては、例えば、C.I.ソルベントレッド1、同3、同14、同17、同18、同22、同23、同49、同51、同52、同58、同63、同87、同111、同122、同127、同128、同131、同145、同146、同149、同150、同151、同152、同153、同154、同155、同156、同157、同158、同176、同179、ピラゾロトリアゾールアゾ染料、ピラゾロトリアゾールアゾメチン染料、ピラゾロンアゾ染料、ピラゾロンアゾメチン染料、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95等を用いることができ、またこれらの混合物も用いることができる。
【0130】
トナー母体粒子における着色剤の含有量は、例えば、トナー母体粒子前駆体用樹脂の全質量に対して1~30質量%の範囲内であることが好ましく、2~20質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0131】
(荷電制御剤)
荷電制御剤としては、種々の公知のものを使用することができる。
【0132】
荷電制御剤としては、例えば、水系媒体中に分散することができる公知の種々の化合物を用いることができ、具体的には、ニグロシン系染料、ナフテン酸又は高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩化合物、アゾ系金属錯体、サリチル酸金属塩又はその金属錯体等が挙げられる。
【0133】
荷電制御剤の含有量は、例えば、トナー母体粒子前駆体用樹脂の全質量に対して、0.1~10.0質量%の範囲内であることが好ましく、0.5~5.0質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0134】
《外添剤》
外添剤は、上記したトナー母体粒子の表面に付着される。外添剤としては、公知の無機微粒子や有機微粒子、滑材などを用いることができる。使用する外添剤は、一種でもそれ以上でも良い。また、形状に関しては、球状の外添剤だけではなく、ルチル型酸化チタンに代表される針状のものの他、不定形状、紡錘形状、金平糖状のものなど、制限なく用いることができる。
【0135】
外添剤として用いられる無機微粒子としては、例えば、シリカ粒子、酸化チタン粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、酸化亜鉛粒子、酸化クロム粒子、酸化セリウム粒子、酸化アンチモン粒子、酸化タングステン粒子、酸化スズ粒子、酸化テルル粒子、酸化マンガン粒子、酸化ホウ素粒子、チタン酸ストロンチウム粒子等が挙げられる。中でも、シリカ粒子、酸化チタン粒子、アルミナ粒子、チタン酸ストロンチウム粒子等が好ましい。上記無機微粒子は、その表面が疎水化処理されていることが好ましく、当該疎水化処理には、公知の表面処理剤が用いられる。表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、シリコーンオイル、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、脂肪酸、脂肪酸金属塩、そのエステル化物及びロジン酸が含まれる。これらの表面処理剤は、一種単独で用いられても良いし、複数種類が併用されても良い。
【0136】
上記シランカップリング剤としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、メチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等が挙げられる。上記シリコーンオイルとしては、例えば、環状化合物や、直鎖状又は分岐状のオルガノシロキサン等が挙げられ、より具体的には、例えば、オルガノシロキサンオリゴマー、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。
【0137】
外添剤として用いられる有機微粒子としては、例えば、スチレンやメチルメタクリレート等の単独重合体やこれらの共重合体を含有する有機微粒子を使用することができる。
【0138】
外添剤として用いられる滑材は、クリーニング性や転写性を更に向上させる目的で使用されるものである。滑材としては、例えば、ステアリン酸の亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩、オレイン酸の亜鉛、マンガン、鉄、銅、マグネシウムなどの塩、パルミチン酸の亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩、リノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩、リシノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩などの高級脂肪酸の金属塩が挙げられる。
【0139】
本発明において用いられる外添剤としては、例えば、個数平均一次粒径が70~240nmの範囲内の大径シリカ粒子を含むことが好ましく、より好ましくは70~160nmの範囲内の大径シリカ粒子を含むことである。これにより、トナー母体粒子表面の長辺の長さの平均値が0.1~0.5μmの凹部に外添剤が入り込みやすく、かつトナーに機械的ストレスがかかったときに凹部から凸部への外添剤の移動が生じやすい。よって、長期間にわたって帯電量を安定化させることができ、画像濃度安定性を向上させることができる。また、当該外添剤は、トナー母体粒子から遊離して感光体とクリーニングブレードとの当接部近傍で静止層を形成し、トナー粒子のすり抜けや外添剤のすり抜けを抑制するためクリーニング性に優れる。さらに、凸部に移動した外添剤の一部が、クリーニングブレードに供給し続けられるために、長期にわたってクリーニング性能を安定化させることができる。
【0140】
本発明において、外添剤の個数平均一次粒径は以下のようにして算出される。
走査型電子顕微鏡を用いて倍率3万~5万倍でトナーの写真を撮影し、この写真画像をスキャナーにより取り込み、画像処理解析装置「LUZEX AP」(ニレコ社製)にて、写真画像におけるトナー粒子表面に存在する外添剤について二値化処理し、外添剤粒子の任意の100個についての水平方向フェレ径を算出し、その平均値を個数平均一次粒径とする。
【0141】
《静電荷像現像用トナーの製造方法の概要》
本発明に係るトナーの製造方法は、第1の樹脂粒子を含有する第1の樹脂粒子分散液を調製する第1工程と、第1工程で調製した分散液に凝集剤を添加して昇温し、第1の樹脂粒子を凝集・融着させて凝集粒子を形成する第2工程と、第2工程で調製した分散液に、少なくとも離型剤粒子を含有する離型剤粒子分散液を添加し、凝集粒子と離型剤粒子とを凝集・融着させて凝集粒子を成長させる第3工程と、第3工程における凝集粒子の成長を停止させる第4工程と、第4工程で調製した混合液を、離型剤粒子の融点より10~20℃高い温度で1時間以上保持する第5工程と、第5工程で調製した混合液に、少なくとも第2の樹脂粒子を含有する第2の樹脂粒子分散液を添加し、凝集粒子の表面に第2の樹脂粒子を融着させる第6工程と、を有することを特徴とする。
【0142】
本発明に係るトナーの製造方法において、トナー母体粒子を製造する方法としては、例えば、懸濁重合法、乳化凝集法、その他の公知の方法等を挙げることができるが、乳化凝集法を用いることが好ましい。この乳化凝集法によれば、製造コスト及び製造安定性の観点から、トナー粒子の小粒径化を容易に図ることができる。
【0143】
ここで、乳化凝集法とは、乳化によって製造された、トナー母体粒子前駆体用樹脂の粒子(第1の樹脂粒子)の分散液(具体的には、ビニル樹脂粒子の分散液と、結晶性樹脂粒子の分散液)を、必要に応じて、着色剤の粒子(以下、「着色剤粒子」ともいう。)の分散液と混合し、所望のトナー粒子径となるまで凝集させ、さらに樹脂粒子間の融着を行うことにより形状制御を行って、トナー粒子を製造する方法である。
以下、本発明に係るトナー母体粒子を乳化凝集法によって製造する場合について説明する。
【0144】
〔1〕第1工程
第1工程では、トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子を含有するトナー母体粒子前駆体用樹脂粒子分散液を調製する。また、必要に応じて、調製した当該トナー母体粒子用樹脂粒子分散液と、着色剤粒子を含有する着色剤粒子分散液とを水系媒体中で混合する。
【0145】
なお、本発明において、水系媒体とは、水50~100質量%と、水溶性の有機溶媒0~50質量%とからなる媒体をいう。水溶性の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン及びテトラヒドロフランを例示することができ、得られる樹脂を溶解しないアルコール系有機溶媒が好ましい。
【0146】
〔1-1〕トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子分散液の調製
第1工程で使用するトナー母体粒子前駆体用樹脂粒子分散液は、重合性単量体を水系媒体中で乳化重合させることにより、調製することができる。
【0147】
本発明に係るトナー母体粒子前駆体中には、必要に応じて、荷電制御剤、磁性粉等の内添剤が含有されていても良く、このような内添剤は、例えば、トナー母体粒子前駆体用樹脂の重合工程において、あらかじめ、樹脂を形成するための単量体溶液に溶解又は分散させておくことによってトナー母体粒子中に導入することができる。
【0148】
また、このような内添剤は、別途、内添剤のみよりなる内添剤粒子の分散液を調製し、第3工程において、トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子及び離型剤粒子とともに当該内添剤粒子を凝集させることにより、トナー粒子中に導入することもできるが、トナー母体粒子前駆体用樹脂の重合時において、あらかじめ導入しておく方法を採用することが好ましい。
また、本実施形態では第3工程において離型剤粒子を添加するが、これとは別に、トナー母体粒子前駆体用樹脂の重合工程において離型剤を導入しても良い。
【0149】
トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子分散液中の樹脂粒子の粒径は、例えば、体積基準のメジアン径で50~500nmの範囲内であることが、凸部の長辺の長さの平均値及び凸部同士の平均間隔を上記範囲に制御できる点で好ましい。
樹脂粒子の体積基準のメジアン径(D50%径)は、マイクロトラック粒度分布測定装置「UPA-150」(マイクロトラック・ベル社製)を用いて測定することができる。
【0150】
なお、トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の多層構造を有するものであっても良い。例えば、2層構造を有する樹脂粒子は、常法に従った乳化重合処理(第1段重合)によって樹脂粒子の分散液を調製し、この分散液に重合開始剤と重合性単量体とを添加し、この系を重合処理(第2段重合)する手法によって得ることができる。また、必要に応じて、さらに重合性単量体を加えて、第3段重合を行い、3層構成とすることもできる。
【0151】
〔1-2〕着色剤粒子分散液の調製
着色剤粒子分散液は、着色剤を水系媒体中に分散することにより調製することができる。着色剤の分散処理は、着色剤が均一に分散されることから、水系媒体中において界面活性剤濃度を臨界ミセル濃度(CMC)以上にした状態で行われることが好ましい。着色剤の分散処理に使用する分散機としては、公知の種々の分散機を用いることができる。
【0152】
使用される界面活性剤としては、例えば、上記トナー母体粒子前駆体用樹脂の製造において分散安定剤として使用される界面活性剤と同様のものを使用することができる。
【0153】
着色剤粒子分散液中の着色剤粒子の分散径は、体積基準のメジアン径(D50%径)で10~300nmの範囲内であることが好ましい。
着色剤粒子の体積基準のメジアン径(D50%径)は、電気泳動光散乱光度計「ELS-800(大塚電子社製)」で測定することができる。
【0154】
〔2〕第2工程
第2工程では、上記第1工程で調製した分散液に凝集剤を添加して昇温し、トナー母体粒子前駆体用樹脂粒子を凝集・融着させて凝集粒子を形成する。
【0155】
第2工程においては、必要に応じて、荷電制御剤等のその他のトナー構成成分の粒子を凝集させることもできる。
【0156】
凝集粒子を形成する具体的な方法としては、特に限定されないが、水系媒体中に凝集剤を臨界凝集濃度以上となるよう添加し、次いで、樹脂粒子のガラス転移点以上であって、かつこれら混合物の融解ピーク温度以下の温度に加熱することによって、樹脂粒子及び着色剤粒子等の粒子の塩析を進行させると同時に融着を並行して進める方法が挙げられる。
【0157】
この方法においては、凝集剤を添加した後に放置する時間をできるだけ短くして速やかに、樹脂粒子のガラス転移点以上であって、かつこれら混合物の融解ピーク温度以下の温度に加熱することが好ましい。この理由は明確ではないが、塩析した後の放置時間によっては粒子の凝集状態が変動して粒径分布が不安定になったり、融着させた粒子の表面性が変動したりする問題が発生することが懸念されるためである。この昇温開始までの時間としては通常30分間以内であることが好ましい。また、昇温速度としては1℃/分以上であることが好ましい。昇温速度の上限は特に規定されるものではないが、急速な融着の進行による粗大粒子の発生を抑制する観点から、10℃/分以下とすることが好ましい。さらに、反応系がガラス転移点以上の温度に到達した後、当該反応系の温度を一定時間保持することにより、融着を継続させることが肝要である。これにより、トナー母体粒子前駆体の成長と、融着とを効果的に進行させることができ、最終的に得られるトナー粒子の耐久性を向上することができる。
【0158】
ここで、トナー母体粒子前駆体は、トナー母体粒子前駆体用樹脂として結晶性樹脂粒子とビニル樹脂粒子を金属イオンの存在下で凝集、融着させて生成される。
ここで、結晶性樹脂はトナー内部に微分散させることで低温定着性を効果的に発揮することができる。
【0159】
第2工程において使用する凝集剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、金属塩から選択されるものが好適に使用される。金属塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属の塩等の一価の金属塩;カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅等の二価の金属塩;鉄、アルミニウム等の三価の金属塩等が挙げられる。具体的な金属塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン等を挙げることができ、これらの中でも、より少量で凝集を進めることができることから、二価の金属塩を用いることが特に好ましい。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0160】
第2工程において得られる凝集粒子は、例えば、体積基準のメジアン径(D50%径)が3~10μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは4~7μmの範囲内である。
凝集粒子の体積基準のメジアン径(D50%径)は、「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)によって測定することができる。
【0161】
〔3〕第3工程
第3工程では、第2工程で調製した分散液に、少なくとも離型剤粒子を含有する離型剤粒子分散液を添加し、凝集粒子と離型剤粒子とを凝集・融着させて凝集粒子を成長させる。
離型剤粒子分散液に含有される離型剤粒子としては、上記した離型剤を使用することができる。
【0162】
〔4〕第4工程
第4工程では、第3工程における凝集粒子の成長を停止させる。
【0163】
凝集粒子の成長は、水系媒体中の塩濃度を高めることによって実質的に停止させることができる。例えば、塩化ナトリウム、多価有機酸又はその塩、アミノ酸、ポリホスホン酸又はこれらの塩を凝集停止剤として使用することができる。また、系内のpHを変化させることによって凝集作用を緩和させることができる。pHを調整するためには、例えば、フマル酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、塩酸等を用いることができる。さらには、pHを調整するとともにキレート剤を併用し、金属イオンによる架橋作用を緩和させることも有効である。上記キレート剤の例には、HIDA(ヒドロキシエチルイミノ二酢酸)、HEDTA(ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸)、HEDP(ヒドロキシエチリデンジホスホン酸)、HIDS(3-ヒドロキシ-2,2′-イミノジコハク酸)が含まれる。
【0164】
〔5〕第5工程
第5工程では、第4工程で調製した混合液を、離型剤粒子の融点より10~20℃高い温度で1時間以上保持する。これにより、トナー母体粒子前駆体の表面に複数の凹部を形成することができる。
【0165】
具体的には、例えば、凝集粒子の成長を停止させた後、離型剤の融点以上の温度にて高撹拌下で加熱処理を行う。これにより、凝集粒子の表面近傍に存在する離型剤が凝集粒子内部に移動し、その際に当該離型剤周辺の樹脂が内部に引き込まれることで凹部を形成させることが可能である。より具体的には、離型剤の一部をトナー母体粒子前駆体形成の後半に後添加することによって凝集粒子表面に配置した後、高撹拌下でせん断力を付与しつつ、離型剤の融点より10~20℃高い温度で1時間以上保持することによって、凹部を形成することができる。
【0166】
第5工程を行うことにより形成される凹部のサイズや密度分布は、例えば、第3工程で添加する離型剤の種類及び添加量、並びに第5工程における撹拌数、温度及び保持時間によって調整することが可能である。
【0167】
具体的には、凹部の長辺の長さの平均値は、離型剤の種類を変更することによって調整することができる。例えば、離型剤としてパラフィンワックス等を用いると、凹部の長辺の長さの平均値が大きくなりやすく、エステルワックス等を用いると、凹部の長辺の長さの平均値が大きくなりにくい。また、加熱処理の温度が高いほど、凹部の長辺の長さの平均値が大きくなり、保持時間が長いほど、凹部の長辺の長さの平均値が大きくなる。
また、凹部の平均密度分布D2は、第3工程における離型剤の添加量で調整することができる。
【0168】
〔6〕第6工程
第6工程では、第5工程で調製した混合液に、少なくとも第2の樹脂粒子を含有する第2の樹脂粒子分散液を添加し、凝集粒子の表面に第2の樹脂粒子を融着させる。これにより、トナー母体粒子前駆体の表面に複数の凸部を形成し、トナー母体粒子を調製することができる。
【0169】
第6工程においては、例えば、トナー母体粒子前駆体と凸部とを異なる樹脂組成とすることで凸部を形成することができ、それらは両樹脂のモノマー組成で調整することが可能である。例えば、トナー母体粒子前駆体用樹脂(第1の樹脂)がビニル樹脂である場合には、凸部用樹脂(第2の樹脂)として非晶性ポリエステル樹脂が用いられる。特に、凸部用樹脂が、ビニル樹脂とのハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂である場合には、ビニル重合セグメントがトナー母体粒子前駆体用樹脂に相溶することで固定化され、ポリエステル重合セグメントが相溶されないため、トナー母体粒子前駆体表面に凸部を効果的に形成できる。
【0170】
具体的には、第6工程において、水系媒体中でトナー母体粒子前駆体に凸部用樹脂を融着させて、トナー母体粒子を形成する。
すなわち、第5工程にて凹部を形成した後、水系媒体(反応液)中に凸部用樹脂粒子分散液を投入し、凸部用樹脂粒子をトナー母体粒子前駆体に付着させる。その後、pH調整剤により水系媒体(反応液)のpHを調整して融着させる。
【0171】
より具体的な方法としては、まず、反応液中に凝集剤を臨界凝集濃度以上となるよう添加し、次いで、凸部用樹脂粒子のガラス転移点以上であって、かつこれら混合物の融解ピーク温度以下の温度に加熱する。
次に、反応液(水系媒体)の上澄みが透明になった時点で凝集停止剤を添加して粒子成長を停止させる。さらに、昇温を行い、80~90℃の範囲内の状態で加熱撹拌する。
【0172】
これにより、トナー母体粒子前駆体の表面に複数の凸部を形成でき、トナー母体粒子を形成できる。トナーの平均円形度の測定装置「FPIA-2100」(Sysmex社製)を用いて(HPF検出数を4000個)平均円形度が0.950~0.970の範囲内になった時点で20~30℃の範囲内に冷却することで、トナー母体粒子前駆体表面に凸部を有するトナー母体粒子の分散液を得ることができる。
なお、第6工程において、トナー母体粒子前駆体に凸部用樹脂を融着させる融着時間は、10~180分間であることが好ましく、さらに30~120分間であることが、凸部の長辺の長さの平均値及び凸部同士の平均間隔を上記範囲内に制御できる点で好ましい。
【0173】
凸部用樹脂粒子分散液を調製する方法としては、具体的には、例えば、機械的方法により凸部用樹脂を粉砕し、界面活性剤を用いて水系媒体中に分散する方法、有機溶媒に溶解した凸部用樹脂溶液を水系媒体中に投入、分散し、水系媒体分散液とする方法、凸部用樹脂を溶融状態で水系媒体中と混合し、機械的分散方法により水系媒体分散液とする方法、転相乳化法等が挙げられるが、本発明においてはいずれの方法を用いても良い。
【0174】
また、凸部用樹脂粒子分散液中の凸部用樹脂粒子は、例えば、体積基準のメジアン径(D50%径)が50~500nmの範囲内であることが好ましい。
凸部用樹脂粒子の体積基準のメジアン径は、レーザー回折式粒度分布測定器LA-750(HORIBA製)によって測定することができる。
【0175】
凸部用樹脂粒子分散液の調製にあたり、界面活性剤を使用する場合は、例えば、上記トナー母体粒子前駆体用樹脂の製造において分散安定剤として使用される界面活性剤と同様のものを使用することができる。
【0176】
第6工程を行うことにより形成される凸部のサイズや密度分布は、(ア)トナー母体粒子の樹脂構成、(イ)凸部用樹脂の粒径、(ウ)凸部用樹脂の添加量、(エ)凸部用樹脂を添加する前のトナー母体粒子前駆体の平均円形度、(オ)凸部用樹脂の融着時間(トナー母体粒子の平均円形度)等によって調整することが可能である。
【0177】
(イ)凸部用樹脂の粒径については、粒径が大きいほど、凸部の長辺の長さの平均値が長くなり、凸部同士の間隔が広くなる。具体的には、凸部用樹脂としてのハイブリット非晶性ポリエステル樹脂の粒子の粒径は、例えば、50~300nmの範囲内が好ましい。
(ウ)凸部用樹脂の添加量については、凸部用樹脂の添加量が増大するほど、凸部の平均密度分布D1が大きくなり、凸部同士の間隔が狭くなる。具体的には、凸部用樹脂としてのハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の含有量は、例えば、トナー母体粒子の全樹脂量中、5~20質量%の範囲内であることが好ましい。
(エ)凸部用樹脂を添加する前のトナー母体粒子前駆体の平均円形度については、当該平均円形度を高くすることで、凸部を形成しやすくなる。具体的には、トナー母体粒子前駆体の平均円形度は、例えば、0.890以上であることが好ましい。
(オ)凸部用樹脂の融着時間については、当該融着時間を長くするほど、トナー母体粒子の平均円形度と凸部用樹脂投入前のトナー母体粒子前駆体の平均円形度の差が大きくなり、凸部の長辺の長さの平均値が短くなる。具体的には、凸部用樹脂の融着時間は、10~180分間が好ましく、30~120分間がより好ましい。
【0178】
〔7〕洗浄工程、乾燥工程、外添剤添加工程
上記第6工程の後、水系媒体からトナー母体粒子を濾別して、当該トナー母体粒子から界面活性剤などを除去する洗浄工程と、洗浄処理されたトナー母体粒子を乾燥する乾燥工程と、さらに必要に応じて、乾燥処理されたトナー母体粒子に外添剤を添加する外添剤添加工程とを経てトナー粒子を製造することができる。
【0179】
洗浄工程及び乾燥工程は、公知の種々の方法を採用して行うことができる。すなわち、上記第6工程の後、例えば、遠心分離器等の公知の方法により、固液分離し、洗浄を行い、減圧乾燥にて有機溶媒を除去し、さらにフラッシュジェットドライヤー及び流動層乾燥装置等の公知の乾燥装置にて水分及び微量の有機溶媒を除去する。乾燥温度は、トナーが融着しない範囲であれば良い。
【0180】
乾燥工程までの工程を経て作製されたトナー母体粒子は、そのままトナー粒子として使用することが可能であるが、トナーとしての帯電性能や流動性、又はクリーニング性を向上させる観点から、その表面に上記外添剤を付着させる外添剤添加工程を行うことが好ましい。
【0181】
外添剤添加工程における外添剤の添加量は、例えば、トナー母体粒子100質量部に対して0.05~5質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1~3質量部の範囲内である。
【0182】
外添剤の添加方法としては、乾燥されたトナー母体粒子に外添剤を粉体で添加する乾式法が挙げられ、用いられる混合装置としては、例えば、ヘンシェルミキサー、コーヒーミル等の機械式のものが挙げられる。
【0183】
《現像剤》
本発明のトナーは、磁性又は非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用しても良い。
【0184】
キャリアとしては、例えば、鉄、フェライト、マグネタイト等の金属、それらの金属とアルミニウム、鉛等の金属との合金等の従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、これらの中では、フェライト粒子を用いることが好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂等の被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる樹脂分散型キャリア等を用いても良い。
【0185】
キャリアの体積平均粒径は、例えば、15~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは25~80μmの範囲内である。
【実施例
【0186】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0187】
《非晶性ビニル樹脂粒子分散液(A1)の調製》
(1)第1段重合
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン-2-ドデシルエーテル硫酸ナトリウム4質量部と、イオン交換水3000質量部とを仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
【0188】
昇温後、過硫酸カリウム(KPS)10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させたものを添加し、液温を75℃とした。その後、スチレン(St)568質量部、n-ブチルアクリレート(BA)164質量部及びメタクリル酸(MAA)68質量部からなる単量体混合液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃において2時間にわたって加熱、撹拌することによって重合(第1段重合)を行い、樹脂粒子(a1)の分散液を調製した。
【0189】
(2)第2段重合
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン-2-ドデシルエーテル硫酸ナトリウム2質量部をイオン交換水3000質量部に溶解させた溶液を仕込んだ。これを80℃に加熱した後、樹脂粒子(a1)の分散液42質量部(固形分換算)、スチレン(St)195質量部、n-ブチルアクリレート(BA)91質量部、メタクリル酸(MAA)20質量部及びn-オクチルメルカプタン4.0質量部からなる混合液に離型剤としてベヘン酸ベヘニル111質量部を80℃において溶解させた単量体混合液を添加した。その後、循環経路を有する機械式分散機「クレアミックス」(エム・テクニック社製)により、1時間混合、分散させて、乳化粒子(油滴)を含有する分散液を調製した。
【0190】
次いで、この分散液に、過硫酸カリウム(KPS)5質量部をイオン交換水100質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を80℃において1時間にわたって加熱、撹拌することによって重合(第2段重合)を行った。これにより、樹脂粒子(a1′)の分散液を調製した。
【0191】
(3)第3段重合
樹脂粒子(a1′)の分散液に、過硫酸カリウム(KPS)8質量部をイオン交換水150質量部に溶解させた開始剤溶液を添加した。この系に対し、80℃の温度条件下において、スチレン(St)339質量部、n-ブチルアクリレート(BA)120質量部、メタクリル酸(MAA)32質量部及びn-オクチルメルカプタン8.1質量部からなる単量体混合液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間にわたって加熱、撹拌することによって重合(第3段重合)を行った。その後、28℃まで冷却することにより、体積基準のメジアン径(D50)が168nmである、水系媒体中に離型剤を含有した非晶性樹脂(スチレン・アクリル樹脂)の微粒子が分散された非晶性ビニル樹脂粒子分散液(A1)を調製した。
【0192】
《非晶性ビニル樹脂粒子分散液(A2)の調製》
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム5.0質量部及びイオン交換水2500質量部を入れ、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
【0193】
次いで、過硫酸カリウム(KPS)15.0質量部をイオン交換水300質量部に溶解させた水溶液を添加し、再度液温80℃とした。その後、スチレン(St)840.0質量部、n-ブチルアクリレート(BA)288.0質量部、メタクリル酸(MAA)72.0質量部及びn-オクチルメルカプタン15質量部からなる単量体混合液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより重合を行い、体積基準のメジアン径が120nmであるスチレン・アクリル樹脂粒子(a2)を含有する非晶性ビニル樹脂粒子分散液(A2)を調製した。
【0194】
《ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B1)の調製》
下記ビニル樹脂の単量体、非晶性ポリエステル樹脂とビニル樹脂のいずれとも反応する置換基を有する単量体、及び重合開始剤の混合液を滴下ロートに入れた。
スチレン 80.0質量部
n-ブチルアクリレート 20.0質量部
アクリル酸 10.0質量部
ジ-t-ブチルパーオキサイド(重合開始剤) 16.0質量部
【0195】
また、下記非晶性ポリエステル樹脂の単量体を、窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を備えた四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し、溶解させた。
ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物 50.2質量部
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 249.8質量部
テレフタル酸 120.1質量部
ドデセニルコハク酸 46.0質量部
【0196】
撹拌下で、滴下ロートに入れた混合液を四つ口フラスコへ90分間かけて滴下し、60分間熟成を行った。その後、エステル化触媒としてTi(OBu)を0.4質量部投入し、235℃まで昇温して、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間、反応を行った。
【0197】
次いで、この系を200℃まで冷却し、減圧下(20kPa)にて反応を行った後、脱溶剤を行い、ビニル樹脂により変性されたハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂(b1)を得た。得られたハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂(b1)の重量平均分子量(Mw)は24000、酸価は18.2mgKOH/gであった。
【0198】
上記ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂(b1)72質量部を、72質量部のメチルエチルケトン中に添加し、30℃で30分撹拌して溶解させた。この油相液に、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液2.1質量部を添加して、撹拌器を有する反応容器に入れた。油相液を撹拌しながら、30℃のイオン交換水252質量部を70分間にわたって滴下し、混合した。滴下の途中で容器内の液は白濁化し、全量滴下後、均一な乳化状態の乳化液を得た。
【0199】
この乳化液を、ダイヤフラム式真空ポンプV-700(BUCHI社製)を使用し、60℃に昇温し、15kPa(150mbar)の減圧下で3時間撹拌することで、メチルエチルケトンを蒸留除去した。これにより、固形分量が21.5質量%のハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B1)を調製した。レーザー回折式粒度分布測定器LA-750(HORIBA製)にて、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B1)中の樹脂粒子の体積基準のメジアン径を測定したところ、220nmであった。
【0200】
《ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B2)の調製》
上記ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B1)の調製において、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を2.3質量部に変更した以外は同様にして、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B2)を調製した。ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B2)中の樹脂粒子の体積基準のメジアン径を測定したところ、100nmであった。
【0201】
《ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B3)の調製》
上記ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B1)の調製において、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を1.9質量部に変更した以外は同様にして、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B3)を調製した。ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B3)中の樹脂粒子の体積基準のメジアン径を測定したところ、300nmであった。
【0202】
《ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B4)の調製》
上記ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B1)の調製において、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を1.7質量部に変更した以外は同様にして、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B4)を調製した。ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B4)中の樹脂粒子の体積基準のメジアン径を測定したところ、500nmであった。
【0203】
《ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B5)の調製》
上記ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B1)の調製において、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を2.5質量部に変更した以外は同様にして、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B5)を調製した。ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B5)中の樹脂粒子の体積基準のメジアン径を測定したところ、80nmであった。
【0204】
《ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B6)の調製》
上記ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B1)の調製において、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を1.5質量部に変更する以外は同様にして、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B6)を調製した。ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B6)中の樹脂粒子の体積基準のメジアン径を測定したところ、550nmであった。
【0205】
《非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B7)の調製》
上記ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B1)の調製において、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂(b1)を、非晶性ポリエステル樹脂(b2)に変更した以外は同様にして、非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B7)を調製した。非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B7)中の樹脂粒子の体積基準のメジアン径を測定したところ、220nmであった。
【0206】
非晶性ポリエステル樹脂(b2)は、次のようにして調製した。
すなわち、撹拌器、温度計、コンデンサー及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、下記組成のモノマーと、下記組成のモノマーの合計100質量部に対して0.25質量部のジオクチル酸スズとを投入した。窒素ガス気流下、235℃で6時間反応させた後、200℃に降温して、1時間反応させた。5時間かけて220℃まで昇温し、10kPaの圧力下で所望の分子量になるまで重合させ、淡黄色透明な非晶性ポリエステル樹脂(b2)を得た。非晶性ポリエステル樹脂(b2)の重量平均分子量は18000、酸価は17.8mgKOH/gであった。
【0207】
ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物 50.2質量部
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 249.8質量部
テレフタル酸 82.5質量部
フマル酸 32.0質量部
ドデセニルコハク酸 32.0質量部
【0208】
《離型剤粒子分散液(W1)の調製》
離型剤としてベヘン酸ベヘニル(融点73℃)450質量部、ラウリル硫酸ナトリウム50質量部及びイオン交換水3500質量部を80℃に加熱して、IKA社製のウルトラタラクスT50にて十分に分散した。その後、圧力吐出型ゴーリンホモジナイザーで分散処理し、体積基準のメジアン径(D50)が180nmの離型剤粒子が分散された離型剤粒子分散液(W1)を調製した。
【0209】
《離型剤粒子分散液(W2)の調製》
離型剤としてパラフィンワックス(HNP-9、日本精鑞社製、融点75℃)450質量部、ラウリル硫酸ナトリウム50質量部及びイオン交換水3500質量部を80℃に加熱して、IKA社製のウルトラタラクスT50にて十分に分散した。その後、圧力吐出型ゴーリンホモジナイザーで分散処理し、体積基準のメジアン径(D50)が170nmの離型剤粒子が分散された離型剤粒子分散液(W2)を調製した。
【0210】
《結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(C1)の調製》
撹拌装置、窒素導入管、温度センサー及び精留塔を備えた反応容器に、ドデカン二酸200質量部及び1,6-ヘキサンジオール102質量部を仕込み、反応系の温度を1時間かけて190℃に昇温し、反応系内が均一に撹拌されていることを確認した。その後、触媒としてTi(OBu)を0.3質量部投入した。さらに、生成される水を留去しながら反応系の温度を190℃から6時間かけて240℃に上昇させた。さらに、240℃に維持した状態で6時間脱水縮合反応を継続して重合反応を行うことにより、結晶性ポリエステル樹脂(c1)を得た。
【0211】
得られた結晶性ポリエステル樹脂(c1)の重量平均分子量(Mw)は14500、融点(Tmc)は70℃であった。
【0212】
次に、得られた結晶性ポリエステル樹脂(c1)を、キャビトロンCD1010(株式会社ユーロテック製)を高温高圧型に改造した分散機を用いて分散した。イオン交換水80質量%、結晶性ポリエステル樹脂(c1)の濃度が20質量%の組成比となるように結晶性ポリエステル樹脂分散液を調製した。このとき、アンモニアによりpHを8.5に調整し、回転子の回転速度が60Hz、圧力が5kg/cm、熱交換器による加熱140℃の条件でキャビトロンを運転した。その後、上記分散液にイオン交換水を加えて固形分量が20質量%となるように調整し、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(C1)を調製した。この分散液の体積基準のメジアン径(D50)を、レーザー回折式粒度分布測定器LA-750(HORIBA製)にて測定したところ、190nmであった
【0213】
《着色剤粒子分散液(Cy1)の調製》
イオン交換水250質量部にn-ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム8質量部を混合溶解させ、銅フタロシアニン(C.I.ピグメントブルー15:3)50質量部を入れてホモジナイザー「ウルトラタラックスT50」(IKA社製)により10分間分散させた。その後、超音波分散機で20分間分散処理することにより、シアン着色剤粒子を含有する水系分散液を得た。得られた分散液にさらにイオン交換水を添加して、固形分を20質量%に調整することにより、着色剤粒子分散液(Cy1)を調製した。得られた着色剤粒子分散液(Cy1)中の着色剤粒子の体積基準のメジアン径は、マイクロトラックUPA-150(日機装株式会社製)を用いて測定したところ、121nmであった。
【0214】
《トナー1の調製》
撹拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、第1の樹脂としての非晶性ビニル樹脂粒子分散液(A1)416.2質量部(固形分換算)、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(C1)33.6質量部(固形分換算)、及びイオン交換水2000質量部を投入した。その後、150rpmでの撹拌下、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH(25℃換算)を10に調整した。
【0215】
その後、着色剤粒子分散液(Cy1)24質量部(固形分換算)を投入し、次いで、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液を、150rpmで撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。この系を3分間放置した後に、200rpmで撹拌下、60分間かけて70℃まで昇温し、70℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。この状態で「コールターマルチサイザー3」(コールター・ベックマン社製)にて会合粒子の粒径を測定し、体積基準のメジアン径(D50)が4.8μmになった時点で、離型剤粒子分散液(W1)1.4質量部(固形分換算)を投入した。
【0216】
その後、70℃を保持したまま粒子成長反応を継続し、体積基準のメジアン径(D50)が6.1μmとなった時点で、塩化ナトリウム20質量部をイオン交換水80質量部に溶解した水溶液、及びポリオキシエチレン-2-ドデシルエーテル硫酸ナトリウム3質量部をイオン交換水22質量部に溶解させた水溶液を添加して粒子成長を停止させた。
【0217】
次いで、撹拌数を300rpmに変更した後、87℃に昇温し、この状態で2時間保持することにより、粒子表面に凹部を形成させた。
【0218】
次いで、温度を75℃に下げ、撹拌数200rpmにて、第2の樹脂としてのハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B1)28.8質量部(固形分換算)を投入した。75℃で保持したまま粒子の平均円形度を測定し、平均円形度が0.945になった時点で2.5℃/minの冷却速度で30℃に冷却した。粒子の平均円形度は、測定装置「FPIA-2100」(Sysmex社製)を用いて、HPF検出数を4000個として測定した。
【0219】
次いで、固液分離し、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し固液分離する操作を3回繰り返して洗浄した後、40℃で24時間乾燥させることにより、トナー母体粒子を得た。
【0220】
得られたトナー母体粒子を、走査型電子顕微鏡により倍率10000倍で撮影し、粒子表面上の凸部及び凹部を確認したところ、凸部の長辺の長さの平均値は0.22μm、凸部同士の平均間隔は0.18μm、凸部の平均密度分布D1は20個/μm、凹部の長辺の長さの平均値は0.24μm、凹部の平均密度分布D2は0.20個/μmであった。したがって、比の値D1/D2は100であった。
【0221】
得られたトナー母体粒子100質量部に、疎水性の小径シリカ粒子(個数平均一次粒子径:12nm、疎水化度:68)0.6質量部、及び大径シリカ粒子(個数平均一次粒子径:120nm)1.0質量部を添加した。これをヘンシェルミキサー型式「FM20C/I」(日本コークス工業(株)製)により回転翼周速35mm/secで20分間混合し、体積平均粒径が6.1μmであるトナー1を得た。
【0222】
《トナー2~17、19~22、28、31~35の調製》
上記トナー1の調製において、第1の樹脂として添加される非晶性ビニル樹脂粒子分散液(A1)の添加量、離型剤粒子分散液の種類及び添加量、粒子成長停止後の温度及び保持時間、第2の樹脂として添加される樹脂粒子分散液の種類及び投入量を、表Iに記載のとおりに変更した以外は同様にして、トナー2~17、19~22、28、31~35を調製した。
【0223】
《トナー18の調製》
撹拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、第1の樹脂としての非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B7)350.4質量部(固形分換算)、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(C1)33.6質量部(固形分換算)、離型剤粒子分散液(W1)43.2質量部(固形分換算)、及びイオン交換水2000質量部を投入した。その後、150rpmでの撹拌下、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH(25℃換算)を10に調整した。
【0224】
その後、着色剤粒子分散液(Cy1)24質量部(固形分換算)を投入し、次いで、塩化マグネシウム30質量部をイオン交換水30質量部に溶解した水溶液を、150rpmで撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。この系を3分間放置した後に、200rpmで撹拌下、60分間かけて70℃まで昇温し、70℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。この状態で「コールターマルチサイザー3」(コールター・ベックマン社製)にて会合粒子の粒径を測定し、体積基準のメジアン径(D50)が4.8μmになった時点で、離型剤粒子分散液(W1)4.8質量部(固形分換算)を投入した。
【0225】
その後、70℃を保持したまま粒子成長反応を継続し、体積基準のメジアン径(D50)が6.1μmとなった時点で、塩化ナトリウム20質量部をイオン交換水80質量部に溶解した水溶液、及びポリオキシエチレン-2-ドデシルエーテル硫酸ナトリウム3質量部をイオン交換水22質量部に溶解させた水溶液を添加して粒子成長を停止させた。
【0226】
次いで、撹拌数を300rpmに変更した後、87℃に昇温し、この状態で2時間保持することにより、粒子表面に凹部を形成させた。
【0227】
次いで、温度を75℃に下げ、撹拌数200rpmにて、第2の樹脂としての非晶性ビニル樹脂粒子分散液(A2)48.0質量部(固形分換算)を投入した。75℃で保持したまま粒子の平均円形度を測定し、平均円形度が0.945になった時点で2.5℃/minの冷却速度で30℃に冷却した。粒子の平均円形度は、測定装置「FPIA-2100」(Sysmex社製)を用いて、HPF検出数を4000個として測定した。
【0228】
次いで、固液分離し、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し固液分離する操作を3回繰り返して洗浄した後、40℃で24時間乾燥させることにより、トナー母体粒子を得た。
【0229】
得られたトナー母体粒子100質量部に、疎水性の小径シリカ粒子(個数平均一次粒子径:12nm、疎水化度:68)0.6質量部、及びゾルゲル法で調製された大径シリカ粒子(個数平均一次粒子径:120nm)1.0質量部を添加した。これをヘンシェルミキサー型式「FM20C/I」(日本コークス工業(株)製)により回転翼周速35mm/secで20分間混合し、体積平均粒径が6.1μmであるトナー18を得た。
【0230】
《トナー23~26の調製》
上記トナー2の調製において、大径シリカ粒子の個数平均一次粒子径を65nm、70nm、170nm、190nmに変更した以外は同様にして、トナー23~26を調製した。
【0231】
《トナー27の調製》
上記トナー2の調製において、小径シリカ粒子の添加量を1.6質量部とし、大径シリカ粒子を添加しなかった以外は同様にして、トナー27を調製した。
【0232】
《トナー29の調製》
上記トナー1の調製において、第1の樹脂として添加される非晶性ビニル樹脂粒子分散液(A1)の添加量、離型剤粒子分散液(W1)の添加量を表Iに記載のとおりに変更するとともに、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(B1)を添加しなかった以外は同様にして、トナー29を調製した。
【0233】
なお、トナー29に含まれるトナー母体粒子について、粒子表面上の凸部及び凹部を確認したところ、凸部が形成されていないことが確認された。
【0234】
《トナー30の調製》
上記トナー1の調製において、非晶性ビニル樹脂粒子分散液(A1)の添加量を表Iに記載のとおりに変更するとともに、離型剤粒子分散液(W1)を添加せずに粒子成長反応を継続した以外は同様にして、トナー30を調製した。
【0235】
なお、トナー30に含まれるトナー母体粒子について、粒子表面上の凸部及び凹部を確認したところ、凹部が形成されていないことが確認された。
【0236】
【表1】
【0237】
【表2】
【0238】
【表3】
【0239】
《トナー1~35の評価》
上記のようにして調製した各トナーについて、下記の各評価を行った。評価結果を表IVに示す。
【0240】
(1)最低定着温度の評価
複合機「bizhub PRESS(登録商標) C1070」(コニカミノルタ株式会社製)の定着装置を、加熱ローラーの表面温度(定着温度)を110~180℃の範囲で変更することができるように改造した。当該複合機に上記トナーをそれぞれ装填して評価を行った。
【0241】
常温常湿(20℃、50%RH)の環境下において、A4サイズの上質紙「CFペーパー」(コニカミノルタ株式会社製)上での付着量を5.0g/mとなるように設定した。その後、100mm×100mmサイズの画像を定着させる定着実験を、設定される定着温度を110℃から5℃刻みで変更しながら、180℃まで繰り返し行った。
【0242】
得られた各定着温度におけるプリント物を目視確認し、全てのトナーが定着器に付着することなく用紙上に定着した最も低い温度を最低定着温度(℃)とした。なお、最低定着温度が130℃以下である場合を優良、130℃を超え140℃以下である場合を良好、140℃を超える場合を不合格と判断した。
【0243】
(2)耐フィルミング性の評価
複合機「bizhub PRESS(登録商標) C1070」(コニカミノルタ株式会社製)を用いて常温常湿環境(25℃、50%RH)において画素率が5%の画像をA4版上質紙(64g/m)に100万枚画像形成を行った。その際、所定枚数の画像形成を行うごとに、ベタのテスト画像を出力し、トナーフィルミングが生じることに起因する画像濃度のスジムラの発生の有無を目視にて確認した。下記基準に従って評価し、◎、○及び△を合格とした。
【0244】
◎:連続プリント枚数が100万枚に至っても画像濃度のスジムラの発生なし
〇:連続プリント枚数が100万枚に至るまでにトナーフィルミングによる軽微な画像濃度のスジムラが生じるものの、70万枚に至るまでには生じない
△:連続プリント枚数が70万枚に至るまでにトナーフィルミングによる軽微な画像濃度のスジムラが生じるものの、50万枚に至るまでには生じない
×:連続プリント枚数が50万枚に至るまでにトナーフィルミングによる画像濃度のスジムラが生じた
【0245】
(3)クリーニング性(トナーすり抜け)の評価
上記耐フィルミング性の評価において100万枚の画像形成を行った後、トナーすり抜けについて目視で確認し、下記基準に従って評価した。◎、○及び△を合格とした。
【0246】
◎:トナーすり抜けは全く認められず、全く問題なし
○:トナーすり抜けは認められるが、実用上問題なし
△:トナーすり抜けは認められるが、何とか実用化可能
×:トナーすり抜けは認められ、実用上問題あり
【0247】
(4)クリーニング性(外添剤すり抜け)の評価
上記耐フィルミング性の評価において100万枚の画像形成を行った後、外添剤すり抜けに起因する感光体の傷及びハーフトーン画像について目視で確認を行い、下記基準に従って評価した。◎、○及び△を合格とした。
【0248】
◎:感光体表面に目視で認められる傷は全くなく、ハーフトーン画像にも不良の発生は認められない
○:感光体表面に目視で認められる目立った傷の発生はなく、ハーフトーン画像にも感光体傷に対応する画像不良の発生は認められない(実用上問題なし)
△:感光体表面に目視で、軽微な傷の発生が認められるが、ハーフトーン画像には感光体傷に対応する画像不良の発生は認められない(実用可能)
×:感光体表面に目視で、明確に傷の発生が認められ、ハーフトーン画像にも当該傷に対応する画像不良の発生が認められる(実用上問題あり)
【0249】
(5)画像濃度安定性の評価
上記耐フィルミング性の評価において100万枚の画像形成を行う前後において、A4サイズの上質紙「CFペーパー」上に100mm×100mmサイズの画像濃度60%のハーフトーン画像をそれぞれ出力した。
【0250】
得られたハーフトーン画像の画像濃度を反射濃度計「RD-918」(マクベス社製)にて測定し、100万枚の画像形成前後でのハーフトーン画像の反射濃度差(最大値と最小値の差)を求めた。
【0251】
◎:反射濃度差が0.04以下
〇:反射濃度差が大きい方の値が0.04を超え、0.07以下
△:反射濃度差が大きい方の値が0.07を超え、0.10未満
×:反射濃度差が大きい方の値が0.10以上
【0252】
【表4】
【0253】
表IVに示すように、トナー1~28は、トナー29~35と比較して各評価で優れた結果を示している。したがって、トナー1~28は、低温定着性に優れ、画像濃度安定性の高い画像を形成でき、長期間にわたって高い耐フィルミング性及びクリーニング性を維持することができるといえる。